説明

褥瘡治療外用液剤および褥瘡治療装置

【課題】褥瘡に対して副作用のない安心安全で良好な治癒効果をもたらす褥瘡治療外用液剤および褥瘡治療装置を提供することを目的とする。
【解決手段】水基剤中に水素ガスを含有し、さらに添加成分として、少なくともビタミンC又はプロビタミンCを含有するとともに、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ゼラチン、コラーゲン含有タンパク加水分解物、ビタミンAより選ばれる1種又は2種以上を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、褥瘡治療用の外用液剤およびそれを含む褥瘡治療用の浴用水を供給する褥瘡治療装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
褥瘡とは、人体又は家畜・愛玩動物において、生理的に言う骨性隆起部の周辺での皮膚・軟部組織に対して、寝床を含む外力によって同一姿勢での持続的な圧迫・伸張・剪断応力が生じた結果、当該組織における血液微小循環が不全となって組織壊死が引き起こされ、これによって生じる組織欠損又は皮膚潰瘍のことをいう。一般には、床ずれとも呼ばれる。
【0003】
褥瘡の成因は、まず、身体の特定部位に加わった外力により、骨と皮膚表層の間における軟部組織の血流量が低下又は停止される。そして、この状況が一定時間持続されることで、当該組織が不可逆的に阻血性障害に陥り、その結果、当該個所が褥瘡となる。学説では、32mmHg以上の圧力を2時間かけ続けると褥瘡が起こるとした報告がある。また、褥瘡が起こりやすい部位は、通常、後頭、肩甲骨、肘、大転子部、仙骨、尾骨、踵などとされているが、個人差や寝る姿勢などによってその部位が変わってくる。
【0004】
現在では、褥瘡のメカニズムとして、Berlowitzらにより報告されるように、実際は単なる阻血にとどまらず、次の4種類の機序、すなわち(1)阻血性障害、(2)再灌流(阻血後・血流再開)障害、(3)リンパ系の機能障害、(4)細胞・組織の形態的機械的変形が複合的に絡み合って関与しているとするのが有力とされている。これら4種類のうち、阻血性障害は、虚血に伴う嫌気性代謝の亢進により組織内に乳酸が蓄積され、組織pHが低下することが主因とされている。一方、再灌流障害とは、阻血後に生じる血流再開に伴うものであり、単なる阻血それ自体よりも強い組織障害を生じる。これが、特に体位交換などに伴う場合に、褥瘡の重症化を引き起こす主な要因の一つとして重要視されている。
【0005】
褥瘡の分類としては、発症後の短期間の褥瘡は「急性期褥瘡」と呼ばれ、壊死の及ぶ範囲や深さが不明瞭なため把握することが難しいが、1〜2週間経過すると、隣接する周囲の健常な皮膚との境界が明瞭となり、壊死の及んだ範囲が明らかとなってくる。ただし、壊死の及んだ深達度を外観から目視で判定することは難しく、デブリードメント後に明らかとなる。さらに褥瘡が進行して、皮下脂肪組織より深部にまで壊死が及んだ褥瘡は「慢性期褥瘡」と呼ばれ、通常、治癒までに数ヶ月、時には1年以上の期間を要する。慢性期褥瘡は、創傷の表面における色調によってどの治癒過程であるかが次の進行順序ごとに判定される。(a)黒色期:塊状の壊死組織が付着している状態、(b)黄色期:残存した壊死組織を伴う滲出性変化が見られる状態、(c)赤色期:肉芽形成が認められる状態、(d)白色期:創の収縮と上皮化が認められる状態。
【0006】
現在では、褥瘡治療には、主に次のような手段が採用されている。(i)炎症を抑制し皮膚局所の血行を改善する。例えば、非ステロイド系抗炎症外用剤や皮膚局所の血行改善にヘパリン類似物質を含有する軟膏などを適用し、皮膚表皮にびらんが生じた場合には、亜鉛華単軟膏やアズレン軟膏を適用する。(ii)水疱はなるべく破らず残しておく。そして、皮膚潰瘍になっている場合には洗浄し、皮膚潰瘍内に壊死組織が存在する場合には壊死組織を除去し、皮膚潰瘍に感染がある場合には消毒する。また、肉芽形成を促進する外用剤を適用する。さらに、創面を保護するために、シリコンガーゼ、ポリウレタンフィルム、豚皮などを貼付ける。(iii)損傷部位がポケット状を成す場合にはガーゼを充填するか、又は皮膚切開を行う。また、皮弁によって創閉鎖を施術する。(iv)腐骨した患部を切除する。
【0007】
一方、褥瘡治療の物理的治療法としては、主に水治療法が知られている。これは、不感温度に調製された温水あるいは渦流による物理的な刺激を全身に与えるハバード浴療法、あるいは局所的に与える渦流浴療法などが知られている。このような水治療法では、通常、創面に対して、直接的に温水を接触させたり、閉鎖性ドレッシング材で創面を被覆したりして治療が行われる。このような従来の褥瘡に対する物理的治療法に用いられるのは、通常は、溶存水素濃度が検出限界以下の0.01ppmに至らない水であり、その治療効果も創面の洗浄による清浄効果や血行促進効果が期待されるに留まる。
【0008】
ところで、これまでに水の改質方法として、原料水に水素ガスを混入させて加水素水を得る方法が公知となっている。このようにして得られる加水素水は、pHが9.0以下と中性に近いながらも、−100mV以下という非常に低い酸化還元電位を有しており、還元性の水としてその活用方法が各種方面で注目されている。
【0009】
近年では、癌などの疾患の原因に「活性酸素」の影響が示唆されており、すなわち、癌細胞では活性酸素が高頻度に産生され、SOD(スーパーオキシドジムスターゼ)という活性酸素消去酵素の阻害に感受性を示すことが分かっている。そのため、加水素水を摂取等することでその還元性により上述した活性酸素が除去される効果が期待できることから、例えば、特許文献1又は特許文献2等にて開示されるように、加水素水の薬理効果に着目した癌抑制剤等に関する技術などが提案されている。
【0010】
また、皮膚に生体反応に悪影響を与えない、つまり酸化還元電位やpH等が皮膚の生体反応と性質が同じか酷似しているとして、加水素水の非常に低い酸化還元電位に着目した加水素水の新しい用途も提案されている。例えば、特許文献3には、加水素水を用いて犬等の哺乳動物の皮膚を洗浄する方法が開示されている。
【0011】
しかしながら、従来の加水素水は、確かに、日常的若しくは定常的に経口摂取(投与)することで、生体の生物活性を高める効果に加えて、癌などの抗腫瘍効果を利用した多様な応用が期待されるところであるが、上述したような褥瘡治療に際して、褥瘡部分に直接接触させたり、褥瘡部分を浸漬させたりすることによる加水素水の外用効果ついては、これまで何ら報告されていない。特に、特許文献3では、哺乳動物の皮膚洗浄に用いられる加水素水が開示されるが、加水素水の薬理効果に基づいて褥瘡治療における外用効果について開示したものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3444849号公報
【特許文献2】特開2007−254435号公報
【特許文献3】特開2007−228936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明では、褥瘡治療外用液剤および褥瘡治療装置に関し、前記従来の課題を解決するもので、褥瘡に対して副作用のない安心安全で良好な治癒効果をもたらす褥瘡治療外用液剤および褥瘡治療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
本発明者らは、褥瘡は高齢化社会を迎え多数の寝たきり患者や重症患者にとって深刻な問題であるが、有効な治療法が見いだされていないという現状に鑑みて鋭意検討を重ねた結果、水基剤に水素ガスを含有させた液剤が褥瘡治療に効果的な外用効果を奏することをついに見出し、本発明の完成に至ったのである。
【0015】
すなわち、請求項1においては、水基剤中に水素ガスを含有するものである。
【0016】
請求項2においては、少なくともビタミンC又はプロビタミンCを含有するとともに、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ゼラチン、コラーゲン含有タンパク加水分解物、ビタミンAより選ばれる1種又は2種以上を含有するものである。
【0017】
請求項3においては、亜鉛、銅、カルシウム、鉄及びこれらを含む化合物より選ばれる1種又は2種以上を含有するものである。
【0018】
請求項4においては、水基剤中に炭酸ガスを含有するものである。
【0019】
請求項5においては、白金コロイドを含有するものである。
【0020】
請求項6においては、35〜43℃に調製され、溶存水素濃度が0.5ppm〜2.0ppmで、かつ酸化還元電位が−300mV〜−680mVであるものである。
【0021】
請求項7においては、ダブルチューブ構造の管体に、拡散室と、所定の孔径を有する多孔質要素とが設けられた調製装置に、所定温度の水基剤を高圧で供給するとともに、目的とする溶存水素濃度及び酸化還元電位となるように水基剤の供給量に応じて水素ガスを供給し、前記拡散室にて水基剤と水素ガスとを混合した混合流体を前記多孔質要素に通過させて得られる、微細気泡状の水素ガスを含有するものである。
【0022】
請求項8においては、剤形が塗布剤であるものである。
【0023】
請求項9においては、水素ガスを含有する褥瘡治療用の浴用水を供給する褥瘡治療装置であって、35〜43℃に調製された温湯を供給する温湯供給部と、水素ガスを発生させる水素ガス発生部と、前記温湯供給部により供給された温湯と前記水素ガス発生部にて発生された水素ガスとが供給され、溶存水素濃度が0.8〜2.0ppmで、かつ酸化還元電位が−300〜−680mVとなる浴用水を調製する浴用水調製部と、前記温湯供給部にて供給される温湯又は前記浴用水調製部にて調製された浴用水に所定の添加剤を供給する添加剤供給部と、前記浴用水調製部より供給ラインを介して浴用水を排出する浴用水排出部と、前記浴用水排出部より排出された浴用水を収容して褥瘡部位を浸漬させる浴槽部と、を具備してなるものである。
【0024】
請求項10においては、前記浴槽部内の浴用水の溶存水素濃度を測定する水素濃度測定部と、前記水素濃度測定部で測定された溶存水素濃度に基づいて、前記浴用水調製部で製造される浴用水の溶存水素濃度を調節する制御部と、を具備してなるものである。
【0025】
請求項11においては、前記添加剤供給部にて供給される添加剤は、少なくともビタミンC又はプロビタミンCと、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ゼラチン、タンパク加水分解物、ビタミンAより選ばれる1種又は2種以上と、を含むものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明の効果として、褥瘡に対して副作用のない安心安全で良好な治癒効果をもたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施例に係る褥瘡治療装置の全体的な構成を示した模式図。
【図2】浴用水調製部の構成を示す断面図。
【図3】別実施例の褥瘡治療装置の全体的な構成を示した模式図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の褥瘡治療外用液剤では、水基剤として、水道水、蒸留水、精製水、天然ミネラル水などを用いることができる。本発明の水基剤は、好ましくは35〜43℃の温湯となるように調製され、特に好ましくは不感温度と言われる35.5〜36.6℃の低温湯となるように調製される。
【0029】
本発明の褥瘡治療外用液剤では、水素ガスは、水基剤中に溶存した状態及び気泡状で存在した状態で含まれる。特に、本発明の褥瘡治療外用液剤は、ミリバブル、マイクロバブル、およびマイクロナノバブルまで広範な直径の水素ガスの微細気泡が好ましく含まれる。このように微細気泡とすることで、溶液中での均一性と分散性に優れ、褥瘡部分の生物活性を高めることが期待される。なお、水素ガスのナノバブル率(水基剤中の気泡状の水素ガスの率)は、ベックマン・コールター社製の光散乱粒子径計測装置で20%以上、好ましくは、70%以上が褥瘡改善効果に対して良好である。
【0030】
水素ガスの混合方法としては、公知の方法を採用することができる。例えば、電気分解法による場合には、水基剤を電解装置にかけて水基剤を直接電気分解することにより水素ガスを生成させ、水基剤中に水素ガスを含有させる。かかる場合には、電解装置としては、特に水素ガスのナノバブル率を高めるためにも、電極端子としてチタン基材を白金メッキした超平滑表面電極端子プレートが好ましく用いられる。
【0031】
また、バブリング法による場合には、ダブルチューブ構造の管体に、拡散室と、所定の孔径を有する多孔質要素とが設けられた調製装置に、水基剤を高圧で供給するとともに、目的とする溶存水素濃度及び酸化還元電位となるように水基剤の供給量に応じて水素ガスを供給し、拡散室にて水基剤と水素ガスとを混合した混合流体を前記多孔質要素に通過させて、水基剤中に水素ガスを含有させる(後述する図1及び図2等参照)。かかる場合には、水素ガスを気泡状態で水基剤に混合させるのではなく、一度水基剤と水素ガスとの混合流体を形成した後に、これを多孔質要素に通過させることで水素ガスの気泡を含有させるものである。
【0032】
このように水基剤中に水素ガスが含有されることで、溶存水素濃度が0.5〜2.0ppmで、かつ酸化還元電位が−300〜−680mVに調製、維持される。上述した水基剤単体での溶存水素濃度が検出限界以下の0.01ppmに至らず、酸化還元電位が+50〜+200mVであることに比べると、本発明の褥瘡治療外用液剤では、溶存水素濃度がその約50倍の0.5〜2.0ppmであり、さらに、酸化還元電位が−300〜−680mVに調製、維持されるため還元力に優れている。
【0033】
特に、溶存水素濃度は、好ましくは0.8〜1.6ppm、より好ましくは1.0〜1.4ppmに調製されるとともに、酸化還元電位は、好ましくは−350mV〜−600mVに調製される。さらに、調製後30〜60分後の溶存水素濃度が少なくとも0.4ppm以上を維持するように調製される。また、好ましくは、溶存酸素濃度が5.0ppm以下、より好ましくは1.0〜3.5ppmに調製される。
【0034】
このように、本発明の褥瘡治療外用液剤は、水基剤に水素ガスを含有する加水素水を有効成分として含むものであり、褥瘡のステージによらず、深度の深い褥瘡や再発した褥瘡の治療にも効果が期待できるものである。特に、褥瘡メカニズムの一つとして報告される阻血性障害は、虚血に伴う嫌気性代謝の亢進により組織内に乳酸が蓄積されて組織pHが低下することが主因であるとされているが、本発明の褥瘡治療外用液剤によれば、そのような阻血性障害により低下したpHの中和作用に寄与するものと考えられる。また、再灌流障害において、阻血後の再灌流直後に激増するスーパーオキシドアニオンラジカルなどの活性酸素の消去効果にも関連すると考えられる。
【0035】
本発明の褥瘡治療外用液剤は、水基剤に水素ガスを含有する加水素水にその他の有効成分が含有されることは、それらとの相補・相乗的な効果が期待できるため好ましい。そのような添加成分としては、必須構成成分としての水素ガスに加えて、抗酸化ビタミン類、水素ガス安定剤、タンパク加水分解物、ミネラル類、無機塩類、炭酸ガス、白金コロイドなどから適宜選択されて添加成分として好ましく含有される。
【0036】
なお、これらの添加成分は、水基剤又は水素ガスを含有した加水素水に予め加えておいてもよく、また褥瘡治療外用液剤の使用の際に適時添加してもよく、作業性や利便性を考えて選択することができる。
【0037】
具体的には、添加成分としては、少なくともビタミンC又はプロビタミンCを含有するとともに、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ゼラチン、コラーゲン含有タンパク加水分解物、ビタミンAより選ばれる1種又は2種以上を含有して用いることができる。また、亜鉛、銅、カルシウム、鉄及びこれらを含む化合物より選ばれる1種又は2種以上を含有して用いてもよい。
【0038】
本発明の褥瘡治療外用液剤では、細胞機能の活性化や増殖等により産生される活性酸素の消去を促進し、皮膚再生に関与する細胞を保護する機能が期待できるビタミンC、ビタミンE、β−カロチンなどの抗酸化ビタミン類が含有され、特に、ビタミンC又はプロビタミンCが好ましく含有される。ビタミンC又はプロビタミンCは、褥瘡部位の表面に接触されて皮膚内部へ浸透して皮膚内の細胞へと供給されることで、褥瘡コラーゲン形成、生体異物解毒、インタフェロン産生誘導、抗ヒスタミン作用、免疫機能増強、抗ウイルス、抗細菌などの種々の作用も期待される。
【0039】
ビタミンCとしては、薬理学的に許容されるアスコルビン酸の遊離酸やその塩が好ましく用いられる。アスコルビン酸の塩としては、例えば、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩等)などが挙げられ、好ましくはアスコルビン酸ナトリウム塩が用いられる。
【0040】
プロビタミンCとしては、ビタミンCの誘導体として薬理学的に許容されるアスコルビン酸のエステルが好ましく用いられ、例えば、アスコルビン酸リン酸エステル(アスコルビン酸−2−O−リン酸エステル)、アスコルビン酸グルコシド(アスコルビン酸−2−O−α−D−グルコシド)、アスコルビン酸パルミチン酸エステル(アスコルビン酸−6−O−パルミチン酸エステル)、アスコルビン酸ステアリン酸エステル(アスコルビン酸−6−O−ステアリン酸エステル)などが挙げられる。
【0041】
本発明の褥瘡治療外用液剤では、溶存水素濃度と酸化還元電位を長時間保持するために、所与の増粘剤や水溶性高分子などの水素ガス安定剤が含有され、特に、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ゼラチンより選ばれる1種又は2種以上が好ましく含有される。特に、ポリアクリル酸ナトリウムは、高吸水性高分子として水素ガスや後述する炭酸ガスや吸蔵支持体として好ましく用いられる。
【0042】
水素ガス安定剤としては、例えば、グアガム、クインスシード、カラギーナン、ガラクタン、アラビアガム、ペクチン、マンナン、デンプン、キサンタンガム、カードラン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、グリコーゲン、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、トラガントガム、ケラタン硫酸、コンドロイチン、ムコイチン硫酸、ヒドロキシエチルグアガム、カルボキシメチルグアガム、デキストラン、ケラト硫酸、ローカストビーンガム、サクシノグルカン、カロニン酸、キチン、キトサン、カルボキシメチルキチン、寒天、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ベントナイト等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を任意に選択して用いることができる。
【0043】
本発明の褥瘡治療外用液剤では、褥瘡の創傷修復の材料や促進因子として有用であるタンパクを含有する原料を酵素や酸、アルカリ等により加水分解して得られる分解物であるタンパク加水分解物が含有され、特に、コラーゲン含有タンパク加水分解物が好ましく含有される。
【0044】
タンパク含有原料としては、例えば、乳、絹、小麦、トウモロコシ、米、エンドウマメ、オーツ、ひまわり、魚類、海藻類、カゼイン、コラーゲン、エラスチン、ケラチン、大豆等が挙げられるが、特に、コラーゲン、エラスチン、ケラチンが好ましく用いられる。また、コラーゲン源としては、例えば、哺乳動物の皮、骨、鳥類の軟骨や骨、魚類の軟骨や骨、皮、鱗などを用いることができ、特に、魚類の軟骨、骨、皮及び鱗等の魚類を原料としたフィッシュコラーゲンが好ましく用いられる。
【0045】
本発明の褥瘡治療外用液剤では、褥瘡治療効果を有する栄養成分として、また褥瘡の創傷修復促進因子として有用である所与のビタミン類が含有され、特に、効果的な創傷治癒効果が期待できるビタミンAが好ましく含有される。
【0046】
その他のビタミン類としては、例えば、レチノール、レチナール(ビタミンA1)、デヒドロレチナール(ビタミンA2)、リコピン(プロビタミンA)、チアミン塩酸塩、チアミン硫酸塩(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ピリドキシン(ビタミンB6)、シアノコバラミン(ビタミンB12)、葉酸類、ニコチン酸類、パントテン酸類、ビオチン類、コリン、イノシトール類、エルゴカルシフェロール(ビタミンD2)、コレカルシフェロール(ビタミンD3)、ジヒドロタキステロール、ユビキノン類、フィトナジオン(ビタミンK1)、メナキノン(ビタミンK2)、メナジオン(ビタミンK3)、メナジオール(ビタミンK4)、その他、必須脂肪酸(ビタミンF)、カルニチン、フェルラ酸、γ−オリザノール、オロット酸、ビタミンP類(ルチン、エリオシトリン、ヘスペリジン)、ビタミンUなどが挙げられる。
【0047】
本発明の褥瘡治療外用液剤では、水素ガスや後述する炭酸ガスと協動して、褥瘡の創傷修復促進因子として有用である無機塩類が含有され、特に、亜鉛、銅、カルシウム、鉄及びこれらを含む化合物より選ばれる1種又は2種以上が好ましく含有される。特に、亜鉛、銅、カルシウム、鉄を含む化合物として、酸化亜鉛、硫酸銅、塩化カルシウム、硫酸鉄などが好ましく含有される。
【0048】
無機塩類としては、食塩、並塩、岩塩、海塩、天然塩等の塩化ナトリウム含有塩類、塩化カリウム、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、にがり、塩化亜鉛、塩化アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウム・カリウム(ミョウバン)、硫酸アルミニウム・アンモニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸鉄、硫酸銅、リン酸1Na・2Na・3Na等のリン酸ナトリウム類、リン酸カリウム類、リン酸カルシウム類、リン酸マグネシウム類が挙げられる。
【0049】
本発明の褥瘡治療外用液剤では、水基剤(加水素水)中に溶存した状態及び気泡状で存在する炭酸ガスが好ましく含有される。炭酸ガスの混合方法としては、公知の方法を採用することができ、水基剤中への炭酸ガスのバブリング又は炭酸ガス発生剤によって含有させることが好ましい。バブリング法による場合は、炭酸ガスボンベから多孔質フィルターを通過させて水基剤中に炭酸ガスを溶解させる。また、炭酸ガス発生剤を用いる場合は、炭酸水素ナトリウムを主体に、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウムなどと混合し、これを錠剤、顆粒、粉末としたものが水基剤中に投入される。
【0050】
本発明の褥瘡治療外用液剤では、有効な水素吸蔵因子であるコロイド状の白金族元素又はこれを含む化合物が含有され、特に、白金族元素のうち白金コロイドが好ましく含有される。白金族元素は、周期律表第VIII族に属する元素のうち、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)の6元素の総称であり、コロイド状とすることで、水基剤に吹き込んで溶存された水素ガスにおける脱水素や酸化の諸反応に活性を示すいわゆる還元触媒として作用することが期待される。
【0051】
白金コロイドとしては、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースを支持体として白金を4%配合してなり、好ましくは粒子径が1〜10μmの範囲である白金コロイドが用いられる。水基剤(加水素水)への添加量は、0.02〜30ppmとなるように調製されるが、好ましくは0.05〜10ppmであり、より好ましくは0.1〜6.0ppmとなるように調製される。
【0052】
白金コロイドの製造方法としては、公知の方法を採用することができ、(1)ヘキサクロロ白金酸水溶液の表面にブンゼンバーナーの外炎を当てて還元する方法や、(2)ヘキサクロロ白金酸水溶液に保護コロイドとしてアスコルビン酸ナトリウム、アラビアゴム或いはゼラチン等を添加し、ヒドラジン等還元剤で還元する、(3)蒸発皿に純水を入れ、冷却しながら、この中に浸した2本の白金線の間にアークを放電するブレディッヒ法等の方法で製造される。
【0053】
本発明の褥瘡治療外用液剤には、上記した有効成分及び添加成分のほかに、通常、外用液剤に用いられる医薬的に許容しうる担体や一般的な医薬添加物、例えば、油分、界面活性剤、保湿剤、増粘剤、水溶性高分子、被膜剤、非水溶性高分子、低級アルコール、多価アルコール、糖類、紫外線吸収剤、アミノ酸類、消炎剤、皮膚賦活剤、血行促進剤、抗脂漏剤、抗炎症剤等の薬剤、有機酸、有機アミン、金属イオン封鎖剤、pH調製剤、酸化防止剤、抗菌剤、防腐剤、収斂剤、清涼剤、香料、色素、水等を必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で適宜用いることができる。
【0054】
本発明の褥瘡治療外用液剤は、処方に応じて種々の剤形にすることができ、液剤、湿布剤、浴用剤、ローション剤、エアゾール剤などの経皮吸収型製剤として使用することができる。特に、褥瘡治療としての物理的治療法の際に、褥瘡部分に直接接触させたり、褥瘡部分を浸漬させたりして用いられる治療用の浴用水として好ましく使用される。例えば、褥瘡治療外用液剤を適当な容器に充填して製品とされ、一回にその適当量を褥瘡部位に滴下させたり、容器や浴槽に収容して褥瘡部位を浸漬させたり、ガーゼや脱脂綿などの塗布具等により塗布することにより適用される。また、スプレー容器に充填して噴霧方式により適用可能な製品形態とすることも可能である。
【0055】
次に、図1乃至図3を参照しながら、本発明の褥瘡治療外用液剤を浴用水として供給する褥瘡治療装置について、以下に説明する。
【0056】
図1に示す褥瘡治療装置10は、温湯を供給する温湯供給部1と、水素ガスを発生させる水素ガス発生部2と、温湯供給部1により供給された温湯と水素ガス発生部2にて発生された水素ガスとが供給されて浴用水を調製する浴用水調製部3と、温湯供給部1にて供給される温湯又は浴用水調製部3にて調製された浴用水に所定の添加剤を供給する添加剤供給部4と、浴用水調製部3より供給ライン7を介して浴用水を排出する浴用水排出部5と、浴用水排出部5より排出された浴用水を収容して褥瘡部位を浸漬させる浴槽部6と、を具備してなるものであり、褥瘡治療における物理的治療法の際に使用されるものである。
【0057】
温湯供給部1は、浴用水調製部3に温湯を供給する給湯装置(温水ボイラ)として構成される。温湯供給部1によって、好ましくは35〜43℃、特に好ましくは35.5〜36.6℃に調製された温湯が浴用水調製部3に供給される。水素ガス発生部2は、浴用水調製部3に接続されて、浴用水調製部3に供給された温湯に水素ガスを供給する水素供給源として構成されている。その構成は特に限定されないが、原料水を電気分解させて水素ガスを発生させる公知の電解槽が構成されている。
【0058】
浴用水調製部3は、湯供給部1により供給された温湯に水素ガス発生部2にて発生された水素ガスを混合させ、微細気泡の水素ガスを溶存させた浴用水(加水素水)を調製可能な構成とされている。浴用水調製部3の構成は特に限定されないが、水素ガス発生部2が一体に取り付けられて浴用水調製部3より供給される温湯を直接電気分解する電気分解法や、別体に構成された水素ガス発生部2より供給される水素ガスと温水との混合流体を形成するバブリング法などが採用された構成とすることができる。
【0059】
図2を参照しながら、浴用水調製部3の一例について説明すると、浴用水調製部3は、温湯に水素ガスを混合させるためのエジェクタ構造が採用されており、ダブルチューブ状構造の管体30に温湯供給部1からの供給給路及び水素ガス発生部2からの供給給路が接続され、管体30内に、両端から中央に向かって縮径された拡散室31と、拡散室31に配設された多孔質要素32等とが設けられている。
【0060】
拡散室31は、両端から中央に向かって縮径構造(絞り構造)となるように構成される。管体30に温湯と水素ガスが供給されることで、拡散室31の絞り部で負圧が形成されることで、温湯と水素ガスとの混合流体が形成される。多孔質要素32は、所定の孔径を有するフィルタ構造に形成され、拡散室31に充填されている。拡散室31にて形成された混合流体が多孔質要素32を介して噴射されることで、多孔質要素31に形成されている孔の直径と略同じ直径の水素ガスの気泡が形成される。
【0061】
このように、浴用水調製部3では、エジェクタ効果を利用して拡散室31にて温湯に対して水素ガスが混合されて温湯に水素ガスが溶解された混合流体(浴用水)が形成され、この混合流体が多孔質要素31に通過されることで、混合流体に微細な気泡が含有される。この浴用水調製部3により製造される浴用水には、微細気泡として、ミリバブルからマイクロバブル、およびマイクロナノバブルまで広範な直径の水素ガスの気泡が含まれ、均一性と分散性に優れ褥瘡改善効果に対して良好である。
【0062】
本実施例の浴用水調製部3では、溶存水素濃度が0.8〜2.0ppmで、かつ酸化還元電位が−300〜−680mVとなる浴用水が調製される。なお、かかる浴用水の溶存水素濃度及び酸化還元電位は、浴用水調製部3に供給される温湯及び水素ガスの圧力及び流量を調製することで、容易に任意の値となるように調製することができる(図3参照)。
【0063】
浴用水排出部5は、浴用水調製部3より供給ライン7を介して調製された浴用水が排出される排出部であり、本実施例では、浴用水を収容して褥瘡部位を浸漬させる浴槽部6と、浴用水がシャワー状に吐出されるシャワー部8とに切り替えられて浴用水が排出される。このように浴用水排出部5にて浴槽部6又はシャワー部8へと切り替えて浴用水を排出することで、浴槽部6にて浴用水に患者が入浴することで褥瘡部位を浸漬させたり、シャワー部8にて患者の褥瘡部分に浴用水を直接接触させたりして、最適な褥瘡治療を行うことができる。
【0064】
添加剤供給部4は、温湯供給部1にて供給される温湯又は浴用水調製部3にて調製された浴用水に所定の添加剤を供給するものであり、本実施例では、浴用水調製部3と浴用水排出部5とを連結する供給ライン7の中途部に配設されて、浴用水調製部3にて調製された浴用水に所定の添加剤を供給するように構成されている。
【0065】
「所定の添加剤」としては、褥瘡治療における有意な薬理効果を奏するために浴用水に添加される添加成分のことである。具体的には、特に、抗酸化ビタミン類、水素ガス安定剤、タンパク加水分解物、ミネラル類、無機塩類、炭酸ガス、白金コロイドなどから適宜選択されて添加成分として好ましく含有されることは上述したとおりである。添加剤の添加量は、治療に用いられる浴用水中において有意な薬理効果を奏する所定量が添加される。
【0066】
なお、添加剤供給部4の配置構成はこれに限定されず、例えば、温湯供給部1に接続されて浴用水調製部3に供給される前の温湯中に所定の添加剤を含有させる構成としてもよく、また浴用水排出部5、浴槽部6又はシャワー部8などの一又は複数個所に設けられてもよい。
【0067】
次に、図3を参照しながら、別実施例の褥瘡治療装置100について、以下に説明する。
図3に示す褥瘡治療装置100は、温湯を供給する温湯供給部101と、水素ガスを発生させる水素ガス発生部102と、浴用水を調製する浴用水調製部103と、温湯供給部1にて供給される温湯又は浴用水調製部103にて調製された浴用水に所定の添加剤を供給する添加剤供給部104と、浴用水調製部103より供給ライン107を介して浴用水を排出する浴用水排出部105と、浴用水排出部5より排出された浴用水を収容して褥瘡部位を浸漬させる浴槽部106と、浴槽部106の浴用水の溶存水素濃度を測定する水素濃度測定部110と、水素濃度測定部110で測定された溶存水素濃度に基づいて、浴用水調製部103で製造される浴用水の溶存水素濃度を調節する制御部111と、を具備してなるものである。
【0068】
図3に示した褥瘡治療装置100では、上述した図1に示した褥瘡治療装置10に対して、水素濃度測定部110で測定された浴槽部106内の浴用水の溶存水素濃度に基づいて、浴槽部106へ供給する浴用水の溶存水素濃度を調整することができるように構成されている点が異なる。すなわち、浴槽部106内に収容された浴用水に含まれる水素ガスは、微細気泡のガス状態であるため、時間の経過とともに浴用水の溶存水素濃度が低下し、浴槽部106に収容されている浴用水の溶存水素濃度が過度に低下すると、水素の量が不足して褥瘡治療に効果を奏しなくなる場合も生じ得る。そのため、褥瘡治療装置100では、浴槽部106内の浴用水の溶存水素濃度が一定に維持できるように構成されているのである。
【0069】
水素濃度測定部110は、浴槽部106内に設けられており、浴槽部106内の浴用水の溶存水素濃度が継続的に測定される。そして、水素濃度測定部110にて測定された溶存水素濃度は、制御部111に送られて浴用水調製部103における浴用水の調製にフィードバックされる。制御部111では、水素濃度測定部110で測定された浴用水の溶存水素濃度に基づいて、予め設定しておいた浴用水の溶存水素濃度と異なる場合に、所定の溶存水素濃度となるように浴用水調製部103における水素ガスの圧力又は流量が制御される。
【0070】
このように制御部111にて制御することで、褥瘡治療装置100では、浴槽部106内の浴用水の溶存水素濃度をより高い濃度に維持させることが可能となる。すなわち、褥瘡障害度(褥瘡ステージ)の高い患者に使用する場合は、褥瘡部位における過剰な活性酸素を除去すべく、より多くの水素ガスを皮膚面に取り込ませる必要がある。したがって、かかる場合には、浴槽部106内の浴用水の溶存水素濃度をより高くして維持するよう適宜設定することができるのである。
【0071】
なお、図3に示す褥瘡治療装置100においても、添加剤供給部104の配置構成は特に限定されず、供給ライン107に配置して浴用水調製部103にて調製された浴用水に所定の添加剤を供給するように構成してもよく、また浴用水排出部105又は浴槽部106などの一又は複数個所に設けられてもよい。
【実施例1】
【0072】
<褥瘡治療外用液剤及び比較例試料の調製>
本実施例の褥瘡治療外用液剤では、公知の電気分解法又は上述した褥瘡治療装置1にて供給される加水素水(浴用水)を用いて、いずれも温度35.8〜36.4℃、溶存水素濃度1.02〜1.35ppm、溶存酸素濃度1.30〜3.28ppm、酸化還元電位−349〜−583mV、pH5.34〜8.06となるように調製した。一方、比較例試料は、水基剤として通常の水道水又は蒸留水を用いて、温度35.8〜36.4℃となるように調製した。なお、比較例試料においては、溶存水素濃0.01ppm未満、溶存酸素濃度6.07〜9.16ppm、酸化還元電位+77〜+284mV、pH6.19〜7.44のものを用いた。
【0073】
褥瘡治療外用液剤又は比較例試料に含有される添加成分は、水基剤に予め加えるか又は水素ガスを含有した加水素水に加えるかして所定量を添加した。また、炭酸ガスは、バブリング方の他に、炭酸水素ナトリウムと硫酸ナトリウムが1:19の割合で配合された混合錠剤(発生剤)を用いて含有させた。
【0074】
<褥瘡治療効果試験1>
まず、ddYマウスの背中の中央部(1.5×2.5cm)を創傷させないようにバリカンで毛剃りし、次に、角を丸く平滑に砥削した丸角長方形のメタクリル板(1.0×2.0cm)に二重綿ガーゼを被覆し、そこにマウスの背中の毛剃り面を32mmHgで加圧した。加圧継続2〜4日間で、メタクリル板と背骨に挟まれたマウス背中の皮膚が寝たきり患者等の床ずれに類似した物理的圧迫を受けることで、マウス背中に最も豊富に分布するI型コラーゲン及び表皮と真皮を張り合わせている基底膜のIV型コラーゲンが損傷して、NPUAP(米国褥瘡諮問委員会:National Pressure Ulcer Advisory Panel)分類の褥瘡ステージIに匹敵する皮膚症状が現れた。そして、毛剃り部ほぼ全体が上述した症状を示した3〜6日間のいずれかの時点で、マウス個体ごとに加圧を停止し、その直後から、1試験区ごとに8頭で治療処理を3週間行った。
【0075】
治療処理方法としては、褥瘡ステージI症状の部位を褥瘡治療外用液剤又は比較例試料に毎日10分間浸漬する処理(浸漬処理)と、褥瘡ステージI症状の部位に褥瘡治療外用液剤又は比較例試料を毎日10分間連続滴下する処理(滴下処理)と、褥瘡ステージI症状の部位に褥瘡治療外用液剤又は比較例試料を染み込ませた塗布具を貼付して毎日取り換える処理(貼付処理)とを行った。また、治療効果は、治療処理の都度、褥瘡ステージI症状の部位をデジタルカメラで撮影し、画像処理を施して、当該部位の面積の減少率(%)の変化に基づいて評価した。
【0076】
表1に、比較例試料を用いて所与の処理を行った場合の試験結果(比較例1〜5)を示す。
【0077】
【表1】

【0078】
表2に、褥瘡治療外用液剤として、水基剤に水素ガスを含有させたもの(実施例1)、及び水基剤に水素ガスを含有させたものに所与のビタミンC又はプロビタミンCを添加したもの(実施例2〜6)を用いて浸漬処理を行った場合の試験結果を示す。
【0079】
【表2】

【0080】
表3に、褥瘡治療外用液剤として、水基剤に水素ガスとビタミンC又はプロビタミンC(アスコルビン酸リン酸エステル)を含有させたものに所与の水素ガス安定剤、タンパク加水分解物、ミネラル類、無機塩類、又は白金コロイドを添加したもの(実施例7〜14)を用いて浸漬処理を行った場合の試験結果を示す。
【0081】
【表3】

【0082】
表4に、褥瘡治療外用液剤として、水基剤に水素ガスと炭酸ガスを含有させたもの(実施例15、16)、及び水基剤に水素ガスと炭酸ガスを含有させたものに所与の水素ガス安定剤、タンパク加水分解物、ミネラル類、又は無機塩類を添加したもの(実施例17〜22)を用いて浸漬処理を行った場合の試験結果を示す。
【0083】
【表4】

【0084】
表5に、褥瘡治療外用液剤として、水基剤に水素ガスを含有させたもの(実施例23)、水基剤に水素ガスを含有させたものに所与のビタミンC又はプロビタミンCを添加したもの(実施例24〜28)、及び水基剤に水素ガスとビタミンC又はプロビタミンC(アスコルビン酸)を含有させたものにタンパク加水分解物を添加したもの(実施例29)を用いて滴下処理を行った場合の試験結果を示す。
【0085】
【表5】

【0086】
表6に、褥瘡治療外用液剤として、水基剤に水素ガスと炭酸ガスを含有させたもの(実施例30)、及び水基剤に水素ガスと炭酸ガスを含有させたものに所与の水素ガス安定剤又は白金コロイドを添加したもの(実施例31、32)を用いて滴下処理を行った場合の試験結果を示す。
【0087】
【表6】

【0088】
表7に、褥瘡治療外用液剤として、水基剤に水素ガスを含有させたもの(実施例33)、水基剤に水素ガスを含有させたものに所与のビタミンC又はプロビタミンC、水素ガス安定剤、タンパク加水分解物、ミネラル類、無機塩類、又は白金コロイドを添加したもの(実施例34〜38)、及び水基剤に水素ガスと炭酸ガスを含有させたもの(実施例39)を用いて貼付処理を行った場合の試験結果を示す。
【0089】
【表7】

【0090】
以上、表1〜7に示したように、本実施例の水基剤に水素ガスなどを含有する褥瘡治療外用液剤がマウスに人為形成させた褥瘡モデルに対して改善効果をもたらすことが認められた。
【実施例2】
【0091】
<褥瘡治療効果試験2>
まず、皮膚組織培養向けブロノフチャンバーの中でI型コラーゲンゲルの中にヒト皮膚線維芽細胞OUMS−36を播種し、その上に再構成基底膜成分であるマトリゲルを重層し、さらに、ヒト皮膚角化細胞HaCaT細胞を播種して生育させ、最後にエアリフティングによって角質層を形成させる3Dヒト皮膚組織モデル形成法によって人工皮膚を調製した(なお、3次元皮膚組織モデルの調製法の詳細は、Kato S et al.,J.of Photochem.&Photobiol.B:Biology.,(2010),vol.98,P.99−105や、Kato S et al.,Journal of Biomedical Nanotechnology.,(2010),vol.6,P.1−7等参照)。
【0092】
次いで、角を丸く平滑に砥削した円形のメタクリル板に上記の方法で調製した人工皮膚を直接宛てがい、32mmHgで加圧した。加圧継続3日後に、皮膚組織を切り出して、OCTコンパウンドに埋包し、クライオスタットで厚さ4μmの垂直薄片を調製した。そして、この垂直薄片をヒトIV型コラーゲン認識ウサギ抗体で処理し、リンス後に、FITC(fluorescein isothiocyanate)コンジュゲートのウサギ免疫グロブリン認識ヤギ2次抗体で処理した。この処理物に対して、共焦点走査型レーザー蛍光顕微鏡で蛍光を検出してFluorographyを取得し、これを画像処理して、単位面積あたりの蛍光強度に基づいてIV型コラーゲン構築度(flor.unit/mm)を算出した。
【0093】
加圧継続3日後にIV型コラーゲン構築度が低下したがこれを無処理試験区とし、各種の治療処理区及び比較対照区として、その後1週間の処理を行い、同様にIV型コラーゲン構築度を計測した。本実施例での治療処理区及び比較対照区では、上述した<褥瘡治療外用液剤及び比較例試料の調製>で説明した方法で同様に調製した褥瘡治療外用液剤及び比較例試料を用いてこれを角質層の上に重層し、1試験区について6片の人工皮膚を用いてIV型コラーゲン構築度を算出し、その統計的有意を評価した。なお、共焦点走査型レーザー蛍光顕微鏡において、蛍光強度は励起波長508nm、蛍光波長630nmで、ゲイン、露光時間及びオフセットをそれぞれ統一して計測した。
【0094】
表8に、比較例試料として、水基剤のみ(比較例7)、水基剤に所与のビタミンC又はプロビタミンC、水素ガス安定剤、タンパク加水分解物、ミネラル類、無機塩類、炭酸ガス又は白金コロイドを添加したもの(比較例8〜15)を用いた場合の試験結果を示す。
【0095】
【表8】

【0096】
表9に、褥瘡治療外用液剤として、水基剤に加水素水を含有させたもの(実施例40)、水基剤に加水素水を含有させたものに所与のビタミンC又はプロビタミンC、水素ガス安定剤、タンパク加水分解物、ミネラル類、無機塩類、炭酸ガス又は白金コロイドを添加したもの(実施例41〜48)を用いた場合の試験結果を示す。
【0097】
【表9】

【0098】
表8及び表9に示したように、本実施例の水基剤に水素ガスなどを含有する褥瘡治療外用液剤は、褥瘡の予防治療に直結する皮膚基底膜における主成分IV型コラーゲン構築度を改善することが検証された。
【実施例3】
【0099】
<褥瘡治療効果試験3>
上述した<褥瘡治療外用液剤及び比較例試料の調製>で説明した方法で同様に調製された褥瘡治療外用液剤を浴用水(温度35.8〜36.4℃、溶存水素濃度1.02〜1.35ppm、溶存酸素濃度1.30〜3.28ppm、酸化還元電位−349〜−583mV、pH5.34〜8.06)として用い、褥瘡患者に対して入浴又はシャワーのいずれかの方法により褥瘡部位に浴用水を接触させることで、浴用水の褥瘡に対する治癒効果を検証した。具体的には、褥瘡ステージや褥瘡部位の異なる症状の褥瘡患者に対して、浴用水を収容した浴槽に毎日1回10分間浸かって褥瘡部位を浴用水に浸漬させて治療する方法(入浴処理方法)、又はシャワーにて浴用水を毎日1回10分間浴びて褥瘡部位に浴用水を接触させる方法(シャワー処理方法)のいずれかの物理的治療法を適用して標準的治療を施し、これを4週間継続して行った。なお、比較試験では、通常の水を用いて同様の物理的治療法を行った。また、治療効果は、各々の褥瘡部位に対するNPUAP分類に従ったDTI疑似、ステージI〜IVの各段階で評価するとともに、そのステージ改善度を総合判定により評価した。
【0100】
表10に、比較試験として、通常の水を浴用水として用いて物理的治療(入浴処理及びシャワー処理)を行った治療結果を示す(被験者A〜F)。
【0101】
【表10】

【0102】
表11に、浴用水として水基剤に水素ガスを含有させたものを用いて物理的治療(入浴処理及びシャワー処理)を行った治療結果を示す(被験者G〜L)。
【0103】
【表11】

【0104】
表10及び表11に示したように、本実施例の浴用水では、褥瘡改善効果が顕著に認められ、褥瘡に対して治癒効果をもたらすことが示された。
【符号の説明】
【0105】
1 温湯供給部
2 水素ガス発生部
3 浴用水調製部
4 添加剤供給部
5 浴用水排出部
6 浴槽部
7 供給ライン
10 褥瘡治療装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水基剤中に水素ガスを含有する褥瘡治療外用液剤。
【請求項2】
少なくともビタミンC又はプロビタミンCを含有するとともに、
ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ゼラチン、コラーゲン含有タンパク加水分解物、ビタミンAより選ばれる1種又は2種以上を含有する請求項1に記載の褥瘡治療外用液剤。
【請求項3】
亜鉛、銅、カルシウム、鉄及びこれらを含む化合物より選ばれる1種又は2種以上を含有する請求項1又は請求項2に記載の褥瘡治療外用液剤。
【請求項4】
水基剤中に炭酸ガスを含有する請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の褥瘡治療外用液剤。
【請求項5】
白金コロイドを含有する請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の褥瘡治療外用液剤。
【請求項6】
35〜43℃に調製され、溶存水素濃度が0.5ppm〜2.0ppmで、かつ酸化還元電位が−300mV〜−680mVである請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の褥瘡治療外用液剤。
【請求項7】
ダブルチューブ構造の管体に、拡散室と、所定の孔径を有する多孔質要素とが設けられた調製装置に、
所定温度の水基剤を高圧で供給するとともに、目的とする溶存水素濃度及び酸化還元電位となるように水基剤の供給量に応じて水素ガスを供給し、
前記拡散室にて水基剤と水素ガスとを混合した混合流体を前記多孔質要素に通過させて得られる、
微細気泡状の水素ガスを含有する請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の褥瘡治療外用液剤。
【請求項8】
剤形が塗布剤である請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の褥瘡治療外用液剤。
【請求項9】
水素ガスを含有する褥瘡治療用の浴用水を供給する褥瘡治療装置であって、
35〜43℃に調製された温湯を供給する温湯供給部と、
水素ガスを発生させる水素ガス発生部と、
前記温湯供給部により供給された温湯と前記水素ガス発生部にて発生された水素ガスとが供給され、溶存水素濃度が0.8〜2.0ppmで、かつ酸化還元電位が−300〜−680mVとなる浴用水を調製する浴用水調製部と、
前記温湯供給部にて供給される温湯又は前記浴用水調製部にて調製された浴用水に所定の添加剤を供給する添加剤供給部と、
前記浴用水調製部より供給ラインを介して浴用水を排出する浴用水排出部と、
前記浴用水排出部より排出された浴用水を収容して褥瘡部位を浸漬させる浴槽部と、
を具備してなる褥瘡治療装置。
【請求項10】
前記浴槽部内の浴用水の溶存水素濃度を測定する水素濃度測定部と、
前記水素濃度測定部で測定された溶存水素濃度に基づいて、前記浴用水調製部で製造される浴用水の溶存水素濃度を調節する制御部と、
を具備してなる請求項9に記載の褥瘡治療装置。
【請求項11】
前記添加剤供給部にて供給される添加剤は、
少なくともビタミンC又はプロビタミンCと、
ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ゼラチン、タンパク加水分解物、ビタミンAより選ばれる1種又は2種以上と、
を含む請求項9又は請求項10に記載の褥瘡治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−219411(P2011−219411A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89871(P2010−89871)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(000167820)広島化成株式会社 (65)
【出願人】(598157753)
【出願人】(507362731)株式会社マイナス600ミリボルト (1)
【Fターム(参考)】