説明

複数の構造部材からなる組付体及び構造部材又は締結部材の製造方法

【課題】所定の構造部材に、締結部材による締付応力に起因して生じるウィスカーの成長を抑制し、隣接する他の構造部材のウィスカーとの接触を防止して短絡を防ぐことができる、複数の構造部材からなる組付体及び構造部材又は締結部材の製造方法を提供する。
【解決手段】この組立体10は、複数の構造部材20,30が互いに接触して、締結部材50を介して組付けられてなり、構造部材20,30どうしの接触部C1の周縁、或いは、構造部材20,30と締結部材50との接触部C2,C3の周縁に、少なくとも一方の部材に設けた段差部27,37,52,56により、隙間を介して対向する内面が設けられており、隙間を介して対向する内面の少なくとも一方に、相手部材よりも標準電極電位の高い金属膜28,38,53,57が、相手部材に接触しないように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプリント配線基板等の構造部材を、ボルト等の締結部材により複数組付けてなる、ウィスカーの影響のない組付体、及び、それに用いられる構造部材又は締結部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のプリント配線基板どうしや、所定の基板に他の電気・電子部品を、ボルトやナット等の締結部材を介して組付ける場合がある。
【0003】
例えば、図5(a)に示すように、基板21の両面にめっき層22,23が被覆された構造部材20と、同じく基板31の両面にめっき層32,33が被覆された構造部材30とを重ね合わせて互いに接触させ、ボルト51及びこれに螺着するナット55からなる締結部材50を介して組付けることが行われている。すなわち、一方の構造部材20の表面側にボルト51の頭部を係合させ、他方の構造部材30の裏面側にナット55を係合させて、構造部材20,30どうしを締付け固定している。
【0004】
上記のように、構造部材20,30を締結部材50で締付け固定すると、構造部材20,30どうしの接触部C1や、構造部材20と締結部材50との接触部C2,C3に、強い応力が作用する。このとき、その応力を緩和すべく、ウィスカー(図5中、符号Wで示す)と呼ばれる鬚状の結晶が発生する場合がある。特にSnめっき等が施されている場合に、ウィスカーWが顕著に発生することが知られている。
【0005】
このようなウィスカーWが発生すると、次のような問題が生じる。すなわち、図5(b)に示すように、所定の構造部材20から生じたウィスカーWが、隣り合う他の構造部材20やそれに発生した別のウィスカーWに接触して、電気的に短絡してしまうことがあった。
【0006】
上記のようなウィスカー発生による問題を解決するため、下記特許文献1には、純錫又は錫合金のめっき層が形成された銅或いは銅合金配線が熱処理されることにより、銅或いは銅合金配線上に銅および錫を含む金属間化合物拡散層が形成され、かつ前記純錫又は錫合金のめっき層の残存厚さが0.2〜1.6μmとされたフレキシブルプリント配線基板端子部が開示されている。
【0007】
また、下記特許文献2には、外部接続用リードの表面にSnを含むめっき膜を形成する工程と、前記めっき膜を溶融する熱処理工程とを有し、前記熱処理工程は、前記めっき膜の融点以上の温度を20秒以上保持する半導体装置の製造方法が開示されている。
【0008】
更に、下記特許文献3には、単一金属または合金からなる蓋体本体全面に、融点が700℃以下で、かつ銅を主成分とする銅合金めっき被膜が、厚みで2〜6μm形成されてなる電子部品パッケージ封止用蓋体が開示されている。
【0009】
また、下記特許文献4には、導電性基体上の全面または部分にSn層を形成し、そのSn層上にSn合金層を形成してなる端子であって、前記Sn層は、電気めっきにより形成される厚み0.1〜20μmのSnからなる層であり、前記Sn合金層は、電気めっきにより形成される厚み0.1〜20μmの、Sn−Ag二元合金、Sn−Ag−Cu三元合金、またはSn−Ag−Cu−Bi四元合金のいずれかからなる層である端子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−45665号公報
【特許文献2】特開2007−81235号公報
【特許文献3】特開2004−55580号公報
【特許文献4】特開2005−232484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1の場合、金属間化合物層とめっき層との厚さを適当な範囲に調整することにより、ウィスカーの発生を抑制するようにしているが、ボルト・ナット等の締結部材による応力を考慮したものではない。
【0012】
また、上記特許文献2の場合、所定の熱処理を施すことにより、ウィスカー長を低減させる構成としているが、上記特許文献1と同様、締結部材による応力を何ら考慮していない。
【0013】
更に、上記特許文献3の場合、めっき層の融点及び厚さを適当な範囲とすることにより、ウィスカーの発生を抑制するようにしているが、これも上記特許文献1,2と同様、締結部材による応力を何ら考慮していない。
【0014】
また、上記特許文献4の場合、所定厚さのSn層を形成すると共に、そのSn層上に、2〜4元の所定厚さのSn系合金を形成することにより、ウィスカーの発生を抑制しているが、上記特許文献1〜3と同様、締結部材による応力を何ら考慮していない。
【0015】
以上のように、上記特許文献1〜4では、種々の構造・方法により、ウィスカーの発生抑制を図っているが、いずれも基板等の構造部材を組立てた後の、締結部材による外部応力を何ら考慮しているものではなく、締結部材による締付応力が大きい場合に、ウィスカーが発生することを抑制することはできず、一旦、発生したウィスカーの成長を抑制することもできないので、他の構造部材から生じたウィスカーとの接触による短絡を防止することができないというデメリットがある。
【0016】
したがって、本発明の目的は、所定の構造部材に、締結部材による締付応力に起因して生じるウィスカーの成長を抑制し、隣接する他の構造部材のウィスカーとの接触を防止して短絡を防ぐことができる、複数の構造部材からなる組付体及び構造部材又は締結部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明の複数の構造部材からなる組立体は、複数の構造部材が互いに接触して、締結部材を介して組付けられてなり、前記構造部材どうしの接触部の周縁、或いは、前記構造部材と前記締結部材との接触部の周縁に、少なくとも一方の部材に設けた段差部により、隙間を介して対向する内面が設けられており、前記隙間を介して対向する内面の少なくとも一方に、相手部材よりも標準電極電位の高い金属膜が、相手部材に接触しないように形成されていることを特徴とする。
【0018】
上記発明によれば、締結部材の締付応力により接触部周縁の、一方の内面から発生したウィスカーが他方の内面に接触すると、ウィスカーが一方の部材の金属膜及び相手部材の両者に接触し、一方の部材の金属膜と相手部材との電位差により局部電池が形成されるので、いわゆるガルバニック腐食により、ウィスカーの腐食が促進されて、ウィスカーを消失させることができる。その後、新たなウィスカーが繰り返し発生しても、上記のようにして消失することとなる。なお、ここで、ガルバニック腐食の進行する条件として、雰囲気中に水分が存在することを前提としている。
【0019】
このように、部材間の接触部に発生したウィスカーを、ガルバニック腐食を利用することにより、適宜消失させることができるので、ウィスカーの成長を効果的に抑制することができる。また、ウィスカーが最大限成長しても、隙間の間隔よりも大きくなることがないので、他の組立体に生じた別のウィスカーに接触することを防止して、短絡を確実に防ぐことができる。
【0020】
本発明のもう一つは、上記発明の組付体に用いられる構造部材又は締結部材の製造方法であって、前記構造部材どうしの接触部の周縁、或いは、前記構造部材と前記締結部材との接触部の周縁に位置する部分に、相手部材との間に隙間を介して対向する内面を有する段差部を形成し、この段差部の前記対向する内面に、相手部材よりも高い標準電極電位を有する金属膜を、相手部材との接触面を避けて形成することを特徴とする。
【0021】
上記発明によれば、構造部材どうしの接触部の周縁、或いは、構造部材と締結部材との接触部の周縁に位置する部分に段差部を形成した後、その対向する内面に、相手部材よりも高い標準電極電位を有する金属膜を、相手部材との接触面を避けて形成することにより、構造部材又は締結部材の所定箇所に金属膜を確実に形成することができる。
【0022】
本発明の構造部材又は締結部材の製造方法においては、前記構造部材又は前記締結部材の前記段差部の対向する内面を、めっき液に浸漬して湿式めっきすることにより、前記金属膜を形成することが好ましい。これによれば、構造部材又は締結部材が合成樹脂等の不導体であっても、それらの所定箇所に金属膜を確実に形成することができる。
【0023】
本発明の構造部材又は締結部材の製造方法においては、前記構造部材又は前記締結部材の前記段差部の対向する内面を、めっき液に浸漬すると共に、同部材のめっき液に浸漬していない部分に通電することにより、電解めっきにより前記金属膜を形成することが好ましい。これによれば、構造部材又は締結部材の金属膜を形成したい箇所だけに、無駄なく金属膜を形成することができ、製造コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0024】
上記発明によれば、締結部材の締付応力により接触部周縁の、一方の内面から発生したウィスカーが他方の内面に接触すると、ウィスカーが一方の部材側の金属膜及び相手部材の両者に接触し、相手部材と金属膜との電位差により局部電池が形成されるので、ガルバニック腐食により、ウィスカーの腐食が促進されて消失させることができ、その結果、ウィスカーの成長を効果的に抑制して、他の組立体のウィスカーへの接触を防止して、短絡を確実に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る複数の構造部材の組付体の一実施形態を示す断面図である。
【図2】同組付体によるウィスカー抑制工程を示し、(a)は第1工程における要部拡大説明図、(b)は第2工程における要部拡大説明図、(c)は第3工程における要部拡大説明図である。
【図3】本発明に係る構造部材又は締結部材の製造方法の一実施形態を示し、(a)はその製造方法の説明図、(b)は同製造方法により製造された締結部材の断面図である。
【図4】本発明に係る構造部材又は締結部材の製造方法の他の実施形態を示し、(a)はその製造方法の説明図、(b)は同製造方法により製造された締結部材の断面図である。
【図5】従来の、複数の構造部材の組付体の一実施形態を示すており、(a)はその断面図、(b)は複数の組付体が並列配置された状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明に係る複数の構造部材からなる組付体、及び、構造部材又は締結部材の製造方法の一実施形態について説明する。
【0027】
図1に示すように、この実施形態における複数の構造部材からなる組付体10(以下、「組付体10」という)は、複数の構造部材が互いに接触して、締結部材50を介して組付けられて構成されている。
【0028】
この実施形態の組立体10は、積層された2枚の構造部材20,30を有している。構造部材20は、薄肉板状の基板21と、その両面に被覆されためっき層22,23とから構成された平板状をなしている。同様に構造部材30も、薄肉板状の基板31と、その両面に被覆されためっき層32,33とから構成された平板状をなしている。各構造部材20,30には、下記ボルト51を挿通するためのボルト挿通孔25,35がそれぞれ形成されている。
【0029】
また、各めっき層は、例えばSn,Znや、それらの合金から形成されている。
【0030】
なお、この実施形態では、平板状の構造部材を2枚積層した構造となっているが、2枚以上の複数枚でもよく、特に限定されない。また、構造部材としては、コネクタや、端子、スイッチ、抵抗、ケーブル、半導体製品、太陽電池等としてもよく、更に、所定の回路パターンがパターンニングされたプリント配線基板や、可撓性のフレキシブル配線基板等としてもよく、特に限定されるものではない。
【0031】
一方、前記締結部材50は、軸外周に雄ネジが螺刻されたボルト51、及び、内周に雌ネジが螺刻され、前記ボルト51に螺着されるナット55とからなる。なお、ボルト51,ナット55の材質としては例えば鉄やステンレスが用いられる。ただし、リベットや、止めピン、クリップ、その他の工業用ファスナー等を締結部材としてもよく、ボルト・ナットに限定されるものではない。
【0032】
2枚の平板状の構造部材20,30は、ボルト挿通孔25,35を整合させた状態で、互いに接触させて重ねて配置される。このときの構造部材20,30どうしが接触した部分を接触部C1とする(図1参照)。
【0033】
また、各ボルト挿通孔25,35にボルト51を挿通し、構造部材20の表面側にボルト51の頭部を係合させると共に、ボルト挿通孔35から挿出したボルト51の軸先端にナット55を螺着させ、構造部材30の裏面側にナット55を係合させる。その結果、ボルト51及びナット55により、両構造部材20,30が挟み込まれて締付固定され、図1に示すような組立体10が組立てられるようになっている。このときの、構造部材20,30どうしが接触した部分を接触部C1とし、構造部材20と締結部材50のボルト51とが接触した部分を接触部C2とし、構造部材30と締結部材50のナット55とが接触した部分を接触部C3とする(図1参照)。
【0034】
そして、この組立体10においては、構造部材20,30どうしの接触部C1の周縁、或いは、構造部材20,30と締結部材50との接触部C2,C3の周縁に、少なくとも一方の部材に設けた段差部により、隙間を介して対向する内面が設けられている。
【0035】
図1に示すように、構造部材20,30どうしの接触部C1の一方の周縁(図中右側)には、構造部材20に段差部27が形成され、隙間を介して対向する内面27a,32aが設けられている。一方、接触部C1の他方の周縁(図中左側)には、構造部材30に段差部37が形成され、隙間を介して対向する内面23a,37aが設けられている。
【0036】
また、構造部材20とボルト51頭部との接触部C2の周縁には、ボルト51の頭部側に段差部52が形成され、隙間を介して対向する内面22a,52aが設けられている。一方、構造部材30とナット55との接触部C3の周縁には、ナット55側に段差部56が形成され、隙間を介して対向する内面33a,56aが設けられている。
【0037】
以上のような隙間を介して対向する内面の少なくとも一方に、相手部材よりも標準電極電位の高い金属膜が、相手部材に接触しないように形成されている。
【0038】
この実施形態では、接触部C1周縁の内面27a,32aにおいては、構造部材20側の内面27aに、構造部材30のめっき層32よりも標準電極電位の高い金属膜28が、前記めっき層32に接触しないように形成されている。
【0039】
また、接触部C1周縁の内面23a,37aにおいては、構造部材30側の内面37aに、構造部材20のめっき層23よりも標準電極電位の高い金属膜38が、前記めっき層23に接触しないように形成されている。
【0040】
更に、接触部C2周縁の内面22a,52aにおいては、締結部材50であるボルト51側の内面52aに、構造部材20のめっき層22よりも標準電極電位の高い金属膜53が、前記めっき層22に接触しないように形成されている。なお、この実施形態では、ボルト51の頭部外周の、前記構造部材20に接触する部分の周縁を除く全範囲に亘って、上記金属膜53が被覆されている。
【0041】
また、接触部C3周縁の内面33a,56aにおいては、締結部材50であるナット55側の内面56aに、構造部材30のめっき層33よりも標準電極電位の高い金属膜57が、前記めっき層33に接触しないように形成されている。なお、この実施形態では、ナット55外周の、前記構造部材30に接触する部分の周縁を除く全範囲に亘って、上記金属膜57が被覆されている。
【0042】
なお、相手部材(めっき層32(接触部C1右側),23(接触部C1左側),22(接触部C2),33(接触部C3))よりも標準電極電位の高い金属膜28(接触部C1右側),38(接触部C1左側),53(接触部C2),57(接触部C3)は、基本的に発生するウィスカーの材質(SnやZn)との標準電極電位の差が大きいほど好ましい。そして、例えばSn自体の標準電極電位はH(水素)に近い。このため、相手部材よりも標準電極電位の高い金属膜28,38,53,57は、H(水素)より標準電極電位の高い、例えば、Au,Pt,Ag,Pd,Cu等の、いわゆる貴な金属や、それらの合金から形成することができる。
【0043】
なお、標準電極電位とは、ある電気化学反応について、標準状態かつ平衡状態となっているときの電極電位を意味し、標準水素電極の電位を基準(0ボルト)として表わされるものである。
【0044】
また、金属層の標準電極電位は、0Vより高いことが好ましい。更に、金属膜の標準電極電位と、相手部材の標準電極電位との差は、大きければ大きいほど好ましいが、少なくとも0.2V以上であることが好ましい。
【0045】
なお、この実施形態における組立体10は、2枚の構造部材20,30をボルト51・ナット55からなる締結部材50により組付けたことにより、構造部材どうしの接触部が1箇所、構造部材と締結部材との接触部が2箇所となっているが、これに限定されるものではなく、接触部、段差部、対向する内面の位置や個数は適宜定めることができる。
【0046】
上記構造からなる組立体10は、次のような作用効果を発揮する。図2を併せて説明する。なお、図2(a)〜(c)には、図1の要部(2点鎖線の円で囲った部分)拡大説明図が示されている。
【0047】
図1に示すように構造部材20,30どうしは締結部材50により締付け固定されているので、各接触部C1,C2,C3に締付応力が作用し、それに起因して鬚状のウィスカーWが発生する。
【0048】
ここでは、締結部材50からの締付応力が作用する各接触部の周縁近傍に位置する、めっき層32(接触部C1右側),23(接触部C1左側),22(接触部C2),33(接触部C3)に形成された各内面32a,23a,22a,33aから、ウィスカーWがそれぞれ発生する。すなわち、図2(a)に示すように、めっき層22に形成された内面22aから、ウィスカーWが発生し、鬚状に成長していく。
【0049】
なお、上記各内面32a,23a,22a,33aに対向する、内面27a,37a,52a,56aには、段差部27,37,52,56を介して接触部との間に隙間が形成されているので、締付応力による影響がほとんどなく、ウィスカーWは発生しにくい。
【0050】
そして、ウィスカーWが成長していくと、図2(b)に示すように、めっき層22よりも標準電極電位の高い金属膜53に接触する。すると、構造部材20のめっき層22から生成されたウィスカーWがボルト51側の金属膜53に接触した状態となり、めっき層22と金属膜53との電位差により局部電池が形成される。その結果、いわゆるガルバニック腐食により、金属膜53よりも標準電極電位の低いめっき層22から生成されたウィスカーW(すなわち、イオン化傾向の大きい卑な金属の性質を有する)の腐食が促進されて、図2(c)の想像線で示すように、ウィスカーWを消失させることができる。図2(c)に示すように、その後、新たなウィスカーWが繰り返し発生しても、上記のようにして消失する。また、他の接触部C1,C3で発生したウィスカーWも、上記のように消失させることができる。
【0051】
なお、ガルバニック腐食とは、標準電極電位が低くイオン化傾向の大きい卑な金属と、標準電極電位が高くイオン化傾向の小さい貴な金属とが接触した場合に、両者の電位差により局部電池が形成されて、貴な金属から卑な金属へ電流が流れ、卑な金属がイオン化して、卑な金属の腐食が促進される現象をいう。
【0052】
以上のように、構造部材20,30どうしの接触部C1、構造部材20と締結部材50であるボルト51との接触部C2、構造部材30と締結部材50であるナット55との接触部C3に、それぞれ発生したウィスカーWを、ガルバニック腐食を利用することにより、適宜消失させることができるので、ウィスカーWの成長を効果的に抑制することができる。また、ウィスカーWが最大限成長しても、その都度、ガルバニック腐食による消失させられ、ウィスカーWが、部材間どうしの隙間の間隔よりも大きくなることがないので、他の組立体に生じた別のウィスカーWに接触することを防止して、短絡を確実に防ぐことができる。
【0053】
次に、上記構造からなる組立体に用いられる、本発明に係る構造部材又は締結部材の製造方法(以下、「製造方法」という)について説明する。
【0054】
この製造方法は、まず、構造部材どうしの接触部の周縁、或いは、構造部材と締結部材との接触部の周縁に位置する部分に、相手部材との間に隙間を介して対向する内面を有する段差部を形成し、その後、この段差部の対向する内面に、相手部材よりも高い標準電極電位を有する金属膜を、相手部材との接触面を避けて形成するものである。
【0055】
図3(a),(b)には、その製造方法の一実施形態が示されている。この実施形態では、締結部材50を製造するようになっている。
【0056】
まず、締結部材50であるボルト51の、頭部の下面側外周に、切削加工等によって、所定深さの段差部52を形成する。
【0057】
そして、金属膜53を成膜可能な所定成分のめっき液Mが所定量貯留されためっき槽1内に、前記ボルト51の頭部を所定深さ漬けて、相手部材に対向する内面52aをめっき液Mに浸漬させる一方、相手部材との接触面52bには至らない程度に浸漬させておく(図3(a)参照)。
【0058】
その状態で、めっき液M中に浸漬された一対のアノード3,3に導通した電源5を、めっき液Mに浸漬されていないボルト51の軸部に接続し、電源5により通電して電解めっきを施すことにより、図3(b)に示すように、ボルト51の頭部外周の、隙間を除く全範囲に亘って、かつ、相手部材との接触面52bに至らないように、金属膜53を形成することができる。
【0059】
これによれば、ボルト51の金属膜53を形成したい箇所だけに、無駄なく金属膜53を形成することができ、製造コストを低減することができる。
【0060】
図4には、本発明に係る構造部材又は締結部材の製造方法の他の実施形態が示されている。
【0061】
この実施形態でも、前記実施形態と同様に、まず、締結部材50であるボルト51の、頭部の下面側外周に、切削加工等によって、所定深さの段差部52を形成する。
【0062】
そして、図示しない支持回転装置によって、ボルト51の軸心Cを、めっき槽1内に貯留されためっき液Mの液面と平行となるように配置すると共に、同ボルト51を所定方向に回転可能に支持する(図4(a)参照)。また、軸が水平支持されたボルト51の頭部外周を、相手部材との接触面52bには至らない程度に浸漬させてく。
【0063】
その状態で、めっき液M中に浸漬されたアノード3に導通した電源5を、めっき液Mに浸漬されていないボルト51頭部に接続する。そして、図示しない支持回転装置によりボルト51を所定方向に回転させつつ、電源5により通電して電解めっきを施すことにより、図4(b)に示すように、ボルト51の頭部外周の所定範囲に、相手部材との接触面52bに至らないように、金属膜53を形成することができる。
【0064】
これによれば、ボルト51の頭部外周の金属膜53が必要な箇所に、局所的に金属膜53をムラなく均等に形成することができると共に、図3に示す実施形態よりも更に無駄なく金属膜53を形成でき、製造コストをより一層低減することができる。
【0065】
なお、図3及び図4に示す実施形態においては、共に電解めっきにより金属膜を形成したが、無電解めっき法等の湿式めっきにより金属膜を形成してもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 めっき層
3 アノード
5 電源
10 複数の構造部材からなる組付体(組付体)
20 構造部材
21 基板
22,23 めっき層
22a,23a 内面
25 ボルト挿通孔
27 段差部
27a 内面
28 金属膜
30 構造部材
31 基板
32,33 めっき層
32a,33a 内面
35 ボルト挿通孔
37 段差部
37a 内面
38 金属膜
50 締結部材
51 ボルト
52 段差部
52a 内面
52b 接触面
53 金属膜
55 ナット
56 段差部
56a 内面
57 金属膜
C1 構造部材どうしの接触部
C2 構造部材とボルトとの接触部
C3 構造部材とナットとの接触部
M めっき液
W ウィスカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の構造部材が互いに接触して、締結部材を介して組付けられてなり、
前記構造部材どうしの接触部の周縁、或いは、前記構造部材と前記締結部材との接触部の周縁に、少なくとも一方の部材に設けた段差部により、隙間を介して対向する内面が設けられており、
前記隙間を介して対向する内面の少なくとも一方に、相手部材よりも標準電極電位の高い金属膜が、相手部材に接触しないように形成されていることを特徴とする複数の構造部材からなる組付体。
【請求項2】
請求項1記載の組付体に用いられる構造部材又は締結部材の製造方法であって、
前記構造部材どうしの接触部の周縁、或いは、前記構造部材と前記締結部材との接触部の周縁に位置する部分に、相手部材との間に隙間を介して対向する内面を有する段差部を形成し、
この段差部の前記対向する内面に、相手部材よりも高い標準電極電位を有する金属膜を、相手部材との接触面を避けて形成することを特徴とする構造部材又は締結部材の製造方法。
【請求項3】
前記構造部材又は前記締結部材の前記段差部の対向する内面を、めっき液に浸漬して湿式めっきすることにより、前記金属膜を形成する請求項2記載の構造部材又は締結部材の製造方法。
【請求項4】
前記構造部材又は前記締結部材の前記段差部の対向する内面を、めっき液に浸漬すると共に、同部材のめっき液に浸漬していない部分に通電することにより、電解めっきにより前記金属膜を形成する請求項3記載の複数の構造部材からなる組付体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−2248(P2012−2248A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135658(P2010−135658)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】