説明

複製画及びその製造方法

【課題】より本物に近い岩絵の具独特の凹凸感を有する質感の高い複製画を提供する。
【解決手段】紙基材10上に形成され、寒水粉と炭酸カルシウム粉とを含む下地凹凸層12と、下地凹凸層12上であって、原画の絵柄に同調して形成されるUVインキ層13と、UVインキ層13上に形成され、寒水粉と、炭酸カルシウム粉とを含む隠蔽層14と、少なくとも隠蔽層上に形成される受容層16と、受容層16上に形成される絵柄層17と、を有することを特徴とする複製画1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複製画、特には岩絵の具調の日本画の複製画及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
岩絵の具は粒状、粉状の原料鉱物を膠水等を用いて彩色するものであり、この岩絵の具を用いて描いた日本画は表面が粗面状の微小な多数の凹凸を有する。
【0003】
岩絵の具調の日本画には独特の色調があるほか、前記の粗面状の表面形状が特殊な風合を醸成し、これが絵画の美しさを創成する一要素となっている。このため、岩絵の具調の日本画の複製に当たっては、その絵画の色調の他に粗面状の表面状態も再現する必要がある。
【0004】
ここで、特許文献1では、岩絵の具特有の粗面状の微小な多数の凹凸を再現することを目的として、紙基材上に、下地凹凸層、受容層及び絵柄層がこの順に形成されている複製画が開示されている。具体的には、寒水粉と炭酸カルシウム粉とを含む下地凹凸層を形成し、この下地凹凸層により凸部と凹部との平均高度差、並びに凸部又は/及び凹部の形成密度を所定の範囲に制御した複製画が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、オフセット印刷やプロセス印刷等の安価な印刷技法をベースとし、図柄に視覚的な立体感を有する印刷物を製造する方法が開示されている。具体的には、図柄を印刷材上に印刷して平坦な印刷面を形成する工程、及び、この印刷面上の少なくとも一部に図柄上で表現しようとする立体形状とほぼ相似する表面形状を有する厚みで透明インキ層を形成する工程を含む印刷物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−312306号公報
【特許文献2】特開2003−341216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1にて開示される方法では、形成される凸部と凹部との高度差は、下地凹凸層に依存し所定の範囲に制限される。従って、下地凹凸層によってもたらされる凸部と凹部との高度差の範囲を超える凹凸をつけることは困難であった。
【0008】
一方、特許文献2にて開示されている発明によれば、高度差が数百μm程度の大きな凹凸を付けることは可能である。しかし、特許文献2の方法で形成される透明インキ層の表面には照りがあり、この照りによって、本物の日本画の風合いを損ねるという問題があった。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するためになされるものであり、その目的は、より本物に近い岩絵の具独特の凹凸感を有する質感の高い複製画を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決すべく成された本発明の構成は以下の通りである。
【0011】
即ち、本発明の第1の複製画は、紙基材上に形成され、寒水粉と、炭酸カルシウム粉とを含む下地凹凸層と、
該下地凹凸層上であって、原画の絵柄に同調して形成されるUVインキ層と、
該UVインキ層上に形成され、寒水粉と、炭酸カルシウム粉とを含む隠蔽層と、
少なくとも該隠蔽層上に形成される受容層と、
該受容層上に形成される絵柄層と、を有することを特徴とする。
【0012】
また本発明の第2の複製画は、紙基材上に形成され、寒水粉と、炭酸カルシウム粉とを含む下地凹凸層と、
該下地凹凸層上であって、原画の絵柄に同調して形成されるUVインキ層と、
該UVインキ層上に形成され、寒水粉と、炭酸カルシウム粉とを含む隠蔽層と、
該下地凹凸層と該隠蔽層とを覆うように形成され、炭酸カルシウム粉を含む補助隠蔽層と、
該補助隠蔽層のうち、少なくとも該隠蔽層を覆う補助隠蔽層上に形成される受容層と、
該受容層上に形成される絵柄層と、を有することを特徴とする。
【0013】
また本発明の第1の複製画の製造方法は、紙基材上に、水性エマルジョンと、寒水粉と、炭酸カルシウム粉とを含有する下地凹凸層形成用インキを用いて下地凹凸層を形成する工程と、
前記下地凹凸層上に、UVインキを用いてUVインキ層を形成する工程と、
前記UVインキ層上に、水性エマルジョンと、寒水粉と、炭酸カルシウム粉とを含有する隠蔽層形成用インキを用いて隠蔽層を形成する工程と、
少なくとも前記隠蔽層上に、受容層形成用インキを用いて受容層を形成する工程と、
前記受容層上に、インクジェットプリンターによって絵柄層を形成する工程と、を有し、
前記UVインキ層を形成する工程が、前記原画の表面の凹凸形状に関するデータに基づいてスクリーン版を作製する工程と、該スクリーン版を使用して前記原画の表面の凹凸形状に同調するように前記UVインキ層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
また本発明の第2の複製画の製造方法は、紙基材上に、水性エマルジョンと、寒水粉と、炭酸カルシウム粉とを含有する下地凹凸層形成用インキを用いて、下地凹凸層を形成する工程と、
前記下地凹凸層上に、UVインキを用いてUVインキ層を形成する工程と、
前記UVインキ層上に、水性エマルジョンと、寒水粉と、炭酸カルシウム粉とを含有する隠蔽層形成用インキを用いて、隠蔽層を形成する工程と、
前記隠蔽層上及び前記下地凹凸層上に、水性エマルジョンと、炭酸カルシウム粉とを含有する補助隠蔽層形成用インキを用いて、補助隠蔽層を形成する工程と、
前記補助隠蔽層のうち、少なくとも前記隠蔽層を覆っている補助隠蔽層上に、受容層形成用インキを用いて、受容層を形成する工程と、
前記受容層上に、インクジェットプリンターによって絵柄層を形成する工程と、を有し、
前記UVインキ層を形成する工程が、前記原画の表面の凹凸形状に関するデータに基づいてスクリーン版を作製する工程と、該スクリーン版を使用して前記原画の表面の凹凸形状に同調するように前記UVインキ層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0015】
また本発明の複製画の製造方法においては、前記隠蔽層を形成する工程において、前記UVインキ層を形成する工程で使用したスクリーン版と同一の版を使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、UVインキ層によってもたらされる立体感を生かしつつ、UVインキ層由来の照りを隠蔽することができるので、さらに本物に近い岩絵の具独特の凹凸感を有する質感の高い複製画と提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の複製画における実施形態の例を示す断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0019】
図1は、本発明の複製画における実施形態の例を示す断面概略図である。図1の複製画1は、紙基材10、ホワイトインキ層11、下地凹凸層12、UVインキ層13、隠蔽層14、補助隠蔽層15、受容層16、及び絵柄層17から構成されている。
【0020】
以下、図1の複製画1を構成する各部材及びその形成方法について説明する。
【0021】
図1の複製画1の基材となる紙基材10としては、画材紙(上質紙)、和紙等の絵画を作成する際に使用する紙が使用される。紙基材10として使用される紙について、その坪量は特に限定されないが、好ましくは、250g/m2〜320g/m2である。尚、紙基材の坪量が250g/m2以上である場合、吸水によって紙基材がカールする現象が起こりにくくなる。このため紙基材の坪量が250g/m2以上である場合、後述するホワイトインキ層11の形成を省略して紙基材10上に下地凹凸層12を直接形成することができる。
【0022】
ホワイトインキ層11は、紙基材10の表面の目止めをするために紙基材10上に形成される層である。このホワイトインキ層11は、下地凹凸層12等を形成する際に使用する水性インキが紙基材10に浸透することで紙基材10が撓むのを防ぐ役割を果たす。ホワイトインキ層11は、具体的には、油性の白色インキを塗布して形成される層である。ホワイトインキ層11の形成に使用される油性の白色インキとしては、紙基材10への水分の浸透を防ぐ役割を果たすものを用いればよく、例えば、白色顔料を含有した油性インキ等が挙げられる。そして、ホワイトインキ層11を形成する際には、公知の方法、例えば、オフセット印刷方式、グラビア印刷方式、フレキソ印刷方式、スクリーン印刷方式等を用いることができる。ここでホワイトインキ層11を形成する際には、上述した目止めの効果を奏するために複数回、例えば、2回程度ホワイトインキを塗布するのが望ましい。
【0023】
また、ホワイトインキ層11の厚さは、35μm〜48μmの範囲内であることが好ましい。厚さをこの範囲にすることにより、ホワイトインキ層11が防水壁としての役割を果たし、紙基材10が各層から流入する水分を吸収しなくなる。一方、ホワイトインキ層11は、下地凹凸層12を形成する領域、又はこの領域よりも広めに形成するのが好ましい。こうすることで、後述する下地凹凸層12等が紙基材10に直接接触した時に生じ得る紙基材10の撓みを防ぐことができる。
【0024】
ホワイトインキ層11上に形成される下地凹凸層12、UVインキ層13、隠蔽層14、補助隠蔽層15及び受容層16の形成方法は、特に限定されない。具体的にはスクリーン印刷方式、グラビア印刷方式等を採用することができる。これらの方式の中でも、インキを厚く盛って厚盛り印刷を行ったり、寒水粉のような粒径が大きい粒子を含む顔料が配合されたインキを印刷することができ、下地の凹凸に影響されることなく印刷ができるという理由から、スクリーン印刷方式が好ましい。特に、UVインキ層13においては、厚盛り印刷を可能にするスクリーン印刷方式が望ましい。
【0025】
ホワイトインキ層11上には下地凹凸層12が形成されている。下地凹凸層12は、本発明の複製画において、岩絵の具独特の凹凸感を発現させるための基礎となる層であり、所定の高低差を有する凹部と凸部とからなる層である。ここでいう高度差とは、特に限定されないが、好ましくは、100μm〜120μmである。
【0026】
下地凹凸層12は、少なくとも水性エマルジョンと、寒水粉と、炭酸カルシウム粉とを含む下地凹凸層形成用インキを用いて形成される層である。尚、下地凹凸層形式用インキは水系のインキであることが好ましい。下地凹凸層12は、少なくとも原画中であって岩絵の具による彩色が施されている領域に対応するように設けられているが、紙基材10又はホワイトインキ層11上の全面にわたって設けてもよい。
【0027】
下地凹凸層形成用インキにおいて、水性エマルジョンは接着剤としての機能を有し、ホワイトインキ層11への下地凹凸層12の密着性を高めるためのものである。水性エマルジョンとして、具体的には、アクリルエマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、エチレン酢酸ビニルエマルジョン、ウレタンエマルジョン等が挙げられる。この水性エマルジョンは、下地凹凸層形成用インキに20重量%〜25重量%含有せしめるのが好ましく、21重量%〜23重量%が特に好ましい。水性エマルジョンの含有量が20重量%未満であると、十分な密着性が得られずに、下地凹凸層が剥離し易くなったり、下地凹凸層に掠れが生じ易くなったりすることがある。一方、水性エマルジョンの含有量が25重量%を超えると、下地凹凸層に所望の凹凸を付けるのが難しくなり、岩絵の具独特の凹凸感を有する質感を得ることが難しい。
【0028】
寒水粉(方解石の粉)及び炭酸カルシウム粉(胡粉:牡蠣や帆立貝の粉)は、それぞれ岩絵の具独特の凹凸感を得るために必要な材料である。岩絵の具(天然岩絵の具、新岩絵の具、合成岩絵の具)には、方解石や胡粉などの粒状、粉状の原料鉱物が含有されており、本発明ではこのような実際に使われている岩絵の具材を下地凹凸層に含有せしめることにより、岩絵の具調の絵肌を美しく再現することができる。
【0029】
寒水粉は、下地凹凸層形成用インキに44重量%〜46重量%含有せしめるのが好ましい。44重量%未満であると、岩絵の具調が弱く、岩絵の具独特の凹凸感を有する質感を得ることが難しい。一方、46重量%を超えると、凹凸が目立ち過ぎてしまい満足できる岩絵の具調を得ることが難しくなると共に、インキの印刷適性が悪化する。
【0030】
前記寒水粉の最大粒径は、300μm以下が好ましい。岩絵の具に実際に含有されている方解石の粒径は概ね200μm以下であり、前記寒水粉の最大粒径が300μmを超えると、十分満足できる岩絵の具調を得るのが難しくなる。
【0031】
また、前記寒水粉は、その粒度分布において、粒径50μm〜80μmの範囲内に第一のピークを有し、粒径170μm〜230μmの範囲内に第二のピークを有するものが好ましい。尚、寒水粉の粒径は、原画に現れている凹凸に応じて適宜選択することができる。
【0032】
前記炭酸カルシウム粉の平均粒径は、3μm〜5μmが好ましい。岩絵の具に実際に含有されている胡粉(日本画の白色画材)の粒径は概ね5μm前後であり、前記炭酸カルシウム粉の平均粒径が5μmを超えると、十分満足できる岩絵の具調を得るのが難しくなる。また、前記炭酸カルシウム粉は、白色度が高い高純度のものが好ましい。
【0033】
岩絵の具画材の胡粉は、盛り上げたり、白色の下地を作る目的で使用されており、本発明の実施例で用いている炭酸カルシウム粉(商品名:シェルライム、北海道共同石灰(株)製)は、帆立貝殻を原料とし、平均粒径が3μm〜5μm、白色度が98%の高純度であることから、胡粉の質感を表現するのに最適である。
【0034】
下地凹凸層12上の所定の領域には、UVインキ層13が設けられている。このUVインキ層13は、原画の絵柄に同調して形成され複製画に立体感(凹凸感)を与える層である。ここで、同調して形成されるとは、原画の表面に現れている凹凸の調子に合わせるようにUVインキ層13が選択的に形成されていることをいう。より具体的には、原画の絵柄のうち凸状に浮き上がって山になっている領域にUVインキ層13が選択的に形成されていることをいう。
【0035】
UVインキ層13を形成する際に使用されるUVインキは、紫外光を照射することで硬化し、かつ厚盛塗装が可能な油性のインキである。具体的には、塩化ビニル系樹脂含有インキ、ウレタン系樹脂含有インキ、ポリエステル系樹脂含有インキ、アクリル系樹脂含有インキ等が挙げられる。
【0036】
上述したように、原画の絵柄に同調してUVインキ層13が形成されるので、UVインキ層13は、例えば、所望の領域(具体的には、原画の絵柄の凸状の領域)に孔を有するスクリーン版を使用して、原画の表面の凹凸形状に同調するように形成される。
【0037】
このスクリーン版は、原画の絵柄に基づいて作製される。具体的には、下記に示されるプロセスで行うのが好ましい。下記のプロセス((a)〜(d))で行うことにより、原画に忠実なスクリーン版を作製することができる。
(a)原画の表面形状を撮影(スキャニング)して撮影画像を得る
(b)得られた画像を原画の表面の凹凸形状の3Dデータに変換する
(c)上記3Dデータをグレースケール画像に変換する
(d)上記グレースケール画像に基づいて、凸状領域に該当する部分について孔(開口)を有するスクリーン版を作製する
【0038】
また岩絵の具調の立体感を出すという観点から、UVインキ層13の厚さは、160μm〜230μmの範囲内であることが好ましい。尚、UVインキ層13を形成する際に、上述のプロセスにより作製したスクリーン版(階調版)を使用している。このため、上述したUVインキを1回塗布すると、原画の表面に現れる凹凸の調子に合うように厚さが調整されたUVインキ層13を形成することができる。尚、部分的に凹凸をさらに強調させる目的でUVインキを複数回(例えば、2回)塗布してもよい。
【0039】
UVインキ層13上には隠蔽層14が形成されている。UVインキ層13は、岩絵の具の絵画では見られない質感、即ち、表面の滑らかさ及び表面の照りがある。そこで、UVインキ層13が形成されている領域に、岩絵の具調の質感(ざらざら感、凹凸感)を付加させつつ、上記照りを隠蔽する目的で隠蔽層14を設ける。
【0040】
このように、図1の複製画1は、下地凹凸層12上の所定の領域に、UVインキ層13と隠蔽層14とからなる積層体が設けられている。この積層体により図1の複製画1は、岩絵の具特有の凹凸感を有することができる。また上記積層体は原画の絵柄に同調して形成されるので、原画に現れている凹凸感をより忠実に再現することができる。
【0041】
また隠蔽層14は、下地凹凸層12を形成する際に使用されるインキと同様に、少なくとも水性エマルジョンと、寒水粉と、炭酸カルシウム粉とを含む隠蔽層形成用インキを塗布して形成される層である。尚、隠蔽層形成用インキは、水系のインキであることが好ましい。また水性エマルジョンは、下地凹凸層形成用インキに含まれる水性エマルジョンと同様のものを使用することができる。ただし、隠蔽層形成用インキの組成は、必ずしも下地凹凸層形成用インキと同じにする必要はない。例えば、水性エマルジョンと、炭酸カルシウム粉と、寒水粉とを、それぞれ20重量%〜25重量%、10重量%〜12重量%、44重量%〜46重量%としてもよい。また隠蔽層形成用インキに含まれる寒水粉は、下地凹凸層形成用インキに含まれる寒水粉と同じでもよいが、上述した粒径の範囲内であれば、下地凹凸層形成用インキに含まれる寒水粉とは異なる寒水粉を使用してもよい。同様に、隠蔽層形成用インキに含まれる炭酸カルシウム粉は、下地凹凸層形成用インキに含まれる炭酸カルシウム粉と同じでもよいが、上述した粒径の範囲内であれば、下地凹凸層形成用インキに含まれる炭酸カルシウム粉とは異なる炭酸カルシウム粉を使用してもよい。
【0042】
一方、UVインキ層13上に選択的に隠蔽層14が形成されるために、隠蔽層14を形成する際には、UVインキ層13を形成する際に使用する版と同一の版を使用するのが望ましい。同一の版を使用することにより、印刷の見当合わせが容易となるので、原画が有する凹凸感を忠実に再現することができる。
【0043】
隠蔽層14の厚さは、好ましくは、60μm〜130μm程度である。尚、隠蔽層14は、UVインキ層13を形成する際に使用したスクリーン版(階調版)を使用するので、UVインキ層13と同様に原画の表面に現れる凹凸の調子に合うように厚さが調整された隠蔽層14が形成される。
【0044】
隠蔽層14上、及び隠蔽層14が形成されていない下地凹凸層12上には、これらの層を覆うように補助隠蔽層15が形成されている。
【0045】
補助隠蔽層15は、少なくとも水性エマルジョンと、炭酸カルシウム粉とを含む補助隠蔽層形成用インキを塗布して形成される層である。尚、補助隠蔽層形成用インキは、水系のインキであることが好ましい。また水性エマルジョンは、下地凹凸層形成用インキに含まれる水性エマルジョンと同様のものを使用することができる。補助隠蔽層形成用インキに含まれる水性エマルジョン及び炭酸カルシウム粉の含有量は、それぞれ35重量%〜40重量%、18重量%〜20重量%が好ましい。ただし、炭酸カルシウム粉の含有量を多くすると、炭酸カルシウム粉の粒子によって隠蔽層14や下地凹凸層12によって形成された凹凸が埋まる場合がある。このため、炭酸カルシウム粉の含有量は適宜調整する必要がある。ここで補助隠蔽層形成用インキに含まれる炭酸カルシウム粉は、下地凹凸層形成用インキや隠蔽層形成用インキに含まれる炭酸カルシウム粉と同じであってもよい。また、下地凹凸層形成用インキや隠蔽層形成用インキに含まれる炭酸カルシウム粉よりも粒径が小さい炭酸カルシウム粉を使用してもよいし、粒径が大きい炭酸カルシウム粉を使用してもよい。ただし、その粒径が、寒水粉の粒径よりも小さい炭酸カルシウム粉を使用する。尚、補助隠蔽層15の膜厚は特に限定されないが、隠蔽層14や下地凹凸層12の形成によってもたらされる凹凸を埋めないように適宜調整される。
【0046】
ここで、補助隠蔽層15は、必ず設ける必要はないが、隠蔽層14と同様にUVインキ層13によってもたらされる立体感を生かしつつ、UVインキ層13に由来する照りを見えなくすることができることから、設けるのが好ましい。
【0047】
上述したように、隠蔽層14は、UVインキ層13を形成するときに使用されるスクリーン版と同一の版を使用して、下地凹凸層12上の所定の領域に形成される。ただし、隠蔽層14を形成する際に、印刷の検討のずれ等からUVインキ層13の端部等に印刷ムラが生じる場合がある。この印刷ムラが生じると、当該印刷ムラからUVインキ層13由来の照りが見えてしまう。
【0048】
ここで、上記隠蔽層形成用インキを複製画の全面に亘って塗布すれば、上述した印刷ムラが生じることなく、UVインキ層13上に隠蔽層形成用インキを塗布することができるので、上述した照りの問題は解消できる。しかし隠蔽層形成用インキを塗布する際に、当該インキの一部がUVインキ層13が形成されていない領域まで入り込み、下地凹凸層12及びUVインキ層13によってもたらされた凹凸を埋めることになる。この結果、下地凹凸層12及びUVインキ層13によってもたらされる立体感が損なわれることとなる。
【0049】
そこで、隠蔽層14をUVインキ層13上に選択的に形成した後、隠蔽層14上及び下地凹凸層12上に補助隠蔽層15を形成する。ここで補助隠蔽層形成用インキを塗布すると、補助隠蔽層用インキが上記印刷ムラに入り込んで、上記印刷ムラを埋めることができる。このためUVインキ層13由来の照りを確実に隠蔽することができる。また上述したように、補助隠蔽層形成用インキは、寒水粉のような粒径が大きい材料が含まれていないので、下地凹凸層12及びUVインキ層13によってもたらされた凹凸を埋めることはない。
【0050】
一方で、補助隠蔽層形成用インキに含まれる炭酸カルシウム粉は、UVインキ層13由来の照りを隠蔽する力が弱いので、隠蔽層14を設けないでUVインキ層13上に補助隠蔽層用インキを塗布したとしても、UVインキ層13由来の照りを隠蔽することができない。
【0051】
補助隠蔽層15上には、受容層16が形成されている。尚、受容層16は、補助隠蔽層15上の全面において形成させる必要はない。原画となる日本画が、岩絵の具を重ね塗りしながら完成させることを考慮すると、受容層16は、少なくとも補助隠蔽層15のうち隠蔽層14を覆う補助隠蔽層15a上に受容層16を設ける必要がある。
【0052】
本発明では凹凸形状を有する面にオリジナル画像に対応した絵柄層17を形成するが、この絵柄層17の形成には非接触型のインクジェット方式が好適である。このため、前記下地凹凸層12上及び隠蔽層14上には、インクジェットプリンターによる印刷適性を有する受容層16が形成されている。
【0053】
従来よりインクジェットプリンターによる印刷適性を持つ受容層16には、インキ発色性、インキ吸収性に優れ、高精細な画質・高い印字濃度を発現するために、シリカや炭酸カルシウム等の顔料を利用することは広く知られている。
【0054】
しかしながら、本発明では凹凸形状を有する補助隠蔽層15上に受容層16を設けるため、従来の受容層の組成では十分な密着性が得られず、表面剥離し易くなるという問題がある。
【0055】
このため本発明においては、従来の受容層の組成に加え、さらに硬化剤を含有する受容層形成用インキを用いて受容層16を形成するのが好ましい。また受容層形成用インキは水系のインキであることが好ましい。
【0056】
前記硬化剤としては水酸基と架橋反応する例えばイソシアネート等が適宜用いられる。この硬化剤は、受容層形成用インキに6.5〜11.5重量%の割合で含有せしめるのが好ましい。6.5重量%未満であると、硬化剤による十分な効果が得られず、密着性が不十分となり易い。一方、11.5重量%を超えると、十分な密着性が得られるものの、絵柄層17を形成した際に色の鮮やかさが劣る結果となり易い。
【0057】
また、受容層形成用インキには、岩絵の具画材の胡粉の質感を十分に表現するために、平均粒径が3μm〜5μmであり、白色度が高く、白色度98%以上の高純度の炭酸カルシウム粉を含有せしめるのが好ましい。
【0058】
受容層16の厚さは12μm〜25μm程度であり、その表面は前述のような岩絵の具調の凹凸を有する下地凹凸層12、又は下地凹凸層12、UVインキ層13及び隠蔽層14からなる積層体によってもたらされる凹凸形状を反映したものとなる。
【0059】
受容層16上には絵柄層17が形成される。絵柄層17は、受容層16上にインクジェットプリンターによって形成される。岩絵の具調の凹凸を有する下地凹凸層12及び同調岩絵具様凹凸層14によって形成される凹凸形状を反映した受容層16の表面に形成される絵柄層17は、それ自体が岩絵の具調の凹凸を表現でき、より本物に近い岩絵の具独特の凹凸感を有し、質感の高い複製画が得られる。
【実施例】
【0060】
[実施例1]
図1に示される複製画を、以下に示す方法により作製した。
【0061】
[ホワイトインキ層の形成]
紙基材10である画材紙(商品名:ロベールホワイト、共同印刷製、坪量:276g/m2)上に、シルクインキ(商品名:JRPホワイト、株式会社小林美研製)を塗布して、ホワイトインキ層11を形成した。尚、ホワイトインキ層11は、下記に示す条件下で形成した。
印刷方式:シルクスクリーン
版・感材膜厚:8μm
版・メッシュ:200メッシュ
版・網:ベタ(100%)
【0062】
[下地凹凸層の形成]
次に、ホワイトインキ層11上に、下地凹凸層用インキ(桜宮化学株式会社製、エチレン酢酸ビニルエマルジョン含有)を塗布して下地凹凸層12を形成した。尚、下地凹凸層12は、下記に示す条件下で形成した。
印刷方式:シルクスクリーン
版・感材膜厚:8μm
版・メッシュ:80メッシュ
版・網:ベタ(100%)
【0063】
[UVインキ層の形成]
次に、下地凹凸層12上であって、塩化ビニル系透明インキ(商品名:UV4700クリアー、株式会社小林美研製)を塗布してUVインキ層13を形成した。尚、UVインキ層13は、原画のスキャニングによる原画の凹凸の評価に基づいて凸部に該当する領域に孔を有するスクリーンを使用し、かつ下記に示す条件下で形成した。
印刷方式:シルクスクリーン
版・感材膜厚:60〜70μm
版・メッシュ:80メッシュ
版・網:網点階調(60〜70線)
【0064】
[隠蔽層の形成]
次に、UVインキ層13上に、隠蔽層用インキ(桜宮化学株式会社製、エチレン酢酸ビニルエマルジョン含有)を塗布して隠蔽層14を形成した。尚、隠蔽層14は、UVインキ層13を形成する際に使用したスクリーンと同じスクリーンを使用し、下記に示す条件下で形成した。
印刷方式:シルクスクリーン
版・感材膜厚:60〜70μm
版・メッシュ:80メッシュ
版・網:網点階調(60〜70線)
【0065】
[補助隠蔽層の形成]
隠蔽層14を形成した後、下地凹凸層12及び隠蔽層14を覆うように、方解石(寒水石)の粉末が含まれていない補助隠蔽層用インキ(桜宮化学株式会社製、エチレン酢酸ビニルエマルジョン含有)を塗布して補助隠蔽層15を形成した。尚、補助隠蔽層15は、下記に示す条件下で形成した。
印刷方式:シルクスクリーン
版・感材膜厚:8μm
版・メッシュ:80メッシュ
版・網:ベタ(100%)
【0066】
[受容層の形成]
次に、補助隠蔽層15上に、受容層用インキ(商品名:KP−02コート(白)、桜宮化学株式会社製)を塗布して受容層16を形成した。尚、受容層16は、下記に示す条件下で形成した。
印刷方式:シルクスクリーン
版・感材膜厚:8μm
版・メッシュ:150メッシュ
版・網:ベタ(100%)
【0067】
[絵柄層の形成]
次に、受容層16上にインクジェットプリンターによって絵柄層17を形成した。以上により複製画を作製した。
【0068】
[複製画の評価]
作製した複製画を目視し、下記に示される項目の評価を行った。
(1)原画が有する質感(凹凸)の再現性
○:岩絵の具調が忠実に再現されている
△:岩絵の具調が少し再現されている
×:岩絵の具調が全く再現されていない
(2)照りの評価
○:照りがほとんど見られない
△:一部照りが見られる
×:UVインキ層を形成した領域の大半に照りが見られる
【0069】
評価結果を表1に示す。
【0070】
[実施例2]
実施例1において、補助隠蔽層15の形成を省略したことを除いては実施例1と同様の方法により複製画を得た。
【0071】
作製した複製画について、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0072】
[比較例1]
実施例1において、隠蔽層14を形成する際に、隠蔽層用インキを全面(UVインキ層13上及び下地凹凸層12上)に亘って塗布した。また補助隠蔽層15の形成を省略した。これらを除いては、実施例1と同様の方法により複製画を得た。
【0073】
作製した複製画について、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0074】
[比較例2]
実施例1において、隠蔽層14の形成を省略したことを除いては、実施例1と同様の方法により複製画を得た。
【0075】
作製した複製画について、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0076】
[比較例3]
実施例1において、UVインキ層13、隠蔽層14及び補助隠蔽層15の形成を省略したことを除いては、実施例1と同様の方法により複製画を得た。
【0077】
作製した複製画について、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0078】
[比較例4]
実施例1において、隠蔽層14及び補助隠蔽層15の形成を省略したことを除いては、実施例1と同様の方法により複製画を得た。
【0079】
作製した複製画について、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
上記表より、本発明の複製画は、原画が有する岩絵の具調の質感の再現性がよく、かつUVインキ層13由来の照りを隠蔽していることがわかった。
【符号の説明】
【0082】
1 複製画
10 紙基材
11 ホワイトインキ層
12 下地凹凸層
13 UVインキ層
14 隠蔽層
15 補助隠蔽層
16 受容層
17 絵柄層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材上に形成され、寒水粉と、炭酸カルシウム粉とを含む下地凹凸層と、
該下地凹凸層上であって、原画の絵柄に同調して形成されるUVインキ層と、
該UVインキ層上に形成され、寒水粉と、炭酸カルシウム粉とを含む隠蔽層と、
少なくとも該隠蔽層上に形成される受容層と、
該受容層上に形成される絵柄層と、
を有することを特徴とする複製画。
【請求項2】
紙基材上に形成され、寒水粉と、炭酸カルシウム粉とを含む下地凹凸層と、
該下地凹凸層上であって、原画の絵柄に同調して形成されるUVインキ層と、
該UVインキ層上に形成され、寒水粉と、炭酸カルシウム粉とを含む隠蔽層と、
該下地凹凸層と該隠蔽層とを覆うように形成され、炭酸カルシウム粉を含む補助隠蔽層と、
該補助隠蔽層のうち、少なくとも該隠蔽層を覆う補助隠蔽層上に形成される受容層と、
該受容層上に形成される絵柄層と、
を有することを特徴とする複製画。
【請求項3】
紙基材上に、水性エマルジョンと、寒水粉と、炭酸カルシウム粉とを含有する下地凹凸層形成用インキを用いて、下地凹凸層を形成する工程と、
前記下地凹凸層上に、UVインキを用いてUVインキ層を形成する工程と、
前記UVインキ層上に、水性エマルジョンと、寒水粉と、炭酸カルシウム粉とを含有する隠蔽層形成用インキを用いて、隠蔽層を形成する工程と、
少なくとも前記隠蔽層上に、受容層形成用インキを用いて、受容層を形成する工程と、
前記受容層上に、インクジェットプリンターによって絵柄層を形成する工程と、を有し、
前記UVインキ層を形成する工程が、前記原画の表面の凹凸形状に関するデータに基づいてスクリーン版を作製する工程と、該スクリーン版を使用して前記原画の表面の凹凸形状に同調するように前記UVインキ層を形成する工程と、を有することを特徴とする複製画の製造方法。
【請求項4】
紙基材上に、水性エマルジョンと、寒水粉と、炭酸カルシウム粉とを含有する下地凹凸層形成用インキを用いて、下地凹凸層を形成する工程と、
前記下地凹凸層上に、UVインキを用いてUVインキ層を形成する工程と、
前記UVインキ層上に、水性エマルジョンと、寒水粉と、炭酸カルシウム粉とを含有する隠蔽層形成用インキを用いて、隠蔽層を形成する工程と、
前記隠蔽層上及び前記下地凹凸層上に、水性エマルジョンと、炭酸カルシウム粉とを含有する補助隠蔽層形成用インキを用いて、補助隠蔽層を形成する工程と、
前記補助隠蔽層のうち、少なくとも前記隠蔽層を覆っている補助隠蔽層上に、受容層形成用インキを用いて、受容層を形成する工程と、
前記受容層上に、インクジェットプリンターによって絵柄層を形成する工程と、を有し、
前記UVインキ層を形成する工程が、前記原画の表面の凹凸形状に関するデータに基づいてスクリーン版を作製する工程と、該スクリーン版を使用して前記原画の表面の凹凸形状に同調するように前記UVインキ層を形成する工程と、を有することを特徴とする複製画の製造方法。
【請求項5】
前記隠蔽層を形成する工程において、前記UVインキ層を形成する工程で使用したスクリーン版と同一の版を使用することを特徴とする請求項3又は4に記載の複製画の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−183674(P2011−183674A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51523(P2010−51523)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000162113)共同印刷株式会社 (488)
【Fターム(参考)】