説明

複数の画像を空間合成する方法およびコンピュータプログラム

心エコー検査のような超音波エコーイメージングによって取得された共通の対象物の複数の画像が組み合わされる。各画像について、モノジェニック信号が導かれ、各ピクセルについて、位相一致部であるかどうかの尺度である特徴値と、前記位相一致部の法線と分析ビームとの揃っている度合いの尺度である整合値とを導くのに用いられる。各ピクセルについて、複数の画像についての相対重みが、当該ピクセルについての複数の画像の特徴値に従い、複数の画像の整合値を考慮して導かれる。組み合わせ画像が、各画像の、互いに対応するピクセルを、決められた相対重みに応じて組み合わせることによって生成される。画像内容、特に、特徴値と整合値を用いることによって、所与のどの領域でも特徴部の鮮明度が比較的高い画像が、組み合わせ画像において優勢となり、その結果、全体としての情報量が高まる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波エコーイメージングのようなイメージング技術を用いたイメージングに関し、特に、共通の対象物の複数の画像の組み合わせに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波パルスエコーイメージングは、超音波の分析ビームを用いた対象物のイメージングを含んでいる。エコー信号が、画像を生成するために検出される。重要な種類の超音波エコーイメージングとして心エコー検査がある。幾つかのイメージング技術(X線、血管造影法、およびMRI)は、心臓検査において有用であることが実証されているが、心エコー法は特有の特性を有しており、そのために、臨床診療において最もよく適用されるイメージング診断技術となっている。
【0003】
従来、2次元(2D)心エコー検査が、心機能の、比較的安価で、持ち運びが可能で、リアルタイムな現場での評価方法として広く用いられている。2Dイメージングモダリティ(imaging modality)を用いた場合、3次元構造の特性を明らかにすることが困難であることや、プローブの位置への依存性のために、互いに異なる臨床医によって、または互いに異なる時に複数の画像が取得された場合、それらを比較するのが困難になることなどの不便が生じる。
【0004】
近年開発された技術によって、初めて、心臓の3次元(3D)超音波エコー画像をリアルタイムで取得することが可能になった。この新しいイメージングモダリティによって、通常の臨床処置における心エコー検査について、広範囲の可能性が開かれている。しかしながら、現段階では、トランスデューサの視野が限られているために、成人の心臓の全体を(場合によっては、左心室のみでさえ)1回の画像取得でスキャンするのは不可能である。さらに、幾つかの心内構造物は、特定の音響窓からしか正確に評価できない。このため、リアルタイム3D超音波(RT3DUS)での一通りの診断検査では、互いに異なる複数の位置からの複数回の画像取得が行われる。これらの画像取得を組み合わせ、単一の理想的なデータセットを臨床医に提供する器具の開発によって、この技術の臨床処置での利用を大幅に改善することができる。
【0005】
一般に、画像に対して同一の、または互いに異なる向きの分析ビームを用いて取得された複数の超音波画像を組み合わせることが、主にスペックルを低減することによって画像品位を改善する方法として知られている。通常、各ピクセルについて平均強度または最大強度を取るような単純な技術が、複数の画像を組み合わせるのに用いられている。これは、しばしば、画像の合成(compounding)と呼ばれている。
【0006】
【非特許文献1】Rohling,Gee&Berman 「超音波画像の3D空間合成」 医療画像解析 オックスフォード大学出版,Oxford,UK,1(3),pp.177-193,1997年
【非特許文献2】Xiao,Brady,Nobel,Burcher&English 「胸部の3Dフリーハンド超音波画像のノンリジッドレジストレーション」 IEEE Transactions on Medical Imaging 21(4),p.404-412,2002年
【非特許文献3】Morrone&Owens 「局所エネルギからの特性検出」 Pattern Recognition Letters,6:303-313,1987年
【非特許文献4】Felsberg&Sommer 「モノジェニック信号」,IEEE Transactions on Signal Processing,49(12):3136-3144,2001年12月
【非特許文献5】Boukerroui,NobleおよびBrady 「バンドパス直交フィルタの選択」,Journal of Mathematical Imaging and Vision,21(1);53-80,2004年7月
【非特許文献6】Kovesi 「位相一致;低レベル画像不変」,Psychological Research,Springer-Verlag,Vol.64,No.2,2000年,pp136-148
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、画像を組み合わせるこのような公知の技術は、スペックルおよび他のノイズを低減することができるものの、情報量も減らしてしまう結果となる場合がある。これは、画像の品位が、複数の要因に応じて変化する場合があるからである。超音波エコーイメージングにおけるそのような要因の例には、使用される超音波トランスデューサの特性、イメージングされる対象物の音響特性、画像取得時の状態、および、対象物と超音波分析ビームとの揃い具合がある。複数の画像間で画像品位に違いがあるということは、公知技術では、複数の画像のうちの1つにおける高品位の情報が、それらの画像のうちの他の1つにおける低品位の情報によって隠され、組み合わせ画像の幾つかの部分において正味の情報量が減少する結果になる場合があることを意味している。これは、視覚化、および、例えば、心エコー検査画像または他の臨床画像の場合、臨床医が実行可能な画像解析の品位に影響を及ぼす。
【0008】
これらの問題が軽減された組み合わせ画像を得ることが要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、共通の対象物の複数の画像であって、互いにレジストレーションされ、分析ビームを用いた、対象物に対するその分析ビームの角度に左右されるイメージング技術を用いて取得された画像を組み合わせる方法であって、
各ピクセルについての、画像の局所コントラストに対して不変な特徴部の検出度合いの尺度である特徴値を各画像について導くことと、
各ピクセルについての、前記特徴部の法線と分析ビームとが揃っている度合いの尺度である整合値を各画像について導くことと、
複数の画像のピクセルについての特徴値に基づき、複数の画像のピクセルについての整合値を考慮して、複数の画像についての相対重みを複数の画像の各ピクセルについて決めることと、
決められた相対重みに従って各画像の、互いに対応するピクセルを組み合わせることによって、組み合わせ画像を生成することと、
を有する方法が提供される。
【0010】
この方法によって、複数の画像からの情報量が最大限になった組み合わせ画像が生成される。したがって、この組み合わせ画像は、その後の可視化、および、例えば臨床医による画像解析をするのに、より良好な品位を有している。これは、画像を組み合わせる際に従う相対重みを導くのに特徴値と整合値を用いることによって達成される。相対重みが、各ピクセルについて決められるので、特徴部の鮮明度が良好な互いに異なる画像が、組み合わせ画像の互いに異なる領域において優勢になることができ、その結果、全体としての情報量が増加する。
【0011】
画像の局所コントラストに対して不変な特徴部を示す特徴値を用いることによって、画像取得の幾つかのパラメータのために全体的に、あるいは、分析ビームの減衰のような効果のために局所的にコントラストが互いに異なっている場合がある様々な画像を適切に比較することができる。特に適した種類の特徴値は位相一致値であり、位相一致値によって、強度に基づいた解析に対する位相に基づいた解析の利点が得られる。
【0012】
整合値を用いることによって、特徴部の法線と分析ビームとの揃い具合への画像品位の依存性を考慮に入れることができる。この依存性は、超音波エコーイメージングにおいて、超音波エコーが、揃い具合が悪くなるにしたがって弱くなり、逆に、揃い具合が良くなるにしたがって強くなるために生じるが、同様の依存性が、他のイメージング技術においても見られる。したがって、本実施形態の方法によって、様々な視野で取得された画像を、各視野から取得された高品位の情報が、組み合わせ画像に残されるように組み合わせることができる。
【0013】
ファントム超音波エコー画像と実際のRT3DUS心臓画像との両方での本発明の方法の検証によって、上述の公知の合成技術に対する大幅な改善が示された。この検証についてはさらに後で述べる。
【0014】
組み合わせ画像は、表示、セグメンテーション、トラッキングなどの一般的なタスクを含む様々な方法に用いてよい。しかし、改善された画像品位によって、物体認識や、画像誘導診療において、例えば、診療中に取得された複数の画像を、組み合わせ画像を参照物として用いて揃えることのような、より複雑なタスクへの特別な適用が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
よりよく理解できるようにするために、ここで、添付の図面を参照して本発明の実施形態を、制限を伴わない例によって説明する。
【0016】
図1に示す本発明の実施形態は、一般的な、ただし、超音波エコーイメージング、特に、RT3DUSイメージングに特に適用されるイメージング技術を用いて取得された、共通の対象物の複数の画像を組み合わせる方法である。この方法は、心エコー検査画像に有利に適用することができる。
【0017】
ステップ1において、共通の対象物の複数の画像2が、問題とするイメージング技術を用いて取得される。通常、対象物は、心臓のような人体の一部である。画像取得は、適切な装置を用いた公知の技術を用いて行われてよい。
【0018】
画像2は、短い間隔で続けて取得された一組の画像、例えば、一通りの診断検査を行うために同一のイメージング装置を用いて取得された一組の視野像からなっていてよい。あるいは、画像2には、互いに異なる時に取得された複数の画像が含まれていてもよい。
【0019】
画像2は、様々な視野像を含んでおり、すなわち、画像は、イメージングされている対象物に対して様々な位置関係にある分析ビームを用いて取得される。複数の画像2が、同一の視野で取得された場合、各画像を別々に用いてもよいし、または、それらの画像を、平均化のような公知の技術を用いて合成し、結果として得られた合成画像を、複数の画像2の1つとして用いてもよい。
【0020】
各画像は、各ピクセルについての、通常は一組の強度値である一組の値によって表現される。一般に、画像2は、2または3の空間次元における複数の点を表現する2D画像または3D画像であってよく、または、画像2は、追加の次元としての時間における複数の点をさらに表現していてもよい。この方法は、特に、RT3DUS画像に適用可能である。3D画像の場合、個々の点は、ボクセルと呼ばれることが多いが、ここでは、任意の次元の画像の点を指すのに、「ピクセル」という用語を用いる。
【0021】
ステップ1において取得された画像2は、ステップ3〜8において処理され、ステップ3〜8は、図1に破線によって模式的に示すコンピュータシステム10上で実行されるコンピュータプログラムによって行うのが好都合である。コンピュータシステム10は、どのような種類のコンピュータシステムであってもいが、通常は、標準的なパーソナルコンピュータである。コンピュータプログラムは、どのような適切なプログラミング言語で記述されていてもよい。コンピュータプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体上に格納されていてよく、この記憶媒体は、どのような種類であってもよく、例えば、コンピュータシステムのドライブに挿入され、磁気的、光学的、または光磁気的に情報を格納していてよい記録媒体、ハードドライブのようなコンピュータシステムの備え付けの記録媒体、またはコンピュータメモリであってよい。
【0022】
別の方法として、コンピュータシステム10を、例えば、ステップ1で画像2を取得するのに用いられるシステムに結び付けられた、本実施形態の解析のための専用のシステムとすることもできる。この場合、コンピュータシステム10を、例えば、種々のプロセスを並行して実行することによって、この解析を行うように最適化することができる。
【0023】
ステップ3において、複数の画像2は、互いにレジストレーションされる。ステップ3は、任意ステップであり、というのは、画像2が、ステップ1での画像2の取得時に用いられる物理的な手法によって既に互いにレジストレーションされている場合があるからである。そうではない場合、ステップ3において、画像2自体を処理することによってレジストレーションが行われる。これは、例えば、特に非特許文献1または非特許文献2に開示されているような既存の多数の公知レジストレーション技術のいずれによって行われてよい。
【0024】
ステップ4において、位相と方位の値が各ピクセルについて計算される。これは、画像の位相に基づく解析を用いて行われる。特に、各画像は、以下に記載する手法でモノジェニック信号画像(monogenic signal image)に変換される。
【0025】
以下の一般的な点が役に立つ場合がある。例えば、非特許文献3において述べられているように、位相に基づく解析が、多くの画像処理タスクのために、強度に基づく解析の代替手法として提案されている。位相は、画像内の明るさおよびコントラストの変化に対して不変性をもたらす。このコントラストに対する不変性のために、この手法は、ビームの減衰が起こり、エコーの強度が超音波ビームの入射角に左右される超音波画像に特に適している。
【0026】
局所位相は、通常、様々な角度の一組のフィルタの出力を組み合わせることによって計算されるが、本実施形態の方法では、位相は、非特許文献4に開示されている種類のモノジェニック信号から導かれる。モノジェニック信号は、分析信号の、その基本特性を保った等方的な拡張である。
【0027】
1Dの分析信号と同様に、モノジェニック信号は、ヒルベルト変換をより高次元の信号用に一般化したリース変換を用いて元々の信号を組み合わせることによって生成される。N次元画像のリース変換は、周波数領域において、元々の画像に一組のフィルタHiを乗算することによって得られる。
【数1】

ここで、u=[u1...uNTであり、uiはi番目の座標の単位ベクトルを示しており、したがって、画像の次元と同じ数のフィルタが存在している。2Dの場合を例示すると、一組のフィルタH1およびH2は、
【数2】

となる。
【0028】
次に、モノジェニック信号が、元々の画像とリース変換によって形成され、したがって、N次元の信号のリース変換は、N+1のN次元信号によって形成され、すなわち、N次元ベクトルが、元々の画像の各点に割り当てられる(位相ベクトル)。このベクトルの長さは、モノジェニック信号の局所振幅であり、方位角は、局所位相および局所構造方位に相当する。2Dの場合を例示すると、これらの値は、
【数3】

ここで、hi(x)は、Hi(u)の逆フーリエ変換であり、φとθはそれぞれ位相と局所方位角であり、A(f(x,y))は、以下の式によって与えられる、モノジェニック信号の振幅である。
【数4】

【0029】
一般に、周波数領域において局所化された値を得ることができるようにするために、フィルタH(u)は、一組のバンドパスフィルタG(u)を乗算される。
【0030】
上記の説明では、元々の画像が変換されると仮定しており、実際には、ステップ4において、各画像は、複数の空間周波数帯のそれぞれにおいてモノジェニック信号に変換される。これによって、マルチスケール表現が得られる。各周波数帯のモノジェニック信号を、下付き文字sによって示す。これは、空間と周波数との両方において特性を局所化するのが有用であるからである。この目的を達成するために、各空間バンドパスフィルタGs(u)が、式(1)のHi(u)フィルタと組み合わされる。例えば、上記の各式において、Hi(u)は、各周波数帯、すなわちスケールsに関して、組み合わせフィルタHi(u)Gs(u)に置き換えられる。これは、最初に、画像信号に対して、一連のバンドパス空間周波数フィルタを用いて各空間周波数帯へのフィルタリングを行い、次に、各空間周波数帯の各画像をモノジェニック信号画像に変換するのと同じ効果を生じる。
【0031】
概して、空間バンドパスフィルタGs(u)は、どのような形態であってもよく、例えば、非特許文献5に記載されている複数の選択肢のうちの1つであってよい。現在では、ガウシアン差分(DoG)フィルタを用いるのが、それによって、複数の空間周波数帯の再結合を容易に行うことができるので、好ましい。同様に、空間周波数帯の数Sおよびバンド幅は、画像の特性に合うように自由に選択してよい。後述する方法の試験では、バンドパスフィルタの数Sは5であり、複数のバンド幅は互いに等しい。
【0032】
ステップ5において、位相一致部が、各画像2から検出される。各空間周波数帯は、元々の画像2における様々なスケールに相当している。様々なスケールでの位相の変化を、画像の特徴部からノイズを分離する手掛かりとして用いることができる。この目的で提案されている可能性の1つが位相一致である。このパラメータによって、様々なスケールにわたる位相変化が定量化される。大きな値は、整合性のある位相値に相当し、したがって、画像の特徴部の指標となる。
【0033】
このように、ステップ5では、各画像について、各ピクセルについての、位相一致部であるかどうかの尺度となる特徴値Pが導かれる。
【0034】
一般に、位相一致は、次式に従って定義されてよい。
【数5】

ここで、nはスケールを示しており、fnは、元々の画像信号のn番目のフーリエ成分である。しかし、非特許文献3に記載された、位相一致を計算する他の方法に従って、各画像の特徴値Pを、各空間周波数帯のモノジェニック信号Asから、次式によって計算してもよい。
【数6】

ここで、Asは様々なスケールsでのモノジェニック信号の信号振幅であり、φsは様々なスケールsでの位相値である。
【0035】
より具体的には、各画像の特徴値Pは、各空間周波数帯のモノジェニック信号Asの振幅から、次式に従って計算されてよい。
【数7】

ここで、E(x,y)は局所エネルギであり、括弧記号Xは「ソフトスレッショルド(soft threshold)」(すなわち、結果は、括弧内の値がゼロより大きい場合には括弧内の値であり、そうでなければゼロである)を示しており、Tはノイズの影響を最小化するのに用いられる閾値であり、εは、ゼロ除算を避けるために加算される小さな定数である。2Dの場合を例示すると、E(x,y)は次のように計算される。
【数8】

【0036】
本発明に適用してもよい位相一致部の導出のさらなる詳細が非特許文献6によって与えられる。
【0037】
ステップ6において、位相一致部の法線と分析ビームとの揃っている度合いが判定される。特に、各画像に関して各ピクセルについて、および下付き文字sによって示される各空間周波数帯、すなわちスケールについての整合値が導かれる。この整合値は、ステップ4において導かれた、各空間周波数帯、すなわちスケールsにおけるモノジェニック信号の方位θsから導かれる。特に、各空間周波数帯、すなわちスケールsについての整合値Msは、Ms=cos(θs-φ)として計算され、ここで、φは分析ビームの角度である。θsとφは、両方とも、同一の軸に対して定義され、この軸は、イメージングされている対象物に対して固定されているが、その他に関しては任意である。このようにして、各ピクセルで超音波ビームと位相一致部の法線とがどの程度よく揃っているかが、Msによって定量化される。本実施形態でのマルチスケールの手法では、ピクセルが、様々なスケールで吟味した時に互いに異なる方位を有することができることに注意することも重要である。このように、整合値は、具体的な構造が特定されるスケールでのものと見なされる。もちろん、特徴値Msは、各画像について導かれ、したがって、より完全には、iを画像2のインデックスとして、Misによって示される。
【0038】
ステップ7において、下付き文字iによって示される各画像について、また各空間周波数帯、すなわちスケールsについて、相対重みλisが決められる。相対重みλisの導出を詳細に記載する前に、この導出の原理の例について述べる。
【0039】
複数の画像2を互いに異なる角度から取得すると、特定の視野において、重要な画像構造を非常に良好に特定することができ、この場合、平均化は、構造の鮮明度を低下させる。ここでの組み合わせ方法の目的は、組み合わされた画像2の情報量を最大限にすることである。これは、各画像2の特徴値Piに基づいて、良好に特定された特徴部を含んでいる領域と、単にスペックルを含んでいる領域とを選別することによって行われる。上述のように、良好に特定された特徴部は、小さなスケール空間での変化挙動によって識別でき、一方、スペックルの場合には、位相が重大な変動を受けるので、特徴値Piは、スペックルを身体構造から選別するのに適した値である。したがって、相対重みλisは、各画像2の特徴値Piに応じて決められる。
【0040】
さらに、整合値Misが考慮に入れられる。後方散乱のエネルギが、したがって、超音波画像の外観が、分析ビームと、入射点での特徴部の法線とが揃っているかどうかに左右されることがよく知られている。互いに異なる2つの視野から取得された強度を平均化することは、それにより、小さな入射角によって発生した強いエコーが、それより傾斜した入射波の、より弱いエコーを導入することによって弱められるので、最適な方策ではない。したがって、相対重みλisは、整合値Misを考慮して、整合値Misに応じて画像2にプラス方向に重み付けするように決められる。
【0041】
相対重みλisは、ステップ7において、上記の原理に基づいて、次のように決められる。これらの原理に基づいて、ピクセルの特性を識別し、それによって、そのピクセルの所で複数の画像を組み合わせる最善の方策を選択するために、以下の規則が各ピクセルに別々に適用される。
【0042】
1つの画像2の特徴値Piが比較的高く、他の画像2の特徴値Piが比較的低い場合、特徴値Piが高い画像2を優勢にするべきである。この場合、相対重みλisは、複数の画像に対して、特徴値Piに応じて決められる。
一群の画像2の特徴値Piが比較的高い場合、特徴値Piが高い画像2を、特徴値Piが低い画像2があるならそれらよりも優勢にすべきである。この場合、相対重みλisは、前述の群の画像2について(ピクセルの所で特徴部が良好に揃えられている画像2ほど、組み合わせにより大きく寄与するように)整合値Misによってバイアスされた複数の画像2についての特徴値Piに応じて決められる。
全ての画像2の特徴値Piが比較的低い場合、そのピクセルはスペックルとして扱われ、平均値が取られるべきである。この場合、複数の相対重みλisは互いに同じにされる。任意処理として、平均値に係数αを乗算することによってスペックルを軽減してもよく、この係数αとしては、0≦α≦1の範囲内の任意の値を選択することができる。
【0043】
このようにして、特徴値Piが第一条件として扱われ、それが、与えられたピクセルを用いるべきかどうかを判定するのに充分でない場合にのみ、整合値Misが考慮される。
【0044】
上述の条件を、各相対重みλisとして、一組の離散値のうちの1つを選択するのに用いることもできるが、ステップ7では、相対重みλisは、実際には、相対重みλisとして、連続値が与えられるように特徴値Piおよび整合値Misの関数として計算される。特に、特徴値Piは、特徴部がピクセルに存在する確率として扱われ、整合値Misは、特徴部の法線と分析ビームが揃っている確率として扱われる。これに基づいて、特徴値Piと整合値Misは、確率論を用いて組み合わされる。
【0045】
一例として、簡素化のためにインデックスsを式から省いて、組み合わせるべき3つの画像2が存在する場合の第1の画像2(i=1)についての相対重みλ1は、次式に従って計算される。
【数9】

【0046】
確率の分野における慣習の通り、PとM上のバーは(1−P)と(1−M)をそれぞれ表している。他の画像2についての相対重みλ2およびλ3は、3つの画像2についてのインデックスを巡回させることによって与えられる。同様に、この式を、任意の数の画像2用に一般化してもよい。
【0047】
この式は複雑であるが、4組の角括弧によってくくられた4つの主要部分は、以下のように理解することができる。
【0048】
最初の部分は、第1の画像2が、重要でない構造情報を含んでいる唯一の画像である確率を示している。
2番目の部分は、2つの画像が、スペックルではない値を含んでおり、これら2つの画像のうちの1つが第1の画像2である確率を示しており、したがって、これら2つの画像は、それらの整合値によって重み付けされている。
3番目の部分は、3つの画像2の全てに構造情報が含まれている確率を示している。
最後に、最後の部分は、問題としているピクセルに重要な構造情報が存在しておらず、例えば単にスペックルが存在している確率、すなわち、構造情報を含んでいる画像2がなく、全ての画像の特徴値が低い確率を示している。これと同一の項が、各画像2についての相対重みλiの同様の式に存在しており、したがって、互いに同一の相対重みλiが与えられる。
【0049】
係数αは、ノイズを軽減するために用いることができ、0≦α≦1の範囲内の任意の値を選択することができる。特に、α=1は、全ての画像の平均化、すなわち、平均合成によって引き起こされるのと同じ作用に相当し、ただし、この作用は、この場合、特徴部の情報が無い領域にのみ及ぼされる。α=1の時、全ての画像2の相対重みλiの合計は1になる。しかし、α<1の時、全ての画像2の相対重みλiの合計は、一般に、1より小さい値になり、それによって、組み合わせ画像におけるスペックルの量が減らされ、α=0の極端な場合、検出されたスペックルが完全に消去される。このようにして、用途に応じて、定数αを選択することにより、スペックルの量の軽減を調節することができる。目視診断の場合、元々の画像から情報を取り除くのは、重要な情報が存在している可能性があるので危険な場合があり、大きな値のαが用いられる。自動セグメンテーションアルゴリズムの場合、スペックルの大幅な軽減が望ましい場合がある。もう1つの可能性は、1つの画像から除去されたスペックルを、それから、運動のような面の重要な情報が得られる場合があるので、保持し、それを別に表示することである。
【0050】
最後に、ステップ8において、組み合わせ画像9が、ステップ7において決められた相対重みに従って、画像2から生成される。特に、各画像2の各ピクセルは、そのそれぞれの相対重みλiによって重み付けされ、重み付けされた画像が足し合わされる。さらに、この足し合わせは、各空間周波数帯、すなわちスケールsにおいて行われる。すなわち、ステップ8では、ステップ3で用いたのと同一の空間周波数バンドパスフィルタを用いて導かれた、各画像2の空間周波数帯が用いられる。したがって、各空間周波数帯、すなわちスケールsにおいて、各ピクセルの値Fsが、
【数10】

として計算され、組み合わせ画像9内の各ピクセルの値Fcが、
【数11】

として計算される。
【0051】
任意処理として、空間的な変動を低減し、したがってノイズを低減する平滑化項である正規化項を組み込むように式(10)を修正してもよい。特に、空間周波数帯、すなわちスケールsでの各ピクセルの値Fsは、式(10)に示した重み付けされた線形結合と正則化項の和として計算される。したがって、組み合わせ画像は、組み合わせ式(10)に追加項が入るが、依然として、相対重みλiにしたがって各画像10のピクセルを組み合わせることによって与えられる。これによれば、ノイズの多い値、および/または誤りが、その項を正規化項に対して重み付けすることによって、組み合わせに入ることが可能である。この任意処理では、式/モデルがもはや純粋に確率的なものではなくなることが、理論的な観点からマイナス面であり、ノイズが存在する場合、実際に良好に機能することが利点である。
【0052】
上述の方法は、現在、好ましいものであるが、本発明の範囲内で、例えば以下のような多くの修正を行ってもよい。
【0053】
本実施形態の技術の特別な利点は、骨組みが、構造の情報および方位を定量化するために用いる特徴値および整合値の実際の選択に左右されないことである。他の用途のために、上述の主要な構想を保ったまま、代替物を導入することができる。モノジェニック信号画像は、構造の情報と幾何学的な情報との両方を与えるので、モノジェニック信号画像を用いることによって、使いやすい骨組みが構築されるが、モノジェニック信号画像を用いることは必須ではない。他の種類の位相に基づいた解析を行うこともできる。より一般的には、例えば、画像2の、ある形態の局所正規化を行うことによって、局所コントラストに対して不変などのような特性を検出してもよい。同様に、他の整合値も用いることができる。
【0054】
さらに、特徴値および整合値から相対重みを決める方法を大幅に変えてもよい。簡単な変形例は、各画像2の整合値Mを用いた項のみを含む式(4)を用いることである。より複雑な変形例は、全く異なる数学的手法を用いて特徴値と整合値から相対重みを導くことである。
【0055】
可能な他の変形例は、各空間周波数帯、すなわちスケールsにおいて画像2を処理するマルチスケール手法を用いないことである。この場合、各画像2について、全てのスケールまたはスケール範囲にわたる整合性を示す単一の整合値Mが得られる。これは、特定のスケールを有することが分かっている関心のある特徴部、例えば、血管を調べるのに好ましい場合がある。
【0056】
本実施形態の方法を、以下に記載するように、幾つかの実際の画像2で試験した。
【0057】
第1の試験では、人工的なファントム画像を用いた。結果が図2に示されている。模擬画像は、Field IIプログラムを用いて生成した。楕円形のリングのファントムが生成され、これを5MHz帯の模擬プローブを用いてスキャンした。分析ビームの向きを80°変えて取得した画像2が図2(a)と2(d)に示されている。図2(b)は、公知の平均化技術を用いて導かれた合成画像を示しており、一方、図2(c)は、上述の本実施形態の方法を用いて得られた組み合わせ画像9を示している。図2(e)と2(f)は、図2(b)と2(c)の詳細をそれぞれ示している。
【0058】
図2の目視検査から分かるように、本実施形態の方法によって、コントラストの改善が得られ、エッジの鮮明度が改善されている。これは、分析的に示すこともできる。リングの平均値と背景の平均値との差を背景強度の標準偏差で割ったものとして、ノイズに対するコントラストの比(CNR)を計算した。本実施形態の方法で得られたCNRは、強度の平均化を用いた場合より37%高かった。
【0059】
本実施形態の方法の品位の重要な指標は、対象物の輪郭の所での強度勾配の大きさおよび方向であり、これは、エッジに基づくセグメンテーション方法で非常に重要なパラメータである。リングの輪郭に垂直な方向の強度傾斜を計算した。これによって、揃い具合の差が大きい所で強度傾斜の、30%より大きい増加が示されている。
【0060】
第2の試験では、心臓のRT3DUS画像を用いた。結果が図3に示されている。画像2の3D位置決めを実現するために、機械式アーム(ファロアーム)を3Dプローブ(Philips)に取り付けた。既知の対象物(プラスチックボール)の数回のスキャン画像を取得することによって初期較正を行った。その後、心尖窓と胸骨窓の両方から2人のボランティアをスキャンすることによって14枚の画像を得た。図3(a)は、心尖窓からの画像2を示しており、図3(d)は、胸骨窓からの画像2を示している。図3(b)は、公知の平均化技術を用いて導かれた合成画像を示しており、一方、図3(c)、3(e)および3(f)は、それぞれαを0.9、1、および0.6として、上述の本実施形態の方法を用いて得られた組み合わせ画像9を示している。強度平均(図3(b))と比べると、α=1とした本実施形態の方法(図3(e))では、重要な心臓構造部の鮮明度が優れているのが示されている。αが、より小さい場合では、アルゴリズムのスペックル軽減挙動が示されている。α=0.9の図3(c)では、重要な特徴部のコントラストが低下することなく、スペックルが軽減されている。α=0.6の図3(f)では、最も目立つ特徴部のみが保たれている。
【0061】
要約すると、模擬超音波画像と実際の超音波画像での結果は、表示品位と定量的測定との両方で、公知の平均化技術に対して本実施形態の方法によれば大幅な改善が得られることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】複数の超音波エコー画像を組み合わせる方法のフローチャートである。
【図2】図1の方法の適用例を示す模擬画像の図である。
【図3】図1の方法の適用例を示すRT3DUS画像の図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の対象物の複数の画像であって、互いにレジストレーションされ、分析ビームを用いた、前記対象物に対する前記分析ビームの角度に左右されるイメージング技術を用いて取得された画像を組み合わせる方法であって、
各ピクセルについての、画像の局所コントラストに対して不変な特徴部の検出度合いの尺度である特徴値を各画像について導くことと、
各ピクセルについての、前記特徴部の法線と前記分析ビームとが揃っている度合いの尺度である整合値を各画像について導くことと、
各ピクセルについて、複数の画像の当該ピクセルについての前記特徴値に基づき、複数の画像の前記整合値を考慮して、複数の画像についての相対重みを決めることと、
決められた前記相対重みに従って各画像の、互いに対応するピクセルを組み合わせることによって、組み合わせ画像を生成することと、
を有する方法。
【請求項2】
前記イメージング技術は超音波エコーイメージングである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記特徴値は、各ピクセルでの位相特徴部であるかどうかの尺度である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記特徴値は、各ピクセルでの位相一致部であるかどうかの尺度である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
各ピクセルについて、複数の画像についての前記相対重みを決めることは、
1つの画像の前記特徴値が比較的高いピクセルについて、当該1つの画像を、複数の画像についての前記特徴値に従って、他の画像に比して優勢に重み付けする前記相対重みを、当該ピクセルについて与えることと、
一群の画像の、それぞれのピクセルでの前記特徴値が比較的高いピクセルについて、当該群の画像を、当該群に含まれない他の画像があれば該他の画像に比して優勢に重み付けする前記相対重みであって、当該群の画像の当該ピクセルについての前記整合値によってバイアスされた、当該群の画像の当該ピクセルについての前記特徴値に対応する前記相対重みを与えることと、
を有する請求項1から4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
各ピクセルについて、複数の画像についての前記相対重みを決めることは、
前記特徴値が比較的高い画像がないピクセルについて、互いに等しい前記相対重みを与えること、
を有する請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記互いに等しい相対重みの合計は1より小さい請求項6に記載の方法。
【請求項8】
各ピクセルについて、複数の画像についての前記相対重みを決めることは、前記相対重みとして連続的な値を与えることができる式を用いて、前記特性値と前記整合値の関数として前記相対重みを計算することを有する請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記式は、前記特徴値を、前記特徴部が各ピクセルの所に存在する確率、前記整合値を、前記特徴部の法線と前記分析ビームが各ピクセルの所で揃っている確率として、確率論を用いて前記特性値と前記整合値を組み合わせる請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記特徴値と前記整合値を導くことは、各画像信号の位相に基づく解析を用いて行われる請求項1から9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
前記特徴値と前記整合値を導くことは、各画像信号をモノジェニック信号画像に変換することと、該モノジェニック信号画像から前記特徴値と前記整合値との両方を導くこととを有する請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記整合値は、各ピクセルでの前記分析ビームと前記特徴部の法線との間の角度の余弦値である請求項1から11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
前記整合値を導くこと、および前記相対重みを決めることは、複数の空間周波数帯のそれぞれについて行われ、
複数の画像を組み合わせることは、
各画像の、複数の空間周波数帯へのバンドパス空間フィルタリングと、
各空間周波数帯で、各画像の、互いに対応するピクセルを、前記決められた相対重みに従って組み合わせることと、
全ての空間周波数帯から各画像の、組み合わされた各ピクセルを合成することと、
を有する請求項1から12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
共通の対象物の、超音波の分析ビームを用いた超音波エコーイメージングによって取得され、互いにレジストレーションされた複数の画像を組み合わせる方法であって、
各ピクセルについての、位相一致部であるかどうかの尺度である特徴値を各画像について導くことと、
各ピクセルについての、前記位相一致部の法線と前記分析ビームとが揃っている度合いの尺度である整合値を各画像について導くことと、
各ピクセルについて、複数の画像の当該ピクセルについての前記特徴値に従い、複数の画像の前記整合値を考慮して、複数の画像についての相対重みを決めることと、
決められた前記相対重みに従って各画像の、互いに対応するピクセルを組み合わせることによって、組み合わせ画像を生成することと、
を有する方法。
【請求項15】
イメージング技術を用いて画像を取得するステップと組み合わされた請求項1から14のいずれか1つに記載の方法。
【請求項16】
コンピュータシステムによって実行可能なコンピュータプログラムであって、前記コンピュータシステムによって実行されると、前記コンピュータシステムに、請求項1から14のいずれか1つに記載の方法を実行させることができるコンピュータプログラム。
【請求項17】
コンピュータによって読み取り可能な形態で、請求項16に記載のコンピュータプログラムを格納した記憶媒体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2009−501587(P2009−501587A)
【公表日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−522041(P2008−522041)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【国際出願番号】PCT/GB2006/002610
【国際公開番号】WO2007/010206
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(500056231)アイシス・イノベーション・リミテッド (17)
【氏名又は名称原語表記】ISIS INNOVATION LIMITED
【Fターム(参考)】