説明

複数枚の基板への蒸着被膜の同時形成方法および搬送トレイ

【課題】 簡易な構成で、熱負荷によるガラス基板の割れなどを誘発することなく、複数枚のガラス基板から複数枚のパネルを省エネルギーのもとに調製することを可能にする、複数枚の基板への蒸着被膜の同時形成方法および当該方法を実施するための搬送トレイを提供すること。
【解決手段】 搬送トレイを、四角形状の枠体と、枠体の対向する枠辺と枠辺の間に、その両端を枠体の各枠辺と弾性部材を介して連結することでテンションを付加して架設した薄体状部材とから構成し、複数本の薄体状部材を、複数枚の基板が搬送トレイに載置されている状態を形成することができる保持部材として機能させるとともに、基板における蒸着被膜形成領域を画定するためのマスク部材として機能させ、所定の薄体状部材の所定の位置に、複数枚の基板を載置した際、隣接する基板同士を仕切るための仕切り部材を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネルを製造する際の、ガラス基板にMgO被膜を形成する工程などに適用される、複数枚の基板への蒸着被膜の同時形成方法および当該方法を実施するための搬送トレイに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の基板への蒸着被膜の形成方法および搬送トレイとして知られているものには、例えば、特許文献1に記載のものがある。特許文献1には、四角形状の枠体と、枠体の対向する内周部と内周部の間に、その両端を枠体の各内周部と弾性部材を介して連結することでテンションを付加して架設した薄体状部材とから構成される搬送トレイを用いた、ガラス基板へのMgO被膜などの蒸着被膜の形成方法が記載されている(例えば図2を参照のこと)。
【0003】
特許文献1に記載の方法は、基板への蒸着被膜の形成方法として一応の評価をすることができるものである。しかしながら、この方法は、複数枚のガラス基板への蒸着被膜の同時形成を想定したものではなく、1枚のガラス基板から6枚や8枚といった多数枚のパネルを調製する場合には、蒸着被膜を形成した後に多数回のガラス基板の切断工程を必要とするといった問題を有していた。また、この方法は、その発明の詳細な説明の段落0012に記載の通り、ガラス基板を四角形状の枠体の内周部に設けた窓枠状の基板受けに載置することで保持するようにしている。従って、例えば、大型のガラス基板を加熱して蒸着被膜を形成する際、枠体自体を加熱しなければならないので、エネルギー消費量が膨大であるといった問題や、枠体の熱歪が起こるといった問題を有していた。また、ガラス基板を搬送トレイにセットすることで初期に発生する機械応力を緩和することができないといった問題を有していた。さらに、ガラス基板に許容範囲を超える熱応力が発生するとこれを緩和することができないことに加え、ガラス基板の高熱による撓みを基板受けが十分に吸収することができないことで熱のびによって無視することのできない機械応力が発生するといった問題を有していた。その結果、熱負荷によるガラス基板の割れなどを誘発するおそれがあるといった問題を有していた。
【特許文献1】特開2000−199046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、簡易な構成で、熱負荷によるガラス基板の割れなどを誘発することなく、複数枚のガラス基板から複数枚のパネルを省エネルギーのもとに調製することを可能にする、複数枚の基板への蒸着被膜の同時形成方法および当該方法を実施するための搬送トレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の点に鑑みて種々の検討を行った結果、複数枚のガラス基板に蒸着被膜を同時形成するために用いる搬送トレイを、四角形状の枠体と、枠体の対向する枠辺と枠辺の間に、その両端を枠体の各枠辺と弾性部材を介して連結することでテンションを付加して架設した薄体状部材とから構成し、複数本の薄体状部材を、複数枚のガラス基板が搬送トレイに載置されている状態を形成することができる保持部材として機能させるとともに、ガラス基板における蒸着被膜形成領域を画定するためのマスク部材として機能させ、所定の薄体状部材の所定の位置に、複数枚のガラス基板を載置した際、隣接するガラス基板同士を仕切るための仕切り部材を設けることで、上記の目的を達成することができることを知見した。
【0006】
上記の知見に基づいてなされた本発明の複数枚の基板への蒸着被膜の同時形成方法は、請求項1記載の通り、複数枚の基板を水平に維持して真空蒸着装置の蒸着室に搬送し、基板に蒸着被膜を形成するために用いられる搬送トレイを、四角形状の枠体と、枠体の対向する枠辺と枠辺の間に、その両端を枠体の各枠辺と弾性部材を介して連結することでテンションを付加して架設した薄体状部材とから構成し、前記薄体状部材を、一方の対向する枠辺と枠辺の間に他方の枠辺に平行に3本以上、他方の対向する枠辺と枠辺の間に一方の枠辺に平行に2本以上、架設して、個々の薄体状部材を、複数枚の基板が搬送トレイに載置されている状態を形成することができる保持部材として機能させるとともに、基板における蒸着被膜形成領域を画定するためのマスク部材として機能させ、少なくとも平行に3本以上架設した薄体状部材の両外側の薄体状部材以外の薄体状部材の全部またはいずれかに、複数枚の基板を載置した際、隣接する基板同士を仕切るための仕切り部材を設け、前記仕切り部材で隣接する基板同士が仕切られた状態で、基板の下方から蒸着被膜を形成することを特徴とする。
また、本発明の搬送トレイは、請求項2記載の通り、複数枚の基板を水平に維持して真空蒸着装置の蒸着室に搬送し、基板に蒸着被膜を形成するために用いられる搬送トレイであって、四角形状の枠体と、枠体の対向する枠辺と枠辺の間に、その両端を枠体の各枠辺と弾性部材を介して連結することでテンションを付加して架設した薄体状部材とから構成され、前記薄体状部材を、一方の対向する枠辺と枠辺の間に他方の枠辺に平行に3本以上、他方の対向する枠辺と枠辺の間に一方の枠辺に平行に2本以上、架設して、個々の薄体状部材を、複数枚の基板が搬送トレイに載置されている状態を形成することができる保持部材として機能させるとともに、基板における蒸着被膜形成領域を画定するためのマスク部材として機能させ、少なくとも平行に3本以上架設した薄体状部材の両外側の薄体状部材以外の薄体状部材の全部またはいずれかに、複数枚の基板を載置した際、隣接する基板同士を仕切るための仕切り部材を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、簡易な構成で、熱負荷によるガラス基板の割れなどを誘発することなく、複数枚のガラス基板から複数枚のパネルを省エネルギーのもとに調製することを可能にする、複数枚の基板への蒸着被膜の同時形成方法および当該方法を実施するための搬送トレイが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の複数枚の基板への蒸着被膜の同時形成方法を、プラズマディスプレイパネルを製造する際の、ガラス基板にMgO被膜を形成する場合を例にとって図面を参照しながら説明する。
【0009】
図1は、本発明の複数枚の基板への蒸着被膜の同時形成方法を実施するための搬送トレイの一実施形態の概略平面図である。図1に示した搬送トレイAは、ステンレスやチタンなどからなる四角形状の枠体1と、枠体1の対向する枠辺と枠辺の間に、その両端を枠体1の各枠辺と弾性部材としてのスプリング3を介して連結することでテンションを付加して架設した薄体状部材2とから構成される。薄体状部材2は、図1における横方向に対向する枠辺と枠辺の間に縦方向の枠辺に平行に3本、縦方向の対向する枠辺と枠辺の間に横方向の枠辺に平行に4本、架設されている。図1に示した搬送トレイAは、1枚から3枚のパネルを調製するためのガラス基板を2枚載置することができるものであり、2枚のガラス基板を載置した際、隣接するガラス基板同士を仕切るための、耐熱性樹脂や、ガラス基板に損傷を与えることがないように表面処理などの対策を施した金属などからなる仕切り部材4が、図1における横方向に対向する枠辺と枠辺の間に縦方向の枠辺に平行に3本架設した薄体状部材2の中央の薄体状部材2に、合計6つ突出設置されている。
【0010】
図2は、図1に示した搬送トレイAに2枚のガラス基板(X1,X2)を載置した状態を示す概略平面図である。本発明においては、個々の薄体状部材2を、2枚のガラス基板(X1,X2)が搬送トレイAに載置されている状態を形成することができる保持部材として機能させるとともに、ガラス基板X1とガラス基板X2における各々3つの蒸着被膜形成領域(斜線で示すYの部分)を画定するためのマスク部材として機能させる。これにより、大型のガラス基板を加熱して各蒸着被膜形成領域にMgO被膜を形成する際でも、枠体を加熱する必要がないので、省エネルギー化を図ることができる。加えて、枠体の熱歪を抑制することができる。また、両端にテンションを付加した薄体状部材が、ガラス基板を搬送トレイにセットすることで初期に発生する機械応力を緩和する。また、薄体状であることで熱容量が小さいことから、ガラス基板との温度差が小さくなるので、ガラス基板に発生する熱応力を軽減するとともに、ガラス基板に発生する熱応力を緩和する。さらに、ガラス基板の高熱による撓みを均等に吸収することで熱のびによる機械応力も緩和する。従って、特許文献1に記載の方法のように、ガラス基板を枠体の内周部に設けた窓枠状の基板受けに載置するといった態様の他、薄体状部材をガラス基板の保持部材として機能させる場合であっても、その両端を枠体の各枠辺と弾性部材を介さず固定するといった態様や、一方の端部のみ枠体の枠辺と弾性部材を介して連結することでテンションを付加し、他方の端部は枠体の枠辺と弾性部材を介さず固定するといった態様において起こりうる熱負荷によるガラス基板の割れなどを抑制することができる。また、仕切り部材4の存在により、MgO被膜を形成する工程の途中でガラス基板X1とガラス基板X2が接触することがないので、エッジの欠けなどの発生を抑制することができる。
【0011】
薄体状部材の熱膨張率をガラス基板の熱膨張率の±20%とすることで、ガラス基板を加熱してMgO被膜を形成する際、ガラス基板に発生する熱応力や機械応力をより効果的に緩和することができる。従って、熱負荷によるガラス基板の割れなどをより効果的に抑制することができる。例えば、ガラス基板としてホウケイ酸ガラスを用いる場合、薄体状部材はホウケイ酸ガラスと熱膨張率が近似するニッケル鉄合金からなるものが望ましい。
【0012】
薄体状部材の厚みは0.1mm〜0.8mmとすることが望ましい。厚みが0.1mmを下回るとガラス基板の保持部材としての機能が十分でなくなるおそれがある一方、厚みが0.8mmを上回ると薄体状部材と薄体状部材の交差部分周囲に隙間が生じ、マスク部分へのMgO成分の回り込み現象(所謂「膜ダレ現象」)が起こることで、ガラス基板における蒸着被膜形成領域への正確なMgO被膜の形成ができなくなるおそれがある。
【0013】
本発明の複数枚の基板への蒸着被膜の同時形成方法を実施するために用いる真空蒸着装置は、図面による説明は省略するが、自体公知のものであってよく、特許文献1に記載されている装置の他、搬送トレイAによって水平に維持された状態で蒸着室に搬送されてきた2枚のガラス基板(X1,X2)に、その下方から、蒸発源から蒸発させたMgO成分を蒸着させてMgO被膜を形成することができる構造を有する装置であれば、どのような装置であってもよい。
【0014】
なお、図1に示した搬送トレイAは、1枚から3枚のパネルを調製するためのガラス基板を2枚載置することができるものであり、ガラス基板X1とガラス基板X2における各々3つの蒸着被膜形成領域YにMgO被膜を形成することで、2枚のガラス基板(X1,X2)から合計6枚のパネルを調製することができるが、図3に示した搬送トレイBのように、図1における横方向に対向する枠辺と枠辺の間に縦方向の枠辺に平行に3本架設した薄体状部材2の中央の薄体状部材2に加え、図1における縦方向に対向する枠辺と枠辺の間に横方向の枠辺に平行に4本架設した薄体状部材2の内側2本の薄体状部材2にも仕切り部材4を設ければ、1枚のガラス基板から1枚のパネルを合計6枚調製することができる。また、図4に示した搬送トレイCのように、本来、隣接するガラス基板同士を仕切るための仕切り部材4を全ての薄体状部材2に設け、ガラス基板の四方を仕切り部材4で包囲するようにしてもよい。また、薄体状部材2をスプリング3とともに枠体1から着脱自在とし、これらを枠体1の枠辺の任意の位置に任意の本数だけ架設することができるようにするとともに、仕切り部材4を薄体状部材2から着脱自在とし、これを任意の薄体状部材2の任意の位置に任意の個数だけ設けることができるようにすれば、任意の枚数かつ任意の大きさのガラス基板に任意の個数かつ任意の大きさの蒸着被膜形成領域を画定してMgO被膜を形成することができるので、任意の枚数かつ任意の大きさのガラス基板から任意の枚数かつ任意の大きさのパネルを調製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明は、簡易な構成で、熱負荷によるガラス基板の割れなどを誘発することなく、複数枚のガラス基板から複数枚のパネルを省エネルギーのもとに調製することを可能にする、複数枚の基板への蒸着被膜の同時形成方法および当該方法を実施するための搬送トレイを提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の複数枚の基板への蒸着被膜の同時形成方法を実施するための搬送トレイの一実施形態の概略平面図である。
【図2】図1に示した搬送トレイAに2枚のガラス基板(X1,X2)を載置した状態を示す概略平面図である。
【図3】本発明の複数枚の基板への蒸着被膜の同時形成方法を実施するための搬送トレイのその他の実施形態の概略平面図である。
【図4】本発明の複数枚の基板への蒸着被膜の同時形成方法を実施するための搬送トレイのその他の実施形態の概略平面図である。
【符号の説明】
【0017】
A 搬送トレイ
B 搬送トレイ
C 搬送トレイ
1 枠体
2 薄体状部材
3 スプリング
4 仕切り部材
X1 ガラス基板
X2 ガラス基板
Y 蒸着被膜形成領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の基板を水平に維持して真空蒸着装置の蒸着室に搬送し、基板に蒸着被膜を形成するために用いられる搬送トレイを、四角形状の枠体と、枠体の対向する枠辺と枠辺の間に、その両端を枠体の各枠辺と弾性部材を介して連結することでテンションを付加して架設した薄体状部材とから構成し、前記薄体状部材を、一方の対向する枠辺と枠辺の間に他方の枠辺に平行に3本以上、他方の対向する枠辺と枠辺の間に一方の枠辺に平行に2本以上、架設して、個々の薄体状部材を、複数枚の基板が搬送トレイに載置されている状態を形成することができる保持部材として機能させるとともに、基板における蒸着被膜形成領域を画定するためのマスク部材として機能させ、少なくとも平行に3本以上架設した薄体状部材の両外側の薄体状部材以外の薄体状部材の全部またはいずれかに、複数枚の基板を載置した際、隣接する基板同士を仕切るための仕切り部材を設け、前記仕切り部材で隣接する基板同士が仕切られた状態で、基板の下方から蒸着被膜を形成することを特徴とする複数枚の基板への蒸着被膜の同時形成方法。
【請求項2】
複数枚の基板を水平に維持して真空蒸着装置の蒸着室に搬送し、基板に蒸着被膜を形成するために用いられる搬送トレイであって、四角形状の枠体と、枠体の対向する枠辺と枠辺の間に、その両端を枠体の各枠辺と弾性部材を介して連結することでテンションを付加して架設した薄体状部材とから構成され、前記薄体状部材を、一方の対向する枠辺と枠辺の間に他方の枠辺に平行に3本以上、他方の対向する枠辺と枠辺の間に一方の枠辺に平行に2本以上、架設して、個々の薄体状部材を、複数枚の基板が搬送トレイに載置されている状態を形成することができる保持部材として機能させるとともに、基板における蒸着被膜形成領域を画定するためのマスク部材として機能させ、少なくとも平行に3本以上架設した薄体状部材の両外側の薄体状部材以外の薄体状部材の全部またはいずれかに、複数枚の基板を載置した際、隣接する基板同士を仕切るための仕切り部材を設けたことを特徴とする搬送トレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−45664(P2006−45664A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−84628(P2005−84628)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】