説明

複数の出力波長を有するレーザレーダ装置

コヒーレントレーザレーダ(ライダ)装置が記載されている。装置は、単一の波長レーザ源を備える送信部と、前記単一の波長レーザ源の出力からの離散波長の少なくとも2つの成分光ビームを含む、組合わされた光ビームを生成するための(電気光学変調器などの)変換手段と、組合わされた光ビームを遠隔ターゲットに送る送信光学装置とを有する。組合わされた光ビームの各成分光ビームは、単一の波長レーザ源から送信光学装置へ同じ光学経路を移動する。装置は、差分吸収測定をするために使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザレーダ(ライダ(lidar))に関し、特に、ガス種のリアルタイムの監視および測定のための光ファイバに基づく差分吸収ライダ(DIAL)システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガス濃度を測定するための種々の技術が良く知られている。例えば、一連のガス種の正確な(10億分の1)局所的サンプリングを可能にする、多数の静的センサが市販されている。これらのうちの多くは、ガスクロマトグラフィ、水素炎イオン化、またはフーリエ変換赤外線(FTIR)分光法などの従来の技術を使用して、サンプルに引き入れられかつサンプルを分析する「ポイントセンサ」装置である。本質的にこれらの装置は、相当な(すなわち1秒より長い)サンプリング時間を要し、また対象領域内に配置される必要がある。
【0003】
非分散赤外線(NDIR)または非分散紫外線(NDUV)吸収に基づく別の技術もまた知られている。一般的に、一連の吸収フィルタおよび広帯域源が、注目ガス種と関連付けられた狭い吸収バンド内の波長光を提供するために使用される。特定の注目波長での吸収レベルの測定は、ガス濃度測定を提供するが、このようなシステムは、一般的に2分の1秒の速度で捕捉できるにすぎず、種を干渉しやすい。
【0004】
差分吸収ライダは、ガス相構成要素の遠隔検出のためのもう1つの知られている技術である。DIALシステムの基本概念は、レーザ光の2つの波長が、ライダ(光検出および分類)装置によって送信されることである。第1の波長は、注目ガス種の離散吸収ラインに設定されるのに対して、第2の波長は、吸収ピークに近いが、吸収ピークから外れて設定される。第1および第2の波長の差分吸収は、ガス種の平均分子濃度の定量的測定を提供する。従ってDIAL技術は、遠隔検出を可能にするという点において、上述された別の技術に関して利点がある。
【0005】
DIALシステムは、多数の方法で実現されてきた。例えば、アナログ光子計数およびコヒーレント検出システムが知られている。戻り放射が光ローカル発振器ビームとコヒーレントに混合される、コヒーレント検出(つまりヘテロダイン)DIALシステムは、一般的に、背景光およびクロストークによる干渉に対する良好な耐性を有する高い信号対雑音比を提供する。コヒーレント検出DIALシステムは、この他にもより詳細に記載されている。例えばRye,Appl.Opt.17,3862−3864(1987年)を参照。
【0006】
知られているコヒーレントDIALシステムの欠点は、戻り光のスペックルによる変動が、受信信号が複数のスペックル相関時間にわたって平均化されていないなら、検出された光パワーにおける大きな不確実性を招くことである。従って、強度変動の効果を克服するのに必要な数値の平均化は、差分吸収データがDIALシステムから抽出可能な速度を制限する。
【0007】
最近、受信信号が、大きさのオーダまで平均化される必要のある時間を削減可能なコヒーレントDIALシステムが、Ridleyらによって示された(応用光学(Applied Optics)、第40巻、12号、pp2017−2023、2001年4月20日参照)。この装置は、2つのわずかに異なる波長の放射を生成するために使用される1対のレーザダイオードを備える。ローカル発振器ビームが抽出されて、次いで2つの異なる波長レーザビームが組合わされて、単一の光ファイバに結合される。組合せ後、2つの異なる波長ビームは、ターゲットに対する自由空間およびターゲットからの自由空間において、ならびに受信機において、送信機の残りの部分を介する共通経路を共有する。小さな波長分離と浅いターゲット深さについて、装置は、2つの波長チャネルについて良好に相関されたスペックル変動を示す。
【0008】
Ridleyらによって記載されたシステムの欠点は、送信機におけるビームの組合せ前に、2つの異なる波長チャネルの各々において別々に生じる強度変動の存在である。このような相関されていない変動の存在は、測定された強度信号が平均化されて、確実な差分吸収データを提供しなければならない時間を増大させる。あるいはまた、データ平均化に関する要件の増加は、一定の信号対雑音比を有する差分吸収情報が取得可能な速度を制限すると考えることができる。
【0009】
(英国出願番号第0220914.6号に基づいた)同時係属のPCT特許出願GB03/003882号は、どのようにRidleyによって記載された装置が、更なる正規化信号を提供することによって改良可能であるかを記載している。しかしながら、性能の改良は、更なる装置の複雑化を犠牲にして達成される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上述された欠点の少なくとも一部を軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様によると、コヒーレントレーザレーダ(ライダ)装置は、単一の波長レーザ源を備える送信部と、前記単一の波長レーザ源の出力からの離散波長の少なくとも2つの成分光ビームを含む、組合わされた光ビームを生成するための変換手段と、組合わされた光ビームを遠隔ターゲットに向ける送信光学装置とを有しており、組合わされた光ビームの各成分光ビームは、単一の波長レーザ源から送信光学装置へ同じ光学経路を移動する。
【0012】
従って本発明は、遠隔ターゲットに対する方向に生成された2つ以上の成分光ビームが、同じレーザ源によって提供されて、送信部を介する同じ光学経路を移動するコヒーレントライダ装置を提供する。これは、雑音の大部分(例えば、送信部の種々の光学構成要素によって導入されたレーザ出力または雑音の変動)が、両方の波長チャネルに共通であるため、装置によって取得された差分吸収情報から訂正可能である装置を提供する。さらに、単一のローカル発振器信号のみが、単一の波長レーザ源に必要とされて、任意の戻り信号のコヒーレント検出を可能にする。
【0013】
遠隔ターゲットは、装置から短距離に(例えば数メートル)または数キロメートルに配置される散乱または反射ターゲットを備えていてもよい。当業者はまた、適切な設計の光学装置によって、システムが、より短い範囲で測定するように容易に構成可能であることを理解するであろう。散乱または反射ターゲットは、格好の特定目的の散乱器であってもよい。あるいはまた、遠隔ターゲットはエアロゾルであってもよい。当業者は、固体遠隔ターゲットからの反射/散乱に対するコリメートされまたは集束されたビームを提供するのに必要な種々の光学構成と、どのように集束されたビームが、画定されたターゲット容積からの測定を可能にするために取得可能であるかとを理解する。
【0014】
本明細書で使用されている用語「光」は、紫外線、可視、または(近/中/遠)赤外線における放射を含むことに注目すべきである。以下により詳細に記載されるように、当業者は、本発明の装置が、広範囲の波長にわたって実現可能であり、差分吸収ライダ(DIAL)装置の場合は、正確な動作波長が、注目ガス種に基づいて選択されることを理解するであろう。
【0015】
好都合に、遠隔ターゲットから戻った光を収集するための受信光学装置と、コヒーレント検出手段とを備える受信部がさらに提供される。
【0016】
好都合なことに、受信光学装置によって収集された各成分光ビームは、受信光学装置からコヒーレント検出手段の同じ光学経路を移動する。
【0017】
この場合、組合わされたビームを形成する複数のビームは、ほとんどすべて共直線性であり、すなわち複数のビームは、装置内外の共通の光学経路をたどることが分かる。このことは、組合わされたビームの波長成分ビームの一部に悪影響を及ぼすにすぎない機器のドリフトを最小化することによって、もたらされた差分吸収データと関連付けられる雑音を削減する。従って、装置は、スペックルなどの雑音源に対して更なる堅牢さを付与し、頻度の小さい偽アラームを提供する。
【0018】
好ましくは、変換手段は、電気光学変調器(EOM)を備える。
【0019】
EOMは、離散波長の2つ以上の成分光ビームを生成する便利な方法を提供する。EOM装置は市販されている。例えば、適切な装置が、New Focus Inc.,5215 Hellyer Ave,San Jose,CA 95138−1001,USAによって作成された、2002/2003カタログ(11版)の78ページに記載されている。
【0020】
好都合に、EOMは、離散波長の少なくとも3つの成分光ビームを提供するために電気的に駆動される。
【0021】
好都合なことに、EOMは、離散波長の少なくとも5つの成分光ビームを提供するために電気的に駆動される。
【0022】
3つまたは5つ以上の離散波長チャネルの使用によって、2つの波長チャネルのみが使用される場合に観察されることがある、起こりえる不透明性効果(opacity effect)を克復する。これは、図4を参照して以下により詳細に記載される。
【0023】
好ましくは、送信部は、さらに偏光制御手段を備える。
【0024】
EOMは、より高次モードに変換されたパワー量が最大化される放射入力偏光を有する。従って、偏光制御手段は、光の偏光を調整して、EOM変換効率を最大化するために使用可能である。装置は、さらにあるいは代わりに、関連付けられるローカル発振器ビームの偏光状態に対して、受信された光および/または抽出された成分光ビームの偏光状態を制御するように構成された、偏光制御手段を備える。これによって、ヘテロダイン検出手段でのヘテロダイン混合効率が、信号およびローカル発振器ビームの偏光を一致させることによって制御されること(例えば最大化されること)が可能になる。
【0025】
送信部は、好都合なことにさらに、少なくとも1つの光学増幅器を備えていてもよい。例えば、エルビウムドープファイバ増幅器(EDFA)である。増幅器の追加によって、(例えば、エアロゾルなどの分散ターゲットであるために)遠隔ターゲットが低散乱強度を有する場合に、出力信号強度を増大させることができる。
【0026】
好都合に、変換手段によって受信されたレーザビームと、該レーザビームの関連付けられるローカル発振器信号との間に周波数シフトを導入するために、周波数シフト手段が提供される。これによって、異なる送信波長でのターゲットから戻った信号への寄与が、容易に分離可能となる。
【0027】
好ましくは、装置の光学構成要素の少なくとも一部が、光ファイバケーブルを介して相互接続される。本発明は、好ましくはファイバ光学に基づく装置を使用して実現されるが、装置の内部光学構成要素の一部または全部が、自由空間を介して送信された光ビームによって光学的にリンク可能であることが理解されるべきである。例えば、組合わされたビームを送信するために使用されるレンズは、レンズから適切な距離に配置されているファイバ端から、自由空間を介してこのような光を受信可能である。
【0028】
検出されたヘテロダインピークの幅は、経路長(すなわち装置−ターゲット−装置間)が、レーザのコヒーレント長に比べて相当長いなら広げられてもよい。ローカル発振器ビームを遅延させるための遅延ラインの追加は、この不要なピークの広がりを低減する。従ってローカル発振器ビームは、好都合なことに、光ファイバ遅延ラインを介して送信部から受信部に結合される。
【0029】
好ましくは、別個の送信光学装置および受信光学装置が提供される。言い換えると、ビームを遠隔ターゲットに送信するのに使用される光学構成要素(レンズなど)は、戻りビームを収集するのに使用される光学構成要素に分離される。すなわち配置がバイスタティックである。共通の送信および受信光学構成要素、すなわちモノスタティック送受信機構成を使用して、本発明を実現できることもまた注目すべきである。
【0030】
好都合なことに、少なくとも2つの成分光ビームのうちの1つの波長は、注目ガス種の吸収ピークと一致するように選択される。
【0031】
好都合に、装置は、さらに、しきい値を下回る検出された戻り信号に応答して、少なくとも2つの成分光ビームのうちの1つ以上の波長を変更するための手段を備える。言い換えると、波長チャネルが、高濃度のガス種の存在ゆえに不透明になると、送信波長は、注目ガス種の吸収ピークの異なる領域になるように変更可能である。これは、図4を参照して次に記載されるように、装置のダイナミックレンジを拡大する。
【0032】
本発明の第2の態様によると、ライダ装置は、3つ以上の波長成分を備えるビームを遠隔ターゲットに送信するように構成された単一のレーザ源を備える。
【0033】
好都合に、装置は、電気光学変調器を備える。
【0034】
以下の図面を参照して例示のみによって、本発明を次に記載する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
図1を参照すると、Ridleyらによって記載されたタイプの従来技術のコヒーレントDIAL装置が示されている。装置は、送信部2および受信部4を備える。
【0036】
送信部2は、第1のレーザ6および第2のレーザ8を備える。第1および第2のレーザは、1500nmから1600nmのユーザ選択可能な波長範囲内で動作し、かつ20KHzのライン幅を有する分布帰還型(DFB)半導体レーザである。
【0037】
第1のレーザ6の光出力は、光ファイバを介して第1のビームスプリッタ10に供給される。第2のレーザ8の光出力は、光ファイバを介して第2のビームスプリッタ12に供給される。第1のビームスプリッタ10および第2のビームスプリッタ12は、受信する各ビームを、ローカル発振器ビームおよびメインビームに分割する。各ローカル発振器ビームの偏光は、最大のヘテロダイン混合効率が受信部で得られることを保証するために、ファイバ偏光コントローラ14および16を使用して調整可能である。
【0038】
第1のビームスプリッタ10および第2のビームスプリッタ12によって出力された2つのメインビームは、光アイソレータ18および20を介して、第1の音響光学変調器(AOM)22および第2の音響光学変調器(AOM)24にそれぞれ供給される。AOM22および24は、各メインビームとその関連付けられるローカル発振器ビームとの間に位相シフトを導入し、受信部の次のコヒーレント(ヘテロダイン)検出を可能にする。79MHzの周波数シフトは、第1のAOM22によって与えられ、81MHzの周波数シフトは、第2のAOM24によって与えられる。
【0039】
次いで周波数シフトされたビームは、ビームコンバイナ26によって組合わされて、単一の光ファイバに結合される。組合わされたビームは、送信光学装置28を介して遠隔ターゲットに送信される。組合わされたビームの一部は、遠隔ターゲットへの送信前に、レーザ波長モニタ30に向けられ、送信ビームの成分の波長が連続的に測定されるようにする。
【0040】
受信部4は、遠隔ターゲットから戻った任意の放射を収集する受信光学装置32を備える。戻り信号は、単一の光ファイバケーブルに結合され、ビームコンバイナ17によって組合わされた2つのローカル発振器ビームと組合わされ、ビームコンバイナ/スプリッタ手段38を介して検出器34およびモニタ36に供給される。
【0041】
戻りビームおよび関連付けられるローカル発振器ビームの検出器34でのヘテロダイン混合は、戻りビームおよびそのローカル発振器の各成分の周波数における差に対応する周波数で、2つの信号を生成する。この場合、79MHzの信号(つまり第1のAOM22によって与えられた位相シフト)と、81MHzの信号(つまり第2のAOM24によって与えられた位相シフト)とが、検出器34で検出される。検出器34によって生成された電気信号は、戻りビームの波長成分の両方の強度を示す電気出力信号を生成するスペクトル分析手段40によって、狭いバンド幅にわたって積分される。このように、差分吸収データは取得可能である。
【0042】
2つのレーザ源6および8は、類似する波長のビームを生成し、送信部でのビーム組合せ後に、このビームは、検出されるまで同じ光学経路に沿って通過することが分かる。従って、Ridleyら(前出)によって前述されているように、大気の外乱および/またはポインティングの不安定性による雑音は、2つの異なるビームに関して同様であり、測定された差分吸収比に何ら有意な作用を有することはない。
【0043】
2つのビームは、組合せ後かつ検出前に、同じ光学経路を通過するが、ビームコンバイナ26におけるビームの組合せ前にもたらされた有意な量の雑音が依然として残っている。雑音、例えばレーザ強度における変動および各AOMによってもたらされる雑音は、測定された差分吸収データに不確実性を招く。(例えば、同時係属PCT出願GB03/003882号に記載されている)更なる正規化技術が、測定差分吸収信号の品質を改良するために使用可能であるが、これらは、更なる装置の複雑性および/または更なる信号処理を伴う傾向がある。
【0044】
図2を参照すると、本発明に従ったファイバに基づくDIAL装置が示されている。装置は、送信部50および受信部52を備えているが、図1を参照して説明されているDIAL装置とは異なり、本発明の装置の送信部52は、単一のレーザ源54のみを備える。
【0045】
ローカル発振器ビームは、ビームスプリッタ56を使用してレーザ源の出力からタッピングされ、受信部52に移動するのに対して、レーザビームの残りのパワーは、AOM58によって周波数において80MHzシフトされる。次いでAOM58の光出力は、第1の偏光コントローラ60を介して、エルビウムドープファイバ増幅器(EDFA)62に供給される。EDFA62によって生成された増幅光信号は、電気光学変調器(EOM)64に通される。第1の偏光コントローラ60は、EOM64の最適な性能に必要な入力偏光に一致する偏光を有する信号を提供するように構成される。
【0046】
次に図3を参照してより詳細に記載されているように、EOM64は、受信する単一の周波数ビームを、異なる周波数の多数の成分ビームに変換する。従ってEOMによって出力されたビームは、送信光学装置66を介して遠隔ターゲット(図示せず)に送信されたいわゆる組合わされたビーム(すなわち、異なる波長の多数のビームの組合せから生成されるビーム)を形成する、異なる波長の多数の共線ビームを含む。
【0047】
本発明の装置においてレーザ54によって出力された光の周波数は、フィードバックループを使用して安定化されることが可能である点に注目すべきである。レーザ源54によって出力された光のわずかな部分は、フィードバック手段55に供給されてもよい。フィードバック手段55は、必要なレーザ出力を維持するために、レーザ出力を分析し、かつレーザ源54の強度および/または波長を変更するように構成されている。
【0048】
受信部52は、遠隔ターゲットから戻った任意の放射を収集するための受信光学装置68を備えており、受信したビームを、光ファイバを介してビームコンバイナ/スプリッタ手段70に通し、ビームコンバイナ/スプリッタ手段70で、レーザ源54から導かれたローカル発振器ビームと組合わされ、第1の受信機70および第2の受信機72を備える平衡受信機検出システムに供給される。検出器での混合効率は、第2の偏光コントローラ74を使用して、ローカル発振器ビームの偏光を制御することによって最適化される。
【0049】
このタイプの平衡受信機検出システムは、図1を参照して説明されている検出システムに対して、コストおよび複雑性の増大にもかかわらず種々の利点を有する。例えば、平衡受信機検出システムは、検出された信号強度をわずかに増加させ、レーザ強度雑音(RIN)の効果を減少させる。当業者は、任意の適切なヘテロダイン検出手段が、本発明のライダ装置に使用可能である点を理解する。
【0050】
EOM62は、レーザによって生成された単一の波長ビームを、各々が必要ならば異なる波長を有する多数の成分ビームに分割し、図3は、図2を参照して説明されている装置で使用されるEOMのスペクトル出力を示している。
【0051】
EOM62が、周波数ν−δでゼロ次ビームJを出力し、ここでνは、レーザ源54の周波数であり、δは、AOM58によって与えられた周波数シフトであることが図3より分かる。等しい強度を有する1次ビームJおよびJ−1が、また周波数ν−δ+Δおよびν−δ−Δでそれぞれ生成されて、ここでΔは、EOMによって与えられた1次周波数シフトであり、一般的に500MHz程度である。異なる周波数であり、かつ1次ビームより強度が低い2次ビームJおよびJ−2もまた出力される。
【0052】
ローカル発振器ビームが、周波数νを有するため(すなわち、AOM58による周波数シフトの適用前に送信部からタッピングされる)、各信号J、J−1、J+1、J−2、J+2などは、一意の周波数の検出器70および72で対応するヘテロダイン信号を生成する。スペクトル解析器78が使用されて、信号J、J−1、J+1、J−2、J+2などの各々の強度を示す電気出力信号を生成するために、狭いバンド幅にわたって検出器70および72によって生成された電気信号を積分する。このように、差分吸収データは取得可能である。差分吸収比の任意の系統的歪み(例えば、検出器の不均一な周波数応答によって生じる系統的なエラー)は、標準の校正技術を使用して除去可能である。スペクトル解析器78が示されているが、パワーメータと結合されたバンドパスフィルタが、代替物として使用可能であることが理解されるであろう。
【0053】
EOM62に印加された電力は、ゼロ次ビームから高次ビームに周波数シフトされた光パワーの割合を限定するのに対して、EOMに印加されたRF信号の周波数は、周波数シフトΔの大きさを限定することに注目すべきである。従ってEOMの使用は、装置の送信部で生成された成分ビームの波長を制御するための手段を提供する。
【0054】
上述のように、EOM62は、一定の偏光の光、ひいては第1の偏光コントローラ60の使用を受ける場合に、最も効率的に動作する。しかしながら、EOMのみに非最適偏光を入力することは、より高次ビームに放射を周波数シフトさせる効率を低下させる、すなわち、各1次ビームの光パワーの比は、一定のままであることに注目すべきである。
【0055】
図4を参照すると、本発明の装置を使用することの更なる利点が示されている。
【0056】
従来のDIALライダ装置においては、わずかに異なる波長(例えばλおよびλ)の2つのビームが使用される。一方の波長(例えばλ)は、吸収ピーク(例えば送信トラフ90)と一致するように選択され、他方の波長(例えばλ)は、そのピークから離れて、あるいはそのピークの端部になるように選択される。λに対する波長λの吸収の相対的差は、注目ガス種の濃度の指示を提供する。しかしながら、多量のガス種が事実上存在すると、波長λの全放射は、ガスによって吸収されることになる。λチャネルのこの「ボトミングアウト」すなわち不透明性は、正確に測定可能なガス濃度に対して効果的に上限を設け、すなわち装置のダイナミックレンジを減少させる。
【0057】
本発明の装置によって、二波長ライダシステムによって観察される不透明性効果は、多数の(例えば5つの)離散波長での吸収を同時に測定することによって克服されることが可能である。例えば、図2および図3を参照して説明されているシステムを用いると、装置によって出力された異なる波長(J、J−1、J+1、J−2、J+2)の5つのビームは、図4に示されている注目ガス種の吸収ピークにわたり広げられることが可能である。この場合、ビームJ−2から戻った信号は不透明になり、吸収ピーク付近の他のビーム(例えばビームJ−1、JおよびJ+1)の吸収は、J+2ビームに対して依然として測定可能である。
【0058】
別の構成において、装置は、異なる波長(例えばJおよびJ±1)の3つのビームを正常に出力するように構成可能であるが、3つの初期信号のいずれかが不透明になる場合には、より高次のビーム(例えばJ±2)を提供するために、EOMに印加されるパワーを増加させる手段を備えていてもよい。従って本発明の装置は、二波長DIALシステムよりもより大きなダイナミックレンジを有し、かつ一般的により柔軟性のあるものであることが分かる。
【0059】
当業者は、本発明を実現するために使用可能な種々の代替光学構成について理解するであろう。例えば、送信部を構成する種々の光学構成要素は、順番が変更可能であり、また、実質的に同じ機能を提供するシステムを依然として提供可能である。レーザ源の出力を安定化させるために使用されるフィードバック機構は、また、EOMの後など、種々のポイントのいずれかでメイン光学経路からタッピングされた光を使用するために変更可能である。
【0060】
装置は、また、DIAL装置に対して移動するガス種の差分吸収特性を測定するように構成可能である。例えば、装置は、移動中の飛行機や車両から操作可能である。このような場合に、当業者は、DIAL装置の適切な動作を保証するために考慮される必要のある相対的な動きに起因するドップラーシフト効果を理解するであろう。
【0061】
バイスタティック送受信機(つまり、別個の送信光学装置および受信光学装置を有する送受信機)が上述されているが、当業者は、モノスタティック送受信機(つまり、組合わされた送信光学装置および受信光学装置を有する送受信機)が使用可能であることを理解するであろう。モノスタティック装置は、パルス送信ビームを使用する際に特に有用である。同様に、光ファイバに基づくシステムは、多くの理由(例えば、構成要素の位置合わせの容易さ、コストなど)から好ましいが、本発明は、また自由空間の光学構成要素を使用して実現可能である点が、当業者によって理解されるであろう。
【0062】
上述された装置は、1500nmから1600nm範囲の放射を出すレーザを用いる。しかしながら、本発明は、任意の波長の放射を使用して実現可能である。当業者は、レーザ源の波長は、出力放射が注目ガス種の最大吸収と一致するように単に選択されるという点を理解するであろう。レーザダイオード技術が開発されるにつれて、この技術を使用して、波長をさらに赤外線へと安価に接近させることが可能となる。増加した波長の使用は、一酸化炭素、窒素酸化物、および未燃炭化水素などの種の差分吸収測定に関して相当の利点となるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】従来技術のファイバに基づくDIAL装置を示す。
【図2】本発明に従ったDIAL装置を示す。
【図3】図2に示されているタイプの装置によって生成された信号の相対的強度および波長を示す。
【図4】どのように本発明の装置が、差分吸収測定をするために使用可能であるかを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の波長レーザ源を備える送信部と、前記単一の波長レーザ源の出力からの離散波長の少なくとも2つの成分光ビームを含む、組合わされた光ビームを生成する変換手段と、組合わされた光ビームを遠隔ターゲットに送る送信光学装置とを有する、コヒーレントレーザレーダ(ライダ)装置であって、組合わされた光ビームの各成分光ビームが、単一の波長レーザ源から送信光学装置へ同じ光学経路を移動する、装置。
【請求項2】
受信部がさらに提供され、前記受信部が、遠隔ターゲットから戻った光を収集するための受信光学装置とコヒーレント検出手段とを備える、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
受信光学装置によって収集された各成分光ビームが、受信光学装置からコヒーレント検出手段へ同じ光学経路を移動する、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
変換手段が、電気光学変調器(EOM)を備える、請求項1から3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
EOMが、離散波長の少なくとも3つの成分光ビームを提供するために電気的に駆動される、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
EOMが、離散波長の少なくとも5つの成分光ビームを提供するために電気的に駆動される、請求項4または5に記載の装置。
【請求項7】
送信部が、偏光制御手段をさらに備える、請求項4から6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
送信部が、少なくとも1つの光学増幅器をさらに備える、請求項1から7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
周波数シフト手段が提供され、変換手段によって受信されたレーザビームと、該レーザビームに関連付けられるローカル発振器信号との間に周波数シフトをもたらす、請求項1から8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
装置の光学構成要素の少なくともいくつかが、光ファイバケーブルを介して相互接続される、請求項1から9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
ローカル発振器ビームが、光ファイバ遅延ラインを介して送信部から受信部に結合される、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
別個の送信光学装置および受信光学装置が提供される、請求項1から11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
少なくとも2つの成分光ビームのうちの1つの波長が、注目ガス種の吸収ピークに一致するように選択される、請求項1から12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
しきい値を下回る検出された戻り信号に応答して、少なくとも2つの成分光ビームのうちの1つ以上の波長を変更する手段をさらに備える、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
3つ以上の波長成分を含むビームを遠隔ターゲットに送信するように構成された単一のレーザ源を備える、ライダ装置。
【請求項16】
電気光学変調器を備える、請求項15に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−510012(P2006−510012A)
【公表日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−558769(P2004−558769)
【出願日】平成15年12月3日(2003.12.3)
【国際出願番号】PCT/GB2003/005215
【国際公開番号】WO2004/053518
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(501352882)キネテイツク・リミテツド (93)
【Fターム(参考)】