説明

複数の多孔性フィルム及びその製造方法

【課題】同一の多孔パターン(微細孔パターン)が形成され、複製が実質上不可能な複数の多孔性フィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】複数の多孔性フィルムは、高分子フィルムに重イオンを照射した後に、化学エッチングすることにより得られる複数の多孔性フィルムにおいて、前記複数の多孔性フィルムの各多孔性フィルムにおける複数の孔により形成される多孔パターンが互いに同一であり、且つ、前記複数の孔の配向方向が1方向又は2方向以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の多孔性フィルム及びその製造方法に関し、特に、同一の多孔パターン(微細孔パターン)が形成され、複製が実質上不可能な複数の多孔性フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、製品、紙幣、クレジットカード、ソフトウェアが記録された記録媒体等には、それらの真贋を確認したり、それらの偽造を牽制する目的で、ホログラム等の微細加工タグが貼られている。
しかしながら、近年における、スキャナー、複写機及びプリンターの性能の向上、パーソナルコンピュータの処理性能の向上、レーザー装置の入手容易化等により、タグ自体の複製が可能となってしまうという問題がある。
【0003】
斯かる問題を解決すべく、体積ホログラムに立体像と通常では見えない微細な繰り返しパターンからなる瞳の像とを記録して、その瞳の像の再生パターンによりホログラムの真贋を判定するホログラム記録体を用いて、セキュリティーレベルを向上させる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、上記技術においては、セキュリティーレベルは向上しているものの、複製を実質上不可能にすることはできておらず、タグ自体の完全な真贋の判定を行うことができない状況にある。
【0004】
また、近年、複製が実質上不可能である微細パターンをタグとして利用することが検討されている。前記微細パターンとしては、例えば、珊瑚の表面構造、昆虫の羽根構造、水面に浮かんだ絵の具のマーブル模様、サンドブラスト加工や重イオン照射により製造される多孔性フィルム、などが挙げられる。しかしながら、これらの微細パターンは、完全同一のものを工業的に複数製造することはできないという問題がある。
【0005】
前記多孔性フィルムは、例えば、高分子(ポリマー)フィルムに重イオンを照射し、該重イオンが照射されたフィルムを化学エッチングすることでナノオーダーの径の円柱状の孔を多数形成する方法により製造される(例えば、特許文献2及び3参照)。
【0006】
さらに詳細に説明すると、図1(a)に示すように、高分子フィルム1に重イオン2を照射し、重イオン2が通過した経路、およびその近傍に損傷を与える(図中の矢印は重イオン2の進む向きを表している)。次に、図1(b)に示すように、重イオン2が照射された高分子フィルム1に対して、アルカリ溶液等の化学薬品溶液(エッチング薬液)3への浸漬処理を行い、損傷部分を選択的に侵食させる。これにより、図1(c)に示すように、高分子フィルム1に微細孔5が多数形成された多孔性フィルム4が得られる。
【0007】
図2(a)(b)を用いて、孔形成についての詳しい原理を説明する。
図2(a)に示すように、重イオン2は、加速された状態で高分子フィルム1内に侵入し、重イオン2が通過した経路と該経路の周辺とに損傷を与えて、自身の力学的エネルギーを失いながら進み、最終的には、高分子フィルム1内で停止、又は高分子フィルム1を抜け出る。これにより、高分子フィルム1における重イオンの通過経路近傍には損傷部分Bが形成されるが、損傷部分Bと未損傷部分Aを比べると、損傷部分Bの方が化学薬品に対する耐久性が低くなっているために、図2(b)に示すように、化学薬品溶液(エッチング薬液)への浸漬の際に、損傷部分Bが選択的に分解され、図3に示すように、高分子フィルム1に孔径が均一な微細孔5が形成される。
【0008】
ここで、1つ1つの孔径については、使用する重イオンの速度、及び化学エッチング条件を制御することによって決定することができる。また、孔の密度については、照射する重イオンの個数で決定できる(〜10個/cm程度)。しかしながら、多数の孔によって形成される多孔パターン(孔の配置)については、人工的に制御することが不可能である。よって、同一の多孔パターンを有する多孔性フィルムを複数製造することができないという問題があった。
【0009】
上記のように、セキュリティーレベルを高めるために、複数の手段を組み合わせて複製を困難にしているものは多数あるが、そのどれもが複製を実質上不可能にすることはできていない。また、生物関連や多粒子現像のような自然現象を利用したものに関しては、マクロ的には再現可能であるがミクロ的には人工的に再現性が得られなく、複製を実質上不可能にすることができるものの、工業的に複数製造することができない。
このように、工業的に複数製造することができ、且つ、製造した後に複製ができないタグが求められているが、現状では、斯かる要求を満たすタグは未だ存在せず、開発が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−94202号公報
【特許文献2】特開昭59−117546号公報
【特許文献3】特許第2518881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来技術における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、同一の多孔パターン(微細孔パターン)が形成され、複製が実質上不可能な複数の多孔性フィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく、積層した高分子フィルムに重イオンを照射することにより、同一の多孔パターン(微細孔パターン)が形成され、複製が実質上不可能な複数の多孔性フィルムを得ることが可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明の複数の多孔性フィルムは、高分子フィルムに重イオンを照射した後に、化学エッチングすることにより得られる複数の多孔性フィルムにおいて、前記複数の多孔性フィルムの各多孔性フィルムにおける複数の孔により形成される多孔パターンが互いに同一であり、且つ、前記複数の孔の配向方向が1方向であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の複数の多孔性フィルムは、高分子フィルムに重イオンを照射した後に、化学エッチングすることにより得られる複数の多孔性フィルムにおいて、前記複数の多孔性フィルムの各多孔性フィルムにおける複数の孔により形成される多孔パターンが互いに同一であり、且つ、前記複数の孔の配向方向が2方向以上であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の複数の多孔性フィルムは、高分子フィルムに重イオンを照射した後に、化学エッチングする複数の多孔性フィルムの製造方法において、前記高分子フィルムを積層して重イオンを照射することを特徴とする。
前記積層した高分子フィルムに前記重イオンを複数の入射角度から照射してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、同一の多孔パターン(微細孔パターン)が形成され、複製が実質上不可能な複数の多孔性フィルム及びその製造方法を提供することができる。
即ち、本発明によれば、工業的に複数製造することができ、且つ、製造後に複製することができない、多孔パターン(微細孔パターン)が形成された高分子フィルムを複数得ることが可能となり、セキュリティレベルが非常に高いタグとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来の重イオンを用いた多孔性フィルムの製造方法の概要を示す図である。
【図2】従来の重イオンを用いた多孔性フィルムの製造方法の原理を示す図である。
【図3】従来の重イオンを用いた製造方法で得られる多孔性フィルムの表面の電顕微鏡写真である。
【図4】本発明の多孔性フィルムの製造方法であって、重イオンを積層したフィルムに垂直入射させたことを説明するための図である。
【図5】本発明の多孔性フィルムの製造方法であって、重イオンを積層したフィルムに斜め入射させたことを説明するための図である。
【図6】本発明の多孔性フィルムの製造方法であって、重イオンを積層したフィルムに垂直入射させた後に、重イオンを積層したフィルムに斜め入射させたことを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について、必要に応じて図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0019】
(多孔性フィルムの製造方法)
本発明の多孔性フィルムの製造方法は、少なくとも、照射工程と、化学エッチング工程とを含み、さらに必要に応じて適宜選択した、その他の工程を含む。
具体的には、例えば、処理対象となる積層した高分子フィルムに、重イオンを照射し(図4〜6)、化学エッチング処理する(図1(b))。
【0020】
<照射工程>
前記照射工程は、積層した高分子フィルム(高分子フィルム積層体)に重イオンを照射する工程である。
【0021】
−高分子フィルム積層体−
前記高分子フィルム積層体としては、高分子フィルムが各フィルム面が互いに平行となるように複数積層されたものである限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記高分子フィルム積層体における高分子フィルムの積層枚数としては、2枚以上である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0022】
−高分子フィルム−
前記高分子フィルムの厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、孔形成の可能性の観点から、1mm以下であることが好ましく、25μm〜300μmであることがより好ましい。
前記高分子フィルムの材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリイミド、ポリアセタール、等のポリマー樹脂が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、ポリカーボネートが、非晶性であるために、フィルム表面や孔の内径が滑らかになる点で、好ましい。
【0023】
−重イオンのイオン種−
前記重イオンのイオン種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヘリウムイオン、ネオンイオン、アルゴンイオン、クリプトンイオン、キセノンイオン等の希ガスイオン(イオン集団)が好適に用いられる。
【0024】
−重イオン照射−
前記重イオン照射としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知のシンクロトロン等の重イオン加速器により、前記重イオンの1核子あたりに所定量のエネルギーを付与し、前記重イオンが前記高分子フィルム面に対して略垂直方向又は斜め方向に照射することなど、が挙げられる。例えば、質量数131.904のキセノンイオンのポリカーボネート媒質中の飛程(重イオンが媒質中を進める距離)は、1核子当たりの加速エネルギー1MeV/uでは約20μm、5MeV/uでは約70μm、10MeV/uでは約130μm、100MeV/uでは約3400μmである(単位中のuは、原子質量単位を意味する)。要するに、使用するイオン種と照射対象の高分子フィルムにおける高分子ポリマー種によって、重イオンが高分子フィルム積層体を貫通する以上の加速エネルギーを選択すればよい。加速された重イオンの媒体中での飛程計算は、良く知られた計算ソフトウェアSRIM(The Stopping and Range of Ions in Matter)コードによって計算可能である。
また、孔密度に関しては、重イオンのイオン種、加速エネルギー及び照射線量とによって任意に決定することができる。加速エネルギーが低LET(LETとは、Linear Energy Transferの略であり、単位長さ当たりに付与されるエネルギーを意味する。)ビームの場合は、照射線量で制御を行うことができる。例えば、加速エネルギー184MeV/uのキセノンイオンがポリカーボネート媒質を通過する場合、LETは15.6GeV/cmとなり、10個/cmの孔密度を得るためには、250Gyの線量を照射する必要がある。一方、加速エネルギーが小さい高LETビームの場合は、線量計が使用できないので、予め、薄いプラスチックシンチレータを用いて、照射時間による孔密度を測定しておき、照射時間で制御することになる。さらに、高LETビームの場合は、フィルムの積層体に付与されるエネルギーの場所における変化率が大きくなってしまい、その後の化学エッチングにより前段のフィルム(照射手段側のフィルム)の孔径よりも、後段のフィルム(照射手段の反対側のフィルム)の孔径が大きくなってしまうという問題があるので、ブラッグピーク付近の高LETビームは好ましくない。
【0025】
−−照射方向−−
前記重イオン照射の照射方向としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、高分子フィルム積層体面に対して垂直方向(図4、入射角=0°)、高分子フィルム積層体面に対して斜め方向(図5、0°<入射角<90°)のいずれであってもよい。
前記重イオン照射の照射方向が、高分子フィルム積層体面に対して斜め方向(0°<入射角<90°)であると、仮に、射出成型用のスタンパー金型を写し取られても、多孔の配向方向がフィルム面に対して斜め方向であるために、複製物をスタンパー金型から外すことができずに(アンカー効果)、複製を防ぐことが可能となるからである。
前記入射角としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記重イオン照射の照射方向は、1方向(図4及び5)であってもよいし、2方向以上(複数方向)(図6)であってもよい。
【0026】
<化学エッチング工程>
前記化学エッチング工程は、重イオンを照射した高分子フィルムを化学エッチングする工程である。
【0027】
−化学エッチング−
前記化学エッチングの方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知のエッチング薬液に所定時間浸漬する等の公知の化学エッチング方法、などが挙げられる。前記化学エッチングにおいて、前記エッチング薬液を撹拌することにより、均一なエッチングができる。
前記エッチング薬液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルコールが含まれたアルカリ水溶液(メタノールを30vol%含む1Nの水酸化ナトリウム水溶液)、などが挙げられる。前記エッチング薬液は、界面活性剤、などの添加剤をさらに含んでいてもよい。
前記エッチング薬液におけるアルコールの含有量としては、1質量%〜95質量%である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記エッチング薬液におけるアルコールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、メタノールが、高分子(樹脂)との親和性や、分解反応の活性向上の点で、好ましい。
前記エッチング薬液におけるアルカリの濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1N〜5Nであることが好ましい。
前記エッチング薬液におけるアルカリとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸化ナトリウム、などが挙げられる。
前記エッチング薬液のpHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、13〜14が好ましい。
前記エッチング薬液中のアルコールのpKa(酸解離定数)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2〜9が好ましい。
前記エッチング薬液の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0℃〜80℃が好ましく、20℃〜40℃がさらに好ましい。
前記エッチング薬液の浸漬時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1分間〜24時間が好ましく、5分間〜2時間がさらに好ましい。
【0028】
以上のように、照射工程及び化学エッチング工程を含む多孔性フィルムの製造方法によって多孔性フィルムを製造することにより、重イオン集団が照射されて貫通した部分に、貫通した多孔(微細孔)により形成された多孔パターンが同一である多孔性フィルムを複数製造することができる。
ここで、「多孔パターンが同一である」とは、フィルム表面上のパターンが同一であることのみならず、フィルム断面のパターンも同一であることを示すものである。
【0029】
(多孔性フィルム)
本発明の多孔性フィルムには、フィルム厚み方向に貫通する多孔(微細孔)が形成されている。
前記多孔性フィルムにおける多孔の配向方向としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、フィルム面に対して垂直方向及びフィルム面に対して斜め方向のいずれであってもよいが、フィルム面に対して斜め方向であることが好ましい。
前記多孔性フィルムにおける多孔の配向方向が、フィルム面に対して斜め方向であると、仮に、射出成型用のスタンパー金型を写し取られても、複製物をスタンパー金型から外すことができずに(アンカー効果)、複製を防ぐことが可能となるからである。
前記多孔性フィルムにおける多孔の配向方向は、1方向であってもよいし、2方向以上(複数方向)であってもよい。
本発明の多孔性フィルムに形成された孔の孔径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、500nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましく、他の加工法で複製されないように、可能な限り小さい方が好ましい。例えば、後述する実施例1で示す孔径200nmは、一例に過ぎない。
本発明の多孔性フィルムに形成された孔のアスペクト比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1〜3000が好ましく、5〜1000がより好ましい。
【実施例】
【0030】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
以下で説明するように、照射工程及び化学エッチング工程を経て、多孔性フィルムを得た。
【0032】
<照射工程>
図4に示すように、厚み100μmの高分子フィルム1としてのポリカーボネートフィルム(商品名:ユーピロン・フィルムFE−2000、三菱ガス化学株式会社製)10枚を積層させ、シンクロトロン加速器により加速された重イオン2としてのキセノンイオンをフィルム面に垂直に照射した。照射ビームは、加速エネルギー184MeV/uの低LETビームとした。この重イオン2のポリカーボネート媒質中での飛程は、9.45mmであるので、1mm厚の積層体への飛痕は貫通することになる。また、照射線量は、孔密度が3.6×10個となるよう896Gyとした。線量計にて照射量が896Gyに到達するのを確認して照射を終了した。
【0033】
<化学エッチング工程>
キセノンイオンを照射した複数のポリカーボネートフィルムを直ちにエッチング用薬液に浸漬した。前記エッチング薬液として、メタノールを30vol%含む1Nの水酸化ナトリウム水溶液を用いた。エッチング時間(エッチング用薬液への浸漬時間)を10分間とし、ポリカーボネートフィルムを前記エッチング薬液から引き揚げた後、水洗し、乾燥して、多孔性フィルムを得た。
【0034】
<多孔性フィルムの観察及び評価>
得られた各多孔性フィルムの表面及び断面を走査型電子顕微鏡で観察した。孔径は200nmでほぼ均一であり、片側からのエッチングによる孔深さは50μmであった。すなわち、ポリカーボネートフィルムの両表面から侵食が進み、厚み100μmのポリカーボネートフィルムに貫通孔が形成されていた。また、積層した5枚のフィルムの多孔パターンは、全て同一であった。なお、シンクロトロンによる重イオンの照射の特徴として、散弾銃のように多数の重イオンが数秒の間隔で間欠的に照射されるので、同じ箇所にわずかにずれて重イオンが衝突する場合もあるため、孔が雪だるまのように繋がっている箇所もあった。
以上のようにして製造した多孔性フィルムは、1つ1つの孔がフィルム面に垂直に形成されているので、写し取られた電鋳金型を基に、多孔性フィルムを複製することは実質的に不可能であるものの、多孔性フィルムが複製される可能性を完全に否定することはできない。
【0035】
(実施例2)
実施例1において、キセノンイオンをポリカーボネートフィルム積層体に対して垂直に照射する代わりに、図5に示すように、キセノンイオンをポリカーボネートフィルム積層体に対して斜め(入射角(垂直方向に対する角度)20°)から照射したこと以外は、実施例1と同様にして、多孔性フィルムを得て、得られた各多孔性フィルムの観察及び評価を行った。得られた各多孔性フィルムおいて、孔径は200nmでほぼ均一であり、片側からのエッチングによる孔深さは53.2089μmであった。すなわち、ポリカーボネートフィルムの両表面から侵食が進み、厚み100μmのポリカーボネートフィルムに貫通孔が形成されていた。また、積層した5枚のフィルムの多孔パターンは、全て同一であった。
実施例2のように、キセノンイオンをポリカーボネートフィルム積層体に対して斜めから照射することにより、仮に、射出成型用のスタンパー金型を写し取られても、多孔の配向方向がフィルム面に対して斜め方向であるために、複製物をスタンパー金型から外すことができずに(アンカー効果)、複製を防ぐことが可能となる。
【0036】
(実施例3)
実施例1において、キセノンイオンをポリカーボネートフィルム積層体に対して垂直に照射する代わりに、先ず、図4に示すように、キセノンイオンをポリカーボネートフィルム積層体に対して垂直に照射し、その後、図6に示すように、キセノンイオンをポリカーボネートフィルム積層体に対して斜め(入射角θ(垂直方向に対する角度)20°)から照射したこと以外は、実施例1と同様にして、多孔性フィルムを複数得て、得られた各多孔性フィルムの観察及び評価を行った。図6は、作図の都合上、フィルム間に隙間を設けたが、実際の実験では、フィルム間に隙間を設けずに積層した(d=100μm)。なお、キセノンイオンをポリカーボネートフィルム積層体に対して斜めから照射する際に、図6に示すように、ポリカーボネートフィルム積層体における各フィルムがフィルム面方向にそれぞれw(36.397μm)だけずれた状態にした(tan20°=w/d=36.397/100=0.36397)。得られた各多孔性フィルムおいて、孔径は200nmで、片側からのエッチングによる孔深さは50μm(垂直孔)と53.2089μm(斜孔)であった。すなわち、ポリカーボネートフィルムの両表面から侵食が進み、厚み100μmのポリカーボネートフィルムにフィルム表面に対して垂直及び斜めの2方向に抜けた貫通孔が形成されていた。また、積層した5枚のフィルムの多孔パターンは、全て同一であった。
実施例3のように、重イオンをフィルム積層体に対して垂直及び斜めの2方向から照射することにより、仮に、射出成型用のスタンパー金型を写し取られても、多孔の配向方向がフィルム面に対して斜め方向であるために、複製物をスタンパー金型から外すことができずに(アンカー効果)、複製を防ぐことが可能となる。
なお、実施例3では、キセノンイオンをポリカーボネートフィルム積層体に対して垂直及び斜めの2方向から照射するものであるが、複数のキセノンイオン照射を全て斜め方向に行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の多孔性フィルムは、例えば、非常に高いセキュリティーレベルが要求される認証分野での利用に有効である。
【符号の説明】
【0038】
1 高分子フィルム
2 重イオン
3 エッチング薬液
4 多孔性フィルム
5 微細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子フィルムに重イオンを照射した後に、化学エッチングすることにより得られる複数の多孔性フィルムにおいて、
前記複数の多孔性フィルムの各多孔性フィルムにおける複数の孔により形成される多孔パターンが互いに同一であり、且つ、前記複数の孔の配向方向が1方向であることを特徴とする複数の多孔性フィルム。
【請求項2】
高分子フィルムに重イオンを照射した後に、化学エッチングすることにより得られる複数の多孔性フィルムにおいて、
前記複数の多孔性フィルムの各多孔性フィルムにおける複数の孔により形成される多孔パターンが互いに同一であり、且つ、前記複数の孔の配向方向が2方向以上であることを特徴とする複数の多孔性フィルム。
【請求項3】
高分子フィルムに重イオンを照射した後に、化学エッチングする複数の多孔性フィルムの製造方法において、前記高分子フィルムを積層して重イオンを照射することを特徴とする複数の多孔性フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記積層した高分子フィルムに前記重イオンを複数の入射角度から照射することを特徴とする請求項3に記載の複数の多孔性フィルムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図3】
image rotate