説明

複数の溶存物質の濃度分布測定装置

【目的】 複数の溶存物質の濃度の線方向の分布を単一のセンサと単一の処理部分とで測定し、溶存物質の分布を画像として出力できるようにした複数の溶存物質の濃度分布測定装置を提供すること。
【構成】 半導体基板1の一方の面に異なる物質に応答するようにそれぞれ縦方向に区画された複数のエリア2a〜2dからなるセンシング部2を形成するとともに、前記半導体基板1に対してプローブ用の光Lを照射するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、液体中あるいは物質中にしみこんだ溶液中の複数の溶存物質の濃度分布を一挙に得ることができる新規な装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、液体中の溶存物質の濃度を測定する手段として、ガラス電極、イオン選択性電極などのポテンショメトリックセンサや、バイオセンサなどのアンペロメトリックセンサがある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記センサは、高選択性を特長としているが、多種の溶存種の濃度を測定したい場合には、複数のセンサを準備し、個々のセンサからの信号を個々に処理できる複雑な装置を必要とする。
【0004】また、前記センサによる測定は、測定対象である溶液など液体が十分に攪拌され、溶存物質の分布が均一な状態になっていることを前提としている。このため、溶存物質が液体中で偏って存在したり、ある部分で経時的に変化する様子を計測し、二次元あるいは三次元的に画像として捉えるためには、センサをアレイ化したりセンサ自体を走査させる必要がある。
【0005】しかしながら、センサをアレイ化するには、センサの小型化が必要であるとともに、センサの数だけの入力チャンネルを備え、かつ得られた信号を処理できる複雑な装置を必要とする。また、センサ自体を走査させる場合には、「測定」と「センサの移動」とを繰り返すが、液体中の溶存物質の濃度分布の多くは時間的な変化が速く、「測定」と「センサの移動」との繰り返しが前記変化の速度に追随しない。いずれにしても、現存のセンサの工夫のみでは困難な点があり、技術的なブレークスルーを必要とする。
【0006】この発明は、上述の事柄に留意してなされたもので、複数の溶存物質の濃度の線方向の分布を単一のセンサと単一の処理部分とで測定し、溶存物質の分布を画像として出力できるようにした複数の溶存物質の濃度分布測定装置を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、この発明の複数の溶存物質の濃度分布測定装置は、半導体基板の一方の面に異なる物質に応答するようにそれぞれ縦方向に区画された複数のエリアからなるセンシング部を形成するとともに、前記半導体基板に対してプローブ用の光を照射するように構成したことを特徴としている。
【0008】
【作用】前記溶存物質の測定には、その二次元分布の計測が可能な、LAPS(Light−Addressable Potentiometoric Sensor)センサからなる電気化学画像計測装置を用いる。このような装置は、例えば、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.33(1994)ppL394−L397に記載してあるように、センシング部の裏面側に光をスキャンし、このスキャンによって半導体中において誘発された光電流を取り出すことにより測定を行うことができる。
【0009】前記装置のセンシングプレートを直接計測したい対象物質に挿入したり接触させることによって溶存物質の濃度分布を測定する。得られたデータはコンピュータ処理により、二次元または三次元の濃度分布画像として出力される。ある時間での濃度分布のみならず、その変化の様子をリアルタイムに追跡することができる。
【0010】
【実施例】以下、この発明の詳細を、図を参照しながら説明する。図1および図2は、この発明の複数の溶存物質の濃度分布測定装置の主要部である光走査型センシングプレートSPの一例を概略的に示すもので、図1において、1はSiよりなる半導体基板で、このSi基板1の一方の面にはセンシング部2が形成され、他方の面にはセンシング部2の裏面にプローブ用の光LをX,Y方向(図2参照)に順次照射する光照射部3が形成されている。
【0011】センシング部2は、Si基板1の例えば上面にSiO2 層4、Si3 4 層5を熱酸化、CVDなどの手法によって順次形成してなるものである。そして、このセンシング部2は、その上面が縦方向(図2のY方向)に複数のエリア2a,2b,2c,2dに区分され、このうち、エリア2a,2b,2cは測定エリアであり、例えば、エリア2aはpHに応答するように無修飾とし、エリア2bはCaイオンに応答するようにジアルキルリン酸のカルシウム塩で修飾され、エリア2cはNaイオンに応答するようにクラウンエーテルで修飾されている。また、エリア2dは、前記測定エリア2a〜2cに対して共通に設けられる比較電極部として機能するもので、例えば、実公平4−16216号公報に開示された比較電極と同じ構造を採用することができる。
【0012】そして、センシング部2を構成する各エリア2a〜2dは、その幅(図2のX方向寸法)が0.1〜0.5mm、長さ(図2のY方向寸法)が1〜10mm程度である。CEおよびREはセンシング部2の上方に設けられる対極、比較電極で、後述するポテンショスタット11に接続されている。また、OCはSi基板1に設けられる信号取出し用のオーミック電極で、ポテンショスタット11に接続されている。
【0013】光照射部3は、図2に示すように、複数のLED6をX,Y方向において例えばそれぞれ等間隔となるように形成した発光体基板7と、この発光体基板7を保持するとともに、LED6を順次点灯するように制御するシフトレジスタ8X,8Yを備えた走査制御部としてのプリント基板9とからなる。
【0014】センシング部2および光照射部3は、別々に形成されるが、適宜の接着剤を用いたり、陽極接合または直接接合などの手法によって、Si基板1のセンシング部2とは反対の面に、発光体基板7が直接接するようにして接合され、これによって複合構造(ハイブリッド構造)の光走査型センシングプレートSPが形成される。そして、この光走査型センシングプレートSPは水密構造に形成されている。
【0015】そして、図1において、10は前記光走査型センシングプレートSPの制御装置であって、Si基板1に適宜のバイアス電圧を印加するためのポテンショスタット11、Si基板1に形成されたオーミック電極OCから取り出される電流を電圧信号に変換する電流−電圧変換器12、この電流−電圧変換器12からの信号が入力されるロックインアンプ13、ロックインアンプ13と信号を授受したり、光照射部3に対する制御信号を出力するインターフェイスボード14などよりなり、センシングプレートSPとは伝送ケーブル(図示してない)で接続されている。なお、15は制御・演算部としてのマイクロコンピュータ(CPU)、15aは例えばキーボードなどの入力部、15bはCRTなどの表示出力部である。
【0016】上記構成の測定装置を用いて、例えば、水溶液中の溶存物質、この場合は、pH、Na、Caの濃度分布を測定するには、前記光走査型センシングプレートSPを、図2における矢印Y方向にして,対極CEとともに水溶液中に浸す。そして、Si基板1に空乏層が発生するように、ポテンショスタット11からの電圧を対極CEとオーミック電極OCとの間に印加して、Si基板1に所定のバイアス電圧を印加する。この状態でセンシング部2に対するプローブ光LをSi基板1に一定周期(例えば、10kHz)で断続的に照射することにより、Si基板1に交流光電流を発生させる。
【0017】前記光電流量は、Si基板1の照射点に対向する点で、センシング部2の測定エリア2a〜2cに接している水溶液のpHおよびNaイオン、Caイオン濃度を反映した値であり、これらの値を測定することにより、水溶液のpHおよびNaイオン、Caイオン濃度を知ることが可能となる。
【0018】さらに、プローブ光Lは、LED6を順次発光させることによりX,Y方向に走査され、測定エリア2a〜2cにおける位置信号(X,Y)とその場所で観測された交流光電流値により、図3に示すように、pH、Ca、Naの濃度を表す二次元画像を得ることができる。つまり、複数の成分の濃度分布を同時に得ることができ、これを同時に表示することができる。
【0019】図4は、この発明の他の実施例を示し、この実施例の測定装置においては、センシング部2として、ガラス基板16に、上記測定エリア2a〜2cおよび比較エリア2dを個別に設け、これを光照射部3と接合してハイブリッド構造の光走査型センシングプレートSPとしている。この実施例の動作は、上述した実施例と同じであるのでその詳細は省略する。
【0020】上述の実施例はいずれもハイブリッド構造の光走査型pH画像装置であったが、この発明はこれに限られるものではなく、一体構造(モノリシック構造)に構成することもできる。
【0021】また、上述の実施例においては、プローブ光LをSi基板1の裏面側から照射するようにしているが、これに代えて、センシング部2側から照射するようにしてもよい。
【0022】そして、測定エリアの数は任意であり、その表面を修飾する応答物質を適宜選定することにより、任意の溶存物質の分布測定を行なえることはいうまでもない。
【0023】さらに、測定対象としては、前記溶液のように液体のみならず、土壌中のpHを初めとする各溶存物質の濃度をも測定することができる。その場合、光走査型センシングプレートSPを対極CEおよび比較電極REとともに挿入する土壌を適宜湿らしておく必要がある。
【0024】なお、上述のいずれの実施例においても、比較電極REを省略することができるが、この比較電極REを設けていた場合、Si基板1に所定のバイアス電圧をより安定に印加することができる。
【0025】
【発明の効果】以上説明したように、この発明の測定装置によれば、複数の溶存物質の濃度の縦方向の分布を一つのセンサと一つの処理部分で同時に測定することができ、その分布を画像として同時に出力することができる。そして、ある時間での濃度分布のみならず、濃度分布の時間的変化を追跡することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の測定装置の一例を概略的に示す図である。
【図2】前記測定装置の光照射部の構成例を概略的に示す平面図である。
【図3】前記測定装置によって得られる溶存物質の分布画像の一例を示す図である。
【図4】この発明の測定装置の他の例を概略的に示す図である。
【符号の説明】
1…半導体基板、2…センシング部、2a〜2d…エリア、L…プローブ用の光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 半導体基板の一方の面に異なる物質に応答するようにそれぞれ縦方向に区画された複数のエリアからなるセンシング部を形成するとともに、前記半導体基板に対してプローブ用の光を照射するように構成したことを特徴とする複数の溶存物質の濃度分布測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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