説明

視覚触知覚相互作用体感装置

【課題】視覚と触知覚との間の相互作用効果を生起させて、被験者に幻肢を体感させる。
【解決手段】筐体105の内部に鏡180で仕切った左右一方の肢体のいずれかの部位を模した義肢305を載置するための第1室110と、筐体の内部に第1室と並設された第2室160とを設ける。第1室の内部に刺激付与部120と、刺激付与部の移動及び回転の双方またはいずれか一方を行わせるための駆動部125とを設ける。第2室に義肢とは反対側の肢体を挿入し、第1室の内部に載置された義肢の鏡像185を覗き窓190を介して被験者に、覗き見させることにより、被験者に幻肢体感させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被験者に、視覚と触知覚との相互作用によって生じる幻肢を体感させる視覚触知覚相互作用体感装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ファントムペイン(幻肢痛)という現象が知られている。「幻肢」とは、肢体の一部、すなわち、腕(手を含む)及び脚(足を含む)の一部を欠損した人物が、あたかも、欠損部分が存在していて、その欠損部分が正常に機能しているかのように感じる現象である。「幻肢痛」とは、その欠損部分に痛みを感じる現象である。
【0003】
幻肢については、E.J.MilnerやGulland等によって、実験され確認されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
非特許文献1は、左手首を失った被験者に施された実験を開示している。この実験は、鏡に被験者の正常な右手首の鏡像を映させ、被験者に、その右手首の鏡像を見させるというものであった。
【0005】
この実験によれば、被験者が右手首を動かすと、被験者は、あたかも、存在しないはずの左手首が存在していて動いているかのような感覚を受けることが判明した。すなわち、被験者は、自身の右手首の鏡像を、欠損している左手首として認識する幻肢を体感していることが判明した。
【0006】
この実験により、幻肢は、感覚間の相互作用効果(非特許文献1の実験では、視覚と触知覚との間の相互作用効果)によっても、生じることが確認されている。
【非特許文献1】NATURE VOL.377,12 OCTOBER 1995,pp489−490
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、幻肢痛は、患部、すなわち、幻肢痛を起こしている欠損部分が実際には存在していないため、患部に対するマッサージ等を行うことができなかった。そのため、幻肢痛は、幻肢痛に対しては、有効な治療法がなかった。
【0008】
この発明は、感覚間の相互作用効果、特に、視覚と触知覚との間の相互作用効果を生起させて、被験者に幻肢を体感させる装置(以下、「視覚触知覚相互作用体感装置」と称する)を提供することを目的とする。
【0009】
そして、この発明は、この視覚触知覚相互作用体感装置を、幻肢痛を感じている人物に用いることにより、幻肢痛の治療装置として利用する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために、請求項1に記載の発明に係る視覚触知覚相互作用体感装置は、筐体と、鏡と、刺激付与部と、駆動部と、覗き窓とを含む構成となっている。
【0011】
筐体は、筐体の内部に設けられた第1室と、筐体の内部に第1室と並設された第2室とを有している。
【0012】
第1室は、左右一方の肢体のいずれかの部位を模した義肢を載置するための部屋である。「肢体」とは、腕(手を含む)及び脚(足を含む)を意味している。
【0013】
第2室は、被験者に、他方の肢体の、上述の義肢に対応する部位を挿入させるために、筐体に設けられた開口を備える部屋である。なお、「義肢に対応する部位」とは、健常者の場合には、その者の実際の部位となり、身体障害者の場合には、あたかも存在しているように見立てた欠損部位である。なお、「健常者」とは、全ての肢体が欠損することなく存在する人物を意味している。また、「身体障害者(以下、単に「障害者」と称する場合もある)」とは、肢体の一部が欠損した人物を意味している。
【0014】
第1室の内部には、義肢に対して動的刺激を付与するための上述の刺激付与部が設けられている。
【0015】
また、第1室の内部には、刺激付与部を支持するとともに、刺激付与部の移動及び回転の双方またはいずれか一方を行わせるための上述の駆動部が設けられている。
【0016】
なお、この駆動部の動作は、第1室の内側または外側に配置された上述の制御部によって、電気的に制御されている。
【0017】
第1室と第2室との間には、筐体の底面に対して垂直に設けられていて、第1室の内部に載置された義肢の鏡像を映すための上述の鏡が設けられている。なお、義肢の鏡像は、被験者に、他方の肢体の義肢に対応する部位として、見せ掛けるための像である。
【0018】
また、筐体には、被験者に、鏡に映っている義肢の鏡像を覗き見させるための上述の覗き窓が設けられている。この覗き窓は、筐体の正面の壁、背面の壁、及び上面の壁の略中央付近を切り欠くことによって形成されている。
【0019】
この装置によれば、被験者に、覗き窓を介して、刺激付与部によって動的刺激が付与されている義肢の鏡像を見させることにより、被験者に、視覚と触知覚との相互作用によって生じる幻肢を体感させることができる。なお、被験者に、腕の幻肢を体感させるのであれば、この装置を、例えば、テーブルや机の上に、第2室が略水平になるように設置すればよい。この場合、被験者は、椅子に座って使用することになる。また、被験者に、脚の幻肢を体感させるのであれば、この装置を、例えば、ベッドやマットの上に、第2室が略水平になるように設置すればよい。この場合、被験者は、ベッドやマットの上に乗り、ベッドやマットの上で腰を曲げて使用することになる。
【0020】
請求項2〜4に記載の視覚触知覚相互作用体感装置によれば、刺激付与部は、好ましくは、義肢に対して、例えば刷毛(はけ)等のように、直接接触して刺激を与える接触部材として形成するか、流体、例えばエアや水を噴出して刺激を与える流体噴出機として形成するか、または、光を投射して刺激を与える光投射部として形成するのがよい。そのため、請求項2〜4に記載の装置は、被験者に、動的刺激が付与されている義肢の鏡像を見せることができる。
【0021】
請求項5に記載の視覚触知覚相互作用体感装置によれば、第1室は、好ましくは、上述の覗き窓から覗ける鏡の領域内に駆動部の部分が映らないように、この駆動部の部分を遮蔽する遮蔽板を備えているのがよい。この装置は、遮蔽板によって、被験者の視界から、駆動部等の義肢の周囲の機構を遮蔽することができる。
【0022】
請求項6に記載の視覚触知覚相互作用体感装置によれば、駆動部は、好ましくは、刺激付与部を支持する支持部と、支持部を回転(振動動作を含む)させるための回転機構と、支持部を回転可能な状態で支持するための回転機構が搭載された第1板状部材と、この第1板状部材と一端側で結合された第2板状部材と、この第2板状部材に取り付けられていて、第2板状部材を介して第1板状部材を筐体の底面と平行な面内で移動させるためのスライド機構とを備えているのがよい。この装置によれば、駆動部が、刺激付与部を連続移動、間欠移動、または往復移動等の移動を行わせたり、また、公転、自転、または一定の角度範囲内での振れ動作等の回転を行わせたりすることによって、この刺激付与部を義肢上の好適な位置にもたらして、刺激を付与させることができる。
【0023】
請求項7に記載の視覚触知覚相互作用体感装置によれば、駆動部の第1板状部材は、好ましくは、軽量化のための穴または溝を備えているのがよい。この装置は、駆動部の第1板状部材を軽量化することができる。
【0024】
請求項8に記載の視覚触知覚相互作用体感装置によれば、第2室の開口は、好ましくは、被験者の他方の肢体がこの開口を経て第2室に挿入されたときに、他方の肢体の義肢に対応する部位が、第1室に載置された義肢の鏡像に見掛け上重ね合わせできる位置に設けられているのがよい。この装置は、違和感を覚えさせることなく、被験者に、第1室に載置された義肢を他方の肢体の義肢に対応する部位に重ね合わせて見させることができる。
【0025】
請求項9に記載の視覚触知覚相互作用体感装置によれば、第2室の開口は、好ましくは、第2室の正面側と背面側とに、それぞれ、設けられているのがよい。この装置は、正面側の開口及び背面側の開口のいずれからでも、被験者に、肢体を第2室の内部に挿入させることができる。
【0026】
請求項10に記載の視覚触知覚相互作用体感装置によれば、義肢は、好ましくは、人体の肢体の皮膚と同程度の軟性を有する、合成ゴムや天然ゴム等の樹脂によって形成されているのがよい。この装置は、刺激付与部によって刺激を義肢に付与することによって、義肢を、あたかも人体のように滑らかに、変形させることができる。
【0027】
請求項11に記載の視覚触知覚相互作用体感装置によれば、第2室が鏡を中心にして第1室と対称な構造となっている。
【0028】
すなわち、請求項11に記載の視覚触知覚相互作用体感装置によれば、好ましくは、並設された第1室及び第2室を内部に有する筐体と、第1室の内部に設けられていて、第1室に載置される、左右一方の肢体のいずれかの部位を模した第1義肢に対して動的刺激を付与するための第1刺激付与部と、第1室の内部に設けられていて、第1刺激付与部を支持するとともに、第1刺激付与部の移動及び回転の双方またはいずれか一方を行わせるための第1駆動部と、第2室の内部に設けられていて、第2室に載置される、左右他方の肢体のいずれかの部位を模した第2義肢に対して動的刺激を付与するための第2刺激付与部と、第2室の内部に設けられていて、第2刺激付与部を支持するとともに、第2刺激付与部の移動及び回転の双方またはいずれか一方を行わせるための第2駆動部と、被験者に、一方の肢体の、第2義肢に対応する部位を第1室に挿入させるために筐体に設けられた第1開口と、被験者に、他方の肢体の、第1義肢に対応する部位を第2室に挿入させるために筐体に設けられた第2開口と、第1室と第2室との間に、筐体の底面に対して垂直に設けられていて、第1室の内部に載置された第1義肢の鏡像及び第2室の内部に載置された第2義肢の鏡像の双方またはいずれか一方を映すための鏡と、筐体にそれぞれ設けられていて、被験者に、鏡に映っている第1義肢の鏡像を覗き見させるための、第1室の第1覗き窓、及び、被験者に、鏡に映っている第2義肢の鏡像を覗き見させるための、第2室の第2覗き窓とを有しているのがよい。
【0029】
この装置は、第2室または第1室に第1義肢または第2義肢に対応する部位を挿入する挿入被験者に、第1覗き窓を介して、第1刺激付与部によって動的刺激が付与されている第1義肢の鏡像を見させることにより、または、第2覗き窓を介して、第2刺激付与部によって動的刺激が付与されている第2義肢の鏡像を見させることにより、挿入被験者に、視覚と触知覚との相互作用によって生じる幻肢を体感させることができる。すなわち、この装置は、挿入被験者に、左右両方の肢体のいずれかの部位を装置に対して同一方向から挿入させて、挿入被験者に、幻肢を体感させることができる。
【0030】
請求項12に記載の視覚触知覚相互作用体感装置によれば、さらに、好ましくは、第1覗き窓または第2覗き窓を選択的に閉鎖するためのカバーを有するのがよい。この装置は、幻肢の体感に用いない方の窓を選択的に閉鎖することができる。
【0031】
請求項13に記載の視覚触知覚相互作用体感装置によれば、さらに、好ましくは、第1室の開口または第2室の開口を選択的に閉鎖するためのカバーを有するのがよい。この装置は、幻肢の体感に用いない方の開口を選択的に閉鎖することができる。
【発明の効果】
【0032】
請求項1に記載の発明に係る視覚触知覚相互作用体感装置によれば、被験者に、覗き窓を介して、刺激付与部によって動的刺激が付与されている義肢の鏡像を見させることにより、義肢が被験者の肢体の欠損部位において動的刺激を受けているという視覚触知覚相互作用効果を、被験者に体感させることができる。特に、障害者が被験者である場合には、視覚と触知覚との相互作用によって生じる幻肢を体感させることができる。
【0033】
この装置は、例えば、幻肢痛を感じている人物に用いることにより、幻肢痛を起こしている欠損部分の幻肢を体感させ、さらに、この人物に、幻肢に対してマッサージを受けているかのような感覚を与えることによって、この人物の幻肢痛を和らげる治療を可能とする。
【0034】
また、この装置は、幻肢痛の治療装置としてだけでなく、健常者や幻肢痛を起こさない障害者等の被験者に幻肢を体感させる娯楽装置としても利用することができる。
【0035】
請求項2〜13に記載の視覚触知覚相互作用体感装置は、請求項1に記載の装置と同じ効果を有するとともに、さらに、以下の効果を有する。
【0036】
請求項2〜4に記載の視覚触知覚相互作用体感装置によれば、被験者に、動的刺激が付与されている義肢の鏡像を見せることができる。この鏡像は、被験者が受動的に刺激を受けている画像となっている。そのため、被験者は、誰かからマッサージを受けているかのような感覚を得ることができる。しかも、被験者は、マッサージをしている者が誰であるのかを意識することなく、受けることになる。そのため、請求項2〜4に記載の装置は、被験者に、リラックスした状態で、マッサージを受けさせることができ、リハビリテーションとしての効率を高めることができる。
【0037】
請求項5に記載の視覚触知覚相互作用体感装置によれば、遮蔽板によって、被験者の視界から、駆動部等の義肢の周囲の機構を遮蔽することができる。したがって、この装置は、被験者が覗き窓を介して第1室の内部を見たときに、被験者に、義肢のごく周囲に限られた鏡像のみを見させることになる。これにより、この装置は、被験者の意識を義肢の鏡像に集中させることができる。そのため、この装置は、被験者に、効率よく幻肢を体感させることができる。
【0038】
請求項6に記載の視覚触知覚相互作用体感装置によれば、駆動部が、刺激付与部を連続移動、間欠移動、または往復移動等の移動を行わせることができ、また、公転、自転、または一定の角度範囲内での振れ動作等の回転を行わせたりすることができる。したがって、駆動部によって、これら移動や回転の動作の所要の組み合わせによって、刺激付与部を義肢上の好適な位置にもたらし、かつ、その位置で刺激を付与させるようにすることができる。その結果、この装置は、被験者に、リアルな触知覚、すなわち、あたかも実際に触られているかのような感覚を生起させることができる。
【0039】
請求項7に記載の視覚触知覚相互作用体感装置によれば、駆動部の第1板状部材を軽量化することができる。そのため、この装置は、第1板状部材を移動及び回転(振動動作を含む)の双方またはいずれか一方を素早くかつ円滑に行わせることができ、さらに、駆動部の駆動源を小型化することができる。
【0040】
請求項8に記載の視覚触知覚相互作用体感装置によれば、違和感を覚えさせることなく、被験者に、第1室に載置された義肢を他方の肢体の義肢に対応する部位に重ね合わせて見させることができる。そのため、この装置は、義肢の鏡像を自身の他方の肢体の義肢に対応する部位の像として認識させることができ、幻肢を体感させ易くすることができる。
【0041】
請求項9に記載の視覚触知覚相互作用体感装置によれば、正面側の開口及び背面側の開口のいずれからでも、被験者に、肢体を第2室の内部に挿入させることができる。そのため、この装置は、被験者に、左右両方の幻肢を体感させることができる。
【0042】
請求項10に記載の視覚触知覚相互作用体感装置によれば、刺激付与部によって刺激を義肢に付与することによって、義肢を、あたかも人体のように滑らかに、変形させることができる。これにより、この装置は、被験者に、触知覚を生起させ易くすることができるので、被験者に、効率よく幻肢を体感させることができる。
【0043】
請求項11に記載の視覚触知覚相互作用体感装置によれば、挿入被験者に、左右両方の肢体のいずれかの部位を装置に対して同一方向から挿入させて、挿入被験者に、幻肢を体感させることができる。そのため、この装置は、挿入被験者を装置の正面側に配置させた状態で、挿入被験者に、左右のいずれの側の肢体の幻肢を体感させることができる。
【0044】
請求項12に記載の視覚触知覚相互作用体感装置によれば、幻肢の体感に用いない方の覗き窓を選択的に閉鎖することができる。挿入被験者は、幻肢の体感に用いない方の鏡像を見てしまった場合に、この鏡像を意識してしまうため、十分に幻肢を体感することができないときがある。したがって、幻肢の体感に用いない方の鏡像は、挿入被験者に幻肢を体感させる際の阻害要因となる。そのため、この装置は、幻肢の体感に用いない方の覗き窓を選択的に閉鎖することにより、挿入被験者から、幻肢の体感に用いない方の機構を遮蔽することができる。その結果、この装置は、挿入被験者に、常に、好適に、幻肢を体感させることができる。
【0045】
請求項13に記載の視覚触知覚相互作用体感装置によれば、幻肢の体感に用いない方の開口を選択的に閉鎖することができる。そのため、この装置は、常に、被験者に、幻肢の体感に用いる方の肢体のいずれかの部位を、正しい開口に挿入させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、図を参照して、この発明の視覚触知覚相互作用体感装置の実施の形態につき説明する。各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0047】
また、各図は、構成要素の形状、大きさ、及び配置関係を概略的に示しているに過ぎず、この発明は、図示例に、何等限定されない。
【0048】
<発明の概要>
この発明に係る視覚触知覚相互作用体感装置は、被験者に、覗き窓を介して、動的刺激が付与されている義肢の鏡像を見させることにより、被験者に、視覚と触知覚との相互作用によって生じる幻肢を体感させるものである。その場合、被験者は、健常者または障害者のいずれであってもよい。
【0049】
この発明に係る視覚触知覚相互作用体感装置は、筐体の内部に、第1室と第2室を有している。第1室は、正常な肢体のいずれかの部位(以下、単に「肢体」と称する)の代替物である擬似肢体部位(以下、単に「義肢」と称する)を載置するための部屋である。なお、「肢体」とは、腕(手を含む)及び脚(足を含む)を意味している。また、第2室は、義肢とは左右が逆側の肢体を挿入するための部屋である。第1室は、義肢を載置するための平坦面を備えている。この平坦面の上には、鏡が垂直に配置されている。鏡は、鏡面側が第1室側を向き、背面側、すなわち、鏡面の裏面側が第2室側を向いている。
【0050】
この装置は、第1室に、義肢に動的刺激を付与する刺激付与部を有している。また、この装置は、刺激付与部を支持して、刺激付与部の移動及び回転の双方またはいずれか一方を行わせる駆動部を有している。なお、駆動部は、刺激付与部を上下方向及び水平方向の双方またはいずれか一方に自在に移動させる1乃至複数の三次元移動機構と、刺激付与部を回転(振動動作を含む)させる回転機構とを備えている。また、この装置は、第1室と鏡との間の筐体部分に、覗き窓を有している。
【0051】
この装置は、被験者に、幻肢を体感させるべき方の肢体を第2室に挿入させ、さらに、覗き窓を介して、鏡に映っている義肢の鏡像を見させる。なお、被験者が、健常者の場合には、その者の実際の肢体を第2室に挿入すればよい。
【0052】
また、被験者が、障害者である場合には、肢体が肘または膝までしか欠損していなければ、欠損した残りの肢体を開口から第2室に実際に挿入すればよい。しかしながら、被験者が、肢体が肘または膝よりも上の部分まで欠損していれば、欠損した肢体を開口から第2室に実際に挿入することができない。この場合には、被験者は、欠損した肢体が存在するものと見立てて、すなわち、イメージして、その見立てた欠損した肢体を開口から第2室に挿入することになる。
【0053】
この装置は、被験者に、覗き窓を介して、義肢の鏡像を見させる。このとき、この装置によれば、刺激付与部を駆動させることによって義肢を刺激するモード状態にし、刺激付与部が義肢を刺激している状態の鏡像を被験者に見せる。これにより、この装置は、被験者に、感覚間(ここでは、視覚と触知覚)との相互作用効果によって生じる幻肢を体感させることができる。すなわち、この装置は、実際には刺激付与部が触れていない肢体に、刺激付与部があたかも触れているかのような感覚を被験者に体感させることができる。
【0054】
[実施の形態例1]
以下、図1(A)及び(B)、並びに、図2〜図6を参照して、この発明の実施の形態例1に係る視覚触知覚相互作用体感装置の構成につき説明する。なお、図1(A)及び(B)、並びに、図2〜図6は、それぞれ、実施の形態例1に係る視覚触知覚相互作用体感装置の構成を説明するための図である。この実施の形態例1で説明する構成例では、駆動部による刺激付与部の移動を直線的移動とした場合につき説明する。
【0055】
図1(A)は、視覚触知覚相互作用体感装置の外観を示しており、図1(B)は、視覚触知覚相互作用体感装置の内部の概略的な構成の一部分を破線で示している。
【0056】
図1(A)及び(B)に示すように、この実施の形態例1に係る視覚触知覚相互作用体感装置(以下、単に「装置」と称する)100は、筐体105と、この筐体に設けられた各種の構成要素とで構成されている。筐体105は、その内部に、筐体105の壁と仕切りによって区画された第1室110及び第2室160を有している。第1室110及び第2室160は、並設されている。この筐体105は、その形状は問わないが、好ましくは、六面体の形状を有しているのがよい。また、この筐体105は、好ましくは、仕切りとして、後述する鏡180を用いているのがよい。
【0057】
ここでは、被験者に、腕の幻肢を体感させる場合を例に挙げて、説明する。
【0058】
第1室110は、左右一方の肢体を模した義肢305を載置するための部屋である。図1(A)及び(B)に示す例では、右手首の義肢を示している。
【0059】
第1室110は、義肢305を載置する筐体105の平坦な底面(以下、「第1平坦面」と称する)115と、第1平坦面115に載置された義肢305に対して動的刺激を付与する刺激付与部120と、刺激付与部120を支持して、刺激付与部120の移動及び回転(振動動作を含む)の双方またはいずれか一方を行わせる駆動部125とを備えている。駆動部125の動作は、制御部130によって、電気的に制御されている。制御部130は、第1室110の内側または外側のいずれの位置に配置されていてもよい。
【0060】
第2室160は、被験者に、他方の肢体、すなわち、義肢305とは逆側の肢体を挿入させるための部屋である。なお、図1(A)及び(B)に示す例では、義肢305が右手首であるので、逆側の肢体は左手首又は左腕となる。第2室160は、被験者の肢体を載置する筐体105の平坦な底面(以下、「第2平坦面」と称する)165を備えている。この構成例では、第2平坦面165と第1平坦面115は、同一平面内にある。
【0061】
第2室160は、図1(A)及び(B)に示すように、開口170を備えており、この開口170は、義肢305とは逆側の肢体を挿入するために筐体105に設けられている。
【0062】
この開口170は、筐体105の正面Da側と背面Db側とに、それぞれ、設けられているとよい。これにより、被験者は、正面Da側の開口170及び背面Db側の開口170のいずれからでも、肢体を第2室160の内部に挿入することができる。
【0063】
第1室110と第2室160との間には、上述したように、第1室110の内部に載置された義肢305の鏡像185を映すための鏡180、好ましくは平面鏡が設けられている。
【0064】
また、筐体105には、被験者に、鏡180に映っている義肢305の鏡像185を覗き見させるための覗き窓190が設けられている。
【0065】
この構成例では、この覗き窓190は、筐体105の正面Da側の壁、背面Db側の壁、及び上面Dc側の壁の略中央付近を、それぞれ、切り欠くことによって形成されているが、何等これに限定されるものではない。この覗き窓190によって、第1室110に対面する鏡180の略全面または一部分の面を覗くことができる。また、この覗き窓190は、好ましくは、覗き窓190の境界の一部分が鏡180の鏡面と同一の平面内か、または、鏡面に隣接するように設けられているのがよい。この鏡180は、好ましくは、第1平坦面115及び第2平坦面165に対して、垂直に設けられている。
【0066】
図2は、義肢305と鏡180に映った当該義肢305の鏡像185との関係を示す図であって、駆動部の構成を簡略化して示している。図2は、刺激付与部120が義肢305に対して刺激を付与している状況を示している。この刺激付与部120としては、例えば、棒状体、筆状体、光、または流体とするのが好適である。
【0067】
棒状体とする場合には、好ましくは、その刺激を付与する先端側を平坦面、曲面、または針状とすることができ、設計に応じて、いずれの形態にも形成することができる。棒状体で義肢305に刺激を付与する場合には、棒状体が義肢305に直接接触して押圧する状態の鏡像185を見ている被験者に対して、視覚触知覚相互作用によって指圧効果或いは鍼効果を与えることが期待できる。
【0068】
また、筆状体で義肢305に刺激を付与する場合には、同様に、被験者に対して、視覚触知覚相互作用によって優しい擦り効果を与えることが期待できる。
【0069】
また、光で義肢305に刺激を付与する場合には、刺激付与部120から光が投射、すなわち、照射されて義肢305を刺激している状態の鏡像185を見ている被験者に対して、視覚触知覚相互作用によってお灸効果或いは温浴効果を与えることが期待できる。
【0070】
また、流体、例えば、風或いは液体で義肢305に刺激を付与する場合には、それぞれ、被験者に対して、視覚触知覚相互作用によって指圧効果、お灸効果、または温浴効果を与えることが期待できる。この場合、刺激付与部120を、光の強さや液体の流量を調整して義肢305を刺激する構成とするのが好適である。
【0071】
図2に示す例では、刺激付与部120は、刷毛(はけ)として、例えば、筆を利用して構成されている。刷毛として構成された刺激付与部120は、義肢305に対して、直接接触して刺激を付与する。なお、上述したように、刺激付与部120は、刷毛以外に、例えば、流量及び流圧の双方またはいずれか一方の調整部を備えた、エアや水等の流体を噴出して刺激を与える流体噴出機として、構成されていてもよい。なお、流量や流圧の調整部は、流体を流す流路に、周知の通り、例えば、弁を設けて、構成することができる。または、刺激付与部120は、光量調整部を備えた、光を投射して刺激を与える光投射部として、構成されていてもよい。光量調整部は、周知の通り、光源に印加する電圧を昇圧させたり、或いは、発光源の数を増加させて同一光路に光を導けばよい。なお、刺激付与部120は、光投射部として構成する場合に、好ましくは、LEDを光源とするLEDライトや、発光源からの光を導く光ファイバ等のような光を投射する機構にするとよい。
【0072】
この刺激付与部120は、駆動部125によって、支持されている。この駆動部125は、刺激付与部120を、移動及び回転の双方またはいずれか一方を行わせることができる。これにより、例えば、刺激付与部120の刺激を与える先端を筆状体とする場合、筆状体が義肢305を撫でているという動的刺激を義肢305に付与する。なお、この実施の形態例1では、刺激付与部120の移動は、直線移動と回転移動とを組み合わせているが、何らこれに限定されず、回転移動の他に、一次元、二次元、及び三次元移動のうち、設計上定まる任意好適な移動とすることができる。また、回転には、設計に応じて、自転及び公転の双方またはいずれか一方を含むことができる。
【0073】
駆動部125は、刺激付与部120が不安定な状態で揺れ動かないように、後述するように支持部216及び第1板状部材214aで刺激付与部120を強固に支持するのが好適である。支持部216は、刺激付与部120を着脱自在にかつ強固に支持するために、好ましくは、ねじ込み状または挟み込み状に形成されているとよい。
【0074】
鏡180は、刺激付与部120によって動的刺激が付与されている義肢305の鏡像185を映す。
【0075】
この装置100は、被験者に、覗き窓190(図1参照)を介して、刺激付与部120によって動的刺激が付与されている義肢305の鏡像185を見させることにより、当該被験者に、視覚と触知覚との相互作用によって生じる幻肢を体感させるものである。
【0076】
なお、義肢305は、好ましくは、刺激付与部120によって刺激が付与された場合に、変形するように、人体の肢体の皮膚と同程度の軟性を有する、合成ゴムや天然ゴム等の樹脂によって形成されているとよい。これにより、この義肢305は、被験者に、視覚触知覚相互作用をより強く生起させ易くすることができるので、被験者に、効率よく幻肢を体感させることができる。
【0077】
なお、図1及び図2に示す例では、義肢305は、ラバーハンドとして構成されている。また、この義肢305は、既に説明したように、被験者に幻肢を体感させようとしている肢体とは左右が逆側のものである。
【0078】
図3及び図4に、刺激付与部120及び駆動部125の具体的な構成例を示す。図3は、正面Da(図1(A)参照)側から見た、刺激付与部120及び駆動部125の構成を示しており、図4は、上面Dc(図1(A)参照)側から見た、刺激付与部120及び駆動部125の構成を示している。
【0079】
なお、図3及び図4に示す例では、刺激付与部120は、点線によって示されている。これは、刺激付与部120が第1板状部材214aから取り外しできることを示している。この装置100は、刺激付与部120が駆動部125から取り外されることにより、被験者の肢体を挿入させるための大きな空間が確保される。これによって、この装置100は、被験者に、肢体を第2室160に容易に挿入させることができる。
【0080】
なお、図3及び図4に示す例では、移動機構の例として、直線移動を行うための1つのスライド機構240が示されている。また、図3及び図4に示す例では、1つの回転機構230が示されている。
【0081】
図3及び図4に示すように、駆動部125は、当該駆動部125全体を支持する土台213aによって、第1平坦面115の上に配置されている。なお、第1室110の第1平坦面115上の領域は、遮蔽板260によって、義肢305を載置するための義肢載置用空間250と、駆動部125を配置するための駆動部配置用空間255とに区画されている。この遮蔽板260は、第1平坦面115に垂直に固定されている。この遮蔽板260は、駆動部125が鏡に映らないように、駆動部125を遮蔽するための板である。この遮蔽板260によって、被験者の視野から、駆動部125等の、義肢305の周囲の機構を遮蔽するとともに、鏡180にその部分の機構が写らないように遮蔽する。したがって、この装置100は、被験者が覗き窓190を介して第1室110の内部を見たときに、被験者に、義肢305のごく周囲に限られた鏡像185のみを見させることになる。これにより、この装置100は、被験者の意識を義肢305の鏡像185に集中させることができる。そのため、この装置100は、被験者に、効率よく幻肢を体感させることができる。
【0082】
駆動部125は、主として、上述した刺激付与部120を支持するための支持部216と、回転機構230と、スライド機構240と、互いにT字状に結合された、長尺状に形成された第1板状部材214a及び第2板状部材215aとを含む。これら第1及び第2板状部材214a及び215aを、好ましくは、平板状体とするのがよい。
【0083】
図3に示す構成例では、この支持部216は、中心軸C1上に軸合わせして、互いに離間して平行に配置した第1及び第2円板状体216a及び216bと、この第1及び第2円板状体216a及び216bを中心軸C1に沿って中心軸C1から離間した位置で相互を連結する連結棒216cとを有している。上述した刺激付与部120は、第2円板状体216bの連結棒216cとは異なる位置において中心軸C1から離れた位置に取り付けられる。一方、第1円板状体216aは、中心軸C1上で、回転機構230の第2回転軸231bと堅固に結合されている。したがって、第2回転軸231bの回転に応動して第1及び第2円板状体216a及び216bは、中心軸C1を回転中心として回転、すなわち、自転する。その結果、第2円板状体216bに取り付けられた刺激付与部120は、中心軸C1の回りを公転する。
【0084】
回転機構230は、上述の第1板状部材214aに実質的に搭載されている。この第1板状部材214aは、互いに平行な上面及び下面を有していて、筐体105の第1平坦面すなわち底面115と平行に設けられている。この第1板状部材214aの一端側に、上述の第2回転軸231bが図示していない軸受を介在して回転自在に保持されている。第2回転軸231bの、支持部216とは反対側には、歯車のような凹凸をもった第2ベルト車231baが設けられている。他方、第1板状部材214aの他端側には、第1板状部材214aの下面側に回転駆動用モータ232aが取り付けられている。このモータ232aの回転軸、すなわち、モータ軸(図示せず)は、第1板状部材214aの上面側に取り付けられた第1回転軸231aに着脱自在にかつ堅固に結合されている。この場合、モータ軸或いは第1回転軸231aは、図示していない軸受を介在して、第1板状部材214aに回転自在に保持されている。さらに、この第1回転軸231aの、モータ軸との結合側とは反対側には、第2回転軸231bの場合と同様に、歯車のような凹凸をもった第1ベルト車231aaが設けられている。
【0085】
さらに、第1及び第2ベルト車231aa及び231ba間に無終端ベルト233aが設けられている。この無終端ベルト233aには、ベルト車の凹凸と歯合する凹凸が設けられている。
【0086】
回転機構230を上述したように構成してあるので、回転駆動用モータ232aが回転すると、第1回転軸231a、無終端ベルト233a、第2回転軸231bと回転運動が伝わり、よって、支持部216が回転し、その結果、刺激付与部120が公転する。
【0087】
次に、駆動部125のスライド機構、すなわち、移動機構につき説明する。
【0088】
このスライド機構240は、第2板状部材215aに結合されていて、この第2板状部材215aは、第1板状部材214aの下面側に垂直に結合されている。この第2板状部材215aの、第1板状部材214aに対する取り付け位置は、第1板状部材214aが底面115と平行な位置から傾かないように、力学的な平衡が取れる位置とするのが好適である。
【0089】
この第2板状部材215aとスライド機構240との結合関係を説明する前に、スライド機構の主要な構成部分につき図3、図4、図5(A)及び(B)、並びに図6を参照して先ず説明する。
【0090】
スライド機構240は、主として、互いに平行な、第1及び第2案内ロッド301及び302と、これら案内ロッドに接触して回転移動する、第1、第2、第3、第4、第5、第6及び第7スライドローラ311、312、313、314、315、316及び317と、スライド駆動用モータ242aと、大径ドラム320と、第1及び第2案内ローラ321及び322と、それぞれ、一端が大径ドラム320に固定され、かつ他端が第2板状部材215aに固定された、容易には破損しにくい強度の適当な線、例えば第1及び第2ピアノ線323及び324とを有している。
【0091】
上述の第1及び第2案内ロッド301及び302は、それらの断面形状を、好ましくは、円形または四角形とするのがよいが、これに何等限定されない。しかしながら、その表面は、滑らかな面とするのが好適である。これら第1及び第2案内ロッド301及び302は、筐体105の底面115に垂直に固定された一対の案内ロッド支持体330、330に固定されている。これら第1及び第2案内ロッド301及び302は、それぞれ、その両端が一対の案内ロッド支持体330、330に固定されて、筐体105の底面115及び第2板状部材215aと平行に配置されている。
【0092】
上述の第2板状部材215aは、第1案内ロッド301と第1〜第5スライドローラ311〜315とによって支持されているとともに、第2案内ロッド302と第6及び第7スライドローラ316及び317とによって支持されている。すなわち、第1〜第7スライドローラ311〜317は、例えば、ころがり軸受を用いて構成されていて、それぞれの中心軸に軸合わせされた固定軸が第2板状部材215aに結合されている。したがって、この固定軸311a、312a、313a、314a、315a、316a及び317aが嵌着されたころがり軸受、すなわち、各スライドローラ311〜317が、第1及び第2案内ロッド301及び302の表面上をころがって、第2板状部材215aを支持しながら、この第2板状部材215aを移動可能としている。この場合、例えば、第1及び第3スライドローラ311及び313は、第1案内ロッド301の上側表面と接触している。また、第2スライドローラ312は、第1案内ロッド301の下側表面と接触している。さらに、第4及び第5スライドローラ314及び315は、第1案内ロッド301に互いに反対側の側面で接触している。同様に、第6及び第7スライドローラ316及び317は、第2案内ロッド302に互いに反対側の側面で接触している。
【0093】
このように、これら2本の案内ロッド301及び302にころがり結合する7個のスライドローラ311〜317によって第2板状部材215aを筐体105の底面115に垂直に保持するとともに、第2板状部材215aをこの底面115に垂直な面内でこの底面115に平行な方向に移動させることができる。
【0094】
なお、第2板状部材215aの平面形状は、何等限定されるものではないが、この実施の形態例では、第2板状部材215aの軽量化を図る目的で、第1板状部材214aと結合する側の上側領域は、幅広の矩形としてあり、第2スライドローラ312が結合する付近から下方の領域は、上側領域よりも幅狭の、細長い矩形としてある。
【0095】
また、この実施の形態例では、固定軸311a、312a及び313aは、第2板状部材215aの取付面に固定された補助部材311b、312b及び313bに、第2板状部材215aの取付面と垂直に取り付けられている。他方、固定軸314a、315a、316a及び317aは、第2板状部材215aの取付面から垂直に突出されて固定された補助部材314b、315b及び316bに、筐体105の底面115に対して垂直となる向きで、取り付けられている。なお、この構成例では、固定軸317aは、固定軸31aと共通の補助部材316bに取り付けられている。
【0096】
次に、図5(A)及び(B)、並びに図6を参照してスライド機構240の、駆動力を伝える機構につき説明する。
【0097】
この実施の形態例では、上述した案内ロッド支持体330、330間にわたって、筐体105の底面115に垂直に、かつ、第2板状部材215aと平行に、平板状の補助板325(破線で示してある。)を固定する。この補助板325は、第1及び第2案内ロッド301及び302の間に設けられているのがよい。この補助板325にスライド駆動用モータ242aの回転軸(モータ軸)242bを軸受を介して回転自在に固定する。このモータ軸242bに大径のドラム320を着脱自在に固定する。したがって、このドラム320は、第2板状部材215aと補助板325との間に配置されている。
【0098】
さらに、この補助板325の、ドラム320と同一面側にドラム径よりも小さい径の第1及び第2案内ローラ321及び322を取り付ける。この場合、第1及び第2案内ローラ321及び322の中心軸は、モータ軸242bと平行であって、かつ、このモータ軸242bからそれぞれ等距離の対称的な位置に取り付けてある。
【0099】
一方、上述した第2板状部材215aには、第1及び第2ピアノ線323及び324の他端を固定する固定部323a及び324aが第2板状部材215aの取付面から補助板325側に突出して、ドラム320と衝突しない位置に、設けられている。他方、第1及び第2ピアノ線323及び324のそれぞれの他端は、ドラム320の周面上に固定して、第1及び第2ピアノ線323及び324を、ドラム320と固定部323a及び324aとの間において、それぞれ、第1及び第2案内ローラ321及び322を介して、堅張させる。これにより、スライド駆動用モータ242aを始動してモータ軸242bが回転すると、ドラム320が回転し、この回転方向にしたがって、第1及び第2ピアノ線323及び324が一方の方向に引っ張られて、その結果、当該方向に第2板状部材215aが移動する。なお、当然ながら、第1及び第2ピアノ線323及び324の一部分は、ドラム320の回転によって第2板状部材215aを移動させるのに十分な長さだけ、ドラム320の周面上に巻き付けてある。このようにすれば大径のドラムの少ない回転角または回転量で第2板状部材215aを長い距離にわたってスライド移動させることができる。
【0100】
なお、上述したスライド機構240の重要な構成部分は、単なる一例であって、何等上述した構成例に限定されるものではないことは明らかである。
【0101】
なお、図3及び図4に示す構成例では、第1板状部材214aは、回転機構230を水平方向に支持する板材である。また、第2板状部材215aは、回転機構230を上下方向に支持する板材である。
【0102】
移動機構としてのスライド機構240は、さらに、スライド駆動用モータ242aによって移動された第2板状部材215aのスライド位置を検出して移動を停止又は移動を反転させるための第1及び第2センサ244a及び244bを備えている。これら第1及び第2センサ244a及び244bは、案内ロッド支持体330、330の頂部間にわたって設けられている2本の平行な桟、すなわち、懸橋332上に設けられている。これら第1及び第2センサ244a及び244b間の間隔は、第2板状部材215aを移動させる距離に等しいが、その間隔は設計に応じて任意に設定できる。また、これら第1及び第2センサ244a及び244b間の中点の直下に、上述したモータ軸242bの中心軸またはその延長線が位置するようにしてある。これら第1及び第2センサ244a及び244bを、好ましくは、例えば、発光素子と受光素子を組み合わせた光センサとして構成し、第2板状部材215aに結合されていて、第1及び第2センサ244a及び244bのそれぞれに対応して設けられた第1及び第2遮蔽板245a及び245bによって、これら光センサをオンまたはオフにする構成となっている。これら第1及び第2センサ244a及び244bと第1及び第2遮蔽板245a及び245bの組み合わせ構成は、当業者ならば容易に構成することができる。
【0103】
上述した実施の形態例1の構成例では、回転駆動用モータ232a、スライド駆動用モータ242a、第1及び第2センサ244a及び244bは、それぞれ、電気的に制御を行う制御部130に接続されている。
【0104】
この制御部130は、通常の100V電源に接続されていて、実施の形態例に係る装置100の電源をオン・オフする主スイッチ(図示せず)を備えている。さらに、この制御部130は、それぞれのモータ232a及び242aを始動及び停止させる動作スイッチ(図示せず)をそれぞれ備えている。さらに、この制御部130は、刺激付与部120の形態に対応してその回転速度や、流量や、光量等を個別に選択して設定できる、いわゆる、モード切替スイッチを備えている。
【0105】
また、この制御部130は、第1及び第2スイッチ244a及び244bをオンにし、かつ、これら第1及び第2スイッチ244a及び244bが第1及び第2遮蔽板245a及び245bによって発光素子からの光が遮蔽されて受光素子に達しなくなったことに応答して、スライド駆動モータ242aを停止させたり、或いは、このモータ242aを逆回転させたりするモード切替スイッチを備えている。
【0106】
このような制御部130は、当業者ならば従来周知の技術を用いて容易に構成できるので、その詳細な説明は省略する。
【0107】
上述した実施の形態例1で説明した駆動部125は、回転機構230とスライド機構240とで構成されている。そのスライド機構240は、第2板状部材215a従って最終的には刺激付与部120を直線的に一方向または双方向に摺動させる機構となっている。
【0108】
しかしながら、駆動部125は、可能ならば、各種の産業で用いられている産業用ロボットアームと類似したロボットアームを用いて構成してもよい。或いは又、スライド機構240を二次元又は三次元的にスライドできる機構として構成できるが、これらは当業者にとっては容易に設計できる。なお、駆動部125は、被験者に駆動部125の存在を意識させないように、軽量化、小型化、静音化、省エネルギー化等の対策が施されていることが好ましい。このような対策の一例として、例えば、この実施の形態例1では、駆動部125は、第1板状部材214aに、複数の軽量化用穴214bを備えている。なお、駆動部125は、軽量化用穴214bの代わりに、溝を備える構成であってもよい。
【0109】
また、上述した通り、回転機構230は、刺激付与部120を回転(振動動作を含む)させるためのモータ232a、回転駆動用モータ232aの駆動を刺激付与部120に伝達するための回転駆動用ベルト233a等を備えている。回転機構230は、制御部130(図1参照)の回転駆動用モータ232aを動作させるスイッチをオンすると、回転駆動用モータ232aが回転し、この回転は、第1回転軸231a、第1ベルト車231aa、無終端ベルト233a、第2ベルト車231ba、第2回転軸231bへ伝わって、支持部216を中心軸C1の回りに回転させ、よって、この支持部216に取り付けられた刺激付与部120が回転動作する。
【0110】
一方、スライド機構240は、制御部130のスライド制御用のスイッチをオンすると、スライド駆動用モータ242aが回転する。この回転は、モータ軸242b及びドラム320の回転運動を介して、第1及び第2ピアノ線323及び324の直線運動に変換されて、第2板状部材215aに伝えられる。よって、第2板状部材215aは、モータ242aの回転量、したがって、ドラム320の回転量に応じた距離だけ、第1及び第2案内ロッド301及び302に案内されて、直線的に移動する。この第2板状部材215aは、第1板状部材214aと結合しているので、当然のことながら、この第1板状部材214a及びこれと結合している支持部216、したがって、これに取り付けられている刺激付与部120も、第2板状部材215aと同様な直線的な移動を行う。この場合、スライド用モード切替スイッチの選択によって、第2板状部材215aの一方向または双方向における直線移動の微調整を行って、刺激付与部120を所要の位置に設定することができる。また、同様に、制御部130の回転用モード切替スイッチの選択によって、刺激付与部120の回転を所要の回転形態に制御することができる。
【0111】
この装置100は、被験者に、感覚間(ここでは、視覚と触知覚との間)の相互作用効果を生起させる。この感覚間の相互作用は、肢体が欠損していても生じる。そのため、この装置100は、仮に、肢体の一部を欠損した障害者に用いた場合に、被験者に、欠損部分の感覚を体感させることができる。このとき、この装置100は、被験者の脳内の、欠損部分を司っていた感覚領域を活性化する。そのため、この装置100は、例えば、義肢305に対して、マッサージ等を行うことによって、被験者に、欠損部分に対して、あたかもマッサージ等の治療を受けているかのような感覚を体感させることができる。その結果、この装置100は、例えば、被験者が幻肢痛を感じている人物である場合に、リハビリテーションの効果、すなわち、被験者の幻肢痛を和らげるという効果を達成することができる。したがって、この装置100は、被験者の幻肢痛を和らげるという治療を可能にする。
【0112】
この装置100は、被験者に、腕の幻肢を体感させるのであれば、例えば、テーブルや机の上に、第2室160が略水平になるように設置すればよい。この場合、被験者は、椅子に座って使用することになる。また、この装置100は、被験者に、脚の幻肢を体感させるのであれば、例えば、ベッドやマットの上に、第2室160が略水平になるように設置すればよい。この場合、被験者は、ベッドやマットの上に乗り、ベッドやマットの上で腰を曲げて使用することになる。なお、被験者は、正面Da側の開口170から肢体を挿入する場合に、左側の肢体を挿入し、背面Db側の開口から肢体を挿入する場合に、右側の肢体を挿入ことになる。したがって、この装置100は、被験者に、一台で左右両方の肢体の幻肢を被験者に体感させることができる。
【0113】
この装置100は、被験者に幻肢を体感させ易くさせるために、以下のような特徴を有している。
【0114】
(1)上述の非特許文献1に開示された実験は、刺激を付与する対象が被験者自身の正常な肢体であったため、被験者の脳内では、刺激が正常な肢体の感覚領域にのみ働き、刺激が幻肢を体感すべき欠損部分の感覚領域に働かないときがあった。そのため、非特許文献1に開示された実験によれば、被験者に幻肢を体感させることができないときがあった。その結果、上述の非特許文献1に開示された実験では、被験者は、幻肢を体感できない場合があった。
【0115】
これに対して、この装置100は、刺激を付与する対象として、被験者自身の肢体ではなく、義肢305を用いている。しかも、この義肢305は、実際の肢体の皮膚と同様の軟性を有する、合成ゴムや天然ゴム等の樹脂によって形成されているので、刺激が付与されることにより、実際の肢体の皮膚と同様の反応を起こす。そのため、この装置100は、被験者に、幻肢を容易に体感させることができる。
【0116】
(2)この装置100は、義肢305に対して動的刺激を付与する刺激付与部120、刺激付与部120を支持して、刺激付与部120を稼働する駆動部125、及び駆動部125の動作を制御する制御部130を有している。この装置100は、被験者に、覗き窓190を介して、義肢305の鏡像185を見させる。このとき、この装置100は、制御部130によって、駆動部125を駆動させて刺激付与部120を稼働させる。これにより、この装置100は、刺激付与部120によってあたかも人が撫でているかのような滑らかな動的刺激を義肢305に付与する。これによって、この装置100は、被験者の視覚と触知覚との間の相互作用を容易に生起させることができ、被験者に、幻肢を容易に体感させることができる。
【0117】
(3)この装置100は、遮蔽板260によって、被験者から、駆動部125等の、義肢305の周囲の機構を遮蔽する。したがって、この装置100は、被験者が覗き窓190を介して第1室110の内部を見たときに、被験者に、義肢305のごく周囲に限られた鏡像185のみを見させることになる。これにより、この装置100は、被験者の意識を義肢305の鏡像185に集中させることができる。そのため、この装置100は、被験者に、効率よく幻肢を体感させることができる。
【0118】
(4)非特許文献1に開示された実験は、左右の両方の肢体が欠損している人物には、実験を行うことができない。そのため、非特許文献1に開示された実験は、このような人物に幻肢を体感させることができなかった。
【0119】
これに対して、この装置100は、左右の両方の肢体が欠損している人物にも、幻肢を体感させることができるので、このような人物に有効である。
【0120】
(5)この装置100は、装置の軽量化、小型化、静音化、省エネルギー化等を実現するために、例えば、駆動部125の第1板状部材214aに軽量化用穴214b(但し、溝であってもよい)等を有している。この装置100は、駆動部125の第1板状部材214aを軽量化することができるので、第1板状部材214aを素早く円滑に移動及び回転(振動動作を含む)の双方またはいずれか一方を行わせることができ、さらに、駆動部125の駆動源を小型化することができる。そのため、この装置100は、被験者の意識を義肢305に集中させ易くなっている。
【0121】
[実施の形態例2]
この実施の形態例2は、被験者を装置の正面側に配置させた状態で、左右のいずれの側の肢体でも、被験者に幻肢を体感させるためのものである。
【0122】
この実施の形態例2では、第2室は、第1室と同一の構成要素を有しており、かつ、鏡を中心にして、第1室と対称な構造となっている。これにより、この実施の形態例2では、装置は、左右両方の肢体のいずれにも対応できる構成となっている。なお、この実施の形態例2では、実施の形態例1に共通する構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。また、第2室側の第1室と同一の構成要素については、符号に「’(ダッシュ)」を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0123】
以下、図7(A)〜(C)、図8、及び図9を参照して、この発明の実施の形態例2に係る装置の構成につき説明する。なお、図7(A)〜(C)、図8、及び図9は、それぞれ、実施の形態例2に係る装置の構成を示す図である。
【0124】
図7(A)は、装置の筐体の外観を示しており、図7(B)は、筐体に取り付けるカバーの外観を示しており、図7(C)は、当該カバーを筐体に取り付けた状態の装置の外観を示している。
【0125】
図7(A)に示すように、この実施の形態例の視覚触知覚相互作用体感装置(以下、単に「装置」と称する)102は、筐体106の内部に、壁によって区画された第1室110及び第2室110’を有している。第1室110及び第2室110’は、並設されている。
【0126】
この実施の形態例2では、第1室110は、左側の肢体を模した義肢305を載置するための部屋であるとともに、被験者に、被験者の右側の肢体を挿入させるための部屋でもある。第1室110は、義肢305に対して動的刺激を付与する刺激付与部120と、刺激付与部120を支持して、刺激付与部120の移動及び回転(振動動作を含む)の双方またはいずれか一方を行わせる駆動部(以下、「第1駆動部」と称する)125とを備えている。また、第2室110’は、右側の肢体を模した義肢305を載置するための部屋であるとともに、被験者に、被験者の左側の肢体を挿入させるための部屋でもある。第2室110’は、義肢305に対して動的刺激を付与する刺激付与部120’と、刺激付与部120’を支持して、刺激付与部120’の移動及び回転(振動動作を含む)の双方またはいずれか一方を行わせる駆動部(以下、「第2駆動部」と称する)125’とを備えている。したがって、この装置102は、左又は右の肢体の欠損者を同じ正面側に座居させて使用できるし、或いは、左の肢体の欠損者は正面側に、また、右の肢体の欠損者は背面側に座居させて使用できる。また、この装置102は、正面側に座居して欠損した側の肢体の幻肢を体験させた体験者に、背面側で欠損していない側の実の肢体に刺激付与部120での刺激を直接体感してもらって、幻肢体感の効果確認(この確認は、後述の統制条件である。)に使用できる。この点については後述する。
【0127】
なお、実施の形態例1では、第1室110は、覗き窓190の部分を除き、筺体105の正面側の壁及び筐体105の背面側の壁が閉鎖されている。しかしながら、この実施の形態例2では、図7(A)及び(B)からも明らかなように、第1室110は、筺体106の正面側の壁の一部及び筺体106の背面側の一部が開口171によって開放されている。この開口171は、被験者の右側の肢体を第1室110の内部すなわち鏡180と遮蔽板260との間に挿入させるためのものである。また、第2室110’は、第1室110と同様に、筺体106の正面側の壁の一部及び筺体106の背面側の壁の一部が開口171’によって開放されている。この開口171’は、被験者の左側の肢体を第2室110’の内部すなわち鏡180と遮蔽板260’との間に挿入させるためのものである。なお、図7(A)及び(C)に示す例では、この開口171及び171’は、覗き窓190または190’に連結するように、「コ」の字状に形成されている。しかしながら、この開口171及び171’は、覗き窓190または190’から分断されるように、例えば「矩形」状に形成されていてもよい。
【0128】
第1室110と第2室110’との間には、鏡180が設けられている。また、第1室110と鏡180との間には、覗き窓(以下、「第1覗き窓」と称する場合もある)190が設けられ、鏡180と第2室110’との間には、覗き窓(以下、「第2覗き窓」と称する場合もある)190’が設けられている。
【0129】
鏡180は、この実施の形態例2では、両面鏡、すなわち、両面とも鏡面となっている鏡が用いられている。以下、第1室110に対向する側の鏡面を「第1鏡面182」と称し、第2室110’に対向する側の鏡面を「第2鏡面182’」と称する。なお、第1鏡面182は、第1室110の内部に載置された義肢305の鏡像185を映すための面であり、第2鏡面182’は、第2室110’の内部に載置された義肢305の鏡像185’を映すための面である。
【0130】
また、この実施の形態例2では、鏡180は、予め定められた以上の厚さを有しており、正面側の側面に、扉186を備えている。この扉186は、左右いずれかの方向に回動するように、蝶番(ちょうつがい)188によって、鏡180に、固定されている。この扉186は、第1室110の開口171または第2室110’の開口171’のいずれか一方を閉鎖するカバーとして機能する。この扉186は、被験者に、左側の肢体の幻肢を体感させる場合に、図7(C)に示すように、右側に回動されて第1室110の開口171を閉鎖する。
【0131】
この装置102は、この扉186によって、幻肢の体感に用いない方の開口171または171’を選択的に閉鎖することができる。そのため、この装置102は、被験者に、常に、幻肢の体感に用いる方の肢体を正しい開口171または171’に挿入させることができる。
【0132】
なお、この扉186は、被験者に、右側の肢体の幻肢を体感させる場合に、左側に回動されて第2室110’の開口171’を閉鎖する。この扉186は、第1室110の開口171または第2室110’の開口171’のいずれか一方を閉鎖している状態において、覗き穴190または190’が露出するように、スリット187を備えている。なお、この扉186は、鏡180の背面側の側面にも設けられていてもよい。
【0133】
覗き窓190及び190’は、図7(B)に示すカバー(以下、「覗き窓カバー」と称する)195によって閉鎖される。この覗き窓カバー195は、被験者に、左側の肢体の幻肢を体感させる場合に、図7(C)に示すように、左側の第2覗き窓190’を閉鎖する。また、この覗き窓カバー195は、被験者に、右側の肢体の幻肢を体感させる場合に、右側の第1覗き窓190を閉鎖する。
【0134】
被験者は、幻肢の体感に用いない方の鏡像185を見てしまった場合に、この鏡像185を意識してしまうため、十分に幻肢を体感することができないときがある。したがって幻肢の体感に用いない方の鏡像185は、被験者に幻肢を体感させる際の阻害要因となる。そのため、この装置102は、幻肢の体感に用いない方の覗き窓190または190’を選択的に閉鎖することにより、被験者から、幻肢の体感に用いない方の機構を遮蔽することができる。その結果、この装置102は、被験者に、常に、好適に、幻肢を体感させることができる。
【0135】
図8及び図9に、刺激付与部120及び125’と駆動部125及び125’の構成を示す。図8は、正面側から見た、刺激付与部120及び120’と駆動部125及び125’の構成を示しており、図9は、上面側から見た、刺激付与部120及び120’と駆動部125及び125’の構成を示している。
【0136】
なお、図8及び図9からは、図7(A)及び(C)に示す扉186及び蝶番188が省略されている。
【0137】
刺激付与部120の構成は、実施の形態例1にて説明した通りである。この装置102は、刺激付与部120が第1駆動部125から取り外されることにより、被験者の右側の肢体を挿入させるための大きな空間が確保される。これによって、この装置102は、被験者に、右側の肢体を第1室110に容易に挿入させることができる。
【0138】
また、第1駆動部125の構成は、実施の形態例1にて説明した通りである。
【0139】
他方、刺激付与部120’の構成は、刺激付与部120の構成と同じである。この装置102は、刺激付与部120’が第2駆動部125’から取り外されることにより、被験者の左側の肢体を挿入させるための大きな空間が確保される。これによって、この装置102は、被験者に、左側の肢体を第2室110’に容易に挿入させることができる。
【0140】
また、第2駆動部125’の構成は、第1駆動部125の構成と同じである。
【0141】
この実施の形態例では、図7(C)に示す制御部130は、第1駆動部125及び第2駆動部125’の両方を制御する構成となっている。制御部130は、装置102の操作者によって、第1駆動部125または第2駆動部125’の一方を制御するように、動作が切り替えられる。
【0142】
この装置102では、第1室110の刺激付与部120が第1駆動部125から取り外されることにより、または、第2室110’の刺激付与部120’が第2駆動部125’から取り外されることにより、一方または他方の肢体を挿入させるための大きな空間が確保される。
【0143】
被験者は、左側の肢体の幻肢を体感する場合に、被験者の左側の肢体を開口171’から第2室110’の内部に挿入して、第2室110’の平坦面(以下、「第2平坦面」と称する)115’の上に載置する。なお、この場合、図7(A)及び(C)に示す扉186は、第1室110の開口171を閉鎖するように、鏡180の右側に配置されている。また、この場合に、図7(B)及び(C)に示す覗き窓カバー195は、第2覗き窓190’を閉鎖するように、第2覗き窓190’の上に取り付けられている。被験者は、被験者の左側の肢体を第2平坦面115’の上に載置すると、第1室110と鏡180との間に設けられた第1覗き窓190を介して、刺激付与部120によって動的刺激が付与されている義肢305の鏡像185を見る。これにより、この装置102は、被験者に、左側の肢体の幻肢を体感させることができる。
【0144】
他方、被験者は、右側の肢体の幻肢を体感する場合に、被験者の右側の肢体を開口171から第1室110の内部に挿入して、第1室110の平坦面(以下、「第1平坦面」と称する)115に載置する。なお、この場合、図7(A)及び(C)に示す扉186は、第2室110’の開口171’を閉鎖するように、鏡180の左側に配置されている。また、この場合に、図7(B)及び(C)に示す覗き窓カバー195は、第1覗き窓190を閉鎖するように、第1覗き窓190の上に取り付けられている。被験者は、被験者の右側の肢体を第1平坦面115の上に載置すると、第2室110’と鏡180との間に設けられた第2覗き窓190’を介して、刺激付与部120’によって動的刺激が付与されている義肢305の鏡像185’を見る。これにより、この装置102は、被験者に、右側の肢体の幻肢を体感させることができる。
【0145】
したがって、この装置102は、被験者を装置の正面側に配置させた状態で、左右のいずれの側の肢体でも、被験者に幻肢を体感させることができる。
【0146】
なお、この実施の形態例2では、鏡180は、両面鏡となっている。しかしながら、鏡180は、義肢305を載置する側の部屋に対向するように、義肢305を載置する側の部屋の向きに応じて、筐体106から取り外して、向きを変えて筐体106に取り付ける構造とすることにより、片面鏡を用いることも可能である。
【0147】
以上の通り、実施の形態例2に係る視覚触知覚相互作用体感装置102は、被験者を装置の正面側と背面側に個別に対座させることにより、或いは、正面側にそれぞれ対座させることにより、左右のいずれの側の肢体に対しても、被験者に幻肢を体感させることができる。
【0148】
この実施の形態例の視覚触知覚相互作用装置102は、統制条件を検証するのに適している。なお、「統制条件」とは、実際に、目的の効果、すなわち、この装置102の場合であれば被験者に幻肢を体感させたということを立証するための条件を意味している。
【0149】
統制条件の検証は、以下のようにして行われる。
【0150】
例えば、健常者、すなわち、全ての肢体を欠損することなく持ち合わせている人物が、被験者となって、健常者の実際の肢体いずれかの部位を、この装置102の第1室110または第2室110’に挿入する。ここでは、健常者が、例えば、健常者の左腕を、第2室110’に挿入したものとして説明する。
【0151】
この装置102は、例えば健常者が左手首を第2室110’に挿入し、かつ、第1室110に右手首の義肢を配置して、健常者の左腕に対して、刺激付与部120’によって動的刺激を付与する。これによって、この装置102は、実際の動的刺激がどのようなものであるのかを、健常者に体感させる。
【0152】
この後、健常者は、第2室110’から左手首を抜き、さらに、左手首を第2室110’に挿入したようにイメージして、第1覗き窓190を介して鏡180の第1鏡面182に映る鏡像185を覗き見る。なお、このとき、第1室110には、右手首を模した義肢305が載置されており、鏡180の第1鏡面182には、左手首に相当する右手首の鏡像185が映っている。
【0153】
次にこの装置102の刺激付与部120’を作動させずに刺激付与部120を作動させる。健常者が第1覗き窓190を介して鏡像185を覗き見ると、義肢305に対して、刺激付与部120によって動的刺激を付与する。
【0154】
このとき、この装置102は、刺激付与部120の駆動条件が幻肢を体感させたときの刺激付与部120’の駆動条件に合致している場合に、被験者である健常者に、左手首の幻肢、すなわち、あたかも刺激付与部120’によって動的刺激が付与されているかのような感覚を体感させることができる。
【0155】
他方、この装置102は、刺激付与部120の駆動条件が幻肢を体感させたときの刺激付与部120’の条件に合致していない場合に、健常者に、幻肢を体感させることができない。この場合に、この装置102の刺激付与部120の駆動条件を変更する。健常者は、装置102の駆動条件が変更されると、再度、左腕を第2室110’に挿入したようにイメージして、第1覗き窓190を介して鏡180の第1鏡面182に映る鏡像185を覗き見る。この装置102は、健常者が第1覗き窓190を介して鏡像185を覗き見ると、再度、義肢305に対して、刺激付与部120によって動的刺激を付与する。この装置102は、健常者が左手首の幻肢を体感することができるようになるまで、このような動作を繰り返す。
【0156】
この装置102は、健常者が、左手首の幻肢を体感することができた場合に、必要ならば、肢体の他の部位、すなわち、右腕、左脚、及び右足を対象にして、同様の動作を繰り返し行うことができる。これによって、この装置102は、被験者である健常者に、全ての肢体の幻肢を順次体感させることが可能である。
【0157】
このようにして、この装置102は、健常者に、肢体の幻肢を体感させることができた場合に、統制条件の検証が完了する。なお、統制条件の検証は、装置102が腕専用の装置である場合に、左右の腕又は手首に対して行うだけでよい。また、統制条件の検証は、装置102が脚専用の装置である場合に、左右の脚又は足首に対して行うだけでよい。
【0158】
このようにして、統制条件の検証が完了した装置102は、どのような人物、例えば、肢体の一部を欠損した人物に対しても、有効に、幻肢を体感させることができる。
【0159】
なお、上述の統制条件の検証によって得られた、刺激付与部の駆動条件は、他の装置、例えば、この実施の形態例の装置102や、上述の実施の形態例1の装置100に適用することができる。
【0160】
この発明は、上述の実施の形態例に限定されることなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更や変形を行うことができる。
【0161】
例えば、実施の形態例1及び実施の形態例2に示す例では、支持部は、第1平坦面、すなわち、筐体の底面に対して、刺激付与部を垂直に支持している。しかしながら、支持部は、第1平坦面に対して、刺激付与部を傾けて支持することができるようにしてもよい。
【0162】
また、上述の実施の形態例1及び2では、刺激付与部は、支持部を介して、駆動部の第1板状部材に取り付けられているが、支持部を介さずに、直接、第1板状部材に取り付けられるようにしてもよい。
【0163】
また、駆動部は、刺激付与部をXY座標系内で直線移動及び回転を組み合わせて自由に駆動させるように構成しても良いし、或いは、この刺激付与部をXY座標系内で直線移動及び回転を組み合わせて自由に駆動させるように構成しても良い。
【0164】
これらの駆動は、コンピュータで制御することが可能であり、その場合には、義肢に与える種々の刺激パターンに合わせて、種々の駆動パターンを予めメモリに格納しておいて、対応した所要の動作モードスイッチを操作することによって選択した駆動パターンで刺激付与部を動作させることが可能であり、制御部及び駆動部をそのように駆動するように構成することは、当業者ならば容易かつ簡単である。
【産業上の利用可能性】
【0165】
この発明に係る視覚触知覚相互作用体感装置は、幻肢痛の治療装置としてだけでなく、被験者に幻肢を体感させる娯楽装置としても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0166】
【図1】(A)及び(B)は、それぞれ、この発明の実施の形態例1に係る視覚触知覚相互作用体感装置の構成例の要部の説明に供する概略図である。
【図2】図1に示した実施の形態例1に係る視覚触知覚相互作用体感装置の構成例の要部の説明に供する図である。
【図3】図1に示した実施の形態例1に係る視覚触知覚相互作用体感装置の構成例の要部の説明に供する図である。
【図4】図1に示した実施の形態例1に係る視覚触知覚相互作用体感装置の構成を示す図である。
【図5】(A)及び(B)は、それぞれ、図1に示した実施の形態例1に係る視覚触知覚相互作用体感装置の構成例の要部の説明に供する図である。
【図6】図1に示した実施の形態例1に係る視覚触知覚相互作用体感装置の構成例の要部の説明に供する図である。
【図7】(A)〜(C)は、それぞれ、この発明の実施の形態例2に係る視覚触知覚相互作用体感装置の構成例の要部の説明に供する図である。
【図8】図7に示した実施の形態例2に係る視覚触知覚相互作用体感装置の構成例の要部の説明に供する図である。
【図9】図7に示した実施の形態例2に係る視覚触知覚相互作用体感装置の構成例の要部の説明に供する図である。
【符号の説明】
【0167】
100 …視覚触知覚相互作用体感装置
105 …筐体
110 …第1室
115 …第1平坦面
120 …刺激付与部
125 …駆動部
130 …制御部
160 …第2室
165 …第2平坦面
170 …開口
180 …鏡
185 …鏡像
190 …覗き窓
305 …義肢
Da …正面
Db …背面
Dc …上面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一方の肢体のいずれかの部位を模した義肢を載置するための第1室、及び、該第1室と並設された第2室であって、被験者に、他方の肢体の、前記義肢に対応する部位を当該第2室に挿入させるための開口を備える当該第2室を、内部に有する筐体と、
前記第1室の内部に設けられていて、前記義肢に対して動的刺激を付与するための刺激付与部と、
前記第1室の内部に設けられていて、前記刺激付与部を支持するとともに、前記刺激付与部の移動及び回転の双方またはいずれか一方を行わせるための駆動部と、
前記第1室と前記第2室との間に、前記筐体の底面に対して垂直に設けられていて、前記第1室の内部に載置された前記義肢の鏡像を映すための鏡と、
前記筐体に設けられていて、前記被験者に、前記鏡に映っている前記義肢の鏡像を覗き見させるための覗き窓とを有し、
前記被験者に、前記覗き窓を介して、前記刺激付与部によって動的刺激が付与されている前記義肢の鏡像を見させることにより、当該被験者に、視覚と触知覚との相互作用によって生じる幻肢を体感させる
ことを特徴とする視覚触知覚相互作用体感装置。
【請求項2】
請求項1に記載の視覚触知覚相互作用体感装置において、
前記刺激付与部は、
前記義肢に対して、直接接触して刺激を与える接触部材として形成されている
ことを特徴とする視覚触知覚相互作用体感装置。
【請求項3】
請求項1に記載の視覚触知覚相互作用体感装置において、
前記刺激付与部は、
前記義肢に対して、流体を噴出して刺激を与える流体噴出機として形成されている
ことを特徴とする視覚触知覚相互作用体感装置。
【請求項4】
請求項1に記載の視覚触知覚相互作用体感装置において、
前記刺激付与部は、
前記義肢に対して、光を投射して刺激を与える光投射部として形成されている
ことを特徴とする視覚触知覚相互作用体感装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の視覚触知覚相互作用体感装置において、
前記第1室は、前記覗き窓から覗ける前記鏡の領域内に前記駆動部の部分が映らないように、前記駆動部の部分を遮蔽する遮蔽板を備えている
ことを特徴とする視覚触知覚相互作用体感装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の視覚触知覚相互作用体感装置において、
前記駆動部は、
前記刺激付与部を支持する支持部と、
該支持部を回転させるための回転機構と、
該支持部を回転可能な状態で支持するための前記回転機構が搭載された第1板状部材と、
該第1板状部材と一端側で結合された第2板状部材と、
該第2板状部材に取り付けられていて、該第2板状部材を介して前記第1板状部材を前記筐体の底面と平行な面内で移動させるためのスライド機構と
を備えていることを特徴とする視覚触知覚相互作用体感装置。
【請求項7】
請求項6に記載の視覚触知覚相互作用体感装置において、
前記第1板状部材は、軽量化のための穴または溝を備えている
ことを特徴とする視覚触知覚相互作用体感装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の視覚触知覚相互作用体感装置において、
前記第2室の前記開口は、前記被験者の前記他方の肢体が該開口を経て該第2室に挿入されたときに、該他方の肢体の、前記義肢に対応する部位が、前記第1室に載置された前記義肢の前記鏡像に見掛け上重ね合わせできる位置に設けられている
ことを特徴とする視覚触知覚相互作用体感装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の視覚触知覚相互作用体感装置において、
前記第2室の前記開口は、前記第2室の正面側と背面側とに、それぞれ、設けられている
ことを特徴とする視覚触知覚相互作用体感装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の視覚触知覚相互作用体感装置において、
前記義肢は、
樹脂によって形成されている
ことを特徴とする視覚触知覚相互作用体感装置。
【請求項11】
並設された第1室及び第2室を内部に有する筐体と、
前記第1室の内部に設けられていて、該第1室に載置される、左右一方の肢体のいずれかの部位を模した第1義肢に対して動的刺激を付与するための第1刺激付与部と、
前記第1室の内部に設けられていて、前記第1刺激付与部を支持するとともに、前記第1刺激付与部の移動及び回転の双方またはいずれか一方を行わせるための第1駆動部と、
前記第2室の内部に設けられていて、該第2室に載置される、左右他方の肢体のいずれかの部位を模した第2義肢に対して動的刺激を付与するための第2刺激付与部と、
前記第2室の内部に設けられていて、前記第2刺激付与部を支持するとともに、前記第2刺激付与部の移動及び回転の双方またはいずれか一方を行わせるための第2駆動部と、
被験者に、一方の肢体の、前記第2義肢に対応する部位を前記第1室に挿入させるために前記筐体に設けられた第1開口と、
被験者に、他方の肢体の、前記第1義肢に対応する部位を前記第2室に挿入させるために前記筐体に設けられた第2開口と、
前記第1室と前記第2室との間に、前記筐体の底面に対して垂直に設けられていて、前記第1室の内部に載置された前記第1義肢の鏡像及び前記第2室の内部に載置された前記第2義肢の鏡像の双方またはいずれか一方を映すための鏡と、
前記筐体にそれぞれ設けられていて、前記被験者に、前記鏡に映っている前記第1義肢の鏡像を覗き見させるための、前記第1室の第1覗き窓、及び、前記被験者に、前記鏡に映っている前記第2義肢の鏡像を覗き見させるための、前記第2室の第2覗き窓とを有し、
前記第2室または前記第1室に前記第1義肢または前記第2義肢に対応する前記部位を挿入する挿入被験者に、前記第1覗き窓を介して、前記第1刺激付与部によって動的刺激が付与されている前記第1義肢の鏡像を見させることにより、または、前記第2覗き窓を介して、前記第2刺激付与部によって動的刺激が付与されている前記第2義肢の鏡像を見させることにより、当該挿入被験者に、視覚と触知覚との相互作用によって生じる幻肢を体感させる
ことを特徴とする視覚触知覚相互作用体感装置。
【請求項12】
請求項11に記載の視覚触知覚相互作用体感装置において、
さらに、前記第1覗き窓または前記第2覗き窓を選択的に閉鎖するためのカバー
を有することを特徴とする視覚触知覚相互作用体感装置。
【請求項13】
請求項11に記載の視覚触知覚相互作用体感装置において、
さらに、前記第1室の開口または前記第2室の開口を選択的に閉鎖するためのカバー
を有することを特徴とする視覚触知覚相互作用体感装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−213500(P2009−213500A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323044(P2006−323044)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【特許番号】特許第4039530号(P4039530)
【特許公報発行日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(300071579)学校法人立教学院 (42)