説明

視軸・視野の測定方法およびその測定装置

【課題】本発明は、ヒト以外の被検動物において、視軸・視野を測定する方法、ならびにその測定のための装置を開発することを課題とする。また、そのような方法および装置を使用して、ヒト以外の被検動物における緑内障の初期診断を行うことを課題とする。
【解決手段】本発明の発明者は、左右の視軸(眼球正中線)が体軸正中線との交点(体軸視野中心)を新たに定義し、体軸正中線と「体軸視野中心」-「外側臨界点」の線分または「体軸視野中心」-「内側臨界点」の線分とがなす角度(体軸角、∠B)、および視野正中線と「外側臨界点」-「眼球」の線分または「内側臨界点」-「眼球」の線分とがなす角度(仰角、∠C)とを測定することにより、簡便に「外側臨界点」-「眼球」-「内側臨界点」の3点により形成される「視野角」を測定することができることを明らかにした。また、本発明の発明者は、そのような角度を測定するための装置もまた、明らかにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト以外の被検動物、特にイヌにおける、視軸・視野を測定する方法、ならびにその測定のための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
緑内障は、視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である。緑内障の視神経障害および視野障害は、基本的には進行性であり、非可逆的であり、視神経が一度障害されてしまったら、障害された視神経を回復させる方法はなく、病気の進行をくい止めることが目標となってしまう。また、緑内障では、患者の自覚なしに障害が徐々に進行する。したがって、多くの場合に自覚症状がない緑内障に対して、最も重要なことは早期発見・早期治療による障害の進行の阻止あるいは抑制が特に重要な課題となっている。
【0003】
近年、ヒトにおいては、緑内障に対する治療の進歩は目覚しく、新たな治療手段が多数臨床導入され、その治療は多様化している。例えば、薬物療法により房水の産生量を減らしたり、房水の流れをよくする治療法、レーザーを虹彩にあてて穴を開けたり、線維柱帯にあてて房水の流出を促進することによるレーザー治療、水の流れを妨げている部分を切開し流路をつくって房水を流れやすくする方法や、毛様体での房水の産生を押さえる方法などの手術が一般的である。
【0004】
しかしながら、個々の症例に適した治療手段を選択し、早期治療を行い、さらにquality of life(QOL)あるいはquality of visionを考慮した疾患の管理を長期にわたって行うことは、必ずしも容易ではない。
【0005】
緑内障の診断は、ヒトの場合にはまず、詳細な問診を行って、眼の外傷、炎症、手術、感染症などの既往歴のほか、霧視、虹視症、眼痛、頭痛、充血などの自覚症状の問診を行うことが重要であると考えられている(非特許文献1)。その上で、これらの症状が存在する場合に、緑内障が疑われ、眼圧検査、眼底検査、視野検査等が行われる。
【0006】
眼圧検査は、直接目の表面に測定器具をあてて測定する方法または目の表面に空気をあてて測定する方法である。眼底検査は、視神経の状態をみるために、視神経乳頭部を観察する方法である。視神経が障害されている場合、陥凹(へこみ)の形が正常に比べて変形し大きくなる。また、視野検査は、視野の欠損の存在の有無や大きさから緑内障の進行の具合を判定する。
【0007】
そして、これらの詳細な検査を経て、緑内障の治療方針を立てるために、眼圧上昇機序によって、大きくは、緑内障が原因で眼圧上昇を生じる原発緑内障、他の眼疾患などが原因となって眼圧上昇が生じる続発緑内障、胎生期の隅角発育異常により眼圧上昇をきたす発達緑内障の3病型に分類することが有用である。
【0008】
そして、さらに、視野欠損や視野狭窄、失明などの視野障害が存在する場合には、視野計を用いて動的視野検査(ゴールドマン視野計など)や静的視野検査(ハンフリー視野計)を行い、具体的に視野障害の位置や状況などを確定し、治療の方向性を定めている。
【0009】
近年、ヒト以外の動物でも、緑内障に罹患する症例の実態が明らかになりつつある。例えば、イヌの場合、本発明者らの過去の診断によれば、眼圧上昇による眼疼痛、視覚障害および眼球拡張を示す緑内障の個体が、眼疾患症例中11%(2591症例中325症例)を占めることが明らかになり、特に柴犬では41.0%(244症例中100症例)を占めることが明らかになった。
【0010】
しかしながら、コンパニオン動物をはじめ、ヒト以外の動物では、当然ながら自覚症状の問診をすることができないため、初期診断の妨げになっている。結果的にヒト以外の動物の場合には、外観上の異常や行動上の問題などが生じてから、初めて緑内障であることが疑われることとなり、緑内障の初期診断を行うことは非常に難しいとされている。その結果、緑内障の診断が行われた時には、既に多くの治療方法の選択肢が失われてしまっているというのが現状である。
【0011】
また、ヒト以外の動物では、仮に緑内障の初期診断ができた場合であっても、視野障害の位置や状況などを調べることが基本的に不可能であった。というのも、ヒトにおいて使用されている視野計を用いたとしても、光が見えたことを知らせる術を持たないため、視野計を使用した検査を行うことができないためである。
【0012】
そのため、ヒト以外の動物では、外部から緑内障の初期診断を行うことができる方法およびその方法を実現するための装置を開発することが求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】日本眼科学会 緑内障診療ガイドライン(第2版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、ヒト以外の被検動物において、視軸・視野を測定する方法、ならびにその測定のための装置を開発することを課題とする。また、そのような方法および装置を使用して、ヒト以外の被検動物における緑内障の初期診断を行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の発明者は、左右の視軸(眼球正中線)と体軸正中線との交点(体軸視野中心)を新たに定義し、体軸正中線と「体軸視野中心」-「外側臨界点」の線分または「体軸視野中心」-「内側臨界点」の線分とがなす角度(体軸角、∠B)、および視野正中線と「外側臨界点」-「眼球」の線分または「内側臨界点」-「眼球」の線分とがなす角度(仰角、∠C)とを測定することにより、簡便に「外側臨界点」-「眼球」-「内側臨界点」の3点により形成される「視野角」を測定することができることを明らかにした。また、本発明の発明者は、そのような角度を測定するための装置もまた、明らかにした。
【0016】
本発明は、具体的な態様として、以下の工程:
(i)左右の視軸(眼球正中線)と体軸正中線との交点(体軸視野中心)を求める工程;
(ii)視野角を求める眼に対して、体軸視野中心を中心とした所定半径の円周上の点のうち、体軸正中線から最も離れた視野の臨界点(外側臨界点)、および外側臨界点から見て反対側の円周上に存在する視野の臨界点(内側臨界点)を求める工程;
(iii)体軸視野中心-外側臨界点の線分と体軸正中線とがなす角(体軸角、∠BE)、および外側臨界点-体軸視野中心の線分と外側臨界点-眼球の線分とがなす角(仰角、∠CE)を求め、視野正中線と外側臨界点-眼球の線分とがなす外側臨界視野角(∠DE)を算出する工程;
(iv)体軸視野中心-内側臨界点の線分と体軸正中線とがなす角(体軸角、∠BI)、および内側臨界点-体軸視野中心の線分と内側臨界点-眼球の線分とがなす角(仰角、∠CI)を求め、視野正中線と内側臨界点-眼球の線分とがなす内側臨界視野角(∠DI)を算出する工程;
(v)外側臨界視野角(∠DE)と内側臨界視野角(∠DI)とから、視野角(∠D)を求める工程;
を含む、ヒト以外の被検動物における単眼視野角を決定する方法を提供する。
【0017】
本発明はまた、別の具体的な態様として、以下の部材:
(a)左右の視軸(眼球正中線)と体軸正中線との交点(体軸視野中心)にその基準点を配置する第一の角度測定手段;
(b)体軸視野中心から所定の距離に配置される第二の角度測定手段;
(c)眼球に対して光を当てるための、第二の角度測定手段と結合された光源;
を含む、ヒト以外の被検動物における単眼視野角を測定するための装置を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法および本発明の装置を使用することにより、これまでは測定することができなかったヒト以外の被検動物における視野角を、簡便かつ効率的に測定することができることとなった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、左眼の場合の「体軸視野中心」と、体軸正中線、視軸(眼球正中線)、ならびに視野正中線との関係を示す図である。
【図2】図2は、左眼の場合の単眼視野角の算出方法の概略を示す図である。
【図3】図3は、左眼の場合の単眼視野角の測定方法が異なる4つのゾーン、Aゾーン、Bゾーン、Cゾーン、およびDゾーンの位置関係を示す図である。
【図4−1】図4は、図3において示された各ゾーンにおける視野角の測定方法を示す図であり、図4(A)は臨界点がAゾーンに存在する場合の視野角(∠D)の測定方法を、そして図4(B)は臨界点がBゾーンに存在する場合の視野角(∠D)の測定方法を、それぞれ示す。
【図4−2】図4は、図3において示された各ゾーンにおける視野角(∠D)の測定方法を示す図であり、図4(C)は臨界点がCゾーンに存在する場合の視野角(∠D)の測定方法を、そして図4(D)は臨界点がDゾーンに存在する場合の視野角の測定方法を、それぞれ示す。
【図5】図5は、本発明の装置の一実施態様を示す図である。この図において、上段は一例の装置の上面図を示す、下段はその装置の側面図を示す。そしてこの図中、1は第一の角度測定手段、2は第二の角度測定手段、そして3は光源をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は一態様において、ヒト以外の被検動物における単眼視野角を決定する方法を提供する。この方法は、以下の工程:
(i)左右の視軸(眼球正中線)と体軸正中線との交点(体軸視野中心)を求める工程;
(ii)視野角を求める眼に対して、体軸視野中心を中心とした所定半径の円周上の点のうち、体軸正中線から最も離れた視野の臨界点(外側臨界点)、および外側臨界点から見て反対側の円周上に存在する視野の臨界点(内側臨界点)を求める工程;
(iii)体軸視野中心-外側臨界点の線分と体軸正中線とがなす角(体軸角、∠BE)、および外側臨界点-体軸視野中心の線分と外側臨界点-眼球の線分とがなす角(仰角、∠CE)を求め、視野正中線と外側臨界点-眼球の線分とがなす外側臨界視野角(∠DE)を算出する工程;
(iv)体軸視野中心-内側臨界点の線分と体軸正中線とがなす角(体軸角、∠BI)、および内側臨界点-体軸視野中心の線分と内側臨界点-眼球の線分とがなす角(仰角、∠CI)を求め、視野正中線と内側臨界点-眼球の線分とがなす内側臨界視野角(∠DI)を算出する工程;
(v)外側臨界視野角(∠DE)と内側臨界視野角(∠DI)とから、視野角(∠D)を求める工程;
を含むことを特徴としている。
【0021】
ヒトでは、左右の視軸(眼球正中線)が体軸正中線と平行に走行しており、したがって、視野正中線と、視軸(眼球正中線)、体軸正中線が全て平行になっているため、視野を視軸(眼球正中線)を基準にして測定することができる。しかしながら、ヒト以外の被検動物の場合、左右の視軸(眼球正中線)が体軸正中線と平行に走行していない(眼球正中線と体軸正中線とのなす角度のことを、視軸角、∠Aと記載する)。そのため、ヒト以外の被検動物の場合には、視軸(眼球正中線)を基準とした視野測定を行うことができないことから、新たな視野測定の基準を定めなければならない。
【0022】
そこで、本発明においては、視軸(眼球正中線)と体軸正中線との交点を新たに「体軸視野中心」と定義し、この点を視野角測定の基準点として使用した。そして、本発明において決定される被検動物の視野は、この「体軸視野中心」を含む水平面上での、「体軸視野中心」を中心とした所定半径の円周上で示される(図1)。
【0023】
本発明において所定半径の円周という場合、視野角を測定する動物種によって異なるが、例えば被検動物がイヌの場合には、体軸視野中心を中心として、半径が約45〜55 cm(約20インチ)の円周であることを意味する。
【0024】
本発明において測定の対象となる視野角は、「体軸視野中心」を中心とした所定半径の円周上の点のうち、体軸正中線から最も離れた(外側の)視野の臨界点(以下、単に「外側臨界点」という)、および外側臨界点から見て反対側の所定半径の円周上に存在する視野の臨界点(以下、「内側臨界点」という)とを用いて算出する。すなわち、「外側臨界点」-「眼球」-「内側臨界点」の3点により形成される定義される角度が、「視野角」である(本明細書中では、視野角を∠Dと記載する)。
【0025】
本発明において特定される視野の臨界点(すなわち、外側臨界点および内側臨界点)は、被検動物の眼に光学的シグナルを送達し、この光学的シグナルに対して被検動物が何らかの反応をするか否かにより特定することができる。例えば、被検動物がイヌの場合、眼に光学的シグナルを送達すると、その光学的シグナルを固視するか、または光学的シグナルに向けた眼球運動を生じることが知られており、その様な状況を観察することにより、眼が光学的シグナルを視覚的に認識していると判断することができる。このことから、光学的シグナルを眼球に当てた際、その光学的シグナルに対する固視が消失した点またはその光学的シグナルに向けた眼球運動が消失した点を、臨界点と定義する。被検動物がイヌの場合に使用することができる光学的シグナルとしては、明室下において高輝度のちらつき光源を眼球に当てること、を例として挙げることができる。
【0026】
本発明においては、視野角(∠D)は、視野正中線と「外側臨界点」-「眼球」の線分とからなる外側臨界視野角(∠DE)、および視野正中線と「内側臨界点」-「眼球」の線分とからなる内側臨界視野角(∠DI)を用いて、算出することができる。具体的には、図2のように概説される。
【0027】
視野正中線と「外側臨界点」-「眼球」の線分とからなる外側臨界視野角(∠DE)は、「体軸視野中心」-「外側臨界点」の線分と体軸正中線とがなす角(体軸角、∠BE)、および「外側臨界点」-「体軸視野中心」の線分と「外側臨界点」-「眼球」の線分とがなす角(仰角、∠CE)から算出することができる。これらの角度(体軸角、∠BEおよび仰角、∠CE)は、いずれも絶対値の正の値で特定する。
【0028】
また、視野正中線と「内側臨界点」-「眼球」の線分とがなす内側臨界視野角(∠DI)は、「体軸視野中心」-「内側臨界点」の線分と体軸正中線とがなす角(体軸角、∠BI)、および「内側臨界点」-「体軸視野中心」の線分と「内側臨界点」-「眼球」の線分とがなす角(仰角、∠CI)から算出することができる。これらの角度(すなわち、体軸角、∠BIおよび仰角、∠CI)は、いずれも絶対値の正の値で特定する。
【0029】
外側臨界視野角(∠DE)または内側臨界視野角(∠DI)は、臨界点の位置が、図3に示されるAゾーン〜Dゾーンのいずれに存在するかによって、算出方法が異なる。その具体的な算出手順を、Aゾーン〜Dゾーンの各ゾーンごとに、それぞれ図4(A)〜図4(D)に示す。
【0030】
臨界点(すなわち、外側臨界点または内側臨界点)が図3のAゾーン(すなわち、体軸視野中心を中心とする所定半径の円周上のゾーンのうち、体軸正中線に対して、検査対象となる眼とは反対側にあるゾーン)にある場合、外側臨界視野角(∠DE)または内側臨界視野角(∠DI)は、体軸角(∠B)+仰角(∠C)で表すことができる(図4(A))。
【0031】
臨界点が図3のBゾーン(すなわち、体軸視野中心を中心とする所定半径の円周上のゾーンのうち、体軸正中線に対して、検査対象となる眼と同一側にあり、かつその円周と体軸正中線との交点ならびにその円周と視野正中線との交点で挟まれるゾーン)にある場合には、必ず仰角(∠C)の方が体軸角(∠B)よりも大きな角度となる(すなわち、∠C≧∠Bとなる)ため、外側臨界視野角(∠DE)または内側臨界視野角(∠DI)は、仰角(∠C)−体軸角(∠B)で表すことができる(図4(B))。
【0032】
臨界点が図3のCゾーン(すなわち、体軸視野中心を中心とする所定半径の円周上のゾーンのうち、体軸正中線に対して、検査対象となる眼と同一側にあり、かつその円周と視野正中線との交点ならびにその円周と視軸(眼球正中線)との交点で挟まれるゾーン)にある場合には、必ず体軸角(∠B)の方が仰角(∠C)よりも大きな角度となる(すなわち、∠B≧∠Cとなる)ため、外側臨界視野角(∠DE)または内側臨界視野角(∠DI)は、体軸角(∠B)−仰角(∠C)で表すことができる(図4(C))。
【0033】
臨界点が図3のDゾーン(すなわち、体軸視野中心を中心とする所定半径の円周上のゾーンのうち、体軸正中線に対して、検査対象となる眼と同一側にあり、かつその円周と視軸(眼球正中線)との交点よりも外側のゾーン)にある場合、外側臨界視野角(∠DE)または内側臨界視野角(∠DI)は、体軸角(∠B)+仰角(∠C)で表すことができる(図4(D))。
【0034】
外側臨界点および内側臨界点がともにAゾーンまたはBゾーンに存在する場合、視野角(∠D)は、内側臨界視野角(∠DI)−外側臨界視野角(∠DE)で表すことができる。また、内側臨界点がAゾーンまたはBゾーンに存在し、外側臨界点がCゾーンまたはDゾーンに存在する場合、視野角(∠D)は、内側臨界視野角(∠DI)+外側臨界視野角(∠DE)で表すことができる。さらに、外側臨界点および内側臨界点がともにCゾーンまたはDゾーンに存在する場合、視野角(∠D)は、外側臨界視野角(∠DE)−内側臨界視野角(∠DI)で表すことができる。
【0035】
この方法にしたがって、右眼や左眼の差異に関わらず、同様に単眼視野角を算出することができる。そして、両方の眼に関して、上述の方法にしたがって単眼視野角をそれぞれ算出した後、両方の眼の視野角を合成することにより、全視野角を決定することができる。具体的には、それぞれの眼について得られた単眼視野角を、両方の眼の視野正中線を重ね合わせて、左右眼の単眼視野角の総和を取ることにより、全視野角を得ることができる。
【0036】
本発明は別の一態様において、ヒト以外の被検動物における単眼視野角を測定するための装置を提供する。この装置は、以下の部材:
(a)左右の視軸(眼球正中線)と体軸正中線との交点(体軸視野中心)にその基準点を配置する第一の角度測定手段;
(b)体軸視野中心から所定の距離に配置される第二の角度測定手段;
(c)眼球に対して光を当てるための、第二の角度測定手段と結合された光源;
を含む。
【0037】
この装置を用いて、単眼視野角を測定するためには、まず、第一の角度測定手段の基準点を体軸視野中心上に配置する。角度測定の便宜のために、第一の角度測定手段の基準線を、体軸正中線と一致させるかまたは体軸正中線と直交させてもよい。
【0038】
次に、第二の角度測定手段を、体軸視野中心から所定の距離に配置する。本発明において所定の距離という場合、視野角を測定する動物種によって変動させることができるが、例えばこの装置による視野角測定の被検動物がイヌの場合には、体軸視野中心と第二の測定手段との間の距離が約45〜55 cm(約20インチ)である場合をいう。このように第二の角度測定手段を体軸市や中心から所定の距離に配置することにより、結果的に第二の角度測定手段は、体軸視野中心を中心とした円周上を移動することができる。
【0039】
この第二の角度測定手段の基準点には、眼球に対して光を当てるための光源が結合される。この光源から放出される光が拡散する光であると、眼球に光を当てられた際の動物の反応を特定することが難しくなる。したがって、光源から放射される光は、リニアな光であることが望ましい。
【0040】
この装置の具体的な態様の一つとして、第一の角度測定手段および/または第二の角度測定手段として分度器を使用することができる。第一の角度測定手段としての分度器の基準点と、第二の角度測定手段としての分度器の基準点との間に、長さ約45〜55 cmの糸を張力をかけて張り、さらに、第二の角度測定手段としての分度器の基準点に、光源を結合させる。この装置を使用することにより、第一の角度測定手段と両角度測定手段間に張られた糸とにより体軸角(∠B)が測定され、そして眼に対して向けられた光源の光の方向と両角度測定手段間に張られた糸とにより仰角(∠C)が測定される。
【実施例】
【0041】
実施例1:単眼視野角を測定するための装置の製作
本実施例においては、本発明の装置の具体的な態様の一つを説明する。
まず、第一の角度測定手段および第二の角度測定手段として、分度器を使用した。第一の角度測定手段としての分度器の基準点(原点)と、第二の角度測定手段としての分度器の基準点(原点)との間に、長さ約50 cm(20インチ)の糸を通した。さらに、第二の角度測定手段としての分度器の基準点(原点)に、光源として眼科用ペンライト(ハロゲンプロフェッショナルペンライト、ウェルチ・アレン社製、製品番号:76600))を結合して固定化させた。この際、光源から放射される光が、分度器の基準線と直交する(すなわち、光の方向が90度の線に一致する)ように、光源を配置した(図5を参照)。
【0042】
実施例2:イヌにおける視野角の測定
本実施例においては、実施例1において作製した装置を使用することにより、イヌの左眼の単眼視野角を測定した。
【0043】
まず、被検イヌの体軸視野中心を特定するため、検査対象の左眼の視軸(眼球正中線)を特定した。視軸(眼球正中線)の特定は、第二の角度測定手段に取り付けた眼科用ペンライトを使用して倒像レンズを通して眼内の観察のための光を眼内に導入し、眼底部に存在する視神経乳頭を倒像レンズの中心に一致させた。このように、視神経乳頭が、倒像レンズの中心に一致した時に眼内に導入された光の筋が、左眼の視軸(眼球正中線)と一致する。そして、視軸(眼球正中線)と体軸正中線との交点を体軸視野中心とした。
【0044】
体軸視野中心に第一の角度測定手段として分度器の基準点(原点)を当て、この分度器の基準線を体軸正中線に重ね合わせるように、第一の角度測定手段を配置した。
一方、眼科用ペンライトを取り付けた第二の角度測定手段を、第一の角度測定手段との間の糸を張力をかけて張りながら、眼科用ペンライトから左眼に対して光りを当て、その光のシグナルに対して左眼が固視するか、またはその光のシグナルに向けた左眼が眼球運動をするかを調べた。そして、眼科用ペンライトを動かしながら、その光のシグナルに対する固視、またはその光のシグナルに向けた眼球運動が消失する点を特定し、外側の点を外側臨界点、内側の点を内側臨界点として決定した。
【0045】
それぞれの臨界点が見出された際、両分度器間に張られた糸と体軸正中線とがなす角を体軸角(∠B)、そしてそして左眼に対して向けられた光源の光の方向(すなわち、分度器の90度の方向)と両分度器間に張られた糸とがなす角を仰角(∠C)として、測定した。
【0046】
それぞれの臨界点に関して、体軸角(∠B)および仰角(∠C)から、図4(A)〜(D)に示したとおり、単眼視野角を算出した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の方法および本発明の装置を使用することにより、これまでは測定することができなかったヒト以外の被検動物における視野角を、簡便かつ効率的に測定することができることとなった。
【符号の説明】
【0048】
1:第一の角度測定手段
2:第二の角度測定手段
3:光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)左右の視軸(眼球正中線)と体軸正中線との交点(体軸視野中心)を求める工程;
(ii)視野角を求める眼に対して、体軸視野中心を中心とした所定半径の円周上の点のうち、体軸正中線から最も離れた視野の臨界点(外側臨界点)、および外側臨界点から見て反対側の円周上に存在する視野の臨界点(内側臨界点)を求める工程;
(iii)体軸視野中心-外側臨界点の線分と体軸正中線とがなす角(体軸角、∠BE)、および外側臨界点-体軸視野中心の線分と外側臨界点-眼球の線分とがなす角(仰角、∠CE)を求め、視野正中線と外側臨界点-眼球の線分とがなす外側臨界視野角(∠DE)を算出する工程;
(iv)体軸視野中心-内側臨界点の線分と体軸正中線とがなす角(体軸角、∠BI)、および内側臨界点-体軸視野中心の線分と内側臨界点-眼球の線分とがなす角(仰角、∠CI)を求め、視野正中線と内側臨界点-眼球の線分とがなす内側臨界視野角(∠DI)を算出する工程;
(v)外側臨界視野角(∠DE)と内側臨界視野角(∠DI)とから、視野角(∠D)を求める工程;
を含む、ヒト以外の被検動物における単眼視野角を決定する方法。
【請求項2】
光学的シグナルを眼球に当てた際、その光学的シグナルに対する固視が消失した点またはその光学的シグナルに向けた眼球運動が消失した点を、臨界点と定める、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
臨界点が図3のAゾーンにある場合、外側臨界視野角(∠DE)または内側臨界視野角(∠DI)を、体軸角(∠B)+仰角(∠C)で表し、
臨界点が図3のBゾーンにある場合、外側臨界視野角(∠DE)または内側臨界視野角(∠DI)を、仰角(∠C)−体軸角(∠B)で表し、
臨界点が図3のCゾーンにある場合、外側臨界視野角(∠DE)または内側臨界視野角(∠DI)を、体軸角(∠B)−仰角(∠C)で表し、
臨界点が図3のDゾーンにある場合、外側臨界視野角(∠DE)または内側臨界視野角(∠DI)を、体軸角(∠B)+仰角(∠C)で表す、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
被検動物がイヌである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
光学的シグナルとして、明室下において高輝度のちらつき光源を眼球に当てる、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
一方の眼に対して請求項1〜4のいずれか1項に記載の単眼視野角を決定する方法を実施して視野を決定する工程、
次いでもう一方の眼に対して請求項1〜4のいずれか1項に記載の単眼視野角を決定する方法を実施して視野を決定する工程、そして
両方の眼の視野を合成して当該被検動物における全視野角を決定する工程、
を含む、ヒト以外の被検動物において全視野角を決定する方法。
【請求項7】
(a)左右の視軸(眼球正中線)と体軸正中線との交点(体軸視野中心)にその基準点を配置する第一の角度測定手段;
(b)体軸視野中心から所定の距離に配置される第二の角度測定手段;
(c)眼球に対して光を当てるための、第二の角度測定手段と結合された光源;
を含む、ヒト以外の被検動物における単眼視野角の測定装置。
【請求項8】
第一の角度測定手段および/または第二の角度測定手段が分度器である、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
体軸視野中心と第二の測定手段との間の距離が、約45〜55 cmである、請求項7または8に記載の装置。
【請求項10】
光源から放射される光が、リニアな光である、請求項7〜9のいずれか1項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−65888(P2012−65888A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213880(P2010−213880)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(502341546)学校法人麻布獣医学園 (17)