説明

親水性ゲルからなる生体分子固定化担体を有する生体分子固定化アレイ

【課題】検出感度が、従来技術と比較して有意に高い生体分子固定化アレイを提供する。
【解決手段】生体分子が固定された親水性ゲルからなる担体、好ましくは柱状の前記生体分子固定化担体を基板上にアドレス可能に配置することで、検体中のターゲット分子と生体分子固定化担体中のプローブとが相互作用するまでに要する時間が短縮され、プローブと検体溶液との接触の効率が極めて向上し、検出感度が有意に向上することを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出対象となる生体分子(ターゲット分子)とそれを特異的に検出するための生体分子(プローブ)を効率的に接触及び反応させることができる生体分子固定化アレイ、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒトを初めとする多くの生物種についてゲノムプロジェクトが進められ、各種生物において既にその塩基配列が明らかにされている。配列が明らかにされた遺伝子の機能や発現の動態については、各種の方法で調べることができ、その有力な方法の一つとしてDNAマイクロアレイ法が開発されている。DNAマイクロアレイ法は、多数の遺伝子の発現解析を一括して行うことができる点で有用である。この方法は、核酸−核酸間ハイブリダイゼーション反応に基づく核酸検出法又は定量法である点でそれまで知られていた方法と原理的には同じであるが、マイクロアレイ又はチップと呼ばれる平面基盤片上に、多数のDNA断片がプローブとして高密度に整列固定化されている点に大きな特徴がある。DNAマイクロアレイ法の具体的使用法としては、例えば、研究対象となる細胞が発現する遺伝子のDNA又はRNA(ターゲット分子)等を蛍光色素等で標識し、標識した核酸と平面基盤片上の核酸とをハイブリダイゼーションさせ、互いに相補的な核酸同士が結合した箇所の蛍光を、高解像度解析装置により高速で読みとる方法が挙げられる。この方法により、検体中に存在するそれぞれのターゲット分子の量を迅速に測定できる。
【0003】
マイクロアレイ法は、DNAやRNAなどの核酸を解析するためのDNAマイクロアレイ法に限らず、プローブとターゲット分子が接触又は反応する限りにおいて、タンパク質、ペプチド、抗体、糖鎖など様々な生体分子を解析するために用いることができる。マイクロアレイ法は、基本的には反応試料を微量化する技術と、その反応試料を再現性よく多量・迅速・系統的に分析及び定量しうる形に配列又は整列する技術とが統合されたものであると理解される。プローブを基盤上に固定化するための技術としては、ナイロンシート等の上に高密度に固定化する方法(シート法)、更に密度を高めるためにガラス等の固体表面を化学的又は物理的に修飾した基盤上にプローブをスポッティング固定化する方法(スポッティング法)(非特許文献1)、フォトリソグラフィー技術を用い、シリコン等の基盤の上に多種類のプローブを直接固相合成していく方法(直接合成法)(特許文献1、2)などが開発されている。しかし、例えば、スポッティング法は、基盤上の単位面積当たりに合成しうるプローブ種数(スポット密度)においてシート法より優れるものの、スポット密度及びスポット当たり固定できるプローブの量(合成量)がシリコン基盤上における直接合成法と比較して少量であり、再現が困難である点が指摘されている。他方、直接合成法は、スポット密度及びスポット当たりの合成量、並びに再現性等において、スポッティング法より優れるとされるものの、固定化しうるプローブ種は、フォトリソグラフィーにより制御可能な比較的低分子量のプローブに限られる。また、直接合成法は、高価な製造装置と多段の製造プロセスを必要とするため、アレイ当たりのコストを大幅に削減することが困難とされる。
その他、微小な担体上にプローブを固相合成しライブラリー化する手法として、微小なビーズを利用する方法が知られている。この方法は、マイクロアレイ法より大きな分子量のプローブを多種類合成することが可能であり、また安価に合成することが可能であるが、マイクロアレイ法のように指定の化合物を指定の配列基準で再現性よく整列させたものを作製することは困難である。
【0004】
このような状況下、分子量によらずプローブを所定の濃度に固定化でき、測定可能な形に高密度に再現よく配列化することが可能で、安価な大量製造に適応しうる新たな方法が確立されている。
【0005】
その方法の一つとしては、例えば、プローブの固定化プロセスを一次元構造体としての繊維上(1本の繊維上)に独立して行い、それらの整列化プロセスに各種の繊維賦形化技術を導入することにより三次元構造体としての繊維束を作製し、得られる繊維束の切片化プロセスを経ることで、生体分子固定化アレイを作製する方法が挙げられる。
より具体的には、プローブを固定したゲルを中空繊維の中空部に充填し、前記ゲルが保持された複数の中空繊維を整列し、繊維束を固定化した後に、固定化した繊維束を切片化することでこのような生体分子固定化アレイを作製することができる(特許文献3)。
【0006】
ゲルにプローブを固定した生体分子固定化アレイは、平面基板上にプローブを直接固定化するものに比べ、固定の場が3次元となるため基板上に小面積で多くのプローブが保持できるという利点がある。その一方で、検体はゲル内部で拡散した上でプローブとハイブリッドを形成する必要があるため、ターゲット分子とプローブとの接触及び反応速度は、拡散速度が律速段階となり、高分子量の検体ほど拡散速度が遅くなるために、検出に時間がかかるという問題があった。
【0007】
このため、ゲルを利用した生体分子固定化アレイでは、より高分子量の検体のゲル中への拡散速度を上げ、ターゲット分子とプローブとの接触及び反応に要する時間を短縮し、検出速度を上げるために、ゲル中に高分子多価アルコールを含ませ、ゲル中への生体分子の浸透度を向上させるなどの工夫がなされてきた(特許文献4)。しかしながら、それでもまだゲルを利用した生体分子固定化アレイがもつ本来の検出感度を十分に引き出すには至っていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許公報 US 5,445,934
【特許文献2】米国特許公報 US 5,774,305
【特許文献3】特開2000−270878
【特許文献4】特開2003−83967
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Schena Met al., Science 270, 467-470 (1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、検出感度が、従来技術と比較して有意に高い生体分子固定化アレイを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、生体分子が固定された親水性ゲルからなる担体、好ましくは柱状の前記担体を基板上にアドレス可能に配置することで、プローブと検体溶液との接触の効率が極めて向上し、検出感度が有意に向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0012】
(1)生体分子が固定された親水性ゲルからなる担体が、アドレス可能な状態で基板上に配置された、生体分子固定化アレイ。
(2)担体が柱状のものである、上記(1)に記載のアレイ。
(3)基板が親水性ゲルからなるものである、上記(1)又は(2)に記載のアレイ。
(4)基板が検体を含有するものである、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のアレイ。
(5)生体分子が固定された親水性ゲルからなる担体の数が2以上である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のアレイ。
(6)生体分子が固定された親水性ゲルからなる担体を、アドレス可能な状態で基板上に配置させる工程を含む、生体分子固定化アレイの製造方法。
(7)生体分子が固定された親水性ゲルからなる担体をアドレス可能な状態で基板上に配置させる工程が、以下の工程:
(a)担体成形用鋳型の空隙部に、生体分子を含有するゲル前駆体重合性溶液を充填し、該溶液をゲル化する工程、
(b) 前記ゲルを保持した鋳型を基板に配置させる工程、並びに、
(c) 前記基板から鋳型を除去する工程
を含むものである、上記(6)に記載の方法。
(8)生体分子が固定された親水性ゲルからなる担体をアドレス可能な状態で基板上に配置させる工程が、以下の工程:
(a) 複数の中空繊維を、各繊維軸が同一方向となるように三次元に配列及び固定して中空繊維束を製造する工程、
(b) 前記中空繊維の中空部に、生体分子を含有するゲル前駆体重合性溶液を充填し、該溶液をゲル化する工程、
(c) 前記ゲルを保持した中空繊維束を中空繊維の長手方向に直交する方向で切断して薄片を製造し、該薄片を基板に配置させる工程、並びに
(d) 前記基板から、中空繊維束を除去する工程
を含むものである、上記(6)に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、従来の貫通孔型の生体分子固定化アレイと比較して、検出感度が有意に高い生体分子固定化アレイが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】中空繊維束を製造するための配列固定器具を示す図である。
【図2】本発明のゲル担体生体分子固定化アレイにおけるプローブの配置を示す図である。
【図3】本発明のゲル担体生体分子固定化アレイを用いて得た各プローブのシグナル強度を示した図である。
【図4】貫通孔型生体分子固定化アレイを用いて得た各プローブのシグナル強度を示した図である。
【図5】ゲル担体生体分子固定化アレイにおける結果と貫通孔型生体分子固定化アレイにおける結果とを比較した図である。
【図6】基板上における球状及び半球状の担体の断面図である。上パネルは球状の担体を示す図であり、下パネルは基板上における半球状の担体を示す図である。
【図7】基板上における柱状の担体を例示する図である。
【図8】管を用いて生体分子固定化担体を製造する工程の一例を示す図である。
【図9】管を用いないで生体分子固定化担体を製造する工程の一例を示す図である。
【図10】貫通孔型生体分子固定化アレイを基板に接触させる工程を示す図である。
【図11】貫通孔型生体分子固定化アレイと基板との複合体からマトリックス部分及び中空繊維部分を除去する工程を示す図である。
【図12】本発明のゲル担体生体分子固定化アレイにおけるプローブの配置を示す図である。
【図13】本発明のゲル担体生体分子固定化アレイを用いて得た各プローブのシグナル強度を示した図である。
【図14】貫通孔型生体分子固定化アレイを用いて得た各プローブのシグナル強度を示した図である。
【図15】ゲル担体生体分子固定化アレイにおける結果と貫通孔型生体分子固定化アレイにおける結果とを比較した図である。
【図16】本発明のゲル担体生体分子固定化アレイにおけるプローブの配置を示す図である。
【図17】本発明のゲル担体生体分子固定化アレイを用いて得た各プローブのシグナル強度を示した図である。
【図18】貫通孔型生体分子固定化アレイを用いて得た各プローブのシグナル強度を示した図である。
【図19】ゲル担体生体分子固定化アレイにおける結果と貫通孔型生体分子固定化アレイにおける結果とを比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施をすることができる。
【0016】
1.概要
本発明は、生体分子が固定された親水性ゲルからなる担体(以下、「生体分子固定化担体」ともいう)が、アドレス可能な状態で基板上に配置された生体分子固定化アレイである。本発明者らは、当該担体の上面及び側面部分が検体と接触するように当該担体を成形することにより、従来技術と比較して、当該アレイの検出感度が有意に向上することを見出した。また、当該担体の上面及び側面部分が検体と接触することにより、従来技術と比較して、検体中のターゲット分子と担体中のプローブとが相互作用するまでに要する時間が短縮され、生体分子固定化アレイを用いた実験又は検査の結果がより迅速に得られることを見出した。本発明は、これらの知見に基づき完成されたものである。
【0017】
2.生体分子
本発明において、生体分子は、プローブ又はターゲット分子として本発明に用いることができるものであれば限定されるものではなく、例えば、核酸(DNA、RNA等)、タンパク質、ペプチド、抗体、糖鎖及びレクチン等が挙げられる。
本発明において、プローブとは、検体中に含まれるターゲット分子を特異的に捕捉するための生体分子であり、個々のターゲット分子に応じた構造を持った分子を指す。プローブは、所定のターゲット分子を特異的に認識できる生体分子であれば、どのような種類の分子種であっても良く、天然物であっても人工的に合成されたものであってもよい。このような生体分子プローブとしては、例えば、核酸プローブ、タンパク質プローブ、ペプチドプローブ、抗体プローブ、レクチンプローブ等が挙げられる。また、ターゲット分子とは、解析の対象となる任意の生体分子を指す。
【0018】
本発明において、ある種のDNAやRNAなどの核酸がターゲット分子である場合、ターゲット分子の塩基配列に相補的な配列を有し、これらの塩基配列を特異的に認識して捕捉することができる核酸をプローブとして使用することができる。また、タンパク質やペプチドなどがターゲット分子である場合、それらを抗原として特異的に認識するような抗体をプローブとして使用することができる。また逆に、抗体をターゲット分子とし、それらの抗原となるようなタンパク質やペプチドなどをプローブとして使用することもできる。さらに、糖鎖をターゲット分子とする場合は、レクチンなどをプローブとして使用することができる。すなわち、ある特定の分子(A)がある特定の分子(B)に特異的に結合する性質がある場合、Aがターゲット分子として検出対象となるのであれば、Bがプローブとなり、逆にBがターゲット分子となるのであれば、Aがプローブとなる。
【0019】
3.生体分子が固定された親水性ゲルからなる担体
本発明において、担体とは、生体分子を担持させるための支持体を指す。生体分子は、担体に固定化することで、個々の生体分子を他の生体分子と混じりあわない状態で独立に存在させることが可能である。
本発明において、生体分子の担体として用いられるゲルは、親水性ゲルであり、所望の生体分子を固定化できるものであればどのような親水性ゲルであっても良い。
本発明に用いることができる親水性ゲルとしては、例えばアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルアミノエトキシエタノール、N−アクリロイルアミノプロパノール、N−メチロールアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、ヒドロキシエチルメタクリレート、(メタ)アクリル酸、アリルデキストリン等の単量体の一種類又は二種類以上と、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能性単量体とを共重合したゲルが挙げられる。その他本発明に用いることのできるゲルとしては、例えばアガロース、アルギン酸、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等のゲル、又はこれらを架橋したゲルが挙げられる。
【0020】
本発明において、生体分子の固定とは、生体分子を担体から遊離させないための処理である。本発明では、プローブ等の生体分子をそのままゲルに固定化してもよく、また、生体分子に化学的修飾を施した誘導体や、必要に応じて変成させた生体分子を固定化してもよい。生体分子のゲルへの固定化には、生体分子をゲルに物理的に包括する方法を利用してもよく、ゲル構成成分への直接的な結合を利用してもよい。また、生体分子を一旦高分子体や無機粒子などに共有結合又は非共有結合により結合させ、それらをゲルに包括固定化してもよい。例えば、生体分子として核酸を利用する場合には、核酸の末端基にビニル基を導入し(WO98/39351)、アクリルアミド等のゲルの構成成分と共重合させることができる。共重合においては、単量体、多官能性単量体及び重合開始剤と共に共重合する方法、単量体及び重合開始剤と共に共重合したのち、架橋剤でゲル化する方法などがある。また、アガロースを臭化シアン法でイミドカルボネート化しておき、末端アミノ化した核酸のアミノ基と結合させてからゲル化することもできる。この際、ゲルは、核酸を固定化したアガロースと他のゲル(例えばアクリルアミドゲル等)との混合ゲルにしてもよい。
【0021】
4.生体分子固定化担体の形状
生体分子固定化担体は、検出可能な量の生体分子を固定化できる体積を保持している限り、どのような形状であってもよい。
ここで、生体分子固定化担体の形状としては、球状や半球状が、構造上安定であり、比較的容易に製造できるという観点から好ましい形状である(図6)。その一方で、球状の場合は、基板との接触面積が小さくなり、生体分子固定化担体が基板から剥がれやすいと考えられる。また、半球状の場合、体積あたりの表面積が小さくなるため、検体の生体分子固定化担体への浸透及びプローブとの反応にかかる時間は、同一体積の他の形状と比較すると長くなる場合が考えられる。また、検出に際しては通常、基板に対して垂直方向から検出することになるが、生体分子固定化担体が球状であったり、半球状であったりすると、生体分子固定化担体の厚みが一定でないため、検出時にシグナル強度の評価がしにくくなる可能性が考えられる。
これらの点を考慮すると、本発明の生体分子固定化担体の形状は、基板からより剥がれにくく、検体の当該担体への浸透時間がより短く、かつ検出時のシグナル強度の測定誤差がより小さい立体的形状がより好ましい。
このような立体的形状の生体分子固定化担体としては、例えば柱状のものが挙げられる。本発明において、「柱状」とは、生体分子固定化担体の基板表面との接触面(以下単に「接触面」という)と、基板表面から法線方向に最も遠い位置の面(以下単に「上面」という)の形状が実質的に同一であり、上面から接触面を法線方向に見た場合に、上面と接触面とが実質的に重なりあう形状であって、上面と接触面と間にある担体の厚みが一定である形状をいい、このような形状であれば限定されるものではない(図7)。柱状の生体分子固定化担体としては、例えば、円柱状、楕円柱状、多角柱状(三角柱、四角柱、六角柱、八角柱等)のものが挙げられる。柱状の生体分子固定化担体は、後述する中空繊維束を用いることにより短時間で簡便かつ安価に製造できる点においても、他の複雑な立体的形状よりも優れている。図7においては、説明の都合上、アスペクト比の高い四角柱及び三角柱(四角柱及び三角柱を2次元平面に投影したときの縦と横の比率が高い形態)を記載したが、柱状の形態を有する限り、アスペクト比に制限はない。
【0022】
5.基板
本発明において、基板とは、生体分子固定化担体が配置される板である。生体分子固定化担体との接触面が平らな基板であればどのようなものであってもよく、立体的なものであってもよいが、プローブとターゲット分子の接触及び反応の検出を阻害しないものが望ましい。そのような基板としては、平面基板が挙げられる。平面基板は、その表面が実質的に平面からなる板である。基板としては、例えば、スライドガラス、シリコン基板、ゲルからなる基板などが挙げられる。中でも、生体分子固定化担体の形状に応じて取り扱いが容易なゲルからなる基板であることが好ましい。また、基板に用いるゲルとしては、親水性のゲルが望ましく、さらに温度を変化させることでゾル化、ゲル化を繰り返すゲルが望ましい。基板に用いる親水性ゲルの種類は、上記に例示したものと同様であるが、好ましくはアガロースゲルである。
【0023】
基板がゲルで構成される場合には、あらかじめ基板中に検体を混合しておき、基板中から生体分子固定化担体へ拡散、蒸散、電気泳動などの手法により検体を移動させることができる。これにより、生体分子固定化アレイにおいて、プローブと検体との反応を極めて効率的にすることができる。このような用途においては、事前に検体を十分に混和するという観点から、生体分子(核酸、タンパク質、ペプチド、抗体、糖鎖等)が分解又は変性しない温度で溶解するような親水性ゲルからなる基板であることが望ましい。そのような基板としては、例えばアガロースゲルからなる基板が挙げられる。アガロースゲルとしては、1%(w/v)から4%(w/v)の濃度であることが望ましく、さらに2%(w/v)から3%(w/v)の濃度であることがより望ましい。ゲル濃度が1%(w/v)より薄いと基板としての強度が不足しアレイが壊れやすくなり、ゲル濃度が4%(w/v)より濃いと基板中に混合した検体の生体分子固定化担体への移動効率が著しく低下するためである。
基板は、最終的に生体分子固定化担体が接触する面が平面である限り、異なる物質が積層構造となっていても、また、いかなる形態で表面がコーティングされているものであってもよい。
【0024】
本発明において、「アドレス可能な状態」とは、どの生体分子固定化担体に、どの種類の生体分子プローブが固定化されているのかを、事前の情報に基づいて識別することが可能な状態を意味する。アドレス可能な状態は、例えば、各生体分子固定化担体を縦横の升目に従って配列し、当該担体に位置情報(例えば縦x・横yなど)を与えることで達成できる。また、事前の位置情報が取得不可能であっても、個々の担体をその形態によって区別することが可能であれば、アドレス可能であると言える。即ち、生体分子固定化担体の形状が個々に異なっていれば、アレイ上の配置を制御しなかったとしても、どの生体分子固定化担体に、どの種類の生体分子プローブが固定化されているのかを判別することが可能であるため、アドレス可能であると言える。
【0025】
本発明における生体分子固定化アレイとは、生体分子(核酸、タンパク質、ペプチド、抗体、レクチン等)が固定された親水性ゲルからなる担体がアドレス可能な状態で上述の基板上に配置されたものである。このようなアレイの例としては、DNAアレイやプロテインアレイ、抗体アレイ、レクチンアレイなどが挙げられる。このような生体分子固定化アレイは、いずれの場合も反応に用いる検体の量を極小化し、検出を高速に行うために、2つ以上の生体分子固定化担体を高密度に並べたマイクロアレイであることが望ましい。このようなマイクロアレイとしては、1cmあたり100個以上の生体分子固定化担体が並べられているものが望ましく、1cm あたり500個から10,000,000個の生体分子固定化担体が並べられているものがさらに望ましい。
【0026】
高密度な生体分子固定化アレイを作製する場合、最終的な形態としては、生体分子固定化担体の、基板表面との接触面積が10μm以上1,000,000μm以下であることが望ましく、10μm以上100,000μm以下であることがより望ましい。これは生体分子固定化担体の、基板表面との接触面積が小さすぎる場合、検体の定量的な検出が困難となり、逆に大きすぎる場合は基板上に搭載できる生体分子固定化担体の数が制限されるためである。
【0027】
また、生体分子固定化担体の、基板表面からの高さの最大は、1μm以上5,000μm以下であることが望ましく、10μm以上500μm以下であることがより望ましい。これは、基板表面からの高さが低すぎると、生体分子固定化担体の体積に対する検体との接触面積が相対的に小さくなり、逆に高すぎるとその形状を維持することが困難となるためである。
【0028】
6.生体分子固定化アレイの製造方法
本発明の生体分子固定化アレイの製造方法は、生体分子が固定された親水性ゲルからなる担体を、アドレス可能な状態で基板上に配置させる工程を含むものである。
本発明における生体分子固定化アレイは、微量な親水性ゲルを乾燥させることなく前記担体をアレイ上に配置し、製造する必要があるため、公知の方法に基づいて製造することは極めて困難である。これを可能にする製造方法としては、一旦、前記担体を成形するための鋳型に生体分子固定化担体の前駆体を充填して、その後、当該担体の成形体を基板に配置する方法が挙げられる。あるいは、前記担体を成形するための鋳型を基板に先に配置しておいて、その後、鋳型の空隙部に生体分子固定化担体の前駆体を充填することにより、担体の成形体を基板に配置する方法が挙げられる。前記鋳型を用いて生体分子固定化担体を作製するためには、例えば、生体分子固定化担体を、当該担体の上面及び下面とは接触しないような管などの空間の内部にて製造し、その後に任意の樹脂からなるマトリックスにて固定化する方法が挙げられる(図8(a))。この際、必ずしも管を用いる必要は無く、マトリックス部分に規則的に空けられた空隙にて生体分子固定化担体を製造することも可能である(図9(a))。また、管の長さ方向に十分に長いマトリックスと管と生体分子固定化担体との複合体を作製した後に、複合体をマトリックスごと管の長さ方向に直交する方向にスライスすることで、多数のマトリックスと管と生体分子固定化担体との複合体(貫通孔型生体分子固定化アレイ)を作製することも可能である。
【0029】
すなわち、本発明の生体分子固定化アレイの製造方法としては、生体分子が固定された親水性ゲルからなる担体をアドレス可能な状態で基板上に配置させる工程が、以下の工程:(a)担体成形用鋳型の空隙部に、生体分子を含有するゲル前駆体重合性溶液を充填し、該溶液をゲル化する工程、(b) 前記ゲルを保持した鋳型を基板に配置させる工程、並びに(c) 前記基板から鋳型を除去する工程を含む方法が挙げられる。
【0030】
上記工程(a)は、担体成形用鋳型の空隙部に、生体分子を含有するゲル前駆体重合性溶液を充填し、該溶液をゲル化する工程である。本発明において、「担体成形用鋳型」とは、生体分子が固定された親水性ゲルからなる担体を成形するための鋳型をいう。本発明における鋳型は、生体分子固定化担体の親水性ゲルを乾燥させることなく、前記担体をアドレス可能な状態でアレイ上に配置できるものであれば限定されるものではない。担体成形用鋳型は、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂を用いて作製することができる。鋳型における空隙の形状は、限定されるものではなく、作製する生体分子固定化担体の形状、例えば、球状、半球状、柱状等の形状に合わせて適宜選択することができる。鋳型の空隙は貫通孔であっても貫通孔でなくてもよい。また、鋳型は任意の管状体(例えば中空繊維等)を樹脂で固定することにより作製することもできる。
【0031】
本発明において、「ゲル前駆体重合性溶液」とは、プローブ、単量体、多官能性単量体、重合開始剤、及び水等を含むものである。単量体としては、例えばアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルアミノエトキシエタノール、N−アクリロイルアミノプロパノール、N−メチロールアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメチルメタクリレート、メチルピロリドン、(メタ)アクリル酸、アリルデキストリン等の単量体の一種類または二種類以上、並びにメチレンビス(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能性単量体を挙げることができる。重合開始剤としては、例えば、過硫酸塩等のレドックス系や、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2'-アゾビス(4-シアノペンチルカルボン酸)、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド等のアゾ系の開始剤が挙げられる。
【0032】
上記工程(a)において、担体成形用鋳型の空隙部に生体分子を含有するゲル前駆体重合性溶液を充填する工程は、例えば、予め十分脱気し、かつ低温で保存しておいたゲル前駆体重合性溶液を、担体成形用鋳型の充填口から鋳型の空隙部に注入することにより行うことができる。さらに、酸素による重合阻害を回避するため、例えば、以下の方法により行うこともできる。まず、低温で保存しておいたゲル前駆体重合性溶液と担体成形用鋳型をデシゲーター内に設置する。ゲル前駆体重合性溶液は予め十分脱気しておく。ここで、窒素、ヘリウム等の不活性ガスを導入し、デシゲーター内を前記ガスで置換しておく。不活性ガスへの置換は、10〜20時間で実施される。次にデシゲーター内を減圧状態とし、担体成形用鋳型の充填口を、重合性溶液中に浸す。次にデシゲーター内に不活性ガスを吹き込むことにより加圧状態にし、担体成形用鋳型の空隙部にゲル前駆体重合性溶液を充填する。
【0033】
本発明において、「ゲル化」は、ゲル前駆体重合性溶液を充填した後、担体成形用鋳型を加温し、重合反応を行うことにより実施される。重合温度は使用する単量体等により適宜選択される。この操作により、ゲルは担体成形用鋳型に保持される。
【0034】
上記工程(b)は、ゲルを保持した鋳型を基板に配置する工程である。配置する際には、鋳型に保持されたゲルが基板に接触するようにする。配置する時点において、基板は溶液の状態であってもよい。
【0035】
上記工程(c)は、基板から鋳型を除去する工程である。基板から鋳型を除去する際には、基板は固形化し、鋳型に保持されたゲルは基板に結合していることが好ましい。「除去」の方法は限定されるものではなく、物理的又は化学的に除去する方法が含まれ、例えば、溶解、融解、剥離などの方法が挙げられる。
【0036】
また別の態様において、本発明の生体分子固定化アレイの製造方法としては、生体分子が固定された親水性ゲルからなる担体をアドレス可能な状態で基板上に配置させる工程が、以下の工程:(a) 担体成形用鋳型を基板に配置させる工程、(b) 前記担体成形用鋳型の空隙部に、生体分子を含有するゲル前駆体重合性溶液を充填し、該溶液をゲル化する工程、並びに(c) 前記基板から鋳型を除去する工程を含む方法が挙げられる。
【0037】
上記工程(a)は、担体成形用鋳型を基板に配置させる工程である。配置する時点において、基板は溶液の状態であってもよい。
【0038】
上記工程(b)は、前記担体成形用鋳型の空隙部に、生体分子を含有するゲル前駆体重合性溶液を充填し、該溶液をゲル化する工程である。ゲル前駆体重合性溶液の充填は、例えば、予め十分脱気し、かつ低温で保存しておいたゲル前駆体重合性溶液を、担体成形用鋳型の充填口から鋳型の空隙部に注入することにより行うことができる。
【0039】
上記工程(c)は、基板から鋳型を除去する工程である。当該工程の内容は、上記と同様である。
【0040】
さらに別の態様において、本発明の生体分子固定化アレイの製造方法としては、生体分子が固定された親水性ゲルからなる担体をアドレス可能な状態で基板上に配置させる工程が、以下の工程:(a) 複数の中空繊維を、各繊維軸が同一方向となるように三次元に配列及び固定して中空繊維束を製造する工程、(b) 前記中空繊維の中空部に、生体分子を含有するゲル前駆体重合性溶液を充填し、該溶液をゲル化する工程、(c) 前記ゲルを保持した中空繊維束を中空繊維の長手方向に直交する方向で切断して薄片を製造し、該薄片を基板に配置させる工程、並びに(d) 前記基板から、中空繊維束を除去する工程を含む方法が挙げられる。
【0041】
上記工程(a)は、複数の中空繊維を、各繊維軸が同一方向となるように三次元に配列及び固定して中空繊維束を製造する工程である。「中空繊維束」は、複数の中空繊維を各繊維軸が同一方向となるように配列及び固定したものであれば限定されるものではない。本発明においては、中空繊維及び固定剤部分(例えば、ウレタン樹脂等のマトリックス部分)の両者を含めて「中空繊維束」と称する。
【0042】
本発明の方法に中空繊維束を用いた場合、中空繊維ごとにそれぞれ別の種類のプローブを含有するゲル前駆体重合性溶液を充填することが可能であるため、特定の種類のプローブを特定の担体に固定することが容易である。従って、中空繊維束を用いた場合、生体分子固定化担体をアドレス可能な状態で基板上に配置することが容易である。また、中空繊維束は、生体分子固定化担体を柱状に成形する上で有効である。さらに、中空繊維束は、多量に生産することが容易であるため、これらを用いることにより、生体分子固定化アレイを短時間で簡便かつ安価に製造できる点で有効である。
【0043】
工程(a)における中空繊維束の製造は、例えば、図1に示す配列固定器具を利用して行うことができる。具体的には、まず、二枚の多孔板を孔が一致するように重ね合わせ、その孔に中空繊維を挿入し、挿入後多孔板の間隔を広げ、多孔板間の空間の周囲3面を板状物で囲うことにより容器を作製する。次に、前記容器に樹脂原料を流し、樹脂を硬化させ、多孔板と板状物を取り除く。これにより、複数の中空繊維が三次元に配列及び固定された中空繊維束を製造することができる。なお、中空繊維を固定する際、工程(b)においてゲル前駆体重合性溶液の充填を容易にするため、中空繊維の全長を固定するのではなく、片端を固定しないで自由端とすることが好ましい。
【0044】
中空繊維の材質としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、芳香族ポリアミド等のポリアミド系中空繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカーボネート等のポリエステル系中空繊維、ポリアクリロニトリル等のアクリル系中空繊維、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系中空繊維、ポリメタクリル酸メチル等のポリメタクリレート系中空繊維、ポリビニルアルコール系中空繊維、ポリ塩化ビニリデン系中空繊維、ポリ塩化ビニル系中空繊維、ポリウレタン系中空繊維、フェノール系中空繊維、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレン等からなるフッ素系中空繊維、ポリアルキレンパラオキシベンゾエート系中空繊維等が挙げられる。
【0045】
上記工程(b)は、中空繊維の中空部に、生体分子を含有するゲル前駆体重合性溶液を充填し、該溶液をゲル化する工程である。ゲル前駆体重合性溶液の充填は、例えば以下の方法により行うことができる。まず、低温で保存しておいたゲル前駆体重合性溶液と中空繊維束をデシゲーター内に設置する。ゲル前駆体重合性溶液は予め十分脱気しておく。ここで、窒素、ヘリウム等の不活性ガスを導入し、デシゲーター内を前記ガスで置換しておく。不活性ガスへの置換は、10〜20時間で実施される。次にデシゲーター内を減圧状態とし、中空繊維束の中空繊維が固定されていない自由端を、重合性溶液中に浸す。次にデシゲーター内に不活性ガスを吹き込むことにより加圧状態にし、各中空繊維の中空部に溶液を充填する。
【0046】
本発明において、「ゲル化」は、各中空繊維の中空部にゲル前駆体重合性溶液を充填した後、中空繊維束を加温し、重合反応を行うことにより実施される。重合温度は使用する単量体等により適宜選択される。この操作により、ゲルが中空繊維束に保持される。
【0047】
上記工程(c)は、前記ゲルを保持した中空繊維束を中空繊維の長手方向に直交する方向で切断して薄片を製造し、該薄片を基板に配置する工程である。薄片の製造においては、ミクロトーム、レーザー等を使用することができる。薄片の厚さは、1μm以上5,000μm以下であることが望ましく、10μm以上500μm以下であることがより望ましい。
このようにして作製した薄片を、本明細書では「貫通孔型生体分子固定化アレイ」と称する。
薄片を基板に配置する際には、薄片に保持されたゲルが基板に接触するようにする。また、薄片を基板に配置する時点で、基板は溶液の状態であってもよい。基板としてゲルを用いる場合、薄片を基板に配置する時点で、基板はゲル化前の状態であってもよい。例えば、基板としてアガロースゲルを用いる場合、薄片をゲル化前のアガロース溶液表面に浮かべることにより、薄片を基板に配置することができる。
【0048】
上記工程(d)は、基板から中空繊維束を除去する工程である。基板から中空繊維束を除去する際には、基板は固形化(基板としてゲルを用いる場合にはゲル化)し、中空繊維束に保持されたゲルは基板に結合していることが好ましい。「除去」の方法は上記の通りである。基板としてアガロースゲルを用いる場合、アガロースがゲル化した後、薄片中の中空繊維束部分をアガロースゲルから剥離することで生体分子固定化担体のみを容易にアガロースゲル上に配置することが可能である(図8、図10及び図11)。なお、図10中のAで示す部分を図11(a)に示す。
【0049】
生体分子、プローブ、担体及び担体の形状、親水性ゲル、生体分子の固定、基板、アドレス可能な状態並びに生体分子固定化アレイについての定義、例示及び好ましい態様等の説明は、上記と同様である。
【0050】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0051】
1.貫通孔型生体分子固定化アレイの作製
(1)プローブの合成
表1に示す配列番号1から配列番号20で示されるオリゴヌクレオチドを合成した。合成の際、最終段階で、アミノリンクTM(PEバイオシステムズ社製)を前記オリゴヌクレオチドに反応させ、次いで脱保護操作を行うことにより、各オリゴヌクレオチドの末端にアミノヘキシル基が導入された5’−O−アミノヘキシルオリゴヌクレオチドを調製した。次いで、5’−O−オリゴヌクレオチドに、無水メタクリル酸を反応させ、5’末端ビニル化オリゴヌクレオチドを調製し、これらをプローブとした。
【表1】

【0052】
(2)中空繊維束の製造
次に、図1に示す配列固定器具を利用して中空繊維束を製造した。なお、図1中のx、y、zは直交の3次元軸であり、x軸は繊維の長手方向と一致する。まず、直径0.32mmの孔(11)が、孔の中心間距離を0.42mmとして、縦5列、横4列で合計20個設けられた厚さ0.1mmの多孔板(21)を2枚準備した。これらの多孔板を重ね合わせて、そのすべての孔に、内径がおよそ0.18mmのポリカーボネート中空繊維(31)(三菱エンジニアリングプラスチック社製 カーボンブラック1質量%添加)を1本ずつ、通過させた。X軸方向に各繊維に0.1Nの張力をかけた状態で2枚の多孔板の位置を移動させて、中空繊維の一方の端部から20mmの位置と100mmの位置の2ヶ所に固定した。即ち、2枚の多孔板の間隔を80mmとした。次いで、多孔板間の空間の周囲3面を板状物(41)で囲った。このようにして上部のみが開口状態にある容器を得た。この容器の上部から容器内に樹脂原料を流し込んだ。樹脂としては、ポリウレタン樹脂接着剤(日本ポリウレタン工業(株)ニッポラン4276、コロネート4403)の総重量に対し、2.5質量%のカーボンブラックを添加したものを使用した。25℃で1週間静置して樹脂を硬化させた。次いで多孔板と板状物を取り除き、中空繊維束を得た。
次に、表2に示す質量比で混合した単量体及び開始剤を含むゲル前駆体重合性溶液をプローブ毎にそれぞれ調製した。

ゲル前駆体重合性溶液組成
【表2】

【0053】
上記で作製した配列番号1から配列番号20で示されるオリゴヌクレオチドを含むゲル前駆体重合性溶液を、それぞれ図2に示した配置(図2中の数字は各プローブの塩基配列の配列番号を示す)になるように、中空繊維束における中空繊維の中空部に充填した。具体的には、まず、前記重合性溶液の入った容器及び上記で作製した中空繊維束を、図2に示した配置になるようにデシケーター内に設置した。デシケーター内を減圧状態にしたのち、中空繊維束の各糸の封止されていない端部を所定の前記重合性溶液の入った容器に浸漬した。デシケーター内に窒素ガスを封入し、中空繊維の中空部にプローブを含むゲル前駆体重合性溶液を導入した。次いで、容器内を70℃とし、3時間かけて重合反応を行った。このようにして、プローブがゲル状物を介して中空繊維の中空部に保持された中空繊維束を得た。
次に、得られた中空繊維束を、ミクロトームを用いて繊維の長手方向と直交する方向でスライスし、厚さ0.25mmの薄片シート(貫通孔型生体分子固定化アレイ)を複数枚得た。プローブの固定化は、図2に示す配置で作製した。作製した貫通孔型生体分子固定化アレイには、それぞれの配列番号で示される塩基配列を有するプローブが、図2に示される配列番号に対応するように配置されている。
【0054】
2.ゲル担体生体分子固定化アレイの作製
100mlの純水に対し、アガロース(タカラバイオ株式会社製 型番:5003)2.4gを加え、電子レンジで加熱してアガロース溶解液を作製した(2.4%(w/v))。100℃に設定したヒートブロック上にスライドグラスを置き、スライドグラス上に前述のアガロース溶解液を200μl滴下した。アガロース溶解液上に上記で作製した貫通孔型生体分子固定化アレイを浮かべた後、スライドグラスをヒートブロックから下ろし、室温で10分間冷却させた後、更に4℃で30分間冷却し、アガロース溶解液をゲル化した。その後貫通孔型生体分子固定化アレイのウレタン及びポリカーボネートからなるマトリックス部分と中空繊維部分とをアガロースゲルからゆっくりと剥がした。
以上の操作により、貫通孔型生体分子固定化アレイのウレタン及びポリカーボネートからなるマトリックス部分と中空繊維部分が剥離され、アクリルアミドゲルからなる生体分子固定化担体だけがアガロースゲル上に残った(図11)。過剰なアガロースゲルを剃刀で除去した後、スライドグラスからアガロースゲルを剥離して、基板がアガロースゲル、生体分子固定化担体がアクリルアミドゲルからなるゲル担体生体分子固定化アレイが完成した。当該ゲル担体生体分子固定化アレイにおいて、生体分子固定化担体の形状は円柱状であり、1cmあたり約750個の密度になるよう並べられていて、生体分子固定化担体の基板との接触面積は、貫通孔型生体分子固定化アレイの中空繊維断面積と同じく、約25000μmであり、生体分子固定化担体の基板表面からの高さは、貫通孔型生体分子固定化アレイの厚みと同じく250μmであった。また、図2より、前記ゲル担体生体分子固定化アレイにおける各生体分子固定化担体は、それぞれどの配列番号で示される塩基配列を有するプローブが固定されているかを特定できるため、アドレス可能な状態で基板上に配置されているといえる。
【0055】
3.モデル検体の作製
ゲル担体生体分子固定化アレイを評価するためのモデル検体を以下の通りに作製した。まず、表3に記載の配列番号21から配列番号40で示されるオリゴヌクレオチドを合成した。これらのオリゴヌクレオチドの中には、プローブであるオリゴヌクレオチドと相補的な配列のものが含まれる。
【表3】

【0056】
表3に記載のオリゴヌクレオチドは、モデル検体001、002、003、005、006、011、017、018、020については全て100pmol/μlに調製し、その他のオリゴヌクレオチドについては2pmol/μlに調製した。これらのオリゴヌクレオチドは、各2μlづつ用い、これに水を加えてそれぞれ500μlのオリゴヌクレオチド混合溶液を作製した。このオリゴヌクレオチド混合溶液を5μl使用し、標識試薬PlatinumBrightTM Nucleic Acid Labeling Kit(型番:GLK−003)(Kreatech Biotechnology社製)を用いて蛍光標識を行った。具体的には、まず、表4の組成となるようにキットに付属の標識剤及びバッファーと混合し、反応液とした。
【表4】

次いで、反応液を85℃のヒートブロック上で30分間加熱し、その後4℃に冷却した。冷却後の反応液は、キットに付属の精製カラムを用いて、キット付属のプロトコールに従って精製を行い、およそ20μlの標識済みオリゴヌクレオチド混合溶液(モデル検体)を得た。
【0057】
4.ハイブリダイゼーション
モデル検体とゲル担体生体分子固定化アレイとの接触及び反応に際し、まず表5の組成のハイブリダイゼーション溶液を調製した。このハイブリダイゼーション溶液を、上記で作製したゲル担体生体分子固定化アレイに対して接触させ、ハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーションは、生体分子固定化アレイ(核酸アレイ)とハイブリダイゼーション溶液150μlとを密封した状態で50℃、16時間接触させることで実施した。

ハイブリダイゼーション溶液の組成
【表5】

【0058】
なお、20xSSC溶液は、Applied Biosystems社製(型番:AM9763)のものを使用し、2%SDSは、Applied Biosystems社製(型番:AM9820)のものを水で10倍希釈して使用した。
【0059】
5.洗浄
洗浄溶液として2xSSC・0.2%SDS溶液、保存液として2xSSCを各100mlづつ用意した。ハイブリダイゼーション終了後のゲル担体生体分子固定化アレイを、50℃に保温した10mlの洗浄溶液に20分間浸漬し、過剰のハイブリダイゼーション溶液を洗い流した。同じ操作を更にもう一回繰り返した後、ゲル担体生体分子固定化アレイを50℃に保温した10mlの保存液に10分間浸漬し、その後室温で冷却した。
【0060】
6.蛍光の検出
検出操作は、GeneTACTM LS IV(GenomicSolutions社製)を用いて、ゲル担体生体分子固定化アレイを保存液に浸漬し、カバーガラスをかぶせた後に、蛍光標識されたモデル検体の蛍光シグナル強度を測定した。測定条件は、Cy5検出用チャンネルを用い、Gainを55に設定して測定した。得られた蛍光画像における、各スポットのシグナル強度は、プローブ搭載部位を取り囲むおよそ2800画素分の値を平均して算出した。さらに、当該シグナル強度から、プローブを搭載していない箇所のシグナル強度をバックグラウンドとして減算し、正味のシグナル強度を算出した。その結果を図3に示す。
【0061】
7.比較例
本発明のゲル担体生体分子固定化アレイの効果と貫通孔型生体分子固定化アレイの効果とを比較するため、ゲル担体生体分子固定化アレイを作製する工程にて得た貫通孔型生体分子固定化アレイに対して、実施例で作製したモデル検体を接触及び反応(ハイブリダイゼーション)させた。アレイの種類以外の実験条件は全て実施例と同様の条件で、ハイブリダイゼーション、洗浄及び蛍光の検出を行った。結果を図4に示す。
貫通孔型生体分子固定化アレイにおける蛍光シグナル強度と、ゲル担体生体分子固定化アレイにおける蛍光シグナル強度とを比較した。その結果を図5に示す。縦軸は、両アレイにおける同一プローブについて、ゲル担体生体分子固定化アレイのシグナル強度を貫通孔型生体分子固定化アレイのシグナル強度で割った値を示す。全てのプローブにおいて両アレイのシグナル強度の倍率は1.5以上の値であり、プローブによっては3倍から4倍を示すものも認められ、全体として大幅なシグナル強度の増加が確認された。
【実施例2】
【0062】
搭載プローブとして下表6に示したものを用い、スライス厚みを100μmとした以外は、実施例1と同様にしてアレイを作製した。したがって、生体分子固定化担体の基板との接触面積は、貫通孔型生体分子固定化アレイの中空繊維断面積と同じく、約25000μmであり、生体分子固定化担体の基板表面からの高さは、貫通孔型生体分子固定化アレイの厚みと同じく100μmであった。また、図12より、ゲル担体生体分子固定化アレイにおける各生体分子固定化担体は、それぞれどの配列番号で示される塩基配列を有するプローブが固定されているかを特定できるため、アドレス可能な状態で基板上に配置されているといえる。
【表6】

【0063】
モデル検体の作製
表7に記載のオリゴヌクレオチドを用い、実施例1と同様にして作製した。ただし、全てのオリゴヌクレオチドは全て2pmol/μlに調製した。以降の標識操作から検出操作までは、ハイブリダイゼーションの時間を8時間とした以外は、全て実施例1に従った。
結果を図13に示す。
【表7】

【0064】
比較例2
実施例2におけるゲル担体生体分子固定化アレイの効果と貫通孔型生体分子固定化アレイの効果とを比較するため、ゲル担体生体分子固定化アレイを作製する工程にて得た貫通孔型生体分子固定化アレイに対して、実施例2で作製したモデル検体を接触及び反応(ハイブリダイゼーション)させた。アレイの種類以外の実験条件は全て実施例2と同様の条件で、ハイブリダイゼーション、洗浄及び蛍光の検出を行った。結果を図14に示す。
貫通孔型生体分子固定化アレイにおける蛍光シグナル強度と、ゲル担体生体分子固定化アレイにおける蛍光シグナル強度とを比較した。その結果を図15に示す。縦軸は、両アレイにおける同一プローブについて、ゲル担体生体分子固定化アレイのシグナル強度を貫通孔型生体分子固定化アレイのシグナル強度で割った値を示す。全てのプローブにおいて両アレイのシグナル強度の倍率は1以上の値であり、プローブによっては1.5倍以上を示すものも認められ、全体として大幅なシグナル強度の増加が確認された。
【実施例3】
【0065】
搭載プローブとして下表8に示したものを用い、スライス厚みを500μmとした以外は、実施例1と同様にしてアレイを作製した。したがって、生体分子固定化担体の基板との接触面積は、貫通孔型生体分子固定化アレイの中空繊維断面積と同じく、約25000μmであり、生体分子固定化担体の基板表面からの高さは、貫通孔型生体分子固定化アレイの厚みと同じく500μmであった。また、図16より、ゲル担体生体分子固定化アレイにおける各生体分子固定化担体は、それぞれどの配列番号で示される塩基配列を有するプローブが固定されているかを特定できるため、アドレス可能な状態で基板上に配置されているといえる。
【表8】

【0066】
モデル検体の作製
表9に記載のオリゴヌクレオチドを用い、実施例1と同様にして作製した。ただし、全てのオリゴヌクレオチドは全て2pmol/μlに調製した。以降の標識操作から検出操作までは、ハイブリダイゼーションの時間を8時間とした以外は、全て実施例1に従った。結果を図17に示す。
【表9】

【0067】
比較例3
実施例3におけるゲル担体生体分子固定化アレイの効果と貫通孔型生体分子固定化アレイの効果とを比較するため、ゲル担体生体分子固定化アレイを作製する工程にて得た貫通孔型生体分子固定化アレイに対して、実施例で作製したモデル検体を接触及び反応(ハイブリダイゼーション)させた。アレイの種類以外の実験条件は全て実施例3と同様の条件で、ハイブリダイゼーション、洗浄及び蛍光の検出を行った。結果を図18に示す。
貫通孔型生体分子固定化アレイにおける蛍光シグナル強度と、ゲル担体生体分子固定化アレイにおける蛍光シグナル強度とを比較した。その結果を図19に示す。縦軸は、両アレイにおける同一プローブについて、ゲル担体生体分子固定化アレイのシグナル強度を貫通孔型生体分子固定化アレイのシグナル強度で割った値を示す。全てのプローブにおいて両アレイのシグナル強度の倍率は1以上の値であり、プローブによっては2.5倍以上を示すものも認められ、全体として大幅なシグナル強度の増加が確認された。
【0068】
以上、実施例1〜3の結果から、ゲル担体生体分子固定化アレイを使用することで、ハイブリダイゼーションの単位時間当たりに得られるシグナル強度は、貫通孔型生体分子固定化アレイに比較して有意に向上することが明らかとなった。このことは、本発明のゲル担体生体分子固定化アレイが貫通孔型生体分子固定化アレイと比較して同一のハイブリダイゼーション時間における検出感度が向上したことを示しており、同一感度を得るのに要するハイブリダイゼーション時間が短縮したことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の生体分子固定化アレイは、従来の貫通孔型のアレイに比較して有意に高い検出感度で検体を検出することができる。
【符号の説明】
【0070】
11・・・・孔
21・・・・多孔板
31・・・・中空繊維
41・・・・板状物
【配列表フリーテキスト】
【0071】
配列番号1〜120:合成DNA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分子が固定された親水性ゲルからなる担体が、アドレス可能な状態で基板上に配置された、生体分子固定化アレイ。
【請求項2】
担体が柱状のものである、請求項1に記載のアレイ。
【請求項3】
基板が親水性ゲルからなるものである、請求項1又は2に記載のアレイ。
【請求項4】
基板が検体を含有するものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアレイ。
【請求項5】
生体分子が固定された親水性ゲルからなる担体の数が2以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアレイ。
【請求項6】
生体分子が固定された親水性ゲルからなる担体を、アドレス可能な状態で基板上に配置させる工程を含む、生体分子固定化アレイの製造方法。
【請求項7】
生体分子が固定された親水性ゲルからなる担体をアドレス可能な状態で基板上に配置させる工程が、以下の工程:
(a)担体成形用鋳型の空隙部に、生体分子を含有するゲル前駆体重合性溶液を充填し、該溶液をゲル化する工程、
(b) 前記ゲルを保持した鋳型を基板に配置させる工程、並びに、
(c) 前記基板から鋳型を除去する工程
を含むものである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
生体分子が固定された親水性ゲルからなる担体をアドレス可能な状態で基板上に配置させる工程が、以下の工程:
(a) 複数の中空繊維を、各繊維軸が同一方向となるように三次元に配列及び固定して中空繊維束を製造する工程、
(b) 前記中空繊維の中空部に、生体分子を含有するゲル前駆体重合性溶液を充填し、該溶液をゲル化する工程、
(c) 前記ゲルを保持した中空繊維束を中空繊維の長手方向に直交する方向で切断して薄片を製造し、該薄片を基板に配置させる工程、並びに
(d) 前記基板から、中空繊維束を除去する工程
を含むものである、請求項6に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−133470(P2011−133470A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262290(P2010−262290)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】