説明

視機能制御装置、該装置を備えた磁気共鳴画像装置、脳磁計及び脳機能計測方法

【課題】磁場の変化を検知することによって被験者の脳機能計測を行う装置を実施する際に、
一定の計測条件で被験者の視機能と関連する脳機能の計測が可能となる視機能制御装置を提供する。
【解決手段】被験者に視覚刺激を呈示し、磁場の変化を検知することによって被験者の脳機能計測を行う装置を実施する際に、前記被験者の視機能を制御するために用いられる視機能制御装置であって、
前記被験者に呈示される視覚刺激を制御するための非磁性体からなる視機能制御手段と、
前記視機能制御手段の駆動を制御する駆動制御手段と、を有する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視機能制御装置、該装置を備えた磁気共鳴画像装置、脳磁計及び脳機能計測方法に関する。特に、磁場の変化を検知することによって被験者の脳機能計測を行う装置を実施する際に用いる視機能制御装置及び脳機能計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
視力、眼球運動能力、両眼視能力、深視力(遠近感や立体感を正しく把握する能力)などの視覚情報の入力に関する機能、及び脳における視覚情報の処理機能を合わせて、一般的に視機能という。
但し、本明細書では内容の明確化のため、前者の入力に関する機能を視機能、後者の脳における情報処理機能を脳機能、と以後の説明では区別して用いる。
この視機能と脳機能が共に正常に働くことにより、人間はものを正確に見ることができる。
人間の視機能を正常に働かせるためには矯正することも可能であり、その代表的なものがメガネである。
メガネのように人間の視機能を制御する装置を視機能制御装置、メガネのレンズのように視機能を制御するために用いる機能を視機能制御手段と本明細書では定義する。
このような視機能制御装置において、脳機能計測を行う際に視機能を制御する技術はまだ余りよく知られていない。
【0003】
脳機能計測には、磁気共鳴画像(MRI:Magnetic Resonance Imaging)装置や、脳磁計(MEG:Magnetoencephalograph)などの装置がよく用いられる。
これらは、磁場の変化を検知することによって脳機能を計測する代表的な装置である。MRI装置は被験者の測定部位に静磁場を加え、さらに特定の高周波磁場を加えて、これによって発生した核磁気共鳴現象を利用して画像が得られるようにした装置である。
このMRI装置を用いた脳機能計測の手法に、機能的MRI(fMRI)法がある。
fMRI法とは、視覚・触覚・聴覚などに関する様々な刺激もしくは計算などのタスクを被験者に与え、その刺激やタスクによって生じた被験者の脳活動の変化(具体的には脳血流量の増減に伴う磁場変化)を計測する。そして、これにより、被験者の脳機能を評価する手法である。
【0004】
しかし、fMRI法にはいくつかの制限が伴う。
fMRI法では、被験者の脳内における非常に微弱な磁場変化を測定している。そのためMRI装置は磁気シールドルーム内に設置され、シールドルーム内には磁性体からなる器具や電磁気的雑音が発生する器具を持ち込まないことが要求される。
よって、被験者の視機能と関連する脳活動の変化をfMRI法でより正確に計測するためには、磁場に影響を与えない視覚刺激呈示方法や視機能制御装置が必要とされている。
【0005】
これまでに、脳機能計測を実施する際に行う視覚刺激呈示方法として、特許文献1では脳機能測定のための被験者への刺激提示装置が提案されている。
この装置では、モニター、スピーカー、スクリーンその他の刺激提示装置であって、一定時間内に複数の刺激形態を提示させるためつぎのような手段を備えている。
すなわち、コンピューターに順序を無作為に並び替えさせる手段、コンピューターに該刺激提示の間隔若しくは刺激提示の時間の長さを無作為に決定させる手段、その順に刺激を提示させるよう刺激提示装置に出力させる手段を備えている。
【0006】
また、一般的に、被験者に視覚刺激を呈示しながら脳機能計測を実施する際に行う視機能制御方法として、計測条件変更のたびに被験者を装置外に搬出して視機能制御手段を交換する手法が知られている。
例えば、視機能制御手段として、被験者の焦点が制御可能なレンズを用いる場合を説明する。
この場合、被験者が視覚刺激を視認するにあたって最適なレンズを設定するためには、被験者を計測条件変更のたびに装置外に搬出して条件の異なるレンズに交換する工程が必要とされる。
それにより、被験者の焦点が視覚刺激に合った状態で、脳機能計測をすることが可能となる。
すなわち、一般的には、計測条件を変更するたびに被験者を装置外に搬出し、被験者の視機能制御手段を最適化することで、視機能と関連する脳機能計測を実施することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−159253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1記載の刺激提示装置においては、つぎのような課題を有している。
上記刺激提示装置では、被験者に呈示する刺激の順序や時間を制御する手段は構成されているが、脳機能計測を実施する装置内において被験者の視機能を制御する手段が構成に含まれていない。
そのため、同一計測内において被験者の視機能を選択的に制御することが困難であった。
すなわち、同一計測内において被験者の視機能を制御した状態での脳機能計測を実施することが困難であった。
また、計測条件変更のたびに視機能制御手段を交換する手法では、手段を交換するために被験者を装置外に搬出する必要がある。
そのため、手段を交換して行った各計測においてfMRI法の測定条件が必ずしも一致しないこととなる。
また、同一計測内において連続的に視機能制御手段の条件を変化させることは困難であった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑み、磁場の変化を検知することによって被験者の脳機能計測を行う装置を実施する際に、
一定の計測条件で被験者の視機能と関連する脳機能の計測が可能となる視機能制御装置、該装置を備えた磁気共鳴画像装置、脳磁計及び脳機能計測方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の視機能制御装置は、被験者に視覚刺激を呈示し、磁場の変化を検知することによって被験者の脳機能計測を行う装置を実施する際に、前記被験者の視機能を制御するために用いられる視機能制御装置であって、
前記被験者に呈示される視覚刺激を制御するための非磁性体からなる視機能制御手段と、
前記視機能制御手段の駆動を制御する駆動制御手段と、
を有することを特徴とする。
また、本発明の磁気共鳴画像装置は、上記した視機能制御装置を備えていることを特徴とする。
また、本発明の脳磁計は、上記した視機能制御装置を備えていることを特徴とする。
また、本発明の脳機能計測方法は、
被験者に呈示される視覚刺激を制御するための非磁性体からなる視機能制御手段と、前記視機能制御手段の駆動を制御する駆動制御手段と、を備えた視機能制御装置を用い、磁場の変化を検知することによって被験者の脳機能を計測する脳機能計測方法であって、
前記視機能制御手段と前記駆動制御手段とを用いることで前記被験者の視機能を制御した状態を提供する第1の工程と、
前記第1の工程における脳機能画像を取得し、該脳機能画像を解析する第2の工程と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、磁場の変化を検知することによって被験者の脳機能計測を行う装置を実施する際に、
一定の計測条件で被験者の視機能と関連する脳機能の計測が可能となる視機能制御装置、該装置を備えた磁気共鳴画像装置、脳磁計及び脳機能計測方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態及び実施例1における視機能制御装置の構成例を説明する図。
【図2】本発明の実施例1における視機能制御装置の構成例を説明する拡大図。
【図3】本発明の実施例2における視機能制御装置の構成例を説明する図。
【図4】本発明の実施例2における複数の視機能制御装置による構成例を説明する図。
【図5】本発明の実施例2における被験者の視機能制御及び脳機能画像取得に関するシーケンスを説明する図。
【図6】本発明の実施例3における直線駆動型アクチュエータを用いた視機能制御装置の構成を示す図。
【図7】本発明の実施例4における視機能制御装置を適用した脳磁計の構成を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態における被験者に視覚刺激を呈示し、磁場の変化を検知することによって被験者の脳機能計測を行う装置を実施する際に、前記被験者の視機能を制御するために用いられる視機能制御装置は、
被験者に呈示される視覚刺激を制御するための非磁性体からなる視機能制御手段と、視機能制御手段の駆動を制御する駆動制御手段とで構成されるが、視機能制御手段を非磁性体とすることで、脳機能計測を行う装置内での被験者の視機能制御が可能となる。
また、上記視機能制御装置を用いることで、計測条件変更のたびに被験者を装置外に搬出することなく、被験者の視機能制御手段の条件を選択的にかつ連続的に変化させることができる。
これらにより、本発明の視機能制御装置を用いることで、常に一定の計測条件で被験者の視機能に関連するさまざまな脳機能を計測することが可能となる。
具体的には、例えば図1に模式的に示すように構成することができる。
ここでは、磁場の変化を検知することによって被験者の脳機能計測を行う装置に用いられるものとしては、MRI装置やMEGが挙げられる。
また、本実施形態において脳機能計測を実施する際に、被験者に視覚刺激を呈示する手段は、磁場に影響を与えない手段であればいかなるものでもよい。
例えば、プロジェクターと非磁性体からなるスクリーンを用いて画像や映像を投射することにより被験者に視覚刺激を呈示する手段が挙げられる。
また、非磁性体からなる実物体を被験者の眼前に置いて視覚刺激を呈示する手段などが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0014】
本実施形態における視機能制御手段として、呈示される視覚刺激を被験者の眼前で制御できる構成を有し、かつ材質が非磁性体で構成されているものであれば如何なるものでもよい。
また、視機能制御手段は、視機能制御装置内に複数備えて構成されていてもよい。複数の手段を用いる場合、異なる機能を有する手段で構成されていてもよい。また、視機能制御手段は、右眼か左眼のどちらか、もしくは両眼の眼前に配置されるように構成されている。
また、本実施形態において、視機能制御手段の駆動制御手段は、視機能制御手段の位置や、回転運動などを制御することを可能に構成されていればいかなるものでもよい。
駆動制御手段を視機能制御手段に設置し、それにより視機能制御手段の駆動を制御することで、視機能制御手段の位置制御及び複数の視機能制御手段を用いた際の切り替え制御などが可能になる。
また、これらの駆動手段は、複数備えて構成されていてもよい。
【0015】
上記構成において、非磁性体からなる視機能制御手段と駆動制御手段を有する視機能制御装置を用いることにより、脳機能計測を行う装置内で被験者の視機能を制御することが可能となる。
また、視機能制御手段を駆動させることで、計測条件変更のたびに被験者を装置外に搬出することなく、被験者の視機能制御手段の条件を選択的かつ連続的に変化させることができる。よって、常に一定の計測条件で被験者の視機能に関連するさまざまな脳機能を計測することが可能となる。
【0016】
また、本実施形態においては、前記視機能制御手段がレンズ、遮眼子、偏光板、減光フィルター、プリズム、ピンホールのいずれかもしくは組み合わせによる構成を採ることができる。
これらは、視機能制御装置内に複数備えて構成されていてもよい。また、複数の手段を用いる場合、異なる手段で構成されていてもよい。
上記構成において、前記視機能制御手段として、レンズ、遮眼子、偏光板、減光フィルター、プリズム、ピンホールのいずれかもしくは組み合わせたものを用いることにより、以下のような視機能制御が可能となる。
例えば、レンズやピンホールを用いることで被験者の視力を、遮眼子や偏光板を用いることで被験者の両眼視能力や深視力を制御することが可能となる。
その他にも、偏光板、減光フィルター、プリズムを用いることでも被験者の視機能を制御することができる。具体的には、偏光特性や明るさに関連する被験者の網膜の神経細胞の活動などを制御することが可能となる。
よって、これらの視機能を制御したときの脳機能計測を常に一定の計測条件で実施することが可能となる。
また、本実施形態の視機能制御装置は、前記駆動制御手段が非磁性体からなるアクチュエータを有する構成とすることができる。
その中でも、非磁性体からなる超音波モータで構成されていることが好ましい。また、アクチュエータは複数備えて構成されてもよい。上記構成において、駆動制御手段が非磁性体で構成されることにより、脳機能計測を行う装置内に駆動制御手段を導入することが可能となる。
すなわち、非磁性体のアクチュエータを用いることにより、駆動制御手段と視機能制御手段との距離を近づけることが可能となり、精密な制御が可能となると同時に、視機能制御装置をより単純な構成にすることが可能となる。
また、本実施形態においては、前記視機能制御装置を備えた磁気共鳴画像装置、脳磁計を構成することができる。
上記構成において、磁場の変化を検知することによって被験者の脳機能計測を行う装置を実施する際に、視機能制御装置を用いることで、被験者の視機能と関連する脳機能を計測することが可能となる。
【0017】
また、本実施形態においては、被験者に呈示される視覚刺激を制御するための非磁性体からなる視機能制御手段と、前記視機能制御手段の駆動を制御する駆動制御手段と、を備えた視機能制御装置を用い、
磁場の変化を検知することによって被験者の脳機能を計測する脳機能計測方法を次のように構成することができる。
すなわち、前記視機能制御手段と前記駆動制御手段とを用いることで前記被験者の視機能を制御した状態を提供する第1の工程と、
前記第1の工程における脳機能画像を取得し、該脳機能画像を解析する第2の工程と、を有する脳機能計測方法を、具体的には以下のように構成することができる。
前記視機能制御手段と前記駆動制御手段とを用いることで前記被験者の視機能を制御した状態を提供する工程において、被験者の視機能を制御するために、視覚刺激を呈示する必要がある。その際、磁場への影響を与えずに視覚刺激を呈示することが好ましい。
また、前記被験者の視機能を制御した状態とは、視覚刺激を呈示して脳機能計測を実施する際の被験者の視機能を、実験目的に対して最適な条件に調整した状態のことを示す。
例えば、視機能制御手段としてレンズを用いて実験を行う場合、その実験目的の一例が、被験者にとって最も焦点が合った状態で、視覚刺激を呈示して脳機能計測を実施することであるとする。
その際、実験目的に沿った脳機能計測を実施するためには、異なる度数を有するいくつかのレンズを選択的に被験者に呈示し、その中から被験者にとって最も焦点が合うレンズを提供する必要がある。
そして、この被験者にとって最も焦点が合った状態、が、被験者の視機能を実験目的に対して最適な条件に調整した状態、ということになる。
なお、これらの工程は、脳機能計測を行う装置内において選択的にかつ連続的に実施されるものとする。
【0018】
また、前記工程における脳機能画像を取得してその画像を解析する工程において、駆動制御のためにアクチュエータを用いる場合は、アクチュエータを駆動している間の脳機能画像の取得は停止しているほうが好ましい。
上記工程において、視機能制御手段を駆動させることで、計測条件を変更するたびに被験者を装置外に搬出することなく、被験者の視機能制御手段の条件を選択的にかつ連続的に変化させることができる。
すなわち、視覚刺激を呈示して脳機能計測を実施する際の被験者の視機能を、脳機能の計測を実施しながら、実験目的に対して最適な条件に調整することが可能となる。
先の例のように視機能制御手段としてレンズを用いた場合は、被験者の焦点を合わせた状態での脳機能計測が可能となり、被験者の視機能に関連する脳機能計測をより正確に実施することができる。
このように、常に一定の計測条件で、被験者の視機能に関連するさまざまな脳機能計測をすることができるようになる。
また、被験者の視機能を制御したときの脳機能計測を連続して実施することができるため、より正確な脳機能計測のデータを得ることが可能となる。
また、上記した被験者の視機能を制御した状態を提供する工程において、性質の異なる複数の制御した状態が周期的に切り替えられるように構成することができる。
上記工程において、視機能を制御した複数の状態を一定の周期で繰り返すことにより、得られる脳機能画像の平均化などの画像処理が可能となり、最終的に、よりノイズの少ない脳機能画像を得ることができる。
【実施例】
【0019】
以下に、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
実施例1として、視機能制御装置をMRI装置に設置して、脳機能計測を実施する例について、本発明の特徴を最もよく表している図1を用いて説明する。
本実施例では、視覚刺激呈示手段としてプロジェクターとスクリーンを用い、また視機能制御手段としてレンズが用いられる。
これにより、計測条件変更のたびに被験者を装置外に搬出することなく、被験者の視機能制御手段の条件を選択的にかつ連続的に変化させることが可能となるように構成されている。
図1において、100はMRI装置、101は被験者であり、102、103、104、105はそれぞれMRI装置の寝台、傾斜磁場コイル、超電導磁石、及び筒状の計測部である。
上記構成において、筒状の計測部105の内部に被験者101が横たわり、その眼前には被験者の視機能を制御するための視機能制御装置106が設置される。視機能制御装置106は、視機能制御手段107及び超音波モータ108で構成されている。
視機能制御手段107及び超音波モータ108は非磁性体で構成されているものとする。
超音波モータ108の駆動を制御するコントローラ(図示せず)はMRI装置が設置されている磁気シールド室内部で、かつMRI装置本体内部の計測位置から最大の距離を有する場所に設置されている。
そして、電磁気的にシールドされた制御線によって、超音波モータ108と接続されている。
【0020】
このように、超音波モータ108は、被験者の視機能制御をするにあたり、コントローラを介して駆動制御することが可能になるように構成されている。
なお、ここでの超音波モータ108としては、特開平3−253272号公報等、多くの文献に開示されている圧電素子(電気−機械エネルギー変換素子)によって駆動されるようにした構成のものを用いることができる。
また、MRI装置100の外部には、被験者101に視覚刺激を呈示するためのプロジェクター109が設置されている。
また、プロジェクター109から投影される映像を映すためのスクリーン110が装置内に設置されている。また、被験者101がスクリーン110を見るためのミラー111が被験者101の眼前に設置されている。
なお、スクリーン110とミラー111は磁性体を含まない材料で構成されているものとする。
また、被験者101の後頭部にはMR信号検出用コイル112が設置されており、被験者101の神経活動に伴う脳血流変化によって発生した電磁波信号を検出する。
ここでは、被験者眼前の視野を確保するため、及び大脳視覚野(被験者の後頭部に該当)において高感度の脳機能計測を行うため、コイル112は表面コイル型のRadio Frequencyコイルを用いる。
【0021】
図2は、本実施例における視機能制御装置106の拡大図である。
なお、図2(a)は斜投影図、図2(b)は平面図である。視機能制御手段107は、非磁性体からなる保持手段201に複数設置されている。
また、保持手段201の背面部には超音波モータ108が取り付けられている。超音波モータ108の回転軸は保持手段201の中心に接続されており、保持手段201はこの回転軸を中心に回転できる。
【0022】
次に、本実施例における被験者の視機能制御手段の条件を選択的にかつ連続的に変化させるときの手順について説明する。
ここでは、視機能制御手段107としてレンズを用いて、被験者の視機能に関連する脳機能を計測するものとする。
具体的には、図2(b)に示すように、被験者101の視力を矯正するための度数の異なる4つのレンズ107(A)〜107(D)が設置されている。
なお、レンズ107(A)〜(D)には磁性体が含まれていないものとする。MRI装置100の筒状の計測部105に被験者101の頭部が配置されるように、寝台102がセットされる。
また、超音波モータ108が駆動することによって描く軌道203が被験者101の眼の中心軸を通過するように、被験者101の眼前には視機能制御装置106がセットされる。
装置をセットした後、次の手順により視機能制御手段の条件を変化させる。
【0023】
まず、ステップ(1)において、レンズ107(A)を被験者101の眼前に固定し、被験者101にレンズ107(A)を介してミラー111を視認させる。
次に、ステップ(2)において、超音波モータ108を回転させ、レンズ107(B)が被験者101の眼前に固定されるように制御する。
次に、ステップ(3)において、レンズ107(B)を被験者101の眼前に固定し、被験者101にレンズ107(B)を介してミラー111を視認させる。次に、ステップ(4)において、超音波モータ108を回転させ、レンズ107(C)が被験者101の眼前に固定されるように制御する。
以上のステップを繰り返し、レンズ107(A)〜(D)がそれぞれ被験者101の眼前に固定されるように調整することで、計測条件を変更するたびに被験者を装置外に搬出することなく、最も焦点の合うレンズを選択することが可能となる。
これらの手順をふまえた後、被験者にとって最適な条件下で脳機能計測を実施することで視機能と関連する脳機能計測を正確に実施することが可能となる。
【0024】
以上の本実施例においては、視機能制御装置106を用いて、被験者の視機能を制御し、脳機能計測を実施するように構成されているが、本発明はこのような構成に限定されるものではない。
例えば、視機能制御手段107の形状は円状に限定されず、多角形のものも使用できる。また、視機能制御手段107を介してミラー111が視認できるような構成であれば、これらの形状に限定されるものではない。
また、本発明では視機能制御手段107に被験者101の視力を制御するためのレンズ107(A)〜(D)を用いたが、非磁性体で構成されている視機能制御手段であれば、これらに限定されるものではない。遮眼子、プリズム、偏光板、減光フィルター、ピンホールなどが使用可能である。
また、被験者101に視覚刺激を呈示する手段は、非磁性体からなる実物体を被験者の眼前に置くなどの手段があるが、磁場に影響を与えない手段であればこれらに限定されるものではない。
【0025】
[実施例2]
実施例2として、視機能制御装置を用いて被験者に周期的な視覚刺激を呈示した例について、図3及び図4、図5を用いて説明する。
本実施例では、立体視検査として一般に知られているチトマスステレオテストをfMRI法による脳機能計測とともに実施した例について説明する。
図3は、図1と同様に本発明の特徴を表す図面であり、同図において、301はチトマスステレオテストを行うためのテスト紙であり、302は視機能制御手段としての偏光板である。それ以外の構成は図1と同じである。
テスト紙301には、同じ構図の絵において、少し視差をつけて作成した2枚の絵を重ねたものを用いている。
90度方向が異なる偏光板302を1枚ずつ準備し、それぞれを被験者の左右の眼前に設置する。
そして、テスト内容は、その偏光板302を通してテスト紙301を視認することだけである。
仮に、斜視が無い状態で、かつ、立体視ができる被験者101であれば、視差の付いた部分を立体的に見ることが可能となる。
本実施例では、このチトマスステレオテストにおいて、偏光板による視機能制御を実施し、被験者の立体視に関連する脳機能計測を実施した例について説明する。
なお、テスト紙301及び偏光板302は非磁性体で構成されているものとする。
【0026】
つぎに、本実施例におけるfMRI法による脳機能計測方法の手順について説明する。
本実施例でも、実施例1と同じ視機能制御装置106を用いる。図4は、本実施例における複数の視機能制御装置106を備えた構成例を示す図である。ここでは、視機能制御手段として偏光板302を用いた。
具体的には、図4に示す4つの視機能制御手段107のうちの対角線上にある2カ所、例えば107(A)と107(C)に同じ種類の偏光板302が設置されているものとする。
なお、左右の眼前にそれぞれ設置される視機能制御装置において、それぞれが備える偏光板302の偏光方向は90度ずれているものを用いるものとする。
また、視機能制御手段107(B)と107(D)には本実施例では何も備えない状態、すなわち孔の状態で構成されている。
視機能制御装置106をセットした状態で、MRI装置100の筒状の計測部105に被験者101の頭部が配置されるように、寝台102がセットされる。なお、超音波モータ108が駆動することによって描く軌道が被験者101の眼の中心軸を通過するように、視機能制御装置106がセットされる。
【0027】
つぎに、図5を用いて、本実施例における被験者101の視機能制御及び脳機能画像取得に関するシーケンスについて説明する。
まず、被験者101の視機能制御のシーケンスを、図5(a)、(b)を用いて説明する。
以下に示すステップ(1)〜(5)において、被験者101の視機能を制御する。図5(a)は各ステップの順番と時間間隔、図5(b)は被験者101、保持手段201、テスト紙301、視機能制御手段としての偏光板302の位置関係を示している。
なお、本実施例においては、左右の眼前に設置された視機能制御装置は同じタイミングで駆動するものとする。
【0028】
まず、ステップ(1)において、偏光板302が設置されていない視機能制御手段107を被験者101の眼前に固定し、被験者101にテスト紙301を時間区間t1の間視認させる。
次に、ステップ(2)において、超音波モータ108を時間区間t2の間に回転させ、偏光板302が被験者101の眼前に固定されるように制御する。
次に、ステップ(3)において、偏光板302を被験者101の眼前に固定し、偏光板302を介して被験者101にテスト紙301を時間区間t3の間視認させる。
次に、ステップ(4)において、超音波モータ108を時間区間t4の間に回転させ、偏光板302が設置されていない視機能制御手段107が被験者101の眼前に固定されるように制御する。
次に、ステップ(5)において、偏光板302が設置されていない視機能制御手段107を被験者101の眼前に固定し、被験者101にテスト紙301を時間区間t5の間視認させる。
これらのステップ(2)からステップ(5)までを1ループとし、
以下、超音波モータ108の駆動及び視機能制御手段107の変更を、ステップ(2)、ステップ(3)、ステップ(4)、ステップ(5)、ステップ(2)、…ステップ(5)の順番で、ループをN回繰り返す。
【0029】
本実施例では、一般的な脳機能計測で使われているブロックデザインと呼ばれる手法を用いる。
ブロックデザインでは、レストブロックと呼ばれる被験者101の視機能を制御していない状態と、タスクブロックと呼ばれる被験者101の視機能を制御した状態とを交互に繰り返す。
なお、本実施例において、視機能を制御した状態とは偏光板302を被験者101の眼前に固定した状態のことである。
そして、レストブロックで得られる脳機能画像とタスクブロックで得られる脳機能画像の2種類の画像を取得する。
これらは、すなわち視機能を制御した状態の脳機能画像と制御していない状態での脳機能画像との2種類の画像となる。
この2種類の画像を比較することで、視機能を制御した状態の脳の活動状態を反映した脳機能画像を得ることができる。
本実施例では、ステップ(3)がタスクブロックに、ステップ(5)がレストブロックに相当する。
【0030】
つぎに、図5(c)を用いて、fMRI法による脳機能画像取得シーケンスについて説明する。
まず、被験者101の視機能を制御するタイミングとfMRI法の撮像開始のタイミングとを同期させる。
そして、タスクブロックすなわちステップ(3)の時間区間t3において偏光板302を介してテスト紙301を視認した際の脳機能画像と、レストブロックすなわちステップ(5)の時間区間t5において得られる脳機能画像とをそれぞれ取得する。
本実施例では、ステップ(2)からステップ(5)のループをN回繰り返しているので、タスクブロックでの脳機能画像とレストブロックでの脳機能画像がそれぞれN個ずつ得られる。
これらの画像を平均化などの画像処理を行うことでノイズを除去し、最終的にタスクブロック時とレストブロック時の脳機能画像を比較することで、被験者の視機能を制御した際の脳機能画像を得ることができる。
そして、得られた脳機能画像を解析することで、被験者の立体視に関連する脳活動(第3次視覚野などの活動)の変化を計測することができる。
【0031】
本実施例では、ステップ(2)及びステップ(4)で、超音波モータ108を回転させて、被験者101の眼前に設置する視機能制御手段107を変更している。
ここで、このt2及びt4の時間区間の間は、脳機能画像を取得しないようにfMRI法の脳機能画像取得シーケンスを作成することが望ましい。
その理由は2つあり、1つは本実施例の視機能制御装置106では、保持手段201を回転させることで被験者101に呈示する視機能制御手段107を変更している。
したがって、視機能制御手段107を変更するためにある程度の時間を必要とする。
よって、この時間区間ではタスクとレストの視機能制御が混在してしまう可能性があるためである。
もう1つの理由は、超音波モータ108を駆動することで、わずかに発生する電磁波が、脳機能画像の劣化を引き起こす可能性があるからである。
すなわち、超音波モータ108を駆動している時間区間の間、脳機能画像の取得を停止することで、測定後の解析で使用する画像データに、超音波モータ108の駆動に起因するノイズが重畳されることを抑制することが可能となる。
なお、MRI装置の種類によっては、以上のようにt2及びt4の間のみの脳機能画像の取得を停止することができないものもある。
この場合は、全測定期間にわたって脳機能画像を取得した後、t2及びt4の時間区間に取得した脳機能画像を使用せず、t3及びt5で取得した画像データのみを解析することで所望の脳機能画像を得ることができる。
【0032】
[実施例3]
実施例3として、視機能制御装置106で用いる駆動手段として、実施例1のような超音波モータによる回転型アクチュエータではなく、直線駆動型のアクチュエータを用いる構成例について、図6を用いて説明する。
本実施例の直線駆動型のアクチュエータは、図6に示されるように保持手段601上に一列に、複数の視機能制御手段(602、603、604)がセットされ、直線駆動型アクチュエータ605が保持手段601に接続されている。直線駆動型アクチュエータ605は、606で図示される直線的な方向に、保持手段601を移動させる。
直線駆動型アクチュエータを駆動し、視機能制御手段602〜604と被験者101との相対位置を変更することで、被験者の視機能を制御することが可能となる。
この場合、アクチュエータとしては、非磁性体からなる圧電素子を用いた直線駆動型アクチュエータを用いることが好ましい。
【0033】
[実施例4]
実施例4として、脳磁計(MEG)において、本発明における視機能制御装置を適用した構成例を、図7を用いて説明する。
脳磁計を用いた場合は、脳の活動変化を時間精度良く測定かつ画像化できる。磁気シールド室内には脳磁計本体(図示せず)と視機能制御装置、及び視覚刺激呈示装置が設置される。
被験者701は、磁気センサが収納されたヘルメット状のデュアー型センサアッセンブリ702を頭部に装着する。
非磁性体からなる視機能制御装置703は、視覚刺激呈示装置704に対する被験者701の視機能が制御できるように、被験者701の眼前に設置される。視覚刺激呈示装置704も、非磁性体からなるスクリーンや実物体などで構成されていることが好ましい。
この系を用いて行う脳機能計測の手順は、実施例1から実施例3で示した方法と同様の手順を用いることができる。
以上の本実施例のように本発明の視機能制御装置を用いることによって、脳磁計に与えるノイズを小さくして脳機能測定を行うことができる。
また、脳磁計は時間分解能が高いため、視機能制御手段を変更したタイミングにおける被験者の脳機能計測も可能となる。
これにより、視機能を制御する過程における脳の活動状態を計測することが可能となる。
【符号の説明】
【0034】
100:MRI装置
101:被験者
102:MRI装置の寝台
103:傾斜磁場コイル
104:超電導磁石
105:筒状の計測部
106:視機能制御装置
107:視機能制御手段
108:超音波モータ
109:プロジェクター
110:スクリーン
111:ミラー
112:MR信号検出用コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者に視覚刺激を呈示し、磁場の変化を検知することによって被験者の脳機能計測を行う装置を実施する際に、前記被験者の視機能を制御するために用いられる視機能制御装置であって、
前記被験者に呈示される視覚刺激を制御するための非磁性体からなる視機能制御手段と、
前記視機能制御手段の駆動を制御する駆動制御手段と、
を有することを特徴とする視機能制御装置。
【請求項2】
前記視機能制御手段が、レンズ、遮眼子、偏光板、減光フィルター、プリズム、ピンホールのいずれか一つ、若しくはそれらの組み合わせによって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の視機能制御装置。
【請求項3】
前記駆動制御手段が、非磁性体からなるアクチュエータによって構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の視機能制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の視機能制御装置を備えていることを特徴とする磁気共鳴画像装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の視機能制御装置を備えていることを特徴とする脳磁計。
【請求項6】
被験者に呈示される視覚刺激を制御するための非磁性体からなる視機能制御手段と、前記視機能制御手段の駆動を制御する駆動制御手段と、を備えた視機能制御装置を用い、磁場の変化を検知することによって被験者の脳機能を計測する脳機能計測方法であって、
前記視機能制御手段と前記駆動制御手段とを用いることで前記被験者の視機能を制御した状態を提供する第1の工程と、
前記第1の工程における脳機能画像を取得し、該脳機能画像を解析する第2の工程と、
を有することを特徴とする脳機能計測方法。
【請求項7】
前記第1の工程が、前記被験者の視機能を制御した状態を性質の異なる複数の状態に周期的に切り替えて提供される工程を含むことを特徴とする請求項6に記載の脳機能計測方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate