説明

複極式ゼロギャップ電解セル

開示した複極式ゼロギャップ電解セルでは、陽極を構成する陽極基材が開口率25%以上70%以下のチタン製エクスパンデッドメタル或いはチタン製金網であり、且つ前記基材に触媒を塗布した後の陽極表面の凹凸の差の最大値が5μm〜50μmであり、陽極の厚みが0.7mm〜2.0mmである。この電解セルは、イオン交換膜が破損しにくく且つ陽極液と陰極液が一定範囲内の濃度分布を持ち、セル内圧の変動の少ない長期間安定して電解できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、複極式ゼロギャップ電解セルに関する。
これは、陽極室と陰極室とを背中合わせに配置して構成した複極式電解槽セルを陽イオン交換膜を介して多数配列させてなるフィルタープレス型電解槽の複極式電解セルであって、上記陰極室に導電性のクッションマット層と、更にその上部で且つ陽イオン交換膜と接触する部分に水素発生用陰極を重ねた少なくとも2層を有している。
この電解セルは、陽極を構成する基材が開口率25%以上70%以下のチタン製エクスパンデッドメタル或いはチタン製金網であり、且つ前記基材に触媒を塗布した後の陽極表面の凹凸の差の最大値が5μm〜50μmであり、厚み0.7mm〜2.0mmであることを特徴とする。
【背景技術】
高電流効率、低電圧で高純度のアルカリ金属水酸化物を生産するためのイオン交換膜法塩化アルカリ電解セルについては、多くの提案がなされている。その中でイオン交換膜を挟んで陽極と陰極が接触している形式のゼロギャップに関するものも提案されている。
米国特許第4444632号明細書、特公平6−70276号公報(米国特許4615775号明細書、ヨーロッパ特許124125号に対応)および特開昭57−98682号公報(特公平1−25836号、米国特許4381979号明細書、ヨーロッパ特許50373号に対応)には、ワイヤーマットを用いた電解用セルが提案されている。特許第2876427号公報(米国特許5599430号明細書に対応)では、電気化学槽用のマットレスが提案されている。
これら特許の中には、エクスパンドプレッシャープレートやカソードファインメッシュスクリーンを備えているものもある。しかし、マットの強さや、陽極の形状、電解液濃度分布、セル内の圧力変動等が適正な電解用セルとなっておらず、イオン交換膜の電圧上昇や破損などの問題がある。
特公平5−34434号公報、特開2000−178781号公報、特開2000−178782号公報、特開2001−64792号公報、特開2001−152380号公報、特開2001−262387号公報、においては、弾性マットが示されており、その強度や、陰極の強度、マットの潰れ防止なども開示されている。
これらの改良は確かに効果もあるが、5kA/m以上の高電流密度では、これだけでは長期間電流効率や電圧の安定した電解をするにはまだ不十分である。
ゼロギャップ電解セルとしては、上記のマットに関するもの以外に、バネを用いたものもある。例えば、特開平10−53887号公報などはバネを用いた電解槽である。しかし、バネでは局部的な圧力が強くなり、接触している膜に損傷を与える場合があった。ゼロギャップ構造を採用できる電解槽としては、例えば特開昭51−43377号公報、特開昭62−96688号公報、特表昭61−500669号公報(WO85/2419号に対応)等がある。
これらの単位電解セルは、単位電解セルと一体となった気液分離室もなく、液及びガスを気液混相のまま上部に抜き出しているため単位電解セル内に振動が発生しイオン交換膜を破損するなどの欠点があった。更に内部に電解液を混合する工夫がなされておらず、そのために電解室内の電解液の濃度分布を均一にするため多量の電解液を循環しなければならない欠点がある。
特開昭61−19789号公報、特開昭63−11686号公報では、上部にガス及び電解液を抜き出さずに下向きに抜き出すように工夫しているが、液とガスが混相で払い出されることがあり、単位電解セル内での振動発生を防止することはできなかった。又、セル内部の電解液濃度を均一にするために、電解液を内部循環できる導電性分散体或いは電流分配部材を設けているが、電解セル内の構造が複雑になるなどの欠点がある。
実開昭59−153376号公報では、電解セル内で生じる振動を防止するための対策として波消し板を提案しているが、この方法だけでは未だ十分な波消し効果が得られず、電解セル内の圧力変動に基づく振動を完全に防止することはできない。
特開平4−289184号公報、特開平8−100286号公報においては、セル内の電解液を均一にするため、電解液を内部循環できるな筒状ダクトやダウンカマーを設けているが、やはり電解セル内の構造が複雑になり製作コストが高くなり、或いは5kA/m以上の高電流密で電解しようとするとまだ電解液の濃度分布は大きく、イオン交換膜へ悪影響を与えることが懸念される。
更に、これら公報によると、気液分離室がある程度十分な大きさを持ち、且つ下向きや水平に気液分離した状態で抜き出す工夫をして振動を防止しようとしてはしているが、5kA/m以上の高電流密度においてはまだ振動が発生することもある。
【発明の開示】
本発明は、高電流密度のもとに安定した電解を、簡単、確実な構造で可能にする複極式ゼロギャップ電解セルおよび電解方法を提供することを目的とする。
より詳細には、本発明の目的は、ゼロギャップ型のイオン交換膜法電解槽を用いて、4kA/m以上の高電流密度で電解する場合、イオン交換膜の破損しにくいゼロギャップ構造を有していて、且つ陽極液と陰極液が一定範囲内の濃度分布を持ち、セル内圧の変動の少ない長期間安定して電解できる複極式ゼロギャップ電解セル及びその電解方法を提供することである。
本発明の他の目的は、上記目的に加えて、電解セル内のガス振動によるイオン交換膜の破損を防いで長期間安定した電解を可能にする複極式ゼロギャップ電解セルの提供である。
本発明は、陽イオン交換膜を用いて塩化アルカリ水溶液を電解する複極式ゼロギャップ電解セルを提供する。すなわち、複数の複極式電解セルと、隣接した複極式電解セルの間に各々を配した複数の陽イオン交換膜とを有するフィルタープレス型電解槽に用いるための複極式ゼロギャップ電解セルである。
この電解セルは、陽極室と、陽極室に設けた陽極であって、開口率25%から75%のチタン製エクスパンデッドメタルまたはチタン製金網を含む陽極基材で形成され、該陽極基材への触媒の塗布後に、陽極表面上の凹凸の高低差が最大で5μmから50μmであり、厚みが0.7mmから2.0mmである陽極と、陽極室と背中合わせに配置した陰極室と、重ねた少なくとも2つの層を陰極室に有する陰極であって、これらの層が導電性クッションマット層と、水素発生用陰極の層とを含み、該水素発生用陰極層がクッションマット層に隣接するとともに、前記陽イオン交換膜に接触する領域に配置されている陰極とを備えることを特徴とする。
上記構成は、陽極とイオン交換膜と陰極の間に適切なゼロギャップを保ち、発生ガスの通過させることによって、イオン交換膜の破損とセル内圧の変動が少なく、安定した電解を長期間に渡って行うことを可能にする。
陽極基材はチタン製エクスパンデッドメタルを含み、該エクスパンデッドメタルがエクスパンド加工、次いで圧延加工によってチタン製板から形成されることが好ましい。エクスパンデッドメタルの厚みは、エクスパンド加工後の圧延加工によって、エクスパンド加工前の板厚の95%から105%に設定することが好ましい。
水素発生用陰極は、厚みが0.05mmから0.5mmで且つニッケル製金網、ニッケル製エクスパンデッドメタルおよびニッケル製打ち抜き多孔板のグループから選んだ基材で形成され、該水素発生用陰極は、この水素発生用陰極上に形成した厚みが50μm以下の電解用触媒コーティング層を有することが好ましい。
このような構造によると、適切な柔軟性があり、イオン交換膜を損傷するこの少ない電極を容易に安価に製作することができる。
電解セルは、さらに、それぞれ前記陽極および陰極室の上部の非通電部に一体状に形成した気液分離室を備えていても良い。この場合、電解液の内部循環流路となる筒状ダクトおよびバッフルプレートのうちの少なくとも一方が前記陽極および陰極室の少なくとも1つの隔壁部と関連した電極との間に設けられることが好ましい。
気液分離室には仕切板が形成されることが好ましい。
気液分離室の設置は、電極室上部から発生ガスを抜き出すことによって、ガス振動を防いで、一層安定した電解を可能にする。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の複極式ゼロギャップ電解セルに使用可能な陰極の一例を示す側面図である。
図2は、本発明に使用可能な導電性プレートの一例のL型部を示す斜視部である。
図3は、本発明の複極式ゼロギャップ電解セルに使用可能な陽極の一例と電解液濃度のサンプリング位置を示す平面図である。
図4は、本発明の複極式ゼロギャップ電解セルに使用可能な陽極室の一例を示す側断面図である。
図5は、本発明の複極式ゼロギャップ電解セルに使用可能な陽極側気液分離室を示す側断面図である。
図6は、本発明の実施例による複極式ゼロギャップ電解セルの断面図である。
図7は、本発明のセルを用いた電解槽の適用例を示す、一部を切り欠いた組み立て図である。イオン交換膜28と陽極室の間にはそれぞれ陰極用ガスケット27と陽極室ガスケット29を挟んで固定する。
図8は、本発明の複極式ゼロギャップ電解セルに使用可能な陰極の一例と電解液濃度のサンプリング位置を示す平面図である。
図9は、本発明の別の実施例による複極式ファイナイトギャップ電解セルを示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
一般的に、安定した塩化アルカリの電解を行ない、塩素、水素、苛性ソーダを安価に生産するために要求されることは、設備コストが安価であること、低電圧で電解できること、セル内の振動等によりイオン交換膜が破損しないこと、セル内の電解液濃度の分布が均一でイオン交換膜の電圧や電流効率が長期間安定していること等があげられる。
このような要求に応じて、近年のイオン交換膜法塩化アルカリ電解における性能の向上はめざましいものがある。特にイオン交換膜、電極、単位電解セルの性能向上は著しく、電力原単位はイオン交換膜法の出現当初の4kA/mで3000kW/NaOH−tから、近年では2000kW/NaOH−t以下になろうとしている。
しかし、最近は設備大型化や省力化、高効率化の要望が更に強くなっており、電解セルにおいても電解電流密度も当初の3kA/mから、現在では4kA/mから8kA/mで電解できるようにすることが求められているばかりでなく、極限まで電圧を下げて行くことが求められている。
本発明者等はこのような状況に鑑み、単位電解セルを改良するに当たり、4kA/mから8kA/mのような高電流密度で、従来の電解セルより大幅に低電圧で、安定した電解ができることを目標に検討を進めてきた。
通常の場合、陽イオン交換膜は陰極室側の圧力により陽極に押しつけられているため、陰極と陽イオン交換膜との間には隙間が生じている。この部分には電解液の他に大量の気泡が存在し、電気抵抗が非常に高い。電解セルの大幅な電解電圧の低減を図るためには、陽極と陰極の間隔(以下極間距離と言う)を出来るだけ小さくして、陽極と陰極の間に存在する電解液やガス気泡の影響をなくすことが最も効果的である。
従来はこの極間距離は1〜3mm程度が普通であった(以下ファイナイトギャップと言う)。この極間距離を小さくするための手段は既にいくつか提案されている。
しかし電解セルは一般に2m以上の通電面積を有しており、陽極と陰極を完全に平滑にして製作精度の公差をほぼゼロmmとすることは不可能である。従って、ただ単に極間距離を小さくして行くだけでは、陽極と陰極の間に存在するイオン交換膜を押し切り破損させたり或いは、極間距離がイオン交換膜の厚みとほぼ同じ距離で、陽極と膜、陰極と膜の間に隙間の殆ど無い状態(以下ゼロギャップと言う)に保てない部分が存在したりして、理想的なゼロギャップは得られない。
イオン交換膜法では、ゼロギャップとするために、陽極は比較的剛性を強くして、イオン交換膜を押しつけても変形の少ない構造とし、陰極側のみを柔軟な構造にして、電解セルの製作精度上の公差や電極の変形等による凹凸を吸収してゼロギャップを保つような構造としている。
ゼロギャップ構造としては、陰極側に導電性のクッションマットと、これに隣接し且つ陽イオン交換膜と接触する部分に水素発生用陰極を重ねた少なくとも2層を有していることが必要である。例えば、図1に示すように陰極室内に導電性プレート3を取り付け、その上部に導電性のクッションマット2と、更にその上部で且つ陽イオン交換膜と接触する部分に0.5mm以下の厚みの水素発生用陰極1を重ねた少なくとも3層を有することが好ましい。
導電性プレート3は、その上に積層されるクッションマット2や水素発生用陰極1へ電気を伝えるとともに、それらから受ける荷重を支え、陰極から発生するガスを隔壁5側に支障なく通過させる役割がある。従って、この導電性プレートの形状は、エクスパンドメタルや打ち抜き多孔板などが好ましい。開口率は、陰極から発生した水素ガスを支障なく隔壁側に抜き出せるために40%以上あることが好ましい。強度については、リブ4とリブ4の間隔が100mmの場合、その中央部に3mHOの圧力がかかっても0.5mm以下の撓みであれば導電性プレートとして使用できる。材質は、耐食性の面からニッケル、ニッケル合金、ステンレススチール、鉄などが利用できるが、導電性の面からニッケルが最も好ましい。
導電性プレート3の一部に図2の如くL型部6を形成して、隔壁5に直接取り付けることもできる。この場合は、リブと導電性プレートを兼ねることになり、材料の節約、組立時間の削減ができるので好ましい。
導電性プレートは、今までファイナイトギャップの電解セルで用いていた陰極をそのまま利用することもできる。
クッションマットは、導電性プレートと水素発生用陰極の間にあって、電気を陰極に伝えること、陰極から発生した水素ガスを導電性プレート側に抵抗なく通過させることが必要である。そして最も重要な役割は、イオン交換膜に接している陰極に対し均一で膜を損傷させない程度の適切な圧力を加えて、イオン交換膜と陰極とを密着させることである。
クッションマットとしては、通常公知のものが使用できる。クッションマットの線径としては、0.05mm〜0.25mmのものが好適に用いられる。線径が0.05mmより細いとクッションマットがつぶれやすく、また線径が0.25mmより太いとクッションマットとして強く、電解に使用した場合押し付け圧の増加により膜の性能に影響を及ぼす。
さらに好適には、0.08mm〜0.15mmの範囲の線径を使用することができる。例えば線径0.1mm程度のニッケル製ワイヤーを織ったものを波付け加工したものでよい。材質は通常は導電性の面からニッケルが使用される。またこのようなクッションマットの厚みは、3mmから15mm程度のものを用いることができる。
さらに好適には、5mmから10mm程度のものが使用できる。クッションマットの柔軟性は、公知の範囲のものが使用できる。クッションマットの柔軟性は、50%圧縮変形時の反発力が20g/cm〜400g/cmの範囲のものを用いることができる。50%圧縮変形時の反発力が20g/cmより小さいと膜を完全に押し付けることができなく、400g/cmより大きいと膜をより強く押し付けるので好ましくない。
さらに好適には50%圧縮変形時の反発力が30g/cmから200g/cmの弾性を有するものが使用できる。
このようなクッションマットは、導電性プレートの上に重ねて使用する。この取り付け方法も通常公知の方法、例えばスポット溶接で適宜固定するか或いは樹脂製のピンや金属製のワイヤー等が使用できる。
クッションマットの上には直接陰極を重ねても良い。或いは別の導電性シートを介して陰極を重ねても良い。ゼロギャップに使用できる陰極としては、線径が細くメッシュ数の小さい陰極が柔軟性も高く好ましい。このような基材は通常公知のものを使用できる。線径0.1〜0.5mmで、目開きが20メッシュから80メッシュ程度の範囲であればよい。
また、陰極の基材としては、0.05〜0.5mmの板厚のニッケル製エクスパンドメタルやニッケル製の打ち抜き多孔板やニッケル製の金網で、開口率が20%から70%のものも好適に用いることができる。
陰極の製造工程における取り扱いや陰極としての柔軟性の面からより好適には、0.1mm〜0.2mmの板厚のニッケル製エクスパンデッドメタルやニッケル製の打ち抜き多孔板やニッケル製の金網で、開口率が25%から65%のものをより好適に用いることができる。ニッケルエクスパンドメタルの場合は、圧延処理を行い、加工前の金属平板厚みの95〜105%の範囲で平坦にしたものがより好ましい。金網の場合は、直角に2本の線が交わるため板厚としては、厚みが線径の2倍になる。また、線径の95〜105%の範囲で金網を圧延加工処理したものも好適に用いることができる。
陰極のコーティングとしては、貴金属酸化物のコーティングで且つ薄いことが好ましい。その理由は、例えばニッケル酸化物をプラズマ溶射したコーティングでは、厚みが100μm以上にもなり、柔軟性を要求されるゼロギャップ用陰極としては硬く脆いため、陰極に接しているイオン交換膜が傷つく場合があった。また、金属のメッキでは、十分な活性が得られにくい。そのため貴金属の酸化物を主成分としたコーティングが活性も高く、コーティング層の厚みを薄くできるので好ましい。
コーティング層の厚みが薄いと、陰極基材の柔軟性が損なわれず、イオン交換膜を損傷しないので好ましい。コーティングは厚すぎると前述のように、イオン交換膜を痛める場合があるだけでなく、陰極の製作コストが上がるなどの不具合がある。また薄すぎると十分な活性が得られない。そのためコーティング層の厚みは、0.5μmから50μmが好ましく、最も好ましくは1μmから10μmの範囲である。陰極のコーティング厚みは、基材断面を切断し、光学顕微鏡や電子顕微鏡により計測することができる。
このような陰極を取り付ける場合は、通常公知の溶接法やピンで止める方法などが用いられる。
ゼロギャップ電解セルにおいては、今まで述べたような、要件の他に陽極そのものの形状も重要である。陽極には、イオン交換膜が、従来のファイナイトギャップ電解セルより強く押しつけられるため、エクスパンドメタル基材を用いた陽極では開口部の端で、イオン交換膜が破損すること或いは、開口部にイオン交換膜が食い込んで、陰極とイオン交換膜の間に隙間ができて電圧が上昇したりすることがあった。
このために電極としては出来るだけ平面的な形状とすることが必要である。そのためには、エクスパンド加工した基材をローラでプレスして平面状にすることが望ましい。一般にエクスパンド加工をすると、その厚みは、加工する前の約1.5倍から2倍に見かけ厚みが増加する。このままでゼロギャップ電解セルに用いると前述の問題が生じるので、ロールプレス等の手段により圧延して、エキスパンド加工前の金属平板厚みの95%から105%まで厚みを薄くし平面化することが望ましい。このようなことをすることにより、イオン交換膜の損傷が防げるばかりでなく、意外なことに電圧も低減できる。この理由は明確ではないがイオン交換膜表面と電極面が均一に接触するので電流密度が均一化するためと予想している。
陽極の厚みとしては、通常0.7mmから2.0mmが好ましい。この厚みがあまり薄すぎると、陽極室と陰極室の圧力差や陰極の押しつけ圧力によりイオン交換膜が陽極を押しつける圧力で、陽極が落ち込み、電極間距離が広がるのでゼロギャップ電解セルの電圧が高くなるので好ましくない。また厚すぎると、電極の裏側即ちイオン交換膜と接する面の反対側で電気化学反応が生じ、抵抗が高まるので好ましくない。
陽極の厚みとして、より好ましいのは、0.9mmから1.5mmの厚さであり、さらに好ましくは、0.9mm〜1.1mmの厚さである。金網の場合は、直角に2本の線が交わるため板厚としては、厚みが線径の2倍になる。
またゼロギャップ電解セルにおいては、電解中はイオン交換膜と陽極表面が密着しており、そのために局部的に電解液の供給が不足する場合がある。ゼロギャップ電解セルの場合、電解中は陽極側で塩素ガスが発生し、陰極側で水素ガスが発生する。通常電解は、陰極側のガス圧力を陽極側のガス圧力より大きく保ち、ガス差圧により陽極に膜を押し付けて運転を行う。ゼロギャップ電解槽では、運転中に陰極側のマットレスによる押し付け圧も加わるために、通常の陽極と陰極の間にギャップがあるファイナイトギャップ電解槽より、陽極側への押し付け圧が大きい。押し付け圧が強くなると、イオン交換膜に微細な水泡が出来たり、或いは電解電圧が上昇したりすることがあった。
このようなことを防ぐため、陽極表面には凹凸を設け、その凹凸により電解液の供給をしやすい構造とするのが好ましい。具体的には、表面をブラスト処理或いは酸によるエッチング処理などの手段で、表面に適度な凹凸を設けることが効果的である。
この凹凸に陽極触媒を塗布していくわけであるが、この凹凸に陽極触媒が入り込みエッチング後の表面荒さより、荒さの程度が軽減される。例えば陽極の触媒は、チタン基材表面を酸処理した後、塩化イリジウム、塩化ルテニウム、塩化チタンの混合溶液を塗布後に熱分解して形成される。1回あたりの触媒厚みとしては0.2μm〜0.3μmで塗布・熱分解の工程を繰り返すことにより、全体として平均1μm〜10μmの範囲の触媒層厚みを形成することができる。触媒層厚みは、陽極の寿命や価格などから決定されるが、平均1μm〜3μmの範囲が好適に選択される。
陽極触媒塗布後の表面荒さの程度としては、山と谷高さの差の最大値が、5μmから50μmの範囲であることが必要である。凹凸が少なすぎると局部的に電解液の供給が不足する場合があり好ましくない。また凹凸が大きすぎると、逆にイオン交換膜の表面を傷つけたりする場合があり好ましくない。したがって、イオン交換膜を安定して使用するためには陽極の表面の凹凸の差の最大値が5μmから50μmの範囲であることが必要である。さらに安定して運転するためには、陽極の表面の凹凸の差の最大値は、8μmから30μmであるのがさらに好ましい。
陽極の表面荒さを測定する場合には、触針を用いた接触式測定方法や光干渉やレーザー光を利用した非接触測定方法などがある。エクスパンド加工後圧延処理を施し、酸処理後触媒を塗布した表面は微細な凹凸があるため、触針式では検知できない可能性があるので、非接触式による測定方法が望ましい。
非接触式の光干渉方法による測定は、Zygo製のNewView5022などを利用する。本装置は、光学顕微鏡と干渉系型対物レンズ・CCDカメラを備え、白色光源を被測定物にあて、表面形状に応じて発生する干渉縞を垂直走査することで、対象物の表面形状を三次元的に測定し、凹凸を算出する手法である。
被測定領域は、任意に選ぶことが可能であるが、陽極の表面の凹凸をある程度把握するためには、10μmから300μm四方の領域を測定することが好適に選ぶことができる。特にエクスパンドメタルを測定する場合には、50μmから150μm四方の領域を測定することがより好ましい。
表面の測定値は、表面の平均荒さRaや10点平均荒さ等の数値も測定可能であるが、表面の凹凸の最高値と最小値の差は、PV値(Peak to Vally)として算出される。その値による陽極表面の荒さとそれらの陽極をゼロギャップ電解槽に用いた場合の評価結果に著しい相関を発見し、本発明を完成させたのである。本文中ではこのPV値を陽極表面の凹凸の差の最大値とする。
また、陽極基材の開口率としては、25%以上70%以下であることが好ましい。この開口率の測定方法は、いろいろな方法があるが、電極のサンプルをコピー機により複写して開口部分を切り出して重量を計る方法や、開口部分の長さ幅などを測定して計算により求める方法などいずれでも良い。
開口率があまりに小さすぎると、イオン交換膜への電解液の供給が不足する事による水泡の発生などが生じて安定した電圧、電流効率で運転できなくなる可能性があり好ましくない。また開口率が大きすぎても、電極の表面積が減少して、電圧が高くなるので好ましくない。したがって最も好ましいのは、開口率として30%から60%の範囲である。
ゼロギャップ電解セルを用いて電解する場合、本発明者等の検討では、陽極室及び/または陰極室の隔壁部と電極の間には電解液の内部循環流路となる筒状のダクト及び又はバッフルプレートを少なくとも一個有する電解セルにおいて、陰極側に導電性プレート層と、その上部に導電性のクッションマット層と、更にその上部で且つ陽イオン交換膜と接触する部分に0.5mm以下の厚みの水素発生用陰極層を重ねた少なくとも3層を有する複極式ゼロギャップ電解セルが最も好ましい。このようなゼロギャップ電解セルにおいては、陽極側電解液濃度分布及び陰極側濃度分布も適正に調整しやすい。更にはセル内の圧力変動も小さく、イオン交換膜の損傷も殆どない。従って、8kA/m程度の高電流密度においても長期間安定した電解ができる。
ゼロギャップ電解槽を4kA/m以上から8kA/m以下の、さらに好ましくは5kA/m以上から8kA/m以下の高電流密度で、安定した電流効率、安定した電圧で長期間運転するために必要なことは、電解セル内の電解液濃度分布が均一であること、電解セル内に気泡やガスの滞留部分の無いこと、電解液や気泡・ガスを排出ノズルから払い出す際に、これらが混相とならず電解セル内に圧力変動が生じることなく、振動が発生しないことである。セル内の振動は、横河電機製AR1200アナライジングレコーダーを用いて、陽極セル内の圧力変動を測定し、最大圧力と最小圧力の差を電解槽の振動として測定を行う。
ゼロギャップセルでは、陽極と陰極がイオン交換膜を挟んで密着しているため、イオン交換膜への物質移動が阻害されやすい。イオン交換膜への物質移動が阻害されると、イオン交換膜に水泡が出来たり、電圧が上昇したり、電流効率が低下するなどの悪影響が生ずる。そのためイオン交換膜への物質移動を促進して、セル内の電解液の濃度分布を均一に保つことが重要である。
本発明者等の検討によると、陽極側の濃度分布とイオン交換膜の電流効率の低下傾向は相関しており、濃度分布が広くなるほど電流効率の低下は大きかった。また電流密度が高い場合、ゼロギャップである場合に特に顕著にこの傾向が見られた。陽極室内で図3に黒丸で示す9つのサンプリング位置13で濃度を測定して、その中の最大濃度から最低濃度を差し引いた値を濃度差とした。4kA/m以上から8kA/m以下においては、この濃度差が0.5N以上になると、電流効率の低下が著しくなることを見いだした。したがってゼロギャップ電解槽で4kA/m以上で8kA/m以下の電流密度においては、少なくとも塩水濃度差は、0.5N以下にすることが好ましい。
一般にクロルアルカリ電解槽の陽極側においては、気泡の影響が著しい。例えば4kA/m、0.1MPa、90℃の電解条件では、陽極室上部は気泡が充満しており、ガス液比が80%以上にもなる部分が発生する。このようなガス液比の大きな部分は電流密度が大きくなればなるほど拡大する傾向がある。このようなガス液比の大きな部分は流動性に欠けるため、局部的な電解液の濃度低下を生じたり、ガスの滞留部分が生じる場合がある。電極室上部のガス液比の大きな部分をできるだけ減少させるためには、電解圧力を高くすることや、電解液の循環量を大幅に増大するなどの方法はあるが、安全上の問題や設備建設コストが高くなる傾向があり好ましくない。4kA/m以上の高電流密度においては、ガスの発生量が増加することによる気泡の影響が顕著に現れ、セル内の流動攪拌が不十分になる部分が生じ、陽極室内での食塩消費速度が早まること等により、電解セル内の電解液濃度分布が不均一になる場合がある。
ゼロギャップセルにおいて、このような陽極室内での濃度分布悪化を防止し、イオン交換膜への物質移動を阻害しないような手段としてはいくつか考えられるが、例えば陽極側の構造として、図3及び図4に示すような、電解セル内に内部循環出来るようなプレートを有し、横方向に均一に電解液を供給できる電解セルは、ゼロギャップセルの陽極側として適当な構造の一つである。
即ち、図3,図4において、陽極液ディストリビュータ14により横方向で均一に供給された飽和塩水は、バッフルプレート9により電解セルの上下方向に循環され、セル内全体として均一な濃度分布が得られる。また、このような電解セルを用いて、供給塩水に、出口ノズル8から排出される薄い塩水を集めて飽和塩水と混ぜて、供給塩水量を増し且つ濃度を下げて供給する等の方法により更に精度良く濃度分布を調整できる。このようにして、ゼロギャップ電解セルを安定した性能で電解できるようになる。
陰極側の濃度分布とイオン交換膜の電圧の上昇傾向は相関しており、濃度分布が広くなるほど電圧の上昇は大きかった。また電流密度が高い場合、ゼロギャップである場合に特に顕著にこの傾向が見られた。陰極室内でも、図8に示すように、陽極室と同様な9つのサンプリング位置13で濃度を測定して、その中の最大濃度から最低濃度を差し引いた値を濃度差とした。その結果、4kA/m以上から8kA/m以下においては、この濃度差が2%より大きくなると、電流効率の低下が著しくなることを見いだした。したがってゼロギャップ電解槽で4kA/m以上から8kA/m以下の電流密度においては、少なくともアルカリ濃度差は、2%以下にすることが好ましい。
ゼロギャップセルにおいて、このような陰極室内での濃度分布悪化を防止し、イオン交換膜近傍の物質移動を阻害しないような手段としてはいくつか考えられるが、例えば陰極側の構造として、図6,図8に示すような、横方向に均一に電解液を供給できる電解セルは、ゼロギャップセルの陰極側として好ましい構造の一つである。
即ち、図8において、陰極液ディストリビュータ23により横方向で均一に供給された電解液は、供給アルカリと陰極室内アルカリ濃度の違いによりセルの上下方向に循環され、セル内全体として均一な濃度分布が得られる。また、このような電解セルを用いて、供給アルカリ流量を適宜調整することによりに、更に精度良く濃度分布を調整できる。このようにして、ゼロギャップ電解セルを安定した電圧で電解できるようになる。
電解セル内の圧力変動が生じると、陽極室と陰極室の差圧が変動する。ゼロギャップ電解セルにおいては、クッションマットを利用して、イオン交換膜を介して陽極と陰極を常に密着させている。そのため差圧変動があると、この密着力が変動し、電極によりイオン交換膜を擦る場合がある。イオン交換膜は、樹脂製であり且つその表面にはガス付着を防止するためのコーティングがなされているので、電極によりイオン交換膜が擦られると、イオン交換膜のコーティング層が剥離したり、イオン交換樹脂そのものを削り落としたりすることがある。その場合、電圧の上昇や、電流効率の低下等を引き起こし、安定した電解が出来なくなる。そのため、電解セル内の圧力変動を防止することはゼロギャップ電解セルにおいては重要な要素である。このようなセル内の圧力変動は、出来るだけ低い方が好ましく、30cmHO以下、更に好ましくは15cmHO以下、最も好ましいのは10cmHO以下である。10cmHO以下で有れば1年以上の長期間電解した後でも、イオン交換膜に何の損傷もなく運転できる。
セル内の圧力変動を防止する手段としては幾つか考えられるが、例えば図5に示すように、気液分離室7内に仕切り板20を設け、その上部に気泡除去用多孔板19を設けると効果的である。
次に、本発明の実施例と、それを用いた適用例を示すが、本発明はこれら特定の形態のみに限定されるものではない。
[適用例1]
図3、図8と同様な陽極構造と陰極構造を持ち、図6と同様な断面構造を持つ、本発明の実施例による複極式ゼロギャップ電解セル30を直列に並べ、その一方の端に陽極単位セル及びもう一方の端に陰極単位セルを配して電流リード板28を取り付け、図7の電解槽を組み立てた。
複極式ゼロギャップ電解セル30は、横幅が2400mm、高さが1280mmで、陽極室と、陰極室と、気液分離室7とを有する。陽極室および陰極室は、それぞれ平鍋状の隔壁5によって形成されて、背中合わせに配置される。これら陽極室および陰極室は、隔壁5の上部に設けた折曲部18にフレーム材22を挿入して組み合わされている。各気液分離室は、高さHのL字状仕切部材16を隔壁5に固定して、各電極室の上部に画定されている。
気液分離室の断面積は陽極側27cm、陰極側の気液分離室の断面積は15cmで、陽極側気液分離室のみ図5と同様な構造とした。すなわち陽極側気液分離室の通路Bの幅Wを5mm、高さH’は50mm、板厚み1mmのチタン製仕切板20を設け、その上端から垂直に気液分離室上端までの高さで、開口率59%、厚み1mmのチタン製エクスパンデッドメタルの多孔板19を取り付けた。陽極側気液分離室の孔15は、幅5mm、長さ22mmの楕円型のものを37.5mmピッチのものとした。
バッフルプレート9は陽極側のみに設け、通路Dの幅W2を10mm、高さH2は500mm、板厚み1mmのチタン製のバッフルプレートを設け、隔壁5とプレート下端との隙間W2’を3mmとした。バッフルプレート上端から垂直に電極室上端までの高さSは40mmとした。
陽極液ディストリビュータ14としては、220cmの長さで4cmの断面積を持つ角形パイプに直径1.5mmの穴を等間隔に24個有するものを、電解セルの陽極室底から50mmの位置に水平に取り付け、その一方の端を陽極側入り口ノズル12と接合した。このディストリビュータの圧力損失は、4kA/m相当の塩水供給量150L/Hrの飽和塩水を流した時約2mm・HOであった。
陰極液ディストリビュータ23としては、220cmの長さで3.5cmの断面積を持つ角形パイプに直径2mmの穴を等間隔に24個有するものを、電解セルの陰極室底から50mmの位置に水平に取り付け、その一方の端を陰極側入り口ノズル24と接合した。このディストリビュータの圧力損失は、4kA/m相当のアルカリ供給量300L/Hrで流した時約12mm・HOであった。
ゼロギャップ用の陰極側としては、図1に示す構造を製作した。即ち、導電性プレート3としてニッケルエクスパンドメタルで、厚み1.2mm、開口部の横方向長さ8mm、縦方向の長さ5mmのものを用い、クッションマット2として、0.1mmのニッケルワイヤー4本を用いて織物とし更に波形に加工して厚さ9mmのものを、導電性プレートに18カ所スポット溶接して固定し、更に、水素発生用陰極1として酸化ルテニウムを主成分とした約3μmのコーティングが施された、線径0.15mmで40メッシュのニッケル製金網で覆い、陰極周辺部を約60カ所スポット溶接により導電性プレートに固定して3層構造とした。
陽極側は、図3、4と同様で、陽極液ディストリビュータ14とバッフルプレート9を備えた構造とした。
電解セル内の圧力変動を防止するために、陽極側気液分離室に図5に示すような、仕切板20と気泡消去用多孔板19を設けた。陰極側の気液分離室には、このような仕切板や気泡消去用多孔板は設けなかった。
陽極11としては、1mmのチタン板を、エクスパンド加工し、ロールプレス加工により厚みを1±0.05mmまで圧延したものを用い、リブ22に取り付けている。ロールプレス加工前のエクスパンドメタルの開口部は横6mm縦3mmのピッチで送り加工ピッチは1mmとした。ロールプレス加工後のエクスパンドメタルの開口率をコピー機での複写により測定すると40%であった。これを硫酸によりエッチング処理して、表面に山と谷(凹凸)の高さの差の最大値が30μmであった。酸によりエッチング処理した基材にRuO、IrO、TiOをベースとしたコーティングを施して陽極とした後の山谷(凹凸)差の最大値は、約13μmであった。
陽極表面の凹凸の差の最大値は、Zygo社製NewView5022を用いて測定を行った。
最初に標準サンプル(凹凸1.824μm)を用いて、適切な光量が得られるように校正を行った。その後被測定物を白色光源下に置き、干渉縞が出現するように調整を行った。その後垂直方向に100μm程度移動する際の干渉縞を測定し、周波数領域解析より凹凸を求め、最高値と最低値の差を山谷(凹凸)の差の最大値として算出を行った。
このような電解セルに、陽イオン交換膜ACIPLEX(登録商標)F4401を、ガスケットを介してはさみ電解槽を組み立てた。この電解槽の陽極室側に、陽極液として出口塩水濃度が200g/Lとなるように濃度300g/Lの塩水を供給し、陰極室側には出口苛性ソーダ濃度が32重量%となるように希薄苛性ソーダを供給し、電解温度90℃、電解時の絶対圧力で0.14MPa、電流密度4kA/m〜6kA/mの範囲で360日間電解した。
電解中の電解セル内の陽極液濃度分布及び陰極液濃度分布は図3、図8のサンプリングポイント13の位置で測定した。即ち、セル内の通電部上端から150mm、600mm、1000mm下の位置でセル中央部及びセル両端から各々100mm内側の9点を測定した。その9点のうち最大濃度と最小濃度の差を濃度差として表1に示す。

また、電解中の電圧、電流効率、電解セル内の振動と濃度分布を測定した結果を表1に示す。この結果から、電圧の上昇は6kA/mでも僅か30mVであり、電流効率の低下も僅か1%程度であった。電解セル内の振動も水柱で5cm以下であり、濃度差は陽極側が0.31N〜0.35N、陰極側が0.6%〜0.8%であった。
360日電解後、電解槽を解体して、イオン交換膜を取り出して調査したが、水泡も全くなく、更に長く運転できる状態であった。
[比較例1]
適用例1で用いた陽極を変更した以外はすべて同様な複極式電解セルを用いて電解槽を形成した。
即ち、陽極として、1mmのチタン板をエクスパンド加工したもので、開口率が30%であるものを、硫酸によりエッチング処理して、表面に凹凸差の最大値が約8μmであり、RuO、IrO、TiOをベースとしたコーティングを施した後の凹凸差の最大値は3μmで、陽極厚みが1.8mmであった。適用例1と全く同様に運転し、同様の測定を行った結果を表2に示す。この結果から、電圧の上昇は6kA/mで150mVもあり、電流効率の低下は2〜3%もあった。電解セル内の振動は6kA/mでも水柱で5cm以下であり、濃度差は陽極側が0.31N〜0.35N、陰極側が0.6%〜0.8%であった。
360日電解後、電解槽を解体して、イオン交換膜を取り出して調査した結果、イオン交換膜に微細な水泡があり、小さなピンホールのあるイオン交換膜もあった。
[参考例1]
適用例1で用いた水素発生用陰極を変更した以外はすべて同様な複極式電解セルを用いて電解槽を形成した。即ち、水素発生用陰極として酸化ニッケルを主成分とした約250μmのコーティングを施した、線径0.4mm(陰極厚みが0.8mm)で14メッシュのニッケル製金網を用いた。
適用例1と全く同様に運転し、同様の測定を行った結果を表2に示す。この結果から、電圧は初期から高めであり、その上昇は6kA/mで80mVもあり、電流効率の低下は2%〜3%もあった。電解セル内の振動は6kA/mでも水柱で5cm以下であり、濃度差は陽極側が0.31N〜0.35N、陰極側が0.6%〜0.8%であった。
360日電解後、電解槽を解体して、イオン交換膜を取り出して調査した結果、イオン交換膜表面が削られており、小さなピンホールのあるイオン交換膜もあった。また陰極コーティングにも多くの剥離や割れが見られた。

[適用例2]
適用例1で用いた陽極を変更した以外はすべて同様な複極式電解セルを用いて電解槽を形成した。
即ち、陽極として、1mmのチタン板をエクスパンド加工したものをロールプレス加工により厚みを1.2mmにしたものを用いた。開口率を測定したところ40%であった。硫酸によりエッチング処理して、表面に凹凸差の最大値が約30μmであり、RuO、IrO、TiOをベースとしたコーティングを施した後の凹凸差の最大値は13μmであった。実施例1と全く同様に運転し、同様の測定を行った結果を表3に示す。この結果から、電圧の上昇は6kA/mで50mVであり、電流効率の低下は1.3%であった。電解セル内の振動は6kA/mでも水柱で5cm以下であり、濃度差は陽極側が0.31N〜0.36N、陰極側が0.6%〜0.8%であった。
360日電解後、電解槽を解体して、イオン交換膜を取り出して調査したが、水泡も全くなく、更に長く運転できる状態であった。

[適用例3]
適用例1と全く同様な電解槽を用いて、7kA/mから8kA/mの範囲で電解を行った。
この場合、陽極液として電解槽から排出された淡塩水を最高155L/Hr・cellまで飽和塩水量に対し加えて、各電解セルに供給し濃度分布を維持した。また、陰極液も、供給量を、最高400L/Hr・cellまで変化させて濃度分布を維持した。
電解中の電圧、電流効率、電解セル内の振動と濃度分布を測定した結果を表4に示す。この結果から、電圧の上昇は8kA/mでも僅か30mVであり、電流効率の低下も僅か0.9%程度であった。電解セル内の振動も水柱で10cm以下であり、濃度差は陽極側が0.39N〜0.47N、陰極側が1.2%〜1.4%であった。
180日電解後、電解槽を解体して、イオン交換膜を取り出して調査したが、水泡も全くなく、更に長く運転できる状態であった。
[参考例2]
適用例1と全く同様な電解槽を用いて、7kA/mから8kA/mの範囲で電解を行った。
この場合、陽極液として電解槽から排出された淡塩水は飽和塩水に加えず、また、陰極液も、供給量を300L/Hr・cellのままで維持した以外は、適用例3と同様な条件で電解した。
電解中の電圧、電流効率、電解セル内の振動と濃度分布を測定した結果を表4に示す。この結果から、電圧の上昇は8kA/mで90mVであり、電流効率の低下も3.3%であった。電解セル内の振動も水柱で5cm以下であり、濃度差は陽極側が0.6N〜0.7N、陰極側が1.5%〜2.1%であった。
180日電解後、電解槽を解体して、イオン交換膜を取り出して調査した結果、イオン交換膜全体に直径1mmから10mmの水泡が多数出来ていた。

[適用例4]
複極式電解セルの断面図が図9の構造で、陽極としてエクスパンドメタル厚み1.8mmのものを備えており、陰極として、ニッケルエクスパンドメタルにプラズマ溶射により250μm厚みの酸化ニッケルを主成分とするコーティングがなされていて、電極間距離2mmとして1年間使用した電解セルを準備した。
この電解セルの陽極を取り除いて、新たに陽極として適用例1と全く同様なものを装着した。更に、陰極のコーティングをブラシで削り落とし、ニッケル地肌を露出させ導電性プレートとして用い、さらに適用例1と全く同様なクッションマットと水素発生用陰極を全く同様な方法で取り付けた。
適用例1と同様な電解槽を構成し、同様な電解を行った。電解中の電圧、電流効率、電解セル内の振動と濃度分布を測定した結果を表5に示す。この結果から、電圧の上昇は6kA/mでも僅か20mVであり、電流効率の低下も僅か0.7%程度であった。電解セル内の振動も水中で5cm以下であり、濃度差は陽極側が最高0.35N、陰極側が最高0.8%であった。
180日電解後、電解槽を解体して、イオン交換膜を取り出して調査したが、水泡も全くなく、更に長く運転できる状態であった。

【産業上の利用可能性】
陽極室上部の非通電部分及び陰極室上部の非通電部分の各部に気液分離室を陽極室または陰極室と一体化して設け、陽極室及び/または陰極室の隔壁部と電極の間には電解液の内部循環流路となる筒状のダクト及び又はバッフルプレートを少なくとも一個有しており陰極側に導電性プレートと、その上部に導電性のクッションマットと、更にその上部で且つ陽イオン交換膜と接触する部分に水素発生用陰極を重ねた少なくとも3層を有している複極式ゼロギャップ電解セルにおいて陽極形状が最適であるため、4kA/m〜8kA/mで電解しても電圧の経時的な上昇もなく、電流効率の低下も少なく、イオン交換膜の水泡も生じないで長期間安定な電解が出来る。
この様なゼロギャップ電解セルは、今までファイナイトギャップで使用していた電解セルを改造することによっても製作できる。例えば陽極室上部の非通電部分及び陰極室上部の非通電部分の各部に気液分離室を陽極室または陰極室と一体化して設けており、陽極室及び/または陰極室の隔壁部と電極の間には電解液の内部循環流路となる筒状のダクト或いはバッフルプレートを有する電解セルで、それまでファイナイトギャップとして使用していたものを改造してゼロギャップ電解セルとする場合である。この場合、陽極及び陽極室内を、今まで述べたような構造に改良するとともに、陰極室も改造し導電性プレート、クッションマット、陰極を取り付けてゼロギャップ電解セルにすればよい。またファイナイトギャップで使用していた陰極をそのまま導電性プレートとして利用し、新たにクッションマット及び陰極を積層するだけでもゼロギャップ電解セルとすることができる。また逆にゼロギャップ電解セルから、陰極、クッションマット、導電性プレートを取り除き、新たに陰極を装着することによりファイナイトギャップとしても使用できる。このような改造は、新たに電解セルを製作するより大幅に安価で、簡単に改造できるので、ユーザーにとってはメリットが大きい。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の複極式電解セルと、隣接した複極式電解セルの間に各々を配した複数の陽イオン交換膜とを有するフィルタープレス型電解槽に用いるための複極式ゼロギャップ電解セルであって、
陽極室と、
前記陽極室に設けた陽極であって、開口率25%から75%のチタン製エクスパンデッドメタルまたはチタン製金網を含む陽極基材で形成され、該陽極基材への触媒の塗布後に、陽極表面上の凹凸の高低差が最大で5μmから50μmであり、厚みが0.7mmから2.0mmである陽極と、
前記陽極室と背中合わせに配置した陰極室と、
前記陰極室に重ねた少なくとも2つの層を有する陰極であって、これらの層が導電性クッションマット層と、水素発生用陰極の層とを含み、該水素発生用陰極層がクッションマット層に隣接するとともに、前記陽イオン交換膜に接触する領域に配置されている陰極と、
を備えた複極式ゼロギャップ電解セル。
【請求項2】
請求項1による電解セルにおいて、前記陽極基材がチタン製エクスパンデッドメタルを含み、該エクスパンデッドメタルがエクスパンド加工、次いで圧延加工によってチタン製板から形成される、複極式ゼロギャップ電解セル。
【請求項3】
請求項2による電解セルにおいて、前記メタルの厚みは、エクスパンド加工後の圧延加工によって、エクスパンド加工前の板厚の95%から105%に設定される、複極式ゼロギャップ電解セル。
【請求項4】
請求項1から3の何れかによる電解セルにおいて、前記水素発生用陰極は、厚みが0.05mmから0.5mmで且つニッケル製金網、ニッケル製エクスパンデッドメタルおよびニッケル製打ち抜き多孔板のグループから選んだ基材で形成され、該水素発生用陰極は、この水素発生用陰極上に形成した厚みが50μm以下の電解用触媒コーティング層を有する、複極式ゼロギャップ電解セル。
【請求項5】
請求項1による電解セルであって、さらに、それぞれ前記陽極および陰極室の上部の非通電部に一体状に形成した気液分離室を備え、電解液の内部循環流路となる筒状ダクトおよびバッフルプレートのうちの少なくとも一方が前記陽極および陰極室の少なくとも1つの隔壁部と対応した電極との間に設けられる、複極式ゼロギャップ電解セル。
【請求項6】
請求項5による電解セルにおいて、前記気液分離室には仕切板が形成される、複極式ゼロギャップ電解セル。

【国際公開番号】WO2004/048643
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【発行日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−555055(P2004−555055)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015101
【国際出願日】平成15年11月26日(2003.11.26)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】