説明

親水化処理用組成物の塗装方法

【課題】熱交換器用アルミフィンに好適に用いられる、加工性、親水持続性および耐汚染性に優れた被膜を形成しうる親水化処理用組成物の塗装方法を提供する。
【解決手段】予め表面処理が施されていても良い薄板上に、(a)水性ウレタン樹脂、(b)ポリオキシアルキレン樹脂及び(c)界面活性剤を含むことを特徴とする熱可塑性プライマ−組成物を塗布し乾燥した後に熱硬化型の親水性塗料組成物を塗布し焼付け硬化させることを特徴とする親水化処理用組成物の塗装方法及び該塗装方法により得られる熱交換器用アルミフィン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水持続性および耐汚染性に優れた被膜を形成しうる親水化処理用組成物の塗装方法及び該組成物を塗布した熱交換器フィン材に関する。
【背景技術】
【0002】
空調機の熱交換器は冷房時に発生する凝縮水が水滴となってフィン間に水のブリッジを形成し、空気の通風路を狭めるため、通風抵抗が大きくなって電力の損失、騒音の発生、水滴の飛散などの不具合が発生する。かかる現象を防止する方策として、例えば、アルミニウム製フィン材(以下、フィン材という)の表面を親水化処理して水滴および水滴によるブリッジの形成を防止することが行なわれている。
【0003】
熱交換器の表面処理方法として、アルミニウム板を成型加工してフィンを作成し、このものを組立てたのち、表面処理剤を浸せき、スプレー、シャワーなどの手段により塗布する、いわゆるアフターコート法と、あらかじめロールコータなどの手段によりアルミニウム板に表面処理膜を形成したのち、この板にプレス成型加工を施してフィン材を作成する、いわゆるプレコート法の二方法がある。
【0004】
作業効率の点から後者の方法が有利であるが、そこに用いられる表面処理膜には厳しい加工性が要求されるとともに、シリカなどの無機質粒子成分が混在していると、プレス成型に用いられる金型が著しく摩耗し、フィン材の成型不良、親水性被膜の破壊による耐食性の劣化、さらに金型寿命の短縮による経済的損失などの問題が発生する。
【0005】
これに対応する親水化処理方法として、例えば、以下の方法が提案されている。
(1)ポリビニルアルコールと特定の水溶性ポリマーと水溶性架橋剤とを組合せて用いる方法(特許文献1、特許文献2参照)。
(2)特定の親水性モノマーからなる親水性重合体部分と疎水性重合体部分とからなるブロック共重合体と、金属キレート型架橋剤とを組合せて用いる方法(特許文献3、特許文献4参照)。
(3)ポリアクリルアミド系樹脂を用いる方法(特許文献5、特許文献6参照)。
(4)ポリアクリル酸ポリマーなどの高分子と、この高分子と水素結合によるポリマーコンプレックスを形成し得るポリエチレンオキサイドやポリビニルピロリドンなどの高分子とを組合せて用いる方法(特許文献7参照)。
(5)親水性重合体微粒子を用いる方法(特許文献8参照)。
【0006】
これらの方法の内、(5)の方法で得られた被膜はプレス成型時における成型不良の問題を解決し、加工性や親水性の持続性に優れているという有利な点の多いものであるが、これらのいずれの方法において作られたアルミフィン材においても、エアコンを使用している間に室内の汚染物質がフィン材に付着して親水性が低下し、結露水が室内に飛散するという新たな問題が浮き彫りとなり、対策を急がれていた。
この問題に対し(5)の方法において親水性重合体微粒子中にN−メチロールアクリルアミド及び/又はN−メチロールメタクリルアミドを多量に含有させ、且つ1分子中に2個以上の重合性不飽和二重結合を有する化合物によって重合体微粒子中を適度に架橋させた親水性架橋重合体微粒子を用いることによってかかる汚染課題が解決できることが開示されている。(特許文献9等参照)
これら親水性塗料組成物は予めクロメート表面処理が施された素材(アルミニウムまたはアルミニウム合金)に対しては付着性が優れ、表面処理の効果と相俟って耐食性に優れた膜を形成するが、表面処理が施されていない素材に対しては付着性が不十分でありハガレ、耐食性不足等の種々の問題が生じていた。
【0007】
近年重金属を含有する表面処理剤を排除すること、塗装の低コスト化等の要請から重金属表面処理フリー化が進んでおり、このような表面処理されていない素材に対しては上記の事情から付着解決のためプライマ−を用いることが行われる。
【0008】
特許文献10にはアルミ素材用のプライマーとして変性エポキシ樹脂と部分保護イソシアネートを組み合わせたウレタン塗料が開示されているがこの塗料は熱硬化型であり190〜230℃で20〜60秒の焼付けが必要であった。
【0009】
省エネルギー性に優れる熱可塑性のプライマーが特許文献11に開示されているがこのプライマーはクロメート系の防錆顔料を必須としており、重金属フリーの要請には添えないものであった。
【0010】
以上の背景から、アルミニウムまたはアルミニウム合金素材に塗布され、付着性、耐食性に優れた、重金属フリーの親水性皮膜を形成できる、しかも省エネルギー性に優れた塗装方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平1−299877号公報
【特許文献2】特開平3−26381号公報
【特許文献3】特開平2−107678号公報
【特許文献4】特開平2−202967号公報
【特許文献5】特開平1−104667号公報
【特許文献6】特開平1−270977号公報
【特許文献7】特開平6−322292号公報
【特許文献8】特開平9−87576号公報
【特許文献9】特開2009−149715号公報
【特許文献10】特開平9−314050号公報
【特許文献11】特開平11−158436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、熱交換器用アルミフィンに好適に用いられる、加工性、親水持続性および耐汚染性に優れた被膜を形成しうる親水化処理用組成物の塗装方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解消するために鋭意検討した結果、(a)水性ウレタン樹脂、(b)ポリオキシアルキレン樹脂及び(c)界面活性剤を含むことを特徴とする熱可塑性プライマ−組成物を塗布し乾燥し、次にその上に熱硬化型の親水性塗料組成物を塗布し焼付け硬化させることによってかかる課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、例えば、次の事項からなる。
1. 薄板上に、(a)水性ウレタン樹脂、(b)ポリオキシアルキレン樹脂及び(c)界面活性剤を含むことを特徴とする熱可塑性プライマ−組成物を塗布し乾燥し、次にその上に熱硬化型の親水性塗料組成物を塗布し焼付け硬化させること、を特徴とする親水化処理用組成物の塗装方法
2. 熱可塑性プライマー組成物が、該組成物に含まれている(a)水性ウレタン樹脂、(b)ポリオキシアルキレン樹脂及び(c)界面活性剤の質量比が、水性ウレタン樹脂、ポリオキシアルキレン樹脂及び界面活性剤の質量の合計を100としたときにポリオキシアルキレン樹脂が1〜30であり界面活性剤が0.5〜5であることを特徴とする項1に記載の親水化処理用組成物の塗装方法。
3. ポリオキシアルキレン樹脂の数平均分子量が2000〜20000であることを特徴とする項1または2に記載の親水化処理用組成物の塗装方法。
4. 界面活性剤がHLB値が12以上であることを特徴とする項1〜3のいずれか1項に記載の親水化処理用組成物の塗装方法。
5. 熱可塑性プライマ−組成物の乾燥温度が100℃よりも低い温度であることを特徴とする項1〜4のいずれか1項に記載の親水化処理用組成物の塗装方法。
6. 項1〜5のいずれか1項に記載の親水化処理用組成物の塗装方法により形成された塗膜により表面が被覆されているアルミニウム製熱交換器フィン材。
【発明の効果】
【0015】
本発明の塗装方法によれば重金属を含有する表面処理がなされていないアルミニウムもしくはアルミニウム合金薄板上に加工性、親水持続性および耐汚染性に優れた被膜を省エネルギーに形成することが出来、該塗装薄板は熱交換器用アルミフィンに好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明はa)水性ウレタン樹脂、(b)ポリオキシアルキレン樹脂及び(c)界面活性剤を含むことを特徴とする熱可塑性プライマ−組成物と熱硬化型の親水性塗料組成物を用いる。
熱可塑性プライマ−組成物
熱可塑性プライマ−組成物は(a)水性ウレタン樹脂、(b)ポリオキシアルキレン樹脂及び(c)界面活性剤を必須成分として含むものである。
【0017】
本発明に用いる(a)水性ウレタン樹脂は熱可塑性プライマ−組成物の主たるバインダーとして用いられるものであり、従来公知の水性ウレタン樹脂を制限なく使用できる。該水性ウレタン樹脂としては、通常、ポリイソシアネート、ポリオール及びヒドロキシ酸を反応させることにより得られるウレタンプレポリマーを必要に応じて鎖伸長剤及び/または乳化剤の存在下で水中に分散させることにより得られる樹脂を挙げることができる。
【0018】
ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート化合物;これらのジイソシアネート化合物のビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;イソホロンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン−2,4−(又は−2,6−)ジイソシアネート、1,3−(又は1,4−)ジ(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,2−シクロヘキサンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート化合物;これらのジイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,4−ナフタレンジイソシアネート、4,4’−トルイジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルイソシアネート、(m−もしくはp−)フェニレンジイソシアネート、4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、ビス(4−イソシアナトフェニル)スルホン、イソプロピリデンビス(4−フェニルイソシアネート)などの芳香族ジイソシアネート化合物;これらのジイソシアネ−ト化合物のビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;トリフェニルメタン−4,4’,4’’−トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアナトベンゼン、2,4,6−トリイソシアナトトルエン、4,4’−ジメチルジフェニルメタン−2,2’,5,5’−テトライソシアネートなどの1分子中に3個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物;これらのポリイソシアネート化合物のビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ジメチロールプロピオン酸、ポリアルキレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどのポリオールの水酸基にイソシアネート基が過剰量となる比率でポリイソシアネート化合物を反応させてなるウレタン化付加物;これらのウレタン化付加物のビュ−レットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物等を挙げることができる。
【0019】
上記ポリオールとしては、例えば重量平均分子量が200〜10,000の範囲内のものを使用でき、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン−プロピレン(ブロック又はランダム)グリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール、ポリオクタメチレンエーテルグリコール等のポリエーテルポリオール;ジカルボン酸(アジピン酸、コハク酸、セバシン酸、グルタル酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸等)とグリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン等)との縮重合させたポリオール、例えばポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリネオペンチルアジペート、ポリ−3−メチルペンチルアジペート、ポリエチレン/ブチレンアジペート、ポリネオペンチル/ヘキシルアジペート等のポリエステルポリオール;ポリカプロラクトンポリオール、ポリ−3−メチルバレロラクトンポリオール;ポリカーボネートポリオール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、オクタンジオール、トリシクロデカンジメチロール、水添ビスフェノールA、シクロヘキサンジメタノール、1,6ヘキサンジオール等の低分子量グリコール類;等が挙げられ、単独で又は2種以上併用して使用することができる。
【0020】
上記ヒドロキシ酸としては、例えばジメチロール酢酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酪酸等が挙げられる。
【0021】
上記ウレタンプレポリマーの製造において、上記成分の配合割合は、イソシアネート基/水酸基の当量比が1.1〜1.9の範囲内となるように配合することが望ましい。プレポリマーの合成反応は、従来公知の方法に基づいて行なうことができる。
【0022】
上記水性ウレタン樹脂は、中和剤により中和することができる。中和剤としては、カルボキシル基を中和することができるものであれば特に制限はなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリメチルアミン、ジメチルアミノエタノール、2−メチル2−アミノ−1−プロパノール、トリエチルアミン、アンモニア等を挙げることができる。中和剤はカルボキシル基1当量に対して、通常0.5〜2.0当量、好ましくは0.7〜1.3当量となる割合で、使用することが好ましい。
【0023】
このような水性ウレタン樹脂の市販品としては、例えばハイドランHW−330、同HW−340、同HW−350(いずれも大日本インキ化学工業社製)、スーパーフレックス100、同110、同130、同150、同F−8438D、同420(いずれも第一工業製薬社製)、アデカボンタイダーHUX−232、同260、同320、同350(いずれもADEKA社製)などを挙げることができる。
【0024】
本発明において、水性ウレタン樹脂としては、本発明の熱可塑性プライマー塗料組成物から形成される塗膜の耐水性と乾燥性の点から、ウレタン樹脂のガラス転移温度が100℃以上であることが望ましい。該水性ウレタン樹脂のガラス転移温度は、走査型熱分析により昇温速度10℃/分にて測定した値とする。
【0025】
本発明に用いる(b)ポリオキシアルキレン樹脂はポリオキシエチレン(ポリエチレングリコール)、ポリオキシプロピレン(ポリプロピレングリコール)、およびポリオキシエチレン/プロピレンコポリマーから選ばれる1種または2種以上を併用して用いることができるが、素材への付着性や上塗となる親水性塗料組成物のヌレ性等の観点からポリオキシエチレンを用いることが好ましく、またその数平均分子量が2,000〜20,000の範囲にあることが塗装作業性、物性、耐汚染性の観点から好ましい。またこのポリアルキレン樹脂は10質量%以下の範囲で、オキシアルキレン以外の置換基を含んでいてもまたは変性されていても良い。
【0026】
ポリオキシアルキレン樹脂の配合量としては(a)水性ウレタン樹脂と(b)ポリオキシアルキレン樹脂及び(c)界面活性剤の固形分質量の合計に対して1質量%〜30質量%であることが好ましい。この範囲よりもポリオキシアルキレン樹脂が少ない場合は皮膜の親水性が不十分である場合がある。また逆に多い場合は上塗り皮膜の耐水性が低下する場合がある。
【0027】
なお本発明において数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー(株)社製、「HLC8120GPC」)で測定した数平均分子量を標準ポリスチレンの数平均分子量を基準にして換算した値である。カラムは、「TSKgel G−4000H×L」、「TSKgel G−3000H×L」、「TSKgel G−2500H×L」、「TSKgel G−2000H×L」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1cc/分、検出器;RIの条件で行ったものである。
【0028】
本発明に用いる(c)界面活性剤は、例えばノニオン型界面活性剤:ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーなど、アニオン型界面活性剤:各種脂肪酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、ポリカルボン酸型高分子界面活性剤など、カチオン型界面活性剤:アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩など、両性界面活性剤:アルキルベタイン、N−アルキル−N,N−ジメチルグリシンなどを用いることができる。中でもプライマー組成物の貯蔵性の観点からノニオン型界面活性剤を使用することが好ましく、塗装作業性の観点から界面活性剤のHLB値が12以上であることが好ましい。HLB値が12よりも小さいと水溶解性が不足しアルミニウム薄板に塗布する際にハジキなどの塗膜欠陥を生じることがある。なお、ここでHLBとは、親水性−親油性バランスの略称で、両親媒性物質の親水性と親油性の比を0〜20の間の数値で表したもので、HLB値が大きいほど親水性は大きくなる。HLBの計算方法の一例として、質量分率に基づくグリフィン式:
HLB値=20×(MH/M)
(式中、MHは両親媒性物質である化合物中の親水基部分の分子量を示し、Mは化合物そのものの分子量を示す。)によって値を算出することができる。例えばアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤で、その分子中に親水機であるポリオキシエチレン基が80質量%、疎水基であるアルキル基が20質量%を占める界面活性剤では
HLB値=20×0.8=16
として算出される。
【0029】
界面活性剤の配合量としては(a)水性ウレタン樹脂と(b)ポリオキシアルキレン樹脂及び(c)界面活性剤の固形分質量の合計に対して0.5質量%〜5質量%であることが好ましい。この範囲よりも界面活性剤が少ない場合はHLB値が12よりも小さい場合と同様に塗布時に塗膜欠陥が生じることがある。また逆に界面活性剤が多い場合は上塗り皮膜の耐水性が劣る場合がある。
【0030】
本発明に用いる熱可塑性プライマー組成物はさらに必要に応じて顔料や防錆剤(たとえばタンニン酸、没食子酸などのフェノール性カルボン酸およびその塩類、フイチン酸、ホスフィン酸などの有機リン酸、重リン酸の金属塩類、亜硝酸塩など)、レオロジーコントロール剤、消泡剤、造膜助剤などの塗料用添加剤を適宜含有せしめることができ、また希釈溶媒として水または適当な有機溶剤を用いることができる。
【0031】
顔料は着色顔料、体質顔料、防錆顔料等を用いることができる。着色顔料としては、例えば、二酸化チタン、ベンガラ、アルミペースト、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料などを挙げることができる。体質顔料としては、例えば、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、亜鉛華(酸化亜鉛)などを挙げることができる。防錆顔料としては、環境汚染防止の観点から鉛やクロム等の有害金属を含有しないものが好ましく、例えばリン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛・酸化亜鉛複合体、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウムのようなリン酸塩系、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸亜鉛のようなモリブデン酸塩系を挙げることができる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組合せて用いることができる。
熱硬化型親水性塗料組成物
本発明に用いられる熱硬化型の親水性塗料組成物として、従来公知のものを支障なく用いることができる。
【0032】
例えば特開平1−223188号公報に記載された「(A)水分散性シリカ、(B)水溶性もしくは水分散性の有機樹脂、(C)ジ−もしくはトリーアルコキシシラン化合物、および(D)ジアルキルスルホコハク酸エステル塩および/またはアルキレンオキシドシラン化合物を50℃以上の温度で反応せしめてなる有機−無機複合体反応物に、(E)防菌剤、および(F)アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ブロツクポリイソシアネート、およびTi、ZrまたはAl元素の有機配位性アルコキシド化合物から選ばれる架橋剤を添加してなることを特徴とする熱交換器フイン材用親水化処理剤。」を好適に用いることができる。
【0033】
また、例えば特開平5−202313号公報に記載の「(A)ポリビニルアルコールと水分散性シリカとの混合物又は複合体の固形分100重量部に対して、(B)メタ珪酸リチウム5〜50重量部を含有することを特徴とする親水化処理剤。」を好適に用いることができる。
【0034】
また、例えば特開平10−265713号公報に記載の「全塗料固形分100重量部中、(A)珪素原子に直接結合するアルコキシル基を、樹脂成分中に0.1〜70重量%含有する樹脂成分35〜95重量部、および(B)二酸化チタン及び酸化亜鉛粉末から選ばれる少なくとも1種の光触媒活性を有する粉末5〜65重量部、ならびに必要に応じて、(C)上記粉末(B)以外の顔料60重量部以下、を含有することを特徴とする親水性塗膜表面を形成可能な塗料組成物。」を好適に用いることができる。
【0035】
また、例えば特開2001−164175号公報に記載の「アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる金属の珪酸塩(a)、ポリビニルアルコール(b)、及び3,000〜300,000の範囲内の重量平均分子量を有し且つ400mgKOH/g以上の樹脂酸価を有するアクリル樹脂(c)を含有することを特徴とする熱交換器フィン材用親水化処理剤。」を好適に用いることができる。
【0036】
また、例えば特開2005−263839号公報に記載の「イソシアネート硬化型塗料にメルカプト官能基を含有するアルコキシシラン化合物(A)、オルガノシリケート化合物(B)及び有機錫触媒(C)を配合してなることを特徴とする耐汚染性塗料組成物。」を好適に用いることができる。
【0037】
また、例えば従来公知である、反応硬化型樹脂組成物にアルキルシリケ−ト及び/又はその低縮合物をを配合してなる被覆用組成物を好適に用いることができる。
【0038】
本発明の塗装方法はアルミニウム製熱交換フィン材の親水化処理に有用である。例えば、本発明の組成物を、十分に脱脂され、必要に応じて化成処理されたアルミニウム板またはアルミニウム合金板(熱交換器に組立てられたものであってもよい)に、それ自体既知の方法、例えば浸漬塗装、シャワー塗装、スプレー塗装、ロール塗装、電気泳動塗装などによってまず熱可塑性プライマ−組成物を塗装し、塗膜を乾燥させる。このときプライマー組成物の塗布量は乾燥重量で0.2〜5.0g/mが一般に適当である。プライマー塗膜の乾燥手段は風乾、強制乾燥のどちらでも良いが、100℃以下の温和な条件で乾燥されることが省エネルギーの観点から好ましい。またこの時の乾燥時間は5〜15秒以下であることが工業生産性の観点から好ましい。
【0039】
プライマーがべとつかない程度に乾燥した後にその上に熱硬化性親水性塗料組成物をそれ自体既知の方法により塗り重ねる。この時の親水性塗料組成物の塗布量は0.2〜5.0g/mが一般に適当である。その後塗膜を焼き付けることによって加工性、親水持続性および耐汚染性に優れた被膜が完成する。この時の焼付け条件はプレコートメタル塗装の場合は通常180〜250℃×3〜60秒程度が一般的である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。これらの例は本発明をより詳細に説明するためのものであって、本発明の範囲になんら制限を加えるものではない。「部」および「%」はそれぞれ「質量部」および「質量%」を示す。
熱可塑性プライマー組成物の製造
製造例1
四つ口フラスコ中に水を150部仕込み、50℃にて撹拌しながらフレーク状のPEG6000(三洋化成工業社製、ポリエチレングリコール、数平均分子量6,000)を100部添加して溶解させ、固形分40%のポリエチレングリコール水溶液(b1)を得た。
製造例2
製造例1において、PEG6000のかわりにPEG15000(三洋化成工業社製、ポリプロピレングリコール、数平均分子量約15,000)を使用する以外は、製造例1と同様の操作を行い、固形分40%のポリプロピレングリコール水溶液(b2)を得た。
製造例3
製造例1において、PEG6000のかわりに数平均分子量約1,000のポリエチレンレングリコールを使用する以外は、製造例1と同様の操作を行い、固形分40%のポリプロピレングリコール水溶液(b3)を得た。
製造例4
製造例1において、PEG6000のかわりに数平均分子量約2,000のポリエチレンレングリコールを使用する以外は、製造例1と同様の操作を行い、固形分40%のポリプロピレングリコール水溶液(b4)を得た。
塗料製造例1
ガラス製容器に水性ウレタン樹脂「スーパーフレックス130」(第一工業製薬株式会社製品、樹脂固形分35重量%:樹脂Tg=101℃)228.6部、製造例1で得たポリエチレングリコール水溶液(b1)47.5部及び「ノイゲンEA−142B」(第一工業製薬株式会社製、ノニオン系界面活性剤、HLB=14)1部を仕込み、精製水222.9部を加え十分に撹拌し、固形分濃度20%のプライマ−組成物P−1を得た。
塗料製造例2〜8
配合する原料、量を表1に示す内容に変えて、プライマ−組成物P−2〜8を得た。なおプライマ−組成物1〜7は熱可塑性、プライマ−組成物8は熱硬化性プライマ−組成物である。
【0041】
【表1】

【0042】
なお、表1中の各原料は下記の内容のものである。
【0043】
「アデカボンタイターHUX−232」、ポリウレタンエマルション、株式会社ADEKA製品(樹脂固形分30重量%:樹脂Tg=78℃)
「ノイゲンEA170」(第一工業製薬株式会社製品、ノニオン系界面活性剤、HLB17)
ジエチレングリコールモノメチルエーテル(HLB値9.1)
EMALEX512(日本エマルジョン株式会社製品、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、HLB値=11)
EMALEX709(日本エマルジョン株式会社製品、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB値=12)
サイメル701(日本サイテックインダストリーズ社製品、メチルエーテル化メラミン樹脂、固形分82%)
実施例1〜15及び比較例1〜8
アルカリ脱脂剤(日本シービーケミカル社製、商品名「ケミクリーナー561B」)を溶解した濃度2%の水溶液を使用して脱脂を行ったアルミニウム板(A1050、板厚0.1mm)に、製造例で得た各プライマ−組成物を乾燥塗膜の塗布量が0.7g/mとなるように塗布し、夫々の所定条件で乾燥または焼付けを行った後、その上に下記に示す熱硬化性親水性塗料組成物を乾燥塗膜の塗布量が0.7g/mとなるように塗布し、素材到達最高温度が220℃になるようにして10秒間焼付けし、実施例1〜15及び比較例1〜8の塗装板を得た。各実施例及び比較例におけるプライマ−及び熱硬化性親水性塗料組成物の組み合わせは表2に示す。
【0044】
なお、比較例5〜7は熱硬化性親水性塗料組成物を、比較例8はプライマー組成物を塗装していない。
※親水化処理剤
K−1:「コスマー9600」;商品名、関西ペイント社製、高酸化アクリル樹脂とポリビニルアルコールを主成分とする親水化処理剤。
K−2:「コスマー9400」;商品名、関西ペイント社製、ポリオキシアルキレングリコールと親水性架橋重合体微粒子を主成分とする親水化処理剤。
【0045】
【表2】

【0046】
塗膜性能試験
得られた塗装板について下記試験方法に従って試験を行った。その試験結果を表3に示す。
【0047】
耐水性:3枚重ねのガーゼに水をしみ込ませて、試験板の平面部をこすった時の素地露出までの往復回数を求め、下記基準で評価した。
◎:30回以上。
○:20回以上で30回未満、実用の範囲。
△:10回以上で20回未満。
×:10回未満。
【0048】
塗膜密着性:素地に達するように鋭利な刃物で塗膜に大きさ1×1mmのゴバン目を100個作り、その表面に粘着セロハンテープを貼着し、それを急激に剥離した後の残存した枡目数を求め、下記基準で評価した。
○:残存個数/全体個数=90個〜100個/100個。
△:残存個数/全体個数=70個〜89個/100個。
×:残存個数/全体個数=69個以下/100個。
【0049】
親水性:各試験板に揮発性プレス油AF−2C(出光興産社製)を塗布し、180℃にて5分間乾燥させたものを試験塗板とした。この試験塗板と水との接触角を協和化学社製CA−X150型接触角計で測定し初期親水性を評価した。また、試験塗板を水道水流水(流水量は塗板1m当り15kg/時)中に120時間浸漬し、80℃で5分間乾燥したのち上記と同様にして塗板と水との接触角を測定し流水後の親水性を評価した。親水性は下記基準に従って評価した。
○:接触角が20°未満、実用の範囲。
△:接触角が20°以上で30°未満。
×:接触角が30°以上。
【0050】
耐汚染性:各試験板に揮発性プレス油AF−2C(出光興産社製)を塗布し、180℃にて5分間乾燥させた後、水道水流水(流水量は塗板1m当り15kg/時)中に72時間浸漬したものを試験塗板とした。15リットルのガラス容器内にステアリン酸30gを入れたシャーレを置き、各試験塗板を容器内に吊るして容器を密閉した。該容器を100℃に設定した乾燥器の中に24時間放置した後、取り出して各試験塗板の水との接触角を協和化学社製CA−X150型接触角計で測定し、下記基準に従って評価した。
◎:接触角が30°未満。
○:接触角が30°以上で35°未満、実用の範囲
△:接触角が35°以上で40°未満。
×:接触角が40°以上。
【0051】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板上に、(a)水性ウレタン樹脂、(b)ポリオキシアルキレン樹脂及び(c)界面活性剤を含むことを特徴とする熱可塑性プライマ−組成物を塗布し乾燥し、次にその上に熱硬化型の親水性塗料組成物を塗布し焼付け硬化させること、を特徴とする親水化処理用組成物の塗装方法
【請求項2】
熱可塑性プライマー組成物が、該組成物に含まれている(a)水性ウレタン樹脂、(b)ポリオキシアルキレン樹脂及び(c)界面活性剤の質量比が、水性ウレタン樹脂、ポリオキシアルキレン樹脂及び界面活性剤の質量の合計を100としたときにポリオキシアルキレン樹脂が1〜30であり界面活性剤が0.5〜5であることを特徴とする請求項1に記載の親水化処理用組成物の塗装方法。
【請求項3】
ポリオキシアルキレン樹脂の数平均分子量が2000〜20000であることを特徴とする請求項1または2に記載の親水化処理用組成物の塗装方法。
【請求項4】
界面活性剤のHLB値が12以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の親水化処理用組成物の塗装方法。
【請求項5】
熱可塑性プライマ−組成物の乾燥温度が100℃よりも低い温度であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の親水化処理用組成物の塗装方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の親水化処理用組成物の塗装方法により形成された塗膜により表面が被覆されているアルミニウム製熱交換器フィン材。

【公開番号】特開2012−101174(P2012−101174A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251669(P2010−251669)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】