説明

視覚弱者向けのエスカレーター用手摺ベルトおよび該手摺ベルトの製造方法

【課題】 従来、手摺ベルトに方向マーク片を設けるなどの安全性向上策(転倒防止等)は手摺ベルトの材質がゴム材に限られ、近時主流となっているウレタン製手摺ベルトは対象外であった。また、ウレタン製手摺ベルトに方向マーク片を一体的に接合するための製造方法が確立されていなかった。
【解決手段】 この課題を解決するため、エスカレーター1の正面となるウレタン製手摺ベルト6の反転部5Aと5Bの半円周範囲内に少なくても1個存在するように、該手摺ベルト6と同材質で異色の円形等の方向マーク片6Aを設ける一方、これの製造方法の一つとして、手摺ベルト6の表面に対して方向マーク片6Aを加熱、加圧することにより溶着一体化を図るようにした。また、他の製造方法として、手摺ベルト6の表面の、方向マーク片6Aが位置する部分にプライマー剤層を、方向マーク片6Aにウレタン接着剤層を設け、これらを加熱金型と加圧金型によって接合一体化を図るようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動する踏段群が水平路あるいは傾斜路を形成して乗客輸送を行うもので、特に視覚弱者向けに好適なエスカレーター用手摺ベルトおよび該手摺ベルトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2007年公表の国土交通省「バリアフリー整備ガイドライン」のエスカレーターの項に「印を付けることなどにより、ベルトの進行方向を表示する」規定が盛り込まれ、本発明の主名称である「視覚弱者向けエスカレーター用手摺ベルト」が様々に工夫されて幅広く普及する一方、その効果が視覚弱者は勿論、健常者の手摺利用率向上(安定的利用姿勢保持)および知的障害者に対する効用も認知され始めている。ここで、上記「印を付ける」具体的な方法としては、従来、手摺ベルトの表面に花柄などの模様体を直に接合する、下記特許文献に記載の方法が知られている。
【先行技術文献】
【0003】
【特許文献】
【特許文献】 特公平3−53235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献に開示されたものは、手摺ベルトの表面に単なる飾り絵的な模様を付すもので、上記の「手摺ベルトの進行方向を表示する印」によってエスカレーターの存在とその速度感を視覚によって認知(乗り込み時の運転速度に対する体重移動バランスの安定化等)、逆乗り込み(降り口側から乗り込む等)阻止効果によって、転倒事故を防止する目的は達し得なかった。また、同特許文献に記載のように「手摺ベルトの表面に模様体を一体加硫」する製造方法は、手摺ベルトの材質がゴム材に限定されるものであって、近時表面光沢と寿命面の利点を生かして主流となっているウレタン(樹脂あるいはゴムとも呼称されるが、加硫と呼ばれる架橋反応が生じない)製手摺ベルトには適用できないという問題があった。同じ理由で、ウレタン製手摺ベルトに「印を付ける」ための製造方法が確立されていなかった。
【0005】
本発明は、これらの問題を解消するためになされたものであり、ウレタン樹脂製手摺ベルトを用いたエスカレーターを対象として、特に近視、老眼、白・緑内障、視野狭窄など視力が劣る視覚弱者向けエスカレーター用の手摺ベルトおよび該手摺ベルトの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、上記目的を達成するため請求項1記載のように、人が乗る踏段群の両側に側壁として直立する欄干周縁の両反転部間を移動するウレタン製手摺ベルトの表面に、該手摺ベルトとは同材質かつ異色で、その移動方向を見易く表示するウレタン製で円形等に切り抜いた方向マーク片を前記反転部の半円周範囲内に少なくても1個存在する間隔を設け、最終的に転倒事故等を防止する構成としたことを特徴とする視覚弱者向けのエスカレーターを提供するためになされたものである。
【0007】
(2)また、請求項2記載のように、ウレタン製手摺ベルトの表面に、該手摺ベルトとは同材質かつ異色のウレタン製方向マーク片を該手摺ベルトに対して加熱、加圧して溶着一体化する製造方法を提供するためになされたものである。
【0008】
(3)さらに、請求項2とは別の製造方法として請求項3記載のように、ウレタン製手摺ベルトの表面に、該手摺ベルトと同材質かつ異色のウレタン製方向マーク片を、該手摺ベルト側にプライマー剤層を、該方向マーク片にウレタン接着剤層を形成し、これらを加熱、加圧して接合一体化する製造方法を提供するためになされたものである。
【発明の効果】
【0009】
上記(1)の構成によれば、ウレタン製手摺ベルトの反転部半円周範囲内に、該手摺ベルトの表面色とは異色で目立ち易い円形等の方向マーク片が設けられ、該方向マーク片が踏段群と同期して動くことから、視力の弱い障害者でも運転方向と速度感が視覚的により認識し易くなることは確実で、危険な逆方向からの乗り込みや静から動への体重移動の失敗による転倒事故の低減に寄与できる。
【0010】
上記(2)の構成によれば、ウレタン製手摺ベルトの母材と方向マーク片とが互いに異色ではあるものの同一材質であることから、熱成形金型で加熱・加圧することにより溶着一体化され、上記視認効果を発揮することができる。
【0011】
上記(3)の構成によれば、ウレタン製手摺ベルトの母材と方向マーク片との間にプライマー剤層とウレタン接着剤層が介在した状態で接合一体化されるので、母材と方向マーク片の接合がより確実なものとなる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態を示す全体側面図である。
【図2】図1のX−X線に沿う断面図である。
【図3】本発明の手摺ベルトの概念的単体斜視図である。
【図4】本発明の製造方法の例を示す断面図である。
【図5】本発明の製造方法の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明になる視覚弱者向けのエスカレーター用手摺ベルトの構成と該手摺ベルトの製造方法について実施形態を図1〜図5を用いて説明する。
【実施例】
【0014】
図1、図2および図3において、視覚弱者向けのエスカレーター1の構成は、上階床2Aと下階床2Bに装架される主フレーム3と、無端状に連結されて往路から復路にかけて反転して移動する踏段群4と、この踏段群4の両側に直立して側壁を形成する欄干5と、この欄干5の周縁の両反転部5Aと5B間を移動する手摺ベルト6を備えている。また、手摺ベルト6は駆動歯車7の動力をチェーン8を介して駆動ローラ9等に伝達された動力によって摩擦駆動され、その往路は欄干5で、その復路は案内ローラ10によって支持されている。
【0015】
そして、本発明の対象となる手摺ベルト6はウレタン(樹脂ともゴムとも称することがある)製であり、一般には芯材であるスチールワイヤを包むような略C字形に押し出し成型されて無端状に製造される。ここで、手摺ベルト6は、図2、図3に示すように欄干5の高さHに相当する反転部5A(反対側の反転部5Bも同様)の半円周範囲内に少なくても1個存在する間隔Pをもって円形等(あるいは菱形など形状は特定しない)の目立ち易い形状の方向マーク片6Aを図3に示す全体幅W1の手摺ベルト6の表面を形成する両縁部6bを除いた平坦部6a(幅W2)の幅いっぱいに配置してある。この場合、間隔Pの設定は、乗り口階床にいる視覚弱者がエスカレーター1を遠望した時に該エスカレーター1の正面に少なくても1個出てくる方向マーク片6Aの存在、すなわちエスカレーター1の存在と運転方向を容易に視認できることを意図したもので、実機検証したところ具体的には50〜150cmが適当である。また、視覚弱者が乗り口に達した時は、欄干5の上面で目の高さに近い位置に方向マーク片6Aがあることによって視点が定まり、速度感も認識できて乗り込み(体重移動)のタイミングが取り易くなって、転倒事故の低減に寄与することができる。
【0016】
ここで、ウレタン製手摺ベルト6の母材表面に同材質かつ黄色、白色等異色の方向マーク片6Aを一体化して設ける本発明の製造方法には図4および図5に示すやり方がある。第1の方法は、量産性を重視したもので図4に示すような製造方法である。すなわち、図4中に想像線で示したように円形等に切り抜いた方向マーク片6A(板厚tはミクロン〜ミリメートル単位の薄板)を手摺ベルト6の所定箇所に位置決めした状態で加熱金型Kaの凹みにセットしてこの両者を軟化温度まで加熱、ある程度溶融させた状態でC字形開口部に差し入れた加圧金型Kbを矢印Fのように加圧し、この加圧力に対する加熱金型Ka側の反力(矢印Fa)とで溶着一体化するものである。
【0017】
一方、第2の方法は、手摺ベルト6と方向マーク片6Aの密着性をより重視したもので図5に示すような製造方法である。すなわち、図5中に想像線で示したように円形等に切り抜いた方向マーク片6A(板厚tは図4と同等)にウレタン接着剤層6Bを形成、また方向マーク片6Aが配置される手摺ベルト6の表面にはプライマー剤層6Cを形成させた状態で加熱金型Kaの凹みにセットし、一定温度まで加熱した状態で加圧金型Kbを矢印Fのように加圧し、この加圧力に対する加熱金型Ka側の反力(矢印Fa)とで接合一体化するものである。
【0018】
ここで、方向マーク片6Aは、手摺ベルト6の表面色とは色差、明度差のある黄色、灰色、白色等任意の色調が選定される。また、上記方向マーク片6Aの間隔P内には「手摺をつかめ」的な安全利用のための文言や広告等を印刷したシートを貼り付けて設けることも可能であり、対象とする設備もエスカレーター1だけでなく、類似的機構の動く歩道にも適用できる。さらに、本発明は、発明の名称である「視覚弱者」の利用に限定されるものではなく、健常者、知的障害者等制限なく利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
以上説明したように上記実施形態によれば、従来適用外であったウレタン製手摺ベルトに対して安全上有効な方向マーク片を付加することができ、視覚弱者向けとして真に有効なエスカレーターを提供することができる。
【符号の説明】
【0020】
1 エスカレーター
4 踏段群
5 欄干
5A、5B 反転部
6 手摺ベルト
6A 方向マーク片
6B ウレタン接着剤層
6C プライマー剤層
Ka 加熱金型
Kb 加圧金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
往路から復路にかけて反転して移動する踏段群と、この踏段群と同期して欄干終端の反転部間を移動するウレタン製手摺ベルトを備えた視覚弱者向けのエスカレーター用手摺ベルトにおいて、前記手摺ベルト表面の反転部半円周範囲内に少なくても1個存在するように、前記手摺ベルトとは同材質かつ異色のウレタン製方向マーク片を手摺ベルトに一体的に接合して設けたことを特徴とする視覚弱者向けのエスカレーター用手摺ベルト。
【請求項2】
前記手摺ベルト表面に、該手摺ベルトと前記方向マーク片を加熱、加圧して溶着一体化したことを特徴とする請求項1記載の視覚弱者向けのエスカレーター用手摺ベルトの製造方法。
【請求項3】
前記手摺ベルト表面の、前記方向マーク片が配置される部分にプライマー剤層を形成、前記方向マーク片にウレタン接着剤層を形成し、該手摺ベルトと方向マーク片を加熱金型と加圧金型によって接合一体化したことを特徴とする請求項1記載の視覚弱者向けのエスカレーター用手摺ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−6692(P2013−6692A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152291(P2011−152291)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(504161478)エーディ株式会社 (27)
【Fターム(参考)】