説明

視機能低下予防又は改善剤

【課題】安全性が高く、医薬品、医薬部外品、食品等として有用な視機能低下予防及び/又は改善剤の提供。
【解決手段】スオウ、ジンジャー及びシソから選ばれる1種以上の植物又はその抽出物を有効成分とする視機能低下予防及び/又は改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RDH12遺伝子発現促進剤、PEDF遺伝子発現促進剤及び視機能低下予防又は改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコン、インターネット、携帯メール等の普及に伴い、画像表示端末(Visual displayterminal(VDT))作業を行う時間が増えるとともに、目の疲れやそれに伴う全身的な疲労(眼精疲労)が問題となっている。実際、約12,000の民営事業所を対象として厚生労働省が行った「平成15年技術革新と労働に関する実態調査」において、仕事でのVDT作業で身体的な疲労を自覚している労働者の91.6%が「目の疲れ・痛みがある」と回答したと報告されている(非特許文献1)。
【0003】
また、老視、白内障、緑内障、加齢性黄斑変性を始めとした加齢に伴う視機能低下や、糖尿病網膜症等の疾病に伴う視機能低下は、QOL(Quality of Life)を低下させる原因となることから、それらについても予防・改善が必要とされる。とりわけ、高齢化社会においては、加齢に伴う視機能低下は深刻な問題となるものと考えられる。
【0004】
これまでにも、疲れ目、加齢・疾病に伴う視機能低下を改善する試みがなされ、アントシアニン(特許文献1)、アスタキサンチン(特許文献2)、菊花(特許文献3)等が視機能改善作用を有することが明らかとされてきた。しかしながら、これらの成分については、その作用メカニズムも詳細には明らかになってはおらず、視機能低下予防・改善作用についても十分満足できるものとは言い難い。
【0005】
また、疲れ目、及び加齢・疾病に伴う視機能低下の主な原因の一つとして網膜機能低下が挙げられる。網膜機能とは、網膜に存在する光の受容細胞である「視細胞」が、光シグナルを電気シグナルに変換し中枢に伝達する機能であるが、視細胞に存在する光レセプター、ロドプシンの減少は網膜機能低下を引き起こす原因の一つで、ブルーベリーやカシスに含まれるアントシアニンについて知られている視機能低下予防・改善作用には、ロドプシン再合成の促進作用が関与しているとされている(非特許文献2)。
【0006】
ロドプシンは、オプシンという7回膜貫通型タンパクと共同因子のレチナール(11-cis-retinal)より構成されており、視細胞の外節(retina outer segment)の円盤状の膜組織に存在している。光により、11-cis-retinalからall-trans-retinalへの異性化が生ずると、オプシンは構造変化を起こしトランスデューシン(Gタンパク質)の活性化を引き起こす。情報伝達系の活性化の結果、光シグナルは電気シグナルに変換され、視神経を介して中枢へと伝えられることになる。一つの視細胞が再び光を受容するためには、all-trans-retinalが、複数の酵素反応によって11-cis-retinalに変換され、ロドプシンが再合成される必要があることが分かっている。
【0007】
RDH12(retinol dehydrogenase 12)遺伝子は、11-cis-retinolから11-cis-retinal(先述のロドプシンを構成するレチナール)への変換を触媒する酵素をコードする遺伝子で、ロドプシン再合成における重要な遺伝子である。RDH12の遺伝的欠損は重度の視覚障害をきたすことからも、視機能維持にとって重要な役割を担っていると考えられている(非特許文献3)。又、マウスを用いた研究においてRDH12が網膜変性の抑制作用を執することが示されている(非特許文献4)。これらのことから、RDH12の発現増強、機能亢進は、視機能低下の予防・改善の良い手段となると考えられる。
【0008】
一方、PEDF(pigment epithelium-derived factor)は、血管新生阻害作用や神経保護作用を有する分泌タンパク質として知られている。加齢や酸化ストレスによりPEDFの発現減少が起こること、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性等の眼疾患においてPEDFのヒト硝子体における濃度は低値を示すことが報告されており(非特許文献5)、視機能低下、とりわけ、加齢、及び疾病に伴う視機能低下と関連していると考えられている。また、網膜色素変性症モデル動物においてPEDFを発現するウイルスベクターを眼内注射することにより、網膜の視細胞の細胞死が抑制されることが報告されている(非特許文献6)ことから、PEDFの発現増強、分泌促進は、視機能低下の予防・改善の良い手段となると考えられる。
【0009】
この様に、RDH12及びPEDFの発現亢進、及び機能亢進或いは分泌促進は、視機能低下の予防・改善に重要であると考えられるが、このような機能を有した視機能低下予防・改善のための食品素材はこれまでに全く知られていない。
【0010】
一方、スオウ(Caesalpinia sappan、マメ科ジャケツイバラ属)はインド原産、ヒマラヤ、タイ、東南アジアに分布する常緑低木であるが、その心材は、ブラジリンおよびその酸化体であるブラジレイン、α−フェランドレンやオシメン等を主成分とする精油、及びタンニンを含み、漢方では蘇木(ソボク)と呼ばれ、抗炎症、鎮痛、腹痛、月経不調、打撲傷等に用いられる。その他、心臓の収縮力増強、中枢神経抑制、抗菌作用が知られている(非特許文献7)。
また、ジンジャー(Zingiber officinale、ショウガ科ショウガ属)はインド原産の多年生草本であるが、その根茎は、辛味成分であるジンゲロール、ショウガオール及びジンゲロン、芳香成分であるジンギベレン、リナロール、シトラール及びシオネールを含み、世界中で香辛料及び民間薬として広く用いられている。特に、アジアでは生食や漬物用、又カレー粉の原料として用いられ、西洋とアラブ諸国では、乾燥品が調理用やパン・菓子等に用いられる。漢方では生姜(ショウキョウ)と呼ばれ、新陳代謝機能向上の効能があるとされ、嘔吐、腹痛、腰痛、食欲増進等に用いられる(非特許文献8)。
シソの葉は、漢方では蘇葉(ソヨウ)と呼ばれ、解熱作用や防腐作用があるとされ、発刊、解熱、鎮咳、鎮痛薬として、気管支炎や風邪などに用いられる(非特許文献8)。最近の研究では、シソの葉の含有成分であるフラボノイドのルテオリンが強い抗アレルギー作用を示されている(非特許文献9)。又、シソ(Perilla frutescens、シソ科シソ属)は、中国の中南部原産の1年生草本であるが、その葉はロズマリン酸、アントシアニン系のシソニン、及びマロニルシソニン等の成分を含み、アレルギー疾患に有用として健康食品としても利用される。
【0011】
しかしながら、これまでスオウ、ジンジャー又はシソの視機能低下予防又は改善作用については全く知られていない。
【0012】
【特許文献1】WO01/001798号パンフレット
【特許文献2】WO2002/094253号パンフレット
【特許文献3】特開平11−246455号公報
【非特許文献1】厚生労働省大臣官房統計情報部:2003年技術革新と労働に関する実態調査.,厚生労働省,2004年
【非特許文献2】Matsumoto, H., et al. J. Agric. Food Chem. 54, 578-582, 2006
【非特許文献3】Janecke, A. R., et al., Nat. Genet., 36, 850-854, 2004
【非特許文献4】Maeda,A., et al.,J. Biol. Chem., 281, 37697-37704, 2006
【非特許文献5】Tombran-Tink, J., et al., J. Neurosci., 15, 4992-5003, 1995
【非特許文献6】Miyazaki, M., et al., Gene Therapy, 10, 1503-1511, 2003
【非特許文献7】原色漢薬と飲片図鑑,顔焜榮,南天書局,1982年
【非特許文献8】原色牧野和漢薬草大図鑑、三橋博、北隆館,2002年
【非特許文献9】Makino, T., et al., Biol. Pharm. Bull., 24, 1206-1209, 2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、安全で有用な視機能低下予防又は改善剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、天然物素材を探索した結果、スオウ抽出物、ジンジャー抽出物及びシソ抽出物に優れたRDH12遺伝子発現促進作用があること、更にジンジャー抽出物にはPEDF遺伝子発現促進作用もあることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち本発明は、下記1)〜3)に係るものである。
1)スオウ、ジンジャー及びシソから選ばれる1種以上の植物又はその抽出物を有効成分とするRDH12遺伝子発現促進剤。
2)ジンジャーの植物又はその抽出物を有効成分とするPEDF遺伝子発現促進剤。
3)スオウ、ジンジャー及びシソから選ばれる1種以上の植物又はその抽出物を有効成分とする視機能低下予防又は改善剤。
【発明の効果】
【0016】
本発明のRDH12遺伝子発現促進剤、PEDF遺伝子発現促進剤、及び視機能低下予防又は改善剤は、優れたRDH12遺伝子及び/又はPEDF遺伝子発現促進作用を有し、かつ生薬由来のため安全性も高いので、視機能低下を予防又は改善するための医薬品、食品等として有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に用いるスオウとは、マメ科(Leguminosae)のジャケツイバラ属スオウ(Caesalpinia sappan)を、ジンジャーとは、ショウガ科(Zingiberaceae)のショウガ属ジンジャー(Zingiber officinale)を、及びシソとは、シソ科(Lamiaceae)シソ属シソ(Perilla frutescens)を意味し、何れも漢方生薬の起源植物として知られている。
スオウ、ジンジャー又はシソの植物の使用部位としては、その植物の全草、地上部、心材、辺材、葉、樹皮、枝、根茎、根、花、果実、実又は種子等が挙げられる。
上記使用部位のうち、これらは漢方で使用されている部位を用いることが好ましく、具体的には、スオウであれば心材を用いることがより好ましく、ジンジャーであれば根茎を用いることがより好ましく、シソであれば葉を用いることがより好ましい。
上記使用部位は、単独で或いはこれらを混合してそのまま又は粉砕して用いることができる。
【0018】
スオウ、ジンジャー又はシソの抽出物としては、前記の使用部位をそのまま或いは乾燥した後に適用な大きさに切断したり、粉砕加工したりしたものを抽出して得られる抽出エキスの他、さらに分離精製して得られる活性の高い画分(成分)が包含される。
【0019】
上記植物の抽出手段としては、上記植物を低温(0〜4℃)、室温(5〜40℃)又は加温(40〜105℃)した状態で溶剤に含浸させるか又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて行われる溶剤抽出法の他に、水蒸気蒸留等の蒸留法を用いて抽出する方法、炭酸ガスを超臨界状態にして行う超臨界抽出法、或いは圧搾して抽出物を得る圧搾法等が挙げられる。
【0020】
溶剤抽出に用いられる抽出溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができ、これらを混合して用いることもできる。例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ピリジン類;超臨界二酸化炭素;油脂、ワックス、その他オイル等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用でき、溶剤を変えて繰り返し行うことも可能である。このうち、水、低級(炭素数1〜6)アルコール類又は水・低級(炭素数1〜6)アルコール類混液を用いるのが好ましく、当該低級アルコール類としては特にメタノール、エタノールが好ましい。
【0021】
抽出は、例えば上記植物1重量部に対して1〜50重量部の溶剤を用い、室温(5〜40℃)〜溶媒の沸点の範囲で1〜3時間から2〜3日間浸漬又は加熱還流するのが好ましい。
【0022】
これらの抽出物としては、一例として、スオウの心材、ジンジャーの根茎又はシソの葉を20〜100容量%エタノール水溶液(エタノール:水=20〜100:80〜0(V/V))に室温(5〜40℃)、1〜10日間浸漬し、当該エタノール水溶液可溶成分を抽出して得られる抽出物が挙げられる。抽出温度としては、20〜40℃が好ましく、抽出期間としては5〜9日間が好ましく、抽出溶剤としては、20〜80容量%エタノール水溶液がより好ましく、40〜60容量%エタノール水溶液が更に好ましい。
【0023】
抽出物の分離精製手段としては、例えば、活性炭処理、液液分配、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ゲル濾過、精密蒸留等を挙げることができる。
【0024】
本発明の抽出物は、斯くして得られる抽出液や画分をそのまま用いてもよく、適宜な溶媒で希釈した希釈液として用いてもよく、或いは濃縮エキスや乾燥粉末としたり、ペースト状に調製したものでもよい。
また、上記抽出物を凍結乾燥し、用時に、通常抽出に用いられる溶剤、例えば水、エタノール、水・エタノール混液等の溶剤で希釈して用いることもできる。また、リポソーム等のベシクルやマイクロカプセル等に内包させて用いることもできる。
【0025】
本発明の上記植物又はその抽出物は、後記実施例で示すとおり、RDH12遺伝子及び/又はPEDF遺伝子の発現増強作用を有し、これら各遺伝子の発現が増強されることによってRDH12タンパク質及び/又はPEDFタンパク質の発現亢進、及び機能亢進或いは分泌促進が起こり、疲れ目;網膜機能低下;老視、白内障、緑内障、加齢性黄斑変性等を始めとする加齢に伴う視機能の低下;白内障、緑内障、糖尿病網膜症、加齢性黄斑変性等疾病に伴う視機能の低下等の全般な視機能低下を予防及び/又は改善することができる(例えば、非特許文献3〜6参照。)。
ここで、視機能の低下の予防及び/又は改善とは、視機能の維持を包含するものである。
従って、上記植物又はその抽出物はこれを有効成分とするRDH12遺伝子発現促進剤、PEDF遺伝子発現促進剤並びに視機能低下予防及び/又は改善剤(以下、「視機能低下予防及び/又は改善剤等」ともいう)として使用することができ、また、視機能低下予防及び/又は改善剤等を製造するために使用することができる。当該視機能低下予防及び/又は改善剤等は、視機能低下を予防及び/又は改善するための食品、機能性食品、医薬部外品、医薬品等として使用可能である。そして、上記植物又はその抽出物は、視機能低下及び/又は改善のために用いる旨の表示を付した食品、例えば病者用食品、特定保健用食品等の特別用途食品として利用することができる。
【0026】
本発明の視機能低下予防及び/又は改善剤等を医薬品として用いる場合の投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与又は注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、点眼薬、外用剤等による非経口投与が挙げられる。又、このような種々の剤型の医薬製剤を調製するには、本発明の上記植物又はその抽出物を単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等を適宜組み合わせて用いることができる。これらの投与形態のうち、好ましい形態は経口投与であり、経口投与用製剤として用いる場合の該製剤中の本発明の上記植物又はその抽出物の含有量は、一般的に0.01〜80質量%とするのが好ましく、0.5〜80質量%とするのがより好ましい。
【0027】
本発明の視機能低下予防及び/又は改善剤等を食品として用いる場合の形態としては、パン類、ケーキ類、麺類、菓子類、ゼリー類、冷凍食品、アイスクリーム類、乳製品、飲料などの各種食品の他、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)が挙げられる。
種々の形態の食品を調製するには、本発明の上記植物又はその抽出物を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて用いることができる。当該食品中の本発明の上記植物又はその抽出物の含有量は、0.001〜1.0質量%でありが好ましく、0.003〜0.5質量%とするのがより好ましく、0.005〜0.05%がさらに好ましい。
【0028】
本発明の視機能低下予防及び/又は改善剤等を医薬品又は食品として使用する場合、成人1人当たりの1日の投与又は摂取量は、年齢、体重、性別、投与方法などの種々の要因によって異なるが、経口投与の場合は上記植物又はその抽出物(固形分換算)として、本発明の上記植物又はその抽出物として、0.1〜5000mg、特に10〜2000mg、より好ましくは50〜1000mgの範囲を1日1回〜数回に分けて投与することが好ましい。
【実施例】
【0029】
製造例1:各抽出物
スオウ抽出物については、スオウ(Caesalpinia sappan)の心材乾燥粉砕物(生薬名:蘇木、産地:広西)200gを、10倍量(2リットル)の50%エタノール水溶液に室温(20〜30℃)で7日間浸漬し、不溶物を濾別後、減圧濃縮、凍結乾燥し抽出物を得た(固形分13.9g)。当該抽出物を50%エタノール水で1.0質量対容量(W/V)%に希釈し使用した。
ジンジャー抽出物については、ジンジャー(Zingiber officinale)の根茎乾燥粉砕物(商品名:ジンジャーパウダー)500gを、10倍量(5リットル)の50%エタノール水溶液に室温(20〜30℃)で7日間浸漬し、不溶物を濾別後、減圧濃縮、凍結乾燥し抽出物を得た(固形分21.3g)。当該抽出物を50%エタノール水で1.0質量対容量(W/V)%に希釈し使用した。
シソ抽出物については、シソ(Perilla frutescens var.acuta)の葉より抽出された食品用色素製剤(商品名:ダイヤモンドレッド;丸善製薬)を抽出物として用いた。当該色素製剤を50%エタノール水で1.0質量対容量(W/V)%に希釈し使用した。
【0030】
実施例1:Y79細胞におけるRDH12及びPEDF遺伝子発現亢進作用
24ウェルPoly-D-Lysineプレート(ベクトンディッキンソン社)に2.0×105 cells/wellのヒト網膜芽細胞腫由来細胞株Y79細胞懸濁液を播き、培養開始から1日目に培地を各試験サンプル、非働化処理した牛胎児血清(ThermoTrace社)及び100 units/ml penicillin、100μg/mLのstreptomycinを含むRPMI1640培地に交換した。
さらに、スオウ抽出物は0.001質量対容量(W/V)%、ジンジャー抽出物は0.01質量対容量(W/V)%、シソ抽出物は0.001質量対容量(W/V)%となるよう添加し、添加48時間後に細胞を回収し、核酸抽出試薬ISOGEN(日本ジーン)を用いてRNAを抽出した。total RNA125ngを用いて逆転写反応を行った。合成したcDNA(total RNA 6.25ng分)を用い、Real-time PCR法により、RDH12及びPEDFのmRNA発現量の定量を行った。
【0031】
RDH12増幅用プライマー
5’側:AACTGCCAGACAGACCCCAG(配列番号1)
3’側:GCACCAGGGTTCCAGGACTT(配列番号2)
PEDF増幅用プライマー
5’側:ATTCCAACCATTCTGCACTGG(配列番号3)
3’側:TGCACAAAGTTGATGCCCTC(配列番号4)
36B4増幅用プライマー
5’側:CTGATCATCCAGCAGGTGTT(配列番号5)
3’側:CCAGGAAGGCCTTGACCTTT(配列番号6)
【0032】
尚、解析はSYBR Green Master Mix及びABI PRISM7000 Seaquence Detectoin System(アプライドバイオジャパン社)を用いて行い、各遺伝子のmRNA発現量は、36B4(ribosomal protein, large, P0)遺伝子のmRNA発現量により補正した。又、遺伝子発現量は、溶媒コントロールにおける遺伝子発現量を1とした相対値で示した。
図1に示す様に、スオウ抽出物、ジンジャー抽出物及びシソ抽出物のいずれかの存在下で培養したY79細胞において、RDH12遺伝子発現量が増加した。又、図2に示す様に、ジンジャー抽出物の存在下で培養したY79細胞において、PEDF遺伝子発現量が増加した。このことから、スオウ、ジンジャー、シソは、視機能調節遺伝子発現を増加させ、視機能低下予防及び/又は改善剤として有効であることが分かる。
【0033】
実施例2
下記成分を用い、常法に従って1錠200mgの錠剤を製造した。
(組成) (%)
スオウ、ジンジャー、又はシソ抽出物 3.3
ヒドロキシプロピルセルロース 30
軽質無水ケイ酸 6.6
乳糖 16.7
結晶セルロース 16.7
タルク 16.7
ジアシルグリセロール 10
【0034】
実施例3
下記成分を用い、常法に従って1錠200mgの錠剤を製造した。
(組成) (%)
スオウ、ジンジャー、又はシソ抽出物 10
デンプン 65
ステアリン酸マグネシウム 5
乳糖 20
【0035】
実施例4
下記の成分を混合後ゼラチンカプセルに充填し、1錠250mgの軟カプセル剤を得た。
(組成) (%)
スオウエキス 20
ジンジャーエキス 20
シソエキス 10
乳糖 25
結晶セルロース 25
【0036】
実施例5
200gのグラニュー糖を200mLの水に加熱溶解した後、200gのジンジャースライスを加えて15分間加熱した。濾過により獲られた抽出液200mLに、800mLの炭酸水を加えることにより、ジンジャー飲料を作製した。
【0037】
実施例6
500gのシソ葉を1800mLの熱水に加え、10分間加熱した。濾過により得られた抽出液に、30gのクエン酸と800gのグラニュー糖を溶解しシソ濃縮飲料を作製した。
【0038】
実施例7
実施例5で作製したジンジャー飲料を用い、下記に示した様に1カップ50gのゼリーを作製した。
先ず、下記成分を混合し過熱により溶解した。
ジンジャー飲料 750mL
グラニュー糖 100g
ゼラチン 25g
溶解後、さらに下記成分を加え混合後、器に流し4℃で冷却してゼリーを作製した。
レモン果汁 75mL
ジンジャー飲料 500mL
【0039】
実施例8
実施例6で作製したシソ濃縮飲料を用い、下記に示した様に1カップ50gのゼリーを作製した。
先ず、下記成分を混合し過熱により溶解した。
シソ濃縮飲料 200mL
水 800mL
グラニュー糖 50g
ゼラチン 60g
溶解後、さらに下記成分を加え混合後、器に流し4℃で冷却してゼリーを作製した。
ショウガ汁 75mL
当該ショウガ汁は、ショウガをすった後絞ったものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】スオウ抽出物、ジンジャー抽出物又はシソ抽出物の存在下で培養したY79細胞におけるRDH12の遺伝子発現量を示す図である。
【図2】ジンジャー抽出物の存在下で培養したY79細胞におけるPEDFの遺伝子発現量を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スオウ、ジンジャー及びシソから選ばれる1種以上の植物又はその抽出物を有効成分とするRDH12遺伝子発現促進剤。
【請求項2】
ジンジャーの植物又はその抽出物を有効成分とするPEDF遺伝子発現促進剤。
【請求項3】
スオウ、ジンジャー及びシソから選ばれる1種以上の植物又はその抽出物を有効成分とする視機能低下予防又は改善剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−37255(P2010−37255A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200849(P2008−200849)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】