説明

視認性向上装置

【課題】夜間の山道など予想外の場所に灯具を全て消灯した車両が駐車している場合、他の車両の運転者からも見落としを生じやすく、接触など不測の事故を生じやすいという問題点を生じている。
【解決手段】本発明により、楕円系の反射面を採用する灯具を使用している車両においては、シェードの裏面に、放物系の反射面を採用する灯具を使用する車両においてはフードの裏面に、適宜な粒径と適宜な塗装厚とした蓄光塗料を塗布しておくことで、光源からの光を蓄光しておき、夜間を通じて発光するものとなり、他車に自車の認識度を向上させて課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具に関するものであり、詳細には、例えば、夜間の駐車時など、車両用灯具が非点灯の状態においても、前記車両用灯具の他車などからの視認を可能なものとして、駐車車両の存在を認識させ、接触事故などの防止に有用な車両用灯具の提供を目的とするものである。
【背景技術】
【0002】
従来の、灯具を非点灯の状態で夜間駐車している自動車に対する視認性の向上のための手段としては、図4に示すように、自動車の前後に設けられているナンバープレート90に、例えば、発光性、或いは、蓄光性を有するテープ91などを、ナンバープレート90に打刻してある文字、数字と同じ形状に打ち抜きなどにより加工し、貼着する構成のものがある。
【0003】
このようにすることで、昼間時においては、前記テープ91は外光を吸収し、蓄光状態として機能しているものとなり、夜間に到ると昼間時に蓄光した光を暫時に放出して発光するものとなる。従って、自動車が非点灯の状態で駐車されている場合においても、ナンバープレート90に貼着されたテープ91の発光により、当該の自動車の存在の確認が容易となる。
【特許文献1】特開2001−191865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来の方法、即ち、ナンバープレート90に、ナンバープレート90に打刻されたのと同じ文字、数字を形成したテープ91を貼着する方法では、第一に、自動車の登録ナンバーは1台ごとに異なり、また、「品川」、「練馬」、「足立」、「多摩」、「八王子」など車検場の所在地により符号も異なる。よって、製作しなければならないテープ91の種類も増えるという問題点を生じる。
【0005】
また、ナンバープレート90も、軽自動車、自家用車、営業車など用途によって、地色が異なったり、サイズが異なったりするものがあり、ますます、多品種のものを用意しなければならないものとなり、対応に手間が係るものとなり、実質的には、実施困難な状態となるという問題点を生じている。さらに、ナンバープレート90の表面に貼着する方式では、太陽光の直射、直接の風雪への暴露、或いは、悪戯による剥離の問題も生じる可能性が高い。
【0006】
また、自家用車などは白地に黒文字であるので、厳密には、昼間と夜間との地色と文字色との明暗が反転するものとなり、読み取りに困難を来したり、誤読を生じるなどの問題点を生じる恐れもある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記した従来の課題を解決するための具体的手段として、自動車の夜間非点灯状態における駐車時の視認性向上装置であって、楕円系の反射面を採用する構成の車両用灯具においては、第一焦点に設置された光源からの光の一部を遮蔽して明暗境界線を形成するためのはシェードの裏面側、放物系の反射面を採用する構成の車両用灯具においては、光源からの直射光を遮蔽するためのフードの裏面側に、発光塗料、もしくは、蓄光塗料が塗布されており、前記夜間非点灯状態においては、前記光源を消灯しているときには、前記発光塗料、もしくは、蓄光塗料が発する光を前記反射鏡に反射させ発光させて自車の存在を告知することを特徴とする視認性向上装置を提供することで、課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、照明を行うための車両用灯具を利用して、この車両用灯具の光源が点灯されているとき、および、昼間時の外光を上記したようにシェード、および、フードの裏側に蓄積しておき、夜間時の光源が消灯されたときには、前記車両用灯具の反射面方向に向かい蓄積された光を放射させるものとし、これにより光源が点灯されていた時の状態に近似する状態で車両用灯具から光を放出させるものとする。
【0009】
よって、車両用灯具が点灯されているときと類似する状態、即ち、もともと、光が放射される車両用灯具から光が放射されるものとなるので、観視者も習慣的に車両用灯具には目が行くものとなり、このときに、テープからの発光により車両用灯具から光が発せられていれば、何らの違和感もなく、そこに自動車が駐停車していることを理解するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
つぎに、本発明を図に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。ここで、照明用の車両用灯具、例えば、ヘッドライトの構成としては、楕円面系の反射面を採用したものと、放物面系の反射面を採用したものとの2種類が使用されているので、先ずは、楕円面系の反射面を採用したものの構成から説明を行う。
【実施例1】
【0011】
まず、図1に符号1で示すものは、回転楕円など楕円系反射面2を採用した車両用灯具であり、この車両用灯具1は、前記楕円系反射面2の第一焦点f1の位置に光源3が配置され、第二焦点f2の近傍には、金属板など不透明部材で形成されたシェード4が、前記楕円系反射面2の回転軸Xと直交方向として設けられ、そして、このシェード4の光源3側の面には蓄光塗料5(発光塗料でも可)が後に説明するような適宜な粒径、膜厚として塗装されている。
【0012】
そして、前記シェード4の前記光源3とは反対側、即ち、この車両用灯具1の照射方向側には、前記シェード4に焦点fを位置させる投影レンズ6が設けられている。尚、前記第二焦点f2の位置は、通常、前記シェード4の位置から、前記投影レンズ6の前端までの範囲に位置させられている。また、前記投影レンズ6は、前記楕円系反射面2に連結されるレンズホルダー7により支持されている。
【0013】
このように構成したことで、光源3から発せられた光の内、前記楕円系反射面2に反射したものは、第二焦点f2に向かうものとなり、この第二焦点f2に集束するものとなる。このときに、前記シェード4は、概ね、前記楕円系反射面2の回転軸Xよりも下方を覆うものとしてあるので、前記楕円系反射面2の下半部で反射した光は、前記シェード4で遮蔽されるものとなる。
【0014】
よって、前記楕円系反射面2の上半部で反射した光は、前記シェード4に遮蔽されることなく第二焦点に集束するものとなり、前記楕円系反射面2の下半部で反射した光は、前記シェード4により遮蔽が行われる。従って、シェード4の上方に生じる回転軸Xと直交する光の断面は下弦の半円形となり、これを投影レンズ6で照射方向に投影すると、反転、拡大されて投射されるものとなり、車両用灯具1としては、上弦の半円形の照射光が得られるものとなる。
【0015】
このときに、前記シェード4は、上記にも説明したように前記楕円系反射面2の回転軸Xから下方を覆うものとしているので、上方へ向かう光は一切含まないものとなり、対向車に一切眩惑を生じさせない、理想的な配光形状のすれ違い配光が得られるものとなる。
【0016】
尚、現実には、例えば、交通法規が左側通行である場合、左路側に存在する通行人、或いは、道路標識などを確認しやすいように、左側に向けて適宜な明るさとした上向き光を照射している。また、前記投影レンズ6の周縁には、車両とのデザインの整合性、或いは、装飾性を向上させるためのエクステンション8が設けられている場合もある。
【0017】
続いて、前記シェード4の裏面(光源3側)に塗布されている前記蓄光塗料5の作用について説明を行う。まず、夜間走行時において、前記車両用灯具1が点灯されているときには、前記蓄光塗料5には前記光源3からの直射光の一部が達するものとなり、蓄光が行われる。
【0018】
ここで、近年の蓄光塗料5の性能について述べると、アルミン酸塩蓄光顔料の採用など品質の改良により。例えば数分の蓄光で数時間に渡り発光を継続する程に性能の向上が著しく、また明るさも、従来の硫化亜鉛蓄光顔料に比べて数倍明るく、例えば、ビルディングなどにおける避難誘導路の表示にも使用可能とされるほどの性能に達している。
【0019】
ここで、上記アルミン酸塩蓄光顔料の一般的な性質について説明すると、一旦、蓄光した後の発光時の明るさは、粒径とよって左右されると共に、塗装するときの膜厚にも最適値が存在することが、発明者の試作、実験の結果明らかとなった。
【0020】
まず、粒径については、表1に示すように10μm以上が必要であり、特に粒径が5μmよりも小径の場合、塗料中に均一に分散させることもまま成らず、塗料として形成すること自体も困難である。よって、昼間時の仕上がり外観についても評価の対象とすることができない。
【0021】
【表1】

【0022】
上記の粒径が5μm以下の場合を除いては、昼間時の外観は、粒径が小さいほど塗装後には滑らかな表面状態が得られ、粒径が大きくなるほど滑らかさが失われ、外観が悪化していく傾向が認められる。そして、スプレー塗装を行う場合には、塗料の粘度などの問題から、粒径50μm程度が限界となる。
【0023】
ここで、本発明においては、前記蓄光塗料5が塗布される場所が、シェード4の裏面であり、外観から見えない場所であるので、塗装を行う場合にスプレー塗装など美麗に仕上る塗装方法にこだわる必要はなく、例えば、筆(刷毛)塗装など粘性が高い塗料でも塗装が可能な方法を採用することができる。
【0024】
よって、本発明においては、蓄光塗料5中におけるアルミン酸塩蓄光顔料の添加量は20〜80PHR、そして、粒径は10〜80μmと、明るさを優先させた限界値を設定し、夜間時には、より明るく発光する方向に各条件を拡げてある。
【0025】
図2に示す曲線Qは、同じく蓄光塗料4を塗装するときの、膜厚t(μm)と明るさとの関係を示すものであり、蓄光塗料4においては、それ自体が完全に透明な部材である訳ではないので、ある程度までは塗装膜の膜厚が厚くなるに従い、外部に放出される光量が増えるものとなるが、ある厚みを超えると、透過中に吸収される光量も増え、厚みが増える割には光量が増えなくなるサチュレーション現象を生じるものとなる。
【0026】
図2によれば、塗装膜厚tが100μm付近から上記したサチュレーション現象は顕著となってくるのと、塗装時に作業効率の良いスプレー塗装では、膜厚100μm程度からタレを生じてくるので、本発明では、基準値として膜厚tは20〜100μmとして設定してある。
【0027】
尚、発明者の実験の結果によると、例えば、前記した塗料のタレ防止のための筆塗りなどの手段を用いれば、蓄光塗料4の粒径は10〜80μm、蓄光顔料含有量は20〜80PHR、膜厚tは20〜150μm、まで増やしたときにも実用は可能であり、蓄光塗料5は上記数値のときよりもやや明るく(約7%)なる。
【実施例2】
【0028】
図3に示すものは、本発明に係る車両用灯具10の第二実施形態であり、前述の第一実施形態の車両用灯具1が楕円系反射面2を採用していたのに対し、この第二実施形態の車両用灯具10は、回転放物面など放物系反射面12を採用している。
【0029】
尚、前記車両用灯具10は走行配光用であるとして説明を行う。この場合、放物系反射面12は、原則的には焦点f3に光源13が設置されており、この光源13から前記放物系反射面12に達し反射する光は全て、前記放物系反射面12の回転軸X2と平行となる方向に反射が行われるものとなる。
【0030】
このとき、前記光源13からは、ほぼ全方位に向かい光が発せられているものであるので、前記放物系反射面12に当接せず、直接に外部に放射される光を生じるものとなる。よって、前記した直接に外部に放射される光を生じる部分には、光源3を前方、即ち、照射方向側から覆う略カップ状のフード9が設けられ直射光の外部への放射を防止している。
【0031】
この第二実施形態においては、前記フード9の裏面、即ち、光源13に向かう凹面9a側に蓄光塗料15が塗布されるものであり、よって、光源13の点灯時には走行配光を形成するために放物系反射面12に達する以外の光はほぼ全てがフード9の凹面9aに塗布されている蓄光塗料15の面に当接するものとなる。
【0032】
従って、前記蓄光塗料15には蓄光が行われ、光源13の消灯が行われた後には前記蓄光塗料15は発光するものとなる。ここで、前記フード9の凹面9aは前記光源13を介し、前記放物系反射面12に対峙して設置されているものであるので、前記蓄光塗料15からの光は、前記放物系反射面12に達し照射方向に折り返して反射が行われるものとなり、アウターレンズ11を通して外部に放射される。
【0033】
ここで、第一実施形態、及び、第二実施形態における車両用灯具1、10の蓄光塗料15により光っている状態について説明を行えば、点灯時の光源3、13の明るさに比較すれば、例えば輝度が350(Mcd/M)程度と、格段に輝度が低いので、観視者に対して眩惑を与えることはない。尚、前記蓄光塗料15は、時間の経過と共に輝度が低下する傾向を有している。
【0034】
以上のように蓄光塗料5、15による残光性を利用し、車両用灯具を消灯した後にも暫時、光が残る構成としたことで、例えば、山道など車両が駐車していることが予想されないような場所においても、蓄光塗料5、15からの光により車両が認識されるものとなり、不測の事故が回避される。
【0035】
尚、ここでは車両用灯具1、10として前照灯に実施した例で説明したが、本発明はこれを限定するものではなく、例えば、フォグランプ、ドライビングランプ、リアフォグランプ、或いは、バックランプなど、照明用の車両用灯具に実施することで、上記の目的は達せられるものとなる。
【0036】
また、車両用灯具1、10の点灯を行わなかった場合であっても、昼間の明るい外光により、前記蓄光塗料5、15は、励起状態にあり、電源を切った時点で車両用灯具1、10が暗黒の状態になることはなく、蓄光した外光に応じる発光を行うものとなるので、上記の作用が全くなくなることはない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る車両用灯具の第一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明に採用する蓄光塗料の塗装膜厚と発光輝度との関係を示すグラフである。
【図3】本発明に係る車両用灯具の第二実施形態を示す断面図である。
【図4】従来例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0038】
1、10…車両用灯具
2…楕円系反射面
3、13…光源
4…シェード
5、15…蓄光塗料
6…投影レンズ
7…レンズホルダー
8…エクステンション
9…フード
9a…凹面
11…アウターレンズ
12…放物系反射面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の夜間非点灯状態における駐車時の視認性向上装置であって、楕円系の反射面を採用する構成の車両用灯具においては、第一焦点に設置された光源からの光の前記反射面に反射した光の一部を遮蔽して明暗境界線を形成するためのシェードの裏面側、放物系の反射面を採用する構成の車両用灯具においては、光源からの直射光を遮蔽するためのフードの裏面側に、発光塗料、もしくは、蓄光塗料が塗布されており、前記夜間非点灯状態において、前記光源を消灯しているときには、前記発光塗料、もしくは、蓄光塗料が発する光を前記反射面に反射させ発光させて自車の存在を告知することを特徴とする視認性向上装置。
【請求項2】
前記発光塗料、もしくは、蓄光塗料の粒径は10〜80μmであり、添加量が塗料樹脂分比率で20〜80PHRであり、塗装膜厚が20〜150μmの範囲であることを特徴とする請求項1記載の視認性向上装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−147048(P2008−147048A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333757(P2006−333757)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】