説明

覆工コンクリートの強度推定装置、システム及び方法

【課題】 現場到着時の生コンの初期温度が異なる場合でも、覆工コンクリートの圧縮強度を正確に推定できるようにする。
【解決手段】 本発明は、現場打ちされた養生中の覆工コンクリートCの積算温度Mに基づいて、覆工コンクリートCの現時点の圧縮強度Fを推定する装置80に関する。この装置80は、積算温度Mと圧縮強度Fとの関係式Aiを、覆工コンクリートCに用いる生コンの初期温度ごとに予め記憶している記憶部92と、覆工コンクリートCの打設時の初期温度を取得する第1取得部(表示部91)と、覆工コンクリートCの養生中の内部温度を取得する第2取得部(通信部90)と、取得された初期温度に基づいて使用する関係式Aiを決定し、取得された内部温度の時系列の測定データから算出した現時点までの積算温度Mを、決定した関係式Aiに適用して圧縮強度Fを算出する制御部93と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの内壁面を構成する覆工コンクリートの強度推定装置と、この装置を構成要素に含む強度推定システムと、その装置が行う強度推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルの内面をコンクリートで覆工する場合、例えば山岳トンネルにおいては、トンネル長手方向に移動可能なスライドセントル(以下、「セントル」ともいう。)に設けられたアーチ型の型枠を用いて、坑口から切羽側に向かって所定のスパンごとに覆工コンクリートの打設を行う。
この覆工コンクリートは、打設後に所定期間(例えば、16時間程度)をおいて脱型する工程になることが多いが、セントル脱型時の初期材齢のコンクリート強度(圧縮強度)は約1〜2N/mm以上が必要とされている。
【0003】
かかる覆工コンクリートの圧縮強度は、覆工現場と同じ配合である標準養生又は現場養生を行った供試体の圧縮強度から推定するのが通常であるが、いずれの養生方法を採用するかによって推定値が大きく異なり、実際の覆工コンクリートの圧縮強度を正確に推定できないという欠点がある。
そこで、覆工コンクリートの硬化時と同じ温度履歴を与えた供試体の積算温度と圧縮強度との関係により、覆工コンクリートの圧縮強度をより正確に推定する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−271301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、実際の施工現場においては、覆工コンクリートを打設する際の生コンの初期温度が、その施工箇所、施工時期(季節)及び天候などに応じて、概ね10〜30°Cの範囲で大きく変化するのが現状である。
例えば、冬季では、現場到着時の生コンの温度が10°C以下の場合があり、セントル脱型時の初期強度が不足がちになり、逆に、夏季では、現場到着時の生コン温度が25°C程度の場合が多く、セントル脱型時の初期強度が充分であることが多い。
【0006】
このように、施工現場に到着する生コンの初期温度が大きく異なると、一律の初期温度の生コンに所定の温度履歴を与えた供試体を利用した圧縮強度の推定が成立しなくなるので、実際の覆工コンクリートの圧縮強度を正確に推定することができない。
このため、特許文献1に記載の推定方法を、例えば山岳トンネルの覆工コンクリートの施工現場に適用しても、初期材齢の圧縮強度が不足することがあり、この場合、脱型時点でセントルの型枠にコンクリートの表層部が付着したり、酷い場合には一部が崩落したりする恐れがある。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑み、現場到着時の生コンの初期温度が異なる場合でも、覆工コンクリートの圧縮強度を正確に推定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明の強度推定装置は、現場打ちされた養生中の覆工コンクリートの積算温度に基づいて、前記覆工コンクリートの現時点の圧縮強度を推定する装置であって、前記積算温度と前記圧縮強度との関係式を、前記覆工コンクリートに用いる生コンの初期温度ごとに予め記憶している記憶部と、前記覆工コンクリートの打設時の前記初期温度を取得する第1取得部と、前記覆工コンクリートの養生中の内部温度を取得する第2取得部と、取得された前記初期温度に基づいて使用する前記関係式を決定し、取得された前記内部温度の時系列の測定データから算出した現時点までの前記積算温度を、決定した前記関係式に適用して前記圧縮強度を算出する制御部と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
本発明の強度推定装置は、記憶部が、積算温度と圧縮強度との関係式を覆工コンクリートに用いる生コンの初期温度ごとに予め記憶しており、制御部が、取得された初期温度に基づいて使用する関係式を決定し、取得された養生温度の時系列の測定データから算出した現時点までの積算温度を、決定した関係式に適用して圧縮強度を算出するので、覆工コンクリートに用いる生コンの初期温度に対応する適切な関係式により、覆工コンクリートの圧縮強度を算出することができる。
このため、現場到着時の生コンの初期温度が異なる場合でも、覆工コンクリートの圧縮強度を正確に推定することができる。
【0010】
(2) 本発明の強度推定装置において、前記制御部は、トンネル長手方向に隣接する複数スパンの前記覆工コンクリートごとの前記圧縮強度の算出処理を、並列的に実行可能であることが好ましい。
この場合、各スパンの覆工コンクリートごとに算出された圧縮強度をそれぞれ個別に得ることができるので、複数覆工コンクリートの品質管理を同時並行で行うことができる。
【0011】
(3) また、本発明の強度推定装置において、並列的に実行された前記算出処理によって得られた各スパンでの前記圧縮強度をすべて表示可能な表示部を更に設けるようにすれば、各スパンの覆工コンクリートが正常に養生できているか否かを、当該表示部を有する1台の強度推定装置にて集中的に管理することができる。
【0012】
(4) 本発明の強度推定装置において、前記表示部は、次の(a)又は(b)若しくは双方の表示モードを実行可能であることが好ましい。
(a)所定時間ごとの前記圧縮強度をテーブル化して画面表示する第1表示モード
(b)所定時間ごとの前記圧縮強度をグラフ化して画面表示する第2表示モード
この場合、所定時間(例えば、1時間)ごとの圧縮強度が画面表示されるので、仮に覆工コンクリート圧縮強度に何らかの異常が生じた場合には、その異常がどの時点で発生したかを即座に察知することができる。
【0013】
(5) 本発明の強度推定システムは、前記内部温度を計測する温度センサを有する測定装置と、本発明の強度推定装置とを備えたシステムであって、前記測定装置は、前記温度センサの検出信号を外部に送信する無線送信機を有し、前記強度推定装置の前記第2取得部は、送信された前記検出信号を受信する無線受信機よりなることを特徴とする。
【0014】
本発明の強度推定システムによれば、無線受信機よりなる第2取得部が無線信号によって温度センサの検出信号を取得するので、測定装置と強度推定装置とを通信ケーブルで接続する必要がない。
このため、セントルやその他の養生装置の内部で複雑な通信ケーブルの配線を行う必要がなく、強度推定システムをより簡便に構築できるという利点がある。
【0015】
(6) 本発明の強度推定システムにおいて、前記温度センサは、前記無線送信機に検出信号を送るための通信ケーブルを接続可能な、前記覆工コンクリートの内面とほぼ面一になるように埋め込まれるケーブルカプラを有することが好ましい。
この場合、上記ケーブルカプラが覆工コンクリートの内面とほぼ面一になるように埋め込まれるので、通信ケーブルを抜き取った場合にケーブルカプラが覆工コンクリートの内面から突出しない。
【0016】
このため、例えば、セントル脱型後の覆工コンクリートに加熱や保湿のための養生装置を更にセットする養生システムを採用する場合に、その養生装置を所定スパンの覆工コンクリートに移動する前に通信ケーブルを抜き取ることにより、測定装置が養生装置の移動の妨げになることがなく、養生装置の移動作業が簡便になる。
【0017】
(7) 本発明の強度推定方法は、現場打ちされた養生中の覆工コンクリートの積算温度に基づいて、前記覆工コンクリートの現時点の圧縮強度を推定する方法であって、前記積算温度と前記圧縮強度との関係式を、前記覆工コンクリートに用いる生コンの初期温度ごとに予め記憶するステップと、前記覆工コンクリートの打設時の前記初期温度を取得するステップと、前記覆工コンクリートの養生中の内部温度を取得するステップと、取得された前記初期温度に基づいて使用する前記関係式を選択し、取得された前記養生温度の時系列の測定データから算出した現時点までの前記積算温度を、選択した前記関係式に適用して前記圧縮強度を算出するステップと、を含むことを特徴とする。
【0018】
上記の通り、本発明の強度推定方法は、本発明の強度推定装置と実質同一の技術的特徴とを有する方法発明であって、本発明の強度推定装置と同じ作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0019】
以上説明した通り、本発明によれば、現場到着時の生コンの初期温度が異なる場合でも、覆工コンクリートの圧縮強度を正確に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】覆工コンクリートの構築システムの全体構成図である。
【図2】スライドセントルの正面図である。
【図3】スライドセントルの側面図である。
【図4】養生装置の正面図である。
【図5】養生装置の被覆構造体の側面図である。
【図6】外面パネル及び保湿養生層を拡大して示す断面図である。
【図7】覆工コンクリートの打設及び養生作業の作業手順を示す図である。
【図8】本発明の実施形態に係る覆工コンクリートの強度推定システムの全体構成図である。
【図9】強度推定装置の内部構成を示す機能ブロック図である。
【図10】強度推定装置の制御部が行う処理のフローチャートである。
【図11】強度推定装置の表示部による出力表示例を示す図であり、(a)は第1表示モードの出力画面、(b)は第2表示モードの出力画面である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
〔構築システムの全体構成〕
図1は、本発明の実施形態に係る覆工コンクリートの構築システムの全体構成図である。図1において、この構築システムは、一次覆工されたトンネルTの内周面に対して、二次覆工コンクリートCを構築するためのシステムであり、二次覆工コンクリートCを打設するための移動式のスライドセントル1と、このセントル1にて打設された二次覆工コンクリートC(以下、単に「覆工コンクリートC」ともいう。)の養生を行うための複数の養生装置10とを備えている。
【0022】
なお、本明細書では、覆工コンクリートCを打設してからその養生が完了するまでを「覆工コンクリートの構築」と呼ぶ。
セントル1及び養生装置10は、トンネルT内の地面に敷設されたレールR上を走行可能である。セントル1は、坑口側(図1の左側)から切羽側(図1の右側)に向かって所定のスパンに順にセットされ、覆工コンクリートCの打設空間D(図3参照)を形成する。養生装置10は、セントル1でのコンクリート打設が完了してから所定時間(例えば、16時間)経過後にセントル1が脱型されたスパンにセットされ、脱型後の覆工コンクリートCに対して加温ないし湿潤養生を行う。
【0023】
〔スライドセントルの構成〕
図2は、スライドセントル1の正面図であり、図3は、その側面図である。
図2及び図3に示すように、セントル1は、トンネルT内を走行可能な門型台車2と、覆工コンクリートCの内周面を成型するための堰板となる型枠3とを備えている。
門型台車2は、基台部2aと、この基台部2aを支持する支柱2bとを備える。支柱2bの下端には敷設されたレールRに係合する車輪2cが設けられており、この車輪2cがレールRに沿って転動することで、門型台車2がトンネルT内を走行する。
【0024】
型枠3は、複数の円弧状の型枠ピース3aをトンネルTの延長方向に繋ぐことで構成されており、トンネルTの内周面t1にほぼ沿う断面円弧状に形成されている。型枠3は、所定スパンの範囲でトンネルTの内周面t1に対して間隔を空けて覆うようにセットされ、これにより、型枠3の外周面3bとトンネルTの内周面t1との間に、覆工コンクリートCが充填される打設空間Dが形成される。
【0025】
型枠3は、トンネルTの天端部分を構成する天端部3cと、この天端部3cの両端に回動可能に連結された側板部3dと、側板部3dの下端に回動可能に連結された下端部3eとを備えている。
天端部3cは、門型台車2の基台部2a上に設けられた複数のジャッキ4により上下方向に昇降可能に支持されている。また、天端部3cには、打設空間Dに生コンを流し込むための複数の打設口(図示せず)が形成されており、この打設口から圧送される生コンクリートが打設空間Dに流し込まれる。
【0026】
側板部3dは、支柱2bの外側面に設けられた複数のジャッキ5によって門型台車2に連結されており、このジャッキ5を伸縮させることによって幅方向への回動が可能となっている。この側板部3dにも、複数の上記打設口(図示せず)が形成されている。
下端部3eも、側板部3dと同様に、支柱2bの外側面に設けられた複数のジャッキ6によって門型台車2に連結されており、このジャッキ6の伸縮によって内外方向への回動が可能である。
【0027】
このように、型枠3は、基台部2aの上面及び支柱2bの外側面に設けられた複数のジャッキ4,5,6によって門型台車2に支持され、各ジャッキ4,5,6を伸縮させることにより、型枠3全体を門型台車2に対して昇降可能でかつ幅寸法の調整が可能となっている。
また、本実施形態のスライドセントル1は、型枠3及び型枠3の内部空間を加温するためのヒータユニット7を備えている。
【0028】
このヒータユニット7は、温度設定等の温度制御を総括的に行う制御部7aと、セントル1内の適所に配置された複数の加温部7bとを備えており、制御部7aで所定温度に加温したオイルを、各々の加温部7bに循環供給して加温するいわゆるオイルヒータが採用されている。
各々の加温部7bは、制御部7aとの間でオイルを循環させるための油圧配管7cで接続されており、基台部2aの上面や、門型台車2の側面に設けられた支持部材8等に配置されている。
【0029】
制御部7aは、型枠3の内周面の適所に配置された複数の温度計7dと接続され、この温度計7dによる検出温度に基づいて、各加温部7bに供給する油量をフィードバック制御するように構成されている。
すなわち、温度計7dは、セントル1内の型枠温度を検出するものであり、制御部7aは、温度計7dでの検出温度に基づいて型枠3が所定の設定温度となるように各加温部7bにおける加温量を制御する。
【0030】
このように、本実施形態のスライドセントル1では、上記ヒータユニット7によって型枠3及び型枠3の内部空間を加温することにより、打設空間Dに打設された材齢が若い未硬化の覆工コンクリートCを加温養生できるようになっている。
【0031】
〔養生装置の構成〕
図4は、養生装置10の正面図であり、図5は、養生装置10の被覆構造体12の側面図である。
図4及び図5に示すように、養生装置10は、トンネルT内を走行可能な移動架台11と、この移動架台11に搭載された被覆構造体12と、この被覆構造体12の外周面に設けられた保湿養生層13とを備えている。
【0032】
移動架台11は、H型鋼や溝型鋼等からなる複数本の下部柱部材50、上部柱部材51、横梁部材52、縦梁部材53などの長尺部材を、トンネル幅方向およびトンネル延長方向に枠組みすることによって構成されている。
移動架台11の下端部には、前後左右の4箇所に車輪ユニット54が設けられ、この車輪ユニット54は前後一対の車輪55を備える。車輪ユニット54上には下部柱部材50が立設され、前後の車輪ユニット54は長手方向に延びる連結部材56にて相互に連結されている。下部柱部材50は、入れ子構造によって上下に伸縮自在であり、ジャッキ機構57によって高さ調整することができる。
【0033】
図4に示すように、縦梁部材53は左右方向に3本並設され、その中央の縦梁部材53には、前後方向に複数本の上部柱部材51が立設されている。そして、この上部柱部材51の頂部に被覆構造体12が取り付けられている。
被覆構造体12は、覆工コンクリートCの内周面にほぼ沿う円弧状を呈する、前後方向に並設された複数の外枠部材58と、外枠部材58の内周側に沿って左右方向に並設された、前後方向に延びる複数の連結部材59と、外枠部材58の外周側に取り付けられた外面パネル20とを備えている。
【0034】
複数の外枠部材58及び連結部材59は、その交点部分を相互に連結することにより、断面円弧状とされた被覆構造体12の骨組みを構成している。
外枠部材58は、可撓性を有する長尺棒材、例えば、高強度、高靱性、高弾性を有するガラス繊維強化プラスチックにより形成されている。また、連結部材59は、長尺の円管パイプ材から形成されている。外枠部材58は、無負荷の状態ではほぼ直線状であり、移動架台11に設けられた支持部材60,61によってトンネル内周面にほぼ沿うようにアーチ状に湾曲(弾性変形)されている。
【0035】
支持部材60は伸縮可能なロッド部材からなり、ターンバックル式等の調整部60aにより長さを調整することによって外枠部材58の上部側の湾曲度合いを調整することが可能となっている。
また、支持部材61は、長さ調整可能なワイヤー部材からなり、巻き取り式等の調整部61aによる長さ調整により、外枠部材58の下部側の湾曲度合いを調整可能となっている。なお、支持部材60をワイヤー部材によって構成したり、支持部材61をロッド部材によって構成したりすることも可能である。
【0036】
外枠部材58は、覆工コンクリートCの内周面に沿って弾性変形させれば足りるので、被覆構造体12を非常に安価に製造することができる。また、支持部材60,61を長さ調整することによって外枠部材58の湾曲度合いを調整することができるので、覆工コンクリートCの内径寸法の誤差に対応することもできる。
また、支持部材60,61の長さ調整を行って外枠部材58の曲率半径を変更すれば、内径寸法が異なる複数種のトンネル施工に対応することが可能となる。
【0037】
図6は、外面パネル20及び保湿養生層13を拡大して示す断面図である。
図6に示すように、本実施形態の外面パネル20は、外枠部材58の外周面沿って多数の凹凸を並べてなるキーストンプレートや、波板等によって構成されている。この外面パネル20は、トンネル延長方向に並設された複数の外枠部材58に亘ってその外周側全体を覆っている。
【0038】
保湿養生層13は、外面パネル20の外周面に貼り付けられた内側層21と、この内側層21の外周面に積層された保湿マット22と、内側層21と保湿マット22との間に介在して配置されているヒータ部材26とにより構成されている。
内側層21は、独立気泡又は連続気泡等の空隙を内部に有するスポンジ等の発泡部材からなり、弾力性を有している。また、内側層21は、被覆構造体12の外周面とトンネルTの内周面との間隔よりも大きい厚さ寸法を有している。
【0039】
保湿マット22は、水分を吸収可能であるとともに吸収した水分を保持可能であり、従来公知のものを使用することができる。例えば、市販のコンクリート保湿養生用マットである「アクアマット」(早川ゴム株式会社製)や、特開2002−81210号公報に開示されたコンクリート養生シートを使用することができる。
この保湿マット22は、不織布等からなる基材23の内部や表面に複数の保水材24を点在させ、基材23の背面側(内側層21側)をポリエチレンフィルム等の不透水フィルム25で覆ったものである。保水材24としては、ウレタン等のポリマーに高分子吸収材を包含させたものを使用することができる。
【0040】
保湿マット22は、コンクリートの材齢3週間においても80%以上の湿度を維持することができる性能を備え、5日程度を要する覆工コンクリートCの養生にも十分な保湿性能を有している。
ヒータ部材26は、シート状に形成された面状発熱体であり、通電することにより発熱し、覆工コンクリートCを内周側から加温できる。ヒータ部材26は、内側層21と保湿マット22との間に介在され、保湿養生層13のほぼ全域に亘って配置されている。
【0041】
このヒータ部材26は、その温度制御を行うための制御装置(図示せず)に接続されている。この制御装置は、保湿養生層13の内面の各所に配置された複数の温度センサ(図示せず)と接続されており、これら温度センサの検出温度に基づいて、ヒータ部材26の出力をフィードバック制御する。
前記温度センサは、保湿養生層13の現在温度を検出するものであり、制御装置は、この温度センサの検出温度が所定の設定温度となるようにヒータ部材26を制御する。
【0042】
このように、本実施形態の養生装置10は、上記ヒータ部材26、温度センサ及び制御装置により、外面パネル20及び保湿養生層13を加温し、セントル1を脱型した後の覆工コンクリートCを所定温度に保持することができる。
また、上記ヒータ部材26がシート状の面状発熱体よりなるので、覆工コンクリートCの内周面をほぼ均一に加温できるという効果もある。
【0043】
なお、養生装置10のヒータ部材26の温度制御は、セントル1内に設けた前記制御部7aが行うようにしてもよい。
また、セントル1の型枠3を加温する前記加温部7bを上記面状発熱体で構成することにしてもよく、養生装置10に搭載した制御装置によってセントル1の加温部7bを温度制御することにしてもよい。
【0044】
図4及び図5に戻り、被覆構造体12は、移動架台11に設けられた上部柱部材51と支持部材60,61とによって支持されている。
そして、本実施形態の養生装置10では、ジャッキ機構57を用いて下部柱部材50を伸縮させることにより、被覆構造体12の外周面に設けられた保湿養生層13を、覆工コンクリートCの内周面に対して接触又は離反させることができる。
【0045】
〔覆工コンクリートの打設及び養生作業〕
図7は、覆工コンクリートCの打設及び養生作業の作業手順を示す図である。
以下、図7を参照して、上述の覆工コンクリートCの構築システムを用いた、覆工コンクリートCの構築作業を説明する。
なお、図7において、符号10Aは、セントル1の次に搬入される「第1養生装置」であり、符号10Bは、第1養生装置10Aの次に搬入される「第2養生装置」である。
【0046】
まず、図7(a)に示すように、スライドセントル1をレールRに沿って走行させて、一次覆工が完了した所定区間(スパンS1)にセントル1をセットし、このスパンS1に対して覆工コンクリートCの打設を行う。
覆工コンクリートCの打設作業は、具体的には、セントル1をスパンS1に設置した後、型枠3を所定高さ及び幅方向位置に調整したあと、型枠3の外周側の打設空間Dに生コンを流し込むことによって行われる。
【0047】
打設空間Dに生コンが十分に充填されて覆工コンクリートCの打設が完了すると、セントル1をそのままの状態にして所定時間が経過するのを待つことで、覆工コンクリートCを硬化させる。
なお、この所定時間は、生コンクリートの硬化の度合や、後述する養生作業等の後工程の関係等に基づいて、16〜20時間に設定される。
【0048】
上記の所定時間が経過すると、型枠3を降下させて覆工コンクリートCから脱型する。本実施形態のスライドセントル1では、覆工コンクリートCの打設完了から脱型するまでの所定時間の間、ヒータユニット7によって型枠3の内部空間を加温することで、型枠3を所定の設定温度に保持する。このセントル1の型枠3の設定温度は、例えば、30〜40度に設定される。
【0049】
スパンS1における覆工コンクリートCの初期養生が終わってセントル1を脱型すると、切羽側に隣接する次のスパンS2にセントル1を移動させ、スパンS1の場合と同様に、スパンS2において覆工コンクリートCの打設作業を行う。
【0050】
図7(b)に示すように、セントル1がスパンS2に移動するのに続いて、第1養生装置10AをスパンS1にセットし、セントル1がスパンS2で打設及び養生作業を行う間に、第1養生装置10Aを用いてスパンS1の覆工コンクリートCに対する養生を行う。
具体的には、第1養生装置10Aのジャッキ機構57を収縮させて被覆構造体12を下降させた状態で、第一養生装置10AをスパンS1に搬入し、その後、ジャッキ機構57を伸長させて被覆構造体12を上昇させることにより、その外周面に設けられた保湿養生層13を覆工コンクリートCの内周面に接触させる。
【0051】
保湿養生層13を覆工コンクリートCの内周面に接触させると、保湿マット22に給水されている水分によって覆工コンクリートCが湿潤状態に保持される。
この際、保湿養生層13の内側層21が、覆工コンクリートCの内周形状に応じて弾性変形することにより、保湿マット22全体を覆工コンクリートCの内周面に接触させることができ、覆工コンクリートCの全体を確実に湿潤状態に保持することができる。また、内側層21が弾性変形することで覆工コンクリートCの内周面を痛めることもない。
【0052】
以上のようにして、セントル1の次の第1養生装置10Aにより、スパンS1の覆工コンクリートCが湿潤状態に保持された状態で養生される。
また、第1養生装置10Aでは、被覆構造体12に設けたヒータ部材26で外面パネル20及び保湿養生層13を加温することにより、覆工コンクリートCをセントル1において打設完了から脱型までの間に保持されていた型枠温度と同一又は高い設定温度(30〜40度)に保持しつつ、上記養生が行われる。
【0053】
一方、覆工コンクリートCの打設から脱型を終えるのに要する期間は、保湿養生に要する期間よりも短いので、図7(b)において、スパンS2の覆工コンクリートCの打設及び脱型が終了した時点では、スパンS1での保湿養生が未だ終了していない。
そこで、本実施形態では、第1養生装置10Aの後方に更に第2養生装置10Bを配備して、保湿養生を行うスパン長を延長し、セントル1の打設及び脱型作業をスパンごとに順次進めつつ、保湿養生に必要な期間を確保している。
【0054】
すなわち、図7(b)において、スパンS2の覆工コンクリートCの打設及び初期養生を終えて、セントル1を次のスパンS3に移動する場合には、図7(c)に示すように、第1養生装置10Aもセントル1に随伴してスパンS2に移動させる。
そして、第1養生装置10Aの後方(スパンS1)に更に第2養生装置10Bをセットし、この第2養生装置10Bにより、スパンS1に対する養生を第1養生装置10Aに引き続いて連続して行う。
【0055】
もっとも、第2養生装置10Bをセットする時間帯では、スパンS1の材齢が少なくとも32時間以上経過しており、コンクリート強度が十分である場合が多いので、第2養生装置10Bによる養生では、ヒータ部材26の設定温度を第1養生装置10Aの場合よりも下げるか(例えば、20〜30度程度)、或いは、ヒータ部材26による加温を行わずに、保湿のみを行うことにしてもよい。
【0056】
次に、スパンS3の覆工コンクリートCの打設及び初期養生を終えて、セントル1を次のスパンS4に移動する場合には、図7(d)に示すように、第1養生装置10A及び第2養生装置10Bもセントル1に随伴してそれぞれ次のスパンS3,S2に移動させる。
以後、セントル1が覆工コンクリートCの打設及び初期養生を終えて次にスパンに移動するごとに、各養生装置10A,10Bがそれに引き続いて次のスパンに移動し、養生装置10A,10Bによる養生作業が継続して行われる。
【0057】
なお、図7に示す符号80は覆工コンクリートCの強度推定装置であり、符号81はコンクリート温度の測定装置である。これらの装置80,81を使用すれば、複数のスパンS1〜S4を構築システムにて連続的に養生する場合に、各スパンS1〜S4の覆工コンクリートCの品質管理を同時に行えるが、これについては後述する。
【0058】
〔構築システムの効果〕
本実施形態の覆工コンクリートCの構築システムによれば、各養生装置10A,10Bがセントル1を脱型した後の覆工コンクリートCの内周面を、保湿養生層13を備えた被覆構造体12の外周面で被覆するので、充分な湿度を保って養生することができる。
また、本実施形態の構築システムでは、ヒータユニット7を備えたセントル1によって、打設完了から脱型までの間、打設された覆工コンクリートCを好適な温度に保持することができ、当該覆工コンクリートCの硬化を促進することができる。
【0059】
更に、第1養生装置10Aが、覆工コンクリートCを所定温度で保持するためのヒータ部材26を備えているので、セントル1によって打設完了から脱型までの間に好適な温度に保持された覆工コンクリートCを、この第一養生装置10Aによって、さらに同じ又はより高い設定温度で保持しつつ養生を行うことができる。
このため、脱型した後も、覆工コンクリートCを好適な温度に保持することができ、より一層硬化を促進させることができる。この結果、脱型時及び養生を終えたときの覆工コンクリートの強度をより高めることができ、覆工コンクリート内周面の天端付近に生じるトンネル延長方向に延びるひび割れをより効果的に防止することができる。
【0060】
また、本実施形態の構築システムでは、第1養生装置10Aがセントル1の移動に伴って次のスパンに移動するのに続いて、第1養生装置10Aが養生していたスパンに移動して更に養生を行う第2養生装置10Bを備えており、この第2養生装置10Bは、覆工コンクリートCの養生を、セントル1での加温養生や第1養生装置10Aでの加温養生の場合よりも低い設定温度で覆工コンクリートCを養生するようになっている。
【0061】
このため、あるスパンの覆工コンクリートCに対する一連の養生作業において、同一のスパンを第1養生装置10Aに引き続いて第2養生装置10Bによって養生を行うことにより、覆工コンクリートCの温度を、第1養生装置10Aによる設定温度から例えば坑内の常温まで段階的に降温させることができ、急激な温度変化によって覆工コンクリートCに及ぶ悪影響を低減することができる。
【0062】
〔強度推定システム〕
図8は、本発明の実施形態に係る覆工コンクリートCの強度推定システムの全体構成図である。
図8に示すように、本実施形態の強度推定システムは、現場打ちされた養生中の覆工コンクリートCの積算温度に基づいて同コンクリートCの現時点の圧縮強度(以下、「コンクリート強度」ともいう。)を推定する強度推定装置80と、積算温度の算出データとなる覆工コンクリートCの内部温度を継続して測定する測定装置81とを備えている。
【0063】
このうち、測定装置81は、覆工コンクリートCの内部に充填される温度センサ82と、この温度センサ82の検出信号を外部に送信する無線送信機83とを有しており、温度センサ82と無線送信機83とが通信ケーブル84を介して接続されている。
温度センサ82は、コンクリートの内部温度に応じた電気信号を生成する、例えば熱電対により構成されている。温度センサ82が生成した電気信号は、通信ケーブル84を通じて無線送信機83に送られる。
【0064】
本実施形態の温度センサ82は、外周面がテーパー状に形成されたケーブルカプラ85を基端部に有しており、図8に示すように、そのケーブルカプラ85が覆工コンクリートCの内面とほぼ面一になるようにコンクリートCの内部に埋め込まれる。
図8に示すように、ケーブルカプラ85に差し込み可能な通信ケーブル84の接続部材87は、セントル1の型枠3の打設口86を着脱自在に閉塞する蓋部材88に貫通状に取り付け可能となっている。
【0065】
従って、蓋部材88に取り付けた接続部材87にケーブルカプラ85を結合することで、温度センサ82を蓋部材88の裏側に突出状に取付可能となっており、このようにして温度センサ82を取り付けた蓋部材88で打設口86を閉塞することにより、温度センサ82を打設空間Dの内部に片持ち状態にセットすることができる。
また、セントル1の脱型時に蓋部材88を打設口86から開放すると、温度センサ82だけが硬化した覆工コンクリートCの内部に残るようになっている。
【0066】
このため、蓋部材88を取り外した後は、覆工コンクリートCの内部に残った温度センサ82のケーブルカプラ85に再び接続部材87を結合させることにより、温度センサ82と無線送信機83とを再接続することができる。
温度センサ82の設置場所は、センサ設置作業の行いやすさの観点から、トンネルTのスプリングライン(SL)付近とすることが好ましい。温度センサ82は、1つの覆工コンクリートCに対して少なくとも1つあればよいが、複数設ける場合には、各センサ82の検出温度の平均値を積算温度の算出データとすればよい。
【0067】
なお、図示省略しているが、セントル1の後に続いて覆工コンクリートCを更に養生する本実施形態の養生装置10には、覆工コンクリートCにおける温度センサ82の設置箇所とほぼ対応する部分に、その温度センサ82を養生装置10の内部側に露出させるための温度測定用の窓部が形成されている。
【0068】
本実施形態の測定装置81によれば、セントル脱型後の覆工コンクリートCに加熱や保湿のための養生装置10A,10Bをセットする場合に、その養生装置10A,10Bを所定スパンの覆工コンクリートCに移動する前に通信ケーブル84を温度センサ82から抜き取ることができる。このため、測定装置81が養生装置10A,10Bの移動の妨げになることがなく、養生装置10A,10Bの移動作業を簡便に行える。
なお、この場合、いったん抜き取った通信ケーブル84を再度ケーブルカプラ85に差し込めば、温度センサ82が無線送信機83に繋がって測定装置81を復旧できる。
【0069】
また、本実施形態では、温度センサ82の検出信号を無線送信機83で外部に送信し、送信された検出信号を強度推定装置80の後述する通信部90が受信するので、測定装置81と強度推定装置80とを通信ケーブルで接続する必要がない。
このため、セントル1やその他の養生装置10A,10Bの内部で複雑な通信ケーブルの配線を行う必要がなく、強度推定システムを簡便に構築することができる。
【0070】
〔強度推定装置の構成〕
図9は、強度推定装置80の内部構成を示す機能ブロック図である。
本実施形態の強度測定装置80は、プログラマブルなPC等のコンピュータ装置よりなり、図9に示すように、通信部90、表示部91、記憶部92及び制御部93が内部に搭載されている。
【0071】
通信部90は、測定装置81の無線送信機83からの送信信号を受信可能な無線通信機能を有しており、その無線送信機83が送信した温度センサ82の検出信号を受信すると、受信した検出信号を制御部93に転送する。
従って、通信部90は、覆工コンクリートCの養生中の内部温度を取得する取得部としての機能を有する。
【0072】
表示部91は、制御部93による所定の出力情報を画面表示するものであり、本実施形態では、タッチパネル式の液晶モニタが採用されている。このため、表示部91は、作業員がモニタ画面に触れて入力した入力情報を制御部93に送ることもでき、強度推定装置80に対する所定情報の「入力部」としても機能している。
本実施形態において、作業員が強度推定装置80に入力する情報には、覆工コンクリートCの打設時における生コンの初期温度がある。
【0073】
この初期温度は、セントル1を用いた覆工コンクリートCの打設時において、到着した生コンの測定温度の平均値のことである。作業員は、到着したミキサ車の生コンの温度を所定時間おきに測定し、その測定値の平均値をタッチパネル式の表示部91に手動で入力する。
従って、表示部91は、覆工コンクリートCの打設時の初期温度を取得する取得部としての機能も有している。
【0074】
記憶部92は、メモリやHDDなどを含む記憶装置よりなり、通信部90や表示部91が取得した各種データを一時的に記憶することができる。
また、記憶部92は、所定のアプリケーションプログラムやその処理に必要な関係式などを記憶しており、制御部93は、そのアプリケーションプログラムを記憶部92から読み出して同プログラムを実行することにより、後述するコンクリート強度の算出処理(図10)を行う。
【0075】
記憶部92は、トンネル現場の覆工コンクリートCに用いる所定配合のコンクリート材料について、その材料を所定温度で養生させる場合の積算温度とコンクリート強度との関係式を、その生コンの初期温度ごとに予め記憶している。
すなわち、本実施形態では、前記構築システム(セントル1と養生装置10)で行う予定の養生条件にて型枠温度を制御してテストピースを養生し、この養生によって得られたテストピースの内部温度と圧縮強度を測定することにより、上記関係式を初期温度ごとに予め特定し、その特定した関係式を記憶部92に記憶させている。
【0076】
ここで、既知の通り、コンクリートの圧縮強度Fと積算温度Mとの間には、次の関係式(1)が成立する。
F=ai×Ln(M)+bi ……(1)
ただし、Lnは自然対数であり、aiとbiは実験により定まる係数である。
【0077】
また、コンクリートの積算温度Mは、次式で定義される。
M=ΣΔt×(Ti−To) ……(2)
ただし、Tiはコンクリート温度、Toは水和反応が進まない温度(通常は−10°C)、ΔtはコンクリートをTiに保持する時間である。
【0078】
従って、所定配合の覆工用の生コンについて、異なる初期温度ごとに予め実験を行って係数ai,biを決定しておけば、ほぼ同じ初期温度の生コンが施工現場に到着した場合にも、同じ値の係数ai,biの関係式を適用可能と考えられる。
このため、覆工コンクリートCの施工現場において、初期温度に応じて係数ai,biを決定して関係式を特定し、特定した関係式に、現場で測定したコンクリート温度から式(2)によって算出した積算温度Mを適用すれば、養生中の覆工コンクリートCの現時点の圧縮強度を推定できるようになる。
【0079】
ここで、前記構築システムを用いて行う覆工コンクリートCの養生条件が、例えば以下に示す温度設定となっており、かつ、生コンの初期温度のバリエーションを5〜30°Cの範囲で5°C刻みで試験を行うものとする。
なお、セントル1と養生装置10A,10Bでの養生時間はそれぞれ16時間であるとする。また、図9において、Ai(i=5,10,15……)は、記憶部92に記憶される初期温度iごとの関係式を示している。
【0080】
(初期温度が25°以下の場合)
セントルの設定温度 =初期温度+15°C
第1養生装置の設定温度 =初期温度+20°C
第2養生装置の設定温度 =加温なし
(初期温度が25°を超える場合)
セントルの設定温度 =初期温度+10°C
第1養生装置の設定温度 =初期温度+15°C
第2養生装置の設定温度 =加温なし
【0081】
この場合、初期温度が5°Cの場合の関係式A5の係数a5,b5を求めるには、テストピースの型枠温度を20°Cに設定して16時間養生し、その型枠温度を25°Cに設定して16時間保湿養生し、その型枠を加温せずに16時間保湿養生し、その後は加温も保湿も行わなずに養生する。
上記の養生によって得られた所定時間経過後のテストピースについて圧縮試験を行い、所定時間経過後の積算温度と測定した圧縮強度とから、関係式A5の係数a5,b5を特定する。
【0082】
同様に、初期温度が10°Cの場合の関係式A10の係数a10,b10を求めるには、テストピースの型枠温度を25°Cに設定して16時間養生し、その型枠温度を30°Cに設定して16時間保湿養生し、その型枠を加温せずに16時間保湿養生し、その後は加温も保湿も行わなずに養生する。
上記の養生によって得られた所定時間経過後のテストピースについて圧縮試験を行い、所定時間経過後の積算温度と測定した圧縮強度とから、関係式A10の係数a10,b10を特定する。
【0083】
以下、同様にして、想定する初期温度の生コンを構築システムで行う温度設定で養生したテストピースの圧縮強度を測定し、積算温度と圧縮強度の測定値からそれぞれの初期温度において成立する関係式Aiの係数ai,biを特定する。
このように、本実施形態では、想定する所定の初期温度について、実際の構築システムの場合と同じ温度条件で養生したテストピースの圧縮強度を測定し、その結果、得られた初期温度ごとの関係式Ai(具体的には、その係数ai,bi)を特定して記憶部92に記憶させている。
【0084】
〔制御部の処理内容〕
図10は、強度推定装置80の制御部93が行う処理のフローチャートである。
以下、図10を参照しつつ、制御部93の処理内容を説明する。
まず、強度推定装置80の制御部93は、表示部91に対して前記初期温度(現場で測定した生コンの温度)の入力があったか否かを判定し(ステップST1)、入力があった場合にタイマーを作動させる(ステップST2)。
【0085】
次に、制御部93は、作業者によって入力された生コンの初期温度に基づいて、前記関係式Aiの係数ai,biを決定する(ステップST3)。
例えば、入力された初期温度の値が7°Cの場合には、その入力値以下の最も近い初期温度のデータ(本実施形態では5°C)を記憶部92から読み出し、そのデータに対応する関係式A5の係数a5,b5を、今回施工する覆工コンクリートCの圧縮強度の算出に用いる関係式とする。
【0086】
その後、制御部93は、上述の定義式(2)を用いて、覆工コンクリートCの積算温度Mを算出する(ステップST4)。
具体的には、制御部93は、タイマーの作動時点からこれまでに取得した覆工コンクリートCの内部温度の時系列の測定データを用いて、前記定義式(2)によって定義される現時点までの積算温度Mを算出する。
【0087】
次に、制御部93は、先に決定した係数ai,biの関係式Aiに、現時点までの積算温度Mを適用して、現時点における覆工コンクリートCの圧縮強度Fを算出し(ステップST5)、算出した圧縮強度Fを表示部91に出力する(ステップST6)。
制御部93は、上記ステップST4〜ST6までの処理を、所定時間おきに繰り返し実行し、その処理を、タイマー値が覆工コンクリートCの全養生期間が経過するまで実行し続ける(ステップST7)。
【0088】
このように、本実施形態の強度推定システムによれば、強度推定装置80の制御部93が、現時点までの積算温度Mを、生コンの初期温度に応じて決定した関係式Aiに適用して圧縮強度Fを算出するので、覆工コンクリートCに用いる生コンの初期温度に対応する適切な関係式Aiにより、覆工コンクリートCの圧縮強度を算出することができる。
このため、現場到着時の生コンの初期温度が異なる場合でも、覆工コンクリートCの圧縮強度Fを正確に推定することができる。
【0089】
なお、本実施形態の強度推定装置80では、通信部90が、トンネル長手方向に隣接する複数のスパンS1〜S4(図7参照)の覆工コンクリートCにそれぞれ設置された測定装置81から、温度センサ82の検出温度を個別に受信可能である。
そして、制御部93は、通信部90が複数のスパンS1〜S4の検出温度を取得した場合には、図10の強度算出処理を、スパンS1〜S4ごとに並列的に実行し、そのスパンS1〜S4ごとの処理結果を表示部91に出力する。
【0090】
〔出力表示例〕
図11は、強度推定装置80の表示部91による出力表示例を示す図であり、(a)は「第1表示モード」の出力画面、(b)は「第2表示モード」の出力画面を示す。
図11(a)に示すように、第1表示モードは、所定時間ごとの圧縮強度をテーブル化して画面表示するモードである。
また、図11(b)に示すように、第2表示モードは、所定時間ごとの圧縮強度をグラフ化して画面表示するモードである。
【0091】
本実施形態の強度推定装置80では、表示部91の「メニュー選択画面」(図示せず)に対するモードの選択アイコンを操作することにより、圧縮強度等の出力データを第1表示モード又は第2表示モードのいずれかで画面表示させることができる。
図11において、画面の下縁部に表示された「1〜24H」、「25〜48H」……「97〜120H」は時間帯を設定するためのアイコンであり、いずれかの時間帯のアイコンを選択すると、温度測定の開始時から当該アイコンに記された時間帯のテーブルやグラフが画面表示される。
【0092】
また、本実施形態の強度推定装置80では、表示部91の「メニュー選択画面」(図示せず)にあるチャンネルの選択アイコンを操作することにより、制御部93の並列処理によって得られた複数のスパンS1〜S4の処理結果のうち、どのスパンS1〜S4の処理結果を出力するかを選択することもできる。
従って、表示部91は、並列的に実行された算出処理によって得られた各スパンS1〜S4における覆工コンクリートCの現時点の圧縮強度や、現時点までの圧縮強度及びコンクリート温度の履歴などの関連情報をすべて表示可能である。
【0093】
〔複数スパンの覆工コンクリートの品質管理〕
前記した通り、本実施形態の強度推定装置80では、制御部93が、図10の強度算出処理をスパンS1〜S4ごとに並列的に実行可能であり、そのスパンS1〜S4ごとの処理結果を表示部91に出力することができる。
そこで、図7に示す覆工コンクリートCの打設及び養生作業において、本実施形態の強度推定システムを用いて行える、複数スパンの覆工コンクリートCの品質管理について説明する。
【0094】
図7(a)に示すように、スパンS1の覆工コンクリートCがセントル1で初期養生されている場合には、スパンS1に取り付けられた測定装置81が当該スパンS1の覆工コンクリートCの内部温度を強度推定装置80に無線送信する。
この場合、強度推定装置80の制御部93が、スパンS1の覆工コンクリートCの現時点の圧縮強度を算出して表示部91に出力する。このため、作業員が表示部91を操作してスパンS1についての圧縮強度を画面表示させることにより、スパンS1の覆工コンクリートCの品質管理を行うことができる。
【0095】
次に、図7(b)に示すように、セントル1がスパンS2まで進み、スパンS2の覆工コンクリートCがセントル1で初期養生され、スパンS1の覆工コンクリートCが第1養生装置10Aで加温養生される場合には、各スパンS1,S2に取り付けられた2つの測定装置81がそれぞれ当該スパンS1,S2の覆工コンクリートCの内部温度を強度推定装置80に無線送信する。
【0096】
この場合、強度推定装置80の制御部93が、2つのスパンS1,S2の覆工コンクリートCの現時点の圧縮強度を並列処理によって個別に算出し、その算出結果をそれぞれ表示部91に出力する。
このため、作業員が表示部91を操作して、2つのスパンS1,S2のうちの所望のスパンの圧縮強度を選択的に画面表示させることにより、各スパンS1,S2の覆工コンクリートCの品質管理を行うことができる。
【0097】
また、図7(c)に示すように、セントル1がスパンS3まで進み、スパンS3の覆工コンクリートCがセントル1で初期養生され、スパンS2の覆工コンクリートCが第1養生装置10Aで加温養生され、スパンS3の覆工コンクリートCが第2養生装置10Bで保温養生される場合には、各スパンS1〜S3に取り付けられた3つの測定装置81がそれぞれ当該スパンS1〜S3の覆工コンクリートCの内部温度を強度推定装置80に無線送信する。
【0098】
この場合、強度推定装置80の制御部93が、3つのスパンS1〜S3の覆工コンクリートCの現時点の圧縮強度を並列処理によって個別に算出し、その算出結果をそれぞれ表示部91に出力する。
このため、作業員が表示部91を操作して、3のスパンS1〜S3のうちの所望のスパンの圧縮強度を選択的に画面表示させることにより、各スパンS1〜S3の覆工コンクリートCの品質管理を行うことができる。
【0099】
更に、図7(d)に示すように、セントル1がスパンS4まで進み、スパンS4の覆工コンクリートCがセントル1で初期養生され、スパンS3の覆工コンクリートCが第1養生装置10Aで加温養生され、スパンS2の覆工コンクリートCが第2養生装置10Bで保温養生される場合には、各スパンS2〜S4に取り付けられた3つの測定装置81がそれぞれ当該スパンS2〜S4の覆工コンクリートCの内部温度を強度推定装置80に無線送信する。
【0100】
この場合、強度推定装置80の制御部93が、3つのスパンS2〜S4の覆工コンクリートCの現時点の圧縮強度を並列処理によって個別に算出し、その算出結果をそれぞれ表示部91に出力する。
このため、作業員が表示部91を操作して、3のスパンS2〜S4のうちの所望のスパンの圧縮強度を選択的に画面表示させることにより、各スパンS2〜S4の覆工コンクリートCの品質管理を行うことができる。
【0101】
このように、本実施形態の強度推定システムによれば、強度推定装置80の制御部93が、トンネル長手方向に連続する3つのスパンS1〜S3,S2〜S4の覆工コンクリートCごとの圧縮強度の算出処理を並列的に実行し、その処理結果を表示部91に出力することができるので、複数のスパンS1〜S3,S2〜S4の覆工コンクリートCの品質管理を同時並行で行うことができる。
【0102】
今回開示した実施形態(上述の各変形例を含む。)はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
例えば、コンクリートの内部温度を検出するための測定装置81の温度センサ82は、必ずしも覆工コンクリートCの内部に充填されるタイプでなくてもよく、覆工コンクリートCの内周面に貼り付けるタイプのものであってもよい。
【0103】
また、上述の実施形態において、強度推定装置80の算出結果を例えば坑口に設けたコンピュータ装置に無線送信して転送すれば、トンネル内部以外の場所で覆工コンクリートCの品質管理を行うことができる。
更に、上述の実施形態では、強度推定装置80と測定装置81が直接無線通信する場合を例示しているが、中継装置を介して測定装置81の無線信号を強度推定装置80に送るようにしてもよい。
【0104】
また、上述の実施形態のスライドセントル1では、加温したオイルを循環させるオイルヒータを用いて覆工コンクリートCを加温しているが、例えば、養生装置10A,10Bのように、シート状の面状発熱体をセントル1に採用することもできる。
更に、養生装置10A,10Bでは、シート状の面状発熱体からなるヒータ部材を用いた場合を例示したが、オイルヒータを用いて覆工コンクリートCを加温する構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0105】
80 強度推定装置
81 測定装置
82 温度センサ
83 無線送信機
84 通信ケーブル
86 ケーブルカプラ
90 通信部(第2取得部)
91 表示部(第1取得部)
92 記憶部
93 制御部
C 覆工コンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
現場打ちされた養生中の覆工コンクリートの積算温度に基づいて、前記覆工コンクリートの現時点の圧縮強度を推定する装置であって、
前記積算温度と前記圧縮強度との関係式を、前記覆工コンクリートに用いる生コンの初期温度ごとに予め記憶している記憶部と、
前記覆工コンクリートの打設時の前記初期温度を取得する第1取得部と、
前記覆工コンクリートの養生中の内部温度を取得する第2取得部と、
取得された前記初期温度に基づいて使用する前記関係式を決定し、取得された前記内部温度の時系列の測定データから算出した現時点までの前記積算温度を、決定した前記関係式に適用して前記圧縮強度を算出する制御部と、
を備えていることを特徴とする覆工コンクリートの強度推定装置。
【請求項2】
前記制御部は、トンネル長手方向に隣接する複数スパンの前記覆工コンクリートごとの前記圧縮強度の算出処理を、並列的に実行可能である請求項1に記載の覆工コンクリートの強度推定装置。
【請求項3】
並列的に実行された前記算出処理によって得られた各スパンの前記圧縮強度をすべて表示可能な表示部を更に備えている請求項2に記載の覆工コンクリートの強度推定装置。
【請求項4】
前記表示部は、次の(a)又は(b)若しくは双方の表示モードを実行可能である請求項3に記載の覆工コンクリートの強度推定装置。
(a)所定時間ごとの前記圧縮強度をテーブル化して画面表示する第1表示モード
(b)所定時間ごとの前記圧縮強度をグラフ化して画面表示する第2表示モード
【請求項5】
前記内部温度を計測する温度センサを有する測定装置と、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の強度推定装置とを備えたシステムであって、
前記測定装置は、前記温度センサの検出信号を外部に送信する無線送信機を有し、前記強度推定装置の前記第2取得部は、送信された前記検出信号を受信する無線受信機よりなることを特徴とする覆工コンクリートの強度推定システム。
【請求項6】
前記温度センサは、前記無線送信機に検出信号を送るための通信ケーブルを接続可能な、前記覆工コンクリートの内面とほぼ面一になるように埋め込まれるケーブルカプラを有する請求項5に記載の覆工コンクリートの強度推定システム。
【請求項7】
現場打ちされた養生中の覆工コンクリートの積算温度に基づいて、前記覆工コンクリートの現時点の圧縮強度を推定する方法であって、
前記積算温度と前記圧縮強度との関係式を、前記覆工コンクリートに用いる生コンの初期温度ごとに予め記憶するステップと、
前記覆工コンクリートの打設時の前記初期温度を取得するステップと、
前記覆工コンクリートの養生中の内部温度を取得するステップと、
取得された前記初期温度に基づいて使用する前記関係式を決定し、取得された前記養生温度の時系列の測定データから算出した現時点までの前記積算温度を、決定した前記関係式に適用して前記圧縮強度を算出するステップと、
を含むことを特徴とする覆工コンクリートの強度推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−242346(P2012−242346A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115508(P2011−115508)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(501360120)テクノプロ株式会社 (12)
【Fターム(参考)】