説明

覆工用筒状壁体の分岐部セグメント

【発明の詳細な説明】
「産業上の利用分野」
この発明は、掘削穴の覆工用筒状壁体の分岐部セグメントに係わり、特に、2連形の掘削穴の覆工用筒状壁体を形成する過程において、シールド掘削機の内側スキンプレートが変形してもその壁面が分岐部セグメントの背面部に当たっても、シールド掘削機の掘進が抑えられないようにすることを目的とする覆工用筒状壁体の分岐部セグメントに関するものである。
「従来の技術」
近年、鉄道用トンネルなどの大断面トンネル構造物を構築するための大断面シールド工法として、複円形特殊断面シールド工法と呼ばれるものが行われるようになった。この工法は、シールド掘削機を用いて、円が2つその一部が重なった状態で連なる形の断面形状に、地山あるいは地盤を掘削し、この掘削された穴の内面に、セグメントを組み立てて筒状壁を形成し、この筒状壁体を穴にそって複数連結し(一次覆工)、この一次覆工のセグメントの背面、すなわちセグメントと地山との間に空隙を埋める充填材を注入した後、一次覆工の内面にコンクリートを巻き立て(二次覆工)、それらによって地山を支持して、所定の内空を構成する、というものである。
この工法で用いられるシールド掘削機は、円筒状のシールド掘削機を2基連結した構造を有するもので、例えば第14図に示すシールド掘削機Aは外殻を形成する筒状の外側スキンプレートBの前部に設けられたカッタCにより地山を掘削しつつ、内側スキンプレートDの内部で、一次覆工用のセグメント(コンクリートセグメント等)Sを組み立てながら地中を掘進する基本構成となっている。
また、この工法で構築する筒状壁体としては、例えば第12図に示すものが知られている。第12図に示す筒状壁体20は、円弧版状のセグメント21、21…を連結して断面C状、断面逆C状の主壁部を構築し、これら主壁部間および下端部間に分岐部セグメント22、22…を連結し上下に位置する分岐部セグメント22、22…間に中柱23、23…を建て込み、このようにして構築した眼鏡枠状の壁体を掘削穴の軸方向に順次連結してなるものである。これらの図示例では左右の主壁部の上下を連結する分岐部セグメント22は、第13図に示すようにコンクリートにより外観Y字状に一体成形させたものが用いられており、その端面が中柱23と連結される断面方形の基部24と、この基部24から分岐してそれぞれの端面が主壁部と連結される断面方形の連結腕部25、25と、そして両連結腕部25、25を長手方向の端部として弓状に湾曲した背面部26とからなる基本構造となっている。
「発明が解決しようとする課題」
ところで、前記した掘削穴の覆工用筒状壁体の構築では、2連式のシールド掘削機を用いて、円が2つその一部が重なった状態で連なる形の断面形状に、地山あるいは地盤を掘削し、この掘削された穴の内面に、セグメントを組み立てて一次覆工をしてゆく際に、2連式のシールド掘削機には、覆工用筒状壁体の分岐部に相当するスキンプレートの分岐部を支えるための部材が設けられておらず、このスキンプレートの分岐部に余計な荷重がかかることによって、このスキンプレートの分岐部が変形し、分岐部セグメントの背面部がシールド掘削機の内側スキンプレートと接触してシールド掘削機の掘進を抑えるという問題があった。この発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、シールド掘削機の内側スキンプレートが変形してもその壁部が分岐部セグメントの背面部に当たっても、シールド掘削機の掘進が抑えられないようにすることができる覆工用筒状壁体の分岐部セグメントを提供することにある。
「課題を解決するための手段」
かかる目的を達成するためにこの発明は、(1)請求項1記載の覆工用筒状壁体の分岐部セグメントでは、2連形の掘削穴の覆工用筒状壁体が形成する断面C状の主壁部と断面逆C状の主壁部との上端部間および下端部間を連結し、連結腕部、基部および背面部からなる分岐部セグメントにおいて、複数個のローラーを、該ローラーの回転軸が掘削穴の軸方向に直交するようにして、該背面部の表面に設けるようにしたことによって、前記課題を解決するようにした。
(2)請求項2記載の覆工用筒状壁体の分岐部セグメントでは、2連形の掘削穴の覆工用筒状壁体が形成する断面C状の主壁部と断面逆C状の主壁部との上端部間および下端部間を連結し、連結腕部、基部および背面部からなる分岐部セグメントにおいて、該分岐部セグメントの背面の表面に複数個のボールを回転自在に設けるようにしたことによって、前記課題を解決するようにした。
「作用」
(1)請求項1記載の覆工用筒状壁体の分岐部セグメントでは、この分岐部セグメントの背面部に設けられたローラーがあるため、シールド掘削機の内側にスキンプレートが変形してその壁面が分岐セグメントの背面部に当たっても、該ローラーが回転して背面部と内側スキンプレートの壁面との接触面における摩擦を少なくすることができる。
(2)請求項2記載の覆工用筒状壁体の分岐部セグメントでは、この分岐部セグメントの背面部に設けられたボールがあるため、シールド掘削機の内側にスキンプレートが変形してその壁面が分岐セグメントの背面部に当たっても、該ボールが回転して背面部と内側スキンプレートの壁面との接触面における摩擦を少なくすることができる。
以下、本発明を実施例にもとづいて説明する。
「実施例」
第1図ないし第4図は請求項1にかかる覆工用筒状壁体の分岐部セグメントの一実施例を示すもので、図中符号1は、本発明の覆工用筒状壁体の分岐部セグメントである。
本発明の覆工用筒状壁体の分岐部セグメント1は従来の分岐部セグメントの背面部に、複数個のローラー2、2…を、これらローラー2、2…の回転軸が掘削穴の軸方向に直交するようにして設けたものである。
本発明の分岐部セグメント1の具体的構成は、コンクリートにより外観Y字状に一体成型されたもので、基部3、連結腕部4、4、背面部5および複数個のローラー2、2…からなる。
基部3は、その端面が中柱と連結される断面方形の部分である。
連結腕部4、4は、この基部3から分岐してそれぞれの端面が主壁部と連結される断面方形の部分である。
背面部5は、2つの連結腕部4、4を両端とする弓状に歪曲した面からなるものである。この背面部5の表面には、ローラー2、2…が固定されるための複数個凹部が、その底面を基部の端面と平行するようにして形成されており、この凹部にローラー2、2…が設けられている。
このローラー2は第5図ないし第7図に示すように、ローラー本体6とローラー受台7とからなる。ローラー本体6は、円柱状をなし、その中心軸線に沿って、一方の端面から他方の端面に向けて開口した軸受孔8が設けられている。また、ローラー受台7は、方形状をなすもので、その長手方向に沿った一方の側面が弓状に湾曲し、かつその長手方向に沿って開口した凹部が形成されている。この凹部にはその長手方向に沿うように伸びた軸棒9が設けられており、その軸棒9の両端は凹部の幅方向の両内壁に固定されている。
ローラー本体6は、このローラー本体6の外周面の一部が分岐部セグメント1の背面部5から突出するようにして、かつこのローラー本体6の軸受孔8に軸棒9を貫き通すようにして、ローラー受台7の凹部に取り付けられている。また、このローラー本体6は、この軸棒9を軸にして回転可能となっている。
このように構成されたローラー2は、ローラー本体6の中心軸が分岐部セグメント1の基部3の端面と平行になるようにして、かつ掘削穴の軸方向に直交するようにして、ローラー受台6の裏側面を分岐部セグメント1の背面部5に設けられた凹部の底面に固定するようにして分岐部セグメント1の背面部5表面に取り付けられている。
上記のように構成されることによって、本発明の覆工用筒状壁体の分岐部セグメントは、第3図および第4図に示すように、シールド掘削機の内側スキンプレートDが変形してその壁面が分岐部セグメント1の背面部5に当たっても、この背面部1に設けられたローラー2、2…にシールド掘削機の内側スキンプレートDが接するので、背面部5と内側スキンプレートDの壁面との接触面における摩擦を少なくすることができる。
第8図ないし第11図は請求項2にかかる覆工用筒状壁体の分岐部セグメントの一実施例を示すもので、図中符号10は、本発明の覆工用筒状壁体の分岐部セグメントである。
この分岐部セグメント10は、従来の分岐部セグメントの背面部に、複数個のボール11、11…を設けたものである。
本発明の分岐部セグメント10の具体的構成は、コンクリートにより外観Y字状に一体成型されたもので、基部12、連結腕部13、13、背面部14および複数個のボール11、11…からなる。
基部12は、その端面が中柱と連結される断面方形の部分である。
連結腕部13、13は、この基部12から分岐してそれぞれの端面が主壁部と連結される断面方形の部分である。
背面部14は、2つの連結腕部13、13を両端とする弓状に湾曲した面からなるものである。この背面部14の表面には、第10図に示すように、ボール11、11…が保持されるための複数個の凹部15、15…が形成されており、これらの凹部15、15…は背面部14の表面を半球状に切欠することによって形成されたもので、その切欠部分の周縁はあたかも凹部15に置かれたボール11をつつむように隆起されている。ボール11はこの隆起した凹部15の周縁からその球面の一部を突出するようにして凹部15内に設けられている。
上記のように構成されることによって、本発明の覆工用筒状壁体の分岐部セグメント10は、第10図および第11図に示すように、シールド掘削機の内側スキンプレートDが変形してその壁面が分岐部セグメント10の背面部14に当たっても、この背面部14に設けられたボール11、11…にシールド掘削機の内側スキンプレートDが接するので、背面部14とシールド掘削機の内側スキンプレートDの壁面との接触面における摩擦を少なくすることができる。また、背面部14に設けられたボール11、11…はすべての方向に回転可能なことから、分岐部セグメント10の横ずれが起こっても背面部14と内側スキンプレートDの壁面との接触面における摩擦を少なくすることができ、掘削穴が湾曲している場合などに好適である。
「発明の効果」
以上説明したようにこの発明にかかる覆工用筒状壁体の分岐部セグメントは、2連形の掘削穴の覆工用筒状壁体が形成する断面C状の主壁部と断面逆C状の主壁部との上端部間および下端部間を連結、連結腕部、基部および背面部からなる分岐部セグメントにおいて、請求項1記載の本発明の覆工用筒状壁体の分岐部セグメントでは、複数個のローラーを、該ローラーの回転軸が掘削穴の軸方向に直交するようにして、該分岐部セグメントの背面部の表面に設けたものであり、また請求項2記載の本発明の覆工用筒状壁体の分岐部セグメントでは、該分岐部セグメントの背面部の表面に複数個のボールを回転自在に設けたものなので、シールド掘削機の内側スキンプレートが変形してその壁部が分岐部セグメントの背面部に当たっても、分岐部セグメントの背面部とシールド掘削機の内側スキンプレートとの接触面における摩擦を少なくし、シールド掘削機の掘進が抑えられないようにすることが可能となる効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
第1図ないし第4図は請求項1記載の覆工用筒状壁体の分岐部セグメントを示すもので、第1図は斜視図、第2図R>図は背面図、第3図は平面図、第4図は側面図、第5図ないし第7図は請求項1記載の覆工用筒状壁体の分岐部セグメントに用いられるローラーを示すもので、第5図は背面図、第6図は正面図、第7図は側面図、第8図ないし第11図は請求項2記載の覆工用筒状壁体の分岐部セグメントを示すもので、第8図は斜視図、第9図は背面図、第10図は第9図のX−X線に沿う断面図、第11図は側面図、第12図は従来の分岐部セグメントを用いた覆工用筒状壁体を示す斜視図、第13図は従来の覆工用筒状壁体の分岐部セグメントを示す斜視図、第14図はシールド掘削機を説明する構成図である。
1……分岐部セグメント、
2……ローラー、3……基部、4……連結腕部、
5……背面部、6……ローラー本体、
7……ローラー受台、10……分岐部セグメント、
11……ボール、12……基部、13……連結腕部、
14……背面部、15……凹部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】2連形の掘削穴の覆工用筒状壁体が形成する断面C状の主壁部と断面逆C状の主壁部との上端部間および下端部間を連結し、連結腕部、基部および背面部からなる分岐部セグメントにおいて、複数個のローラーを、該ローラーの回転軸が掘削穴の軸方向に直交するようにして、該背面部の表面に設けたことを特徴とする覆工用筒状壁体の分岐部セグメント。
【請求項2】2連形の掘削穴の覆工用筒状壁体が形成する断面C状の主壁部と断面逆C状の主壁部との上端部間および下端部間を連結し、連結腕部、基部および背面部からなる分岐部セグメントにおいて、該分岐部セグメントの背面部の表面に複数個のボールを回転自在に設けたことを特徴とする覆工用筒状壁体の分岐部セグメント。

【第1図】
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【第2図】
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【第3図】
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【第4図】
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【第5図】
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【第6図】
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【第7図】
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【第13図】
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【第8図】
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【第9図】
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【第10図】
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【第11図】
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【第12図】
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【第14図】
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【特許番号】第2683641号
【登録日】平成9年(1997)8月15日
【発行日】平成9年(1997)12月3日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−157849
【出願日】平成1年(1989)6月20日
【公開番号】特開平3−25194
【公開日】平成3年(1991)2月1日
【出願人】(999999999)石川島建材工業株式会社