説明

複数の崩壊層からなる自然崩壊型硬化体及び土砂の供給方法

【課題】より長期間に亘って好適な藻場の形成並びに土砂の供給を行うための方法並びに構造物を提供する。
【解決手段】少なくとも水硬性硬化体からなる一又は複数の層を有する内側層部3と、当該内側層部3に積層され、水中に載置した後、自然崩壊を起こすことにより土砂形状となり前記内側層部3から脱落し得る自然崩壊型硬化体からなる表層部2とを具備する藻場増殖礁1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川、海域の水辺や水面下に設置され、適当な日数が経過した後、自然に崩壊する自然崩壊型硬化体を利用した土砂の供給方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、護岸、消波、漁礁等に使用されるコンクリート製品である硬化体は、半永久的に硬化体として存続するため、周囲の環境を損ねることがある。
【0003】
例えば、前記硬化体を水中にて使用した場合は、この硬化体表面の付着生物が年数の経過とともに剥がれ、有機物や浮泥が堆積する。そして、当該有機物により酸素消費量が多くなるため水中が貧酸素状態となり、魚貝類等には好ましくない環境となる。
【0004】
一方、河川上流へのダムの建設や護岸の整備により、河川への土砂の供給が少なく、河川域での植物や生物が育成するための堆積土砂が少なくなっており、また海岸でも河川からの土砂の供給が少なく、堆積土砂が少ないため、潮流や波浪により砂が流出し、砂浜の後退や減少を招いている。このために、上記コンクリート製品の硬化体が消波用に使用されている。
【0005】
そのような現状の中で、以下に示すような硬化体や当該硬化体の崩壊方法が提案されている。
【0006】
例えば、モルタルやコンクリートなどのセメント硬化体を化学的手段により短時間でかつ完全に崩壊させる方法として、低濃度(3〜30%)のグリオキサール水溶液をセメント硬化体に接触させることにより崩壊させる方法が提案されている。(例えば、特許文献1参照)
また、ポーラスコンクリートからなるブロックの製造において廃ガラス破砕品を混入しておくことでアルカリシリカ反応を誘発させ、その膨張作用によって当該硬化体であるブロックを崩壊させる。
【0007】
当該ブロックは、海中における藻場を造成するため、アマモなどの海藻類を植栽し海底に沈める。そして、海藻類の地下茎が発達し地盤に十分に付着した後、自然に崩壊させることで、海中の自然環境および漁場環境に悪影響を与えないよう配慮している(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
更に、護岸ブロックなどの自然環境製品も、当該ブロックに植物を植生後、自然に崩壊する製品が求められており、重焼マグネシアを主成分とするセメント固化材を土壌に混和し固化し緩行性膨張作用により崩壊させる方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭53−149210号公報
【特許文献2】特開2002−291359号公報
【特許文献3】特開2005−290172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、これらの方法では、海底に沈めても、一度の自然崩壊により、海中に造成した藻場は消失してしまい、新たに海中における藻場を造成するために、再度、硬化体を海底に沈める必要性が生じる。
【0011】
また他方、上述の通りアルカリ性を呈しているセメント硬化体を水辺や水面下に設置すると、アルカリ性をセメント硬化体の表面には海藻が繁殖し易い傾向にあることが知られている。このような傾向を利用して藻場を形成すべく、セメント硬化体からなる藻場増殖礁がこれまでより種々提案されている。しかしながら、これらの藻場増殖礁を形成するセメント硬化体は、ある期間を経過すれば硬化体の表面からのカルシウムイオン等のアルカリ成分が水中に溶出しなくなり、藻場増殖礁としての効力が低くなることも知られている。また自然崩壊性のセメント硬化体を用いた場合においても、一般に、崩壊前のセメント硬化体には海藻が付着しやすいが、水と反応して崩壊した後は海藻が付着しにくくなる。これは、セメント硬化体のアルカリ性が失われるためと考えられている。
【0012】
本発明は、このような不具合に着目したものであり、より長期間に亘って土砂を供給することを可能としつつ、併せてより長期間に亘って好適に藻場を形成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。すなわち本発明に係る自然崩壊型硬化体は当該内側層部に積層され、水中に載置した後、自然崩壊を起こすことにより土砂形状となり前記内側層部から脱落し得る自然崩壊層からなる表層部とを具備することを特徴とする。
【0014】
このようなものであれば、長期間にわたって自然崩壊が進むことから、有効に土砂の供給期間の制御することができる。その結果、周辺の環境を大きく変化させてしまうことを有効に回避し得た土砂の供給を行うことができる。
【0015】
また本発明に係る自然崩壊型硬化体は、藻場増殖礁として利用することができるものである。
【0016】
このような藻場増殖礁であれば、より長期間にわたって海藻が自生しやすい状態を維持し得るものになる。すなわち表層部のアルカリ性が失われても、内側層部から、新たなアルカリ性の表面が出てくるため、継続的且つ容易に海藻を育成でき、長期間にわたって安定して藻場を増殖し得るものとすることができる。
【0017】
なお、このような複数構造の自然崩壊型硬化体を作製する方法としては、最初に内側層部の中心部分を作製し、表面に外層部を作製することを繰り返す方法などが挙げられる。
【0018】
より長期間にわたって自然崩壊を起こし得るものとするためには、内側層部が複数の自然崩壊層を有するものであり、当該自然崩壊層が、前記表層が自然崩壊を起こした後に当該表層に近接した層から順に自然崩壊を起こすものとすることが望ましい。すなわち表層部から内側層部、さらに内側層部においても内側の層へいくほど崩壊速度が遅い、材料や配合にしておくことが好ましい。また、上述の通り内側層部を構成する層すなわち表層部とともに構成する多層構造を何層にするか、また各層の厚みをいくらにするかを調整することにより、任意の期間にわたり、土砂を供給しつづけることができる。すなわち、より好適な土砂の供給並びにより長期間に亘る藻場の増殖を実現するために、内側層部が全て前記自然崩壊層によって構成しているので、表層部の自然崩壊層が崩壊してから、次の自然崩壊層が水との反応により崩壊することを段階的に繰り返す自然崩壊層をさらに自然崩壊層で覆うことを複数回、中心部分まで繰り返すといった、いわゆる、多層自然崩壊性硬化体を実現し得るものとなる。
【0019】
また上述の通り、前記表層部と内側層部との間、又は前記内側層部における複数の層に自然崩壊を起こす過程で貫通ひび割れが入ると同時期に内側層部或いは内側層部のより内側の層も崩壊してしまうということが考えられる。このような不具合をより有効に解消するためには、前記表層部又は前記内側層部の層が自然崩壊を起こす際に発生するひび割れが内側に位置付けた層に伝わることを禁止するひび割れ遮断層を介在させておくことが望ましい。このときひび割れ遮断層の一例としてはまず、層と層の間に砂利を挿入する態様を挙げることができる。すなわち層と層とを接着する接着強度が高すぎると、外側に位置する層がひび割れる際に内側に位置付けた層も追随してひび割れてしまい、複数の層が同時に自然崩壊してしまう可能性がある。このような現象の防止方法として、層と層との間に砂利を充填しておくなど、層と層との付着強度をできるだけ弱くしておくことが好ましい。また砂利を充填する態様の他に付着強度を弱くするために、層と層との間に石膏を介在させる態様も考えられる。さらに外側の層が自然崩壊を起こした時のひび割れの影響を内側の層へ及ぼさなくするための態様として、内側の層の表面に予め酸処理を施しておき、表面の強度を脆くしておく態様や、層と層とを接着させずに分断しておき、単に機械的に嵌め込んでおくという態様も挙げることができる。
【0020】
そして任意の時期に自然崩壊を起こさせたり、上記の通り、内側の層へいくほど崩壊速度が遅い、材料や配合にしておくことで、より長期間にわたって自然崩壊をおこなわせたりするためには、表層部又は内側層部に用いる自然崩壊型硬化体を以下の3つに分類されるものを使い分けることにより、より自然崩壊を起こす時期を任意に調整することが可能となる。
【0021】
すなわち第1に、少なくとも膨張自壊性を有する転炉スラグを備え、当該転炉スラグの膨張自壊性を維持した状態で硬化させたものを用いる態様を挙げることができる。
【0022】
また第2に、2質量部以上25質量部未満のアルミナセメント質量に対し、ポルトランドセメント及び/又はエコセメントの質量は2倍以上、且つ、無水換算した石膏の質量は1.5倍以上であるセメント組成物と水とを混合して硬化させたものを用いる態様を挙げることができる。
【0023】
そして第3に、水硬性結合材とカルシアクリンカー及び/又はカルシアクリンカー粉砕物とを有するセメント組成物、及び水を混合して、カルシアクリンカー及び/又はカルシアクリンカー粉砕物の自己崩壊性を維持した状態で硬化させたものを用いる態様を挙げることができる。
【0024】
そして、上述した自然崩壊型硬化体を用いて周囲の環境の変化を有効に抑制しながら土砂を供給し得る本発明に係る土砂の供給方法は、自然崩壊型硬化体を河川や海の水辺や水面下に設置する設置工程と、前記設置工程により設置した自然崩壊型硬化体が、河川や海の水にて土砂形状となるまで崩壊する崩壊工程と、前記崩壊工程により崩壊した土砂形状の前記自然崩壊層が、河川や海の中に浸水する浸水工程とを有することを特徴とする。
【0025】
斯かる土砂の供給方法を採用することにより、特別な作業を行うことなく土砂不足の河川や海に対して土砂の好適に供給することができる上、表層から自然崩壊をおこなせることによって、より長期間にわたって徐々に土砂の供給を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の自然崩壊型硬化体によれば、長期間にわたって自然崩壊が進むことから大きくpHを上昇させてしまうことを有効に回避して、土砂の供給期間の制御することができる。その結果、周辺の環境を大きく変化させてしまうことを有効に回避し得た土砂の供給を行うことができる。
【0027】
また前記自然崩壊型硬化体を藻場増殖礁として利用することによって、より長期間にわたって海藻が自生しやすい状態を維持し得るものになる。すなわち表層のアルカリ性が失われても、内側層部から、新たなアルカリ性の表面が出てくるため、継続的且つ容易に海藻を育成でき、長期間にわたって安定して藻場を増殖し得るものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る自然崩壊型硬化体を藻場増殖礁として利用した一例を示す模式的な外観図。
【図2】同自然崩壊型硬化体を示す外観図。
【図3】同自然崩壊型硬化体の構成説明図。
【図4】同自然崩壊型硬化体のひび割れ遮断層の一例として要部を示す図。
【図5】ひび割れ遮断層の他の例を説明するために要部を示す図。
【図6】ひび割れ遮断層のさらに他の例を説明するための要部を示す図。
【図7】ひび割れ遮断層に係る作用説明図。
【図8】同自然崩壊型硬化体に防水層を適用した一例を説明する図。
【図9】同防水層を適用した他の例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
【0030】
図1は、本実施形態に係る自然崩壊型硬化体たる藻場増殖礁1を河川や海の水辺や水面下に設置することによって藻場を増殖しつつ、当該藻場増殖礁1を本発明に係る自然崩壊型硬化体により構成することによって、土砂の供給をも行い得るものとしている。
【0031】
すなわち、本実施形態では、図1に示すように藻場増殖礁1を設置する設置工程と、設置工程により設置した藻場増殖礁1が、海の水にて土砂形状となるまで崩壊する崩壊工程と、前記崩壊工程により崩壊した土砂形状の前記藻場増殖礁1が、河川や海の中に浸水する浸水工程とを経ることによって、後述の藻場増殖礁1自体の構成によって、従来よりも長期間にわたって海中に土砂を供給し得る土砂の供給方法をも実現しているものである。
【0032】
ここで、本実施形態に係る藻場増殖礁1は、図2及び図3に示すように、少なくとも水硬性硬化体からなる一又は複数の層を有する内側層部3と、当該内側層部3に積層され、水中に載置した後、自然崩壊を起こすことにより土砂形状となり前記内側層部3から脱落し得る自然崩壊型硬化体からなる表層部2とを具備することを特徴とするものである。
【0033】
以下、本発明に係る自然崩壊型硬化体たる藻場増殖礁1の構成について、図2乃至図9を用いて詳述する。
【0034】
藻場増殖礁1は、図2に示すように、上述の通り外側に位置する表層部2と、上面並びに側面が表層部2に覆われた内側層部3とを有している。
【0035】
表層部2は、後述する何れかの自然崩壊型硬化体からなるものであり、自然崩壊を起こすまでは、外側に露出した表面2aに藻類を付着させるものとしている。そして表層部2が自然崩壊する際には表層部2自体の膨張が起こるが、斯かる膨張が内側層部3を圧迫することを回避するために、表面2aのうち、内側層部3に面した側面に勾配2bを形成して、膨張した表層部2は上方へ迫り上がるように構成している。
【0036】
内側層部3は、図2及び図3に示すように、表層部2の内側に位置し、それぞれ自然崩壊型硬化体からなる中間層31と中心層32とを有するものである。
【0037】
中間層31は、表面31aのうち外側及び内側の側面に、勾配31bをそれぞれ形成している。そして外側に形成された勾配31bは、上述の通り表層部2が膨張したときに表層部2を上方へ迫り上がらせるためのものであり、内側の勾配31bは、中間層31自体が自然崩壊を起こした際の膨張時に中心層32から上方へ迫り上がるためのものである。
【0038】
なお本実施形態では内側層部3を2層構造とすることにより、藻場増殖礁1を表層部2と合わせた計3層の構造としているが、勿論、内側層部3は単層のものであっても、逆に3層以上の構造としても良い。
【0039】
そして本実施形態では、表層部2又は内側層部3に用いる自然崩壊型硬化体を以下の3つに分類されるものをさらに使い分けることによって、表層部2、中間層31、中心層32の順、すなわち内側の層へいくほど崩壊速度が遅い材料や配合にして、より長期間にわたって自然崩壊を行わせ得るものとしている。
【0040】
(1)少なくとも膨張自壊性を有する転炉スラグを備え、当該転炉スラグの膨張自壊性を維持した状態で硬化させたもの。
【0041】
(2)2質量部以上25質量部未満のアルミナセメント質量に対し、ポルトランドセメント及び/又はエコセメントの質量は2倍以上、且つ、無水換算した石膏の質量は1.5倍以上であるセメント組成物と水とを混合して硬化させたもの。
【0042】
(3)水硬性結合材とカルシアクリンカー及び/又はカルシアクリンカー粉砕物とを有するセメント組成物、及び水を混合して、カルシアクリンカー及び/又はカルシアクリンカー粉砕物の自己崩壊性を維持した状態で硬化させたもの。
【0043】
そして図3に示すように、藻場増殖礁1は、例えば内側層部3に補強材6を含ませた構成としてもよい。そして藻場増殖礁1全体を自然崩壊させることを鑑みて、本実施形態では、一例として生分解性プラスチックを補強材6として用いている。
【0044】
しかして本実施形態では、図2及び図3に示すように、表層部2と中間層31との間、中間層31と中心層32との間に、自然崩壊を起こす際に発生する膨張や貫通ひび割れが内側に伝わることを禁止するひび割れ遮断層4を介在させている。
【0045】
本実施形態では当該ひび割れ遮断層4の具体的な構成として、表層部2と中間層31とを模式的に拡大して示す図4乃至図7において、4つの態様を示すものとする。
【0046】
図4及び図5は、ひび割れ遮断層4として、表層部2と中間層31との間の接着を予め弱めておくための低接着層4を構成するための態様を示している。
【0047】
図4は、中間層31が硬化した後に土砂を充填した上で、表層部2を打設した土砂充填部41を示している。このようなものであれば、表層部2と中間層31との接着面積が小さくなることにより、低接着となる状態を実現できる。
【0048】
また図5は、表層部2と中間層31との間に石膏を充填させた石膏充填部42としている。このようなものであれば、藻場増殖礁1を打設した際には石膏か表層部2と中間層31とに十分な強度をもって接着するため、設置作業は通常のコンクリート構造物と同様に実施し得るが、しかる後に石膏が水中に溶出するために、結果的に表層部2と中間層31との接着強度を弱めることができる。
【0049】
図6は、ひび割れ遮断層4として、表層部2と中間層31とを接着した箇所の強度を予め弱めておいた低強度層4を構成するための酸処理部43を示している。すなわち同図に模式的に示している酸処理部43とは、中間層31を硬化させた後に、表面31aに酸処理を行うことによって、表面31aの強度を低下させた後、表層部2を打設することにより表層部2と中間層31との接着した箇所の強度を低下させたものである。
【0050】
図7(a)及び図7(b)は、ひび割れ遮断層4として、表層部2、中間層31、中心層32の間を、何ら接着を行わず、機械的に嵌め合わせた分断部44を示している。このような分断部44であれば、嵌め合わせた表層部2、中間層31、中心層32が1つの藻場増殖礁1として機能しているが、同図(b)に示すように、表層部2の自然崩壊が先ず始まっても表層部2は勾配2b、31bにより上方へ迫り上がるため、このとき中間層31は分断されている表層部2からは貫通ひび割れの影響も受けず、表層部2の膨張による圧迫も受けずに、表層部2の自然崩壊後、中間層31が自然崩壊すべき所定の時期に自然崩壊し得るものとなっている。また中間層31が自然崩壊する際も同様に、中心層32はその影響を受けることはない。また本実施形態では図示しないが、表層部2、中間層31、中心層32をそれぞれ機械的に嵌め合わせておく同図の態様の他に別体の構造体によって位置決めしておく態様としてもよい。
【0051】
さらに、図8及び図9に示すように、表層部2、中間層31、中心層32の間を防水するための、例えば生分解性プラスチックからなる防水層5を設けておくことによって、それぞれの自然崩壊の開始時期をずらすことが可能である。具体的には当該防水層5により、中間層31や中心層32が設置時よりも遅い時期に自然崩壊を開始させることにより、より長期間に亘っての藻場の増殖並びに土砂の供給を行わせることも可能である。図8及び図9は、中間層31と中心層32とを、それぞれ、例えば生分解性プラスチックからなる防水層で完全に覆って防水した態様を示しているが、特に図9は、表層部2、中間層31、中心層32をそれぞれ同じ材料や配合として、同じ時期に自然崩壊を起こし得る自然崩壊型硬化体を採用した態様を示している。このようなものであっても、防水層5の存在によって自然崩壊の開始時期がそれぞれ異なるため、より長期間にわたって自然崩壊を起こし得るものとなっている。
【0052】
以上のような構成とすることにより、本実施形態に係る自然崩壊型硬化体たる藻場増殖礁1は、海中に設置する設置工程の後、すなわち表層部2のアルカリ性が失われても、内側層部3すなわち中間層31から、新たなアルカリ性の表面31aが露出し、さらに中間層31が自然崩壊すれば、同じくアルカリ性である中心層32の表面32aが出てくるため、継続的且つ容易に海藻を育成でき、長期間にわたって安定して藻場を増殖し得るものとなっている。しかも、自然崩壊が徐々に起こることから周辺の海水のpHを上昇させてしまうことを有効に回避し得た土砂の供給をも行い得るものとなっている。
【0053】
特に本実施形態で開示したひび割れ遮断層4を設けることにより、自然崩壊を起こす過程で貫通ひび割れが入ると同時期に、より内側の層も崩壊してしまうという不具合をより有効に解消し得るものとなっている。
【0054】
また他方、本実施形態で開示した防水層5を設けることにより、内側の層が水が触れる時期を遅らせることで自然崩壊する時期を調整し、例えば図9のように同質の自然崩壊型硬化体を用いたとしても表層部2、中間層31、中心層32の順で自然崩壊そのものを開始することとなるため、より長期間にわたって自然崩壊を起こし得るものとなっている。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0056】
例えば、上記実施形態では表層並びに内側層部を構成する各層は単一の成分並びに配合によって打設された硬化体を適用した態様を開示したが、勿論、同じ層において崩壊時期をそれぞれ異ならせた複数種類の自然崩壊型硬化体を採用したものであってもよい。
【0057】
また上記実施形態では上述した3つのタイプの自然崩壊型硬化体によって開示したが、本発明は、例えば本件明細書の背景技術に記載したものを含む、従来からある自然崩壊型硬化体をも、広く適用することが可能である。
【0058】
自然崩壊型硬化体を、廃コンクリート殻、廃貝殻、廃瓦、廃ガラス、廃陶磁器、廃タイル、廃レンガから選ばれる少なくとも一種又は二種以上を混合してなる骨材をさらに含んだものとして、藻場増殖礁が自然崩壊し土砂形状となった後、これらの廃材を再びコンクリートの骨材として再利用する態様としてもよい。
【0059】
また藻場増殖礁すなわち自然崩壊型硬化体の具体的な形状や表層部や他の層を構成する自然崩壊型硬化体の具体的な態様は上記実施形態のものに限定されることはなく、既存のものを含め、種々の態様のものを適用することができる。
【0060】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0061】
1…自然崩壊型硬化体(藻場増殖礁)
2…表層部
3…内側層部
31…層、自然崩壊層(中間層)
32…層、自然崩壊層(中心層)
4…ひび割れ遮断層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水硬性硬化体からなる一又は複数の層を有する内側層部と
当該内側層部に積層され、水中に載置した後、自然崩壊を起こすことにより土砂形状となり前記内側層部から脱落し得る自然崩壊層からなる表層部とを具備することを特徴とする自然崩壊型硬化体。
【請求項2】
前記内側層部が少なくとも水硬性硬化体からなる複数の自然崩壊層を有するものであり、
当該自然崩壊層が、前記表層部が自然崩壊を起こした後に当該表層部に近接した層から順に自然崩壊を起こすものである請求項1記載の自然崩壊型硬化体。
【請求項3】
前記表層部と内側層部との間、又は前記内側層部における複数の層間に、前記表層部又は前記内側層部の層が自然崩壊を起こす際に発生するひび割れが内側に位置付けた層に伝わることを禁止するひび割れ遮断層を介在させている請求項1又は2記載の自然崩壊型硬化体。
【請求項4】
前記表層部又は前記内側層部を構成する前記自然崩壊層が、少なくとも膨張自壊性を有する転炉スラグを備え、当該転炉スラグの膨張自壊性を維持した状態で硬化させたものであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の自然崩壊型硬化体。
【請求項5】
前記表層部又は前記内側層部を構成する前記自然崩壊層が、2質量部以上25質量部未満のアルミナセメント質量に対し、ポルトランドセメント及び/又はエコセメントの質量は2倍以上、且つ、無水換算した石膏の質量は1.5倍以上であるセメント組成物と水とを混合して硬化させたものであることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の自然崩壊型硬化体。
【請求項6】
前記表層部又は前記内側層部を構成する前記自然崩壊層が、水硬性結合材とカルシアクリンカー及び/又はカルシアクリンカー粉砕物とを有するセメント組成物、及び水を混合して、カルシアクリンカー及び/又はカルシアクリンカー粉砕物の自己崩壊性を維持した状態で硬化させたものであることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の自然崩壊型硬化体。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の自然崩壊型硬化体を河川や海の水辺や水面下に設置する設置工程と、前記設置工程により設置した自然崩壊型硬化体を構成する自然崩壊層が、河川や海の水にて土砂形状となるまで崩壊する崩壊工程と、前記崩壊工程により崩壊した土砂形状の前記自然崩壊層が、河川や海の中に浸水する浸水工程とを有することを特徴とする土砂の供給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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