説明

褐変酵素阻害剤

【課題】褐変酵素の活性を抑制する剤を提供する。
【解決手段】褐変酵素阻害剤の有効成分として、ネギ類植物に含まれる成分であるジまたはトリスルフィド化合物を用いる。また褐変酵素阻害剤の有効成分として、ネギ類植物のジスルフィド化合物含有画分またはトリスルフィド化合物含有画分を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は褐変酵素阻害剤に関する。詳しくは、食経験のある安全な植物、とくにネギ類植物に含まれる成分を有効成分とする褐変酵素阻害剤に関する。当該褐変酵素阻害剤は、飲食物、特に野菜や果物の酵素的褐変を有意に抑制することができ、酵素的褐変防止剤として有効に利用することができる。
【背景技術】
【0002】
自然界では、様々な褐変現象が知られている。この褐変現象を機構的に区別すると、酵素的褐変と非酵素的褐変に分けることができる。酵素的褐変は褐変酵素によって生じ、非酵素的褐変はメイラード反応によるものが代表的である。
【0003】
野菜や果物の酵素的褐変を止める手段は、これまで農産物製造者や流通販売者などの至る分野で検討されてきた。特に食品において、この酵素的褐変は食品の色や香りの変化を伴うことから直ちに商品価値の低下につながるため、酵素的褐変を抑制することは重要な課題である。
【0004】
酵素による褐変反応は、食品中に含まれるポリフェノールを基質とした、主として、(1)鉄ポルフィリンタンパクで過酸化水素を酸素供与体とするパーオキシダーゼ(EC1.11.1.7)、または(2)銅を含むたんぱく質で分子状酸素を水素受容体とするポリフェノールオキシダーゼ(PPO)の酸化反応によるものといわれている。食品の変色は主としてポリフェノールオキシダーゼの酸化作用に起因する。
【0005】
さらに、ポリフェノールオキシダーゼは、基質とその酸化の形式によって、さらに下記の3種に分類される。
(i)o−ジフェノールオキシダーゼ(カテコラーゼともいう):
o−ジフェロールやトリフェノールを基質とし、これを酸化してo−キノンを生成する酵素。この酵素は主にタバコ、カンショ、茶などに含まれる。
(ii)ラッカーゼ:
p−ジフェノールを基質とし、これを酸化してp−キノンを生成する酵素。この酵素はウルシ等に含まれる。
(iii)モノフェノールモノオキシダーゼ(クレソラーゼまたはチロシナーゼともいう):
モノフェノールをジフェノールに酸化してキノンを生成するクレゾラーゼ活性を有する酵素。したがってこのクレソラーゼはカテコラーゼの機能も持つ。ヒト、哺乳類のチロシンを酸化し、ドーパミンを生成する酵素をチロシナーゼというが、これもクレソラーゼの一種である。
【0006】
しかし、これらの酵素は別々の酵素として明確に区別することができないことが多いので、通常は一括して「ポリフェノールオキシダーゼ」として規定されている。なお、ポリフェノールオキシダーゼは褐変酵素とも定義されている(例えば、非特許文献1参照)。ポリフェノールオキシダーゼは金属酵素の一つで、銅を含むことを特徴とする。活性型は一価の銅イオンを含み、酸素を取り込んで、二価の状態に変化する。この二価イオンの状態でジフェノールと反応してキノンに変化し、一価の銅イオン状態に戻ることが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0007】
酵素的褐変を抑制する方法として、ポリフェノールオキシダーゼの活性中心である銅の役割を抑える方法がある。例えば、アジ化ナトリウム(NaN)、シアン化カリウム、ジエチルジチオカルバメート、チオ尿素、ハロゲン化塩(食塩)、コウジ酸などの漂白剤、またはEDTAや重合リン酸塩などのキレート剤を使用することでポリフェノールオキシダーゼの酵素活性を阻害することができるが、このうち食品に使用できるものは食塩にほぼ限定される。
【0008】
また、フィチン酸によって褐変を防止する方法が見出されているが、呈味に影響を与える収れん性があるため、使用できる用途は限定される(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
また、塩化アルカリ化合物(食塩など)とpH調整剤(クエン酸、リンゴ酸、ピルビン酸など)を組み合わせることによって、果実や野菜の褐変を防止する方法が試みられている。しかし、その効果成分は電気分解によって発生する次亜塩素酸塩であり、風味の点で実用性に乏しい(例えば、特許文献2参照、非特許文献3参照)。
【0010】
また、ポリフェノールオキシダーゼに対する拮抗的阻害成分として、ケイ皮酸、安息香酸、フェニルプロピオン酸、およびフェニル酢酸などが、当該酵素の活性を阻害することが報告されている(例えば、非特許文献4および5参照)。かかる成分として、他にもアルブチン(コケモモの葉由来)、グリフォリン(grifolin)やネオグリフォリン(neogrifolin、マイタケ由来のチロシナーゼ阻害剤が知られているが、褐変を防止する能力は弱く、実用化には至っていない(例えば、非特許文献10参照)。
【0011】
さらにポリフェノールオキシダーゼに対する非拮抗的阻害成分として、ポリフェノールオキシダーゼの疎水領域に結合して、その活性を阻害する物質、具体的には、脂肪族高級脂肪酸アルコールや二酸化炭素が報告されている(例えば、非特許文献11参照)。しかし、これらの阻害成分も活性が低く、実用化されていない。
【0012】
また、ポリフェノールオキシダーゼの酵素作用によって生成したキノンを還元する還元剤の利用も検討されている。代表的なものには、アスコルビン酸塩類、システインやグルタチオンなどで代表されるチオール化合物(SH)及び亜硫酸ナトリウムや二酸化イオウなどの亜硫酸塩が挙げられる。しかし、これらの還元剤はアスコルビン酸塩を除いて、食品分野には使用基準や使用の制限等があり、幅広く利用できないのが現状である。
【0013】
さらに、上記の方法以外にも、物理的な手段として、加熱による酵素の不活性化(ブランチング)、マイクロ波加熱、超音波振動、または二酸化炭素による超臨界抽出方法を用いた加圧方法などの検討がなされているが、褐変を抑制するには十分な方法とはいえない(例えば、非特許文献6参照)。
【0014】
その他、タンパク質分解酵素を用いて褐変を防止する方法として、パパイン、フィシン(イチジク由来)、ブロメライン(パイナップル由来)などのスルフィドリル酵素(イオウの作用によって還元する酵素)を用いる方法も報告されているが(例えば、非特許文献7、特許文献3参照)、これも実用化されていない。
【0015】
また、褐変の要因となる酸素を遮断するために、脱酸素剤を併用する試みがなされているが、野菜や果実などの生鮮品では、確実に酸素を除去することが難しいのが現状である(例えば、特許文献4参照)。
【0016】
従来からタマネギ搾汁液にポリフェノールオキシダーゼ活性に対する阻害作用があることが知られており、例えば、タマネギ搾汁液によってカットレタスの褐変が遅延することが報告されている。しかし、タマネギに含まれるどういった成分が上記効果を発揮しているのかは明らかにされていない(例えば、非特許文献8および9)。
【特許文献1】特公昭54−34068号公報
【特許文献2】特開平9−187221号公報
【特許文献3】公開平3−228641号公報
【特許文献4】公開平2−92236号公報
【非特許文献1】木村進、中林敏郎、加藤博通編著、食品の変色の化学、pp72、光琳(1980)
【非特許文献2】五十嵐脩、食品化学、pp168、弘学出版(1980)
【非特許文献3】井上健夫、SAN-EI NEWS NO.152、p36(1991)
【非特許文献4】木村進、中林敏郎、加藤博通編著、食品の変色の化学、pp90、光琳(1980)
【非特許文献5】Janovity-Klapp et al.:J.Agric.Food Chem.,38,927(1990)
【非特許文献6】Lilly、V.V.,Prevention of enzymatic browning in fruits and vegetables:A review of principles and practice. In"Enzymatic browning and its prevention" eds. Lee.,C.Y. and Whitaker,J.R.,ACS Symposium Series 600,pp49-62(1995)
【非特許文献7】labuza,T.P.,Lillemo,J.H.,Taoukis,P.S.,Fl.Obst 59,15-20(1992)
【非特許文献8】池田浩暢、細田浩、岩橋由美子;日本食品保蔵科学会誌、28(1)、3−8(2002)
【非特許文献9】細田浩、岩橋由美子、與座宏一;園学雑、69(4)、512−516(2000)
【非特許文献10】府薬雑、1月号 p3(1991)
【非特許文献11】Albuisu,I., King,R.D., Kozlov,I.A., J.Agric.Food Chem., 37, 775-776(1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、野菜や果物などの食品に酵素的褐変をもたらす褐変酵素の活性を阻害することにより、当該食品の褐変を防止することを目的とする。より具体的には、本発明は野菜や果物などの酵素的褐変防止に有効に使用することのできる褐変酵素阻害剤を提供することを目的とする。当該褐変酵素阻害剤は、褐変防止剤として、野菜や果物などの酵素的褐変の防止に有効に使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、従来から天然抽出物の機能に着目し、とくに褐変酵素の活性を阻害する天然抽出物について鋭意研究を行ってきた。その結果、ネギ科植物に含まれているジスルフィド化合物およびトリスルフィド化合物が当該褐変酵素の活性阻害に優れた効果があることを見出した。なお、これらのスルフィド化合物はネギ科植物の抽出物や精油に含まれている成分である。
さらに本発明者らは、これらのスルフィド化合物が、飲食物に不都合な香味変化を生じることなく、褐変酵素の活性阻害作用に基づいて優れた褐変防止効果を発揮することを確認した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
【0019】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様を含む。
項1.ジスルフィド化合物およびトリスルフィド化合物から選択される少なくとも一種のスルフィド化合物を有効成分として含有する褐変酵素阻害剤。
項2.ジまたはトリスルフィド化合物の官能基が、メチル基、プロピル基、アリル基およびイソプロピル基からなる群から選択されるいずれか1つ、またはその組み合わせである、項1記載の褐変酵素阻害剤。
項3.有効成分がジメチルジスルフィドおよびジメチルトリスルフィドからなる群から選択される少なくとも1つである、項1または2記載の褐変酵素阻害剤。
項4.ネギ類植物のジスルフィド化合物含有画分またはトリスルフィド化合物含有画分を有効成分とするものである、項1乃至3のいずれかに記載の褐変酵素阻害剤。
項5.上記ジスルフィド化合物含有画分またはトリスルフィド化合物含有画分がネギ類植物の抽出画分である、項4記載の褐変酵素阻害剤。
項6.褐変酵素がポリフェノールオキシダーゼであることを特徴とする項1乃至5のいずれかに記載の褐変酵素阻害剤。
項7.ポリフェノールオキシダーゼがラッカーゼであることを特徴とする項6記載の褐変酵素阻害剤。
【発明の効果】
【0020】
本発明の褐変酵素阻害剤によれば、褐変酵素の活性を阻害することによって、当該褐変酵素によって生じる野菜や果物などの食品の褐変を抑制することができる。特に新鮮さが売りになるこれらの食品において、変色(褐変化)は直ちに商品価値の低下につながる重大な問題である。本発明は、野菜や果物などの食品についてこうした酵素的褐変を抑制するため、食品の品質や商品価値を保持するうえで有効に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明が対象とする褐変酵素とは、褐変をもたらす作用を有する酵素を広く意味する。好ましくはポリフェノールオキシダーゼやパーオキシダーゼ等の酸化酵素であり、より好ましくはポリフェノールオキシダーゼである。ポリフェノールオキシダーゼは、ジフェノールなどのフェノール化合物を基質としてキノン化合物を生成する能力を有するものであればよく、o−ジフェノールオキシダーゼ、ラッカーゼ、およびモノフェノールモノオキシダーゼなどの別を問わない。好ましくはラッカーゼである。
【0022】
本発明の褐変酵素阻害剤は、かかる褐変酵素の活性を阻害する作用を有するものである。よって、本発明の褐変酵素阻害剤によれば、これらの褐変酵素の作用によって生じる事象、特に野菜や果物をはじめとする食品の褐変を抑制することができる。
【0023】
本発明の褐変酵素阻害剤は、ジスルフィド化合物およびトリスルフィド化合物から選択される少なくとも1種のスルフィド化合物を有効成分とすることを特徴とする。
【0024】
これらのジまたはトリスルフィド化合物は、任意の官能基で修飾されていてもよい。たとえば、かかる修飾されてなるジまたはトリスルフィド化合物には、1または2の、炭素数1〜12、好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜4の直鎖または分枝状の鎖状アルキル基で修飾されてなるジまたはスルフィド化合物が含まれる。なお、化合物に位置するイオウの位置は任意でよい。
【0025】
ここで典型的な鎖状アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ペブチル基、メチルプロピル基、4,4−ジメチルペンチル基、オクチル基、2,4,4−トリメチルペンチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、並びにこれらの分枝鎖状異性基および同様の基を例示することができる。好ましくは、炭素数1〜4の低級アルキル基であり、より好ましくはメチル基、プロピル基およびイソプロピルである。
【0026】
鎖状アルキル基で修飾されてなるジスルフィド化合物としては、より具体的には、ジメチルジスルフィド、ジプロピルジスルフィド、イソプロピルジスルフィド、およびメチルプロピルジスルフィドなどを挙げることができる。また鎖状アルキル基で修飾されてなるトリスルフィド化合物としては、より具体的には、ジメチルトリスルフィド、ジプロピルトリスルフィド、イソプロピルトリスルフィド、およびメチルプロピルトリスルフィドなどを挙げることができる。好ましくはジメチルジスルフィドおよびジメチルトリスルフィドであり、より好ましくはジメチルトリスルフィドである。
【0027】
また、本発明で用いられるジまたはトリスルフィド化合物には、1または2のアリル基(1−プロペニル基)で修飾されてなるジまたはトリスルフィド化合物も含まれる。かかるスルフィド化合物は、アリル基とともに上記アルキル基で修飾されていてもよい。かかるものとして、ジアリルジスルフィドやジアリルトリスルフィドといったジアリルスルフィド化合物;アリルプロピルジスルフィドやアリルプロピルトリスルフィドといったアリルプロピルスルフィド化合物;アリルメチルジスルフィドやアリルメチルトリスルフィドといったアリルメチルスルフィド化合物を例示することができる。
【0028】
本発明で使用するジまたはトリスルフィド化合物の修飾官能基の種類は、本発明の効果を奏することを限度として、上記の特定基に限定されることはなく任意である。本発明の褐変酵素阻害剤は、有効成分としてこれらのスルフィド化合物を1種単独で含むものであってもよいし、または2種以上を任意に組み合わせて含有することもできる。
【0029】
また、これらのジスルフィド化合物およびトリスルフィド化合物の由来は問わず、合成品であっても天然物に由来するものであってもよい。
【0030】
好ましくは、植物に由来するジまたはトリスルフィド化合物であり、より好ましくはネギ類植物に由来するジまたはトリスルフィド化合物である。
【0031】
ネギ類植物はユリ科の植物であり、たとえば、タマネギ、ニンニク(りん茎)、リーキ、ラッキョウ、アサギ、ワケギ、ネギ(青)、ネギ(白)、ユリ(根茎)、アマドコロ、アマナ、エンレイソウ、オモト、カタクリ、ニラ(葉)、キダチアロエ(葉)、コバイケイソウ(根、根茎)、コヤブラン、ジャノヒゲ、スズラン、バイケイソウ、ハナスゲ、イヌサフラン(種子)などを挙げることができる。また具体的な野菜としてはタマネギ、ネギ(白)、ラッキョウ、ニンニクなどを挙げることができる。より好ましくはタマネギである。
【0032】
ネギ類の一つ、タマネギ(Allium cepa LINNE)には多数の栽培種があり、選別、品種改良によって異なった種類が作り出されている。タマネギの品種は甘タマネギと辛タマネギの2つのグループに大別することができる。甘タマネギはスペインやイタリアなどで栽培されるが、日本ではほとんど栽培されていない品種である。一方、辛タマネギは中央アジア(ルーマニア、ユーゴスラビア)を経由してアメリカを経て日本に導入されたものであり、日本で一般的に栽培されているものはほとんどこのグループに入る。本発明で用いられるタマネギは、これら甘タマネギと辛タマネギの別を問わず、いずれのタマネギをも使用することができる。辛タマネギとしては、そらち黄、ひぐま、セキホク、天心、月交、北もみじ86、もみじ、及びスーパー北もみじなどの晩生タイプのタマネギを挙げることができ、本発明においても好適に用いることができる。これらのタマネギは農協や、スーパーや商店などの小売り業者等から容易に入手可能である。
【0033】
これらのネギ類植物にはジスルフィド化合物やトリスルフィド化合物が含まれている。これらのネギ類に含まれるジまたはトリスルフィド化合物としては、ハイドロゲンスルフィド(hydrogen sulfide)、プロピレンスルフィド、ジメチルスルフィド、メチルプロピルスルフィド、メチル1−プロピルスルフィド、アリルメチルスルフィド、1−プロペニルプロピルスルフィド、ジアリルスルフィドおよびビス(1−プロピル)スルフィドの、ジスルフィドおよびトリスルフィドが報告されている(特許庁発行:特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品用香料、pp856、平成12(2000).1.14発行)。
【0034】
本発明において、褐変酵素阻剤の有効成分として、ネギ類植物に由来するジまたはトリスルフィド化合物を用いることができる。また、褐変酵素阻剤の有効成分として、ネギ類植物の、ジスルフィド化合物を高い割合または選択的に含有するジスルフィド化合物含有画分、またはトリスルフィド化合物を高い割合または選択的に含有するトリスルフィド化合物含有画分を用いることもできる(以下、これらの画分を包括的に「スルフィド化合物含有画分」ともいう)。
【0035】
また当該スルフィド化合物含有画分として、ネギ類植物の精油を用いることもできる。たとえば、タマネギの精油には、ジ−2−プロペニルスルフィド、ジメチルジスルフィド、メチル−2−プロペニルジスルフィド、ジプロピルジスルフィド、プロピル−2−プロペニルジスルフィド、cis−及びtrans−1−プロペニルプロピルジスルフィド、ジ−2−プロペニルジスルフィド、ジメチルトリスルフィド、メチルプロピルトリスルフィド、ジプロピルトリスルフィド、イソプロピルプロピルトリスルフィド、1−プロペニルプロピルトリスルフィド、(Z)−1−プロペニルプロピルトリスルフィド、(E)−1−プロペニルプロピルトリスルフィド、アリルプロピルトリスルフィド、ジプロピルトリスルフィド、ジ−2−プロペニルトリスルフィド、アリルメチルトリスルフィド、ジアリルトリスルフィド、ジ−2−プロペニルテトラスルフィド、メタンチオール、2−ヒドロキシプロパンチオール、チオプロパナール、2−チオプパナール、3−ヒドロキシチオプロパナール、チオシアン酸、メチルチオスルフィネート、3,4−ジメチルチオフェンなどが含まれていることが知られている(Agnes Sass-Kiss et al, J.Sci.Food Agri.1998,76,189-194;Sinha et al, J.Agric.Food Chem.1992,40,842-845; J.Agri. Food Chem.1980,28,1037-1038; Boelens et al,J.Agr.Food Chem.1971,19,NO.5,984-991; Henk Maarse ed.,Volatilecompounds in foods and beverages, 1991,Marrcel Dekker 203-271)。なお、タマネギに含まれる精油の含量は約0.1%前後である。
【0036】
なお、タマネギの精油中に含まれるジスルフィド化合物の割合は、ジプロピルジスルフィドが約86%、プロピルアリルジスルフィド6%;ニンニクの精油には、ジアリルジスルフィドが74%、メチルアリルジスルフィド22%;ニラの精油には、メチルプロピルジスルフィドが54%、ジプロピルジスルフィド38%;ラッキョウの場合は、ジメチルジスルフィドが87%;アサツキの精油には、ジプロピルジスルフィド63%;ネギの精油には、ジプロピルジスルフィド65%の割合で含まれている。
【0037】
ジまたはトリスルフィド化合物またはスルフィド化合物含有画分の取得に使用されるネギ類植物の部位は、特に制限されず、ネギ類植物の全植物体であっても、また、部分部位、例えば、葉、茎、根、花またはりん茎(可食部)のいずれであってもよい。好ましくは可食部であり、例えばネギ類植物としてタマネギを使用する場合は、葉及びりん茎(可食部)を好適な部位として用いることができる。
【0038】
ネギ類植物に含まれるジまたはトリスルフィド化合物、及びスルフィド化合物含有画分は、ネギ類植物(例えば、好適にはタマネギ、ネギ、ラッキョウ)を溶媒との共存下で抽出処理して調製取得することができる。ここでネギ類は、そのまま(生)の状態で抽出処理に供してもよいし、また生のままスライスしたり細断した破砕物、摺り下ろした物、または搾り液を抽出処理に供してもよい。さらにネギ類植物の乾燥物をそのままもしくは破砕、粉砕して抽出処理に供することができる。
さらに、限外ろ過、膜ろ過方法を用い、ネギ類植物に含まれる糖質(グルコース、フルクトースなど)を除いた抽出物を用いてもよい。
【0039】
抽出に使用する溶媒(抽出溶媒)としては、メタノール、エタノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−プロパノール、及び2−プロパノール等の炭素数1〜4の低級アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール、及びブチレングリコール等の多価アルコール;アセトン、エチルメチルケトン、酢酸エチル、酢酸メチル、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、ジクロロメタン、食用デオキシグルコソン、ヘキサン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,2−トリクロロエテンなどの有機溶剤、または水を挙げることができる。好ましくはエタノールなどの低級アルコールおよび水である。
【0040】
上記に掲げる抽出溶媒は、1種単独で使用しても2種以上を組み合わせて用いてもよい。より好ましくは水と有機溶剤との混合物であり、特に低級アルコールと水との混合物(含水アルコール)、より好ましくはエタノールと水との混合物(含水エタノール)を挙げることができる。含水アルコールとしては、具体的には水を40〜60容量%の割合で含む含水アルコールを好適に用いることができる。
【0041】
抽出に用いるネギ類植物に対して用いられる上記抽出溶媒の割合としては、特に制限されないが、生のネギ類植物100重量部に対して用いられる溶媒の重量比に換算した場合、通常50〜20,000重量部、好ましくは10〜10,000重量部を例示することができる。
【0042】
なお、スルフィド化合物含有画分に含まれるスルフィド化合物の含有割合を高める方法(またはスルフィド化合物を選択的に取得する方法)として、上記抽出方法に代えて、または加えて、圧縮、蒸留(水蒸気蒸留、分子蒸留、分画蒸留、アロマディスティレート、回収エッセンス)、抽出(チンクチャー、マセレーション、パーコレーション、オレオレジン、コンクリート、アブソリュート)、亜臨界または超臨界抽出方法などの調製方法を採用することもできる。好ましくは亜臨界または超臨界抽出方法である。詳しくは、超臨界抽出した粗精油を用い、精密蒸留を行い、融点の高いスルフィド化合物を取り出してもよく、またはHPLCで分取する方法を用いることもできる。
【0043】
本発明の褐変酵素阻害剤は、前述するジ若しくはトリスルフィド化合物、スルフィド化合物含有画分だけからなってもよいし、また本発明の効果を妨げない範囲で、製薬上または食品上許容される担体や添加剤を含んでいてもよい。担体としては、水;エタノール等の低級アルコール;プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;砂糖、果糖、ぶどう糖、デキストリン、シクロデキストリン、環状オリゴ糖などの糖質;ソルビトールなどの糖アルコール;アラビアガム、キトサン、キサンタンガムなどのガム質;清酒、ウォッカや焼酎などの蒸留酒;油脂類、グリシン、酢酸ナトリウムなど製造用剤を例示することができる。また、添加剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどの乳化剤を例示することができる。
【0044】
また、本発明の褐変酵素阻害剤は、本発明の効果を損なわないことを限度として、酵素阻害効果が指摘されている他の成分を含むこともできる。他の酵素阻害効果を有する成分としては、ビタミンC、エリソルビン酸ナトリウム、ビタミンE、ヤマモモ抽出物、酵素処理ルチン、ケルセチン、ケンフェロール、ミリスチン、イソクエルセチン、ナリンゲニンなどのフラボノイド類、及び食塩等を挙げることができる。
【0045】
本発明の褐変酵素阻害剤の形態は特に制限されない。例えば本発明の褐変酵素阻害剤は、錠剤、顆粒状または粉末状等の固形物、液状や乳液状などの液体、またはペースト状等の半固形物の形態で用いることができる。粉末状態には、例えば、上記ジまたはトリスルフィド化合物またはネギ類植物から得られるスルフィド化合物含有画分に、必要に応じてデキストリンやシクロデキストリン等の糖類または糖アルコールなどの賦形剤または炭酸カルシウム、セラミックス、シリカゲル、活性炭などのポーラスな無機有機質を加え、凍結乾燥、噴霧乾燥または凍結粉砕などの慣用の手法によって調製することができる。
【0046】
さらに、褐変酵素阻害剤を液体状態に調製する方法としては、例えば、ジまたはトリスルフィド化合物またはネギ類植物から得られるスルフィド化合物含有画分に食用液体を配合する方法を挙げることができる。
【0047】
なお、褐変酵素阻害剤に含まれる有効成分たるジまたはトリスルフィド化合物の含有量は、通常1〜100重量%の割合で適宜選択することができる。
【0048】
本発明の褐変酵素阻害剤は、野菜や果物などの生鮮食品の褐変防止処理、加工食品の褐変防止処理、加工食品の製造工程時での褐変防止処理並びに品質保持のための処理工程に好適に使用することができる。上記食品の褐変を防止するための処理方法としては、前述する本発明の褐変酵素阻害剤をこれらの食品と接触させる方法を挙げることができる。接触方法としては、食品の形態や製造方法に応じて適宜選択され、特に制限されない。例えば、(1)食品の表面または切断面に褐変酵素阻害剤を塗布若しくは噴霧する方法、(2) 褐変酵素阻害剤を含む溶液中に食品を浸漬する方法、および(3) 褐変酵素阻害剤を食品の配合物に添加混合する方法などを挙げることができる。なお、(3)の方法の場合、褐変酵素阻害剤の添加時期は特に制限されず、食品の製造または加工処理工程で行われても、または最終的に得られた食品に対して行なわれてもよい。
【0049】
対象物に褐変酵素阻害剤を配合する場合の褐変酵素阻害剤の添加量は、処理する対象物(被験物)の種類や処理方法等によって種々異なり一概に規定することができないが、例えば、最終対象物中に含まれるジまたはトリスルフィド化合物の総量として、1〜10,000μg/g、好ましくは1〜100μg/gの割合を例示することができる。
【0050】
また、被験物を浸漬または噴霧処理する場合は、当該浸漬または噴霧処理に使用する溶液中に含まれるジまたはトリスルフィド化合物の総量として、1〜10,000μg/g、好ましくは10〜1,000μg/gの割合を例示することができる。
【0051】
斯くして処理された食品は、褐変酵素の活性が阻害される結果、酵素的褐変化を防止することができる。
【0052】
本発明の褐変酵素阻害剤の適用対象としては、主として食品を挙げることができるが、本発明の褐変酵素阻害剤を褐変防止の目的または褐変防止効果を奏する形で用いる限り、これに限定されない。例えば、餌料、飼料、肥料、サプリメント素材、医薬品、医薬部外品なども対象となる。
【0053】
食品の場合、褐変が商品の価値に影響されやすい飲料や食品、例えば、麦茶、ほうじ茶、ココア、コーヒー飲料など焙煎を行う嗜好飲料、レタス、キャベツ、タマネギ、刺身用大根のツマ等のカット野菜や付け合わせ野菜等の野菜及び野菜加工品、野菜が含まれている飲料や栄養強化飲料、スポーツドリンク、果汁入り野菜飲料、炭酸飲料等の野菜入り飲料類、シャーベット、アイスクリーム等の氷菓・冷菓類、スナック菓子、和菓子、洋菓子等の菓子類、製パン、惣菜パン、水畜・畜産練り製品、色目を明るくした惣菜(フレンチフライ、ポテトチップス、フライドポテト、コーンスナック)、しゅうまい、ぎょうざ、煮豆等、レトルトカレー、レトルト加工野菜、レトルト煮物野菜の各種加工食品、揚げ物(フレンチフライ、ポテトチップス、フライドポテト、コーンスナック)、コロッケ、トンカツ、フライドポテト、餃子、春巻などの加工食品(油ちょう食品)、油ちょう食品をパンではさんだサンドウィッチ、シチュー、カレー、カレー粉を用いたカレー食品、リゾット、パスタなどのレトルト食品、焼おにぎりやご飯、豚肉、魚介、野菜などの天ぷらを含む食品または食品付き麺(油揚げ入りきつねうどん、長崎ちゃんぽん麺、うどん、冷麺、蕎麦、油あげ即席めん、ラーメンなど)、野菜、ご飯類の炒め物(中華どんぶり、チャーハンなど)、しょうゆで味付けした食品、野菜、食品や果実のオーブンで焼いた焼き物(チキン、ターキー)、野菜のてんぷら、魚肉を揚げたさつま揚げや各種具材のてんぷらなどの各種の総菜や弁当等を例示することができる。なお、上記は単に例示であって、これらの食品のみに適用できるわけではなく、他の食品に対しても適用することができる。
【0054】
また本発明は上記ジまたはトリスルフィド化合物を含む褐変酵素阻害剤で処理した食品をも提供するものである。当該食品は、上記ジまたはトリスルフィド化合物を含む褐変酵素阻害剤で処理したものであれば特に制限されない。
【実施例】
【0055】
以下、実験例および実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0056】
実験例1 ネギ類植物タマネギからの超臨界抽出
生タマネギ(豊中市スーパーマーケットにて購入)1600gを水洗後、カッターで粉砕し、これをろ布でろ過して、約400gの微淡黄色清澄なタマネギ搾汁を得た(タマネギ粉砕物1600g使用)。この調製したタマネギ搾汁のうち190ml(タマネギ760g分)に、95容量%エタノール(含水エタノール)60mlを添加して混合した(タマネギ:含水エタノール=38:3)。調製したタマネギ含有エタノール溶液250mlを、超臨界抽出システムの抽出槽に充填し、圧力17.5MPa及び温度50℃に調整した超臨界状態の二酸化炭素700Lを導入した。二酸化炭素導入後、25分間そのままの状態で保持し、次いで抽出槽を温度調節しつつ圧力調整バルブを用いて開放して、二酸化炭素を分離槽に放出して、タマネギ超臨界CO抽出物50gをサンプル採取口から採取した(タマネギ760g分)。得られた超臨界CO抽出物の中にジスルフィド化合物およびトリスルフィド化合物、とくにジメチルジスルフィド、アリルメチルジスルフィド、ジプロピルジスルフィドおよびジイソプロピルジスルフィドといったジスルフィド化合物;並びにジメチルトリスルフィド、アリルメチルトリスルフィド、ジプロピルトリスルフィドおよびジアリルスルフィドといったトリスルフィド化合物を含むことをGC−MS分析によって確認した。
【0057】
なお、GC−MS条件は以下の通りとした:
機器:GC 3800(Varian社製)、MS Saturn2100T(Varian社製)
カラム:DB-5msitd(Micromass社製)、0.25mmi.d.×30m
注入量:1μl、split(100:1)
注入温度:250℃
カラム温度:60℃(10分保持、10℃/min)→250℃(10分保持)
転送ライン温度:280℃
キャリアガス:ヘリウムガス
イオントラップ温度:220℃
イオン化電圧:70eV
イオン化モード:EI+。
【0058】
実験例2 水蒸気蒸留
生タマネギ(豊中市スーパーマーケットにて購入)1600gを水洗後、カッターで8分割に粗く粉砕し、得られた粉砕物1kgに95容量%エタノール(含水エタノール)1kgを添加し、浸漬した状態(タマネギ:含水エタノール=1:1)で、冷蔵庫(4℃)内に放置した。12時間後、浸漬処理物をろ紙でろ過し、タマネギ粉砕物を除去して、タマネギ抽出液1.8kgを得た。この抽出液を水蒸気蒸留方法によって濃縮した(タマネギ精油)。斯くして得られたタマネギ精油中にジメチルジスルフィドを含むジスルフィド化合物、ジメチルトリスルフィドを含むトリスルフィド化合物が含まれていることを上記条件のGC−MS分析によって確認した。
【0059】
実験例3 スルフィド化合物によるポリフェノールオキシダーゼ活性の阻害試験
(1)材料及び方法
・酵素
ポリフェノールオキシダーゼとして酵素ラッカーゼ(シグマ社製)を用いた。
・基質
クロロゲン酸(0.5水和物、和光純薬1級)を用いた。
・スルフィド化合物
スルフィド化合物として、ジメチルモノスルフィド、ジメチルジスルフィド及びジメチルトリスルフィド(いずれもオクスフォード ケミカル社)を用いた。
【0060】
(2)ポリフェノールオキシダーゼ活性測定
酵素ラッカーゼ(粉末)10mgを量り取り、0.2mMリン酸緩衝液(pH6.5)で10mlに定容し、酵素溶液とした。
【0061】
クロロゲン酸10mgを量り取り、蒸留水で10mlに定容し、クロロゲン酸溶液とした。活性阻害成分溶液として、各スルフィド化合物(ジメチルモノスルフィド、ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィド)を0.01mM、0.1mM及び1.0mMの各濃度に調製したものを用意した(スルフィド溶液)。具体的には、例えば0.01mMのジメチルモノスルフィド(分子量=62.14)溶液の場合、ジメチルモノスルフィドを6.2μg量り、0.2Mリン酸緩衝液100μLと蒸留水で10mlに定容した。
【0062】
活性測定に際し、クロロゲン酸溶液100μLを基質とし、これに活性阻害成分溶液(スルフィド溶液)100μLと酵素溶液100μLとを加え30℃で反応させ、酵素溶液添加直後から所定の時間(10、20、30、45および60分)ごとに450nmの吸光度(A)を測定した。酵素溶液添加直後の吸光度(A0)を所定時間ごとの測定値(A)から差し引いて活性を求めた。なお、測定波長450nmはクロロゲン酸に由来するものではなく、反応によって生成したキノンに由来する褐変物質の吸光度である。
【0063】
また、比較対照用に、クロロゲン酸溶液100μLを基質とし、これに活性阻害成分溶液(スルフィド溶液)に代えて蒸留水100μLと酵素溶液100μLを加え、上記と同様にして450nmの吸光度を測定した(対照区)。吸光度測定にはプレートリーダー(テカンTecan社、サンライズクラッシク、450nm)を用いた。
【0064】
(3)ポリフェノールオキシダーゼ活性の算出
ポリフェノールオキシダーゼがクロロゲン酸に30℃で作用するとき、反応初期の1分間に吸光度(450nm)を0.1上昇させる酵素量(mg)を1ユニットとした。
【0065】
【数1】

【0066】
各種スルフィド化合物(ジメチルモノスルフィド、ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィド)を用いた場合のポリフェノールオキシダーゼ活性の経時的変化を表1に示す。対照区の結果も併せ示す。
【0067】
【表1】

【0068】
この結果からわかるように、スルフィド化合物としてトリスルフィド化合物を用いた場合、酵素活性がほぼ完全に阻害された。反応2時間後も吸光度の上昇が見られず、酵素活性は阻害されたままであった。またスルフィド化合物としてジスルフィド化合物を用いた場合も、酵素活性が有意に阻害され、その効果は反応2時間後もほぼ維持された。
【0069】
上記実験では反応により生成したキノン由来の褐変物質の吸光度を測定している。このため、吸光度の増加が少ないことは褐変物質の生成が抑制されていることを示す。すなわち、ジスルフィド化合物およびトリスルフィド化合物は、ポリフェノールオキシダーゼ活性を阻害することによってクロロゲン酸をキノン型に変化するのを抑制し、褐変化を防止していると考えられる。
【0070】
本試験で用いたラッカーゼは酵素−銅(Cu)-酸素(O)の結合を持ち、この結合部位に基質が関与するとジフェノールからキノンに変化することが知られている。上記ジおよびトリスルフィド化合物による酵素活性阻害機構は明らかでなくまた拘束もしないが、ジおよびトリスルフィド化合物は酸素を取り込みやすく、ラジカル生成しやすいことから、ジおよびトリスルフィド化合物が酸素(O)と結合することにより、上記酵素への酸素の取り込み(結合)を阻害し、その結果酵素活性を阻害しているものと推測される。
【0071】
または、ジおよびトリスルフィド−酸素の結合物が、ジフェノールからキノンへの変化を阻害し、酵素中の銅を活性型(一価イオン)にする反応を阻害している可能性もある。
【0072】
実施例1
実験例1で超臨界抽出処理により得られたタマネギ超臨界CO抽出物を水で100倍希釈した溶液を調製し、これに洗浄カットしたごぼうを30秒間浸漬した後、30分間空気にさらした。得られたごぼうのカラー画像を図1に示す。図1からわかるようにこのごぼうのカット面は白く維持されていた。一方、対照として、単に水で浸漬処理したごぼうのカラー画像を図2、3重量%食塩水溶液で浸漬処理したごぼうのカラー画像を図3に示す。これからわかるように、水や食塩水溶液に浸漬したごぼうのカット面は、褐変化し、ポリフェノールオキシダーゼの作用による褐変物質の生成を阻害することはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
ジまたはトリスルフィド化合物を有効成分とする本発明の褐変酵素阻害剤によれば、効果的に褐変酵素(ポリフェノールオキシダーゼなど)による褐変化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】ジメチルジスルフィドおよびジメチルトリスルフィドを含むタマネギ超臨界CO抽出物の希釈水溶液30秒間浸漬し、30分間空気にさらしたごぼうのカット面を示す(実施例1)。
【図2】水に30秒間浸漬し、30分間空気にさらしたごぼうのカット面を示す(実施例1)。
【図3】3重量%食塩水溶液に30秒間浸漬し、30分間空気にさらしたごぼうのカット面を示す(実施例1)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジスルフィド化合物およびトリスルフィド化合物から選択される少なくとも一種のスルフィド化合物を有効成分として含有する褐変酵素阻害剤。
【請求項2】
ジまたはトリスルフィド化合物の官能基が、メチル基、プロピル基、アリル基およびイソプロピル基からなる群から選択されるいずれか1つ、またはその組み合わせである、請求項1記載の褐変酵素阻害剤。
【請求項3】
有効成分がジメチルジスルフィドおよびジメチルトリスルフィドからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1または2記載の褐変酵素阻害剤。
【請求項4】
ネギ類植物のジスルフィド化合物含有画分またはトリスルフィド化合物含有画分を有効成分とするものである、請求項1乃至3のいずれかに記載の褐変酵素阻害剤。
【請求項5】
上記ジスルフィド化合物含有画分またはトリスルフィド化合物含有画分がネギ類植物の抽出画分である、請求項4記載の褐変酵素阻害剤。
【請求項6】
褐変酵素がポリフェノールオキシダーゼであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の褐変酵素阻害剤。
【請求項7】
ポリフェノールオキシダーゼがラッカーゼであることを特徴とする請求項6記載の褐変酵素阻害剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−304790(P2006−304790A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−99137(P2006−99137)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(501145295)独立行政法人食品総合研究所 (27)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】