説明

西ナイルウイルスワクチン

【課題】 西ナイルウイルス(WNV)ワクチンの製造方法及び当該方法により製造されたWNV不活化ワクチンを提供することを目的とする。
【解決手段】 WNV接種したアフリカミドリザル腎臓由来の株化細胞(Vero細胞)を高密度培養して得られるWNV感染細胞又はその培養液から、不活化処理した後、ショ糖密度勾配遠心法によりWNVを高度に精製する方法、当該方法により得られるWNV、及び当該WNV又はその抗原成分を主成分とする実質的に宿主由来の核酸及び蛋白を含有しないWNV不活化ワクチンに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、西ナイルウイルス(以下、「WNV」と称することもある)ワクチンに関する。詳細には、WNV接種したアフリカミドリザル腎臓由来の株化細胞(Vero細胞)を培養して得られるWNV感染細胞又はその培養液からWNVを高度に精製する方法、当該方法により得られるWNV、及び当該WNV又はその抗原成分を含むワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
西ナイルウイルス(WNV)は、カラス、ハト、スズメ等の鳥類を自然宿主とする、フラビウイルス科に属する直径約50nmの一本鎖RNAウイルスである。WNVは、水田域を繁殖の場とするコガタアカイエカや都市部でも生息するアカイエカ、ヒトスジシマカ等の蚊の媒介により、ウマ、ヒトにも感染する。同じフラビウイルス科に属する日本脳炎ウイルス(JEV)による感染症の場合、JEVを媒介する蚊がコガタアカイエカにほぼ限定されるため、その流行範囲は局地的であるが、WNV感染症は、WNVが種々の蚊によって媒介されるため、都市部を含む広範囲に亘って流行する。
【0003】
WNVがヒトに感染した場合、84%は不顕性であるか又は夏風邪様の軽い症状を呈した後治癒するが、発疹、筋肉痛、肝炎などのデング熱様症状、脳炎などの重い症状を引き起こす場合もある。このような重い症状を呈した場合、発症者の93%は入院治療を余儀なくされ、その内の31%に対して集中治療が行われる。発症者のうち、33%が神経系の後遺症を残し、9%が死亡する。この傾向は、高齢者ほど高い。
【0004】
WNVは1937年にウガンダで有熱症状の患者からはじめて分離された。WNV感染症は、1950年代以降、エジプト、イスラエル、フランス、南アフリカ等で流行し、1994年以降には、アフリカ諸国や中東、アジア、ヨーロッパにも広がった。1999年にアメリカ本土の4つの州で流行したときは、62名の感染者が確認された。殺虫剤散布等による蚊の駆除により、一旦は、感染者数は減少したが、ウイルスの活動を抑えることはできず、2002年に流行したときは、アメリカ本土のほぼ全域からウイルス感染者が確認された。この年の流行により、最終的には4156名の感染者のうち、284名が死亡するという大きな被害がもたらされた。WNV感染症に対する馬用のワクチンは既に開発され、その感染症予防に大いに役立っているが、ヒト用に開発されたものはない。現在、WNV感染予防には、蚊の駆除による間接的な手法がとられており、早急に有効なワクチンの開発が望まれるところである。
【0005】
これまでに、いくつかの異なるタイプのNWVワクチンの開発が試みられている。一つは、直接、WNVをワクチン材料とするもので、WNVを蚊の細胞で継代して弱毒した生ワクチンがガチョウに対して有効であったこと(非特許文献1参照)及び幼少マウスの脳から得たWNVをホルマリンで不活化してオイルアジュバントとともに投与した後、WNV攻撃試験を行うと52〜80%の有効性が認められたこと(非特許文献2参照)が報告されている。しかしながら、感染したマウス脳乳剤を出発材料とするワクチンに対しては、マウス脳由来の汚染物質によるアレルギー性中枢神経障害や病原微生物の混入の恐れがあること、製造に際して大量にマウスを供給することが困難になりつつあり、その製造コストも高いことなどの問題が指摘されており、加えて動物愛護の点から動物の使用は極力避けることが求められている。弱毒生ワクチンについては、長期にわたるワクチン効果が期待できるが、突然変異による病原性の復帰が懸念される。
【0006】
また、フラビウイルス科のウイルスには、フラビウイルスに共通の主要な感染防御抗原である、E蛋白と呼ばれる外皮糖蛋白質があり、これを利用したWNVワクチンの可能性も検討されている。例えば、M. Malkinsonらは、イスラエル七面鳥髄膜脳炎(TME)ウイルス由来の市販ワクチンで一定のWNV防御効果をガチョウにおいて確認している。ホルマリンで不活化したTMEウイルスをオイルアジュバントとともに投与した後のWNV攻撃試験では39%〜72%の効果が認められた(非特許文献2参照)。Teshらは、ハムスターに日本脳炎ワクチン、野生型セントルイス脳炎ウイルス及び黄熱病ワクチンを予防的に投与することにより、ウエストナイルワクチンの感染後の症状が軽減されたことを報告している(非特許文献3参照)。しかし、N.Kanesa−Thasanらは、ヒトに日本脳炎ワクチンとデング熱ワクチンを投与したところ、これらに対する防御抗体は惹起できたもののウエストナイルウイルスに対する中和抗体は誘導できなかったことを報告しており(非特許文献4参照)、WNV感染に対する効果は、必ずしも一定しない。
【0007】
一方、遺伝子組換え技術を利用したWNVワクチンの開発も進められている。T.Wangらは、大腸菌で発現させたWNVのE蛋白がWNV感染者血清と反応したこと、このE蛋白を免疫して得たマウス抗体がWNVの感染を防御したことを明らかにし、いわゆる、組換えコンポーネントワクチンの可能性を報告している(非特許文献5参照)。また、J.S.Yangらは、WNVのカプシド蛋白遺伝子をコードするDNAをマウスに免疫すると、強力な細胞性免疫と液性免疫が誘導されることを明らかにし(非特許文献6参照)、B.S.Davisらは、WNVのpreMとEたん白遺伝子をコードするDNAを免疫したマウス及びウマはWNV感染から防御されることを示した(非特許文献7参照)。これらの結果は、発現ベクターを直接に生体内に導入するDNAワクチンの可能性を示唆する。
【0008】
更に、複数のウイルス感染を防御するキメラワクチンの可能性も検討されている。G.Pletnevらはデングウイルス4型のプレメンブレン蛋白(preM)とエンベロープ蛋白(E)をコードする遺伝子領域をウエストナイルウイルスのそれと置き換えたキメラウイルスは動物実験では神経病原性も低く、WNV攻撃試験においてもマウスに高い防御効果を付与したことを明らかにした(非特許文献8参照)。また、米国では、黄熱病ウイルスワクチン株である17D株のウイルスゲノムに、WNVの外被膜糖蛋白(E蛋白)遺伝子とその上流のPreM遺伝子を組み込んだキメラウイルスワクチンの開発が進められている(非特許文献9参照)。遺伝子組換え技術を利用した上記の試みは、いずれも現在基礎的な検討段階にあり、ワクチンとして使用できる程度に高度に精製したとの報告はなく、実用化に至るまでには、精製や製剤化方法、安全性、有効性、コストなど、解決すべき課題が多い。
【0009】
【非特許文献1】S. Lustig et al., Viral Immunol,13,4,401-10 (2000)
【非特許文献2】M. Malkinson et al., N Y Acad Sci,951,255-61 (2001)
【非特許文献3】R. B. Tesh et al., Infect Dis,8,3,245-51 (2002)
【非特許文献4】N. Kanesa-Thasan et al., Am J Trop Med Hyg,66,2,115-6 (2002)
【非特許文献5】T. Wang et al., J Immunol,167,9,5273-7 (2001)
【非特許文献6】J. S. Yang et al., J Infect Dis,184,7,809-16 (2001)
【非特許文献7】B. S. Davis et al., J Virol,75,9,4040-7(2001)
【非特許文献8】A. G. Pletnev et al., Proc Natl Acad Sci U S A,99,5,3036-41 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、NWV感染に対する種々のワクチンの可能性が検討されているが、現在までに、西ナイルウイルス(WNV)の感染を効果的に阻止し、安全性、低コスト、安定供給等を満足できるWNVワクチン及びその製造方法は存在しない。
【0011】
したがって、本願発明は、高度に精製したWNVワクチンの製造方法及び当該方法により製造されるWNVワクチンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、マイクロキャリアに付着させて高密度に培養したVero細胞にWNVを接種し、これをウイルス培養用無血清培地VP−SFM中で適切な培養条件下に培養することにより、WNVが極めて大量に産生されることを見出した。更に、このWNVはホルマリンによって完全に不活化されること、不活化されたWNVはショ糖密度勾配遠心法により高度に精製されること、この精製抗原を用いて調製した不活化ワクチンは、WNV及び類縁の日本脳炎ウイルスに対して高い中和能を有する抗体を誘導することを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0013】
したがって、本願発明は、マイクロキャリアに付着させて高密度に培養したVero細胞にWNVを接種し、これをウイルス培養用無血清培地VP−SFM中で適切な培養条件下に培養し、得られたウイルス液をホルマリンで不活化し、これをショ糖密度勾配遠心法により精製する工程を含む不活化WNVワクチンの製造方法を包含する。
【0014】
また、本願発明は、上記の製造方法により高度に精製された、且つ日本脳炎ウイルスに対して中和活性を有する不活化WNVワクチンを包含する。
【発明の効果】
【0015】
本願発明の方法によれば、高度に精製された不活化WNVワクチン及びその製造方法が提供される。マイクロキャリアに付着させたVero細胞にWNVを感染させて、これを高密度培養することにより、高濃度のウイルス液を得ること可能となる。本願発明では、ウイルスの増殖時には、培養液中の除去すべき不純蛋白量を低減する為に、無血清、低濃度蛋白の培地が使用される。これにより、精製ステップを簡素化することができるので、製造時間の短縮、WNVの収率向上、且つ高純度WNVの取得を達成することができる。これは、WNVワクチンの低コスト、大量生産、安定供給を可能にする。また、無血清培地を使用するので、血清由来の未知病原体混入の可能性を低減することができる。
【0016】
また、本願発明の不活化WNVワクチンは、WNV及び日本脳炎ウイルスの両方に対する中和活性を有するので、WNVによる感染症だけでなく、日本脳炎ウイルスによる感染症を防御する効力を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本願発明の方法は、(1)マイクロキャリアに付着させたVero細胞にWNVを接種して高密度培養する工程、(2)ホルマリンでWNVを不活化する工程、(3)ショ糖密度勾配遠心によりWNVを精製する工程を含む不活化WNVワクチンの製造方法及びその製造方法によって得られる不活化WNVワクチンによって特徴付けられる。
【0018】
本願発明に使用するWNVとして、臨床分離株を使用できるが、株の種類については特に制限されない。本願発明では、長崎大学熱帯医学研究所の森田 公一氏から分与されたEg101(以下、EG株と称することもある)及び森田 公一氏を通じてアメリカCDC(Centers for Disease Control and Prevention)のGublar氏により分与されたNY99−35262−11(以下、NY株と称することもある)を用いる。
【0019】
WNVの増殖に用いる宿主細胞としては、WNVが増殖する動物細胞であるならば如何なるものも使用可能であるが、本願発明では、高濃度のウイルス液を得る為の高密度培養が可能な株化細胞を使用するのが好ましい。このような株化細胞として、Vero細胞、CHO細胞、MDCK細胞等が挙げられるが、好ましくは、Vero細胞である。
【0020】
Vero細胞の増殖に用いる培地は、M199培地、イーグルMEM培地など、一般的に組織培養に使用される市販の培地を、添付の使用方法に従って調製すれば良い。好ましくは、ダルベッコMEM培地にアミノ酸、塩類、抗カビ・抗菌剤及び動物血清等を添加しものが使用される。WNVを感染させた感染細胞を培養する際には、動物血清を含まない無血清、低濃度蛋白質培地を使用するのが好ましい。このような培地として、VP−SFM(GIBUCO社)、EX−CELLシリーズ(ニチレイ)、SFM−101(ニッスイ)などが市販されているが、好ましくは、VP−SFMが使用される。培地のpHは、動物細胞の増殖に適した7〜8、好ましくは、7.4に調整される。
【0021】
Vero細胞を付着させる為のマイクロキャリアとしては、サイズ、形状、密度、表面荷電及び表面コート材質などタイプの異なる種々のマイクロビーズが市販されているので、この中から適宜選択して用いれば良い。例えば、サイトデックス、バイオシロン(ナルジェヌンクインターナショナル)、CELLYARD(ペンタックス社)などのマイクロビーズが挙げられるが、好ましくは、サイトデックス(CytodexI,アマシャムバイオサイエンス社)である。当該サイトデックスの使用量は、培養液1Lあたり、1〜10g、好ましくは、3〜5gである。
【0022】
高密度培養は、マイクロキャリアに付着させた細胞をフェド−バッチ法によりファーメンターで培養することにより達成される。Vero細胞のサイトデックスへの付着は、3g/Lとなるようにサイトデックス及び前記の培養液をファーメンターに入れ、これに1〜5x10の細胞を加え、20〜40rpmの速度で培養液を回転攪拌しながら培養し、細胞をサイトデックスに付着させ、増殖させる。培養温度及び培養期間は、付着させるときの細胞数、培養スケール等の組み合わせにより調節されるが、培養温度32℃〜38℃、培養期間2〜7日間である。
【0023】
WNVの接種は、Vero細胞の増殖が安定期に達した後に行われる。培地を吸引除去し、血清を添加していない培地又はリン酸緩衝食塩水で数回洗浄した細胞に、感染効率(M.O.I.)0.01〜0.0001のウイルス量が接種される。ウイルス感染細胞の培養は、VP−SFM培地にL−グルタミン酸を添加した培地を用いて、32℃〜38℃で1〜5日間行われる。好ましくは、37℃で2〜3日間培養する。培養期間中に生ずるpHの低下及び栄養分の不足に対し、フェド−バッチ法による2〜10%、好ましくは、6%グルコースを含む、10〜20%、好ましくは、15%炭酸ナトリウム液が随時添加され、pHの維持及び栄養分の補給が行われる。培養終了後の培養液は、不溶物を除去するために粗遠心又は膜ろ過に供される。こうして得られるウイルス含有液(以下、ウイルス原液と称することもある)には、極めて高濃度のウイルス量が含まれる。
ウイルスの不活化処理は、前記のウイルス原液を排除限界分子量10〜50万、好ましくは、排除限界分子量30〜50万の限外ろ過膜で濃縮後、これに終濃度が0.02〜0.10%となるようにホルマリンを添加し、4℃前後で1〜3ヶ月間静置することにより行われる。当該不活化は、精製途中又は精製後のウイルス液に対して行っても良い。不活化の完了は、不活化処理されたウイルス原液の一部を、Vero細胞に接種し、これを培養してウイルスの増殖の有無を見ることにより確認される。
【0024】
不活性化処理後のウイルス原液は、20000〜50000rpm、2〜24時間のショ糖密度勾配遠心により精製される。好ましくは、30,000rpm、16時間のショ糖密度勾配遠心が行われる。こうして得られるウイルス含有画分は、高度に精製されたもので、限外ろ過法もしくは透析法等により脱糖するか又は適当な緩衝液で希釈した後、メンブランフィルターで無菌ろ過し、ワクチン原料として使用される。このワクチン原料に、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、ミネラルオイル及びノンミネラルオイル等の免疫賦活剤、ポリソルベート80、アミノ酸及びラクトースやスクロース等の糖等の安定剤及びホルマリン、チメロサール、2−フェノキシエタノール、ベンジルアルコール、塩化ベンゼトニウム及び塩化ベンザルコニウム等の保存剤を適宜選択して添加することにより製剤化が行われる。また、賦形剤としての効果を有するラクトース、スクロース等の糖を添加した場合、凍結乾燥製剤として製剤化することも可能である。
【0025】
上記のショ糖密度勾配遠心後のウイルス含有画分は、使用目的によっては、カラムクロマトグラフィーにより更に精製される。斯かるカラムクロマトグラフィーとして、一般的に蛋白やポリペプチドの精製に常用される、陽イオンクロマトグラフィー、陰イオンクロマトグラフィー及び吸着クロマトグラフィーなどが挙げられる。好ましくは、WNV粒子を高純度に精製することができるセルロース硫酸エステルゲルが使用される。
ワクチンとしての効力は、動物にワクチンを接種し、攻撃試験を行うか、ワクチン接種した動物の血清のウイルス中和能を測定することにより調べることができる。より具体的には、適当に希釈したWNVワクチン液をマウスに免疫し、WNVに対する抗体を作製する。この抗体について50%プラーク減少法による中和活性を測定することによりワクチンとしての有効性を調べることができる。マウスの免疫方法は、通常行われる免疫方法に従えば良い。例えば、免疫血清は、WNVワクチンの初回接種後、1〜3週後に追加接種し、その追加接種の1週後に採決し、血清分離することにより得られる。
【0026】
本願発明により得られるワクチンは、後述の実施例6の結果から明らかなように、WNVに対する中和抗体を誘導するだけでなく、日本脳炎ウイルスに対する中和抗体を誘導することができる特異なワクチンである。Ben-Nathan Dらの報告(J Infect Dis 2003 Jul 1; 188(1)5-12)によるとWNV感染症の治療及び予防には抗体が重要な役割を担うことが明らかにされており、本願発明のWNVワクチンはWNV感染症の予防に極めて有効であることが示唆される。また、本願発明のワクチンは、他のWNV株由来のワクチン、例えば、EG株と混合することにより、より効果的なワクチンとすることが期待される。更には、他のウイルス(例えば、日本脳炎ウイルス、A型肝炎ウイルス、狂犬病ウイルス)及び細菌(例えば、百日咳・ジフテリア・破傷風菌)に対するワクチンからなる群より選択される少なくとも1種類のワクチンと組み合わせることにより混合ワクチンとして使用することができる。
以下、実施例に従い、本発明を更に詳細に説明するが、下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
(Vero細胞の培養)
ウイルスを増殖させる株化細胞として、ATCCより購入したVero細胞(CCL−81株)を用いた。これを10%ウシ血清含有M199培地に懸濁し、37℃、5%炭酸ガス培養器中で5〜7日間培養した。得られた細胞を細胞バンクとして保管した。タンク培養に至るまでの細胞の増殖は、5%牛血清含有ダルベッコMEM培地を用い、前記と同じ条件で行った。タンク培養には5リットル容の発酵タンクを用い、5%牛血清含有ダルベッコMEM培地5Lに、5x10のVero細胞と15gのサイトデックスを加え、37℃、40rpmで3〜7日間培養した。この培養により、1mLあたり1x10個以上の細胞が得られる。
【実施例2】
【0028】
(VP−SFMを用いたウイルスの培養)
サイトデックスに付着した細胞を、細胞培養時に発生した細胞代謝物や牛血清などを除去するために、血清を含まないダルベッコMEMで洗浄した後、これにVP−SFM培地で感染効率が0.01となるように調整したWNV液1Lを添加し、培養を続けた。初期培養として、37℃、回転数20rpmで90min間培養した。その後、VP−SFM4Lを追加後、回転数を40rpmに上げ、溶存酸素量2ppmを維持しながら培養を続けた。培養中のpHは、6%グルコース(Glu)を含む15%炭酸ナトリウム液を随時添加することにより7.4に維持した。3日後に培養液を回収し、ウイルス含有量をプラークアッセイ法により測定した。表1に、上記のpH維持及びグルコース添加の有無と培地中のウイルス含有量の関係を示す。数値はウイルス産生量(nLog10)を示す。
【0029】
【表1】

【実施例3】
【0030】
(ウイルス浮遊液の不活化およびショ糖密度勾配遠心)
ハーベストしたウイルス液を3000rpm、5minの粗遠心分離にかけ、サイトデックス及び細胞を除去した後、限外ろ過膜(排除限界分子量30万)で10倍〜30倍に濃縮した。限外ろ過濃縮にはSARTOCON SLICE DISPORSABLE(富士フィルター)を用いた。濃縮液にホルマリンを0.08%になるように添加し、4℃、70〜120日間放置してウイルスの不活化を行った。ウイルス量測定や細胞接種試験において生残ウイルスが確認できなくなった後、ショ糖密度勾配遠心によりウイルス粒子を精製した。ローターPR42(日立)を用い、遠心チューブに50%ショ糖溶液10〜30mL、30%ショ糖溶液10〜30mL及びウイルス不活化試料液10〜30mLを順次重層し、30,000rpm、4℃、16時間、遠心分離を行った。遠心終了後、OD280の吸光が認められるショ糖濃度40%以上の画分100mLをプールした。次いで、リン酸緩衝液10L中で4℃、1日間透析した後、無菌ろ過し、精製不活化抗原とした。これをリン酸緩衝生理食塩水で1mLあたり、たん白量30μgを含有するように希釈し、これにポリソルベート80を0.01%になるように加えたものを試作ワクチンとした。
【実施例4】
【0031】
(試作ワクチンの宿主由来核酸の定量)
核酸の定量は、全てキットに添付された方法に従って行った。検体からの核酸抽出には、DNAエクストラクターキット(和光)を用いた。得られた核酸をバイオドットSF(バイオラッド社)を用いてナイロンメンブレンにブロットし、次いで、Gene Image Labeling System (アマシャムファルマシアバイオテク社)でラベリングしたVero細胞由来DNAをもちいてハイブリダイゼーションし、Gene Image Detection Kit(アマシャムファルマシアバイオテク社)を用いて検出した。化学発光によるシグナルを数値化し、標準検体をスタンダードとして検体の核酸量を求めた。標準検体として既知量のVero細胞由来核酸を用いた。その結果、表2に示すように、宿主由来のDNA含量は、1接種量(たん白量15μg)あたり1ng以下であった。これは、WHOが推奨する、1接種量あたり10ngを下回る値である。
【0032】
【表2】

【実施例5】
【0033】
(試作ワクチン中の宿主由来蛋白の定量)
Vero細胞培養上清から得られた蛋白をウサギおよびモルモットに免疫して抗Vero蛋白抗体を作製した。抗Vero蛋白モルモット抗体を、1ウエルあたり500ngとなるように96ウエルプレート(Nunc社)に吸着させ、これに適当に希釈した試作ワクチン液を添加後、37℃2時間インキュベートした。次に抗Vero蛋白ウサギ抗体を、1ウエルあたり100ng添加し、37℃2時間インキュベートした後、ペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgG(ZYMED社)及び発色基質(オルトフェニレンジアミン;OPD)を添加し、発色させた。既知量のVero蛋白を用いて作成された検量線から蛋白量を求めた。その結果、表3に示すように、1接種量(たん白量15μg)あたり、100ng以下であることが示された。
【0034】
【表3】

【実施例6】
【0035】
(試作ワクチンの免疫効果)
試作ワクチン液をそのまま、あるいはリン酸緩衝生理食塩水で4倍希釈し、ddYマウス(雌、4週齢)の腹腔内に0.5mLずつ20匹に接種し、1週後に同量を追加免疫した後、さらに1週間後、採血・血清分離した。得られた血清について、Vero細胞を用いた50%プラーク減少法による中和抗体価を測定した。対照として日本脳炎ワクチン免疫血清を用いた。その結果を表4に示す。
【0036】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本願発明の方法により得られる不活化西ナイルウイルス(WNV)は、高度に精製されたものであり、且つWNV及び日本脳炎ウイルスに対して中和活性を有するから、単独で又は種々の安定剤,保護剤,防腐剤等の添加物と共に用いることにより、WNV及び日本脳炎ウイルス感染症に対するワクチンの抗原材料として利用できる。
また、本願発明のWNVは、モノクローナル抗体・ポリクローナル抗体を作製する際の抗原として、あるいは、抗WNV抗体とWNVとの結合に関する研究材料、例えば、EISA、WBなどの検出系の材料として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された西ナイルウイルスであって、全蛋白質量10μgあたり、宿主由来核酸量が10pg〜10ng、宿主由来蛋白質量が10〜100ngであり、且つ西ナイルウイルス及び日本脳炎ウイルスに対する中和抗体を誘導できる抗原性を有することを特徴とする前記西ナイルウイルス。
【請求項2】
下記(1)〜(3)の工程を含む製造方法により得られることを特徴とする請求項1記載の西ナイルウイルス。
(1)マイクロキャリアに付着させた株化細胞に西ナイルウイルスを接種し、無血清培地中で高密度培養する工程、
(2)限外濾過膜でろ過後に、ホルマリンで西ナイルウイルスを不活化する工程、
(3)ショ糖密度勾配遠心により西ナイルウイルスを精製する工程
【請求項3】
下記(1)〜(3)の工程を含む製造方法により得られることを特徴とする請求項1記載の西ナイルウイルス。
(1)サイトデックスIに付着させたVero細胞に西ナイルウイルスを接種し、フェド-バッチ法により2〜10%グルコースを添加しながらVP−SFM地中で高密度培養する工程、
(2)分画分子量30〜50万の限外濾過膜でろ過した後に、終濃度0.02〜0.10%ホルマリンで西ナイルウイルスを不活化する工程、
(3)20000〜50000rpm、2〜24時間のショ糖密度勾配遠心により西ナイルウイルスを精製する工程
【請求項4】
請求項1ないし3記載の何れかの西ナイルウイルスを主成分として含有し、免疫賦活剤、分散剤、安定剤及び保存剤のうちの少なくとも一つを添加して得られることを特徴とする西ナイルウイルス不活化ワクチン。
【請求項5】
免疫賦活剤が水酸化アルミニウム、燐酸アルミニウム、ミネラルオイル及びノンミネラルオイルよりなる群から選ばれ、安定剤がポリソルベート80、アミノ酸又は糖から選ばれ、保存剤がホルマリン、チメロサール、2−フェノキシエタノール、ベンジルアルコール、塩化ベンゼトニウム及び塩化ベンザルコニウムよりなる群から選ばれることを特徴とする請求項4記載の西ナイルウイルス不活化ワクチン。
【請求項6】
凍結乾燥製剤である請求項5記載の西ナイルウイルス不活化ワクチン。
【請求項7】
下記(1)〜(3)の工程を含むことを特徴とする西ナイルウイルス不活化ワクチンの製造方法。
(1)マイクロキャリアに付着させた株化細胞に西ナイルウイルスを接種し、無血清培地中で高密度培養する工程、
(2)限外濾過膜でろ過後に、ホルマリンで西ナイルウイルスを不活化する工程、
(3)ショ糖密度勾配遠心により西ナイルウイルスを精製する工程
【請求項8】
下記(1)〜(3)の工程を含むことを特徴とする西ナイルウイルス不活化ワクチンの製造方法。
(1)サイトデックスIに付着させたVero細胞に西ナイルウイルスを接種し、フェド-バッチ法により1〜10%グルコースを添加しながらVP−SFM地中で高密度培養する工程、
(2)分画分子量30〜50万の限外濾過膜でろ過した後に、終濃度0.02〜0.10%ホルマリンで西ナイルウイルスを不活化する工程、
(3)20000〜50000rpm、2〜24時間のショ糖密度勾配遠心により西ナイルウイルスを精製する工程

【公開番号】特開2007−68401(P2007−68401A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−288820(P2003−288820)
【出願日】平成15年8月7日(2003.8.7)
【出願人】(000173555)財団法人化学及血清療法研究所 (86)
【Fターム(参考)】