説明

覚醒支援装置

【課題】「刺激が弱すぎて覚醒支援の効果が現れない」という状況を避けつつ、驚愕反応を抑制すること。
【解決手段】覚醒支援中であるかを判定し(S1210)、覚醒支援中でないと判定すると(S1210NO)、眠気レベルが閾値以上であるかを判定する(S1220)。眠気レベルが閾値以上であると判定すると(S1220YES)、覚醒支援開始を希望するかを質問する(S1230)。そして、上記質問をしてから所定時間以内に、覚醒支援の開始を希望する旨の入力があったかを判定する(S1240)。覚醒支援の開始を希望する旨の入力があったと判定すると(S1240YES)、覚醒支援を開始する(S1270)。そして、驚愕反応が出たかを判定する(S1275)。驚愕反応が出たと判定すると(S1275YES)、刺激強度を1段階引き下げる(S1280)。その後、覚醒支援の効果が現れない場合は、刺激の強度を強くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ユーザの覚醒を支援する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
操作中に居眠りをした場合、危険を伴う機械(自動車など)におけるユーザに対して刺激を与える(例えば、警告音を発したり、冷風を顔に当てたりする)ことで、覚醒を支援する(眠気を覚ます)覚醒支援装置が既に知られている。このような覚醒支援装置は、刺激の強度をどのように設定するかが課題となることが多い。
【0003】
すなわち、覚醒支援のための刺激が弱すぎると覚醒支援の効果が現れない一方、刺激が強すぎるとユーザに驚愕反応(一般的には「驚愕」は非常に驚いた様子を言うが、本願では少し驚いた様子も含んだ意味で用いる。)が出てしまい、機械の誤操作の誘発や、不快感を与えることにつながる。よって、適切な強度の刺激に設定されるべきなのだが、適切な強度というのはユーザの個人差や状況等によって異なる(例えば、刺激が警告音の場合、適切な音量は周囲の静けさに依存する)ので、予め適切に設定するのは難しい。
【0004】
このような課題に関する技術として、例えば特許文献1には、覚醒支援直後においては、自動車のステアリング操作に反力を付与するものが開示されている。つまり、覚醒支援が引き起こした驚愕反応によって、運転者がステアリングホイールを誤操作したとしても、操舵角が大きく変化することを防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−98731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先述した従来技術の課題は、驚愕反応の抑制はできないことである。驚愕反応は、ユーザに不快感を与えることがあるので、抑制されるのが望ましい。本発明は、この課題に鑑み、「刺激が弱すぎて覚醒支援の効果が現れない」という状況を避けつつ、驚愕反応を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を解決するための請求項1の発明は、覚醒支援手段と、驚愕判定手段と、第1設定手段と、眠気レベル推定手段と、第2設定手段とを備える覚醒支援装置である。
覚醒支援手段は、刺激の付与によって、ユーザの覚醒を支援する。また、驚愕判定手段は、覚醒支援手段による刺激によってユーザが驚愕したかを、ユーザの生理指標の変化に基づいて判定する。そして、第1設定手段は、ユーザが驚愕したと驚愕判定手段によって判定された場合、覚醒支援手段によって付与される刺激の強度を弱くする。一方、眠気レベル推定手段は、ユーザの表情に基づいて、ユーザの眠気レベルを推定する。そして、第2設定手段は、眠気レベル推定手段によって推定された眠気レベルが、覚醒支援手段による覚醒支援の最中において増加傾向にある場合、刺激の強度を強くする。
【0008】
この発明によれば、「刺激が弱すぎて覚醒支援の効果が現れない」という状況を避けつつ、驚愕反応を抑制することができる。すなわち、覚醒支援手段による刺激によってユーザが驚愕した場合は、刺激を弱くすることで将来の驚愕反応を抑制できる。一方、覚醒支援手段による覚醒支援を行っているにもかかわらず眠気レベルが増加傾向にある場合は、刺激を強くすることで覚醒支援の効果が現れやすくすることができる。
【0009】
つまり、驚愕反応を引き起こさず、かつ覚醒支援の効果が現れる範囲(適正範囲)に、刺激の強度を収めることが従来に比べて容易になる。
なお、ここで言う「生理指標」とは、少なくとも、表情を数値化したもの・発汗量・心拍数・筋肉の収縮度合いを数値化したもの(びくっとすることを検出するための指標)・血圧値を含むものであり、生理状態を示す数値全般の少なくとも1つを指している。
【0010】
ところで、覚醒支援によって眠気が覚めたにもかかわらず、覚醒支援を続行すると、ユーザに不快感を与える可能性がある。このような可能性を低くするために、次のようにすると良い。
【0011】
請求項2に記載の覚醒支援装置が備える覚醒支援手段は、眠気レベル推定手段によって推定された眠気レベルが、覚醒支援の実行中に閾値未満になると、覚醒支援を終了する。
この発明によれば、眠気レベルが閾値(覚醒支援の要否の基準となる値)未満となり、覚醒支援が不要になったら、覚醒支援を終了することができる。このようにして不要な覚醒支援を避けることで、ユーザが不快感を覚える可能性を低くすることができる。
【0012】
ところで、覚醒支援終了時における刺激の強度を記憶しておいて、覚醒支援を再開する際には、その記憶した強度の刺激を付与することで、覚醒支援開始時から適正範囲の強度による刺激の付与が可能になると考えられる。その一方で、驚愕反応は、開始時に引き起こされることが多い。よって、前回終了時においては適正範囲の強度であったとしても、その強度の刺激を開始時に付与してしまうと、驚愕反応を引き起こしてしまうことも考えられる。そこで、次のようにすると良い。
【0013】
請求項3に記載の覚醒支援装置は、第3設定手段を備える。この第3設定手段は、覚醒支援手段による覚醒支援が一旦終了した後に再開される場合、覚醒支援手段によって付与される刺激の強度を、前回終了時点よりも弱い強度に設定する。
【0014】
この発明によれば、驚愕反応をより抑制することができる。すなわち、驚愕反応は刺激付与の開始時に起こりやすいという特徴に注目し、覚醒支援の開始時においては、効果が現れた実績のある強度よりも低い強度の刺激を付与することで、驚愕反応を引き起こす可能性を低減することができる。また、効果が現れなければ第2設定手段によって強度が強くなるので、覚醒支援の効果を期待することができる。
【0015】
ところで、覚醒支援の種類が1種類のみだと、ユーザの好みに合わなかったり、何度か実行している間にユーザが慣れてしまったりする場合が考えられる。よって、覚醒支援の種類は、複数種類の中から選択できるのが望ましいが、このような選択ができる場合は、その選択の方法を決める必要がある。例えばユーザに選択させることもできるが、覚醒支援を開始する度に選択するのは煩わしい。そこで次のようにすると良い。
【0016】
請求項4に記載の覚醒支援装置が備える覚醒支援手段は、実行可能な複数種類の覚醒支援の中から、何れかを選択して実行する。一方、この覚醒支援装置は、評価手段を備える。この評価手段は、眠気レベル推定手段によって推定された眠気レベルに基づいて、複数種類の覚醒支援それぞれを評価する。そして、覚醒支援手段は、評価手段による評価が高い覚醒支援を優先的に選択する。
【0017】
この発明によれば、ユーザに選択させなくても、覚醒支援装置が自動的に選択するので、ユーザに煩わしさを感じさせることがない。さらに、この発明によれば、推定した眠気レベルによって定まる評価に基づいて、適切な覚醒支援の選択ができる。
【0018】
ところで、上記評価手段は、具体的には次のようにすると良い。
請求項5に記載の覚醒支援装置が備える評価手段は、眠気レベル推定手段によって推定された眠気レベルが、覚醒支援手段による覚醒支援の最中において増加傾向にある場合、その覚醒支援を低く評価する。
【0019】
この発明によれば、効果が現れない覚醒支援を低く評価することで、覚醒支援の選択をより適切にできるようになる。
ところで、覚醒支援をある程度続けたにも関わらず効果が現れない場合、そのまま続けても効果が期待できないばかりか、ユーザが覚醒支援に慣れてしまって、一層効果が現れにくくなってしまう。そこで、次のようにすると良い。
【0020】
請求項6に記載の覚醒支援装置は、切替手段を備える。この切替手段は、覚醒支援手段による覚醒支援の最中において、その覚醒支援に対する評価手段による評価が基準を下回った場合、覚醒支援の種類を切り替える。
【0021】
この発明によれば、覚醒支援をある程度続けたにも関わらず効果が現れない覚醒支援を、他の種類に切り替えることができる。しかも、時間等ではなく、評価手段による評価に基づいて切り替えるので、適切なタイミングで実行できる。
【0022】
ところで、第1設定手段が刺激の強度を強くする基準、及び評価手段が評価を低くする基準は、互いに同じである。よって、上記のように覚醒支援を切り替えた場合、切り替え直前においては刺激の強度が初期設定よりも強くなっていると考えられる。もし、この覚醒支援を再び実行する場合、その切り替え直前の刺激の強度で開始してしまうと、驚愕反応を引き起こしやすいと考えられる。そこで、次のようにすると良い。
【0023】
請求項7に記載の覚醒支援装置が備える覚醒支援手段は、切替手段の切り替えによって停止させられた覚醒支援を再び開始する場合、停止させられた時点の刺激の強度に関わらず、開始時においては初期設定の強度による刺激をユーザに付与する。
【0024】
この発明によれば、切り替えによって停止させられた覚醒支援を再び実行する場合において、驚愕反応を抑制しやすくなる。
ところで、上記評価手段は、具体的には次のようにしても良い。
【0025】
請求項8に記載の覚醒支援装置が備える評価手段は、眠気レベル推定手段によって推定された眠気レベルが、覚醒支援手段による覚醒支援の最中において所定値未満になった場合、その覚醒支援を高く評価する。
【0026】
この発明によれば、効果が現れた覚醒支援を高く評価することで、覚醒支援の選択をより適切にできるようになる。なお、上記所定値は、請求項1の閾値と同じでも良いし、異なっていても良い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】覚醒支援システムの概略構成を示すブロック図。
【図2】覚醒支援システムを搭載した自動車の車室内を示した図。
【図3】覚醒支援処理を示すフローチャート。
【図4】眠気推定処理を示すフローチャート。
【図5】表情データを構成する特徴点を示した図。
【図6】学習データを示した図。
【図7】作動処理を示すフローチャート。
【図8】効果判定処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[1.ハードウェア構成(図1、図2)]
図1は、本発明が適用された覚醒支援システム1の概略構成を示したブロック図である。この覚醒支援システム1は、自動車に搭載され、運転者の眠気に応じて運転者の覚醒を支援するものである。一方、図2は、覚醒支援システム1を構成する各部が車室内に配置された様子を示した図である。図1、図2に示すように、覚醒支援システム1は、覚醒支援制御装置10、スピーカ16、振動装置17、送風装置18、カメラ20、眠気推定装置21、タッチパネル画面30及び心拍計測装置40を備える。
【0029】
カメラ20は、インストルメントパネル内に配置され、運転者の顔面を含む画像(具体的には、肩付近から上側の部位の画像)を撮影する。タッチパネル画面30は、ナビゲーション装置や、他の車載機器(エアコン等)に関する情報表示および情報入力のためのユーザインターフェイスとして機能し、さらに、後述する覚醒支援の開始や終了を希望するかについての質問の表示や、回答の入力のために用いられる(詳細後述)。
【0030】
心拍計測装置40は、ステアリングホイールに設けられ、指の脈動を捉えることで、運転者の心拍数を計測するようになっている。スピーカ16は、音楽やナビゲーション機能のための音声、さらに、覚醒支援のための警告音等を出力するために用いられる。振動装置17は、覚醒支援のために、運転者の臀部付近および背中に振動(低周波)を与えるものであり、運転席の座面および背もたれの内部に設置されている。送風装置18は、運転者の背中に風を当てるものであり、運転席の背もたれの表面部に設置されている。
【0031】
覚醒支援制御装置10や眠気推定装置21は、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイコンである。眠気推定装置21は、カメラ20によって撮影された画像に基づいて、運転者の眠気レベルを推定する。覚醒支援制御装置10は、眠気推定装置21によって推定された眠気レベルと、タッチパネル画面30に入力された情報と、心拍計測装置40によって計測された心拍数とに基づき、スピーカ16、振動装置17、及び送風装置18を制御することによって、覚醒支援を実現する。なお、覚醒支援のための刺激を付与するスピーカ16、振動装置17、及び送風装置18を総称して「覚醒支援機器」と呼ぶ。次から、覚醒支援制御装置10や眠気推定装置21が、覚醒支援のために実行する処理を説明する。
【0032】
[2.覚醒支援処理(図3)]
図3は、覚醒支援処理を示すフローチャートである。この覚醒支援処理は、自動車が走行可能な期間(原動機(エンジンやモータ)の作動時)に常時、実行される処理である。図3に示すように覚醒支援処理が実行されると、まず眠気推定処理が実行される(S110)。
【0033】
[2−1.眠気推定処理(図4)]
図4は、眠気推定処理を示すフローチャートである。眠気推定処理は、眠気推定装置21が実行主体となる処理である。眠気推定装置21は、眠気推定処理を開始すると、カメラ20から、運転者の顔面を含む撮影画像を取得する(S1110)。そして、その撮影画像に基づき、表情データを生成する(S1120)。表情データを説明するために、図5に移る。
【0034】
図5は、表情データを構成する顔面上の特徴点を示した図である。本実施例では、左右の上まぶた101L・101R、左右の下まぶた102L・102R、左右の目頭103L・103R、左右の目尻104L・104R、左右の眉頭105L・105R、左右の眉上端106L・106R、左右の眉尻107L・107R、左右の鼻108L・108R、上唇109、下唇110、左右の口角111L・111R、輪郭112〜116の25点が定められている。なお、ここで言う「左右」とは、運転者に向かって見たときの左右であり、運転者から見た左右とは反転することになる。
【0035】
そして、左右の鼻108L・108Rの両点を結ぶ直線をx軸、両点の中点を通り、x軸に直交する直線をy軸として、各点の2次元座標値を計算する。この計算結果が表情データとなる。
【0036】
図4に戻る。表情データを生成すると、眠気推定装置21自身が備えるROMから学習データを取得する(S1130)。学習データを説明するために、図6に移る。
図6は、学習データを示す図である。学習データとは、先述した表情データと眠気レベルとの関係について、予め行われた実験から得られるサンプルデータによって構成されるデータベースのことである。この実験は、聞き取りや観察などによって被験者の眠気レベル(0(覚醒)〜5(強い眠気)の6段階)を決定し、その眠気レベルをその時の表情データと関連付ける、というものである。被験者は複数人であり、各被験者について、各眠気レベルのデータが複数個、取得できるまで実験をする。
【0037】
そして、取得した各データを、眠気レベル0に関連付けられた表情データの平均として得られる座標値との差分を取ることによって、規格化する。このようにして得られるのが、学習データである。
【0038】
図4に戻る。次に、運転者の表情データを、上記「眠気レベル0に関連付けられた表情データの平均として得られる座標値」によって規格化する(S1140)。そして、その規格化した運転者の表情データと、学習データとに基づいて運転者の眠気レベルを推定する(S1150)。具体的には、運転者の表情データを学習データに照合して、学習データを構成する表情データの中で、運転者の表情データに最も近い(ユークリッド距離が最も短い)ものを選択する。なお、このユークリッド距離は、表情データが25の特徴点から構成されているので、25次元空間における距離となる。そして、その選択した表情データに対応付けられている眠気レベルを運転者の眠気レベルとして推定する。
【0039】
図3に戻る。眠気推定処理を終えると、次は作動処理が実行される(S120)。
[2−2.作動処理(図7)]
図7は、作動処理を示すフローチャートである。作動処理は、覚醒支援制御装置10が実行主体となる処理であり、覚醒支援の開始や終了等のための処理である。なお、眠気判定処理(S110、及び後述するS150)の実行主体は眠気推定装置21であり、その他のステップの実行主体は、覚醒支援制御装置10である。
【0040】
覚醒支援制御装置10は、作動処理を開始すると、覚醒支援中であるかを判定する(S1210)。覚醒支援中でないと判定すると(S1210NO)、直前のS110において推定された眠気レベルが閾値(例えば眠気レベル2)以上であるかを判定する(S1220)。閾値未満であると判定すると(S1220NO)、覚醒支援を開始することなく作動処理を終える。
【0041】
一方、眠気レベルが閾値以上であると判定すると(S1220YES)、スピーカ16及びタッチパネル画面30を通じて、覚醒支援開始を希望するかを運転者に質問する(S1230)。具体的には、「覚醒支援を開始しますか?」というメッセージを、スピーカ16に音声として出力させると共に、タッチパネル画面30に文字として表示させる。さらに、その回答を運転者に入力させるために「Yes」「No」のアイコンをタッチパネル画面30に表示させる。
【0042】
そして、上記質問をしてから所定時間以内に、覚醒支援の開始を希望する旨の入力があったか(つまり「Yes」がタッチされたか)を判定する(S1240)。覚醒支援の開始を希望する旨の入力が所定時間以内になかった(つまり「No」がタッチされた、又は何れもタッチされないまま所定時間が経った)と判定すると(S1240NO)、覚醒支援を開始することなく作動処理を終える。
【0043】
一方、覚醒支援の開始を希望する旨の入力があったと判定すると(S1240YES)、その入力が原動機の始動から数えて、1回目かを判定する(S1250)。覚醒支援の開始を希望する旨の入力が、原動機の始動から数えて2回目以降であると判定すると(S1250NO)、評価スコアが最大の覚醒支援機器について記憶されている刺激強度を1段階引き下げると共に(S1260)、その覚醒支援機器を作動させることによって、覚醒支援を開始する(S1270)。
【0044】
評価スコア及び刺激強度について説明する。まず、評価スコアとは、各覚醒支援機器の実績を数値化したものであり、デフォルトは0で、−2〜3の範囲で変動するようになっている。この変動は、後述する効果判定処理のS1620及びS1660において実現されるようになっている。なお、評価スコアが最大のものが複数ある場合には、最大のものの中からランダムに選択する。
【0045】
また、刺激強度とは、各覚醒支援機器が運転者に与える刺激の強度のことである。スピーカ16の場合であれば、警告音の音量、及び出力周期について3段階(弱…a1dB&1Hz、中…a2(>a1)dB&1.5Hz、強…a3(>a2)dB&2Hz)が用意されている。振動装置17の場合であれば、振動の出力周期について3段階(弱…1Hz、中…1.5Hz、強…2Hz)が用意されている。送風装置18の場合であれば、風量について3段階(弱…4V(ファンモータに印加する電圧)、中…8V、強…12V)が用意されている。
【0046】
さらに、刺激強度は、後述するS1280及びS1640において上下させられるようになっていると共に、後述するS1290において、終了時の強度が記憶されるようになっている。先述したS1260において刺激強度を1段階引き下げるというのは、その記憶した刺激強度に対して1段階引き下げるということであり、目的は驚愕反応の抑制にある。驚愕反応は覚醒支援の開始時に起こりやすいので、開始時に刺激強度を弱くするのは、驚愕反応の抑制に効果的である。なお、刺激強度が弱の場合は、それ以上引き下げることができないので、現状維持となる。
【0047】
一方、覚醒支援の開始を希望する旨の入力が原動機の始動から数えて1回目だと判定すると(S1250YES)、S1260をスキップして、S1270に進む。この場合は、運転者が交代している可能性を考慮して、デフォルトの強度刺激(例えば、中の刺激)を採用するようになっている。
【0048】
S1270の次は、カメラ20を通じて取得する撮影画像と、心拍計測装置40を通じて取得する運転者の心拍数の変動とに基づいて、運転者に驚愕反応が出たかを判定する(S1275)。具体的には、撮影画像に基づく場合、S110の眠気推定処理において説明した方法と同様な方法によって判定する。つまり、驚愕反応判定用の学習データを予め記憶しておき、運転者の表情データとマッチングさせることで、驚愕反応の有無を判定する。
【0049】
一方、心拍数の変動に基づく場合は、単位時間当たりの上昇幅が所定値以上になったことを検出すると、驚愕反応が出たと判定する。そして、S1275は、「OR」で判定するようになっている。つまり、撮影画像および心拍数による方法の少なくとも一方によって「驚愕反応が出た」という結果の場合はYES、両方とも「驚愕反応が出ていない」という結果の場合はNOと判定するようになっている。
【0050】
そして、運転者に驚愕反応が出ていないと判定すると(S1275NO)、作動処理を終える。一方、運転者に驚愕反応が出たと判定すると(S1275YES)、刺激強度を1段階引き下げて(S1280)、作動処理を終える。刺激強度を引き下げるのは、次回から驚愕反応が出ないようにするためである。
【0051】
一方、S1210において覚醒支援中であると判定すると(S1210YES)、直前のS110において推定された眠気レベルが閾値以上であるかを判定する(S1285)。閾値以上であると判定すると(S1285YES)、作動処理を終える。つまり、覚醒支援を継続したままにする。一方、眠気レベルが閾値未満であると判定すると(S1285NO)、作動中の覚醒支援機器の評価スコアと、現在設定されている刺激強度とを、覚醒支援終了時の値として記憶する(S1290)。そして、覚醒支援機器の作動を停止させて(S1295)、作動処理を終える。なお、S1290で記憶した刺激強度は、先述したように、次回のS1260で用いられる。
【0052】
[2−3.S130〜S150(図3)]
図3に戻る。作動処理を終えると、現在、覚醒支援中であるかを判定する(S130)。覚醒支援中でないと判定すると(S130NO)、S110に戻る。一方、覚醒支援中であると判定すると(S130YES)、10秒待機してから(S140)、眠気推定装置21が眠気推定処理を実行する(S150)。この眠気推定処理は、S110で説明した内容と同じなので、詳しい説明は省く。
【0053】
なお、S140で10秒待機する理由は、S150及びS160(後述する効果判定処理)を、作動処理の直後に実行すると、不都合があるからである。その不都合については、次の効果判定処理の説明と共に述べる。
【0054】
[2−4.効果判定処理(図8)及びS170(図3)]
図8は、効果判定処理を示すフローチャートである。まず初めに、直前のS150において推定された眠気レベルが閾値以上であるかを判定する(S1610)。閾値未満であると判定すると(S1610NO)、評価スコアを1引き上げて(S1620)、効果判定処理を終える。閾値未満であるということは、覚醒支援の効果が現れたということなので、評価スコアを引き上げる。
【0055】
一方、眠気レベルが閾値以上であると判定すると(S1610YES)、眠気レベルが改善したかを判定する(S1630)。つまり、前回のS1630の時点と比べて、眠気レベルの値が小さくなったのか、又は、同じ若しくは大きくなったのかを判定する。
【0056】
眠気レベルが改善していないと判定すると(S1630NO)、刺激強度を1段階引き上げる(S1640)。そして、現在実行している効果判定処理が、覚醒支援処理を開始してから1回目であるかを判定する(S1650)。2回目以降であると判定すると(S1650NO)、作動中の覚醒支援機器の評価スコアを1引き下げて(S1660)、S1670に進む。
【0057】
一方、1回目であると判定すると(S1650YES)、S1660をスキップしてS1670に進む。一方、眠気レベルが前回に比べて改善したと判定すると(S1630YES)、S1640・S1650・S1660をスキップしてS1670に進む。
【0058】
このようにS1630〜S1660は、眠気レベルが改善していない場合に、刺激強度を引き上げると共に、評価スコアを引き下げるためのステップである。なお、1回目の効果判定処理においては評価スコアを引き下げない(S1650YESの場合)のは、S1260との整合を取るためである。つまり、驚愕反応を抑制するために、S1260において刺激強度を低くして覚醒支援を開始しているので、刺激強度がそのままであれば効果が出なくても仕方がない。それにも関わらず評価スコアを引き下げてしまうと、過小評価をすることになると考えられるので、1回目の効果判定処理においては評価スコアを引き下げないようにしている。
【0059】
ここで、先述したS140において10秒待機する理由について述べる。覚醒支援処理は、図3に示したようにS110〜S170の繰り返し構造になっている。そして、もし所定時間待機するステップが無ければ、繰り返しの周期はごく短い時間(例えば1秒未満)になってしまうと考えられる。覚醒支援処理の繰り返し周期が短ければ、当然、S1630〜S1660が繰り返される周期も短くなる。一方、眠気レベルは、覚醒支援を開始しても、そのような短時間ではなかなか改善しない。つまり、所定時間待機するステップが無ければ、覚醒支援処理を開始して直ぐに、S1630〜S1660によって刺激強度は最強となり、評価スコアは最低となってしまう。
【0060】
このような結果になってしまっては、刺激強度や評価スコアを上下させるステップの意味が薄れてしまう。そこで、覚醒支援処理の繰り返しの周期を長くするために、S140で10秒待機するようにしている。また、後述するS170で20秒待機するのも同じ理由である。
【0061】
ステップの説明に戻る。S1670に進むと、作動中の覚醒支援機器の評価スコアが基準値(例えば−2)以下かを判定する。基準値を超えていると判定すると(S1670NO)、作動中の覚醒支援機器による覚醒支援を続行したまま、効果判定処理を終える。
【0062】
一方、評価スコアが基準値以下であると判定すると(S1670YES)、作動させる覚醒支援機器を、評価スコアが最大のものに切り替える(S1680)。つまり、今まで作動していた覚醒支援機器を停止させ、その他の覚醒支援機器の中で評価スコアが最大のものを作動させる。S1680を実行する理由は、評価スコアが基準値以下になったということは、それ以上続行しても効果が期待できないからである。
【0063】
そして、S1680で停止させられた覚醒支援機器の刺激強度をデフォルトに戻して(S1690)、効果判定処理を終える。デフォルトまで刺激強度を下げる目的は、評価スコアが基準値以下になった場合、刺激強度が最強になっている可能性が高いので、次回の作動時に驚愕反応を引き起こさないようにするためである。
【0064】
図3に戻る。効果判定処理を終えると、20秒待機して(S170)、S110に戻る。20秒待機する目的は、先述した通り、覚醒支援処理の繰り返し周期を長くするためである。
【0065】
[3.効果]
覚醒支援システム1によれば、「刺激が弱すぎて覚醒支援の効果が現れない」という状況を避けつつ、驚愕反応を抑制することができる。つまり、「驚愕反応が起きれば刺激強度を弱くして、覚醒支援の効果が現れなければ刺激強度を強くする」というフィードバック制御によって、覚醒支援の刺激強度を望ましい強さに収束させることができる。
【0066】
また、驚愕反応は開始時に起きやすいので、S1260において開始時の刺激強度を弱くすることで、驚愕反応を更に抑制できるようになっている。
また、覚醒支援機器それぞれによる効果を評価すると共に、その評価を覚醒支援機器の選択に用いることで、その選択を適切に行えるようになっている(S1270、S1680)。
【0067】
[4.特許請求の範囲との対応]
実施例と特許請求の範囲との対応を述べる。S110/S150が眠気レベル推定手段、S1260が第3設定手段、S1270が覚醒支援手段、S1275が驚愕判定手段、S1280が第1設定手段、S1620及びS1660が評価手段、S1640が第2設定手段、S1680が切替手段、のソフトウェアにそれぞれ対応する。
【0068】
[5.他の形態]
(ア)実施例においては、S1630において眠気レベルに変化がない場合、刺激強度を引き上げて評価スコアを引き下げるようになっていたが、眠気レベルが改善した場合と同様に、刺激強度および評価スコアを変化させなくても良い。
(イ)驚愕反応が現れたか否かの判定基準として、発汗量・筋肉の収縮度合いを数値化したもの・血圧値、或いはその他の生理指標を用いても良い。なお「筋肉の収縮度合いを数値化したもの」として、筋電図等を用いても良いが、運転席の座部に与えられる振動に基づいて判定すると良い。この判定は、座った状態で驚愕すると、脚の筋肉が収縮して立ち上がりそうになる反応を利用している。このような反応が起こると座部に振動(衝撃)が与えられることになるので、それを検知することで、驚愕反応の有無を判定することができる。
(ウ)実施例では、閾値以上の眠気レベルが推定されることが覚醒支援機器の作動の必要条件になっていたが、眠気レベルに関わらず運転者からの入力に応じて、覚醒支援を開始するようにしても良い。また、閾値以上の眠気レベルを検出した場合、運転者の希望に関わらず覚醒支援を開始しても良い。
(エ)表情データは、実施例では2次元座標を用いていたが、3次元座標を用いても良い。
(オ)眠気レベルの推定は、実施例で説明したものでなくても、他の方法でも構わない。例えば、心拍計測装置40によって計測される心拍数を用いても良い。或いは、運転者の表情データと、学習データとのマッチングにおいて、統計的な処理をしても良い(例えばknn法)。
(カ)実施例で述べた種々の値(眠気レベルの閾値など)は、変更しても構わない。
(キ)自動車搭載用でなくても、2輪車もしくは他の機械の操作者、又は、その他の居眠りを避けたい状況にあるユーザなどを対象として、本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0069】
1…覚醒支援システム、10…覚醒支援制御装置、16…スピーカ、17…振動装置、18…送風装置、20…カメラ、21…眠気推定装置、30…タッチパネル画面、40…心拍計測装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刺激の付与によって、ユーザの覚醒を支援する覚醒支援手段と、
前記覚醒支援手段による刺激によってユーザが驚愕したかを、ユーザの生理指標の変化に基づいて判定する驚愕判定手段と、
ユーザが驚愕したと前記驚愕判定手段によって判定された場合、前記覚醒支援手段によって付与される刺激の強度を弱くする第1設定手段と、
ユーザの表情に基づいて、ユーザの眠気レベルを推定する眠気レベル推定手段と、
前記眠気レベル推定手段によって推定された眠気レベルが、前記覚醒支援手段による覚醒支援の最中において増加傾向にある場合、前記刺激の強度を強くする第2設定手段とを備える
ことを特徴とする覚醒支援装置。
【請求項2】
前記覚醒支援手段は、前記眠気レベル推定手段によって推定された眠気レベルが、覚醒支援の実行中に閾値未満になると、覚醒支援を終了する
ことを特徴とする請求項1に記載の覚醒支援装置。
【請求項3】
前記覚醒支援手段による覚醒支援が一旦終了した後に再開される場合、前記覚醒支援手段によって付与される刺激の強度を、前回終了時点よりも弱い強度に設定する第3設定手段を備える
ことを特徴とする請求項2に記載の覚醒支援装置。
【請求項4】
前記覚醒支援手段は、実行可能な複数種類の覚醒支援の中から、何れかを選択して実行し、
前記眠気レベル推定手段によって推定された眠気レベルに基づいて、前記複数種類の覚醒支援それぞれを評価する評価手段を備え、
前記覚醒支援手段は、前記評価手段による評価が高い覚醒支援を優先的に選択する
ことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の覚醒支援装置。
【請求項5】
前記評価手段は、前記眠気レベル推定手段によって推定された眠気レベルが、前記覚醒支援手段による覚醒支援の最中において増加傾向にある場合、その覚醒支援を低く評価する
ことを特徴とする請求項4に記載の覚醒支援装置。
【請求項6】
前記覚醒支援手段による覚醒支援の最中において、その覚醒支援に対する前記評価手段による評価が基準を下回った場合、覚醒支援の種類を切り替える切替手段を備える
ことを特徴とする請求項5に記載の覚醒支援装置。
【請求項7】
前記覚醒支援手段は、前記切替手段の切り替えによって停止させられた覚醒支援を再び開始する場合、停止させられた時点の刺激の強度に関わらず、開始時においては初期設定の強度による刺激をユーザに付与する
ことを特徴とする請求項6に記載の覚醒支援装置。
【請求項8】
前記評価手段は、前記眠気レベル推定手段によって推定された眠気レベルが、前記覚醒支援手段による覚醒支援の最中において所定値未満になった場合、その覚醒支援を高く評価する
ことを特徴とする請求項4〜請求項7の何れか1項に記載の覚醒支援装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−159108(P2011−159108A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20303(P2010−20303)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】