説明

複層塗膜形成方法

【課題】優れた意匠のシルバーメタリック塗色を有する複層塗膜の提供。
【解決手段】基材上に、暗部領域を有する干渉マイカ顔料(A)および平均粒径が5〜16μmのアルミニウム顔料(B)を含むベース塗膜層を形成し、さらにクリヤー塗膜層を形成して、明度L*(15°)値が115以下であり、L*(45°)値が60以上であり、なおかつ、L*(110°)値が35以下であるシルバー塗色の複層塗膜の形成方法であって、前記暗部領域を有する干渉マイカ顔料(A)および前記アルミニウム顔料(B)の合計含有量の濃度(PWC)は、5〜15質量%であり、かつ、前記暗部領域を有する干渉マイカ顔料(A)と前記アルミニウム顔料(B)との質量比(A/B)が、2/8〜4/6である、複層塗膜の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体などの塗装に適用することのできる独特の優れた意匠を有する複層塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体などの基材の表面には、種々の役割を持つ複数の塗膜を順次形成して、基材を保護すると同時に美しい外観および優れた意匠を付与している。複層塗膜の形成方法としては、導電性に優れた基材上に電着塗膜などの下塗り塗膜を形成し、さらにその上に、中塗り塗膜、上塗り塗膜を順次形成する方法が一般的である。特に、塗膜の外観および意匠を大きく左右するのは、ベース塗膜とクリヤー塗膜とからなる上塗り塗膜である。特に、自動車において、ベース塗膜とクリヤー塗膜とからなる上塗り塗膜の外観および意匠は、極めて重要である。また、最近では、消費者は、ソリッドカラーよりもメタリックカラーの塗色を好む傾向がある。メタリック塗色は、自動車などの複雑な形状の意匠そのものを強調する効果があり、特に、外側からよく見えて光のよく当たるフェンダー部やドア部のプレスラインを強く強調する効果がある。このような効果は、塗膜に含まれる光輝性顔料によるものであり、自動車のこのような凹凸を有する複雑な形状の部分では、光の反射角度が複雑に変化するので、自動車そのものの意匠へのメタリック塗膜の影響は極めて高い。また、最近では、自動車の意匠を特徴付けるフェンダー部やドア部のプレスラインなどの光のよく当たる、いわゆるハイライト部分だけでなく、その影となるシェード部分においても、高い意匠性が求められるようになってきた。
【0003】
自動車車体に塗装されたメタリック塗膜の塗色としては、明るいシルバー系の塗色が最も一般的である。シルバー系の塗色は、アルミニウム顔料(一般に、金属アルミニウム)などの光輝性顔料を塗料に配合することによって得ることができる。しかし、金属アルミニウムなどのアルミニウム顔料を配合すると、キラキラした金属感(いわゆる粒子感)のある明るいメタリック塗膜を形成することはできるが、光が強く当たると、キラキラ感がいっそう強調されて安っぽくギラギラと輝き、高級感に劣る。また、光が最も強く当たるハイライト部では、光が強く反射して、よりいっそうギラギラと輝くために、その周囲の車体の意匠、特にプレスラインおよびそのシェード部の造形がよく見えないこともある。
【0004】
そこで、ギラギラ感(粒子感)を抑えるために、カーボンブラックなどの着色顔料をシルバー系の塗膜に配合すると、いわゆるグレーメタリックやガンメタリックといった塗色となり、ギラギラ感(粒子感)を抑えることはできるが、のっぺり(もっさり)とした印象(のっぺり感、もっさり感)が強くなり、自動車車体の意匠を際立たせることが難しくなる。また、カーボンブラックなどの着色顔料を使用すると、塗色が黄味を帯びる傾向にある。さらに、最近では、シルバー系の塗色に高級感を与えるために、チタンなどを配合した、いわゆるチタニウムグレーなどの塗色がある。しかし、チタンを配合した場合、塗色の黄味がさらに強くなり、のっぺり感(もっさり感)も強くなる。このように、カーボンブラックやチタンなどを塗膜に配合した場合、黄味やのっぺり感(もっさり感)の強い、いわゆるグレー系のメタリック塗色となり、ギラギラ感(粒子感)を抑えた高級感のある明るいシルバーメタリック塗色にはならない。
【0005】
また、特許文献1(特開2001−164191号公報)には、メタリック塗膜に深みを与え、高級感をもたらす塗料組成物が開示されている。しかし、特許文献1に開示のメタリック塗膜は、アルミニウムフレーク顔料と2種類の干渉顔料(暗部領域を有する干渉マイカ顔料と、それ以外の干渉顔料)を必須の成分として含むものであり、さらに、カーボンブラックなどの着色顔料をも含み得ることから、上記と同様にグレー系の塗膜を形成する。また、特許文献1に開示のメタリック塗膜は、濃色系の場合であっても干渉色を示し、なおかつ、シェード部でも白ボケを起こさないことを特徴とするものであり、明度の高い、いわゆるシルバーメタリック系の塗膜に深みを与えて高級感をもたらすことはできない。同様に、特許文献2(特開2001−164197号公報)には、塗膜に深みを与えて高級感をもたらすことを目的として、2種類の干渉マイカ顔料(暗部領域を有する干渉マイカ顔料と、それ以外のマイカ顔料)を必須の成分として含む塗料組成物が開示されている。しかし、特許文献2に開示の塗膜は、その塗色が濃色系に限られており、この塗膜は、濃色系において干渉色を有し、なおかつ、シェード部でも白ボケを起こさないことを特徴とする。また、特許文献2に開示の塗料組成物は、濃色系の塗色が意図されたものなので、アルミニウム顔料などの光輝性顔料を必須の成分として含まず、いわゆるシルバーメタリック塗色の塗膜に深みをもたらすことはできない。
【0006】
また、特許文献3(特開2007−106925号公報)に開示の通り、低明度かつ高彩度で深み感および緻密性に優れるメタリック塗膜は形成できるが、明度の高い、いわゆるシルバーメタリック塗膜などのメタリック塗膜に深み感を与えて高級感をもたらすことは非常に難しい。また、明度の高いシルバーメタリック塗膜において、深み感を出しながら、なおかつ、アルミニウム顔料のギラギラ感(粒子感)を抑えることも非常に難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−164191号公報
【特許文献2】特開2001−164197号公報
【特許文献3】特開2007−106925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来にない優れた意匠のシルバーメタリック塗色を有する複層塗膜の提供を目的とする。特に、本発明では、従来のアルミニウム顔料を光輝性顔料として含むシルバーメタリック塗膜によく見られるアルミニウム顔料に基づくギラギラした光輝感(金属粒子感)を抑え、なおかつ、深み、特にハイライト部だけでなくシェード部においても深みを有する、従来にない独特な意匠(以下、黒ずみ感、もやっと感とよぶ)を有する複層塗膜の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、「暗部領域を有する干渉マイカ顔料」(A)と、「平均粒径が5〜16μmのアルミニウム顔料」(B)とを特定の割合および量で組み合わせて使用し、さらに、明度、特にL*(15°)値を115以下、L*(45°)値を60以上、なおかつ、L*(110°)値を35以下にすることによって、従来にない独特な意匠(黒ずみ感、もやっと感)を有する複層塗膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。従って、本発明は以下の複層塗膜の形成方法を提供する。
【0010】
基材上に、暗部領域を有する干渉マイカ顔料(A)および平均粒径が5〜16μmのアルミニウム顔料(B)を含むベース塗膜層を形成し、さらにクリヤー塗膜層を形成して、明度L*(15°)値が115以下であり、L*(45°)値が60以上であり、なおかつ、L*(110°)値が35以下であるシルバー塗色の複層塗膜の形成方法であって、
前記暗部領域を有する干渉マイカ顔料(A)および前記アルミニウム顔料(B)の合計含有量の濃度(PWC)は、5〜15質量%であり、かつ、
前記暗部領域を有する干渉マイカ顔料(A)と前記アルミニウム顔料(B)との質量比(A/B)が、2/8〜4/6である、
複層塗膜の形成方法。
【0011】
上記の本発明の複層塗膜の形成方法において、前記暗部領域を有する干渉マイカ顔料(A)の平均粒径が、5〜25μmであることが好ましい。
【0012】
本発明は、また、上記の本発明の複層塗膜の形成方法により得られた複層塗膜にも関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、従来にない独特な意匠(黒ずみ感、もやっと感)を有するシルバーメタリック塗膜を提供することができる。本発明のシルバーメタリック塗膜は、「黒ずみ感」、「もやっと感」などの用語で表現される独特な意匠を有し、これは、例えば、書道や水墨画などで用いる墨汁(墨液)を水で希釈して光に透かしたときに目視で観察されるような三次元的に広がる深みのある黒粒子感を意味する。従って、本発明のシルバーメタリック塗膜は、シルバー系の明度の高い塗色でありながら、あたかも黒色粒子が浮遊して存在しているかのような、従来にない独特の奥行き感、深み感を有する。このため、本発明のシルバーメタリック塗膜には、カーボンブラックやチタンを使用した従来のグレーメタリック塗膜のようなのっぺり(もっさり)とした感じや黄味が全くなく、すっきりと引き締まった感があり、高級感が漂う。
【0014】
また、本発明のシルバーメタリック塗膜は、光が強く当たった場合(すなわちハイライト部)であっても、アルミニウム顔料を使用した従来のシルバー塗装によくみられる、アルミニウム顔料に基づくギラギラした光輝感(すなわち明るい(白い)金属粒子感)がなく、やさしく、やんわりと輝く。これは、本発明で使用するアルミニウム顔料の特定の粒径ならびに「黒ずみ感」(黒粒子感)の相乗効果によるものと考えられる。
【0015】
さらに、本発明のシルバーメタリック塗膜を自動車車体などの基材(被塗物)に適用した場合、自動車そのものの意匠を特徴付ける複雑なプレスラインを有するボンネット、フェンダー、ドアなどの光がよく当たるハイライト部の造形を際立たせることができる。また、上述の通り、本発明のシルバーメタリック塗膜は、ギラギラと強く反射することがないので、そのシェード部、特にプレスラインなどの急激に角度が変化してハイライト部とのコントラストを形成する部分の造形がよく見えるようになる。
【0016】
また、本発明のシルバーメタリック塗膜は、シルバー系の塗膜でありながら、すなわち、高い明度を有するにもかかわらず、「黒ずみ感」(黒粒子感)があるので、一見すると、シェード部に黒色粒子が溜まっているかのような印象を与え、シェード部をいっそう黒く際立たせることができる。さらに、本発明のシルバーメタリック塗膜は、シェード部においても、従来のカーボンブラックやチタンを使用した場合のように黄味を帯びることがないので、のっぺり感(もっさり感)が全くなく、ハイライト部との強いコントラストを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】明度(L*値)の測定方法を模式的に示す図である。
【図2】黒ずみ感/もやっと感を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の方法によって形成される複層塗膜は、基材上に、暗部領域を有する干渉マイカ顔料(A)および平均粒径が5〜16μmのアルミニウム顔料(B)を含むベース塗膜層を形成し、さらにクリヤー塗膜層を形成することによって形成されるものであり、シルバー塗色を有することを特徴とする。本発明の方法によって形成される複層塗膜のシルバー塗色は、「JIS Z8729」に準拠して、明度で規定することができる。一般に、明度は、値が小さくなるに従って黒色系となることを示し(すなわち低明度)、値が大きくなるに従って白色系となることを示す(すなわち高明度)。
【0019】
また、より具体的には、明度は、被測定物の色を表すのに用いられる指標である「L*a*b*表色系」(CIE 1976)において、「L*値」として規定されるものである。明度(L*値)は、上述の通り、その数値が増加するに従って被測定物質の白色度が増すことを意味し、その数値が低下するに従って被測定物質の黒色度が増すことを意味する。
【0020】
なお、L*a*b*表色系(CIE 1976)において、a*値およびb*値は、クロマティクネス指数と呼ばれ、色度を示す指標である。
a*値は、0を基準とし、数値がマイナス(−)になる場合、被測定物質の緑色度が増すことを意味し、数値がプラス(+)になる場合、被測定物質の赤色度が増すことを意味する。
b*値は、0を基準とし、数値がマイナス(−)になる場合、被測定物質の青色度が増すことを意味し、数値がプラス(+)になる場合、被測定物質の黄色度が増すことを意味する。
a*値およびb*値がともに0の場合は、無彩色を意味する。
【0021】
明度(L*値)は、例えば、「CM512m−3」(ミノルタ社製変角色差計)、X−Rite MA68II(エックスライト社製変角色差計)などの変角色差計を用いて測定することができる。
【0022】
また、シルバー塗色などのメタリック塗色において、明度(L*値)は、見る角度や光の入射角および反射角によって変化するので、本発明では、図1に示す通り、明度を15度明度「L*(15°)値」、45度明度「L*(45°)値」および110度明度「L*(110°)値」で規定する。
【0023】
図1に示す通り、塗膜に対して、光が45°の角度で入射し、同じ45°の角度で反射したときに測定した明度の値を「L*(0°)値」と定義する。さらに、「L*(0°)値」を測定した位置から、入射光側に15°、45°、110°ずれた位置で測定した明度の値をそれぞれ15度明度「L*(15°)値」、45度明度「L*(45°)値」、110度明度「L*(110°)値」と定義する。
【0024】
なお、本発明の方法は、主に自動車車体の塗装を目的とするものであり、明度「L*(15°)値」は、自動車車体の光のよく当たる部分、例えばボンネット、フェンダー、ドア部のプレスラインなどのいわゆる「ハイライト部」での明度を規定するものであり、明度「L*(110°)値」は、自動車車体の光のよく当たらない部分、例えばドア部の下側(地面側)などのいわゆる「シェード部」での明度を規定するものである。また、明度「L*(45°)値」は、「ハイライト部」と「シェード部」の中間の領域での明度を規定するものである。
【0025】
本発明の方法で形成されるシルバー塗色の複層塗膜の明度を表すL*(15°)値は、115以下、好ましくは100〜114、より好ましくは105〜113である。図1に模式的に示す通り、L*(15°)値は、自動車車体などの被塗物において、光がよく当たる、いわゆるハイライト部での明度を規定するものである。通常、アルミニウム顔料を用いた従来のシルバー系の塗色では、このようなハイライト部では、明度(L*(15°)値)が115を大きく超えて、120〜180の値となることが一般的であり、例えばメッキ調のシルバー塗色などでは300を大きく上回る場合もある。このように、従来のアルミニウム顔料を用いたシルバー系の塗色では、ハイライト部では、使用するアルミニウム顔料自体の光輝感が強くなり、L*(15°)値が115を大きく超えて、安っぽく、いやらしく下品にギラギラと白っぽく輝き、高級感に欠ける。本発明のようにL*(15°)値が115以下であると、複層塗膜は十分にシルバー塗色を呈しながらも、従来のアルミニウム顔料自体に基づくギラギラとした光輝感(金属粒子感)を抑えることができ、高級感が漂う。これは、平均粒径が5〜16μmのアルミニウム顔料(B)を使用することによってもたらされる相乗効果の1つでもある。また、本発明では、アルミニウム顔料(B)と、暗部領域を有する干渉マイカ顔料(A)とを組み合わせて使用することによって、シルバー塗色に「黒ずみ感」または「もやっと感」とよばれる独特の意匠を与えることができる。
【0026】
「黒ずみ感」または「もやっと感」は、本発明によってシルバー塗色に与えられる独特の意匠を表現する言葉であり、わかりやすく説明すると、図2に模式的に示すように、例えば、書道や水墨画などで用いる墨汁(墨液)を水でかなり希釈して光に透かしたときに目視で観察されるような粒子感であり、あたかも黒色粒子が三次元的に分散して点在しているかのような不思議な浮遊感をともなう黒色の粒子感を意味する。従って、本発明では、明度が高く、特にL*(15°)値が115以下のシルバー系の塗色を示し、さらに塗膜をよく見ると、黒色粒子が三次元的に点在しているかのような、従来にない独特の浮遊感、透明感、奥行き感、深み感を有する独特の意匠の塗膜を提供することができる。なお、このような「黒ずみ感」または「もやっと感」は、L*(15°)値が115を超えると、視認できない場合がある。また、自動車車体の光が強く当たるハイライト部では、このような「黒ずみ感」または「もやっと感」によって、アルミニウム顔料に基づくギラギラした光輝感(金属粒子感)を抑えることができ、やさしく、やんわりとした、従来にない高級感のあるシルバー色(もやっと感)を呈することができる。さらに、自動車車体などでは、自動車の意匠を特徴付ける複雑なプレスラインを有するボンネット、フェンダー、ドアなどの光がよく当たるハイライト部の造形を際立たせることができる。また、上述の通り、ハイライト部でギラギラと強く反射することがないので、そのシェード部、特にプレスラインなどで急激に角度が変化してハイライト部とのコントラストを形成する部分の造形がよく見えるようになる。
【0027】
特に、注目すべきは、本発明において、このような「黒ずみ感」または「もやっと感」は、入射光に対して浅い角度で反射した場合によりいっそう強調される。例えば、図1に模式的に示す通り、入射光が塗膜上で正反射した位置(0°)から、入射光側に110°ずれた位置、一般に自動車車体のシェード部とよばれる位置では、このような「黒ずみ感」または「もやっと感」が最も強く表れ、特に、フェンダーやドアの下部(フロアに近い部分)、サイドスカート部では、シルバー系の塗色を呈しながらも、よりいっそう強調された「黒ずみ感」または「もやっと感」によって、一見すると、黒色粒子が溜まっているかのような黒粒子感を与え、車体の造形をいっそう際立たせる(引き締まった印象を与える)ことができる。さらに、本発明の複層塗膜では、シェード部において、従来のカーボンブラックやチタンを使用した場合のように黄味を帯びることがないので、のっぺり感(もっさり感)がなく、ハイライト部との強いコントラストを形成することができる。
【0028】
また、本発明による「黒ずみ感」または「もやっと感」は、アルミニウム顔料、特に大粒のアルミニウム顔料を使用したフリップ−フロップ(FF)効果とは異なり、ハイライト部とシェード部との間で急激に明度が変わるものではない。
【0029】
従って、図1に模式的に示す通り、シェード部での明度を表すL*(110°)値は、35以下、好ましくは25〜34、より好ましくは30〜33であり、シェード部とハイライト部との中間部の明度を表すL*(45°)値は、60以上であり、好ましくは61〜70、より好ましくは62〜65である。本発明では、中間部の明度(L*(45°)値)が60以上であることから、ハイライト部とシェード部との間で急激に明度が変わることがない。また、自動車車体などの被塗物において、プレスラインだけでなく、連続してゆるやかに湾曲する部分や、ダイナミックにうねる部分においても、フリップ−フロップ(FF)効果とは全く異なる印象および明度変化を与えることができる。
【0030】
L*(110°)値が35を超えると、アルミニウム顔料の光輝感が目立ち、シェード部が明るく(白く)なり、「黒ずみ感」または「もやっと感」、すなわち黒い粒子感が目立たなくなる。
【0031】
また、L*(45°)値が60未満であると、ハイライト部からシェード部にかけての緩やかな明度変化が現れず、また、アルミニウム顔料によるフリップ−フロップ(FF)効果が強く現れ、すなわちハイライト部とシェード部の中間部が暗くなるので、この場合もシェード部での独特の「黒ずみ感」または「もやっと感」(黒い粒子感)が目立たなくなる。
【0032】
このように、本発明によって形成されるシルバー塗色の複層塗膜は、ハイライト部からシェード部にかけて、特にシェード部において、独特の「黒ずみ感」または「もやっと感」を有し、カーボンブラックやチタンを使用した従来のグレーメタリック系の塗膜のようなのっぺり(もっさり)とした印象(のっぺり感)や黄味が全くなく、すっきりと引き締まった印象を与え、従来にない高級感が漂う。
【0033】
以下、本発明の複層塗膜の形成方法および各塗膜層を形成する塗料組成物を詳細に説明する。
【0034】
本発明は、基材上に、ベース塗料組成物を塗布してベース塗膜層を形成し、さらにその上にクリヤー塗料組成物を塗布してクリヤー塗膜層を形成することによって、上塗り塗膜として、ベース塗膜層とクリヤー塗膜層とを含む複層塗膜を形成することができる。本発明の方法によって得られる複層塗膜は、上述の通り、シルバー系の塗色を有し、明度L*(15°)値が115以下であり、L*(45°)値が60以上であり、なおかつ、L*(110°)値が35以下であり、自動車車体などの複雑な凹凸を有する被塗物のハイライト部からシェード部にかけて、連続して色相が変化し、さらに、「黒ずみ感」または「もやっと感」とよばれる従来にない独特の意匠を提供する。
【0035】
ベース塗料組成物
本発明において、ベース塗膜層を形成することのできるベース塗料組成物は、ビヒクルと、暗部領域を有する干渉マイカ顔料(A)[本明細書中、以下、「干渉マイカ顔料(A)」または「顔料(A)」と略記する場合もある]と、平均粒径が5〜16μmのアルミニウム顔料(B)[本明細書中、以下、「アルミニウム顔料(B)」または「顔料(B)」と略記する場合もある]とをそれぞれ特定の配合量で含む。
【0036】
本発明では、顔料(A)と顔料(B)とをそれぞれ特定の配合量で含む光輝性塗料組成物から光輝性塗膜層を形成し、さらにその上にクリヤー塗膜層を形成することによって、「黒ずみ感」または「もやっと感」とよばれる従来にない独特の意匠を有し、なおかつ、連続的に明度が変化するシルバー塗色の複層塗膜を形成することができる。
【0037】
顔料(A)
顔料(A)(暗部領域を有する干渉マイカ顔料)は、黒色またはほとんど黒色の干渉色を呈するものであり、具体的には薄片状マイカ粒子の表面を暗色領域の各種物質により被覆もしくは沈着させたものが適用される。例えば、低次酸化チタンを含むチタン化合物で被覆したのち二酸化チタンで被覆した干渉マイカ顔料が好ましい。上記干渉マイカ顔料(A)は、平均粒径が、5〜25μm、好ましくは5〜15μm、より好ましくは5〜10μmである鱗片状のものが好ましい。顔料(A)の平均粒径が、5μm未満であると、グレーメタリック、ガンメタリックという塗色になり、ギラギラ感(粒子感)を抑えることはできるが、のっぺり感(もっさり感)とした印象が強くなり、車体の意匠を際立たせることが難しいなどの問題の恐れがあり、25μmを超えると、明度の高いシルバー塗膜に深み感を出しながら、ギラギラ感(粒子感)を抑えることが難しくなり、なおかつ、外観が低下するなどの問題の恐れがある。なお、本発明で使用する顔料(A)の平均粒径は、レーザー回折法によって粒度分布を測定し、メジアン値(D50)で示したものである。
【0038】
干渉マイカ顔料(A)は、例えば、「Infinite Color Black Diamond」(還元マイカ)(資生堂社製)、「Infinite Color BP−15」(資生堂社製)、「Black Olive OCO3Z」(BASF社製)などを用いることができる。なかでも、干渉マイカ顔料(A)としては、「Infinite Color Black Diamond」(還元マイカ)(資生堂社製)が、粒径分布が狭いので、特に好ましい。
【0039】
ベース塗料組成物における干渉マイカ顔料(A)の濃度(Pigment Weight Concentration(PWC))は、1〜5質量%、好ましくは2〜4質量%である。干渉マイカ顔料(A)のPWCが、1質量%未満であると、明度の高いシルバー塗膜に深み感を出しながら、ギラギラ感(粒子感)を抑えることが難しくなるなどの問題の恐れがあり、5質量%を超えると、グレーメタリック、ガンメタリックという塗膜になり、ギラギラ感(粒子感)を抑えることはできるが、のっぺり感(もっさり感)とした印象が強くなり過ぎ、車体の意匠を際立たせることが難しくなるなどの問題の恐れがある。
【0040】
本発明において、顔料(A)の濃度(PWC)は、ベース塗料組成物の全固形分の質量に対して、顔料(A)の質量を百分率(質量%)で表したものである。なお、ベース塗料組成物の全固形分には、顔料(A)および顔料(B)、ベース塗料組成物のビヒクルとなる樹脂成分(固形分)、任意のその他の成分(固形分)が全て含まれる。
【0041】
顔料(B)
顔料(B)(アルミニウム顔料)は、隠蔽性およびメタリック感を付与する顔料であり、5〜16μm、好ましくは10〜16μm、より好ましくは13〜16μmの平均粒径を有するアルミニウム顔料であれば、特に限定はなく、メタリック塗料の当該分野で用いられるものを適宜適用することができる。顔料(B)の平均粒径が5μm未満であると、グレーメタリック、ガンメタリックという塗膜になり、ギラギラ感(粒子感)を抑えることはできるが、のっぺり感(もっさり感)とした印象が強くなり過ぎ、車体の意匠を際立たせることが難しくなるなどの問題の恐れがあり、16μmを超えると、隠蔽性が低下し、外観不良となるなどの問題の恐れがある。なお、本発明で使用する顔料(B)の平均粒径は、レーザー回折法によって粒度分布を測定し、メジアン値(D50)で示したものである。
【0042】
顔料(B)としては、例えば、アルミニウムフレークをステアリン酸のような脂肪酸とともにボールミルで粉砕処理する通常の方法によって調製されたリーフィング、セミリーフィングまたはノンリーフィング系のアルミニウムフレークを挙げることができるが、ノンリーフィング系のアルミニウムフレークを用いることが好ましい。また、着色アルミニウムフレーク顔料を用いることによっても、目的のシルバーメタリック感のある意匠を得ることができる。
【0043】
ベース塗料組成物におけるアルミニウム顔料(B)の濃度(Pigment Weight Concentration(PWC))は、1〜10質量%、好ましくは3〜9質量%、より好ましくは6〜8質量%である。アルミニウム顔料(B)のPWCが、1質量%未満であると、隠蔽性の低下などの問題の恐れがあり、10質量%を超えると、外観不良などの問題の恐れがある。
【0044】
本発明において、顔料(B)の濃度(PWC)は、ベース塗料組成物の全固形分の質量に対して、顔料(B)の質量を百分率(質量%)で表したものである。なお、ベース塗料組成物の全固形分には、顔料(A)および顔料(B)、ベース塗料組成物のビヒクルとなる樹脂成分(固形分)、任意のその他の成分(固形分)が全て含まれる。
【0045】
また、干渉マイカ顔料(A)およびアルミニウム顔料(B)の合計含有量の濃度(PWC)は、5〜15質量%、好ましくは8〜15質量%、より好ましくは10〜15質量%である。この合計含有量の濃度(PWC)が、5質量%未満であると、隠蔽性の低下などの問題の恐れがあり、15質量%を超えると、外観不良などの問題の恐れがある。
【0046】
さらに、干渉マイカ顔料(A)とアルミニウム顔料(B)との質量比(A/B)は、2/8〜4/6、好ましくは3/7〜4/6であり、2/8を下回ると、グレーメタリック、ガンメタリックという塗色になり、ギラギラ感(粒子感)を抑えることはできるが、のっぺり感(もっさり感)とした印象が強くなり、車体の意匠を際立たせることが難しいなどの問題の恐れがあり、4/6を超えると、明度の高いシルバー塗膜に深み感を出しながら、ギラギラ感(粒子感)を抑えることが難しくなるなどの問題の恐れがある。
【0047】
本発明では、顔料(A)および顔料(B)だけでなく、必要に応じて、さらに、顔料(A)および顔料(B)以外のその他の光輝性顔料、有機系の着色顔料、無機系の着色顔料、体質顔料などの顔料をベース塗料組成物に適宜配合してもよい。
【0048】
顔料(A)以外のその他の光輝性顔料としては、特に限定はなく、例えば、天然または合成のアルミナ(Al)フレークまたはマイカ(雲母)フレークに、チタン以外の金属(例えば、鉄、クロム、コバルト、スズ、ジルコニウムなど)の酸化物を被覆したもの、天然または合成のシリカ(SiO)フレークに、例えば、チタン、鉄、クロム、コバルト、スズ、ジルコニウムなどの酸化物を被覆したもの、金属アルミニウムフレーク、金属チタンフレーク、ステンレスフレーク、ガラスフレークなどが挙げられ、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0049】
有機系の着色顔料としては、特に限定はなく、例えば、アゾ系顔料(例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料)、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、イソインドリノン系顔料、スレン系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、インジゴ系顔料、ジオキサン系顔料、キノフタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、金属錯体有機顔料などが挙げられ、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0050】
無機系の着色顔料としては、特に限定はなく、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、黄鉛、亜鉛華、カドミウムレッド、モリブデンレッド、クロムエロー、酸化クロム、プルシアンブルー、コバルトブルー、黄色酸化鉄、ベンガラなどが挙げられ、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0051】
体質顔料としては、特に限定はなく、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク等が挙げられ、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
ベース塗料組成物において、全顔料の濃度(PWC)は、0.3〜50質量%、好ましくは0.3〜30質量%であり、0.3質量%未満では塗膜にした場合の下地隠蔽性が低下する恐れがあり、50質量%を超えると、仕上り外観が低下する恐れがある。
【0053】
ビヒクル
本発明で使用することのできるベース塗料組成物に含まれるビヒクルは、上述の顔料を分散するものであって、塗膜形成性樹脂と、必要に応じて、架橋剤(および/または硬化剤)とから構成される。
【0054】
ビヒクルを構成する塗膜形成性樹脂としては、例えば、(A)アクリル樹脂、(B)ポリエステル樹脂、(C)アルキド樹脂、(D)エポキシ樹脂、(E)ポリウレタン樹脂、(F)ポリエーテル樹脂等が挙げられ、特に、アクリル樹脂およびポリエステル樹脂が好ましく用いられる。これらは、2種以上を組み合わせて使用することができる。また、上記塗膜形成性樹脂には、硬化性を有するタイプとラッカータイプとがあるが、通常は硬化性を有するタイプのものが使用される。硬化性を有するタイプの場合には、アミノ樹脂や(ブロック)ポリイソシアネート化合物、アミン系、ポリアミド系、多価カルボン酸等の架橋剤と混合して使用に供され、加熱または常温で硬化反応を進行させることができる。また、硬化性を有しないタイプの塗膜形成性樹脂を、硬化性を有するタイプと併用することも可能である。
【0055】
(A)アクリル樹脂
アクリル樹脂としては、アクリル系モノマーの共重合体、あるいは、アクリル系モノマーと他のエチレン性不飽和モノマーとの共重合体を挙げることができる。上記共重合に使用し得るアクリル系モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸またはメタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、ラウリル、フェニル、ベンジル、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル等のエステル化物、アクリル酸またはメタクリル酸2−ヒドロキシエチルのカプロラクトンの開環付加物、アクリルアミド、メタクリルアミドおよびN−メチロールアクリルアミドなどがある。これらと共重合可能な他のエチレン性不飽和モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン(またはダイマー)、イタコン酸、マレイン酸、酢酸ビニルなどがある。また、当業者に公知の方法、例えば、特開2007−39615号公報に開示の方法に従って、アクリル樹脂を水性エマルション化して水性塗料とすることが好ましい。
【0056】
(B)ポリエステル樹脂
ポリエステル樹脂としては、飽和ポリエステル樹脂や不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられ、例えば、多塩基酸と多価アルコールを加熱縮合して得られた縮合物が挙げられる。多塩基酸としては、例えば、飽和多塩基酸、不飽和多塩基酸等が挙げられ、飽和多塩基酸としては、例えば、無水フタル酸、テレフタル酸、コハク酸等が挙げられ、不飽和多塩基酸としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。多価アルコールとしては、例えば、二価アルコール、三価アルコール等が挙げられ、二価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられ、三価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン等が挙げられる。
【0057】
(C)アルキド樹脂
アルキド樹脂としては、上記多塩基酸と多価アルコールにさらに油脂・油脂脂肪酸(大豆油、アマニ油、ヤシ油、ステアリン酸等)、天然樹脂(ロジン、コハク等)等の変性剤を反応させて得られたアルキド樹脂を用いることができる。
【0058】
(D)エポキシ樹脂
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールとエピクロルヒドリンの反応によって得られる樹脂等を挙げることができる。ビスフェノールとしては、例えば、ビスフェノールA、F等が挙げられる。上記ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、エピコート828、エピコート1001、エピコート1004、エピコート1007、エピコート1009(いずれも、シェルケミカル社製)等が挙げられ、またこれらを適当な鎖延長剤を用いて鎖延長したものも用いることができる。
【0059】
(E)ポリウレタン樹脂
ポリウレタン樹脂としては、アクリル、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等の各種ポリオール成分とポリイソシアネート化合物とによって得られるウレタン結合を有する樹脂を挙げることができる。上記ポリイソシアネート化合物としては、2,4−トリレンジイソシアネート(2,4−TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート(2,6−TDI)、およびその混合物(TDI)、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(4,4’−MDI)、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート(2,4’−MDI)、およびその混合物(MDI)、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート(NDI)、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジシクロへキシルメタン・ジイソシアネート(水素化HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、へキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水素化キシリレンジイソシアネート(HXDI)等を挙げることができる。
【0060】
(F)ポリエーテル樹脂
ポリエーテル樹脂としては、エーテル結合を有する重合体または共重合体であり、ポリオキシエチレン系ポリエーテル、ポリオキシプロピレン系ポリエーテル、ポリオキシブチレン系ポリエーテルもしくはビスフェノールAあるいはビスフェノールFなどの芳香族ポリヒドロキシ化合物から誘導されるポリエーテル等の1分子当たりに少なくとも2個の水酸基を有するポリエーテル樹脂を、または上記ポリエーテル樹脂とコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸等の多価カルボン酸類、あるいは、これらの酸無水物等の反応性誘導体とを反応させて得られるカルボキシル基含有ポリエーテル樹脂を挙げることができる。
【0061】
上記ビヒクルが架橋剤を含む場合、塗膜形成性樹脂と架橋剤の割合としては、固形分換算で塗膜形成性樹脂が90〜50質量%、架橋剤が10〜50質量%であり、好ましくは塗膜形成性樹脂が85〜60質量%であり、架橋剤が15〜40質量%である。架橋剤が10質量%未満では(塗膜形成性樹脂が90質量%を超えると)、塗膜中の架橋が十分でない場合がある。一方、架橋剤が50質量%を超えると(塗膜形成性樹脂が50質量%未満では)、塗料組成物の貯蔵安定性が低下するとともに硬化速度が大きくなるため、塗膜外観が悪くなる場合がある。
【0062】
その他の成分
本発明で使用することのできるベース塗料組成物には、上記成分の他に、脂肪族アミドの潤滑分散体であるポリアミドワックスや酸化ポリエチレンを主体としたコロイド状分散体であるポリエチレンワックス等の沈降防止剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、シリコンや有機高分子等の表面調整剤、タレ止め剤、増粘剤、消泡剤、滑剤、架橋性重合体粒子(ミクロゲル)等を適宜添加することができる。これらの添加剤は、通常、上記ビヒクル100質量部(固形分基準)に対して、15質量部以下の割合で配合することにより、塗料や塗膜の性能を改善することができる。
【0063】
本発明のベース塗料組成物は、上記構成成分を、通常、溶剤に溶解または分散した態様で提供される。溶剤としては、ビヒクルを溶解または分散するものであればよく、有機溶剤および/または水を使用することができる。有機溶剤としては、塗料分野において通常用いられるものを挙げることができる。例えば、トルエン、キシレン等の炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブ等のエステル類、アルコール類等を例示できる。環境面の観点から、有機溶剤の使用が規制されている場合には、水を用いることが好ましい。この場合、適量の親水性有機溶剤を配合してもよい。
【0064】
本発明において使用することのできるベース塗料組成物は、特に好ましい態様では、上記の顔料(A)および顔料(B)、ならびに、ビヒクルとして、アクリル樹脂エマルションを含む塗膜形成性樹脂、アクリル樹脂と疎水性メラミン樹脂とを反応させた反応生成物を水分散することによって得られる粒径20〜140nmの疎水性メラミン樹脂水分散体を含む硬化剤、および架橋剤を含有するものであってもよく、これによって、優れた発色性を有する塗膜を得ることができる。また、自動車塗装における複層塗膜形成方法において、上記のベース塗料組成物を水性塗料として用いた場合、優れたリコート密着性、チッピング性、耐水付着性を有する塗膜を得ることができる。従って、上記のベース塗料組成物は、水性ベース塗料組成物として好適に用いることができる。
【0065】
塗膜形成方法
本発明の複層塗膜の形成方法は、基材上に、上記のベース塗料組成物を塗布してベース塗膜層を形成し、さらにその上に、クリヤー塗料組成物を塗布してクリヤー塗膜層を形成し、基材上に、ベース塗膜層とクリヤー塗膜層とを含む複層塗膜を形成するものである。また、本発明では、上記のベース塗料組成物を自動車(自動車車体、部品等)用の水性光輝性塗料として好適に使用することができる。
【0066】
基材としては、特に限定されるものでなく、鉄、アルミニウム、マグネシウム、銅、スズ、亜鉛またはこれらの合金等の金属類およびその成形品;ガラス、セメント、コンクリート等の無機材料;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂等の樹脂類や各種のFRP等のプラスチック材料およびその成形品または発泡体;木材、繊維材料(紙、布等)等の天然または合成材料等が挙げられる。基材は、本発明によって得られる独特の意匠を効果的に発現するため、例えば、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車車体および部品(自動車のボディ、ドアなど)のように、曲面を有しているものであることが好ましい。また、プラスチック成形品としては、具体的には、スポイラー、バンパー、ミラーカバー、グリル、ドアノブ等の自動車部品等を挙げることができる。さらに、これらのプラスチック成形品は、トリクロロエタンで蒸気洗浄または中性洗剤で洗浄されたものが好ましい。また、さらに、静電塗装を可能にするためのプライマー塗装が施されていてもよい。
【0067】
本発明の複層塗膜の形成方法においては、基材が自動車車体およびその部品などの場合には、導電性の基材を予め脱脂処理や化成処理(リン酸塩、クロム酸塩等による化成処理)した後、基材に電着塗装、中塗り塗装などの下地塗装を施しておくことが好ましい。
【0068】
電着塗装は、鋼板などの導電性の基材に電着塗膜を形成して防錆性を付与することを目的として行われるものであり、このような電着塗膜を形成することのできる電着塗料組成物としては、特に限定はなく、当業者によく知られているカチオン型電着塗料組成物およびアニオン型電着塗料組成物をいずれも使用することができ、防錆性の観点からカチオン型電着塗料組成物が好ましく、なかでも、エポキシ系のカチオン型電着塗料組成物が特に好ましい。
【0069】
本発明において、基材が自動車車体または鋼板である場合、電着塗膜形成前に、脱脂、水洗、化成皮膜形成、水洗、純水洗、乾燥までの前処理を従来公知の方法で行うことが好ましい。電着塗膜形成方法は、従来公知の方法の中から、適当な方法を任意に選択すればよく、電着塗膜形成条件、焼き付け硬化条件、電着塗膜の厚さ等に関しても、基材や使用する電着塗料組成物の種類等に応じて、適宜決定すればよい。
【0070】
中塗り塗装は、基材または電着塗膜の上に中塗り塗膜層を形成して、下地隠蔽性、耐チッピング性、上塗り塗膜層との密着性などの性能の向上を目的として行われる。また、中塗り塗膜層は、最終の複層塗膜を平滑にし、外観の良好な塗膜とするための下地としても機能し、さらに、電着塗膜層と上塗り塗膜層との間のバインダーとなり、かつ、塗膜表面を通じて到達する紫外線や水による塗膜の劣化に対する耐候性が要求される。中塗り塗膜層を形成することのできる中塗り塗料組成物としては、特に制限はなく、当業者によく知られている溶剤型塗料のほか、水性塗料、粉体塗料またはハイソリッド型塗料等も適用でき、具体的には、エポキシエステル/メラミン系樹脂、アルキッド/メラミン系樹脂またはオイルフリーポリエステル/メラミン系樹脂塗料、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂とアミノ樹脂および/またはイソシアネート硬化剤とを組み合わせた中塗り塗料等、従来公知の中塗り塗料の中から適宜選択して用いることができる。
【0071】
中塗り塗膜層の形成方法に関しては、従来公知の方法の中から適当な方法を任意に選択すればよい。また、本発明では、カーボンブラックと二酸化チタンとを主要顔料としたグレー系中塗り塗料組成物や、上塗り塗膜層との明度および色相を合わせたセットグレーや各種の着色顔料を組み合わせた、いわゆるカラー中塗り塗料組成物を用いることができる。これらのカラー中塗り塗料組成物は、中塗り塗膜層と上塗り塗膜層との複合色を発現させ、意匠性をさらに高めることができる。また、これらの中塗り塗料組成物に、アルミニウム粉、マイカ粉等の扁平顔料を添加してもよい。さらに、中塗り塗料組成物には、塗料に通常添加することのできる添加剤、例えば、表面調整剤、酸化防止剤、消泡剤等を配合してもよい。中塗り塗膜層の乾燥膜厚は、20〜100μmが好ましく、より好ましくは30〜50μmである。
【0072】
本発明の複層塗膜の形成方法では、好ましくは、基材上に、ベース塗料組成物を塗布してベース塗膜層を形成し、ベース塗膜層の上にクリヤー塗料組成物を塗布してクリヤー塗膜層を形成する。
【0073】
基材が、必要に応じて、電着塗装、中塗り塗装などの下地塗装を施した下地塗膜層を有する基材である場合には、下地塗膜層の上に、ウェットオンウェット(W/W)法、またはウェットオンドライ(W/D)法によって、ベース塗料組成物を塗布して、ベース塗膜層を形成することができる。次いで、ベース塗膜層の上に、ウェットオンウェット(W/W)法、またはウェットオンドライ(W/D)法によって、クリヤー塗料組成物を塗布して、クリヤー塗膜層を形成することができる。W/W法とは、塗料組成物を塗布した後、必要に応じて、塗布した塗膜を風乾等により乾燥、または、100℃未満の温度で半硬化させて、未硬化状態または半硬化状態の塗膜の上に、さらに塗料組成物を塗布する方法であり、これに対して、W/D法とは、塗料組成物を塗布した後、焼き付け、硬化した塗膜の上に、さらに塗料組成物を塗布する方法である。
【0074】
ベース塗料組成物を塗布する方法としては、特に限定はないが、例えば、スプレー法、ロールコーター法等が好ましく、外観向上の観点から、エアー静電スプレー塗装による多ステージ塗装、好ましくは2ステージで塗装するか、あるいは、エアー静電スプレー塗装と、メタリックベルと言われる回転霧化式の静電塗装機とを組み合わせた塗装方法が好ましい。また、複数回塗装することも可能である。
【0075】
ベース塗料組成物による塗装時の塗膜の膜厚は、所望の用途により変化するが、一般的には乾燥膜厚で1コートにつき5〜30μmが好ましく、5〜20μmであることが好ましい。上記乾燥膜厚が5μm未満である場合、下地を隠蔽することができず膜切れが発生し、30μmを超える場合、鮮映性が低下したり、塗装時にムラあるいはタレ等の不具合が起こったりするおそれがある。良好な外観の複層塗膜を得るために、クリヤー塗料組成物を塗布する前に、形成した光輝性ベース塗膜を40〜100℃で2〜10分間加熱しておくことが好ましい。この予備加熱を行うと、この上にクリヤー塗料組成物を塗布しても、光輝性顔料の配向が乱れないので好ましい。
【0076】
本発明では、このようにして形成したベース塗膜層の上に、少なくとも1層のクリヤー塗膜層を形成することができる。クリヤー塗膜層は、ベース塗膜層に含まれる光輝性顔料に起因する凹凸、チカチカ等を平滑にし、保護し、さらに美観を与えるものである。
【0077】
本発明の複層塗膜の形成方法で使用することのできるクリヤー塗料組成物としては、特に限定はなく、上塗り塗装用として一般に使用されているものを用いることができ、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂およびこれらの変性樹脂等から選ばれた少なくとも1種の熱硬化性樹脂と前述の架橋剤および/または硬化剤とを混合したものを用いることができる。
【0078】
クリヤー塗料組成物は、必要に応じて、その透明性を損なわない範囲で、あるいは、下地の意匠性を妨げない程度であれば、着色顔料、体質顔料、改質剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、分散剤、消泡剤等の添加剤を配合することが可能である。また、特公平8−19315号公報に記載されたカルボキシル基含有ポリマーとエポキシ基含有ポリマーとを含有するクリヤー塗料が、酸性雨対策およびW/W法で上記ベース塗膜層を形成した際に、光輝性顔料および着色顔料の配向を乱さないという観点から、好ましく用いられる。また、クリヤー塗料組成物は、溶剤型、水性型、粉体型等の種々の形態をとることができる。溶剤型塗料または水性塗料としては、一液型塗料を用いてもよいし、二液型ウレタン樹脂塗料等のような二液型塗料を用いてもよい。
【0079】
溶剤型クリヤー塗料組成物の好ましい例としては、透明性あるいは耐酸エッチング性等の点から、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂と、アミノ樹脂および/またはイソシアネートとの組み合わせ、あるいはカルボン酸/エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂等を挙げることができる。
【0080】
また、水性型クリヤー塗料組成物の例としては、上記溶剤型クリヤー塗料組成物の例として挙げたものに含有される塗膜形成性樹脂を、塩基で中和して水性化した樹脂を含有するものを挙げることができる。この中和は重合の前または後に、ジメチルエタノールアミンおよびトリエチルアミンのような3級アミンを添加することにより行うことができる。
【0081】
さらに、上記クリヤー塗料組成物には、塗装作業性を確保するために、粘性制御剤が添加されていることが好ましい。粘性制御剤は、一般にチクソトロピー性を示すものを使用できる。このようなものとして、例えば、従来から公知のものを使用することができる。また、必要により、硬化触媒、表面調整剤等を含むことができる。
【0082】
なお、上記複層塗膜形成方法において用いられるクリヤー塗料組成物としては、有機溶剤の含有量による環境に与える影響の観点から、20℃におけるフォードカップNo.4で20〜50秒の粘度となるように希釈した時のクリヤー塗料組成物の固形分が50質量%以上である溶剤型クリヤー塗料組成物または水性型クリヤー塗料組成物、あるいは、粉体型クリヤー塗料組成物であることが好ましい。
【0083】
本発明において、クリヤー塗料組成物の塗布は、硬化したベース塗膜層の上に行ってもよいが、未硬化状態または半硬化状態のベース塗膜層の上に、W/W法でクリヤー塗料組成物を塗布することが好ましい。上記のベース塗膜層に対して、上述のクリヤー塗料組成物を塗布する方法としては、特に限定はないが、例えば、スプレー法、ロールコーター法等が好ましく、具体的には、マイクロマイクロベル、マイクロベルと呼ばれる回転霧化式の静電塗装機による塗装方法を挙げることができる。また、複数回塗装することも可能である。クリヤー塗料組成物を複数回塗装する場合には、最終のクリヤー塗料組成物を塗布した後で同時に焼き付け硬化すればよく、先に形成したクリヤー塗膜を完全に硬化させる必要はない。
【0084】
一方、粉体型クリヤー塗料組成物としては、熱可塑性および熱硬化性粉体塗料のような通常の粉体塗料を用いることができる。良好な物性の塗膜が得られるため、熱硬化性粉体塗料組成物が好ましい。熱硬化性粉体塗料組成物の具体的なものとしては、エポキシ系、アクリル系およびポリエステル系の粉体クリヤー塗料組成物等が挙げられるが、耐候性が良好なアクリル系粉体クリヤー塗料組成物が特に好ましい。
【0085】
このように、ベース塗膜層(未硬化、半硬化、完全硬化のいずれでもよい)の上に形成されたクリヤー塗膜層は、必要に応じて、電着塗膜、中塗り塗膜などの下地塗膜層(未硬化、半硬化、完全硬化のいずれでもよい)とともに、所定温度および所定時間で焼き付け硬化され、複層塗膜を形成することができる。
【0086】
上記クリヤー塗料組成物を塗装することによって形成されるクリヤー塗膜層の乾燥膜厚は、一般に10〜80μmが好ましく、20〜60μmであることがより好ましい。上記乾燥膜厚が10μm未満である場合、下地の凹凸を隠蔽することができず、80μmを超えると塗装時にワキあるいはタレ等の不具合が起こるおそれがある。
【0087】
このようにして形成されたクリヤー塗膜は、予め形成されている光輝性ベース塗膜とともに同時に加熱することによって硬化塗膜が形成される。上記加熱硬化温度は、硬化性および得られる複層塗膜の物性の観点から、80〜180℃に設定されていることが好ましく、120〜160℃に設定されていることが更に好ましい。加熱硬化時間は上記温度に応じて任意に設定することができるが、加熱硬化温度120℃〜160℃で時間が10〜30分であることが適当である。
【0088】
このようにして形成される複層塗膜の膜厚は、一般的には30〜300μmであり、50〜250μmであることが好ましい。上記膜厚が30μm未満である場合、膜自体の強度が低下し、300μmを超える場合、冷熱サイクル等の膜物性が低下するおそれがある。このようにして得られる複層塗膜もまた本発明の1つである。
【0089】
本発明の複層塗膜形成方法によって形成される複層塗膜は、その表面に独特の意匠性および発色性、リコート密着性、耐チッピング性、耐水付着性を兼ね備える。
【0090】
本発明では、好ましくは上述の下地塗膜層を形成した基材上に、上述のベース塗料組成物、好ましくは水性ベース塗料組成物を塗布して、未硬化のベース塗膜層を形成する工程(1)、上記未硬化のベース塗膜層の上にクリヤー塗料組成物を塗布して、未硬化のクリヤー塗膜層を形成する工程(2)、および、上記の未硬化のベース塗膜層および未硬化のクリヤー塗膜層とを同時に焼き付け硬化させる工程(3)を含む複層塗膜の形成方法(いわゆる2コート1ベーク(2C1B)法)が、コスト、作業性の観点から、特に好ましい。
【0091】
本発明の方法によって基材上に形成される複層塗膜は、ベース塗膜層と、少なくとも1層のクリヤー塗膜層とを含むものであり、必要に応じて、電着塗膜層および中塗り塗膜層からなる群から選択される下地塗膜層をさらに含んでいてもよい。本発明では、ベース塗膜層が、暗部領域を有する干渉マイカ顔料(A)と、平均粒径が5〜16μmのアルミニウム顔料(B)とを特定の割合で含むことによって、明度L*(15°)値が115以下であり、L*(45°)値が60以上であり、なおかつ、L*(110°)値が35以下である、フリップ−フロップ(FF)効果とは全く異なる、連続した明度変化を有するシルバー塗色を提供することができる。
【0092】
本発明の方法によって基材上に形成される複層塗膜は、特に、ベース塗料組成物から形成されるベース塗膜層に特徴があり、このベース塗膜層によって、上述の連続した明度変化だけでなく、「黒ずみ感」または「もやっと感」とよばれる従来にない独特の意匠を塗膜に付与することができる。
【0093】
本発明によって形成される複層塗膜のこれらの従来にない意匠は、特に、自動車車体などの複雑な形状でしかも太陽光にさらされる被塗物に適用した場合、その形状、特にハイライト部の造形を際立たせるのに非常に効果的である。また、本発明によって形成される複層塗膜は、「黒ずみ感」または「もやっと感」を有するので、光が強く当たらないシェード部をも際立たせることもでき、屋内などにおいても、凹凸のある被塗物の造形を際立たせることができる。
【0094】
さらに、本発明によって形成される複層塗膜の塗色は、従来のカーボンブラックやチタンを配合した、いわゆるグレーメタリック塗膜とは、その塗色や雰囲気が全く異なり、従来のグレーメタリック塗装にあったのっぺり(もっさり)とした印象(のっぺり感、もっさり感)や、カーボンブラックやチタンに基づく黄味がなく、本発明によれば「黒ずみ感」によって深み感や高級感が得られる。
【実施例】
【0095】
以下に製造例、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。各例中の「部」は「質量部」を表し、「%」は「質量%」を表す。
【0096】
製造例1:アクリル樹脂エマルション(Em−1)の調製
反応容器にイオン交換水135.4部、アクアロンHS−10(ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル、第一工業製薬社製)1.1部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら80℃に昇温した。次いで、アクリル酸メチル35.73部、メタクリル酸ブチル8.57部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル5.7部、スチレン20部、アクアロンHS−10が0.5部、アデカリアソープNE−20(α−[1−[(アリルオキシ)メチル]−2−ノニルフェノキシ]エチル)−ω−ヒドロキシオキシエチレン、旭電化社製、80%水溶液)0.5部およびイオン交換水49.7部からなる第1段目のエチレン性不飽和モノマー混合物と、過硫酸アンモニウム0.21部およびイオン交換水8.6部からなる開始剤溶液とを、2時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、1時間同温度で熟成を行った。
【0097】
さらに、この反応容器に、メタクリル酸ブチル25.3部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル2.4部、メタクリル酸2.3部、アクアロンHS−10が0.1部およびイオン交換水24.7部からなる第2段目のエチレン性不飽和モノマー混合物と、過硫酸アンモニウム0.08部およびイオン交換水7.4部からなる開始剤溶液とを、80℃で0.5時間にわたり並行して滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。
【0098】
次いで、40℃まで冷却し、400メッシュフィルターで濾過した後、イオン交換水2.14部およびジメチルアミノエタノール0.24部を加えてpH6.5に調整し、平均粒子径80nm、不揮発分30%、固形分酸価15、水酸基価35のアクリル樹脂エマルション(Em−1)を得た。
【0099】
製造例2:水溶性アクリル樹脂の調製
反応容器にジプロピレングリコールメチルエーテル23.89部およびプロピレングリコールメチルエーテル16.11部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら105℃に昇温した。次いで、メタクリル酸メチル13.1部、アクリル酸エチル68.4部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル11.6部、メタクリル酸6.9部と、ジプロピレングリコールメチルエーテル10.0部およびt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート1部からなる開始剤溶液とを3時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、0.5時間同温度で熟成を行った。
【0100】
次に、ジプロピレングリコールメチルエーテル5.0部およびt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート0.3部からなる開始剤溶液を0.5時間にわたり反応容器に滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。
【0101】
さらに、脱溶剤装置を用いて、減圧下(70torr)110℃で溶剤を16.11部留去した後、イオン交換水204部およびジメチルエタノールアミン7.1部を加えて水溶性アクリル樹脂を得た。得られたアクリル樹脂溶液の不揮発分は30.0%、固形分酸価40mgKOH/g、水酸基価50mgKOH/gであった。
【0102】
製造例3:疎水性メラミン樹脂水分散体(MFD−1)の調製
反応容器にMFDG(メチルプロピレンジグリコール、日本乳化剤社製)50部を添加し、窒素気流中で撹拌しながら130℃に昇温した。次いで、アクリル酸14.77部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル32.48部、アクリル酸ブチル47.75部、MSD−100(α−メチルスチレンダイマー、三井化学社製)5部からなるエチレン性不飽和モノマー混合物と、カヤエステルO(tert−ブチルパーオクタノエート、化薬アクゾ社製)13部およびMFDG10部からなる開始剤溶液とを3時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後に0.5時間置いて、更にカヤエステルOが0.5部およびMFDGが5部からなる開始剤溶液を0.5時間にわたり滴下した。滴下終了後1時間同温度で熟成を行った。次いで、50℃まで冷却し、不揮発分60%、固形分酸価110mgKOH/g、水酸基価140mgKOH/g、数平均分子量(Mn)=3000のアクリル樹脂(Ac1)を得た。
【0103】
得られたアクリル樹脂(Ac1)の178.5部を、ユーバン20SB(完全ブチル化メラミン樹脂、日本サイテック社製、不揮発分75%)800部と混合し、80℃で4時間撹拌した。その後、ジメチルエタノールアミンを18.3部加えて均一に分散し、40℃まで冷却した後、イオン交換水1003.2部を1時間で滴下することにより疎水性メラミン樹脂水分散体(MFD−1)を得た。この水分散体中の樹脂粒子の粒径は80nmであった。
【0104】
製造例4:ベース塗料組成物(1)の調製
塗膜形成性樹脂として製造例1のアクリル樹脂エマルション(Em−1)を153.3部、10質量%ジメチルエタノールアミン水溶液5部、製造例2の水溶性アクリル樹脂を16.7部、プライムポールPX−1000(三洋化成工業社製2官能ポリエーテルポリオール、数平均分子量1000、水酸基価278)10部、製造例3の疎水性メラミン樹脂水分散体(MFD−1)を100部、顔料(A)として「Infinite Color Black Diamond」(還元マイカ)(資生堂社製)を3.67部(PWC=3質量%)、顔料(B)としてアルミニウム顔料(旭化成社製、商品名MH8801)(平均粒径5〜16μm)8.56部(PWC=7質量%)を配合した(質量比A/B=3/7)。さらに、エチレングリコールモノヘキシルエーテル30部を混合撹拌し、10質量%ジメチルアミノエタノール水溶液を加えてpH=8.5に調整し、均一に分散し、水性ベース塗料組成物を得た。得られた水性ベース塗料組成物の塗料粘度が20℃、No.4フォードカップで60秒となるようにイオン交換水を加えて希釈し、塗装に用いるベース塗料組成物(1)を得た。
【0105】
製造例5:ベース塗料組成物(2)の調製
製造例4に従って、製造例4で使用した顔料(B)の代わりに、アルミニウム顔料(東洋アルミニウム社製、商品名93−0647)(平均粒径5〜21μm)を8.56部(PWC=7質量%)を配合して、比較用のベース塗料組成物(2)を得た。
【0106】
製造例6:ベース塗料組成物(3)の調製
製造例4に従って、製造例4で使用した顔料(A)の代わりに、チタニウム顔料(石原産業社製、商品名CR−97)(平均粒径0.10〜0.25μm)を3.67部(PWC=3質量%)配合して、比較用のベース塗料組成物(3)を得た。
【0107】
製造例7:ベース塗料組成物(4)の調製
製造例4に従って、製造例4で使用した顔料(A)の代わりに、暗部領域を有していない酸化チタンマイカ顔料(メルク社製、商品名T60−23WNT Galaxy Blue)(平均粒径5〜30μm)を3.67部(PWC=3質量%)配合して、比較用のベース塗料組成物(4)を得た。
【0108】
製造例8:ベース塗料組成物(5)の調製
製造例4に従って、製造例4で使用した顔料(A)を使用することなく、顔料(B)のみを12.74部(PWC=7質量%)配合して、比較用のベース塗料組成物(5)を得た。
【0109】
製造例9:ベース塗料組成物(6)の調製
製造例4に従って、製造例4で使用した顔料(A)のみを12.22部(PWC=10質量%)使用し、顔料(B)を配合することなく、比較用のベース塗料組成物(6)を得た。
【0110】
製造例10:ベース塗料組成物(7)の調製
製造例4に従って、製造例4で使用した顔料(A)の代わりに、カーボンブラック(コロンビアカーボン社製、商品名R−5000)(平均粒径0.01〜0.09μm)を0.84部(PWC=0.7質量%)配合して、比較用のベース塗料組成物(7)を得た。
【0111】
製造例11:ベース塗料組成物(8)の調製
製造例4に従って、製造例4で使用した顔料(A)を1.22部(PWC=1質量%)配合し、顔料(B)を11.0部(PWC=9質量%)配合して、比較用のベース塗料組成物(8)を得た(質量比A/B=1/9)。
【0112】
製造例12:ベース塗料組成物(9)の調製
製造例4に従って、製造例4で使用した顔料(A)を6.11部(PWC=5質量%)配合し、顔料(B)を6.11部(PWC=5質量%)配合して、比較用のベース塗料組成物(9)を得た(質量比A/B=5/5)。
【0113】
実施例1
ダル鋼板(長さ300mm、幅100mmおよび厚さ0.8mm)をリン酸亜鉛処理剤(「サーフダインSD2000」、日本ペイント社製)を使用して化成処理した後、カチオン電着塗料(「パワーニクス PN 310」、日本ペイント社製)を乾燥膜厚が25μmとなるように電着塗装した。次いで、160℃で30分間焼き付けた後、中塗り塗料として、ポリエステル/メラミン系グレー中塗り塗料(「オルガ P−30」、日本ペイント社製)を酢酸エチル/ソルベッソ100/ブチルジグリコールアセテート=1/1/1(重量比)を用いて、フォードカップNo.4による粘度が30秒となるように調整し、回転式静電塗装機を用いて中塗り塗装を行い、140℃で30分間の条件で焼き付け乾燥し、平均乾燥膜厚30μmの中塗り塗膜層を形成した。
さらに、中塗り塗膜層の上に、製造例4で調製したベース塗料組成物(1)を平均乾燥膜厚が15μmになるようにスプレー塗装した。塗装は静電塗装機(「Auto REA」、ABBインダストリー社製)を用い、霧化圧2.0kg/cmで行った。塗装中のブースの雰囲気は温度25℃、湿度75%に保持した。塗装後3分間セッティングし、80℃で5分間プレヒートした後、その上にウェットオンウェットで、アクリル/メラミン樹脂系クリヤー塗料組成物(酸エポキシ硬化型アクリル樹脂系クリヤー塗料組成物(「マックフローO−1810」、日本ペイント社製)を乾燥膜厚が35μmになるようにスプレー塗装し、室温で7分間セッティングし、140℃の温度で30分間焼き付けて、複層塗膜を形成した(2コート1ベーク(2C1B))。
【0114】
比較例1
実施例1における製造例4で調製したベース塗料組成物(1)の代わりに、製造例5で調製した比較用のベース塗料組成物(2)を使用して、実施例1に従って、複層塗膜を形成した。
【0115】
比較例2
実施例1における製造例4で調製したベース塗料組成物(1)の代わりに、製造例6で調製した比較用のベース塗料組成物(3)を使用して、実施例1に従って、複層塗膜を形成した。
【0116】
比較例3
実施例1における製造例4で調製したベース塗料組成物(1)の代わりに、製造例7で調製した比較用のベース塗料組成物(4)を使用して、実施例1に従って、複層塗膜を形成した。
【0117】
比較例4
実施例1における製造例4で調製したベース塗料組成物(1)の代わりに、製造例8で調製した比較用のベース塗料組成物(5)を使用して、実施例1に従って、複層塗膜を形成した。
【0118】
比較例5
実施例1における製造例4で調製したベース塗料組成物(1)の代わりに、製造例9で調製した比較用のベース塗料組成物(6)を使用して、実施例1に従って、複層塗膜を形成した。
【0119】
比較例6
実施例1における製造例4で調製したベース塗料組成物(1)の代わりに、製造例10で調製した比較用のベース塗料組成物(7)を使用して、実施例1に従って、複層塗膜を形成した。
【0120】
比較例7
実施例1における製造例4で調製したベース塗料組成物(1)の代わりに、製造例11で調製した比較用のベース塗料組成物(8)を使用して、実施例1に従って、複層塗膜を形成した。
【0121】
比較例8
実施例1における製造例4で調製したベース塗料組成物(1)の代わりに、製造例12で調製した比較用のベース塗料組成物(9)を使用して、実施例1に従って、複層塗膜を形成した。
【0122】
また、実施例および比較例で形成した複層塗膜で測定した明度(L*値)を以下の表に示す。なお、明度(L*値)は、Xrite社製の多角度分光光度計「MA−68II」を用いて、図1に示す通り、塗膜に対して入射角45°で光を照射し、正反射した位置を基準(0°)として、15°(ハイライト部)、45°(中間)および110°(シェード部)の位置での明度、すなわち15度明度(L*(15°)値)、45度明度(L*(45°)値)および110度明度(L*(110°)値)をそれぞれ測定した。
【0123】
結果を以下の表に示す。
【0124】
【表1】

【0125】
【表2】

【0126】
【表3】

【0127】
【表4】

【0128】
目視粒子感
実施例および比較例で形成した複層塗膜に含まれる顔料の粒子感を目視にて観察し、以下の1〜5段階で評価した。
評価基準
1:黒色の粒子が全く存在しないか、あるいは、白色の粒子だけが存在しているかのように見える。
2:黒色の粒子がほとんど存在せず、白色の粒子が明らかに存在しているかのように見える。
3:少量の黒色の粒子が存在するか、あるいは、白色の粒子も混在しているかのように見える。
4:黒色の粒子が存在するが、少量の白色の粒子も混在しているかのように見える。
5:黒色の粒子だけが存在しているかのように見える。
【0129】
黒ずみ感/もやっと感(黒粒子感)
実施例および比較例で形成した複層塗膜を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
○:黒ずみ感/もやっと感(黒粒子感)がある。
×:黒ずみ感/もやっと感(黒粒子感)がない。
【0130】
実施例1では、ベース塗膜が、暗部領域を有する干渉マイカ顔料(A)と、平均粒径が5〜16μmのアルミニウム顔料(B)とを合計含有量の濃度(PWC)=10質量%、質量比(A/B)=3/7で含むことを特徴とする。実施例1の塗膜では、15度明度(L*(15°)値)が110.0であり、このとき、いわゆるハイライト部では、シルバー塗色を示す。また、実施例1の塗膜では、110度明度(L*(110°)値)が32.4であり、このとき、いわゆるシェード部では、黒の粒子感が最も強くなり、さらに、「黒ずみ感/もやっと感」がはっきりと現れる。ここで「黒ずみ感/もやっと感」とは、黒色の粒子が三次元的に点在しているかのように見えることを意味し、シェード部だけでなく、ハイライト部においてもアルミニウム顔料の粒子感に基づくギラギラとした光輝感(金属粒子感)を抑えることができる。また、実施例1の塗膜では、ハイライト部とシェード部の中間部の45度明度(L*(45°)値)は63.5であり、ハイライト部からシェード部にかけて、明度がゆるやかに連続して変化する。従って、実施例1の塗膜では、従来の金属製光輝材を用いたフリップ−フロップ(FF)効果のように、明度が急激に変化することはない。
【0131】
比較例1では、平均粒径が5〜16μmのアルミニウム顔料(B)を使用せずに、従来の平均粒径が5〜21μmのアルミニウム顔料を使用するので、45度明度(L*(45°)値)が45.5となり、明るいシルバー塗色を示すが、アルミ自体の白い粒子感が強くなり、ギラギラ感が強くなる。また、比較例1の塗膜では、実施例1と同じ顔料(A)を同じ量で使用するにもかかわらず、「黒ずみ感/もやっと感」(黒粒子感)が全くない。
【0132】
比較例2では、実施例1で使用する顔料(A)の代わりに、チタニウム顔料を配合する。また、比較例2の塗膜は、実施例1と同じ顔料(B)を同じ量で有する。しかし、比較例2の塗膜では、110度明度(L*(110°)値)が53.6となり、いわゆるチタニウムグレーメタリックとよばれる、のっぺりとした塗色の塗膜が形成される。比較例2では、いわゆるシェード部が明るくなり、チタンを含むために黄味を帯びる。また、比較例2の塗膜では、アルミニウムおよびチタニウム顔料の白い粒子感が強くなり、実施例1のような「黒ずみ感/もやっと感」(黒粒子感)を観察することができない。
【0133】
比較例3では、実施例1で使用する顔料(A)の代わりに、暗部領域を有していない従来の酸化チタンマイカ顔料を配合する。また、比較例3の塗膜は、実施例1と同じ顔料(B)を同じ量で含有する。しかし、比較例3の塗膜では、110度明度(L*(110°)値)が40.7となり、シェード部での明度が高くなり、実施例1のような「黒ずみ感/もやっと感」(黒粒子感)が得られず、のっぺりとした塗色の塗膜となる。
【0134】
比較例4では、実施例1で使用する顔料(B)だけを使用し、他の顔料を全く含まない。その結果、15度明度(L*(15°)値)が118.4となり、110度明度(L*(110°)値)が39.7となり、いわゆる従来のシルバーメタリック塗色の塗膜が形成される。また、比較例4では、実施例1のような「黒ずみ感/もやっと感」(黒粒子感)が得られない。
【0135】
比較例5では、実施例1で使用する顔料(A)だけを使用し、他の顔料を全く含まない。その結果、15度明度(L*(15°)値)が32.0となり、45度明度(L*(45°)値)が16.2となり、110度明度(L*(110°)値)が5.6となり、ただ単に黒色の塗膜が形成される。また、比較例5では、顔料の粒子感が強く、実施例1のような「黒ずみ感/もやっと感」(黒粒子感)も得られない。
【0136】
比較例6では、実施例1で使用する顔料(A)の代わりに、カーボンブラックを配合し、実施例1と同じ顔料(B)を同じ量で配合する。その結果、110度明度(L*(110°)値)が38.8となり、従来のグレーメタリック塗色の塗膜が形成される。また、比較例6の塗膜は、カーボンブラックを含むため、塗膜が黄味を帯びる。また、比較例6の塗膜は、実施例1のような「黒ずみ感/もやっと感」(黒粒子感)は得られない。
【0137】
比較例7では、実施例1で使用するのと同じ顔料(A)および(B)を使用するが、その質量比(A/B)が1/9であり、その結果、15度明度(L*(15°)値)が121.5となり、シルバー塗色は得られるが、実施例1のような「黒ずみ感/もやっと感」(黒粒子感)は得られない。
【0138】
比較例8では、実施例1で使用するのと同じ顔料(A)および(B)を使用するが、その質量比(A/B)が5/5であり、その結果、45度明度(L*(45°)値)が56.0となって明度変化が大きくなり、実施例1のような「黒ずみ感/もやっと感」(黒粒子感)も得られない。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明の方法では、暗部領域を有する干渉マイカ顔料(A)と、平均粒径が5〜16μmのアルミニウム顔料(B)とを特定の配合量および割合で含むベース塗膜層を形成することによって、従来の金属製光輝材を用いたメタリック塗膜のフリップ−フロップ(FF)効果とは趣の異なる、連続した明度変化(明度L*(15°)値が115以下、L*(45°)値が60以上、L*(110°)値が35以下)を有するシルバー塗色の塗膜を形成することができる。また、本発明の方法によって形成された複層塗膜は、ハイライト部の明度(L*(15°)値)とシェード部との明度(L*(110°)値)とのコントラストを大きくすることができ、さらに、シルバー塗色に独特の「黒ずみ感/もやっと感」(黒粒子感)を与えることができる。これによって、塗膜に独特の意匠を与えることができる。特に、本発明の塗膜では、ハイライト部とよばれる光がよく当たる部分において、「黒ずみ感/もやっと感」(黒粒子感)によって、金属製光輝材の粒子に基づくギラギラ感(白さ)を抑えることができ、被塗物のハイライト部での造形がよく見えるようになる。また、シェード部とよばれる光がよく当たらない部分では、「黒ずみ感/もやっと感」(黒粒子感)によって、陰影がさらに強くなり、ハイライト部とのコントラストをより強調することができる。さらに、本発明の塗膜は、「黒ずみ感/もやっと感」(黒粒子感)によって、塗膜に奥行き感や深み感をも与えることができ、シルバー塗色に高級感を与えることができる。また、上述の通り、本発明の方法で形成された複層塗膜は、黒粒子感を有し、従来の金属製光輝材の粒子に基づくギラギラ感(粒子感)がないので、ギラギラしたいやらしいシルバーメタリック塗色となることもない。
従って、本発明の方法は、自動車車体などの凹凸を有する複雑な形状で、しかも、その意匠が製品として非常に重要である被塗物に適用した場合に特に有益である。
【0140】
また、本発明の塗装方法は、自動車車体だけでなく、二輪車、三輪車などのあらゆる乗り物の車体およびその部品、容器、電化製品など、塗装を必要とするあらゆる物品および製品に適用することができ、あらゆる塗装分野に適用することができる。
【符号の説明】
【0141】
1 塗装物
2 ハイライト部
3 シェード部
4 中間部
5 入射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、暗部領域を有する干渉マイカ顔料(A)および平均粒径が5〜16μmのアルミニウム顔料(B)を含むベース塗膜層を形成し、さらにクリヤー塗膜層を形成して、明度L*(15°)値が115以下であり、L*(45°)値が60以上であり、なおかつ、L*(110°)値が35以下であるシルバー塗色の複層塗膜の形成方法であって、
前記暗部領域を有する干渉マイカ顔料(A)および前記アルミニウム顔料(B)の合計含有量の濃度(PWC)は、5〜15質量%であり、かつ、
前記暗部領域を有する干渉マイカ顔料(A)と前記アルミニウム顔料(B)との質量比(A/B)が、2/8〜4/6である、
複層塗膜の形成方法。
【請求項2】
前記暗部領域を有する干渉マイカ顔料(A)の平均粒径が、5〜25μmである、請求項1記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の複層塗膜の形成方法により得られた複層塗膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−251253(P2011−251253A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126826(P2010−126826)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】