視覚疑似体験装置および視覚疑似体験方法

【課題】疑似体験したい年齢を設定するだけで、その年齢での平均的な見え方を簡便に再現でき、ユニバーサルデザインを考慮した製品設計を容易に行うことを可能とする。
【解決手段】視覚状態を疑似体験するための視覚疑似体験装置であって、観察者と対象物との間に配置され、光を表面及び通過途中の少なくともいずれかで乱反射させるフィルタと、前記観察者が疑似体験したい年齢を入力する年齢入力部と、入力された前記年齢に基づいて前記対象物と前記フィルタとの間の距離を算出する距離算出部と、を備えたことを特徴とする視覚疑似体験装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視覚疑似体験装置および視覚疑似体験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
器具や空間などユニバーサルデザインを目指す際には、視覚障害者および高齢者の見え方を考慮し、その評価を器具などのデザイン設計の段階から組み入れる必要がある。そのため、様々なシミュレータが開発されてきた。
例えば、その方法として、光学フィルタをゴーグルにセットする方法や、コンピュータによる画像処理を用いる方法がある(例えば、特許文献1、非特許文献1、2参照)。
しかし、前者では、観察者の発汗によってゴーグル内のフィルタが曇ってしまったり、製造ロットごとのゴーグルの安定性が確保できないという問題があった。一方、後者では、照明環境など様々な要素を現実場面に合わせることがモニタ画面等の制約で出来なかったり、可能な範囲であっても、マシンパワーが必要なり、低コスト化が難しいという問題があった。さらに、モニタ画面上に画像を提示することになるため、モニタ画面のガンマ補正などのキャリブレーションを厳密に行う必要があり、それらの機材のためにシステムが高額になるという問題等があった。
【0003】
これに対し、近年、スリガラス(ground glass)を用いた低視力シミュレータが注目されている(例えば、非特許文献3参照)。このような低視力シミュレータでは、評価したいターゲットとスリガラスとの間の距離を変えることで、低視力を連続的に変化させることができる。
以下に、低視力シミュレータの原理の概要を以下に説明する。
【0004】
図8は、低視力をシミュレートする概要を説明する図である。
図8(a)には、観察者(人体)10と、観察者10が見るターゲット11と、観察者10とターゲット11との間に設置されたフィルタ12と、観察者10の網膜に映しだされた網膜像13a、13b、13cが模式的に表示されている。図8(b)には、視力と、ターゲット11とフィルタ12との間の距離(以下、フィルタ距離Dtf)の関係が示されている。
ターゲット11としては、例えば、ランドルト環像(「C」文字)が描かれている。フィルタ12は、低視力状態を作るためのスリガラス板である。このフィルタ12は、光を表面および通過途中で乱反射する性質を有している。観察者10とターゲット11間に介在させたフィルタ12によって、映像の“ぼやけ(blur)”を作り出すことができる。
【0005】
本概要では、フィルタ距離Dtfを変えることで、空間フィルタ特性を変化させることができる。フィルタ距離Dtfを長くするほど、高空間周波数の情報が順次減衰する。つまり、フィルタ12は、空間周波数の情報を連続的に可変する連続可変ブラー(ぼやけ)フィルタとして機能する。
まず、図8(a)の(1)の場合では、フィルタ距離Dtfが最も短い。この場合、観察者10とターゲット11との間にフィルタ12が介在しても、観察者10は、フィルタ12を通してターゲット11をはっきりと見ることができる。次に、(2)の場合のように、フィルタ距離Dtfを(1)よりも長くすると、観察者10には、ターゲット11が(1)よりもややぼやけて見える。そして、(3)の場合のように、フィルタ距離Dtfを最も長くすると、観察者10には、ターゲット11がさらにぼやけて見える。
【0006】
このように、フィルタ距離Dtfを長くするほど、高空間周波数の情報が観察者10に伝達し難くなる。従って、フィルタ距離Dtfが長いほど、観察者10は、低空間周波数の情報しか得られなくなり、ターゲット11のいわゆる“くっきり感”が減退する。これにより、観察者10は、低視力状態を疑似体験できる。
また、図8(b)には、フィルタ距離Dtfと視力の関係が示されている。図8(b)の横軸は、視力(visual acuity)であり、縦軸は、フィルタ距離Dtf(単位:センチメートル(cm))である。図8(b)には、複数人(例えば、12名)による実測値が示されている。図8(b)の横軸、縦軸は、対数表示である。また、観察者10とターゲット11との間の距離は、例えば、90cmである。
図8(b)に示すように、フィルタ距離Dtfが1.0cm以下では、視力は1.0以上である。しかし、フィルタ距離Dtfが上昇すると、視力が徐々に低下することがわかる。
【0007】
これらの実測値を最小自乗法を用いて、フィルタ距離Dtfと視力Yとの関係式を求めると、
フィルタ距離Dtf=1.9807×視力Y−1.0884(R値:0.993)・・・(式1) を得る。
例えば、観察者10が視力0.1の疑似体験をしたい場合は、フィルタ距離Dtfを約24cmにして、フィルタ12を通してターゲット11を見ればよい。
このような方法によって低視力シミュレーションが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−119638号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】中野泰志、「ロービジョンシミュレーションの必要性」、視覚情報処理ハンドブック、朝倉書店、p.560(2000)
【非特許文献2】平野邦彦、「occlusion foil 透過画像の疑似生成について」、文部省科学研究費補助金(課題番号07301010)、研究成果報告書、p.1-9(1998)
【非特許文献3】井手口範男、中野泰志、布川清彦、「スリガラスを用いた低視力シミュレータの開発」、ヒューマンインターフェース学会研究報告集、6(6)、p.1-8(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の低視力シミュレータでは視力を予め設定しなければならない。また、ある製品のユニバーサルデザイン設計時に想定される使用者の視力を設定することは困難であった。一方で想定される使用者の年齢層は製品開発時に予め設定されている。 本発明では視力を予め設定しなくとも、疑似体験したい年齢を設定するだけで、その年齢での平均的な見え方を簡便に再現することができる視覚疑似体験装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、視覚状態を疑似体験するための視覚疑似体験装置であって、観察者と対象物との間に配置され、光を表面及び通過途中の少なくともいずれかで乱反射させるフィルタと、前記観察者が疑似体験したい年齢を入力する年齢入力部と、入力された前記年齢に基づいて前記対象物と前記フィルタとの間のフィルタ距離を算出するフィルタ距離算出部と、を備えたことを特徴とする視覚疑似体験装置である。
本発明によれは、入力した年齢から対象物に対するフィルタの距離が決定されて、年齢を入力するという簡便な操作だけで、その年齢における平均的な見え方を再現できるようになる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、前記観察者が疑似体験したい年齢に基づいて視力を決定する視力算出部をさらに備え、前記フィルタ距離算出部は、前記視力算出部により決定された視力に基づいて、前記フィルタ距離を算出することを特徴とする。
本発明によれば、入力された年齢に基づきその年齢における平均的な視力が算出されて、算出された平均的な視力からさらに対象物とフィルタとの間の距離が算出される。その結果、年齢を入力するという簡便な操作だけで、その年齢における平均的な見え方を再現できるようになる。
【0013】
第3の発明は、第2の発明において、前記観察者と前記対象物との間の作業距離を入力する作業距離入力部をさらに備え、前記フィルタ距離算出部は、入力された前記作業距離、および前記年齢に応じて前記視力算出部により決定された前記視力に基づいて、前記フィルタ距離を決定することを特徴とする。
加齢に伴い近見視力と遠見視力の差が大きくなる所謂老眼現象が生じる。本発明では、年齢だけででなく、前記観察者と前記対象物との間の距離に伴い生じる老眼特性も考慮して、ある年齢での平均的な見え方を再現できるようになる。
【0014】
第4の発明は、第3の発明において、情報を前記観察者に通知する結果通知部をさらに備え、前記フィルタ距離算出部は、前記作業距離が前記観察者が疑似体験したい年齢での近点限界より大きい場合に、入力された前記作業距離、および前記年齢に応じて前記視力算出部により決定された前記視力に基づいて、前記フィルタ距離を決定し、前記結果通知部は、前記作業距離が前記近点限界以下の場合に、前記フィルタ距離算出部が前記フィルタ距離を決定しないことを前記観察者に通知することを特徴とする。
人の眼には明瞭に対象物を見ることのできる距離の限界値、すなわち近点限界が存在する。この近点限界も加齢とともに大きくなる、すなわち、より遠くの物も見えにくくなる傾向にある。本発明によれば、年齢および観察距離を入力するだけで、近見時と遠見時とで異なる見え方を再現できるだけでなく、医学的な専門知識がなくても誰でも老眼の特徴である加齢に伴う近点限界までを考慮した、ある年齢での平均的な見え方の再現が可能になる。
【0015】
第5の発明は、第4の発明において、前記観察者の裸眼状態もしくは矯正状態であることを入力する矯正条件入力部をさらに備え、前記フィルタ距離算出部は、入力された前記作業距離、前記年齢、および矯正条件に応じて前記視力算出部により決定された前記視力に基づいて、前記フィルタ距離を決定することを特徴とする。
本発明によれば、対象物が裸眼状態で見る頻度が高い製品と、矯正状態で見る頻度が高い製品とで、矯正あるいは非矯正を選択することにより、製品の用途に応じたある年齢での平均的な見え方の再現が可能になる。
【0016】
第6の発明は、第4の発明において、前記作業距離または前記フィルタ距離を計測する計測部をさらに備え、前記フィルタ距離算出部は、前記計測部により計測された前記作業距離、前記年齢に応じて決定された前記視力に基づいて、前記フィルタ距離を決定し、前記フィルタ距離は、前記計測部により計測できることを特徴とする。
本発明によれば、計測部により、簡便に観察者と対象物との距離、あるいは、対象物とフィルタとの間の距離が簡便に計測できる。
【0017】
第7の発明は、第6の発明において、前記フィルタと、前記計測部と、が一体となっていることを特徴とする。
本発明によれば、計測部とフィルタとが一体となっているので、視覚疑似体験装置の操作性が向上する。
【0018】
第8の発明は、視覚を疑似体験するための視覚疑似体験方法であって、前記観察者が疑似体験したい年齢を年齢入力部に入力するステップと、前記入力された年齢に基づいて、フィルタ距離算出部が対象物とフィルタとの間のフィルタ距離を決定するステップと、を備えたことを特徴とする。
このような発明であれば、入力した年齢から対象物に対するフィルタの距離が決定されて、決定された対象物とフィルタとの間の距離から観察者が疑似体験する年齢における平均的な見え方を再現できるようになる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、視力を予め設定しなくとも、疑似体験したい年齢を設定するだけで、その年齢での平均的な見え方を簡便に再現することができ、ユニバーサルデザインを考慮した製品設計を容易に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】視覚疑似体験装置のブロック構成図である。
【図2】年齢と近見視力の関係を説明する図である。
【図3】年齢と遠見視力の関係を説明する図である。
【図4】年齢と近点限界の関係を説明する図である。
【図5】視覚疑似体験の流れを説明するフローチャート図である。
【図6】視覚疑似体験装置のブロック構成図である。
【図7】視覚疑似体験装置の概要図である。
【図8】低視力をシミュレートする概要を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0022】
本実施の形態に係わる視覚疑似体験装置1について説明する。
図1は、視覚疑似体験装置のブロック構成図である。
視覚疑似体験装置1は、フィルタ12と、フィルタ12の位置を制御する制御部20と、制御部20、30の制御をする制御装置40と、を備えている。
【0023】
ターゲット11としては、例えば、ランドルト環像(「C」文字)が描かれている。フィルタ12は、低視力状態を作るためのスリガラス(無反射ガラス)板である。このフィルタ12は、光を表面および通過途中の少なくともいずれかで乱反射する性質を有している。観察者10とターゲット11間に介在させたフィルタ12によって、映像の“ぼやけ(blur)”を作り出すことができる。
【0024】
フィルタ12とターゲット11とは、略平行に配置することもできるし、斜めに配置することもできる。例えば、図1では、フィルタ12とターゲット11とは、略平行に配置されているが、想定される使用状態に合わせてターゲット11のフィルタ12に対する角度は自由に変更しても構わない。
【0025】
制御装置40は、上述した機能のほかに、観察者10が疑似体験したい年齢から視力、フィルタ距離Dtf、後述する作業距離Dht等を決定したり、決定した結果を観察者10に通知したりする手段を備えている。より具体的には、制御装置40は、入力あるいは記憶されたデータの読み出し、判断、並びに演算を行う演算部41と、データや関係式を記憶する記憶部42と、フィルタ距離Dtfや作業距離Dhtを測定する距離計測部43と、演算部41が行った結果を観察者10に通知する結果通知部44と、を有している。
【0026】
ここで、演算部41は、例えば、距離入力部41a、年齢入力部41b、距離算出部41c、視力算出部41d、矯正条件入力部41e、近点限界算出部41fを備えている。これらの機能については、後述する視覚疑似体験のフローチャートと共に説明する。制御装置40としては、例えば、コンピュータが挙げられる。そして、制御装置40からの指示を受けて、制御部20がフィルタ12の位置を制御したり、制御部30がターゲット11の画像、位置を制御する。ターゲット11は、操作用のリモコンなどの実製品であっても、表示パネルでもよい。フィルタ12の位置制御は、ステッピングモータ等で行えば、より正確な位置決めができて好ましい。
【0027】
次に、視覚疑似体験装置1の記憶部42に組み込まれている基本データについて説明する。
図2は、年齢と近見視力の関係を説明する図である。図2の横軸には年齢が示され、縦軸には近見視力が示されている。図2(a)には、裸眼状態での近見視力が示され、図2(b)には、矯正状態での近見視力が示されている。作業距離Dhtは、例えば、30cmとしている。
【0028】
図2(a)に示すように、年齢の増加に応じて、裸眼状態での近見視力は低下している。例えば、40歳代では近見視力は0.6以上あるものの、60歳代になると近見視力は0.4付近にまで低下する。
これらのデータに基づき最小自乗法を用いて、裸眼状態での年齢Xと近見視力Y1との関係式を求めると、
近見視力Y1=−0.0235×年齢X+1.9081(R値:0.890)・・・(式2)
を得る。
また、図2(b)に示すように、眼鏡やコンタクトレンズを装着した矯正状態では、近見視力は図2(a)に比べ向上する。例えば、40歳代では近見視力は1.0以上にまで回復し、60歳代においても0.8以上の近見視力を回復する。
【0029】
これらのデータに基づき最小自乗法を用いて、矯正状態での年齢Xと近見視力Y2との関係式を求めると、
近見視力Y2=−0.0096×年齢X+1.2223(R値:0.860)・・・(式3)
を得る。
次に、図3は、年齢と遠見視力の関係を説明する図である。図3の横軸には年齢が示され、縦軸には遠見視力が示されている。図3(a)には、裸眼状態での遠見視力が示され、図3(b)には、矯正状態での遠見視力が示されている。作業距離Dhtは、例えば、5mとしている。
【0030】
図3(a)に示すように、年齢の増加に応じて、裸眼状態での遠見視力は低下している。例えば、40歳代では遠見視力は0.7以上あるものの、60歳代になると遠見視力は0.6付近にまで低下する。
これらのデータに基づき最小自乗法を用いて、裸眼状態での年齢Xと遠見視力Y3との関係式を求めると、
遠見視力Y3=−0.0114×年齢X+1.7528(R値:0.900)・・・(式4)
を得る。
また、図3(b)に示すように、眼鏡やコンタクトレンズを装着した矯正状態では、遠見視力は図3(a)に比べ向上する。例えば、40歳代では遠見視力は1.2付近にまで回復し、60歳代においても0.9以上の遠見視力を回復する。
【0031】
これらのデータに基づき最小自乗法を用いて、矯正状態での年齢Xと遠見視力Y4との関係式を求めると、
遠見視力Y4=−0.0129×年齢X+1.8131(R値:0.910)・・・(式5)
を得る。
なお、(式2)〜(式5)を算出する際には、その精度を向上させるために、年齢の範囲として42歳から78歳のデータを採用している。また、これらの(式2)〜(式5)を導出する歳のデータ(図2、図3)は、例えば、Gittings&Fozardのデータ(Gittings,N.S.&Fozard,J.L.“Age related changes in visual acuity.Experimental Gerontology”,21,423-433.1986)をもとにしている。
【0032】
なお、本実施の形態での「視力」とは、観察者10が疑似体験できる年齢での人体の平均的な視力をいう。観察者10自体は、裸眼または矯正で正常な視力(例えば、1.0以上)を有しているものとする。すなわち、本実施の形態に従えば、観察者10は、ある年齢における平均的な見え方を疑似体験できる。
また、上述した作業距離Dht(90cm)は、一例である。本実施の形態では、作業距離Dhtを変更しても、フィルタ距離Dtfと視力Yとの関係を実測して、上述した(式1)を得ることにより、フィルタ距離Dtfと視力Yとの対応付けがなされる。図8(b)に示されたデータおよび(式1)も、本実施の形態の視覚疑似体験装置1の記憶部42に組み込まれている。
【0033】
ところで、図2と図3を比較すると、年齢が高くなるほど、近見視力が劣っていることが分かる。これは、高齢になるほど、近見での網膜上での焦点がぼやけたり、網膜そのものの細胞劣化が起きたりすることに因る。したがって、老眼を考慮して低視力状態をより正確に再現する場合には、作業距離すなわち遠見か近見かを考慮してシミュレーションすることが重要となる。次に、年齢と近点限界との関係について説明する。
【0034】
図4は、年齢と近点限界の関係を説明する図である。
図4の横軸には、年齢が示され、縦軸には、近点限界(単位:メートル(m))示されている。図4は、年齢と水晶体の調節力との関係を求めたMordi&Ciuffredaのデータ(Mordi,J.A.&Ciuffreda,K.J.Static aspects of accommodation: age and presbyopia.Vision Research,38,1643-1653,1998.)をもとに作成されている。
【0035】
ここで、近点限界とは、観察者10が近距離の対象物を見る場合の距離の限界をいう。つまり、作業距離が近点限界値よりも小さく設定された場合には、そもそも対象物を明瞭に見ることはできない。通常観察者10は、観察対象までの距離に応じて、眼球光学系の水晶体(レンズ)の屈折力を変えることができる。例えば、観察者10は、近くを見る場合には水晶体を厚くし、屈折力を高めて対象の像を網膜上に結ぶように調節する。しかしながら、水晶体の調節力は加齢とともに衰えるため、これに応じて近点限界(水晶体の調節力)の値が大きくなる。したがって、作業距離だけでなく年齢に対応した近点限界を考慮することで老眼状態を加味した見え方をより正確に再現することが可能となる。
【0036】
例えば、図4に示すように、年齢の上昇に応じて、近点限界は増加する。
これらのデータに基づき最小自乗法を用いて、矯正状態での年齢Xと近点限界Y5との関係式を求めると、
近点限界Y5=0.0281×exp(0.0553×年齢X)(R値:0.8902)・・・(式6)
を得る。
なお、(式6)を算出する際には、データの精度を考慮して、10歳から51歳のデータを用いている。
このような(式2)〜(式6)、上述したデータも、視覚疑似体験装置1の記憶部42に組み込まれている。なお、視覚疑似体験装置1内に組み込まれるデータは、特に、上述したデータに限られるものではなく最新のデータに更新してもよい。それに伴い、(式1)〜(式6)も最新の式に更新される。
【0037】
次に、視覚疑似体験装置1の動作方法を含めた視覚疑似体験の手順について説明する。 図5は、視覚疑似体験の流れを説明するフローチャート図である。このフローチャートは、観察者10が疑似体験したい条件に応じて枝分かれし、各枝毎に上述した(式1)〜(式6)が使い分けられる。
【0038】
まず、観察者10は、フィルタ12を真正面から見るように位置した後、本実施の形態では、仮想の作業距離Dhtを視覚疑似体験装置1の距離入力部41aに入力する(ステップS10)。本来、作業距離とは、フィルタ12がない状態での観察者10(例えば、高齢者)がターゲット11を眺めるときの、観察者10とターゲット11との間の距離(実際の距離)を言うが、本実施の形態では、低視力を疑似体験するために、フィルタ12を介した観察者10とターゲット11との間の距離(想定される距離)を作業距離Dhtとしている。以下に示される作業距離Dhtとは、上述した「仮想の作業距離」である。
なお、観察者はフィルタ12付近の任意の距離から観察すればよい。なお、観察距離がフィルタから極端に離れない限り、疑似体験の精度に影響がない点は、本システムの特徴の一つである。
【0039】
次に、観察者10は疑似体験したい年齢Xを年齢入力部41bに入力する(ステップS20)。
ここで、観察者10は、近見と遠見とでは視力が異なる(図2、図3)。従って、入力された作業距離Dhtに基づき、演算部41により、観察者10がターゲット11を近見で見ているか、遠見で見ているかの判断がなされる(ステップS30)。なお、作業距離Dhtについては、距離計測部43により測定してもよい。
例えば、30cm〜5mの範囲で所定の閾値を設け、作業距離Dht<閾値の場合は近見であり、作業距離Dht≧閾値の場合は遠見であると判断される。これにより、作業距離Dhtの長短に応じて(式2)または(式4)のいずれかを用いるかが決定される。
次に、近見の場合は、観察者10は、低視力を裸眼か矯正のどちらで疑似体験したいかを入力する(ステップS40)。この条件は、矯正条件入力部41eに入力される。これにより、入力された年齢Xが同じであっても、裸眼状態もしくは矯正状態により(式2)または(式3)のいずれかを用いるかが決定される。
【0040】
次に、裸眼状態が選択されたと認識した場合、記憶部42から読み出された(式2)が用いられて演算部41の視力算出部41dにより、年齢Xでの近見視力Y1が演算される(ステップS41a)。ここで、算出された近見視力Y1は、観察者10が疑似体験したい年齢Xにおける裸眼状態での近見視力である。
続いて、求められた近見視力Y1から、記憶部42から読み出された(式1)が用いられて距離算出部41cにより、フィルタ距離Dtfが出力される(ステップS41b)。
【0041】
また、ステップS40において、矯正状態が選択されたと認識した場合、記憶部42から読み出された(式3)が用いられて演算部41の視力算出部41dにより、年齢Xでの近見視力Y2が演算される(ステップS42a)。ここで、算出された近見視力Y2は、観察者10が疑似体験したい年齢Xにおける矯正状態での近見視力である。
続いて、求められた近見視力Y2から、記憶部42から読み出された(式1)が用いられて距離算出部41cにより、フィルタ距離Dtfが出力される(ステップS42b)。
【0042】
一方、ステップS30において、遠見であると判断された場合は、観察者10は、低視力を裸眼か矯正のどちらで疑似体験したいかを入力する(ステップS60)。
次に、裸眼状態が選択されたと認識した場合、(式4)が用いられて演算部41の視力算出部41dにより、年齢Xでの遠見視力Y3が演算される(ステップS61a)。ここで、算出された遠見視力Y3は、観察者10が疑似体験したい年齢Xにおける裸眼状態での遠見視力である。
続いて、求められた遠見視力Y3から、記憶部42から読み出された(式1)が用いられて距離算出部41cにより、フィルタ距離Dtfが出力される(ステップS61b)。
【0043】
また、ステップS60において、矯正状態が選択されたと認識した場合、記憶部42から読み出された(式5)が用いられて演算部41の視力算出部41dにより、年齢Xでの遠見視力Y4が演算される(ステップS62a)。ここで、算出された遠見視力Y4は、観察者10が疑似体験したい年齢Xにおける矯正状態での遠見視力である。
続いて、求められた遠見視力Y4から、記憶部42から読み出された(式1)が用いられて距離算出部41cにより、フィルタ距離Dtfが出力される(ステップS62b)。
【0044】
次に、それぞれの条件でのフィルタ距離Dtfが出力された後は(ステップS41b、S42b、S61b、S62b)、例えば、制御部20の距離計測部43によってフィルタ12の位置が自動的に調整される(ステップS70)。あるいは、観察者10自らが算出されたフィルタ距離Dtfに基づき、フィルタ12を手動で所定の位置に設置していもよい。
【0045】
この後は、観察者10は、フィルタ12を通してターゲット11を見ることにより、老眼を疑似体験をすることができる(ステップS80)。なお、疑似体験をしている視力、フィルタ距離Dtf等は、視覚疑似体験装置1の結果通知部44に表示させてもよい。
【0046】
また、視覚疑似体験装置1は、上述した機能に加え、近点限界による制限機能(リミッタ機能)を備えている。
例えば、視覚疑似体験装置1は、年齢が入力されると(ステップS20)、その値に基づき、記憶部42から読み出された(式6)を用いて、近点限界算出部41fにより、近点限界Y5を算出する(ステップS90)。
【0047】
次に、この段階では、視覚疑似体験装置1は、すでに作業距離Dhtを認識しているので、作業距離Dhtが近点限界Y5より短いか、長いかの判断を行う(ステップS91)。作業距離Dhtが近点限界以下の場合は、視覚疑似体験ができないことを観察者10に知らせる(ステップS92)。
【0048】
例えば、結果通知部44によって、観察者10に、「作業距離は、近点限界よりも小さく設定されているためターゲットを明瞭に見ることができない」、「作業距離の再設定が必要」というメッセージを通知をする。この通知は、文字による表示で行ってもよく、音による表示で行ってもよい。これを認識した観察者10は、作業距離Dhtを変更することにより、再び視覚疑似体験に望むことができる。一方、作業距離Dhtが近点限界よりも長い(大きい)場合は、視覚疑似体験装置1の演算部41は、その次の段階であるステップS30の段階に進む。このように、作業距離Dhtが観察者10が疑似体験したい年齢での近点限界より大きい場合には、フィルタ距離Dtfが算出され、近点限界以下の場合には、フィルタ距離Dtfは算出されない。
【0049】
このような視覚疑似体験装置1を用いれば、観察者10は、低視力のみならず高年齢および近点限界に対応した老眼を簡便に疑似体験できる。この際、観察者10は、老眼特性、近点限界といった医学的な専門知識を要することなく老眼を疑似体験できる。
【0050】
具体的には、作業距離Dht、疑似体験したい年齢、裸眼状態、矯正状態を入力するだけで、その年齢における平均的な見え方を再現するためのフィルタ距離Dtfが即算出される。そして、算出されたフィルタ距離Dtfに基づき、フィルタ12の位置を調節するだけで、老眼を疑似体験できる。
また、視覚疑似体験装置1では、裸眼状態または矯正状態を選択できるので、裸眼状態で見る頻度が高い製品と、矯正状態で見る頻度が高い製品とを使い分けて評価することができる。
【0051】
例えば、老眼鏡は、新聞、本等を読むときには使用され、浴室、トイレ等では使用されない場合が多い。従って、トイレ、浴室内に設けられている表示部については裸眼状態で視覚疑似体験をすることが好ましい。一方で新聞、本に描かれた文字、絵等については、矯正状態で視覚疑似体験をすることもできる。このように、視覚疑似体験装置1では、裸眼状態での評価と矯正状態での評価とを使い分けることができる。
さらに、視覚疑似体験装置1の結果通知部44は、作業距離Dhtが近点限界よりも短い場合には、その旨を観察者10に通知し、作業距離の設定が適切でないことを観察者に知らせることもできる。
【0052】
このような視覚疑似体験装置1を用いれば、加齢に伴う老眼状態を考慮した見え方を簡便に再現できるため、ユニバーサルデザインを考慮した商品設計等に幅広く応用することができる。
例えば、ターゲット11がトイレ、キッチン、浴室等で用いられるリモコン等の操作ボタンや、金融機関、駅構内等に設けられている表示パネルのアイコンであるとする。これらのターゲット11を利用する使用者の想定年齢層の平均的な見え方を視覚疑似体験することで、想定年齢層の使用者にとって見やすいターゲット11のデザイン、例えば、操作ボタンの大きさや配色などを設計する。これにより、例えば、老眼の人にも見やすいようなユニバーサルデザインを考慮した商品を開発段階で設計することが可能となる。また、ターゲット11が雑誌などの場合には本発明の視覚疑似体験装置1を用いることで想定年齢層の読者にとって見やすいレイアウト設計を行うことが可能となる。
【0053】
また、視覚疑似体験装置1のフィルタ12は、ゴーグルタイプのように汗などの影響で曇ることがない。
また、ゴーグルタイプのように観察者10の目付近が装置治具により制約を受けない。従って、観察者10の裸眼視力が悪い場合でも、観察者10は眼鏡等により矯正して視覚疑似体験に簡便に望むことができる。
【0054】
また、視覚疑似体験装置1によれば、1つの装置を用いて、複数の観察者(デザイナー)10が同じターゲット11を広視野で見ることができる。特に、フィルタ12として、上述したスリガラスを用いた場合、フィルタ距離Dtfさえ決定すれば、ターゲット11の見え方は、作業距離Dhtを若干変えても大きく変動しない。
すなわち、観察者10が複数人でも、各人の作業距離Dhtを完全に一致させたり、各人の見え角度を完全に一致させたりする必要がない。これにより、複数の観察者10が同じターゲット11を見ながら、ターゲット11の見え方をその場で協議することができる。その結果、ターゲットデザインに特定の観察者10による隔たり(主観)が生じ難くなる。
【0055】
また、視覚疑似体験装置1によれば、フィルタ12の位置を移動することで、視力を簡便且つ連続的に変化させることができる。また、照明器具などの光環境を調整すれば、実製品の使用場面に対応した環境下でデザイン評価をすることができる。
【実施例2】
【0056】
次に、上述した視覚疑似をより簡便に体験できる視覚疑似体験装置2について説明する。 図6は、視覚疑似体験装置のブロック構成図である。
視覚疑似体験装置2は、本体部(視覚疑似体験装置用治具)2Aと、計算手段2Bとを有する。
本体部2Aは、視覚疑似体験装置2用に使用される治具であり、樹脂ケース50と、樹脂ケース50に蝶番部材51を介して取り付けられたフィルタ12と、フィルタ12の外枠となるフレーム12fと、テープ状のメジャー部材43aと、メジャー部材43aを固定するストッパ52と、メジャー部材43aによって計測された距離を表示する表示部53と、を備える。
【0057】
メジャー部材43aは、矢印A方向に伸び縮みが可能であり、樹脂ケース50から引き伸ばしたり、樹脂ケース50内に収納したりすることができる。このメジャー部材43aにより、上述したフィルタ距離Dtf、作業距離Dhtを計測することができる。このように、本体部2Aは、フィルタ12と、フィルタ距離Dtfおよび作業距離Dhtの少なくとも1つを計測する計測手段とが一体となっている。
【0058】
ここで、フィルタ12は、蝶番部材51を介して樹脂ケース50に取り付けられているので、矢印B方向の運動が可能である。例えば、フィルタ12を樹脂ケース50の主面に略垂直にした場合、観察者10は、フィルタ12を通してターゲット11を見ることができる。
特に、メジャー部材43aを樹脂ケース50内に収納し、フィルタ12の主面を樹脂ケース50の主面に重ねた状態では、本体部2Aは把持できるほどコンパクトになり、その持ち運びの自由度が増す。
なお、ここでは本体部2Aと計測手段とが一体となっている場合を記したが、本体2Aと計測手段とを別体で設けても良い。
【0059】
一方、計算手段2Bは、例えば、コンピュータ55、計算早見表56等が該当する。コンピュータ55には、図5に例示されるフローチャートを実施するためのプログラムがインストールされている。また、コンピュータ55内の記憶手段には、上述した式(1)〜(6)、各種データが組み込まれている。計算早見表56には、上述したフローチャートを実施するための換算表、換算グラフ(以下、換算表等)が記載されている。観察者10は、これらの計算手段2Bに則ることにより、上述したステップS10からステップS41b、S42b、S61b、S62bのいずれかまで到達することができる。この場合、外部計算手段は、上述した計算手段2Bと同様の機能を有している。
【0060】
なお、計算手段2Bがいわゆるノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話である場合、計算手段2Bもコンパクトになり、その持ち運びの自由度が増す。この場合、本体部2Aと計算手段2Bとを共に収納するケースを準備してもよい(図示しない)。
【0061】
次に、視覚疑似体験装置2の具体的な使用方法を、図5に例示したフローチャートを参照しながら説明する。計算手段2Bとしては、コンピュータ55を例に取る。
まず、観察者10は、ターゲット11の前方に位置した後、作業距離Dhtをメジャー部材43aで計測し、その値を視覚疑似体験装置2の計算手段2Bに入力する(ステップS10)。距離を入力する距離入力部41aは、例えば、コンピュータ55の表示画面に表示されている。
【0062】
次に、観察者10は疑似体験したい年齢Xを計算手段2Bに入力する(ステップS20)。年齢を入力する年齢入力部41bは、例えば、コンピュータ55の表示画面に表示されている。
観察者10は、上述したように、近見と遠見とでは視力が異なる。従って、作業距離Dhtに基づき、コンピュータ55内の演算部41により、観察者10がターゲット11を近見で見ているか、遠見で見ているかの判断がなされる(ステップS30)。
【0063】
次に、近見の場合は、観察者10は、低視力を裸眼か矯正のどちらで疑似体験したいかをコンピュータ55に入力する(ステップS40)。
次に、裸眼状態が選択された認識した場合、(式2)が用いられてコンピュータ55の演算部41の視力算出部41dにより、年齢Xでの近見視力Y1が演算される(ステップS41a)。
続いて、求められた近見視力Y1から、(式1)が用いられてコンピュータ55の距離算出部41cにより、フィルタ距離Dtfが出力される(ステップS41b)。
【0064】
また、ステップS40において、矯正状態が選択されたと認識した場合、(式3)が用いられてコンピュータ55の演算部41の視力算出部41dにより、年齢Xでの近見視力Y2が演算される(ステップS42a)。
続いて、求められた近見視力Y2から、(式1)が用いられてコンピュータ55の距離算出部41cにより、フィルタ距離Dtfが出力される(ステップS42b)。
【0065】
一方、ステップS30において、遠見であると判断された場合は、観察者10は、低視力を裸眼か矯正のどちらで疑似体験したいかを入力する(ステップS60)。
次に、裸眼状態が選択されたと認識した場合、(式4)が用いられてコンピュータ55の演算部41の視力算出部41dにより、年齢Xでの遠見視力Y3が演算される(ステップS61a)。
続いて、求められた遠見視力Y3から、(式1)が用いられてコンピュータ55の距離算出部41cにより、フィルタ距離Dtfが出力される(ステップS61b)。
【0066】
また、ステップS60において、矯正状態が選択されたと認識した場合、(式5)が用いられてコンピュータ55の演算部41の視力算出部41dにより、年齢Xでの遠見視力Y4が演算される(ステップS62a)。
続いて、求められた遠見視力Y4から、(式1)が用いられてコンピュータ55の距離算出部41cにより、フィルタ距離Dtfが出力される(ステップS62b)。
【0067】
次に、それぞれの条件でのフィルタ距離Dtfがコンピュータ55の画面に出力された後は(ステップS41b、S42b、S61b、S62b)、観察者10は、出力されたフィルタ距離Dtfの長さ分に相当するメジャー部材43aを樹脂ケース50から引き出す。引き出されたメジャー部材43aは、この後、ストッパ52により固定される。そして、メジャー部材43aの先端をターゲット11の位置に合わせることにより、ターゲット11とフィルタ12との間の距離が出力されたフィルタ距離Dtfになる。この後は、観察者10は、フィルタ12を通してターゲット11を見ることにより、目的とする視力での疑似体験をすることができる(ステップS80)。
なお、コンピュータ55においても、作業距離Dhtが近点限界より大きいか否かの通知が観察者10になされる。
【0068】
このような視覚疑似体験装置2によっても、上述した視覚疑似体験装置1と同様の効果を得る。さらに、視覚疑似体験装置2では、本体部2A、計算手段2Bがよりコンパクトな構成になっている。これにより、装置の可搬性が向上し、その持ち運びがより簡便になる。また、操作性も向上する。特に、本体部2Aにおいては、そのコンパクトな形状ゆえ、複数の観察者10による使い回しが可能になる。
【0069】
なお、計算手段2Bについては、上述した形態のほか、マイクロコンピュータ内に計算手段2Bを格納し、このマイクロコンピュータを本体部2A内に直接内蔵した形態も本実施の形態に含まれる。この場合、本体部2Aの側面には、タッチパネル式の表示部54が設けられ、この表示部54から必要なデータが入力されたり、あるいは計算結果が出力されたりする。
【0070】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、視覚疑似体験装置1、2が備える各要素の形状、寸法、材質、配置などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
【0071】
具体的には、図7に示すように、本体部2Aを三脚架60に取り付けた形態も本実施の形態に含まれる。また、フィルタ12に関しては、本体部2Aから分離し、フィルタ12自体を直接、三脚架60に取り付けてもよい。
この三脚架60は、所謂カメラスタンド型の三脚架60であり、フィルタ12の細かい角度の調整が可能になる。このため、ターゲット11が地面に対し垂直に設置されていなくても、フィルタ12の角度を三脚架60により調整できる。さらに、三脚架60に取り付けられたフィルタ12の面積を増加することにより、フィルタ12を通して複数人でターゲット11を観察することが可能になる。これにより、複数人によるターゲット11の観察がより簡便になり、複数人で同じ見え方を共有しながらデザインに関する議論を遂行することができるようになる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせたり、複合したりすることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0072】
1、2 視覚疑似体験装置
2A 本体部(視覚疑似体験装置用治具)
2B 計算手段
10 観察者
11 ターゲット
12 フィルタ
12f フレーム
13a 網膜像
20、30 制御部
40 制御装置
41 演算部
41a 距離入力部
41b 年齢入力部
41c 距離算出部
41d 視力算出部
41e 矯正条件入力部
41f 近点限界算出部
42 記憶部
43 距離計測部
43a メジャー部材
44 結果通知部
50 樹脂ケース
51 蝶番部材
52 ストッパ
53、54 表示部
55 コンピュータ
56 計算早見表
60 三脚架
A、B 矢印
ht 作業距離
tf フィルタ距離
X 年齢
Y 視力
Y1、Y2 近見視力
Y3、Y4 遠見視力
Y5 近点限界

【特許請求の範囲】
【請求項1】
視覚状態を疑似体験するための視覚疑似体験装置であって、
観察者と対象物との間に配置され、光を表面及び通過途中の少なくともいずれかで乱反射させるフィルタと、
前記観察者が疑似体験したい年齢を入力する年齢入力部と、
入力された前記年齢に基づいて前記対象物と前記フィルタとの間のフィルタ距離を算出するフィルタ距離算出部と、
を備えたことを特徴とする視覚疑似体験装置。
【請求項2】
前記観察者が疑似体験したい年齢に基づいて視力を決定する視力算出部をさらに備え、
前記フィルタ距離算出部は、前記視力算出部により決定された視力に基づいて、前記フィルタ距離を算出することを特徴とする請求項1に記載の視覚疑似体験装置。
【請求項3】
前記観察者と前記対象物との間の作業距離を入力する作業距離入力部をさらに備え、
前記フィルタ距離算出部は、入力された前記作業距離、および前記年齢に応じて前記視力算出部により決定された前記視力に基づいて、前記フィルタ距離を決定することを特徴とする請求項2に記載の視覚疑似体験装置。
【請求項4】
情報を前記観察者に通知する結果通知部をさらに備え、
前記フィルタ距離算出部は、前記作業距離が前記観察者が疑似体験したい年齢での近点限界より大きい場合に、入力された前記作業距離、および前記年齢に応じて前記視力算出部により決定された前記視力に基づいて、前記フィルタ距離を決定し、
前記結果通知部は、前記作業距離が前記近点限界以下の場合に、前記フィルタ距離算出部が前記フィルタ距離を決定しないことを前記観察者に通知することを特徴とする請求項3に記載の視覚疑似体験装置。
【請求項5】
前記観察者の裸眼状態もしくは矯正状態であることを入力する矯正条件入力部をさらに備え、
前記フィルタ距離算出部は、入力された前記作業距離、前記年齢、および矯正条件に応じて前記視力算出部により決定された前記視力に基づいて、前記フィルタ距離を決定することを特徴とする請求項4に記載の視覚疑似体験装置。
【請求項6】
前記作業距離または前記フィルタ距離を計測する計測部をさらに備え、
前記フィルタ距離算出部は、前記計測部により計測された前記作業距離、前記年齢に応じて決定された前記視力に基づいて、前記フィルタ距離を決定し、
前記フィルタ距離は、前記計測部により計測できることを特徴とする請求項4に記載の視覚疑似体験装置。
【請求項7】
前記フィルタと、前記計測部と、が一体となっていることを特徴とする請求項6に記載の視覚疑似体験装置。
【請求項8】
視覚状態を疑似体験するための視覚疑似体験方法であって、
前記観察者が疑似体験したい年齢を年齢入力部に入力するステップと、
前記入力された年齢に基づいて、フィルタ距離算出部が対象物とフィルタとの間のフィルタ距離を決定するステップと、
を備えたことを特徴とする視覚疑似体験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−13373(P2011−13373A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156129(P2009−156129)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)