説明

複色不定形着色粒子とこれを含有する多彩模様塗料組成物

【課題】塗膜に優れた意匠性と立体感があるような深みを付与できる複色不定形着色粒子および該複色不定形着色粒子を含有する多彩模様塗料組成物の提供。
【解決手段】複数の不定形物11a,11bからなり、少なくとも一組の不定形物11a,11bの間で、L*a*b*表色系によるL*の差(ΔL*)が8〜50である複色不定形着色粒子と、これを含有する多彩模様塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複色不定形着色粒子と、該複色不定形着色粒子を含有する多彩模様塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
多彩模様塗料は、一回の塗装で2色以上の多彩な模様を有する塗膜を形成できる塗料であり、主に外壁や内壁などの建築物等の塗装に用いられることが多い。多彩模様塗料としては、例えばゲル化膜でカプセル化した単色系の着色粒子を分散媒中に2色以上分散させた多彩模様塗料が提案されている。
しかし、単色系の着色粒子を2色以上含む多彩模様塗料より形成される塗膜は、必ずしも意匠性を十分に満足するものではなかった。
【0003】
そこで、意匠性を考慮した多彩模様塗料として、例えば特許文献1には、平均粒子径が0.2〜2.0mmである大粉粒体を2色以上含むエマルション塗料をゲル化膜でカプセル化した多彩着色粒子を含有する水性多彩塗料組成物が開示されている。
また、特許文献2には、屈折率1.4〜1.7の体質顔料を含む塗料中に、少なくとも1種の扁平状着色ゲル粒子が分散した水中水型多彩模様塗料組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−132747号公報
【特許文献2】特開2005−15645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の水性多色塗料組成物の場合、特定の大粉粒子を2色以上含むことで複雑で多彩な色合いを有する塗膜は形成できるものの、立体感があるような深みのある多彩模様塗膜の形成は容易でない。
一方、特許文献2に記載の水中水型多彩模様塗料組成物の場合、特定の体質顔料を含むことで鮮映性に優れた艶消し塗膜は形成できるものの、意匠性に優れ、立体感があるような深みのある多彩模様塗膜は形成できない。
【0006】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、塗膜に優れた意匠性と立体感があるような深みを付与できる複色不定形着色粒子および該複色不定形着色粒子を含有する多彩模様塗料組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の複色不定形着色粒子は、複数の不定形物からなり、少なくとも一組の不定形物の間で、L*a*b*表色系によるL*の差(ΔL*)が8〜50であることを特徴とする。
各不定形物は、L*a*b*表色系によるa*が−2以上2以下であり、かつ、b*が−3以上3以下であることが好ましい。
本発明の多彩模様塗料組成物は、前記複色不定形着色粒子を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、塗膜に優れた意匠性と立体感があるような深みを付与できる複色不定形着色粒子および多彩模様塗料組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の複色不定形着色粒子の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の複色不定形着色粒子の製造に用いられるノズルの一例を示す図であり、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【図3】図2に示すノズルを用いた複色不定形着色粒子の製造方法を説明する図である。
【図4】他の例のノズルを用いた複色不定形着色粒子の製造方法を説明する図であり、(a)はノズルの吐出口同士が接している状態であり、(b)はノズルの吐出口同士が接していない状態である。
【図5】他の例のノズルを用いた複色不定形着色粒子の製造方法を説明する図であり、(a)はノズルの吐出口が分散媒に浸かっていない状態であり、(b)はノズルの吐出口が分散媒に浸かっている状態である。
【図6】3本のノズルを用いた場合のその配置を説明する図であり、(a)は図2に示すノズルを3本用いた場合の底面図であり、(b)は図4に示すノズルを3本用いた場合の底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[複色不定形着色粒子]
図1は、本発明の複色不定形着色粒子の一例を示す模式図である。この例の複色不定形着色粒子10は、色の異なる複数(この例では2つ。)の不定形物11a,11bからなり、一方の不定形物11aと他方の不定形物11bとのL*a*b*表色系によるL*の差(ΔL*)が8〜50である。
【0011】
ここで「L*a*b*表色系」とは、JIS Z 8729に規定される色の表示方法であり、L*、a*、b*の各値は、市販の色差計により測定される。
また、本発明において、不定形物についてのL*、a*、b*の各値は、該不定形物を形成するために用いられるエマルション塗料から塗膜を形成し、その塗膜について色差計で測定された値である。
なお、色差の測定は、その塗料の隠蔽膜厚で塗装された試料によって測定される。本発明における「隠蔽膜厚」とは、JIS K 5600−4−1に規定の隠ぺい率試験紙の被塗面に目的とする塗料を塗装し、その塗膜をとおして、白黒模様が目視できない最少膜厚のことである。
【0012】
ここで、「不定形」とは、圧力等の変化によって形状が容易に変化することを意味し、例えばゲル状などが挙げられる。
以下、複色不定形着色粒子10がゲル状着色粒子の場合を例にとり、具体的に説明する。
【0013】
複色不定形着色粒子10は、例えば樹脂エマルションと、親水性コロイド形成物質と、着色顔料とを含有するエマルション塗料を2種類用意し、これらエマルション塗料を接触させた状態で、ゲル化剤を含む分散媒に分散させることにより得られる。
【0014】
<エマルション塗料>
(樹脂エマルション)
樹脂エマルションとしては、例えばポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル、ベオバ(分岐脂肪酸ビニルエステル)、天然又は合成ゴムや、それらの共重合体のエマルションなど、一般に市販されている樹脂エマルションを使用することができる。中でも、アクリル樹脂が好ましい。
【0015】
(親水性コロイド形成物質)
エマルション塗料が親水性コロイド形成物質を含有することにより、該親水性コロイド形成物質と後述するゲル化剤とが反応してエマルション塗料をカプセル化することができる。
親水性コロイド形成物質としては、例えばセルロース誘導体;ポリチレンオキサイド;ポリビニルアルコール;カゼイン、デンプン、ガラクトマンノン、グアルゴム、ローカストビーンゴムなどの天然高分子などを含有する水溶液が挙げられる。中でもグアルゴムの水溶液が好ましく、水溶液の濃度は0.5〜5質量%が好ましく、より好ましくは1.0〜3質量%である。
親水性コロイド形成物質は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
親水性コロイド形成物質の含有量(固形分換算)は、樹脂エマルション100質量部に対して、0.05〜5質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜3.0質量部である。
親水性コロイド形成物質の含有量を上記範囲内とすることにより、安定したゲル化膜が得られる。
【0017】
(着色顔料)
着色顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、クロム酸鉛、カドミウムイエロー、カドミウムレッドなどの無機顔料、パール顔料、マイカ顔料、マイカコーティングパール顔料、アルミニウム粉、ステンレス粉などの光輝性顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドンレッドなどの有機顔料が挙げられる。
着色顔料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
エマルション塗料中の着色顔料の含有量は、樹脂エマルション100質量部に対して、15〜40質量部とするのが好ましく、より好ましくは20〜35質量部である。
【0019】
(任意成分)
エマルション塗料には、必要に応じて体質顔料が任意成分として含まれてもよい。
体質顔料としては、カオリン、硫酸バリウム、含水ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどが挙げられる。
体質顔料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
体質顔料の含有量は、エマルション塗料100質量%中、0〜30質量%が好ましく、より好ましくは0〜20質量%である。
また、エマルション塗料には、着色顔料を分散させるアニオン性高分子分散剤などの分散剤が含まれていてもよい。
【0020】
(エマルション塗料の調製)
エマルション塗料は、上記樹脂エマルションに親水性コロイド形成物質を加え撹拌混合した液に、着色顔料と水との混合液を加えさらに撹拌混合して得られる。任意成分を用いる場合には、これら2種の液のうち、どちらかの液に添加すればよい。
水の含有量は、エマルション塗料100質量%、40〜90質量%が好ましく、より好ましくは50〜80質量%である。
【0021】
<分散媒>
分散媒は、ゲル化剤を含む水溶液と、体質顔料を含む分散液と、水溶性高分子化合物を含む水溶液とを撹拌混合したものに、水を加え希釈することにより得られる。
水の含有量は、分散媒100質量%中、20〜80質量%が好ましく、より好ましくは30〜70質量%である。
【0022】
(ゲル化剤)
ゲル化剤としては、例えばマグネシウムモンモリロナイト粘土、ナトリウムペンタクロロフェノール、ホウ酸塩、タンニン酸、乳酸チタン、塩化カルシウムなどを含有する水溶液が挙げられる。中でもホウ酸塩の水溶液が好ましく、水溶液の濃度は0.05〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜8質量%である。
ゲル化剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
ゲル化剤の含有量(固形分換算)は、分散媒100質量%中、0.05〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜3質量%である。ゲル化剤の含有量を上記範囲内とすることにより、安定したゲル化膜が得られる。
【0024】
(任意成分)
分散媒には、必要に応じて体質顔料や水溶性高分子化合物が任意成分として含まれてもよい。
体質顔料としては、例えばカオリン、硫酸バリウム、含水ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどを含有する分散液が挙げられる。中でも含水ケイ酸マグネシウムの分散液が好ましく、分散液の濃度は0.05〜20質量%が好ましく、より好ましくは2〜10質量%である。
体質顔料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
体質顔料の含有量(固形分換算)は、分散媒100質量%中、0.05〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜5質量%である。
【0025】
水溶性高分子化合物としては、例えばヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコールなどを含有する水溶液が挙げられる。中でもカルボキシメチルセルロースの水溶液が好ましく、水溶液の濃度は0.1〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜3質量%である。
水溶性高分子化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
水溶性高分子化合物(固形分換算)の含有量は、分散媒100質量%中、0.05〜3質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜2質量%である。
【0026】
<複色不定形着色粒子の製造>
複色不定形着色粒子10は、色の異なる複数種のエマルション塗料を接触させた状態で、撹拌している分散媒に投入し、分散媒中で分散(細分化)させることにより形成される。
2種類のエマルション塗料を用いる場合には、具体的には、図2(a)、(b)に示すような、吐出口21の先端が斜めに切断されたノズル20を2本用い、図3に示すように2本のノズル20a,20bの吐出口21a,21bの切断面が向き合うように、ノズル20a,20bを束ねる。そして、分散媒31が入った分散槽30の上方において、各ノズル20a,20bから1種類ずつエマルション塗料を吐出させ、これらエマルション塗料が接触した状態で分散媒31に投入する。なお、分散媒31は、ディソルバなどの分散機(図示略)で撹拌させておく。
【0027】
ここで2種類のエマルション塗料は、各エマルション塗料を塗膜化し、得られた塗膜について測定されたL*の差(ΔL*)が8〜50の範囲内となるように選択される。
【0028】
上述のように、エマルション塗料が互いに接触した状態で分散媒31に投入されると、各エマルション塗料が接触した状態で、エマルション塗料に含まれる親水性コロイド形成物質と、分散媒に含まれるゲル化剤とが作用して形成される三次元的網状組織の中に、エマルション塗料が個々に閉じ込められる。さらにこれが細分化されることにより、図1に示すような、ゲル化膜でカプセル化した不定形物(ゲル状物)11a,11bからなる複色不定形着色粒子(複色ゲル状着色粒子)10が形成される。各不定形物11a,11bは、接触した2種類のエマルション塗料に基いてそれぞれ形成されたものである。
【0029】
ノズル20の吐出口21は、図3に示すように切断面が向き合うように2本のノズル20a,20bを束ねたときの、切断面同士のなす角θ1が45〜120°になるように切断されるのが好ましく、より好ましくは60〜90°である。角θ1が45°以上であれば、吐出口21a,21bから吐出する各エマルション塗料の吐出量を十分な量に設定できる。一方、角θ1が120°以下であれば、吐出するエマルション塗料同士が接触しやすくなり、接触した状態で分散媒31に容易に投入できる。
【0030】
図3に示す2本のノズル20a,20bは切断角度が同じであるが、角θ1が上記範囲内であれば、切断角度は同じでなくてもよい。切断角度の異なる2本のノズル20a,20bを用いれば、不定形物の割合が異なる複色不定形着色粒子が得られる。
なお、各エマルション塗料の吐出流量や吐出流速に差をつければ、図3に示すように2本のノズル20a,20bの切断角度が同じ場合でも、不定形物の割合が異なる複色不定形着色粒子が得られる。
【0031】
2本のノズル20a,20bは、これらの吐出口21a,21bの接点22から分散媒31の水面32までの距離d1が10cm以下となる位置に設置されるのが好ましく、より好ましくは5cm以下である。距離d1が10cm以下であれば、接触した2種類のエマルション塗料が混ざり合う前に分散媒31に投入できる。エマルション塗料が混ざり合った状態で分散媒に投入されると、得られる不定形着色粒子が、2種類のエマルション塗料が混ざってできる色合いの単色不定形着色粒子となってしまう可能性がある。
【0032】
このようにエマルション塗料をゲル化膜でカプセル化することにより、複色不定形着色粒子が分散媒中で安定して分散することができる。なお、分散媒中で生成した複色不定形着色粒子は、通常、分散媒に分散した状態のまま、すなわち、複色不定形着色粒子が分散媒中に分散した「着色粒子分散体」の状態で、多彩模様塗料組成物に使用される。従って、エマルション塗料と分散媒の割合は、分散媒に投入される全エマルション塗料の合計を100質量部としたとき、分散媒の量が100〜500質量部であることが好ましく、より好ましくは150〜400質量部である。エマルション塗料と分散媒に割合を上記範囲内とすることにより、形状が均一なカプセル化された複色不定形着色粒子が形成される。
【0033】
このような複色不定形着色粒子は、色の異なる複数の不定形物からなり、任意の不定形物と、他の不定形物とのL*a*b*表色系によるL*の差(ΔL*)がいずれも8〜50であるため、個々の複色不定形着色粒子に深い陰影ができたように見える。従って、塗膜に対して、優れた意匠性と共に、立体感(奥行き感)があるような深みを付与できる。好ましいΔL*は15〜40であり、より好ましいΔL*は20〜30である。ΔL*が、上記範囲の下限値未満や上限値を超える場合、意匠性が低下し、立体感があるような深みも得られにくい。具体的には、陰影が認識されにくくなり、深みが感じられなくなる。また、単色不定形着色粒子の場合は陰影ができたように見えにくく、塗膜に立体感があるような深みを付与するのは容易でない。
【0034】
さらに、複色不定形着色粒子を構成する各不定形物は、いずれもが、L*a*b*表色系によるa*が−2以上2以下であり、かつ、b*が−3以上3以下であることが好ましい。各不定形物がこのような範囲内であると、明度(L*)だけでなく、色彩においても近似の色となるため、より確実に陰影ができたように感じられることとなる。
【0035】
なお、複色不定形着色粒子が、上述の例のように、色の異なる2種類の不定形物(i)および不定形物(ii)からなる場合には、不定形物(i)と不定形物(ii)のそれぞれについてのL*の値からΔL*を求め、この値ΔL*が8〜50であればよい。また、複色不定形着色粒子が、色の異なる3種類の不定形物(i)、不定形物(ii)、不定形物(iii)からなる場合には、不定形物(i)と不定形物(ii)、不定形物(ii)と不定形物(iii)、不定形物(iii)と不定形物(i)の3つの組み合わせのうちの少なくとも一組について、求められたΔL*の値が8〜50であればよい。好ましくは、3つの組み合わせの全てについて、求められたΔL*の値が8〜50である態様である。このように本発明においては、複色不定形着色粒子に含まれる複数種の不定形物のうち、少なくとも一組の不定形物(少なくとも2つの不定形物。)の間のL*a*b*表色系によるL*の差(ΔL*)が8〜50であればよいが、好ましくは、任意に選択された不定形物は、他の全ての不定形物との間で、ΔL*が8〜50であるという関係を満足することである。
【0036】
また、用いる複数種のエマルション塗料のそれぞれの量は、これらの合計質量を100質量%とした際に、少なくとも20質量%以上であることが好ましい。各エマルション塗料の量が20質量%以上であると、形成される塗膜の意匠性がより向上する。
【0037】
このようにして形成された複色不定形着色粒子は水分を多く含み、柔らかい粒子である。粒子径は、エマルション塗料や分散媒の粘度、分散機の回転数、撹拌時間、親水性コロイド形成物質およびゲル化剤の組み合わせや配合量によって自由にコントロールできる。通常、エマルション塗料や分散媒の粘度を高くすれば粒子径は大きくなり、分散機の回転数を早くすれば粒子径は小さくなる。
複色不定形着色粒子の粒子径は0.1〜50mmが好ましく、3〜20mmがより好ましい。粒子径を上記範囲内とすることにより、色調の異なった複色不定形着色粒子が複数混在した場合に、塗膜に立体感が生じやすくなり、意匠性により富んだものとなる。
【0038】
<他の実施形態>
複色不定形着色粒子の製造方法としては、上述したものに限定されない。例えば上述した例では、吐出口の先端が斜めに切断された2本のノズルは切断面同士が向き合うように束ねられているが、2種類のエマルション塗料が接触した状態で分散媒に投入できれば、切断面同士が向き合っていなくてもよく、例えば反対側を向いていてもよい。
【0039】
また、複色不定形着色粒子の製造に用いられるノズルは、吐出口の先端が斜めに切断されていなくてもよい。この場合、図4(a)に示すように、2本のノズル40a,40bの吐出口41a,41b同士のなす角θ2が45〜120°になるように、吐出口41a,41bが接触しているのが好ましく、より好ましくは60〜90°である。角θ2が45°以上であれば、吐出口41a,41bから吐出する各エマルション塗料の吐出量を十分な量に設定できる。一方、角θ2が120°以下であれば、吐出するエマルション塗料同士が接触しやすくなり、接触した状態で分散媒31に容易に投入できる。
なお、吐出口41a,41bの下方に設けられた分散槽30の分散媒31に投入される前に2種類のエマルション塗料が接触し、その状態で分散媒31に投入できれば、図4(b)に示すように、2本のノズル40a,40bの吐出口41a,41b同士は離れていてもよい。
【0040】
さらに、図5(a)に示すように、2つの配管50a,50bが合流した先に吐出口51が設けられたノズル50を用いて複色不定形着色粒子を製造してもよい。この場合、配管50a,50bの合流点52で2種類のエマルション塗料が接触し、接触した状態で吐出口51から吐出され、分散槽30の分散媒31に投入される。従って、配管50a,50bの合流点52から吐出口51までの距離d2は短い方がよい。距離d2が長すぎると、合流点52で接触した2色のエマルション塗料が吐出される前に混ざり合い、単色不定形着色粒子が得られやすくなる。距離d2は、3cm以下が好ましく、より好ましくは1cm以下である。距離d2が3cm以下であれば、接触した2種類のエマルション塗料が混ざり合う前に分散媒31に投入できる。
【0041】
なお、図5(a)では、分散槽30の上方に設置したノズル50から、2種類のエマルション塗料を接触させた状態で分散媒31に投入しているが、例えば図5(b)に示すように、ノズル50の吐出口51は分散媒31に浸かっていてもよい。この場合、配管50a,50bの合流点52で接触した2色のエマルション塗料が、分散媒31に直接投入される。
【0042】
また、3つ以上の不定形物からなる複色不定形着色粒子を製造する場合には、例えば図2(a)、(b)に示すような吐出口21の先端が斜めに切断されたノズル20を3本用い、3本のノズルが、これらの吐出口側からみたときに図6(a)に示すように配置されるのが好ましい。また、図4に示すような吐出口の先端が斜めに切断されていないノズルを用いる場合は、3本のノズルが、これらの吐出口側からみたときに図6(b)に示すように配置されるのが好ましい。
なお、図6(a)、(b)中、符号20a〜20c,40a〜40cはノズルであり、符号21a〜21c,41a〜41cは各ノズルに対応する吐出口である。
【0043】
また、3本以上のノズル、または3つ以上の配管が合流した先に吐出口が設けられたノズルを用いて複色不定形着色粒子を製造する場合、ノズルまたは配管の数とエマルション塗料の種類は必ずしも一致していなくてもよい。すなわち、少なくとも2つのノズルまたは配管から異なる色のエマルション塗料が吐出されれば、残りのノズルまたは配管からは必ずしも異なる色のエマルション塗料を吐出させなくてもよい。
【0044】
[多彩模様塗料組成物]
本発明の多彩模様塗料組成物は、本発明の複色不定形着色粒子と水とを含み、通常は、着色粒子分散体と水とを撹拌混合することにより得られる。また、多彩模様塗料組成物には、色調の異なる2種類以上の複色不定形着色粒子が含まれていてもよい。2種類以上の複色不定形着色粒子を含むことにより、塗膜とした際により複雑な深みがある模様が得られる。
【0045】
着色粒子分散体の含有量は、多彩模様塗料組成物100質量%中、30〜100質量%が好ましく、40〜80質量%がより好ましい。着色粒子分散体の含有量が30質量%以上であれば、より複雑で立体感がある塗膜が得られやすくなる。
【0046】
複色不定形着色粒子はバインダ機能を有するため、これを用いて本発明の多彩模様塗料組成物を製造するにあたっては、さらにバインダ樹脂を配合しなくてもよいが、必要に応じてバインダの役割を果たす樹脂エマルションを配合してもよい。
樹脂エマルションとしては、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、アクリル−シリコーン樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル、ベオバ(分岐脂肪酸ビニルエステル)、天然又は合成ゴムや、それらの共重合体のエマルションなど、一般に市販されている樹脂エマルションを使用することができる。中でも、アクリル樹脂が好ましい。
多彩模様塗料組成物を製造する際に配合される樹脂エマルションの量は、多彩模様塗料組成物100質量%中、0〜50質量%となる量が好ましく、より好ましくは20〜40質量%である。樹脂エマルションを上記範囲内で含むことにより、塗装作業性に優れると共に、耐久性のよい塗膜が得られる。
【0047】
多彩模様塗料組成物製造時に混合される水の量は、多彩模様塗料組成物100質量%中、30〜85質量%が好ましく、40〜80質量%がより好ましい。
【0048】
本発明の多彩模様塗料組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で公知の添加剤、例えば増粘剤、分散剤、消泡剤、防腐剤、レベリング剤などを任意成分として含有してもよい。
【0049】
このようにして得られた多彩模様塗料組成物の用途については特に制限はなく、モルタル、コンクリート、窯業系素材、プラスチック、金属、木材、紙など、種々の塗装対象物に塗布することが可能である。
塗布時における多彩模様塗料組成物の塗布量には特に制限はないが、通常、300〜600g/mとなるように塗布するのが好ましい。
また、塗装方法にも制限はなく、刷毛、こて、ローラー、スプレーなどの公知の塗布方法で塗布することができ、常温乾燥、加熱乾燥することができる。
【0050】
以上説明したように、少なくとも一組の不定形物の間のL*の差(ΔL*)が8〜50である複色不定形着色粒子を含む多彩模様塗料組成物によれば、塗膜に対して、優れた意匠性と立体感があるような深みを付与できる。また、複色不定形着色粒子は、粒子内において、異なる色の不定形物同士が必ず隣接している。そのため、このような複色不定形着色粒子を含む多彩模様塗料組成物によれば、単色の着色粒子を2種類以上含む塗料組成物を用いた場合には得られない、「特定の色が必ず特定の色に隣接する」といった意匠性における斬新さが発揮される。
また、単色の着色粒子を2種類以上含む塗料組成物の場合、同じ塗料組成物を使用したとしても、塗装によって着色粒子同士の重なりが変化し、それにより塗膜の見え方にも差が生じる。よって、塗装時にはそのような見え方の差も考慮する必要がある。しかしながら、複色不定形着色粒子を含む多彩模様塗料組成物の場合、複色不定形着色粒子内では常に異なる色が隣接して存在しているため、塗装によって塗膜の見え方の差がほとんど生じない。よって、塗膜の見え方を考慮しながら塗装をする必要がない。
【0051】
多彩模様塗料組成物による塗膜は、塗装対象物の表面に設けられるが、塗装対象物上に直接設けられていてもよいし、ベースコート層を介して設けられていてもよい。また、形成された塗膜には、必要に応じてクリアトップコート層が設けられていてもよい。また、多彩模様塗料組成物をトップコート層形成用の塗料組成物として用い、他の塗料から形成された塗膜上に塗布してもよい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、例中「部」とは「質量部」を、「%」とは「質量%」を示す。
【0053】
[複色不定形着色粒子の製造]
<エマルション塗料G−1の調製>
表1の(a)成分に示す配合組成に従って、アクリル樹脂エマルション(日本アクリル化学株式会社製、「プライマルAC38」)38部と、非イオン性グアルゴム誘導体の1.5%水溶液28.5部(固形分0.43部)とを混合し、混合溶液(a)を調製した。
別途、表1の(b)成分に示す配合組成に従って、チタン白(石原産業株式会社製、「チタンR930」)10部と、アニオン性高分子分散剤(日本アクリル化学株式会社製、「オロタン731」)1部と、水22.5部とを混合し、混合溶液(b)を調製した。
ついで、混合溶液(a)と混合溶液(b)とを混合、撹拌し、エマルション塗料G−1(ホワイト)を得た。
【0054】
<エマルション塗料G−2調製>
表1の(b)成分に示す配合組成に従って混合溶液(b)を調製した以外は、エマルション塗料G−1と同様にして、エマルション塗料G−2(ブラック)を得た。
なお、表1に示す酸化鉄黒はランクセス株式会社製の「バイフェロックス318」を用いた。
【0055】
【表1】

【0056】
<エマルション塗料F−1〜F−12の調製>
表2、3に示す配合組成に従って、エマルション塗料G−1およびG−2を混合し、エマルション塗料F−1〜F−12を得た。
得られたエマルション塗料F−1〜F−12をJIS K 5600−4−1に規定の隠ぺい率試験紙の被塗面に塗布して塗膜を形成し、これら塗膜について、色差計(分光測色計CM−2500d;コニカミノルタ株式会社製)を用いて、L*、a*、b*を測定した。結果を表2、3に示す。
また、エマルション塗料F−1〜F−12について、1つのエマルション塗料と別の1つのエマルション塗料とのL*の差(ΔL*)を表4に示した。例えば、エマルション塗料F−1とエマルション塗料F−2とのΔL*は2.75である。
【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【0060】
<分散媒の調製>
含水ケイ酸マグネシウムの4%水中分散液25部(固形分1部)に、重ホウ酸アンモニウムの5%水溶液5部(固形分0.25部)と、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの1%水溶液25部(固形分0.25部)を加え撹拌混合した後、水45部を加えて希釈し、分散媒を得た。
【0061】
<複色不定形着色粒子A−1〜A−16、B−1〜B−4の製造>
エマルション塗料F−1〜F−12を表5〜7に示すように組み合わせて用い、用いるエマルション塗料が2種類の場合(A−1〜A−12、B−1〜B−2)には、図3に示すようにして各ノズル20a,20bの吐出口21a,21bから吐出し、分散媒31の液面に到達する前に各エマルション塗料を接触させ、接触した状態でディソルバにより撹拌されている分散媒31へ投入し、複色不定形着色粒子を含む着色塗料分散体を得た。
なお、エマルション塗料と分散媒の割合(質量基準)は、分散媒に投入される全エマルション塗料の合計量:分散媒の量=60:40となるように設定した。
また、切断面同士のなす角θ1は75°、吐出口21a,21bの接点22から分散媒31の水面32までの距離d1は5cmとした。
また、用いるエマルション塗料が3種類の場合には(A−13〜A−16、B−3〜B−4)、3本のノズルを図6(a)に示すように均等に配置して製造した。
なお、表において、例えば「F−5:50」との記載は、エマルション塗料F−5を50部用いたことを意味する。
【0062】
<単色不定形着色粒子C−1〜C−3の製造>
表8に示すように、エマルション塗料F−1、F−6、F−9をそれぞれ用い、エマルション塗料の合計量:分散媒の量=60:40の割合で、分散媒にエマルション塗料を加え、ディソルバで撹拌し、単色不定形着色粒子C−1、C−2、C−3を得た。
【0063】
【表5】

【0064】
【表6】

【0065】
【表7】

【0066】
【表8】

【0067】
[実施例1]
<多彩模様塗料組成物の調製>
表9に示すように、アクリル樹脂エマルション(「プライマルAC−33」日本アクリル化学株式会社製)25部に、複色不定形着色粒子A−1を含む着色粒子分散体70部と、アルカリ可溶型増粘剤(SNシックナー636)1部と、25%アンモニア水0.1部と、水3.9部とを混合し、ディソルバで撹拌して多彩模様塗料組成物を製造した。
【0068】
(外観評価:意匠性)
スレート板の表面に、得られた多彩模様塗料組成物を塗布量が500g/mになるようにスプレー塗装し、常温乾燥して多彩模様塗膜を得た。そして、塗膜の外観を目視にて観察し、以下の評価基準にて評価した。結果を表9に示す。
◎:陰影感が際立ち、立体感があるような複雑な深みがある。
○:陰影感があり、立体感があるような深みがある。
△:陰影感が弱く、立体感があるような深みが僅かにある。
×:陰影が感じられず、立体感があるような深みがない。
【0069】
[実施例2〜16、比較例1〜4]
表9〜11に示す複色不定形着色粒子を含む着色粒子分散体を用いた以外は、実施例1と同様にして多彩模様塗料組成物を調製し、塗膜の外観評価を行った。結果を表9〜11に示す。
【0070】
[比較例5〜7]
複色不定形着色粒子を含む着色粒子分散体に代えて、単色不定形着色粒子C−1〜C−3を含む着色粒子分散体を表12に示すように2種類または3種類組み合わせて用いた以外は、実施例1と同様にして多彩模様塗料組成物を調製し、塗膜の外観評価を行った。結果を表12に示す。
【0071】
【表9】

【0072】
【表10】

【0073】
【表11】

【0074】
【表12】

【0075】
表に示す結果から明らかなように、各実施例で得られた多彩模様塗料組成物は、立体感があるような深みのある多彩模様塗膜を形成できた。
特に、すべての組のL*の値の差(ΔL*)が15〜40である複数の不定形物からなる複色不定形着色粒子を含む実施例2〜9、11〜14の多彩模様塗料組成物からは、立体感があるような深みが感じられる多彩模様塗膜を形成できた。中でも、L*の値の差(ΔL*)が20〜30である実施例4〜7の多彩模様塗料組成物からは、より陰影感が際立ち、複雑な深みがあり、意匠性に優れる塗膜を形成できた。なお、実施例11は、L*の値の差(ΔL*)が20〜30という条件を満たすが、製造に用いたエマルション塗料F−2の割合が少ないため、実施例4〜7に比べて、塗膜の意匠性がやや低下した。
また、実施例16の多彩模様塗料組成物は、一組のΔL*が10.18であって8〜50の範囲内であるが、残りの二組のΔL*はいずれも50を超えているため、意匠性がやや低下した。
一方、比較例1〜4の多彩模様塗料組成物は、複色不定形着色粒子として、L*の値の差(ΔL*)が好適な範囲外にある複数の不定形物からなるものを含むため、実施例の塗膜のような立体感と深みのある塗膜を形成できなかった。
また、比較例5〜7の多彩模様塗料組成物は、単色不定形着色粒子を2種類以上含むものであるため、形成された塗膜は陰影が感じられず、立体感があるような深みがなかった。
【符号の説明】
【0076】
10:複色不定形着色粒子
11a、11b:不定形物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の不定形物からなり、
少なくとも一組の不定形物の間で、L*a*b*表色系によるL*の差(ΔL*)が8〜50であることを特徴とする複色不定形着色粒子。
【請求項2】
各不定形物は、L*a*b*表色系によるa*が−2以上2以下であり、かつ、b*が−3以上3以下であることを特徴とする請求項1に記載の複色不定形着色粒子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の複色不定形着色粒子を含有することを特徴とする多彩模様塗料組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−40275(P2013−40275A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177892(P2011−177892)
【出願日】平成23年8月16日(2011.8.16)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【Fターム(参考)】