説明

視覚訓練装置

【課題】映像コンテンツの視聴中に、周辺有効視野における認知能力を向上させる視覚訓練を行う。
【解決手段】訓練用画像表示部12は、ディスプレイ画面の周辺部にある特定位置に、実質的にランダムな時間間隔で所定の第1図形を出現させる訓練用画像を出力する。出力部18は、外部から受け取った映像コンテンツに対して、訓練用画像表示部12から出力された訓練用画像を重畳してディスプレイに出力する。テスト用画像表示部14は、ディスプレイ画面の特定位置に、実質的にランダムな時間間隔で第1図形を出現させるとともに、ディスプレイ画面の中央に実質的にランダムな時間間隔で所定の第2図形を輝度変化させる、テスト用画像を出力する。テスト判定部16は、テスト用画像が出力されている間、ディスプレイ画面の特定位置に第1図形が出現したとき、該第1図形の出現を認識したユーザから入力される応答操作の有無を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のドライバーの視覚認知力を向上させる視覚訓練装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両を運転中のドライバーが周辺視野における歩行者や自転車などの障害物の存在にいち早く気づくことは、接触事故の発生を防ぐために非常に重要である。このようなドライバーの視覚認知能力を向上させまたはその能力を診断するために、様々な技術が開発されている。例えば、特許文献1には、被験者の視覚能力を診断する視覚能力診断装置が開示されている。視覚能力診断装置は、操作板上にマトリクス状に配置された、表示素子を各々内蔵した複数の押し釦スイッチを備える。所定の診断用表示シーケンスにしたがって表示素子により数字または文字が表示される。操作板の前面に立った被験者は、表示された数字または文字が反応すべき表示であったときに、その表示に対応する押し釦スイッチを押す。このようにして、被験者の視覚能力の診断および訓練を行うことができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−071121号公報
【特許文献2】特開2007−068579号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】"Vision and Driving in the Elderly", Cynthia Owsley, OPTOMETRY AND VISION SCIENCE, Vol. 71, No. 12, pp. 727-735
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、専用の操作板を備えた大がかりな診断装置が必要となる上、訓練のための時間を確保しなければならないので、視覚訓練を実行できる場所や機会が限定される。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、映像コンテンツの視聴中に視覚訓練を行うことができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様の視覚訓練装置は、ディスプレイ画面の周辺部にある特定位置に、実質的にランダムな時間間隔で所定の第1図形を出現させる訓練用画像を出力する訓練用画像表示部と、外部から受け取った映像コンテンツに対して、前記訓練用画像表示部から出力された前記訓練用画像を重畳して前記ディスプレイに出力する出力部と、を備える。
【0008】
この態様によると、ユーザは映像コンテンツの視聴中に訓練していることを特に意識せずとも周辺視野における視覚訓練を行えるため、ユーザに与える負担が極めて少なく、したがって積極的な訓練の実施が期待される。
【0009】
前記訓練用画像表示部は、前記ディスプレイ画面の四隅近傍の位置のうち少なくとも二つに前記第1図形を出現させてもよい。
【0010】
前記ディスプレイ画面の前記特定位置に、実質的にランダムな時間間隔で前記第1図形を出現させるとともに、前記ディスプレイ画面の中央に実質的にランダムな時間間隔で所定の第2図形を輝度変化させる、テスト用画像を出力するテスト用画像表示部と、前記テスト用画像が出力されている間、前記ディスプレイ画面の前記特定位置に前記第1図形が出現したとき、第1図形の出現を認識したユーザから入力される応答操作の有無を検出するテスト判定部と、をさらに備えてもよい。これによると、視覚訓練の成果を簡便な方法で測定することが可能になる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、テレビ番組等の映像コンテンツの視聴中に周辺視野の視覚訓練を行うことができるので、ユーザに与える負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る視覚訓練装置を用いたシステムの全体構成図である。
【図2】図1の視覚訓練装置の構成を示すブロック図である。
【図3】訓練実行時の画面の一例を示す図である。
【図4】(a)〜(c)は、テスト実行時の画面の一例を示す図である。
【図5】テスト実行時の画面の遷移例を示す図である。
【図6】テスト判定部により出力されるテスト結果の一例を示す図である。
【図7】視覚訓練装置による視覚訓練およびテストのフローチャートである。
【図8】訓練前後の認知力の変化を測定した結果のグラフである。
【図9】若年および高齢者の被験者グループに対して視覚訓練を行ったときの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る視覚訓練装置10を用いたシステム30の全体構成図である。視覚訓練装置10は、例えばテレビであるディスプレイ24に接続される。ユーザは、視覚訓練装置10に有線接続されたボタン、レバー、キーボード、マウス等、または視覚訓練装置10に無線接続されたリモートコントローラ等である操作機器20を使用して、視覚訓練装置10に指示や応答を与えることができる。
【0014】
視覚訓練装置10は、主に車両運転者の視覚認知能力を向上させることを目的とした装置である。後述するように、視覚訓練装置10は、ディスプレイ24上に視覚を訓練するための画像を表示する視覚訓練機能と、訓練した視覚認知力を検査するための画像を表示するテスト機能と、テスト結果を表示する結果表示機能とを提供する。
【0015】
視覚訓練装置10は、通常のテレビ番組やビデオ映像といった映像コンテンツに上記の訓練用の画像を重畳表示することで、視覚訓練を提供する。このため、ユーザは、テレビ番組やビデオ映像等を視聴しながら、特に意識することなく視覚訓練を遂行することができる。
【0016】
なお、視覚訓練装置10とディスプレイ24とは、一体的に構成されていてもよい。つまり、視覚訓練装置10が、ディスプレイ24を備えるテレビ、スマートフォン、カーナビゲーション装置などの一部として組み込まれてもよい。この場合、テレビ、スマートフォン、カーナビゲーション装置の操作により、後述する訓練機能やテスト機能を呼び出すことができるように構成される。
【0017】
または、視覚訓練装置10は、ディスプレイ24に接続される他の装置に組み込まれてもよい。例えば、テレビに接続されるDVDプレーヤやレコーダ、パーソナルコンピュータ等に組み込まれてもよい。ディスプレイ24の代わりにスクリーンを使用し、このスクリーンに映像を投射するプロジェクタに視覚訓練装置10が組み込まれてもよい。
【0018】
上記のように、視覚訓練装置をテレビやレコーダ等に出荷当初から組み込んで提供する代わりに、視覚訓練装置に相当する機能をソフトウェアとして提供し、既存のテレビ、パーソナルコンピュータ、カーナビゲーション装置、スマートフォン等にそのソフトウェアをインストールするようにしてもよい。ソフトウェアは、DVDやフラッシュメモリなどの記憶媒体で与えられてもよいし、インターネット接続機能を有するテレビやパーソナルコンピュータであれば、ダウンロードでソフトウェアが取得されてもよい。
【0019】
図2は、本実施形態に係る視覚訓練装置10の構成を示すブロック図である。各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組み合わせによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0020】
訓練用画像表示部12は、ユーザの視覚認知力、特に周辺視野の認知力を高めるための訓練用画像を出力部18に出力する。詳細は図4を参照して後述するが、訓練用画像表示部12は、ディスプレイ画面の周辺部にある特定位置に、白丸などの所定の図形を実質的にランダムな時間間隔で出現させる訓練用画像を出力する。
【0021】
テスト用画像表示部14は、視覚訓練を実行したユーザの訓練による認知力の向上を検査するためのテスト用画像を出力部18に出力する。詳細は後述するが、テスト用画像表示部14は、ディスプレイ画面の特定位置に、白丸などの所定の図形を実質的にランダムな時間間隔で出現させるとともに、ディスプレイ画面の中央に実質的にランダムな時間間隔で白丸などの所定の図形を輝度変化させた、テスト用画像を出力する。
【0022】
テスト判定部16は、テスト用画像表示部14によってテスト用画像が出力されている間、ディスプレイ画面の特定位置に白丸が出現したとき、その出現を認識したユーザから入力される応答操作の有無を検出する。そして、正解率を計算してその結果を表す画像を出力する。
【0023】
出力部18は、訓練用画像表示部12から出力された訓練用画像については、外部から入力される映像コンテンツ(例えば、テレビ番組の映像、DVDの映像など)に訓練用画像を重畳して、ディスプレイ24に出力する。テスト用画像表示部14から出力されたテスト用画像、およびテスト判定部16から出力されたテスト結果画像については、外部から入力されるコンテンツ映像は出力せず、テスト用画像またはテスト結果表示画像のみをディスプレイ24に出力する。
【0024】
続いて、視覚訓練装置10の作用を説明する。
【0025】
図3は、訓練実行時の画面の一例を示す。図3は、テレビ番組である映像コンテンツに訓練用画像を重畳させたときのディスプレイ画面を示す。訓練用画像は、画面の四隅の予め定められた位置に実質的にランダムに表示される図形C1〜C4で構成される。図3の例では、この図形は白丸であるが、任意の色または形状であってよい。但し、できるだけ映像コンテンツと見分けがつくような図形、または映像コンテンツに埋没しない図形であることが好ましい。白丸C1〜C4は、「周辺刺激」と呼ばれる。
【0026】
図3では四つの白丸C1〜C4が同時に表示されているが、実際の訓練用画像では、四つの白丸のうち画像に表示されるのは最大で一つであり、表示順序および表示間隔も、擬似乱数などを使用してランダムに設定される。一例として、白丸C1〜C4は、約3〜10秒の間隔でランダムに一箇所に呈示され、この頻度は平均して12回/分程度である。このとき、白丸の輝度が徐々に明るくなり、その後徐々に暗くなるように表示される。白丸の輝度変化は、ガウス関数(呈示時間約400ミリ秒、σ=100ミリ秒)に準じてもよいし、方形波など任意の他の関数に準じてもよい。
【0027】
映像コンテンツは、「中心刺激」と呼ばれる。ユーザにとって興味のある映像コンテンツを再生することで、ユーザの注意を自然に画面中央部に向かわせることができるので、中心刺激の役割を担わせることができる。
【0028】
この実施形態では、訓練用画像がテレビ番組等の映像コンテンツに重畳されて、かつ画面の周辺部に表示される。このため、ユーザは映像コンテンツを視聴しながら、かつ周辺視野でランダムに出現する図形を観察することになる。この視聴形態は、中心刺激を継続的に与えつつ、同時に不定期に周辺刺激を与えるという訓練に相当する。これは、車両を運転中のドライバーが、車両前方を常に注視しつつ、周辺からの他車両や歩行者の飛び出しをも認識する必要があるという状況と類似している。
【0029】
このように中心刺激として映像コンテンツを用いることで、被験者の肉体的および心理的負荷を軽減することができる。さらに、ユーザは、始めに訓練開始の指示さえ視覚訓練装置10に与えれば、その後は特に訓練しているという意識を持つことなく単に映像を視聴するだけでよく、周辺刺激の出現時にボタン操作などの応答をすることが求められないので、ユーザの負担感はほとんど生じない。そのため、従来の訓練装置では集中力が持続しにくい長時間の視覚訓練も行うことが可能となる。
【0030】
なお、訓練用画像で呈示する図形は、上述のように画面の四隅に出現させることが最も望ましい。これは、ユーザはディスプレイ画面の中心部を最も注視しているので、四隅に図形を表示すると周辺視野の拡大効果が最大限になるためである。しかしながら、ディスプレイ画面の周縁部であれば、四隅以外に図形が表示されてもよい。例えば、画面周縁部の四辺の中央部付近であってもよい。また、図形の数は四つでなく、二つや三つであっても、五つ以上であってもよい。
【0031】
訓練用画像を重畳表示させるコンテンツは、テレビ番組等のユーザが選択したものに限られない。例えば、運転試験場で放映される交通安全教育映像などのビデオ画像に訓練用画像を重畳表示させてもよい。この場合、映像放映後の適性検査の際に上述のテストを実行することで、訓練の効果を確認するようにしてもよい。
【0032】
図4(a)〜(c)は、テスト実行時の画面の一例を示す。図4(a)は、全ての刺激が表示された状態である。図中、中心の白丸が中心刺激に対応し、これ以外の四つの白丸が周辺刺激に対応する。中心の白丸は、以下に述べるように輝度変化するが、常に画面上に表示される。周辺の四つの白丸は、実質的にランダムに出現する。
【0033】
テストでは、二つの課題が呈示される。一つは「中心課題」と呼ばれ、図4(b)に示すように、中心の白丸の輝度低下が生じたときに、ユーザに対して操作手段を使用して応答するよう求める課題である。この輝度低下は、例えば方形波状に発生し、輝度が低下している時間は例えば50ミリ秒である。もう一つは「周辺課題」と呼ばれ、図4(c)に示すように、周辺の四つの白丸のいずれかが出現したときに、ユーザに対して操作手段を使用して応答するよう求める課題である。四つの白丸は、輝度0の状態から徐々に明るくなり、所定の輝度に達したのち徐々に輝度が低下するように呈示される。白丸の輝度変化は、例えばガウス関数(呈示時間約400ミリ秒、σ=100ミリ秒)に準じてもよい。
【0034】
図5は、テスト実行時の画面遷移の一例を示す。この実験では、中心刺激のみに応答する「中心課題」、周辺刺激のみに応答する「周辺課題」、中心刺激と周辺刺激の両方に応答する「二重課題」が被験者に与えられる。三つの課題では、被験者が応答する対象(中心刺激か周辺刺激か)が異なるだけであり、呈示されるテスト画像は同一のものを使用する。但し、二重課題においては、被験者に対して中心刺激に対する応答を優先するように事前に通知される。
【0035】
テスト用画像は、中心課題、周辺課題、および二重課題をそれぞれ4ブロックずつ、計12ブロックで構成される。1ブロックの継続時間は50秒であり、中心刺激と周辺刺激がそれぞれ8回ずつ呈示される。中心刺激は実質的にランダムに方形波状に輝度変化し、一回の時間は50ミリ秒である。周辺刺激は実質的にランダムにガウス関数にしたがって輝度変化し、一回の呈示時間は400ミリ秒である。各ブロックでの課題は、ブロックの始めに文字で教示される。12ブロックを1セットとして3セット実行する。テストの終了後、テスト判定部16は、各セットにおける「周辺刺激の検出率」、すなわち、画面周辺部に白丸が出現した回数に対する、ユーザによる応答回数の比率を算出する。
【0036】
このように、本実施形態のテストでは、中心刺激を画面中央に常に呈示しつつ、周辺刺激を画面の四隅のいずれかにランダムに呈示し、その上で周辺刺激の検出率を算出する。これは、車両を運転中のドライバーが、車両前方を常に注視しつつ、周辺からの他車両や歩行者の飛び出しにも反応できるか否かをテストすることに対応している。
【0037】
本実施形態の視覚訓練装置で提供されるテストは、画面周辺部に出現した白丸が見えたか見えないかの応答をするだけの簡単なものであるため、応答をするための専用のハードウェアを準備する必要がない。テレビを利用してテストを実行する場合には、既存のリモートコントローラの特定のボタン等を割り振れば十分である。したがって、テストに要するコストを抑制することができる。
【0038】
図6は、テスト判定部により出力されるテスト結果の一例を示す。図6では、上述の視覚訓練の実施前のテスト、訓練を一日実行した後のテスト、訓練を二日実行した後のテストにおける得点、すなわち周辺刺激の検出率が、棒グラフとして表示されている。得点の表示はこれに限られず、任意の表示態様を使用できる。
【0039】
図7は、視覚訓練装置により提供される視覚訓練およびテストのフローチャートである。
まず、ユーザは、テレビ番組等の映像コンテンツの視聴中などに、リモートコントローラ等の操作機器を使用して、視覚訓練用のアプリケーションを呼び出す(S10)。これに応じて、視覚訓練装置10の訓練用画像表示部12が上述の訓練用画像を映像コンテンツに重畳させてディスプレイ24に表示する(S12)。所定の時間(例えば、5〜10分)訓練用画像を表示すると訓練が終了する。テスト用画像表示部14が効果確認のテストを実行するか否かを確認するメッセージをディスプレイ24に表示する(S14)。ユーザはリモートコントローラ等の操作機器を使用してこれに回答する。回答がNOである場合(S14のN)、このフローを終了する。回答がYESである場合(S14のY)、テスト用画像表示部14は、上述のテスト用画像をディスプレイ24に表示する(S16)。この場合、コンテンツ映像に重畳するのではなく、テスト用画像のみをディスプレイに表示する。テストが終了すると、テスト判定部16が今回および過去のテスト結果をディスプレイ24に表示する(S18)。リモートコントローラ等の操作機器で所定のボタンを押すと、テスト結果の表示が終了し元のコンテンツ映像が再生される。
【0040】
なお、視覚訓練はユーザの指示により開始されるのではなく、映像コンテンツの再生中にランダムに、または事前に設定した時間に自動的に開始されるように構成してもよい。例えば、高齢者のように機器の操作に不慣れなため自発的な訓練実施を促すことが困難である場合、訓練を自動的に行うことは有効な対策となり得る。
【0041】
以上説明したように、本実施形態の視覚訓練装置によれば、テレビ番組等の映像コンテンツの再生中に、映像とは無関係な白丸などの図形をディスプレイの四隅に実質的にランダムに表示させる。ユーザは、図形がランダム表示される映像コンテンツを一定時間鑑賞することで、周辺有効視野の認知力を改善することができる。この手法では、ユーザは所望の映像コンテンツを楽しみながら、訓練していることを特に意識しなくても視覚訓練を行えるため、ユーザに与える負担が極めて少なく、したがって積極的な訓練の実施が期待される。また、実際の車両の運転中に訓練を行うものではないので、高齢ドライバー等に対しても訓練を容易かつ安全に行うことができる。
【0042】
また、視覚訓練装置が予めテレビ等に組み込まれていたり、または視覚訓練機能を事後的にテレビ等に組み込むことができれば、訓練用の特殊な装置を準備する必要がない。したがって、装置を準備する追加コストが必要なく実施が容易であり、特別な施設でなく自宅等でも気軽に訓練を実行することができる。また、訓練およびテストの内容が非常に簡便なものであるので、スマートフォン、カーナビゲーション装置等のモバイル機器を利用して外出中にも訓練およびテストを実行することができる。
【0043】
〔実験結果〕
以下では、上述の実施形態に係る視覚訓練装置の有効性を検証した実験結果について説明する。
【0044】
図8は、上述の視覚訓練の前後における周辺刺激の検出率の推移を表すグラフである。図8では、周辺課題のみの場合の検出率と、周辺課題と中心課題を両方呈示した場合の検出率を訓練前後で比較した。被験者は4名の若年層(20歳代)である。視覚訓練は、一日一回30分ずつを計2日間行った。
【0045】
図示するように、周辺課題のみを呈示した場合の検出率(図中に黒い四角形で示す)は、訓練前後でほとんど変化がなかった。これに対し、周辺課題と中心課題の両方を呈示した場合の検出率(図中に黒丸で示す)は、訓練前後で約2割の向上が見られた。この測定の結果から、上述の実施形態に係る視覚訓練装置を用いて訓練を行うことで、二重課題、すなわち中心刺激に意識が集中しているときの周辺刺激に対する検出率が大きく向上することが示された。この結果は、車両を運転中のドライバーが受ける刺激に対する認知力、すなわち車両の前方を注視しながら左右からの他車両や歩行者の進入に気づくという能力と類似している。したがって、視覚訓練装置による訓練は、車両のドライバーの視覚能力の向上に適したものであると言える。
【0046】
図9は、若年および高齢者の被験者グループに対して視覚訓練を行ったときの結果を示す。
【0047】
各グラフは、訓練を行う前の周辺刺激の検出率に対する、訓練後の周辺刺激検出率の比率を表している。すなわち、(比率)=(訓練後の周辺刺激検出率)/(訓練前の周辺刺激検出率)である。
【0048】
グループAは、実施の形態に係る視覚訓練装置を用いずに、画面上に中心刺激と周辺刺激を実質的にランダムに表示させた画像を鑑賞する訓練(映像コンテンツを流さずに行う訓練。以下「単純訓練」と呼ぶ)を若年層(20歳代3名)と高齢者層(65歳以上3名)の各被験者グループに行った結果である。単純訓練は、一日一回15分ずつを計5日間行った。グループBは、実施の形態に係る視覚訓練装置を用いて、映像コンテンツに重畳して周辺刺激をランダムに表示させた画像を鑑賞する訓練(以下「映像鑑賞訓練」と呼ぶ)を、若年層(20歳代4名)の被験者グループに行った結果である。映像鑑賞訓練は、一日一回30分ずつを計2日間行った。それぞれについて、二本の棒グラフが描かれている。左側の棒グラフは、周辺課題のみを呈示したときの試験結果であり、右側の棒グラフは、周辺課題と中心課題の両方を呈示する二重課題の試験結果である。
【0049】
なお、グループBの高齢者に対する試験は、グループAの試験結果と、グループBの若年層に対する試験結果とから推定した結果であり、実際には行っていない。これを表すため、図9ではグループBの高齢者の棒グラフを点線で描いている。
【0050】
図9から、以下のことが分かる。単純訓練と映像鑑賞訓練の両方とも、比率が「1」を上回っている。すなわち、訓練前よりも訓練後の方が、周辺刺激検出率が向上している。若年層と高齢者層でともに周辺刺激検出率は向上するが、若年層の方が二重課題に対する検出率増加の程度が高い。高齢者は、周辺課題に対する検出率の増加率が若年層よりも高いが、二重課題に対する検出率の増加率は、若年層よりも低い。周辺課題に対する検出率の増加率は、単純訓練の方が映像鑑賞訓練よりも高いが、二重課題に対する検出率の増加率は、映像鑑賞訓練の方が単純訓練よりも高い。このことから、車両のドライバーの視覚能力を高めるためには、単純訓練よりも映像鑑賞訓練の方が適していると考えられる。
【0051】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態はあくまで例示であり、実施の形態どうしの任意の組み合わせ、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスの任意の組み合わせなどの変形例もまた、本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0052】
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0053】
10 視覚訓練装置、 12 訓練用画像表示部、 14 テスト用画像表示部、 16 テスト判定部、 18 出力部、 20 操作機器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスプレイ画面の周辺部にある特定位置に、実質的にランダムな時間間隔で所定の第1図形を出現させる訓練用画像を出力する訓練用画像表示部と、
外部から受け取った映像コンテンツに対して、前記訓練用画像表示部から出力された前記訓練用画像を重畳して前記ディスプレイに出力する出力部と、
を備えることを特徴とする視覚訓練装置。
【請求項2】
前記訓練用画像表示部は、前記ディスプレイ画面の四隅近傍の位置のうち少なくとも二つに前記第1図形を出現させることを特徴とする請求項1に記載の視覚訓練装置。
【請求項3】
前記ディスプレイ画面の前記特定位置に、実質的にランダムな時間間隔で前記第1図形を出現させるとともに、前記ディスプレイ画面の中央に実質的にランダムな時間間隔で所定の第2図形を輝度変化させる、テスト用画像を出力するテスト用画像表示部と、
前記テスト用画像が出力されている間、前記ディスプレイ画面の前記特定位置に前記第1図形が出現したとき、該第1図形の出現を認識したユーザから入力される応答操作の有無を検出するテスト判定部と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の視覚訓練装置。
【請求項4】
前記映像コンテンツをユーザが選択可能であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の視覚訓練装置。
【請求項5】
ディスプレイ画面の周辺部にある特定位置に、実質的にランダムな時間間隔で所定の第1図形を出現させる訓練用画像を出力する機能と、
外部から受け取った映像コンテンツに対して、出力された前記訓練用画像を重畳して前記ディスプレイに出力する機能と、
をコンピュータに実現させるための視覚訓練プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−165956(P2012−165956A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31088(P2011−31088)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)