説明

視力障害の治療のためのレチナール誘導体およびその使用方法

【課題】本発明は、レチノイド代替物およびオプシンアゴニストとしての合成レチナール誘導体の組成物およびその使用方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、脊椎動物の視覚体系における光受容機能を回復あるいは安定させる組成物およびそのような合成物の使用方法を提供する。合成レチナール誘導体をヒトあるいは非ヒト脊椎動物被験体に投与して、光受容機能を回復あるいは安定させ、および/またはレチノイドレベルの不足を改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2004年6月18日に出願された米国仮特許出願第60/580,889号の利益を主張する。この開示は参照することによりここに組み込まれる。
【0002】
連邦政府が後援する研究または開発の下で行なわれる発明の権利に関する陳述
本研究は、国立健康研究所の国立眼研究所より米国公衆衛生サービス基金EY09339の支援を受けた。政府は、本発明にある権利を有する。
【背景技術】
【0003】
視力の低下、あるいは完全失明は、眼の前方領域および/または眼の後方領域の組織あるいは構造の機能異常により生じる多数の眼疾患または眼病により発生する。眼の後部の疾患あるいは病気は、通常は網膜あるいは脈絡膜血管の疾患あるいは遺伝性疾患、例えばレーバー先天性黒内障である。加齢性黄斑変性症(AMD)は、眼球の後部に関連する特異的疾患の一つであり、高齢者の失明の主な原因である。AMDは、黄斑、すなわち網膜の中心にある小さな円形領域の損傷をもたらす。黄斑は、人が細部を識別したり、読んだり、運転したりするのを可能にする領域であるため、変質すると、視力低下、あるいは失明さえ引き起こす可能性がある。網膜は、2種類の光受容細胞、すなわち杆体および錐体を含む。それらは光を電気信号に変換する。その後、脳は、これらの信号を画像に変換する。黄斑は錐体細胞が豊富であり、それらが中心視力をもたらす。AMD患者は、中心視力の低下を被るが、通常は周辺視力は維持される。
【0004】
わずかにぼやけた、あるいはゆがんだ視覚が、AMDの最も一般的な初期症状である。乾型AMDによる視力喪失は、通常は徐々に進行するが、湿型AMDによる視力喪失は、より急速に進行し、数日または数週間で発生する。片方の眼に湿型AMDを有する患者は、もう一方の眼に脈絡膜血管新生(CNV)が発生する危険性が増大する。その危険性の大きさは、第二の眼の状況により異なる。多数の大きなドルーゼを有する眼、黄斑に異常な色素変化がある眼、および高血圧の病歴を有する患者は、そのリスクがより大きい。RPEにおいて進行する反応は、酸化物をもたらし、それが細胞死および新血管形成をもたらす。この過剰な代謝は、RPEの下にドルーゼの形成をもたらす。
【0005】
その他の眼疾患も、また、眼の光受容機能に影響を与える。また、網膜色素変性症は、多数の異なる遺伝子の欠陥により生じる疾患である。それらは全て、最終的には共通の進行を示す。すなわち、夜盲症および周辺視野の喪失が、視野狭窄および最終的な完全盲目を多数の患者にもたらす。杆体光受容体が、通常は、主に侵され、この病気を起こす遺伝子欠陥の大部分は、杆体細胞に発現する遺伝子に主に発生するか、あるいは、杆体細胞に発現する遺伝子にのみ発生する。
【0006】
網膜色素変性症の一つの常染色体優性型は、オプシンのアミノ酸置換、すなわちアミノ酸23のプロリンのヒスチジン置換を含む。この欠陥が、全ての網膜色素変性症の症例の10から20%に関わる。この異常なオプシンタンパク質が、タンパク質凝集体を形成し、それが最終的に細胞死をもたらす。
【0007】
レーバー先天性黒内障は、非常に稀な小児疾患であり、出生時あるいはその後間もない小児に発症する。それは、眼の杆体および錐体の両方を侵す。この疾患に関連する二、三の異なる遺伝子欠陥がある。これらには、RPE65およびLRATタンパク質をエンコードする遺伝子が含まれる。いずれの場合も、人は11−シス−レチナールを十分量作ることが不可能になる。RPE65欠陥患者は、レチニルエステルが網膜色素上皮(RPE)に形成される。LRAT欠陥患者は、エステルを作ることができず、従って、過剰なレチノイドを分泌する。
【0008】
白点状網膜炎は、網膜色素変性症の別の型であり、杆体の11−シス−レチナールの不足を示す。加齢は、また、11−シス−レチナール不足による、夜間視力の低下およびコントラスト感度の喪失をもたらす。過剰な非結合オプシンは、不規則に視覚伝達系を刺激すると考えられる。これは、その系にノイズを発生させ、その結果、よく見るためにはより多くの光およびコントラストが必要となる。
【0009】
先天性定常夜盲(CSNB)および白点状眼底は、夜盲という徴候が現れる疾患群であるが、網膜色素変性症のような進行性視力低下はない。CSNBのいくつかの型は、11−シス−レチナールの再循環の遅れによる。白点状眼底は、最近まで、CSNBの特殊な症例と考えられており、無数の小さな白点が網膜に現れて網膜の外観が異常になる。最近、これもまた進行性疾患であることが明らかとなった。ただし、網膜色素変性症よりずっと遅い進行である。これは、遺伝子欠陥が11−シス−レチナールの再循環の遅れを導くことにより発生する。
【0010】
現在、レチノイド不足のための治療法はほとんどない。一つの治療法は、抗酸化性ビタミンと亜鉛の組み合わせであるが、小さな回復効果をもたらすのみである。そこで、光受容機能を回復または安定させ、内因性レチノイドの不十分なレベルの影響を改善する組成物および方法が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、脊椎動物の視覚体系における光受容機能を回復あるいは安定させる組成物およびそのような合成物の使用方法を提供する。合成レチナール誘導体をヒトあるいは非ヒト脊椎動物被験体に投与して、光受容機能を回復あるいは安定させ、および/またはレチノイドレベルの不足を改善することができる。
【0012】
ある態様において、合成レチナール誘導体は投与される。合成レチナール誘導体は、例えば、化学式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、XIV、XVおよび/またはXVIの誘導体とすることができる。ある実施例においては、合成レチナール誘導体は、レチニルエステル、例えば、9−シス−レチニルエステルあるいは11−シス−レチニルエステルである。エステル置換は、例えば、C−C22ポリカルボン酸(ポリカルボキシレート)のカルボキシレートラジカルとすることができる。例えば、前記の置換は、コハク酸エステル、クエン酸塩、ケトグルタル酸、フマル酸エステル、リンゴ酸塩およびオキサロアセテートとすることができる。ある実施例においては、エステル置換は酒石酸塩ではない。
【0013】
ある実施例においては、レチニルエステルはC−C22カルボキシレートの9−シス−レチニルエステルである。その他の実施例においては、レチニルエステルはC−C10カルボキシレートの9−シス−レチニルエステルである。ある実施例においては、レチニルエステルはC−C22カルボキシレートの11−シス−レチニルエステルである。その他の実施例においては、レチニルエステルはC−C10カルボキシレートの11−シス−レチニルエステルである。
【0014】
合成レチナール誘導体および薬学的に容認可能な賦形剤からなる医薬組成物もまた提供される。合成レチナール誘導体は、例えば、化学式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、XIV、XVおよび/またはXVIの誘導体とすることができる。ある実施例においては、合成レチナール誘導体は、レチニルエステル、例えば、9−シス−レチニルエステルあるいは11−シス−レチニルエステル等である。エステル置換は、例えば、C−C22ポリカルボン酸のカルボキシレートラジカルとすることができる。医薬組成物は、例えば、眼科学的に容認可能な賦形剤中に、眼に局所にあるいは眼球内注射により投与するために眼科組成物として組成することができる。
【0015】
別の態様においては、哺乳動物の光受容機能を回復させる方法が提供される。前記の方法は、内因性レチノイド不足を有する哺乳類の被験体に、有効な量の合成レチナール誘導体を投与することからなり、前記合成レチナール誘導体が、有効なオプシン/レチナール合成物を形成することが可能なレチナールに変換される。合成レチナール誘導体は、例えば、9−シス−レチニルエステル、11−シス−レチニルエステル、あるいはその組み合わせである。エステル置換は、C−C10モノカルボン酸あるいはC−C22ポリカルボン酸のカルボキシレートラジカルとすることができる。ある実施例においては、合成レチナール誘導体は、9−シス−レチニルアセテートあるいは11−シス−レチニルアセテートである。その他の実施例においては、エステル置換は、C−C10のポリカルボン酸のカルボキシレートラジカルからなることができる。例えば、エステル置換は、コハク酸エステル、クエン酸塩、ケトグルタル酸、フマル酸エステル、リンゴ酸塩およびオキサロアセテートとすることができる。哺乳類の被験体は、例えば、ヒトあるいはその他の哺乳動物とすることができる。
【0016】
別の態様においては、哺乳動物の光受容機能の喪失を改善する方法が提供される。前記の方法は、有効な量の合成レチナール誘導体を脊椎動物の眼に投与する方法からなり、前記合成レチナール誘導体が、有効なオプシン/レチナール合成物を形成することが可能なレチナールに変換される。合成レチナール誘導体は、例えば、9−シス−レチニルエステル、11−シス−レチニルエステル、あるいはその組み合わせとすることができる。エステル置換は、C−C10モノカルボン酸あるいはC−C22ポリカルボン酸のカルボキシレートラジカルとすることができる。ある実施例においては、合成レチナール誘導体は、9−シス−レチニルアセテートあるいは11−シス−レチニルアセテートである。その他の実施例においては、エステル置換はC−C10のポリカルボン酸のカルボキシレートラジカルとすることができる。例えば、エステル置換は、コハク酸エステル、クエン酸塩、ケトグルタル酸、フマル酸エステル、リンゴ酸塩およびオキサロアセテートとすることができる。哺乳類の被験体は、例えば、ヒトあるいはその他の哺乳動物とすることができる。
【0017】
ある態様においては、脊椎動物の眼の光受容機能を回復させる方法が提供される。前記の方法は、内因性レチノイド不足を有する、それを必要とする脊椎動物に、有効な量の合成レチナール誘導体を薬学的に容認可能な賦形剤で投与することからなり、前記合成レチナール誘導体が、有効なオプシン/レチナール合成物を形成することが可能なレチナールに変換される。合成レチナール誘導体は、例えば、化学式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、XIV、XVおよび/またはXVIの誘導体とすることができる。ある方法においては、合成レチナール誘導体がモノカルボン酸エステル置換からなる9−シス−レチニルエステルである場合には9−シス−レチニルCないしC10エステルである。ある方法においては、合成レチナール誘導体がモノカルボン酸エステル置換からなる11−シス−レチニルエステルである場合には11−シス−レチニルCないしC10エステルである。
【0018】
ある方法においては、合成レチナール誘導体は、9−シス−レチニルエステル、例えば9−シス−レチニルアセテート、9−シス−レチニルコハク酸エステル、9−シス−レチニルクエン酸塩、9−シス−レチニルケトグルタル酸、9−シス−レチニルフマル酸エステル、9−シス−レチニルリンゴ酸塩、9−シス−レチニルオキサロアセテート、等である。ある方法においては、合成レチナール誘導体は、11−シス−レチニルエステル、例えば11−シス−レチニルアセテート、11−シス−レチニルコハク酸エステル、11−シス−レチニルクエン酸塩、11−シス−レチニルケトグルタル酸、11−シス−レチニルフマル酸エステル、11−シス−レチニルリンゴ酸塩、11−シス−レチニルオキサロアセテート、等である。
【0019】
ある方法においては、合成レチナール誘導体は、それを必要とする脊椎動物に投与することができる。例えば、脊椎動物は、加齢性黄斑変性症、レーバー先天性黒内障、白点状網膜炎、先天性定常夜盲、白点状眼底、あるいはその他の疾患または症状に関連する内因性レチノイド不足を有する、あるいは発現する素因を有する可能性がある。
【0020】
ある方法においては、合成レチナール誘導体は、点眼薬、眼内注射、眼周囲注射等により局所投与することができる。その他の方法においては、合成レチナール誘導体は、脊椎動物に経口投与することができる。ある方法においては、脊椎動物はヒトである。
【0021】
別の態様においては、脊椎動物の眼の内因性レチノイドの要件を抑える方法が提供される。前記の方法は、医学的にあるいは眼科学的に容認可能な賦形剤で眼に合成レチナール誘導体を投与する方法を含むことができ、前記合成レチナール誘導体が有効なオプシン/レチナール合成物を形成することが可能なレチナールに変換される。合成レチナール誘導体は、例えば、化学式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、XIV、XVおよび/またはXVIの誘導体とすることができる。ある方法においては、合成レチナール誘導体がモノカルボン酸エステル置換からなる9−シス−レチニルエステルである場合には9−シス−レチニルCないしC10エステルである。ある方法においては、合成レチナール誘導体がモノカルボン酸エステル置換からなる11−シス−レチニルエステルである場合には11−シス−レチニルCないしC10エステルである。
【0022】
ある方法においては、合成レチナール誘導体は、9−シス−レチニルエステル、例えば9−シス−レチニルアセテート、9−シス−レチニルコハク酸エステル、9−シス−レチニルクエン酸塩、9−シス−レチニルケトグルタル酸、9−シス−レチニルフマル酸エステル、9−シス−レチニルリンゴ酸塩、9−シス−レチニルオキサロアセテート、等である。ある方法においては、合成レチナール誘導体は、11−シス−レチニルエステル、例えば11−シス−レチニルアセテート、11−シス−レチニルコハク酸エステル、11−シス−レチニルクエン酸塩、11−シス−レチニルケトグルタル酸、11−シス−レチニルフマル酸エステル、11−シス−レチニルリンゴ酸塩、11−シス−レチニルオキサロアセテート、等である。
【0023】
ある方法においては、合成レチナール誘導体は、それを必要とする脊椎動物に投与することができる。例えば、脊椎動物は、加齢性黄斑変性症、レーバー先天性黒内障、白点状網膜炎、先天性定常夜盲、白点状眼底、あるいはその他の疾患または症状に関連する内因性レチノイド不足を有する、あるいは発現する素因を有する可能性がある。
【0024】
ある方法においては、合成レチナール誘導体は、点眼薬、眼内注射、眼周囲注射等により局所投与することができる。その他の方法においては、合成レチナール誘導体は、脊椎動物に経口投与することができる。ある方法においては、脊椎動物はヒトである。
【0025】
更に別の態様においては、脊椎動物の眼の光受容機能の喪失を改善する方法が提供される。前記の方法は、予防的に、有効な量の合成レチナール誘導体を、医学的にあるいは眼科学的に容認可能な賦形剤で、脊椎動物の眼に投与する方法を含むことができ、前記合成レチナール誘導体が有効なオプシン/レチナール合成物を形成することが可能なレチナールに変換される。合成レチナール誘導体は、例えば、化学式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、XIV、XVおよび/またはXVIの誘導体とすることができる。ある方法においては、合成レチナール誘導体がモノカルボン酸エステル置換からなる9−シス−レチニルエステルである場合には9−シス−レチニルCないしC10エステルである。ある方法においては、合成レチナール誘導体がモノカルボン酸エステル置換からなる11−シス−レチニルエステルである場合には11−シス−レチニルCないしC10エステルである。
【0026】
ある方法においては、合成レチナール誘導体は、9−シス−レチニルエステル、例えば9−シス−レチニルアセテート、9−シス−レチニルコハク酸エステル、9−シス−レチニルクエン酸塩、9−シス−レチニルケトグルタル酸、9−シス−レチニルフマル酸エステル、9−シス−レチニルリンゴ酸塩、9−シス−レチニルオキサロアセテート、等である。ある方法においては、合成レチナール誘導体は、11−シス−レチニルエステル、例えば11−シス−レチニルアセテート、11−シス−レチニルコハク酸エステル、11−シス−レチニルクエン酸塩、11−シス−レチニルケトグルタル酸、11−シス−レチニルフマル酸エステル、11−シス−レチニルリンゴ酸塩、11−シス−レチニルオキサロアセテート、等である。
【0027】
ある方法においては、合成レチナール誘導体は、点眼薬、眼内注射、眼周囲注射等により局所投与することができる。その他の方法においては、合成レチナール誘導体は、脊椎動物に経口投与することができる。ある方法においては、脊椎動物はヒトである。
【0028】
更にまた別の態様においては、減少した視力を有する被験体の治療法を選択する方法が提供される。前記の方法は、前記被験体が標準的な被験体と比較して不足した内因性レチノイドレベルを有するかどうかを測定し、前記被験体に有効な量の合成レチナール誘導体を医学的に容認可能な賦形剤(例えば、眼科学的に容認可能な賦形剤)で投与する方法であり、前記合成レチナール誘導体が有効なオプシン/レチナール合成物を形成することが可能なレチナールに変換される。合成レチナール誘導体は、例えば、化学式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、XIV、XVおよび/またはXVIの誘導体とすることができる。ある方法においては、合成レチナール誘導体がモノカルボン酸エステル置換からなる9−シス−レチニルエステルである場合には9−シス−レチニルCないしC10エステルである。ある方法においては、合成レチナール誘導体がモノカルボン酸エステル置換からなる11−シス−レチニルエステルである場合には11−シス−レチニルCないしC10エステルである。
【0029】
ある方法においては、合成レチナール誘導体は、9−シス−レチニルエステル、例えば9−シス−レチニルアセテート、9−シス−レチニルコハク酸エステル、9−シス−レチニルクエン酸塩、9−シス−レチニルケトグルタル酸、9−シス−レチニルフマル酸エステル、9−シス−レチニルリンゴ酸塩、9−シス−レチニルオキサロアセテート、等である。ある方法においては、合成レチナール誘導体は、11−シス−レチニルエステル、例えば11−シス−レチニルアセテート、11−シス−レチニルコハク酸エステル、11−シス−レチニルクエン酸塩、11−シス−レチニルケトグルタル酸、11−シス−レチニルフマル酸エステル、11−シス−レチニルリンゴ酸塩、11−シス−レチニルオキサロアセテート、等である。
【0030】
ある方法においては、内因性レチノイドは11−シス−レチニルエステルである。ある方法においては、合成レチナール誘導体は、点眼薬、眼内注射、眼周囲注射等により局所投与することができる。その他の方法においては、合成レチナール誘導体は、脊椎動物に経口投与することができる。ある方法においては、脊椎動物はヒトである。
【0031】
更にまた別の態様においては、医薬組成物および経口投与型が提供される。医薬組成物は、医学的に容認可能な賦形剤(例えば、眼科学的に容認可能な賦形剤)の合成レチナール誘導体を含むことができる。合成レチナール誘導体は、例えば、化学式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、XIV、XVおよび/またはXVIの誘導体とすることができる。ある方法においては、合成レチナール誘導体がモノカルボン酸エステル置換からなる9−シス−レチニルエステルである場合には9−シス−レチニルCないしC10エステルである。ある方法においては、合成レチナール誘導体がモノカルボン酸エステル置換からなる11−シス−レチニルエステルである場合には11−シス−レチニルCないしC10エステルである。
【0032】
ある方法においては、合成レチナール誘導体は、9−シス−レチニルエステル、例えば9−シス−レチニルアセテート、9−シス−レチニルコハク酸エステル、9−シス−レチニルクエン酸塩、9−シス−レチニルケトグルタル酸、9−シス−レチニルフマル酸エステル、9−シス−レチニルリンゴ酸塩、9−シス−レチニルオキサロアセテート、等である。ある方法においては、合成レチナール誘導体は、11−シス−レチニルエステル、例えば11−シス−レチニルアセテート、11−シス−レチニルコハク酸エステル、11−シス−レチニルクエン酸塩、11−シス−レチニルケトグルタル酸、11−シス−レチニルフマル酸エステル、11−シス−レチニルリンゴ酸塩、11−シス−レチニルオキサロアセテート、等である。
【0033】
医薬組成物は、例えば、眼内注射可能な溶液あるいは眼周囲注射可能な溶液とすることができる。経口投与型は、例えば、錠剤、丸薬、カプセル、ジェルキャップ等とすることができる。
【0034】
更に別の態様においては、ヒト被験体のレーバー先天性黒内障を治療する方法が提供される。前記の方法は、通常は、有効な量の合成レチナール誘導体を、医学的にあるいは眼科学的に容認可能な賦形剤で、それを必要とする被験体に投与する方法を含む。合成レチナール誘導体は、例えば、化学式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、XIV、XVおよび/またはXVIの誘導体とすることができる。ある方法においては、合成レチナール誘導体がモノカルボン酸エステル置換からなる9−シス−レチニルエステルである場合には9−シス−レチニルCないしC10エステルである。ある方法においては、合成レチナール誘導体がモノカルボン酸エステル置換からなる11−シス−レチニルエステルである場合には11−シス−レチニルCないしC10エステルである。
【0035】
ある方法においては、合成レチナール誘導体は、9−シス−レチニルエステル、例えば9−シス−レチニルアセテート、9−シス−レチニルコハク酸エステル、9−シス−レチニルクエン酸塩、9−シス−レチニルケトグルタル酸、9−シス−レチニルフマル酸エステル、9−シス−レチニルリンゴ酸塩、9−シス−レチニルオキサロアセテート、等である。ある方法においては、合成レチナール誘導体は、11−シス−レチニルエステル、例えば11−シス−レチニルアセテート、11−シス−レチニルコハク酸エステル、11−シス−レチニルクエン酸塩、11−シス−レチニルケトグルタル酸、11−シス−レチニルフマル酸エステル、11−シス−レチニルリンゴ酸塩、11−シス−レチニルオキサロアセテート、等である。
【0036】
ある方法においては、合成レチナール誘導体は、点眼薬、眼内注射、眼周囲注射等により局所投与することができる。その他の方法においては、合成レチナール誘導体は、脊椎動物に経口投与することができる。ある方法においては、脊椎動物はヒトである。
【0037】
別の態様においては、ヒト被験体の、白点状網膜炎、先天性定常夜盲、あるいは白点状眼底を治療する方法が提供される。前記の方法は、有効な量の合成レチナール誘導体を、医学的にあるいは眼科学的に容認可能な賦形剤で、それを必要とする被験体に投与する方法を含むことができる。前記の方法は、通常は、有効な量の合成レチナール誘導体を、医学的にあるいは眼科学的に容認可能な賦形剤で、それを必要とする被験体に投与する方法を含む。合成レチナール誘導体は、例えば、化学式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、XIV、XVおよび/またはXVIの誘導体とすることができる。ある方法においては、合成レチナール誘導体がモノカルボン酸エステル置換からなる9−シス−レチニルエステルである場合には9−シス−レチニルCないしC10エステルである。ある方法においては、合成レチナール誘導体がモノカルボン酸エステル置換からなる11−シス−レチニルエステルである場合には11−シス−レチニルCないしC10エステルである。
【0038】
ある方法においては、合成レチナール誘導体は、9−シス−レチニルエステル、例えば9−シス−レチニルアセテート、9−シス−レチニルコハク酸エステル、9−シス−レチニルクエン酸塩、9−シス−レチニルケトグルタル酸、9−シス−レチニルフマル酸エステル、9−シス−レチニルリンゴ酸塩、9−シス−レチニルオキサロアセテート、等である。ある方法においては、合成レチナール誘導体は、11−シス−レチニルエステル、例えば11−シス−レチニルアセテート、11−シス−レチニルコハク酸エステル、11−シス−レチニルクエン酸塩、11−シス−レチニルケトグルタル酸、11−シス−レチニルフマル酸エステル、11−シス−レチニルリンゴ酸塩、11−シス−レチニルオキサロアセテート、等である。
【0039】
ある方法においては、合成レチナール誘導体は、点眼薬、眼内注射、眼周囲注射等により局所投与することができる。その他の方法においては、合成レチナール誘導体は、脊椎動物に経口投与することができる。ある方法においては、脊椎動物はヒトである。
【0040】
更に別の態様においては、ヒト被験体の加齢性黄斑変性症を治療する方法が提供される。前記の方法は、有効な量の合成レチナール誘導体を、医学的にあるいは眼科学的に容認可能な賦形剤で、それを必要とする被験体に投与する方法を含むことができる。合成レチナール誘導体は、例えば、化学式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、XIV、XVおよび/またはXVIの誘導体とすることができる。ある方法においては、合成レチナール誘導体がモノカルボン酸エステル置換からなる9−シス−レチニルエステルである場合には9−シス−レチニルCないしC10エステルである。ある方法においては、合成レチナール誘導体がモノカルボン酸エステル置換からなる11−シス−レチニルエステルである場合には11−シス−レチニルCないしC10エステルである。
【0041】
ある方法においては、合成レチナール誘導体は、眼の中で遊離オプシンと結合する合成レチナールに変換される。ある方法においては、合成レチナール誘導体は、9−シス−レチニルエステル、例えば9−シス−レチニルアセテート、9−シス−レチニルコハク酸エステル、9−シス−レチニルクエン酸塩、9−シス−レチニルケトグルタル酸、9−シス−レチニルフマル酸エステル、9−シス−レチニルリンゴ酸塩、9−シス−レチニルオキサロアセテート、等である。ある方法においては、合成レチナール誘導体は、11−シス−レチニルエステル、例えば11−シス−レチニルアセテート、11−シス−レチニルコハク酸エステル、11−シス−レチニルクエン酸塩、11−シス−レチニルケトグルタル酸、11−シス−レチニルフマル酸エステル、11−シス−レチニルリンゴ酸塩、11−シス−レチニルオキサロアセテート、等である。
【0042】
ある方法においては、合成レチナール誘導体は、点眼薬、眼内注射、眼周囲注射等により局所投与することができる。その他の方法においては、合成レチナール誘導体は、脊椎動物に経口投与することができる。ある方法においては、脊椎動物はヒトである。
【0043】
更に別の態様においては、加齢したヒト被験体の夜間視力あるいはコントラスト感度の喪失を治療あるいは防止する方法が提供される。前記の方法は、有効な量の合成レチナール誘導体を、医学的にあるいは眼科学的に容認可能な賦形剤で、それを必要とする被験体に投与する方法を含むことができる。合成レチナール誘導体は、例えば、化学式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、XIV、XVおよび/またはXVIの誘導体とすることができる。ある方法においては、合成レチナール誘導体がモノカルボン酸エステル置換からなる9−シス−レチニルエステルである場合には9−シス−レチニルCないしC10エステルである。ある方法においては、合成レチナール誘導体がモノカルボン酸エステル置換からなる11−シス−レチニルエステルである場合には11−シス−レチニルCないしC10エステルである。
【0044】
ある方法においては、合成レチナール誘導体は、眼の中で遊離オプシンと結合する合成レチナールに変換される。ある方法においては、合成レチナール誘導体は、9−シス−レチニルエステル、例えば9−シス−レチニルアセテート、9−シス−レチニルコハク酸エステル、9−シス−レチニルクエン酸塩、9−シス−レチニルケトグルタル酸、9−シス−レチニルフマル酸エステル、9−シス−レチニルリンゴ酸塩、9−シス−レチニルオキサロアセテート、等である。ある方法においては、合成レチナール誘導体は、11−シス−レチニルエステル、例えば11−シス−レチニルアセテート、11−シス−レチニルコハク酸エステル、11−シス−レチニルクエン酸塩、11−シス−レチニルケトグルタル酸、11−シス−レチニルフマル酸エステル、11−シス−レチニルリンゴ酸塩、11−シス−レチニルオキサロアセテート、等である。
【0045】
ある方法においては、合成レチナール誘導体は、点眼薬、眼内注射、眼周囲注射等により局所投与することができる。その他の方法においては、合成レチナール誘導体は、脊椎動物に経口投与することができる。ある方法においては、脊椎動物はヒトである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】治療を受けている、あるいは対照マウスの眼および肝臓組織のレチノイド溶出を示すHPLCクロマトグラムを示す。Aは、暗順応LRAT−/−マウスの眼の場合を示す。Bは、2日前に5mgの全トランス−レチニルパルミテートを投与した暗順応LRAT−/−マウスの眼の場合を示す。Cは、2日前に5mgの全トランス−レチニルアセテートを投与した暗順応LRAT−/−マウスの眼の場合を示す。Dは、3日前に6.5mgの9−シス−レチニルアセテートを投与した暗順応LRAT−/−マウスの眼の場合を示す。Eは、暗順応LRAT−/−マウスの肝臓組織の場合を示す。Fは、2日前に5mgの全トランス−レチニルパルミテートを投与した暗順応LRAT−/−マウスの肝臓組織の場合を示す。Gは、2日前に5mgの全トランス−レチニルアセテートを投与した暗順応LRAT−/−マウスの肝臓組織の場合を示す。Hは、3日前に6.5mgの9−シス−レチニルアセテートを投与した暗順応LRAT−/−マウスの肝臓組織の場合を示す。
【図2】20μMガバージュの場合の、眼の9−シス−レチナールオキシムおよび9−シス−レチノールの時間的経過を示す。
【図3】全トランス−レチニルアセテートから9−シス−レチニルアセテートへの紫外線異性化を示す。
【図4】13−シス−レチニルアセテート(1)、9−シス−レチニルアセテート(2)および全トランス−レチニルアセテート(3)のHPLC分離を示す。
【図5】9−シス−R−アセテートの一回あるいは複数回の投与の後のLrat−/−マウスの9−シス−レチナールオキシムのレベルを示す。(a)は、9−シス−R−Acの投与量を変更した後のLrat−/−マウスの眼の)−シス−RALのレベルを示す。(b)9−シス−R−Acの投与量および回数を変更した後のLrat−/−マウスの眼の)−シス−RALのレベルを示す。
【図6】全トランス−レチノイド異性体あるいは9−シス−レチニルコハク酸エステルの投与の後のLrat−/−マウスの眼の発色団レベル(9−シス−レチナールオキシムとして)を示す。全トランス−レチノイド異性体および9−シス−レチニルコハク酸エステルの構造もまた図示されている。
【図7】9−シス−レチナールあるいは9−シス−レチニルアセテートの少量および高用量の投与の後のLrat−/−マウスの眼の発色団レベル(9−シス−レチナールオキシムとして)の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明は、合成レチナール誘導体および合成レチナール誘導体を使用して脊椎動物の視覚体系における光受容機能を回復あるいは安定させる方法を提供する。合成レチナール誘導体は、9−シス−レチナールあるいは11−シス−レチナールの誘導体であり、ポリエン鎖のアルデヒド基が変異している。合成レチナール誘導体は、直接的にあるいは間接的にレチナールすなわち合成レチナール同族体に変換することができる。従って、ある態様において、本発明による合成物は、プロドラッグと称することができ、代謝的変換は9−シス−レチナール、11−シス−レチナールあるいは合成レチナール同族体に変換される。代謝的変換は、例えば、酸加水分解、エステラーゼ活性、アセチルトランスフェラーゼ活性、デヒドロゲナーゼ活性、等により発生する。
【0048】
合成レチナール誘導体をレチノイド代替物とし、内因性レチノイドのレベルを補完することができる。ある実施例においては、合成レチナールはオプシンに結合し、オプシンアゴニストとして機能することができる。ここで使用されているように、「アゴニスト」という用語は、オプシンと結合して光に応答するオプシン/合成レチナール複合体の能力を促進する合成レチナールを示す。オプシンアゴニストとして、合成レチナールは内因性レチノイド(例えば11−シス−レチナール)の要件を抑えることができる。合成レチノールは、また、オプシンに結合すること並びに機能性オプシン/合成レチナール複合体を形成することによりオプシンへの機能(例えば光受容)を回復あるいは改善することができ、それによりオプシン/合成レチナール複合体は、杆体膜あるいは錐体膜の一部である場合に光子に応答することができる。
【0049】
合成レチナール誘導体を投与して、光受容機能を回復あるいは安定させ、および/またはレチノイドのレベルの不足の影響を改善することができる。光受容機能は、例えば、合成レチナール誘導体を11−シス−レチノイド代替物および/またはオプシンアゴニストとして投与することにより、回復あるいは安定させることができる。合成レチナール誘導体は、また、脊椎動物の視覚体系におけるレチノイドの不足の影響を改善することもできる。合成レチナール誘導体を予防的に、あるいは治療的に脊椎動物に投与することができる。適切な脊椎動物には、例えばヒトおよび非ヒト脊椎動物が含まれる。適切な非ヒト脊椎動物には、例えば、哺乳動物、すなわち犬(犬科の動物)、猫(猫科の動物)、馬(馬科の動物)およびその他の家畜が含まれる。
【0050】
ある態様において、合成レチナール誘導体は投与される。合成レチナール誘導体は、9−シス−レチナールあるいは11−シス−レチナールの誘導体であり、ここで更に述べるように、ポリエン鎖のアルデヒド基がエステル、エーテル、アルコール、ヘミアセタール、アセタール、オキシムに変換されている。そのような合成レチナール誘導体には、ここで更に述べるように、9−シス−レチニルエステル、9−シス−レチニルエーテル、9−シス−レチノール、9−シス−レチナールオキシム、9−シス−レチニルアセタール、9−シス−レチニルヘミアセタール、11−シス−レチニルエステル、11−シス−レチニルエーテル、11−シス−レチノール、11−シス−レチニルオキシム、11−シス−レチニルアセタール、11−シス−レチニルヘミアセタールが含まれる。合成レチナール誘導体は、代謝されて天然のレチナール、あるいは合成レチナール、例えば9−シス−レチナール、11−シス−レチナール、あるいはその合成レチナール同族体、例えばここに記載されるもの、あるいは2004年3月15日に出願された同時係属出願第PCT/US04/07937号(代理人整理番号016336−002010PC)(その開示は、参照することによりここに組み込まれる)を放出することができる。
【0051】
ある態様において、合成レチナール誘導体はレチニルエステルである。ある実施例においては、レチニルエステルはaを有する9−シス−レチニルエステルあるいは11−シス−レチニルエステルである。エステル置換基は、例えば、モノカルボン酸あるいはポリカルボン酸等のカルボン酸とすることができる。ここで使用されるように、「ポリカルボン酸」は、二重、三重、あるいはそれ以上の高次カルボン酸である。ある実施例においては、カルボン酸はC−C22、C−C22、C−C22、C−C10、C−C10、C−C10、C−C10、C−C、C−CあるいはCモノカルボン酸、またはポリカルボン酸である。
【0052】
適切なカルボン酸基には、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、バレリアン酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、リノール酸が含まれる。カルボン酸は、また、例えば、シュウ酸(エタン二酸)、マロン酸(プロパン二酸)、コハク酸(ブタン二酸)、フマル酸(ブテン二酸)、リンゴ酸(2−ヒドロキシブテン二酸)、グルタル酸(ペンタン二酸)、アジピン酸(ヘキサン二酸)、ピメリン酸(ヘプタン二酸)、スベリン酸(オクタン二酸)、アゼライン酸(ノナン二酸)、セバシン酸(デカン二酸)、クエン酸、オキサロ酢酸、ケトグルタル酸、等とすることもできる。
【0053】
ある実施例においては、レチニルエステルは、9−シス−レチニルエステルあるいは11−シス−レチニルエステルであり、C−C10ポリカルボン酸置換基を含む。(この状況において、「置換基」あるいは「基」という用語は、ポリエン鎖の末端酸素に共有結合したラジカルを示す。)別の実施例においては、レチニルエステルは、9−シス−レチニルエステルあるいは11−シス−レチニルエステルであり、C−C22あるいはC−C22ポリカルボン酸置換基を含む。ポリカルボン酸置換基は、例えば、コハク酸エステル、クエン酸塩、ケトグルタレート、フマル酸エステル、リンゴ酸塩、オキサロ酢酸としてもよい。別の実施例においては、レチニルエステルは、9−シス−レチニルエステルあるいは11−シス−レチニルエステルであり、C−C22ジカルボン酸(二塩基酸)置換基を含む。いくつかの実施例においては、ポリカルボン酸は9−シス−レチニル酒石酸塩あるいは11−シス−レチニル酒石酸塩ではない。いくつかの実施例においては、レチニルエステルは、一般的に目で発見できる自然発生のレチニルエステルではない。いくつかの実施例においては、レチニルエステルは分離したレチニルエステルである。ここで使用されるように、「分離した」という用語は、自生環境から離れて存在する分子を示し、従って天然物ではない。分離した分子は、生成された形態で、あるいは自然環境ではない環境で存在することができる。
【0054】
別の態様においては、レチナール誘導体は、9−シス−レチニルエステルあるいは後記の化学式Iのエーテルとすることができる。
【0055】
【化1】

【0056】
いくつかの実施例においては、AはCHORであり、Rはアルデヒド基とすることができ、レチニルエステルを形成する。適切なアルデヒド基は、CからC24直鎖あるいは分岐アルデヒド基である。アルデヒド基は、また、CからC14直鎖あるいは分岐アルデヒド基としてもよい。アルデヒド基は、CからC12直鎖あるいは分岐アルデヒド基、例えばアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、アンデカナール、ドデカナール等としてもよい。Rは、CからC10直鎖あるいは分岐アルデヒド基、CからC直鎖あるいは分岐アルデヒド基、あるいはCからC直鎖あるいは分岐アルデヒド基とすることができる。
【0057】
Rは、更に、ジカルボン酸あるいはその他のカルボン酸(例えばヒドロキシル基酸)のカルボキシレート基とすることができ、レチニルエステル(そのうちのいくつかは、また、レチノイルエステルとも称される)を形成する。カルボン酸は、例えば、シュウ酸(エタン二酸)、マロン酸(プロパン二酸)、コハク酸(ブタン二酸)、フマル酸(ブテン二酸)、リンゴ酸(2−ヒドロキシブテン二酸)、グルタル酸(ペンタン二酸)、アジピン酸(ヘキサン二酸)、ピメリン酸(ヘプタン二酸)、スベリン酸(オクタン二酸)、アゼライン酸(ノナン二酸)、セバシン酸(デカン二酸)、クエン酸、オキサロ酢酸、ケトグルタル酸、等とすることができる。
【0058】
Rは、また、アルカン基とすることもでき、レチニルアルカンエーテルを形成する。適切なアルカン基には、例えば、CからC24直鎖あるいは分岐アルキル基が含まれ、例えば、メタン、エタン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、等である。例えば、アルカン基は、直鎖、iso−、sec−、tert−、あるいはその他の分岐したCからCの範囲の低アルキルとすることができる。アルカン基は、また、直鎖、iso−、sec−、tert−、あるいはその他の分岐したCからC14の範囲の中鎖長のアルキルとすることもできる。アルカン基は、また、直鎖、iso−、sec−、tert−、あるいはその他の分岐したC16からC24の範囲の長鎖長のアルキルとすることもできる。
【0059】
Rは、また、アルコール基とすることもでき、レチニルアルコールエーテルを形成する。適切なアルコール基は、直鎖、iso−、sec−、tert−、あるいはその他の分岐したCからC16の範囲の低アルコール、直鎖、iso−、sec−、tert−、あるいはその他の分岐したCからC14の範囲の中鎖長のアルコール、または直鎖、iso−、sec−、tert−、あるいはその他の分岐したC16からC24の範囲の長鎖長のアルキルとすることができる。アルコール基は、例えば、メタノ−ル、エタノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、等とすることができる。
【0060】
Rは、また、カルボン酸とすることができ、レチニルカルボン酸エーテルを形成する。適切なアルコール基は、直鎖、iso−、sec−、tert−、あるいはその他の分岐したCからCの範囲の低カルボン酸、直鎖、iso−、sec−、tert−、あるいはその他の分岐したCからC14の範囲の中鎖長のカルボン酸、または直鎖、iso−、sec−、tert−、あるいはその他の分岐したC16からC24の範囲の長鎖長のカルボン酸とすることができる。適切なカルボン酸基には、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、バレリアン酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、リノール酸、コハク酸、フマル酸、等が含まれる。
【0061】
レチニル誘導体は、レチニルヘミアセタールとすることができ、AはCH(OH)ORである。Rは、前記の化学式Iにおいて説明したR基の何れかにすることができる。Rは、通常は低アルカンであり、例えば、メチル基あるいはエチル基、またはC1からC7の飽和および不飽和の環状あるいは非環状のヘテロ原子を持つあるいは持たないアルカン等であるのは、ここに述べるとおりである。
【0062】
レチニル誘導体は、レチニルアセタールとすることができ、AはCH(OR)ORである。RとRのそれぞれを、独立して、前記の化学式Iにおいて説明したR基の何れかより選択することができる。RとRは、通常はC1からC7の飽和および不飽和の環状あるいは非環状のヘテロ原子を持つあるいは持たないアルカン等であるのは、ここに述べるとおりである。
【0063】
レチニル誘導体は、また、レチニルオキシムとすることができ、AはCH:NOHあるいはCH:NORである。Rは、前記の化学式Iにおいて説明したR基の何れかにすることができる。Rは、通常は水素あるいはアルカンである。
【0064】
適切な合成レチナール誘導体の例には、例えば、9−シス−レチニルアセテート、9−シス−レチニルギ酸塩、9−シス−レチニルコハク酸エステル、9−シス−レチニルクエン酸塩、9−シス−レチニルケトグルタレート、9−シス−レチニルフマル酸エステル、9−シス−レチニルリンゴ酸塩、9−シス−レチニルオキサロ酢酸、9−シス−レチナールオキシム、9−シス−レチナールO−メチルオキシム、9−シス−レチナールO−エチルオキシム、9−シス−レチナールメチルアセタールおよびヘミアセタール、9−シス−レチニルメチルエーテル、9−シス−レチニルエーテル、9−シス−レチニルフェニルエーテルが含まれる。
【0065】
関連する態様において、レチナール誘導体は、後記の化学式IIの11−シス−レチニルエステルあるいはエーテルとするこができる。
【0066】
【化2】

【0067】
Aは、前記の化学式Iで説明した基の何れかにすることができる。
【0068】
適切な合成レチナール誘導体の例には、例えば、11−シス−レチニルアセテート、11−シス−レチニルギ酸塩、11−シス−レチニルコハク酸エステル、11−シス−レチニルクエン酸塩、11−シス−レチニルケトグルタレート、11−シス−レチニルフマル酸エステル、11−シス−レチニルリンゴ酸塩、11−シス−レチナールオキシム、11−シス−レチナールO−メチルオキシム、11−シス−レチナールO−エチルオキシム、11−シス−レチナールメチルアセタールおよびヘミアセタール、11−シス−レチニルメチルエーテル、11−シス−レチニルエチルエーテルが含まれる。
【0069】
更なる態様において、合成レチナール誘導体は、例えば、9−シス−レチニルエステル、9−シス−レチニルエーテル、11−シス−レチニルエステルあるいは11−シス−レチニルエーテルの誘導体とすることができ、例えば、非環状レチニルエステルあるいはエーテル、変性ポリエン鎖長を有するレチニルエステルあるいはエーテル、例えばトリエンまたはテトラエンレチニルエステルあるいはエーテル、置換したポリエン鎖を有するレチニルエステルあるいはエーテル、例えば、アルキル、ハロゲンまたはヘテロ原子置換ポリエン鎖;変性ポリエン鎖を有するレチニルエステルあるいはエーテル、例えばトランス−あるいはシス−固定ポリエン鎖、あるいは、例えばアレンまたはアルキン変異体を有するポリエン鎖;および環変異体を有するレチニルエステルあるいはエーテル、例えば、複素環の、複素芳香族のあるいは置換したシクロアルカンまたはシクロアルケン環である。
【0070】
合成レチナール誘導体は、後記の化学式IIIのレチニルエステルあるいはエーテルとすることができる。
【0071】
【化3】

【0072】
Aは、前記の化学式Iで説明した基の何れかにすることができる。RとRは、独立して、直鎖、iso−、sec−、tert−、あるいはその他の分岐したアルキル基からも、置換アルキル基、置換分岐アルキル、ヒドロキシル基、ヒドロアルキル、アミン、アミド、等からも選択することができる。RとRは、独立して、低アルキル、すなわち1から6個の炭素原子を有する直鎖あるいは分岐したアルキル、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、等とすることができる。適切な置換アルキルおよび置換分岐アルキルには、例えば、酸素、ヒドロキシル基、窒素、アミド、アミン、ハロゲン、ヘテロ原子、あるいはその他の基により置換したアルキル、分岐アルキルおよびシクロアルキルが含まれる。適切なヘテロ原子には、例えば、硫黄、シリコン、フッ素置換、臭素置換が含まれる。
【0073】
あるいはRは、また、シクロアルキル、例えばヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼンの他に、置換シクロアルキルとすることもできる。適切な置換シクロアルキルには、例えば、酸素、ヒドロキシル基、窒素、アミド、アミン、ハロゲン、ヘテロ原子および/またはその他の基により置換したシクロアルキルが含まれる。適切なヘテロ原子には、例えば、硫黄、シリコン、フッ素置換、臭素置換が含まれる。
【0074】
合成レチナール誘導体は、また、変性ポリエン鎖長を有することができるのは、後記の化学式IVのとおりである。
【0075】
【化4】

【0076】
Aは、前記の化学式Iにおいて説明した基の何れかにすることができる。ポリエン鎖長は、1、2あるいは3アルキル、アルケンあるいはアルキレン基により延長することができる。化学式IVによれば、nとnはそれぞれ独立して1、2あるいは3アルキル、アルケンあるいはアルキレン基から選択することができる。ただし、nとnの合計が少なくとも1であることを条件とする。
【0077】
合成レチナール誘導体は、また、後記の化学式Vの置換ポリエン鎖を有することができる。
【0078】
【化5】

【0079】
Aは、前記の化学式Iにおいて説明した基の何れかにすることができる。RからRまでのそれぞれは、独立して、水素、アルキル、分岐アルキル、シクロアルキル、ハロゲン、ヘテロ原子、等から選択することができる。適切なアルキルには、例えば、メチル、エチル、プロピル、置換アルキル(例えば、ヒドロキシル基、ヒドロアルキル、アミン、アミドを有するアルキル)、等が含まれる。適切な分岐アルキルは、例えば、イソプロピル、イソブチル、置換分岐アルキル、等とすることができる。適切なシクロアルキルには、例えば、シクロヘキサン、シクロヘプタン、その他の環状のアルカンの他に、置換環状アルカン、例えば、置換シクロヘキサンあるいは置換シクロヘプタンを含むことができる。適切なハロゲンには、例えば、臭素、塩素、フッ素、等が含まれる。適切なヘテロ原子には、例えば、硫黄、シリコン、フッ素置換、臭素置換が含まれる。適切な置換アルキル、置換分岐アルキルおよび置換シクロアルキルには、例えば、酸素、ヒドロキシル基、窒素、アミド、アミン、ハロゲン、ヘテロ原子あるいはその他の基により置換したアルキル、分岐アルキルおよびシクロアルキルが含まれる。
【0080】
例えば、合成レチナール誘導体は、後記より選択することができる。9−エチル−11−シス−レチニルエステル、エーテル、オキシム、アセタールあるいはヘミアセタール;7−メチル−11−シス−レチニルエステル、エーテル、オキシム、アセタールあるいはヘミアセタール;13−デスメチル−11−シス−レチニルエステル、エーテル、オキシム、アセタールあるいはヘミアセタール;11−シス−10−F−レチニルエステル、エーテル、オキシム、アセタールあるいはヘミアセタール;11−シス−10−Cl−レチニルエステル、エーテル、オキシム、アセタールあるいはヘミアセタール;11−シス−10−メチル−レチニルエステル、エーテル、オキシム、アセタールあるいはヘミアセタール;11−シス−10−エチル−レチニルエステル、エーテル、オキシム、アセタールあるいはヘミアセタール;9−シス−10−F−レチニルエステル、エーテル、オキシム、アセタールあるいはヘミアセタール;9−シス−10−Cl−レチニルエステル、エーテル、オキシム、アセタールあるいはヘミアセタール;9−シス−10−メチル−レチニルエステル、エーテル、オキシム、アセタールあるいはヘミアセタール;9−シス−10−エチル−レチニルエステル、エーテル、オキシム、アセタールあるいはヘミアセタール;11−シス−12−F−レチニルエステル、エーテル、オキシム、アセタールあるいはヘミアセタール;11−シス−12−Cl−レチニルエステル、エーテル、オキシム、アセタールあるいはヘミアセタール;11−シス−12−メチル−レチニルエステル、エーテル、オキシム、アセタールあるいはヘミアセタール;11−シス−10−エチル−レチニルエステル、エーテル、オキシム、アセタールあるいはヘミアセタール;9−シス−12−F−レチニルエステル、エーテル、オキシム、アセタールあるいはヘミアセタール;9−シス−12−Cl−レチニルエステル、エーテル、オキシム、アセタールあるいはヘミアセタール;9−シス−12−メチル−レチニルエステル、エーテル、オキシム、アセタールあるいはヘミアセタール;11−シス−14−F−レチニルエステル、エーテル、オキシム、アセタールあるいはヘミアセタール;11−シス−14−メチル−レチニルエステル、エーテル、オキシム、アセタールあるいはヘミアセタール;11−シス−14−エチル−レチニルエステル、エーテル、オキシム、アセタールあるいはヘミアセタール;9−シス−14−F−レチニルエステル、エーテル、オキシム、アセタールあるいはヘミアセタール;9−シス−14−メチル−レチニルエステル、エーテル、オキシム、アセタールあるいはヘミアセタール;9−シス−14−エチル−レチニルエステル、エーテル、オキシム、アセタールあるいはヘミアセタール;等である。
【0081】
合成レチナール誘導体は、更に、変性環状構造を有することができる。適切な例には、例えば、後記の化学式VI、VII、VIIIそれぞれの環変異体を有する誘導体、芳香族同族体、複素芳香族同族体が含まれる。
【0082】
【化6】

【0083】
Aは、前記の化学式Iにおいて説明した基の何れかにすることができる。R1からR6までのそれぞれは、規定どおりに、独立して水素、アルキル、置換アルキル、ヒドロキシル基、ヒドロアルキル、アミン、アミド、ハロゲン、ヘテロ原子、等から選択することができる。適切なアルキルには、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、等が含まれる。適切なハロゲンには、例えば、臭素、塩素、フッ素、等が含まれる。適切なヘテロ原子には、例えば、硫黄、シリコン、窒素が含まれる。化学式VIIにおいて、Xは、例えば、硫黄、シリコン、窒素、フッ素置換、臭素置換とすることができる。同様に、化学式VI、VII、VIIIに示す環変異体、芳香族同族体、複素芳香族同族体を有する9−シス−合成レチナール誘導体を意図する。
【0084】
合成レチナール誘導体は、また、変性ポリエン鎖を有することができる。適切な誘導体には、例えば、トランス/シス固定構造、6s−固定同族体の並びにポリエン鎖の変性アレン、アルケン、あるいはアルキレン基を有するものが含まれる。一つの実施例においては、誘導体は、後記の化学式IXの11−シス−固定同族体である。
【0085】
【化7】

【0086】
Aは、前記の化学式Iにおいて説明した基の何れかにすることができる。Rは、例えば、水素、メチルあるいはその他の低アルカンまたは分岐アルカンとすることができる。nは、0から4とすることができる。mに1を加算すると、1、2あるいは3となる。
【0087】
一つの実施例においては、合成レチナール誘導体は、後記の化学式Xの11−シス−固定同族体とすることができる。
【0088】
【化8】

【0089】
nは、1から4とすることができる。Aは、前記の化学式Iにおいて説明した基の何れかにすることができる。
【0090】
合成レチナール誘導体は、9、11、13−トリ−シス−7−環レチニルエステルあるいはエーテル、11、13−ジ−シス−7−環レチニルエステルあるいはエーテル、11−シス−7−環レチニルエステルあるいはエーテル、または9、11−ジ−シス−7−環レチニルエステルあるいはエーテルである。
【0091】
別の実施例においては、合成レチナール誘導体は、化学式XIの6s−固定同族体である。Aは、前記の化学式Iにおいて説明した基の何れかにすることができる。RとRは、独立して水素、メチルおよびその他の低アルキルおよび置換低アルキルから選択することができる。Rは、独立してアルケン基から、指示された場所のどちらからでも選択することができる。
【0092】
【化9】

【0093】
合成レチナール誘導体は、9−シス−環−融合誘導体とすることができ、例えば、化学式XIIからXIVに示すとおりである。Aは、前記の化学式Iにおいて説明した基の何れかにすることができる。
【0094】
合成レチナール誘導体は、また、後記の化学式XVあるいはXVIとすることができる。
【0095】
【化10】

【0096】
Aは、前記の化学式Iにおいて説明した基の何れかにすることができる。R2からR5、R7からR14、R16およびR17のそれぞれは、なしとするか、あるいは独立して水素、アルキル、分岐アルキル、ハロゲン、ヒドロキシル基、ヒドロアルキル、アミン、アミド、ヘテロ原子、等から選択することができる。適切なアルキルには、例えば、メチル、エチル、プロピル、置換アルキル(例えば、ヒドロキシル基、ヒドロアルキル、アミン、アミドを有するアルキル)、等が含まれる。適切な分岐アルキルは、例えば、イソプロピル、イソブチル、置換分岐アルキル、等とすることができる。適切なハロゲンには、例えば、臭素、塩素、フッ素、等が含まれる。適切なヘテロ原子には、例えば、硫黄、シリコン、フッ素置換、臭素置換が含まれる。適切な置換アルキルおよび置換分岐アルキルには、例えば、酸素、ヒドロキシル基、窒素、アミド、アミン、ハロゲン、ヘテロ原子、またはその他の基により置換したアルキルおよび分岐アルキルが含まれる。nとnのそれぞれは、独立して1、2あるいは3アルキル、アルケンあるいはアルキレン基から選択することができる。ただし、nとnの合計が少なくとも1であることを条件とする。なお、RからRおよび/またはRからR16は、環状炭素環のアルケン基からなることができ、その場合、R17はなしとする。R10とR13は、共に、シクロアルキル、例えば5、6、7、8員のシクロアルキルあるいは置換シクロアルキルを形成することができ、例えば、化学式IX、X、XII、XIII、XIVに示すとおりである。
【0097】
合成レチナールおよび誘導体の製造方法は、例えば、後記の引用文献に開示されている。Anal.Biochem.272:232−42(1999);Angew.Chem.36:2089−93(1997);Biochemistry 14:3933−41(1975);Biochemistry 21:384−93(1982);Biochemistry 28:2732−39(1989);Biochemistry 33:408−16(1994);Biochemistry 35:6257−62(1996);Bioorganic Chemistry 27:372−82(1999):Biophys.Chem.56:31−39(1995);Biophys.J.56:1259−65(1989);Biophys.J.83:3460−69(2002);Chemistry 7:4198−204(2001);Chemistry(Europe)5:1172−75(1999);FEBS 158:1(1983);J.American Chem.Soc.104:3214−16(1982);J.Am.Chem.Soc.108:6077−78(1986);J.Am.Chem.Soc.109:6163(1987);J.Am.Chem.Soc.112:7779−82(1990);J.Am.Chem.Soc.119:5758−59(1997);J.Am.Chem.Soc.121−5803−04(1999);J.American Chem.Soc.123:10024−29(2001);J.American Chem.Soc.124:7294−302(2002);J.Biol.Chem.276:26148−53(2001);J.Biol.Chem.277:42315−24(2004);J.Chem.Soc.−Perkin T.1:1773−77(1997);J.Chem.Soc.−Perkin T.1:2430−39(2001);J.Org.Chem.49:649−52(1984);J.Org.Chem.58:3533−37(1993);J.Physical Chemistry B 102:2787−806(1998);Lipids 8:558−65;Photochem.Photobiol.13:259−83(1986);Photochem.Photobiol.44:803−07(1986);Photochem.Photobiol.54:969−76(1991);Photochem.Photobiol.60:64−68(1994);Photochem.Photobiol.65:1047−55(1991);Photochem.Photobiol.70:111−15(2002);Photochem.Photobiol.76:606−615(2002);Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:9412−16(1991);Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:4072−76(1993);Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:13442−47(1997);およびProc.R.Soc.Lond.Series B,Biol.Sci.233(1270):55−76 1988)(これらの開示は参照することによりここに組み込まれる)。
【0098】
レチニルエステルは、例えば、後記の技術において知られている方法により形成することができる。すなわち、カルボン酸によるレチノールの酸性触媒エステル化、レチノールによるハロゲン化アシルの反応、カルボン酸によるレチニルエステルのエステル交換、レチノイン酸のカルボキシレート塩による第一ハロゲン化物の反応、レチノールによる無水物の酸性触媒反応、等である。例においては、レチニルエステルは、カルボン酸によるレチノールの酸性触媒エステル化により形成される。前記カルボン酸は、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、バレリアン酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、リノール酸、コハク酸、フマル酸、等である。別の例においては、レチニルエステルは、レチノールによるハロゲン化アシルの反応により形成される(例えば、Van Hooser et al.,Proc. Natl.Acad.Sci.USA,97:8623−28(2000)を参照)。適切なハロゲン化アシルには、例えば、塩化アセチル、塩化パルミトイル、等が含まれる。
【0099】
レチニルエーテルは、例えば、第一ハロゲン化アルキルによるレチノールの反応等の技術において知られている方法により形成することができる。
【0100】
トランスレチノイドは、紫外線への照射により異性化してシスレチノイドとなる。例えば、オールトランスレチナール、オールトランスレチノール、オールトランスレチニルエステル、オールトランスレチノイン酸は、それぞれ9−シス−レチナール、9−シス−レチノール、9−シス−レチニルエステル、9−シス−レチノイン酸に異性化する。トランスレチノイドは、例えば、約365nmの波長を有し、シスレチノイドの分解を生じさせる実質的にそれより短い波長を有さない紫外線への照射により9−シス−レチノイドに異性化するのは、ここに更に述べるとおりである。
【0101】
レチニルアセタールおよびヘミアセタールは、例えば、酸性触媒の存在下でのアルコールによる9−シス−および11−シス−レチナールの処理により生成することができる。反応の間に形成された水は、例えば、モレキュラーシーブのAlにより除去される。
【0102】
レチニルオキシムは、例えば、ヒドロキシルアミン、O−メチルあるいはO−エチルヒドロキシルアミン、等によるレチナールの反応により生成することができる。
【0103】
特定のオプシンタンパク質に関しては、適切な合成レチナール誘導体は、例えば、オプシンタンパク質を発現する発現系により特定することができる。適切な動物モデルには、例えば、RPE65−/−あるいはLRAT−/−マウスが含まれる(例えば、Van Hooser et al.,J.Biol.Chem.277:19173−82(2002);Baehr et al.,Vision Res.43:2957−58(2003);Batten et al.,J.Biol.Chem.279:10422−32(2004);Kuksa et al.,Vision Res.43:2959−81(2003);Thompson et al.,Dev.Ophthalmol.37:141−54)2003)を参照)。その他の適切な非ヒト動物モデルには、更に、その他のマウス、ラット、または霊長類系が含まれる。それらの動物モデルは、例えば、オプシンをその染色体にエンコードする核酸と突然変異オプシンをエンコードする外因性の核酸の間に相同的組み換えを促進することにより準備することができる。一つの態様においては、相同的組み換えは、オプシン遺伝子を有する媒介動物により胚性幹(ES)細胞を変形させることにより行なわれる。例えば、相同的組み換えが発生すると、続いてES細胞を胚盤胞に注入して胚盤胞をフォスターマザーに移植し、続いてキメラ動物が誕生する(例えば、Capecchi,Science 244:1288−92(1989)参照)。キメラ動物を繁殖させて、更なるトランスジェニック動物を生み出すことができる。
【0104】
適切な発現系には、また、例えば、in vitroシステムあるいはinvivoシステムを含むことができる。適切なin vitroシステムには、例えば、カップルトランスクリプション−トランスレーションシステムが含まれる。適切なin vivoシステムには、例えば、オプシンタンパク質を発現する細胞が含まれる。例えば、脊椎動物の視覚体系の細胞は、in vitro培養に適応することができ、またはオプシンタンパク質を発現する組み換え細胞株を使用することができる。その細胞株は、通常はオプシンタンパク質を発現する安定した細胞株である。合成レチナールあるいは合成レチナール誘導体を細胞培養媒体、および適切な期間培養される細胞に付加し、オプシン/ロドプシンの生成を可能にすることができる。オプシンおよび/またはロドプシンは、分離することができる(例えば、免疫親和性により)。分離したタンパク質試料は、試験され、形成された色素の量および最大吸光度を測定する。核酸を脊椎動物の細胞に導入する方法は、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press(Cold Spring Harbor,New York,2001)に開示されている。
【0105】
オプシンタンパク質を発現する組み替え細胞株は、例えば、オプシンタンパク質をエンコードする発現構成を適切な細胞株に導入することにより準備することができる。発現構成には、通常はオプシンタンパク質をエンコードする核酸に手術可能に結合した助触媒、および選択的には終結シグナルが含まれる。オプシンをエンコードする核酸は、例えば、データベース(例えば、a genomic or cDNA library)からの情報の使用、ポリメラーゼ連鎖反応、等により入手することができる。例えば、オプシンをエンコードする核酸は、ハイブリダイゼーションにより入手することができる(概して、Sambrook et al.(前記)を参照)。オプシンをエンコードする核酸は、低度の、中度の、あるいは高度の厳重な環境下でのハイブリダイゼーションにより入手することができる。
【0106】
オプシンをエンコードする核酸は、高度の厳重な環境下で入手することができる。限定ではなく一例として、高度の厳重な環境を使用した処置は後述のとおりである。DNAを含むフィルターのプレハイブリダイゼーションは、8時間から一晩中、65℃で、6x SSC、50 mM Tris−HCl(pH 7.5)、1 mM EDTA、0.02% PVP、0.02% Ficoll、0.02% BSA、および500 μg/mlの変性したサケ精子DNAからなるバッファーの中で行なわれる。フィルターは、48時間、65℃で、100 μg/mlの変性したサケ精子DNAおよび32P−標識プローブの5−20 x 10 cpmを含むプレハイブリダイゼーション混合物の中でハイブリダイズされる。フィルターの洗浄は、65℃で1時間、2x SSC、0.01% PVP、0.01% Ficoll、および0.01% BSAを含む溶液の中で行なわれる。これに続き、0.1x SSCの中で、50℃で45分間洗浄してからオートラジオグラフィーが行なわれる。使用することのできるその他の高度の厳重な環境は、当技術分野において周知である(概して、Sambrook et al.(前記)を参照)。
【0107】
発現構成は、選択的に、一つのあるいはそれ以上の複製起点および/または選択可能なマーカー(例えば、抗生物質抵抗性遺伝子)を含むことができる。適切な選択可能なマーカーには、例えば、アンピリシン、テトラサイクリン、ネオマイシン、G418、等への耐性を付与するものが含まれる。適切な細胞株には、例えば、HEK293細胞、T−RExTM−293細胞、CHO細胞、またはその他の細胞あるいは細胞株が含まれる。
【0108】
ロドプシン(オプシンと合成レチナールからなる)の紫外線可視領域を監視して、合成レチナールがオプシンタンパク質によりシッフ塩基を形成したかどうかを確定することができる。例えば、酸変性した、精製したタンパク質を解析して、約490nmの最高吸光度があるかどうかを確定することができる。合成レチナール誘導体がオプシンタンパク質によりシッフ塩基を形成したという証拠を立証することを条件とする。ヒドロキシルアミン処理を使用して、シッフ塩基が外部環境より隔離されていることを確認することができる。
【0109】
適切な合成レチナール誘導体は、また、ロドプシンの分子モデリングにより選択することができる。ロドプシン結晶構造の座標は、タンパク質データバンク(1HZX)(Teller et al.,Biochemistry 40:7761−72(2001)より入手できる。ロドプシンの構造に関する、およびオプシンと11−シス−レチナールあるいは合成レチナールの間の接触に関するアミノ酸置換の効果は、分子モデリングにより確定することができる。
【0110】
タンパク質データバンク(1HZX)のロドプシン結晶構造の座標(Teller et al.,Biochemistry 40:7761−72(2001)を使用して、コンピュータモデルを作成することができる。水素原子の付加および最適化は、例えば、Insight II(InghtII release 2000、Accelrys,Inc.,San Diego,CA)を使用して行うことができる。結晶水を除去し、細胞外領域の接近可能なスペースに基づき水分子を導入することができる。通常は、水が付加される前に最小化は行なわれない。水層(例えば、厚さ5Å)を使用して、ロドプシンの細胞外部分の他に、リン脂質の極性頭部との接触の残中物の表面を覆うことができる。ロドプシンの細胞外半分と同様に、全ての水分子が、レチナールと共に自由に移動するのを可能にすることができる。ロドプシンの細胞質部分に水キャップが置かれない場合は、分子のこの部分を凍結してモデルの分解を防ぐことができる。
【0111】
水キャップは、ロドプシンの細胞質部分に置くことができる(リン脂質の極性頭部と接触する細胞膜に埋め込まれた部分と共に)。水およびロドプシンの細胞外部分は運動可能にすることができ、運動はあらゆる適切な周波数でモデル化される。例えば、モデル化されたロドプシンの運動は、100ps シミュレーションでモデル化されることができる。
【0112】
合成レチナールは、適切な環境下で、およびオプシンタンパク質/合成レチナール複合体の生成に十分な期間、オプシンタンパク質と接触させることができる。オプシン/合成レチナール複合体の安定性は、ここに述べる方法、あるいは当業者に知られている方法により測定することができる。オプシン/合成レチナール複合体のオプシンは、それが安定性の増加を示す時に安定する(例えば、合成レチナールに結合した時、遊離オプシン(すなわち、レチノイドに結合していない)と比較して増加した半減期は、ヒドロキシルアミンに対する感受性はより低く、より少ないアグレソーム蓄積を示す、等)。
【0113】
合成レチナールは、in vitroあるいはin vivoでオプシンタンパク質と接触することができる。例えば、オプシンタンパク質をin vitro翻訳系(例えば、小麦胚芽あるいは網状赤血球溶血液の発現系)において合成し、合成レチナールをその発現系に付加する。オプシンタンパク質をex vivoでオプシンタンパク質と接触させ、その複合体を脊椎動物の眼に投与することができる。
【0114】
別の態様においては、合成レチノール誘導体の使用方法を提供し、脊椎動物の視覚体系における光受容機能を回復あるいは安定させ、または光受容体の喪失を改善することができる。合成レチナール誘導体を、レチノイドの不足(例えば、11−シス−レチナールの不足)、遊離オプシンの過剰、全トランス−レチナールの再循環におけるレチノイド老廃物(例えば、分解)または中間物質の過剰等を示す脊椎動物の眼に投与することができる。脊椎動物の眼は、通常は野生型オプシンタンパク質からなる。脊椎動物の眼の内因性レチノイドレベル、あるいはそのようなレチノイド類の不足の測定方法は、例えば、米国暫定特許出願第60/538,051号(2004年2月12日出願)に開示されている(その開示は、参照することによりここに組み込まれる)。脊椎動物の眼の内因性レチノイドレベル、あるいはそのようなレチノイド類の不足を測定するその他の方法には、例えば、被験者からのサンプル中のレチノイドの高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)分析等が含まれる。例えば、レチノイドレベルあるいはレチノイドレベルの不足は、被験者からの血液サンプルから測定できる。
【0115】
血液サンプルは、被験者から入手することができ、サンプル中のレチノイドの型およびレベルは、分離して、標準相高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)(例えば、HP1100HPLCおよびBeckman、Ultrasphere−Si、4.6mm x 250mmカラムで、10%酢酸エチル/90%ヘキサンを使用して、流速1.4ml/min.で)により解析することができる。このレチノイドは、例えば、325nmで、ダイオードアレイ検出器およびHP Chemistation A.03.03ソフトウェアにより検出することができる。レチノイドの不足は、例えば、サンプル中のレチノイドのプロフィールを対象被験者(例えば、正常被験者)からのサンプルと比較することにより測定することができる。
【0116】
ここで使用されるとおり、内因性レチノイド、例えば11−シス−レチナール等のレベルの喪失、不足、または消耗とは、同種の脊椎動物の健康な眼に見出されるレチノイドのレベルより低い内因性レチノイドのレベルを示す。合成レチナール誘導体は、内因性レチノイドの要件を抑えることができる。
【0117】
ここで使用されるとおり、「予防的な」および「予防的に」は、合成レチナール誘導体を投与されない同程度の脊椎動物の視覚体系と比較して、合成レチナール誘導体を投与して脊椎動物の視覚体系の悪化あるいは更なる悪化を防ぐことを示す。「回復する」という用語は、合成レチナール誘導体を投与されない同程度の脊椎動物の視覚体系と比較して、脊椎動物の光受容機能の長期的な(例えば、数週間後あるいは数ヵ月後に測定して)改善を示す。「安定化する」という用語は、合成レチナール誘導体を投与されない同程度の脊椎動物の視覚体系と比較して、脊椎動物の視覚体系の更なる分解の最小化を示す。
【0118】
一つの態様において、脊椎動物の眼は、レーバー先天性黒内障(「LCA」)を有することを特徴とする。この疾患は、非常に稀な小児疾患であり、出生時あるいはその後間もない小児に発症する。それは、眼の杆体および錐体の両方を侵す。例えば、RPE65およびLRATタンパク質をエンコードする遺伝子の、ある突然変異が、LCAに関係する。両遺伝子の突然変異により、人は十分な量の11−シス−レチナールを作ることができなくなる。その結果、11−シス−レチナールは、存在しないか、あるいは減少した量で存在することとなる。RPE65欠陥患者は、レチニルエステルがRPEに形成される。LRAT欠陥患者は、エステルを作ることができず、従って、過剰なレチノイドを分泌する。LCAに関しては、合成レチナール誘導体を使用して、存在しない、あるいは消耗した11−シス−レチナールを置換することができる。
【0119】
別の態様においては、脊椎動物の眼は、白点状網膜炎を有することを特徴とする。この疾患は、網膜色素変性症の一つの型であり、杆体の11−シス−レチナールの不足を示す。合成レチナール誘導体を使用して、存在しない、あるいは消耗した11−シス−レチナールを置換することができる。
【0120】
別の態様においては、脊椎動物の眼は、先天性定常夜盲(「CSNB」)、あるいは白点状眼底を有することを特徴とする。この疾患群は、夜盲という徴候が現れるが、網膜色素変性症のような進行性視力低下はない。CSNBのいくつかの型は、11−シス−レチナールの再循環の遅れによる。白点状眼底は、最近まで、CSNBの特殊な症例と考えられており、無数の小さな白点が網膜に現れて網膜の外観が異常になる。最近、これもまた進行性疾患であることが明らかとなった。ただし、網膜色素変性症よりずっと遅い進行である。これは、遺伝子欠陥が11−シス−レチナールの再循環の遅れを導くことにより発生する。そこで、合成レチノール誘導体を投与して、レチノイド置換により光受容機能を回復することができる。
【0121】
更に別の態様においては、脊椎動物の眼は、加齢性黄斑変性症(「AMD」)を有することを特徴とする。AMDには、湿型と乾型がある。AMDにおいては、疾患後期の合併症が、新生血管を網膜下に増殖させる時、あるいは網膜萎縮を引き起こす時に、視力喪失が起きる。特定の理論による拘束を意図するのではないが、光受容体からの過度の老廃物がRPEに過負荷をかける可能性がある。これは、オプシンに結合することのできる11−シス−レチナールの不足による。遊離オプシンは、安定した合成物ではなく、光を与えられなくとも自発的に視カスケードの生化学反応の燃焼を起こすことができる。
【0122】
合成レチナール誘導体を脊椎動物の眼に投与して、11−シス−レチナールの不足を緩和し、オプシンの自発的誤燃焼を抑えることができる。合成レチナール誘導体の投与は、老廃物の生成を減少させ、および/またはドルーゼ形成を減少させ、視力喪失(例えば、脈絡膜血管新生および/または脈絡膜萎縮症)を減少あるいは遅らせることができる。
【0123】
更に別の態様においては、合成レチナール誘導体は、老化した対象、例えばヒトに投与される。ここで使用されるとおり、老化した被験者は、通常は最低45歳、あるいは最低50歳、あるいは最低60歳、あるいは65歳である。被験者は加齢眼を有しており、夜間視力および/またはコントラスト感度が低下していることを特徴とする。過剰な非結合オプシンは、不規則に視覚伝達系を刺激する。これは、その系にノイズを発生させ、その結果、よく見るためにはより多くの光およびコントラストが必要となる。これらの遊離オプシン分子を合成レチナールで抑制すると、自発誤燃焼が減少し、SN比が向上し、それにより夜間視力とコントラスト感度が改善する。
【0124】
合成レチナール誘導体は、ヒトあるいは非ヒト脊椎動物に投与することができる。合成レチナール誘導体は、実質的に純粋であり得る。すなわち、約5%以下、あるいは約1%以下、あるいは約0.1%以下のその他のレチノイドを有する。合成レチノール誘導体の混合物を投与してもよい。
【0125】
合成レチナール誘導体は、あらゆる適切な手段、例えば、経口投与、静脈投与、筋肉投与、または局所投与により、眼に供給することができる。局所投与の方法は、例えば、点眼、眼内注射、または眼周囲注射が含まれる。眼周囲注射は、通常は、合成レチナール誘導体の結膜あるいは腱(眼を覆っている繊維組織)への注射を含む。眼内注射は、通常は、合成レチナール誘導体の硝子体への注射を含む。投与は非侵襲的であり、点眼あるいは経口投薬である。
【0126】
合成レチナール誘導体は、例えば、眼への局所投与および/または静脈投与、筋肉投与、あるいは経口投与のための医薬組成物として処方することができる。いくつかの実施例においては、医薬組成物は局所製剤ではない。その他の実施例においては、医薬組成物は化粧品処方ではない。
【0127】
合成レチナール誘導体は、薬学的に容認可能な賦形剤並びに当技術分野において日常的に使用されている技術を使用した投与ために処方することができる。賦形剤は、合成レチナール誘導体の溶解度により選択することができる。適切な医薬組成物には、例えば点眼や注射により眼に局所的に投与可能なものが含まれる。点眼の場合、製剤には、例えば、塩化ナトリウム、濃グリセリン等の等張化剤;リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等の緩衝剤;ポリオキシエチレンソルビタン・モノオレエート(ポリソルベート80とも称される)、ポリオキシステアレート40、ポリオキシエチレン水素化ヒマシ油等の界面活性剤;クエン酸ナトリウム、エデンテートナトリウム等の安定剤;塩化ベンザルコニウム、パラベン類等の保存料;およびその他の成分も選択的に含まれる。保存料は、例えば、約0.001%から約1.0%重量/容量のレベルで使用することができる。製剤のpHは、通常は、眼科的処方に容認できる範囲内、例えば約pH4から8の範囲内である。
【0128】
適切な医薬組成物には、また、注射のために処方されたものも含まれる。例えば、合成レチナール誘導体は、注射用食塩水に、注射用リポソーム溶液に、あるいはその他のキャリアや賦形剤に提供することができる。眼内および眼周囲注射は、当業者には周知であり、多くの出版物、例えばOphthalmic Surgery:Principles of Practice,Ed.,G.L.Spaeth,W.B.Sanders Co.,Phyladelphia,Pa.,U.S.A.,p.85−87(1990)等に記載されている。
【0129】
合成レチナール誘導体は、また、時限放出型製剤、例えば、スロウリリースポリマーを含む組成物において投与することができる。合成レチナール誘導体は、その組成物をラピッドリリースから保護するキャリア、例えば、インプランツおよびマイクロカプセル化伝達系を含む放出制御製剤を使用して準備することができる。生分解性、生体適合性ポリマー、例えば、エチレン酢酸ビニル、ポリアンヒドライド、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルソエステル、ポリ乳酸、およびポリ乳酸・ポリグリコール酸共重合体(PLG)を使用することができる。これらの製剤の調合方法は、多数、当技術分野において周知である。
【0130】
適切な経口投与型には、例えば、錠剤、丸薬、サチェット、あるいは硬または軟ゼラチンのカプセル、メチルセルロースあるいは消化管で溶解し易いその他の適切な材料からなるカプセル類が含まれる。適切な無毒性固体キャリア、例えば、医薬品等級のマンニートル、ラクトース、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルカム、セルロース、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウム等を使用することができる(例えば、Remington 「Pharmaceutical Sciences」,17Ed.,Gennaro(ed.),Mack Publishing Co.,Easton,Pennsylvania(1985)を参照)。
【0131】
合成レチナール誘導体の投与量は、被験体の臨床状態、症状および年齢、投与型等に応じて適切に選択することができる。点眼の場合、合成レチナール誘導体は、例えば、一回量として約0.01mg、約0.1mg、あるいは約1mgから、約25mg、約50mg、あるいは約90mgまで投与することができる。点眼薬は、必要に応じて1日に1回あるいはそれ以上投与することができる。注射の場合、適切な投与量は、例えば、約0.0001mg、約0.001mg、約0.01mg、あるいは約0.1mgから約10mg、約25mg、約50、あるいは約500mgまでの合成レチナール誘導体を週に1から4回とすることができる。その他の実施例においては、約1.0から約300mgの合成レチナール誘導体を週に1から3から5回、投与することができる。
【0132】
経口投与量は、一般的には、約1.0から約1000mg、1日に1から4回あるいはそれ以上の範囲とすることができる。経口投与の典型的な投与は、約10から約250mg、1日に1から3回の範囲である。
【0133】
後記の実施例は、単に本発明の様々な態様の説明として提供されるのであり、決して本発明を制限するものと解釈されない。
【実施例】
【0134】
実施例1
9−シス−レチニルエステルは、LCAのマウスモデルの視覚色素を回復させる。LRAT−/−マウスは、全トランス−レチニルパルミテート、全トランス−レチニルアセテート、あるいは9−シスレチニルアセテートでガバージュされるのは、図1の説明文のとおりである。続いての処置は、レチノイドが眼および肝臓から抽出され、HPLCにより解析される。図1の左に示すとおり、マウスの処置で、9−シス−レチニルアセテートによるもののみ合成9−シス−レチナールオキシムの存在が回復され、全トランス−レチニル同族体によるものでは回復されない。これらのマウスでは、発色団の生成と、視力の回復が見られる。レチノイドの重大な貯留は、肝臓では観測されず、LRATが非常に発現しており、ヒトLCAのこの動物モデルには、レチノイドによる低度の毒性がある、あるいは毒性がないことを示している。9−シス−レチニルエステルは、約5hr(図2)で視覚色素を回復させる。一方、過剰なレチノイドは取り除かれて代謝される(9−シス−レチノールに図示されるとおりである)。
【0135】
実施例2
ビタミンAおよびその誘導体は、光に照射されて異性化する。例えば、Rao et al.(Tetrahedron Letters 31:3441−44(1990))は、広い波長の紫外線を使用した全トランス−レチノールアセテート(ビタミンAの誘導体)の光異性化は全トランス−、13−シス、および9−シスレチノールアセテート異性体の混合物を生成できることを示す。しかしながら、この方法は、通常は効果的ではなく、そのようなレチノイドを少量しか生成できない。
【0136】
方法
全トランス−レチノイドの溶液は、メタノールに1mg/mLの濃度で作られる。この溶液は、ガラスのペトリ皿に付加され、Bio−Rad GS Genelinkerのストック電球を8wattのF8T5電球に取り替えて使用することにより365nmの紫外線にさらされる。時間の長さは対象のレチノイドにより変わる。この波長は効果的である。より短い波長の光はすぐにレチノイドを破壊するからである。紫外線の処置に続き、溶液は乾かされて、ヘキサンに溶かされて、正常相のHPLCを使用して浄化される。変換収率は、それぞれの全トランス誘導体により変化する。異性化していない全トランス誘導体、あるいは13−シスまたは11−シス誘導体は、その後の反復において再利用することができ、それにより収率が向上する。
【0137】
結果
全トランス−レチニルアセテートからの9−シス−レチニルアセテートの生成。全トランス−レチニルアセテート(Sigma # R4632)は、メタノールで1mg/mlの濃度に溶かされる。溶液はガラスのペトリ皿に注がれて、365nmの紫外線で照射され、異性化を引き起こす(図3)。2分間の照射は異性体の混合、〜25% 9−シスレチニルアセテートを生成するのは、HPLC(図4)に示すとおりである。
【0138】
後記の図は、この方法で作ることのできるその他の混合物の説明である。
【0139】
【化11】

【0140】
【化12】

【0141】
Rは、水素、あるいはC1からC6の範囲のより低いアルキルである。R′は、Rあるいはパルチミン酸塩、オレイン酸塩、あるいはコハク酸エステル、フマル酸エステル、あるいはその他の機能基等の複合基、等のより高いアルキルである。
【0142】
実施例3
Lrat−/−マウスの眼の9−シス−RALオキシム(syn−およびanti−9−シス−レチニルアルデヒドとして測定)の、9−シス−レチニルアセテート(9−シス−R−Ac)の一回の投与あるいは複数回の投与の後のレベル。9−シス−R−Acは、500μl(2.5mg/ml)の量のベジタブル油(100%カノーラ油)での口径投与により、Lrat−/−マウスに投与される。マウスは約30から50gの重さである。3日後、9−シス−RALオキシムのレベルがHPLCにより測定される。すなわち、解剖したマウスの眼からのレチノイドの抽出、誘導体化、および分離に関する実験の全手続は、前述のとおりに行なわれる。Van Hooser et al.,J.Biol.Chem.277:19173−182(2002);Van Hooser et al.,Proc. Natl.Acad.Sci.USA,97:8623−28(2000);Maeda et al.,J.Neurochem.85:944−56(2003)を参照されたい。レチノイドに関する全ての反応は、暗赤色灯の下で行なわれる。
【0143】
図5aを参照すると、9−シス−R−Acの投与量を変更した後のマウスの眼のLrat−/−の9−シス−RALのレベルが示されている。最高点は、保持時間および紫外スペクトルにより標準と比較して特定される。19分前後の急上昇は、溶媒組成の変化による結果である。レチノイドの解析は、ダイオードアレイ検出器およびHP Chemstation(A.07.01)ソフトウェアを備えたHP1100HPLCで行われ、固有の持続時間および吸収最高点によるレチノイド異性体の特定を可能にする。正常相のカラム(Beckman Ultrasphere Si 5μ,4.6mm x 250mm)および0.5%エチルアセテートのアイソクラチック溶媒系をヘキサン(v/v)中に15分間、続いて4%エチルアセテートをヘキサン中に60分間、1.4ml/min(合計80分)の流速で、325nmで検出すると、11−シス−レチニルエステル、13−シス−レチニルエステルおよび全トランス−レチニルエステルを20℃で部分的に分離することが可能となる。
【0144】
約4から6μmoleの投与量で安定している眼当たりの9−シス−RALのレベル。図5bを参照すると、9−シス−R−Acの投与量および回数を変えた後のLrat−/−マウスの眼の9−シス−RALのレベルが示されている。9−シス−RALのレベルは、時間と共に蓄積する。9−シス−RALのレベルは、眼当たり約50μmoleから、眼当たり約600μmoleに増加する。灰色の実線は、10回の投与の後のLrat−/−マウスの眼の9−シス−レチナールオキシムのレベルにより測定されたイソロドプシンの最高レベルを示す。灰色の点線は、標準偏差を示す。イソロドプシンの最高レベルは、野生型(WT)のマウスのロドプシンのレベルに準拠する。
【0145】
実施例4
発色団(オプシン/レチナール混合物)のレベルは 全トランス−レチノイドイソフォームあるいは9−シス−レチニルコハク酸エステルの投与の後、マウスの眼の中で測定される。全トランス−レチニルパルミチン酸、全トランス−レチニルアセテート、全トランス−レチナール(ビタミンAアルデヒド)、全トランス−レチノール(ビタミンA)、全トランス−レチニルコハク酸エステルおよび9−シス−レチニルコハク酸エステルは、経口投与によりLrat−/−マウスに投与される。5ミリグラムのレチノイドイソフォームあるいは9−シス−レチニルコハク酸エステルは、100%カノーラ油に40mg/mlの濃度で投与される。3日後、発色団(全トランス−レチナールオキシムあるいは9−シス−レチナールオキシムとして)のレベルは、前述のとおりに測定される。Van Hooser et al.,J.Biol.Chem.277:19173−182(2002);Van Hooser et al.,Proc. Natl.Acad.Sci.USA,97:8623−28(2000);Maeda et al.,J.Neurochem.85:944−56(2003)を参照されたい。レチノイドに関する全ての反応は、暗赤色灯の下で行なわれる。
【0146】
図6を参照すると、全トランス−レチノイドイソフォームは、本質的に発色団のレベルの回復に影響を持たない。反対に、9−シス−レチニルコハク酸エステルの投与は、発色団のレベルを回復させる。
【0147】
実施例5
LRAT−/−モデルに経口投与された9−シス−レチンアルデヒドと9−シス−レチニルアセテートの生物学的利用率の比較。9−シス−レチンアルデヒドと9−シス−レチニルアセテートが、少量(10μmoles)および高用量(15μmoles)LRAT−/−マウスに投与される。発色団のレベル(9−シス−レチナールオキシムとして)は、前述のとおりに測定される。Van Hooser et al.,J.Biol.Chem.277:19173−182(2002);Van Hooser et al.,Proc. Natl.Acad.Sci.USA,97:8623−28(2000);Maeda et al.,J.Neurochem.85:944−56(2003)を参照されたい。レチノイドに関する全ての反応は、暗赤色灯の下で行なわれる。
【0148】
図7を参照すると、少量でも高用量でも、9−シス−レチニルアセテートの投与は、9−シス−レチンアルデヒドより効果的に発色団のレベルを回復させる。この効果は、少量(10μmoles)の場合、更に断定することができる。レチノイドの投与は毒性を誘発する可能性があるので、レチニルエステル(例えば、9−シス−レチニルアセテート)等のプロドラッグが、適切な、生物学的に利用可能なフォームを提供し、発色団のレベルを回復させ、一方、レチノイドの毒性に関連する危険を低減させる。
【0149】
前述の実施例は、請求項にかかる発明の範囲を、説明するために提供したが、限定するものではない。その他の発明の変形は、当業者には明白であり、添付の請求項に含まれる。ここに引用される全ての公報、特許、特許出願、およびその他の文献は参照することによりここに組みこまれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成レチナール誘導体及び薬学的に容認可能な賦形剤を含む、ヒト被験体における内因性11−シス−レチナール不足を治療するための医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−229234(P2012−229234A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−145562(P2012−145562)
【出願日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【分割の表示】特願2007−516822(P2007−516822)の分割
【原出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(506418002)ユニバーシティ オブ ワシントン (3)
【Fターム(参考)】