覆盆子抽出物を含む不安、鬱病及び痴呆の予防及び治療と記憶力増進用薬学組成物
【課題】毒性及び副作用がほとんどなく、各種ストレス、閉経、飲酒、喫煙など環境的要因によりホルモン及び神経伝達物質の変化と脳損傷を受けている現代人の不安、鬱病及び痴呆の予防及び治療と記憶力増進効果を誘発する薬剤組成物及び健康補助食品の提供。
【解決手段】覆盆子抽出物を含む薬剤組成物及び健康補助食品。該抽出物は、水、炭素数1乃至4の低級アルコール等から選択された有機溶媒またはこれらの混合溶媒により50〜100℃で5〜24時間または常温または4℃で5〜7日間抽出して得られる濃縮液または乾燥粉末である。
【解決手段】覆盆子抽出物を含む薬剤組成物及び健康補助食品。該抽出物は、水、炭素数1乃至4の低級アルコール等から選択された有機溶媒またはこれらの混合溶媒により50〜100℃で5〜24時間または常温または4℃で5〜7日間抽出して得られる濃縮液または乾燥粉末である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、覆盆子抽出物を含む不安、鬱病及び痴呆の予防及び治療と記憶力増進用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
古代から現代に至るまで鬱病(melancholia)の実体は、抑鬱(depression)と不安(anxiety)全ての症状を含めていると認識されている(GlassGA.1994. A conceptual history of anxiety and depression. In: den Boer JA, SitsenJMA. Handbook of depression and anxiety. New York, NY: Marcel Dekker. P1−44)。不安または鬱病は同伴罹患する場合が多く、全体人口の10〜20%は一生中幾分の鬱病を経験するようになり、5〜6%は現在多大の苦痛を受けている。鬱病は子供から年寄りに至るまで発病でき、女性の場合はもう少し早く発病する場合であり得るが、大部分は30代後半から40代初に多く発病する。鬱病は大低6ヶ月またはその以上持続されて身体的、精神的苦痛を経験するようになり、適切な治療を受けなければ、自殺することもある。不安は感情的症状、身体的症状、考えで現われる症状で表現される。感情的症状にはそわつくようになり、よく腹を立てたり、鋭敏になる症状等があり、身体的症状には頻脈、消化不良、下痢、便秘、手に汗が出て手や身の振れ、手足冷症、筋肉緊張、頭痛、胸の圧迫感や痛症、口渇、息苦しい、めまい、不眠症などがある。
【0003】
不安と鬱病は、記憶障害とも密接な関連があると知られている。記憶力減退の結果として鬱病または不安症が発病するという証拠が提示されている[Schmand, B., Jonker, C., Geerlings, M. I., Lindeboom, J. Subjective memory complaints in theelderly, depressive symptoms and future dementia. Br. J. Psychiatry 171, 373-376,1997; Harwood, D. G., Barker, W. W., Ownby, R. L., Duara, R. Relationship ofbehavioral and psychological symptoms to cognitive impairment and functionalstatus in Alzheimer's disease. Int. J. Geriatr. Psychiatry 15, 393-400, 2000;Clarnette, R. M., Almeida, O. P., Fors市, H., Paton, A., Martins, R. N. Clinicalcharacteristics of individuals with subjective memory loss in WesternAustralia: results froma cross-sectional study. Int. J. Geriatr. Psychiatry 16,168-174, 2001]。
【0004】
また、不安と鬱病が記憶力減少の原因と言えるよりは、記憶力減少の開始に対する反応として誘発されるという研究も報告されている[Devanand, D. P., Sano, M., Tang, M. X. et al. Depressed mood andthe incidence of Alzheimer's disease: what is consensual" What iscontroversial What is practical J. Clin. Psychiatry 59, 6-18, 1996;Jorm, A. F., Christensen, H., Korten, A. E., Hendersen, A. S., Jacomb, P. A.,Mackinnon, A. Do cognitive complaints either predict future cognitive declineor reflect past cognitive decline A longitudinal study of a n earlycommunity sample. Psychol. Med. 27, 91-98, 1997]。記憶障害と不安の相互作用は両方向(bi-directional)と知られている。その理由は、不安は記憶喪失を招来し[Derouesne,C., Lacomblez, L., Thibault, S., LePoncin, M. Memory complaints in young andelderly subjects. Int. J. geriatr. Psychiatry 14, 291-301, 1999]、記憶喪失も不安を誘発するからである[Schneider,L. S. Overview of generalized anxiety disorder in the elderly. J. Clin.Psychiatry 57, 34-45, 1996]。したがって、このように両方向で作用する不安と記憶喪失は、お互いに分けられない密接な関係にある[Sinoff,G., Werner, P. Anxiety dosorder and accompanying subjective memory loss in theelderly as a predictor of future cognitive decline. Int. J. Geriatr. Pychiatry18, 951-959, 2003]。不安と鬱病はお互いに同伴罹患する場合が25〜50%の患者で発生し、このような同伴罹患は不安または鬱病の深刻性をさらに増加させる[KesslerRC et al., (1999) Lifetime comorbidities between social phobia and mooddisorders in the US national comorbidity survey. Psycholmed 29, 555-567]。
【0005】
現在、抗不安剤としてGABA受容体に作用するベンゾジアゼピン系の薬物が使用されているが、先行性健忘症、運動障害、精神機能障害、錯乱状態のような副作用がある。現在痴呆治療剤としてアセチルコリンステラーゼ抑制剤が使用されているが、概して効果があまり大きくない、よく使われるタクリンの場合、腹部痙攣、食欲欠乏、むかつき、嘔吐、下痢のような著しい副作用が投与患者の1/3で示しており、その他アセチルコリンステラーゼ抑制剤としてドネペジル、リバスティグミン、ガランタミンなどがあり、これもやはり、吐き気、嘔吐、下痢、不眠症などの副作用の発現により使用に制限がある[HarmanJ. G., Limbird, L. E. Goodman & Gilman's The Pharmacological Basis ofTherapeutics. 10th edition, McGraw Hill, 2001]。
【0006】
抗鬱剤としてはモノアミン類の神経末端への再吸収を抑制する三環系抗うつ剤(tricyclic antidepressant)、モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)及び選択的セロトニン再吸収阻害薬(SSRI:selectiveserotonin reuptake inhibitor)などが使われている。三環系抗うつ剤は有害作用で不眠症、不安、疲労、虚弱、口腔乾燥症、瞳孔拡大などがあり、心臓疾患がある患者の場合には常用量でも心室不整脈や心筋梗塞により突然死が発生することがある。MAOIの場合、副作用で肝毒性、体位性低血圧を起こし、過多服用時には不眠症、興奮、痙攣などを誘発する。SSRIの著しい副作用として、下痢、むかつき及び嘔吐のような胃腸障害が誘発され、心配、不安、睡眠障害、体重増加、性機能障害及び禁断現象を示す[HarmanJ. G., Limbird, L. E. Goodman & Gilman's The Pharmacological Basis ofTherapeutics. 10th edition, McGraw Hill, 2001]。したがって、副作用が少なく、効果が極めて優れた薬物として、不安と鬱病及び記憶力障害を同時に治療することができる物質の開発が要求されている実情である。
【0007】
覆盆子(Rubi Fructus)は、ラズベリー(raspberry)またはフクボンシイチゴとも呼ばれ、Rubuscoreanus MIQ.、Rubus tokkura SIEBOID、Rubus crataegiofolius BUNGE、Rubus itoensis LEV.et VAN.、Rubus parvifloius L. var. triphllus NAKAI、Rubus chingii HUの未成熟果実を言う。知られた含有成分には、有機酸ではリンゴ酸(malic acid)、クエン酸(citric acid)、酒石酸(tartaric acid)、糖分(sugars)ではフルクトースとグルコース、ビタミン(vitamins)ではビタミンC、ビタミンAの類似物質、トリテルペノイド(triterpenoids)ではnigaichigosideF1、F2(1,2)、suavissimoside R1(3)、coreanoside F1(4)、coreanogenic acid(5)がある。また、fupenzicacid、rubusoside、sanguiin H6、goshonoside F1、F2、F3、F4、F5、F6、F7なども存在すると知られている。知られた薬理作用では、抗菌作用、収斂作用、肝臓及び腎臓保護作用があり、漢方では陽気を引き立て、遺精、頻尿、柔弱及び虚労を治療するために使われている(ゾングボソブ、シンミンギョ著、図解郷薬大辞典、営林社1998年;新東医薬宝鑑伝統東洋薬物データベース(TradMed)ソウル大学校天産物科学研究所、1999年;Zhu, Y. P. Chinese Materia Medica. Chemistry, Pharmacology and Applications,Harwood Academic Publishers, 1998)。
【0008】
しかし、今まで覆盆子抽出物に不安、鬱病及び痴呆の予防及び治療と記憶力増進効果があるという報告はなかった。
【0009】
本発明の発明者は、各種ストレス、飲酒、喫煙などの環境的要因により脳損傷を受けている現代人の不安、鬱病及び痴呆の予防及び治療と記憶増進を誘発する物質に対する長年間の研究結果、覆盆子抽出物が不安、鬱病と痴呆の予防及び治療と記憶力増進に優れた効果を奏していることを見出して本発明を完成した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明は上述したような従来技術の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、覆盆子抽出物を利用して不安と鬱病抑制及び記憶力増進と痴呆治療効果を奏する薬学組成物及び健康補助食品を提供することにある。特に、不安及び鬱病抑制と記憶増進効果とを有する覆盆子抽出物を利用して、相互作用する不安、鬱病及び記憶障害を効果的に予防及び治療することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために本発明は、覆盆子抽出物を含む不安と鬱病抑制及び記憶増進用組成物を提供する。
【0012】
本発明の記憶力増進及び不安と鬱病抑制用組成物は、組成物総重量に対して覆盆子抽出物を0.5〜50重量%で含む。
【0013】
本発明の覆盆子抽出物は、下記のような製造工程により製造できる。
【0014】
第1段階:覆盆子を水、メタノール、エタノールなどの炭素数1乃至4の低級アルコール、エチルアセテートのような低級アセテート、アセトン、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、メチレンクロライド、エーテルまたはヘキサンからなる群から選択された有機溶媒またはこれらの混合溶媒、好ましくは、メタノールまたはメタノール及び水の1:0.2〜1.5の範囲の混合溶媒で、5乃至80℃の温度、好ましくは、30乃至55℃で15分乃至48時間の反応時間、好ましくは、30分乃至12時間抽出して低級アルコール可溶分画を得る。
【0015】
また、本発明の覆盆子抽出物は、通常の分画方法で追加に下記の分画工程を実行することもできる(Carborne J. B. Photochemical methods: A guide to modern techniquesof plant analysis. 3rf Ed. pp 6-7, 1998)。
【0016】
第2段階:前記から得られた低級アルコール可溶分画を低級アルコール及び水の混合溶媒に溶解した後、酸でpH2〜4で調節し、同量のクロロホルムでさらに抽出することによりクロロホルム可溶分画を得る。
【0017】
第3段階:前記クロロホルム溶媒に溶解されない分画部を水酸化アンモニウムでpH9〜12で調節して同量のクロロホルム:メタノール混合溶媒で抽出及び分画してクロロホルム:メタノール溶媒の可溶分画を得る段階として、この時、クロロホルム:メタノール混合溶媒の混合比は1:0.1〜1の範囲にすることが好ましい。前記クロロホルムに溶解されない分画部の中でクロロホルム:メタノール混合溶媒で抽出時に溶解された分画部には大部分のアルカロイド(alkaloids)が含有されており、クロロホルム:メタノール混合溶媒に溶解されない分画部の中でメタノールに溶解される分画部には4級アルカロイド(quaternaryalkaloids)及びN−オキサイドが含有されている。
【0018】
第4段階:前記クロロホルム:メタノール混合溶媒に溶解されない分画部をメタノールで追加に抽出及び分画してメタノール可溶分画を得る。
【0019】
本発明は、前記各段階から得られる低級アルコール可溶分画、クロロホルム可溶分画、クロロホルム−メタノール可溶分画、メタノール可溶分画を含む不安、鬱病及び痴呆抑制及び記憶増進用組成物を提供する。
【0020】
本発明の覆盆子抽出物を含む組成物は、通常の方法による適切な担体、賦形剤及び希釈剤をさらに含むことができる。
【0021】
本発明の覆盆子抽出物を含む組成物に含むことができる担体、賦形剤及び希釈剤には、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルギン酸、ゼラチン、カルシウム、リン酸塩、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、マイクロクリスタリンセルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム及び鉱物油などがある。
【0022】
本発明による覆盆子抽出物を含む組成物は、各々通常の方法によって散剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、乳剤、シロップ、エアゾール等の経口製剤、外用剤、座剤及び滅菌注射溶液の形態で剤形化して使用することができる。
【0023】
覆盆子抽出物の使用量は、患者の年、性別、体重によって変更できるが、一日0.1乃至500mg/kgの量を1回乃至数回投与することができ、覆盆子抽出物及び分画物の投与量は投与経路、疾病の程度、性別、体重、年齢などによって増減できる。したがって、前記投与量は如何なる面でも本発明の範囲を限定しない。
【0024】
本発明の覆盆子抽出物を含む組成物は、前記のような剤形で不安及び鬱病抑制と記憶力増進のための薬剤、食品及び飲み物などに多様に利用できる。覆盆子抽出物を添加することができる食品としては、例えば、各種食品類、飲み物、ガム、茶、ビタミン複合剤、健康補助食品類などがある。
【0025】
本発明の覆盆子抽出物自体は毒性及び副作用がほとんどないので、予防目的で長期間服用する時にも安心して使用できる薬剤である。
【0026】
本発明の前記覆盆子抽出物は不安と鬱病抑制及び記憶力増進の目的で食品または飲み物に添加することができる。この時、食品または飲料中の前記覆盆子抽出物の量は、一般的に本発明の健康食品組成物は、全体食品重量の0.1乃至15重量%、好ましくは、1乃至10重量%にすることができ、食品健康飲料組成物は100m1を基準で1〜30g、好ましくは、3〜10gの割合で加えることができる。
【0027】
本発明の健康飲料組成物は、指示された割合で必須成分として前記覆盆子抽出物を含む以外には液体成分には特別な制限はない、通常の飲料のようにさまざまな香味剤または天然炭水化物などを追加成分として含むことができる。
【0028】
上述した天然炭水化物の例は、単糖類、例えば、ブドウ糖、果糖など、二糖類、例えば、麦芽糖、ショ糖など、及び多糖類、例えば、デキストリン、シクロデキストリンなどのような通常的な糖、及びキシリトール、ソルビトール、エリトリトールなどの糖アルコールである。上述の以外の香味剤として天然香味剤(タウマチン、ステビア抽出物(例えば、レバウジオシドA、グリシルリジンなど)、及び合成香味剤(サッカリン、アスパルテームなど)を有利に使用することができる。一般的に前記天然炭水化物の割合は、本発明の組成物100m1当たり約1〜20g、好ましくは、約5〜12gである。
【0029】
前記以外の本発明の組成物は、さまざまな営養剤、ビタミン、抗酸化剤、鉱物(電解質)、合成風味剤及び天然風味剤などの風味剤, 着色剤及び充填剤(チーズ、チョコレートなど)、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護性増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使われる炭酸化剤などを含むことができる。その他に、本発明の組成物は天然果物ジュース及び果物ジュース飲料及び野菜飲料の製造のための果肉を含むことができる。このような成分は独立的または組み合わせて使うことができる。このような添加剤の割合はあまり重要ではないが、一般的に本発明の組成物100重量部当たり0乃至約20重量部の範囲で選択される。
【発明の効果】
【0030】
本発明の覆盆子抽出物を含む組成物は、不安と鬱病抑制誘発効果及び記憶増進効果を示し、各種環境的ストレスによる脳損傷の危険を抱いている現代人の不安、鬱病、記憶力が減少された人に有用に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明するが、下記の実施形態は本発明を例示するだけで本発明の範囲を限定することではない
【0032】
実施例1:覆盆子抽出物の製造
覆盆子250gを細切して超音波装置を利用して70%メタノール(750ml)で3回抽出した。抽出物を濾過した後、回転真空濃縮器(rotary evaporator:EYELA N−N Series)を利用して減圧濃縮し、凍結乾燥してメタノール粗抽出物17.4gを得た。
【0033】
実験例1:抗不安試験(Staircase test)
1) 実験方法
抗不安試験はシミエンドなどの方法で施行した[Simiand, J., Keane, P. E., Morre, M. The staicase test in mice: Asimple and efficiecnt procedure for primary screening of anxiolytic agents.Psychopharmacolgy 84, 48-53, 1984]。マウスをステアケイス(staircase)ボックス(10cm×45cm×25cm)の底に置き、しっぽをステアケイスに向けるようにする。その後、3分間不安の尺度であるカカトで立った数(numberof rearing)を測定したが、マウスの四つの足が全部階段に着いた時だけを一ステップとした。そして、観察を単純化するために下に下ったステップは計算しなかった。実験が終わった後、次のマウスのために嗅覚刺激が加えないようにステアケイスボックスを迅速にきれいに片付けた。薬物は実験開始60分前に覆盆子抽出物分画を100mg/kg容量で経口投与し、すべての実験は午前8時から午後5時の間に実施した。
【0034】
2) 実験結果
結果を図1に示した。対照群の8回に比べて、覆盆子分画を投与した場合、不安の尺度であるカカトで立った数が0.7回で顕著に減少された。この結果は覆盆子分画は著しい抗不安作用があることを提示している。
【0035】
実験例2:抗不安実験(Elevated Plus Maze Test)
1) 実験方法
雄性ICRマウス(20g)に覆盆子抽出物を100mg/kg,P.O.で投与し、1時間後に迷路(elevated plus maze)試験を施行した。迷路は70cm高さで2個の開放アーム(open arm)(50x10cm)と2個の密閉アーム(closed arm)(50x10x40cm)とが相互に交差する形態を有する[Pellow,S., Chopin, P. H., File, S. E., Briley, M. Validation of open:closed entries inan elevated plus maze as a measure of anxiety in the rat. J. Neurosci. Meth.14, 149-167, 1985]。覆盆子分画100mg/kgを経口投与して1時間後にマウスを迷路の中央に密閉アーム側に向けるように各々位置させた。その後、5分間開放アーム及び密閉アームに入った回数と時間を測定した。
【0036】
2) 実験結果
開放アームに入った回数は、覆盆子抽出物を投与した場合、対照群に比べて各々2.65倍増加し(図2A)、密閉アームに入った回数は覆盆子投与群と対照群との間に有意性ある差を見せなかった(図2B)。開放アームに入った時間は覆盆子抽出物を投与した場合、対照群に比べて各々3.78倍増加し(図2C)、密閉アームに入った時間は覆盆子投与群と対照群との間に有意性ある差を見せなかった(図2D)。Elevated Plus Maze試験で開放アームに入った回数が多いほど、そして、開放アームで過ごした時間が長いほど、抗不安効果があることを示し、密閉アームに入った回数と密閉アームで過ごした時間は探索活性の尺度と見做される。したがって、覆盆子抽出物は著しい抗不安効果を誘発することが確認された。
【0037】
実験例3:覆盆子の抗鬱症作用機序糾明試験
(Enhancement ofyohimbine induced toxicity)
1) 実験方法
雄性ICRマウス(20g)に覆盆子抽出物を(100mg/kg)経口投与して30分後にヨヒンビン(yohimbine)(25mg/kg)を皮下注射した。その後、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、24時間後に死亡率を評価した(GoldbergMR, Robertson D (1988) Influence of alpha stimulants and beta blockers onyohimbine toxicity. Prog Neuro-Psychopharmacol Biol Psychiat 12, 569-574)。
【0038】
ヨヒンビンは中枢性α2−receptorの拮抗剤(antagonist)と作用してモノアミン(noerepinephrine、serotonin、dopamine)の分泌を促進する作用をし、また、セロトニン受容体のアゴニスト(agonist)でも作用すると報告されている[FeuersteinTJ, Hertting G, Jackisch R (1985) Endogenous noradrenaline as modulator ofhippocampal serotonin (5-HT)-release. Dual effects of yohimbine, rauwolscineand corynanthine as alpha-adrenoceptor antagonists and 5-HT-receptor agonist.Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol 329, 216-221]。三環系抗うつ剤は、神経末端でノルエピネフリン、セロトニン、ドパミンの再吸収を遮断することにより彼らの生理的不活性を抑制して抗うつ剤作用を示す。セロトニンの再吸収を抑制して抗うつ剤作用を誘発する薬物であるイミプラミン(imipramine)とヨヒンビンを併用投与する場合、神経末端でセロトニンの濃度が増加してその毒性により実験動物が死亡することが明かされた。抗うつ剤を探索するにおいてヨヒンビンのこのような作用が利用されている[QuintonRM (1963) The increase in toxicity of yohimbine induced by imipramine and otherdrugs in mice. Br J Pharmacol 21, 51-66]。
【0039】
2) 実験結果
ヨヒンビンだけを投与した対照群の死亡率はヨヒンビン投与後2時間に10%であったが、覆盆子抽出物を投与した後にヨヒンビンを投与した群の死亡率は90%であった(図5A)。ヨヒンビン投与24時間後の総死亡率は対照群が40%であり、覆盆子抽出物を投与した後にヨヒンビンを投与した群の総死亡率は90%であった。この結果は、覆盆子抽出物は神経末端でモノアミンの再吸収を遮断してヨヒンビンのα2−receptorの拮抗剤としての作用とセロトニン受容体アゴニストとしての作用とをさらに強化して死亡率を一層増加させた。したがって、覆盆子抽出物は神経末端でノルエピネフリン、セロトニン及びドパミンの再吸収を遮断してこれらモノアミンの作用を増加させて、また、セロトニンアゴニストの作用を増加して抗鬱症効果を誘発すると判断される。
【0040】
実験例4:覆盆子覆盆子の抗鬱症作用機序糾明試験
(Potentiation ofnorepinephrine toxicity)
1) 実験方法
雄性ICRマウス(20g)に覆盆子抽出物を(100mg/kg)経口投与して1時間後にノルエピネフリン(3mg/kg)を皮下注射して、プラスチックケージ(plasticcage)に入れて自由に餌と水を飲むようにする。48時間後に死亡率を評価する(Alpermann HG, Schacht U, Usinger P, HockFJ (1992) Drug Dev Res 25, 267-282)l Psychiat 12, 569-574)。抗うつ剤は神経末端でノルエピネフリン及びその他の生体アミンの再吸収を遮断することにより、彼らの生理的不活性を抑制する作用を示す。したがって、ノルエピネフリンの再吸収を抑制して抗うつ剤作用を誘発する薬物とノルエピネフリンを併用投与する場合、神経末端でノルエピネフリンの濃度が増加してその毒性により実験動物は死亡することになる。
【0041】
2) 実験結果
対照群の死亡率はノルエピネフリン投与後に50%であったが、覆盆子抽出物を投与した後にノルエピネフリンを投与した群の死亡率は90%であった(図5B)。この結果、覆盆子抽出物は神経末端でノルエピネフリンの再吸収を遮断してノルエピネフリンの作用をさらに強化して死亡率を一層増加させた。したがって、覆盆子抽出物は神経末端でノルエピネフリンの再吸収を遮断する記伝を誘発して抗鬱症効果を誘発すると判断される。
【0042】
実験例5:受動回避記憶試験(Passive Avoidance Test):記憶増進実験
1) 実験方法
雄性ICRマウス(20g)に覆盆子抽出物を100mg/kg,P.O.で投与して、1時間後にジェミニ回避システム(Gemini Avoidance System、San Diego Instruments、USA)を利用して受動回避記憶試験を施行した。実験はクマルなどの方法を基本として少しの修正を加えて次のように施行した[Kumar, V., Singh, P.N.,Muruganandan, A. V., Bhattacharya. Effect of Indian Hypericum perforatum Linnon animal models of cognitive dysfunction. J Ethnopharmacology 72, p119-128,2000]。
【0043】
第一日のトレーニング実験には、マウスを明るいボックスに入れて300秒間順化(a cclimation)させた後、自動にドアが開けるようにして暗いボックスに移動するようにする。暗いボックスに移動すれば、0.3mAの電気刺激を1秒間加える。24時間後のテスト実験には、マウスを明るいボックスに300秒間順化させた後、ドアを受動で開いて暗いボックスに移動するようにする。この時、暗いボックスに移動するまでかかる時間を測定する。第二の日には電気刺激を与えない。もし、マウスが180秒間暗いボックスに移動しなければ、最大点数である180秒を与える[Mohamed, A. F., Matsumoto, K., Tabata, K., Takayama, H., Kitajima,M., Aimi, N., Watanabe, H. Effects of Uncaria tomentosa total alkaloid and itscomponents on experimental amnesia in mice: Elucidation using the passiveavoidance test. J. Pharm. Pharmacol. 52, 1553-1561, 2000]。
【0044】
2) 実験結果
第一日のトレーニング実験では、実験の結果、図6Aに示したように、各実験群の間に有意的な差がなかった。第二の日のテスト実験では、実験の結果、図6Bに示したように、覆盆子抽出物を投与したマウスの場合、対照群に比べて2.08倍の著しい記憶増進効果を示した。
【0045】
実験例6:筋肉弛緩試験(Rotarod Test)
1) 実験方法
雄性ICRマウス(20g)に覆盆子抽出物を100mg/kg,P.O.で投与して、1時間後にRotarod(直径3cm、速度15rpm)に載せて落ちる時までの時間を測定した。
【0046】
2) 実験結果
対照群に比べて覆盆子投与群で有意的な差を見せなかった(図7)。これは覆盆子抽出物は筋肉弛緩効果がないことを示している。また、staircase、elevated plus maze実験で、覆盆子によるrearing数の減少及び開放アームに入った時間と回数の減少、そして、passive avoidance testで24時間後に暗いボックスに移動する時間の増加は、筋肉弛緩による効果ではないことを証明している。
【0047】
実験例7:覆盆子抽出物の経口毒性試験
1) 実験方法
20g程度の雄性ICRマウス30匹を温度23℃、相対湿度50%、照度150〜300ルクス(Lux)の動物室で1週間飼育した後、各10匹ずつ4群に分けて実験した。
【0048】
覆盆子メタノール抽出物を0mg/kg、50mg/kg、500mg/kg、5,000mg/kg容量で各群当たり10匹のマウスに経口投与して、投与後7日間一般症状の変化及び死亡動物の有無を観察した。そして、投与7日目にマウスを致死させて解剖して肉眼で内部臓器を検査した。
【0049】
2) 実験結果
覆盆子抽出物の投与による異常所見は観察されなかったし、5,000mg/kg容量経口投与した場合にも死亡した動物がいなかった。組職検事時に各臓器に特異な毒性はなく、安全性がとても優秀なことを示した。
【0050】
下記に前記薬学組成物の製剤例を説明するが、本発明はこれに限定することではなく、 具体的に説明するためである。
【0051】
製剤例1.錠剤
下記の造成によって、通常の錠剤製造方法により各々製剤化した。
覆盆子のメタノール抽出物・・・・・500.0mg
乳糖・・・・・・・・・・・・・・・500.0mg
タルク・・・・・・・・・・・・・・5.0mg
ステアリン酸マグネシウム・・・・・1.0mg
【0052】
製剤例2.カプセル剤
下記の造成によって、次のような方法によりカプセル剤を製造した。
覆盆子抽出物を篩って賦形剤と混合した後、ゼラチンカプセル中に充填してカプセルを製造した。
覆盆子のメタノール抽出物・・・・・500.0mg
澱粉1500・・・・・・・・・・・10.0mg
ステアリン酸マグネシウムBP・・・100.0mg
【0053】
製剤例3.シロップ剤
下記の造成によって、次のような方法でシロップ剤を製造した。
先に、精製水に白糖を溶解させた。パラオキシベンゾエート、パラオキシプロピルベンゾエート及び覆盆子抽出物を加えて60℃で溶解させた後冷却し、精製水を加えて150mlに作った。
覆盆子メタノール抽出物・・・・・・5.0g
白糖・・・・・・・・・・・・・・・95.1g
パラオキシベンゾエート・・・・・・80.0mg
パラオキシプロピルベンゾエート・・16.0mg
精製水を付け加えて150mlに製造
【0054】
製剤例4.液剤
下記の成分を通常の液剤製剤方法で製剤化して、褐色の瓶に充填して液剤を製造した。
覆盆子メタノール抽出物・・・・・・500.0mg
異性化糖・・・・・・・・・・・・・20.0g
酸化防除剤・・・・・・・・・・・・5.0mg
メチルパラオキシベンゾエート・・・2.0mg
精製水を付け加えて100.0mlに製造
【0055】
製剤例5.散剤
下記の成分を通常の散剤の製造方法により混合して、袋に入れて密封した後に散剤を製造した。
覆盆子メタノール抽出物・・・・・・50.0mg
乳糖・・・・・・・・・・・・・・・100.0mg
タルク・・・・・・・・・・・・・・5.0mg
【0056】
製剤例6.注射剤
下記の成分を通常の注射剤の製造方法により2.0ml容量のアンプルに充填して、滅菌させて注射剤を製造した。
覆盆子メタノール抽出物・・・・・・50.0mg
酸化防除剤・・・・・・・・・・・・1.0mg
ツイン80・・・・・・・・・・・・1.0mg
注射用蒸溜水を付け加えて2.0mlに製造
【0057】
また、下記のような方法で健康食品を製造する。
[禅食(ゼンショク)の製造]
玄米、麦、もち米、鳩麦を公知の方法でアルファ化させて乾燥させたものを焙煎した後、粉れ機で粒度60メッシュの粉末に作った。黒豆、黒ごま、えごまも公知の方法で蒸して乾燥させたものを焙煎した後粉れ機で粒度60メッシュの粉末に作った。
【0058】
前記で製造した穀物類、種実類及び乾燥覆盆子抽出物を次の比率で割り合わせて料粒を作った。
【0059】
[穀物類:玄米30重量%、鳩麦15重量%、麦20重量%、
種実類:えごま7重量%、黒豆8重量%、黒ごま7重量%、
覆盆子抽出物乾燥粉末:3重量%、霊芝0.5重量%、地黄0.5重量%]
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】覆盆子抽出物の抗不安効果を示す(Staircase test)。示した値は平均±標準偏差(n=10)であり、対照群(control)に対する有意性は**:P<0.01である。
【図2A】覆盆子抽出物の抗不安効果を示す(Elevated plus maze test)。示した値は平均±標準偏差(n=10)であり、対照群(control)に対する有意性は*:P<0.05;**:P<0.01である。
【図2B】覆盆子抽出物の抗不安効果を示す(Elevated plus maze test)。示した値は平均±標準偏差(n=10)であり、対照群(control)に対する有意性は*:P<0.05;**:P<0.01である。
【図2C】覆盆子抽出物の抗不安効果を示す(Elevated plus maze test)。示した値は平均±標準偏差(n=10)であり、対照群(control)に対する有意性は*:P<0.05;**:P<0.01である。
【図2D】覆盆子抽出物の抗不安効果を示す(Elevated plus maze test)。示した値は平均±標準偏差(n=10)であり、対照群(control)に対する有意性は*:P<0.05;**:P<0.01である。
【図3】覆盆子抽出物のストリキニーネ(strychnine)誘発発作抑制効果を示す。示した値は平均±標準偏差(n=7)であり、対照群(control)に対する有意性は*:P<005;**:P<0.01である。
【図4A】覆盆子抽出物のピクロトキシン(picrotoxin)及びイソニアジド(isoniazid)誘発発作に及ぶ効果を示す。示した値は平均±標準偏差(n=10)である。
【図4B】覆盆子抽出物のピクロトキシン(picrotoxin)及びイソニアジド(isoniazid)誘発発作に及ぶ効果を示す。示した値は平均±標準偏差(n=10)である。
【図4C】覆盆子抽出物のピクロトキシン(picrotoxin)及びイソニアジド(isoniazid)誘発発作に及ぶ効果を示す。示した値は平均±標準偏差(n=10)である。
【図5A】覆盆子抽出物のモノアミン再吸収抑制効果を示す。
【図5B】覆盆子抽出物のモノアミン再吸収抑制効果を示す。
【図6A】覆盆子抽出物の記憶増進効果を示す(Passive avoidance test)。示した値は平均±標準偏差(n=8−10)であり、対照群(control)に対する有意性は*:P<0.05である。
【図6B】覆盆子抽出物の記憶増進効果を示す(Passive avoidance test)。示した値は平均±標準偏差(n=8−10)であり、対照群(control)に対する有意性は*:P<0.05である。
【図7】覆盆子抽出物の筋肉弛緩に及ぶ効果を示す(Rotarod test)。示した値は平均±標準偏差(n=10)である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、覆盆子抽出物を含む不安、鬱病及び痴呆の予防及び治療と記憶力増進用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
古代から現代に至るまで鬱病(melancholia)の実体は、抑鬱(depression)と不安(anxiety)全ての症状を含めていると認識されている(GlassGA.1994. A conceptual history of anxiety and depression. In: den Boer JA, SitsenJMA. Handbook of depression and anxiety. New York, NY: Marcel Dekker. P1−44)。不安または鬱病は同伴罹患する場合が多く、全体人口の10〜20%は一生中幾分の鬱病を経験するようになり、5〜6%は現在多大の苦痛を受けている。鬱病は子供から年寄りに至るまで発病でき、女性の場合はもう少し早く発病する場合であり得るが、大部分は30代後半から40代初に多く発病する。鬱病は大低6ヶ月またはその以上持続されて身体的、精神的苦痛を経験するようになり、適切な治療を受けなければ、自殺することもある。不安は感情的症状、身体的症状、考えで現われる症状で表現される。感情的症状にはそわつくようになり、よく腹を立てたり、鋭敏になる症状等があり、身体的症状には頻脈、消化不良、下痢、便秘、手に汗が出て手や身の振れ、手足冷症、筋肉緊張、頭痛、胸の圧迫感や痛症、口渇、息苦しい、めまい、不眠症などがある。
【0003】
不安と鬱病は、記憶障害とも密接な関連があると知られている。記憶力減退の結果として鬱病または不安症が発病するという証拠が提示されている[Schmand, B., Jonker, C., Geerlings, M. I., Lindeboom, J. Subjective memory complaints in theelderly, depressive symptoms and future dementia. Br. J. Psychiatry 171, 373-376,1997; Harwood, D. G., Barker, W. W., Ownby, R. L., Duara, R. Relationship ofbehavioral and psychological symptoms to cognitive impairment and functionalstatus in Alzheimer's disease. Int. J. Geriatr. Psychiatry 15, 393-400, 2000;Clarnette, R. M., Almeida, O. P., Fors市, H., Paton, A., Martins, R. N. Clinicalcharacteristics of individuals with subjective memory loss in WesternAustralia: results froma cross-sectional study. Int. J. Geriatr. Psychiatry 16,168-174, 2001]。
【0004】
また、不安と鬱病が記憶力減少の原因と言えるよりは、記憶力減少の開始に対する反応として誘発されるという研究も報告されている[Devanand, D. P., Sano, M., Tang, M. X. et al. Depressed mood andthe incidence of Alzheimer's disease: what is consensual" What iscontroversial What is practical J. Clin. Psychiatry 59, 6-18, 1996;Jorm, A. F., Christensen, H., Korten, A. E., Hendersen, A. S., Jacomb, P. A.,Mackinnon, A. Do cognitive complaints either predict future cognitive declineor reflect past cognitive decline A longitudinal study of a n earlycommunity sample. Psychol. Med. 27, 91-98, 1997]。記憶障害と不安の相互作用は両方向(bi-directional)と知られている。その理由は、不安は記憶喪失を招来し[Derouesne,C., Lacomblez, L., Thibault, S., LePoncin, M. Memory complaints in young andelderly subjects. Int. J. geriatr. Psychiatry 14, 291-301, 1999]、記憶喪失も不安を誘発するからである[Schneider,L. S. Overview of generalized anxiety disorder in the elderly. J. Clin.Psychiatry 57, 34-45, 1996]。したがって、このように両方向で作用する不安と記憶喪失は、お互いに分けられない密接な関係にある[Sinoff,G., Werner, P. Anxiety dosorder and accompanying subjective memory loss in theelderly as a predictor of future cognitive decline. Int. J. Geriatr. Pychiatry18, 951-959, 2003]。不安と鬱病はお互いに同伴罹患する場合が25〜50%の患者で発生し、このような同伴罹患は不安または鬱病の深刻性をさらに増加させる[KesslerRC et al., (1999) Lifetime comorbidities between social phobia and mooddisorders in the US national comorbidity survey. Psycholmed 29, 555-567]。
【0005】
現在、抗不安剤としてGABA受容体に作用するベンゾジアゼピン系の薬物が使用されているが、先行性健忘症、運動障害、精神機能障害、錯乱状態のような副作用がある。現在痴呆治療剤としてアセチルコリンステラーゼ抑制剤が使用されているが、概して効果があまり大きくない、よく使われるタクリンの場合、腹部痙攣、食欲欠乏、むかつき、嘔吐、下痢のような著しい副作用が投与患者の1/3で示しており、その他アセチルコリンステラーゼ抑制剤としてドネペジル、リバスティグミン、ガランタミンなどがあり、これもやはり、吐き気、嘔吐、下痢、不眠症などの副作用の発現により使用に制限がある[HarmanJ. G., Limbird, L. E. Goodman & Gilman's The Pharmacological Basis ofTherapeutics. 10th edition, McGraw Hill, 2001]。
【0006】
抗鬱剤としてはモノアミン類の神経末端への再吸収を抑制する三環系抗うつ剤(tricyclic antidepressant)、モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)及び選択的セロトニン再吸収阻害薬(SSRI:selectiveserotonin reuptake inhibitor)などが使われている。三環系抗うつ剤は有害作用で不眠症、不安、疲労、虚弱、口腔乾燥症、瞳孔拡大などがあり、心臓疾患がある患者の場合には常用量でも心室不整脈や心筋梗塞により突然死が発生することがある。MAOIの場合、副作用で肝毒性、体位性低血圧を起こし、過多服用時には不眠症、興奮、痙攣などを誘発する。SSRIの著しい副作用として、下痢、むかつき及び嘔吐のような胃腸障害が誘発され、心配、不安、睡眠障害、体重増加、性機能障害及び禁断現象を示す[HarmanJ. G., Limbird, L. E. Goodman & Gilman's The Pharmacological Basis ofTherapeutics. 10th edition, McGraw Hill, 2001]。したがって、副作用が少なく、効果が極めて優れた薬物として、不安と鬱病及び記憶力障害を同時に治療することができる物質の開発が要求されている実情である。
【0007】
覆盆子(Rubi Fructus)は、ラズベリー(raspberry)またはフクボンシイチゴとも呼ばれ、Rubuscoreanus MIQ.、Rubus tokkura SIEBOID、Rubus crataegiofolius BUNGE、Rubus itoensis LEV.et VAN.、Rubus parvifloius L. var. triphllus NAKAI、Rubus chingii HUの未成熟果実を言う。知られた含有成分には、有機酸ではリンゴ酸(malic acid)、クエン酸(citric acid)、酒石酸(tartaric acid)、糖分(sugars)ではフルクトースとグルコース、ビタミン(vitamins)ではビタミンC、ビタミンAの類似物質、トリテルペノイド(triterpenoids)ではnigaichigosideF1、F2(1,2)、suavissimoside R1(3)、coreanoside F1(4)、coreanogenic acid(5)がある。また、fupenzicacid、rubusoside、sanguiin H6、goshonoside F1、F2、F3、F4、F5、F6、F7なども存在すると知られている。知られた薬理作用では、抗菌作用、収斂作用、肝臓及び腎臓保護作用があり、漢方では陽気を引き立て、遺精、頻尿、柔弱及び虚労を治療するために使われている(ゾングボソブ、シンミンギョ著、図解郷薬大辞典、営林社1998年;新東医薬宝鑑伝統東洋薬物データベース(TradMed)ソウル大学校天産物科学研究所、1999年;Zhu, Y. P. Chinese Materia Medica. Chemistry, Pharmacology and Applications,Harwood Academic Publishers, 1998)。
【0008】
しかし、今まで覆盆子抽出物に不安、鬱病及び痴呆の予防及び治療と記憶力増進効果があるという報告はなかった。
【0009】
本発明の発明者は、各種ストレス、飲酒、喫煙などの環境的要因により脳損傷を受けている現代人の不安、鬱病及び痴呆の予防及び治療と記憶増進を誘発する物質に対する長年間の研究結果、覆盆子抽出物が不安、鬱病と痴呆の予防及び治療と記憶力増進に優れた効果を奏していることを見出して本発明を完成した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明は上述したような従来技術の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、覆盆子抽出物を利用して不安と鬱病抑制及び記憶力増進と痴呆治療効果を奏する薬学組成物及び健康補助食品を提供することにある。特に、不安及び鬱病抑制と記憶増進効果とを有する覆盆子抽出物を利用して、相互作用する不安、鬱病及び記憶障害を効果的に予防及び治療することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために本発明は、覆盆子抽出物を含む不安と鬱病抑制及び記憶増進用組成物を提供する。
【0012】
本発明の記憶力増進及び不安と鬱病抑制用組成物は、組成物総重量に対して覆盆子抽出物を0.5〜50重量%で含む。
【0013】
本発明の覆盆子抽出物は、下記のような製造工程により製造できる。
【0014】
第1段階:覆盆子を水、メタノール、エタノールなどの炭素数1乃至4の低級アルコール、エチルアセテートのような低級アセテート、アセトン、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、メチレンクロライド、エーテルまたはヘキサンからなる群から選択された有機溶媒またはこれらの混合溶媒、好ましくは、メタノールまたはメタノール及び水の1:0.2〜1.5の範囲の混合溶媒で、5乃至80℃の温度、好ましくは、30乃至55℃で15分乃至48時間の反応時間、好ましくは、30分乃至12時間抽出して低級アルコール可溶分画を得る。
【0015】
また、本発明の覆盆子抽出物は、通常の分画方法で追加に下記の分画工程を実行することもできる(Carborne J. B. Photochemical methods: A guide to modern techniquesof plant analysis. 3rf Ed. pp 6-7, 1998)。
【0016】
第2段階:前記から得られた低級アルコール可溶分画を低級アルコール及び水の混合溶媒に溶解した後、酸でpH2〜4で調節し、同量のクロロホルムでさらに抽出することによりクロロホルム可溶分画を得る。
【0017】
第3段階:前記クロロホルム溶媒に溶解されない分画部を水酸化アンモニウムでpH9〜12で調節して同量のクロロホルム:メタノール混合溶媒で抽出及び分画してクロロホルム:メタノール溶媒の可溶分画を得る段階として、この時、クロロホルム:メタノール混合溶媒の混合比は1:0.1〜1の範囲にすることが好ましい。前記クロロホルムに溶解されない分画部の中でクロロホルム:メタノール混合溶媒で抽出時に溶解された分画部には大部分のアルカロイド(alkaloids)が含有されており、クロロホルム:メタノール混合溶媒に溶解されない分画部の中でメタノールに溶解される分画部には4級アルカロイド(quaternaryalkaloids)及びN−オキサイドが含有されている。
【0018】
第4段階:前記クロロホルム:メタノール混合溶媒に溶解されない分画部をメタノールで追加に抽出及び分画してメタノール可溶分画を得る。
【0019】
本発明は、前記各段階から得られる低級アルコール可溶分画、クロロホルム可溶分画、クロロホルム−メタノール可溶分画、メタノール可溶分画を含む不安、鬱病及び痴呆抑制及び記憶増進用組成物を提供する。
【0020】
本発明の覆盆子抽出物を含む組成物は、通常の方法による適切な担体、賦形剤及び希釈剤をさらに含むことができる。
【0021】
本発明の覆盆子抽出物を含む組成物に含むことができる担体、賦形剤及び希釈剤には、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルギン酸、ゼラチン、カルシウム、リン酸塩、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、マイクロクリスタリンセルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム及び鉱物油などがある。
【0022】
本発明による覆盆子抽出物を含む組成物は、各々通常の方法によって散剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、乳剤、シロップ、エアゾール等の経口製剤、外用剤、座剤及び滅菌注射溶液の形態で剤形化して使用することができる。
【0023】
覆盆子抽出物の使用量は、患者の年、性別、体重によって変更できるが、一日0.1乃至500mg/kgの量を1回乃至数回投与することができ、覆盆子抽出物及び分画物の投与量は投与経路、疾病の程度、性別、体重、年齢などによって増減できる。したがって、前記投与量は如何なる面でも本発明の範囲を限定しない。
【0024】
本発明の覆盆子抽出物を含む組成物は、前記のような剤形で不安及び鬱病抑制と記憶力増進のための薬剤、食品及び飲み物などに多様に利用できる。覆盆子抽出物を添加することができる食品としては、例えば、各種食品類、飲み物、ガム、茶、ビタミン複合剤、健康補助食品類などがある。
【0025】
本発明の覆盆子抽出物自体は毒性及び副作用がほとんどないので、予防目的で長期間服用する時にも安心して使用できる薬剤である。
【0026】
本発明の前記覆盆子抽出物は不安と鬱病抑制及び記憶力増進の目的で食品または飲み物に添加することができる。この時、食品または飲料中の前記覆盆子抽出物の量は、一般的に本発明の健康食品組成物は、全体食品重量の0.1乃至15重量%、好ましくは、1乃至10重量%にすることができ、食品健康飲料組成物は100m1を基準で1〜30g、好ましくは、3〜10gの割合で加えることができる。
【0027】
本発明の健康飲料組成物は、指示された割合で必須成分として前記覆盆子抽出物を含む以外には液体成分には特別な制限はない、通常の飲料のようにさまざまな香味剤または天然炭水化物などを追加成分として含むことができる。
【0028】
上述した天然炭水化物の例は、単糖類、例えば、ブドウ糖、果糖など、二糖類、例えば、麦芽糖、ショ糖など、及び多糖類、例えば、デキストリン、シクロデキストリンなどのような通常的な糖、及びキシリトール、ソルビトール、エリトリトールなどの糖アルコールである。上述の以外の香味剤として天然香味剤(タウマチン、ステビア抽出物(例えば、レバウジオシドA、グリシルリジンなど)、及び合成香味剤(サッカリン、アスパルテームなど)を有利に使用することができる。一般的に前記天然炭水化物の割合は、本発明の組成物100m1当たり約1〜20g、好ましくは、約5〜12gである。
【0029】
前記以外の本発明の組成物は、さまざまな営養剤、ビタミン、抗酸化剤、鉱物(電解質)、合成風味剤及び天然風味剤などの風味剤, 着色剤及び充填剤(チーズ、チョコレートなど)、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護性増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使われる炭酸化剤などを含むことができる。その他に、本発明の組成物は天然果物ジュース及び果物ジュース飲料及び野菜飲料の製造のための果肉を含むことができる。このような成分は独立的または組み合わせて使うことができる。このような添加剤の割合はあまり重要ではないが、一般的に本発明の組成物100重量部当たり0乃至約20重量部の範囲で選択される。
【発明の効果】
【0030】
本発明の覆盆子抽出物を含む組成物は、不安と鬱病抑制誘発効果及び記憶増進効果を示し、各種環境的ストレスによる脳損傷の危険を抱いている現代人の不安、鬱病、記憶力が減少された人に有用に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明するが、下記の実施形態は本発明を例示するだけで本発明の範囲を限定することではない
【0032】
実施例1:覆盆子抽出物の製造
覆盆子250gを細切して超音波装置を利用して70%メタノール(750ml)で3回抽出した。抽出物を濾過した後、回転真空濃縮器(rotary evaporator:EYELA N−N Series)を利用して減圧濃縮し、凍結乾燥してメタノール粗抽出物17.4gを得た。
【0033】
実験例1:抗不安試験(Staircase test)
1) 実験方法
抗不安試験はシミエンドなどの方法で施行した[Simiand, J., Keane, P. E., Morre, M. The staicase test in mice: Asimple and efficiecnt procedure for primary screening of anxiolytic agents.Psychopharmacolgy 84, 48-53, 1984]。マウスをステアケイス(staircase)ボックス(10cm×45cm×25cm)の底に置き、しっぽをステアケイスに向けるようにする。その後、3分間不安の尺度であるカカトで立った数(numberof rearing)を測定したが、マウスの四つの足が全部階段に着いた時だけを一ステップとした。そして、観察を単純化するために下に下ったステップは計算しなかった。実験が終わった後、次のマウスのために嗅覚刺激が加えないようにステアケイスボックスを迅速にきれいに片付けた。薬物は実験開始60分前に覆盆子抽出物分画を100mg/kg容量で経口投与し、すべての実験は午前8時から午後5時の間に実施した。
【0034】
2) 実験結果
結果を図1に示した。対照群の8回に比べて、覆盆子分画を投与した場合、不安の尺度であるカカトで立った数が0.7回で顕著に減少された。この結果は覆盆子分画は著しい抗不安作用があることを提示している。
【0035】
実験例2:抗不安実験(Elevated Plus Maze Test)
1) 実験方法
雄性ICRマウス(20g)に覆盆子抽出物を100mg/kg,P.O.で投与し、1時間後に迷路(elevated plus maze)試験を施行した。迷路は70cm高さで2個の開放アーム(open arm)(50x10cm)と2個の密閉アーム(closed arm)(50x10x40cm)とが相互に交差する形態を有する[Pellow,S., Chopin, P. H., File, S. E., Briley, M. Validation of open:closed entries inan elevated plus maze as a measure of anxiety in the rat. J. Neurosci. Meth.14, 149-167, 1985]。覆盆子分画100mg/kgを経口投与して1時間後にマウスを迷路の中央に密閉アーム側に向けるように各々位置させた。その後、5分間開放アーム及び密閉アームに入った回数と時間を測定した。
【0036】
2) 実験結果
開放アームに入った回数は、覆盆子抽出物を投与した場合、対照群に比べて各々2.65倍増加し(図2A)、密閉アームに入った回数は覆盆子投与群と対照群との間に有意性ある差を見せなかった(図2B)。開放アームに入った時間は覆盆子抽出物を投与した場合、対照群に比べて各々3.78倍増加し(図2C)、密閉アームに入った時間は覆盆子投与群と対照群との間に有意性ある差を見せなかった(図2D)。Elevated Plus Maze試験で開放アームに入った回数が多いほど、そして、開放アームで過ごした時間が長いほど、抗不安効果があることを示し、密閉アームに入った回数と密閉アームで過ごした時間は探索活性の尺度と見做される。したがって、覆盆子抽出物は著しい抗不安効果を誘発することが確認された。
【0037】
実験例3:覆盆子の抗鬱症作用機序糾明試験
(Enhancement ofyohimbine induced toxicity)
1) 実験方法
雄性ICRマウス(20g)に覆盆子抽出物を(100mg/kg)経口投与して30分後にヨヒンビン(yohimbine)(25mg/kg)を皮下注射した。その後、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、24時間後に死亡率を評価した(GoldbergMR, Robertson D (1988) Influence of alpha stimulants and beta blockers onyohimbine toxicity. Prog Neuro-Psychopharmacol Biol Psychiat 12, 569-574)。
【0038】
ヨヒンビンは中枢性α2−receptorの拮抗剤(antagonist)と作用してモノアミン(noerepinephrine、serotonin、dopamine)の分泌を促進する作用をし、また、セロトニン受容体のアゴニスト(agonist)でも作用すると報告されている[FeuersteinTJ, Hertting G, Jackisch R (1985) Endogenous noradrenaline as modulator ofhippocampal serotonin (5-HT)-release. Dual effects of yohimbine, rauwolscineand corynanthine as alpha-adrenoceptor antagonists and 5-HT-receptor agonist.Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol 329, 216-221]。三環系抗うつ剤は、神経末端でノルエピネフリン、セロトニン、ドパミンの再吸収を遮断することにより彼らの生理的不活性を抑制して抗うつ剤作用を示す。セロトニンの再吸収を抑制して抗うつ剤作用を誘発する薬物であるイミプラミン(imipramine)とヨヒンビンを併用投与する場合、神経末端でセロトニンの濃度が増加してその毒性により実験動物が死亡することが明かされた。抗うつ剤を探索するにおいてヨヒンビンのこのような作用が利用されている[QuintonRM (1963) The increase in toxicity of yohimbine induced by imipramine and otherdrugs in mice. Br J Pharmacol 21, 51-66]。
【0039】
2) 実験結果
ヨヒンビンだけを投与した対照群の死亡率はヨヒンビン投与後2時間に10%であったが、覆盆子抽出物を投与した後にヨヒンビンを投与した群の死亡率は90%であった(図5A)。ヨヒンビン投与24時間後の総死亡率は対照群が40%であり、覆盆子抽出物を投与した後にヨヒンビンを投与した群の総死亡率は90%であった。この結果は、覆盆子抽出物は神経末端でモノアミンの再吸収を遮断してヨヒンビンのα2−receptorの拮抗剤としての作用とセロトニン受容体アゴニストとしての作用とをさらに強化して死亡率を一層増加させた。したがって、覆盆子抽出物は神経末端でノルエピネフリン、セロトニン及びドパミンの再吸収を遮断してこれらモノアミンの作用を増加させて、また、セロトニンアゴニストの作用を増加して抗鬱症効果を誘発すると判断される。
【0040】
実験例4:覆盆子覆盆子の抗鬱症作用機序糾明試験
(Potentiation ofnorepinephrine toxicity)
1) 実験方法
雄性ICRマウス(20g)に覆盆子抽出物を(100mg/kg)経口投与して1時間後にノルエピネフリン(3mg/kg)を皮下注射して、プラスチックケージ(plasticcage)に入れて自由に餌と水を飲むようにする。48時間後に死亡率を評価する(Alpermann HG, Schacht U, Usinger P, HockFJ (1992) Drug Dev Res 25, 267-282)l Psychiat 12, 569-574)。抗うつ剤は神経末端でノルエピネフリン及びその他の生体アミンの再吸収を遮断することにより、彼らの生理的不活性を抑制する作用を示す。したがって、ノルエピネフリンの再吸収を抑制して抗うつ剤作用を誘発する薬物とノルエピネフリンを併用投与する場合、神経末端でノルエピネフリンの濃度が増加してその毒性により実験動物は死亡することになる。
【0041】
2) 実験結果
対照群の死亡率はノルエピネフリン投与後に50%であったが、覆盆子抽出物を投与した後にノルエピネフリンを投与した群の死亡率は90%であった(図5B)。この結果、覆盆子抽出物は神経末端でノルエピネフリンの再吸収を遮断してノルエピネフリンの作用をさらに強化して死亡率を一層増加させた。したがって、覆盆子抽出物は神経末端でノルエピネフリンの再吸収を遮断する記伝を誘発して抗鬱症効果を誘発すると判断される。
【0042】
実験例5:受動回避記憶試験(Passive Avoidance Test):記憶増進実験
1) 実験方法
雄性ICRマウス(20g)に覆盆子抽出物を100mg/kg,P.O.で投与して、1時間後にジェミニ回避システム(Gemini Avoidance System、San Diego Instruments、USA)を利用して受動回避記憶試験を施行した。実験はクマルなどの方法を基本として少しの修正を加えて次のように施行した[Kumar, V., Singh, P.N.,Muruganandan, A. V., Bhattacharya. Effect of Indian Hypericum perforatum Linnon animal models of cognitive dysfunction. J Ethnopharmacology 72, p119-128,2000]。
【0043】
第一日のトレーニング実験には、マウスを明るいボックスに入れて300秒間順化(a cclimation)させた後、自動にドアが開けるようにして暗いボックスに移動するようにする。暗いボックスに移動すれば、0.3mAの電気刺激を1秒間加える。24時間後のテスト実験には、マウスを明るいボックスに300秒間順化させた後、ドアを受動で開いて暗いボックスに移動するようにする。この時、暗いボックスに移動するまでかかる時間を測定する。第二の日には電気刺激を与えない。もし、マウスが180秒間暗いボックスに移動しなければ、最大点数である180秒を与える[Mohamed, A. F., Matsumoto, K., Tabata, K., Takayama, H., Kitajima,M., Aimi, N., Watanabe, H. Effects of Uncaria tomentosa total alkaloid and itscomponents on experimental amnesia in mice: Elucidation using the passiveavoidance test. J. Pharm. Pharmacol. 52, 1553-1561, 2000]。
【0044】
2) 実験結果
第一日のトレーニング実験では、実験の結果、図6Aに示したように、各実験群の間に有意的な差がなかった。第二の日のテスト実験では、実験の結果、図6Bに示したように、覆盆子抽出物を投与したマウスの場合、対照群に比べて2.08倍の著しい記憶増進効果を示した。
【0045】
実験例6:筋肉弛緩試験(Rotarod Test)
1) 実験方法
雄性ICRマウス(20g)に覆盆子抽出物を100mg/kg,P.O.で投与して、1時間後にRotarod(直径3cm、速度15rpm)に載せて落ちる時までの時間を測定した。
【0046】
2) 実験結果
対照群に比べて覆盆子投与群で有意的な差を見せなかった(図7)。これは覆盆子抽出物は筋肉弛緩効果がないことを示している。また、staircase、elevated plus maze実験で、覆盆子によるrearing数の減少及び開放アームに入った時間と回数の減少、そして、passive avoidance testで24時間後に暗いボックスに移動する時間の増加は、筋肉弛緩による効果ではないことを証明している。
【0047】
実験例7:覆盆子抽出物の経口毒性試験
1) 実験方法
20g程度の雄性ICRマウス30匹を温度23℃、相対湿度50%、照度150〜300ルクス(Lux)の動物室で1週間飼育した後、各10匹ずつ4群に分けて実験した。
【0048】
覆盆子メタノール抽出物を0mg/kg、50mg/kg、500mg/kg、5,000mg/kg容量で各群当たり10匹のマウスに経口投与して、投与後7日間一般症状の変化及び死亡動物の有無を観察した。そして、投与7日目にマウスを致死させて解剖して肉眼で内部臓器を検査した。
【0049】
2) 実験結果
覆盆子抽出物の投与による異常所見は観察されなかったし、5,000mg/kg容量経口投与した場合にも死亡した動物がいなかった。組職検事時に各臓器に特異な毒性はなく、安全性がとても優秀なことを示した。
【0050】
下記に前記薬学組成物の製剤例を説明するが、本発明はこれに限定することではなく、 具体的に説明するためである。
【0051】
製剤例1.錠剤
下記の造成によって、通常の錠剤製造方法により各々製剤化した。
覆盆子のメタノール抽出物・・・・・500.0mg
乳糖・・・・・・・・・・・・・・・500.0mg
タルク・・・・・・・・・・・・・・5.0mg
ステアリン酸マグネシウム・・・・・1.0mg
【0052】
製剤例2.カプセル剤
下記の造成によって、次のような方法によりカプセル剤を製造した。
覆盆子抽出物を篩って賦形剤と混合した後、ゼラチンカプセル中に充填してカプセルを製造した。
覆盆子のメタノール抽出物・・・・・500.0mg
澱粉1500・・・・・・・・・・・10.0mg
ステアリン酸マグネシウムBP・・・100.0mg
【0053】
製剤例3.シロップ剤
下記の造成によって、次のような方法でシロップ剤を製造した。
先に、精製水に白糖を溶解させた。パラオキシベンゾエート、パラオキシプロピルベンゾエート及び覆盆子抽出物を加えて60℃で溶解させた後冷却し、精製水を加えて150mlに作った。
覆盆子メタノール抽出物・・・・・・5.0g
白糖・・・・・・・・・・・・・・・95.1g
パラオキシベンゾエート・・・・・・80.0mg
パラオキシプロピルベンゾエート・・16.0mg
精製水を付け加えて150mlに製造
【0054】
製剤例4.液剤
下記の成分を通常の液剤製剤方法で製剤化して、褐色の瓶に充填して液剤を製造した。
覆盆子メタノール抽出物・・・・・・500.0mg
異性化糖・・・・・・・・・・・・・20.0g
酸化防除剤・・・・・・・・・・・・5.0mg
メチルパラオキシベンゾエート・・・2.0mg
精製水を付け加えて100.0mlに製造
【0055】
製剤例5.散剤
下記の成分を通常の散剤の製造方法により混合して、袋に入れて密封した後に散剤を製造した。
覆盆子メタノール抽出物・・・・・・50.0mg
乳糖・・・・・・・・・・・・・・・100.0mg
タルク・・・・・・・・・・・・・・5.0mg
【0056】
製剤例6.注射剤
下記の成分を通常の注射剤の製造方法により2.0ml容量のアンプルに充填して、滅菌させて注射剤を製造した。
覆盆子メタノール抽出物・・・・・・50.0mg
酸化防除剤・・・・・・・・・・・・1.0mg
ツイン80・・・・・・・・・・・・1.0mg
注射用蒸溜水を付け加えて2.0mlに製造
【0057】
また、下記のような方法で健康食品を製造する。
[禅食(ゼンショク)の製造]
玄米、麦、もち米、鳩麦を公知の方法でアルファ化させて乾燥させたものを焙煎した後、粉れ機で粒度60メッシュの粉末に作った。黒豆、黒ごま、えごまも公知の方法で蒸して乾燥させたものを焙煎した後粉れ機で粒度60メッシュの粉末に作った。
【0058】
前記で製造した穀物類、種実類及び乾燥覆盆子抽出物を次の比率で割り合わせて料粒を作った。
【0059】
[穀物類:玄米30重量%、鳩麦15重量%、麦20重量%、
種実類:えごま7重量%、黒豆8重量%、黒ごま7重量%、
覆盆子抽出物乾燥粉末:3重量%、霊芝0.5重量%、地黄0.5重量%]
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】覆盆子抽出物の抗不安効果を示す(Staircase test)。示した値は平均±標準偏差(n=10)であり、対照群(control)に対する有意性は**:P<0.01である。
【図2A】覆盆子抽出物の抗不安効果を示す(Elevated plus maze test)。示した値は平均±標準偏差(n=10)であり、対照群(control)に対する有意性は*:P<0.05;**:P<0.01である。
【図2B】覆盆子抽出物の抗不安効果を示す(Elevated plus maze test)。示した値は平均±標準偏差(n=10)であり、対照群(control)に対する有意性は*:P<0.05;**:P<0.01である。
【図2C】覆盆子抽出物の抗不安効果を示す(Elevated plus maze test)。示した値は平均±標準偏差(n=10)であり、対照群(control)に対する有意性は*:P<0.05;**:P<0.01である。
【図2D】覆盆子抽出物の抗不安効果を示す(Elevated plus maze test)。示した値は平均±標準偏差(n=10)であり、対照群(control)に対する有意性は*:P<0.05;**:P<0.01である。
【図3】覆盆子抽出物のストリキニーネ(strychnine)誘発発作抑制効果を示す。示した値は平均±標準偏差(n=7)であり、対照群(control)に対する有意性は*:P<005;**:P<0.01である。
【図4A】覆盆子抽出物のピクロトキシン(picrotoxin)及びイソニアジド(isoniazid)誘発発作に及ぶ効果を示す。示した値は平均±標準偏差(n=10)である。
【図4B】覆盆子抽出物のピクロトキシン(picrotoxin)及びイソニアジド(isoniazid)誘発発作に及ぶ効果を示す。示した値は平均±標準偏差(n=10)である。
【図4C】覆盆子抽出物のピクロトキシン(picrotoxin)及びイソニアジド(isoniazid)誘発発作に及ぶ効果を示す。示した値は平均±標準偏差(n=10)である。
【図5A】覆盆子抽出物のモノアミン再吸収抑制効果を示す。
【図5B】覆盆子抽出物のモノアミン再吸収抑制効果を示す。
【図6A】覆盆子抽出物の記憶増進効果を示す(Passive avoidance test)。示した値は平均±標準偏差(n=8−10)であり、対照群(control)に対する有意性は*:P<0.05である。
【図6B】覆盆子抽出物の記憶増進効果を示す(Passive avoidance test)。示した値は平均±標準偏差(n=8−10)であり、対照群(control)に対する有意性は*:P<0.05である。
【図7】覆盆子抽出物の筋肉弛緩に及ぶ効果を示す(Rotarod test)。示した値は平均±標準偏差(n=10)である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
覆盆子抽出物を含む不安、鬱病、痴呆、記憶力減退の予防及び治療用薬学組成物。
【請求項2】
覆盆子抽出物は、全体組成物に対して0.5〜50重量%で含まれることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
覆盆子抽出物は、覆盆子を水、炭素数1乃至4の低級アルコール、エチルアセテートのような低級アセテート、アセトン、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、メチレンクロライド、エーテルまたはヘキサンからなる群から選択された有機溶媒またはこれらの混合溶媒で抽出して得られることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
覆盆子抽出物は、覆盆子を抽出溶媒に入れて50〜100℃で5〜24時間温湯して得た抽出液を40〜60℃に冷却して濾過した後、上澄液を蒸発濃縮させた濃縮液であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
覆盆子抽出物は、覆盆子を抽出溶媒に入れて50〜100℃で5〜24時間温湯して得た抽出液を40〜60℃に冷却して濾過した後、上澄液を蒸発濃縮させた後に乾燥させて得た粉末であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
覆盆子抽出物は、覆盆子を抽出溶媒に入れて常温または4℃で5〜7日間冷浸させて濾過した後、上澄液を蒸発濃縮させた濃縮液であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
覆盆子抽出物は、覆盆子を抽出溶媒に入れて常温または4℃で5〜7日間冷浸させて濾過した後、上澄液を蒸発濃縮させた後に乾燥させて得た粉末であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
担体、賦形剤及び希釈剤をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
散剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、乳剤、シロップ、エアゾール等の経口製剤、外用剤、座剤及び滅菌注射溶液の形態で剤形化することを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
覆盆子抽出物及び食品学的に許容可能な食品補助添加剤を含む、不安、鬱病及び痴呆の抑制及び治療と記憶力増進効果を示すことを特徴とする健康補助食品。
【請求項1】
覆盆子抽出物を含む不安、鬱病、痴呆、記憶力減退の予防及び治療用薬学組成物。
【請求項2】
覆盆子抽出物は、全体組成物に対して0.5〜50重量%で含まれることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
覆盆子抽出物は、覆盆子を水、炭素数1乃至4の低級アルコール、エチルアセテートのような低級アセテート、アセトン、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、メチレンクロライド、エーテルまたはヘキサンからなる群から選択された有機溶媒またはこれらの混合溶媒で抽出して得られることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
覆盆子抽出物は、覆盆子を抽出溶媒に入れて50〜100℃で5〜24時間温湯して得た抽出液を40〜60℃に冷却して濾過した後、上澄液を蒸発濃縮させた濃縮液であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
覆盆子抽出物は、覆盆子を抽出溶媒に入れて50〜100℃で5〜24時間温湯して得た抽出液を40〜60℃に冷却して濾過した後、上澄液を蒸発濃縮させた後に乾燥させて得た粉末であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
覆盆子抽出物は、覆盆子を抽出溶媒に入れて常温または4℃で5〜7日間冷浸させて濾過した後、上澄液を蒸発濃縮させた濃縮液であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
覆盆子抽出物は、覆盆子を抽出溶媒に入れて常温または4℃で5〜7日間冷浸させて濾過した後、上澄液を蒸発濃縮させた後に乾燥させて得た粉末であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
担体、賦形剤及び希釈剤をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
散剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、乳剤、シロップ、エアゾール等の経口製剤、外用剤、座剤及び滅菌注射溶液の形態で剤形化することを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
覆盆子抽出物及び食品学的に許容可能な食品補助添加剤を含む、不安、鬱病及び痴呆の抑制及び治療と記憶力増進効果を示すことを特徴とする健康補助食品。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【公開番号】特開2007−302661(P2007−302661A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123880(P2007−123880)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(507149408)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(507149408)
【Fターム(参考)】
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