説明

複数の標的に対するPI3K相互作用分子の選択性プロファイリング

本発明は、PI3Kを含むタンパク質調製物をフェニルチアゾールリガンド1と共にインキュベートすることによってPI3K相互作用化合物を同定する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PI3Kに対するリガンドとしてフェニルチアゾールリガンド1を用いた、PI3K相互作用分子の同定および特徴付けのための方法およびPI3Kの精製のための方法に関する。さらに、本発明は、例えば、癌、代謝性疾患または自己免疫/炎症性疾患の処置のための前記相互作用分子を含む薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
キナーゼは、タンパク質、脂質、糖質、ヌクレオシドおよび他の細胞代謝物のリン酸化を触媒し、真核細胞の生理機能の全ての局面において重要な役割を果たす。特に、タンパク質キナーゼおよび脂質キナーゼは、増殖因子、サイトカインまたはケモカインなどの細胞外メディエーターまたは刺激に応答して細胞の活性化、増殖、分化および生存を制御するシグナル伝達事象に関与する。一般に、タンパク質キナーゼは、チロシン残基を優先的にリン酸化するグループ、およびセリン残基および/またはトレオニン残基を優先的にリン酸化するグループの2グループに分類される。
【0003】
不適当に高いタンパク質キナーゼ活性は、癌、代謝性疾患および自己免疫/炎症性疾患を含む多くの疾患に関わる。これは、酵素の変異、過剰発現または不適当な活性化による制御機構の機能不全により直接的にまたは間接的にいずれかで引き起こされ得る。これらの例全てにおいて、キナーゼの選択的な抑制が有益な効果を有すると期待される。
【0004】
創薬の最近の焦点となっている脂質キナーゼの1つのグループは、ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)ファミリーである。PI3Kファミリーのメンバーは、ATPから、まとめてホスホイノシチドと呼ばれるホスファチジルイノシトールおよびその誘導体の3'-ヒドロキシル基へのγ-ホスフェートの転移を触媒する脂質キナーゼである。これまでPI3Kファミリーの8つのメンバー(アイソフォーム)が、哺乳動物の細胞から単離され、それらの一次構造および基質特異性によって3つのクラスに分類されている(クラスIA: PI3Kα、β、およびδ; クラスIB: PI3Kγ; クラスII: PI3KC2α、β、およびγ; クラスIII: Vps34酵母ホモログ)(Fruman et al., 1998. Phosphoinositide kinases. Annual Review Biochemistry 67, 481-507(非特許文献1); Cantley, L.C., 2002, Science 296, 1655-1657(非特許文献2))。
【0005】
哺乳動物の細胞は、PI3K IAクラスの触媒サブユニットの3つのアイソフォーム(p110α、p110β、およびp110δ、別名「PI3Kδ」)を発現することが知られている。クラスIBは、p110γまたはPI3Kγと名付けられている1つのメンバー(触媒サブユニット)のみを含む。PI3Kγはまた、その脂質キナーゼ活性に加え、自己リン酸化によって示されるセリン/トレオニンタンパク質キナーゼ活性も示す。
【0006】
PI3KγまたはPI3Kδをコードする遺伝子を欠失させた遺伝的に操作されたマウスの研究は、これらのキナーゼの生理機能および薬物標的としてのその潜在的有用性に関する重要な情報を提供する。PI3KγまたはPI3Kδを欠くマウスは、生存可能であり、かついくつかの潜在的な治療適応を示唆する特徴的な表現型を示す。PI3Kγは、自然免疫系の主要なメディエーターであるようにみえる。例えば、PI3Kγ欠損マクロファージおよび好中性顆粒球(neutrophilic granulocyte)は、炎症した腹膜に浸潤する能力の低下を呈する。マスト細胞は、PI3Kγ欠損マウスにおいて影響を受ける別の細胞の種類を表す。PI3Kδを欠くマウスの表現型は、リンパ球機能の障害により特徴付けられ、獲得免疫応答の制御において優位な機能を示す(Wetzker and Rommel, Current Pharmaceutical Design, 2004, 10, 1915-1922(非特許文献3))。
【0007】
広範囲に発現するPI3KαアイソフォームおよびPI3Kβアイソフォームとは対照的に、造血特異的なアイソフォームPI3KγおよびPI3Kδは、重要な治療適応を示唆する。両方のアイソフォームとも、機能亢進状態の食細胞、マスト細胞、Bリンパ球およびTリンパ球により媒介される自己免疫/炎症性疾患(例えば、関節リウマチ、喘息またはアレルギー性反応)の処置の理想的な標的にみえる。望ましくない副作用を避けるためには、アイソフォーム高選択性の阻害剤が必要である(Ohashi and Woodgett 2005, Nature Medicine 11, 924-925(非特許文献4))。
【0008】
ホスファチジルイノシトールキナーゼ関連キナーゼ(PIKK)ファミリーのメンバーは、細胞周期進行、DNA組換えおよびDNA損傷の検出に関与する、高分子量キナーゼである。ヒトATM遺伝子は、血管拡張性失調症を有する患者の細胞で異常があり、損傷したDNAに対する細胞の検出および応答に関与する、このファミリーのメンバーである。別のメンバーは、mTOR(別名FRAP)であり、G1細胞周期進行をもたらすラパマイシン感受性経路に関与する(Shilo, 2003. Nature Reviews Cancer 3, 155-168(非特許文献5))。
【0009】
PI3K阻害剤の同定および特徴付けのための必要条件の1つは、適切なアッセイ、好ましくは生理的な形態のタンパク質標的の提供である。この問題に取り組むために、当技術分野において、いくつかの戦略が提案されている。
【0010】
従来、PI3K脂質キナーゼ活性は、リン脂質の小胞を用いる溶液ベースのアッセイにおいて精製された酵素または組換え酵素用いて、測定され得る。反応は、酸性化した有機溶媒の添加により終結し、続いて抽出または薄層クロマトグラフィー解析による相分離を行う(Carpenter et al., 1990, J. Biol. Chem. 265, 19704-19711(非特許文献6))。
【0011】
当技術分野において記載される別のアッセイは、放射標識されたATPからプレート上に固定化されたホスファチジルイノシトールへのホスフェート転移に基づく。このアッセイの種類もまた、組換えPI3Kγ酵素を用いるが、ハイスループット方式で実施され得る(Fuchikami et al., 2002, J. Biomol. Screening 7, 441-450(非特許文献7))。
【0012】
さらに別の生化学的スクリーニングアッセイは、フルオロフォアで標識されたホスホイノシチドを用いる競合的な蛍光偏光(FP)フォーマットに基づく(Drees et al., 2003, Comb. Chem. High Throughput Screening 6, 321-330(非特許文献8))。
【0013】
最後に、蛍光顕微鏡イメージングおよび自動画像解析に基づいた、細胞に基づくAkt-EGFP再分布アッセイが報告された。この目的のために、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞に、ヒトインスリン受容体およびAkt1-高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)融合構築物をトランスフェクトした。インスリン様成長因子-1(IGF-1)で刺激した後に、PI3Kを活性化し、Akt1-EGFPタンパク質を細胞膜へリクルートした。PI3Kアイソフォーム選択的阻害剤による再分布アッセイの検証は、PI3KαがIGF-1刺激後にCHO宿主細胞内で活性化される主なアイソフォームであることを示した(Wolff et al., Comb. Chem. High Throughput Screen. 9, 339-350(非特許文献9))。
【0014】
全ての場合ではないが、別の選択的キナーゼ阻害剤の同定に必要な条件は、これらの分子の標的選択性の決定を可能にする方法である。例えば、特定の薬物標的に結合しかつ阻害するが、その阻害が副作用をもたらしうる密接に関係した標的とは相互作用しない分子を提供するように意図されうる。通常、個々の酵素アッセイの大きなパネルは、キナーゼに対する化合物の阻害効果を評価するために用いられる(Knight et al., 2004. Bioorganic and Medicinal Chemistry 12, 4749-4759(非特許文献10); Knight et al., 2006, Cell 125, 733-747(非特許文献11))。最近になって、バクテリオファージ上に呈示されたキナーゼまたはキナーゼドメインが、多くの一連のキナーゼと相互作用する所与の化合物の能力を評価するために用いられている(Karaman et al., 2008. Nature Biotechnology 26, 127-132(非特許文献12))。加えて、プロテオームに対するキナーゼ阻害剤のプロファイリングを可能にする、化学プロテオミクス法が記載されている(WO2006/134056(特許文献1); Bantscheff et al., 2007. Nature Biotechnology 25, 1035-1044(非特許文献13); Patricelly et al., 2007. Biochemistry 46, 350-358(非特許文献14); Gharbi et al., 2007. Biochem. J. 404, 15-21(非特許文献15); WO2008/015013(特許文献2))。
【0015】
上記を考慮すると、PI3K相互作用化合物の同定および選択性プロファイリングのための効果的な方法、ならびにPI3Kの精製のための方法を提供する必要性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】WO2006/134056
【特許文献2】WO2008/015013
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Fruman et al., 1998. Phosphoinositide kinases. Annual Review Biochemistry 67, 481-507
【非特許文献2】Cantley, L.C., 2002, Science 296, 1655-1657
【非特許文献3】Wetzker and Rommel, Current Pharmaceutical Design, 2004, 10, 1915-1922
【非特許文献4】Ohashi and Woodgett 2005, Nature Medicine 11, 924-925
【非特許文献5】Shilo, 2003. Nature Reviews Cancer 3, 155-168
【非特許文献6】Carpenter et al., 1990, J. Biol. Chem. 265, 19704-19711
【非特許文献7】Fuchikami et al., 2002, J. Biomol. Screening 7, 441-450
【非特許文献8】Drees et al., 2003, Comb. Chem. High Throughput Screening 6, 321-330
【非特許文献9】Wolff et al., Comb. Chem. High Throughput Screen. 9, 339-350
【非特許文献10】Knight et al., 2004. Bioorganic and Medicinal Chemistry 12, 4749-4759
【非特許文献11】Knight et al., 2006, Cell 125, 733-747
【非特許文献12】Karaman et al., 2008. Nature Biotechnology 26, 127-132
【非特許文献13】Bantscheff et al., 2007. Nature Biotechnology 25, 1035-1044
【非特許文献14】Patricelly et al., 2007. Biochemistry 46, 350-358
【非特許文献15】Gharbi et al., 2007. Biochem. J. 404, 15-21
【発明の概要】
【0018】
上記の必要性に応じるために、本発明は第1の局面において、以下の工程を含むPI3K相互作用化合物の同定のための方法を提供する:
(a) PI3Kを含むタンパク質調製物を提供する工程、
(b) タンパク質調製物と、固体支持体上に固定化されたフェニルチアゾールリガンド1とを、フェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の形成を可能にする条件下で接触させる工程、
(c) フェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体を所与の化合物と共にインキュベートする工程、
(d) 化合物が、固定化されたフェニルチアゾールリガンド1からPI3Kを分離させることができるかどうかを判定する工程、ならびに
(e) 化合物が、固定化されたフェニルチアゾールリガンド1からATM、ATR、DNAPK、および/またはmTORをも分離させることができるかどうかを判定する工程。
【0019】
本発明は第2の局面において、以下の工程を含むPI3K相互作用化合物の同定のための方法に関する:
(a) PI3Kを含むタンパク質調製物を提供する工程、
(b) タンパク質調製物と、固体支持体上に固定化されたフェニルチアゾールリガンド1および所与の化合物とを、フェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の形成を可能にする条件下で接触させる工程、
(c) 工程(b)で形成されたフェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体を検出する工程、ならびに
(d) フェニルチアゾールリガンド1とATM、ATR、DNAPK、および/またはmTORとの複合体もまた工程(b)で形成されているかどうかを検出する工程。
【0020】
本発明は第3の局面において、以下の工程を含むPI3K相互作用化合物の同定のための方法を提供する:
(a) PI3Kを含むタンパク質調製物の2つのアリコートを提供する工程、
(b) 1つのアリコートと、固体支持体上に固定化されたフェニルチアゾールリガンド1とを、フェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の形成を可能にする条件下で接触させる工程、
(c) もう一方のアリコートと、固体支持体上に固定化されたフェニルチアゾールリガンド1および所与の化合物とを、フェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の形成を可能にする条件下で接触させる工程、
(d) 工程(b)および(c)で形成されたフェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の量を決定する工程、ならびに
(e) フェニルチアゾールリガンド1とATM、ATR、DNAPK、および/またはmTORとの複合体もまた工程(b)および(c)で形成されているかどうかを判定する工程。
【0021】
本発明は第4の局面において、以下の工程を含むPI3K相互作用化合物の同定のための方法に関する:
(a) PI3Kを含む少なくとも1つの細胞をそれぞれ含む2つのアリコートを提供する工程、
(b) 1つのアリコートを所与の化合物と共にインキュベートする工程、
(c) それぞれのアリコートの細胞を収集する工程、
(d) タンパク質調製物を得るために細胞を溶解する工程、
(e) タンパク質調製物と、固体支持体上に固定化されたフェニルチアゾールリガンド1とを、フェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の形成を可能にする条件下で接触させる工程、ならびに
(f) 工程(e)の各アリコート中に形成されたフェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の量を決定する工程、ならびに
(g) フェニルチアゾールリガンド1とATM、ATR、DNAPK、および/またはmTORとの複合体もまた工程(e)で形成されているかどうかを判定する工程。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】フェニルチアゾールリガンド1の合成および構造。フェニルチアゾールリガンド1を実施例1に記載されているように合成した。
【図2】固定化されたフェニルチアゾールリガンド1を用いた薬物プルダウン実験およびPI3Kタンパク質のウェスタンブロット検出。生物材料として、MOLT-4細胞から調製された細胞溶解物を用いた。薬物プルダウン実験を実施例2に記載されているように50 mgのタンパク質を含む溶解物試料を用いて行った。捕捉されたタンパク質を、DMSOを含む緩衝液(レーン1)、100μMの遊離フェニルチアゾールリガンド1またはSDS試料緩衝液(レーン3)で溶出した。溶出した試料をSDSポリアクリルアミアドゲル上で分離し、膜に転写した。ブロットを最初に、PI3Kγ(図2A)およびPI3Kδ(図2B)に対する特異的抗体と共にインキュベートした。蛍光色素で標識された検出用二次検出抗体をOdyssey赤外線イメージングシステムと共に用いた。レーン1: DMSO溶出対照; レーン2: 100μM遊離フェニルチアゾールリガンド1による溶出; レーン3: SDS溶出。
【図3】タンパク質の質量分析のための、固定化されたフェニルチアゾールリガンド1を用いた薬物プルダウン実験。クーマシーブルーで染色後のタンパク質ゲルを示す。表示のゲル領域をゲル切片として切り出し、タンパク質を質量分析による解析に供した。薬物プルダウン実験を実施例2に記載の通りに50 mgのタンパク質を含むMOLT-4細胞溶解物試料を用いて行った。固定化されたフェニルチアゾールリガンド1に結合したタンパク質をSDS試料緩衝液で溶出し、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により分離した。
【図4】PI3Kγの同定されたペプチド。ヒトPI3Kδ配列の質量分析により同定されたペプチドを太字および下線で示す。
【図5】PI3Kδの同定されたペプチド。ヒトPI3Kγ配列の質量分析により同定されたペプチドを太字および下線で示す。
【図6】PI3Kγ相互作用化合物の同定のための溶出アッセイ。実験を実施例3に記載されているように行った。固定化されたフェニルチアゾールリガンド1によりPI3Kγタンパク質をMOLT-4細胞溶解物から捕捉し、表示したような化合物により溶出した。溶出液をニトロセルロース膜に転写し、Odyssey赤外線イメージングシステムでPI3Kγを検出した。一次抗体: 抗PI3Kγ(Jena Bioscience ABD-026S; マウス抗体)。二次抗体: 抗マウスIRDye800(Rockland, 610-732-124)。積分強度(積分キロピクセル(kilopixel)/mm2)を示す。溶出のために用いられた化合物: 化合物1(LY294002): IC50 > 100μM; 化合物2(AS-605240): IC50 = 26 nM; 化合物3(AS-604850): IC50 = 1.7μM。
【図7A】PI3Kγ相互作用化合物の同定のための競合的結合アッセイ。実験を実施例4に記載されているように行った。表示された濃度の試験化合物およびアフィニティマトリックスをMOLT-4細胞溶解物に加え、試験化合物と相互作用しないPI3Kγタンパク質を、アフィニティマトリックス上に固定化されたフェニルチアゾールリガンド1によって捕捉した。アフィニティマトリックスを溶解物から分離し、結合タンパク質をSDS試料緩衝液で溶出し、溶出液をニトロセルロース膜に転写した。PI3Kγの量をOdyssey赤外線イメージングシステムで決定した。図7Aは、抗体を用いて探索されたドットブロットおよびOdyssey赤外線イメージングシステムを用いて検出されたシグナルである。一次抗体: 抗PI3Kγ(Jena Bioscience ABD-026S; マウス抗体)。二次抗体: 抗マウスIRDye800(Rockland, 610-732-124)。
【図7B】PI3Kγ相互作用化合物の同定のための競合的結合アッセイ。実験を実施例4に記載されているように行った。表示された濃度の試験化合物およびアフィニティマトリックスをMOLT-4細胞溶解物に加え、試験化合物と相互作用しないPI3Kγタンパク質を、アフィニティマトリックス上に固定化されたフェニルチアゾールリガンド1によって捕捉した。アフィニティマトリックスを溶解物から分離し、結合タンパク質をSDS試料緩衝液で溶出し、溶出液をニトロセルロース膜に転写した。PI3Kγの量をOdyssey赤外線イメージングシステムで決定した。図7Bは、競合的結合曲線である。相対的Odyssey単位(積分強度; 積分キロピクセル/mm2)を化合物濃度に対してプロットし、最大半量結合競合(IC)値を計算した。化合物1(LY294002): IC50 > 30μM; 化合物2(AS-605240): IC50 = 4.6μM; 化合物3(AS-604850): IC50 = 176 nM。
【図8】化合物を細胞溶解物に加える(溶解物アッセイ)ことによる、または化合物をRAW264.7生細胞と共にインキュベートする(細胞アッセイ)ことによる化合物プロファイリング。実験を実施例5に記載されているように行った。化合物を両アッセイにおいて10μMの濃度で使用し、PI3Kδの量をOdyssey赤外線イメージングシステムで定量化した。
【図9】質量分析定量化を用いたPI3K阻害剤の選択性プロファイリング。実験を、実施例6に記載されているようにRamos細胞溶解物におけるKinobeads競合結合アッセイとして行った。定量的質量分析プロファイリングに基づいて、個々の標的に対するIC50値(μM)を示す。A: 化合物CZC00015097B: 化合物CZC00018052C: 化合物CZC00019091
【図10】化合物CZC18052の用量反応曲線。化合物を、実施例7に記載されているようにキナーゼの多重免疫検出を用いた競合結合アッセイにおいて試験した。1回のアッセイで、PI3Kα、PI3Kβ、PI3Kγ、PI3Kδ、およびDNAPKに対する化合物の結合親和性を測定した。簡単に言えば、Molt-4細胞溶解物とJurkat細胞溶解物の1:1混合物をアフィニティマトリクス(固定化されたフェニルチアゾールリガンド1を有するビーズとフェニルモルホリン-クロメンリガンドを有するビーズの1:1混合物)および化合物CZC18052と共にインキュベートした。ビーズを洗浄し、結合キナーゼを溶出した。5枚の異なるニトロセルロース膜上に溶出物のアリコートをスポットし、各標的抗体、続いて蛍光二次抗体と共にそれぞれインキュベートした。蛍光シグナルを赤外線走査装置を用いて定量化した。化合物は、様々なキナーゼに対して強力な結合を示した。PI3Kα(IC50 = 0.027μM)、PI3Kβ(IC50 = 0.034μM)、PI3Kγ(IC50 = 0.43μM)、PI3Kδ(IC50 = 0.14μM)、およびDNAPK(IC50 = 0.038μM)。
【図11】化合物CZC19950の用量反応曲線。実験を実施例7に記載のように行った。化合物は以下のキナーゼへの結合を示した: PI3Kα(IC50 > 7μM)、PI3Kβ(IC50 = 1.7μM)、PI3Kγ(IC50 = 0.17μM)、PI3Kδ(IC50 > 3μM)、およびDNAPK (IC50 > 6μM)。化合物CZC19950は、PI3Kγ(IC50 = 0.17μM)に対してのみ強力な結合を示した。
【図12】タンパク質の質量分析のための、固定化されたフェニルチアゾールリガンド1を用いた薬物プルダウン実験。クーマシーブルーによる染色後のタンパク質ゲルを示す。示したゲル領域をゲル切片として切り出し、タンパク質を質量分析による解析に供した。薬物プルダウン実験を、実施例2に記載のように50 mgのタンパク質を含むJurkat細胞溶解物試料とRamos細胞溶解物試料の1:1混合物を用いて行った。固定化されたフェニルチアゾールリガンド1に結合したタンパク質をSDS試料緩衝液で溶出し、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により分離した。この実験において、以下のタンパク質が同定された: DNA-PK、ATM、およびmTOR。
【図13−1】固定化されたフェニルチアゾールリガンド1を用いた薬物プルダウンの後にDNA-PKの質量分析により同定されたペプチドである。同定されたペプチドに下線を引く。
【図13−2】固定化されたフェニルチアゾールリガンド1を用いた薬物プルダウンの後にDNA-PKの質量分析により同定されたペプチドの続きである。同定されたペプチドに下線を引く。
【図14−1】固定化されたフェニルチアゾールリガンド1を用いた薬物プルダウンの後にATMの質量分析により同定されたペプチドである。
【図14−2】固定化されたフェニルチアゾールリガンド1を用いた薬物プルダウンの後にATMの質量分析により同定されたペプチドの続きである。
【図15−1】固定化されたフェニルチアゾールリガンド1を用いた薬物プルダウンの後にmTORの質量分析により同定されたペプチドである。
【図15−2】固定化されたフェニルチアゾールリガンド1を用いた薬物プルダウンの後にmTORの質量分析により同定されたペプチドの続きである。
【図16】フェニルモルホリン-クロメンリガンド (8-(4-アミノメチル-フェニル)-2-モルホリン-4-イル-クロメン-4-オン)の合成および構造。リガンドを実施例8に記載のように合成した。リガンドの構造を[G]に示す。
【図17】タンパク質の質量分析のための、固定化されたフェニルモルホリン-クロメンリガンドを用いた薬物プルダウン実験。クーマシーブルーで染色した後のタンパク質ゲルを示す。示したゲル領域をゲル切片として切り出し、タンパク質を質量分析による解析に供した。薬物プルダウン実験を実施例2に記載のように50 mgのタンパク質を含むHeLa細胞溶解物試料とK-562細胞溶解物試料の1:1混合物を用いて行った。フェニルモルホリン-クロメンリガンドに結合したタンパク質をSDS試料緩衝液で溶出し、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により分離した。
【図18−1】固定化されたフェニルモルホリン-クロメンリガンドを用いたHeLa-K562溶解物ミックスの薬物プルダウンの後にヒトATRの質量分析により同定されたペプチドである。
【図18−2】固定化されたフェニルモルホリン-クロメンリガンドを用いたHeLa-K562溶解物ミックスの薬物プルダウンの後にヒトATRの質量分析により同定されたペプチドの続きである。
【図19−1】固定化されたフェニルモルホリン-クロメンリガンドを用いたHeLa-K562溶解物ミックスの薬物プルダウンの後にヒトATMの質量分析により同定されたペプチドである。
【図19−2】固定化されたフェニルモルホリン-クロメンリガンドを用いたHeLa-K562溶解物ミックスの薬物プルダウンの後にヒトATMの質量分析により同定されたペプチドの続きである。
【図20−1】固定化されたフェニルモルホリン-クロメンリガンドを用いたHeLa-K562溶解物ミックスの薬物プルダウンの後にヒトmTORの質量分析により同定されたペプチドである。
【図20−2】固定化されたフェニルモルホリン-クロメンリガンドを用いたHeLa-K562溶解物ミックスの薬物プルダウンの後にヒトmTORの質量分析により同定されたペプチドの続きである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に関連して、驚くべきことに、フェニルチアゾールリガンド1がPI3KのリガンドならびにPIKKファミリーの他のメンバー、すなわちATM、ATR、DNAPK、およびmTOR(FRAP)のリガンドであることが見出された。このことは、スクリーニングアッセイにおいて、例えば競合的スクリーニングアッセイにおいて、ならびにPI3Kの精製のための方法において、フェニルチアゾールリガンド1の使用を可能にする。
【0024】
フェニルチアゾールリガンド1の構造を図1に示す。この化合物は、図1によると液体溶液中でアニオンとしてヒドロクロリドを有する、置換チアゾール(3-(2-{2-[2-(2-アミノ-エトキシ)-エトキシ]-エトキシ}-エトキシ)-N-[5-(4-クロロ-3-メタンスルホニル-フェニル)-4-メチル-チアゾール-2イル]-プロピオンアミド)である。しかしながら、さらなる対イオンもまた、本発明の文脈の中で予想される。フェニルチアゾールリガンド1は、第1級アミノ基を介して適切な固体支持体材料に共有結合的に結合され、結合タンパク質の単離に用いられ得る。フェニルチアゾールリガンド1の合成は、実施例1に記載される。本発明によると、語句「フェニルチアゾールリガンド1」はまた、固体支持体に結合するために、同一のコアを含むが、好ましくは環状構造に関連しない窒素に結合する別のリンカーを有する化合物も含む。典型的には、リンカーは、8、9、または10個の原子からなる骨格を有する。リンカーは、カルボキシ、ヒドロキシ、またはアミノ活性基のいずれかを含んでもよい。
【0025】
したがって、好ましい態様において、語句「フェニルチアゾールリガンド1」はまた、同じN-[5-(4-クロロ-3-メタンスルホニル-フェニル)-4-メチル-チアゾール-2イル]-プロピオンアミドコアを有するが、N原子に別のリンカー、例えば、いずれかがハロゲン、ヒドロキシ、アミノにより置換されていてもよいC1〜C8アルキルカルボニルもしくはC1〜C8アルキルアミノカルボニル、ヒドロキシルにより置換されていてもよいC1〜C8アルキルアミノ、C1〜C8アルコキシカルボニル、C1〜C8アルコキシ、またはヒドロキシルもしくはハロゲンにより置換されていてもよいC1〜C8アルキルを含む化合物も含む。さらに、この語句はまた、4-クロロ残基の代わりに別のハロゲン、例えばブロミドを有する、またはフェニル環で例えばハロゲンによりさらに置換されている、上記のような化合物も含む。さらに、メタンスルホニル基に代えて、ハロゲンによって置換されていてもよい、ヒドロキシル基、カルボキシル基、またはC1〜C8アルキル基のような別の基もまた存在し得る。
【0026】
特に好ましい態様において、語句「フェニルチアゾールリガンド1」に該当する化合物は、3-(2-{2-[2-(2-アミノ-エトキシ)-エトキシ]-エトキシ}-エトキシ)-N-[5-(4-クロロ-3-メタンスルホニル-フェニル)-4-メチル-チアゾール-2イル]-プロピオンアミドヒドロクロリド、3-(2-{2-[2-(2-アミノ-エトキシ)-エトキシ]-エトキシ}-エトキシ)-N-[5-(4-クロロ-3-メタンスルホニル-フェニル)-4-メチル-チアゾール-2イル]-プロピオンアミド、およびいずれかがハロゲン、ヒドロキシ、アミノによって置換されていてもよいC1〜C8アルキルカルボニルもしくはC1〜C8アルキルアミノカルボニル、ヒドロキシルによって置換されていてもよいC1〜C8アルキルアミノ、C1〜C8アルコキシカルボニル、C1〜C8アルコキシ、またはヒドロキシルもしくはハロゲンによって置換されていてもよいC1〜C8アルキルによってN原子においてさらに置換されただけである、同じN-[5-(4-クロロ-3-メタンスルホニル-フェニル)-4-メチル-チアゾール-2イル]-プロピオンアミドコアを有する化合物からなる群より選択される。
【0027】
本発明によると、「PI3K」は、クラスIA(例えばPI3Kα、β、およびδ)、クラスIB(例えばPI3Kγ)、クラスII(例えばPI3KC2α、β、およびγ)ならびにクラスIII(例えばVps34酵母ホモログ)を含むPI3Kファミリーの全てのメンバーを含む。
【0028】
ヒトPI3Kγ(今までのところクラスIBのメンバーとしてのみ知られている)の配列を図4に示す。
【0029】
ヒトPI3Kδ(クラスIAのメンバー)の配列を図5に示す。
【0030】
本発明によると、語句「PI3K」は、このファミリーのヒトタンパク質および他のタンパク質の両方に関する。この語句は特に、機能的に活性なそれらの誘導体、または機能的に活性なそれらの断片、またはそれらのホモログ、または前記タンパク質をコードする核酸に低ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする核酸がコードする変異体を含む。好ましくは、これらの低ストリンジェンシー条件は、35%ホルムアミド、5×SSC、50 mM Tris-HCl(pH 7.5)、5 mM EDTA、0.02% PVP、0.02% BSA、100 ug/ml変性サケ精子DNA、および10%(wt/vol)硫酸デキストランを含む緩衝液中で18〜20時間40℃でのハイブリダイゼーション、2×SSC、25 mM Tris-HCl(pH 7.4)、5 mM EDTA、および0.1% SDSからなる緩衝液中で1〜5時間55℃での洗浄、ならびに2×SSC、25 mM Tris-HCl(pH 7.4)、5 mM EDTA、および0.1% SDSからなる緩衝液中で1.5時間60℃での洗浄を含む。
【0031】
本発明によれば、「ATM」は、血管拡張性失調症変異タンパク質を意味する。ATMタンパク質は、DNA修復および/または細胞周期制御に関与する重要な基質をリン酸化することによりDNA損傷に応答する、ホスファチジルイノシトール-3キナーゼファミリーのタンパク質のメンバーである(Shilo, 2003. Nature Reviews Cancer 3, 155-168)。
【0032】
本発明によれば、「ATR」は、血管拡張性失調症およびRAD3関連タンパク質(別名FRAP関連タンパク質1、FRP1)を意味する。
【0033】
本発明によれば、「DNAPK」は、DNA依存性プロテインキナーゼを意味する。PRKDC遺伝子は、核DNA依存性セリン/スレオニンプロテインキナーゼ(DNA-PK)の触媒サブユニットをコードする。第2の構成成分は、自己免疫抗原Ku(152690)であり、染色体22q上のG22P1遺伝子によりコードされる。DNA-PKの触媒サブユニットは、それ自体では不活性であり、触媒サブユニットをDNAに誘導しそのキナーゼ活性を誘発するためにG22P1構成成分に依拠する;PRKDCは、その触媒特性を発現するためにはDNAに結合しなければならない。
【0034】
本発明によれば、「mTOR」は、ラパマイシンの哺乳動物の標的(mTOR、FRAPまたはRAFT1としても知られる)を意味する(Tsang et al., 2007, Drug Discovery Today 12, 112-124)。mTORタンパク質は、これまでに配列決定された全ての真核生物に存在する、289 kDAの大きなキナーゼである。カルボキシ末端側の「ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)関連キナーゼ」(PIKK)ドメインの配列は、種間で高度に保存されており、セリンとスレオニンキナーゼ活性を示すが、脂質キナーゼ活性は検出されない。
【0035】
本発明によれば、語句「ATM」、「ATR」、「DNAPK」、または「mTOR」は、このファミリーのヒトタンパク質および他のタンパク質の両方に関する(Shilo, 2003. Nature Reviews Cancer 3, 155-168)。この語句は特に、機能的に活性なそれらの誘導体、または機能的に活性なそれらの断片、またはそれらのホモログ、または前記タンパク質をコードする核酸に低ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする核酸がコードする変異体を含む。好ましくは、これらの低ストリンジェンシー条件は、35%ホルムアミド、5×SSC、50 mM Tris-HCl(pH 7.5)、5 mM EDTA、0.02% PVP、0.02% BSA、100 ug/ml 変性サケ精子DNA、および10%(wt/vol)デキストラン硫酸を含む緩衝液中で18〜20時間40℃でのハイブリダイゼーション、2×SSC、25 mM Tris-HCl(pH 7.4)、5 mM EDTA、および0.1% SDSからなる緩衝液中で1〜5時間、55℃での洗浄、ならびに2×SSC、25 mM Tris-HCl(pH 7.4)、5 mM EDTA、および0.1% SDSからなる緩衝液中で1.5時間、60℃での洗浄を含む。
【0036】
フェニルチアゾールリガンド1は、PI3Kの全てのアイソフォームに対するリガンドである(上記参照)。しかしながら、本発明を通して、PI3KはPI3KγまたはPI3Kδ、特にそのヒトアイソフォームであることが好ましい。
【0037】
本発明のいくつかの局面において、最初にPI3Kを含むタンパク質調製物が提供される。本発明の方法は、PI3Kが調製物中で可溶化される限りは、出発材料としての任意のタンパク質調製物を用いて行われ得る。例としては、複数のタンパク質の液体混合物、細胞溶解物、当初の細胞中に存在する全てのタンパク質を含むわけではない部分的な細胞溶解物が含まれ、または特に、どの細胞溶解物にも関心対象の標的タンパク質が一つ残らず存在するとは限らない場合には、複数の細胞溶解物の組み合わせが含まれる。用語「タンパク質調製物」はまた、溶解した精製タンパク質も含む。
【0038】
関心対象のタンパク質調製物中のPI3Kタンパク質種の存在は、PI3Kに対して特異的な抗体を用いて探索されるウェスタンブロットで検出され得る。PI3Kが特定のアイソフォーム(例えばPIK3γおよび/またはPI3Kδ)である場合、当該アイソフォームの存在は、アイソフォーム特異的な抗体により決定され得る。このような抗体は、当技術分野において公知である(Sasaki et al., 2000, Nature 406, 897-902; Deora et al., 1998, J. Biol. Chem. 273, 29923-29928)。あるいは、さらに質量分析(MS)が用いられ得る(下記参照)。
【0039】
関心対象のタンパク質調製物中のATMタンパク質、ATRタンパク質、DNAPKタンパク質、および/またはmTORタンパク質の存在は、該タンパク質に特異的な抗体を用いて探索されるウェスタンブロットで検出されうる。
【0040】
細胞溶解物または部分的な細胞溶解物は、最初に細胞小器官(例えば、核、ミトコンドリア、リボソーム、ゴルジなど)を単離し、次にこれらの小器官に由来するタンパク質調製物を調製することにより入手され得る。細胞小器官の単離のための方法は、当技術分野において公知である(Chapter 4.2 Purification of Organelles from Mammalian Cells in "Current Protocols in Protein Science", Editors: John.E. Coligan, Ben M. Dunn, Hidde L. Ploegh, David W. Speicher, Paul T. Wingfield; Wiley, ISBN: 0-471-14098-8)。
【0041】
加えて、タンパク質調製物は、細胞抽出物の分画により調製され、その結果細胞質タンパク質または膜タンパク質などの特定の種類のタンパク質を濃縮し得る(Chapter 4.3 Subcellular Fractionation of Tissue Culture Cells in "Current Protocols in Protein Science", Editors: John.E. Coligan, Ben M. Dunn, Hidde L. Ploegh, David W. Speicher, Paul T. Wingfield; Wiley, ISBN: 0-471-14098-8)。
【0042】
さらに、体液由来のタンパク質調製物が使用され得る(例えば、血液、脳脊髄液、腹水および尿)。
【0043】
例えば、線虫(C. elegans)などのモデル生物の定義された発生段階または成体段階に由来する全胚溶解物が用いられ得る。加えて、マウスから切開した心臓などの全器官がタンパク質調製物の供給源となり得る。これらの器官はまた、タンパク質調製物を得るために、インビトロで灌流され得る。
【0044】
さらに、タンパク質調製物は、組換えにより産生されるPI3Kを含む調製物であってもよい。原核細胞および真核細胞における組換えタンパク質の産生のための方法は、広く確立されている(Chapter 5 Production of Recombinant Proteins in "Current Protocols in Protein Science", Editors: John. E. Coligan, Ben M. Dunn, Hidde L. Ploegh, David W. Speicher, Paul T. Wingfield; Wiley, 1995, ISBN: 0-471-14098-8)。
【0045】
本発明の方法の好ましい態様において、タンパク質調製物の提供は、PI3Kを含む少なくとも1つの細胞を収集する工程および細胞を溶解する工程を含む。
【0046】
この目的に適した細胞は、例えばPIK3ファミリーのメンバーを発現する細胞または組織であった細胞である。PI3Kファミリーのメンバーは、多くの細胞および組織内で発現する。PI3Kγは、造血系の細胞内(例えば、顆粒球、マクロファージ、マスト細胞および血小板)で優先的に発現するが、心筋細胞、血管平滑筋および血管上皮細胞内でも発現する。PI3Kδは、リンパ球、顆粒球およびマスト細胞内で著しい発現を伴い遍在的に発現する。
【0047】
したがって、好ましい態様において、末梢血から単離された細胞は、適当な生物材料を意味する。末梢血(PBL)から得られるヒトリンパ球およびヒトリンパ球亜集団の調製および培養のための手法は、広く公知である(W.E Biddison, Chapter 2.2 "Preparation and culture of human lymphocytes" in Current Protocols in Cell Biology, 1998, John Wiley & Sons, Inc.)。例えば、密度勾配遠心分離は、他の血液細胞集団(例えば、赤血球および顆粒球)からのリンパ球の分離のための方法である。ヒトリンパ球亜集団は、モノクローナル抗体によって認識され得るそれらの特異的細胞表面受容体を介して単離され得る。物理的分離方法は、これらの抗体が結合する細胞の濃縮を可能にする磁気ビーズと、これらの抗体試薬との結合(ポジティブ選択)を含む。単離されたリンパ球細胞は、T細胞受容体またはCD-3などの共受容体に対する抗体を加えることによりさらに培養および刺激され、T細胞受容体シグナル伝達および続いてPI3Kのリン酸化を開始し得る(Houtman et al., 2005, The Journal of Immunology 175(4), 2449-2458)。
【0048】
初代ヒト細胞に代わるものとして、ヒト培養細胞株(例えばMOLT-4細胞またはラット好塩基球性白血病(RBL-2H3)細胞)が用いられ得る。RBL-2H3細胞は、IgE(FcepsilonRI)に対する高親和性受容体を多価抗原によってクロスリンクすることにより刺激され、PI3Kの活性化を誘導し得る(Kato et al., 2006, J. Immunol. 177(1): 147-154)。
【0049】
好ましい態様において、細胞は、細胞培養系の部分であり、細胞培養系からの細胞の収集のための方法は当技術分野において公知である(上記文献)。
【0050】
タンパク質が選択細胞中に主として存在していることを確実にしなければならないため、細胞の選択は、主にPI3Kの発現に依存する。所与の細胞が本発明の方法に適した出発システムであるかどうかを判定するため、ウェスタンブロット法、PCRに基づく核酸検出方法、ノーザンブロット法およびDNAマイクロアレイ法(「DNAチップ」)のような方法が、関心対象の所与のタンパク質が細胞中に存在しているかどうかを判定するために適している可能性がある。
【0051】
細胞の選択はまた、研究の目的により影響される可能性もある。所与の薬物のインビボ効果を解析する必要がある場合には、所望の治療効果が生じるような細胞または組織(例えば、顆粒球またはマスト細胞)を選んでもよい。一方で、望ましくない副作用を媒介するタンパク質標的の解明のためには、副作用が観察されるような細胞または組織(例えば、心筋細胞、血管平滑筋または上皮細胞)を解析してもよい。
【0052】
さらに、PI3Kを含む細胞は、例えば生検により生物体から得られる可能性があることは、本発明の文脈の中で予想される。相当する方法は、当技術分野において公知である。例えば、生検は、顕微鏡的にまたは生化学的方法によってその後検査されうる、少量の組織を得るために用いられる診断上の手法である。生検は、疾患を診断、分類および段階付けするために重要であるが、薬物処置を評価しモニターするためにも重要である。
【0053】
少なくとも1つの細胞の収集により溶解を同時に行うことは、本発明の範囲内に包含される。しかしながら、細胞が最初に収集され、次に別途溶解されることも同様に好ましい。
【0054】
細胞の溶解のための方法は、当技術分野において公知である(Karwa and Mitra: Sample preparation for the extraction, isolation, and purification of Nuclei Acids; chapter 8 in "Sample Preparation Techniques in Analytical Chemistry", Wiley 2003, Editor: Somenath Mitra, print ISBN: 0471328456; online ISBN: 0471457817)。異なる細胞型および組織の溶解は、ホモジナイザー(例えば、Potter-ホモジナイザー)、超音波粉砕器、酵素的溶解、界面活性剤(例えば、NP-40、Triton X-100、CHAPS、SDS)、浸透圧ショック、凍結および融解の繰り返し、またはこれらの方法の組み合わせにより達成され得る。
【0055】
本発明の方法によると、フェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の形成を可能にする条件下、PI3Kを含むタンパク質調製物は、固体支持体上に固定化されたフェニルチアゾールリガンド1と接触させる。
【0056】
本発明において、用語「フェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体」は、例えば、共有結合により、または最も好ましくは非共有結合により、フェニルチアゾールリガンド1がPI3Kと相互作用している複合体を意味する。同様の定義が、フェニルチアゾールリガンド1とATM、ATR、DNAPK、またはmTORとの複合体にも適用される。
【0057】
当業者は、フェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の形成を可能にするために、どの条件を適用し得るかを理解している。
【0058】
本発明の文脈において、用語「複合体の形成を可能にする条件下」は、このような形成、好ましくはこのような結合を可能にする全ての条件を含む。これは、固定化相上に固体支持体を有し、その上に溶解物を注ぐ可能性を含む。別の好ましい態様においては、固体支持体は粒子状の形態であって、細胞溶解物と混合されることも含む。
【0059】
非共有結合の文脈において、フェニルチアゾールリガンド1とPI3Kとの間の結合は、例えば、塩橋、水素結合、疎水性相互作用またはそれらの組み合わせを介する。
【0060】
好ましい態様において、フェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の形成の工程は、本質的に生理的な条件下で行われる。細胞内タンパク質の物理的状態は、Petty, 1998(Howard R. Petty, Chapter 1, Unit 1.5 in: Juan S. Bonifacino, Mary Dasso, Joe B. Harford, Jennifer Lippincott-Schwartz, and Kenneth M. Yamada (eds.) Current Protocols in Cell Biology Copyright(著作権) 2003 John Wiley & Sons, Inc. All rights reserved. DOI: 10.1002/0471143030.cb0101s00Online Posting Date: May, 2001 Print Publication Date: October, 1998)に記載されている。
【0061】
本質的に生理的な条件下での接触は、リガンド、細胞調製物(すなわち、特徴付けされるべきキナーゼ)および任意で化合物の間の相互作用にできる限り自然な条件を反映させるという利点を有する。「本質的に生理的な条件」は、とりわけ本来の、加工されていない試料物質中に存在するような条件である。それらは、生理的なタンパク質濃度、pH、塩濃度、緩衝能および関連するタンパク質の翻訳後修飾を含む。用語「本質的に生理的な条件」は、試料が由来する当初の生きている生物中の条件と同一の条件は必要としないが、本質的に細胞様の条件または細胞の条件に近い条件を必要とする。当業者はもちろん、最終的には細胞様の条件の低下につながるであろう実験の設定により、ある一定の制約が生じる可能性があることは、十分に理解している。例えば、生きている生物から試料を取り出し加工する際の細胞壁または細胞膜の最終的に必然的な破壊は、生物内で見られる生理的な条件と同一ではない条件を必要とする可能性がある。本発明の方法を実施するための生理的な条件の適切なバリエーションは、当業者に明らかであると考えられ、本明細書において用いられるような用語「本質的に生理的な条件」により包含される。要約すると、用語「本質的に生理的な条件」は、例えば自然な細胞中に見られるような生理的条件に近い条件に関するが、これらの条件と同一であることを必ずしも必要とはしないということが理解されるべきである。
【0062】
例えば、「本質的に生理的な条件」は、50〜200 mM NaClまたはKCl、pH 6.5〜8.5、20〜37℃、および0.001〜10 mM二価カチオン(例えばMg++、Ca++、);より好ましくは約150 m NaClまたはKCl、pH 7.2〜7.6、5 mM二価カチオンを含んでもよく、しばしば0.01〜1.0パーセントの非特異的タンパク質(例えばBSA)を含んでもよい。非イオン性界面活性剤(Tween、NP-40、Triton-X100)は、通常は約0.001〜2%、典型的には0.05〜0.2%(体積/体積)で、しばしば存在し得る。一般的ガイダンスとして、以下の緩衝化した水性条件が適用可能である可能性がある: 二価カチオンおよび/または金属キレーターおよび/または非イオン性界面活性剤の任意の添加を伴う、10〜250 mM NaCl、5〜50 mM Tris HCl、pH 5〜8。
【0063】
好ましくは、「本質的に生理的な条件」は、6.5〜7.5、好ましくは7.0〜7.5のpH、および/または、10〜50 mM、好ましくは25〜50 mMの緩衝液濃度、および/または、120〜170 mM、好ましくは150 mMの一価の塩(例えばNaまたはK)の濃度を意味する。二価の塩(例えばMg またはCa)は、1〜5 mM、好ましくは1〜2 mMの濃度でさらに存在してもよく、より好ましくは、緩衝液はTris-HClまたはHEPESからなる群より選択される。
【0064】
本発明の文脈において、フェニルチアゾールリガンド1は、固体支持体上に固定化される。本発明を通して、用語「固体支持体」は、その表面上に小分子リガンドを固定化することができる全ての非溶解性支持体に関する。
【0065】
さらに好ましい態様によると、固体支持体は、アガロース、修飾アガロース、セファロースビーズ(例えば、NHS活性化セファロース)、ラテックス、セルロース、および強磁性またはフェリ磁性の粒子からなる群より選択される。
【0066】
フェニルチアゾールリガンド1は、固体支持体に共有結合的または非共有結合的のいずれかで結合し得る。非共有結合は、ストレプトアビジンマトリックスに結合するビオチンアフィニティリガンドを介する結合を含む。
【0067】
好ましくは、フェニルチアゾールリガンド1は固体支持体に共有結合的に結合する。
【0068】
結合の前に、マトリックスは、フェニルチアゾールリガンド1との結合反応を容易にするために、NHS、カルボジイミドなどの活性基を含み得る。フェニルチアゾールリガンド1は、(例えば、アミノ基、スルフヒドリル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、およびケトン基などの官能基を用いる)直接的な結合により、および(例えば、ビオチン、フェニルチアゾールリガンド1に共有結合的に付加したビオチンおよび固体支持体に直接結合させたストレプトアビジンへのビオチンの非共有結合的結合を介する)間接的な結合により、固体支持体に結合され得る。
【0069】
固体支持体物質への結合は、切断可能なリンカーおよび切断が可能ではないリンカーを含んでもよい。切断は、酵素的な切断または適切な化学的方法を用いた処置により達成される可能性がある。
【0070】
フェニルチアゾールリガンド1を固体支持体物質に結合するための好ましい結合インターフェースは、C原子骨格を有するリンカーである。典型的には、リンカーは、8、9、または10個の原子からなる骨格を有する。リンカーはカルボキシ活性基またはアミノ活性基のいずれかを含有する。
【0071】
当業者は、本発明の方法の個々の工程の間に洗浄工程が必要である可能性あることについて認識している。このような洗浄は、当業者の知識の一部である。洗浄は、固体支持体から細胞溶解物の非結合成分を取り除くのに役立つ。非特異的な(例えば、単純なイオン性の)結合相互作用は、低レベルの界面活性剤を加えることにより、または洗浄緩衝液中の塩濃度を適度に調整することにより、最小化され得る。
【0072】
本発明の同定方法によると、読み出しシステムは、PI3Kの検出もしくは決定(本発明の第1の局面)、フェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の検出(本発明の第2の局面)、またはフェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の量の決定(本発明の第2、第3、および第4の局面)のいずれかである。
【0073】
本発明の全体にわたって、PI3Kの決定または検出、フェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の検出、またはフェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の量の決定に用いられる読み出しシステムと同じシステムが、ATM、ATR、DNAPK、またはmTORの検出、またはフェニルチアゾールリガンド1と該タンパク質との複合体の検出もしくは量の決定のために用いられうる。これは、PI3Kに特異的な作用物質(例えば、抗体)が用いられる場合、その代わりにATM、ATR、DNAPK、またはmTORに特異的な作用物質が用いられることになることを意味する。したがって、下記の態様および説明はまた、ATM、ATR、DNAPK、またはmTORの検出、またはフェニルチアゾールリガンド1と該タンパク質との複合体の検出もしくは複合体の量の決定にも適用される。
【0074】
本発明の第1の局面による方法において、分離されたPI3Kの検出または決定は好ましくは、化合物が、固定化されたフェニルチアゾールリガンド1からPI3Kを分離させることができるという事実の指標となる。この能力は、それぞれの化合物がPI3Kと相互作用する、好ましくはPI3Kに結合するということを示し、その治療の潜在能力の指標となる。
【0075】
本発明の第2の局面による方法の1つの態様において、本発明の方法を通して形成されるフェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体が検出される。このような複合体が形成されるという事実は、化合物が複合体の形成を完全には阻害していないということを好ましくは示す。その一方で、複合体が形成されない場合は、化合物はおそらく、PI3Kとの強い相互作用物質(interactor)であり、その治療の潜在能力の指標となる。
【0076】
本発明の第2、第3、および第4の局面の方法によると、方法を通して形成されるフェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の量が決定される。一般に、それぞれの化合物の存在下で複合体の形成が少ないほど、それぞれの化合物のPI3Kとの相互作用は強力であり、その治療の潜在能力の指標となる。
【0077】
本発明の第2局面によるフェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の検出は、PI3Kに対する標識された抗体および適切な読み出しシステムを用いることにより行われ得る。
【0078】
本発明の第2の局面の好ましい態様によると、フェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体はその量を決定することにより検出される。
【0079】
本発明の第2、第3、第4の局面の過程において、フェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の量を決定するために、PI3Kが、固定化されたフェニルチアゾールリガンド1から分離されることが好ましい。
【0080】
本発明によると、分離は、フェニルチアゾールリガンド1とPI3Kとの間の相互作用を破壊する全ての作用を意味する。これは、好ましい態様において、固定化されたフェニルチアゾールリガンド1からのPI3Kの溶出を含む。
【0081】
溶出は、以下に詳述するような非特異的な試薬(イオン強度、pH値、界面活性剤)を用いることにより達成され得る。加えて、関心対象の化合物がフェニルチアゾールリガンド1からPI3Kを特異的に溶出できるかどうかが試験され得る。このようなPI3K相互作用化合物は、以下の段落でさらに記載される。
【0082】
このような相互作用を破壊するための非特異的な方法は、当技術分野において主として公知であり、リガンド酵素相互作用の性質に依存する。主として、イオン強度の変化、pH値、温度、または界面活性剤とのインキュベーションは、固定化されたリガンドから標的酵素を分離するのに適した方法である。溶出緩衝液の利用は、極端なpH値(高pHまたは低pH;例えば、0.1 M シトレート、pH2〜3を用いることによるpHの低下)、イオン強度の変化(例えば、NaI、KI、MgCl2、またはKClを用いる高塩濃度)、疎水性相互作用を分裂させる極性低減剤(例えば、ジオキサンまたはエチレングリコール)、または変性剤(ドデシル硫酸ナトリウム、SDSなどのカオトロピック塩または界面活性剤; 総説: Subramanian A., 2002, Immunoaffinty chromatography)により結合パートナーを分離し得る。
【0083】
いくつかの場合において、固体支持体は好ましくは、遊離物質から分離されなければならない。このための個々の方法は、固体支持体の性質に依存し、かつ当技術分野において公知である。支持体物質がカラム内に含まれている場合、遊離物質はカラムのフロースルー(flowthrough)として集められ得る。支持体物質が溶解物成分と混合される(いわゆるバッチ手法)場合、緩やかな遠心分離などの追加の分離工程が必要とされる可能性があり、遊離物質は上清として集められる。あるいは、ビーズを磁気デバイスを用いることにより試料から除去できるように、磁気ビーズが固体支持体として用いられ得る。
【0084】
本発明の第1の局面による方法の工程(d)において、PI3Kは、固定化されたフェニルチアゾールリガンド1から分離されているかどうかが判定される。これは、PI3Kの検出またはPI3Kの量の決定を含む可能性がある。
【0085】
したがって、少なくとも本発明の全ての同定方法の好ましい態様において、分離されたPI3Kの検出またはその量の同定のための方法が用いられる。このような方法は、当技術分野において公知であり、タンパク質シークエンシング(例えば、エドマン分解)などの物理化学的な方法、質量分析法による解析、またはPI3Kに対する抗体を使用する免疫検出法を含む。
【0086】
本発明を通して、PI3Kを検出するためにまたはその量を決定するために抗体が用いられる(例えば、ELISAを介して)場合、当業者は、PI3Kの特定のアイソフォームを検出しようとする場合には、またはPI3Kの特定のアイソフォームの量を決定しようとする場合には、アイソフォーム特異的な抗体が用いられる可能性があるということを理解している。前述のように、このような抗体は当技術分野において公知である。さらに、当業者は、同様の抗体を産生するための方法を認識している。
【0087】
好ましくは、質量分析法または免疫検出法により、PI3K、ATM、ATR、DNAPK、および/またはmTORが検出され、または該タンパク質の量が決定される。以下において、このことは、PI3Kを参照することによってより詳細に説明されると考えられるが、下記の態様および説明はまた、ATM、ATR、DNAPK、またはmTORにも適用される。
【0088】
マススペクトル分析(質量分析)によるタンパク質の同定は、当技術分野において公知であり(Shevchenko et al., 1996, Analytical Chemistry 68: 850-858,;Mann et al., 2001, Analysis of proteins and proteomes by mass spectrometry, Annual Review of Biochemistry 70, 437-473)、実施例のセクションにおいてさらに説明される。
【0089】
好ましくは、質量分析は、例えばiTRAQ技術(相対および絶対的定量のための同重体タグ)またはcICAT(開裂可能なアイソトープでコードされたアフィニティタグ)を用いることにより、定量的な様式で行われる(Wu et al., 2006. J. Proteome Res. 5, 651-658)。
【0090】
本発明のさらに好ましい態様によると、質量分析(MS)による特徴付けは、PI3Kのプロテオティピックペプチド(proteotypic peptides)の同定により行われる。PI3Kをプロテアーゼで消化し、その結果として生じるペプチドをMSにより決定するという考えである。結果として、同じ供給源タンパク質由来のペプチドに対するペプチド出現頻度は極めて異なり、このタンパク質の同定に「典型的に」貢献する最も頻繁に観察されるペプチドが「プロテオティピックペプチド」と呼ばれる。したがって、本発明において用いられるプロテオティピックペプチドは、特定のタンパク質またはタンパク質アイソフォームを固有に同定する、実験上十分に観察可能なペプチドである。
【0091】
好ましい態様によると、特徴付けは、本発明の方法を実施する過程で得られたプロテオティピックペプチドを公知のプロテオティピックペプチドと比較することにより行われる。MSにおいてタンパク質の同定のためプロテアーゼ消化により調製された断片を用いる場合、通常、ある一定の酵素に対して同様のプロテオティピックペプチドが観察されるため、ある一定の試料に対して得られるプロテオティピックペプチドを、ある一定の酵素クラスの酵素に対して既知であるプロテオティピックペプチドと比較し、その結果試料中に存在する酵素を同定することが可能である。
【0092】
質量分析に代わるものとして、PI3Kに対する(またはPI3Kのアイソフォームに対する、上記参照)特異的な抗体を用いることにより、溶出されるPI3K(共溶出される結合パートナーまたはスカフォールドタンパク質を含む)が検出され得るか、またはその量が決定され得る。
【0093】
さらに、別の好ましい態様においては、共溶出される結合パートナーの同定が質量分析により一旦確立されていれば、各結合パートナーはこのタンパク質に対する特異的抗体を用いて検出され得る。
【0094】
適切な抗体に基づくアッセイは、ウェスタンブロット、ELISAアッセイ、サンドイッチELISAアッセイおよび抗体アレイ、またはそれらの組み合わせを含むが、これに限定されない。このようなアッセイの確立は、当技術分野において公知である(Chapter 11, Immunology, pages 11-1 to 11-30 in: Short Protocols in Molecular Biology. Fourth Edition, Edited by F.M. Ausubel et al., Wiley, New York, 1999)。
【0095】
これらのアッセイは、関心対象のPI3Kと相互作用するタンパク質(例えばPI3K複合体の触媒サブユニットまたは調節サブユニット)を検出および定量するだけでなく、リン酸化またはユビキチン修飾などの翻訳後修飾パターンを解析するよう構成され得る。
【0096】
さらに、本発明の同定方法は、PI3K相互作用化合物となる能力について試験された化合物の使用を含む。
【0097】
主として、本発明によると、このような化合物は、例えばフェニルチアゾールリガンド1へのPI3Kの結合を阻害することによりPI3Kと相互作用できる全ての分子であり得る。好ましくは、化合物は、PI3Kに対する効果、例えば刺激性のまたは阻害性の効果を有する。
【0098】
好ましくは、前記化合物は、合成のもしくは天然の化学化合物または有機合成薬物、より好ましくは小分子、有機薬物、または天然の小分子化合物からなる群より選択される。好ましくは、前記化合物は、このような化合物を含むライブラリーから始めて同定される。そのため、本発明の過程で、このようなライブラリーがスクリーニングされる。
【0099】
このような小分子は、好ましくはタンパク質または核酸ではない。好ましくは、小分子は、1000 Da未満の、より好ましくは750 Da未満の、最も好ましくは500 Da未満の分子量を示す。
【0100】
本発明による「ライブラリー」は、異なる個々の物質の高速の機能解析(スクリーニング)およびライブラリーを形成する個々の物質の迅速な同定の同時提供の両方を可能にする、選別された様式で提供される、(多数の)異なる化学物質の(概して大きな)コレクションに関する。例としては、ハイスループット様式において1つまたは複数の潜在的に相互作用する定義されたパートナーとの反応に加えられ得る化学物質を含む、チューブまたはウェルまたは表面上のスポットのコレクションである。両方のパートナーの望ましい「陽性」相互作用の同定の後に、それぞれの化合物は、ライブラリー構築のために迅速に同定され得る。合成起源および天然起源のライブラリーは、当業者により購入または設計され得る。
【0101】
ライブラリー構築の例は、例えば、Breinbauer R, Manger M, Scheck M, Waldmann H. Natural product guided compound library development. Curr Med Chem. 2002 Dec;9(23):2129-45において提供され、ここでは、生物学的関連性の証明された記録を有することから、天然物が、コンビナトリアルライブラリーの設計のための生物学的に検証された出発点であると記載されている。メディシナルケミストリーおよびケミカルバイオロジーにおける天然物のこの特別な役割は、構造生物学およびバイオインフォマティクスにより獲得されたタンパク質のドメイン構造についての新しい洞察に照らして解釈され得る。ドメインファミリー内の個々の結合ポケットの特定の要件を充足するために、化学的変化により天然物構造を最適化する必要がある可能性がある。固相化学は、この最適化プロセスのための有効なツールになると言われており、この分野における最近の進歩がこの総説において強調されている。他の関連する参考文献は、Edwards PJ, Morrell AI. Solid-phase compound library synthesis in drug design and development. Curr Opin Drug Discov Devel. 2002 Jul;5(4):594-605.; Merlot C, Domine D, Church DJ. Fragment analysis in small molecule discovery. Curr Opin Drug Discov Devel. 2002 May;5(3):391-9. Reviewを含み、多くの製薬会社における現在の創薬プロセスが、ハイスループットスクリーニングアッセイにおける使用のための高品質リード構造の大規模かつ増大するコレクションを必要とすると記載する、Goodnow RA Jr. Current practices in generation of small molecule new leads. J Cell Biochem Suppl. 2001;Suppl 37:13-21を含む。多様な構造および「薬物様の」性質を有する小分子のコレクションは、過去においては、以前の内部のリード最適化の成果のアーカイブによる、化合物ベンダーからの購入による、および会社合併の後の別のコレクションの統合による、複数の手段によって取得されている。ハイスループット/コンビナトリアルケミストリーは、新しいリード生成のプロセスにおいて重要な構成要素であるとして記載されているが、ライブラリーメンバーの合成およびその後の設計のためのライブラリー設計の選択は、新しいレベルの課題および重要性に発展している。複数の生物標的に対して複数の分子化合物ライブラリー設計をスクリーニングする潜在的利益は、新規リード構造を発見する実質的な機会を提供している。
【0102】
本発明の第2および第3の局面の好ましい態様において、PI3K含有タンパク質調製物が、最初に化合物と共に、次に固定化されたフェニルチアゾールリガンド1と共にインキュベートされる。しかしながら、化合物および固定化されたフェニルチアゾールリガンド1と、PI3K含有タンパク質調製物との同時インキュベーション(共インキュベーション)も、同様に好ましい(競合的結合アッセイ)。
【0103】
化合物とのインキュベーションが最初の場合、PI3Kは好ましくは、最初に化合物と共に10〜60分間、より好ましくは30〜45分間、4℃〜37℃、より好ましくは4℃〜25℃、最も好ましくは4℃の温度でインキュベートされる。好ましくは、化合物は、1μM〜1 mM、好ましくは10〜100μMの範囲にわたる濃度で用いられる。第2工程、固定化されたリガンドと接触させる工程は、好ましくは10〜60分間、4℃で行われる。
【0104】
同時インキュベーションの場合、PI3Kは好ましくは、30〜120分間、より好ましくは60〜120分間、4℃〜37℃、より好ましくは4℃〜25℃、最も好ましくは4℃の温度で化合物およびフェニルチアゾールリガンド1と共に同時にインキュベートされる。好ましくは、化合物は、1μM〜1 mM、好ましくは10〜100μMの範囲にわたる濃度で用いられる。
【0105】
さらに、本発明の第2の局面の工程(a)〜(c)は、異なる化合物を試験するために、複数のタンパク質調製物を用いて行われる可能性がある。この態様は、ミディアムスループットスクリーニングまたはハイスループットスクリーニングの文脈において特に興味深い(以下参照)。
【0106】
第3または第4の局面による本発明の方法の好ましい態様において、工程(c)で形成されるフェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の量は、工程(b)で形成される量と比較される。
【0107】
第3または第4の局面による本発明の方法の好ましい態様において、工程(c)で形成されるフェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の量が、工程(b)と比較して減少することは、PI3Kが化合物の標的であることを示す。これは、本発明のこの方法の工程(c)において、化合物がPI3Kの結合についてリガンドと競合するという事実に起因する。より少ないPI3Kが、化合物と共にインキュベートされたアリコート中に存在する場合、これは好ましくは、化合物が、酵素との相互作用において阻害剤と競合しており、したがって化合物がタンパク質の直接の標的であることおよび逆もまた同様であることを意味する。
【0108】
好ましくは、本発明の同定方法は、ミディアムスループットスクリーニングまたはハイスループットスクリーニングとして行われる。
【0109】
本発明により同定される相互作用化合物は、PI3Kに対する、例えばそのキナーゼ活性に対する効果を有するかどうかを判定することによりさらに特徴付けされうる(Carpenter et al., 1990, J. Biol. Chem. 265, 19704-19711)。このようなアッセイは、当技術分野において、さらにミディアムスループットからハイスループットスクリーニングを可能にする形式で公知である(Fuchikami et al., 2002, J. Biomol. Screening 7, 441-450)。
【0110】
加えて、本発明により同定された相互作用化合物は、ATM、ATR、DNAPK、またはmTORに対する効果、例えばそのキナーゼ活性に対する効果を有するかどうかを判定することにより、さらに特徴付けされうる(Knight et al., 2004. Bioorganic and Medicinal Chemistry 12, 4749-4759; Knight et al., 2006, Cell 125, 733-747)。
【0111】
簡単に言うと、PI3K脂質キナーゼ活性は、リン脂質の小胞を有する溶液に基づくアッセイを用いて測定され得る。反応は、酸性化した有機溶媒の添加により停止され、続いて抽出または薄層クロマトグラフィー解析により相分離される(Carpenter et al., 1990, J. Biol. Chem. 265, 19704-19711)。
【0112】
あるいは、蛍光偏光アッセイ形式が用いられ得る。簡単に言うと、PI3Kは、適切なホスホイノシトール基質と共にインキュベートされる。反応が完了した後、反応産物は特異的なホスホイノシトール検出タンパク質および蛍光ホスホイノシトールプローブと共に混合される。偏光(mP)度は、ホスホイノシトール検出タンパク質へ結合するプローブが反応産物により置換された場合に、低下する。蛍光プローブの偏光の程度は、PI3K反応の産物の量と反比例する(Drees et al., 2003, Comb. Chem. High Throughput Screening 6, 321-330)。
【0113】
PI3Kタンパク質キナーゼ活性の決定のために、適切なペプチド基質を用いた蛍光偏光アッセイが用いられ得る。簡単に言うと、蛍光で標識されたペプチド基質が、PI3K(例えばPI3Kδ)、ATP、および抗ホスホセリン抗体と共にインキュベートされ得る。反応が進行するにしたがって、リン酸化されたペプチドが抗ホスホセリン抗体と結合し、結果として偏光シグナルが増大する。キナーゼを阻害する化合物は、偏光シグナルの低下をもたらす。
【0114】
本発明により同定される化合物は、さらに最適化される可能性がある(リード最適化)。そのような化合物のこの続いての最適化は、これらのリード生成ライブラリーにおいてコードされる構造活性相関(SAR)情報のため、しばしば加速される。リード最適化は、フォローアップ合成のためのハイスループットケミストリー(HTC)法の即座の適用性のために、しばしば促進される。
【0115】
このようなライブラリーおよびリード最適化の一例が、PI3Kγについて記載されている(Pomel et al., 2006, J. Med. Chem. 49, 3857-3871)。
【0116】
本発明の方法は、化合物が、固定化されたフェニルチアゾールリガンド1からATM、ATR、DNAPK、および/またはmTORをも分離させることができるかどうか(本発明の第1の局面)、またはフェニルチアゾールリガンド1とATM、ATR、DNAPK、および/またはmTORとの複合体もまた形成されているかどうかを判定する方法工程を含む。前述の通り、これらの工程は、本質的には上記のようにPI3Kに対して行うことができ、ここである一定のキナーゼに特異的な作用物質、例えば抗体が、必要に応じて用いられる。
【0117】
これらの方法工程の背景にある理論的根拠は、同定されたPI3K相互作用化合物の特異性を決定することができるという点にある。本発明の文脈において、PI3Kに特異的である、すなわちATM、ATR、DNAPK、および/またはmTORのより少ない範囲に結合する、またはさらにより好ましくはこれらタンパク質のうちの1つまたは全てに結合しない、PI3K相互作用化合物を同定することが好ましい。
【0118】
本発明はさらに、以下の工程を含む、薬学的組成物の調製のための方法に関する:
(a)上記のようなPI3K相互作用化合物を同定する工程、および
(b)相互作用化合物を薬学的組成物へと製剤化する工程。
【0119】
したがって、本発明は、有効量で被験体に投与される可能性がある、薬学的組成物の調製のための方法を提供する。好ましい局面において、治療剤は実質的に精製される。処置されるべき被験体は好ましくは動物を含むが、ウシ、ブタ、ウマ、トリ、ネコ、イヌなどの動物に限定されず、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトである。特定の態様においては、非ヒト哺乳動物が被験体である。
【0120】
本発明により同定される化合物は、PI3Kが癌(例えば乳癌、大腸癌または卵巣癌)、代謝性疾患(例えば糖尿病または肥満)または自己免疫性/炎症性疾患(例えばリウマチ性関節炎、乾癬、クローン病、潰瘍性大腸炎、喘息またはアレルギー性反応)などの役割を果たす、疾患の予防または処置のために有用である。
【0121】
したがって、本発明はまた、1つまたは複数の上記疾患の処置のための薬剤の調製に対する本発明の方法により同定される化合物の使用にも関する。さらに、本発明は、前記化合物を含む薬学的組成物に関する。
【0122】
一般に、本発明の薬学的組成物は、治療上有効量の治療剤および薬学的に許容される担体を含む。特定の態様において、用語「薬学的に許容される」は、動物での使用、より詳細にはヒトでの使用について連邦政府もしくは州政府の監督機関により認可されているか、または米国薬局方もしくは他の一般的に認識された薬局方に列記されていることを意味する。用語「担体」は、治療剤と共に投与される、希釈剤、アジュバント、賦形剤、または媒体を指す。このような薬学的な担体は、水およびオイル等の滅菌した液体であってもよく、石油、動物、野菜、または合成の起源のものを含み、以下に限定されないがピーナッツオイル、大豆油、ミネラルオイル、およびセサミオイル等を含む。水は、薬学的組成物が経口で投与される場合、好ましい担体である。生理食塩水およびデキストロース水溶液は、薬学的組成物が静脈内に投与される場合、好ましい担体である。生理食塩水溶液およびデキストロース水溶液およびグリセロール溶液は好ましくは、注射用溶液の液体担体として使用される。適切な薬学的な賦形剤は、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、コメ、穀粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水およびエタノールなどを含む。組成物はまた、望ましい場合、微量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤も含み得る。これらの組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、錠剤、丸剤、カプセル、粉末、および徐放剤の形態を取り得る。組成物は、トリグリセリドなどの典型的な結合剤および担体を用いて、坐剤として製剤化され得る。経口の製剤は、製薬等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的な担体を含み得る。適切な薬学的な担体の例は、E.W. Martinによる"Remington's Pharmaceutical Sciences"に記載されている。このような組成物は、患者に適した投与のための形態を提供するよう、好ましくは精製された形の治療上有効量の治療剤を、適切な量の担体と共に含む。剤形は、投与の方式に適合させるべきである。
【0123】
好ましい態様において、組成物は、日常的な手法に従って、ヒトへの静脈内投与のために適応した薬学的組成物として製剤化される。典型的には、静脈内投与のための組成物は、滅菌した等張水性緩衝液中の溶液である。必要である場合、組成物はまた、注射部位での痛みを緩和するため、可溶化剤およびリドカイン等の局所麻酔薬も含む可能性がある。一般的に、成分は、剤形単位で、例えば、活性物質の量を示すアンプルまたはサシェ(sachette)等の密閉された容器中の凍結乾燥した粉体または水を含まない濃縮物として、別々に供給されるかまたは一緒に混合されるかのいずれかで供給される。組成物が注入により投与される場合、滅菌した製薬等級の水または生理食塩水を含む注入ボトルにより調剤され得る。組成物が注射により投与される場合、注射用の滅菌した水または生理食塩水のアンプルは、成分を投与前に混合できるように提供され得る。
【0124】
本発明の治療剤は、中性のまたは塩の形態として製剤化され得る。薬学的に許容される塩は、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来する塩などの遊離カルボキシル基によって形成される塩、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来する塩などの遊離アミノ基によって形成される塩、およびナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、および水酸化第二鉄などに由来する塩を含む。
【0125】
特定の障害または状態の処置に有効であろう本発明の治療剤の量は、障害または状態の性質に依存し、標準的な臨床技術により決定され得る。加えて、インビトロアッセイが、最適な投薬量の範囲の同定を助けるために任意で使用されてもよい。製剤で使用されるべき正確な用量はまた、投与の経路、および疾患または障害の重篤度にも依存するとされ、実施者および各患者の環境の判断により決定されるべきである。しかしながら、静脈内投与のための適切な投薬量の範囲は一般に、体重1キログラムあたり約20〜500マイクログラムの活性化合物である。鼻腔内投与のための適切な投薬量の範囲は一般に、体重1 kgあたり約0.01 pg〜1 mgである。有効な用量は、インビトロシステムまたは動物モデル試験システムに由来する用量反応曲線から推定されてもよい。一般に、坐剤は、重量で0.5%〜10%の範囲で活性成分を含む可能性があり、経口剤は好ましくは、10%〜95%の活性成分を含む。
【0126】
種々の送達システムが公知であり、本発明の治療剤の投与のために用いられ得る、例えば、リポソーム、微粒子、およびマイクロカプセル中のカプセル封入、治療剤を発現する能力を有する組換え細胞の使用、受容体媒介エンドサイトーシスの使用(例えば、Wu and Wu, 1987, J. Biol. Chem. 262:4429-4432)、レトロウイルスベクターまたは他のベクターの部分としての治療用核酸の構築などである。導入の方法は、皮内の、筋肉内の、腹腔内の、静脈内の、皮下の、鼻腔内の、硬膜外のおよび経口の経路を含むが、これに限定されない。化合物は、任意の簡便な経路、例えば、注入により、ボーラス注射により、上皮または粘膜皮膚の内層(例えば、経口、直腸および消化管の粘膜)を通じての吸収により投与されてもよく、他の生物学的に活性な物質と共に投与されてもよい。投与は、全身的または局所的であり得る。加えて、本発明の薬学的組成物を脳室内およびくも膜下腔内注射を含む任意の適切な経路により中枢神経系内に導入することが望ましい場合があり、脳室内注射は脳室内カテーテル、例えば、オマヤレザバーなどのレザバーに取り付けることにより容易になる可能性がある。例えば、吸入器またはネブライザー、およびエアロゾル化した剤による製剤の使用により、肺投与もまた使用され得る。
【0127】
特定の態様において、本発明の薬学的組成物を処置の必要な領域に局所的に投与することが望ましい場合がある。これは、限定する目的ではないが、例えば、術中の局所的な注入により、例えば術後の外傷用医薬材料との併用による局所適用により、注射により、カテーテルの手段により、坐剤の手段により、またはシアラスティック(sialastic)膜などの膜もしくはファイバーを含む多孔性、非多孔性またはゼラチン状の物質であるインプラントの手段により、達成される可能性がある。1つの態様において、投与は、悪性腫瘍または腫瘍性もしくは前腫瘍性組織の部位(または以前の部位)での直接注射により行われ得る。
【0128】
別の態様において、治療剤は、小胞、特にリポソーム中で送達され得る(Langer, 1990, Science 249:1527-1533)。
【0129】
さらに別の態様において、治療剤は、制御放出システムを介して送達され得る。1つの態様において、ポンプが用いられる可能性がある(上記Langer)。さらに別の態様において、制御放出システムは、治療標的の近く、すなわち脳に配置され、全身性の用量の何分の1かのみを必要とし得る。
【0130】
本発明の文脈において、フェニルチアゾールリガンド1がATM、ATR、DNAPK、およびmTORのリガンドであることが見出されている。したがって、本発明はまた、ATM、ATR、DNAPK、および/またはmTORと相互作用する化合物の同定のための方法にも関する。これらの方法は、PI3K相互作用化合物の同定の文脈において上記のように行われる。さらに、ATM、ATR、DNAPK、またはmTORと相互作用する化合物の同定のためのこれらの方法が、所与の化合物が本発明において定義される他のPIKKキナーゼとも相互作用することができる可能性があるかどうかを判定する工程を含んでも含まなくてもよいことが、本発明の範囲内で想定される。
【0131】
本発明はさらに、以下の工程を含む、ATM、ATR、DNAPK、および/またはmTORの精製のための方法に関する:
(a) 前記タンパク質の1つまたは複数を含むタンパク質調製物を提供する工程、
(b) タンパク質調製物と、固体支持体上に固定化されたフェニルチアゾールリガンド1とを、フェニルチアゾールリガンド1-タンパク質複合体の形成を可能にする条件下で接触させる工程、ならびに
(c) 固定化されたフェニルチアゾールリガンド1からタンパク質を分離する工程。
【0132】
上述のように、驚くべきことに、フェニルチアゾールリガンド1がこれらのタンパク質を認識するリガンドであることが見出された。これは、これらのタンパク質の効率のよい精製方法を可能にする。
【0133】
本発明の同定方法のために上記で定義した態様はまた、本発明の精製方法にも当てはまる。
【0134】
好ましくは、前記精製は、上記に説明されているようなアイソフォーム特異的な抗体を用いて行われる。
【0135】
好ましい態様において、本発明の精製方法は、工程(c)後に、ATM、ATR、DNAPK、および/またはmTORに結合が可能であるタンパク質の同定をさらに含む。これは、次に質量分析(MS)の助けによって同定され得る、結合パートナー、酵素サブユニット、または翻訳後修飾の存在を含む酵素の、自然な状態をその後に保存できるため、複合体の形成が本質的に生理的な条件下で行われた場合に特に興味深い。
【0136】
したがって、好ましい態様において、本発明の精製方法は、所与のタンパク質が例えばユビキチン修飾によりさらに翻訳後修飾されるかどうかの判定を工程(c)後にさらに含む。
【0137】
本発明はさらに、ATM、ATR、DNAPK、および/またはmTORと相互作用する化合物の同定のための、およびPI3Kの精製のための、フェニルチアゾールリガンド1の使用に関する。上記に定義された態様はまた、本発明の使用にも適用される。
【0138】
本発明の好ましい態様において、フェニルチアゾールリガンド1のみならず、さらに別のリガンド、すなわち図16に示すようなフェニルモルホリン-クロメンリガンド(8-(4-アミノメチル-フェニル)-2-モルホリン-4-イル-クロメン-4-オン)、またはその誘導体、例えば同一のコアを含むが固体支持体との結合のために好ましくは環状構造の一部ではない窒素と結合する別のリンカーを有する化合物が、相互作用化合物の同定のために用いられてもよい。したがって、本発明のこれらの態様において、両方のリガンドが固定される。この文脈において、ビーズが用いられる場合、両方のリガンドが同じビーズ上に固定化されること、または一方のリガンドが1つのビーズ上に固定化され、もう一方のリガンドが別のリガンド上に固定化されることが含まれる。この文脈において、典型的なリンカーは、8、9または10個の原子からなる骨格を有する。リンカーは、カルボキシ、ヒドロキシ、またはアミノ活性基のいずれかを含んでもよい。
【0139】
本発明はさらに、添付の図面および以下の実施例により例示され、これらは本出願の特許請求の範囲により与えられる保護の範囲を限定するものとしては見なされない。
【実施例】
【0140】
実施例1: アフィニティマトリックスの調製
この実施例は、細胞溶解物からのPI3Kキナーゼのアフィニティ捕捉のためのアフィニティマトリックスの調製を例示する。捕捉用リガンドをアミノ官能基を用いた共有結合により固体支持体上に共有結合的に固定した。このアフィニティマトリックスを実施例2、実施例3、および実施例4において用いた。
【0141】
フェニルチアゾールリガンド1(3-(2-{2-[2-(2-アミノ-エトキシ)-エトキシ]-エトキシ}-エトキシ)-N-[5-(4-クロロ-3-メタンスルホニル-フェニル)-4-メチル-チアゾール-2イル]-プロピオンアミドヒドロクロリド)の合成
工程1〜3:
1-ブロモ-1-(4-クロロ-3-メタンスルホニル-フェニル)-プロパン-2-オンをWO2003/072557に記載された手法に従って調製した。
【0142】
工程4: 5-(4-クロロ-3-メタンスルホニル-フェニル)-4-メチル-チアゾール-2-イルアミン
1-ブロモ-1-(4-クロロ-3-メタンスルホニル-フェニル)-プロパン-2-オン(480 mg 1.5 mmol)およびチオ尿素(114 mg 1.5 mmol)をエタノール(12 ml)中に混合し、70℃まで2時間加熱した。反応混合物を室温まで冷却させ、固体産物をろ過により集め、真空下で乾燥させ、オフホワイトの固体(375 mg)として5-(4-クロロ-3-メタンスルホニル-フェニル)-4-メチル-チアゾール-2-イルアミンを得た。

【0143】
工程5: (2-{2-[2-(2-{2[5-(4-クロロ-3-メタンスルホニル-フェニル)-4-メチル-チアゾール-2-イルカルバモイル]-エトキシ}-エトキシ)-エトキシ]-エトキシ}-エチル)-カルバミン酸 tert-ブチルエステル
3-(2-{2-[2-(2-tert-ブトキシカルボニルアミノ-エトキシ)-エトキシ]-エトキシ}-エトキシ)-プロピオン酸(690 mg 1.9 mmol)、EDAC(403 mg 2.1 mmol)、HOBT(284 mg 2.1 mmol)、NMM(420 uL 3.8 mmol)および5-(4-クロロ-3-メタンスルホニル-フェニル)-4-メチル-チアゾール-2-イルアミン(520 mg 1.7 mmol)をジメチルホルムアミド(16 ml)中に混合し、一晩室温で攪拌した。溶媒を減圧下で除去し、残留物をジクロロメタン(150 ml)中に溶解し、1M HCl水溶液(50 ml)および炭酸水素ナトリウム飽和水(50 ml)で洗浄し、乾燥し(硫酸マグネシウム)、ろ過し、蒸発させた。残留物を、0〜2%メタノール/ジクロロメタンで溶出する50 g ISTシリカフラッシュカートリッジを用いたフラッシュクロマトグラフィーにより精製し、油状の(2-{2-[2-(2-{2[5-(4-クロロ-3-メタンスルホニル-フェニル)-4-メチル-チアゾール-2-イルカルバモイル]-エトキシ}-エトキシ)-エトキシ]-エトキシ}-エチル)-カルバミン酸 tert-ブチルエステル(1.1g 残留溶媒存在)を得た。

【0144】
工程6: 3-(2-{2-[2-(2-アミノ-エトキシ)-エトキシ]-エトキシ}-エトキシ)-N-[5-(4-クロロ-3-メタンスルホニル-フェニル)-4-メチル-チアゾール-2イル]-プロピオンアミドヒドロクロリド
(2-{2-[2-(2-{2[5-(4-クロロ-3-メタンスルホニル-フェニル)-4-メチル-チアゾール-2-イルカルバモイル]-エトキシ}-エトキシ)-エトキシ]-エトキシ}-エチル)-カルバミン酸 tert-ブチルエステル(1.0 g 1.5 mmol)をジクロロメタン(10 ml)中に溶解し、HCl(4 Mジオキサン溶液4 ml)で処理した。反応物を3時間室温で攪拌した。溶媒を蒸発させ、残留物を真空下で乾燥し、黄色の粘性油状の3-(2-{2-[2-(2-アミノ-エトキシ)-エトキシ]-エトキシ}-エトキシ)-N-[5-(4-クロロ-3-メタンスルホニル-フェニル)-4-メチル-チアゾール-2イル]-プロピオンアミドヒドロクロリド(830 mg 残留溶媒存在)を得た。

NMRスペクトルをBruker dpx400によって得た。
【0145】
(表1)用いられる略語

【0146】
ビーズ(アフィニティマトリックス)上へのフェニルチアゾールリガンド1の固定化
NHS活性化セファロース4 Fast Flow(Amersham Biosciences, 17-0906-01)を無水DMSO(ジメチルスルホキシド、Fluka、41648、H2O <= 0.005%)で平衡化した。1 mlの安定化したビーズを15 mlファルコンチューブ中に置き、化合物保存溶液(通常、DMFまたは DMSO中で100 mM)を加え(ビーズ1 mlあたり最終濃度0.2〜2μmol)、同様に15μlのトリエチルアミン(Sigma、T-0886、99%純粋)を加えた。ビーズを室温暗中で回転振とう機(Roto Shake Genie, Scientific Industries Inc.)で16〜20時間インキュベートした。結合効率をHPLCにより決定する。反応しなかったNHS基を、アミノエタノールと共に室温で回転振とう機で一晩インキュベーションすることによりブロックした。ビーズを10 mlのDMSOで洗浄し、イソプロパノール中に-20℃で保存した。これらのビーズを実施例2、3、および4においてアフィニティマトリックスとして用いた。対照ビーズ(リガンドが固定化されていない)を、上記のようにアミノエタノールと共にインキュベーションすることによりNHS基をブロックすることによって作製した。
【0147】
実施例2: 固定化されたフェニルチアゾールリガンド1を用いたPI3Kの薬物プルダウン
この実施例は、ヒトT細胞系(MOLT-4細胞; ATCC番号CRL-1582)の細胞溶解物からのPI3Kタンパク質の同定のための、固定化されたフェニルチアゾールリガンド1の使用を明らかにする。この目的のために、MOLT-4細胞の溶解物を実施例1に記載のアフィニティマトリックスと接触させた。フェニルチアゾールリガンド1に結合するタンパク質を、ウェスタンブロットおよび質量分析(MS)により同定した。
【0148】
ウェスタンブロット解析として、結合タンパク質をアフィニティマトリックスから溶出し、続いてSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離した。PI3KγおよびPI3Kδを、特異的抗体で検出した(図2)。ウェスタンブロット解析の結果は、固定化されたフェニルチアゾールリガンド1が細胞溶解物からPI3KγおよびPI3Kδを捕捉する(プルダウン)ことを示す。
【0149】
質量分析によるタンパク質の同定として、アフィニティマトリックスにより捕捉されたタンパク質を溶出し、続いてSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離した(図3)。適切なゲルバンドを切り出し、トリプシンによるゲル中タンパク質消化に供し、LC-MS/MS質量分析により解析した。
【0150】
PI3Kファミリーのメンバーの同定を表3に記述する。PI3Kγのペプチド配列の範囲(coverage)を図4に、PI3Kδについて図5に示す。
【0151】
1. 細胞培養
MOLT-4細胞(ATCC番号1582)を、1リットル スピナーフラスコ(Integra Biosciences, #182101)内で10%ウシ胎仔血清(Invitrogen)を補充したRPMI 1640培地(Invitrogen, #21875-034)中に懸濁状態で細胞0.15×106〜1.2×106個/mlの密度で増殖させた。細胞を遠心分離により収集し、1×PBS緩衝液(Invitrogen, #14190-094)で一度洗浄し、細胞ペレットを液体窒素中で凍結させ、続いて-80℃で保存した。
【0152】
2. 細胞溶解物の調製
MOLT-4細胞を、溶解緩衝液: 50 mM Tris-HCl、0.8% NP40、5%グリセロール、150 mM NaCl、1.5 mM MgCl2、25 mM NaF、1 mM バナジウム酸ナトリウム、1 mM DTT、pH 7.5中でPotter Sホモジナイザーでホモジナイズした。完全にEDTAを含まない錠剤(プロテアーゼ阻害剤カクテル、Roche Diagnostics, 1 873 580)を、25 ml緩衝液あたり一錠加えた。材料を機械化されたPOTTER Sを用いて10回加圧型細胞粉砕(dounce)し、50 mlファルコンチューブに移し、30分間氷上でインキュベートし、10分間20,000 g、4℃で遠心沈殿した(予冷したSorvall SLA600で10,000 rpm)。上清を超遠心(UZ)-ポリカーボネートチューブ(Beckmann, 355654)に移し、1時間100.000 g、4℃で回転した(予冷したTi50.2で33.500 rpm)。上清を新しい50 mlファルコンチューブに移し、タンパク質濃度をBradfordアッセイ(BioRad)により決定し、アリコートあたり50 mg のタンパク質を含む試料を調製した。試料は、直ちに実験に用いられるか、または液体窒素中で凍結し-80℃で凍結保存した。
【0153】
3. 化合物プルダウン実験
固定化された化合物を有するセファロース-ビーズ(プルダウン実験あたり100μlビーズ)を溶解緩衝液中で平衡化し、50 mgのタンパク質を含む細胞溶解物試料と共に回転振とう機(Roto Shake Genie, Scientific Industries Inc.)で2時間4℃でインキュベートした。ビーズを集め、Mobicol-カラム(MoBiTech 10055)に移し、0.5% NP40界面活性剤を含む10 ml溶解緩衝液、続いて0.25%界面活性剤を有する溶解緩衝液5 mlで洗浄した。結合タンパク質を溶出するために、2×SDS試料緩衝液60μlを加え、カラムを30分間50℃で加熱し、溶出液を遠心分離により微小遠心管に移した。次に、タンパク質をSDSポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)により分離した。
【0154】
4. ウェスタンブロット解析によるタンパク質検出
ウェスタンブロットを、標準的な手法に従い行い、特異的な抗PI3K抗体(一次抗体)、蛍光で標識された二次抗体およびLI-COR Biosciences(Lincoln, Nebraska, USA)のOdyssey赤外線イメージングシステムを用いて製造者により提供された説明書(Schutz-Geschwendener et al., 2004. Quantitative, two-color Western blot detection with infrared fluorescence. Published May 2004 by LI-COR Biosciences, www.licor.com)に従って、PI3Kタンパク質を検出および定量した。
【0155】
マウス抗PI3Kγ抗体(Jena Bioscience, カタログ番号ABD-026S)を1:200の希釈で用い、ブロット共に一晩4℃でインキュベートした。二次抗マウスIRDye(商標)800抗体(Rockland, カタログ番号610-732-124)を1:15000の希釈で用いた。ウサギ抗PI3Kδ抗体(Santa Cruz, カタログ番号sc-7176)を1:600で希釈し、4℃で一晩インキュベートした。二次検出抗体として、抗ウサギIRDye(商標)800抗体を1:20000で希釈した(LICOR, カタログ番号926-32211)。
【0156】
5. 質量分析によるタンパク質同定
5.1 質量分析前のタンパク質消化
Shevchenko et al., 1996, Anal. Chem. 68:850-858により記載された手法に従って、ゲル分離したタンパク質をゲル中で本質的に還元し、アルキル化し、消化した。簡単に言うと、ゲル分離したタンパク質をきれいなメスを用いてゲルから切り取り、10 mM DTT(5 mM重炭酸アンモニウム中で54℃、45分)を用いて還元し、続いて55 mMヨードアセトアミド(5 mM重炭酸アンモニウム中で)を用い室温暗中でアルキル化した(30分間)。還元されかつアルキル化されたタンパク質を、5 mM重炭酸アンモニウム中12.5 ng/μlのプロテアーゼ濃度でブタトリプシン(Promega)を用いてゲル中で消化した。消化を4時間37℃で進行させ、続いて5μlの5%ギ酸を用いて反応を停止した。
【0157】
5.2 質量分析による解析前の試料調製
ゲルプラグを20μlの1% TFAで2回抽出し、酸性化した消化上清と共にプールした。試料を真空遠心機内で乾燥させ、10μlの0.1%ギ酸中に再懸濁した。
【0158】
5.3. 質量分析データの取得
ペプチド試料を、四重極TOF(QTOF2, QTOF Ultima, QTOF Micro, Micromass)またはイオントラップ(LCQ Deca XP)質量分析器のいずれかに直接結合した、ナノLCシステム(CapLC, WatersまたはUltimate, Dionex)内に注入した。ペプチドを水性溶媒および有機溶媒の勾配を用いてLCシステムで分離した(以下を参照)。溶媒Aは、0.5%ギ酸中の5%アセトニトリルであり、溶媒Bは0.5%ギ酸中の70%アセトニトリルである。
【0159】
(表2)LCシステムから流出するペプチドの、質量分析器内での部分的なシークエンシング

【0160】
5.4. タンパク質同定
LC-MS/MS実験で生じたペプチド質量および断片化データは、NCBI(NCBInr、dbESTならびにヒトおよびマウスゲノムについて)およびEuropean Bioinformatics Institute(EBI、ヒト、マウス、キイロショウジョウバエ(D. melanogaster)、および線虫のプロテオームデータベースについて)で維持および定期的にアップデートされるfastaフォーマット型のタンパク質およびヌクレオチド配列データベースに対してクエリーを行うために用いた。測定したペプチド質量および断片化データをソフトウェアツールMascotを用いてデータベース中のエントリから計算された同じデータと関連付けることにより、タンパク質を同定した(Matrix Science; Perkins et al., 1999. Probability-based protein identification by searching sequence databases using mass spectrometry data. Electrophoresis 20, 3551-3567)。どの質量分析器が解析に用いられたかに応じて、検索基準は変化する。
【0161】
(表3)質量分析により同定されたPI3Kタンパク質
(MOLT-4細胞; 実験P15234B; MS試料はポリアクリルアミドゲルから切り出されたゲル切片を指す(図3))

【0162】
実施例3: PI3Kγ相互作用化合物の同定のための溶出アッセイ
フェニルチアゾールリガンド1アフィニティマトリックスの調製を実施例1に記載の通りに行った。96ウェルプレート中で最大で80個の化合物をスクリーニングするために、溶出実験を以下に記載の通りに行う。
【0163】
溶出アッセイ
アフィニティマトリックス(1200μlのビーズ)を30 mlの1×DP-緩衝液で2回洗浄した。各洗浄工程後、ビーズをHeraeus遠心機で2分間1200 rpm、4℃での遠心分離により集めた。上清を捨てた。最後に、ビーズを15 ml結合緩衝液(1×DP緩衝液/0.4% NP40)中で平衡化した。このインキュベーション期間後、ビーズを収集し、50 mlファルコンチューブ中でMOLT-4細胞溶解物と総量75 mgタンパク質を有する5 mg/mlのタンパク質濃度で混合した。溶解物の調製を実施例2に記載の通りに行った。ビーズおよび溶解物を2時間4℃でインキュベートした。溶解物とのインキュベーションの後、ビーズを記載のような遠心分離により集め、2 mlカラム(MoBiTec, #S10129)に移し、10 mlの1×DP緩衝液/0.4% NP40および5 mlの1×DP緩衝液/0.2% NP40で洗浄した。一度、洗浄緩衝液がカラムを完全に通過してしまってから、カラム中に残されたビーズの量を計算した(およそ1000μl)。ビーズを4倍量を超える1×DP-緩衝液/0.2% NP40(4 ml)中に再懸濁し、20%スラリーを生じた。化合物溶出試験のために、50μlのこの懸濁物を96ウェルプレート(Millipore MultiScreenHTS, MSBVN1210、蓋および1.2um 親水性低タンパク質結合Durapore膜付き)の各ウェルに加えた。残留緩衝液を取り除くために、96ウェルプレートをアセンブル(Assemble)フィルターおよび収集プレートと共に構築し、このサンドイッチアセンブリを遠心機で10秒間800 rpmで遠心沈殿した。次に、試験化合物を追加した40μlの溶出緩衝液(1×DP-緩衝液/0.2% NP40)をビーズに加えた。DMSO中で40倍に濃縮した保存溶液から出発し希釈緩衝液で希釈することにより、試験化合物を調製した。プレートを収集プレート上に構築し、Eppendorfインキュベータ上に固定し、30分間4℃、650 rpmの振とうでインキュベートした。溶出液を収集するために、96ウェル収集プレート上に構築された96ウェルフィルタープレートを、卓上遠心機(Heraeus)で1分間4℃、800 rpmで遠心分離した。ドットブロットの手法を用いて、PI3KγおよびPI3Kδの存在について溶出液を調べた。
【0164】
溶出されたPI3Kγの検出
PI3Kγに対する抗体(Jena Bioscience, #ABD-026S)、蛍光でラベルされた二次抗マウスIRDye(商標)800(Rockland, #610-732-124)およびLI-COR Biosciences(Lincoln, Nebraska, USA)のOdyssey赤外線イメージングシステムを用いて、製造者により提供された説明書(Schutz-Geschwendener et al., 2004. Quantitative, two-color Western blot detection with infrared fluorescence. Published May 2004 by LI-COR Biosciences, www.licor.com)に従って、溶出されたPI3Kγタンパク質をドットブロット手法により検出および定量化した。
【0165】
ニトロセルロース膜を20%エタノールで処理し、続いて1×PBS緩衝液で洗浄した。溶出液を(上記のように)12μlの4×SDSローディング緩衝液(200 mM Tris-HCl pH6.8、8% SDS、40%グリセロール、0.04%ブロモフェノールブルー)と合わせて、BioRadドットブロット装置(BioRad, #170-6545)を用いてニトロセルロース膜に添加した。
【0166】
PI3Kγの検出のために、Odysseyブロッキング緩衝液で1時間のインキュベーションにより、膜を一次ブロックした。ブロックした膜を、0.2% Tween 20を追加したOdysseyブロッキング緩衝液で1:100に希釈した一次抗体(Jena Bioscienceのマウス抗PI3Kγ、ABD-026S)と共に16時間4℃でインキュベートした。膜を0.1% Tween 20を含む1×PBS緩衝液で5分間4回洗浄した後、0.2% Tween 20を追加したOdysseyブロッキング緩衝液で1:10000に希釈した検出抗体(Rocklandの抗マウスIRDye(商標)800、610-732-124)と共に膜を40分間インキュベートした。その後、1×PBS緩衝液/0.1% Tween 20で5分間4回および1×PBS緩衝液で5分間1回、膜を洗浄した。その後、膜をOdysseyリーダーでスキャンし、データを解析した。
【0167】
(表4)5×-DP緩衝液の調製

【0168】
5×-DP緩衝液を0.22μmフィルターを通してろ過し、40 mlのアリコートとして-80℃で保存した。これらの溶液を以下の供給者から得た: 1.0 M Tris/HCl pH 7.5(Sigma, T-2663)、87%グリセロール(Merck, カタログ番号04091.2500)、1.0 M MgC12(Sigma, M-1028)、5.0 M NaCl(Sigma, S-5150)。
【0169】
溶出のための試験化合物
以下に列記した試験化合物を、以下に記載の希釈後の溶出実験のために用いた。典型的には、全ての化合物を100 mMまたは50 mMの濃度で100% DMSO(Fluka, カタログ番号41647)中に溶解した。化合物を-20℃で保存した。溶出実験のための試験化合物の希釈: 100 mM保存液を100% DMSOで1:1に希釈することにより50 mM保存液を調製する。溶出実験のために、化合物を溶出緩衝液(1×DP-緩衝液/0.2% NP40)でさらに希釈する。溶出に用いられる化合物:
化合物1: PI3K阻害剤LY294002(Tocris 1130; Vlahos et al., 1994, J. Biol. Chem. 269, 5241-5248)。
化合物2: PI3Kγ阻害剤(Calbiochem 528106; AS-605240; Camps et al., 2005, Nature Medicine 11, 936-943)。
化合物3: PI3Kγ阻害剤II(Calbiochem 528108; AS-604850; Camps et al., 2005, Nature Medicine 11, 936-943)。
【0170】
実施例4: PI3Kγ相互作用化合物の同定のための競合的結合アッセイ
この実施例は、試験化合物を細胞溶解物に直接加える競合的結合アッセイを明らかにする。試験化合物(種々の濃度で)および固定化されたフェニルチアゾールリガンド1を有するアフィニティマトリックスを溶解物のアリコートに加え、溶解物試料中に含まれるタンパク質に結合させた。インキュベーション期間後、捕捉されたタンパク質を有するビーズを溶解物から分離した。次に、結合タンパク質を溶出し、ドットブロット手法における特異的抗体およびOdyssey赤外線検出システムを用いて、PI3Kγの存在を検出および定量化した(図7A)。3つの化合物に対する用量反応曲線を作成した(図7B)。
【0171】
アフィニティマトリックスの洗浄
実施例1に記載したように、アフィニティマトリックス(乾燥量で1.1 ml)を0.4% NP40を含む15 mlの1×DP緩衝液で2回洗浄し、次に0.4% NP40を含む5.5 mlの1×DP緩衝液中に再懸濁した(20%ビーズスラリー)。
【0172】
試験化合物の調製
最終的に所望の試験濃度と比べて100倍の高い濃度に相当する、試験化合物の保存溶液を、DMSO中で調製した(例えば、4μMの最終試験濃度に対し、4 mM保存溶液を調製した)。この希釈スキームは、1%の最終DMSO濃度をもたらした。全ての試験試料が1% DMSOを含むため、対照実験(試験化合物なし)として1% DMSOを含む緩衝液を用いた。
化合物1: PI3K阻害剤LY294002(Tocris 1130; Vlahos et al., 1994, J. Biol. Chem. 269, 5241-5248)。
化合物3: PI3Kγ阻害剤II(Calbiochem 528108; AS-604850; Camps et al., 2005, Nature Medicine 11, 936-943)。
化合物4(CZC00015387)。
【0173】
細胞溶解物の希釈
細胞溶解物を実施例2に記載の通りに調製した。典型的な実験1として、50 mgタンパク質を含む溶解物アリコートを37℃水浴中で解凍し、次に4℃で保持した。0.4%の最終的なNP40濃度が達成されるような量の1×DP緩衝液を、溶解物に加えた。その次に、50倍濃縮プロテアーゼ阻害剤溶液の最終量の1/50を加えた(0.4% NP40を含む0.5 mlの1×DP緩衝液中に溶解した1錠のプロテアーゼ阻害剤; Roche DiagnosticsのEDTA不含プロテアーゼ阻害剤カクテル, カタログ番号41647)。5 mg/mlの最終タンパク質濃度を達成するように、溶解物を0.4% NP40を含む1×DP緩衝液を加えることによりさらに希釈した。
【0174】
溶解物と試験化合物およびアフィニティマトリックスとのインキュベーション
100μl量の希釈した溶解物を96ウェルフィルタープレートの各ウェル内に分注した。次に、DMSOで希釈した1.5μlの試験化合物を加えた。対照反応として、1.5μlのDMSOを試験化合物なしで用いた。次に、ウェルあたり50μlのアフィニティマトリックス(20%スラリー)を加えた。プレートを振とう機(Thermomixer、Eppendorfで750 rpm )で2時間4℃でインキュベートした。
【0175】
プレートを真空マニホールド機器(Millipore, MAVM 096 OR)を用いて洗浄した。0.4% NP-40を含む400μlの1×DP緩衝液で4回、0.2% NP-40を含む400μlの1×DP緩衝液で2回、 各ウェルを洗浄した。溶出のために、フィルタープレートを収集プレート上に置き、40μlの2×試料緩衝液(100 mM TrisHCl, pH6.8; 4% SDS; 20%グリセロール; 0.02%ブロモフェノールブルー)をDTT(50 mM最終濃度)と共に各ウェルに加えた。プレートを振とう機(Thermomixer、Eppendorfで750 rpm )で30分間室温でインキュベートした。続いて、プレートを2分間1100 rpm(Heraeus遠心機)で遠心分離し、溶出液を収集プレートのウェル中に集めた。
【0176】
溶出されたPI3Kγの検出および定量化
PI3Kγに対する一次抗体(Jena Bioscienceの抗PI3Kγ、ABD-026S)および蛍光で標識された二次抗体(Rocklandの抗マウスIRDye(商標)800、610-732-124)を用いるドットブロット手法により、溶出液中のPI3Kγタンパク質を検出および定量化した。LI-COR Biosciences(Lincoln, Nebraska, USA)のOdyssey赤外線イメージングシステムを製造者により提供された説明書(Schutz-Geschwendener et al., 2004. Quantitative, two-color Western blot detection with infrared fluorescence. Published May 2004 by LI-COR Biosciences, www.licor.com)に従って操作した。
【0177】
供給者の説明書(Bio-Dot microfiltration apparatus, BioRad 170-65)に従って、ドットブロット装置を用いた。ニトロセルロース膜(BioTrace NT Nitrocellulose, PALL BTNT30R)を20%エタノールで処理し、続いてPBS緩衝液で洗浄した。ドットあたり30μlの溶出液試料を添加し、真空ポンプを使用する前30分間そのままにした。
【0178】
PI3Kγの検出のために、Odysseyブロッキング緩衝液(LICOR, 927-40000)との1時間室温でのインキュベーションにより、膜を一次ブロックした。次に、ブロックした膜を、0.2% Tween-20を含むOdysseyブロッキング緩衝液で希釈した一次抗体(Jena Bioscienceの抗PI3Kγ, ABD-026S)と共に16時間4℃でインキュベートした。膜を0.1% Tween 20を含むPBS緩衝液で5分間4回洗浄した後、0.2% Tween-20を含むOdysseyブロッキング緩衝液で希釈された検出抗体(Rocklandの抗マウスIRDye(商標)800, 610-732-124)と共に40分間、膜をインキュベートした。その後、それぞれ1×PBS緩衝液/0.1% Tween 20で5分間4回、1×PBS緩衝液で5分間1回、膜を洗浄した。膜をPBS緩衝液中で4℃で保持し、次にOdyssey機器でスキャンし、製造者の説明書に従ってシグナルを記録および解析した。
【0179】
実施例5: 化合物を細胞溶解物または生細胞に加えることによるPI3Kδ相互作用化合物の化合物プロファイリング
この実施例は、試験化合物を細胞溶解物中に直接加える、または生細胞(RAW264.7マクロファージ)と共にインキュベートする結合アッセイを明らかにする。
【0180】
細胞溶解物競合的結合アッセイのために、化合物を溶解物試料に加え、溶解物試料中に含まれるタンパク質に結合させた。次に、試験化合物に結合しないタンパク質を捕捉するために、固定化されたフェニルチアゾールリガンドを含むアフィニティマトリックスを加えた。インキュベーション期間後、捕捉されたタンパク質を有するビーズを遠心分離により溶解物から分離した。次にビーズ結合タンパク質を溶出し、PI3Kδタンパク質の存在を特異的抗体およびOdyssey赤外線検出システムを用いて検出および定量化した。
【0181】
細胞内プロファイリング実験として第一に、生きているRAW264.7マクロファージのアリコートを細胞培養培地中で化合物と共に30分間インキュベートした。このインキュベーション期間中、化合物は細胞に入り、細胞内のタンパク質標的に結合することができる。次に、細胞を収集し、細胞溶解物を調製し、試験化合物に結合しないタンパク質を捕捉するためにアフィニティマトリックスを加えた。細胞溶解物のアフィニティマトリックスとのインキュベーションの90分後、捕捉されたタンパク質を有するビーズを遠心分離により溶解物から分離した。次に結合タンパク質を溶出し、PI3Kδの存在を特異的抗体およびOdyssey赤外線検出システムを用いて検出および定量化した。
【0182】
両手法とも、細胞透過性の参考化合物PI-103(図8)に対して同様の結果を生じた。他の2つの化合物(化合物5および6)は、溶解物アッセイではPI3Kδと相互作用したが、細胞アッセイでは有意に相互作用しなかった。この違いに対する考え得る理由の1つは、後者の2化合物の細胞透過性が十分ではないことが挙げられる。
【0183】
細胞培養
RAW264.7マクロファージ(American Type Culture Collection, Rockville, MD)を、5% CO2の存在下加湿された環境の中で、10%熱不活化ウシ胎仔血清(Gibco #10270)および1.5 g/L 重炭酸ナトリウム(Gibco #25080, 7.5%溶液)を追加したDulbecco変法イーグル培地(DMEM、4 mM L-グルタミン、4.5 g/L グルコース; Gibco #41965)中で37℃で培養した。セルスクレーパーを用いてDMEM培養培地中の培養皿から細胞を擦り取り、新鮮な培養培地に再播種することにより、マクロファージを継代培養した。継代数3に達した後、RAW264.7マクロファージを実験に使用した。細胞を、ホスフェートで緩衝化した生理食塩水(D-PBS, Gibco #14040)で1回洗浄し、DMEM培養培地中の培養皿から取り除き、1,000 rpmで室温で3分間遠心分離した。細胞ペレットをDMEM培養培地で再懸濁し、細胞数を決定した。25×106の細胞を1枚の10 cm培養皿の上に播種し、細胞がおよそ90%コンフルエンスに達するまで新鮮なDMEM培養培地中で48時間インキュベートした。
【0184】
A) 生細胞における化合物プロファイリング
試験化合物による細胞の処理
マクロファージをD-PBS緩衝液で洗浄し、新鮮なDMEM培養培地を加えた。0.2% DMSO(溶媒対照)含むDMEM培養培地、または10μM PI-103(Calbiochem, カタログ番号528100; Knight et al., 2006, Cell 125, 733-747)、10μM 化合物5もしくは10μM 化合物6を有するDMEM培養培地で、30分間にわたって細胞を処理した。試験化合物をDMSOで20 mM保存溶液として調製し、細胞培養培地中で10μM化合物および0.2% DMSOの最終濃度に達するようさらに希釈した。
【0185】
細胞溶解物の調製
培養培地を取り除き、細胞をD-PBS緩衝液で1回洗浄し、4 mlの氷冷D-PBS緩衝液を加えた。細胞を緩やかに擦り取り、D-PBS緩衝液中に再懸濁することにより、マクロファージを取り除いた。細胞懸濁液を15 mlファルコンチューブ内に移し、氷上で保持した。マクロファージ懸濁液を、1500 rpm4℃で3分間Heraeus Multifugeで遠心分離した。上清を取り除き、細胞ペレットを冷たいD-PBS緩衝液で洗浄した。追加の遠心分離工程の後、細胞ペレットを液体窒素中で急速に凍結した。細胞を氷上で解凍し、120μlの1×溶解緩衝液(1×DP緩衝液, 0.8% NP40)を加えることにより溶解した。溶解物を1.5 mlのEppendorfチューブ内に移し、30分間回転させ4℃でインキュベートし、次に10分間13,200 rpm、4℃で遠心分離した。上清を超遠心管内に移し、TLA-120.2ローターで53,000 rpm(100,000×g)、1時間4℃で遠心分離した。澄んだ上清のアリコートをBradfordアッセイ(Bioradタンパク質アッセイ色素濃縮物、カタログ番号500-0006)を行うタンパク質定量化に用いた。残りの試料を、液体窒素中で急速に凍結させ、結合アッセイでの使用まで-80℃で保存した。
【0186】
細胞溶解物の希釈
細胞溶解物をRAW264.7マクロファージから以下に記載の通りに調製した。1つの溶解物アリコートを37℃水浴中で解凍し、次に4℃で保持した。溶解物に、0.8%の最終NP40濃度を達成するような量のプロテアーゼ阻害剤(25 mlの1×DP緩衝液または0.8% NP40を含む25 mlの1×DP緩衝液に1錠のプロテアーゼ阻害剤を溶解させる; Roche DiagnosticsのEDTA不含の錠剤プロテアーゼ阻害剤カクテル、カタログ番号41647)を含む1容量の1×DP緩衝液を加えた。10 mg/mlの最終タンパク質濃度を達成するよう、0.8% NP40を含む1×DP緩衝液およびプロテイナーゼ阻害剤を加えることにより、溶解物をさらに希釈した。
【0187】
アフィニティマトリックスの洗浄
実施例1に記載の通りにアフィニティマトリックス(0.25 mlの乾燥ビーズ量)を、0.2% NP40を含む10 mlの1×DP緩衝液で2回洗浄し、最後に0.2% NP40を含む5.0 mlの1×DP緩衝液中に再懸濁した(5%ビーズスラリー)。
【0188】
細胞溶解物とアフィニティマトリックスとのインキュベーション
50μl量の希釈した溶解物(10 mg/mlタンパク質)を96ウェルフィルタープレートの各ウェルに分注した。次に、ウェルあたり100μlのアフィニティマトリックス(5%スラリー)を加えた。プレートを2時間4℃で振とう機(Thermomixer、Eppendorfで750 rpm)でインキュベートした。プレートを真空マニホールド機器(Millipore, MAVM 096 OR)を用いて洗浄した。各ウェルを0.4% NP-40を含む220μlの1×DP緩衝液で2回洗浄した。タンパク質の溶出のために、フィルタープレートを収集プレート上に置き、DTT(50 mM最終濃度)を有する20μlの2×試料緩衝液(100 mM TrisHCl, pH7.4; 4% SDS; 20%グリセロール; 0.0002%ブロモフェノールブルー)を各ウェルに加えた。プレートを30分間室温で振とう機(Thermomixer、Eppendorfで750 rpm)でインキュベートした。続いて、プレートを1100 rpm(Heraeus遠心機)で4分間遠心分離し、溶出液を収集プレートのウェル中に集めた。
【0189】
PI3Kδの検出および定量化
溶出液中のPI3Kδタンパク質を、ニトロセルロース膜上にアリコートをスポットし、PI3Kδに対する一次抗体および蛍光で標識された二次抗体で検出することにより、検出および定量化した。ニトロセルロース膜(BioTrace NT Nitrocellulose, PALL BTNT30R)を20%エタノールで前処理し、続いてPBS緩衝液で洗浄した。
【0190】
PI3Kδの検出のために、膜をOdysseyブロッキング緩衝液(LICOR, 927-40000)との1時間室温でのインキュベーションにより一次ブロックした。次にブロックした膜を、0.2% Tween-20を含むOdysseyブロッキング緩衝液で1:800に希釈した一次抗体(抗PI3Kδ, Santa Cruzのウサギポリクローナル抗体, カタログ番号sc-7176)と共に16時間4℃でインキュベートした。膜を0.1% Tween 20を含むPBS緩衝液で7分間4回洗浄した後、膜を0.2% Tween-20および0.02% SDSを含むOdysseyブロッキング緩衝液で1:2500に希釈された検出抗体(LICORのヤギ抗ウサギIRDye(商標)800CW, カタログ番号926-32211)と共に60分間インキュベートした。その後、膜をそれぞれ1×PBS緩衝液/0.1% Tween 20で5分間4回、および1×PBS緩衝液で5分間1回、洗浄した。膜をPBS緩衝液中で4℃で保持し、次にOdyssey機器でスキャンし、製造者の説明書に従ってシグナルを記録および解析した。LI-COR Biosciences(Lincoln, Nebraska, USA)のOdyssey赤外線イメージングシステムを、製造者により提供された説明書(Schutz-Geschwendener et al., 2004. Quantitative, two-color Western blot detection with infrared fluorescence. Published May 2004 by LI-COR Biosciences, www.licor.com)に従って操作した。
【0191】
B) 細胞溶解物における化合物プロファイリング
細胞溶解物の調製
培養培地を取り除き、細胞をD-PBS緩衝液で1回洗浄し、4 mlの氷冷D-PBS緩衝液を加えた。細胞を緩やかに擦り取りD-PBS緩衝液中に細胞を再懸濁することより、マクロファージを取り除いた。細胞懸濁液を15 mlファルコンチューブ内に移し、氷上で保持した。マクロファージ懸濁液を1500 rpm、4℃で3分間Heraeus Multifugeで遠心分離した。上清を取り除き、細胞ペレットを冷たいD-PBS緩衝液で洗浄した。追加の遠心分離工程の後、細胞ペレットを液体窒素中で急速に凍結させた。細胞を氷上で解凍し、120μlの1×溶解緩衝液(1×DP緩衝液, 0.8% NP40)を加えることにより溶解した。溶解物を1.5 mlのEppendorfチューブ内に移し、30分間回転させ4℃でインキュベートし、次に10分間13,200 rpm、4℃で遠心分離した。上清を超遠心機内に移し、TLA-120.2ローターで53,000 rpm(100,000×g)で1時間4℃で遠心分離した。澄んだ上清のアリコートをBradfordアッセイ(Biorad タンパク質アッセイ色素濃縮物、カタログ番号500-0006)を行うタンパク質定量化のために用いた。残りの試料を液体窒素中で急速に凍結させ、結合アッセイでの使用まで-80℃で保存した。
【0192】
細胞溶解物の希釈
細胞溶解物を以下に記載の通りにRAW264.7マクロファージから調製した。1つの溶解物アリコートを37℃水浴中で解凍し、次に4℃で保持した。溶解物に、0.8%の最終NP40濃度を達成するような量のプロテアーゼ阻害剤(1錠のプロテアーゼ阻害剤を25 mlの1×DP緩衝液または0.8% NP40を含む25 mlの1×DP緩衝液中に溶解させる; Roche DiagnosticsのEDTA不含の錠剤プロテアーゼ阻害剤カクテル, カタログ番号41647)を含む1容量の1×DP緩衝液を加えた。10 mg/mlの最終タンパク質濃度を達成するように0.8% NP40およびプロテイナーゼ阻害剤を含む1×DP緩衝液を加えることにより、溶解物をさらに希釈した。
【0193】
アフィニティマトリックスの洗浄
実施例1に記載したようにアフィニティマトリックス(0.25 mlの乾燥ビーズ量)を、0.2% NP40を含む10 mlの1×DP緩衝液で2回洗浄し、最後に0.2% NP40を含む5.0 mlの1×DP緩衝液中に再懸濁した(5%ビーズスラリー)。
【0194】
試験化合物の調製
溶解物での競合実験のために、アッセイにおける最終濃度と比べて50倍高い濃度に相当する試験化合物の保存溶液をDMSOで調製した(例えば、10μMの最終試験濃度に対して500μM保存溶液を調製した)。この希釈スキームは、アッセイにおいて2%の最終DMSO濃度をもたらした。全ての試験試料が2% DMSOを含むため、対照実験(試験化合物なし)として、2% DMSOを含む緩衝液を用いた。
【0195】
細胞溶解物と試験化合物およびアフィニティマトリックスとのインキュベーション
50μl量の希釈した溶解物(10 mg/mlタンパク質)を96ウェルフィルタープレートの各ウェル内に分注した。次に、DMSOで希釈した3.0μlの試験化合物を加えた。対照反応として、試験化合物を含まない3.0μlのDMSOを加えた。次に、ウェルあたり100μlのアフィニティマトリックス(5%スラリー)を加えた。プレートを振とう機(Thermomixer、Eppendorfで750 rpm)で2時間4℃でインキュベートした。プレートを真空マニホールド機器(Millipore, MAVM 096 OR)を用いて洗浄した。各ウェルを0.4% NP-40を含む220μlの1×DP緩衝液で2回洗浄した。タンパク質の溶出のために、フィルタープレートを収集プレート上に置き、DTT(50 mM最終濃度)を有する20μlの2×試料緩衝液(100 mM TrisHCl, pH7.4; 4% SDS; 20%グリセロール; 0.0002%ブロモフェノールブルー)を各ウェルに加えた。プレートを振とう機(Thermomixer、Eppendorfで750 rpm)で30分間室温でインキュベートした。続いて、プレートを4分間1100 rpm(Heraeus遠心機)で遠心分離し、溶出液を収集プレートのウェル中に集めた。PI3Kδの検出および定量化を上記の通りに実施した。
【0196】
実施例6: 定量的質量分析を用いたPI3K相互作用化合物の選択性プロファイリング
本実施例は、試験化合物を細胞溶解物内に直接加える競合的結合アッセイを実証する。試験化合物(種々の濃度で)とアフィニティマトリクス(固定化されたフェニルチアゾールリガンド1を有するビーズと固定化されたフェニルモルホリン-クロメンリガンドを有するビーズの1:1混合物)とを細胞溶解物のアリコートに加え、溶解物試料中に含まれるタンパク質に結合させた。インキュベーション時間の後、捕捉されたタンパク質を有するビーズを溶解物から分離した。次いで、結合タンパク質を溶出し、ITRAQ法に基づく定量的質量分析を用いてキナーゼの存在を測定した。3つの化合物の複数のキナーゼとの相互作用のIC50値を決定した(図9)。
【0197】
アフィニティマトリクスの洗浄
アフィニティマトリクス(固定化されたフェニルチアゾールリガンド1を有するビーズと固定化されたフェニルモルホリン-クロメンリガンドを有するビーズの1:1混合物)を0.4% NP40を含む15 mlの1×DP緩衝液で2回洗浄し、次いで、0.4% NP40を含む5.5 mlの1×DP緩衝液中に再懸濁した(20%ビーズスラリー)。
【0198】
試験化合物の調製
所望の最終試験濃度と比べて100倍の高濃度に相当する、試験化合物の保存溶液をDMSOで調製した(例えば、4μMの最終試験濃度に対して4 mM保存溶液を調製した)。この希釈スキームの結果、1%の最終DMSO濃度になった。対照実験(試験化合物なし)として、全ての試験試料が1%DMSOを含むよう、1% DMSOを含む緩衝液を用いた。
化合物CZC00018052: PI3K/mTORキナーゼ二重阻害剤PI-103(Calbiochemカタログ番号528100; Knight et al., 2006, Cell 125, 733-747)。
化合物CZC00015097: PI3Kγ阻害剤I (Calbiochem 528106; AS-605240; Camps et al., 2005, Nature Medicine 11, 936-943)。
【0199】
細胞溶解物の希釈
細胞溶解物を実施例2に記載のようにRamos細胞(ATCC番号CRL-1596)から調製した。典型的な実験のために、50 mgのタンパク質を含む1つの溶解物アリコートを37℃水浴中で解凍し、次いで4℃で保持した。溶解物に1容量の1×DP緩衝液を0.4%の最終NP40濃度となるように加えた。次いで、50倍濃縮プロテアーゼ阻害剤溶液の最終量の1/50を加えた(1錠のプロテアーゼ阻害剤を0.4%NP40を含む0.5 mlの1×DP緩衝液に溶解した;Roche Diagnostics, カタログ番号41647による、EDTA不含の錠剤プロテアーゼ阻害剤カクテル)。5 mg/mlの最終タンパク質濃度となるように、0.4%NP40を含む1×DP緩衝液を加える工程により、溶解物をさらに希釈した。
【0200】
溶解物と試験化合物およびアフィニティマトリクスとのインキュベーション
希釈した溶解物の100μl量を96穴フィルタープレートの各ウェルに分注した。次いで、DMSOで希釈した1.5μlの試験化合物を加えた。対照反応として、試験化合物を含まない1.5μl DMSOを用いた。次いで、1ウェル当たり50μlのアフィニティマトリクス(20%スラリー)を加えた。プレートを2時間4℃で、振とう機(Thermomixer, Eppendorfで750 rpm)上でインキュベートした。
【0201】
真空マニホールド装置(Millipore, MAVM 096 OR)を用いてプレートを洗浄した。各ウェルを0.4%NP-40を含む400μlの1×DP緩衝液で4回、0.2%NP-40を含む400μlの1×DP緩衝液で2回、洗浄した。
【0202】
溶出のために、フィルタープレートを収集プレート上に置き、DTT(最終濃度50 mM)を含む40μlの2×試料緩衝液(100 mM TrisHCl、pH6.8; 4%SDS; 20%グリセロール; 0.02%ブロモフェノールブルー)を各ウェルに加えた。プレートを30分間室温で振とう機(Thermomixer, Eppendorfで750 rpm)上でインキュベートした。続いて、プレートを2分間1100 rpm(Heraeus遠心機)で遠心分離し、溶出液を収集プレートのウェル内に集めた。
【0203】
質量分析によるキナーゼの検出および定量化
溶出液中のキナーゼを実施例2に記載のような質量分析により検出し、ITRAQ法を用いた定量的解析を以前に記載されているように(WO2006/134056; Bantscheff et al., 2007. Nature Biotechnology 25, 1035-1044)行い、個々の化合物とキナーゼの相互作用についてIC50値を計算した(図9)。
【0204】
実施例7: 多重免疫検出を用いたPI3K相互作用化合物の選択性プロファイリング
本実施例は、試験化合物を細胞溶解物に直接加える競合的結合アッセイを実証する。試験化合物(種々の濃度で)とアフィニティマトリクス(固定化されたフェニルチアゾールリガンド1を有するビーズと固定化されたフェニルモルホリン-クロメンリガンドを有するビーズの1:1混合物)とを細胞溶解物アリコートに加え、溶解物試料中に含まれるタンパク質に結合させた。インキュベーション時間の後、捕捉されたタンパク質を有するビーズを溶解物から分離した。次いで、結合タンパク質を溶出し、多重免疫検出形式を用いて、キナーゼの存在を検出および定量化した。個々のキナーゼに対する用量反応曲線を作成し、IC50値を計算した(図10および11)。
【0205】
アフィニティマトリクスの洗浄
アフィニティマトリクス(固定化されたフェニルチアゾールリガンド1を有するビーズと固定化されたフェニルモルホリン-クロメンリガンドを有するビーズの1:1混合物)を0.4%NP40を含む15 mlの1×DP緩衝液で2回洗浄し、次いで、0.4%NP40を含む5.5 mlの1×DP緩衝液で再懸濁した(20%ビーズスラリー)。
【0206】
試験化合物の調製
所望の最終試験濃度と比べて100倍の高濃度に相当する、試験化合物の保存溶液をDMSOで調製した(例えば、4μMの最終試験濃度に対して4 mM保存溶液を調製した)。この希釈スキームの結果、1%の最終DMSO濃度になった。対照実験(試験化合物なし)として、全ての試験試料が1%DMSOを含むよう、1%DMSOを含む緩衝液が用いられた。化合物CZC00018052: PI3K/mTORキナーゼ二重阻害剤PI-103(Calbiochemカタログ番号528100; Knight et al., 2006, Cell 125, 733-747)。
【0207】
細胞溶解物の希釈
細胞溶解物を実施例2に記載のように調製した。本実験のために、Jurkat細胞(ATCCカタログ番号TIB-152 Jurkat, cloe E6-1)溶解物とMolt-4細胞(ATCCカタログ番号CRL-1582)溶解物の1:1混合物を用いた。典型的な実験のために、50 mgのタンパク質を含む1つの溶解物アリコートを37℃水浴中で解凍し、次いで4℃で保持した。0.4%の最終NP40濃度となるように、溶解物に1容量の1×DP緩衝液を加えた。次いで、50倍濃縮プロテアーゼ阻害剤溶液の最終量の1/50を加えた(1錠のプロテアーゼ阻害剤を0.4%NP40を含む0.5 mlの1×DP緩衝液に溶解した;Roche Diagnostics, カタログ番号41647による、EDTA不含の錠剤プロテアーゼ阻害剤カクテル)。5 mg/mlの最終タンパク質濃度となるように、0.4%NP40を含む1×DP緩衝液を加えることにより、溶解物をさらに希釈した。
【0208】
溶解物と試験化合物およびアフィニティマトリクスとのインキュベーション
96穴フィルタープレート(Multiscreen Solvinert Filter Plate、Millipore MSRL N04 10)に以下を加えた: 1ウェル当たり100μlのアフィニティマトリクス(ビーズ)、3μl の化合物溶液、および50μlの細胞溶解物。プレートを密封し、2時間低温室で振とうを伴う(750 rpm)Thermoxer上でインキュベートした。その後、プレートを220μl洗浄緩衝液で2回洗浄した。次いで、ビーズを20μlの試料緩衝液で溶出した。溶出液を-80℃で急速に凍結させ、-20℃で保存した。
【0209】
溶出されたキナーゼの検出および定量化
関心対象のキナーゼに対する一次抗体および蛍光標識された二次抗体(抗マウスまたは抗ウサギIRDye(商標)抗体、Rocklandより)を用いたニトロセルロース膜上でのスポッティング法により、溶出液中のキナーゼを検出し定量化した。LI-COR Biosciences(Lincoln, Nebraska, USA)のOdyssey赤外線イメージングシステムを、製造者により提供された使用説明書(Schutz-Geschwendener et al., 2004. Quantitative, two-color Western blot detection with infrared fluorescence. Published May 2004 by LI-COR Biosciences, www.licor.com)に従って操作した。
【0210】
溶出液のスポッティングの後、まずニトロセルロース膜(BioTrace NT, Millipore #66485)をOdysseyブロッキング緩衝液(LICOR, 927-40000)と共に1時間室温でインキュベーションすることによりブロックした。次いで、ブロックした膜を0.2%Tween-20を含むOdysseyブロッキング緩衝液で希釈した一次抗体と共に16時間25℃でインキュベートした。その後、膜を0.1%Tween 20を含むPBS緩衝液と共に7分間かけて4回洗浄した。次いで、膜を0.2%Tween-20および0.02%SDSを含むOdysseyブロッキング緩衝液で希釈した検出抗体(RocklandのIRDye(商標)標識化抗体)と共に60分間室温でインキュベートした。その後、膜を、それぞれ1×PBS緩衝液/0.1%Tween 20と共に7分間かけて4回、および1×PBS緩衝液と共に5分間かけて1回洗浄した。膜をPBS緩衝液中4℃で保持し、次いでOdyssey装置でスキャンした。製造元の使用説明書に従って、蛍光シグナルを記録し、解析した。
【0211】
抗体の供給源:
抗PI3Kγマウス(Jena Bioscience ABD-026); 抗PI3Kδ(Santa Cruz #sc-7176) ; 抗PI3Kα(Cell signaling #4255); 抗DNAPK(Calbiochem #NA57); Licor IRDye 800マウス(926-32210); Licor IRDye 680ウサギ(926-32221); Licor IRDye 800ウサギ(926-32211); Licor IRDye 680マウス(926-32220)。
【0212】
実施例8: フェニルモルホリン-クロメンリガンドを有するアフィニティマトリクスの調製
本実施例は、フェニルモルホリン-クロメンリガンド(8-(4-アミノメチル-フェニル)-2-モルホリン-4-イル-クロメン-4-オン)の合成を記載する(図16)。この捕捉用リガンドは、アミノ官能基を用いた共有結合によって固体支持体上に固定化され、細胞溶解物からタンパク質を捕捉するために用いられる(例えば図17参照)。
【0213】
8-(4-アミノメチル-フェニル)-2-モルホリン-4-イル-クロメン-4-オンの合成
工程1
2,3-ジヒドロキシ-安息香酸[A](25 g、0.16mol)(Sigma-Aldrich、Cat no. 126209)を濃縮硫酸(1 ml)と共にメタノール(125ml)中で攪拌し、反応物を一晩加熱し緩やかに還流した。次いで、反応物を濃縮し、残渣をエチルアセテートと飽和含水重炭酸ナトリウム間に分配した。有機相を飽和含水重炭酸ナトリウムでさらに洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過し、濃縮し、2,3-ジヒドロキシ-安息香酸メチルエステル[B]を得た。収量15.2g、57%。

【0214】
工程2
2,3-ジヒドロキシ-安息香酸メチルエステル[B](15.g、89mmol)をピリジン(3.6ml、44.6mmol、0.5eq)およびDMAP(272mg、2.2mmol、0.025eq)と共にジクロロメタン(100ml)に溶解し、反応物を氷水浴で冷やした。トリフルオロメタンスルホン酸無水物(16.2ml、98.2mmol、1.1eq)を加え、反応物を室温に温め、一晩攪拌した。反応混合物をジクロロメタンで希釈し、1M塩酸(150ml)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、ろ過し、蒸発させた。産物をエチルアセテートから再結晶させ、2-ヒドロキシ-3-トリフルオロメタンスルホニルオキシ-安息香酸メチルエステル[C]を得た。収量 産物1、6.5g, 24%。さらなる再結晶により第2産物6.8g, 26%を得た。

【0215】
工程3
窒素下のN-アセチルモルホリン(1.72g、13.3mmol、2eq)の30 ml無水テトラヒドロフラン溶液をアセトン/ドライアイス槽中で冷却し(-78℃)、LDA(10ml、2M THF溶液、3eq)で処理した。反応混合物を60分間攪拌し、次いで2-ヒドロキシ-3-トリフルオロメタンスルホニルオキシ-安息香酸メチルエステル[C](10 ml無水THF溶液として、2g、6.6mmol、1eq)を加えた。反応混合物を-78℃から室温にまで温め、一晩攪拌した。反応物を、水(4ml)、続いて2M塩酸(40ml)で希釈し、次いで、ジクロロメタンで3回抽出した。抽出液を合わせ、塩性溶液で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過し、蒸発させた。粗生成物をエチルアセテートで溶出するフラッシュクロマトグラフィーにより精製し、トリフルオロ-メタンスルホン酸2-ヒドロキシ-3-(3-モルホリン-4-イル-3-オキソ-プロピオニル)-フェニルエステル[D]を得た。収量1.06g、40%。

【0216】
工程4
ジクロロメタン(30ml)中のトリフルオロ-メタンスルホン酸2-ヒドロキシ-3-(3-モルホリン-4-イル-3-オキソ-プロピオニル)-フェニルエステル[D](1.06g、2.7mmol)をトリフルオロメタンスルホン酸無水物で処理し、一晩室温で攪拌した。次いで、反応混合物を濃縮し、メタノールに再溶解し、さらに2時間攪拌した。溶液を水で希釈し、pH8に塩基性化した。次いで、ジクロロメタンで3回抽出した。抽出液を合わせ、塩性溶液で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、蒸発させ、粗生成物を褐色油として得た。エーテルによる粉砕によって、トリフルオロ-メタンスルホン酸2-モルホリン-4-イル-4-オキソ-4H-クロメン-8-イルエステル[E]を褐色固体として得た。収量210mg、20%。

【0217】
工程5
トリフルオロ-メタンスルホン酸2-モルホリン-4-イル-4-オキソ-4H-クロメン-8-イルエステル[E](380mg、1.0mmol)、4-(N-Boc-アミノメチル)フェニルボロン酸(280mg、1.1mmol、1.1eq)、炭酸カリウム(275mg、2.0mmol、2eq)およびテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)(60mg、0.05mmol、0.05eq)をジオキサン(4ml)中で攪拌し、80℃まで4時間加熱した。次いで、冷却した反応物をろ過し、濾液を真空中で濃縮した。残渣をジクロロメタン中の0〜3%メタノールで溶出するフラッシュクロマトグラフィーにより精製し、[4-(2-モルホリン-4-イル-4-オキソ-4H-クロメン-8-イル)-ベンジル]-カルバミン酸tert-ブチルエステル[F]を得た。収量238mg、54%。

【0218】
工程6
ジクロロメタン(5ml)中の[4-(2-モルホリン-4-イル-4-オキソ-4H-クロメン-8-イル)-ベンジル]-カルバミン酸tert-ブチルエステル[F](230mg、0.53mmol)をジオキサン(2ml)中の4M塩化水素で処理した。反応物を、沈殿物が生じる間、3時間、室温で攪拌した。溶媒を真空中で除去し、残渣をエーテルで粉砕した。結果として生じた固体をろ過により集め、乾燥させ、8-(4-アミノメチル-フェニル)-2-モルホリン-4-イル-クロメン-4-オン[G]を得た。収量189mg、定量的。

【0219】
(表5)略語

【0220】
NMRスペクトルをBruker dpx400で得た。LCMSをZORBAX(登録商標)SB-C18、4.6×75 mm、3.5ミクロンカラムを用いてAgilent 1100で行った。カラム流量は1ml/分であり、用いられる溶媒は、10ulの注入量の水およびアセトニトリル(0.1%ギ酸)であった。波長は、254nmおよび210nmであった。方法を以下に記載する。
【0221】
(表6)解析方法

【0222】
ビーズ(アフィニティマトリクス)上へのフェニルモルホリン-クロメンリガンドの固定化
NHS活性化セファロース4 Fast Flow(Amersham Biosciences、17-0906-01)を無水DMSO(ジメチルスルホキシド、Fluka, 41648, H20 <= 0.005%)で平衡化した。1 mlの定着ビーズを15 mlファルコンチューブ内に置き、化合物保存溶液(通常、DMFまたはDMSO中に100 mM)を加え(最終濃度0.2〜2μmol/mlビーズ)、15μl のトリエチルアミン(Sigma、T-0886、99%純度)も加えた。ビーズを室温暗中で回転振とう機(Roto Shake Genie、Scientific Industries Inc.)で16〜20時間インキュベートした。結合効率をHPLCにより決定した。反応しなかったNHS基を、アミノエタノールと共に室温で回転振とう機で一晩インキュベートすることによりブロックした。ビーズを10 mlのDMSOで洗浄し、イソプロパノール中に-20℃で保存した。これらのビーズを実施例2、3および4においてアフィニティマトリクスとして用いた。対照ビーズ(リガンドが固定化されていない)を上記のようにアミノエタノールと共にインキュベートすることによりNHS基をブロックすることによって作製した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PI3K相互作用化合物の同定のための方法であって、
(a) PI3Kを含むタンパク質調製物を提供する工程、
(b) タンパク質調製物と、固体支持体上に固定化されたフェニルチアゾールリガンド1とを、フェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の形成を可能にする条件下で接触させる工程、
(c) フェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体を所与の化合物と共にインキュベートする工程、
(d) 化合物が、固定化されたフェニルチアゾールリガンド1からPI3Kを分離させることができるかどうかを判定する工程、ならびに
(e) 化合物が、固定化されたフェニルチアゾールリガンド1からATM、ATR、DNAPK、および/またはmTORをも分離させることができるかどうかを判定する工程
を含む方法。
【請求項2】
工程(d)が、分離されたPI3Kの検出、または分離されたPI3Kの量の決定を含み、ならびに/あるいは工程(e)が、分離されたATM、ATR、DNAPK、および/もしくはmTORの検出、または分離されたATM、ATR、DNAPK、および/もしくはmTORの量の決定を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
質量分析法または免疫検出法によって、好ましくはPI3K、ATM、ATR、DNAPK、および/もしくはmTORに対する抗体を用いることによって、分離されたPI3K、ATM、ATR、DNAPK、および/もしくはmTORが検出されるか、または分離されたPI3K、ATM、ATR、DNAPK、および/もしくはmTORの量が決定される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
PI3K相互作用化合物の同定のための方法であって、
(a) PI3Kを含むタンパク質調製物を提供する工程、
(b) タンパク質調製物と、固体支持体上に固定化されたフェニルチアゾールリガンド1および所与の化合物とを、フェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の形成を可能にする条件下で接触させる工程、
(c) 工程(b)で形成されたフェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体を検出する工程、ならびに
(d) フェニルチアゾールリガンド1とATM、ATR、DNAPK、および/またはmTORとの複合体もまた工程(b)で形成されているかどうかを検出する工程
を含む方法。
【請求項5】
工程(c)において、検出がフェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の量を決定することにより行われ、ならびに/または工程(d)において、フェニルチアゾールリガンド1とATM、ATR、DNAPK、および/もしくはmTORとの複合体の量が決定される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
種々の化合物を試験するために、工程(a)から(c)が、いくつかのタンパク質調製物を用いて行われる、請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
PI3K相互作用化合物の同定のための方法であって、
(a) PI3Kを含むタンパク質調製物の2つのアリコートを提供する工程、
(b) 一方のアリコートと、固体支持体上に固定化されたフェニルチアゾールリガンド1とを、フェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の形成を可能にする条件下で接触させる工程、
(c) もう一方のアリコートと、固体支持体上に固定化されたフェニルチアゾールリガンド1および所与の化合物とを、フェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の形成を可能にする条件下で接触させる工程、
(d) 工程(b)および(c)で形成されたフェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の量を決定する工程、ならびに
(e) フェニルチアゾールリガンド1とATM、ATR、DNAPK、および/またはmTORとの複合体もまた工程(b)および(c)で形成されているかどうかを判定する工程
を含む方法。
【請求項8】
PI3K相互作用化合物の同定のための方法であって、
(a) PI3Kを含む少なくとも1つの細胞をそれぞれ含む2つのアリコートを提供する工程、
(b) 一方のアリコートを所与の化合物と共にインキュベートする工程、
(c) 各アリコートの細胞を収集する工程、
(d) タンパク質調製物を得るために細胞を溶解する工程、
(e) タンパク質調製物と、固体支持体上に固定化されたフェニルチアゾールリガンド1とを、フェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の形成を可能にする条件下で接触させる工程、
(f) 工程(e)の各アリコート中に形成されたフェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の量を決定する工程、ならびに
(g) フェニルチアゾールリガンド1とATM、ATR、DNAPK、および/またはmTORとの複合体もまた工程(e)で形成されているかどうかを判定する工程
を含む方法。
【請求項9】
化合物と共にインキュベートしなかったアリコートと比較して、化合物と共にインキュベートしたアリコート中に形成されたフェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の量の減少が、PI3Kが化合物の標的であることを示す、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
フェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の量が、固定化されたフェニルチアゾールリガンド1からPI3Kを分離し、かつ分離されたPI3Kをその後に検出するか、または分離されたPI3Kの量をその後に決定することにより決定される、請求項5から9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
フェニルチアゾールリガンド1とATM、ATR、DNAPK、および/もしくはmTORとの複合体もまた形成されているかどうかの判定が、固定化されたフェニルチアゾールリガンド1からタンパク質を分離し、かつ分離されたATM、ATR、DNAPK、および/もしくはmTORをその後に検出するか、または分離されたATM、ATR、DNAPK、および/もしくはmTORの量をその後に決定することにより行われる、請求項5から10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
質量分析法または免役検出法によって、好ましくはタンパク質に対する抗体を用いることによって、タンパク質が検出されるか、またはタンパク質の量が決定される、請求項10または11記載の方法。
【請求項13】
ミディアムスループットスクリーニングまたはハイスループットスクリーニングとして行われる、請求項1から12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
化合物が、合成化合物、または有機合成薬物、より好ましくは小分子有機薬物、および天然の小分子化合物からなる群より選択される、請求項1から13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
PI3K相互作用化合物がPI3K阻害剤である、請求項1から14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
固体支持体が、アガロース、修飾アガロース、セファロースビーズ(例えば、NHS活性化セファロース)、ラテックス、セルロース、および強磁性またはフェリ磁性粒子からなる群より選択される、請求項1から15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
フェニルチアゾールリガンド1が固体支持体に共有結合的に結合している、請求項1から16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
薬学的組成物の調製のための方法であって、
(a) 請求項1から17のいずれか一項に従って、PI3K相互作用化合物を同定する工程、および
(b) 相互作用化合物を薬学的組成物へと製剤化する工程
を含む方法。
【請求項19】
PI3Kが、PI3Kγおよび/またはPI3Kδである、請求項1から18のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
タンパク質調製物の提供が、PI3Kを含む少なくとも1つの細胞を収集する工程および細胞を溶解する工程を含む、請求項1から19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
フェニルチアゾールリガンド1-PI3K複合体の形成工程が、本質的に生理的な条件下で行われる、請求項1から20のいずれか一項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13−1】
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【図13−2】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【図15−1】
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【図15−2】
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【図16】
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【図17】
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【図18−1】
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【図18−2】
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【図19−1】
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【図19−2】
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【図20−1】
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【図20−2】
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【公表番号】特表2011−514965(P2011−514965A)
【公表日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−544648(P2010−544648)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【国際出願番号】PCT/EP2009/000692
【国際公開番号】WO2009/098021
【国際公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(505000022)セルゾーム アーゲー (7)
【Fターム(参考)】