説明

複数周波円偏波アンテナ

【課題】小型で製造が簡単な薄型かつ軽量の複数周波円偏波アンテナを提供する。
【解決手段】複数周波円偏波アンテナ100は、基板と複数周波アンテナ900,901とから構成される。複数周波アンテナ900,901は、アンテナ素子120,220,320,420とシャントインダクタ用導体170,270,370,470とシリーズキャパシタ用導体160(a,b),260(a,b),360(a,b),460(a,b)とシリーズインダクタ用導体140,240,340,440と中心点199と入出力端子110,210,310,410とから構成される。複数周波アンテナ900は、複数周波アンテナ901に対して90度未満の角度を有するように中心点199で交差して配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型の複数周波円偏波アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)を搭載した携帯端末やカーナビゲーション等の様々な無線通信システムが普及している。ETC(Electronic Toll Collection System)の普及により、カーナビゲーションシステムでは、GPSとETCの複周波の円偏波に対応できる車載用のアンテナの開発が求められている。さらに、カーナビゲーションシステムのみならず携帯電話、デジタルカメラ、PDA、腕時計等、小型な携帯端末の筐体に内蔵可能な小型の円偏波アンテナの開発が求められている。
【0003】
小型円偏波アンテナに関しては、誘電率の高いセラミックスを用いたパッチアンテナが広く使われている。
しかしながら、誘電率の高いセラミックスを用いたパッチアンテナは、重く、製造が困難で、薄型化が困難である。
複数の周波数で小型軽量化が可能で、利得の大きい小型の複数周波アンテナが特許文献1に開示されている。
しかし、このアンテナは、直線偏波用であり、円偏波には対応していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−035672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
誘電率の高いセラミックスを用いたパッチアンテナは、プリント基板にパターニングして形成されるアンテナと比較して重量があり、製造法も複雑で高価な上、薄型化が困難であるといった問題があった。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、小型で製造が簡単な薄型かつ軽量の複数周波円偏波アンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る複数周波円偏波アンテナは、
第1のアンテナと第2のアンテナとが略鏡像対称に配置された構成をそれぞれ備える第1と第2の複数周波アンテナを備え、
前記第1のアンテナは、複数の共振周波数を持ち、第1の入出力端子と、第1のアンテナ導体と、第1のインダクタと第1のキャパシタとの直列回路であって前記第1の入出力端子と前記第1のアンテナ導体とを接続する直列回路と、一端が前記第1のアンテナ導体に接続された第2のインダクタと、を備え、
前記第2のアンテナは、複数の共振周波数を持ち、第2の入出力端子と、第2のアンテナ導体と、第3のインダクタと第2のキャパシタとの直列回路であって前記第2の入出力端子と前記第2のアンテナ導体とを接続する直列回路と、一端が前記第2のアンテナ導体に接続され、他端が前記第2のインダクタの他端に接続された第4のインダクタと、を備え、
前記第1の複数周波アンテナと前記第2の複数周波アンテナとは、90度未満の所定角度を有するように、前記第1の複数周波アンテナの中心点と前記第2の複数周波アンテナの中心点とが重なるように配置され、前記第1の複数周波アンテナの第4のインダクタの他端が、前記第2の複数周波アンテナの第4のインダクタの他端と接続されている、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、小型で製造が簡単な薄型かつ軽量の複数周波円偏波アンテナを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る複数周波円偏波アンテナの平面図である。
【図2】図1に示す複数周波円偏波アンテナの底面図である。
【図3】図1に示す複数周波円偏波アンテナを構成する複数周波アンテナの斜視図である。
【図4】図1に示す複数周波円偏波アンテナを構成する複数周波アンテナの断面図である。
【図5】図1に示す複数周波円偏波アンテナを構成する複数周波アンテナの等価回路の一部分を示す図である。
【図6】図1に示す複数周波円偏波アンテナを構成する複数周波アンテナの等価回路を示す図である。
【図7】図1に示す複数周波円偏波アンテナの等価回路の全体を示す図である。
【図8】(a)及び(b)は、図1に示す複数周波円偏波アンテナの送信時及び受信時の構成を示す入出力端子部分の拡大図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る複数周波円偏波アンテナの平面図である。
【図10】図9に示す複数周波円偏波アンテナの底面図である。
【図11】図9に示す複数周波円偏波アンテナの等価回路の全体を示す図である。
【図12】(a)及び(b)は、図9に示す複数周波円偏波アンテナの送信時及び受信時の構成を示す入出力端子部分の拡大図である。
【図13】(a)〜(c)は、図11に示す各素子の値を変化させた時の位相差φの変化量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1の実施形態)
以下、本発明の実施形態1に係る複数周波円偏波アンテナ100を説明する。
【0011】
図1〜8を参照して、実施形態1に係る複数周波円偏波アンテナ100の構成を説明する。なお、図中のX,Y,Z軸は、各図に共通の方向を示す。
【0012】
図1に示すように、複数周波円偏波アンテナ100は、複数周波アンテナ900と、複数周波アンテナ901とから構成される。複数周波アンテナ900と複数周波アンテナ901は同様の構成をしており、複数周波円偏波アンテナ100は、複数周波アンテナ900と複数周波アンテナ901とのなす角度が90度未満となるように、中心点199で接続されて構成される。具体的には、図2に示すように、複数周波アンテナ900のシャントインダクタ用導体170、270と、複数周波アンテナ901のシャントインダクタ用導体370、470とが、中心点199で接続されて構成される。シャントインダクタ用導体170、270、370、470については後述する。
【0013】
複数周波円偏波アンテナ100を構成する複数周波アンテナ900と複数周波アンテナ901の構成について説明する。なお、上記のとおり複数周波アンテナ900と複数周波アンテナ901は同様の構成であることから、複数周波アンテナ901の各構成については括弧書きで示す。
【0014】
複数周波アンテナ900(901)は、図3及び図4に示すように、基板99と、複数周波アンテナ101,102(103,104)と、から構成される。
【0015】
基板99は、板状の誘電体で、例えば、ガラスエポキシ基板(FR4)から構成される。
【0016】
複数周波アンテナ101(103)と複数周波アンテナ102(104)は同様の構成をしており、放射する電磁波の主伝搬方向が同方向になるように、略鏡像対称に基板99に配置されている。複数周波アンテナ101,102(103,104)は、入出力端子110,210(310,410)、アンテナ素子120,220(320,420)、ビア130,150a,150b,230,250a,250b(330,350a,350b,430,450a,450b)、ビア導体150,250(350,450)、シリーズインダクタ用導体140,240(340,440)、シリーズキャパシタ用導体160a,160b,260a,260b(360a,360b,460a,460b)、シャントインダクタ用導体170,270(370,470)から構成されている。
【0017】
入出力端子110,210(310,410)は、基板99の一方の主面のほぼ中央に近接して形成されており、一端部がシリーズインダクタ用導体140,240(340,440)の他端に接続されている。入出力端子110,210(310,410)には、図示せぬ1対の給電線が接続され、差動信号が供給される。入出力端子110,210(310,410)は給電点として機能する。
【0018】
アンテナ素子120,220(320,420)は、上底より下底が長い等脚台形の導体板と、この等脚台形の下底に接続された半円の導体板と、から構成される。アンテナ素子120(320)とアンテナ素子220(420)は、その等脚台形の上底が対向するように、基板99の一方の主面に配置されている。
【0019】
ビア130,230(330,430)は、アンテナ素子120,220(320,420)を構成する等脚台形の2本の対角線のほぼ交点を、基板99の一方の主面から他方の主面に貫通して形成される。ビア130,230(330,430)の内部には、一端部がアンテナ素子120,220(320,420)に接続された導体が充填されている。
【0020】
ビア導体150,250(350,450)は、基板99の一方の主面に配置されている。ビア導体150,250(350,450)は、基板99の一方の主面から他方の主面に貫通して形成される2つのビア150a及び150b,250a及び250b(350a及び350b,450a及び450b)を介してシリーズキャパシタ用導体160a及び160b,260a及び260b(360a及び360b,460a及び460b)に接続されている。
【0021】
シリーズインダクタ用導体140,240(340,440)は、線路導体から構成され、基板99の一方の主面に形成されており、その一端は、ビア導体150,250(350,450)に接続されている。
【0022】
シリーズキャパシタ用導体160a(360a)とシリーズキャパシタ用導体160b(360b)とは、間にシャントインダクタ用導体170(370)を挟むように、基板99の他方の主面に、アンテナ素子120(320)の一部に対向して、配置されている。アンテナ素子120(320)の一部とシリーズキャパシタ用導体160a,160b(360a,360b)の対向部分と、基板99のそれらの間に位置している部分により、アンテナ素子120(320)に直列に接続されたシリーズキャパシタが形成される。
【0023】
同様に、シリーズキャパシタ用導体260a(460a)とシリーズキャパシタ用導体260b(460b)とは、間にシャントインダクタ用導体270(470)を挟むように、基板99の他方の主面に、アンテナ素子220(420)の一部に対向して、配置されている。アンテナ素子220(420)の一部とシリーズキャパシタ用導体260a,260b(460a,460b)の対向部分と、基板99のそれらの間に位置している部分により、アンテナ素子220(420)に直列に接続されたシリーズキャパシタが形成される。
【0024】
シャントインダクタ用導体170,270(370,470)は、線路導体から構成され、基板99の他方の主面上に延在し、一端がビア130,230(330,430)の他端部に接続されている。シャントインダクタ用導体170,270(370,470)の他端は、基板99の他方の主面のほぼ中央の中心点199において、相互に接続されている。つまり、複数周波アンテナ101(103)と複数周波アンテナ102(104)とは、中心点199において、相互に接続される。
【0025】
複数周波アンテナ900(901)は、入出力端子110,210(310,410)との間に供給された送信信号を電波として空間に放射し、受信した電波を電気信号に変換して入出力端子110,210(310,410)から給電線に伝送する。
【0026】
上記構成の複数周波アンテナ900(901)は、例えば、基板99にビア130,150a,150b,230,250a,250b(330,350a,350b,430,450a,450b)を開口し、この開口をメッキ等で充填し、続いて、基板99の両面に銅箔を貼り付け、銅箔をPEP(光エッチング法)等によりパターニングすることにより製造される。
【0027】
上述した物理的構成を有する複数周波アンテナ900(901)を構成する複数周波アンテナ101,102(103,104)の電気的構成は、図5に示す等価回路で表される。
図示するように、複数周波アンテナ101,102(103,104)は、電気的には、シリーズインダクタLserと、シリーズキャパシタCserと、アンテナ素子120,220(320,420)の等価回路ANTと、シャントインダクタLshと、空間との結合の等価回路ANTsと、入出力端子110,210(310,410)と、接続点198(398)と、から構成される。
【0028】
なお、シリーズインダクタLserはシリーズインダクタ用導体140,240(340,440)のインダクタンスに対応し、シャントインダクタLshはシャントインダクタ用導体170,270(370,470)のインダクタンスに対応する。また、シリーズキャパシタCserは、シリーズキャパシタ用導体160a,160b,260a,260b等(360a,360b,460a,460b等)によって形成されるシリーズキャパシタに対応する。
【0029】
アンテナ素子120,220(320,420)の等価回路ANTは、入力インピーダンスを右手系の線路で表現した回路であり、インダクタL1antとインダクタL2antとキャパシタCantから構成される。
【0030】
アンテナ素子120,220(320,420)の等価回路ANTにおけるインダクタL1antのインダクタンス、インダクタL2antのインダクタンス、キャパシタCantのキャパシタンスは、アンテナ素子120,220(320,420)のサイズと形状にほぼ依存し、アンテナ素子120,220(320,420)のサイズと形状が定まるとほぼ定まる。
【0031】
空間との結合の等価回路ANTsは、アンテナ素子120,220(320,420)のサイズと形状に依存し、アンテナ素子120,220(320,420)と空間との結合によるインピーダンスを表現する回路である。空間との結合の等価回路ANTsは、キャパシタCsと、基準インピーダンスRsと、インダクタLsから構成される。
【0032】
入出力端子110,210(310,410)には、シリーズインダクタLserとシリーズキャパシタCserとの直列回路の一端が接続される。
【0033】
シリーズインダクタLserとシリーズキャパシタCserとの直列回路の他端には、アンテナ素子120,220(320,420)の等価回路ANTを構成するインダクタL1antの一端が接続される。インダクタL1antの他端には、キャパシタCantの一端とインダクタL2antの一端が接続される。キャパシタCantの他端は、接続点198(398)に接続される。
【0034】
シャントインダクタLshの一端は、インダクタL2antの他端に接続される。シャントインダクタLshの他端は、接続点198(398)に接続される。
【0035】
空間との結合の等価回路ANTsのキャパシタCsの一端が、インダクタL2antの他端とシャントインダクタLshの一端とに接続される。キャパシタCsの他端には、インダクタLsの一端と基準インピーダンスRsの一端が接続される。インダクタLsの他端と基準インピーダンスRsの他端は、接続点198(398)に接続される。
【0036】
空間との結合の等価回路ANTsにおける基準インピーダンスRsの値は、アンテナ素子120,220(320,420)のサイズと形状に依存する。この基準インピーダンスRsの値は、給電点に目的の周波数の電圧を印加したときの、印加した電圧と流れる電流の比を表すインピーダンスの実成分に相当する。
【0037】
空間との結合の等価回路ANTsにおけるキャパシタCsのキャパシタンスとインダクタLsのインダクタンスは、アンテナ素子120,220(320,420)を内包する球の半径aと基準インピーダンスRsに依存し、次の式(1)と(2)で表される。
Cs=a/(c×Rs) ・・・(1)
Ls=(a×Rs)/c ・・・(2)
ここで、Cs:キャパシタCsのキャパシタンス[F]
Ls:インダクタLsのインダクタンス[H]
Rs:基準インピーダンスRsの抵抗値[Ω]
a:アンテナ素子を内包する球の半径[m]
c:光速[m/s]
【0038】
複数周波アンテナ101,102(103,104)は、接続点198(398)で相互に接続されて複数周波アンテナ900(901)を構成する。複数周波アンテナ900(901)の電気的構成は、図6に示す等価回路で表される。入出力端子110,210(310,410)には、図示せぬ1対の給電線が接続されている。
【0039】
以上が、複数周波円偏波アンテナ100を構成する複数周波アンテナ900,901の構成である。
【0040】
複数周波円偏波アンテナ100は、図2に示すように、複数周波アンテナ900のシャントインダクタ用導体170,270と、複数周波アンテナ901のシャントインダクタ用導体370,470とが、各アンテナの中心点199でこれらのなす角度が90度未満となるように接続されて構成されている。
【0041】
複数周波円偏波アンテナ100の電気的構成は、図7に示す等価回路で表される。複数周波円偏波アンテナ100で用いるそれぞれの周波数につき、入力インピーダンスの虚数部が0に、実部が50Ωになるように、シャントインダクタ用導体170,270,370,470、シリーズキャパシタ用導体160a,160b,260a,260b,360a,360b,460a,460b、シリーズインダクタ用導体140,240,340,440のパターンが調整される。
【0042】
なお、アンテナ素子120,220,320,420の空間との結合の等価回路ANTsの各インダクタのインダクタンス及びキャパシタのキャパシタンスは、上述した式(1)、(2)により求められる。
【0043】
本実施形態では、2.5GHzと5.2GHzの2つの周波数で、入力インピーダンスの虚数部が0に、実部が50Ωになるように、各パターンが調整されている。
【0044】
複数周波円偏波アンテナ100の入出力端子110,210,310,410は、図8(a)に示すように、給電線を介して信号源1又は2と接続される。また、図8(b)に示すように、入出力端子110,210,310,410は、給電線を介して増幅部50と接続される。増幅部50は、例えばローノイズアンプ等から構成される。
【0045】
複数周波円偏波アンテナ100は、送信時には入出力端子110,210,310,410との間に供給された送信信号を電波として空間に放射し、受信時には受信した電波を電気信号に変換して入出力端子110,210,310,410から給電線に伝送する。
【0046】
送信時の複数周波円偏波アンテナ100の動作について説明する。図8(a)に示すように、対になっている入出力端子110と210には、同信号が供給される。同様に、対になっている入出力端子310と410には、同信号が供給される。
【0047】
入出力端子110と210に供給される信号と、入出力端子310と410に供給される信号との位相差に応じて、複数周波円偏波アンテナ100は、直線偏波若しくは楕円偏波を空間に放射する。
【0048】
具体的には、入出力端子110と210に供給される信号と、入出力端子310と410に供給される信号とが同相(図8(a)の搬送波の位相φ=0)の場合、複数周波アンテナ900及び901が放射する直線偏波も同相となる。2つの直線偏波が同相であるため、その合成波も直線偏波となる。したがって複数周波円偏波アンテナ100は、直線偏波を放射する。
【0049】
これに対し、入出力端子110と210に供給される信号と、入出力端子310と410に供給される信号との間に位相差がある(図8(a)の搬送波の位相φ≠0)場合、複数周波アンテナ900及び901が放射する直線偏波にも位相差が生じる。2つの直線偏波に位相差があるため、その合成波は楕円偏波となる。したがって複数周波円偏波アンテナ100は楕円偏波を放射する。
【0050】
特に、複数周波アンテナ900と複数周波アンテナ901とのなす角がθであり、入出力端子110と210に供給される信号と入出力端子310と410に供給される信号の位相差φがπ−θであり、かつこれらの信号の振幅が等しい場合、複数周波アンテナ900及び901が放射する2つの直線偏波の合成波は円偏波となり、複数周波円偏波アンテナ100は、円偏波を放射する。
【0051】
次に、受信時の複数周波円偏波アンテナ100の動作について説明する。複数周波円偏波アンテナ100は、図8(b)に示すように、受信した電波を電気信号に変換して対になっている入出力端子110と210から給電線を介して増幅部50へ伝送する。同様に、対になっている入出力端子310と410からも、給電線を介して電気信号を増幅部50へ伝送する。
【0052】
複数周波円偏波アンテナ100は、上述したように、2.5GHzと5.2GHzにおいて、入力インピーダンスの虚数部が0になっており、この周波数で共振し、利得が大きくなる。したがって、複数周波円偏波アンテナ100は、2.5GHzと5.2GHzの2つの周波数において、十分な利得を得ることができる複数周波円偏波アンテナとして機能する。
【0053】
以上のように、複数周波円偏波アンテナ100によれば、位相差が複数周波アンテナ900と複数周波アンテナ901とのなす角θに対応する信号を給電することにより複数の共振周波数で動作する軽量かつ薄型の小型円偏波アンテナを実現することができる。
【0054】
(第2の実施形態)
上記第1の実施形態に係る複数周波円偏波アンテナ100は、2つの入力端子対に、位相差が複数周波アンテナ900と複数周波アンテナ901とのなす角θに対応する信号を供給することにより、複数周波アンテナ900及び901が放射する2つの直線偏波が合成された円偏波を放射した。本実施形態に係る複数周波円偏波アンテナ200は、アンテナ自体に配置されている集中定数コンポーネントの値を調整することにより、位相線路等による位相制御のための新たな回路を付加することなく2つの直線偏波が合成された円偏波を発生させ、1つの入力端子対で円偏波を放射する。
【0055】
以下、第2の実施形態に係る複数周波円偏波アンテナ200について説明する。
【0056】
複数周波円偏波アンテナ200は、図9及び図10に示すように、第1の実施形態に係る複数周波円偏波アンテナ100の入出力端子110と310が接続されて1つの入出力端子190が構成され、同様に、第1の実施形態に係る複数周波円偏波アンテナ100の入出力端子210と410が接続されて1つの入出力端子290が構成されている。その他の構成については、第1の実施形態に係る複数周波円偏波アンテナ100と同様である。なお、複数周波円偏波アンテナ200の電気的構成は、図11に示す等価回路で表される。
【0057】
入出力端子190と入出力端子290は、図12(a)に示すように、給電線を介して信号源と接続される。複数周波円偏波アンテナ200は、送信時において、この信号源から入出力端子190及び290に信号が与えられことにより、円偏波を放射する。
【0058】
また、入出力端子190と290は、図12(b)に示すように、増幅部50と接続される。複数周波円偏波アンテナ200は、受信した円偏波を電気信号に変換して、電気信号を入出力端子190及び290から増幅部50へ伝送する。
【0059】
複数周波円偏波アンテナ200は、入出力端子190と入出力端子290とから構成される1対の入出力端子に信号が与えられ、アンテナ素子(120,220)とアンテナ素子(320,420)は、位相差を有する電波を放射する。そのため、複数周波円偏波アンテナ200のアンテナ導体にあるシャントインダクタLsh、シリーズキャパシタCser、シリーズインダクタLser等の集中定数コンポーネントの値が調整されている。
【0060】
例えば、アンテナ素子(120,220)とアンテナ素子(320,420)とのなす角がθである場合、アンテナ素子(120,220)とアンテナ素子(320,420)とから放射される電波の位相差φがφ=π−θとなるように図11に示すLsh3、Lsh4の値、Lser3、Lser4の値、及びCser3、Cser4の値を調整することで、軸比1の右旋円偏波を発生させることができる。なお、Lsh3、Lsh4の値を調整することで、主に2GHz帯における位相を調整でき、Lser3、Lser4の値を調整することにより5GHz帯における位相を調整できる。また、Cser3、Cser4の値を調整することで、2GHz帯及び5GHz帯両方の位相を調整することができる。また、Lsh3、Lsh4、Lser3、Lser4、Cser3、Cser4の各値を大きくすると放射される電波の位相差φも大きくなり、各値を小さくすると位相差φも小さくなる。図13(a)から(c)に、各素子の値を変化させた時の位相差φの変化量を示す。
【0061】
このように複数周波円偏波アンテナ200の集中定数コンポーネントの値を調整することで、位相線路等による位相制御のための新たな回路を付加することなく、上記第1の実施形態の複数周波円偏波アンテナ100と同等サイズの複数周波円偏波アンテナ200を実現することができる。
【0062】
(変形例)
この発明は、上記第1の実施形態に限定されず、種々の変形及び応用が可能である。例えば、上記第1の実施形態では、2.5GHz付近と5.2GHz付近の2つの周波数帯域において共振し、利得が大きくなる例を示したが、必ずしもこれに限定されない。
【0063】
例えば、任意の2つの周波数帯の組み合わせが可能である。前述のように、アンテナ素子120,220,320,420の等価回路ANT及び空間との結合の等価回路ANTsの素子定数は、アンテナ素子120,220,320,420のサイズによって自動的に定まる。このため、アンテナ素子120,220,320,420のサイズにより定まる各素子定数を考慮し、目的とする複数の周波数近傍に共振点が発生するように、シャントインダクタLshのインダクタンス、シリーズキャパシタCserのキャパシタンス、シリーズインダクタLserのインダクタンス、を適宜設定することにより、任意の複数の周波数帯で十分な利得を得ることができる。
【0064】
また、2つの周波数帯域において共振する必要はない。例えば、一般的なクロスダイポール型アンテナに対し、ダイポールアンテナ同士のなす角を90度未満とし、給電部の位相差をダイポールアンテナ同士のなす角としてもよい。このような構成によれば、一般的なクロスダイポール型アンテナについても面積を縮小化することができる。
【0065】
また、この発明は、上記第2の実施形態に限定されず、種々の変形及び応用が可能である。例えば、上記第2の実施形態では、入出力端子190及び290が、上記第1の実施形態の複数周波円偏波アンテナ100の入出力端子110と310、入出力端子210と410とが接続されて構成される例を示したが、必ずしもこれに限定されない。入出力端子190及び290は、上記第1の実施形態の複数周波円偏波アンテナ100の入出力端子110と410、入出力端子210と310とが接続されて構成されてもよい。この場合、複数周波円偏波アンテナ200の入出力端子190、290に与えられた信号は、左旋偏波となって放射される。
【0066】
さらに、本発明は、上記第1及び第2の実施形態に限定されず、種々の変形及び応用が可能である。
【0067】
例えば、上記第1及び第2の実施形態では、基板99の、一方の主面に配置されたパターンと、他方の主面に配置されたパターンとは、ビアによって接続されていた。しかし、ビアではなく、容量結合や誘導結合などで接続しても良い。
【0068】
また、上記第1及び第2の実施形態では、線路(回路パターン)によってインダクタおよびコンダクタなどを構成したが、例えば、チップ部品などによって一部又は全てのインダクタおよびコンダクタなどを構成しても良い。
【0069】
また、上記第1及び第2の実施形態では、回路を基板99の一方の主面と他方の主面に配置したが、一方の主面のみに配置してもよい。
【0070】
また、上記第1及び第2の実施形態では、誘電体の基板上に回路素子を配置する構成例を示したが、各回路素子を保持できるならば、基板は配置しなくてもよい。
【0071】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明には、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲が含まれる。以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
【0072】
(付記1)
第1のアンテナと第2のアンテナとが略鏡像対称に配置された構成をそれぞれ備える第1と第2の複数周波アンテナを備え、
前記第1のアンテナは、複数の共振周波数を持ち、第1の入出力端子と、第1のアンテナ導体と、第1のインダクタと第1のキャパシタとの直列回路であって前記第1の入出力端子と前記第1のアンテナ導体とを接続する直列回路と、一端が前記第1のアンテナ導体に接続された第2のインダクタと、を備え、
前記第2のアンテナは、複数の共振周波数を持ち、第2の入出力端子と、第2のアンテナ導体と、第3のインダクタと第2のキャパシタとの直列回路であって前記第2の入出力端子と前記第2のアンテナ導体とを接続する直列回路と、一端が前記第2のアンテナ導体に接続され、他端が前記第2のインダクタの他端に接続された第4のインダクタと、を備え、
前記第1の複数周波アンテナと前記第2の複数周波アンテナとは、90度未満の所定角度を有するように、前記第1の複数周波アンテナの中心点と前記第2の複数周波アンテナの中心点とが重なるように配置され、前記第1の複数周波アンテナの第4のインダクタの他端が、前記第2の複数周波アンテナの第4のインダクタの他端と接続されている、
ことを特徴とする複数周波円偏波アンテナ。
【0073】
(付記2)
前記第1のアンテナの複数の共振周波数と、前記第2のアンテナの複数の共振周波数とは、実質的に同一である、
ことを特徴とする付記1に記載の複数周波円偏波アンテナ。
【0074】
(付記3)
誘電体板をさらに備え、
前記第1及び第2の入出力端子と前記第1及び第2のアンテナ導体とは、前記誘電体板の一面に形成され、
前記第2及び第4のインダクタは、前記誘電体板の他面に配置され、ビアを介して前記第2のインダクタの一端が前記第1のアンテナ導体に、前記第4のインダクタの一端が前記第2のアンテナ導体に接続され、
前記第1のキャパシタは、前記第1のアンテナ導体の一部と、前記誘電体板の他面に配置され前記第1のアンテナ導体の一部に対向する第1の導電体と、前記第1のアンテナ導体の一部と前記第1の導電体との間に位置する前記誘電体板と、から構成され、
前記第2のキャパシタは、前記第2のアンテナ導体の一部と、前記誘電体板の他面に配置され前記第2のアンテナ導体の一部に対向する第2の導電体と、前記第2のアンテナ導体の一部と前記第2の導電体との間に位置する前記誘電体板と、から構成され、
前記第1のインダクタは、前記誘電体板の一面に配置され、一端がビアを介して前記第1の導電体と接続され、他端が前記第1の入出力端子に接続され、
前記第3のインダクタは、前記誘電体板の一面に配置され、一端がビアを介して前記第2の導電体と接続され、他端が前記第2の入出力端子に接続されている、
ことを特徴とする付記1又は2に記載の複数周波円偏波アンテナ。
【0075】
(付記4)
一端が前記第1の複数周波アンテナの第1の入出力端子に接続され、他端が前記第1の複数周波アンテナの第2の入出力端子に接続される第1の信号源と、
一端が前記第2の複数周波アンテナの第1の入出力端子に接続され、他端が前記第2の複数周波アンテナの第2の入出力端子に接続される第2の信号源と、をさらに備え、
前記第1の信号源が発生する信号と、前記第2の信号源が発生する信号とは、振幅が同じであり、且つ、位相差が前記所定角度に対応する位相差である、
ことを特徴とする付記1乃至3のいずれか一つに記載の複数周波円偏波アンテナ。
【0076】
(付記5)
前記第1の信号源が発生する信号と、前記第2の信号源が発生する信号とは、振幅が同じであり、且つ、位相差が「位相差=π−前記所定角度」である、
ことを特徴とする付記4に記載の複数周波円偏波アンテナ。
【0077】
(付記6)
前記第1の複数周波アンテナの第1の入出力端子と前記第2の複数周波アンテナの第1の入出力端子とが接続されて1つの入出力端子を形成し、前記第1の複数周波アンテナの第2の入出力端子と前記第2の複数周波アンテナの第2の入出力端子とが接続されて1つの入出力端子を形成し、
一端が前記第1の複数周波アンテナの第1の入出力端子に接続され、他端が前記第1の複数周波アンテナの第2の入出力端子に接続される信号源をさらに備え、
前記第1の複数周波アンテナから放射される電波と、前記第2の複数周波アンテナから放射される電波とが、振幅が同じであり、且つ、位相差が前記所定角度に対応する位相差となるように、前記第1乃至4のインダクタのインダクタンス、並びに、前記第1及び第2のキャパシタのキャパシタンスが調整されている、
ことを特徴とする付記1乃至3のいずれか一つに記載の複数周波円偏波アンテナ。
【0078】
(付記7)
前記第1の複数周波アンテナから放射される電波と、前記第2の複数周波アンテナから放射される電波とが、振幅が同じであり、且つ、位相差が「位相差=π−前記所定角度」となるように、前記第1乃至4のインダクタのインダクタンス、並びに、前記第1及び第2のキャパシタのキャパシタンスが調整されている、
ことを特徴とする付記6に記載の複数周波円偏波アンテナ。
【符号の説明】
【0079】
100,200・・・複数周波円偏波アンテナ、101,102,103,104,900,901・・・複数周波アンテナ、99・・・基板、110,210,310,410,190,290・・・入出力端子、120,220,320,420・・・アンテナ素子、130,150a,150b,230,250a,250b,330,350a,350b,430,450a,450b・・・ビア、150,250,350,450・・・ビア導体、140,240,340,440・・・シリーズインダクタ用導体、160a,160b,260a,260b,360a,360b,460a,460b・・・シリーズキャパシタ用導体、170,270,370,470・・・シャントインダクタ用導体、198,398・・・接続点、199・・・中心点、50・・・増幅部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のアンテナと第2のアンテナとが略鏡像対称に配置された構成をそれぞれ備える第1と第2の複数周波アンテナを備え、
前記第1のアンテナは、複数の共振周波数を持ち、第1の入出力端子と、第1のアンテナ導体と、第1のインダクタと第1のキャパシタとの直列回路であって前記第1の入出力端子と前記第1のアンテナ導体とを接続する直列回路と、一端が前記第1のアンテナ導体に接続された第2のインダクタと、を備え、
前記第2のアンテナは、複数の共振周波数を持ち、第2の入出力端子と、第2のアンテナ導体と、第3のインダクタと第2のキャパシタとの直列回路であって前記第2の入出力端子と前記第2のアンテナ導体とを接続する直列回路と、一端が前記第2のアンテナ導体に接続され、他端が前記第2のインダクタの他端に接続された第4のインダクタと、を備え、
前記第1の複数周波アンテナと前記第2の複数周波アンテナとは、90度未満の所定角度を有するように、前記第1の複数周波アンテナの中心点と前記第2の複数周波アンテナの中心点とが重なるように配置され、前記第1の複数周波アンテナの第4のインダクタの他端が、前記第2の複数周波アンテナの第4のインダクタの他端と接続されている、
ことを特徴とする複数周波円偏波アンテナ。
【請求項2】
前記第1のアンテナの複数の共振周波数と、前記第2のアンテナの複数の共振周波数とは、実質的に同一である、
ことを特徴とする請求項1に記載の複数周波円偏波アンテナ。
【請求項3】
誘電体板をさらに備え、
前記第1及び第2の入出力端子と前記第1及び第2のアンテナ導体とは、前記誘電体板の一面に形成され、
前記第2及び第4のインダクタは、前記誘電体板の他面に配置され、ビアを介して前記第2のインダクタの一端が前記第1のアンテナ導体に、前記第4のインダクタの一端が前記第2のアンテナ導体に接続され、
前記第1のキャパシタは、前記第1のアンテナ導体の一部と、前記誘電体板の他面に配置され前記第1のアンテナ導体の一部に対向する第1の導電体と、前記第1のアンテナ導体の一部と前記第1の導電体との間に位置する前記誘電体板と、から構成され、
前記第2のキャパシタは、前記第2のアンテナ導体の一部と、前記誘電体板の他面に配置され前記第2のアンテナ導体の一部に対向する第2の導電体と、前記第2のアンテナ導体の一部と前記第2の導電体との間に位置する前記誘電体板と、から構成され、
前記第1のインダクタは、前記誘電体板の一面に配置され、一端がビアを介して前記第1の導電体と接続され、他端が前記第1の入出力端子に接続され、
前記第3のインダクタは、前記誘電体板の一面に配置され、一端がビアを介して前記第2の導電体と接続され、他端が前記第2の入出力端子に接続されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の複数周波円偏波アンテナ。
【請求項4】
一端が前記第1の複数周波アンテナの第1の入出力端子に接続され、他端が前記第1の複数周波アンテナの第2の入出力端子に接続される第1の信号源と、
一端が前記第2の複数周波アンテナの第1の入出力端子に接続され、他端が前記第2の複数周波アンテナの第2の入出力端子に接続される第2の信号源と、をさらに備え、
前記第1の信号源が発生する信号と、前記第2の信号源が発生する信号とは、振幅が同じであり、且つ、位相差が前記所定角度に対応する位相差である、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の複数周波円偏波アンテナ。
【請求項5】
前記第1の信号源が発生する信号と、前記第2の信号源が発生する信号とは、振幅が同じであり、且つ、位相差が「位相差=π−前記所定角度」である、
ことを特徴とする請求項4に記載の複数周波円偏波アンテナ。
【請求項6】
前記第1の複数周波アンテナの第1の入出力端子と前記第2の複数周波アンテナの第1の入出力端子とが接続されて1つの入出力端子を形成し、前記第1の複数周波アンテナの第2の入出力端子と前記第2の複数周波アンテナの第2の入出力端子とが接続されて1つの入出力端子を形成し、
一端が前記第1の複数周波アンテナの第1の入出力端子に接続され、他端が前記第1の複数周波アンテナの第2の入出力端子に接続される信号源をさらに備え、
前記第1の複数周波アンテナから放射される電波と、前記第2の複数周波アンテナから放射される電波とが、振幅が同じであり、且つ、位相差が前記所定角度に対応する位相差となるように、前記第1乃至4のインダクタのインダクタンス、並びに、前記第1及び第2のキャパシタのキャパシタンスが調整されている、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の複数周波円偏波アンテナ。
【請求項7】
前記第1の複数周波アンテナから放射される電波と、前記第2の複数周波アンテナから放射される電波とが、振幅が同じであり、且つ、位相差が「位相差=π−前記所定角度」となるように、前記第1乃至4のインダクタのインダクタンス、並びに、前記第1及び第2のキャパシタのキャパシタンスが調整されている、
ことを特徴とする請求項6に記載の複数周波円偏波アンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−85174(P2013−85174A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224789(P2011−224789)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】