説明

複数脳賦活観測システム

【課題】
複数の被験者の脳の同期性を評価し、共感の度合いを評価することができる複数脳賦活観測システムを提供する。
【解決手段】
被験者300の特定の部位に光を照射し、前記被験者からの通過光を検出して、前記被験者の脳活動信号を得て、集中制御装置に伝送する計測通信モジュールと100、複数の前記計測通信モジュールから、複数の被験者の脳活動信号を受信して、解析・表示する前記集中制御装置200を備えた複数脳賦活観測システムにおいて、前記集中制御装置200は、前記受信した複数の被検者の脳活動信号のそれぞれと参照信号との相関係数、t値、ANOVA値等の相関度を算出する相関度算出部を備え、算出した相関度に基づいて表示するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数脳賦活観測システム、特に、複数の被験者の脳活動信号を同時に計測して、複数の被験者の相互作用などを観測できるようにした複数脳賦活観測システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
脳の活動状態は、近赤外分光法NIRS(光トポグラフィ等)により、簡便に日常生活に近い環境で、無侵襲に測定可能となってきた。光トポグラフィ法は、可視から赤外領域に属する波長の光を被検体に照射し、被検体内部を通過した光を光検出器で検出し、血流の変化に伴うヘモグロビン濃度変化量(または、ヘモグロビン濃度と光路長の積の変化量)を計測し、2次元に画像化する方法である。機能的磁気共鳴画像法fMRI、ポジトロン断層撮像法PET等の脳機能計測技術と比較し、被験者に対する拘束性も低いという特徴を持っており、臨床現場において、この方法により、言語機能や視覚機能などの脳活動の計測が行われている。
【0003】
例えば映画、演劇などを見た場合に、複数の人が共感するとき、複数の人の脳の特定の部位が同時に賦活すると言われている。ここで、賦活とは、脳が活動(activation)している状況である。この複数の人の脳の賦活を観測することにより、複数の人が共感しているか否かを観測することができる。
【0004】
特許文献1には、光を用いて生体の血液動態を計測する計測端末と、複数の計測端末を制御しデータ取得と解析表示を行う集中制御装置からなり、同時に複数の被験者の脳活動を計測する生体計測装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−278903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献1記載の生体計測装置では、同時に複数の被験者の脳活動を計測し、複数の被験者の血液動態変化を並べて表示することが示されているが、血液動態データを比べて見ただけでは、複数の被験者の脳の賦活の同期を観測することは困難である。
【0007】
本発明は、複数の被験者の脳の同期性を評価し、共感の度合いを評価することができる複数脳賦活観測システムを提供することを目的とする。また、複数の被験者の共感の度合いを表示することができる複数脳賦活観測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、複数の被験者の脳活動信号の相関度を求めるものである。
【0009】
本発明の複数脳賦活観測システムの代表的な一例を挙げるならば、被験者の特定の部位に光を照射し、前記被験者からの通過光を検出して、前記被験者の脳活動信号を得て、集中制御装置に伝送する計測通信モジュールと、複数の前記計測通信モジュールから、複数の被験者の脳活動信号を受信して、解析・表示する前記集中制御装置を備えた複数脳賦活観測システムにおいて、前記集中制御装置は、前記受信した複数の被験者の脳活動信号のそれぞれと参照信号との相関係数、t値、ANOVA値等の相関度を算出する相関度算出部を備え、算出した相関度に基づいて表示するように構成したものである。
【0010】
本発明の複数脳賦活観測システムにおいて、前記参照信号は、前記受信した複数の被験者の脳活動信号から選択した信号でよい。
【0011】
また、本発明の複数脳賦活観測システムにおいて、前記参照信号は、予め記憶しておいたデフォルト値である脳活動信号でよい。
【0012】
また、本発明の複数脳賦活観測システムにおいて、前記集中制御装置は、相関度の値に応じて、色を変えて、または濃淡を変えて、または面積を変えて、表示するようにしてもよい。
【0013】
また、本発明の複数脳賦活観測システムにおいて、前記集中制御装置は、被験者の位置と対応付けて、相関度を表示するようにしてもよい。
【0014】
また、本発明の複数脳賦活観測システムにおいて、前記集中制御装置は、被験者をグループ分けし、各グループの相関度を表示するようにしてもよい。
【0015】
また、本発明の複数脳賦活観測システムにおいて、前記集中制御装置は、前記参照信号を所定時間ずつ遅延させる遅延手段を備え、前記相関度算出部は、所定時間ずつ遅延した参照信号と各被験者の脳活動信号との相関度を求め、遅延した時間の経過に応じて、各被験者の相関度を表示するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複数の被験者の脳の同期性を評価し、共感の度合いを評価することができる。
【0017】
また、複数の被験者の共感の度合いを認識することができ、一目で誰と誰が共感しているかを判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例1の複数脳賦活観測システムの概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例1の集中制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施例1の解析部の構成を示す図である。
【図4】本発明の複数脳賦活観測システムが適用される状況の例である。
【図5】複数の被験者から観測された脳血流データの一例を示す図である。
【図6】脳血流データの相関係数算出用窓を説明する図である。
【図7】複数の被験者の相関を示す表示の一例である。
【図8】教室における複数の生徒の相関を示す表示の一例である。
【図9】本発明の実施例2に関するグループ分けの一例を示す図である。
【図10】本発明の実施例3に関する脳血流データの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明の実施例1の複数脳賦活観測システムの概略構成を示す図である。複数脳賦活観測システムは、複数の被験者300のそれぞれに設けた計測通信モジュール100と、各計測通信モジュールを制御すると共に、各計測通信モジュールから計測データを受け取り、解析し、表示する集中制御装置200から構成されている。計測通信モジュール100は、小型、軽量化して、被験者の頭部に貼り付けるように構成されている。計測通信モジュール100は、被験者に近赤外光を照射するLED等の光源11、被験者を通過した近赤外光を受光するフォトダイオード等の光検出器12、光による計測を制御する計測制御部13、集中制御装置200と制御信号や計測データなどの送受信を行う無線通信部14、各部に電源を供給する電池15などから成る。計測制御部13には、光源の光量(光強度)を制御する発光量制御回路、血流の個人差を吸収するための自動利得調整回路、測定信号をデジタル信号に変換するAD変換回路などが含まれている。本複数脳賦活観測システムは、例えば、同時に40人までのリアルタイム計測を可能とする。
【0021】
図2は、集中制御装置200の概略構成を示すブロック図である。集中制御装置200は、各計測制御モジュール100と信号の送受信を行う通信部21、各計測制御モジュールから受信した計測データなどを記憶する記憶部22、計測データを処理して必要な情報を求める解析部23、解析した情報を基に表示に適したデータを作成する表示データ作成部24、計測結果を表示する表示部25から構成されている。また、必要な指令を入力するためのキーボードやマウス等の入力部26を備えている。そして、各部は、バスライン27で接続されている。
【0022】
解析部23では、各被験者から得られた脳血流データに基づき、脳の賦活度などの評価値を求める。
脳が活動すると流れる血液量が増加するが、この血液量の増加に対して、測定に使用した光が血液により吸収されるため、光検出器で検出する光の強度が減少する。光検出器の計測データから、図5に示される、各被験者AからEの脳血流データが得られる。図5は、横軸の時間に対して、縦軸の脳血流の大きさを示す模式図である。同じ刺激に対しても、各被験者の反応は様々であり、脳血流データの時間変化も被験者により異なっている。
脳の賦活度は、図5の脳血流データを時間積分することに求めることができ、この積分値が大きいほど、脳の賦活度が高いと評価することができる。
【0023】
本発明は、複数の被験者から同時に計測データを得て、複数の人の脳の賦活状況を観測するものであるが、教室における授業を例として説明する。図4は、教室における授業を示すもので、先生の講義を複数の生徒が受けている。各生徒は計測通信モジュール100を装着しており、得られる計測データを集中制御装置200に送り、先生の机の表示部25に観測結果が表示される。
【0024】
図5に示されるように、同じ刺激に対して、各被験者の反応は様々であるが、脳血流データの相関度を求めることにより、複数人の脳の賦活の同期性を評価し、共感の度合いを評価することができる。
【0025】
図3は、解析部23に含まれている本発明の特徴構成を示す図であり、相関度の一例として相関係数を求める相関係数算出部31が設けられている。相関係数算出部31は、各被験者(生徒)A,B,C・・・の測定データ33と参照データ32とを回帰分析し、相関係数を算出する。相関係数の算出は、図6に示すように、脳血流データの反応期間に相関係数算出用窓61を設定し、算出用窓61について相関係数を算出すればよい。
【0026】
参照データ32は、予め測定した典型的な脳活動データを複数デフォルト値として記憶しておき、その中から選択しても良い。
【0027】
また、図4の表示部25の画面に示すように、各被験者(生徒)の脳の賦活度を一覧表示し、入力部26により参照データとなる被験者を選択するようにしてもよい。図3および図5は、参照データ32として被験者Eを選択したものであり、この場合、被験者Eと各被験者A,B,C・・・との共感の度合いが求められる。
【0028】
図3では、各被験者A,B,C,D・・・の測定データと参照データとの相関係数を求める複数の相関係数算出部31を並列に備えるように表示しているが、一つの相関係数算出部を設け、各被験者の測定データが順次入力されるようにしても良い。
【0029】
図7は、図5の脳血流データに関する相関係数の算出結果の表示の一例を示すものである。相関係数が大きいほど面積が大きくなるように、表示しても良いし、また、相関係数が大きいほど色が濃くなるように、濃淡により表示しても良い。図7によれば、参照データとなる被験者Eと、被験者A,B,D,Cの順に相関係数が低くなることが分かる。また、図には示していないが、相関係数に応じて赤色表示・青色表示するなど、色調を変えて表示しても良い。
【0030】
図8に、図4の教室に対応する、各生徒の賦活観測結果の表示の一例を示す。図において、生徒Eは参照データとなる被験者であり、例えばA,B,D,Cに示すように、この被験者と相関が高いほど色が濃くなるように表示されている。
【0031】
教師は、図8に示される、集中制御装置の表示部25の画面を見ることにより、各生徒の集中度などを知ることができる。参照データとなる生徒Eが授業に集中していれば、色が濃く表示される他の生徒も集中していることとなる。
【0032】
図8に示すように、被験者の場所と対応付けて賦活観測結果を表示するためには、被験者の場所のデータが必要である。このため、計測制御モジュール100に、GPS装置などの位置測定装置を組み込み、位置データを集中制御装置200に送るようにすればよい。また、教室のように座席の位置が決まっている場合には、計測制御モジュール100の識別番号と座席の位置を対応付けて登録しておいても良い。
【0033】
この実施例では、計測データなどを無線通信で伝送するとしたが、教室などの利用であれば、予め座席に光ファイバ等の伝送ケーブルを設けておき、計測通信モジュール100を接続して、有線で伝送するようにしても良い。
【0034】
また、計測通信モジュールは被験者の頭部に貼り付けられるとしたが、バンドなどの固定具で頭部に装着されるようにしても良い。
【0035】
この実施例では、教室での利用の例を説明したが、本発明はホールや屋外で利用することもできる。ホールや屋外でのコンサート、演劇、講演、演説等の反応を表示することができる。
【実施例2】
【0036】
実施例1では、各被験者との相関を求めて、被験者毎に相関係数の算出結果を表示したが、被験者をグループ分けして、グループ毎の算出結果を表示しても良い。
【0037】
例えば図9に示すように、教室内の生徒を、前後方向に前側、中側、後側に、また、左右方向に右側、左側に、合わせて6つのグループに分ける。そして、各グループで生徒の相関係数の平均を求め、各グループの相関を表示する。この場合、一例として参照データとして授業に集中しているデータを用いれば、教室内のどのグループ、どの場所の生徒が授業に集中しているかを一目で表示することができる。
【実施例3】
【0038】
寄席などでは、笑いが伝搬していくことが知られている。この実施例では、参照データを遅延したデータと各被験者データとの相関をとることにより、反応の伝搬を観測できるようにしたものである。
【0039】
図10に示すように、各被験者A,B,C,Dの反応に時間遅れがあるとすると、それぞれ時間t0,t1,t2,t3から始まる参照データと、被験者A,B,C,Dの脳血流データとの相関係数をとると、相関係数が最大となる。この遅延時間と相関係数とのデータを求め、時間の経過に応じて各被験者の相関を図8のように表示することにより、反応の伝搬を観測表示することができる。
【0040】
回路構成としては、図3のブロック図において、参照データ32を所定時間ずつ遅延させる遅延手段を設け、相関係数算出部31で、所定時間ずつ遅延した参照データと各被験者の測定データ33との相関係数を求める。そして、遅延した時間の経過に応じて、各被験者の相関係数の算出結果を表示すればよい。
【0041】
本発明によれば、多人数の脳活動の同時計測と、時間と空間を共有する個人間の脳活動のインタラクションの観測が可能となる。
【0042】
教育現場において、従来、教育実践中の児童や生徒の反応は、教師個人の主観によって判断し、理解度や授業への集中度を推測していたが、本発明によれば、計測通信モジュールを児童・生徒側に装着し、授業中の児童・生徒の脳活動情報をオンラインで教師側にフィードバックすることにより、児童・生徒の理解度や集中度を客観的にモニタすることが可能となる。
【0043】
また、脳活動のインタラクションを観察し解析することによって、多人数が存在する環境下で、より効率的なコミュニケーション手法の獲得、チーム作業のより効率的な遂行法の開発などの研究が可能となる。さらに、多人数の環境下での、対人関係パターンの定量解析法が開発できれば、他者との関わりがうまくいかないことによって生じる社会的ストレスとそれに対する不適合状態への対処法の開発などメンタルヘルス領域での研究開発に応用可能である。
【0044】
以上の実施例では、相関度の算出に相関係数を用いたが、t値、ANOVA値等の相関度を表すことができる如何なる統計処理値を使ってもよい。
【符号の説明】
【0045】
11 光源
12 光検出器
13 計測制御部
14 無線通信部
15 電池
21 通信部
22 記憶部
23 解析部
24 表示データ作成部
25 表示部
26 入力部
27 バスライン
31 相関係数算出部
32 参照データ
33 測定データ
61 相関係数算出用窓
100 計測通信モジュール
200 集中制御装置
300 被験者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の特定の部位に光を照射し、前記被験者からの通過光を検出して、前記被験者の脳活動信号を得て、集中制御装置に伝送する計測通信モジュールと、
複数の前記計測通信モジュールから、複数の被験者の脳活動信号を受信して、解析・表示する前記集中制御装置を備えた複数脳賦活観測システムにおいて、
前記集中制御装置は、前記受信した複数の被験者の脳活動信号のそれぞれと参照信号との相関度を算出する相関度算出部を備え、算出した相関度に基づいて表示するように構成したことを特徴とする複数脳賦活観測システム。
【請求項2】
請求項1記載の複数脳賦活観測システムにおいて、
前記参照信号は、前記受信した複数の被験者の脳活動信号から選択した信号であることを特徴とする複数脳賦活観測システム。
【請求項3】
請求項1記載の複数脳賦活観測システムにおいて、
前記参照信号は、予め記憶しておいたデフォルト値である脳活動信号であることを特徴とする複数脳賦活観測システム。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一つに記載の複数脳賦活観測システムにおいて、
前記集中制御装置は、相関度の値に応じて、色を変えて、または濃淡を変えて、または面積を変えて、表示するようにしたことを特徴とする複数脳賦活観測システム。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一つに記載の複数脳賦活観測システムにおいて、
前記集中制御装置は、被験者の位置と対応付けて、相関度を表示するようにしたことを特徴とする複数脳賦活観測システム。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一つに記載の複数脳賦活観測システムにおいて、
前記集中制御装置は、被験者をグループ分けし、各グループの相関度を標示するようにしたことを特徴とする複数脳賦活観測システム。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一つに記載の複数脳賦活観測システムにおいて、
前記集中制御装置は、前記参照信号を所定時間ずつ遅延させる遅延手段を備え、前記相関度算出部は、所定時間ずつ遅延した参照信号と各被験者の脳活動信号との相関度を求め、遅延した時間の経過に応じて、各被験者の相関度を表示するようにしたことを特徴とする複数脳賦活観測システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−17722(P2013−17722A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154526(P2011−154526)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】