説明

親水化吸着材およびその製造方法

【課題】多孔質体の表面は親水化でありながら、多孔質体の細孔は閉塞せずに吸着能は維持できるという実用性を有し、通水性に優れ、残留塩素除去性能を発揮する親水化吸着材を提供する。
【解決手段】式(1)で表されるケイ素化合物で表面修飾された親水性金属酸化物粒子を多孔質体に添着させたことを特徴とする親水化吸着材である。
MOS(=O)−R−Si(CH(−X)3−n (1)
{式中、Mは金属イオン又はアンモニウム(NH)基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基(本アルキレン鎖中に、ウレタン結合又はウレア結合を含有していても良い)であり、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基、Cは炭素原子、Hは水素原子、Siはケイ素原子、nは0〜2を表す。}

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質体の表面は親水化でありながら、多孔質体の細孔は閉塞せずに吸着能は維持できるという実用性を有し、通水性に優れ、残留塩素除去性能を発揮する親水化吸着材、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水道水に対する関心が高まり、浄水器やミネラルウォーターなどが浸透してきているが、その要因としては水源地の汚染、水道水の水質低下や、都市部の人口増加に伴う高層マンション、団地などにおける受水槽による異物侵入、汚れなどがあげられる。最近においては蛇口への接続が不要なポット型浄水器が普及してきており、蛇口からポットに水を入れるだけで浄化された水が得られる手軽さが特徴となっている。しかし、このような浄水器は水圧が強制的に掛からないためろ過流量の改良が要求されている。特に初期の未使用の活性炭の表面は疎水性であるため活性炭へ水が馴染むまでの時間が掛かってすぐには定常のろ過流量には達しないという問題がある。上記背景を鑑みて、発明者らは、水のろ過流量を向上させるために、活性炭を300〜400℃で空気酸化させることにより、表面酸化物であるカルボキシルキ基、カルボニル基およびラクトン等を活性炭表面に固定化を試みたが表面官能基の生成量は不安定であり、再現性に乏しく実用的なものではなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】真田雄三・鈴木基之・藤元 薫/編「新版 活性炭 基礎と応用」P9〜17 講談社
【非特許文献2】島田将慶「活性炭素繊維」P53〜55冬樹社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながらポット型浄水器は、蛇口直結型浄水器が水圧によって強制的にろ過しているのに対し、ポットに貯まった水の重力でろ過するためろ過流量の改良が要求されている。
上記のような未処理の活性炭を内蔵したポット型浄水器は活性炭そのものが疎水性であり、活性炭の細孔内の空気が水と置換されるまでに時間が掛かり、初回のろ過流量が最も低い。したがって僅かでもろ過流量の速いものが望ましく、なおかつ活性炭が持つ細孔構造は潰さないで、水道水に含まれる塩素、トリハロメタン等を素早く取り除くことができる浄水器が要望されている。
本発明によれば、活性炭表面に網目構造を持った親水性金属酸化物粒子を表面に添着することにより、粒状活性炭の細孔を閉塞することなく、水道水をスムーズにろ過できるポット型浄水器用の活性炭を提供することができる。親水化吸着材を得るには、まず添着する多孔質体に適した金属酸化物粒子の大きさを選定することである。吸着材は材料によって細孔構造が異なっているため、適さない金属酸化物粒子を選定した場合、細孔閉塞の要因となる。次に親水化を実現するためのRにスルホン酸(塩)を選定する。これらの側鎖は吸着サイトの表面に網目構造を形成し、水との親水性に応じて最適な官能基を選定する。親水化を図るためには、例えばハロゲン類、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、スルホキシル基、ニトロキシル基、及びスルホン酸基等の親水性基が挙げられる。最後に最適な親水性金属酸化物粒子を多孔質体に添着させることによって課題を解決することが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、本発明に至った。
即ち、本発明は、式(1)で表されるケイ素化合物で表面修飾された親水性金属酸化物粒子を多孔質体に添着させたことを特徴とする親水化吸着材である。
MOS(=O)−R−Si(CH(−X)3−n (1)
{式中、Mは金属イオン又はアンモニウム(NH)基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基(本アルキレン鎖中に、ウレタン結合又はウレア結合を含有していても良い)であり、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基、Cは炭素原子、Hは水素原子、Siはケイ素原子、nは0〜2を表す。}
【0006】
また本発明は、親水性金属酸化物粒子に水溶性有機溶媒を加えて溶解(分散)させ、多孔質体を浸漬あるいは噴霧処理して乾燥することによる前記親水化吸着材の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明で製造された親水化吸着材は、多孔質体の細孔を閉塞せずに親水性を示すため、水や極性を持った溶媒において吸着性能を発揮させることが可能である。液相用途における吸着、回収、分離といった用途に効果を発揮する。また本発明の親水化吸着材を得るための製造法を取れば、細孔特性、対象溶媒に合わせて調整を図ることができ、安定した親水性の吸着材として機能を発揮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は回分回数と平均ろ過流量の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、親水性金属酸化物粒子は、式(1)で表されるケイ素化合物で表面修飾される。
MOS(=O)−R−Si(CH(−X)3−n (1)
{式中、Mは金属イオン又はアンモニウム(NH)基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基(本アルキレン鎖中に、ウレタン結合又はウレア結合を含有していても良い)であり、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基、Cは炭素原子、Hは水素原子、Siはケイ素原子、nは0〜2を表す。}
【0010】
式(1)において、Mの金属イオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、銀イオン、銅イオン及びニッケルイオンが挙げられる。
アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンなどが挙げられる。
Mのうち好ましくは、アルカリ金属イオンであり、特に好ましいのはリチウムイオンである。
【0011】
式(1)において、Rの炭素数1〜10のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基等が挙げられる。これらのうちコスト及び原料入手の点を考慮すると、好ましくはプロピレン基である。
【0012】
式(1)において、Xの炭素数1〜3のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基が挙げられる。
これらのうちコストの点を考慮すると、好ましくはメトキシ基、エトキシ基である。
【0013】
上記式(1)で表されるケイ素化合物の具体例として、下記の化合物が挙げられる。
LiOS(=O)−CHCHCH−Si(−OCH
LiOS(=O)−CHCHCH−Si(−OC
NaOS(=O)−CHCHCH−Si(−OCH
NaOS(=O)−CHCHCH−Si(−OC
KOS(=O)−CHCHCH−Si(−OCH
KOS(=O)−CHCHCH−Si(−OC
【0014】
金属酸化物粒子の金属酸化物としては、シリカ、チタニア、アルミナ及びジルコニアが挙げられる。
金属酸化物粒子の大きさは、5〜200nmが好ましく、より好ましくは5〜150nm、さらに好ましくは10〜100nmである。
金属酸化物粒子は、形態として金属酸化物ゾルが好ましく、シリカゾルがさらに好ましく、オルガノシリカゾルが特に好ましい。
なお、オルガノゾルとは、ナノレベルで表面改質をしたコロイダルシリカを有機溶媒に安定的に分散させたコロイド溶液であり、アルコール、ケトン、エーテル、トルエン等の各種有機溶媒に分散可能である。
具体的には日産化学社製のオルガノシリカゾル(メタノールシリカゾル、IPA−ST、IPA−ST、IPA−ST−UP、IPA−ST−ZL、EG−ST、NPC−ST−30、DMAC−ST、MEK−ST、MIBK−ST、PMA−ST及びPGM−ST)や扶桑化学社製の高純度オルガノシリカゾル(PL−1−IPA、PL−2L−PGME及びPL−2L−MEK)等が挙げられる。
これらは単独のみならず、複数で用いても良い。
【0015】
金属酸化物粒子を上記式(1)で表されるケイ素化合物で表面修飾することにより親水性金属酸化物粒子が得られる。
すなわち、金属酸化物粒子とケイ素化合物を、水を少量含有した有機溶媒又は水中で加熱反応させることにより、金属酸化物粒子の表面にケイ素化合物を化学結合させる方法によって得られる。
【0016】
金属酸化物粒子に上記式(1)で表されるケイ素化合物を反応させる場合の溶媒としては、アルコール系溶媒:メタノール、エタノール、イソプロパンール、n−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール及び1,4−ブタンジオール等、エーテル系溶媒:ジエチルエーテル、テトラハイドロフラン及びジオキサン等、ケトン系溶媒:アセトン及びメチルエチルケトン等、非プロトン溶媒:ジメチルスルホキサイド、N,N−ジメチルホルムアミド等及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。また、これらの溶媒と水との混合物も挙げられ、水の体積比率は、30%以下が好ましく、より好ましくは5%以下である。
これらのうち好ましいのは、アルコール系溶媒であり、これらの溶媒は1種又は2種以上で使用できる。
【0017】
溶媒に対する原料の金属酸化物粒子の濃度は1〜50質量分率%であり、好ましくは1〜30質量分率%である。
【0018】
金属酸化物粒子に対するケイ素化合物の量は金属酸化物粒子1gに対して0.01〜10.0mmolが好ましく、2.0〜5.0mmolが特に好ましい。
【0019】
ケイ素化合物を添加する際の温度は限定されないが、常温(約20℃)から沸点が好ましい。
反応温度も限定されないが、常温(約20℃)から沸点が好ましい。
反応時間も限定されないが、10分から48時間が好ましく、6時間から24時間が特に好ましい。
【0020】
親水性金属酸化物粒子は、作業性を向上させる為に希釈溶剤を含有させても良い。希釈溶媒としては、本発明の修飾金属酸化物ゾルと反応せず、これらを溶解及び/又は分散させるものであれば制限がなく、例えば、エーテル系溶剤(テトラハイドロフラン、ジオキサン等)、アルコール系溶剤(メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール等)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)及び非プロトン性溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等)及び水等が挙げられる。
【0021】
希釈溶媒を含有する場合、希釈溶媒の含有量は、例えば、全溶媒に対する、本発明の修飾金属酸化物ゾルの質量分率%が、0.01〜15質量分率%(好ましくは0.05〜10質量分率%、特に好ましくは0.1〜7.5質量分率%)となる量である。
【0022】
本発明の親水化吸着材は、親水性金属酸化物粒子を多孔質体に添着させることにより得られる。
原料として用いられる多孔質体は、多数の微細な空孔を備えるものであれば特に限定されるものではないが、好適な例としては、活性炭、ゼオライト、アルミナ及びシリカが挙げられる。
【0023】
活性炭としては、種々の活性炭、例えば、黒鉛、鉱物系材料(褐炭、れき青炭などの石炭、石油又は石炭ピッチなど)、植物系材料(木材、果実殻(やし殻など)など)、動物系材料(動物の骨、皮など)、高分子材料(ポリアクリロニトリル(PAN)、フェノール系樹脂、セルロース、再生セルロースなど)などを原料とする活性炭などが挙げられる。活性炭は、これらの原料を必要に応じて炭化又は不融化した後、賦活処理することにより得ることができる。なお、炭化方法、不融化方法、賦活方法は、特には限定されず、慣用の方法が利用できる。例えば、賦活は、炭素原料(又はその炭化物若しくは不融化物)を賦活ガス(水蒸気、二酸化炭素など)中、500〜1000℃程度で熱処理するガス賦活法、炭素原料(又はその炭化物若しくは不融化物)を賦活剤(リン酸、塩化亜鉛、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなど)と混合し、300〜800℃程度で熱処理する化学的賦活法などにより行うことができる。
【0024】
活性炭のうち、やし殻活性炭などの植物系活性炭、石炭などを原料とする鉱物系活性炭、ピッチ系活性炭・PAN系活性炭・セルロース系活性炭・フェノール系活性炭などの高分子系活性炭などが好ましい。活性炭は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0025】
多孔質体の形状は、特に制限されず、繊維状、ペレット状、粒状、ハニカム状、ペーパー状であってもよい。
【0026】
多孔質体の比表面積は、例えば、350〜2500m/g、好ましくは500〜2000m/g、さらに好ましくは700〜1900m/g程度である。
【0027】
多孔質体は、単独で用いてもよく、多孔質体とバインダー成分(又は賦形成分)とで構成された成形体として用いてもよい。
バインダー成分としては、多孔質体を適当な形状(例えば、粒状、シート状、ハニカム状など)に賦形又は成形できればよく、例えば、セピオライト、ゼオライト、アタパルジャイト、タルク、モンモリロナイトなどの無機粘土鉱物、フェノール系樹脂、ピッチ系樹脂などの結合剤に限らず、繊維成分なども含まれる。これらのバインダー成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用でき、必要により、結合剤と繊維成分とを組み合わせて用いてもよい。
【0028】
前記バインダー成分のうち、繊維成分としては、合成繊維(ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維など)、ポリアミド繊維、ポリカーボネート繊維、ポリイミド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリエーテルスルホン繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリアセタール繊維、フェノール樹脂繊維、ポリアリレート繊維、液晶ポリマー繊維など)、半合成繊維(セルロースアセテートなどのセルロースエステル繊維など)、天然繊維(例えば、セルロース繊維、綿、麻、岩綿、羊毛繊維など)、無機繊維(炭素繊維、炭化ケイ素繊維、ガラス繊維、シリカ−アルミナ繊維など)などが挙げられる。これらの繊維成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。上記繊維成分のうち、セルロース繊維、セルロースエステル繊維、又はこれらのセルロース系繊維を含有する混合繊維、パルプなどが好ましい。繊維成分は、必要により、叩解してもよい。
【0029】
多孔質体とともにバインダー成分を用いた成形体には、通常、(i)多孔質体と結合剤と、必要により繊維成分とを用いて、繊維状、シート状、ハニカム状などに成形したり、ペレット化した成形体、及び(ii)多孔質体と、繊維成分と、必要により結合剤とを用いて、抄紙などの手段でシート状に成形した成形体などが含まれる。
【0030】
バインダー成分を含む前記成形体において、バインダー成分の割合は、多孔質体100質量部に対して、例えば、0.1〜500質量部、好ましくは1〜400質量部、さらに好ましくは5〜300質量部程度であってもよい。例えば、多孔質体を繊維成分とともに抄紙した抄紙構造を有する多孔質体などでは、バインダー成分(繊維成分)の割合は、多孔質体100質量部に対して、例えば、10〜500質量部、好ましくは50〜450質量部、さらに好ましくは100〜350質量部程度であってもよい。
【0031】
このような多孔質体含有成形体の形状は、特に制限されず、粒状(粉粒状又はペレット状)、繊維状、シート状、ハニカム状であってもよい。
【0032】
親水性金属酸化物粒子の添着量は、多孔質体に対して、好ましくは0.01〜20質量分率%、特に好ましくは1〜10質量分率%である。
【0033】
親水性金属酸化物粒子の多孔質体への添着は、例えば、親水性金属酸化物粒子に水溶性有機溶媒を加えて溶解(分散)させ、多孔質体を浸漬処理して乾燥する方法が挙げられる。
水溶性有機溶媒としては、アルコール類が好適であり、メタノール及びエタノールが特に好ましい。
温度は通常25〜150℃程度、時間は1〜6時間である。
【0034】
本発明において、親水性金属酸化物粒子の一次粒子の平均粒子径は、ナノメーターサイズ、例えば、1〜500nm、好ましくは5〜250nm、さらに好ましくは7〜100nm程度であり、通常、5〜75nm程度であってもよい。一次粒子の平均粒子径が小さすぎると取り扱いが困難となる場合があり、大きすぎると吸着能が低下する。
また、疎水性金属酸化物粒子の二次粒子の平均粒子径は、例えば、0.001〜100μm、好ましくは0.005〜30μm、さらに好ましくは0.007〜20μm程度である。疎水化材の平均径が小さすぎても大きすぎても吸着能が低下する。
なお、親水性金属酸化物粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM、HITACHI H-7100)で撮影した画像に基づいて、100個の一次粒子についてサイズを測定し、測定値を加算平均することにより算出できる。
親水化吸着材の比表面積は、例えば、比表面積は、例えば、300〜2400m/g、好ましくは400〜1900m/g、さらに好ましくは600〜1800m/g程度であってもよい。
なお、比表面積は、分析装置(島津・マイクロメリティク製、TRISTAR3000型)を用い、150℃で真空脱気処理した試料について、窒素ガス吸着法にてBET法で算出した。
【0035】
本発明の親水化吸着材は水、アルコール等の極性溶媒といった液相での吸着材として好適に用いられる。
本発明で親水化処理された吸着材は、水道水圧を利用しない浄水器に用いられる。たとえば、ポット型浄水器、携帯型浄水器等に最適に用いられる。
吸着材として汎用的に用いられるのは活性炭であるが、活性炭そのものは疎水性であり、活性炭の細孔内の空気が水と置換されるまでに時間が掛かり、初回のろ過流量が最も遅い。特に最初は活性炭の微粉と取り除くために水道水でろ過したり、活性炭の入ったカートリッジごとを水道水に浸漬させたりして、細孔内の空気を水で置換する前処理操作が必須となっている。ろ過流量は、通水回数を重ねる度に向上し、何回か繰り返すことによって安定する。好ましくは少ない回数で
安定したろ過流量に達する吸着材が望まれている。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明する。実施例は、本発明を説明するものであり、制限を加えるものではない。
【0037】
製造例1
3−(トリメトキシシリル)プロパン−1−チオール(チッソ株式会社製)20g、エタノール500g、水130g、及び、IPA−ST(日産化学工業製、30wt%イソプロパノール溶液)120gを混合し、バス温90℃で一晩加熱還流した。反応後、過酸化水素を70g添加し、さらに一晩加熱還流した。反応終了後、室温で、この反応液に、水酸化リチウム一水和物4.28g、酢酸10mL、水20mLを混合して得られた水溶液を添加して中和した。さらにこの溶液に、酢酸ナトリウム0.4gと水20mLを加えて攪拌し、親水性金属酸化物粒子を作製した。
【0038】
実施例1〜3、比較例1
活性炭を約150gに対して、製造例1で作製した親水性シリカゾル分散液を、固形分が活性炭の1〜3質量分率%となるように採取し、これをエタノールで希釈し、約50gの親水化処理液とした。調製した親水化処理液を活性炭に含ませ、これを150℃で6h通風乾燥を行なった。活性炭への親水化剤の添着の有無はIR測定により確認した。
得られた親水化処理活性炭について、ポット型浄水器の容器に充てんし、通水試験を行った。併せて、親水化処理していない活性炭についても同様に試験を行った。その結果を表1に示す。
【0039】
[回分通水試験]
<前処理操作>
塩素濃度2ppm、水温20℃の1000mLの試験水を本体容器に満たし、ロートを本体容器に装着する。次に吸着材60mL(40mmφ)を充てんしたカートリッジをロートに装着し、カートリッジを本体容器内の試験水に浸漬させる。浸漬開始から10分後本体容器中の水を捨てて前処理完了とする。
<本操作>
本体容器には予め通水量95%到達時の印をつけておき、本体容器にロートと前処理されたカートリッジを装着する。次に本体容器の上部に位置するロートに1000mLの試験水を注水すると同時にタイマーをスタートさせ、ろ過水のレベルが予め印をつけておいた通水量95%ろ過時点に到達した時点でタイマーをストップさせて、時間(sec)を読み取り、1回あたりの平均ろ過流量を算出する。
【0040】
[遊離残留塩素除去性能試験]
遊離残留塩素除去性能試験はJIS S 3201 家庭用浄水器試験方法に準じて測定した。
【0041】
[粒度]
活性炭の粒度は、JIS K 1474に準じて測定した。
[親水性金属酸化物粒子添着量]
親水性金属酸化物を添着する前の吸着材の質量を計測し、その吸着材に親水性金属酸化物を添着し、150℃で6h通風乾燥した後の質量から親水性金属酸化物粒子添着量を算出した。
[BET比表面積]
実施例及び比較例で得られた疎水化吸着材のBET比表面積は、自動比表面積/細孔分布測定装置(島津・マイクロメリティク製、TRISTAR3000型)を用い、150℃で真空脱気処理した試料について、窒素ガス吸着法にて測定し、BET法で算出した。
【0042】
【表1】

【0043】
表1、図1から明らかなように、比較例に比べ、実施例では残留塩素を効率よく吸着する。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の親水化吸着材は、多孔質体の表面は親水化でありながら、多孔質体の細孔は閉塞せずに吸着能は維持できるという実用性を有し、通水性に優れ、残留塩素除去性能を発揮するため、自重圧力による浄水器に好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるケイ素化合物で表面修飾された親水性金属酸化物粒子を多孔質体に添着させたことを特徴とする親水化吸着材。
MOS(=O)−R−Si(CH(−X)3−n (1)
{式中、Mは金属イオン又はアンモニウム(NH)基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基(本アルキレン鎖中に、ウレタン結合又はウレア結合を含有していても良い)であり、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基、Cは炭素原子、Hは水素原子、Siはケイ素原子、nは0〜2を表す。}
【請求項2】
金属酸化物粒子の大きさが5〜200nmである請求項1に記載の親水化吸着材。
【請求項3】
金属酸化物粒子がシリカ、チタニア、アルミナ又はジルコニアである請求項1又は2に記載の親水化吸着材。
【請求項4】
金属酸化物粒子がゾルである請求項1〜3のいずれかに記載の親水化吸着材。
【請求項5】
金属酸化物粒子がオルガノシリカゾルである請求項4に記載の親水化吸着材。
【請求項6】
多孔質体が、活性炭、ゼオライト、アルミナ又はシリカである請求項1〜5のいずれかに記載の親水化吸着材。
【請求項7】
多孔質体の形状が繊維状、ペレット状、粒状、ハニカム状又はペーパー状である請求項6に記載の親水化吸着材。
【請求項8】
多孔質体に対して親水性金属酸化物粒子を1〜20質量分率%添着させた請求項1〜7のいずれかに記載の親水化吸着材。
【請求項9】
多孔質体に対して親水性金属酸化物粒子を1〜10質量分率%添着させた請求項1〜7のいずれかに記載の親水化吸着材。
【請求項10】
親水性金属酸化物粒子に水溶性有機溶媒を加えて溶解(分散)させ、多孔質体を浸漬処理して乾燥することによる請求項1〜9のいずれかに記載の親水化吸着材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−103179(P2013−103179A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249038(P2011−249038)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(591147694)大阪ガスケミカル株式会社 (85)
【Fターム(参考)】