説明

複層焼結摺動部材ならびにその製造方法

【目的】 本発明は鋼板上に接合層を介して潤滑性物質として黒鉛を少なくとも3重量%以上分散含有したアルミニウム青銅系焼結合金層を一体に接合した複層焼結摺動部材ならびにその製造方法を提供することにある。
【構成】 アルミニウム5〜13重量%、鉄3〜6重量%、黒鉛3〜8重量%、水素化チタンのチタン成分として0.1〜1.5重量%、残部銅からなる焼結合金層が鋼板上に燐青銅からなる接合層を介して一体に接合されてなる複層焼結摺動部材であり、水素化チタンのチタン成分が焼結マトリックスの結晶を微細化し、当該マトリックスの強度および硬度を高めるため、衝撃荷重あるいは高荷重用途への適用を可能とする。また、製造方法においては成分中の水素化チタンが焼結時、アルミニウム粉末表層のアルミナ皮膜を破壊するので、従来困難とされていたアルミニウム青銅の焼結を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、鋼板上に潤滑性物質として黒鉛を少なくとも3重量%以上分散含有した銅を主成分とする焼結合金層を一体に接合した複層焼結摺動部材、具体的には鋼板上に接合層を介して潤滑性物質として黒鉛を少なくとも3重量%以上分散含有したアルミニウム青銅系焼結合金層を一体に接合した複層焼結摺動部材ならびにその製造方法に関するものてある。
【0002】
【従来の技術】従来より、潤滑性物質として黒鉛を分散含有した銅系焼結合金層を薄鋼板上に一体に接合してなる複層焼結摺動部材は、例えば特公昭54-29661号公報などにより公知である。この複層焼結摺動部材は焼結合金層を内側にして巻いて円筒状とした、所謂巻ブッシュとして広く使用されている。
【0003】上記摺動部材は摺動面をなす焼結合金層が薄鋼板上に一体に接合されているため、自ずから使用範囲が限定され、衝撃荷重や高荷重が作用する過酷な用途においてはそのまま適用することができない。
【0004】上述した衝撃荷重等の過酷な用途への適用を可能とするべく、本出願人は先に特公昭56-12288号を提案した。すなわち、特公昭56-12288号は、潤滑性物質として少なくとも3重量%以上分散含有した銅を主成分とする焼結合金すべり層が鋼板上に被着されて複層鋼板が形成されており、該複層鋼板は別途用意された鋼板に燐青銅薄板を介して一体に接合されてなる複層焼結摺動部材であり、焼結合金すべり層として黒鉛を分散含有した燐青銅あるいは鉛青銅を具体例として開示している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記特公昭56-12288号に開示された焼結すべり材は、前述した摺動部材に比べ耐荷重性能を向上させるものであったが、衝撃荷重等の過酷な用途への適用には焼結合金層の摺動特性、機械的性質などの面で満足の行くものではなかった。この種焼結摺動部材においては、その性能は鋼板上に一体に接合される焼結合金層の潤滑性、耐摩耗性などの摺動特性、焼結合金層の強度、硬度などの機械的性質、さらには焼結合金層と鋼板との接合性に左右されるものである。
【0006】本発明者らは、摺動部材用途に広く使用されているアルミニウム青銅に着目し、このアルミニウム青銅から成る焼結合金層を鋼板上に一体に接合することにより、衝撃荷重等の過酷な用途への適用を可能とするものと考え、鋭意研究を行った。
【0007】しかしながら、研究過程において、アルミニウム青銅の焼結性および鋼板上への一体接合性に非常な困難性を見出した。すなわち、アルミニウム粉末あるいはアルミニウムを含む合金粉は粉末の表層に熱的に安定なアルミナ(Al2 3 ) の皮膜があるため、焼結時のアルミニウムの液相の流れを妨げ焼結の進行を遅くしたり、あるいは中性もしくは還元性雰囲気中ではアルミナ皮膜が最後まで残り粒子間の結合を弱くする、という点である。
【0008】本発明者らは、上記研究過程において知見したアルミニウム青銅合金の焼結性および鋼板上への一体接合性の困難さを技術的課題とし、さらに研究を進めた結果、一定割合の水素化チタンを配合することにより、焼結過程においてアルミニウム粉末表層のアルミナ皮膜を破壊して焼結を可能とすると共に接合層を介在させることにより鋼板上への一体接合性を可能にすることを見出した。本発明は、上記知見に基づきなされたもので、潤滑性物質として黒鉛を分散含有したアルミニウム青銅から成る焼結合金層を接合層を介して鋼板上に一体に接合した複層焼結摺動部材ならびにその製造方法を得ることを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】上述した目的を達成するべく、本発明はつぎの手段を採る。すなわち、本発明の第1の目的は、アルミニウム5〜13重量%、鉄3〜6重量%、黒鉛3〜8重量%、水素化チタンのチタン成分として0.1〜1.5重量%、残部銅から成る焼結合金層が鋼板上に燐青銅からなる接合層を介して一体に接合されてなる複層焼結摺動部材を提供することにある。
【0010】また、本発明の第2の目的は、上記複層焼結摺動部材の製造方法を提供することにある。
【0011】さらに、本発明の複層焼結摺動部材は、その使用目的、用途に応じて含油処理を施すことにより含油複層焼結摺動部材としての適用を可能とするものである。
【0012】上述した成分組成から成る複層焼結摺動部材において、黒鉛(C)成分は焼結組織中に分散含有されて固体潤滑作用をなすもので、固体潤滑作用を発揮させるためには少なくとも3重量%の配合量が必要とされる。しかし、8重量%を超えて配合すると、焼結合金層の機械的強度が損なわれるのと焼結性を低下させるため、その配合割合の上限は8重量%が限度である。したがって、黒鉛成分の配合割合は3〜8重量%、就中4〜6重量%が適当である。
【0013】アルミニウム(Al)成分は焼結過程において液相を生じ、主成分をなす銅(Cu)成分に拡散して固溶体を形成し、焼結マトリックスの硬度および強度の向上に寄与する。そして、その配合割合が5重量%以下では上述した効果が認められず、また13重量%を超えて配合した場合には焼結マトリックスの硬度は高めるが同時に脆性を増し、焼結合金層の強度を弱めることになる。したがって、アルミニウム粉末の配合割合は5〜13重量%、就中8〜10重量%が適当である。
【0014】鉄(Fe)成分は焼結マトリックスを微細化し、マトリックスの強度向上に寄与する。そして、その配合割合が3重量%以下では効果が認められず、また6重量%を超えて配合すると反ってマトリックスの強度低下を来すことになる。したがって、鉄成分の配合割合は3〜6重量%、就中4〜6重量%が適当である。
【0015】水素化チタン(TiH2 ) 成分は、水素によるアルミニウム粉末表層のアルミナ皮膜を還元して焼結性を高める作用をなす。また、チタンは焼結マトリックスの結晶を微細化し、焼結マトリックスの強度および硬度を高める作用をなす。そして、その配合割合がチタン成分として0.1重量%以下では上述した焼結性および強度の向上に効果が現れず、またチタン成分として1.5重量%を超えて配合すると焼結マトリックス中への分散割合が過剰となり、反って強度の低下を来すことになる。したがって、水素化チタンの配合割合はチタン成分として0.1〜1.5重量%、就中0.2〜1.0重量%が適当である。
【0016】上述した成分組成に対し、さらに3重量%以下のニッケル(Ni)成分および1重量%以下のマンガン(Mn)成分を配合することができる。これらニッケル成分およびマンガン成分を配合することにより、焼結マトリックスの強度の向上を図ることができる。
【0017】上述した成分組成から成る混合粉末は、予め鋼板から成る裏金上に形成された燐青銅からなる接合層を介して焼結され、焼結摺動層として該裏金上に接合一体化される。接合層を形成する燐青銅は、錫5〜10重量%、燐0.1〜1.0重量%、残部銅からなる。
【0018】以下、複層焼結摺動部材の製造方法について具体的に説明する。
【0019】複層焼結摺動部材を形成する裏金としての鋼板は、一般構造用圧延鋼板(JIS-G-3101)が使用される。
【0020】この鋼板上に形成される接合層としては、本発明では錫5〜10重量%、燐0.1〜1.0重量%、残部銅(燐青銅)からなる混合粉末を使用し、(1)該混合粉末を鋼板表面に一様な厚さに散布する方法、(2)該混合粉末を鋼板表面に火焔溶射またはプラズマ溶射により皮膜として形成する方法、(3)前記摺動層を形成する混合粉末と接合層を形成する混合粉末とを圧延により二層の圧延シートを形成する方法、などが使用される。
【0021】〔第1の製造方法〕アルミニウム5〜13重量%、鉄3〜6重量%、黒鉛3〜8重量%、水素化チタンのチタン成分として0.1〜1.5重量%、残部銅から成る混合粉末、あるいはこの混合粉末にさらにニッケル3重量%以下およびマンガン1重量%以下を混合した混合粉末に粉末結合剤の1〜15重量%水溶液を該混合粉末に対し0.1〜5.0重量%添加し、均一に混合して該混合粉末に湿潤性を与えた摺動層用混合粉末を形成する。
【0022】粉末結合剤として使用できるものとしては、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、メチルセルロース(MC)、ゼラチン、アラビアゴムおよびスターチなどが挙げられ、中でもHPCの使用が好ましい。粉末結合剤の溶媒としては水あるいは水以外にエチルアルコール等の親水性化合物の5〜20重量%の水溶液を使用することもできる。
【0023】粉末結合剤は上記溶媒に対して1〜15重量%加えて水溶液にするのが好ましい。該粉末結合剤水溶液の添加割合は、混合粉末に対して0.1〜5.0重量%が好ましく、これ以上の量を添加すると焼結マトリックス中に制御できないポア(孔)が増加し、得られる焼結層の強度および耐摩耗性を低下させる。
【0024】上記湿潤性が与えられた混合粉末は、ついでコンベアおよびホッパーによって圧延ロールに供給され、該圧延ロールによって該混合粉末は圧延シート(圧粉体シート)に形成される。該混合粉末の圧延は双ロールを有する横型圧延機が使用される。該横型圧延機のロールへの混合粉末の供給量を一定にすれば、ロール隙間を変えることで圧延荷重が変化し、圧延シートの密度および厚さを調整することが可能である。例えば、ロール速度を0.1〜1.0m/min とし、ロール間隔を0.4〜1.0mmとすると、密度5.5〜6.7g/cm3 、厚さ1.38〜1.83mmの圧延シートが得られる。
【0025】裏金として、厚さ10〜20mmの一般構造用圧延鋼板を用意し、該鋼板の表面に錫5〜10重量%、燐0.1〜1.0重量%、残部銅から成る混合粉末を散布し、ローラ掛けにより0.3〜0.7mmの一様な厚さの接合層を形成する。
【0026】該鋼板表面に形成した一様な厚さの接合層の上に、前記圧延シートを重ね合わせ、これを中性もしくは還元性雰囲気に調整した加熱炉内に置き、圧力下で該圧延シートの焼結と同時に該接合層を介して該圧延シートの鋼板上への接合を行わせ、鋼板上に接合層を介して一体に接合した複層焼結摺動部材を得る。
【0027】〔第2の製造方法〕前記第1の方法と同様の方法で、圧延シートを得る。裏金として、上記第1の方法と同様の鋼板を用意し、該鋼板表面に錫5〜10重量%、燐0.1〜1.0重量%、残部銅から成る混合粉末を火焔溶射またはプラズマ溶射により0.3〜0.7mmの接合層を形成する。鋼板表面に形成した溶射による接合層の上に、前記圧延シートを重ね合わせ、これを中性もしくは還元性雰囲気に調整した加熱炉内に置き、圧力下で該圧延シートの焼結と同時に該接合層を介して該圧延シートの鋼板上への接合を行わせ、鋼板上に接合層を介して一体に接合した複層焼結摺動部材を得る。
【0028】〔第3の製造方法〕前記摺動層用混合粉末と接合層用混合粉末を用意し、該横型圧延機の一方のロール側から摺動層用混合粉末を、他方のロール側から接合層用混合粉末をそれぞれ供給し、摺動層用混合粉末と接合層用混合粉末とが一体となった二層の圧延シートを形成する。
【0029】この二層圧延シートの製造方法をより具体的に説明する。図1はその製造装置(横型圧延機)を示すもので、図中符号1は双ロール、2は一方のロール側に配されたロードセル、3は他方のロール側に配された流体シリンダ、4はホッパー、5は該ホッパー4内を二分して双ロール1間に延設された仕切り板、6は摺動層用混合粉末供給コンベア、7は接合層用混合粉末供給コンベア、8は二層圧延シートである。
【0030】仕切り板5によって二分されたホッパー4にそれぞれコンベア7、8から摺動層用混合粉末と接合層用混合粉末が供給される。ホッパー4に供給された混合粉末は双ロール1間に供給され、ロール間で圧延されて摺動層用混合粉末と接合層用混合粉末とが一体となった二層圧延シートが成形される。この二層圧延シートの摺動層側に1.4〜1.8mm、接合層側に0.3〜0.7mmの厚さに成形される。
【0031】この二層の圧延シートを前記第1の方法と同様の鋼板上に、接合層用混合粉末から成る層を該鋼板表面側にして重ね合わせ、これを中性もしくは還元性雰囲気に調整した加熱炉内に置き、圧力下で該摺動層側圧延シートの焼結と同時に該接合層を介して該圧延シートの鋼板上への接合を行わせ、鋼板上に接合層を介して一体に接合した複層焼結摺動部材を得る。
【0032】上述した第1、第2および第3の製造方法における焼結工程において、焼結時の圧力は焼結マトリックスの密度を増加させ、接合層を介して焼結層の鋼板との接合強度を向上させるもので、本発明では0.1〜5.0kgf/cm2 、好ましくは0.3〜3.0kgf/cm2 である。
【0033】焼結温度は焼結マトリックスに敏感に影響を及ぼすもので、とくに温度管理には注意を必要とする。本発明では800〜950℃、就中850〜900℃の範囲で行われる。焼結時間は焼結温度ほど敏感に焼結マトリックスに影響を及ぼさないが、焼結層の機械的強度に影響を及ぼす。本発明では30〜60分間の範囲で良い結果が得られる。
【0034】中性もしくは還元性雰囲気としては、アンモニア分解ガス、窒素ガス、吸熱ガスなどが使用される。
【0035】上述した製造方法によって得られる複層焼結摺動部材は、加圧焼結時に圧延シートの焼結と同時に接合層の成分に液相を生じ、この液相が鋼板表面および圧延シートに一部拡散することにより圧延シートから成る焼結層の接合層を介しての鋼板上への接合が行われる。
【0036】このようにして得られる複層焼結摺動部材は、その使用目的、用途に応じて焼結層に含油処理を施すことにより含油複層焼結摺動部材としての適用が可能である。この含油複層焼結摺動部材においては、焼結マトリックス中の黒鉛による固体潤滑作用と潤滑油による相乗作用が発揮される。
【0037】
【作用】焼結合金層を形成する成分中の水素化チタンが焼結時、アルミニウム粉末表層のアルミナ皮膜を破壊するので、従来困難とされていたアルミニウム青銅の焼結を可能とする。また、水素化チタンのチタンが焼結マトリックスの結晶を微細化して焼結マトリックスの強度および硬度を高め、衝撃荷重あるいは高荷重用途への適用を可能とする。
【0038】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。
<実施例1>200 メッシュを通過する電解銅粉末に325 メッシュを通過するアトマイズ・アルミニウム粉末10重量%と240 メッシュを通過する還元鉄粉末3重量%と水素化チタン粉末のチタン成分として0.25重量%とを配合し、V型ミキサーにて20分間混合したのち、48〜250 メッシュの天然黒鉛粉末5重量%配合し、再度V型ミキサーで5分間混合し、混合粉末を得た(Al:10、Fe:3、TiH2 (Ti:0.25) 、C:5、Cu:81.75)。
【0039】該混合粉末に、5.26重量%のHPC水溶液(HPC100g、エチルアルコール120ml および水1780ml)を混合粉末重量に対し0.5%配合し、5分間V型ミキサーで均一に混合して湿潤性をもった摺動層用混合粉末を得た。
【0040】該混合粉末を直径603mmの双ロールをもった横型圧延ロールにロール間隔0.5mm、ロール速度0.3m/minの条件下で通し、密度5.70g/cm3 、厚さ1.48mmからなる圧延シート(圧粉体シート)を成形した。
【0041】鋼板として、幅:170mm、長さ:600mm、厚さ:10mm の一般構造用圧延鋼板を用意し、該鋼板の表面に、錫粉末7重量%と銅−燐合金粉末の燐成分として0.7重量%と残部銅粉末から成る混合粉末を一様に散布し、ローラ掛けにより厚さ0.3mmの接合層を形成した。
【0042】前記圧延シートを幅:170mm、長さ:600mmの寸法に切断し、この圧延シートを2枚、接合層が形成された鋼板の該接合層上に重ね合わせた。ついで、これを900 ℃、60分間、アンモニア分解ガス雰囲気の加熱炉内に置き、圧力1.5kgf/cm2 をかけながら、圧延シートの焼結と同時に該圧延シートの接合層を介して鋼板との接合を同時に行わしめたのち、機械加工により所望の寸法に加工し、鋼板上に接合層を介して焼結層を一体に接合した複層焼結摺動部材を得た。この複層焼結摺動部材の焼結層の密度は5.3g/cm3 であり、該鋼板と焼結層との間の接合強度は7kg/cm2 であった。該複層焼結摺動部材に含油処理を施し、含油率20容量%の含油複層焼結摺動部材を得た。
【0043】<実施例2>前記実施例1と同様の方法で、厚さ1.48mmの圧延シートを得た。鋼板として実施例1と同様、幅:170mm、長さ:600mm、厚さ:10mm の一般構造用圧延鋼板を用意し、該鋼板の表面に、錫粉末7重量%と銅−燐合金粉末の燐成分として0.7重量%と残部銅粉末から成る混合粉末を下記条件にてプラズマ溶射した。
〔プラズマ溶射条件〕
(1)溶射ガン プラズマ溶射ガン(2)作動電流 500 A(3)電圧 30 V(4)アークガス アルゴン 50 l/min(5)粉末ガス アルゴン 7.5 l/min(6)粉末供給量 35 g/min上記溶射条件によって鋼板上に厚さ0.3mmの錫7重量%と燐0.7重量%と残部銅から成る混合粉末の溶射皮膜を形成した。
【0044】前記圧延シートを幅:170mm、長さ:600mmの寸法に切断し、この圧延シートを2枚溶射皮膜を施した鋼板の該皮膜上に重ね合わせた。ついで、これを900 ℃、60分間、アンモニア分解ガス雰囲気の加熱炉内に置き、圧力1.5kgf/cm2 をかけながら、圧延シートの焼結と同時に該圧延シートの溶射皮膜(接合層)を介して鋼板との接合を同時に行わしめたのち、機械加工により所望の寸法に加工し、鋼板上に接合層を介して焼結層を一体に接合した複層焼結摺動部材を得た。この複層焼結摺動部材の焼結層の密度は5.3g/cm3 であり、該鋼板と焼結層との間の接合強度は7kg/cm2 であった。該複層焼結摺動部材に含油処理を施し、含油率20容量%の含油複層焼結摺動部材を得た。
【0045】<実施例3>前述した図1に示す横型圧延機を使用し、ロール間隙間0.1mm、ロール速度0.1m/min、ロール荷重88トンの条件で、仕切り板によって二分されたホッパー内にそれぞれ実施例1と同様の摺動層用混合粉末と錫粉末7重量%と銅−燐合金粉末の燐成分として0.7重量%と残部銅粉末から成る混合粉末に5.26重量%のHPC水溶液(HPC100g、エチルアルコール120ml および水1780ml)を混合粉末重量に対し0.5%配合し、5分間V型ミキサーで均一に混合して形成した湿潤性をもった接合層用混合粉末を装填し、二層圧延シートを成形した。得られた二層圧延シートの厚さは2.0mmで、摺動層側に1.68mm、接合層側に0.32mmであった。
【0046】この二層圧延シートを幅:170mm、長さ:600mmの寸法に切断し、接合層側を鋼板上に向けて重ね合わせた。以下、実施例1と同じ条件で焼結し、機械加工により所望の寸法に加工して鋼板上に接合層を介して焼結層を一体に接合した複層焼結摺動部材を得た。この複層焼結摺動部材の焼結層の密度は5.1g/cm3 であり、該鋼板と焼結層との間の接合強度は8kg/cm2 であった。該複層焼結摺動部材に含油処理を施し、含油率23容量%の含油複層焼結摺動部材を得た。
【0047】<実施例4>200 メッシュを通過する電解銅粉末に325 メッシュを通過するアトマイズ・アルミニウム粉末10重量%と240 メッシュを通過する還元鉄粉末3重量%と250 メッシュを通過する電解ニッケル粉末3重量%と200 メッシュを通過するマンガン粉末1重量%と水素化チタン粉末のチタン成分として0.5重量%とを配合し、V型ミキサーにて20分間混合したのち、48〜250 メッシュの天然黒鉛粉末5重量%配合し、再度V型ミキサーで5分間混合して混合粉末を得た(Al:10、Fe:3、Ni:3、Mn:1、TiH2(Ti:0.5)、C:5、Cu:77.5) 。
【0048】該混合粉末に、5.26重量%のHPC水溶液(HPC100g、エチルアルコール120ml および水1780ml)を混合粉末重量に対し0.5%配合し、5分間V型ミキサーで均一に混合して湿潤性をもった摺動層用混合粉末を得た。
【0049】ついで、前記実施例3と同様の方法で、仕切り板によって二分されたホッパー内にそれぞれ摺動層用混合粉末と実施例3と同様の接合層用混合粉末を装填し、二層圧延シートを成形した。得られた二層圧延シートの厚さは2.0mmで、摺動層側に1.68mm、接合層側に0.32mmであった。
【0050】この二層圧延シートを幅:170mm、長さ:600mmの寸法に切断し、接合層側を鋼板上に向けて重ね合わせた。以下、実施例1と同じ条件で焼結し、機械加工により所望の寸法に加工して鋼板上に接合層を介して焼結層を一体に接合した複層焼結摺動部材を得た。この複層焼結摺動部材の焼結層の密度は5.1g/cm3 であり、該鋼板と焼結層との間の接合強度は8kg/cm2 であった。該複層焼結摺動部材に含油処理を施し、含油率22容量%の含油複層焼結摺動部材を得た。
【0051】つぎに、上述した各実施例で得た複層焼結摺動部材について、下記の条件で摺動特性を試験した。
<試験条件>(1)耐荷重試験荷重(面圧) 100 kgf/cm2を1時間毎に累積負荷速度 7 m/minストローク 80 mm相手材 ねずみ鋳鉄(FC250)研磨品潤滑 無潤滑(2)耐久試験荷重(面圧) 90 kgf/cm2速度 7 m/minストローク 80 mm相手材 ねずみ鋳鉄(FC250)研磨品潤滑 試験前に摺動面にグリース塗布耐久回数 10万サイクル
【0052】上記試験条件にて、各実施例から成る複層焼結摺動部材の摩擦係数および摩耗量を測定した。その試験結果を表1および表2に示す。なお、表1および表2における比較例は前述した特公昭56-12288号に開示された複層焼結摺動部材で、焼結層に黒鉛を3重量%含有した鉛青銅を使用したものである。
【0053】
【表1】


【0054】
【表2】


【0055】表1に示す試験結果から、各実施例から成る複層焼結摺動部材は摩擦係数が0.15以下で、試験時間を通して安定した摺動を示した。試験後の摺動面の摩耗量も50μm以下と優れた性能を示した。また、表2に示す試験結果から、各実施例から成る複層焼結摺動部材は摩擦係数が0.10以下の低い値を示し、摩耗量も5μm以下と低い値を示した。一方、比較例から成る複層焼結摺動部材は、耐荷重試験においては荷重200kgf/cm2 経過と共に除々に摩擦係数が高くなり、摩耗量も急激に増大したため試験を中止した。また、耐久試験においては、耐久回数5万サイクルを経過後、除々に摺動が不安定となり、摩擦係数、摩耗量とも急激な上昇が認められた。表中の摩耗量は耐荷重試験においては荷重200kgf/cm2 時の測定結果、耐久試験においては7000サイクル時の測定結果である。
【0056】
【発明の効果】本発明の複層焼結摺動部材は、焼結合金層を形成する成分中の水素化チタンが焼結時、アルミニウム粉末のアルミナ皮膜を破壊するので、従来困難とされていたアルミニウム青銅の焼結を可能とする。また、水素化チタンのチタンは焼結マトリックス中に析出硬化し、焼結マトリックスの強度および硬度を高め、衝撃荷重あるいは高荷重用途への適用を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の複層焼結摺動部材の製造に使用される横型圧延機を示す説明図である。
【符号の説明】
1 双ローラ
4 ホッパー
5 仕切り板
9 二層圧延シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】 アルミニウム5〜13重量%、鉄3〜6重量%、黒鉛3〜8重量%、水素化チタンのチタン成分として0.1〜1.5重量%、残部銅から成る焼結合金層が鋼板上に燐青銅からなる接合層を介して一体に接合されていることを特徴とする複層焼結摺動部材。
【請求項2】 焼結合金層には、ニッケル3重量%以下およびマンガン1重量%以下含有されている請求項1に記載の複層焼結摺動部材。
【請求項3】 接合層を形成する燐青銅は、錫5〜10重量%、燐0.1〜1.0重量%、残部銅からなる請求項1又は2に記載の複層焼結摺動部材。
【請求項4】 焼結合金層には、潤滑油が18〜25容量%の割合で含有されている請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の複層焼結摺動部材。
【請求項5】 (1)アルミニウム粉末5〜13重量%と鉄粉末3〜6重量%と黒鉛粉末3〜8重量%と水素化チタン粉末のチタン成分として0.1〜1.5重量%と残部銅粉末から成る混合粉末を形成する工程と、(2)この混合粉末に粉末結合剤の1〜15重量%水溶液を該混合粉末に対し0.1〜5.0重量%添加し均一に混合してこれを摺動層用混合粉末とし、該混合粉末を圧延ロールに供給して圧延シートを成形する工程と、(3)鋼板を用意し、該鋼板上に燐青銅からなる接合層を形成する工程と、(4)該圧延シートを鋼板上に該接合層を介して重ね合わせ、これを中性または還元性雰囲気に調整した加熱炉内で800〜950℃の温度で0.1〜5.0kgf/cm2 の圧力下で30〜90分間焼結し、該圧延シートの焼結と鋼板上への接合を同時に行わせる工程と、以上(1)乃至(4)の工程から成ることを特徴とする複層焼結摺動部材の製造方法。
【請求項6】 摺動層用混合粉末には、ニッケル3重量%以下およびマンガン1重量%以下含有されている請求項5に記載の複層焼結摺動部材。
【請求項7】 粉末結合剤は、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、スターチから選択される請求項5に記載の複層焼結摺動部材。
【請求項8】 接合層を形成する燐青銅は、錫5〜10重量%、燐0.1〜1.0重量%、残部銅からなる請求項5に記載の複層焼結摺動部材。
【請求項9】 接合層は、錫5〜10重量%、燐0.1〜1.0重量%、残部銅からなる混合粉末を鋼板表面に0.3〜0.7mmの厚さに一様に散布して形成する請求項5に記載の複層焼結摺動部材の製造方法。
【請求項10】 接合層は、錫5〜10重量%、燐0.1〜1.0重量%、残部銅から成る混合粉末を鋼板表面に火焔溶射またはプラズマ溶射によって厚さ0.3〜0.7mmの皮膜として形成する請求項5に記載の複層焼結摺動部材。
【請求項11】 (1)アルミニウム粉末5〜13重量%と鉄粉末3〜6重量%と黒鉛粉末3〜8重量%と水素化チタン粉末のチタン成分として0.1〜1.5重量%と残部銅粉末から成る混合粉末を形成する工程と、(2)この混合粉末に粉末結合剤の1〜15重量%水溶液を該混合粉末に対し0.1〜5.0重量%添加し均一に混合して摺動層用混合粉末を形成する工程と、(3)錫5〜10重量%、燐0.1〜1.0重量%、残部銅から成る混合粉末に粉末結合剤の1〜15重量%水溶液を該混合粉末に対し0.1〜5.0重量%添加し均一に混合して接合層用混合粉末を形成する工程と、(4)該摺動層用混合粉末と接合層用混合粉末とを圧延ロールに供給し、摺動層用混合粉末層と接合層用混合粉末層とが一体となった二層の圧延シートを成形する工程と、(5)二層の圧延シートの接合層用混合粉末層を下側にして鋼板表面に重ね合わせ、これを中性または還元性雰囲気に調整した加熱炉内で800〜950℃の温度で0.1〜5.0kgf/cm2 の圧力下で30〜90分間焼結し、該圧延シートの焼結と鋼板上への接合を同時に行わせる工程と、以上(1)乃至(5)の工程からなることを特徴とする複層焼結摺動部材の製造方法。
【請求項12】 摺動層用原料粉末には、ニッケル3重量%以下およびマンガン1重量%以下含有されている請求項11に記載の複層焼結摺動部材。
【請求項13】 粉末結合剤は、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、スターチから選択される請求項11に記載の複層焼結摺動部材。
【請求項14】 二層の圧延シートの接合層用混合粉末層の厚さは、0.3〜0.7mmである請求項11に記載の複層焼結摺動部材。

【図1】
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