説明

複数波長による表面形状測定方法およびこれを用いた装置

【課題】 光干渉法を用いて、1波長の単色光を測定対象面に照射し、測定対象面までの距離を変更して、少なくとも3枚以上の画像を撮像して、各画素の輝度値から位相計算をおこない、隣接画素の位相値を用いて三次元形状を測定する位相シフト法が用いられて来たが、隣接画素間の段差に波長による制約があった。
【解決手段】広帯域な波長特性を有する照射光から波長の異なる複数の単色光を抽出し、それらを混在させて、分岐手段を介して測定対象面と参照面に同時に照射し、測定対象面と参照面とから反射して同一光路を戻る反射光によって生じる干渉縞の画像を測定対象面と参照面とからの反射光路長の差を変化させて、取得した前記複数枚の画像を単色光ごとに分解し、単色光ごとに求めた各画素の位相から、複数個の表面高さの候補群を求め、各候補群から共通する高さを実高さとして求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
光干渉法を用いた位相シフト法において、複数波長を同時照射し、一台のカラーカメラで撮像する表面形状測定方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光干渉法を用いて、1波長の単色光を測定対象面に照射し、測定対象面までの距離を変更して、少なくとも3枚以上の画像を撮像して、各画素の輝度値から位相計算をおこない、隣接画素の位相値を用いて三次元形状を測定する位相シフト法が用いられて来た。しかし、当該測定方法では、隣接画素間の段差に波長による制約があった。
【0003】
また、上記1波長の単色光に対し、単色光の波長を順次切り換えて、各波長の輝度信号を取得し、高さ計算の際に等価波長を利用する方法も用いられていた。
【0004】
さらには、3波長のレーザー光の単色光を同時照射し、カラーカメラで撮像し、R波長、B波長さらにG波長の各波長の画像に分解し、各波長の輝度値から位相計算をおこない、高さ計算時に合致法を用いた表面形状測定方法あるいはそれを用いた装置が開発されて来た。[非特許文献1]等参照。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−053307
【特許文献2】特開2008−209404
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A.Pfortner and J.Schwider:Red−green−blue interferometer for the metrology of discontinuos structures,Appl.Opt.42,667−673(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記背景技術に記載の1波長の単色光での光干渉法を用いた位相シフト法では、隣接画素との位相接続のため、隣接画素との高さの差が照射光の波長の1/4以下に限定されるという問題があった。
【0008】
また、その他の従来技術の表面形状測定方法またはそれを用いた装置、例えば、複数の単色光の光源を順次切り替える測定方法では、複数回の測定となり測定時間が冗長になってしまう。また、複数回の測定の測定時間を経過している間の測定対象物の環境変化により測定精度が劣化する可能性があった。
【0009】
さらには、複数波長のレーザ光を同時照射する方法では、レーザ光の特性からスペックルノイズが生じ、鮮明な画像を得ることができないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の第1の発明は、分岐手段を介して測定対象面と参照面に波長の異なる複数の単色光を照射し、測定対象面と参照面の両方から反射して同一光路を戻る反射光によって生じる干渉縞の強度値を、測定対象面と参照面とからの反射光路長の差を変化させて検出する複数波長位相シフト法による表面形状測定方法において、
広帯域な波長特性を有する照射光から波長の異なる複数の単色光を抽出し、それらを混在させて、分岐手段を介して測定対象面と参照面に同時に照射する第1過程と、
測定対象面と参照面とから反射して同一光路を戻る反射光によって生じる干渉縞の画像を、測定対象面と参照面とからの反射光路長の差を変化させて、1台のカラーカメラで複数枚取得する第2過程と、
取得した前記複数枚の画像を単色光ごとに分解する第3過程と、
分解した単色光ごとの複数枚の画像から、光学系機器の分光特性により各単色光に含まれる他の単色光からの混入信号を除去する第4過程と、
単色光ごとに、複数枚画像の同一位置の画素の干渉縞強度値より干渉縞波形を求める表現式を利用して、各画素の位相を求める第5過程と、
単色光ごとに求めた各画素の位相から、複数個の表面高さの候補群を求め、各候補群から共通する高さを実高さとして求める第6過程と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
上記の様に、本願発明では、光干渉法を用いた表面形状測定方法として、公知である位相シフト法を用いて測定する場合に、他の報告にはなかった白色光源を用いて、複数の単色光を同時に照射し、カラーカメラで撮像し、各単色光ごとに複数の画像に分解し、さらに、クロストーク現象の補正を保有のソフトウエアで処理することができる方法、さらには、当該方法を用いて表面形状測定をおこなうことができる装置を提供する。
【0012】
白色光源を用いることにより、他の公知文献にあるレーザ光を用いた場合に、その特有の欠点として生じるスペックルノイズの影響を回避することができる。また、複数の単色光を同時に照射する場合には、白色光源と、多帯域通過型フィルタあるいは、音響光学フィルタを用いることで、最適な波長を自由に設定し、それらの複数の単色光からなる照射光を照射することができる。
【0013】
上記の様に、1台のカラーカメラで撮像するため、各波長、例えばR波長、G波長またはB波長などの各波長ごとの画像に分解する場合に、どうしても、画像間にクロストーク現象が生じるので、クロストーク補正をおこなって、撮像画像の精度を確保する。
【0014】
ところで、一般に公知である1波長の位相シフト法では、画像撮像時のZ方向走査ピッチは、位相計算を容易にするために、一般に照射波長の1/4を用いる。本発明では、複数の波長の照射光を用いるので、必ずしも1/4波長にはならない。その為の随意の複数の単色光ごとの位相計算は、Z方向走査のピッチごとに得られた輝度値列より最小二乗法により近似正弦波を求め、当該近似正弦波の位相により求める複数波長の[特許文献2]に記載の最小二乗適合の技術が適用できる。
【0015】
また、位相シフト法において、複数波長による高さ計算は、一般に各波長の最小公倍数で求まる等価波長を用いて高さ計算をおこなうことで、測定範囲の高さレンジを拡大できる。本発明では、任意画素の高さ計算は、各波長の高さ候補群より合致法を用いて求める。[特許文献2]参照。
【0016】
また、本願の第2の発明は、上記第1の発明に記載の複数波長による表面形状測定方法において、測定対象面の所定画素に対応する前記単色光ごとの位相を干渉縞波形の表現式である式、

g=a+bcos{2πfx+φ}

に最小二乗適合させて求めることを特徴とする。
ここで、gは前期複数枚の画素の同一画素の強度値、aは干渉縞波形に含まれる直流成分、bは干渉縞波形に含まれる交流成分の振幅、fは照射する単色光の周波数、xはx方向の座標およびφは求める測定対象面の所定画素に対応する前記単色光ごとの位相をを意味する。
【0017】
さらに、本願の第3の発明は、上記第1の発明ないし上記第2の発明のいずれかで用いる前記照射手段が、広帯域な波長特性を有する照射光から、多帯域通過型フィルタあるいは音響光学フィルタを用いて異なる波長の単色光を複数抽出し、同時に混在して照射する照射手段からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本願発明の第1の効果として、光干渉法を用いた表面形状測定方法として、公知である位相シフト法を用いて測定する場合に、他の報告にはなかった白色光源を用いて、複数の単色光を同時に照射し、カラーカメラで撮像し、複数の単色光ごとに複数の画像に分解し、さらに、クロストーク現象の補正を保有のソフトウエアで処理することができる方法、さらには、当該方法を用いて表面形状測定をおこなうことができる。また、複数波長で撮像することで、高さ測定レンジの拡大が図れる。
【0019】
各画素の高さ計算が、1波長位相シフト法でおこなう隣接画素との位相接続と異なり、各波長(RGBなど)毎の位相による高さ候補より合致法で高さを求める各画素毎の独立計算のため、隣接画素間の段差の波長による制約がなくなる。
【0020】
また、第2の効果として、測定時間の高速化が図れることである。すなわち、複数波長を同時に照射し、同時に撮像することにより、一回の測定で結果が得られるので、1波長での測定時間と同等な時間で測定できる。また、バンドパスフィルタの切り替えが不要となる。
【0021】
第3の効果として、多帯域通過型フィルタあるいは音響光学フィルタを用いることで、レーザ光を用いる場合と異なり、最適な波長を自由に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施例に係る表面形状測定装置の概略構成を示す図。
【図2】表面形状測定装置における処理を示すフローチャート。
【図3】取得画像7枚の同一画素のB,GおよびRの輝度値を示す図。
【図4】X方向各画素のB,GおよびRの位相演算結果を示す図。
【図5】X方向各画素の高さ演算結果を示す図。
【図6】XY方向各画素の高さ演算結果(1ミクロン段差の表面形状)を示す図。
【図7】図6の測定結果を3次元で描いた測定結果を示す図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【0024】
なお、本実施例としては、測定対象物の表面高さおよび表面形状を干渉縞を利用して測定した事例を含めて、本願明細書に引用した先行技術文献[特許文献2]に記載の表面形状測定装置を例に採って説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施例に係る表面形状測定装置の概略構成を示す図である。この表面
形状測定装置は、半導体ウエハ、液晶パネル、プラズマディスプレイパネル、磁性体フィ
ルム、ガラス基板または金属膜などの表面に微細な凹凸段差を有する測定対象物30に特定波長帯域の単色光を複数照射する光学系ユニット1と、光学系ユニット1を
制御する制御系ユニット2と、測定対象物30を載置保持する保持テーブル40を備えている。
【0026】
光学系ユニット1は、測定対象面30Aおよび参照面15に向けて波長の異なる複数の
単色光を出力する照明装置10と、各単色光を平行光にするコリメートレンズ11と、各
単色光を測定対象物30の方向に反射する一方測定対象物30の方向からの光を通過させ
るハーフミラー13と、ハーフミラー13で反射されてきた各単色光を集光する干渉対物レンズ14と、干渉対物レンズ14を通過してきた単色光を参照面15へ反射させる参照光と測定対象面30Aへ通過させる測定光とに分けるとともに、参照面15で反射してきた参照光と測定対象面30Aで反射してきた測定光とを再びまとめて干渉縞を発生させるビームスプリッタ17と、参照光と測定光とがまとめられた各単色光を結像する結像レンズ18と、干渉縞とともに測定対象面30Aを撮像する撮像装置19とを備える。
【0027】
照明装置10は、広帯域な波長を有する照射光を照射する光源10Aおよび多帯域通過型フィルタあるいは音響光学フィルタ10Bから構成されている。本実施例の光源10Aとしては、例えばハロゲンランプからなる白色光源が利用される。多帯域通過型フィルタあるいは音響光学フィルタ10Bを透過することで、任意の波長の異なる複数の単色光を同時混在した状態で波長の異なる複数の単色光を選択的に抽出する。任意の波長の異なる複数の単色光の波長は、例えば、第1波長は波長λ=470nm、第2波長は波長λ=560nm、第3波長は波長λ=600nmである。なお、当該照明装置10が本願発明の照射手段に相当する。
【0028】
ハーフミラー13は、コリメートレンズ11からの波長の異なる複数の単色光からなる
平行光を測定対象物30に向けて反射する一方、測定対象物30から戻ってきた反射光を
通過させるものである。
【0029】
干渉対物レンズ14は、入射してきた、波長の異なる複数の単色光を焦点とする測定対象面30Aに集光するレンズである。
【0030】
ビームスプリッタ17は、干渉対物レンズ14で集光される波長の異なる複数の単色光を参照面15で反射させる参照光と、測定対象面30Aで反射させる測定光とに分離する。ま
た、各面で反射して同一光路を戻る参照光と測定光とを再びまとめることによって、波長
の異なる複数の単色光の波長ごとに干渉を発生させる。なお、ビームスプリッタ17は、
本発明の分岐手段に相当する。
【0031】
参照面15は、表面が鏡面加工されており、この参照面15によって反
射された波長の異なる複数の単色光からなる参照光は、ビームスプリッタ17に達し、さ
らに、ビームスプリッタ17によって反射されるようになっている。
【0032】
また、ビームスプリッタ17を通過した波長の異なる複数の単色光からなる測定光は、
焦点に向けて集光され、測定対象面30Aで反射する。この反射した測定光は、ビームスプリッタ17に達して、そのビームスプリッタ17を通過する。
【0033】
ビームスプリッタ17で、参照光と測定光とが再びまとまる。このとき、参照面15とビームスプリッタ17との間の距離L1と、ビームスプリッタ17と測定対象面30Aとの間の距離L2との距離の差によって光路差が生じる。その光路差に応じて、参照光と測定光とは波長の異なる複数の単色光ごとに干渉する。
【0034】
撮像装置19は、波長の異なる複数の単色光からなる測定光によって映し出される測定
対象面30Aの画像を撮像する。この撮像した画像データは、制御系ユニット2のメモリ21によって収集される。また、撮像装置19によって所定のサンプリングタイミングで測定対象面30Aおよび測定対象面の凸部(凹部)30Bの画像が撮像され、その画像データが制御系ユニット2によって収集される。なお、撮像装置19は、本発明の撮像手段に相当し、制御系ユニット2は、本発明のサンプリング手段として機能する。
【0035】
本実施例における撮像装置19としては、波長の異なる複数の単色光を検出できる構成であればよく、例えば、CCD固体撮像素子、CMOSイメージセンサなどを用いる。
【0036】
制御系ユニット2は、表面形状測定装置の全体の統括的な制御や、所定の演算処理を行
うためのCPU20と、CPU20によって逐次収集された画像データや演算結果などの
各種のデータおよびプログラムなどを記憶するメモリ21と、サンプリングタイミングや
撮像エリアなどその他の設定情報を入力するマウスやキーボードなどの入力部22と、測
定対象面30Aの画像などを表示するモニタ23とを備える。また、CPU20の指示に
応じて光学系ユニット1をZ方向に移動するように駆動させる、例えば、図示していないピエゾアクチュエータなどの駆動機構で構成される駆動部24を備えるコンピュータシステムで構成されている。なお、CPU20は、本発明における演算手段に相当し、メモリ21は、本発明の記憶手段として機能する。
【0037】
CPU20は、いわゆる中央演算処理装置であって、撮像装置19、メモリ21および
駆動部24を制御するとともに、撮像装置19で撮像した波長の異なる複数の単色光ごと
の干渉縞を含む測定対象面30Aの画像データに基づいて、当該測定対象物30の表面形状を求める演算処理を行うさらに、CPU20には、モニタ23とキーボードやマウスなどの入力部22とが接続されており、操作者は、モニタ23に表示される操作画面を参照しながら、入力部22から各種の設定情報の入力を行う。また、モニタ23には、測定対象面30Aの表面画像や凹凸形状などが数値や画像として表示される。
【0038】
駆動部24は、参照面15とビームスプリッタ17との間の固定された距離L1と、ビームスプリッタ17と測定対象面30Aとの間の可変の距離L2との距離の差を変化させるために光学ユニット1をZ軸方向に変化させる装置であり、CPU20からの指示によって光学系ユニット1を図1中に記載のz軸方向に駆動する例えばピエゾアクチュエータを備える駆動機構で構成されている。なお、本実施例では、光学系ユニット1を動作させるが、あるいは測定対象物30が載置される保持テーブル40をZ方向に駆動させるようにしてもよい。
【0039】
以下、本実施例の特徴部分である表面形状測定装置全体でおこなわれる処理を図2に示すフローチャートに従って説明する。
【0040】
〈ステップS1〉測定データの取得
光学系ユニット1は、照明装置10から異なる波長の単色光を同時に出力し、測定対象物30および参照面15に照射する。なお、この過程が本発明の第1過程に相当する。
【0041】
CPU20は、光学ユニット1が、例えば照射する任意の単色光の波長λの1/8のサンプリング間隔だけZ方向に移動するたびに、撮像装置19のカラーカメラで撮像される干渉縞を含む測定対象面物30の画像データを収集してメモリ21に順次記憶する。なお、この過程が本発明の第2過程に相当する。
【0042】
〈ステップS2〉各単色光ごとに画像分解
CPU20は、ステップS1にて、撮像装置19を作動して撮像した少なくとも3枚以上の複数枚の画像データを、それぞれR波長G波長およびB波長の画像に分ける。これは、すべてコンピュータ内部で処理される。例えば、7枚の画像データをR波長G波長およびB波長の画像に分けた場合の、ある1画素の輝度値のデータを図3に示す。なお、この過程が本発明の第3過程に相当する。
【0043】
〈ステップS3〉分解した画像の各単色間のクロストーク補正
上述で得られた画像の輝度信号には、各光源照射による加成性があるので、当該ステップでは、3波長の単色光照明によるクロストークを補正する。方法としては、各画素の観測輝度B’、G’、R’から真の輝度R、G、Bを求め補正する。このとき、補正に必要な係数は、予め実験により求めておく。
【0044】
すなわち、クロストーク現象の影響を受けて観測輝度値は、観測輝度値が入力光量に比例する限り、クロストークモデルとして、次式(1)の線形モデルで表すことができる。
【0045】
B’= B+αG+βR
G’=γB+ G+δR ・・・(1)
R’=εB+ξG+ R

ここで、B’、G’およびR’は観測輝度値、B、GおよびRは真の輝度値、α、β、γ、δ、εおよびζは、クロストーク現象の強度をあらわす係数、すなわちクロストーク補正係数である。ここでは、クロストーク補正係数の算出方法については省略するが、該クロストーク補正係数が算出されれば、式(1)を利用して、観測輝度値から真値を求めることができる。この場合は、連立一次方程式になるが、通常、クロストーク補正係数のほとんどが、数%と小さいので、該クロストーク補正係数の積の項を無視して、以下に示す単純な式(2)により真の輝度値を算出することができる。
【0046】
B= B’−αG’−βR’
G=−γB’+ G’−δR’ ・・・(2)
R=−εB’−ξG’+ R’

なお、この真の輝度値を求める過程が、本発明の第4過程に相当する。
【0047】
〈ステップS4〉各画素の位相計算
次に、B、GおよびR別の各波長ごとの複数枚の画像データの輝度値より、最小二乗法により近似正弦波を求め、当該正弦波より、各画素の位相を求める。CPU20によって選択した画素における位相を、撮像した複数枚の同じ位置の画素のそれぞれの干渉縞の光強度値を用いて予め決定した計算アルゴリズムを利用して求めてゆく。具体的には、各波長ごとの複数枚の撮像画像において、選択した画素の複数枚の干渉縞の光の強度値を干渉縞波形を求める表現式である次式(3)を変形した式(4)にあてはめて(フィッティングして)位相を求める。

g=a+bcos{2πfx+φ} ・・・(3)

まず、ある波長の算出対象の画素における位相φは、n点(nは少なくとも3以上)の干渉縞の光の強度値g(iは、1,...,n)に次式(4)のモデル関数を最小二乗適合することにより求められる。



ここで、aは干渉縞波形に含まれる直流成分、bは干渉縞波形に含まれる交流成分の振幅(以下、交流振幅という)、Δは光学ユニット1のZ方向の移動間隔、λは各単色光の波長である。
【0048】
次式(5)を仮定することにより、式(4)は以下の式(6)のように置き直すことができる。


【0049】
未知パラメータaとbとφとを最小二乗法で推定すると、次式(7)で表すことができる。ただしφに関しては非線形である。


【0050】
そこで以下の式(8)〜(9)を仮定することにより、式(6)は以下の式(10)のように変形し、以下の式(11)で表すことができる。それにより式(7)は、以下の式(12)で表すことができ、aとξとξとに関して線形な最小二乗問題にすることができる。

ζc=bcosφ ...(8)

ζs=−bsinφ ・・・(9)







【0051】
そこで、aとξcとξとの3元連立方程式を、次式(13)の行列で表す。


【0052】
式(13)の3元連立方程式を解いて、ξとξとを求めることで、以下の式(14)のように位相φを求めることができる。



例えば、R波長G波長およびB波長のそれぞれについて、X方向に1376画素の位相値を演算した結果を図4に示す。
なお、この過程が本発明における第5の過程に相当する。
【0053】
〈ステップS5〉各画素の実高さ計算
つぎに得られた位相から各波長ごとに高さの候補値を算出し、各波長間で最も良く合致する高さ候補を、予想される高さ範囲内で選択する。具体的には、次式(15)により高さの候補値h(n)を求め、各波長間で最も近接した高さ候補の組み合わせを選択する。すなわち各波長間の高さ候補の組み合わせのレンジ(最大値と最小値の差)が最小になる高さの組み合わせを求める。求まった高さの組み合わせのうち、ある波長の高さ候補値を実高さとして求める。または、求まった高さの組み合わせの平均値を実高さとして求めても良い。

(n)=(φ/2π)*(λ/2)+n(λ/2) ・・・(15)

ここで、jは波長番号(j=1,..3)、nは高さ候補の次数、φは位相、λは各単色光の波長である。
例えば、図4の位相演算結果から求めた、実高さ結果を図5に示す。
なお、この過程が本発明における第6の過程に相当する。
【0054】
<ステップS6> 全ての選択画素の演算処理終了?
CPU20は、全ての画素について位相と高さの算出が終了するまで、ステップS5〜S6の処理を繰り返し行う。
【0055】
<ステップS8> 演算結果の表面形状の表示
CPU20は、算出された表面高さの情報から測定対象面30Aの表示画像を作成し、それをモニタ23に測定対象面30Aの表面高さの2次元または3次元の画像などの情報を、例えば図6や図7のように表示する。オペレータは、これらの表示を観察することで、測定対象面30Aの表面にある凹凸形状を把握することができる。以上で一連の処理が終了する。
【産業上の利用可能性】
【0056】
半導体ウエハ、液晶パネル、プラズマディスプレイパネル、磁性体フィルム、ガラス基板、金属膜などの表面形状の測定方法において、
一般に知られている1波長の単色光を用いた位相シフト法では、隣接画素との位相接続のため、隣接画素との高さの差が照射光の波長の1/4以下に限定されるという問題があった。
【0057】
本願発明では、各画素の高さ計算が、1波長位相シフト法でおこなう隣接画素との位相接続と異なり、各波長(R、GおよびBなど)毎の位相による高さ候補より合致法で求める各画素毎の独立計算のため、隣接画素間の段差の波長による制約がなくなり、広い高さレンジの測定を行うことができる。
【符号の説明】
【0058】
1・・・光学系ユニット
2・・・制御系ユニット
10・・照明装置
10A・光源
10B・多帯域通過型フィルタあるいは音響光学フィルタ
11・・コリメートレンズ
13・・ハーフミラー
14・・干渉対物レンズ
15・・参照面
17・・ビームスプリッタ
18・・結像レンズ
19・・撮像装置
20・・CPU
21・・メモリ
22・・入力部
23・・モニタ
24・・駆動部
30・・測定対象物
30A・測定対象面
30B・測定対象面の凸部(凹部)
40・・保持テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分岐手段を介して測定対象面と参照面に波長の異なる複数の単色光を照射し、測定対象面と参照面の両方から反射して同一光路を戻る反射光によって生じる干渉縞の強度値を、測定対象面と参照面とからの反射光路長の差を変化させて検出する複数波長位相シフト法による表面形状測定方法において、
広帯域な波長特性を有する照射光から波長の異なる複数の単色光を抽出し、それらを混在させて、分岐手段を介して測定対象面と参照面に同時に照射する第1過程と、
測定対象面と参照面とから反射して同一光路を戻る反射光によって生じる干渉縞の画像を測定対象面と参照面とからの反射光路長の差を変化させて、1台のカラーカメラで複数枚取得する第2過程と、
取得した前記複数枚の画像を単色光ごとに分解する第3過程と、
分解した単色光ごとの複数枚の画像から、光学系の分光特性により各単色光に含まれる他の単色光からの混入信号を除去する第4過程と、
単色光ごとに、複数枚画像の同一位置の画素の干渉縞強度値より干渉縞波形を求める表現式を利用して、各画素の位相を求める第5過程と、
単色光ごとに求めた各画素の位相から、複数個の表面高さの候補群を求め、各候補群から共通する高さを実高さとして求める第6過程と、
を備えたことを特徴とする複数波長による表面形状測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の複数波長による表面形状測定方法において、
gを前期複数枚の画素の同一画素の強度値、aは干渉縞波形nigふくまれる直流成分、bは干渉縞波形に含まれる交流成分の振幅、fは照射する単色光の周波数、xはx方向の座標およびφは求める測定対象面の所定画素に対応する前記単色光ごとの位相をとしたとき、

g=a+bcos{2πfx+φ}

に最小二乗適合させて求めることを特徴とする、複数波長による表面形状測定方法。
【請求項3】
請求項1ないし請求項2のいずれかで用いる前記照射手段が、広帯域な波長特性を有する照射光から、多帯域通過型フィルタもしくは音響光学フィルタを用いて異なる波長の単色光を複数抽出し、同時に混在して照射する照射手段からなることを特徴とする複数波長による表面形状測定方法。
【請求項4】
分岐手段を介して測定対象面と参照面に波長の異なる複数の単色光を照射し、測定対象面と参照面の両方から反射して同一光路を戻る反射光によって生じる干渉縞の強度値を、測定対象面と参照面とからの反射光路長の差を変化させて検出する複数波長位相シフト法による表面形状測定装置において、
広帯域な波長特性を有する照射光から波長の異なる複数の単色光を抽出し、それらを混在させて、分岐手段を介して測定対象面と参照面に同時に照射する照明手段と、
測定対象面と参照面とから反射して同一光路を戻る反射光によって生じる干渉縞の画像を、測定対象面と参照面とからの反射光路長の差を変化させて、1台のカラーカメラで複数枚撮像する撮像手段と、
撮像された複数枚の前記画像を画素ごとに干渉縞の強度値として取り込むサンプリング手段と、
前記サンプリング手段によって取り込まれた複数枚の前記強度値である干渉縞強度値群を記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された複数枚の強度値群を単色光ごとに分解する演算を行い、
分解した単色光ごとの複数枚の強度値群から、光学系の分光特性により各単色光に含まれる他の単色光からの混入信号を除去する演算を行い、
単色光ごとに、複数枚画像の同一位置の画素の干渉縞強度値より干渉縞波形を求める表現式を利用して、各画素の位相を求め、
単色光ごとに求めた各画素の位相から、複数個の表面高さの候補群を求め、各候補群から共通する高さを実高さとして求める演算手段と、
を備えたことを特徴とする複数波長による表面形状測定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の複数波長による表面形状測定装置において、
gを前記複数枚の画素、aを干渉縞波形に含まれる直流成分、bを干渉縞波形に含まれる交流成分の振幅、fを干渉縞gの空間周波数成分、xをx方向の座標およびφを測定対象面の所定画素に対応する位相として、
測定対象面の測定画素に対応する単色光ごとの位相を、干渉縞波形の表現式である式、

g=a+bcos{2πfx+φ}

に最小二乗適合させて求めることを特徴とする複数波長による表面形状測定装置。
【請求項6】
請求項4ないし請求項5のいずれかで用いる前記照射手段が、広帯域な波長特性を有する照射光から、多帯域通過型フィルタもしくは音響光学フィルタを用いて異なる波長の単色光を複数抽出し、同時に混在して照射する照射手段からなることを特徴とする複数波長による表面形状測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−68489(P2013−68489A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206653(P2011−206653)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】