説明

褐色変色の可能性が低減した鉱物性結合剤に対する添加剤

本発明は、グリコール、1〜4個の炭素原子をもつモノカルボン酸、及び櫛型ポリマーからなる群から選択された粉砕助剤、並びに少なくとも1つの遅延剤を含む添加剤組成物であって、セメントクリンカーの粉砕プロセス中に用いることができ、且つ処理された状態の粉砕したセメントの褐色変色をあまり招かない添加剤組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性結合剤及び/又は潜在水硬性結合剤の粉砕及び混和プロセスにおける添加剤の分野に関する。本発明の添加剤は、本発明の添加剤と共に粉砕されるクリンカーを含有する組成物の水硬性結合の優れた遅延効果によって特徴付けられる。
【背景技術】
【0002】
セメントを作製する際の中心となるステップは、セメントクリンカーの粉砕である。セメントクリンカーは非常に硬いので、破砕は非常にエネルギー集約的である。これは微粉末として存在するセメントの特性のために重要である。したがって、セメントの粉末度は重要な品質特徴である。粉末形態への破砕を容易にするために、所謂セメント粉砕助剤が用いられる。このようにして、粉砕時間とエネルギーコストが大いに減少される。
【0003】
500g/mol未満の分子量Mをもつ有機アミン又はそれらのアンモニウム塩は、非常に広く用いられている粉砕助剤である。こうした有機アミンの例は、トリアルカノールアミン、トリイソプロパノールアミン(TIPA)、又はトリエタノールアミン(TEA)のようなアルカノールアミンである。しかしながら、それらは、或る量の後で、それらが硬化の開始を加速する又は固化の終わりと固化の始まりとの間の時間差を短くする、すなわち、それらが促進剤として作用するという欠点を有する。
【0004】
水性水硬性結合剤がより長時間にわたって機能できるようにするために、硬化の発現を引き延ばす又は固化の終わりと固化の始まりとの間の時間差を増加させるのに、以下に遅延剤としても知られる結合遅延剤が添加される。水硬性結合剤へのこれらの遅延剤の添加は、典型的に練混ぜ水の添加と共に又はそのすぐ後でなされる。
粉砕助剤の別の問題は、それらが凝結した水硬性結合剤の褐色変色を促進する可能性があることである。褐色変色の発生に対する粉砕助剤の影響に関する比較的少ない信頼できるデータが存在する(Reducing the risk of brown discoloration of concrete objects、Hardtl他、BFT Betonwerk+Fertigteil−Technik、No.11、2003、pp.34〜46、Bauverlag)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Reducing the risk of brown discoloration of concrete objects、Hardtl他、BFT Betonwerk+Fertigteil−Technik、No.11、2003、pp.34〜46、Bauverlag
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の問題は、特に、とりわけ良好な結合遅延特性を有し、且つ褐色変色の促進に寄与するとしても僅かである、従来技術の前述の欠点をもたない水硬性結合剤の粉砕及び混和プロセスのための新しい添加剤組成物を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
驚いたことに、本発明の添加剤組成物Zによって、通常のセメント粉砕助剤の有益な効果を犠牲にすることなく、公知の粉砕助剤の欠点をなくす又は大いに減少させることができることが現在見出されている。
【0008】
驚いたことに、添加剤組成物Z中の遅延剤の存在は粉砕プロセスの効率に対する悪影響をもたないことがさらに見出されている。
【0009】
さらに、驚いたことに、添加剤組成物Zの添加は、凝結した鉱物性結合剤の圧縮強度に対する悪影響をもたないことが見出された。
【0010】
驚いたことに、さらに、遅延剤は粉砕プロセスの過程でその遅延効果を失わないことが見出されている。さらに、粉砕プロセスの過程で達成される遅延剤のより微細な分布に起因して、練混ぜ水と共に添加された場合と比べて実質的により少ない遅延剤を用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、グリコール、1〜4個の炭素原子をもつモノカルボン酸、及び櫛型ポリマーからなる群から選択された少なくとも1つの粉砕助剤、並びに少なくとも1つの遅延剤を含む添加剤組成物Zであって、500g/mol未満の分子量Mをもつ有機アミン又はそれらのアンモニウム塩を基本的に含まない添加剤組成物Zに関する。
【0012】
好ましくは、粉砕助剤の重量分率は、添加剤組成物Zの重量に対して0.2〜99.8wt.%である。
【0013】
「櫛型ポリマー」とは、本明細書では側鎖がエステル又はエーテル基をはさんで接合される直線形のポリマー鎖(=主鎖)からなる櫛型ポリマーを意味する。側鎖は、たとえて言うと「櫛」の「歯」を形成する。
【0014】
好ましくは、櫛型ポリマーは、エステル又はエーテル基をはさんで主鎖に接合された側鎖をもつ櫛型ポリマーKPである。
【0015】
櫛型ポリマーKPとして適するのは、一方では、エーテル基をはさんで直鎖ポリマーバックボーンに接続された側鎖をもつ櫛型ポリマーである。
【0016】
エーテル基によって直鎖ポリマーバックボーンに接続される側鎖は、ビニルエーテル又はアリルエーテルの重合によって導入することができる。
【0017】
こうした櫛型ポリマーは、例えば、WO2006/133933A2で開示され、その内容が特に参照により本明細書に組み込まれる。ビニルエーテル又はアリルエーテルは、特に(II)を有する。
【化1】

【0018】
ここで、R’はHを表し、若しくは1〜20個の炭素原子をもつ脂肪族炭化水素残基又は5〜8個の炭素原子をもつ脂環式炭化水素残基又は6〜14個の炭素原子をもつ随意的に置換されたアリール残基を表す。R’’はH又はメチル基を表し、R’’’は置換されていない又は置換されたアリール残基、特にフェニル残基を表す。
【0019】
さらに、pは0又は1を表し、m及びnは互いに独立してそれぞれ2、3、又は4を表し、x及びy及びzは互いに独立してそれぞれ0〜350の範囲内の値を表す。
【0020】
式(II)中のs5、s6、及びs7として示されるサブ構造要素の順序は、交互に、ブロックの状態で、又は不規則に配列することができる。
【0021】
特に、こうした櫛型ポリマーは、ビニルエーテル又はアリルエーテルと無水マレイン酸、マレイン酸、及び/又は(メタ)アクリル酸との共重合体である。
【0022】
他方では、櫛型ポリマーKPとして適するのは、エステル基によって直鎖ポリマーバックボーンに接続された側鎖をもつ櫛型ポリマーである。この種の櫛型ポリマーKPは、エーテル基によって直鎖ポリマーバックボーンに接続された側鎖をもつ櫛型ポリマーよりも好ましい。
【0023】
特に好ましい櫛型ポリマーKPは、式(I)のコポリマーである。
【化2】

【0024】
ここで、Mは互いに独立してH、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、二価又は三価の金属イオン、アンモニウムイオン、又は有機アンモニウム基を表す。「互いに独立して」という用語は、本明細書では、同じ分子内でその都度異なる利用可能な意味を有することができる置換基を意味する。したがって、例えば、式(I)のコポリマーは、カルボン酸基とカルボン酸ナトリウム基を同時に有することができ、すなわち、この場合、Mは、互いに独立してH及びNaを示す。
【0025】
これは、一方では、それにMイオンが結合されるカルボン酸塩を含み、他方では、多価イオンMの電荷が対イオンによって釣り合いを取られなければならないことが専門家には明らかである。
【0026】
さらに、置換基Rは互いに独立して水素又はメチル基を表す。
【0027】
さらに、置換基Rは互いに独立して[AO]−Rを表す。置換基Rは互いに独立してC〜C20アルキル基、シクロアルキル基、アルキルアリール基、又は[AO]−Rを表す。置換基Aは、いずれの場合にも、互いに独立して、C〜Cアルキレン基を表し、Rは、C〜C20アルキル基、シクロヘキシル基、又はアルキルアリール基を表し、一方、qは、2〜250、特に8〜200、特に好ましくは11〜150の値を表す。
【0028】
さらに、置換基Rは、互いに独立して−NH、−NR、−ORNRを表す。ここで、R及びRは、互いに独立してC〜C20アルキル基、シクロアルキル基、又はアルキルアリール基、又はアリール基、若しくはヒドロキシアルキル基、若しくはアセトキシエチル(CH−CO−O−CH−CH−)、又はヒドロキシ−イソプロピル(HO−CH(CH)−CH−)、又はアセトキシイソプロピル(CH−CO−O−CH(CH)−CH−)基を表し、或いはR及びRは、その一部が窒素である環を一緒に形成してモルホリン又はイミダゾリン環を構成する。
【0029】
置換基Rは、C〜Cアルキレン基を表す。
【0030】
さらに、置換基R及びRは、それぞれ互いに独立してC〜C20アルキル基、シクロアルキル基、アルキルアリール基、アリール基、又はヒドロキシアルキル基を表す。
【0031】
式(I)中のs1、s2、s3、及びs4として示されるサブ構造要素の順序は、交互に、ブロックの状態で、又は不規則に配列することができる。
【0032】
最後に、指数a、b、c、及びdは、構造単位s1、s2、s3、及びs4のモル比を表す。これらの構造要素は、a+b+c+d=1という条件で、互いに対して、
a/b/c/d=(0.1〜0.9)/(0.1〜0.9)/(0〜0.8)/(0〜0.3)、
特にa/b/c/d=(0.1〜0.9)/(0.1〜0.9)/(0〜0.5)/(0〜0.1)、
好ましくはa/b/c/d=(0.1〜0.9)/(0.1〜0.9)/(0〜0.3)/(0〜0.06)
の比で表わされる。c+dの和は、好ましくは0よりも大きい。
【0033】
式(I)の櫛型ポリマーKPの調製は、一方では、構造要素/構造単位s1、s2、s3、及びs4をもたらす式(III)、(III)、(III)、又は(III)の対応するモノマーのラジカル重合によって行うことができ、
【化3】

又は、他方では、式(IV)のポリカルボン酸の所謂ポリマー類似反応(polymer−analogous reaction)によって行うことができる。
【化4】

【0034】
ポリマー類似反応では、式(IV)のポリカルボン酸は、対応するアルコール又はアミンでエステル化され又はアミド化され、次いで、必要があれば(残基Mのタイプに応じて、例えば、金属水酸化物又はアンモニアで)中和され又は部分的に中和される。
【0035】
ポリマー類似反応の詳細は、例えば、米国特許出願公開第2002/0002218(A1)号の5頁のパラグラフ[0077]から[0083]まで、且つまたその実施例で、又は米国特許第6,387,176(B1)号の5頁の18行目〜58行目、且つまたその実施例で開示される。この1つの修正では、米国特許出願公開第2006/0004148(A1)号の1頁のパラグラフ[0011]から3頁の[0055]まで、及びその実施例で説明されるように、式(I)の櫛型ポリマーKPは、固体の凝集で調製することができる。これらのいま挙げた特許の開示は、特に参照により本明細書に組み込まれる。
【0036】
式(I)の櫛型ポリマーKPの特に好ましい実施形態は、c+d>0、特にd>0のものであることが分かる。残基Rとして、−NH−CH−CH−OHが特に有利となることが証明された。
【0037】
Sika Schweiz AGによって商標シリーズViscoCrete(登録商標)の下で市販されている櫛型ポリマーKPが特に有利となることが証明された。
【0038】
粉砕助剤中に櫛型ポリマーが存在する場合、重量分率は、添加剤組成物Zの重量に対して典型的には0.2〜40wt.%、好ましくは5〜35、特に好ましくは15〜35wt.%である。
【0039】
グリコールとして特に適するのは、アルキレングリコール、とりわけ、u=0〜20、特に0、1、2、又は3である、式OH−(CH−CHO)−CHCH−OHのものである。
【0040】
グリコールとして適する可能性があるのは、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドの反応生成物、ポリプロピレングリコールと活性塩基性水素をもつ化合物(多価アルコール、ポリカルボン酸、ポリアミン、又はポリフェノール)との反応生成物、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、ブタンジオール、及び不飽和ジオール、並びにそれらの混合物及びそれらの誘導体からなるリストから選択されたものである。
【0041】
特に好ましいグリコールは、それらが安価であり且つすぐに水に溶けることから、エチレン及びプロピレンのモノ−、ジ−、及びポリグリコール、並びにそれらの混合物である。特に好ましいのはジグリコール、特にジエチレングリコールである。
【0042】
グリコールが粉砕助剤中に存在する場合、重量分率は、添加剤組成物Zの重量に対して典型的には0.2〜99.8wt.%、好ましくは5〜50wt.%、特に好ましくは15〜30wt.%である。
【0043】
1〜4個の炭素原子をもつモノカルボン酸として特に適するのは、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、及びブタン酸(butanic acid)、とりわけ酢酸である。
【0044】
粉砕助剤中に1〜4個の炭素原子をもつモノカルボン酸が存在する場合、重量分率は、添加剤組成物Zの重量に対して典型的に0.2〜15wt.%、好ましくは1〜5wt.%、特に好ましくは2〜4wt.%である。
【0045】
粉砕助剤として適さないのは、アルカノールアミンのような500g/mol未満の分子量Mをもつ有機アミン、特にトリイソプロパノールアミン(TIPA)又はトリエタノールアミン(TEA)のようなトリアルカノールアミン、若しくは有機アミンのアンモニウム塩である。これらは、或る量の後で、それらが硬化の開始を加速する又は固化の終わりと固化の開始との間の時間差を短くする、すなわち、それらが促進体として作用するという欠点を有する。この発明との関連において、これらのセメント粉砕助剤は、凝結した水硬性結合剤の褐色変色を招くことがさらに見出されている。
【0046】
添加剤組成物Zは、前述の500g/mol未満の分子量Mをもつ有機アミン又はそれらのアンモニウム塩を本質的に含まない。「〜を本質的に含まない」という用語は、本明細書では、500g/mol未満の分子量Mをもつ有機アミン又はそれらのアンモニウム塩の重量分率が、添加剤組成物Zの重量に対して0〜2wt.%、0〜0.1wt.%の量であることを意味する。前述の有機アミンの重量分率は、凝結した水硬性結合剤の加速効果及び/又は褐色変色を検出することができないほど低いことが好ましく、添加剤組成物Zは、前述の有機アミンを含まないことが特に好ましい。
【0047】
添加剤組成物Zは少なくとも1つの遅延剤を含む。
【0048】
「遅延剤」という用語は、本明細書では、この添加剤を添加していない水性鉱物性結合剤と比べて、この添加剤を含有する水性鉱物性結合剤の硬化の開始を引き延ばす、又は固化の終わりと固化の開始との間の時間差を増加させる添加剤を意味する。
【0049】
適する遅延剤は、例えば、セルロースエーテル、カゼイン、及びデキストリン、又は亜鉛及び鉛のような無機化合物、特にカルシウムに対する錯化剤、及びそれと共にカルシウムが溶解性の低い化合物を形成するもの、例えば、リン酸塩、ホスホン酸塩、フッ化ケイ素、並びにホウ酸、酒石酸、グルコン酸、ヘプトン酸、クエン酸、没食子酸、リンゴ酸、及び上記酸の塩、サッカロース、グルコース、及びフルクトースである。
【0050】
好ましくは、少なくとも1つの遅延剤は、セルロースエーテル、カゼイン、デキストリン、亜鉛、鉛、リン酸塩、ホスホン酸塩、フッ化ケイ素、ホウ酸、シュウ酸、乳酸、コハク酸、アジピン酸、酒石酸、グルコン酸、ヘプトン酸、クエン酸、没食子酸、リンゴ酸、サッカロース、グルコース、及びフルクトース、又は上記酸の塩からなる群から選択される。
【0051】
特に好ましくは、少なくとも1つの遅延剤は、ホウ酸、グルコン酸、サッカロース、グルコース、及びフルクトース、又は上記酸の塩からなる群から選択される。
【0052】
遅延剤の重量分率は、添加剤組成物Zの重量に対して0.2〜30wt.%の量であるのが有利である。遅延剤がたまたまホウ酸である場合、重量分率は、好ましくは0.2〜10wt.%の量であり、サッカロース、グルコース、フルクトース、又はグルコン酸塩の場合には、添加剤組成物Zの重量に対して好ましくは5〜30wt.%である。
【0053】
鉱物性結合剤は、水硬性結合剤、及び/又は潜在水硬性結合剤、及び/又は珪酸質混合結合剤である。本明細書での水硬性結合剤という用語は、水の下で同じく凝結又は硬化する水硬性石灰又はセメントのような結合剤を意味する。潜在水硬性結合剤という用語は、本明細書では、鋳物砂のような添加剤(開始剤)の作用によってのみ凝結又は硬化する結合剤を意味する。珪酸質混合結合剤という用語は、本明細書では、自発的に凝結しないが湿式貯蔵後にだけそれらがフライアッシュのような水酸化カルシウム、シリカフューム、及びトラスのような天然ポゾランの結合によって強度を生み出す反応生成物を提供する結合剤を意味する。
【0054】
好ましくは、水硬性結合剤はセメントである。
【0055】
添加剤組成物Zは、粉体のような緩い組成物として又は水性組成物のような流体組成物として存在することができる。
【0056】
添加剤組成物Zは他の成分を含有することができる。これらの例は、コンクリート技術では一般的である溶媒又は添加剤、特に界面活性物質、熱及び光安定剤、着色剤、消泡剤、腐食防止剤、及び気孔形成剤である。
【0057】
可能性のある1つの好ましい添加剤組成物Zは、
・添加剤組成物Zに対して15〜30wt.%のアルキレングリコール、特にジエチレングリコールと、
・添加剤組成物Zに対して15〜35wt.%の式(I)の櫛型ポリマーKPと、
・添加剤組成物Zに対して1〜5wt.%の酢酸と、
・添加剤組成物Zに対して10〜20wt.%のグルコン酸塩、又は添加剤組成物Zに対して1〜5、特に2〜4wt.%のホウ酸と、
を含む。
【0058】
好ましくは、添加剤組成物Zはまた、
・添加剤組成物Zに対して0.1〜0.4wt.%の保存剤と、
・添加剤組成物Zに対して0.1〜0.4wt.%の消泡剤と、
を有する。
【0059】
別の態様では、本発明は、
a)鉱物性結合剤中に含有されるセメントクリンカーの粉砕プロセスの前に及び/又は粉砕プロセス中に、上記に記載の添加剤組成物Zを添加するステップ、を含む、鉱物性結合剤の生産方法に関する。
【0060】
添加剤組成物Zの重量分率は、粉砕されるセメントクリンカーに対して0.005〜0.5wt.%、好ましくは0.01〜0.2wt.%、特に好ましくは0.025〜0.1wt.%の量である。
【0061】
もちろん、添加剤組成物Zの個々の成分、特に少なくとも1つの粉砕助剤又は少なくとも1つの遅延剤を、セメントクリンカーの粉砕プロセスの前に及び/又は粉砕プロセス中に互いとは別の時点で添加することができる。
【0062】
「セメントクリンカー」という用語は、本明細書では、典型的には、石灰と粘土の混和物を1250〜1500℃に加熱後に形成され、粉砕されたときにセメントをもたらす胡桃大の塊を意味する。
【0063】
とりわけ、セメントクリンカーに関係する既に実質的により低濃度の遅延剤を、添加剤組成物Zと共に粉砕されたセメントクリンカーを含む鉱物性結合剤の凝結を遅延させるために、公知の技術で鉱物性結合剤に遅延添加剤として典型的に練混ぜ水と共に又は後で添加される場合よりも、効果的に用いることができることが見出されている。
【0064】
粉砕プロセスは、普通はセメント・ミルの中で起こる。しかし原則として、セメント産業では公知の他のミルを用いることもできる。粉砕時間に応じて、セメントは異なる粉末度を有することになる。セメントの粉末度は、典型的に単位がcm/gのブレーン(Blaine)で示される。他方では、粒度分布もまた、粉末度と実際的な関連性がある。こうした粒度分析は、普通はレーザ粒度分布又はエアジェット・スクリーニングによって行われる。
【0065】
そのように粉砕されたセメントは、あらゆる他の粉砕されたセメントのように、コンクリート、モルタル、鋳造コンパウンド、射出、又は漆喰塗りでの広い用途が見出される。
【0066】
セメントクリンカーの粉砕前及び/又は粉砕中に、及び水性鉱物性結合剤の中の、特にモルタル及びコンクリートの中の水と混和された後で、セメントに添加剤組成物Zが添加される場合、伝統的な粉砕助剤と共に粉砕されたセメントと比べて、特に有機アミンと共に粉砕されたセメントと比べて、水性鉱物性結合剤の凝結の遅延が明らかである。さらに、セメントクリンカーの粉砕中に粉砕助剤として有機アミンが添加されたセメントと比べて、あまり褐色変色が見られない。
【0067】
したがって、この実施形態によれば、後で遅延剤を添加する必要はなく、したがって、セメントのユーザの労力が減る。こうしたセメントは、したがって、大量に生産することができる「すぐに使用できる」製品を構成する。添加剤組成物Zが水性鉱物性結合剤の凝結を遅延させる能力は、粉砕プロセスによって損われないことが見出されている。
【0068】
驚いたことに、添加剤組成物Zの添加は、粉砕プロセスの効率に対する悪影響をもたないことも見出されている。
【0069】
驚いたことに、添加剤組成物Zの添加は、粉砕プロセス中の粉砕助剤の効果を損わないであろうことも見出されている。
【0070】
別の態様では、本発明は、水性鉱物性結合剤が添加剤組成物Zと共に粉砕されたセメントクリンカーを含み、セメントクリンカーのセメントへの粉砕中に添加剤組成物Zが存在した、水性鉱物性結合剤の凝結を遅延させるための上記に記載の添加剤組成物Zの使用に関するものである。鉱物性結合剤は、上記に記載の鉱物性結合剤である。
【0071】
実施例
本発明を実施例によってより詳しくここで説明する。
使用した添加剤
【表A】

【0072】
添加剤V1〜V4(比較実施例)及びZ1〜Z4(本発明に係る実施例)を粉砕プロセスで使用した。
【0073】
添加剤は、粉砕の直前に、表2又は表6の量に従って、粉砕されるセメントクリンカーに添加した。
【表1】

【0074】
使用したセメントクリンカー
使用したセメントクリンカーは、60%C3S、20%C2S、10%C3A、及び10%C4AFからなるものであった。
【0075】
セメントクリンカーの粉砕
特定のセメントクリンカーと特定の添加剤のうちの1つとの、又は添加剤なしの、20kgの混和物を、表2で示される分量で混合し、Siebtechnik社のドラム型ボールミルの中で100℃の温度、40回転/分の回転速度で粉砕した。
【0076】
試験方法
−粉砕時間4000:ボールミルでの粉砕後に混和物がDIN EN196−6による4000cm/gのブレーン粉末度を有するまでの時間を測定した。
−粉末度:粉末度は、Wasag Chemie社のBlaine Automatを用いるブレーン後に測定した。
結果は表2で与えられる。
【表2】

【0077】
表2から、遅延剤の存在は粉砕助剤の粉砕効率の増加に悪影響を及ぼさないことが明らかである。Z3の場合に、粉砕効率の驚くほどの増加がさらに見られた。
【0078】
さらに、そのように粉砕されたセメントを含有するモルタルの圧縮強度を測定した。
【表B】

【0079】
使用したセメントは、上記のテスト粉砕で得られたセメントであった。これは、4000cm/g付近のブレーン粉末度(EN196−6)を有するものであった。
【0080】
モルタルをEN196−1に従って調製し、型の中に入れ、圧縮した。結果として得られたモルタル混和物の圧縮強度を測定した(表3参照)。プリズム(40×40×160mm)上で圧縮強度(単位N/mm)を判定する試験を、EN196−1に従って1日及び2日後に行った。
【表3】

【0081】
表3から分かるように、発明された添加剤組成物は、1日後及び2日後の圧縮強度の僅かな増加をもたらす。これは、遅延剤が粉砕プロセスの過程でその遅延効果を失わないことを示す。
【0082】
さらに、EN196−3に従って上記で説明されたモルタルに対して5分後、30分後、及び60分後の拡散を測定した。
【表4】

【0083】
表4から分かるように、発明された添加剤組成物は、添加なしのモルタル組成物の測定に対応する測定時点での拡散を示す。粉砕助剤として500g/mol未満の分子量Mをもつ有機アミンであるTIPA及びTEAを有する比較実施例V4は、他方では、遅延剤が存在するにもかかわらず既に30分後には低減した拡散を示す。
【0084】
さらに、V2、V3、及びZ4をセメント工場でクリンカーの粉砕のための篩付きボールミルと共に用い、得られたセメントからコンクリート混和物を調製し、EN12350−5に従って3分後、8分後、15分後、30分後、45分後、及び60分後にそれらの拡散度を測定した。
【表5】

【0085】
表5から分かるように、本発明に係る添加剤組成物を用いるときに、硬化の遅延は、粉砕助剤(V2)としての有機アミン又は遅延剤(V3)と組み合わされた粉砕助剤としての有機アミンを用いるときよりも長く持続する。
【0086】
さらに、「Reducing the brown discoloration risk of concrete objects」(Hardtl他、BFT Betonwerk+Fertigteil−Technik、No.11、2003、pp.34〜46、Bauverlag)に記載された褐色変色方法(HTC法)に基づいてV1〜V4及びZ1〜Z3の褐色変色の可能性を試験した。
【0087】
モルタル混和物を以下の表に従って調製した。
【表C】

【0088】
セメントを、セメントクリンカー(60%C3S、20%C2S、10%C3A、10%C4AF)から4000cm/g付近のブレーン粉末度(EN196−6)になるまで、表6に示される添加剤を添加した状態で、前述の方法に従ってSiebtechnik社のドラム型ボールミルの中で粉砕した。
【0089】
モルタルをEN196−1に従って調製し、発泡剤を加えてポリ袋PE圧力閉鎖バッグの中に入れ、厚さ0.5cm付近のスラブに形成した。これを閉じ、20℃/65%の相対湿度に7日間保った。発泡剤の添加は、高い水/セメント比であるにもかかわらず離水する傾向をもたない容易に加工されるモルタルをもたらす。発泡剤の添加量は、モルタルの中に比較できる空隙率が存在することを保証する。
【0090】
この後、ポリ袋PE圧力閉鎖バッグの2箇所に長さ10mmの切り目を入れた。モルタル中に存在する水は、これらの切り目を通して蒸発することができ、結果としてそこにブルームが生じる。ブルームの色は「白色」から「黄色」に変化し、重度の「褐色」に移行する。この後、サンプルを20℃/65%の相対湿度に28日間保った。次いで、サンプルのブルームを色測定によって定量的に評価した。
【0091】
結果が表6に示される。
【表6】

【0092】
以下の評定尺度に基づいてサンプルの褐色変色を評価した。
−軽度、Δb値<0.7
+明確、Δb値0.7〜1.0
++重度、Δb値>1.0
【0093】
表6から、本発明に係る添加剤組成物を用いるときに、サンプルは、500g/mol未満の分子量Mをもつ有機アミンを有する粉砕助剤を用いるときよりも著しくより薄い褐色変色を有することが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコール、1〜4個の炭素原子をもつモノカルボン酸、及び櫛型ポリマーからなる群から選択された少なくとも1つの粉砕助剤、並びに少なくとも1つの遅延剤を含む添加剤組成物Zであって、500g/mol未満の分子量Mをもつ有機アミン又はそのアンモニウム塩を本質的に含まない、添加剤組成物Z。
【請求項2】
前記グリコールが、ジグリコール、特にジエチレングリコールであることを特徴とする請求項1に記載の添加剤組成物Z。
【請求項3】
前記1〜4個の炭素原子をもつモノカルボン酸が酢酸であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の添加剤組成物Z。
【請求項4】
前記櫛型ポリマーが、エステル基を介して直鎖ポリマーバックボーンに結合された側鎖をもつ櫛型ポリマーKPであることを特徴とする上記請求項のうちの一項に記載の添加剤組成物Z。
【請求項5】
前記少なくとも1つの遅延剤が、セルロースエーテル、カゼイン、デキストリン、亜鉛、鉛、リン酸塩、ホスホン酸塩、フッ化ケイ素、ホウ酸、シュウ酸、乳酸、コハク酸、アジピン酸、酒石酸、グルコン酸、ヘプトン酸、クエン酸、没食子酸、リンゴ酸、サッカロース、グルコース、及びフルクトース、又は特に、ホウ酸、グルコン酸、サッカロース、グルコース、及びフルクトースからなる群から選択された上記酸の塩、又は上記酸の塩からなる群から選択されることを特徴とする上記請求項のうちの一項に記載の添加剤組成物Z。
【請求項6】
前記遅延剤の重量分率が、前記添加剤組成物Zの重量を基準として0.2〜30wt%の量であることを特徴とする上記請求項のうちの一項に記載の添加剤組成物Z。
【請求項7】
前記粉砕助剤の重量分率が、前記添加剤組成物Zの重量を基準として0.2〜99.8wt%の量であることを特徴とする上記請求項のうちの一項に記載の添加剤組成物Z。
【請求項8】
鉱物性結合剤を生産する方法であって、
a)前記鉱物性結合剤中に含有される前記セメントクリンカーの粉砕プロセスの前及び/又は粉砕プロセス中に請求項1から請求項7までの一項に記載の添加剤組成物Zを添加するステップ、
を含み、前記添加剤組成物Zの重量分率が、粉砕される前記セメントクリンカーを基準として0.005〜0.5wt%、好ましくは0.01〜0.2wt%、特に好ましくは0.025〜0.1wt%の量である、
方法。
【請求項9】
前記水性鉱物性結合剤が前記添加剤組成物Zと共に粉砕されたセメントクリンカーを含み、前記セメントクリンカーのセメントへの粉砕中に前記添加剤組成物Zが存在した、水性鉱物性結合剤の凝結を遅延させるための請求項1から請求項7までに記載の添加剤組成物Zの使用。

【公表番号】特表2013−512852(P2013−512852A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−542474(P2012−542474)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068870
【国際公開番号】WO2011/069919
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(504274505)シーカ・テクノロジー・アーゲー (227)
【Fターム(参考)】