説明

規則正しいオキシ窒化灰チタン石

この発明は、極性絶縁体である、一般式ABONの部分的に規則正しい且つ規則正しいオキシ窒化灰チタン石に関する。Aは灰チタン石型構造においてのA−位置から由来する位置に存在する1種以上の陽イオン、又は複数の陽イオンのセットを含む。Bは灰チタン石型構造においてのB−位置から由来する位置に存在する1種以上の陽イオン、又は複数の陽イオンのセットを含む。Cは随意的に幾らかの窒素、Nと共に酸素、Oを含み、そしてDは随意的に幾らかのOと共にNを含む。陽イオンA+Bの合計原子価は陰イオン2C+Dの合計原子価に等しい。また、そのようなオキシ窒化灰チタン石を製造する方法、及びそのようなオキシ窒化灰チタン石の用途が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対しての相互参照
この出願は、(2007年1月4日に出願された)米国暫定出願第60/878,392号及び(2007年1月8日に出願された)米国暫定出願第60/879,011号(これら両方の出願をそれらの全体において参照することにより本明細書に組いれる)の利益を請求する。
【0002】
連邦により出資された調査研究に関する記載
この発明は、海軍調査研究の部局からの(“強誘電体における物理的性質及び結合の第1−原理計算”と題する)授与番号NOOO14−97−1−0052下に米国政府援助で行われた。米国政府は本発明において或る権利を有する。
【0003】
発明の分野
この発明はオキシ窒化灰チタン石(オキシ窒化ペロブスカイト:oxynitride perovskites)に関し、そして特に高い分極を有する一般式ABONの部分的に又は十分に規則正しいオキシ窒化灰チタン石に関する。
【背景技術】
【0004】
発見された最初の灰チタン石は酸化チタンカルシウム(CaTiO)であった。今では“灰チタン石”と言う用語は酸化チタンカルシウムに類似の構造及びABOの一般式を有する一群の酸化物を記載するために用いられる。ABO灰チタン石の親結晶構造又は高温結晶構造は、立方体の中央にA−陽イオン、コーナーにB−陽イオン、そして端の中心に陰オオン、通常は酸素を有する、立方体である。その構造は、B−陽イオンの6配位(八面体)及びA陽イオンの12配位により安定化される。したがって、イオンの充填は、A及びOイオンが一緒になって立方体に近い充填配列を形成し、B−イオンが八面体空隙の1/4を占める、ようになっている。A陽イオンとB陽イオンとの間での比においての差は、中心に対して対称の又は非極性構造に導く、八面体の傾き又は極性構造に導く、陽イオンの中心からはずれさせることから通常はなる構造における多くの異なるひずみを起こさせる可能性がある。極性の灰チタン石型構造は、ポーリングの原理に反して、中心原子がその配位隣原子に“接触しない”興味のある性質を有する。
【0005】
灰チタン石は、例えば強誘電体、触媒、センサー、及び超伝導体におけるような多くの用途を有する。特に灰チタン石酸化物は、それらが相補型金属酸化物半導体(CMOS)ゲート誘電体及びダイナミック等速呼び出し記憶(DRAM)貯蔵キャパシタに対する代替物であると思われるので、大きな関心が持たれるものであった。多くの超伝導体は、灰チタン石型構造に基づいている。
【0006】
灰チタン石の興味のある性質を仮定して、調査研究者達はABOの一般構造式の変形である錯体灰チタン石を合成しようと試みてきた。そのような錯体灰チタン石は、2つ以上の異なるB−位置陽イオンを含有することができる。このことは、規則正しい変形及び不規則な変形を生ずる。殆どの研究は、陽イオンにおける変化に集中したが、しかし陰イオンもまた変化させることができる。後者の変形の1つは、例えばCaTaON又はNaWONのようなオキシ窒化灰チタン石を提供する。
【0007】
マーチャンド(Marchand)等への米国特許第4,734,390号は、一般構造ABO3−nの不規則なオキシ窒化灰チタン石を開示している。Aは第IA族、第IIA族、イットリウム又はランタニドからの金属であり;Bは第IVA族〜第IB族からの金属である。特に、Aは、Li、Na、K、Rb、Cs、Ag、Tl、Ca2+、Ba2+、Sr2+、Pb2+、Cd2+、Ln3+、Bi3+、Y3+、Th4+、U4+及びtrans−U4+からなる群から選ばれる。Bは、W6+、Re6+、Mo6+、Ta5+、Nb5+、Mo5+、W5+、Ti4+、Zr4+、Sn4+、Ge4+、Nb4+、Ta4+、Al3+、Ga3+、In3+、Tl3+、Fe3+及びCr3+からなる群から選ばれる。更に、nは1、2又は3に等しい。金属Aの陽イオン電荷a及び金属Bの陽イオン電荷bは方程式(i)a+b=6+n及び(ii)a≧nを満足させなければならない。これらのオキシ窒化灰チタン石は、高温で行わなければならない、アンモニア化(ammoniazation)及び焼結を介して合成される。しかしながら、この方法は規則正しいオキシ窒化灰チタン石を生成しないし、又は部分的規則正しいオキシ窒化灰チタン石さえも生成しない。
【0008】
また上記マーチャンド等の特許は報告によるとATaON(A=Ca、Sr、Ba)、ANbON(A=Sr、Ba)、AMON(A=La、Dy;M=Nb、Ta)、ATiON(A=La、Yb)及びLnWO3−X(Ln=La、Nd)を調製した(グリンス(Grins)等のMaterial Research Bulletin 29(7)801−809(1994)。
【0009】
ハマダ(Hamada)等への米国特許6,383,416号(‘416特許)は、一般式MIINの灰チタン石オキシ窒化物及び他の成分を含有する電子−放出性材料に向けられている。また、ハマダ(Hamada)等への(そして‘416特許と同じ日に出願された)米国特許第6,432,325号(‘325特許)は、MIINタイプのオキシ窒化灰チタン石を含有し、そして放電中に抑制された蒸発ならびにイオンスパッタリングに対する高い抵抗性を有する、電子放出性材料を含む電極を開示している。
【0010】
‘416特許及び‘325特許は同一成分を有するMIINタイプのオキシ窒化灰チタン石を含有する同一の電子放出性材料を開示している。‘416特許及び‘325特許の両方に開示されているように、その電子−放出性材料はまた、タンタル、ジルコニウム、ニオブ、チタン、ハフニウム及びそれらの混合物を含有することができる。さらに、その材料はまた、一般式MII、MII15、MII22及びMIIII18の化合物を含有することができる。Mはバリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)及びカルシウム(Ca)から選ばれる。MIIはタンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)及びハフニウム(Hf)から選ばれる。また、電子放出性材料は、マグネシウム(Mg)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)又はアルミニウム(Al)を含有することができる。好ましくは、この電子放出性材料は、方程式0.8≦X/Y≦1.5(但し、X及びYは、それぞれ、第1成分及び第2成分(M及びMII)のモル比である)を満足させる。‘416特許の場合において、0.9≦X/Y≦1.2の範囲がなおいっそう好ましい。これらの化合物は、焼結により生成され、そしてそれらは規則正しくはない。
【0011】
クラーケ(Clarke)等(Chem.Mater.14:288−294(2002))及びキム(Kim)等(Chem.Mater.16:1267−1276(2004))は一般式MIIIIVNの他のオキシ窒化灰チタン石を合成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
これらのオキシ窒化灰チタン石は、どれも規則正しいか又は部分的に規則正しい構造を有するものではない;それらは全て不規則な構造、及び中心に対して対称の空間群を有する。これらの化合物は非極性であるのでそれらは強誘電体、圧電性物質、非線形光学又は他の極性適用として使用されることができない。
実際的な適用のためにその灰チタン石型構造又はその変形を有利に役に立てる部分的に規則正しい及び規則正しいオキシ窒化灰チタン石の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
概要
本発明は、一般構造ABCDの新規な、部分的に又は十分に規則正しいオキシ窒化灰チタン石に関する。
Aは灰チタン石型構造においてのA−位置から由来する位置に存在する1種以上の陽イオン又は複数の陽イオンのセットを含む。Bは灰チタン石型構造においてのB−位置から由来する位置に存在する1種以上の陽イオン又は複数の陽イオンのセットを含む。Cはことにより幾らかの窒素、Nと共に酸素、Oを含み、そしてDはことにより幾らかのOと共にNを含む。陽イオンA+Bの合計の原子価は、陰イオン2C+Dの合計の原子価に等しい。或る態様において、Cは、ことにより幾らかの窒素、Nと共に、殆どが酸素、Oである。他の態様において、Dは、ことにより幾らかのOと共に、殆どがNである。
【0014】
本発明の1つの態様においてAが(i)三価陽イオン又は陽イオン基、(ii)三価陽イオンの又は陽イオン基の固溶体又は(iii)陽性の三価平均電荷を有するヘテロ原子価(heterovalent)陽イオン又は陽イオン基の固溶体である場合、Bは(i)四価陽イオン、(ii)四価陽イオンの固溶体又は(iii)陽性の四価平均電荷を有するヘテロ原子価陽イオンの固溶体である。その態様において、Cは(i)酸素、(ii)二価の陰イオンの酸素優位固溶体又は(iii)陰性の二価平均電荷を有するヘテロ原子価陽イオンの酸素優位固溶体であり、そしてDは(i)窒素、(ii)三価の陰イオンの窒素優位固溶体又は(iii)陰性の三価平均電荷を有するヘテロ原子価陰イオンの窒素優位固溶体である。
【0015】
興味のあるオキシ窒化灰チタン石は,規則正しくても良く、又は部分的に規則正しくても良く、そして極性であって、且つ非金属である。1つの態様において、陽イオンA+Bの合計原子価は7であることができる。
【0016】
当該の開示に従うオキシ窒化灰チタン石は大きな極性を有する。1つの態様において、オキシ窒化灰チタン石の極性は、PbTiOの極性より以上、75μC/cm以上、又は100μC/cm以上でさえある。
【0017】
1つの態様において、Aはビスマス、インジウム及びガリウムからなる群から選ばれ;Bはチタン、ジルコニウム、珪素、錫及びゲルマニウムからなる群から選ばれ;Cは酸素であり、そしてDは窒素である。本発明の他の態様において、Aはイットリウムであり、そしてBはチタン、ジルコニウム、珪素、錫及びゲルマニウムからなる群から選ばれる。例示的なオキシ窒化灰チタン石は、YSiON、YGeON、GaTiON、InTiON、BiZrON、YCON、BiTiON、YTiON、YZrON、及びYSnONを包含する。好ましい態様において、オキシ窒化灰チタン石は、YSiON、YGeON及びInTiONである。
【0018】
これらの規則正しい又は部分的にでさえ規則正しいオキシ窒化灰チタン石は、組成物において、結晶として、そしてこれらの結晶を含有する組成物において用いられることができる。本発明の1つの態様は、部分的に規則正しいオキシ窒化灰チタン石を含有する非線形光学材料である。他の態様において、部分的に規則正しい又は規則正しいオキシ窒化灰チタン石は、中性子又は硬いX−線の発生装置の部品として用いられる。
【0019】
本発明はまた、部分的に規則正しい又は規則正しいオキシ窒化灰チタン石を生成する方法に向けられている。本発明の1つの態様において、分子線エピタキシが当該開示のオキシ窒化灰チタン石を生成するために用いられる。他の態様において、閉じ込められた圧力下の溶融物からオキシ窒化物を成長させる。他の態様において、YN及びSiOガラスからの固体状態合成からオキシ窒化物を成長させる。他の態様において、ピロキセノイド(pyroxenoid)オキシ窒化前駆体を高い圧力に付すことにより灰チタン石オキシ窒化物を成長させる。
【0020】
出願人等は、彼らの発明の特徴の多くを彼らの論文、(2007年8月27日にオンラインで刊行された)ラズバン カラカス(Razvan Caracas)及びアル.イー.コーヘン(R.E.Cohen)のApplied Physics Letters 91 092902の、 Prediction of polar ordered oxynitride peroviskitesにおいてまた、論じており、この文献は本出願の優先日より十分後になって刊行された。
【0021】
本発明の追加の特徴及び利点は以下の記載において説明され、そして一部分はその記載から明らかであるか、又は本発明の実施により知ることができるであろう。本発明の目的及び他の利点は、書かれた記載及び請求の範囲、ならびに添付図面において特に指摘された構造により実現され且つ達成されるであろう。
【0022】
上記一般的記載及び以下の詳細な記載の両方は、例示及び説明であることが理解されるべきであり、そして特許請求されたような本発明の追加の説明を提供することが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
本発明の追加の理解を提供するために包含され、そしてこの明細書の部分において導入され且つ部分を構成する添付図面は、本発明の態様を例示し、そして記載と一緒に本発明の原理を説明するために役に立つ。
【0024】
【図1】本発明に従うオキシ窒化灰チタン石(例えばYGeON及びYSiON)の結晶構造を示す。
【図2A】YGeONについてのフォノン分散(phonon dispersion)曲線を示す。正のフォノン振動数は構造の(準)安定性を立証する。
【図2B】YSiONについてのフォノン分散曲線を示す。正のフォノン振動数は構造の(準)安定性を立証する。
【図3】本発明に従う他のオキシ窒化灰チタン石(例えばInTiON及びBiZrON)の結晶構造を示す。
【図4A】極性ひずみに対するYGeONの分極を示す。
【図4B】極性ひずみに対するYSiONの分極を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な記載
本発明は、興味のある圧電(ピエゾ電気)性質を示す安定な構造を有する新しいクラスの規則正しい且つ部分的に規則正しいオキシ窒化灰チタン石及び灰チタン石関連オキシ窒化物に向けられている。
【0026】
本発明は極性構造を有する新しいクラスの灰チタン石関連オキシ窒化物の構造及び物理的性質の第1−原理計算に基づいている。これらの構造は、(現在使用されている材料のものより大きい)大きな自発性分極、大きな圧電定数及び大きな非線形光学係数を有する。
【0027】
本発明は新しい圧電気材料についての広範囲にわたる調査研究の結果である。それらの性質に起因して、これらの新しい材料は、非線形光学(例えば周波数二倍器及び振動数シフト器)、光中継器、電気光学(電気連結に対する光学)、圧電センサー、作動器、周波数標準、圧電モーター、超音波変換器、消振器、強誘電記憶装置、強誘電ゲートトランジスター、圧電計器用変圧器、中性子発生装置及びX−線発生装置を包含するが、しかしそれらに限定されない装置において首尾よく用いられることができるだろう。
【0028】
本明細書において用いられるものとして、“固溶体”という用語は可変性組成を有する結晶固体を意味し;1つ以上の結晶学的位置に多種の元素を含有する。
【0029】
本明細書において用いられるものとして、“規則正しい(ordered)”という用語は、結晶学的位置の間で一定のパターンで元素が分布されていることを意味する。古典的な非限定例は、中心にZnを有する立方体のコーナーでCu原子からなるβ−真鍮(CsCl又はB2構造)である。不規則な真鍮は、中心に立方体又は蜂の巣構造が置かれた平均体を仮定して、各々の位置でのCu及びZnの等しい確率でCu及びZn原子の配置を有する。
【0030】
本明細書において用いられるものとして、“部分的に規則正しい(partially ordered)”という用語は、結晶学的位置において原子が完全には無作為的にではないか、しかし原子が完全に規則正しいと、完全に不規則であるとの間のどこかにあることを意味する。真鍮の例においてZnの位置は、幾らかのCuを含有し、そしてCuの位置はいくらかのZnを含有するだろう。
【0031】
本明細書において用いられるものとして、“誘電体”という用語は絶縁体を意味する。誘電体は金属伝導性を示さず、そして欠陥に起因する漏れ電流以外の重大な電流の流れ無しでの少なくとも小さな電圧差動を維持することができる。
【0032】
本発明は、規則正しい及び部分的に規則正しいオキシ窒化灰チタン石に向けられている。特に本発明は、式
ABC
(式中、Aは灰チタン石型構造においてのA−位置から由来する位置に存在する1種以上の陽イオン又は複数の陽イオンのセットを含み;Bは灰チタン石型構造においてのB−位置から由来する位置に存在する1種以上の陽イオン又は複数の陽イオンのセットを含み;Cは、ことによって幾らかの窒素、Nと共に酸素、Oを含み;そしてDは、ことによって幾らかのOと共にNを含み;陽イオンA+Bの合計の原子価は陰イオン2C+Dの合計の原子価に等しい)の規則正しい及び部分的に規則正しいオキシ窒化灰チタン石に向けられている。或る態様においてCは、ことによって幾らかの窒素、Nと共に殆どが酸素、Oである。他の態様において、Dは、ことによって幾らかのOと共に殆どがNである。
陽イオンA+Bの合計の原子価は陰イオン2C+Dの合計の原子価に等しい。本発明の1つの態様において、陽イオンA+Bの合計の原子価は7であることができる。興味のあるオキシ窒化灰チタン石は、規則正しくてもよく又は部分的に規則正しくてもよく、そして極性であって且つ非金属である。
【0033】
1つの態様において、Aが三価陽イオン又は陽イオン基、三価陽イオン又は陽イオン基の固溶体、又は陽性の三価平均電荷を有するヘテロ原子価(heterovalent)陽イオン又は陽イオン基の固溶体である場合、Bは四価の陽イオン、四価の陽イオンの固溶体、又は陽性の四価平均電荷を有するヘテロ原子価陽イオン固溶体である。Cは、酸素、二価陰イオンの酸素優位の固溶体又は陰性の二価平均電荷を有するヘテロ原子価陽イオンの酸素優位の固溶体である。Dは、窒素、三価陰イオンの窒素優位固溶体、又は陰性三価平均電荷を有するヘテロ原子価陰イオンの窒素優位の固溶体である。
【0034】
当該開示に従うオキシ窒化灰チタン石は、極性誘電体であり、そしてそのままで絶縁体である。
本発明の他の態様において、Aは第III族からの金属を包含する、種々の金属から選ばれることができる。例えばAは、ビスマス、インジウム、イットリウム及びガリウムからなる群から選ばれることができる。本発明のその態様において、Bはまた、第I族からの金属を包含する種々の適当な金属から選ばれることができる。例えばBはチタン、ジルコニウム、珪素、錫及びゲルマシニムから選ばれることができる。
【0035】
本発明の1つの態様において、Aはイットリウムであり、そしてBは珪素である。本発明の他の態様において、Aはイットリウムであり、そしてBはゲルマニウムである。本発明のその上の他の態様において、Aはインジウムであり、そしてBはチタンである。他の例示的オキシ窒化灰チタン石はGaTiON、BiZrON、YCON、BiTiON、YTiON、YZrON及びYSnONを包含するが、しかしそれらに限定されない。
【0036】
当該開示に従うオキシ窒化灰チタン石は、規則正しいか又は部分的に規則正しい。極性対称を壊さない重ね合わされた重格子構造はまた、本発明で一貫しているけれども、O及びN配列は、単位胞対称(primitive cell symmetry)と一致しており、その結果その構造はO及びNに関連する基本的な重格子線を有しない。
【0037】
当該開示に従うオキシ窒化灰チタン石の顕著な特徴の1つは、灰チタン石が、当業界において知られているより大きい非常に大きな極性を有することである。例えば、LiNbOは71μC/cmの分極を有し、そしてLiTaOは50μC/cmの分極を有する。知られている最も大きな分極はPbTiOについての75μC/cmである。好ましくは、本発明に従うオキシ窒化灰チタン石は75μC/cm以上の分極を有する。その分極は、約75〜約100μC/cm、又は約76〜約125μC/cm、約100〜約130μC/cm又は100μC/cmより大であることができる。ベリー(Berry)相計算から得られたときの自発性分極はYSiONについて130μC/cmであり、YGeONについて103μC/cmであり、そしてInTiONについて79μC/cmである。
【0038】
当該開示に従うオキシ窒化灰チタン石はまた安定である。そのオキシ窒化灰チタン石は空中及び水中において安定である。
また、本発明に従うオキシ窒化灰チタン石は単位胞(primitive cell)当たり5つ(5)の原子を有するP4mm空間群を有する正方晶系対称を有することができるが、しかしそれに限定されない。別法として、本発明に従うオキシ窒化灰チタン石は、Pm空間群を有する単斜晶系対称を有することができる。対称関連構造は、配位多面体の回転を可能にするか、そして/又は陽イオン変位を可能にすることにより得られる。対称群/下位の群(subgroup)関係は、全てこれらの構造に関連させることができる。
【0039】
これらの材料の構造は、電荷バランスを維持するために陽イオンにおいて随伴する変化と共に各々の単位胞(unit cell)において、1つの酸素原子を1つの窒素原子により置き換えることにより灰チタン石型構造から得られる。得られた構造は、規則正しい、極性の、圧電性であり、ならびに力学的に安定であり、そして少なくとも熱力学的に準安定である。N位置に幾らかのOを有し、そしてO位置に幾らかのNを有する部分的に規則正しい構造はまた、非線形光学的及び圧電的性質を有する有効な(net)分極を示すだろう。
【0040】
これらのオキシ窒化灰チタン石においての圧電気の物理的基礎は以下のとおりである。四価陽イオンと窒素原子との間、及び三価陽イオンと酸素原子との間の強い共有結合は大きな異常ボルン(Born)有効電荷及び配位多面体の集塊(mass)の中心から離れての陽イオンの大きな変位を誘導する。陽イオン変位は対称を壊し、対称の中心を取り除き、そして大きな自発性分極を生成し、そして興味のある圧電的及び光学的性質を誘導する。全ての陽イオンは大きな変位を有し、そして自発性分極に寄与するのでこの後者の性質の価値は非常に大きい。
【0041】
本発明の1つの態様において、オキシ窒化灰チタン石はYSiONである。本発明の他の態様において、オキシ窒化灰チタン石はYGeONである。他の態様において、オキシ窒化灰チタン石はGaTiOである。別の態様において、オキシ窒化灰チタン石はInTiONである。その上の他の態様において、オキシ窒化灰チタン石はBiZrONである。他の態様において、オキシ窒化灰チタン石はYCONである。他の態様において、オキシ窒化灰チタン石は、GaTiONである。
【0042】
合成
前もって、高められた温度でアンモニアを流動させながら金属酸化物及び炭酸塩の焼成により非極性、不規則なオキシ窒化灰チタン石を合成した。したがって、下記の方程式により従来の合成を記載することができる:
【0043】
ABO+NH → ABO+ H
そのような反応は、典型的には反応体の焼結を包含する。この従来の合成方法により生成した灰チタン石酸化物は、大きな誘電定数を呈することを示したが、しかし本願のオキシ窒化灰チタン石よりもずっと小さい。それらはまた、不規則であり、そして14/mcm及びPbnmのよな三次元配列を有する中心に対する対称である。従って、これらのオキシ窒化灰チタン石は圧電性物質ではない。
【0044】
当該開示に従うオキシ窒化灰チタン石の合成は、オキシ窒化物を生成する現在知られている方法の使用を介しては進行しないだろう。オキシ窒化灰チタン石を生成するための、そのような従来の合成方法は、NによるOの規則正しい置き換えを生成しないだろう、そしてしたがって当該開示のオキシ窒化チタン石により示される高い分極を達成しないだろう。焼成の使用は、不規則な構造を生成する。したがって、従来の合成は、規則正しい又は部分的にでさえ規則正しい且つ誘電体であるオキシ窒化灰チタン石の生成を達成することができない。
【0045】
本発明に従うオキシ窒化灰チタン石の生成は、前駆体として金属窒化物及び酸化物を用いて達成されることができるだろう。そのような反応の例は:
YN + SiO → YSiO
又は
InN + TiO → InTiO
であろう。
YN及びSiOの両方又はInN及びTiOの両方は容易に手に入れることができる試薬である。
【0046】
この合成反応を、より高い圧力及び温度下に行うことができる。合成圧力は1〜10GPaほどの低さであることができ、そして1000〜2000Kの温度であることができる。そのような高い温度及び圧力は、灰チタン石型構造の順序のよい配置化の運動論を促進するために必要な余分のエネルギーを提供するために特に有利であろう。本発明の一つの態様において衝撃(shock)又は静的状態(static condition)を介して圧力を生成することができるだろう。より高い温度で溶融物から結晶を成長させることができる。他の態様において、制御された雰囲気においてゼロ圧力で溶融物から結晶を成長させる。
【0047】
分子線エピタキシ(MBE)を使用してオキシ窒化チタン石を生成することができる(エス.エー.チャンバーズ(S.A.Chambers)のSurface Science Reports 39(5)105−180(2000)参照)。MBEにおいて、超純粋反応体がゆっくりと蒸発し始めるまで、それらを別々に加熱する。次に反応体を、ウェーハのような不活性基材上にそれらが凝縮するようにお互いの上部上に付着させる。その方法は高真空又は超高真空下に行われる。蒸発した反応体は、分子線の大きな平均自由行程長さに起因して、それらがウェーハに到達するまでお互いに相互作用しないし、又は何らかの他の真空室ガスと相互作用しない。MBEは、同時に1つの原子を引き下ろして規則正しい又は部分的に規則正しいオキシ窒化灰チタン石を得る、ゆっくりとした付着速度を可能にする。例えば、固体Y、Si及び気体状O、ガリウム及び砒素のような超純粋元素は、それらが各々ゆっくりと蒸発し始めるまで加熱され、そして酸素ガスと結合される。
別の合成径路において、化学蒸着(CVD)を介して、又はパルスレーザー蒸着の使用により、その反応を行う。
【0048】
例示的用途
本発明に従うオキシ窒化灰チタン石は多くの用途を有する。それらは、1種以上のオキシ窒化灰チタン石結晶を含有する組成物において用いられることができる。別法として、オキシ窒化灰チタン石を、フィルムとして使用することができる。例えばオキシ窒化灰チタン石層を基材上に付着させることができる。
【0049】
1つの態様において、オキシ窒化灰チタン石を、非線形光学材料として使用する。そのような材料は、例えば周波数二倍器、光学スィッチ及び光学的論理素子として用いられる。本発明の他の態様において、その光学的性質はまた、バイアス電界を適用することにより調整されることができるであろう。このことは、光学システムを制御することにおいて有用であろう。
【0050】
他の態様において、オキシ窒化灰チタン石は、それらの極性表面で大きな電圧を生成するパイロ電気効果を介して高エネルギーX線又は中性子、電子又はプラズマを生成させるために用いられる。例えばオキシ窒化灰チタン石の結晶は、適当な条件下に中性子を生成させるために重水素と共に用いられることができる(ビー.ナランジョ(B.Naranjo)、ジェー.ケー.ギムツェウスキー(J.K.Gimzewski)及びエス.プターマン(S.Putterman)のNature 434(7037),1115−1117(2005)を参照)。大きな分極は、溶融を受け、そして中性子を生成させるために十分なエネルギーを有する重水素イオンを促進させるパイロ電気効果と一緒に用いられることができる(デー.ヤルモリッチ(D.Yarmolich)、ブイ.ベクセルマン(V.Vekselman)、エッチ.サギ(H.Sagi)等のPlasma Devices and Operations 14(4),293−302(2006)を参照)。
【0051】
別法として、オキシ窒化灰チタン石は、キャパシター、共振器、強誘電性等速呼び出し記憶装置及びスィッチのために用いられることができる。したがって、当該開示に従う誘電性灰チタン石オキシ窒化物は、MISトランジスターのゲート絶縁性フィルム、DRAMのキャパシタ誘電性フィルム、例えばFeRAMにおけるデータ保有フィルムのような強誘電性フィルム又はMFISトランジスターのようなトランジスターとして用いられることができる。
【実施例】
【0052】
本発明の態様の非限定的例示例がこの後に続く。これらの例は本発明のいかなる態様の範囲も限定することが意図されず、しかしむしろ部分的に規則正しいオキシ窒化灰チタン石の特徴を例示することが意図される。
【0053】
興味ある圧電的性質を有する熱力学的に安定な構造を見い出すために、種々の異なる化学組成物を調査検討した。BiTiON、GaTiON、InTiON、YTiON、BiZrON、YZrON、YGeON、YSiON、YCON及びYSnONを包含する数種のオキシ窒化灰チタン石について計算を行った。全てが、配位多面体の回転及び/又は陽イオン変位をさせることにより、灰チタン石型構造から誘導することができる、異なる構造が存在することが予測される。対称群/下位群関係はすべてこれらの構造に関連することができる。得られた構造は力学的に安定で、極性で、そして圧電性である。
【0054】
例の事項として、これらの化合物の幾つかについての計算の結果がこの後に続く。これらの計算のために用いられる方法、平面波及びプソイドボテンシャルを用いるABINITにおいて実施されるような、密度関数理論(DFT)は、極性灰チタン石を包含する種々の材料について首尾よく試験された。その方法は、密度関数理論の局所密度概算(LDA)の第1−原理計算を包含した。その方法はまた、40Ha運動エネルギーカットオフ内でのトロウリール−マルチンス(Troullier−Martins)プソイドポテンシャルを使用した。力学的性質及び高い位数の非線形誘電性質は、ベリー相方法(Berry phase approach)を用いる密度関数摂動論(density functional perturbation theory)及び自発性分極を用いて決定された。(下記に挙げられたような)全てのこれらの材料について、理論的実験は、標準DFT誤差バー(error bar)内である。
【0055】
A.結晶構造
図1は当該開示に従う幾種かのオキシ窒化灰チタン石の結晶構造を例示する。例えば、YGeON及びYSiONの規則正しい正方晶系変形の構造を、第1−原理計算を用いてコンピュター計算した。参照のために、Yは101により示され、Si/Geは102により示され、Oは103により示され、そしてNは104により示される。図1はまた(1)YGeONにおけるY及びGe及び(2)YSiONにおけるY及びSiの、中心に対する対称構造に関連しての陽イオンの変位を包含する。図1はまた、中心に対する対称構造における理想的な位置からの陽イオンの変位を示す。これらの大きな変位は大きな自発性分極に導く。
【0056】
(図1において示されるような)オキシ窒化灰チタン石の構造は下記のようにして決定された。Pm3m対称を有するABO立方体単純な規則正しい灰チタン石を用いて始めて、1つの酸素原子を窒素原子と置き換え、そして二価陽イオンを三価陽イオンと置き換えた。これらの置換はABON化学のためのP4mm構造を生成する。4−倍軸の周りのBO八面体の八面体傾斜面は、その胞(cell)を倍にする:P4bm対称。P4mm及びP4bm構造の区域中心においての不安定なフォノンモードは単斜晶系対称Pmに構造をゆがめる。
【0057】
全体的にみて、図1に示されるように本発明の1つの態様に従うオキシ窒化灰チタン石の構造はP4mm空間群を有する正方晶系対称を有する。YGeON及びYSiONについて、この構造において原子は以下のように存在する:
1b(1/2 1/2 z)上にY、1a(0 0 z’)上にSi/Ge、2c(1/2 0 z”)上にO、及び1a(0 0 z’”)ウィックオフ(Wyckoff)位置上にN。
【0058】
中心に対する対称構造に関連しての陽イオン変位をまた示す。YGeONについて、Yについての陽イオンの変位は0.816Åであり、そしてGeについての陽イオンの変位は0.766Åである。YSiONについて、Yについての陽イオンの変位は0.758Åであり、そしてSiについての陽イオンの変位は0.613Åである。ポテンシャルウェル(potential well)の深さはYGeON分子につき−0.135Haである。これらの大きな構造変移は、構造の極性特性を高めるが、しかしまたポテンシャルウェルを深める。下記表1は関連パラメータを列挙する。
【0059】
【表1】

【0060】
B.性質
当該開示に従うオキシ窒化灰チタン石は多くの興味ある性質を有する。YGeON及びYSiONについてのこれらの性質の幾つかを列挙している表が下に続く。すべての数値は、約±20%の信頼バー(confidence bar)を有すると考えられるべきである。下記表2はYGeON及びYSiONの幾つかのコンピュター計算された性質を列挙する。YGeON及びYSiONの両方は誘電テンソルε∞について同様な数値を有する。しかしながら、誘電テンソルεについての数値は変わる。YGeONについて機械的ひずみ(strain)による誘導された分極の大きさを記載する、圧電定数テンソルd(pC/N)はd121=−20.5pC/N、d333=−5.5pC/N及びd113=−0.5pC/Nである。YSiONについて、圧電定数テンソルdはd121=−12.5pC/N、d333=−8.3pC/N及びd113=0.4pC/Nである。比較のために、BaTiOセラミックスは350のd333を有し、KPDは21のd333を有し、そしてADPは48のd333を有する。
【0061】
非線形光学係数d(pm/V)は適用された電界により誘導された分極に関する多項式展開における二乗項(square terms)の係数である。非線形光学係数d(pm/V)は以下のとおりである。YGeONについて、d15=2.6pm/V及びd33=−4.5pm/Vである。YSiONについて、d15=2.0pm/V及びd33=−5.5pm/Vである。比較のために、有機化合物のAANPについて、d31=d15=80pm/Vであり、KDPについてその係数はおよそ0.6〜0.7pm/Vであり、そしてADPについて0.8pm/Vの位数である。
【0062】
電気光学テンソルは、適用された電界による屈折率においての変化の測定である。YGeONについて電気光学テンソルについての数値はc15=−0.84pm/V、c33=1.0pm/V、及びc51=−1.8pm/Vである。YSiONについて、その数値電気光学テンソル値はc15=−1.4pm/V、c33=0.64pm/V及びc51=−1.3pm/Vである。
【0063】
【表2】

【0064】
原子位置の高い対称の故に、ゼロ電界下の原子変位による分極においての変化として定義される、ボルン(Born)有効電荷(BEC)テンソルは、対角線(diagonal)である。それらの数値を表3において下に列挙する。陰イオンのp電子とカップリングするためには、陽イオンからの、構造において十分なd電子が存在しないので、BECはやや変則であるように思われる。このことは、規則正しい相を想定し、そして高い対称P4mm構造を安定化させるために陽イオン半径間の適当な比を与えて、より多くのd電子を有する遷移金属の導入がBECについて大きな異常を生じ、したがって分極の高まりを生ずる可能性があることを示唆している。自発性分極の測定のために、分極への各々の原子の寄与、双極子が、BEC間の生成物、及び中心に対する対称構造と極性構造との間の位置的差として計算される。自発性分極Pを計算するためにベリー相(Berry phase)理論を用いてYGeONについてのPの値は、およそ103μC/cmであり、そしてYSiONについてのPの値は、およそ130μC/cmである。古典的(双極子総和)理論に基づいてYGeONについてPの値はおよそ170μC/cmであり、そしてYSiONについてP値はおよそ184μC/cmである。
【0065】
【表3】

【0066】
YGeON及びYSiONについて、自発性分極(P)についての数値を、表4において灰チタン石を包含する他の化合物のそれらの数値と比較する。表4から分かるように、YGeON及びYSiONは、他の列挙された灰チタン石のいずれの値よりも大きな自発性分極値(P)を有する。これらの灰チタン石についてのP値は、現在使用されているものよりも有意義に大きい。分極について得られたそれらの数値は、極性固体について今までに報告された最も高い値である。比較のためにPbTiOにおいての分極は約75μ/cmであり、LiNbOにおいてのそれはほんの71μC/cmであり、そしてLiTaOにおいてのそれはほんの約50μC/cmである。PbTiOについての75μC/cmのPが、知られている最も高い値であると考えられることに留意すべきであろう。
【0067】
【表4】

【0068】
図2は、YGeON及びYSiONについて密度関数摂動(perturbation)理論においてコンピュター計算されたときのフォノンバンド(phonon band)構造を示す。YGeONを図2Aにおいて示し、そしてYSiONを図2Bにおいて示す。驚くべきことに、両方の構造は力学的に安定である。全ての光学的モードは陽性である。八面体回転に対応するバンドは、不規則なオキシ窒化灰チタン石に観察される分散と同様な分散を有する。特に、陽性フォノン振動数は、構造の(準)安定性を立証している。弾性定数は全て、正であり、そして表5に挙げられる。
【0069】
【表5】

【0070】
区域中心モード(zone center modes)及びガンマにおいてのモードを表6に示す。
【表6】

【0071】
図3は、本発明に従う他のオキシ窒化灰チタン石(例えばInTiON及びBiZrON)の単斜晶系結晶構造を示す。特に、InTiONは、非線形光学係数の大きな数値により特徴づけられる(表7参照)。
【0072】
【表7】

【0073】
格子分極を、分極の現代理論を用いて計算した(アル.デー.キング−スミス(R.D.King−Smith)及びデー.バンデルビルト(D.Vanderbilt)のPhys,Rev.B47,1651(1997);デー.バンデルビルト及びアル.デー.キング−スミスのPhys.Rev.B48,4442(1994);アル.レスタ((R.Resta)のRev.Mod.Phys.66,899(1995))。ベリー相分極は、2eR/Ω(但し、eは電子電荷であり、そしてRは格子ベクトルである)の格子間隔を有する数値の格子である。しかしながら、分極差は明白である。実験は(通常、ヒステリシスループを介して)分極変化を測定し、そして絶対分極は標準の方法を用いては測定できない。
【0074】
小さな分極を有する強誘電体について理論と実験との間の比較は、直接的であるが、しかし大きな分極を有する材料において、単一の極性構造について測定された分極の格子は、追加のコンピュター計算なしで、有効な分極と呼ばれる実験的に意義のある値に、明白にすることができない(ジェー.ビー.ニートン(J.B.Neaton)、シー.エデラー(C.Ederer)、ユー.ブィ.ワーメア(U.V.Wahmare)、エヌ.エー.スパルジン(N.A.Spaldin)そしてケー.エム.ラベ(K.M.Rabe)のPhys.Rev.B71,014113(2005);(2007年ニューヨークのスプリンガー−ブェルラーグ社発行)シー.エッチ.アーン(C.H.Ahn)、ケー.エム.ラベ(K.M.Rabe)及びジェー.エム.トリスコーン(J.M.Triscone)による編集のA Modern Perspectiveにおいてのアル.レスタ(R.Resta)及びデー.バンデルビルト(D.Vanderbilt)のPhysics of Ferroelectrics)。
【0075】
正方晶系対称について、Pのz成分がゼロでないときのみ、分極格子間隔がカッコ内に示される、YSIONについてPBerry=130(±n308)μC/cm及びYGeONについてPBerry=103(±n293)μC/cmとして極性軸zに沿っての形式的分極値が得られた。表4に関連して記載したように、これらの値は他の化合物に比較して極度に大きい。有効な分極を見つけるために、その数値は、ボルン(Born)有効電荷、Z(表3参照)及び理想的な灰チタン石型構造uからの変位ベクトルを用いてコンピュター計算された(△P= ΣZu)。これはYSiONについて有効分極Pz=−163μC/cmを提供し、そしてYGeONについて有効分極Pz=−171μC/cmを提供する。
【0076】
これらの値は、線形概算の故に、ベリー相とは同一ではないが、しかし非常に近い。これらの値を用いて、有効PBerryはYSiONについて−178μC/cmであり、そしてYGeONについて−190μC/cmであると概算される。分極の方向はBイオンから、より近いNに向かっている。ボルン有効電荷はひずみと共に変化し、電荷の絶対値は、強誘電性相より、中心に対する対称相についてやや大きい。
【0077】
図4は、極性ひずみに対する(a)YGeON及び(b)YSiONの分極を示す。この図は有効分極のコンピュター計算を例示する。基底状態構造は、1のひずみであり、そして対称非極性(不安定な)構造は0でのものである。分極は、理想化された不定的完全格子についてコンピュター計算されたが、しかしそれにもかかわらず、実験的に観察できる分極は曖昧でないので多数の線が示される。分極は2つの方法でコンピュター計算された。それは、電子波動関数からの現代ベリー相(Berry phase)方法を用い、そしてΣu(但し、uは各々の原子の変位であり、そしてZは理論的にコンピュター計算された各々のイオンの有効電荷である)から直接にコンピュター計算された。2つのコンピュター計算は一致している。
【0078】
本発明は、その精神的又は本質的特徴から離れることなしに、幾つかの形で具体化されることができるので、上記態様は、他のように特定されない限り、上記記載の如何なる詳細によっても限定されないことがまた理解されるべきであり、しかしむしろ添付特許請求の範囲に規定されたようなその精神及び範囲内にあると広く理解されるべきであり、それ故、特許請求の範囲の境界及び区域内、又はそのような境界及び区域の均等性内に入る全ての変更及び修正は、本特許請求の範囲により包含されることが意図される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
ABCD 式(I)
(式中、Aは灰チタン石型構造においてのA−位置から由来する位置に存在する1種以上の陽イオン、又は複数の陽性イオンのセットを含み、
Bは灰チタン石型構造においてのB−位置から由来する位置に存在する1種以上の陽イオン、又は複数の陽イオンのセットを含み、
Cは随意的に幾らかの窒素、Nと共に酸素、Oを含み、
Dは随意的に幾らかのOと共にNを含み、
陽イオンA+Bの合計の原子価は陰イオン2C+Dの合計の原子価に等しい)のオキシ窒化灰チタン石であって、該オキシ窒化灰チタン石は部分的に規則正しく、極性且つ非金属である、上記オキシ窒化灰チタン石。
【請求項2】
該灰チタン石が規則正しい、請求項1のオキシ窒化灰チタン石。
【請求項3】
該灰チタン石が誘電体である、請求項1のオキシ窒化灰チタン石。
【請求項4】
該灰チタン石が極性絶縁体である、請求項1のオキシ窒化灰チタン石。
【請求項5】
該灰チタン石が圧電体である、請求項1のオキシ窒化灰チタン石。
【請求項6】
該灰チタン石が強誘電体である、請求項1のオキシ窒化灰チタン石。
【請求項7】
該灰チタン石がYSiONである、請求項1のオキシ窒化灰チタン石。
【請求項8】
該灰チタン石がYGeONである、請求項1のオキシ窒化灰チタン石。
【請求項9】
該灰チタン石がGaTiONである、請求項1のオキシ窒化灰チタン石。
【請求項10】
該灰チタン石がInTiONである、請求項1のオキシ窒化灰チタン石。
【請求項11】
該灰チタン石がBiZrONである、請求項1のオキシ窒化灰チタン石。
【請求項12】
該灰チタン石がYCONである、請求項1のオキシ窒化灰チタン石。
【請求項13】
該灰チタン石がBiTiON、YTiON、YZrON及びYSnONからなる群から選ばれる、請求項1のオキシ窒化灰チタン石。
【請求項14】
請求項1のオキシ窒化灰チタン石を含む組成物。
【請求項15】
請求項1のオキシ窒化灰チタン石を含む結晶。
【請求項16】
請求項15の1種以上の結晶を含む組成物。
【請求項17】
請求項1のオキシ窒化灰チタン石を含む非線形光学材料。
【請求項18】
請求項1のオキシ窒化灰チタン石を含む中性子発生装置。
【請求項19】
式(I)
ABCD 式(I)
(式中、Aは、(i)三価の陽イオン又は陽イオン基、(ii)三価の陽イオン又は陽イオン基の固溶体、又は(iii)陽性の三価の平均電荷を有するヘテロ原子価陽イオン又は陽イオン基の固溶体、又は(iv)形式的三価の電荷を有する陽イオン又は陽イオン基、又は(v)形式的陽性の三価の電荷を有する陽イオン又は陽イオン基の固溶体であり;
Bは(i)四価陽イオン、(ii)四価陽イオンの固溶体、(iii)陽性の四価平均電荷を有するヘテロ原子価陽イオンの固溶体、(iv)形式的陽性の四価の電荷を有する陽イオン又は陽イオン基、又は(v)形式的陽性の四価の電荷を有する陽イオンの又は陽イオン基の固溶体であり;
Cは(i)酸素、(ii)二価の陰イオンの酸素優位の固溶体、又は(iii)陰性の二価の平均電荷を有するヘテロ原子価陽イオンの酸素優位固溶体であり;
Dは(i)窒素、(ii)三価の陰イオンの窒素優位の固溶体、又は(iii)陰性の三価平均電荷を有するヘテロ原子価陰イオンの窒素優位の固溶体である)のオキシ窒化灰チタン石であって、該オキシ窒化灰チタン石は部分的に規則正しく、そして陽イオンA+Bの合計原子価は陰イオン2C+Dの合計原子価に等しい、上記オキシ窒化灰チタン石。
【請求項20】
該灰チタン石がPbTiOの極性より大きい極性を有する、請求項19のオキシ窒化灰チタン石。
【請求項21】
Aがイットリウム、ビスマス、インジウム及びガリウムからなる群から選ばれる、請求項19のオキシ窒化灰チタン石。
【請求項22】
Bがチタン、ジルコニウム、珪素、錫及びゲルマニウムからなる群から選ばれる、請求項19のオキシ窒化灰チタン石。
【請求項23】
ABC
(但し、Aは灰チタン石型構造においてのA−位置から由来する位置に存在する1種以上の陽イオン、又は複数の陽イオンのセットを含み、
Bは灰チタン石型構造においてのB−位置から由来する位置に存在する1種以上の陽イオン、又は複数の陽イオンのセットを含み、
Cは酸素を含み、
Dは窒素を含み、
陽イオンA+Bの合計原子価は陰イオン2C+Dの合計の原子価に等しい)のオキシ窒化灰チタン石であって、該オキシ窒化灰チタン石は部分的に規則正しく、極性であり、そして非金属である、そのオキシ窒化灰チタン石の製造方法において、
(a)超純粋形のA、B、C及びDを用意し;そして
(b)分子線エピタキシによってABCDに集合させる、
諸工程を含む、上記方法。


【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate


【公表番号】特表2010−515643(P2010−515643A)
【公表日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544941(P2009−544941)
【出願日】平成20年1月4日(2008.1.4)
【国際出願番号】PCT/US2008/000164
【国際公開番号】WO2008/130458
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(500026234)カーネギー インスチチューション オブ ワシントン (25)
【Fターム(参考)】