説明

複製犬の生産方法

【課題】複製犬を高効率で生産し,優良品種の繁殖,保存,異種移植,疾患モデル動物など獣医学,人類学及び医学研究分野の発達に寄与することができる。また,従来生産されてきた複製犬が雄であることと比較して,雌の複製犬を最初に生産することによって複製犬の生殖特徴をより正確に研究できるようにする。
【解決手段】本発明は,複製犬の生産方法に関し,より具体的には,犬の卵子から核を除去し,脱核卵子を製造して上記脱核卵子に犬の体細胞を移植し,最適化された条件で融合させることによって核移植卵を製造した後,これを代理母の卵管に移植することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,複製犬の生産方法に関する。より具体的には,本発明は,犬の卵子から核を除去し,脱核卵子を製造して上記脱核卵子に犬の体細胞を移植し最適化された条件で融合させることによって核移植卵を製造した後,これを代理母の卵管に移植することを特徴とする複製犬の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近,細胞融合又は,細胞直接注入による体細胞核移植技術が発展しながら,複製動物の生産が本格的に行われている。
【0003】
体細胞核移植技術は,生殖過程で一般的に成り立つ減数分裂及び半数染色体保有生殖細胞を経由しなくても子孫を誕生させることができる技術として成体が有する倍数体保有体細胞を核が除去された卵子に移植し受精卵を生産して,上記受精卵を生体内に移植し,新しい個体を発生させる方法である。一般的に体細胞核移植技術で体細胞供与核を移植するレシピエント卵子(recipient oocyte)は,人為的に試験管内(in vitro)で培養して,2次減数分裂中期まで到達するように成熟させて用いる。次いで体細胞核移植にともなう染色体異常発生を防止するために体細胞を移植する前に上記成熟卵子の核を除去して上記脱核卵子の囲卵腔又は,細胞質内に体細胞を注入する。その後上記脱核卵子と囲卵腔又は,細胞質に注入された体細胞を電気的刺激により物理的に融合させて,電気刺激又は,化学物質によって活性化した後代理母に移植して産子を誕生させる。
【0004】
このような体細胞核移植技術は,優良動物の繁殖,貴重な動物・絶滅危機動物の保存,特定栄養物質の生産,治療用生体物質生産,臓器移植用動物生産,病疾患動物の生産,細胞・遺伝子治療のような医学的に価値を有する臓器移植代替用動物の生産などのような分野で広く活用することができる。
【0005】
体細胞核移植を通した動物複製技術は,英国のロスリン研究所のウィルムート(Wilmut)博士によって,6才になった雌の羊で採取した乳腺細胞を核が除去された卵子に移植して核移植卵を生産した後生体内移植により,体細胞複製動物のドリーを誕生させることによって最初に成功した。以後,牛,ネズミ,ヤギ,豚及びウサギなどで体細胞核移植方法による複製された産子の生産が報告された(WO9937143A2, EP930009A1, WO9934669A1, WO9901164A1 及びUS5,945,577)。
【0006】
一方,牛,豚のような産業動物の複製とともに犬又は他のペットの複製は,多くの人々の関心の対象になっている。最近,ペットは,初めに猫が複製され,数百万ドルの基金で犬複製の研究が実行されたりもした。しかし犬の場合独特の種特異的な生殖特性により他の家畜に比較して体細胞核移植による複製がかなり難しい。一方,本発明者らによって,最初に複製犬が製造された事実がある。しかし複製効率が非常に低く,実用化するには多くの困難がある。
【0007】
本発明の発明者らは,体細胞核移植方法によるより優秀な複製犬の生産方法を研究する過程において,脱核卵子と供与核細胞の最適融合条件を確立することになった。又,上記条件により核移植卵を製造した後これを代理母に移植して高効率で複製犬を生産することができる本発明を完成した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は,体細胞核移植技術を利用した犬の核移植卵の生産方法において,最適化された融合条件で核移植卵を製造することを特徴とする犬の核移植卵生産方法を提供することにある。
【0009】
また,本発明の他の目的は,上記方法によって製造された複製犬の核移植卵を提供することにある。
【0010】
また,本発明の他の目的は,上記核移植卵を代理母に移植して,産子を出生する段階を含む複製犬の生産方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために本発明は,体細胞核移植技術を利用した犬の核移植卵生産方法において,最適化された融合条件で核移植卵を製造することを特徴とする犬の核移植卵生産方法を提供する。
【0012】
また,本発明は,上記方法によって製造された犬の核移植卵を提供する。
【0013】
また,本発明は,上記核移植卵を代理母に移植して産子を出生する段階を含む複製犬の生産方法を提供する。
【0014】
本発明は,体細胞核移植技術を適応した犬の複製時に核移植卵の電気融合条件を最適化して犬の核移植卵を製造して,上記核移植卵を代理母の卵管に移植して産子を生産することによって複製効率を顕著に増加させることを特徴とする。
【0015】
具体的には,本発明の犬科の動物の核移植卵生産方法は,
脱核卵子を製造する段階,供与核細胞を製造する段階,上記供与核細胞の微細注入及び電気融合段階,融合した卵子の活性化段階を含む犬の核移植卵製造方法において,
上記電気融合は,電圧が3.8〜5.0kV/cmの条件で実行することを特徴とする。
【0016】
[用語定義]
本明細書において,「核移植」は,核がない細胞に他の細胞の核DNAを人工的に結合させて,同じ形質を有するようにする遺伝子操作技術をいう。
【0017】
本明細書において,「核移植卵」は,供与核細胞が導入又は融合された卵子をいう。
【0018】
本明細書において,「複製」は,一つの個体と同じ遺伝子セットを有する新しい個体を作る遺伝子操作技術として特に本発明では細胞,胚芽細胞,胎児細胞及び/又は動物細胞が他の細胞の核DNA序列と実質的に同じ核DNA序列を有することをいう。
【0019】
本明細書において,「供与核細胞」は,核受容体である受核卵子に核を伝達する細胞又は細胞の核をいう。
【0020】
本明細書において,「受核卵子」は,脱核過程を経て,本来の核が除去されて,供与核細胞から核を受ける卵子をいう。
【0021】
本明細書において,「卵子」は,好ましくは第2次減数分裂中期まで到達した成熟卵子をいう。
【0022】
本明細書において,「脱核卵子」は,卵子の核が除去されたことをいう。
【0023】
本明細書において,「融合」は,供与核細胞と受核卵子の脂質膜の部分との結合を意味する。例えば,脂質膜は細胞のプラズマ膜又は核膜になることができる。融合は供与核細胞と受核卵子が互いに隣接するように位置している場合又は供与核細胞が受核卵子の囲卵腔(perivitelline space)内に位置している場合に電気的刺激を加えることによって起こすことができる。
【0024】
本明細書において,「活性化」は,核転移段階前,核転移段階の間及び核転移段階後に細胞が分裂するように刺激を与えることをいう。好ましくは,本発明においては核転移段階後に細胞が分裂するように刺激を与えることをいう。
【0025】
本明細書において,「産子(living offspring)」は,子宮外で生存できる動物をいう。好ましくは,1秒,1分,1時間,一日,一週,一ヶ月,6ヶ月又は一年以上生存できる動物をいう。上記動物は,生存のために子宮内環境を必要としない。
【発明の効果】
【0026】
本発明による方法は,複製犬を高効率で生産できる効果を奏し,これは優良品種の繁殖,保存,異種移植,疾患モデル動物など獣医学,人類学及び医学研究分野の発達に寄与することができる。また,従来生産された複製犬が雄であることに比較して,本発明は,雌の複製犬を最初に生産することによって複製犬の生殖特徴をより正確に研究できる効果がある。より,具体的には,
本発明による複製犬の生産は,167ヶの複製受精卵を利用して合計12匹の代理母から3匹の複製犬(1.8%)を生産した(実験例3参照)。従って,本発明の方法は,複製効率が極めて低くて実用化が困難であった既知の方法の短所を改善して,実質的に複製犬を生産するのに適応することができる。
【0027】
本発明の方法により製造された複製犬は,供与核細胞又は供与者と表現型が類似し(図3参照),完全に同じ遺伝的特性を有する。本発明の一実施例では本発明の方法により生産された複製犬の遺伝的特性をマイクロサテライト分析方法を利用して分析した(実験例1参照)。その結果,本発明による複製犬は,供与核細胞又は供与者と完全に同じ遺伝的特性を有することを確認することができた(表8参照)。
【0028】
また,従来生産された複製犬が雄であるのに比較して,本発明の複製犬3匹は,すべて雌で雌の複製犬を生産することは,本発明者らによって,最初に実現されたものである。これによって複製犬の生殖特徴を交配及び妊娠により,より正確に研究できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明に伴う犬の核移植卵生産方法に対し各段階別に具体的に説明すれば次のとおりである。
【0030】
[第1段階: 受核卵子の脱核]
受核卵子は,犬科動物の未成熟卵子,成熟卵子,初期老化,中間老化,激しい老化段階の卵子でありうる。好ましくは,犬から回収された未成熟卵子を体外で成熟させて利用したり,犬科動物の体内で成熟した卵子を回収して利用することができる。一般的に,ほ乳動物(例えば牛,豚,羊など)の卵子は,成熟卵子,すなわち,第2次減数分裂中期(metaphase II)に排卵されることに対して,犬科動物の卵子は,他の動物とは異なり第一次減数分裂の前期に排卵されて,卵管内で48〜72時間の間,留まりながら成熟する特徴がある。犬科動物の卵子の核成熟率が非常に低く,排卵時期及び繁殖生理が他のほ乳動物とは違うことから,犬科動物の受核卵子は犬科動物の生体内で成熟した卵子を回収することが好ましい。
【0031】
より具体的には,犬科動物からの成熟卵子の回収は,犬科動物の排卵が誘導された後約48〜72時間,より好ましくは,約72時間経過時に実行することが好ましい。上記犬科動物の排卵日は,既知の方法を適応して決めることができる。排卵日を決める方法としては,例えば,これに限定されるものではないが膣細胞塗抹検査(vaginal smear),血しょう性ホルモン水準測定及び超音波診断システムを用いることができる。犬科動物の発情の開始は,外陰部膨張及び腸液性血液の排出有無により確認することができる。
【0032】
本発明の一実験例では,犬科動物の排卵日を膣細胞塗抹検査と血しょうプロゲストロン濃度検査を実行することによって決定する結果,無覚化上皮細胞が80%以上で,血しょうプロゲストロン濃度が約4.0〜7.5ng/mlである時,排卵が成り立つことが判明した。一方,排卵された犬科動物の卵子の成熟時期は,排卵後48〜72時間と知られており,本発明で各々排卵後48時間経過時,60時間経過時及び72時間経過時に卵子を回収して確認した結果,排卵後約72時間経過時に回収された卵子が第2次減数分裂中期(metaphase II)に該当する成熟卵子であることを確認することができた。従って,犬の成熟卵子の回収は,排卵後約72時間経過時が最も好ましいということが分かった。
【0033】
生体内成熟卵子を回収する方法では,対象動物を麻酔した後開腹させることを含む外科的方法を用いることができる。より具体的には,生体内成熟卵子の回収は既知の方法の卵管切除法を用いることができる。上記卵管切除法は,卵管を手術的に切り出した後はい芽収集培地を卵管内部に潅流させて,潅流液を収得して,上記潅流液から卵子を回収する方法である。
【0034】
また,生体内成熟卵子は,カテーテルを卵管采に装着した後卵管-子宮の接合部位に注射針を利用して,潅流液を注入することによって回収することができる。この方法は,卵管を損傷させないために卵子を供与する動物を次の発情にも利用できる長所がある。
【0035】
従って,好ましくは,生体内成熟卵子の回収は,卵管を損傷させないカテーテルを利用した方法を用いる。一方,本発明者らは,カテーテルを利用した卵子回収方法において,回収率を高めるためにニードルの前部が円形に処理されていて卵管入口に装着が容易な卵子回収用ニードルを新しく開発した(図1参照)。より具体的に説明すれば,本発明者らが開発したニードルを利用した卵子回収方法は,前部が円形に処理された卵子回収用ニードルを卵管内に挿入-結紮した後卵管-子宮の接合部に卵子回収用培地を潅流させて,上記卵子回収用ニードルに潅流液が流入するようにして上記潅流液を顕微鏡で検鏡して成熟した卵子を収得する方法である。
【0036】
成熟した卵子を回収した後には,卵子の半数体核を除去する。卵子の脱核は,既知の方法を用いて実行できる(米国特許第4994384号,米国特許第5057420号,米国特許第5945577号,ヨーロッパ特許公開公報第0930009A1,大韓民国特許第342437号, Kanda et al, J. Vet. Med. Sci., 57(4):641-646, 1995; Willadsen, Nature, 320:63-65, 1986, Nagashima et al., Mol. Reprod. Dev. 48:339-343 1997; Nagashima et al., J. Reprod Dev 38:37-78, 1992; Prather et al., Biol. Reprod 41:414-418, 1989, Prather et al., J. Exp. Zool. 255:355-358, 1990; Saito et al., Assis Reprod Tech Andro, 259:257-266, 1992; Terlouw et al., Theriogenology 37:309, 1992)。
【0037】
好ましくは,受核卵子の脱核は大きく二種類の方法を用いて実行できる。一つの方法では,成熟した受核卵子の卵球細胞(cumulus cell)を除去した後,微細針を利用して受核卵子の透明帯一部を切開して切開窓を形成して,これにより第1極体,卵子の核及び細胞質(可能な限り少ない量)を除去する。他の方法では,受核卵子の卵球細胞を除去した後卵子を染めて微細吸入ピペット(aspiration pipet)を利用し,第1極体及び卵子の核を除去する。より好ましくは,卵子の脱核は受核卵子の状態を肉眼で評価して,生存率が高い卵子に対しては吸入方法を用いて,そうではない卵子に対しては,切開窓を形成する方法を用いる。
【0038】
[第2段階: 供与核細胞の製造]
供与核細胞としては,犬から由来した体細胞を用いることができる。具体的には,本発明で用いた体細胞としては,犬のはい芽細胞(embryonic cell),胎児細胞(fetus cell),幼細胞(juvenile cell),成体細胞(adult cell),好ましくは,成体細胞から収得することができる卵球,皮膚,口腔粘膜,血液,骨髄,肝臓,肺,腎臓,筋肉及び生殖器官などのような形態の組織から由来するものであることもある。本発明で用いることができる体細胞としては,例えば,これに限定されはしないが卵球細胞,上皮細胞,繊維芽細胞,神経細胞,角質細胞,造血細胞,メラニン細胞,軟骨細胞,赤血球,マクロファージ,単球細胞,筋肉細胞,Bリンパ球,Tリンパ球,はい芽幹細胞,はい芽生殖細胞,胎児細胞,胎座細胞及びはい芽細胞などがある。より好ましくは,本発明で用いる体細胞としては胎児及び成体繊維芽細胞,卵球細胞でありうる。
【0039】
そして,本発明で用いる供与核細胞は,上記野生型体細胞に特定遺伝子を挿入したり操作したりして,染色体を遺伝子移植方法や遺伝子適中法を利用して,形質転換させたものである場合もある。上記遺伝子移植方法や遺伝子適中法は,既知の方法であるから当業者ならば容易に実施することができる。
【0040】
供与核細胞として提供される体細胞は,外科用標本又は生検用標本を製造する方法から収得され,上記標本から既知の方法を用いて単一細胞を収得することができる。例えば,対象動物から組織の一部を無菌的に切開して,上記外科用標本又は生体検査用標本を収得してこれを微細に細切りをして,トリプシンで処理した後組織培養用培地で培養する。組織培養用培地で3-4日培養後に培養皿(dish)で育つことを確認して,完全にみな育てば一部は,今後の使用のために凍結して液体窒素に保管して,残りは,核移植に利用するために更に培養を実施する。継続して培養して,核移植に用いられる細胞は,10回継代培養以下を前提として,細胞が過度に大きくなることを防止する。
【0041】
上記組織培養用培地としては,既知のものを用いることができる。例えば,TCM-199, DMEM (Dulbecco's modified Eagle's medium)などがある。
【0042】
[第3段階: 供与核細胞の微細注入及び融合]
脱核卵子に供与核細胞の微細注入は,移植用ピペットを用いて供与核細胞を脱核卵子の細胞質と透明帯との間に注入することによって実行する。
【0043】
上記供与核細胞の微細注入が完了した脱核卵子は,細胞操作機を利用して電気的に供与核細胞と融合させる。電気的融合の電流は,交流又は直流共に使用可能で,上記融合は,ニードルタイプの電極を利用して15〜25μs間,3.8〜5.0kV/cmの条件が好ましく,より好ましくは,3.8〜4.2kV/cm,最も好ましくは,4.0kV/cmの条件で2回実行できる。
【0044】
供与核細胞と卵子の電気的刺激による融合は,融合用培地内で実行できる。上記融合用培地としては,マンニトール,MgSO,ヘルペス,BSAが混合された培地を用いることができる。
【0045】
[第4段階: 融合した核移植卵の活性化]
融合した核移植卵の活性化は,成熟過程で一時的に停止した細胞周期を再び稼働させる段階である。このためには,細胞周期停止要素のMPF,MAPキナーゼなどの細胞信号伝達物質の活性を低下させなければならない。一般的に核移植卵を活性化する方法は,電気的方法及び化学的方法がある。本発明では,核移植卵の活性化のための方法で化学的方法を用いることが好ましい。本発明では,上記化学的方法は,電気的活性化方法に比較して,核移植卵の活性化をより多く促進することができる。上記化学的方法では,エタノール,イノシトール三リン酸,2価イオン(例えば Ca2+又はSr2+),微小管抑制剤(microtubule inhibitors,例えばサイトカラシンB),2価イオン イオノフォア(ionophore)(例えば,Ca2+イオノフォア イオノマイシン),蛋白質キナーゼ抑制剤(例えば,6-ジメチルアミノピリジン(DMAP)),蛋白質合成抑制剤(例えば,シクロホスファミド),ホルボール 12-ミリステート13-アセテート(phorbol 12-myristate 13-acetate)のような物質を処理する方法がある。
【0046】
好ましくは,核移植卵活性化のための化学的方法では,カルシウムイオノフォアと6-ジメチルアミノピリジンを核移植卵に同時に処理したり段階的に処理する方法を用いることができる。より好ましくは,カルシウムイオノフォア5〜10μMを37〜39℃で3〜6分程度処理した後6-ジメチルアミノピリジン1.5mM〜2.5mMを37〜39℃で4〜5時間程度処理する。
【0047】
他の観点として,本発明は,詳述した方法によって製造された犬の核移植卵を提供する。本発明者らは,本発明の一実施例として製造した犬の核移植卵をSNU-BONA(cloned embryos)と命名して,2006年11月27日付で韓国生命工学研究員遺伝子銀行(KCTC,大田(テジョン)広域市儒城区(ユソング),魚隠洞(オウンドン)52番地)に寄託番号KCTC 11037BPで寄託した。上記核移植卵は,凍結保存した後必要な時にこれを溶解させて用いることができる。
【0048】
そして,本発明による犬の核移植卵は,代理母に移植されて,産子を出生させることによって複製犬を生産するのに用いることができる。好ましくは,本発明による核移植卵の代理母移植は,代理母の卵管に移植を実行する。移植は既知の方法を適応して実行できて,好ましくは,カテーテルを用いて複製はい芽を移植することができる。
【0049】
本発明の一実施例では,本発明による核移植卵を代理母の卵管に移植することによって複製犬3匹を生産した(実施例6参照)。
【0050】
一方,上記代理母移植において上記核移植卵は,1細胞期,すなわち直ちに作られた複製卵や2細胞期又は4細胞期であることが好ましい。これのために上記核移植卵の代理母移植は,活性化した後4時間以内に実行することが好ましい。また上記核移植卵は,代理母が準備される前までミネラル オイルが覆われたmSOF25μlマイクロドロップ(microdrop)で培養することができる。
【0051】
以下,本発明を実施例によって,詳細に説明する。
【0052】
なお,下記実施例は,本発明を例示するものであり,本発明の内容が下記実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0053】
[犬から受核卵子の回収]
卵子供与者として実験に用いた犬は,1〜5年の雑種雌犬23匹を用いた。上記卵子供与者として用いた犬らは,韓国のソウル大学校の飼育管理研究所の基準により飼育した。自然的に発情期が始まった犬を対象に膣細胞塗抹検査(vaginal smear)と血清プロゲストロンの濃度を毎日測定して排卵日を決めて,排卵日から48〜72時間後に手術を実施して卵子を回収した。回収された卵子は,未成熟卵子,成熟卵子,初期老化,中間老化,激しい老化を含んでいる。卵子の成熟段階にともなう形態を図2に示す。
【0054】
血清プロゲストロンの濃度は,血液3-5mlを毎日採取して遠心分離して血清を収得した後DSL-3900 ACTIVEプロゲストロン コーティングされたチューブ放射線免疫分析キット(Diagnostic Systems Laboratories, Inc., USA)を用いて分析した。プロゲストロン濃度が4.0〜7.5ng/mlになれば排卵日と見なした(Hase et al.,J. Vet. Med. Sci.,62:243-248,2000)。
【0055】
膣細胞塗抹検査は,発情期の初期症候が現れた日から毎日標本を収得することによって実行した。膣細胞標本は,綿棒を外陰部に挿入することによって収集し,これをスライドグラスの上に塗抹した。次いでディフ・クイック(Diff-Quik)染色(International Chemical Co.,Japan)で染めた後顕微鏡で検鏡して表皮細胞が上皮細胞インデックス(cornified index,Evans J.M. et al.,Vet. Rec,7:598-599,1970)の80%以上の場合を排卵時期と見なした。
【0056】
本発明者らは,詳述した方法により排卵時期を確認した後開腹術により,卵子供与者犬から次のような方法で回収した。
【0057】
先に,卵子供与者の雌犬にケタミンHCl(ketamine HCl)6mg/kgとキシラジン(xylazine)1mg/kgを投与して麻酔させて,イソフルラン(isoflurane)を投与することによって麻酔状態を維持した。
【0058】
上記麻酔した犬の生殖裂口(bursal slit)を経て,卵管采もようの末端に接近して,前部が丸く処理されたニードル(18ゲージ,7.5cm,図1)を挿管した。挿入されたニードルを手術用縫合糸で固定した。その時3cmのプラスチックチューブ(直径2mm)及び止血鉗子(hemostatic forceps)を利用したクイックリリース装置(quick-release device)を用いた。次いで,卵管の導管をよく見えるようにするために,デジタル圧力を卵管と周囲の子宮-卵管接合部の下の部分に加えて,静脈内にカテーテル(24ゲージ)を挿入した後,上記カテーテルにより10%(v/v) FBS, 2mM NaHCO3, 5mg/ml BSA (Invitrogen, Carlsbad, CA)が添加されたヘルペス-バッファー組織培養培地TCM-199(卵子回収用培地)を潅流させて卵子が流れ出るようにした。
【0059】
【表1】

【実施例2】
【0060】
[受核卵子の脱核]
上記実施例1で収得した卵子をアミノ酸(hCR2aa)が含まれたヘルペス-バッファーCa2+無添加CR2(Charles Rosenkrans 2)培地(Rosenkrans et al.,Biol. Reprod. 49, 459-462,1993; 表2)に入れて,0.1%(v/v)ヒアルロニダーゼ(Hyaluronidase(Sigma,USA))を反復的にピペッティングして卵球細胞を除去した。次いで,卵球細胞が除去された卵子を5μg/mLビスベンズイミド(Hoechst 33342)で5分間そめて蛍光倒立顕微鏡を利用して×200の倍率で観察して第1極体が確認された卵子だけを選別した。選別された卵子を10%(v/v)FBSと5μg/mLサイトカラシンBが添加されたhCR2aa培地(表3)に入れて微細操作装置(micromanipulator, Narishige, Tokyo, Japan)を利用して脱核を実行した。すなわち,ホールディングマイクロピペット(150μm直径)で受核卵子を固定した後第1極体と卵子核と,そして一部細胞質(5%以下)を吸入ピペット(20μm直径)を利用して除去した。上記過程を経て脱核になった卵子は,10%(v/v)FBSが添加されたTCM-199培地(表4)に入れて保管した。
【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

【実施例3】
【0064】
[供与核細胞の製造]
供与核細胞としては,犬から収得した成体繊維芽細胞を用いた。このために先に雌アフガンハウンド(Afghan Hound,2-mo old)の耳の皮膚組織を分離した。上記耳の皮膚組織断片をDPBS(Dulbecco's Phosphate Buffered Saline)で3回洗浄して手術用ナイフで細かく粉々にした。上記粉々にした皮膚組織を0.25%(w/v)トリプシン及び1mM EDTAが含まれたDMEM(Dulbecco's modified Eagle's medium)培地(DMEM Life Technologies, Rockville, MD)に入れて37℃で1時間処理した。トリプシンで処理された細胞をCa2+及びMg2+無添加DPBSで1回洗浄して300×gで2分間遠心分離した後60mmプラスチック培養用皿(Becton Dickinson,Lincoln Park,NJ)に接種した。次いで,上記細胞を10%(v/v)FBS,1mMグルタミン,25mM NaHCO及び1%(v/v)最小必須培地(MEM)非必須アミノ酸溶液(Invitrogen, CA)が添加されたDMEM培地で39℃,5%CO及び95%空気で加湿された条件で6〜8日間培養した。付着しなかった細胞は,除去して付着した残余の細胞は,0.1%トリプシン及び0.02%EDTAが含まれた培地内で1分間トリプシン処理して,追加継代のために3ヶの新しい培養皿に移して4ないし6日間隔で継代培養した。次いで,80%(v/v)DMEM,10%(v/v)DMSO及び10%(v/v)FBSで構成された凍結培地に入れて-196℃の液体窒素に保管した。体細胞核移植のために3ないし8継代の細胞を用いて,体細胞核移植をする前に細胞らを解凍し,コンフルエンシー(confluency)となる時まで3ないし4日間培養した後,約1分の間トリプシン処理して,単一層から細胞を回収した。
【実施例4】
【0065】
[脱核卵子に供与核細胞の微細注入及び融合]
上記<実施例2>で製造した脱核卵子に上記<実施例3>で製造した供与核細胞を微細注入した。供与核細胞は,脱核卵子の囲卵腔(perivitellin)空間に次のような方法で微細注入した。上記<実施例2>の微細操作装置上の切開用ピペットを移植用ピペットに交替した後,定置された脱核卵子を100μg/mL フィトヘモアグルチニン(phytohemagglutinin)が含まれたhCR2aa培地を処理して,脱核卵子の切開窓を固定用ピペットで固定した後,移植用ピペットを切開窓に挿入して<実施例3>で単一細胞で分離した繊維芽細胞を脱核卵子の細胞質と透明帯との間に注入した。次いで,上記供与核細胞-卵子の結合体(couplets)を融合培地(0.26Mマンニトール,0.1mM MgSO,0.5mMヘルペス及び0.05% BSA)に入れて,微細操作装置(Nikon-Narishige,Japan)に付着している平行した2ヶの電極の間に置いて,電気-細胞融合装置(Electro-Cell Fusion apparatus) (NEPA GENE Co.,Chiba,Japan)で電気的刺激を加えた。その時ニードルタイプの電極を用いて,電極の間の距離は,約180μm(卵子の直径)程度であった。4.0kV/cm,15μsecで2パルスを適用し,電気刺激1時間後に供与核細胞と卵子細胞質体の融合を立体顕微鏡(stereomicroscope)で観察した。融合した受精卵を167ヶを選別して,これを変形された合成卵管液(modified synthetic oviductal fluid;mSOF)(表5)内で3時間培養した(G. Jang et al. Reprod. Fertil. Dev. 15,179-185,2003)。本発明者らは,上記で製造した核移植卵中一つをSNU-BONA(cloned embryos)と命名して,2006年11月27日付で韓国生命工学研究員遺伝子銀行(KCTC,大田(テジョン)広域市,儒城区(ユソング),魚隠洞(オウンドン)52番地)に寄託番号KCTC 11037BPで寄託した。
【0066】
【表5】

【実施例5】
【0067】
[核移植卵の活性化]
上記<実施例4>で収得した核移植卵を10μMイオノフォア(Sigma)が含まれたmSOFに入れて39℃で4分間培養して核移植卵の活性化を誘導した。次いで,上記核移植卵を洗浄して1.9mM6-ジメチルアミノピリジンが添加されたmSOF(表5)で4時間の間追加で培養した。
【0068】
上記核移植卵は,代理母に移植する前までミネラルオイルが覆われたmSOF25μlマイクロドロップ(microdrop)で培養した。
【実施例6】
【0069】
[代理母に移植及び複製犬の生産]
上記実施例5の核移植卵167ヶを排卵後約72時間を過ごした自然的に発情された代理母の卵管に外科的手術方法を適応して移植した。移植は,上記の核移植卵を活性化した後4時間以内に実行した。代理母は,罹患されておらず,正常な発情周期が反復されながら,子宮状態が正常な雑種犬12匹を用いた。このために先に代理母に0.1mg/kgアセプロマジン(acepromazine)と6mg/kgプロポフォール(propofol)を血管注射して麻酔し,2%イソフルラン(isoflurane)を利用して吸入麻酔状態を維持した。麻酔した犬の手術部位を無菌処理して,卵管を露出させるために一般的な開腹手術法により背腹側部位を切開した。手で腹腔内を促進して卵巣と卵管及び子宮を切開窓に牽引した。牽引された卵巣の卵巣間膜を用心深く扱って,卵管の開口部を認知して1.0mlツベルクリン(tuberculin)注射器(Latex free,Becton Dickinson & CO. Franklin lakes,NJ 07417)が装着された3.5Fトムキャットカテーテル(Tom cat catheter, Sherwood, St. Louis, MO)を卵管内に入れてカテーテルの前方に十分な空間を確保して核移植卵を注入した。核移植卵の注入の有無は,顕微鏡を検鏡し,抗生剤を混合した生理食塩水500mlを腹腔内注入した。腹部の縫合は,吸水性縫合糸を利用して以後皮膚縫合を実施した。手術後感染を防止するために広範囲抗生剤を3日間投与した。代理母に移植された卵子の状態と受精卵の数は,下記表6に示すとおりである。
【0070】
【表6】

【0071】
妊娠の有無は,代理母に核移植卵を移植した後23日目に7.0MHZリニアアレイプローブ(linear-array probe)が装着されたSONOACE9900 超音波スキャナー(Medison Co. LTD, Korea)を利用して検査した。妊娠状態は,初期に妊娠を確認した後2週ごとに超音波でモニターした。その結果,3匹の犬(代理母C,J及びK)から妊娠事実を確認した。すなわち移植後23日目に超音波によって各代理母から一ヶの胎のう(embyonic sac)が検出され,胎児死亡や遺産は検出されなかった。核移植卵を移植してから60日後に帝王切開手術で複製犬が分娩された。複製犬の体重は,各々520,460及び520gであり,すべて雌であったし外観が正常で健康であった(図3)。
【0072】
〔実験例1〕
[発明の方法により生産された複製犬の遺伝型分析]
本発明の方法により上記<実施例6>で収得した複製犬3匹が上記<実施例3>の供与核細胞を提供した供与者のアフガンハウンドと遺伝的に同一であるかを調査した。このために複製犬,代理母,供与核細胞の繊維芽細胞及び供与者からゲノムDNAを分離して血統分析(Parentage analysis)を実行した。先に,複製犬,供与者及び代理母からは,血液試料を回収した。G-スピンTM(G-spinTM)ゲノムDNA抽出キット(Intron,Korea)を利用して,製造者が指示する方法により上記血液試料及びトリプシン処理した繊維芽細胞からゲノムDNAを抽出した。上記分離したゲノムDNA試料を50μl TEに溶解して犬に特異的な14ヶのマーカー(PEZ001,PEZ002,PEZ003,PEZ005,PEZ006,PEZ010,PEZ011,PEZ012,PEZ013,PEZ016,PEZ017,FH2010,FH2054及びFH2079)を用いてマイクロサテライト分析を実行した。すなわち,上記分離したゲノムDNAを鋳型にして上記公示されたマーカーらの序列を基礎にして製造した蛍光表紙された部位特異的プライマー(表7)を利用してPCR増幅を実行した後PCR増幅産物を自動DNA序列分析機(ABI 373:Applied Biosystems,Foster City,CA)を利用して分析した。またPCR産物の大きさは,商用ソフトウェア(GeneScan and Genotyper; Applied Biosystems)を用いて測定した。
【0073】
【表7】

【0074】
実験結果,本発明の方法により生産された3匹の複製犬は,すべて供与者のアフガンハウンド及び上記アフガンハウンドから分離した繊維芽細胞と遺伝的に完全に同一だということを確認することができた。反面,本発明の複製犬と代理母は,遺伝的に相異なるということを確認することができた(表8)。
【0075】
【表8】

【0076】
〔実験例2〕
[本発明の方法による犬の複製効率]
本発明による複製犬の生産に関する実施例として,167ヶの複製受精卵を利用して合計12匹の代理母から3匹の複製犬を生産した。これに比較して,既知の複製犬の生産方法(大韓民国特許出願第2005-67736号)によれば,1095ヶの複製受精卵を利用して,123匹の代理母から2匹の複製犬を生産したのに一匹は,生存したが二番目の複製犬は死亡した。従って,本発明の方法によれば既知の方法に比較して,顕著に高い効率で複製犬を生産できるということを確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に従う一実施例で犬から卵子を回収するために用いた18ゲージ卵子回収用ニードルを示す図。
【図2】排卵後約72時間に卵子供与者犬の卵管から潅流された生体内成熟卵子の多様な段階を示す図(スケールバー=40μm)。
【図3】本発明の方法により生産された3匹の複製犬を示す図(A)と体細胞供与者を示す図(B)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱核卵子を製造する段階,供与核細胞を製造する段階,上記供与核細胞の微細注入及び電気融合段階,融合した卵子の活性化段階を含む犬の核移植卵の製造方法において,
上記電気融合は,電圧が3.8〜5.0kV/cmの条件で実行することを特徴とする犬の核移植卵製造方法。
【請求項2】
上記電気融合は,電圧が3.8〜4.2kV/cmの条件で実行することを特徴とする請求項1記載の犬の核移植卵製造方法。
【請求項3】
上記電気融合は,電圧が4.0kV/cmの条件で実行することを特徴とする請求項1記載の犬の核移植卵製造方法。
【請求項4】
上記電気融合は,ニードルタイプの電極を利用して15〜25μs間2回実行することを特徴とする請求項1記載の犬の核移植卵製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1項記載の方法によって製造されたことを特徴とする核移植卵。
【請求項6】
寄託番号KCTC 11037Bで韓国に寄託されていることを特徴とする請求項5記載の核移植卵。
【請求項7】
請求項5又は6記載の核移植卵を代理母の卵管に移植して産子を出生する段階を含むことを特徴とする複製犬の生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−173113(P2008−173113A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156708(P2007−156708)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ホームページのアドレス:http://www.sciencedirect.com/science?_ob=ArticleURL&_udi=B6TCM−4MJRYXH−1&_user=10&_coverDate=03%2F15%2F2007&_alid=587349064&_rdoc=1&_fmt=summary&_orig=search&_cdi=5174&_sort=d&_docanchor=&view=c&_ct=1&_acct=C000050221&_version=1&_urlVersion=0&_userid=10&md5=55476ec9b019abbd8211fd360c18833a 掲載日:平成18年12月13日
【出願人】(507171856)ソウル ナショナル ユニバーシティー インダストリー ファンデーション (14)
【Fターム(参考)】