説明

親水化処理アルミニウム板の製造方法

【課題】耐食性、加工性及び親水性に優れ、且つ環境保全の面から問題のない親水性処理アルミニウムフィン材の提供。
【解決手段】アルミニウム系基材の表面に下地処理剤を塗布、乾燥して下層皮膜を形成した後、該下層皮膜の表面に親水化処理剤を塗布、乾燥して親水性の上層皮膜を形成してなる親水化処理アルミニウム板の製造方法であって、該下地処理剤が、アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド(A)1〜15重量%、水酸基含有単量体(B)5〜30重量%、カルボキシル基含有単量体(C)3〜15重量%、及びその他の単量体(D)40〜91重量%よりなる単量体混合物を重合して得られる共重合体(I)並びにメラミン樹脂(II)を含有する親水化処理アルミニウム板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器フィン材用等に用いられる親水化処理アルミニウム板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空調機の熱交換器用のフィン基材としては、軽量性、加工性、熱伝導性等に優れたアルミニウム系基材が一般に使用されている。
【0003】
空調機の熱交換器は冷房時に発生する凝縮水が水滴となってフィン間に水のブリッジを形成し、空気の通風路を狭めるため通風抵抗が大きくなって電力の損失、騒音の発生、水滴の飛散などの不具合が発生するといった問題がある。
【0004】
かかる現象を防止する方策として、例えば、アルミニウム製フィン材(以下、「フィン材」という)の表面を親水化処理して水滴及び水滴によるブリッジの形成を防止することが行われている。
【0005】
親水化処理方法としては、例えば、(1)ベーマイト処理方法、(2)水ガラスを塗布する方法、(3)親水化処理剤を塗布して基材表面に親水性の有機膜を形成する方法などが挙げられ、既に実用化されている。しかしながら、(1)のベーマイト処理方法においては耐食性に問題があり、しかも得られる皮膜が硬いためプレス加工性に問題がある。さらに前記(2)の水ガラスを塗布する方法は、処理されたフィン材の水滴接触角が20度以下という良好な親水持続性を示すが、水ガラスで処理したフィン材は経時で処理皮膜面が粉状を呈するようになり、通風時に飛散しセメント臭又は薬品臭が発生する。しかも熱交換器の運転時に発生する凝縮水によって水ガラスが加水分解し、フィン材表面がアルカリ性となるため孔食が起こり易く、また、腐食生成物である水酸化アルミニウム粉末(白粉)が飛散することが知られており、環境保全上の問題もある。
【0006】
また、これらの方法で得られる親水化処理皮膜を形成したフィン材は、皮膜が親水性を有することもあって、強い腐食環境下に置かれていると、数ケ月程度で腐食されてしまうといった問題があった。
【0007】
この問題を解決する方法として、耐食性、コストなどの面からアルミニウム系基材の表面にクロメート処理を施す方法が多く行われている。しかしながら、クロメート処理はクロムイオンが有害金属イオンであるため環境保全の面から大きな問題がある。
【0008】
そこでクロムイオンを使用しない下地処理剤や処理方法、例えば、チタン塩(ジルコニウム塩)、過酸化水素及び(縮合)リン酸(誘導体)を含有する酸性溶液で処理するアルミニウム表面処理法(特許文献1)、アルミニウムをチタンイオン(ジルコニウムイオン、鉄イオン)、錯化剤を含有するアルカリ性水溶液で処理し、水洗後、リン酸等の酸性水溶液で処理するアルミニウム表面処理法(特許文献2)、リン酸イオン、チタン化合物、フッ化物及び促進剤を含むアルミニウム表面処理組成物(特許文献3)、(縮合)リン酸(塩)、チタニウム塩(ジルコニム塩)、フッ化物、(次)亜リン酸(塩)を含有するアルミニウム系金属表面処理用組成物(特許文献4)など、チタン化合物やジルコニウム化合物を利用した下地処理剤が開発されてきた。
【0009】
しかしながら、これらの無機系下地処理剤は一般に加工性が劣る傾向にあり、後加工の必要な分野、特に厳しい加工性を要求される分野への適用がなかなか進まない状況にあった。
【0010】
そのため有機樹脂系の下地処理剤の開発が種々行われているが、有機樹脂系の下地処理剤を使用すると、一般に上層の親水性皮膜の親水性を低下させてしまう傾向にある。これは親水性皮膜中の親水性基が成膜過程で下層皮膜との界面に配向してしまうためと考えられ、特に上層皮膜の形成に有機樹脂系の親水化処理剤を使用した場合に著しい。しかしながら、アルミニウム系基材との密着性を保持しながら上層皮膜の親水性を低下させないような下地処理剤はなかなか見出すことが困難であった。
【0011】
【特許文献1】特開昭54−24232号公報
【特許文献2】特開昭54−160527号公報
【特許文献3】特開平9−20984号公報
【特許文献4】特開平9−143752号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、耐食性、加工性及び親水性に優れ、且つ環境保全の面から問題のない親水化処理アルミニウムフィン材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド、水酸基含有単量体、カルボキシル基含有単量体及びその他の単量体を特定比率で有する単量体混合物を重合して得られる共重合体とメラミン樹脂を含有してなる下地処理剤を用いることにより、従来からの欠点を全て解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、アルミニウム系基材の表面に下地処理剤を塗布、乾燥して下層皮膜を形成した後、該下層皮膜の表面に親水化処理剤を塗布、乾燥して親水性の上層皮膜を形成してなる親水化処理アルミニウム板の製造方法であって、該下地処理剤が、
アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド(A) 1〜15重量%、
水酸基含有単量体(B) 5〜30重量%、
カルボキシル基含有単量体(C) 3〜15重量%、及び
その他の単量体(D) 40〜91重量%
よりなる単量体混合物を重合して得られる共重合体(I)並びにメラミン樹脂(II)を含有してなるものであることを特徴とする親水化処理アルミニウム板の製造方法に関するものである。
【0015】
また、本発明は上記製造方法を用いて得られる親水化処理アルミニウム板に関するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド、水酸基含有単量体、カルボキシル基含有単量体及びその他の単量体よりなる単量体混合物を重合して得られる共重合体並びにメラミン樹脂を含有する下地処理剤を、アルミニウム系基材に塗布、乾燥して下層皮膜を形成した後、該下層皮膜の表面に親水化処理剤を塗布、乾燥して親水性の上層皮膜を形成するものであり、アルミニウム系基材との密着性に優れるだけでなく、下地塗膜の上に形成された親水化処理皮膜の親水性をほとんど低下させることがないため、クロムを含有せず環境保全の面から問題のない親水化処理アルミニウム板を得ることができ、特に、熱交換器アルミニウムフィン材用として有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の親水化処理アルミニウム板の製造方法は、アルミニウム系基材の表面に下地処理剤を塗布、乾燥して下層皮膜を形成した後、該下層皮膜の表面に親水化処理剤を塗布、乾燥して親水性の上層皮膜を形成するものである。
【0018】
上記アルミニウム系基材は、熱交換器フィン材等に用いられるものが好ましく、純アルミニウムだけでなくアルミニウム合金も使用することができる。
【0019】
上記アルミニウム系基材の表面に、まず下層皮膜が形成される。
【0020】
下層皮膜
下層皮膜は、アルミニウム系基材の表面に下地処理剤を塗布、乾燥することにより形成される。該下地処理剤は、共重合体(I)及びメラミン樹脂(II)を含有してなるものであり、該共重合体(I)は、
アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド(A) 1〜15重量%、
水酸基含有単量体(B) 5〜30重量%、
カルボキシル基含有単量体(C) 3〜15重量%、及び
その他の単量体(D) 40〜91重量%
よりなる単量体混合物を重合して得られるものである。
【0021】
上記アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド(A)は上層皮膜の親水性をほとんど低下させずに皮膜の硬化性を上げる点で効果があり、その量は単量体混合物中2〜12重量%であることがより好ましく、3〜10重量%であることが特に好ましい。アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド(A)の量が1重量%未満では上層皮膜の親水性を低下させないための十分な効果が得られず、15重量%を超えるとアルミニウム系基材との密着性が低下する。アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド(A)としては、上層皮膜の親水性を低下させない効果の点から、炭素数1〜6のアルコキシ基であることが好ましく、炭素数3又は4のアルコキシ基であることが特に好ましい。アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド(A)としては、例えばメトキシメチル(メタ)アクリルアミド、イソプロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、n−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。
【0022】
水酸基含有単量体(B)はアルミニウム系基材との密着性及び塗膜の硬化性の点で必須であり、その量は単量体混合物中6〜25重量%であることがより好ましく、8〜20重量%であることが特に好ましい。水酸基含有単量体(B)の量が5重量%未満では、基材との密着性及び塗膜の硬化性が低下し、30重量%を超えると上層皮膜の親水性が低下する。水酸基含有単量体(B)としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン変性体等の水酸基含有(メタ)アクリレート;分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等の水酸基含有重合性不飽和モノマーなどを挙げることができる。
【0023】
カルボキシル基含有単量体(C)はアルミニウム系基材との密着性の点で必須であり、その量は単量体混合物中4〜12重量%であることがより好ましく、5〜10重量%であることが特に好ましい。カルボキシル基含有単量体(C)の量が3重量%未満では、基材との密着性が低下し、15重量%を超えると上層皮膜の親水性が低下する。カルボキシル基含有単量体(C)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、β−カルボキシエチルアクリレート等を挙げることができる。
【0024】
上記(A)、(B)及び(C)以外のその他の単量体(D)は下層皮膜の塗膜性能を制御するため適宜組み合わせて用いることができる。その量は単量体混合物中51〜55重量%であることがより好ましく、60〜84重量%であることが特に好ましい。その他の単量体(D)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、「イソステアリルアクリレート」(大阪有機化学社製)等の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基を含有する重合性不飽和モノマー;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル基を有する重合性不飽和モノマー;イソボルニル(メタ)アクリレート等のイソボルニル基を有する重合性不飽和モノマー;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニルモノマー;(メタ)アクリロニトリル等;(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有重合性不飽和モノマー;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートとアミン類との付加物等のアミノ基含有重合性不飽和モノマー;分子末端がアルコキシ基であるポリオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0025】
本発明において、「(メタ)アクリルアミド」は、アクリルアミド又はメタアクリルアミドを意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタアクリレートを意味する。
【0026】
共重合体(I)は、上記単量体混合物を共重合することにより得られるものであり、例えば、必要に応じて連鎖移動剤、重合開始剤及び溶剤の存在下にて共重合する方法等を挙げることができる。
【0027】
得られた共重合体を水性の下地処理剤として使用する場合は、製造安定性、形成塗膜の仕上がり性の点から、中和剤を含むことが適している。その際に使用し得る中和剤としては、酸性基を中和しうる塩基性化合物であればよく、その具体例としては例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルアミノエタノール、2−メチル−2−アミノ−1−プロパノール等のアミン類;アンモニア;水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物等を例示することができ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができ、その配合量としては、pHが7.0〜11.0、特に7.5〜10.0となるような量で用いることが望ましい。
【0028】
また、上記共重合体(I)は、重量平均分子量が1,000〜40,000、好ましくは2,000〜15,000の範囲内にあることが重合安定性や取り扱いやすさの点から好適である。
【0029】
本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(東ソー(株)社製、「HLC8120GPC」)で測定した重量平均分子量をポリスチレンの重量平均分子量を基準にして換算した値である。カラムは、「TSKgel G−4000H×L」、「TSKgel G−3000H×L」、「TSKgel G−2500H×L」、「TSKgel G−2000H×L」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1cc/分、検出器;RIの条件で行ったものである。
【0030】
本発明に用いる下地処理剤は、上記で得られた共重合体(I)と、硬化剤としてのメラミン樹脂(II)とを含有するものである。
【0031】
該メラミン樹脂(II)としては、メラミンとアルデヒドとの反応によって得られるメチロール化アミノ樹脂及びメチロール化アミノ樹脂を適当なアルコールによってエーテル化したエーテル化アミノ樹脂のうち、水溶性ないしは水分散性を有するものが好ましい。上記反応に用いられるアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンツアルデヒド等が挙げられる。また、エーテル化に用いられるアルコールの例としてはメチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコールなどが挙げられるが、メチルアルコールが好適に使用される。
【0032】
メラミン樹脂(II)の具体例としては、例えばサイメル300、同303、同325、同327、同350、同370[以上、いずれも日本サイテックインダストリーズ社製]、ニカラックMS15、同MS17、同MX430、同MX650[以上、いずれも三和ケミカル社製]、スミマールM−55[住友化学社製]などのメチルエーテル化メラミン樹脂;サイメル202、同235、同238、同254、同272、同1130[以上、いずれも日本サイテックインダストリーズ社製]、ニカラックMX485、同MX487[以上、いずれも三和ケミカル社製]などのメチルエーテル・ブチルエーテル混合エーテル化メラミン樹脂を挙げることができる。これらのメラミン樹脂は1種で又は2種以上の混合物として使用することができる。
【0033】
上記樹脂共重合体(I)およびメラミン樹脂(II)の配合割合は、共重合体(I)/メラミン樹脂(II)の固形分重量比において95/5〜50/50、特に92/8〜70/30の範囲内が好ましい。メラミン樹脂(II)の量が少な過ぎると十分な硬化性が得られず、多過ぎるとアルミニウム系基材との密着性が低下する。
【0034】
下地処理剤は、共重合体(I)およびメラミン樹脂(II)だけを含有するものであってもよいが、必要に応じて、2−(4−チアゾリル)ベンツイミダゾール、ビス(ジメチルチオカルバモイル)ジサルファイド、ゼオライト(アルミノシリケート)などの防菌剤;タンニン酸、フィチン酸、ベンゾトリアゾールなどの防錆剤;モリブデン、バナジウム、亜鉛、ニッケル、コバルト、銅、鉄などの酸素酸塩化合物;着色顔料、体質顔料、防錆顔料などの顔料類、ワックス、レベリング剤などの通常塗料に用いられる各種添加剤などを含有することができる。特に着色顔料を含有させることにより、アルミニウム基材上に処理膜が形成されていることを一目で確認することができる。
【0035】
上層皮膜
上記下層皮膜の上に形成される上層皮膜は親水性の皮膜であり、表面が親水性で十分な皮膜強度を有し、耐水性、下層皮膜への密着性が良好なものである。上記親水性皮膜の形成に用いられる親水化処理剤としては、例えば、親水性皮膜形成性バインダを含有するものを好適に使用することができる。
【0036】
親水性皮膜形成性バインダの代表例としては、(1)親水性有機樹脂を主成分とし、必要に応じて架橋剤を組合せてなる有機樹脂系バインダ;(2)親水性有機樹脂とコロイダルシリカを主成分とし、必要に応じて架橋剤を組合せてなる有機樹脂・コロイダルシリカ系バインダ;(3)主成分のアルカリ珪酸塩とノニオン系水性有機樹脂との混合物である水ガラス系バインダなどを挙げることができる。なかでも、有機樹脂系バインダ(1)や有機樹脂・コロイダルシリカ系バインダ(2)が好適である。
【0037】
上記有機樹脂系バインダ(1)における親水性有機樹脂としては、分子内に水酸基、カルボキシル基又はアミノ基を含有し、そのままで、又は官能基に応じ酸もしくは塩基で中和することにより、水溶化ないしは水分散化可能な樹脂を挙げることができる。親水性有機樹脂の具体例としては、例えば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(例えば、アクリルアミド、不飽和カルボン酸、スルホン酸モノマー、カチオン性モノマー、不飽和シランモノマーなどとの共重合物)、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、カルボキシル基含有アクリル樹脂、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂とアミンとの付加物、エチレンとアクリル酸との共重合体アイオノマーなどの合成親水性樹脂;デンプン、セルロース、アルギンなどの天然多糖類;酸化デンプン、デキストリン、アルギン酸プロピレングリコール、カルボキシメチルデンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルデンプン、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどの天然多糖類の誘導体を挙げることができる。
【0038】
有機樹脂系バインダ(1)において必要に応じて使用される架橋剤としては、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、ポリエポキシ化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物、金属キレート化合物などを挙げることができる。該架橋剤は一般に水溶性又は水分散性を有していることが好ましい。
【0039】
架橋剤の具体例としては、例えば、メチルエーテル化メラミン樹脂、ブチルエーテル化メラミン樹脂、メチル・ブチル混合エーテル化メラミン樹脂、メチルエーテル化尿素樹脂、メチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂、ポリフェノール類もしくは脂肪族多価アルコールのジ−又はポリグリシジルエーテル、アミン変性エポキシ樹脂、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリイソシアヌレート体のブロック化物;チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)などの金属元素の金属キレート化合物などを挙げることができる。上記金属キレート化合物は、一分子中に少なくとも2個以上の金属アルコキシド結合を有するものが好適である。
【0040】
上記有機樹脂・コロイダルシリカ系バインダ(2)における親水性有機樹脂としては、前記有機樹脂系バインダ(1)における親水性有機樹脂と同様のものを使用することができる。また、バインダ(2)におけるコロイダルシリカは、いわゆるシリカゾル又は微粉状シリカであって、通常、粒子径が5nm〜10μm程度、好ましくは5nm〜1μmで、通常、水分散液として供給されているものをそのまま使用するか、又は微粉状シリカを水に分散させて使用することができる。有機樹脂・コロイダルシリカ系バインダ(2)においては、有機樹脂とコロイダルシリカとが単に混合されたものであってもよいし、有機樹脂とコロイダルシリカとがアルコキシシランの存在下で反応され複合化されたものであってもよい。
【0041】
上記水ガラス系バインダ(3)における水性有機樹脂としては、上記有機樹脂系バインダ(1)における親水性有機樹脂のうち、アニオン系又はノニオン系有機樹脂を使用することができる。
【0042】
これらの親水化処理剤の内、親水性の低下が特に少なかったものは、ポリビニルアルコール/ポリアクリル酸系親水化処理剤、ポリビニルアルコール/コロイダルシリカ系親水化処理剤及びポリエチレングリコール/ポリアクリル酸系親水化処理剤であり、これらの親水化処理剤又はこれらに類似の親水化処理剤系が特に好ましい。
【0043】
親水性皮膜形成性バインダは、水性媒体中に溶解ないしは分散させることができる。この水性媒体は、水、又は水を主体とする水と有機溶剤との混合物を意味する。親水化処理剤は、親水性皮膜形成性バインダの水溶液又は水分散液のみからなっていてもよいが、必要に応じて、塗膜の親水性を向上させるための界面活性剤;親水性を向上させるための親水性重合体微粒子(通常、平均粒子径0.03〜1μm、好ましくは0.05〜0.6μmの範囲内である);2−(4−チアゾリル)ベンツイミダゾール、ビス(ジメチルチオカルバモイル)ジサルファイド、ゼオライト(アルミノシリケート)などの防菌剤;タンニン酸、フィチン酸、ベンゾトリアゾールなどの防錆剤;モリブデン、バナジウム、亜鉛、ニッケル、コバルト、銅、鉄などの酸素酸塩化合物;着色顔料、体質顔料、防錆顔料などの顔料類、ワックス、レベリング剤などの通常塗料に用いられる各種添加剤などを含有することができる。
【0044】
次に、本発明の親水化処理アルミニウム板の製造方法について詳細に説明する。
【0045】
親水化処理アルミニウム板の製造方法
本発明の親水化処理アルミニウム板の製造方法は、アルミニウム系基材の表面に下地処理剤を塗布、乾燥して下層皮膜を形成した後、該下層皮膜の表面に親水化処理剤を塗布、乾燥して親水性の上層皮膜を形成するものである。該基材であるアルミニウム又はアルミニウム合金材としては、従来、熱交換器アルミニウムフィンの基材として使用可能なそれ自体既知のものを使用することができ、通常、無処理の上記基材を従来公知の方法で脱脂、水洗、乾燥したものを好適に使用することができる。
【0046】
上記アルミニウム系基材上に前記下地処理剤を塗装し乾燥させることによって下層皮膜を形成することができる。下地処理剤は、基材であるアルミニウム系基材(熱交換器に組み立てられたものであってもよい)上に、それ自体既知の塗装方法、例えば、浸漬塗装、シャワー塗装、スプレー塗装、ロール塗装、電着塗装などによって塗装することができる。下地処理剤の乾燥条件は、通常、素材到達最高温度が約60〜250℃となる条件で約2秒から約30分間乾燥させることが好適である。
【0047】
また、下地処理剤の乾燥膜厚としては通常、0.05〜5g/m、特に0.1〜3g/mの範囲が好ましい。0.05g/m未満になると、耐食性、耐水性などの性能が劣り、一方5g/mを超えると、下地処理膜が割れたり親水性などが劣るので好ましくない。
【0048】
上記下地処理皮膜を設けたアルミニウム系基材(熱交換器に組み立てられたものであってもよい)上に前記親水化処理剤を、それ自体既知の塗装方法、例えば、浸漬塗装、シャワー塗装、スプレー塗装、ロール塗装、電着塗装などによって塗装し、焼付けることによって親水化処理されたアルミニウム板を製造することができる。親水化処理剤から形成される親水化処理皮膜の膜厚は特に限定されるものではないが、親水性の維持及び経済性の点から通常、0.3〜5g/m、好ましくは0.5〜3g/mの範囲内にあることが好適である。また、親水化処理剤の硬化条件はバインダ種、塗膜厚などに応じて適宜設定することができるが、通常、素材到達最高温度が約80〜250℃となる条件で約5秒から約30分間焼付けることが好適である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、以下、「部」及び「%」はいずれも重量基準によるものとする。
【0050】
アクリル樹脂の合成
合成例1
エチレングリコールモノブチルエーテル30部を温度計、撹拌機、還流冷却器、窒素ガス吹き込み管を備えた4ツ口フラスコに仕込み120℃まで昇温保持した。この中にエチルアクリレート19部、2−エチルヘキシルメタクリレート4部、メチルメタクリレート35部、n−ブチルアクリレート3.5部、スチレン10部、n−ブトキシメチルアクリルアミド7部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート4部、2−ヒドロキシエチルアクリレート12部、アクリル酸5.5部及び2,2′−アゾビスイソブチロニトリル10部の混合溶液を3時間かけて滴下した。その後120℃で1時間熟成し、次いで2,2′−アゾビスイソブチロニトリル1部とエチレングリコールモノブチルエーテル10部との混合液を1時間かけて滴下し、さらに3時間熟成し、固形分約71%のアクリル樹脂溶液を得た。アクリル樹脂は重量平均分子量約9,000であった。得られた、アクリル樹脂溶液28.2部にブチルセロソルブ15部、ジメチルエタノールアミン1.36部を混合し、脱イオン水55.5部を加た後十分に攪拌することによって固形分20%のアクリル樹脂水分散液(A−1)を得た。
【0051】
合成例2〜10
合成例1において、単量体組成を下記表1に記載の配合とする以外は合成例1と同様にして合成しアクリル樹脂水分散液(A−2)〜(A−10)を得た。なお、ジメチルエタノールアミンの量は樹脂中の酸を当量中和する量とし、脱イオン水の量を調整して固形分が20%になるようにした。
【0052】
【表1】

【0053】
下地処理剤の製造
製造例1〜11
下記表2に示す配合に従って、各下地処理剤を作成した。なお、表2の配合は固形分の比率であり、ブルー顔料(シアニンブルー)についてはアクリル樹脂溶液を用いてサンドミル分散を行った。
【0054】
【表2】

【0055】
※1 サイメル350:日本サイテックインダストリーズ社製、商品名、メチルエーテル化メラミン樹脂、固形分100%。
※2 サイメル370:日本サイテックインダストリーズ社製、商品名、メチルエーテル化メラミン樹脂、固形分82%。
【0056】
実施例1〜11、及び比較例1〜5
親水化処理アルミニウム板の製造及び性能評価
無処理で板厚0.11mmのNo1000系アルミニウム板を脱脂、水洗、乾燥した後、その表面に上記各下地処理剤を乾燥皮膜重量が1.0g/mになるように塗布した後、素材到達最高温度(PMT)が200℃になるようにして10秒間焼付けて下層皮膜を得た。該下層皮膜の上に下記に示す親水化処理剤を乾燥皮膜重量が1.2g/mになるように塗布した後、素材到達最高温度(PMT)が220℃になるようにして10秒間焼付けて親水化処理アルミニウム板を得た。下地処理剤と親水化処理剤の組合わせは表3に示すとおりである。なお、比較例5についてはリン酸クロメート処理アルミニウム板の上に親水化処理剤を塗布して親水化処理アルミニウム板を作成した。得られた各親水化処理アルミニウム板について塗膜性能を評価した。評価方法を下記に示す。また、評価結果を表3に合わせて示す。
【0057】
※親水化処理剤
C−1:「コスマー9600」;商品名、関西ペイント社製、高酸化アクリル樹脂とポリビニルアルコールを主成分とする親水化処理剤。
C−2:「コスマー9400」;商品名、関西ペイント社製、ポリオキシアルキレングリコールと親水性架橋重合体微粒子を主成分とする親水化処理剤。
C−3:「コスマー1310」;商品名、関西ペイント社製、親水性有機樹脂とコロイダルシリカを主成分とする親水化処理剤。
【0058】
※評価方法
塗膜密着性:各試験板上の塗膜に素地に達するようにカッターで切り込みを入れ、大きさ1mm×1mmのゴバン目を100個作り、その表面に粘着テープを貼着し、20℃においてそのテープを急激に剥離した後のゴバン目塗膜の残存数を調べた。
【0059】
耐食性:各試験板を70mm×150mmの大きさに切断後、端面部をシールし、JIS Z−2371塩水噴霧試験法に準じて240時間試験を行った後、各試験片の腐食の程度を下記基準に従い評価した。
◎ :腐食発生面積5%未満。
△ :腐食発生面積5%以上、20%未満。
× :腐食発生面積20%以上。
【0060】
耐湿性:各試験板を温度50℃で相対湿度95%の環境に10日間放置した後、塗膜の変色の程度を下記基準で評価した。
◎ :変色が平面部の面積の5%未満。
△ :平面部の面積の5%以上、80%未満で変色。
× :平面部の面積の80%以上で変色。
【0061】
親水性:各試験板の塗面上に注射器にて0.03ccの脱イオン水を滴下して水滴を形成し、水滴の接触角を協和化学社製CA−X150型測定器にて測定した。
◎ :接触角が20°未満。
△ :接触角が20°以上で40°未満。
× :接触角が40°以上
色調持続性:水道水流水に72時間浸漬前後の各試験板の色調変化を目視で下記基準に従い評価した。
◎ :色の変化がほとんど認められない。
△ :色の変化が少し認められる。
× :色の変化が著しい。
【0062】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム系基材の表面に下地処理剤を塗布、乾燥して下層皮膜を形成した後、該下層皮膜の表面に親水化処理剤を塗布、乾燥して親水性の上層皮膜を形成してなる親水化処理アルミニウム板の製造方法であって、該下地処理剤が、
アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド(A) 1〜15重量%、
水酸基含有単量体(B) 5〜30重量%、
カルボキシル基含有単量体(C) 3〜15重量%、及び
その他の単量体(D) 40〜91重量%
よりなる単量体混合物を重合して得られる共重合体(I)並びにメラミン樹脂(II)を含有してなるものであることを特徴とする親水化処理アルミニウム板の製造方法。
【請求項2】
アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド(A)がn−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドである請求項1に記載の親水化処理アルミニウム板の製造方法。
【請求項3】
下地処理剤が共重合体(I)及びメラミン樹脂(II)を重量比で、共重合体(I)/メラミン樹脂(II)=95/5〜50/50の割合で含有するものである請求項1又は2に記載の親水化処理アルミニウム板の製造方法。
【請求項4】
アルミニウム系基材が無処理のアルミニウム系基材である請求項1〜3のいずれか一項に記載の親水化処理アルミニウム板の製造方法。
【請求項5】
下層皮膜の乾燥皮膜量が0.05〜5g/mであり、上層皮膜の乾燥皮膜量が0.3〜5g/mである請求項1〜4のいずれか一項に記載の親水化処理アルミニウム板の製造方法。
【請求項6】
親水化処理剤が、ポリビニルアルコール/ポリアクリル酸系親水化処理剤、ポリビニルアルコール/コロイダルシリカ系親水化処理剤又はポリエチレングリコール/ポリアクリル酸系親水化処理剤である請求項1〜5のいずれか一項に記載の親水化処理アルミニウム板の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の親水化処理アルミニウム板の製造方法を用いて得られる親水化処理アルミニウム板。

【公開番号】特開2009−6231(P2009−6231A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168677(P2007−168677)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】