説明

親水性と、フォトクロミック特性とを有する、透明で、架橋されたポリマー物質の製造方法、ないし該方法により得られる光学部材および眼鏡部材

【課題】フォトクロミック特性を有する、透明で、架橋されたポリマー物質の製造方法を提供する。
【解決手段】(a)フォトクロミック剤を、溶媒または混合溶媒に溶解させて、フォトクロミック含侵溶液を得る工程と、(b)親水性を有し、透明で、架橋されたポリマー物質を、前記フォトクロミック含侵溶液に含侵させて、フォトクロミック溶液に含侵された物質を得る工程と、(c)前記含侵された物質を、水溶液で洗浄して、前記含侵溶液を前記水溶液で実質的に置換する工程と、(d)得られたフォトクロミックポリマー物質を回収する工程と、を含む工程でポリマー物質を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、親水性と、フォトクロミック特性とを有する、透明で、架橋されたポリマー物質の製造方法、ないしフォトクロミック特性を有する光学部材および眼鏡部材、特にコンタクトレンズ、の製造におけるこのポリマー物質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
[従来の技術]
重合可能なモノマー類の混合物に、スピロオキサジン化合物のようなフォトクロミック化合物を含侵させ、モールド中で重合させることにより、フォトクロミック性を有するコンタクトレンズを製造する方法が知られている。
【0003】
国際公報WO96/04590号には、メチルメタクリレート(MMA)モノマーと、N−ビニルピロリドン(NVP)モノマーとの混合物中に、スピロオキサジン化合物を導入し、この混合物を、架橋剤としてアルキルメタクリレートおよび熱開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)の存在下で熱重合させることからなるMMAおよびNVPの共重合体製のフォトクロミックコンタクトレンズの製造方法が開示されている。
【0004】
この手法は、キャストインプレース(cast in place)として一般に知られており、欧州特許願EP277,639号公報でも使用されている。同公報には、基礎モノマーの混合物(特にヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)ベースのもの)に、付加重合または開環重合可能な有機官能基を含んだスピロオキサジン化合物を混合することが開示されている。混合物は、その後重合される。したがって、フォトクロミック化合物は、レンズを構成する物質中に固定されており、涙を媒体として溶出することは想定されていない。
【0005】
このフォトクロミック化合物のキャストインプレース方法には、多数の欠点が存在する。
フォトクロミック化合物は、開始剤の作用によるモノマー混合物の重合時に形成されるフリーラジカルによる攻撃に敏感な化合物である。これらのフリーラジカルによる影響下で、フォトクロミック化合物、特にスピロオキサジン化合物、は分解して、色味を有する副生成物を生じる傾向がある。この結果、一方において、破壊された部分のフォトクロミック化合物の効果が全体的に減少し、他方において、この色味を有する副生成物によって、レンズには望ましくない恒久的な着色が生じる。
加えて、副生成物は、有毒な性質を示す可能性あり、その分子量が小さいため、レンズを通って装着者の眼へと拡散する可能性があるという重大な欠点を有している。
【0006】
したがって、キャストインプレース方法は、眼鏡レンズの製造においてはある程度好都合に使用されているが、コンタクトレンズの製造には適用されず、本発明者の知る限り、フォトクロミック特性を有する親水性コンタクレンズは、今日まで販売されていない。
重合時に形成される副生成物の有毒な性質の可能性は、このキャストインプレース方法のコンタクトレンズの製造への使用を事実上不可能なものとしている。
【0007】
実際、欧州特許願EP277,639号公報でのフォトクロミック化合物のキャストインプレース方法では、コンタクトレンズを構成するポリマーの網目構造に固定されたフォトクロミック化合物は、分解副生成物との関係で実効性がない。
さらに、同公報の方法は、使用可能なフォトクロミック化合物の選択を制限している。
【0008】
キャストインプレース方法は、工業レベルでは柔軟性を欠いているため、既存のレンズをフォトクロミック処理し、フォトクロミック特性を有するコンタクトレンズを大量生産することは不可能である。
【0009】
さらに、キャストインプレース方法では、フォトクロミック化合物を、レンズの所定の選択した領域に含侵させることは不可能である。
特に、親水性のコンタクトレンズは、その直径が虹彩の径よりも大きく、装着者の瞳孔部分を覆うコンタクトレンズの中央部のみにフォトクロミック性を持たせることが美学上好都合である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の課題は、上記問題を解決するフォトクロミック特性を有する、透明で、架橋されたポリマー物質の製造方法を提供することであり、このポリマー物質は、好ましくは従来使用される殺菌処理、特には熱殺菌処理、に対し抵抗性を持ったフォトクロミック特性を有するコンタクトレンズの製造を可能にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、親水性と、フォトクロミック特性とを有する、透明で、架橋されたポリマー材料の製造方法は、
(a)フォトクロミック剤を、溶媒または混合溶媒に溶解させて、フォトクロミック含侵溶液を得る工程と、
(b)親水性を有し、透明で、架橋されたポリマー物質を、前記フォトクロミック含侵溶液に含侵させて、フォトクロミック溶液に含侵された物質を得る工程と、
(c)前記含侵された物質を、水溶液で洗浄して、前記含侵溶液を前記水溶液に置換する工程と、
(d)得られたフォトクロミックポリマー物質を回収する工程と、を含む。
【0012】
本発明の方法は、コンタクトレンズの製造に適した、親水性と、フォトクロミック特性とを有する、透明で、架橋されたいずれの種類のポリマー物質にも適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、“親水性物質”とは、10%以上の親水性、好ましくは35%以上の親水性、を有するいかなる物質をも意味している。
特に好ましい物質は、50%以上の親水性を有する物質である。
一般的に用いられているように、用語“親水性”または含水量は、ポリマー物質に固定可能な、水の最大質量%を意味するものとして理解される。
【0014】
親水性のポリマー物質は、一般的には、以下のモノマー類のうちの少なくとも1つを、好ましくは架橋剤の存在下で、重合することにより得られる。
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類のアルコキシ誘導体、アミノアルキル(メタ)アクリレート類、モノビニルエーテル類、モノビニルポリエーテル類、ヒドロキシル化したビニルエーテル類、N−ビニルラクタム類、(メタ)アクリル酸化合物のアミド誘導体、上記のモノマー類およびその混合物のイオン性モノマー類、双性イオン性モノマー類およびオリゴマー類
【0015】
好ましいヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類は、通常1〜4個の炭素原子を含んだアルキル基を有する。
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの具体例は、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートおよび2,3−ジヒドロキシプロピルメタアクリレート(グリセリルメタクリレート)である。
【0016】
好ましいヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのアルコキシ誘導体は、通常1〜4個の炭素原子を含んだモノ、ジまたはトリエトキシル化された化合物である。
【0017】
N−ビニルラクタム型のモノマー類では、N−ビニル−2−ピロリドン(NVP)、N−ビニル−2−ピペリドンおよびN−ビニルカプロラクタムを挙げることができる。
【0018】
(メタ)アクリル酸化合物のアミド誘導体では、(メタ)アクリルアミドについて、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ジアセトン−(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノ−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミドおよびN−メチルアミノイソプロピル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。アミノアクリル(メタ)アクリレート類では、アミノエチル(メタ)アクリレートについて、ジメチル−アミノエチルメタアクリレート、メチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレートが挙げられる。
【0019】
双イオン性のモノマー類では、国際公報WO92/07885号公報に開示されたものを挙げることができる。後者のモノマー類は、通常涙中のタンパク質との関連で、ヒドロゲルの親和性を減らすことができる。
【0020】
従来の架橋剤の具体例は、エチレングリコール・ジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール・ジ(メタ)アクリレートまたはトリエチレン・ジ(メタ)アクリレートのようなポリエチレングリコール・ジ(メタ)アクリレート、ヘキサメチレン・ジ(メタ)アクリレートのような長鎖のジ(メタ)アクリレート類、ビニル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレートおよびトリメチロールプロパン・トリメタクリレートである。
【0021】
これらの架橋剤は、通常、本発明で親水性のポリマーを得るために使用される開始時のモノマー混合物に対する質量%で0.1〜2%の濃度で存在する。
【0022】
好ましい親水性のポリマー物質は、ビニルラクタム(N−ビニルピロリドンを含む)および/またはN,N−ジメチルアクリルアミドから得られる。
【0023】
好ましい親水性のポリマー物質は、多相ポリマー物質、特に2相ポリマー物質、からなる。多相ポリマー物質は、ポリマーの網目構造の主要部分が、2またはそれ以上の異なる物質からなる特有の微細領域(通常0.005〜0.25μm)で形成された物質である。
そのような網目構造は、通常、異なる性質を持った反応性の官能基を有するモノマー類の混合物を共重合すること、例えば、(メタ)アクリル酸モノマーまたは(メタ)アクリルアミドモノマーと、アリルモノマーまたはビニルモノマーとの共重合、で得ることができる。
多層ポリマー物質は、好ましくは、少なくとも1つの疎水性モノマーと、1つの親水性モノマーとを含んだモノマー混合物の重合により形成される。
【0024】
好ましい疎水性のモノマー類は、炭素数1〜10のアルキル(メタ)アクリレート類、特にメチル(メタ)アクリレート、およびそのフッ素化合物またはケイ素誘導体、エトキシエチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ジメチルオキソブチルメタクリレート、スチレンまたはジビニルベンゼンのようなビニル誘導体、ジエンを含んだ炭化水素、ビニルクロライドおよびアクリロニトリルである。
【0025】
親水性のモノマー類では、N−ビニルピロリドンのようなビニルモノマー類、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)のようなヒドロキシアルキルメタクリレート類、およびN,N−ジメチルアクリルアミドが挙げられる。
通常、プロトン性の基を含まない親水性モノマー類が、好ましく選択される。
【0026】
好ましい2相の親水性ポリマー物質の具体例は、メチルメタクリレート(MMA)/N−ビニルピロリドン(NVP)共重合体、およびメチルメタクリレート(MMA)/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体である。
【0027】
好ましい2相ポリマー物質は、質量比が約30/70のMMA/NVP共重合体であり、これはEssilor社のLunelle(商標名)レンズを構成する材料である。別の好ましい2相ポリマー物質は、質量比が約28/72のMMA/NVP共重合体であり、これはEssilor社のRythmic(商標名)レンズを構成する材料である。
【0028】
この2相ポリマー物質は、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)ブリッジにより架橋された膨張したNVPゲル内部に、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)で架橋された、約0.02μmのMMA(疎水性)微細領域が構成されたヒドロゲルである。いかなる理論と結び付けるまでもなく、上記の2相ポリマー物質を用いた本発明の方法による含侵時に、総体的に疎水性であるフォトクロミック剤は、その大半が2相ゲルの疎水性領域、この場合はPMMA領域、に集中しており、水媒体中ですら、安定性とフォトクロミック剤の効果(特に良好な反応速度)が優れていることは明らかである。
その上、本発明者らは、特定の親水性物質を本発明の方法で処理した場合に、透明度が非常に高く、非常に良好なフォトクロミック性能を有するフォトクロミック物質を与えることを確認している。
【0029】
これらの物質は、1またはそれ以上の親水性モノマー類と、脂環式炭化水素基、好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、を有する脂環式炭化水素基を有する少なくとも1つの(メタ)アクリレートモノマーとを含んだ基礎組成物を重合することにより得られる。
【0030】
より好ましくは、脂環式炭化水素基を有する少なくとも1つの(メタ)アクリレートモノマーは、下記式で表される。
【0031】
【化1】

【0032】
上記式中、R1はOまたはNHであり、各R2は互いに独立して、−CH2−、−CHOH−、−CHR4−[R4は炭素数1〜8のアルキル基である。]から選択される2価のアルキレンラジカルであり、R3はHまたはCH3であり、R2のうち少なくとも1つは−CHR4−であり、nは4,5,6または7である。
【0033】
そのようなモノマー類の具体例は、4−t−ブチル−2−ヒドロキシシクロヘキシルメタクリレートおよび3,3,5−トリメチルシクロヘキシルメタクリレートである。
【0034】
親水性モノマーは、上記したものから選択してもよい。
【0035】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、特にヒドロキシエチルメタクリレート、は好ましい親水性モノマー類である。
最も好ましい親水性モノマーは、(メタ)アクリル酸、特にメタクリル酸、よりなる。
好ましくは、メタクリル酸は、基礎組成物に対する質量%で0.2〜10%の量で存在する。
【0036】
好ましい態様において、基礎組成物は、脂環式炭化水素基を有する少なくとも1つの(メタ)アクリレートモノマーを、0.2〜20質量%含む。
【0037】
また、本発明は、結果的に本発明の方法で処理するのに特に適した新規の親水性物質を示す。
新規の親水性材料は、以下を含んだ基礎組成物を重合することで得られる。
・(メタ)アクリル酸
・(メタ)アクリル酸以外の少なくとも1つのラジカル重合可能な親水性モノマー
・脂環式炭化水素基を有する少なくとも1つの(メタ)アクリレートモノマー
基礎組成物は、好ましくは、上記した従来の架橋剤を含む。
【0038】
本発明で使用される親水性ポリマー類は、従来の添加剤、特にUV吸収剤、をフォトクロミック効果に影響しないような割合で含んでもよい。
【0039】
本発明の方法において、フォトクロミック剤は、従来眼鏡レンズに使用されるいずれのフォトクロミック化合物またはフォトクロミック化合物の混合物であってもよい。
好ましいフォトクロミック化合物は、スピロオキサジンおよびクロメン化合物である。
【0040】
フォトクロミックのスピロオキサジン化合物は、当業者に周知であり、特には米国特許願US5,139,707号公報(スピロ(インドリン−キナゾリンオキサジン))、同US5,114,621号公報(スピロ(インドリン−ベンゾチアゾールオキサジン、欧州特許願EP245,020号公報(スピロ[インドリン−[2,3’]−ベンゾオキサジン])、日本国特許願JP03251587号公報(位置6で置換されたスピロ[インドリン−[2,3’]−ベンゾオキサジン])および国際公報WO96/04590号(位置6にシアノ基またはフェニルスルホニル基を有するスピロ[インドリン−[2,3’]−ベンゾオキサジン])に開示されている。
【0041】
クロメン類もまた、周知のフォトクロミック化合物である。これらの化合物は、特には、米国特許願US5,066,818号公報、国際公報WO92/09593号、欧州特許願EP401,958号公報、EP562,915号公報および国際公報WO93/17071号に開示されている。
好ましいクロメン類は、ナフトピラン類であり、より好ましくは、遊離水酸基を有するナフトピラン類である。
【0042】
特に好ましいナフトピラン類は、2H−ナフト[1,2−b]ピラン、3H−ナフト[2,1−b]ピラン、インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピランから選択される構造よりなり、下記式の1つで表される少なくとも1つの置換基Rを有する。
(I')−DEZ
(II')−DZ
(III')−EZ
(IV')−Z
上記式中、Dはカルボニル基またはメチレン基であり(但し、式(II')においてZが水酸基である場合、Dはメチレン基である。)、Eは、
【0043】
【化2】

【0044】
であり(x、yおよびzは0〜50の数であり、x,y,zの和は1〜50である。)、Zは、水酸基または少なくとも2つの水酸基を有する有機ポリオールの残基である。
式中−(OC24x−はポリエチレンオキサイドを表し、−(OC36y−はポリプロピレンオキサイドを表し、−(OC48z−はポリブチレンオキサイドを表している。組み合わせで使用する場合、Rを構成するポリ(エチレンオキサイド)、ポリ(プロピレンオキサイド)およびポリ(ブチレンオキサイド)は、R部分内でランダム重合していてもよく、またはブロック重合していてもよい。符号x,y,zは、各々1〜50までの数であり、x,y,zの和は、0〜50である。x,y,zの和は、1,2,3…,50等、1〜50の範囲内のいずれの数であってもよい。x,y,zの和は、1〜50の範囲内の、より小さいいずれかの数から、より大きい数までの範囲、例えば6〜50、31〜50等、であってもよい。x,y,zに関する数は、平均値であってもよく、または小数を含んだ数(partial number)、例えば9.5等、であってもよい。
【0045】
好ましい、2H−ナフト[1,2−b]ピラン構造は、下記式で表される。
【0046】
【化3】

【0047】
式中、BおよびB’は、アリール基、好ましくはフェニル基であり、置換されたもの、または置換されていないもののいずれであってもよい。
【0048】
好ましい3H−ナフト[2,1−b]ピラン構造は、下記式で表される。
【0049】
【化4】

【0050】
式中、BおよびB’は、上で定義した通りである。
【0051】
好ましいインデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン構造は、下記式で表される。
【0052】
【化5】

【0053】
式中、BおよびB’は、上で定義した通りである。
【0054】
好ましいナフトピランは、インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピランの化学式に相当する。この場合、遊離水酸基は13位置でインデノ基と結合している。最終的には、好ましいナフトピラン類はピラン基の3位置に2つのフェニル基を含む。
【0055】
各ナフトピラン類は、上記定義した3つのナフトピラン構造I”,II”,III”のいずれかよりなり、1またはそれ以上の置換基Rを含む。
1またはそれ以上の置換基Rは、ナフトピラン構造上にあってもよく、またはBおよび/またはB’基上にあってもよい。
1またはそれ以上の置換基RがBおよび/またはB’基上にある場合、Bおよび/またはB’基は、好ましくはモノR置換されたフェニル類である。
【0056】
R基(モノR置換されたフェニル類を含む)の数は、2,3,4,5またはナフトピラン上に形成可能な置換基の合計数と等しい数であってもよい。
ナフトピラン上にR基またはモノR置換されたフェニルが1超存在する場合、R基は同一であってもよく、または異なるもの、例えば、式I’〜IV’から選択される異なった基、であってもよい。
好ましくは、各ナフトピラン上には1つの置換基Rのみが存在する。
【0057】
最も好ましくは、ナフトピランにおいて、Rは−EZまたは−Zを表し、式Eにおいて、y=Z=0である。
【0058】
好ましくは、残基−Zを形成するのに使用される有機ポリオールは、式G(OH)kで表され、式中、Gはポリオールのバックボーンであり、kは2以上の数である。好ましくは、kは2〜5の整数であり、最も好ましくは4である。
【0059】
残基−Zを形成するのに使用してもよい有機ポリオールの具体例は、少なくとも3つの水酸基を有するポリオールを含み、例えば、下記のいずれかに該当する。
(a)低分子量ポリオール類、すなわち、平均分子量が500未満のポリオール類、例えば、炭素数2〜10の脂肪族トリオール類のような脂肪族トリオール類、多価アルコール類、アルコキシル化された低分子量ポリオール。
(b)ポリエステルポリオール類
(c)ポリエーテルポリオール類
(d)アミドを含んだポリオール類
(e)エポキシポリオール類
(f)多価ポリビニルアルコール類
(g)ウレタンポリオール類
(h)ポリアクリルアルコール類
(i)ポリカーボネートアルコール類
(j)そのようなポリオール類の混合物
【0060】
好ましくは、有機ポリオール類は、低分子量のポリオール類および伸張されたポリオール類から選択される。
本発明で好ましく使用されるヒドロキシル化されたフォトクロミック化合物の調製に使用することができる低分子量有機ポリオール類の具体例は、例えば、テトラメチロールメタン(ペンタエリトリトール)、ジペンタエリトリトール、トリペンタエリトリトール;トリメチロールエタン;トリメチロールプロパン;ジトリメチロールプロパン;1,2,3−プロパントリオール(グリセリン)、2−(ヒドロキシメチル)−2−メチル−1,3−プロパンジオール;2−(ヒドロキシメチル)−2−エチル−1,3−プロパンジオールを含む。伸張されたポリオール類は、ポリオールの末端水酸基と、好適な反応物質、例えばアルキレンオキサイドまたはラクトン等、との反応生成物である。そのような伸張されたポリオール類の具体例は、例えばε−カプロラクタムで伸張されたトリメチロールメタン、エトキシル化若しくはプロポキシル化されたトリメチロールプロパンまたは平均分子量500未満のペンタエリトリトールである。
【0061】
残基−Zは、ポリオール上の水酸基の1つと、ナフトピラン構造、特にI”,II”またはIII”のナフトピラン構造の置換基として、カルボン酸、メチレンハライドのような基Dの先駆物質、若しくはポリアルキレングリコール、水酸基のような基Eの先駆物質との反応により形成される。
【0062】
ナフトピランが、インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピランであり、有機ポリオールが、1モル当たり4つのエトキシ等価物がランダムに分布しているエトキシル化されたペンタエリスリトールである特定の場合について、合成式を示す。
反応式
【0063】
【化6】

【0064】
反応式において、式(I''')で表される化合物は、リチウムアルミニウムハイドライド(LAH)で還元され、式(II''')で表される化合物が形成される。
【0065】
式(I''')の化合物の調製手順は、米国特許US5,645,767号公報に開示されている。1モル当たり4つのエトキシ等価物をランダムに含んだエトキシル化されたペンタエリトリトールは、酸(H+)を用いて式(II''')の化合物と反応させることで、式(III''')のポリヒドロキシル化されたインデノ縮合ナフトピランを含んだ、数種のエトキシル化された異性体を形成する。
【0066】
好ましいクロメン類は、以下に記載するフォトクロミック化合物(I)および(IA)である。
クロメン型の核を含んだフォトクロミック化合物は、ヒドロゲル内において、スピロオキサジンよりも、より優れた安定性とスペクトロキネティクスを示す。
【0067】
フォトクロミック剤を溶解するための溶媒は、フォトクロミック剤が少なくとも一部溶解すれば、いずれの溶媒またはいずれの溶媒の混合物であってもよい。溶媒は、好ましくは非プロトン性の極性溶媒である。好ましい溶媒は、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジエチレングリコールおよびテトラヒドロフラン(THF)である。特に好ましい溶媒は、NMPおよびDMSOである。最も好ましい溶媒は、DMSOと水の混合溶媒である。
【0068】
含侵溶液中のフォトクロミック剤の濃度は、通常10-4〜10質量%であり、好ましくは10-4〜1質量%であり、より好ましくは0.05〜0.25質量%である。
【0069】
材料の含侵は、通常室温で攪拌しながらフォトクロミック溶液中にポリマー材料を浸漬することで実施する。浸漬時間は、ポリマー材料およびフォトクロミック剤溶液の性質によって変化し、通常は1分間〜2時間であり、好ましくは5分間〜1時間である。
【0070】
含侵は、ヒドロゲル本体、すなわちコアに実施され、結果的にヒドロゲル、特には最終製品であるコンタクトレンズ、は、その本体全体にわたって含侵されたフォトクロミック化合物を含む。
含侵後、ポリマー物質は、水溶液、例えば生理食塩水、で処理し、含侵溶液を水溶液で置換する。
【0071】
処理は、以下の2段階の工程で実施される。
第1工程:脱イオン水で処理し、含侵溶液を脱イオン水で置換する。
第2工程:食塩水で処理し、脱イオン水を食塩水で置換する。
水溶液での処理全体では、30分間〜4時間を要してもよく、好ましくは約1時間を要する。
処理は、15〜80℃の温度で実施されるが、好ましくは室温(約20℃)で実施される。
【0072】
[実施例]
以下の実施例を用いて本発明を説明する。以下の実施例において、特に言及しない場合、全てのパーセントおよび部は、質量%および質量部を表す。
(実施例1〜9)
水和された状態の市販のレンズ類を、2mlの異なるフォトクロミック溶液に含侵させ、プレートを用いて攪拌しながら5分間処理した。
浸漬終了後、レンズ類を生理食塩水で洗浄し、レンズ類は、レンズの直径が開始時の大きさに戻るまで食塩水に浸漬された(約10分間)。
レンズ類に、その後2分間紫外線を照射した。
紫外線照射の前後に、可視紫外線吸収スペクトル測定を実施した。
レンズ類は、121℃で20分間殺菌処理した。
殺菌処理用の紫外線照射の前後に再度可視紫外線吸収スペクトル測定を実施した。
結果を表1に示した。
【0073】
【表1】

【0074】
HEMA(Essilor社):ヒドロキシエチルメタクリレートポリマー
Lunelle(商標名)(Essilor社):MMA/NVP共重合体
Menicon Soft(商標名)72(Menicon Europe社):N,N−ジメチル−アクリルアミド/メチルメタクリレート/N−ビニルピロリドン共重合体
Rythmic(商標名):MMA/NVP共重合体
Gentle Touch(商標名)(PHB社):メチルメタクリレート/N,N−ジメチル−アクリルアミド共重合体
フォトクロミック化合物(I)
【0075】
【化7】

【0076】
上記のフォトクロミック化合物の合成は、米国特許US5,645,767号公報に開示されている。
【0077】
(実施例10〜27)
種々の市販のコンタクトレンズ類を、種々のフォトクロミック溶液を用いて上記の手順で処理した。使用したフォトクロミック化合物は以下の通りである。
クロメン類
【0078】
【化8】

【0079】
この化合物は、国際公報WO93/17071号に開示されている。
【0080】
【化9】

【0081】
このフォトクロミック化合物の合成は、米国特許US5,520,853号公報に開示されている。
【0082】
【化10】

【0083】
【化11】

【0084】
このフォトクロミック化合物の合成は、米国特許US5,645,767号公報に一般的な方法で開示されている。
スピロオキサジン類
【0085】
【化12】

【0086】
【化13】

【0087】
この化合物は、欧州特許EP第277,639号公報に開示されている。
上記の化合物のうち、c,e,fおよびgはJames Robinson社より市販されている。
結果を表2に示した。
【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

【0090】
比較試験(異なる材料での着色に関する反応速度の比較)
化合物(I)の0.1%溶液を用いて、本発明の方法により(含侵させたフォトクロミック化合物は化合物(I))、3枚のコンタクトレンズをフォトクロミック性にした。
これらのレンズと、キャストインプレース法により得たレンズ類の反応速度の性能を比較した。特に言及しない限り、本願の全ての実施例において、性能は35℃で測定した。
各コンタクトレンズには、50.47キロルクス、強度6.87W/m2、可視領域の紫外線を10分間照射した。
【0091】
フォトクロミック化合物は、この紫外線照射時間内に最大着色に到達する。紫外線照射時間中、透過率(T)と時間(f)との関係を表すグラフと、視度(D)と時間(f)との関係を表すグラフを記録した。ある波長(λ)で測定した透過率は、フォトクロミック化合物の吸収最大値(λmax)に対応する。
着色時間の半値(T1/2colo)、すなわち、D0(非励起状態での開始時の視度)から
【0092】
【数1】

【0093】
までに要する時間を順次測定した。
上記の式中、D10は、波長λmaxで10分間照射した後のコンタクトレンズの視度である。
【0094】
【表4】

【0095】
従来技術によるレンズ類
レンズ類は、キャストインプレース方法で製造した。
以下の3種のHEMAベースの組成を試験した。
【表5】

【0096】
レンズ類の重合は、塊状熱重合により実施した。
温度サイクルは、40℃から120℃まで変化させた(1サイクル50〜60時間で、温度の上昇し続けた)。
得られたレンズ類について、着色時間の半値を測定した。
【表6】

【0097】
他の比較試験も実施した。
MMA(30)/NVP(70)/アリルメタクリレート/AIBN/フォトクロミック化合物(I)の混合物を重合させた。
【0098】
実施した試験では、許容可能なフォトクロミック特性(レンズの着色の恒常性、フォトクロミック効果の損失)を示すレンズは得られなかった。
【0099】
したがって、本発明の方法によれば、穏やかな条件で、従来技術に比べて、フォトクロミック性能と安定性が改善されたレンズ類が得られることが確認された。
【0100】
眼鏡レンズ類の場合において、フォトクロミック剤は、少なくともレンズ中央の可視領域に含侵される。矯正用のコンタクトレンズの場合、中央の可視領域は、コンタクトレンズの矯正特性を付与する。
【0101】
実施例28〜31
本発明の方法により、数種の市販のコンタクトレンズにフォトクロミック性を付与した。
各レンズは、化合物Iを0.0125%含んだジメチルスルホキシド/水(質量比70/30)溶液に室温で20分間に浸漬させた。
その後、レンズ類は食塩水で洗浄した。
得られたレンズ類は、透明でフォトクロミック性であった。
得られた各レンズのスペクトロキネティック特性を測定し、結果を表4に示した。
【0102】
【表7】

【0103】
Rythmic(商標名):N−ビニルピロリドン/メチルメタクリレート/アリルメタクリレート共重合体
実施例29のコンタクトレンズは、紫外線吸収剤を含む以外は実施例28のレンズと同一である。
Permaflex(商標名):N−ビニルピロリドン/メチルメタクリレート共重合体
Precision(商標名)UV:N−ビニルピロリドン/メチルメタクリレート共重合体
1/4はD0(非励起状態での初期視度)から
【0104】
【数2】

【0105】
までに要する時間である。
ΔTcolo=T10−T0
式中、T10は紫外線(可視領域、6.87W/m2、50.47キロフラックス)照射10分後のコンタクトレンズの透過率であり、T0は非励起状態でのコンタクトレンズの透過率である。
【0106】
実施例32〜34
本発明の方法を用いて、数種の市販のコンタクトレンズにフォトクロミック性を付与した。
各コンタクトレンズは、下記式で表される化合物IAの0.1%溶液を用いて室温で5分間処理した。
【0107】
【化14】

【0108】
(化合物IAの合成方法については後述する。
IAをN−メチルピロリドンに溶解させた。
その後、コンタクトレンズを食塩水で洗浄した。
得られた最終的なコンタクトレンズは、透明で、フォトクロミック性であった。
熱水での殺菌処理後でも、透明性およびフォトクロミック性は維持されていた。
フォトクロミック性能を測定し、結果を表5に示した。
【0109】
【表8】

【0110】
Review(商標名)38:ヒドロキシエチルメタクリレートポリマー(HEMA)
Soflens(商標名)66:HEMA/NVP/4−t−ブチル−2−ヒドロキシシクロヘキシルメタクリレート
【0111】
フォトクロミック化合物IAの調製
工程1
カリウムt−ブトキシド(75グラム、0.67モル)を、トルエン200mlを含んだ反応フラスコに加えた。反応フラスコは、頂部スターラー、滴下漏斗および窒素インレットを有する復水器を備えている。反応フラスコの内容物を還流温度まで加熱し、4,4’−ジメチルベンゾフェノン(105グラム、0.5モル)、コハク酸ジメチル(90グラム、0.62モル)およびトルエン(200グラム)の混合物を、30分間かけて加えた。得られたペースト状の混合物をさらに2時間還流させ、冷却し、約400mlの水を加えてよく攪拌した。水相を分離し、希塩酸で酸性化し、200mlのトルエンで抽出した。溶媒、トルエンおよび残留t−ブタノールをロータリーエバポレーターを用いて除去し、半粗製エステル4,4−ジ(4−メチルフェニル)−3−メトキシカルボニル−3−ブテン酸をほぼ定量的に得た。この物質は精製せずに、直接次の工程で使用した。
【0112】
工程2
工程1からの半粗製のエステルを、200mlのトルエンを含んだ反応フラスコに加えた。無水酢酸(100g)と無水酢酸ナトリウム(15g)を加え、混合物を17時間還流させた。混合物を冷却し、溶媒、トルエンをロータリーエバポレーターを用いて除去した。得られた残留物を、メチレンクロライド200mlに溶解し、攪拌した。水(200ml)を加えた後、二酸化炭素の発生が止むまで、固体炭酸ナトリウムをゆっくりと添加した。このメチレンクロライド相を分離し、水で洗浄した。溶媒、メチレンクロライドをロータリーエバポレーターを用いて除去し、約100gの結晶性の固体を産生した。回収された生成物1−(4−メチルフェニル)−2−メトキシカルボニル−4−アセトキシ−6−メチルナフタレンは、144〜146℃の融点を有していた。
【0113】
工程3
工程2からの生成物(約100g)を10質量%の水酸化ナトリウム水溶液350mlおよびメタノール50mlを含んだ反応フラスコに加えた。混合物は1時間還流し、冷却し、その後約1リットルの冷希塩酸(4℃)を含むビーカーに注ぎ入れた。得られた結晶性の生成物、1−(4−メチルフェニル)−4−ヒドロキシ−6−メチル−2−ナフトン酸(融点210〜213℃)を減圧ろ過により収集した。
【0114】
工程4
工程3からの生成物(約100g)をキシレン(250g)および85質量%のリン酸250gを含んだ反応フラスコに加えた。混合物は、ディーンスタークトラップを備えた1リットルフラスコ中で、攪拌しながら20時間還流させた。この間に、固体生成物が生成した。混合物は冷却し、20mlの水を加えた。固体はスパチュラを用いて破砕し、ろ過し、水、5質量%重炭酸ナトリウム水溶液、水の順で洗浄した。減圧ろ過により、90gの生成物、3,9−ジメチル−5−ヒドロキシ−7H−ベンゾ[C]−フルオレン−7−オンを回収した。
【0115】
工程5
工程4からの生成物(10g)を、1,1−ジ(4−メトキシフェニル)−2−プロピン−1−オール(10g)およびトルエン100mlが入った反応フラスコに加えた。得られた混合物を攪拌し、50℃まで加熱し、コハク酸ドデシルベンゼンを3滴添加し、反応混合物を50℃で5時間保持した。反応混合物を室温まで冷却させた後、ろ過を行い、回収したろ液を5質量%の水酸化ナトリウム水溶液で3回洗浄した。溶媒とトルエンをロータリーエバポレーターにより除去し、残留物にアセトンを加えて、所望の生成物を結晶化させた。固体は減圧ろ過し、未使用のアセトンで洗浄し、乾燥することで227〜229℃の融点を有する生成物16gを得た。NMR測定の結果、生成物は、3,3−ジ(4−メトキシフェニル)−6,11−ジメチル−13−オキソ−インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピランと一致した構造を有することが示された。
【0116】
工程6
工程5の生成物(10g)を無水のテトラヒドロフラン50mlが入った反応フラスコに加えた。混合物は、氷浴中で冷却し、窒素パッドを用いて水分から保護しながら、過剰量のメチルグリニアール試薬を反応溶液に攪拌しながら加えた。さらに10分間攪拌した後、有機相を分離し、水で洗浄した。溶媒、テトラヒドロフランをロータリーエバポレーターにより除去した。約100mlのヘキサン・酢酸エチル(2:1)の混合溶液を残留物に加えて、非フォトクロミック性の材料を結晶化させた。この材料をろ過により分離した。溶出剤としてヘキサン・酢酸エチル(3:1)の混合液を用いて、シリカ上でろ液のカラムクロマトグラフィーを実施した。メタノール混合物から結晶化された所望の生成物をろ過し、乾燥させ、融点233〜235℃の生成物8gを得た。NMRスペクトル測定により、生成物は、3,3−ジ(4−メトキシフェニル)−6,11,13−トリメチル−13−ヒドロキシ−インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピランと一致した構造を有することが示された。
【0117】
工程7
工程6からの生成物(6.0g)を、ペンタエリトリトールエトキシラート(EO/OH=3/4,Aldrich社)150ml、テトラヒドロフラン150ml、37%塩酸2mlを含む反応フラスコに加えた。反応溶液は、60℃まで加熱し、攪拌しながら8時間その温度で保持した。反応混合物に水300mlを添加し、酢酸エチル100mlを添加した。有機相を分離し、水で洗浄し、ろ過し、溶媒と酢酸エチルをロータリーエバポレーターを用いて除去した。溶出剤としてアセトニトリル(95%)およびメタノール(5%)を用いて、シリカ上で得られた残留物のカラムクロマトグラフィーを行った。回収した油分を乾燥させ、生成物2gを得た。NMRスペクトル測定により、生成物は、3,3−ジ(4−メトキシフェニル)−6,11,13−トリメチル−13−(2,2−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)メチル−3−ヒドロキシ−プロポキシ)エトキシ)インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピランと一致する構造を有することが示された。
【0118】
実施例35〜36
処理溶液が化合物IAを含むDSMO/水(質量比70/30)混合溶液である点以外は、実施例32〜34と同一の手順で2種の市販のコンタクトレンズを処理した。ΔTを測定した。
【表9】

(Rythmic(商標名)UVは、紫外線吸収剤を含む点以外はRythmicと同一である。)
ΔTは、実施例32および33よりも高く、より多くの量のフォトクロミック化合物がコンタクトレンズ中に含侵されていることを示している。
【0119】
実施例37
以下の組成の混合物を攪拌し、コンタクトレンズモールドに充填した。
HEMA 93.037
メタクリル酸 2.128
3,3,5−トリメチルシクロヘキシルメタクリレート 4.836
EGDMA(エチレングリコールジメタクリレート) 0.580
AIBN(アゾビスイソブチロニトリル) 0.967
混合物が充填されたモールドを105℃で60分間加熱し、その後130℃で60分間加熱して重合を行った。
モールドから取り出した後、レンズ類をNaCl溶液で水和させた。水和されたレンズ類は、化合物IAを含んだ(IA濃度:0.025質量%)DMSO/脱イオン水(質量比70/30)溶液に攪拌しながら室温で60分間浸漬させ、その後食塩水で室温で30分間洗浄した。
その後、121℃で殺菌処理を実施した。最終的に透明で、むらの無い、フォトクロミック性のコンタクトレンズが得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)フォトクロミック剤を、溶媒または混合溶媒に溶解させて、フォトクロミック含侵溶液を得る工程と、
(b)親水性を有し、透明で、架橋されたポリマー物質を、前記フォトクロミック含侵溶液に含侵させて、フォトクロミック溶液に含侵された物質を得る工程と、
(c)前記含侵された物質を、水溶液で洗浄して、前記含侵溶液を前記水溶液で実質的に置換する工程と、
(d)得られたフォトクロミックポリマー物質を回収する工程と、を含むポリマー物質を製造する方法。
【請求項2】
前記親水性と、フォトクロミック特性とを有し、透明で、架橋されたポリマー物質は、少なくとも10%の親水性を有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記親水性と、フォトクロミック特性とを有し、透明で、架橋されたポリマー物質は、少なくとも10%、好ましくは少なくとも35%の親水性を有する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記親水性を有し、架橋されたポリマー物質は、含侵する前に水和されている請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記フォトクロミック剤は、少なくとも1つのスピロオキサジンまたはクロメンを含む請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記フォトクロミック化合物は、少なくとも1つの遊離水酸基を含むナフトピランである請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ナフトピランは、2H−ナフト[1,2−b]ピラン、3H−ナフト[2,1−b]ピラン、インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピランから選択される構造よりなり、下記(I')式〜(IV')式のいずれか1つで表される少なくとも1つの置換基Rを有する請求項6に記載の方法。
(I')−DEZ
(II')−DZ
(III')−EZ
(IV')−Z
上記(I')式〜(II')式において、Dは、カルボニル基またはメチレン基であり(但し、式(II')でZが水酸基の場合、Dはメチレン基である。)、Eは、
【化1】


であり(式中、x,y,zは、各々0〜50の数であり、x,y,zの和は、1〜50である。)、Zは、水酸基、または少なくとも2つの水酸基を有する有機ポリオールの残基である。
【請求項8】
前記Rは、−EZまたは−Zを表す請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記y=z=0である請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記有機ポリオールは、下記式で表される請求項7ないし9のいずれかに記載の方法。
G(OH)k
式中、Gはポリオールのバックボーンであり、kは2以上である。
【請求項11】
前記kは、2〜5の整数である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記kは、4である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ナフトピランは、インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピランであり、Rは、位置13でインデノ基に結合している請求項7ないし12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記ナフトピランは、ピラン環の位置3に、2つのフェニル基を含む請求項6ないし13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記親水性を有し、架橋されたポリマー物質は、さらに、少なくとも1つの親水相と、少なくとも1つの疎水相とを含んだ多相物質として定義される請求項1ないし14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記親水性を有し、架橋されたポリマー物質は、2相物質である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記架橋されたポリマー物質は、さらに、少なくとも1つの親水性モノマーと、少なくとも1つの疎水性モノマーとの共重合体として定義される請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つの親水性モノマーは、非イオン性のモノマーである請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1つの親水性モノマーは、N−ビニルピロリドン、ヒドロキシエチルメタクリレートまたはN,N−ジメチルアクリルアミドである請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つの親水性モノマーは、炭素数1〜10のアルキル(メタ)アクリレートである請求項17ないし19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記親水性モノマーは、N−ビニルピロリドンであり、前記疎水性モノマーは、メチルメタクリレートである請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記ポリマー物質は、メチルメタクリレートとN−ビニルピロリドンとの共重合体、N,N−ジメチルアクリルアミドとメチルメタクリレートとN−ビニルピロリドンとの共重合体、またはメチルメタクリレートとN,N−ジメチルアクリルアミドとの共重合体である請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記ポリマー物質は、約30質量%のメチルメタクリレートと、約70質量%のN−ビニルピロリドンよりなる請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記親水性を有し、架橋されたポリマー物質は、1またはそれ以上の親水性モノマーと、脂環式炭化水素基を有する少なくとも1つの(メタ)アクリレートモノマーとを含む基礎組成物の重合により得られる請求項1ないし14のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記少なくとも1つの(メタ)アクリレートモノマーまたは(メタ)アクリルアミドモノマーは、下記式で表される脂環式炭化水素基を有する請求項24に記載の方法。
【化2】


上記式中、R1はOまたはNHであり、R2は−CH2−,−CHOH−およびCHR4−[R4は炭素数1〜8のアルキル基である。]からなる基から選択される2価のアルキレンラジカルであり、R3はHまたはCH3であり、R2ラジカルのうち少なくとも1つはCHR4であり、nは4,5,6または7である。
【請求項26】
前記脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレートモノマーは、4−t−ブチル−2−ヒドロキシシクロヘキシルメタクリレートまたは3,3,5−トリメチルシクロヘキシルメタクリレートである請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記親水性モノマーは、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを含む請求項24ないし26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記親水性モノマーは、メタクリル酸を含む請求項24ないし27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
前記メタクリル酸は、前記基礎組成物中に0.2〜10質量%の量で存在する請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記基礎組成物は、前記脂環式炭化水素基を有する少なくとも1つの(メタ)アクリレートモノマーまたは(メタ)アクリルアミドモノマーを、0.2〜20質量%含む請求項24ないし29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
前記溶媒は、非プロトン性の極性溶媒である請求項1ないし30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
前記溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)またはN−メチルピロリドン(NMP)である請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記物質は、光学部材または眼鏡部材の形態である請求項1ないし32のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
前記部材は、コンタクトレンズである請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記フォトクロミック剤は、少なくとも前記レンズ中央の可視領域に含侵される請求項34に記載の方法。
【請求項36】
(メタ)アクリル酸と、
(メタ)アクリル酸以外の、少なくとも1つのラジカル重合可能な親水性モノマーと、
脂環式炭化水素基を有する少なくとも1つの(メタ)アクリレートモノマーまたは(メタ)アクリルアミドモノマーと、を含む基礎組成物の重合により得られることを特徴とする、請求項1ないし35のいずれかの方法による処理に適した親水性物質。
【請求項37】
前記脂環式炭化水素基を有する少なくとも1つの(メタ)アクリレートモノマーまたは(メタ)アクリルアミドモノマーは、下記式で表される請求項36に記載の親水性物質。
【化3】


上記式中、R1はOまたはNHであり、R2は−CH2−,−CHOH−および−CHR4−[R4は炭素数1〜8のアルキル基である。]からなる基から選択される2価のアルキレンラジカルであり、R3はHまたはCH3であり、R2ラジカルのうち少なくとも1つはCHR4であり、nは4,5,6または7である。
【請求項38】
前記親水性物質のほぼ全体にフォトクロミック化合物を含むことを特徴とする請求項36または37に記載の親水性物質。

【公開番号】特開2011−107719(P2011−107719A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6174(P2011−6174)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【分割の表示】特願2001−514602(P2001−514602)の分割
【原出願日】平成12年8月1日(2000.8.1)
【出願人】(594116183)エシロール アテルナジオナール カンパニー ジェネラーレ デ オプティック (69)
【氏名又は名称原語表記】ESSILOR INTERNATIONAL COMPAGNIE GENERALE D’ OPTIQUE
【Fターム(参考)】