説明

覆工コンクリートの養生装置及び構築方法

【課題】簡単な構造により覆工コンクリートを湿潤状態で養生することが可能な覆工コンクリートの養生装置を提供する。
【解決手段】本発明の養生装置10は、トンネル延長方向の軌道上を移動可能な移動架台12と、覆工コンクリート21の内周面にほぼ沿う外周面を有する円筒シェル構造を有し、覆工コンクリート21の内周面に対して接近・離反可能となるように移動架台12に搭載されたシェル構造体13と、前記シェル構造体13の外周面に貼り付けられ、吸収した水分を保持することができる外表面を有する保湿養生層14と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの内周面に打設される覆工コンクリートの養生装置及び構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネル工事においては、トンネルを掘削した後の内壁面にコンクリートを吹き付けて一次覆工を行い、その後、二次覆工としてスライドセントル等を用いて覆工コンクリートを打設している。覆工コンクリートは、脱型後にそのまま放置すると乾燥収縮によってひび割れが発生し品質が低下してしまうため、表面に湿気を与えて保湿養生し、乾燥を防止することが要求される。
従来から覆工コンクリートの保湿養生を行う技術が種々提案されている。例えば、特許文献1には、空気の供給によってアーチ状に膨らむバルーンの外周面を覆工コンクリートの内壁面に対してほぼ一様に密着させることによって水分の蒸発を防ぐ技術が開示されている。また、特許文献2には、アーチ状に形成された散水管に適宜間隔をあけて散水ノズルを設け、各散水ノズルからトンネル内壁面に向けて散水する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−90146号公報
【特許文献2】特開2001−248398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2の技術は、いずれも覆工コンクリートの乾燥を防ぐことが可能であるが、バルーン内に空気を供給するためのコンプレッサや散水管に水を供給するためのポンプ等の機器、空気や水の配管設備等が必要となる。また、特許文献2の技術では排水設備も必要となる。そのため、保湿養生のための設備が大規模となり、設備コストがかかるという問題がある。
【0005】
本発明は、簡素な構造により覆工コンクリートを湿潤状態で養生することが可能な覆工コンクリートの養生装置及び覆工コンクリートの構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トンネルの内部に打設された覆工コンクリートの内周面を被覆して養生するための養生装置であって、
トンネル延長方向の軌道上を移動可能な移動架台と、前記覆工コンクリートの内周面にほぼ沿う外周面を有する円筒シェル構造を有し、前記覆工コンクリートの内周面に対して接近・離反可能となるように前記移動架台に搭載されたシェル構造体と、前記シェル構造体の外周面に貼り付けられ、吸収した水分を保持することができる外表面を有する保湿養生層と、を備えていることを特徴とする。
【0007】
本発明の養生装置は、覆工コンクリートの内周面に対して接近・離反可能なシェル構造体の外周面に保湿養生層が貼り付けられ、この保湿養生層が、吸収した水分を保持することができる外表面を有しているので、保湿養生層の外表面に水分を吸収させた状態でシェル構造体を覆工コンクリートの内周面に接近させ、覆工コンクリートの内周面を湿潤状態の保湿養生層の外表面で覆うことによって覆工コンクリートを養生することができる。
このため、大規模なコンプレッサ等の機器や配管設備、排水設備を配備しなくても、簡素な構造の養生装置によって簡単な作業で覆工コンクリートを湿潤状態で養生することができる。
【0008】
前記保湿養生層は、トンネル径方向に変形可能な弾力性と内部に空隙とを有する内側層と、この内側層の外周面に積層された保湿マットとの二層構造になっていることが好ましい。保湿養生層の内側層が弾力性を有していると、保湿養生層を覆工コンクリートの内周面に接触させたときに覆工コンクリートの表面形状に応じて保湿養生層を弾性変形させることができる。そのため、覆工コンクリートの内周面に保湿養生層を全面的に接触させることが可能となり、覆工コンクリートの内周面を痛めることもない。また、保湿養生層の内側層が内部に空隙を有していると、トンネル内空部との間の断熱性を確保することができ、急激な温度変化に起因するひび割れ等の発生を防止することができる。
【0009】
前記保湿マットは、必要な養生期間の経過後でも80%以上の湿度を確保できる高保湿性を有するマットよりなることが好ましい。これにより養生期間中は80%以上の湿度が確保されるので、高い養生効果を得ることができる。
【0010】
また、前記保湿マットは、水分を吸収可能な吸水層と、この吸水層の内周面に積層された不透水層と、前記吸水層の外周面に積層され、前記吸水層の外周面を保護するとともに水分を透過可能な保護層とから構成されていてもよい。吸水層の内周面側に不透水層を設けることによって吸水層に吸収された水分が内側層へ浸み出すことがなくなり、吸水層における水分の保持機能を高めることができる。また、吸水層の外周面側に保護層を設けることによって、吸水層の表面素材が剥がれて覆工コンクリートの内周面に付着することがなくなり、養生後の覆工コンクリートの表面が荒れてしまうのを防ぐとともに、吸水層の耐久性を高めて養生装置の転用回数を増大させることができる。
【0011】
前記保湿養生層の外周面には、当該保湿養生層に対する給水用の配管が配設されていてもよい。これによって、保湿養生層に対する水分の供給を容易に行うことができる。
【0012】
前記シェル構造体は、前記覆工コンクリートの内周面にほぼ沿う円筒形状に弾性変形により湾曲可能に構成されており、前記移動架台は、前記シェル構造体を前記覆工コンクリートの内周面にほぼ沿う円筒形状の状態で支持する支持部材を備えていることが好ましい。このような構成によって、覆工コンクリートの内周面に形状に合わせてシェル構造体を弾性変形により湾曲させることができ、覆工コンクリートの内周面に保湿養生層をより確実に全面的に接触させることが可能になるとともに、予め覆工コンクリートの内周面形状に合わせてシェル構造体を塑性加工によって製造する場合に比べて、安価にシェル構造体を製造することができる。
【0013】
前記支持部材は、前記シェル構造体の湾曲の度合いを調整する調整部を備えていることが好ましい。このような構成によって覆工コンクリートの内周半径の誤差等に対応してシェル構造体の湾曲度合いを調整することができる。
【0014】
前記移動架台は、前記覆工コンクリートを打設するためのスライドセントルと同じ軌道上を移動可能であることが好ましい。この構成によって、養生装置をトンネル延長方向に移動自在にするために、新たな軌道を敷設する必要がなくなる。
【0015】
前記移動架台は、前記シェル構造体を前記覆工コンクリートの内周面に対して接近・離反させるためのジャッキ機構を備えており、このジャッキ機構は、前記覆工コンクリートを打設するためのスライドセントルのジャッキ機構と同じ位置に配置されていることが好ましい。このような構成によって、作業員がスライドセントルをセットする場合と同じ作業感覚で養生装置をセットすることができ、養生作業の効率を向上させることができる。
【0016】
本発明は、トンネルの内部にスライドセントルをセットして覆工コンクリートを打設した後、前記スライドセントルを脱型して、硬化した覆工コンクリートの内周側を上述の養生装置で養生するようにした覆工コンクリートの構築方法であって、
前記スライドセントルとほぼ同じトンネル延長方向の長さ有する前記養生装置を当該スライドセントルの後方に複数台用意しておき、その複数台の前記養生装置を用いて脱型済みの前記覆工コンクリートを複数スパンに渡って同時に養生することを特徴とする。
【0017】
通常、覆工コンクリートの打設開始から脱型まで1,2日程度かかり、覆工コンクリートの養生には5日程度かかるが、本発明方法では、脱型済みの覆工コンクリートを複数スパンに渡って同時に養生できるので、すべての覆工コンクリートに対して十分な養生期間を確保することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡素な構造により覆工コンクリートを湿潤状態で養生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る養生装置の正面図である。
【図2】図1に示される養生装置のシェル構造体の外枠部材及び連結部材を示す側面図である。
【図3】図1に示される養生装置の外面パネル及び保湿養生層を拡大して示す断面図である。
【図4】二次覆工作業及び保湿養生作業を説明するための図である。
【図5】二次覆工作業及び保湿養生作業を説明するための図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る養生装置の外面パネル及び保湿養生層を拡大して示す断面図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る養生装置の給水手段を示す斜視図である。
【図8】本発明の第4の実施形態に係る養生装置の正面図である。
【図9】図8に示される養生装置のシェル構造体を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る養生装置10の正面図である。本実施の形態の養生装置10は、二次覆工としてトンネル11の内周面に打設された覆工コンクリート21の内周面を保湿養生するためのものであり、トンネル11の延長方向に移動可能な移動架台12と、この移動架台12に搭載されたシェル構造体13と、このシェル構造体13の外周面に設けられた保湿養生層14とから構成されている。
【0021】
移動架台12は、H型鋼や溝型鋼等からなる複数本の柱部材16、横梁部材17、及び縦梁部材18等の長尺部材をトンネル幅方向及びトンネル延長方向に枠組みすることによって構成されている。移動架台12の下端部には複数の車輪19が設けられ、この車輪19はトンネル11の床面に敷設されたレール(軌道)20上を走行可能である。このレール20は、覆工コンクリート21の打設に用いられる移動型枠(スライドセントル)22(図4参照)を走行させるためにも用いられる。
【0022】
シェル構造体13は、トンネル内周面にほぼ沿うようなアーチ状に形成された外枠部材23と、外枠部材23の内周面に沿って並設された複数の連結部材24と、外枠部材23の外周面に取り付けられた外面パネル25とからなる。図2はシェル構造体13の側面図であり、外枠部材23はH型鋼や溝型鋼等の長尺部材を湾曲させることによって形成されており、トンネル延長方向に間隔をあけて複数並設されている。連結部材24はH型鋼や溝型鋼等の長尺部材からなり、トンネル延長方向に延びるとともに複数の外枠部材23を互いに連結している。
【0023】
図3は、外面パネル25及び保湿養生層14を拡大して示す断面図である。外面パネル25は、外枠部材23の外周面の形状に沿って湾曲することができる板材、例えば、外枠部材23の外周面に沿って多数の凹部と凸部とを並べて備えているキーストンプレートや波板等によって構成されている。そして、外面パネル25は、トンネル長さ方向に並設された複数の外枠部材23に亘ってその外周面全体を覆っている。
【0024】
保湿養生層14は、外面パネル25の外周面に貼り付けられた内側層27と、この内側層27の外周面に積層された保湿マット28とからなり、2層構造に形成されている。内側層27は、独立気泡又は連続気泡等の空隙を内部に有するスポンジ等の発泡部材からなり、弾力性を有している。また、内側層27は、シェル構造体13の外周面とトンネル11の内周面との間隔よりも大きい厚さ寸法を有している。
【0025】
保湿マット28は、水分を吸収可能であるとともに吸収した水分を保持可能であり、従来公知のものを使用することができる。例えば、市販のコンクリート保湿養生用マットである「アクアマット」(早川ゴム株式会社製)や、特開2002−81210号公報に開示されたコンクリート養生シートを使用することができる。この保湿マット28は、不織布等からなる基材30の内部や表面に複数の保水材31を点在させ、基材30の背面側(内側層27側)をポリエチレンフィルム等の不透水フィルム32で覆ったものである。保水材31としては、ウレタン等のポリマーに高分子吸収材を包含させたものを使用することができる。
保湿マット28は、コンクリートの材齢3週間においても80%以上の湿度を維持することができる性能を備え、5日程度を要する覆工コンクリート21の養生にも十分な保湿性能を有している。
【0026】
図1及び図2に示すように、シェル構造体13の外枠部材23は、上部34と、この上部34の両側にヒンジ35を介して連結された側部36とから3分割されている。そして、外枠部材23の側部36は、第1のジャッキ機構37を介して移動架台12の縦梁部材18に連結されており、この第1のジャッキ機構37を伸縮することによって上部34に対して幅方向に揺動可能とされている。また、移動架台12の柱部材16の中途部には第2のジャッキ機構38が設けられており、柱部材16の上端に連結された外枠部材23の上部34は、第2のジャッキ機構38を伸縮することによって上下に移動可能とされている。そして、第1のジャッキ機構37及び第2のジャッキ機構38を収縮させることによって、保湿養生層14を覆工コンクリート21の内周面から離反させることができ(図1に、側部36の部分の離反状態を2点鎖線で示す)、第1のジャッキ機構37及び第2のジャッキ機構38を伸長させることによって、保湿養生層14を覆工コンクリート21の内周面に接触させることができる。
【0027】
以下、二次覆工の作業と養生装置10による養生作業とについて図4を参照して説明する。図4(a)に示すように、まず、二次覆工作業は、トンネル11内にスライドセントル22と呼ばれる移動型枠を搬入するとともに、レール20上を走行させることによってスライドセントル22を所定の位置(区間A)に設置し、スライドセントル22の外周面とトンネル11の内周面との間に覆工コンクリート21を打設することによって行う。所定の期間が経過し、覆工コンクリート21が硬化すると、覆工コンクリート21からスライドセントル22を脱型し、切羽側の次の区間Bに移動して当該区間Bの二次覆工を行う。
【0028】
図4(b)に示すように、スライドセントル22が脱型された区間Aには、スライドセントルと同じトンネル延長方向の長さを有する養生装置10を設置し、打設後の覆工コンクリート21の保湿養生を行う。具体的には、図1に示すように養生装置10の第1のジャッキ機構37及び第2のジャッキ機構38を収縮させ、覆工コンクリート21の内周面から保湿養生層14を離反させた状態で養生装置10を当該区間Aに設置する。そして、第1のジャッキ機構37及び第2のジャッキ機構38を伸長させることにより、保湿養生層14を覆工コンクリート21の内周面に接触させる。
【0029】
保湿養生層14を覆工コンクリート21の内周面に接触させると、保湿マット28に吸水された水分によって覆工コンクリート21が湿潤状態に養生される。この際、保湿養生層14の内側層27が当該内周面の形状に応じて弾性変形することによって、保湿マット28全体を覆工コンクリート21の内周面に接触させることができ、覆工コンクリート21の全体を確実に湿潤状態に養生することができる。また、内側層27が弾性変形することによって覆工コンクリート21の内周面を痛めることもない。
【0030】
覆工コンクリート21の打設に要する期間は保湿養生に要する期間よりも短いので、区間Bにおける覆工コンクリート21の打設が終了した時点で区間Aの保湿養生は終了していない。したがって、この場合に、スライドセントル22を区間Cに移動させるのに追従して養生装置10を区間Bに移動させたとすれば、区間Aの養生期間を充分に確保することができなくなる。逆に、区間Aの養生期間が経過してから養生装置10を区間Bに移動させたとすれば、区間Aの養生は充分に行うことができるが、区間Bにおける養生の開始が遅れてしまうとともに、その遅れが後の区間において累積していくことになる。
【0031】
そこで、本実施の形態では、保湿養生に必要な期間を二次覆工に必要な期間で除した値以上の台数の養生装置10をスライドセントル22の後方に配備している。例えば、二次覆工に必要な期間が2日で、覆工コンクリート21の保湿養生に必要な期間が6日である場合には、6日÷2日=3台の養生装置10をスライドセントル22の後方に配備する(図5参照)。そして、スライドセントル22によって1つの区間の二次覆工が終了すると、スライドセントル22の進行に合わせて複数台の養生装置10を同時に進行させ、次の二次覆工を行っている間に、各養生装置10によって複数の区間(スパン)の養生を同時に行う。これにより1つの区間に対して3台の養生装置10が2日毎に順次移動して養生を行うこととなり、全体として必要な養生期間(6日)を確保することが可能となる。
【0032】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る養生装置の外面パネル及び保湿養生層を拡大して示す断面図である。本実施形態の養生装置10は、保湿養生層14の保湿マット28が、吸水層42と、この吸水層42の内周面に積層され、不透水性を有する不透水層41と、吸水層42の外周面に積層され、当該外周面を保護するとともに水分を透過可能な保護層43とからなる。
【0033】
吸水層42は、水分を吸収可能であるとともに吸水した水分を保持可能に構成されている。具体的に、吸水層42は、膨潤度10g/g以上の高吸水繊維42aを一素材としてシート状に形成されたものを用いてもよい。本実施形態の吸水層42は、第1の実施形態の保湿マット28と同様に、必要な養生期間の経過後でも80%以上の湿度を確保することが可能とされている。高吸水繊維としては、例えばランシール(登録商標)(東洋紡績株式会社製)やベルオアシス(登録商標)(帝人ファイバー株式会社)などを用いることができるが、吸水後に高吸水性繊維の脱落が少ないという利点があるランシール(登録商標)を用いることが望ましい。
なお、膨純度は次のように測定される。まず、繊維を絶乾し、重量(X(g))を測定する。次に繊維を純水に30分以上浸漬させ、中心からサンプルまでの距離が11.5cmの遠心分離器に入れ、1200rpmで5分間脱水し、脱水後の重量(Y(g))を測定する。そして、以下の式によって膨純度を求める。
膨純度[g/g]=(Y−X)/X
【0034】
吸水層42のシートには、高吸水性粒子状ポリマーSAP等を用いることができる。但し、この高吸水性粒子状ポリマーSAPを用いた場合、後述する保護層43を設けたとしても、使用時に散水し、吸水させた場合に、高吸水性ポリマーの部位が膨潤し、覆工コンクリート21の内周面に接触した状態から離反させたときに、覆工コンクリート21の内周面に接触跡が残ることがある。これはシートの製造時の高吸水性ポリマーの局所的なばらつきが原因と考えられる。しかしながら、吸水層42のシートに高吸水性繊維42aを用いると、シート全体に繊維を混合できるため、使用時に散水し、吸水させた場合においても、シート上で局所的な膨潤が起こらず、シート全体が均一に吸水され、覆工コンクリート21の内周面に接触した状態から離反させたときに、覆工コンクリート21の内周面に接触跡が残るのを防止することができる。
【0035】
不透水層41は、例えばポリエチレンフィルム等の不透水フィルムによって形成され、吸水層42によって保持された水分が内側層27へ浸み出てしまうのを防止している。これによって、吸水層42における水分の保持機能を高めることができる。
【0036】
保護層43は、ポリエチレン、ポリプロピレン、EVA,塩化ビニル等によって形成された多孔質性のフィルムからなり、表裏を貫通する多数の微細孔43aを備え、この微細孔43aを介して水分の透過が可能となっている。
また、保護層43としては、高吸水性繊維以外の親水性繊維(例えば、綿、レーヨン等の天然繊維、又は、親水性処理を行った親水性ポリエステル、ポリプロピレンなどの化学繊維)を含む不織布又は編地を用いてもよい。このような親水性繊維を使用した場合、多孔質性のフィルムと比較して、吸水層42への散水による水の移行が速いという利点があり、そのため、繰り返して使用する際にも短時間で吸水層42に吸水させることができる。
【0037】
この保護層43を吸水層42の外周側に設けることによって、吸水層42による覆工コンクリート21の保湿機能を損なうことなく吸水層42の表面を保護することが可能となる。そのため、保湿マット28を覆工コンクリート21の内周面に接触した状態から離反させたときに、覆工コンクリート21の内周面に吸水層42の接触跡が残ったり、吸水層42を形成する吸水性繊維42aが剥がれて覆工コンクリート21に付着したりすることがなく、養生後の覆工コンクリート21の表面が荒れたり、吸水層42が早期に劣化したりするのを防止することができる。吸水層42の早期劣化を防止することで保湿マット28の耐久性を高め、養生装置10の転用回数を増大することができる。なお、保護層43は、不透水層41の同等の不透水フィルムに、多数の透水用の孔を形成することによって構成することもできる。
なお、養生面保湿の観点からは、養生面と吸水層とを直接接触させる方が好ましいが、養生終了時に、覆工コンクリート21の内周面に接触した状態から離反させたときに、吸水層42の養生面への接着や吸水層42の吸水性能の低下が起こりやすいため、これを防止する上では保護層43を設けることが非常に効果的である。
【0038】
図7は、本発明の第3の実施形態に係る養生装置の外周面を示す斜視図である。なお、この図において、移動架台12は省略し、シェル構造体13や保湿養生層14は一部の構成のみを簡略化して示してある。
本実施形態の養生装置10は、保湿養生層14の保湿マット28に対して給水を行う給水手段51を備えている。この給水手段51は、保湿マット28の外周面の頂部に配置された第1の給水管52と、保湿マット28の外周面の幅方向両側に配置された2本の第2の給水管53とを備えている。
【0039】
第1,第2の給水管52,53は、トンネル延長方向に沿って延びるパイプであり、このパイプには、内外に貫通する吐出孔(図示略)が長さ全体にわたって多数形成されている。また、第1,第2の給水管52,53は、保湿養生層14を径方向内側に撓ませることによって保湿マット28の外周面から径方向外側へ突出しないように配置されている。
第1,第2の給水管52,53の上流側にはそれぞれ供給配管57,54が接続され、各供給配管57,54にはそれぞれ流量調整弁56,55が設けられている。そして、これら流量調整弁56,55を操作することによって、第1,第2の給水管52,53の吐出口から吐出される水の流量を調整することができ、保湿マット28の保水状態に応じてその頂部と幅方向両側とにそれぞれ適量の水を効率よく供給することが可能となっている。
【0040】
本実施形態のような給水手段51を備えることによって、養生装置10をトンネル11内で進行させる過程で、保湿マット28の保水量が低下した場合に簡単に水分を供給することが可能となる。また、第1,第2の給水管52,53をトンネル延長方向に沿うように配置することで、保湿マット28のトンネル延長方向の長さが長い場合でも少ない給水管の数で切羽側にも簡単に給水することができる。なお、給水管52,53の本数は、保湿マット28の外周面の周方向長さや面積等に応じて適宜変更可能である。
【0041】
図8は、本発明の第4の実施形態に係る養生装置の正面図である。図9は、図8に示される養生装置のシェル構造体を示す側面図である。
本実施形態の養生装置10は、移動架台12とシェル構造体13の構成が第1実施形態と異なっている。なお、保湿養生層14には、上述した第1,第2実施形態と同様の構成を採用することができ、また、第3実施形態で説明したような吸水手段51を備えていてもよい。
【0042】
移動架台12は、H型鋼や溝型鋼等からなる複数本の下部柱部材61、上部柱部材67、横梁部材62、縦梁部材63等の長尺部材をトンネル幅方向およびトンネル延長方向に枠組みすることによって構成されている。移動架台12の下端部には、前後左右の4箇所に車輪ユニット64が設けられ、各車輪ユニット64に前後2つの車輪19が備えられている。各車輪ユニット64上には下部柱部材61が立設されている。前後の車輪ユニット64は、連結部材65によって相互に連結されている。
【0043】
下部柱部材61は入れ子構造によって上下に伸縮可能であり、ジャッキ機構38によって伸縮動作されるようになっている。下部柱部材61の伸縮によって保湿養生層14を覆工コンクリート21の内周面に対して接触離反させることができる。
【0044】
図8に示すように、縦梁部材63は左右方向に3本並設され、その中央の縦梁部材63には、前後方向に複数本の上部柱部材67が立設されている。そして、この上部柱部材67の頂部にシェル構造体13が取り付けられている。
【0045】
シェル構造体13は、トンネル内周面にほぼ沿うようにアーチ状に湾曲された、前後方向に複数の外枠部材71と、外枠部材71の内周面に沿って左右方向に並設された、前後方向に延びる複数の連結部材72とを有し、複数の外枠部材71が複数の連結部材72によって相互に連結されている。
外枠部材71は、可撓性を有する長尺棒材、例えば、高強度、高靱性、高弾性を有するガラス繊維強化プラスチックにより形成されている。また、連結部材72は、長尺の円管パイプ材から形成されている。したがって、本実施形態の外枠部材71および連結部材72は、第1の実施形態の外枠部材23および連結部材24と比較して非常に軽量となっている。
【0046】
外枠部材71は、無負荷の状態では略直線状であり、移動架台12に設けられた支持部材73,74によってトンネル内周面にほぼ沿うようにアーチ状に湾曲(弾性変形)されている。支持部材73は伸縮可能なロッド部材からなり、ターンバックル式等の調整部73aにより長さを調整することによって外枠部材71の上部側の湾曲度合いを調整することが可能となっている。また、支持部材74は、長さ調整可能なワイヤー部材からなり、巻き取り式等の調整部74aによる長さ調整によって外枠部材71の下部側の湾曲度合いを調整することが可能となっている。なお、支持部材73をワイヤー部材によって構成したり、支持部材74をロッド部材によって構成したりすることも可能である。また、外枠部材71の外周面には、第1,第2実施形態と同様に波板状の外面パネル25が設けられるが、この外面パネル25は、外枠部材71の弾性変形に追従して容易に弾性変形し、かつ軽量な部材、例えば合成樹脂材によって形成することができる。
【0047】
第1実施形態の外枠部材23は、予めトンネルの内周面に沿うようなアーチ状に塑性加工する必要があるが、本実施形態の外枠部材71は、トンネルの内周面に沿うように弾性変形させれば足りるため、シェル構造体13を非常に安価に製造することができる。また、支持部材73,74を長さ調整することによって外枠部材71の湾曲度合いを調整することができるので、トンネルの内周半径の誤差等にも対応することができる。
また、支持部材73,74の長さ調整や異なる長さの支持部材73,74の使用によって外枠部材71の湾曲の曲率半径を変えれば、内周半径が異なる複数種のトンネルにも対応することが可能となる。
【0048】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく適宜設計変更可能である。
例えば、保湿養生層14の保湿マット28は、上記に例示したものに限らず所定の保湿性能を具備したものであれば適宜採用することができる。また、保湿養生層14の内側層27は、スポンジ等の発泡部材に限らず弾力性を有する他の部材に変更することができる。ただし、本実施形態のように内部に空隙を有する発泡部材を用いた場合、当該空隙による断熱性によって覆工コンクリート21の急激な温度変化を避けることができ、当該温度変化に起因するひび割れ等の発生を防止することができる。
【0049】
一般に、スライドセントル22は、覆工コンクリート21から脱型するためにその外表面をトンネル11の内周面に対して接近・離反させるためのジャッキ機構を備えている。そして、本発明の養生装置10は、第1のジャッキ機構37及び第2のジャッキ機構38をスライドセントル22のジャッキ機構と同じ位置に配置することができる。このようにすれば、スライドセントル22をトンネル11の内部にセットするのと同じ作業感覚で養生装置10をトンネル11の内部にセットすることができ、養生作業の効率を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0050】
10 養生装置
11 トンネル
12 移動架台
13 シェル構造体
14 保湿養生層
21 覆工コンクリート
22 スライドセントル
27 内側層
28 保湿マット
41 不透水層
42 吸水層
43 保護層
52 第1の給水管
53 第2の給水管
73 支持部材
73a 調整部
74 支持部材
74a 調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの内部に打設された覆工コンクリートの内周面を被覆して養生するための養生装置であって、
トンネル延長方向の軌道上を移動可能な移動架台と、
前記覆工コンクリートの内周面にほぼ沿う外周面を有する円筒シェル構造を有し、前記覆工コンクリートの内周面に対して接近・離反可能となるように前記移動架台に搭載されたシェル構造体と、
前記シェル構造体の外周面に貼り付けられ、吸収した水分を保持することができる外表面を有する保湿養生層と、を備えていることを特徴とする覆工コンクリートの養生装置。
【請求項2】
前記保湿養生層は、トンネル径方向に変形可能な弾力性と内部に空隙とを有する内側層と、この内側層の外周面に積層された保湿マットとの二層構造になっている請求項1に記載の覆工コンクリートの養生装置。
【請求項3】
前記保湿マットは、必要な養生期間の経過後でも80%以上の湿度を確保できる高保湿性を有するマットよりなる請求項2に記載の覆工コンクリートの養生装置。
【請求項4】
前記保湿マットは、水分を吸収可能な吸水層と、この吸水層の内周面に積層された不透水層と、前記吸水層の外周面に積層され、前記吸水層の外周面を保護するとともに水分を透過可能な保護層とからなる請求項2又は3に記載の覆工コンクリートの養生装置。
【請求項5】
前記保湿養生層の外周面に、当該保湿養生層に対する給水用の配管が配設されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の覆工コンクリートの養生装置。
【請求項6】
前記シェル構造体は、前記覆工コンクリートの内周面にほぼ沿う円筒形状に弾性変形により湾曲可能に構成されており、前記移動架台は、前記シェル構造体を前記覆工コンクリートの内周面にほぼ沿う円筒形状の状態で支持する支持部材を備えている請求項1〜5のいずれか1項に記載の覆工コンクリートの養生装置。
【請求項7】
前記支持部材が、前記シェル構造体の湾曲の度合いを調整する調整部を備えている請求項6に記載の覆工コンクリートの養生装置。
【請求項8】
前記移動架台は、前記覆工コンクリートを打設するためのスライドセントルと同じ軌道上を移動可能である請求項1〜7のいずれか1項に記載の覆工コンクリートの養生装置。
【請求項9】
前記移動架台は、前記シェル構造体を前記覆工コンクリートの内周面に対して接離させるジャッキ機構を備えており、このジャッキ機構は、前記覆工コンクリートを打設するためのスライドセントルのジャッキ機構と同じ位置に配置されている請求項1〜8のいずれか1項に記載の覆工コンクリートの養生装置。
【請求項10】
トンネルの内部にスライドセントルをセットして覆工コンクリートを打設した後、前記スライドセントルを脱型して、硬化した覆工コンクリートの内周側を請求項1〜5のいずれか1項に記載の養生装置で養生するようにした覆工コンクリートの構築方法であって、
前記スライドセントルとほぼ同じトンネル延長方向の長さを有する前記養生装置を当該スライドセントルの後方に複数台用意しておき、その複数台の前記養生装置を用いて脱型済みの前記覆工コンクリートを複数スパンに渡って同時に養生することを特徴とする覆工コンクリートの構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−19067(P2010−19067A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5668(P2009−5668)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(501360120)テクノプロ株式会社 (12)
【Fターム(参考)】