説明

複素環式キラル配位子およびオレフィン類の接触非対称性ジヒドロキシル化方法

【発明の詳細な説明】
背景
天然では、動物、微生物および植物の有機成分類はキラル(chiral)分子すなわち対掌性を示す分子から製造されている。エナンチオマー類はそれの配置(成分原子の配置)が互いに重ならない鏡像であるような立体異性体類またはキラル分子であり、キラル中心における絶対的配置は一連の規則により決められており、それにより優先性が各置換基に対して与えられそしてRおよびSと表示される。エナンチオマー類の物理的性質はそれらがキラルを回転する方向以外は同一であり、1種のエナンチオマーは面−キラルを右に回転させ、そして他のエナンチオマーはそれを左に回転させる。しかしながら、それぞれにより生じる回転の程度は同じである。
エナンチオマー類の化学的性質は光学的活性試薬とのそれらの相互作用性以外は同じである。光学的活性試薬はエナンチオマー類と異なる速度で相互に作用し、反応速度が大きく変動し、そしてある場合には1種のエナンチオマーまたは異性体との反応が生じないような異なる速度で相互に作用する。これは特に生物学的系において明白であり、そこでは酵素(生物学的触媒)およびそれらが作用する基質が光学的に活性であるため、立体化学的特異性が一般的である。
等量の2種のエナンチオマー類を含んでいる混合物はラセミ体(またはラセミ体変形)である。1種の異性体の分子により生じる偏光の回転がそれのエナンチオマーの分子により生じる回転と等しいかまたはそれと反対方向であるという事実の結果として、ラセミ体は光学的に不活性である。光学的に活性でない化合物であるラセミ体は多くの合成工程の生成物である。エナンチオマー類の多くの物理的特性の同一性のために、それらは例えば分別蒸留(それらが同一の沸点を有しているため)、分別結晶化(それらが光学的に活性でない限り溶媒中に同等に可溶性であるため)およびクロマトグラフィー(それらが光学的に活性でない限り一定吸着剤上に同等にしっかりと保持されるため)の如き一般的に使用されている方法により分離することができない。その結果として、ラセミ体混合物からエナンチオマー類への分割は容易に行うことができず、そして費用および時間が可能性がある。
最近、高い光学的純度を有する複雑な有機分子、例えば昆虫のホルモン類およびフェロモン類、プロスタグランジン類、抗腫瘍化合物、および他の薬品、に関する要望が増大しているため、キラル化合物の合成における興味が増してきている。生態系中では1種のエナンチオマー機能は有効に機能するが他のエナンチオマーは生物学的活性を有しておらずおよび/または第一のエナンチオマーの生物学的活性を妨害しないという事象がしばしば起きるため、この興味は例えば薬品に関して特に重要な考慮事項である。
天然では、ある化学的反応に含まれる酵素触媒により反応が確実に非対称的に進行して正確なエナンチオマー(すなわち生物学的または生理学的に官能性であるエナンチオマー)だけを生成する。しかしながら、これは研究室合成においては行われず、そして希望するキラル分子(例えば選択されたエナンチオマーのもの)の非対称的製造を行える方法を開発するのに費やされている興味およびエネルギーにもかかわらず、限られた成功しか収められていない。
2種のエナンチオマー類のラセミ体から希望する分子を分割することの他に、例えば、キラルプールまたは型板方法により選択された非対称性分子を製造することもでき、そこでは選択された非対称性分子はすでに存在している天然産出非対称性分子から製造される。キラル分子を製造するために非対称性の不均質水素化および非対称性エポキシド化も使用されている。天然に起きる非対称性反応を模倣するための非対称性水素化が最初の人工的反応としてみなされている。シャープレス(Sharpless),K.B.、ケミストリー・イン・ブリテイン(Chemistry in Britain)、1986年1月、38−44頁、モッシャー(Mosher),H.S.およびJ.D.モリソン(Morrison)、サイエンス(Science)、221:1013−1019(1983)、マウ(Maugh),T.H.、サイエンス(Science)、221:351−354(1983)、スチンソン(Stinson),S.、ケミストリー・アンド・エンジニアリングウ・ニュース(Chemistry and Engineering News)、:24(6/2/86)。
しかしながら、現在利用可能な非対称性合成方法はそれらの用途面で限定されている。有効な接触非対称性合成反応は非常にまれであり、そしてそれらは普通指示基を必要とし、従って基質が限定される。そのような反応がまれでありそしてキラリテイが薬品、フェロモンおよび他の生物学的に機能性の組成物中では特に重要となることがあり得るため、非対称性ヒドロキシル化の接触方法が非常に価値あることとなるであろう。さらに、多くの天然産出生成物がジヒドロキシル化され多くの対応する近接ジオール誘導体から容易に誘導することができる。
発明の要旨
近接ヘテロ原子−含有官能基を有しているかまたは有していないオレフィン類またはアルケン類が、本発明の主題であるオスミウムで触媒された方法(osmium−catalyzed process)を用いて非対称的にジヒドロキシル化、オキシアミノ化またはジアミノ化される。本発明の方法で有用な新規なアルカロイド誘導体類であるキラル配位子、特にジヒドロキニジン誘導体類もしくはジヒドロキニン誘導体類またはそれらの塩類、も本発明の主題である。親化合物であるアルカロイド類、例えばキニジンもしくはキニン、の誘導体類、またはそれらの塩類を使用することもできるが、触媒作用速度がわずかに遅くなる。
本発明の一態様では、キラル配位子は運動抑制されるかまたは重合体内に加えられる。単量体状および重合体状配位子の両者を運動抑制することもまたは重合体中に加えることもできる。運動抑制されたかまたは加えられた配位子が反応中にオスミウム触媒との複合体を生成して、反応後に複合体が保有されるような有効な触媒作用を生じて複合体を繰り返し使用することができる。一方、予備製造されたオスミウム−配位子複合体を反応で使用し、そして回収することもできる。
本発明の非対称性改質または付加方法においては、オレフィン、選択されたキラル配位子、有機溶媒、水、酸化剤、オスミウム源および場合よりにオスミン酸中間生成物の加水分解を促進させる添加物を、反応が起きるのに適している条件下で一緒にする。本発明の配位子で促進される触媒作用方法は当該オレフィンの非対称性ジヒドロキシル化、非対称性オキシアミノ化、および非対称性ジアミノ化を行うために有用である。
接触非対称性方法の特別な利点は、少量だけのオスミウム触媒が必要であることである。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の方法により実施される配位子で促進される触媒作用による非対称性ジヒドロキシル化の図式的表示である。
図2は、本発明の方法により実施されるスチルベンの非対称性接触オキシアミノ化の図式的表示である。
図3は、スチレンの接触シス−ジヒドロキシル化に関するアミン濃度対二次速度定数kのプロットである。点aでは、アミンが加えられていない。従って、点aは加えられるアミン配位子の不存在下での接触方法の速度を表している。線bは、触媒作用を実質的に遅延させる配位子である種々の量のキヌクリジンの存在下での接触方法の速度を表している。線cは、図1に表示されている安息香酸ジヒドロキニジン誘導体1の存在下での接触方法の速度を表している。KはKobs/[OsO4と定義されており、ここで速度=−d[スチレン]/dt=Kobs[スチレン]である。条件:25℃、[OsO4=4×10-4M、[NMO]=0.2M[スチレン]=0.1M。
図4は、接触オレフィンジヒドロキシル化の提唱されている機構の図示的表示である。この図式は本発明の配位子で促進される触媒作用に含まれると信じられている2種のジオール生成サイクルを示している。式1はアルカロイド−オスミウム複合体を表しており、式2はモノグリコール酸エステルを表しており、式3はオスミウム(VIII)トリオキソグリコール酸複合体を表しており、式4はビスグリコール酸オスミウムエステルを表しており、そして式5はジオキソビスグリコール酸エステルを表している。
発明の詳細な記載
非対称性エポキシド化は10年以上にわたり多くの研究の主題であった。初期の研究は、酒石酸チタンエポキシド化触媒は実際には力学的平衡状態のエポキシド化触媒の相互同士の複合体混合物であること、並びに存在している主要種類(すなわち2:2構造)が最良の触媒であること(すなわち酒石酸塩を有していないチタンイソプロポキシドより約6倍ほど活性である)を示している。この研究はまた、確実に触媒作用がキラル配位子を有する種類により開発されているためこの速度上の利点は該方法の成功に必須であることも示している。
四酸化オスミウム(OsO4)とオレフィン類との反応は高度に選択的でありそして信頼のおける有機変換方法である。この反応が親核性配位子により促進されることは昔から知られている。クリーギー(Criegee),R.ジャスツス・リービッヒス・アナーレン・デル・ヘミイ(Justus Liebigs Ann.Chem.)、522:75(1936)、クリーギー(Criegee),R.他、ジャスツス・リービッヒス・アナーレン・デル・ヘミイ(Justus Liebigs Ann.Chem.)、550:99(1942)、ファンレーネン(VanRheenen)他、テトラヘドロン・レタース(Tetrahedron Lett.)、1973(1976)。例えば化学量論的非対称性オスミル化方法の如きこれまでに既知の方法を変更するために、高度に有効なオスミウムで触媒作用を受ける方法を使用できるということがこれまでに示されている。ヘントゲス(Hentges),S.G.およびK.B.シャープレス(Sharpless)、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ(Journal of the American Chemical Society)、102:4263(1980)。本発明の方法は選択された配位子の結合により非対称性誘導および反応速度の促進をもたらすものである。本発明の配位子で促進される接触方法の使用により、非対称性ジヒドロキシル化、非対称性ジアミノ化または非対称性オキシアミノ化を行うことができる。
本方法の結果、2個のヒドロキシル基が炭化水素骨格中に立体特異的に加えられ(埋め込まれ)、シス近接ジヒドロキシル化を生じる。本発明の新規な接触方法により、(これまでに利用できる方法と比べて)実質的に改良された速度およびターンオーバー数、並びに有用な水準の非対称性誘導が得られる。さらに、改良された反応速度およびターンオーバー数のために、本発明の方法ではこれまでに既知の方法より少ないオスミウム触媒を必要とする。その結果、これまでに既知の方法に伴う費用および起こり得る毒性問題が減少する。さらに、本発明はオスミウムの回収および再使用を可能とし、それも工程の価格を減少させる。
本発明の方法は以下で、E−スチルベン(C6H5CH:CHC6H5)およびトランス−3−ヘキセン(CH3CH2CH:CHCH2CH3)の非対称性ジヒドロキシル化におけるそれの使用を特に参照しながら例示されている。該方法は一般的には以下に表示されているように記載することができ、そしてその記載および以下の例示は配位子で促進される触媒作用の劇的なそして予期されなかった結果を示すだけでなく該方法の簡単さおよび有効性も証明するものである。
本発明の非対称性ジヒドロキシル化方法は図1に図式的に表示されている。本発明の方法に従うと、選択されたオレフィンを適当な条件下で選択されたキラル配位子(一般的にはキラルの置換されたキヌクリジンであろう)、有機溶媒、水、酸化剤および四酸化オスミウム並びに任意にオスミウムからの生成物の加水分解を促進させる化合物と一緒にする。この目的用に酸類または塩基類を使用することができる。一態様では、選択されたオレフィン、キラル配位子、有機溶媒、水および酸化剤を一緒にし、オレフィンおよび他の成分類を一緒にした後に、OsO4を加える。一方では、オレフィン、有機溶媒、キラル配位子、水およびOsO4を一緒にし、そして生じた組み合わせ物に酸化剤を加える。これらの添加は時間的に非常に近接して(すなわち順次または同時に)行うことができる。
本発明の一態様では、反応混合物の成分類を一緒にして初期の反応組み合わせ物を生成し、そして一般的には頻繁にまたは絶えず例えば撹拌の如くかきまぜながらオレフィンをそれにゆっくり加える。「ゆっくりした添加」方法と表示されるこの態様では、有機溶媒、キラル配位子、水、OsO4および酸化剤を一緒にする。次にオレフィンを他の反応物類にゆっくり加えることができる。かきまぜ、好適には撹拌、をオレフィン添加中に適用することが重要である。驚くべきことに、ほとんどではないが多くのオレフィン類に関しては最初の組み合わせ物に対するオレフィンのゆっくりした添加が上記の方法(すなわち反応の開始時に全てのオレフィンが存在しているもの)よりはるかに良好なエナンチオマー過剰量(ee)および速い反応速度をもたらす。ゆっくりしたオレフィン添加の有利な効果(すなわち比較的高いee)が表5(6欄)に示されている。このゆっくりした添加方法の特別な利点は非対称性ジヒドロキシル化を適用できるオレフィン類の型の範囲が大きく拡大されることである。すなわち、それは芳香族置換基または他の官能基を有していない簡単な炭化水素オレフィン類に適用することができる。この方法では、eeを最大にするために必要に応じてオレフィンをゆっくり(例えば時間をかけて)加える。この方法は比較的高いeeおよび比較的速い反応時間を生じるため、特に価値がある。
本方法の別の態様では、キラル配位子が運動抑制されるかまたは重合体中に加えられ、それにより配位子が運動抑制される。アルカロイド配位子の単量体および重合体の両者を運動抑制することができる。運動抑制された配位子はオスミウム触媒との複合体を形成し、それが反応後に回収可能なオスミウム触媒複合体を生成する。OsO4−重合体複合体は回収可能であり、そして洗浄または他の処理なしで繰り返し工程用に使用することができる。複合体は、例えば、濾過または遠心により回収することができる。アルカロイド誘導体類を使用することにより、オレフィン類のジヒドロキシル化において良好ないし優れたエナンチオ選択性で不均質な接触非対称性ジヒドロキシル化が得られる。
一方、アルカロイド重合体を配位子として使用することもできる。使用できるアルカロイド重合体は、例えば、コバヤシ(Kobayashi)およびイワイ(Iwai)、テトラヘドロン・レタース(Tetrahedron Letters)、21:2167−2170(1980)およびポリマー・ジャーナル(Polymer Journal)、13(3):263−271(1981)、フォンヘルマン(vonHermann)およびウィンベルグ(Wynberg)、ヘルベチカ・シミカ・アクタ(Helv.Chim.Acta)、60:2208−2212(1977)、並びにホッジ(Hodge)他、ザ・ケミカル・ソサイエティ・パーキン・トランスレーション(Chem.Soc.Perkin Trans.)、I、(1983)、2205−2209頁により記されている。ここで使用されている「重合体状」という語は、重合体担体と化学的に結合されているかまたは連結されていて配位子が反応条件下で連結されたままであるアルカロイド配位子の単量体もしくは重合体、或いは1種以上の単量体(例えばアクリロニトリル)と共重合されてアルカロイドが重合体中に加えられている共重合体を製造する配位子、或いは運動抑制されていないかまたは別の重合体もしくは他の担体と共重合されていない上記の如きアルカロイド重合体を包括する意味を有している。
重合体状配位子を用いる光学的に活性な近接ジオールの工業的規模の合成が可能である。該方法の簡便さおよび経済性はアルカロイド−OsO4複合体を再循環させることにより増加する。本方法のこの態様は、重合体状のまたは運動抑制されたキナアルカロイド誘導体類を利用する有効な不均質非対称性ジヒドロキシル化を可能にする。
本方法で利用できる重合体状キナアルカロイドは当技術で知られている技術により製造することができる。例えば、グルブホッファー(Grubhofer)およびシュレイス(Schleith)、ナチュルヴィッセンシャフテン(Naturwissenschaften)、40:508(1953)、ヤマウチ(Yamauchi)他、日本化学会報(Bull.Chem.Soc.Jpn.)、44:3186(1971)、ヤマウチ他、J.Macromal.Sci.Chem.、A10:981(1976)を参照のこと。ジヒドロキニジンまたはジヒドロキニン誘導体類を加入させる多数の異なる型の重合体をこの方法で使用することができる。これらの重合体には、(a)キナアルカロイド誘導体類と例えば塩化ビニル、スチレン、アクリルアミド、アクリロニトリル、またはアクリル酸もしくはメタクリル酸エステル類の如き共重合試薬との共重合体、(b)キナアルカロイド誘導体類と例えば1,4−ジビニルベンゼン、エチレングリコールビスメタクリレートの如き架橋結合試薬との架橋結合された重合体、並びに(c)ポリシロキサンと共有結合されたキナアルカロイド誘導体類が包含されている。アルカロイド誘導体との重合体骨格の連結点は、キニジンおよびキニン誘導体類の両者に関して以下に示されている如く、C(10)、C(11)、C(9)−O,N(1′)またはC(6′)−Oであることができる。表3は、重合体システム中に加えることができる単量体状アルカロイド誘導体類の例を示している。
例えば、重合体結合性ジヒドロキニジンは9−(10−ウンデセノイル)ジヒドロキニジンをアクリロニトリル(5当量)の存在下で共重合することにより製造され、13%の収率が得られて、4%のアルカロイド加入率を示す。この重合体、すなわち9−(10−ウンデセノイル)−10,11−ジヒドロキニジンのアクリロニトリル共重合体は下表1に重合体4として示されている。3種の他の重合体である9−(4−クロロベンゾイルオキシ)キニン(重合体1、表3)、11−[2−アクリロイルオキシ)エチルスルフィニル]−9−(4−クロロベンゾイルオキシ)−10,11−ジヒドロキニン(重合体2、表1)および11−[2−アクリロイルオキシ)エチルスルホニル]−9−(N,N−ジメチルカルバモイル)−10,11−ジヒドロキニジン(重合体3、表1)がイナグキ(Inaguki)他の工程またはこの既知の方法をわずかに改変した変法に従い製造された。イナグキ他、日本化学会報(Bull.Chem.Soc.Jpn.)、60:4121(1987)参照。これらの重合体を使用して、トランス−スチルベンの非対称性ジヒドロキシル化が行われた。結果は表1にまとめられている。良好ないし優れた非対称性誘導並びに妥当な反応速度が観察された。表1に示されている如く、重合体2との反応は最高の非対称性誘導を示した。OsO4−重合体複合体は反応後に保有されており、複合体を繰り返し使用することができる。この反応は末端置換されたおよび脂肪族的に置換されたオレフィン類を用いて実施することができ、良好な収率およびエナンチオ選択性(例えば、スチレンと重合体2とのもの、60%ee、68%収率、およびエチルトランス−2−オクトエートと重合体3とのもの、60%ee、85%収率)を示し、そして種々の異なるオレフィン類に同じ方法を適用することができる。



本方法の別の態様では、オスミン酸エステル中間生成物の加水分解を促進する添加物を任意に反応組み合わせ物に加えることができる。これらの添加物は、例えば、酸類または塩基類であることができる。塩基類がこの目的用に好適である。例えば、有機可溶性対イオン(例えば、テトラアルキルアンモニウムイオン)を有する可溶性のカルボン酸塩類が有用である。この反応において好適なカルボン酸塩類は有機媒体中および有機/水性共溶媒系中に可溶性である。例えば、酢酸テトラエチルアンモニウムがある種のオレフィン類の反応速度およびeeを促進させることが示されている(表5)。添加物は反応においてアルカロイドを置換させるものではない。使用できる化合物には、酢酸ベンジルトリメチルアンモニウム、酢酸テトラメチルアンモニウムおよび酢酸テトラエチルアンモニウムが包含される。しかしながら、オスミン酸エステル中間生成物の加水分解においては他のオキシアニオン化合物(例えばスルホネート類、カーボネート類、ボレート類またはホスフェート類)を使用することもできる。オレフィン添加の前に、該化合物を反応容器中に有機溶媒、キラル配位子、水およびOsO4との反応組み合わせ物に加えることができる。添加物を上記の反応組み合わせ物に加えることもでき、そこではオレフィンの全てが反応の開始時に加えられる。一態様では、添加物の量は一般的に約2当量であり、一般的には約1−約4当量が使用されるであろう。
本発明の別の態様では、該方法は例えばトルエンの如き有機非極性溶媒中で実施することができる。この態様はゆっくりした添加方法において特に有用である。好適には、オスミン酸エステル中間生成物の加水分解を促進させるカルボン酸エステル化合物(例えば、酢酸テトラエチル−またはテトラメチルアンモニウム)が加えられる。この態様は「相転移」方法と表示される。この態様では、アセトン/水またはアセトニトリル/水中に可溶性でないかまたは限定された可溶性を有するオレフィン類がトルエン中に溶解され、そして次に有機溶媒、キラル配位子、水およびOsO4の混合物にゆっくり加えられる。カルボン酸塩は有機相中で酢酸塩イオンを可溶化させてオスミン酸エステルの加水分解を促進させること並びに加水分解に必須であるそれに伴う水を有機相に運ぶという二重機能を作用する。
本発明の別の態様では、ホウ酸またはホウ酸誘導体(R−B(OH)、R=アルキル、アリールまたはOH)、例えばホウ酸自身(すなわち、B(OH))またはフェニルホウ酸(すななち、Ph−B(OH))を反応混合物に加えることができる。ゆっくりした添加方法では、オレフィンの添加前にホウ酸を配位子−有機溶媒OsO4混合物に加える。ホウ酸の添加量は、反応中に生成するジオールのホウ酸エステルを製造するのに充分な量である。理論により拘束しようとするものではないが、ホウ酸がオスミン酸エステルを加水分解しそして反応中に発生したジオールを破壊させると信じられている。本反応ではオスミン酸エステルを加水分解するために水または可溶性カルボン酸エステル、例えばカルボン酸テトラアルキルアンモニウム、は必要ない。水の存在が水溶性ジオールの単離および回収を難しくさせることがあるため、ホウ酸の添加がこれらのジオールの単離を容易にさせている。特に、アリールまたはアルキルホウ酸の場合には、ジオールの代わりに生成物が環式ホウ酸エステルとなり、それを次に加水分解してジオールにすることができるため、それは容易である。イワサワ(Iwasawa)他、ケミストリー・レタース(Chemistry Letters)、1721−1724頁(1988)。ホウ酸の添加はゆっくりした添加方法で特に有用である。
本方法の別の態様では、例えばヘキサシアノ鉄酸(III)カリウム(カリウムフェリシアニド、K3Fe(CN))の如き酸化剤を再酸化剤として反応に加える。好適態様では、(オレフィン基質を基にして)少なくとも2当量の酸化剤を反応に加える。等量の塩基、例えば炭酸カリウム(K2CO3)を再酸化剤と共に加えることが好適である。再酸化剤としてK3Fe(CN)を使用する接触非対称性ジヒドロキシル化では高いエナンチオ選択性が得られる。
オレフィン類の非対称性のオスミウムで触媒作用を受けるジヒドロキシル化におけるカリウムフェリシアニドの使用はミナト(Minato)、ヤマモト(Yamamoto)およびツジ(Tsuji)、ザ・ジャーナル・オブ・ザ・オーガニック・ケミストリイ(J.Org.Chem.)55:766(1990)により報告されている。(塩基と一緒の)K3Fe(CN)の添加は、例えばN−メチルモルホリン−N−オキシド(NMO)の如き他の酸化剤を使用する時に触媒作用を強力に抑制する配位子であるキヌクリジンの存在下でさえ、ツジの触媒系のターンオーバー能力の改良をもたらす。本態様では、カリウムフェリシアニドおよび炭酸カリウムがこのキナアルカロイドを基にした非対称性ジヒドロキシル化方法に加えられ、そしてこの結果は予期されていなかった(すなわち難しい基質を用いてオスミウムを再酸化しおよび/または良好なターンオーバーを得るための他の方法とは全く異なる)。表2に示されている如く、NMOの代わりのカリウムフェリシアニド/炭酸カリウムの使用はほとんどのオレフィン類に関して非対称性誘導の水準における全面的な増加をもたらす。表2に示されているデータの最初の2項は、それぞれオレフィンの「ゆっくりした添加」を用いてまたは用いずにNMOを使用した結果に関するものである。これまでの結果(表2に示されている)は0℃において得られていたがフェリシアニド実験は室温において行われたという事実により証明されている如く、エナンチオ選択性の改良は大きい。しかしながら、フェリシアニド反応は基質によってはある範囲の温度において実施することができる。



反応混合物に加えられる水の量は本方法において重要な要素である。加えられる水の最適量は実験的に決めることができ、そして一般的には最大のeeを与える量であるべきである。一般的には、約10−16当量の、好適には13−14当量の、水を加えることができる。
当該オレフィンを本発明に従い非対称性ジヒドロキシル化させることができる。例えば、少なくとも1個の炭素−炭素結合を官能基として含有している炭化水素を当該方法に従い非対称的にジヒドロキシル化することができる。該方法は当該オレフィンに適用可能でありそして特にプロキラルな(prochiral)オレフィン類[キラリテイまたは対掌性(handedness)を示す生成物に転化することができるオレフィン類]を非対称的にジヒドロキシル化するのに良く適している。本発明の方法を使用して偏光性オレフィンを非対称的にジヒドロキシル化する場合には、1種のエナンチオマーの方がが他のものより反応性が大きいであろう。その結果、光学的対掌体類を分離または動力学的に分割することができる。すなわち、適当に選択された反応物の使用により、非対称的にジヒドロキシル化された生成物を未反応出発物質から分離することができ、そして生成物および回収された出発物質の両者がエナンチオマー的に過剰となるであろう。
非対称性ジヒドロキシル化で使用されるキラル配位子は一般的にはアルカロイドまたは普通は複素環式である窒素系有機化合物であろう。キラル配位子は天然産出化合物、純粋な合成化合物またはそれらの塩、例えば塩酸塩、であることができる。使用される最適誘導体は各反応に関する工程条件を基にして決めることができる。非対称性ジヒドロキシル化方法でキラル配位子として使用することができるアルカロイド類の例には、キナアルカロイド類、例えばキニン、キニジン、シンチョニン、およびシンチョニジン、が包含される。本発明の方法で有用なアルカロイド誘導体類の例は表3に示されている。以下で詳細に記されている如く、キニンおよびキニジンの2種のアルカロイド類は図1に表示されている式においては同様なジアステレオマー類よりはるかにエナンチオマー類と似た作用をする。
図1に表示されている如く、そして表4中の結果により示されている如く、ジヒドロキニジ誘導体類(DHQDと表示されている)およびジヒドロキニン誘導体類(DHQと表示されている)は本方法では擬−エナンチオマー関係を有している(DHQDおよびDHQは事実上ジアステレオマー類である)。すなわち、それらは反対のエナンチオ面選択性を示す。そのような誘導体類は、例えば、エステル類またはエーテル類であることができるが、他の形を使用することもできる。誘導体の選択は工程に依存している。ジヒドロキニジンを配位子として使用する時には、2個のヒドロキシル基の分配がジヒドロキシル化しようとするオレフィンの頂部また上部面(図1中に表示されている)から生じる。すなわち、この場合にはre−またはre,re−面の直接攻撃が生じる。それとは対照的に、ジヒドロキニン誘導体が使用される配位子である時には、これも図1に表示されている如く2個のヒドロキシル基が底部または下部面(si−またはsi,si−面)から誘導される。これは表4の番号1、2および5の参照により最も良く説明される。示されている如く、DHQD(ジヒドロキニジンエステル類)を使用する時には生じるジオールはRまたはR,R配置を有しており、そして配位子2(ジヒドロキニンエステル類)を使用する時には生じるジオールはSまたはS,S配置を有している。



























この面選択原則または現象のために、本発明の使用および適当な偏光性配位子により、ジヒドロキシル化生成物の絶対的配置をあらかじめ決めることができる。
表4に示されているように、多種のオレフィン類の非対称性ジヒドロキシル化が本発明により成功裡に行われる。記載されている各態様は非対称性ジヒドロキシル化を生じものであり、そしてこの目的用には「ゆっくりした添加」方法が特に有用である。絶対的配置が制定されている表中に示されている各場合には、面選択「原則」(図1に表示されている配向を参照しながら解説されている)が適用され、DHQDを使用すると頂部または上部面から生じる攻撃またはジヒドロキシル化を生じ、そしてDHQがオレフィンの底部または下部面から生じる攻撃またはジヒドロキシル化を生じる。これはそれぞれRまたはR,R配置を有する生成物およびSまたはS,S配置を有する生成物を生じる。
本方法の好適態様では、種々のキナアルカロイド類の芳香族エーテル類が配位子として使用される。「芳香族エーテル類」という語には、アリールエーテル類および複素環式エーテル類が包含される。配位子としてジヒドロキニジンまたはジヒドロキニンの芳香族エーテル類を使用すると、高水準の非対称性誘導が得られる。例えば、下記の式を有する芳香族エーテル類が特に有用である。



[式中、
Rはフェニル、ナフチル、またはo−メトキシフェニルである]
種々のジアルキル置換されたオレフィン類の化学量論的な非対称性ジヒドロキシル化はジヒドロキニジンのフェニルエーテル誘導体を用いて行われた。結果を表6に示す。



乾燥トルエン(0.1M)中で1当量のオレフィンをOsO4と配位子の1:1混合物に加えることにより反応を行い、その後に水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4)を用いる還元性処理を行うと、(R,R)−ジオールを60−95%収率で良好ないし優れたエナンチオマー過剰量で生成する。α,β−不飽和エステル類との反応はこの配位子を用いると、はるかに改良されたエナンチオ−およびジアステレオ選択性(表6の番号7および8中に示されている如く≧90%)で進行した。反応温度を−78℃に下げることにより、直鎖ジアルキル置換されたオレフィンとの反応は非常に高いエナンチオ選択性(表6の番号2、4および6中に示されている如く≧93%)で進行した。プロットされた数種の場合には、温度に伴うeeにおける変動はアレニウス関係に非常に従っていた。
数種のジヒドロキニジン芳香族エーテル誘導体類を、下表7に示されている如く、(E)−3−ヘキセンの非対称性ジヒドロキシル化に関するキラル配位子として試験した。試験された全ての芳香族エーテル誘導体類との反応はp−クロロ安息香酸ジヒドロキニジンとの対応する反応より高いエナンチオ選択性を示した。9−O−(2′−メトキシフェニル)−ジヒドロキニジン(番号2、表7)を用いると、最も高いエナンチオ選択性が得られた。



本方法の一態様では、芳香族エーテル配位子が(E)−3−ヘキセンの接触非対称性ジヒドロキシル化で使用された。この態様の結果は表8に示されている。接触非対称性ジヒドロキシル化反応(番号1−3、表8)は、アセトン−水(10/1、容量/容量)中で0℃においてフェニルエーテルジヒドロキニジン(0.25当量)、N−メチルモルホリンN−オキシド(NMO、1.5当量)およびOsO4(0.004当量)の混合物に(E)−3−ヘキセンをゆっくり添加し、その後Na2S2O5で処理することにより、行われる。反応は反応混合物に対して酢酸テトラエチルアンモニウム(2当量)を添加すると、比較的速く進行した(番号4、表8)。カリウムフェリシアニドを副酸化剤として加えた(番号5および6、表8)。これらの場合には、オレフィンのゆっくりした添加は必要なかった。ターシャリー−ブチルアルコール−水(1/1、容量/容量)中の(E)−3−ヘキセン(1当量)、ジヒドロキニジンの芳香族エーテル(0.25当量)、K3Fe(CN)(3当量)および炭酸カリウム(K2CO3、3当量)の混合物にOsO4(0.0125当量)を加え、生成した混合物を室温で20時間撹拌した。(Na2SO3を用いる)還元性処理により、ジオールを85−90%の収率で化学量論的反応で得られたものと本質的に同じeeで与えた。



これまでは低温における化学量論的試薬の使用によってのみ可能であったジアルキル置換されたオレフィン類のジヒドロキシル化におけるエナンチオ選択性が、これらの芳香族エーテル配位子を室温において使用する接触非対称性ジヒドロキシル化において今得られた。ここで開示されているものは本方法で特に有用な2種の配位子であるジヒドロキニジン(下記の1aおよび1b)およびジヒドロキニン(下記の2aおよび2b)の9−O−(9′フェナンスリル)エーテル類および9−O−(4′−メチル−2′−キノリル)エーテル類である。



R基は他のベンゼノイド炭化水素類を含むことができる。芳香族部分は例えば低級アルキル、アルコキシまたはハロゲン基の如き置換基により改変されていてもよい。
他の有効な複素環式配位子には、



が包含される。
これらの新規な配位子を用いて得られる改良は表9に示されている結果により最も良く認められる。特に重要な利点は、末端オレフィン(番号1−7、表9)が最初に「有用な」ee−範囲になったことである。






新規な配位子1aおよび1bに関するデータを別の配位子であるρ−クロロ安息香酸塩1c(表9の最終項)の結果と比較した。その他にも、各基質に関する最高のエナンチオ選択性が括弧により強調されていること、並びにこの括弧は配位子1cの下の項中では非常に少ないことにも注目すべきである。明らかに、配位子1aおよび1bもトランス−置換されたオレフィン類、特に芳香族置換基を欠いたもの(番号8および9)、に関して意義あるee増加を与えた。
オレフィン類に関する6種の可能な置換方式は、



である。
これらの種類のうちの4種が表9に表示されている。モノ−およびゲム−ジ置換型を用いてのこの成功は、芳香族エーテル配位子以外の配位子を使用した時のジオール製造と比較して接触ADHの範囲を2倍にした。
ジヒドロキニン配位子同族体(すなわち、2a、2bおよび2c)に関する結果は表9には著しく存在していない。これらの新規な配位子のキニジンおよびキニン同族体も表9に示されているのと同じオレフィン種類を用いて非常に良好な結果を与えた。本来のρ−クロロ安息香酸エステル配位子比較(1c対2c)2bと同様に、キニンエーテル系はそれらのジヒドロキニジン相手(1a対2aおよび1b対2b)より幾分低いeeを与えた。例えば、1aを用いて表9に記録されている93%のeeでのR−ジオールと比べて、ビニルシクロオクタン(番号2)は2aを用いるとS−ジオールを8.8%eeで与えた。
接触ADHに関する詳細な一般的工程は、配位子1aおよび基質としてのビニルシクロオクタンを用いる注釈実施例20中に示されている。方法の実験的簡単さに注目すべきである。それは空気および水の存在下で周囲温度または氷浴温度において実施される。他の利点は、最も高価な成分である配位子を>80%の収率で容易に回収できることである。
固体の非揮発性のオスミウム(VI)塩であるK2OsO2(OH)を四酸化オスミウムの代わりに使用したことにも注目すべきである。この新案は揮発性オスミウム種類への露呈の危険性を避けるため、OsO4を含む全ての接触酸化において有用であるはずである。
本発明の方法においてDHQDまたはDHQ配位子のO−カルバモイル−,p−クロロベンゾエート−またはO−フェナンスロレン−置換基を使用する時に、他のオレフィン種類を非対称的にジヒドロキシル化することができる。この種類はオレフィンのシス−ジ置換型である。表10は、これらの配位子を使用した時の種々の基質に関するeeおよび%収率を示している。これらの配位子を製造するためおよびADHを行うための方法は実施例23および24に示されている。



ここでは、配位子はジメチルカルバモイル(DMC)、メチルフェニルカルバモイル(MPC)、ジフェニルカルバモイル(DPC)、p−クロロ安息香酸エステル(PCB)、フェナンスリル(PHN)およびフェニルカルバモイル(PhC)として表示されているDHQDのエーテル結合された置換基である。
O−カルバモイル−DHQD配位子を使用した時に比較的大きいeeが得られ、そのことはこの種類の化合物がオレフィンのシス−ジ置換型の非対称性ジヒドロキシル化用の魅力的な配位子であることを示している。これらの結果はまた、このオレフィン種類に関して妥当な良好な収率およびeeが得られること並びにここでは6種類のオレフィン類のうちの5種類が成功裡に非対称的にジヒドロキシル化できることも示している。
一般的に、使用されるキラル配位子の濃度は約0.001M以下−2.0Mの範囲であろう。下記で例示されている一態様では、溶液はアルカロイド1(ジヒドロキニジン誘導体)中0.261Mである。室温で行われる該方法の一態様では、図1に表示されている各アルカロイドの濃度は0.25Mである。この方法では、使用条件下で生成するエナンチオマー過剰量が最大にされる。本発明の方法用に必要なキラル配位子の量を反応が起きる温度が変動するにつれて変動させることができる。例えば、反応が起きる温度が変化するにつれてアルカロイド(または他のキラル配位子)の使用量を減少させることができる。例えば、それをジヒドロキニジン誘導体を用いて0℃で行うなら、アルカロイド濃度は0.15Mであることができる。0℃で行われる他の態様では、アルカロイド濃度は0.0625Mであった。
多くの酸化剤(すなわち、本質的にはいずれかの酸素源)を使用することができる。例えば、アミン酸化物類(例えば、トリメチルアミン酸化物類)、ターシャリー−ブチルヒドロペルオキシド、過酸化水素、および酸素+金属触媒(例えば、銅(Cu+−Cu++/O2)、白金(Pt/O2)、パラジウム(Pd/O2)を使用することができる。一方、NaOCl、KIO4、KBrO3またはKClO3を使用することもできる。本発明の一態様では、N−メチルモルホリンN−オキシド(NMO)が酸化剤として使用される。NMOは商業的に入手可能である(アルドリッヒ・ケミカルズ、97%NMO無水、または60%水溶液状)。さらに、上記の如く、カリウムフェリシアニドをアミン酸化物の代わりに使用することもできる。カリウムフェリシアニドは本方法における有効な酸化剤である。
オスミウムは一般的に本発明の方法において四酸化オスミウム(OsO4)またはオスミン酸カリウムVI二水塩の形状で供給されるが、他の源(例えば、無水三塩化オスミウム、三塩化オスミウム水和物)を使用することもできる。OsO4は固体状または溶液中で加えることができる。
本発明の方法で使用されるオスミウム触媒は、次の反応における再使用のために再循環させることができる。これは工程費用を減少させるだけでなく有毒なオスミウム触媒を回収可能にもさせる。例えば、オスミウム触媒は下記の如くして再循環させることができる:還元触媒(例えば、Pd−C)を使用して、オスミウムVIII種を還元しそして還元触媒上に吸着させる。生じた固体を濾過しそして再懸濁させる。NMO(すなわち酸化剤)、アルカロイドおよび基質(オレフィン)を加えると、Pd/C固体と結合されているオスミウムが再酸化されてOsO4となり、そして溶液を再び加えると、希望するジオールの生成においてそれの有用な触媒役割を演じる。この工程(以下に表示されている)は数回のサイクルにより行われ、その結果オスミウム種類を再使用することができる。パラジウムまたは炭素を例えば固定床中でまたはカートリッジ中で運動抑制させることができる。



一態様では、例えば再結晶化されたトランス−スチルベン(C6H5CH:CHC6H5)の如きオレフィンをキラル配位子(例えば、p−クロロベンゾイルヒドロキニジン)、アセトン、水およびNMOと一緒にする。成分類は順次または同時に加えることができ、そしてそれらを一緒にする順番は変えることができる。この態様では、成分類を一緒にした後に、生じた組み合わせ物を(例えば、トランス−スチルベンの場合には約0℃に)冷却し、ここで冷却は氷水浴を用いて行うことができる。次にOsO4をOsO4の有機溶媒中(例えばトルエン中)溶液の形状で(例えば注入により)加える。OsO4の添加後に、生じた組み合わせ物をジヒドロキシル化反応が進行するのに適している条件下に保つ。
他の好適態様では、キラル配位子(例えば、4−クロロ安息香酸ジヒドロキニジン)、NMO、アセトン、水およびOsO4(5Mトルエン溶液状)を一緒にする。成分類を順次または同時に加えることができ、そしてそれらを一緒にする順番は変えることができる。この態様では、成分類を一緒にした後に、生じた組み合わせ物を(例えば、トランス−スチルベンの場合には約0℃に)冷却し、ここで冷却は氷水浴を用いて行うことができる。組み合わせ物をかきまぜる(例えば撹拌する)ことが特に好適である。この良く撹拌された混合物にオレフィン(例えばトランス−3−ヘキセン)を(例えば注入により)ゆっくり加える。添加最適速度(すなわち、最大eeを与えるため)はオレフィン系基質の性質により変わるであろう。トランス−3−ヘキセンの場合、オレフィンは約16−20時間の期間にわたり加えられる。オレフィン添加後に、混合物をさらにある時間にわたり低温において(トランス−3−ヘキセンの場合には1時間)撹拌することができる。ゆっくりした添加方法が比較的良好なeeおよび比較的速い反応速度を生じるため、好ましい。
別の態様では、オスミン酸エステル中間生成物(例えば、可溶性のカルボン酸エステル、例えば酢酸テトラエチルアンモニウム)の加水分解を促進する化合物をキラル配位子、水、溶媒、酸化剤およびオスミウム触媒およびオレフィンの混合物に加えることができ、またはオレフィンのゆっくりした添加を用いる場合にはオレフィンの添加前に加えることもできる。
オレフィンのゆっくりした添加方法を使用する時に起きると思われるジオール−生成機構の図式は図4に表示されている。提唱されている機構に従うと、少なくとも2種のジオール−生成サイクルが存在している。図4に示されている如く、最初のサイクルだけが高いeeを生じるようである。重要な中間生成物は図4に式3として示されているオスミウム(VIII)トリオキソグリコレート複合体であり、それは下記の一般式:



を有しており、ここでLはキラル配位子であり、そしてR1、R2、R3およびR4はオレフィンに対応する有機官能基である。例えば、R1、R2、R3およびR4はアルキル、アルコキシ、アリールオキシまたは反応方法と相容性である他の有機官能基である。使用できるオレフィン類の例およびそれらの官能基は上記の表4に示されている。
この複合体は2サイクル間の結合場所の回転位置を占めており、そしてジオール製造がサイクル間でどのようにして分割されるかを決めている。
化学量論的条件下で段階的方式で該方法を実施することにより図4中の事象を模倣できるということを発見することにより、オスミウム(VIII)トリオキソグリコレート複合体(式3、図4)の中間生成傾向が証明される。これらの実験は無水条件下でトルエン中で行われた。図4に示されている方法では、1当量のアルカロイドオスミウム複合体(式1、図4に示されている)をオレフィンと反応させてエメラルドグリーンのモノグリコレートエステル(式2、図4)を与える。次に別のオレフィンを加え、その後、当量の無水アミンN−オキシドを加えると、ビスグリコレートエステル(式4、図4)の急速生成が観察される。ビスグリコレートエステルの還元性加水分解時に、正確に1当量の各ジオールが遊離される。これらの実験は、オレフィン類からのジオール類の製造において多分オスミウムトリオキソグリコレート複合体を介するであろう第二サイクルは第一サイクルと同様に有効であることを示している。この並列している添加工程を行うために両段階において同一オレフィンを使用することもできる。これをオレフィンとして1−フェニルシクロヘキセンを用いて行った時には、第一段階に関するeeは81%でありそして第二段階に関するeeは逆方向で7%であった(すなわち第一段階では少量のエナンチオマー傾向であった)。従って、この基質に関しては、第二サイクルの侵入は特に被害を受け、そして本来の接触条件下では1−フェニルシクロヘキセンは8%だけのeeを与えた(番号3、表5)。
減じられたeeはちょうど第二サイクルのターニングの逆生産性部分であり、減じられたターンオーバーは別の信頼度である。ビスオスミン酸エステル類(式4、図4)は普通ゆっくりと再酸化および加水分解されるため、触媒を固定させる傾向がある。例えば、1−フェニルシクロヘキセンは本来の条件(上記で引用されている8%ee)に完全に達するために7日間かかる。オレフィンのゆっくりした添加を用いると、酸化は1日間で完了し、そしてジオールを95%の収率および73%のeeで与えた(番号3、表5)。
図4に示されている機構図式から生じる最も重要な予測は、オレフィンをゆっくり加える場合の第二サイクルの最少化である。オレフィンのゆっくりした添加はトリオキソグリコール酸オスミウム(VIII)酸中間生成物が加水分解するのに充分な時間を与えるため、オスミウム触媒は第二サイクル中にオレフィンと反応することにより停留されなくなる。含まれている複合体の一部はゆっくりと再酸化および/または加水分解されるため、繰り返すためには第二サイクルはeeを悪化させるだけでなくターンオーバーも妨害する。最適な供給速度はオレフィンに依存しており、それはここに記されている如く実験的に決めることができる。
接触方法で得られる最大eeは、オレフィン(すなわち表5中の第1項)に対するアルカロイドオスミウム複合体(式1、図4)の添加により決められる。従って、化学量論的添加を使用してee−最高値を決めることができ、それは3(図4)の加水分解を行ってオレフィンの第二分子との交互反応を支配して4(図4)を与えることができるなら接触方法に達するかまたは近付くことができる。末端オレフィン類であるスチレン(表5)の場合には、ゆっくりした添加のためにトリオキシグリコール酸エステル類は急速に加水分解するか、またはオスミン酸エステル加水分解添加物の影響がeeにわずかな増加しか与えない。しかしながら、ほとんどのオレフィン類はオスミン酸エステル中間生成物(3、図4)(番号2−5、表5)の加水分解を速めるという改変から大きな利益を受け、そして極端な場合にはオスミン酸エステル−加水分解添加物の影響またはゆっくりした添加だけでは充分ではない。ジイソプロピルエチレン(番号4、表5)は、ゆっくりした添加が酢酸エステルの存在下で行われながら両方の影響が一緒に使用される時にのみ最高のeeに達する。表中の他の番号はゆっくりした添加だけによりそれらの最適eeに達するが、これらの場合でさえ、例えば酢酸テトラアルキルアンモニウムの如き化合物が存在しているなら添加時間を実質的に短縮することができる。
多くの場合、温度もeeに影響を与える。eeが第二サイクルにより減じられる時には、温度上昇によりしばしばeeを増加させることができる。これは特に、NMOを副酸化剤として使用する時に、起きる。例えば、ジイソプロピルエチレンは0℃において46%のeeを与え、そして25℃において59%のeeを与える(両方の場合、24時間のゆっくりした添加時間)。トリオキソグリコール酸オスミウム中間生成物の加水分解速度はそれとオレフィンとの反応速度より明らかに温度依存性が大きい。この温度の影響は、水を結合しそして加水分解を開始させるためのオスミウム複合体(3)からキラル配位子を解離するという予測されている要望により容易に理論化されるが、オレフィンの添加を起こすために配位子は解離する必要はない(実際にこの第二サイクルオレフィン添加段階も配位子で促進されているようである)。
K3Fe(CN)を副酸化剤として使用する時には、eeに対する温度の影響は、NMOを副酸化剤として使用する時の影響と逆である。すなわち、カリウムフェリシアイドを副酸化剤として使用する時には温度低下がしばしばeeを増加させ得る。また、オレフィンは混合物にゆっくり添加する必要もなく、実際にはカリウムフェリシアニドが副酸化剤である時にはその代わりに一度に加えることができる。この副酸化剤を使用する時には第二サイクルが抑制されるため、これらの影響および条件が明らかに生じる。副酸化剤がカリウムフェリシアニドである時には、第二サイクルの反応はジオール類の生成に認識できるほど寄与していない。
下記のものは特定オレフィン用の最適条件の決め方の記載である。オスミウムで触媒作用を受ける非対称性ジヒドロキシル化を最適にするためには、
1)既知の実施例から最高eeがどの位であるか疑わしいなら、1当量のOsO4−アルカロイド複合体を用いて0℃においてアセトン/水中で化学量論的オスミル化を行うことによりそれを決めることができる。
2)0℃におけるゆっくりした添加:そこを越えると第二サイクルに移行するためeeが減少するようなそれぞれのオレフィンがそれ自身の「最も速い」添加速度を有する一定温度を考慮にいれながら添加時間を選択するための指針として表3中の最終項を使用することができる。オレフィン添加速度が充分ゆっくりである時には反応混合物は黄橙色のままであり(1の色、図4)、速度が速すぎると溶液は黒色がかった色調となり、暗褐色ないし黒色のビスグリコール酸エステル複合体(4、図4)が生成したことを示している。
3)段階1および2後に最高eeに達していないなら、0℃におけるゆっくりした添加および酢酸テトラアルキルアンモニウム(またはオスミン酸エステル中間生成物の加水分解を補助する他の化合物)を使用することもできる。これらの全ての変法に関しては、混合物を全反応期間にわたりかきまぜる(例えば撹拌する)ことが好適である。
本発明の方法は広い温度範囲にわたり実施することができ、そしてその範囲の限度は例えば使用される有機溶媒の限度により決められるであろう。該方法は、例えば、約40℃〜約−30℃の温度範囲で実施することができる。個々の反応物類(例えば、キラル配位子、酸化剤など)の濃度は、本発明の方法の実施温度につれて変えることができる。飽和点(例えば結果が最大になるキラル配位子の濃度)は温度−依存性である。以上で説明されている如く、例えば、該方法を比較的低温において実施する時には、アルカロイドの使用量を減少させることができる。
本方法で使用される有機溶媒は、例えば、アセトン、アセトニトリル、THF、DME、シクロヘキサン、ヘキサン、ピナコロン、ターシャリー−ブタノール、トルエンまたは2種以上の有機溶媒の混合物である。これらの溶媒はNMOを副酸化剤として使用する時に特に適している。
カリウムフェリシアニド(K3Fe(CN6))が副酸化剤である時には、有機および水相を分離させる溶媒の組み合わせ物を使用することが有利である。本発明の方法はカリウムフェリシアニドを副酸化剤として用いて前記章の有機溶媒を使用して実施することもできるが、非対称性ジヒドロキシル化は起きるが分離可能な有機および水性溶媒層を使用する時よりeeは少ない。
水および種々の基質と混合された種々の有機溶媒に関する収率およびeeが表11−12に示されている。表11は特定基質用の数種の有機溶媒(水と共に)に関する収率およびeeを示している。配位子はDHQD−p−クロロ安息香酸エステル(PCB)またはDHQD−ナフチルエーテルである。表12は有機相としてのt−ブタノールまたはシクロヘキサン用の種々の基質に関するeeを示している。これらの表から、好適な有機相溶媒にはシクロヘキサン、ヘキサン、エチルエーテルおよびt−ブチルメチルエーテルが包含されることが明らかである。好適な水性溶媒は水である。












本発明の別の態様では、スチレンをキラル配位子(DHQD)、アセトン、水およびNMOおよびOsO4と一緒にする。接触シス−ジヒドロキシル化に関するアミン濃度対二次速度定数Kのプロットは図2に表示されている。図2の速度データは、本発明の方法の使用により得られた配位子で促進された触媒作用の劇的な効果を明らかに示している。図2中の点aはアミン配位子の不存在下での接触方法の速度を表している(t1/2=108分)。線bは種々の量の実質的に触媒作用を遅延させる配位子であるキヌクリジンの存在下での該方法の速度を示している(0.1M以上のキヌクリジンでは、t1/2は30時間以上である)。キヌクリジンの観察されている遅延効果(配位子−遅延触媒作用)のために、線Cにより表示されている結果は予期されなかったものである。すなわち、該方法がジヒドロキニジン安息香酸エステル誘導体1の存在下で起きる時(図1参照)には、それの構造中のキヌクリジン部分の存在にもかかわらずアルカロイド部分が全ての濃度において接触方法を強力に促進させる(配位子1=0.4M、t1/2=4.5分)。
スチレンと四酸化オスミウムとの化学量論的反応速度および対応する接触方法の速度が比較された。比較は、両者とも同一の速度係数
[K化学量論的=(5.1±0.1)×102M-1-1および
K触媒=(4.9×0.4)×102M-1-1]を有していること並びにそれらが配位子1の添加で同じ速度促進を受けることを示していた。触媒のターンオーバーを行う段階である還元されたオスミウム種類の加水分解および再酸化はスチレンを用いる接触方法においては速度論的には意義がない。限定段階が両方法で同じでありそしてオスミン酸エステルを生成する初期添加反応を含んでいると結論された(2、図1)。詳細な機構研究は、加えられた配位子1により観察される速度促進が四酸化オスミウム−アルカロイド複合体の生成によるものであり、それはスチレンの場合には遊離四酸化オスミウムより23倍も反応性が大きいことを示していた。速度は最大に達し、そして配位子1の(約)0.25M濃度を越える一定値に達した。この速度飽和の開始はむしろ弱い結合定数(K当量=18×2M-1)でのDHQDと四酸化オスミウムとの間の予備−平衡に対応している。DHQDの濃度が0.25M以上への増加はエナンチオマー過剰量の生成物ジオールにおける対応する増加をもたらすものではない。実際に、配位子−促進効果のために、該方法のeeは最大速度に達するよりはるかに速くそれの最大値に達し、そのことは最適なeeがむしろ低いアルカロイド濃度において得られることを意味している。
少なくともスチレンの場合には、アルカロイドの存在下での速度促進は初期オスミル化段階の促進により補填されている。触媒作用に対するキヌクリジンおよびDHQDの全く逆の影響は、キヌクリジンもオレフィンに対する四酸化オスミウムの添加を促進させるがそれは生じるオスミウム(VI)エステル中間生成物と強く結合しすぎてしまいそしてサイクルの加水分解/再酸化を遅延させることにより触媒ターンオーバーを良くするという事実と関連している可能性がある。それとは対照的に、アルカロイドは均衡のとれた作用を与えるようであり、それがジヒドロキシル化触媒作用の促進剤としてほとんど完全な役割を演じる。それはオレフィンの添加を促進させるのには充分なほど強く結合するが、それが触媒作用サイクルのその後の段階を妨害するほどしっかりとは結合していない。キレート化用ターシャリー−アミン類[例えば、2,2′−ビピリジンおよび(−)−(R,R)−N,N,N′,N′−テトラメチル−1,2−シクロヘキサンジアミン]が0.2Mにおいて触媒作用を完全に抑制する。ピリジンは0.2Mにおいて同じ効果を有している。
表4に表示されている如く、本発明の方法は種々のオレフィン類に適用される。各場合とも、上記の面選択原則が適用されることが示されている(図1に表示されているオレフィンの配向参照)。すなわち、ジヒドロキンジン誘導体がキラル配位子である非対称性ジヒドロキシル化反応の場合には攻撃がre−またはre,re−面上で起き、そしてジヒドロキニン誘導体がキラル配位子である場合には攻撃がsi−またはsi,si−面上で起きる。従って、表2中に表示されているデータにより示されている如く、本発明の方法は接触非対称性ジヒドロキシル化の実施において有効であり、全ての場合にジオールの収率は80−95%でありそしてゆっくりした添加変法ではほとんどのオレフィン類は40−90%の範囲のeeを与える。
本方法は例えば薬品の如き生物学的に活性なキラル分子用の重要な構成基礎であるキラル中間生成物を合成するために使用することができる。一態様では、本方法を使用して薬品であるジルチアゼム(カルジゼムとしても知られている)の合成において使用される光学的に純粋な中間生成物を製造する。反応は下記の反応式により示される。



本発明の方法はオレフィンの非対称性近接オキシアミノ化を行うためにも有用であり、そして非対称性近接ジアミノ化用にも有用である。2個の窒素または窒素および酸素の置換の場合には、アミノ誘導体がアミノ転移剤および酸化剤として使用される。例えば、改変しようとするオレフィン、有機溶媒、水、キラル配位子、アミノ誘導体およびオスミウム−含有化合物を一緒にし、そして組み合わせ物を反応が起きるのに適している条件下に保つ。アミノ誘導体は、例えば、N−クロロカルバミン酸エステルまたはクロロアミンTであることができる。本発明の方法に従う再結晶化されたトランススチルベンの非対称性接触オキシアミノ化は図2に表示されている。
別の態様では、本方法を使用してブラシノリドと同じ生物学的活性を示すことが知られているホモブラシノリドおよび24−エピブラシノリドの合成用の中間生成物を製造した。これらのブラシノステロイド類はホルモン水準において非常に有効な植物成長活性を示し、そしてこれらの化合物の大量入手は合成手段によってのみ得られる。



本方法の別の態様では、高度に光学的に活性なジオールがトランス−2−オクテン酸エチルの非対称性ジヒドロキシル化から製造された。このジオールは、それらの抗生物質活性に関して良く知られている光学的に純粋なβ−ラクタム構造に転化させることができる。



実施例1 スチルベンの非対称性ジヒドロキシル化
下記のものを2リットル瓶(またはフラスコ)中に順次入れた:180.2g(1.0M)の再結晶化されたトランススチルベン(アルドリッヒ96%)、180.2g(0.314モル、0.134当量)のヒドロキニジンのp−クロロ安息香酸エステル(1)、450mlのアセトン、86mlの水(溶液はアルカロイド1中で0.261Mであった)および187.2g(1.6モル、1.6当量)の固体N−メチルモルホリンN−オキシド(NMO、アルドリッヒ97%)。瓶にふたをし、30秒間振り、氷水浴を用いて0−4℃に冷却した。OsO4(0.120gのOsO4/mlのトルエン、0.002モル%、0.002当量)を注入した。瓶を振り、そして時々振りながら約4℃の冷蔵庫中に入れた。暗い紫色が現れ、そして深橙色にゆっくり変化し、不均質反応混合物は徐々に均質になりそして反応の終了字には透明な橙色の溶液が得られた。反応はTLC(シリカゲル、CH2Cl2、規定されたRrにおける出発物質の消失)により簡単に監視された。17時間後に、100gの固体メタ亜硫酸水素ナトリウム(Na2S2O5)を加え、反応混合物を振り(1分間)、そして20℃において15分間放置した。次に反応混合物を等容量のCH2Cl2により希釈し、そして無水Na2SO4を加えた(100g)。さらに15分後に、固体をセライトのパッドを通す濾過により除去し、250ml部分のCH2Cl2で3回希釈し、そして溶媒を真空下で蒸発させた(回転−蒸発器、浴温度=30−35℃)。
粗製油を酢酸エチル(750ml)中に溶解させ、500ml部分の2.0M HClで3回、2.0M NaOHで1回抽出し、Na2SO4上で乾燥し、そして真空中で濃縮すると、190g(89%)の粗製ジオールが薄黄色の固体状で残った。エナンチオマー過剰量の粗製R,R−ジオールは誘導されたビス−酢酸エステルのHPLC分析により78%であると測定された(溶離剤として5%イソプロパノール/ヘキサン混合物を用いるピルクル1Aカラム)。保有時間はt1=18.9分、t2=19.7分であった。約1000mlのCH2Cl2からの再結晶化により、150g(70%)の純粋なジオールを与えた(ee=90%)。第2回目の再結晶化により、115gの99%eのジオール(55%収率)を与えた。ee(エナンチオマー過剰量)は関係式(例えば、Rエナンチオマーに関する):
百分率e.e.=[(R)−(S)/[(R)+(S)]×100
から計算された。
水層を0℃に冷却し、そしてpH=7となるまで2.0M NaOHで処理した。塩化メチレン(500ml)を加え、そしてさらに2.0M NaOH(約500ml)を用いてpHを10−11に調節した。水層を分離し、塩化メチレン(2×300ml)で2回抽出し、そして一緒にした有機層をNa2SO4上で乾燥した。溶媒を真空中で除去しアルカロイドを黄色のフォーム状で与えた。粗製アルカロイドをエーテル(1000ml)中に溶解させ、0℃に冷却し(氷浴)、そして酸性pH(約1−2)となるまで乾燥HClで処理した。p−クロロベンゾイルヒドロキニジン塩酸塩の薄黄色沈澱を濾過により集め、そして高真空下で(0.01mmHg)乾燥した。
塩を酢酸エチル(500ml)中に懸濁させ、0℃に冷却し、そしてpH=11に達するまで28%NH4OHを加えることにより、遊離塩基を遊離させた。分離後に、水層を酢酸エチルで2回抽出し、一緒にした有機層をNa2SO4上で乾燥し、そして溶媒を真空中で除去して遊離塩基を白色のフォーム状で与えた。
実施例2 スチルベンの非対称性ジヒドロキシル化
機械的スタラーおよび2個のガラス栓が備えられている3リットルの3首丸底フラスコに室温において、E−1,2−ジフェニルエテン(トランス−スチルベン)(180.25g、1.0モル、1.0当量)、4−メチルモルホリンN−オキシド(260mlの60重量%水溶液(1.5モル、1.5当量)、4−クロロ安息香酸ジヒドロキニジン(23.25g、0.05モル、0.05当量)、375mlのアセトンおよび7.5mlのH2Oを加えた。溶液はアルカロイドM中オレフィン中0.1Mであり、そして溶媒は25%水/75%アセトン(容量/容量)であった。フラスコを0℃の冷却浴中に浸漬させ、そして1時間撹拌した。四酸化オスミウム(1.0g、4.0ミリモル、4.0×10-3当量)を一部分ずつ加えると、乳状の褐黄色の懸濁液が生じた。次に反応混合物を0℃において24時間撹拌し、そしてシリカTLC(3:1CH2Cl2:Et2O容量/容量)により監視した。この時点で、メタ亜硫酸水素ナトリウム(285g、1.5モル)を加え、混合物を500mlのCH2Cl2で3回希釈し、室温に暖め、そして室温で1時間撹拌した。無水硫酸ナトリウム(50g)を加え、そして室温で一夜撹拌した。懸濁液を20cmブフナー漏斗を通して濾過し、濾液をアセトン(3×250ml)で充分すすぎ、そして濾液を回転蒸発器上でわずかに加熱しながら(浴温30−40℃)濃縮して褐色のペーストとした。ペーストを3.5リットルのEtOAc中に溶解させ、6リットルの分離漏斗に移し、そしてH2O(2×500ml)および食塩水(1×500ml)で洗浄した。最初の水性洗浄液は、アルカロイド回収用に保有されるその後の酸性洗浄液とは別に保たれた。有機層を乾燥し(Na2SO4)、そしてそして溶媒を真空下で蒸発させた(回転−蒸発器、浴温度=30−35℃)。
粗製油を酢酸エチル(750ml)中に溶解させ、500ml部分の2.0M HClで3回、2.0M NaOHで1回抽出し、Na2SO4上で乾燥し、そして真空中で濃縮すると、190g(89%)の粗製ジオールが薄黄色の固体状で残った。エナンチオマー過剰量の粗製R,R−ジオールは誘導されたビス−酢酸エステルのHPLC分析により78%であると測定された(溶離剤として5%イソプロパノール/ヘキサン混合物を用いるピルクル1Aカラム)。保有時間はt1=18.9分、t2=19.7分であった。約1000mlのCH2Cl2からの再結晶化により、150g(70%)の純粋なジオールを与えた(ee=90%)。第2回目の再結晶化により、115gの99%eのジオール(55%収率)を与えた。ee(エナンチオマー過剰量)は関係式(例えば、Rエナンチオマーに関する):
百分率e.e.=[(R)−(S)/[(R)+(S)]×100
から計算された。
水層を0℃に冷却し、そしてpH=7となるまで2.0M NaOHで処理した。塩化メチレン(500ml)を加え、そしてさらに2.0M NaOH(約500ml)を用いてpHを10−11に調節した。水層を分離し、塩化メチレン(2×300ml)で2回抽出し、そして一緒にした有機層をNa2SO4上で乾燥した。溶媒を真空中で除去しアルカロイドを黄色のフォーム状で与えた。粗製アルカロイドをエーテル(1000ml)中に溶解させ、0℃に冷却し(氷浴)、そして酸性pH(約1−2)となるまで乾燥HClで処理した。p−クロロベンゾイルヒドロキニジン塩酸塩の薄黄色沈澱を濾過により集め、そして高真空下で(0.01mmHg)乾燥した。
塩を酢酸エチル(500ml)中に懸濁させ、0℃に冷却し、そしてpH=11に達するまで28%NH4OHを加えることにより、遊離塩基を遊離させた。分離後に、水層を酢酸エチルで2回抽出し、一緒にした有機層をNa2SO4上で乾燥し、そして溶媒を真空中で除去して遊離塩基を白色のフォーム状で与えた。
実施例3 スチルベンの非対称性ジヒドロキシル化
1.2当量のNMOを使用したこと以外は、実施例1中に記されている如くしてスチルベンの非対称性ジヒドロキシル化を行った。
実施例4 スチルベンの非対称性ジヒドロキシル化
1.2当量のNMOを62重量%水溶液として使用したこと以外は、実施例1中に記されている如くしてスチルベンの非対称性ジヒドロキシル化を行った。
実施例5 ジヒドロキニジン誘導体の製造
キニジンの接触還元によるジヒドロキニジンの製造
16.2gのキニジン(0.05モル)の150mlの10%H2SO4(150mlのH2O中の15gの濃H2SO4)中溶液に、0.2gのPdCl2(0.022当量、0.0011モル)を加えた。反応混合物をパルシェーカー中で50psi圧力において水素化した。2時間後に、触媒をセライトのパッドを通す濾過により除去しそして150mlの水で洗浄した。このようにして得られた薄黄色の溶液を撹拌されているNaOH水溶液(150mlのH2O中の15gのNaOH)にゆっくり加えた。白色沈澱が直ちに生成し、そして溶液をpHを過剰の水性15%NaOHの添加により10−11とした。沈澱を濾過により集め、圧縮乾燥し、そしてエタノール(175ml)中に懸濁させた。沸騰溶液を急速濾過し、そして室温に冷却すると、白色の針状結晶が結晶化した。結晶を集め、そして真空下で(90℃、0.05mmHg)一夜乾燥した。これにより8.6g(52.8%)の純粋なジヒドロキニジンが得られた。融点=169.5−170℃。母液を冷凍機中に−15℃において一夜入れた。濾過および結晶の乾燥後に、別の4.2g(21.4%)の純粋物質が得られて、ジヒドロキニジンの合計量を12.8g(74.1%)に増加させた。
ジヒドロキニジン塩酸塩(アルドリッヒ)からのp−クロロ安息香酸ジヒドロキニジン(配位子1)の製造
100gのジヒドロキニジン塩酸塩(0.275モル)の300mlの乾燥CH2Cl2中の冷却された(0℃)懸濁液に、30分間にわたり効果的に撹拌しながら、50mlのCH2Cl2中に溶解されてある115mlのEt3N(0.826当量、3当量)を加えた。滴下漏斗をさらに20mlのCH2Cl2ですすいだ。0℃において30分間撹拌した後に、42mlの塩化p−クロロベンゾイル(0.33モル、57.8g、1.2当量)を2時間にわたり滴々添加した。次に不均質反応混合物を0℃において30分間そして室温において1時間撹拌し、次に700mlの3.0M NaOH溶液をpH=10−11が得られるまでゆっくり加えた。分配後に、水層を100ml部分のCH2Cl2で3回抽出した。一緒にした有機層をNa2SO4上で乾燥し、そして溶媒を真空中で除去した(回転蒸発器)。粗製油を1リットルのエーテル中に溶解させ、0℃に冷却し、そしてエーテル溶液が湿潤pH紙で約2のpHを与えるまでHClで処理した。わずかに黄色の沈澱を集め、そして真空下で乾燥して126g(91.5%)のp−クロロ安息香酸ジヒドロキニジンを与えた。
塩を500mlの酢酸エチル中に懸濁させ、0℃に冷却し、そしてpH=11に達するまで28%NH4OHで処理した。一緒にした有機層をNa2SO4上で乾燥し、そして溶媒を真空下で除去すると、遊離塩基1が白色のフォーム状で残った(112g、合計88%)。この物質はさらに精製せずに使用することができ、またはそれを最少量の熱いアセトニトリルから再結晶化させることもできて約70−80%回収率の無色結晶を与えた。融点102−104℃、
[ ]25D−76.5゜[c1.11、EtOH);
IR(CH2Cl2)2940、2860、1720、1620、1595、1520、1115、1105、1095、1020cm-1;
1H NMR(CDCl3)8.72(d,1H,J=5Hz)、8.05(広いd,3H,J=9.7Hz)、7.4(m,5H)、6.72(d,1H,J=7.2Hz)、3.97(s,3H)、3.42(dd,1H,J=9,19.5Hz)、2.9−2.7(m,4H)、1.87(m,1H)、1.75(広いs,1H)、1.6−1.45(m,6H)、0.92(t,3H,J=7Hz)。
C27H29ClN2O3に関する分析、
計算値:C、69.74;H、6.28;Cl、7.62;N、6.02。
実測値:C、69.95;H、6.23;Cl、7.81;N、5.95。
ジヒドロキニジンから
1.22gのジヒドロキニジン(0.0037モル)の30mlのCH2Cl2中の0℃の溶液に0.78mlのEt3N(0.0056モル、1.5当量)を加え、その後に1mlのCH2Cl2中の0.71mlの塩化p−クロロベンゾイル(0.005モル、1.2当量)を加えた。0℃において30分間そして室温において1時間撹拌した後に、反応物を10%Na2CO3(20ml)の添加により捕獲した。分離後に、水層を10ml部分のCH2Cl2で3回抽出した。一緒にした有機層をNa2SO4上で乾燥し、そして溶媒を真空中で除去した。粗製生成物を上記の如くして精製した。p−クロロ安息香酸ジヒドロキニジン(1)が91%の収率(1.5g)で白色のフォーム状で得られた。
p−クロロ安息香酸ジヒドロキニジンの回収
水性の酸性抽出物(実施例1参照)を一緒にし、0℃に冷却し、そしてpH=7が得られるまで2.0M NaOH溶液(500ml)で処理した。塩化メチレン(500ml)を加え、そしてさらに2.0M NaOH溶液を用いてpHを10−11に調節した。水層を分離し、そして300ml部分のCH2Cl2で2回抽出した。一緒にした有機層をNa2SO4上で乾燥し、そして濃縮すると粗製アルカロイドが黄色のフォーム状で残った。粗製p−クロロ安息香酸ジヒドロキニジン(1)を1リットルのエーテル中に溶解させ、0℃に冷却し、そして湿ったpH紙で1−2のpHが得られるまでHCl気体を溶液中に泡立たせた。塩酸塩としての1の薄黄色沈澱を濾過により集め、そして高真空下で(0.01mmHg)乾燥した。塩を500mlの酢酸エチル中に懸濁させ、不均質混合物を0℃に冷却し、そしてpH=11が得られるまで28%NH4OH(または15%NaOH)を加えることにより、遊離塩基を遊離させた。分離後に、水層を100ml部分の酢酸エチルで2回抽出し、一緒にした有機層をNa2SO4上で乾燥し、そして溶媒を真空中で除去して56g(91%回収率)の純粋なp−クロロ安息香酸ジヒドロキニジン(1)を白色のフォーム状で与えた。
実施例6 ジヒドロキニン誘導体の製造
p−クロロ安息香酸ジヒドロキニンの製造
接触水素化およびp−クロロベンゾイル化をp−クロロ安息香酸ジヒドロキニジンに関して記されている如くして行って、白色の非晶質固体を85−90%の収率で与えた。この固体はさらに精製せずに使用することもでき、またはそれを最少量の熱いアセトニトリルから再結晶化させて無色の結晶を与えることもできた。融点:130−133℃、[a]25D+150゜(c1.0、EtOH)。再結晶化前の固体(すなわち「白色非晶質固体」)の物理的性質は下記の如くであった:
[ ]25+142.1゜[c=1、EtOH];
IR(CH2Cl2)2940、2860、1720、1620、1595、1520、1115、1105、1095、1020cm-1;
1H NMR(CDCl3)8.72(d,1H,J=5Hz)、8.05(広いd,3H,J=8Hz)、7.4(m,5H)、6.7(d,1H,J=8Hz)、4.0(s,3H)、3.48(dd,1H,J=8,15.8Hz)、3.08(dd,1H,J=11,15Hz)、2.69(ddd,1H,J=5,12,15.8Hz)、2.4(dt,1H,J=2.4,15.8Hz)、1.85−1.3(m,8H)、0.87(t,3H,J=Hz)。
C27H29ClN2O3に関する分析、
計算値:C、69.74;H、6.28;Cl、7.62;N、6.02。
実測値:C、69.85;H、6.42;Cl、7.82;N、5.98。
p−クロロ安息香酸ジヒドロキニンの回収
工程は1の回収に関して以上で記されているものと同一であった。
実施例7 「添加」条件下でのトランス−3−ヘキセンの非対称性ジヒドロキシル化用の工程
0.465g(1ミリモル、0.25当量=リットル中0.25M)の4−クロロ安息香酸ジヒドロキニジン(アルドリッヒ、98%)、0.7g(6ミリモル、1.5当量)のN−メチルモルホリンN−オキシド(アルドリッヒ、、97%)、および32リットルの四酸化オスミウム(16モル、4×10-3当量)の4mlのアセトン−水混合物(10:1容量/容量)中0.5Mトルエン溶液からなる0℃の良く撹拌されている混合物に、純粋な0.5ml(0.34g、4ミリモル)のトランス−3−ヘキセン(ウィリー、99.9%)を、注入ポンプにより調節されている気体密封注射器を介してそして注入針の先端を反応混合物中に浸漬しながら、16時間にわたりゆっくり加えた。混合物は不均質から均質に徐々に変化した。添加が完了した後に、生じた透明な橙色溶液を0℃においてさらに1時間撹拌した。固体のメタ亜硫酸水素ナトリウム(Na2S2O5、1.2g)を加え、混合物を5分間撹拌し、次にジクロロメタン(8ml)で希釈し、そして乾燥した(Na2SO4)。固体を濾過により除去し、そしてジクロロメタンで3回洗浄した。一緒にした濾液を濃縮し、そして残存油をシリカゲル(25g、ジエチルエーテル−ジクロロメタン2:3容量/容量を用いる溶離、Rf0.33)フラッシュカラムクロマトグラフィーにかけ、そして適合留分類を集めて、0.30−0.32g(85−92%収率)のヘキサンジオールを与えた。ジオールのエナンチオマー過剰量を誘導されたビス−モッシャーエステルのGLC分析(5%フェニル−メチルシリコーン、0.25mフィルム、0317mm直径、29m長さ)により測定すると70%であった。
上記の反応を4mlのアセトン中の1.2ml(6ミリモル、1.5当量)の60%水性NMO(アルドリッヒ)を用いて繰り返すと、71%のeeが得られた。すなわち、この水性NMOは同等の結果を与え、そしてそれは97%固体等級のものより約20倍安価であった。0.1M(すなわち0.186g)のアルカロイド濃度を用いそして0℃で20時間のオレフィン添加時間を用いると、eeは65%であった。従ってeeの小さい犠牲がアルカロイドにおける大きい節約を生じた。0℃において、トランス−ヘキセンおよびトランス−メチルスチレンの両者が0.20および0.25Mの間のアルカロイド濃度のそれらの最大ee値に達した。
実施例8 Et4NOAc−4H2Oを用いる1−フェニルシクロヘキセンの非対称性ジヒドロキシル化
トランス−スチルベンを1−フェニルシクロヘキセン(1.0M)で置換したこと以外は、実施例1に示されている工程を繰り返した。反応を3日間進行させ、その後に40%だけのジオールへの転化率が得られた(8%ee)。
2当量の酢酸テトラエチルアンモニウム(Et4NOAc−4H2O)を反応の開始時に反応混合物に加えたこと以外は、上記の工程を繰り返した。この工程を用いると52%のeeが得られ、そして反応は約1日で終了した。
実施例9 トルエン中での「相−転移」条件下のトランス−スチルベンの非対称性ジヒドロキシル化
58.2mg(0.125ミリモル、0.25当量)のヒドロキニジンのp−クロロ安息香酸エステル、1mlのトルエン、88mg(0.75ミリモル、1.5当量)のN−メチル−モルホリンN−オキシド、181mg(1ミリモル、2当量)の水酸化テトラメチルアンモニウム五水塩、57μl(2ミリモル、2当量)の酢酸、0.1mlの水、およびOsO4(121mgのOsO4/mlのトルエンを用いて製造された溶液、0.004モル%、0.004当量)からなる良く撹拌されている混合物に室温において、90mg(0.4ミリモル)のトランス−スチルベンのトルエン溶液(1ml)を、注入ポンプにより調節されている気体密封性注射器を用いてそして注入針の先端を反応混合物中に浸漬させて、24時間の期間にわたりゆっくり加えた。添加が完了した後に、10%NaHSO3溶液(2.5ml)を混合物に加え、そして生じた混合物を1時間撹拌した。有機物質を酢酸エチルで抽出し、一緒にした抽出物を食塩水で洗浄し、そしてNa2SO4上で乾燥した。溶媒を減圧下で蒸発させ、そして残存油をシリカゲル(5g、ヘキサン−酢酸エチル、2:1容量/容量で溶離、Rf0.17)上でカラムクロマトグラフィーにかけて、67.3mg(63%)のジオールを与えた。ジオールのエナンチオマー過剰量は誘導されたビス−酢酸エステルのHPLC分析(溶離剤として5%イソプロパノール/ヘキサン混合物を用いるピルクル1Aカラム。保有時間はt1=22.6分間、t2=23.4分間であった)により94%であると測定された。
実施例10 トルエン中での相−転移条件下のトランス−メチル−4−メトキシ桂皮酸エステルの非対称性ジヒドロキシル化
116.3mg(0.25当量)のヒドロキニジンのp−クロロ安息香酸エステル、2mlのトルエン、175.8mg(1.5ミリモル、1.5当量)のN−メチル−モルホリンN−オキシド、522mg(2ミリモル、2当量)の酢酸テトラメチルアンモニウム四水塩、0.2mlの水、およびOsO4(121mgのOsO4/mlのトルエンを用いて製造された溶液、0.004モル%、0.004当量)からなる良く撹拌されている混合物に室温において、192mg(1ミリモル)のトランス−メチル−4−メトキシ桂皮酸エステルのトルエン溶液(1ml)を、注入ポンプにより調節されている気体密封性注入器を用いてそして注入器針の先端を反応混合物中に浸漬させて、24時間の期間にわたりゆっくり加えた。添加が完了した後に、10%NaHSO3溶液(5ml)を混合物に加え、そして生じた混合物を1時間撹拌した。有機物質を酢酸エチルで抽出し、一緒にした抽出物を食塩水で洗浄し、そしてNa2SO4上で乾燥した。溶媒を減圧下で蒸発させ、そして残存油をシリカゲル(10g、ヘキサン−酢酸エチル、2:1容量/容量で溶離、Rf0.09)上でカラムクロマトグラフィーにかけて、118.8mg(53%)のジオールを与えた。ジオールのエナンチオマー過剰量は誘導されたビス−酢酸エステルのHPLC分析(溶離剤として10%イソプロパノール/ヘキサン混合物を用いるピルクル1Aカラム。保有時間はt1=25.9分間、t2=26.7分間であった)により84%であると測定された。
実施例11 ホウ酸の存在下でのトランス−スチルベンの非対称性ジヒドロキシル化
58.2mg(0.125ミリモル、0.25当量)のヒドロキニジンのp−クロロ安息香酸エステル、70mg(0.6ミリモル、1.2当量)のN−メチル−モルホリンN−オキシド、37mg(0.6ミリモル、1.2当量)のホウ酸、0.5mlのジクロロメタン、およびOsO4(121mgのOsO4/mlのトルエンを用いて製造された4.2μlの溶液、0.004モル%、0.004当量)からなる良く撹拌されている混合物に室温において、90mg(0.4ミリモル)のトランス−スチルベンのトルエン溶液(1ml)を、注入ポンプにより調節されている気体密封性注入器を用いてそして注入器針の先端を反応混合物中に浸漬させて、24時間の期間にわたりゆっくり加えた。添加が完了した後に、10%NaHSO3溶液(2.5ml)を混合物に加え、そして生じた混合物を1時間撹拌した。有機物質を酢酸エチルで抽出し、一緒にした抽出物を食塩水で洗浄し、そしてNa2SO4上で乾燥した。溶媒を減圧下で蒸発させ、そして残存油をシリカゲル(5g、ヘキサン−酢酸エチル、2:1容量/容量で溶離、Rf0.17)上でカラムクロマトグラフィーにかけて、78.3mg(73%)のジオールを与えた。ジオールのエナンチオマー過剰量は誘導されたビス−モッシャーエステルの1H NMR分析により94%であると測定された。
実施例12 ホウ酸の存在下でのトランス−4−メトキシ桂皮酸メチルの非対称性ジヒドロキシル化
116.3mg(0.25ミリモル、0.25当量)のヒドロキニジンのp−クロロ安息香酸エステル、175.8mg(1.5ミリモル、1.5当量)のN−メチル−モルホリンN−オキシド、74.4mg(1.2ミリモル、1.2当量)のホウ酸、1mlのジクロロメタン、およびOsO4(121mgのOsO4/mlのトルエンを用いて製造された8.4μlの溶液、0.004モル%、0.004当量)からなる良く撹拌されている混合物に室温において、192mg(1ミリモル)のトランス−メトキシ桂皮酸メチルのジクロロメタン溶液(1ml)を、注入ポンプにより調節されている気体密封性注入器を用いてそして注入針の先端を反応混合物中に浸漬させて、24時間の期間にわたりゆっくり加えた。添加が完了した後に、10%NaHSO3溶液(5ml)を混合物に加え、そして生じた混合物を1時間撹拌した。有機物質を酢酸エチルで抽出し、一緒にした抽出物を食塩水で洗浄し、そしてNa2SO4上で乾燥した。溶媒を減圧下で蒸発させ、そして残存油をシリカゲル(10g、ヘキサン−酢酸エチル、2:1容量/容量で溶離、Rf0.09)上でカラムクロマトグラフィーにかけて、151.1mg(67%)のジオールを与えた。ジオールのエナンチオマー過剰量は誘導されたビス−酢酸エステルのHPLC分析(溶離剤として10%イソプロパノール/ヘキサン混合物を用いるピルクル1Aカラム。保有時間はt1=24.0分間、t2=24.7分間であった)により76%であると測定された。
実施例13 ホウ酸の存在下でのトランス−β−メチルスチレンの非対称性ジヒドロキシル化
58.2mg(0.125ミリモル、0.25当量)のヒドロキニジンのp−クロロ安息香酸エステル、70mg(0.6ミリモル、1.2当量)のN−メチル−モルホリンN−オキシド、72mg(0.6ミリモル、1.2当量)のフェニルホウ酸、0.5mlのジクロロメタン、およびOsO4(121mgのOsO4/mlのトルエンを用いて製造された4.2μlの溶液、0.004モル%、0.004当量)(0.5ml)からなる良く撹拌されている混合物に室温において、65μl(0.5ミリモル)のトランス−メチルスチレンを、注入ポンプにより調節されている気体密封性注入器を用いてそして注入針の先端を反応混合物中に浸漬させて、24時間の期間にわたりゆっくり加えた。添加が完了した後に、10%NaHSO3溶液(2.5ml)を混合物に加え、そして生じた混合物を1時間撹拌した。有機物質を酢酸エチルで抽出し、一緒にした抽出物を食塩水で洗浄し、そしてNa2SO4上で乾燥した。溶媒を減圧下で蒸発させ、そして残存油をシリカゲル(5g、ヘキサン−酢酸エチル、2:1容量/容量で溶離、Rf0.62)上でカラムクロマトグラフィーにかけて、109mg(91%)のフェニルホウ酸エステルを与えた。フェニルホウ酸エステルをアセトン(3ml)および1,3−プロパンジオール(0.5ml)の中に溶解させ、そして生じた混合物を室温で2時間放置した。溶媒を減圧下で蒸発させ、そして残存油をシリカゲル(5g、ヘキサン−酢酸エチル、2:1容量/容量で溶離、Rf0.10)上でカラムクロマトグラフィーにかけて、48.6mg(70%)のジオールを与えた。ジオールのエナンチオマー過剰量は誘導されたビス−アセテートのHPLC分析(溶離剤として0.5%イソプロパノール/ヘキサン混合物を用いるピルクル1Aカラム。保有時間はt1=17.1分間、t2=18.1分間であった)により73%であると測定された。
実施例14 A重合体状アルカロイド配位子を用いるトランス−スチルベンの非対称性ジヒドロキシル化用の一般的方法
アルカロイド共重合体(例えば重合体2−4、表1;加えられたアルカロイドを基にして0.25当量)、NMO(1.5当量)、およびアセトン−水(10/1、容量/容量)中の酢酸テトラエチルアンモニウム四水塩(1.0当量)からなる磁気的に撹拌されている懸濁液に、OsO4(0.01当量)のトルエンまたはアセトニトリル中溶液を加えた。10−30分間撹拌した後に、トランス−スチルベン(1.0当量)を加え、反応混合物を一定時間にわたり撹拌し、そしてシリカゲルTLC(ヘキサン−EtOAc2/1、容量/容量)により監視した。反応混合物中のオレフィンの濃度は0.3−0.4Mであった。反応が完了した後に、混合物をアセトン、水、ヘキサンまたはエーテルで希釈し、そして遠心または濾過して重合体を反応混合物から分離した。次に上澄み液をヤコブセン(Jacobsen)他、ザ・ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・ケミカル・ソサイエテイ(J.Amer.Chem.Soc.)、110;1968(1988)により記されている如くして処理した。
実施例15 A重合体状アルカロイド配位子およびカリウムフェリシアニドを用いるトランス−スチルベンの非対称性ジヒドロキシル化
アルカロイド共重合体(加えられたアルカロイドを基にして0.05ミリモル)、カリウムフェリシアニド(0.198g、0.6ミリモル)、並びにターシャリー−ブタノール(1.5ml)および水(1.5ml)中の炭酸カリウムからなる良く撹拌されている懸濁液に、アセトニトリル中のOsO4溶液(0.0025ミリモル)を加えた。10分間撹拌した後に、トランス−スチルベン(36mg、0.2ミリモル)を加え、反応混合物を一定時間にわたり撹拌し、そしてシリカゲルTLCにより監視した。反応が完了した時に、水(3.0ml)を加え、そして混合物を濾過した。濾液をジクロロメタン(5ml×2)で抽出した。有機層を過剰のメタ亜硫酸水素ナトリウムおよび硫酸ナトリウムを用いて1時間撹拌した。この懸濁液を濾過紙、そして濾液を濃縮して粗製ジオールを与え、それをシリカゲルカラム上で精製した。
実施例16 カリウムフェリシアニドの存在下でのオレフィン類の非対称性ジヒドロキシル化
カリウムフェリシアニドを用いるオレフィン類の非対称性ジヒドロキシル化用の一般的工程
0.465g(1ミリモル、0.5当量=配位子中0.033M)のp−クロロ安息香酸ジヒドロキニジン(アルドリッヒ、98%)、1.980g(6ミリモル、3.0当量)のカリウムフェリシアニド、0.980g(6ミリモル、3.0当量)の炭酸カリウム、および0.5mlの四酸化オスミウム(0.025ミリモル、0.0125当量)の30mlのターシャリー−ブチルアルコール−水混合物(1:1、容量/容量)中の0.05Mターシャリー−ブチルアルコール溶液からなる良く撹拌されている混合物に室温において、オレフィン(2ミリモル)を一度に加えた。反応混合物を室温で24時間撹拌した。固体亜硫酸ナトリウム(Na2SO3、1.5g)を加え、そして混合物をさらに1時間撹拌した。得られた溶液を減圧下で濃縮乾固し、そして残渣を3部分のエーテルで抽出した。一緒にした抽出物を乾燥し(Na2SO4)、そして蒸発させた。残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ジクロロメタン−エーテル)により精製した。
実施例17 9−O−フェニルジヒドロキニジンの製造
ジヒドロキニジン(4.0g)のTHF(40ml)中懸濁液にη−BuLi(ヘキサン中2.5M、4.95ml)を0℃において加えた。氷浴を除去し、そして反応混合物を室温で10分間放置した。生じた黄色溶液に固体の塩化第一銅(1.2g)を加えた。30分間放置した後に、ピリジン(30ml)およびHMPA(1ml)を加えた。5分間撹拌した後に、ヨウ化フェニル(1.37ml)を加え、そして混合物を36時間還流下で撹拌した。生じた混合物に水性NH4OHを加え、そして混合物をエチルエーテルで抽出した。抽出物をMgSO4上で乾燥した。溶媒を減圧下で蒸発させ、残渣をシリカゲル(100g、酢酸エチル−エタノール、9:1容量/容量で溶離、Rf0.23)上でカラムクロマトグラフィーにかけて、1.77g(収率36%)の9−O−フェニルジヒドロキニジンを与えた。
1H NMR(CDCl3)δ8/68(1H,d,J=4.5Hz)、8.08(1H,d,J=9Hz)、7.3−7.5(3H,m)、7.17(2H,t,J=8Hz)、6.89(1H,t,J=8Hz)、6.78(2H,d,J=8Hz)、6.02(1H,d,J=3Hz)、4.00(3H,s)、2.7−3.3(5H,m)、2.2−2.4(1H,m)、1.4−1.9(6H,m)、1.1−1.3(1H,m)、0.97(3H,t,J=7Hz)。
実施例18 9−O−フェニルジヒドロキニジンおよびカリウムフェリシアニドを用いるトランス−3−ヘキセンの非対称性ジヒドロキシル化
46mgの9−O−フェニルジヒドロキニジン、396mgのカリウムフェリシアニド、166mgの炭酸カリウムおよび8μlの四酸化カリウムの6mlのt−ブチルアルコール−水(1:1、容量/容量)中の0.63Mトルエン溶液からなる良く撹拌されている混合物に室温において50μlのトランス−3−ヘキセンを一度に加えた。反応混合物を室温で20時間撹拌した。固体亜硫酸ナトリウムを加え、そして混合物を3時間撹拌した。固体を濾過により除去し、そして濾液をエチルエーテルで抽出した。抽出物をMgSO4上で乾燥した。溶媒を減圧下で蒸発させ、そして残渣をシリカゲル(ヘキサン−酢酸エチル、2:1容量/容量を用いて溶離)上でカラムクロマトグラフィーにかけて40.5mg(収率85%)のジオールを与えた。ジオールのエナンチオマー過剰量は誘導されたビス−モッシャーエステルのGLC分析により83%であると測定された(5%フェニル−メチルシリコーン、0.25mフィルム、0.317mm直径、29m長さ、保有時間はt1=15.6分、t2=16.0分であった)。
実施例19 N−クロロ−N−ソディオ−t−ブチルカルバメートを用いるトランス−スチルベンの非対称性オキシアミノ化
81mgのトランス−スチルベン、122mgのN−クロロ−N−ソディオ−t−ブチルカルバメート、95mgの塩化水銀2、209mgのp−クロロ安息香酸ジヒドロキニジンおよび370μlの水アセトニトリル(5ml)からなる良く撹拌されている混合物に9μlの四酸化オスミウムの0.5Mトルエン溶液を加えた。混合物を室温において一夜撹拌した。固体亜硫酸ナトリウムおよび水を加え、固体混合物を60℃において1時間撹拌した。混合物をジクロロメタンで抽出し、そして抽出物をMgSO4の上で乾燥した。溶媒を減圧下で蒸発させ、そして残渣をシリカゲル(ヘキサン−酢酸エチル、4:1容量/容量を用いて溶離、Rf0.13)上でカラムクロマトグラフィーにかけて131mg(収率93%)のジオールを与えた。アミノアルコールのエナンチオマー過剰量は誘導されたビス−モッシャーエステルのHPLC分析(溶離剤として10%イソプロパノール/ヘキサン混合物を用いるピルクル・コバレント・フェニル・グリシン・カラム、保有時間はt1=12.7分、t2=15.2分)により65%であると測定された。
1H NMR(CDCl3)δ7.1−7.4(10H,m)、5.3−5.4(1H,m)、4.95(1H,d,J=3.5Hz)、4.8−5.0(1H,m)、2.6−2.7(1H,m)、1.34(9H,)。
実施例20 複素環式キラル配位子を用いる非対称性ジヒドロキシル化配位子の製造および性質
1a:DHQD(48.9g、0.15モル)の乾燥DMSO(600ml)中の室温の懸濁液に、NaH(4.0g、0.17ミリモル)、ピリジン(12.1ml、0.15モル)、CuI(28.6g、0.15モル)、および次にヨウ化9−フェナンスリル(45.6g、0.15モル)をアルゴン下で加えた。120℃における70時間の反応後に、1aが73%収率(55.0g)で得られた。リンドレイ(Lindley)、ジャーナル・オブ・テトラヘドロン(J.Tetrahedron)、1984、40、1433およびその中の参考文献も参照のこと。
融点98−100℃。1H NMR(250MHz、CDCl3):δ=8.7(m,1)、8.07(d,1)、7.57(d,1)、7.4(m,6)、6.63(s,1)、6.63(d,1)、4.03(s,3)、3.38(m,1)、3.16(m,1)、2.97(m,2),2.78(m,1)、2.55(s,広い,1)、2.39(t,1)、1.81(s,1)、1.6(m,6)、0.98(t,3)。
13C NMR(75MHz、CDCI3):δ=158.2、150.4、147.5、144.6、143.7、132.3、132.0、131.5、127.4、127.2、126.7、126.6、126.4、124.5、122.8、122.2、121.9、118.1、104.8、100.9、78.8、60.3、55.8、51.0、50.1、37.4、27.1、26.6、25.2、21.7、11.8。
IR(KBr):υ=1622、1508、1452および1227cm-1
[α]D23=−281.3(CHCI3、c=1.12gml-1)。
1b:室温のDHQD(65.2g、0.20モル)のDMF(300ml)中懸濁液にNaH(6.06g、0.24モル)を加え、その後2−クロロ−4−メチルキノリン(42.6g、0.24モル)を加えた。室温において24時間撹拌した後に、2aが82%の収率(76.3g)で得られた。
融点151−153℃。1H NMR(250MHz、CDCl3):δ=0.93(3H,t,J=7.2Hz)、1.4−1.7(6H,m)、1.76(1H,s)、2.12(1H,t,J=10.0Hz)、2.61(3H,s)、2.7−3.0(4H,H)、3.43(1H,dd,J=6.4,8.8Hz)、3.94(3H,s、6.82(1H,s)、7.2−7.6(6H,m)、7.73(1H,d,J=2.5Hz)、7.81(1H,d,J=8.0Hz)、7.98(1H,d,J=9.2Hz)、8.67(1H,d,J=4.6Hz)。
13C NMR(CDCI3):δ=11.8、18.4、22.9、25.8、27.1、37.2、49.8、50.6、55.4、59.2、73.1、101.7、112.5、118.5、121.4、123.3、123.7、125.2、127.5、129.0、131.3、144.5、145.8、147.3、157.4、160.4。
IR(KBr):1608、1573、1508、1466、1228、1182、1039、848、758cm-1
[α]D21=−194.7゜(EtOH、c=1.0)。
2aおよび2bは同様な方法で合成することができた。p−クロロ安息香酸エステル誘導体類と同様にして、これらの2種の新規な型の配位子は現在アルドリッヒから入手可能である。
触媒性ADH(ビニルシクロオクタン)用の典型的工程
DHQD−PHN1a(100mg、0.2ミリモル、0.02当量)、K3Fe(CN)(9.88g、30ミリモル、3当量)およびK2CO3(4.15g、30ミリモル、3当量)のターシャリー−BuOH−H2O混合物(100ml、1/1、容量/容量)中の良く撹拌されている混合物にオスミン酸カリウム(IV)二水塩(7.4mg、0.02ミリモル、0.002当量)を加えた。生じた黄色溶液を0℃に冷却し、そしてビニルシクロオクタン(1.65ml、10ミリモル)を加えた。反応混合物を0℃において18時間撹拌した。Na2SO3(7.5g)を加え、そして生じた混合物を30分間撹拌した。二相を分離し、そして次に水相をCH2Cl2で抽出した。一緒にした有機溶液を蒸発させ、そして残渣を酢酸エチルで希釈し、1M H2SO4、水性NaHCO3および食塩水で洗浄し、そして乾燥した。濃縮しそしてフラッシュクロマトグラフィーにかけると、1.63g(95%)のシクロオクチルエタンジオールを無色の油状で与えた。[α]D22=−4.1゜(EtOH、c=1.0)。ジオールのeeは誘導されたビス−MTPAのHPLC分析により93%であると測定された。酸性の水性洗浄液をNa2CO3を用いてpH11に調節し、CH2Cl2で抽出することにより、アルカロイド配位子を82%の収率で回収した。
実施例21 9−O−フェナンスリルおよび9−O−ナフチルジヒドロキニジン配位子を用いるオレフィン類の非対称性ジヒドロキシル化
この実施例は9−O−アリールDHQD配位子のエナンチオ選択性−配位子構造を記しており、これらの新規配位子の利点を説明するものである。
9−O−アリールDHQDを用いる種々のオレフィン類の接触ADH反応で得られたエナンチオマー過剰量を表13にまとめてある。下記の如くして、これらの9−O−アリールDHQD配位子は商業的に入手可能なヒドロキニジン、NaH、CuI、および対応するアリールハライドから一段階で中程度ないし良好な収率(52−70%)で容易に製造することができた。DHQDρ−クロロ安息香酸エステル1と比べて、9−O−フェニルDHQD2は明らかに芳香族オレフィン類用ではなく脂肪族オレフィン類用のより良好な配位子である。それとは対照的に、9−O−ナフチル3および特に9−O−フェナンスリルDHQD4は芳香族および脂肪族オレフィン類の両者に関するはるかに高いエナンチオ選択性を示した。



ADH中の配位子構造とエナンチオ選択性の間の関係に関する情報を得るために、種々の9−O−置換されたDHQD誘導体類を次に試験した。これらのDHQD誘導体類の9−O−置換基の構造並びに典型的な脂肪族および芳香族オレフィン類、トランス−5−デセンおよびトランス−スチルベンに関するそれらのエナンチオ選択性を表14に示す。表14中の各構造は反応中間生成物であるオスミン酸エステル中のそれの予期される空間的配向と共に描かれているため、比較的大きい立体障害6−メトキシキノリン部分は構造11の左側上にある。
群Aでは、右側(1、3および4)上に第二のベンゼン環を有する誘導体類は全て、スチルベン(99%)に関しては第二のベンゼン関(94%)なしのもの(2)より高いeeを与えた。さらに、ナフチル誘導体(3)はデセン(94%)に関してはフェニル誘導体(2)(88%)より高いeeを与えた。これらの2種の結果は、右側にあるベンゼン環が脂肪族および芳香族オレフィン類の両者を有する高いエナンチオ選択性に関して重要であることを示唆している。一方、誘導体類(2−4)はデセン(88−96%)に関しては、p−クロロ安息香酸エステル誘導体(1)(79%)が脂肪族オレフィン類に関して左側上の芳香族環の重要性を示すよりはるかに高いeeを与えた。
次に、フェニル誘導体類のo−位置を試験した(2、5−7、群B)。フェニル−誘導体(2)および2−メチルフェニル誘導体(6)はデセン(88、91%)に関しては相当高いeeを与えるが、2−ピリジル(5)および2−メチルフェニル(7)誘導体類(71、50%)は満足のいくエナンチオ選択性を与えない。これは、フェニル誘導体の左のo−位置が高いエナンチオ選択性に関してC−Hである必要があることを示している。m−およびp−位置における影響は、群CおよびDの誘導体類を比較することにより、理解することができる。これらの結果は、m−およびp−位置の両者が脂肪族オレフィン類を有する高いeeに関してはC−Hであるかそれより大きいことが必要であると示している。



9−O−アリールDHQD(3)および(4)の合成に関する工程
100mlの3首丸底フラスコ中に、2.00g(6.12ミリモル)のジヒドロキニジン(註:全ての試薬類の添加および反応はアルゴン下で行われた)および0.160g(6.73ミリモル)のNaHを20mlのジメチルスルホキシド中に溶解させた。約10分間撹拌した後に、反応混合物は透明な橙黄色の溶液になり始めた。この時点で、1.17g(6.12ミリモル)のヨウ化銅(I)および0.50ml(6.12ミリモル)のピリジンおよびそれぞれ6.12ミリモルのヨウ化1−ナフチルまたは臭化フェナンスリルを加え、そして反応混合物を120℃に3日間加熱した。次に反応混合物を自然に室温に冷却し、そしてジクロロメタン(30ml)および水(30ml)を加えた。次に、10mlの濃水酸化アンモニウムを反応混合物にゆっくり加えた。15分間撹拌した後に、二相を分離した。水相をジクロロメタン(20ml)で2回抽出した。有機相を一緒にし、水(10ml)で洗浄し、そして蒸発させた。生成した残渣を次にカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶離用溶媒として5%メタノール/酢酸エチルを使用)により精製して、それぞれ9−O−ナフチルDHQD(3)(収率:70%)または9−O−フェナンスリルDHQD(4)(収率:52%)のわずかに黄色の結晶を生じた。
(3):融点75−77℃。
1H NMR(250MHz、CDCI3):δ=8.60(dd,2)、8.05(dd,1)、7.80(d,1)、7.4(m,5)、7.07(t,1)、6.42(d,1)、6.24(d,1)、3.99(s,3)、3.31(dt,1)、3.17(dd,1)、2.92(dd,2)、2.78(m,1)、2.37(m,2)、1.79(s,広い,1)、1.6(m,6)、0.96(t,3)。
13C NMR(75MHz、CDCI3):δ=158.2、150.4、147.5、132.3、132.0、131.5、127.4、127.2、126.6、126.4、124.5、122.8、122.2、121.9、118.1、104.8、100.9、78.8、60.3、55.8、51.0、50.1、37.4、27.1、26.6、25.2、21.7、11.8。
IR(KBr):v=1622、1508、1452および1227cm-1
[α]D23=−281.3(CHCI3、c=1.12gml-1)。
9−O−アリールDHQD(3)および(4)はウルマンフェニルエーテル合成に従い製造された:リンデイ、ジャーナル・オブ・テトラヘドロン、40:1433(1984)およびその中の参考文献。全てのこれらの9−O−置換されたDHQD誘導体類(5)、(9)および(10)はヨウ化銅(I)以外は室温で合成された。
実施例22 ジヒドロキニンアリールエーテル類を用いるオレフィン類の非対称性ジヒドロキシル化
配位子として9−O−アリールジヒドロキニン類を用いる広範囲のオレフィン類の非対称性ジヒドロキシル化において高水準の非対称性誘導が得られた。(B.ローレイ(Lohray)他、テトラヘドロン・レタース(Tetrahedron Lett.)、30:2041(1989))
触媒量の四酸化オスミウムおよびキナアルカロイド誘導体類を用いる非対称性ジヒドロキシル化は、広範囲の基質に関する高水準のエナンチオ選択性、良好ないし優れた収率、簡単で且つ穏やかな実験条件を組み合わせた反応の数例の1種である。強調すべき他の点は、必要なキナアルカロイド類の入手性である。ジオールの2種のエナンチオマー類はジヒドロキニン(DHQ)またはジヒドロキニジン(DHQD)誘導体類を選択して得れらる。



化学量論的酸化剤としてカリウムフェリシアニドをそしてジヒドロキニジンおよびおよびキニンの新規なアリールおよびヘテロ芳香族誘導体類を用いる我々のグループでの最近の開発により、多種類の基質に関する良好ないし優れた収率およびエナンチオ選択性を得ることができた。(H.L.オン(Kwong)他、テトラヘドロン・レタース(Tetrahedron Lett.)、31:2999、M.ミナト(Minato)他、ザ・ジャーナル・オブ・ザ・オーガニック・ケミストリイ(J.Org.Chem.)、55:766(1990)、T.シバタ(Shibata)他、テトラヘドロン・レタース(Tetrahedron Lett.)、31:3817(1990))。この実施例では、我々は9−O−アリールジヒドロキニン類2a−4aに関する詳細事項を報告する。
ジヒドロキニンおよびジヒドロキニジン誘導体類に関する傾向は非常に似ていた(表15参照)。ジヒドロキニジン系中の如く、DHQフェナンスリルエーテル誘導体4aは広範囲の基質に関しては1aより非常に優れていた。例えば5−デセン(番号1)の如きトランスジ置換脂肪族オレフィン類並びに末端飽和オレフィン類(番号6および7)およびアルキル置換α,β不飽和カルボニル化合物(番号3)に関して、改良は特に劇的であった。芳香族オレフィン類(番号4および5)の場合に観察された変化はわずかであった。



2種の指定されている反応以外の全ては室温において行われた。全ての場合、単離された収率は70−95%であった。エナンチオマー過剰量は誘導されたビス−モッシャーエステル類のGCまたはHPLC分析により測定された。
ジヒドロキニジン誘導体類を用いて観察された差とは異なり、ナフチル−DHQとフェナンスリル−DHQの間のエナンチオ選択性における差は意義あるものであった(△ee=室温において2−10%、DHQD誘導体に関して1−4%)。4aおよび4bを用いて得られた選択性の差は表12中の全ての実施例に関しては非常に小さくそしてその結果ジオールのエナンチオマー類はほとんど同じ光学的純度で得られるということが特に価値がある。
反応は0℃において成功裡に行うことができ、特に末端オレフィン類(番号1、3および7)に関するエナンチオ選択性の意義ある改良が得られた。
結論として、我々は多種のオレフィン基質から近接ジオール類を優れた収率で得ることができて、ジヒドロキニンまたはジヒドロキニジンを用いて良好ないし優れたエナンチオマー過剰量で得ることができる。
実施例23 メチルフェニルカルバモイルジヒドロキニジン(MPC−DHQD)の合成
窒素雰囲気下で3首100ml丸底フラスコフラスコ中でジヒドロキニジン(1.4g、4.3ミリモル、1当量)を15mlのCH2Cl2中に溶解させた。室温において、2mlのトリエチルアミン(14.4ミリモル、3.3当量)を溶液に加え、そして30分間撹拌した。塩化N−メチル−N−フェニルカルバモイル(1.6g、9.4ミリモル、2.2当量)を6mlのCH2Cl2中に溶解させ、そして反応混合物に添加漏斗を介して滴々添加した。反応混合物をN2下で3日間撹拌し、その後、反応は終結した。50mlの2N NaOHを加え、そして相を分離した。CH2Cl2相を貯蔵し、そして水相を50mlのCH2Cl2で抽出した。CH2Cl2相を一緒にし、そしてMgSO4上で乾燥し、その後、濃縮してゴム状のピンク色物質を与えた。フラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル、95.5EtOAc/Et3N、容量/容量)による精製で黄色の物質を与え、それを次にCH3CNから結晶化させて白色の星状結晶を得た(1.27g、65%収率)。
特性:
融点119−120℃。高分解能質量スペクトル:計算された分子質量−459.25217amu、実測値−459.2519amu。
1H NMR(300MHz、TMSを有するCDCl3);8.7δ(d,1H)、8.0δ(d,1H)、7.2−7.4δ(m,7H)、6.4δ(d,1H)、3.8δ(s,3H)、3.3δ(s,3H)、3.1δ(1H)、2.8δ(q,1H)、2.6δ(m,3H)、1.7δ(s,2H)、1.3−1.4δ(m,7H)、0.9δ(t,3H)。
13C NMR(75MHz、TMSを有するCDCl3)12.1δ、23.9δ、25.3δ、26.2δ、27.3δ、37.5δ、38.2δ、49.8δ、50.7δ、55.5δ、59.7δ、75.6δ、101.8δ、119.1δ、121.8δ、126.3δ、126.7δ、127.3δ、129.1δ、131.7δ、143.1δ、144.7δ、144.9δ、147.5δ、152.1δ、154.8δ、157.7δ。
実施例24 9−O−カルバモイルジヒドロキニジン配位子を用いるオレフィン類の非対称性ジヒドロキシル化
接触ADHA(シス−β−メチルスチレン)に関する典型的工程:
DHQD−MPC(メチルフェニルカルバミン酸ジヒドロキニジン)(10mg、0.02ミリモル、0.10当量)、K3Fe(CN)(200mg、0.6ミリモル、3当量)、K2CO3(85mg、0.5ミリモル、3当量)のターシャリー−ブタノール/水溶液(6ml、1/1、容量/容量)中の良く撹拌されている溶液に、四酸化オスミウムのアセトニトリル溶液(0.5M、4μl、0.01当量)を室温において加えた。10分間撹拌した後に、シス−β−メチルスチレン(26μl、0.2ミリモル)を加えた。反応混合物を室温で撹拌し、そして反応の進行を薄層クロマトグラフィーにより監視した。反応の完了時に(2時間以内)、相を分離した。水相をCH2Cl2で抽出した。ターシャリー−ブタノールおよびCH2Cl2留分類を一緒にし、そして過剰量のメタ亜硫酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムと共に1時間撹拌した。濃縮しそしてフラッシュクロマトグラフィーにかけると、ジオール(24.4mg、82%収率)を灰白色の固体状で与えた。ジオールのエナンチオマー過剰量(ee)をビス−MPTAエステル誘導体のGC分析により測定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:



のジヒドロキニジン誘導体または
式:



のジヒドロキニン誘導体、
上記各式中、Rはフェニルカルバモイル、メチルフェニルカルバモイルまたはジフェニルカルバモイルである。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【特許番号】特許第3550397号(P3550397)
【登録日】平成16年4月30日(2004.4.30)
【発行日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−500136
【出願日】平成4年5月8日(1992.5.8)
【公表番号】特表平6−500344
【公表日】平成6年1月13日(1994.1.13)
【国際出願番号】PCT/US1992/003940
【国際公開番号】WO1992/020677
【国際公開日】平成4年11月26日(1992.11.26)
【審査請求日】平成11年5月7日(1999.5.7)
【出願人】(591275056)マサチユセツツ・インスチチユート・オブ・テクノロジイ (9)
【氏名又は名称原語表記】MASSACHUSETTS INSTITUTE OF TECHNOLOGY
【参考文献】
【文献】特表平05−509297(JP,A)
【文献】特表平05−509297(JP,A)
【文献】米国特許第04420568(US,A)
【文献】国際公開第89/006225(WO,A1)
【文献】特表平05−509297(JP,A)
【文献】特表平05−509297(JP,A)
【文献】米国特許第04420568(US,A)
【文献】国際公開第89/006225(WO,A1)
【文献】J. Org. Chem., Vol.49 (1984),pp.4930−4943
【文献】Clin. Chem., Vol.33, No.4 (1987), pp.463−467
【文献】Tetrahedron Lett., Vol.31, No.21 (1990), pp.3003−3
【文献】Tetrahedron Lett., Vol.30, No.16 (1989), pp.2041−2
【文献】Bull.Soc.Chim.Belg.,94(11−12),p.759−769
【文献】J. Org. Chem., Vol.49 (1984),pp.4930−4943
【文献】Clin. Chem., Vol.33, No.4 (1987), pp.463−467
【文献】Tetrahedron Lett., Vol.31, No.21 (1990), pp.3003−3
【文献】Tetrahedron Lett., Vol.30, No.16 (1989), pp.2041−2