説明

親水性伸縮不織布

【課題】優れた伸縮性を示し、紡糸時および加工時の取り扱い性が容易で安定な操業性を有し、さらには吸水性に優れる伸縮繊維不織布およびその用途を提供する。
【解決手段】熱可塑性エラストマー(A)層と水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(B)層からなり、繊維表面が上記(B)層で被覆されている複合長繊維から構成されている不織布であって、該複合長繊維を構成する上記(A)層は実質的に破断されておらず、上記(B)層のみが破断されている状態を有していることを特徴とする親水性伸縮不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性伸縮繊維からなる不織布に関する。より詳細には、熱可塑性エラストマーと水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールからなる親水性および伸縮性に優れた長繊維不織布、及びそれを利用した医療材料、衛生材料等の用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、包帯等の医療材料、オムツ等の衛生材料などの分野では、伸縮性に優れた不織布が広く利用されている。そして、このような不織布を製造する方法として、従来から繊維素材として熱可塑性エラストマーを使用して弾性を示す繊維を作製し、シート形成する方法が検討されている。例えば、熱可塑性エラストマーを用い、メルトブロー法やスパンボンド法によって不織布を製造する方法が提案されている。しかしながら、弾性繊維は伸度が大きいため巻き取りが困難であること、また繊維間の密着性が高いため各工程での取り扱い性が難しいなど、操業性に問題を有している。
【0003】
上記問題点を解決する方法として、複合繊維として熱可塑性エラストマーを非弾性ポリマーで被覆する方法も検討されている。しかし、このような方法では、工程性は改善されるものの、非伸縮性の成分が不織布に存在することになり、エラストマー繊維本来の伸縮性が阻害され、十分な伸縮性を発現させることができない。化学薬品を使用して一方の成分を除去することで、熱可塑性エラストマーのみからなる長繊維を得ることは可能であるが、除去されない熱可塑性エラストマー成分が好ましくない影響を受ける場合が多く、複合長繊維を構成する成分の組み合せが限定される場合が多い。さらに化学薬品を用いなければならないこと且つ除去した一成分を無害化しなければならないこと等の製造工程での環境負荷も大きなものとなる。
【0004】
一方、本発明者等は、水溶性でかつ溶融成形可能なポリマーとして、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールを提案している。ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記することもある)は水溶性のポリマーであって、その基本骨格と分子構造、形態、各種変性により水溶性の程度を変えることができることが知られている。また、PVAは生分解性であることが確認されており、地球環境的に、合成物を自然界といかに調和させるかが大きな課題となっている現在、このような基本性能を有するPVAおよびPVA系繊維は多いに注目されている。
【0005】
一方、医療材料や衛生材料などの分野では、伸縮性繊維からなる不織布が人体に接触する部材として使用される場合や、不織布として吸水性能を要求される部材として使用される場合が多く、伸縮性繊維自体が親水性を示すことは、上記用途で用いられる場合には非常に有用なものとなる。
【0006】
本発明者等は、水溶性熱可塑性PVAと他の熱可塑性ポリマーから構成された溶融紡糸による複合長繊維からなる不織布からPVAを特定の条件下にて抽出除去および乾燥処理することにより、耐久性ある吸水性を示す不織布が得られることを見出している(特願2004−271549)。
【特許文献1】特願2004−271549
【0007】
本発明者等は、水溶性熱可塑性PVAを抽出除去しなくとも、伸縮性を有し、且つ親水性を有する長繊維不織布について検討した結果、本発明に到達した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、優れた伸縮性を示し、紡糸時および加工時の取り扱い性が容易で安定な操業性を有し、さらには吸水性に優れる伸縮繊維不織布およびその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、熱可塑性エラストマーと水溶性熱可塑性PVAからなる複合長繊維から構成される不織布を、特定の方法にて処理することにより、親水性および伸縮性に優れた長繊維不織布が提供可能であることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、熱可塑性エラストマー(A)層と水溶性熱可塑性PVA(B)層からなり、繊維表面が上記(B)層で被覆されている複合長繊維から構成されている不織布であって、複合長繊維を構成する上記(A)層は実質的に破断されておらず、上記(B)層のみが部分的に破断されている状態を有していることを特徴とする親水性伸縮不織布である。
【0011】
さらに本発明は、このような親水性伸縮繊維不織布の好適な用途として、医療材料、衛生材料を提案するものである。
【0012】
一方、吸水性に優れた不織布を製造する方法として、不織布にPVA水溶液を付与し乾燥させる方法が考えられるが、この方法の場合には、付与したPVAが水や温水により簡単に脱落し、耐久性ある吸水性は得られない。また、この方法において、PVAが水により簡単に脱落することを防ぐ方法として、付与したPVA水溶液の乾燥条件として、PVAが結晶化するような高い温度を採用することにより、付与したPVAの耐久吸水性を高める方法も考えられるが、この方法の場合には、結晶化した後のPVAは吸水性が低下し、したがって、これらの一般的な方法では、十分な吸水性は得られない。
【0013】
本発明では、熱可塑性エラストマー成分と水溶性熱可塑性PVAが複合紡糸され、繊維を形成していることから、上記後加工により塗布したPVAと比べてはるかに優れた耐久性ある吸水性を有している。この耐久性に優れた吸水性が発現する理由としては、PVAが複合繊維の段階で繊維を構成している一成分であったことから、繊維を構成している他の熱可塑性ポリマーとの間で何らかの結合が存在していること、さらに、PVAは繊維間の隙間の奥に主として存在していること等が考えられる。
【0014】
また、本発明では、不織布は長繊維不織布に限定されているが、その理由は、長繊維不織布は、上記したように、生産性の点で他の不織布、例えば短繊維からなるウエブをニードルパンチや水流絡合させて製造する乾式不織布や、水に分散させたショートカット繊維を漉き上げて乾燥させる、いわゆる湿式不織布と比べて極めて優れている。更に、長繊維不織布は、構成繊維が長繊維であることから不織布からの繊維の脱落が生じにくく、脱落繊維の人体への付着が嫌われる分野での使用に極めて優れるものである。更に、長繊維不織布は不織布の強度が短繊維からなる不織布やショートカット繊維からなる不織布等と比べて一般的に高く、この点からも、不織布として耐久性が要求される医療材料、衛生材料に極めて適していると言える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられる熱可塑性エラストマー(A)としては、溶融紡糸可能でかつ伸縮性に優れたポリマーであれば特に限定されず、例えばポリウレタン系エラストマーやポリエーテル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー等から任意に選択することができる。 本発明の水溶性熱可塑性PVAと複合紡糸しやすい点からは、ポリウレタン系エラストマーおよびポリスチレン系エラストマーが好ましい。
【0016】
ポリウレタン系エラストマーとしては、該ポリウレタンを構成するポリオール成分が、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、またはこれらの共縮合物等特に限定されないが、その汎用性、コスト、性能の観点から、ポリエステルポリオールまたはポリエーテルポリオールを用いることが好ましい。
上記ポリエステルポリオールとしてはエチレングルコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチルプロパンジオールなどの炭素数2〜10のアルカンのポリオールまたはこれらの混合物とグルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の炭素数4〜12の脂肪族もしくは芳香族ジカルボン酸またはこれらの混合物とから得られる飽和ポリエステルポリオール、あるいはポリカプロラクトングリコール、ポリバレロラクトングリコール等のポリラクトンジオールが好ましく使用される。これらは、単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。
一方、ポリエーテルポリオールとしては、環状エーテルのプロピレンオキシドやテトラヒドロフランを開環重合して得られる、ポリプロピレンポリオール(PPG)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)等を好ましく用いることができる。
【0017】
また、本発明においては所望により適当な鎖伸長剤を使用してもよく、該鎖伸長剤としては、ポリウレタンにおける常用の連鎖成長剤、すなわち、イソシアネートと反応しうる水素原子を少なくとも2個有する分子量400以下の低分子化合物、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、キシリレングリコール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ネオペンチルグリコール、3,3'−ジクロロ−4,4'−ジアミノジフェニルメタン、イソホロンジアミン、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、ヒドラジン、ジヒドラジドトリメチロールプロパン、グリセリン、2−メチルプロパンジオール等が挙げられる。これらの中でも1,4−ブタンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、3−メチル−1,5−ペンタンジオールあるいはこれらの混合物が最も有効に使用できる。また場合によっては、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンジオール、ポリカプロラクトンジオール等のポリマージオールを成形性をそこなわない範囲で使用できる。
【0018】
また、熱可塑性ポリウレタン樹脂を製造するために使用される適当な有機ジイソシアネートとしては、イソシアネート基を分子中に2個以上含有する公知の脂肪族、脂環族、芳香族有機ジイソシアネート、特に、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、2,2'−ジメチル−4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3−または1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどの芳香族、脂肪族または脂環族ジイソシアネートが挙げられる。これらの有機ジイソシアネートは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。これら有機ジイソシアネートの中で最も好ましいのは4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネートである。
【0019】
ポリスチレン系エラストマーとしては、スチレンを他のコモノマーと共重合したエラストマーを広く包含する。コモノマーとしては、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン化合物、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン等のオレフィン、(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸エステルなどのスチレンと共重合しうるモノマーを用いることができる。これらの中ではハードセグメントとソフトセグメントのブロックから構成されるブロック共重合体型のものが好ましい。特に、スチレン−オレフィンブロック共重合体が、本発明の目的とする束状繊維の形成をコントロールしやすいため好ましい。
【0020】
スチレン−オレフィンブロック共重合体とは、1分子の両末端にポリスチレンブロック相をもち、中間相にオレフィン系エラストマー相を導入したものである。すなわち、中間相がポリブタジエン系であるスチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、中間相がポリイソプレン系であるスチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、中間相が水素添加型のポリオレフィンであるスチレン−エチレン・ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)等が挙げられる。また、上記の如きスチレン−ポリオレフィン−スチレンのトリブロック構造の共重合体の他に、スチレン−エチレン・プロピレンのジブロック構造の共重合体(SEP)や水添ブタジエンラバー(HSBR)なども本発明の範囲に含まれる。
【0021】
水溶性熱可塑性PVA(B)は、PVAのホモポリマーは勿論のこと、例えば、共重合、末端変性、および後変性により官能基を導入した変性PVAも包括するものである。勿論、溶融紡糸可能なものであらねばならない。通常の一般市販PVAは溶融温度と熱分解温度が近接しているため溶融紡糸することはできず(すなわち熱可塑性ではなく)、種々の工夫が必要である。
【0022】
PVAの粘度平均重合度(以下、単に重合度と略記する)は200〜800が好ましく、230〜600がより好ましく、250〜500が特に好ましい。通常の繊維用に使用されるPVAは、重合度が高いほど高強度繊維が得られることから、重合度1500以上のものが一般的であり、例えば重合度約1700のものや約2100のものが一般的である。そのことから考えると、本発明で用いられるPVAの重合度200〜800は極めて低いと言える。重合度が200未満の場合には紡糸時に十分な曳糸性が得られず、その結果として満足な複合長繊維不織布が得られない場合がある。一方、重合度が800を越えると溶融粘度が高すぎて紡糸ノズルからポリマーを吐出することができず、満足な複合長繊維不織布を得られない場合がある。
【0023】
PVAの重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、PVAを完全に再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](dl/g)から次式により求められるものである。
P=([η]×10/8.29)(1/0.62)
【0024】
本発明に用いられるPVAのけん化度は90〜99.99モル%の範囲が好ましく、92〜99.9モル%がより好ましく、94〜99.8モル%が特に好ましい。けん化度が90モル%未満の場合には、PVAの熱安定性が悪く熱分解やゲル化によって安定な複合溶融紡糸を行うことができない場合がある。一方、けん化度が99.99モル%よりも大きいPVAは安定に製造することが困難である。
【0025】
PVAは、ビニルエステル系重合体のビニルエステル単位をけん化することにより得られる。ビニルエステル単位を形成するためのビニル化合物単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、これらの中でもPVAを生産性よく得る点からは酢酸ビニルが好ましい。
【0026】
本発明の極細長繊維不織布を構成するPVAは、ホモポリマーであっても共重合単位を導入した変成PVAであってもよいが、複合溶融紡糸性、吸水性、繊維物性および不織布物性の観点からは、共重合単位を導入した変性PVAを用いることが好ましい。共重合単量体の種類としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類、アクリル酸およびその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル等のメタクリル酸エステル類、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有のビニルエーテル類、アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基等のオキシアルキレン基を有する単量体、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン類、酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有のα−オレフィン類またはそのエステル化物、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドンなどのN−ビニルアミド類、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸または無水イタコン酸等に由来するカルボキシル基を有する単量体;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等に由来するスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等に由来するカチオン基を有する単量体が挙げられる。これらの単量体の含有量は、共重合PVAを構成する全単位のモル数を100%とした場合の通常その20モル%以下である。また、共重合されていることのメリットを発揮するためには、0.01モル%以上が上記共重合単位であることが好ましい。
【0027】
これらの単量体の中でも、入手のしやすさなどから、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有のビニルエーテル類、アリルアセテートで代表されるアリルエステル類、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類、 N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドンなどのN−ビニルアミド類、オキシアルキレン基を有する単量体、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有のα−オレフィン類に由来する単量体が好ましい。
【0028】
特に、共重合性、混合溶融紡糸性および繊維物性等の観点からエチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンの炭素数4以下のα−オレフィン類がより好ましい。炭素数4以下のα−オレフィン類に由来する単位は、PVA中に0.1〜20モル%存在していることが好ましく、0.5〜18モル%がより好ましい。
さらに、α−オレフィンがエチレンである場合には、特に繊維物性が高くなることからもっとも好ましく、特にエチレン単位が3〜20モル%存在する場合が好適であり、より好ましくは5〜18モル%エチレン単位が導入された変性PVAを使用する場合である。
【0029】
本発明で使用するPVAは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法が挙げられる。その中でも、無溶媒あるいはアルコールなどの溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法が通常採用される。溶液重合時に溶媒として使用されるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。共重合に使用される開始剤としては、α,α'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、nープロピルパーオキシカーボネートなどのアゾ系開始剤または過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。重合温度については特に制限はないが、0℃〜200℃の範囲が適当である。
【0030】
本発明で使用するPVAにおけるアルカリ金属イオンの含有割合は、PVA100質量部に対してナトリウムイオン換算で0.00001〜0.05質量部が好ましく、0.0001〜0.03質量部がより好ましく、0.0005〜0.01質量部が特に好ましい。アルカリ金属イオンの含有割合が0.00001質量部未満のものは工業的に製造困難である。またアルカリ金属イオンの含有量が0.05質量部より多い場合には複合溶融紡糸時のポリマー分解、ゲル化および断糸が著しく、安定に繊維化することができない場合がある。なお、アルカリ金属イオンとしては、カリウムイオン、ナトリウムイオン等が挙げられる。
【0031】
本発明において、特定量のアルカリ金属イオンをPVA中に含有させる方法は特に制限されず、PVAを重合した後にアルカリ金属イオン含有の化合物を添加する方法、ビニルエステルの重合体を溶媒中においてけん化するに際し、けん化触媒としてアルカリイオンを含有するアルカリ性物質を使用することによりPVA中にアルカリ金属イオンを配合し、けん化して得られたPVAを洗浄液で洗浄することにより、PVA中に含まれるアルカリ金属イオン含有量を制御する方法などが挙げられるが、後者の方法が好ましい。なお、アルカリ金属イオンの含有量は、原子吸光法で求めることができる。
【0032】
けん化触媒として使用するアルカリ性物質としては、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムが挙げられる。けん化触媒に使用するアルカリ性物質のモル比は、酢酸ビニル単位に対して0.004〜0.5が好ましく、0.005〜0.05が特に好ましい。けん化触媒は、けん化反応の初期に一括添加しても良いし、けん化反応の途中で追加添加しても良い。
【0033】
けん化反応の溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらの溶媒の中でもメタノールが好ましく、含水率を0.001〜1質量%に制御したメタノールがより好ましく、含水率を0.003〜0.9質量%に制御したメタノールがもっと好ましく、含水率を0.005〜0.8質量%に制御したメタノールが特に好ましい。洗浄液としては、メタノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ヘキサン、水などが挙げられ、これらの中でもメタノール、酢酸メチル、水の単独もしくは混合液がより好ましい。
洗浄液の量としてはアルカリ金属イオンの含有割合を満足するように設定されるが、通常、PVA100質量部に対して、300〜10000質量部が好ましく、500〜5000質量部がより好ましい。洗浄温度としては、5〜80℃が好ましく、20〜70℃がより好ましい。洗浄時間としては20分間〜100時間が好ましく、1時間〜50時間がより好ましい。
【0034】
また本発明の目的や効果を損なわない範囲で、PVAには融点や溶融粘度を調整する等の目的で可塑剤を添加することが可能である。可塑剤としては、従来公知のもの全てが使用できるが、ジグリセリン、ポリグリセリンアルキルモノカルボン酸エステル類、グリコール類にエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドを付加したものが好適に使用される。そのなかでも、ソルビトール1モルに対してエチレンオキサイドを1〜30モル%付加した化合物が好ましい。
【0035】
次に本発明の伸縮繊維不織布の製造方法について説明する。本発明の伸縮繊維不織布は、熱可塑性エラストマー(A)と水溶性熱可塑性PVA(B)からなる複合長繊維で構成された不織布を、特定の方法にて処理することにより製造することができる。
【0036】
熱可塑性エラストマー(A)と水溶性熱可塑性PVA(B)からなる複合長繊維不織布は、溶融紡糸と不織布形成を直結したいわゆるスパンボンド不織布の製造方法によって効率良く製造することができる。
【0037】
例えば、熱可塑性エラストマー(A)と水溶性熱可塑性PVA(B)をそれぞれ別の押出機で溶融混練し、引き続きこれら溶融したポリマーの流れをそれぞれ紡糸頭に導き、合流し、流量を計量し、紡糸ノズル孔から吐出させ、この吐出糸条を冷却装置により冷却せしめた後、エアジェット・ノズルのような吸引装置を用いて、目的の繊度となるように、500〜5000m/分の糸条の引取り速度に該当する速度で高速気流により牽引細化させた後、開繊させながら移動式の捕集面の上に堆積させて不織布ウエブを形成させ、引き続きこのウエブを部分熱圧着して巻き取ることによって複合長繊維不織布を得ることができる。
【0038】
複合長繊維不織布を構成する複合長繊維の複合断面としては、紡糸時および加工時の取り扱い性を考慮すると、繊維表面が水溶性熱可塑性PVA(B)で被覆されている必要があり、図1に示すように芯鞘型形状を有するもの、或いは図2に示すように海成分と島成分からなる海島型の形状を有するものが好ましい。また、ミカンの横断面形状型または扇型の形状や、短冊状に配列した貼り合せ型形状のような分割型形状において、繊維表層部のみPVA(B)にて薄皮状に被覆されているものも適用することができる。
また、繊維の断面形状は○であっても、それ以外の、例えば扁平断面であっても、三角や四角等の角断面であっても、さらにはT字断面、Y字断面等いずれであってもよい。また芯部や島成分の形状を○、楕円、角型、複数の突出部を有する異型のいずれであってもよい。
PVA(B)による繊維表面の被覆率としては、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
【0039】
本発明に用いる熱可塑性エラストマー(A)と水溶性熱可塑性PVA(B)とからなる複合長繊維不織布における熱可塑性エラストマー(A)と水溶性熱可塑性PVA(B)の質量比は目的に応じて適宜設定されるので特に制限はないが、50/50〜95/5が好適であり、70/30〜90/10がより好ましい。好適な範囲を外れた場合には複合した効果、たとえば熱可塑性エラストマーが繊維表面に存在することにより紡糸工程での繊維膠着・集束化を防ぐ効果等が現れない場合がある。
【0040】
また本発明の目的や効果を損なわない範囲で、熱可塑性エラストマー(A)および水溶性熱可塑性PVA(B)には、必要に応じて銅化合物等の安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤を重合反応時、またはその後の工程で添加することができる。特に熱安定剤としてヒンダードフェノール等の有機系安定剤、ヨウ化銅等のハロゲン化銅化合物、ヨウ化カリウム等のハロゲン化アルカリ金属化合物を添加すると、繊維化の際の溶融滞留安定性が向上するので好ましい。
【0041】
また必要に応じて平均粒子径が0.01μm以上5μm以下の微粒子を0.05質量%以上10質量%以下、重合反応時、またはその後の工程で熱可塑性エラストマー(A)および水溶性熱可塑性PVA(B)に添加することができる。微粒子の種類は特に限定されず、たとえばシリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の不活性微粒子を添加することができ、これらは単独で使用しても2種以上併用しても良い。特に平均粒子径が0.02μm以上1μm以下の無機微粒子、例えばシリカ等が添加されていることが好ましく、この場合には紡糸性、延伸性が向上する。
【0042】
本発明において複合長繊維不織布を構成する繊維化の条件は、ポリマーの組み合せ、複合断面に応じて適宜設定する必要があるが、主に、以下のような点に留意して繊維化条件を決めることが望ましい。
紡糸口金温度は、複合長繊維を構成するポリマーのうち高い融点を持つポリマーの融点をMpとするときMp+10℃〜Mp+80℃が好ましく、せん断速度(γ)500〜25000sec−1、ドラフト(V)50〜2000で紡糸することが好ましい。また、複合紡糸するポリマーの組み合わせから見た場合、紡糸時における口金温度とノズル通過時のせん断速度で測定したときの溶融粘度が近接したポリマー、例えば溶融紡糸口金温度において、せん断速度1000sec−1における溶融粘度差が2000poise以内である組み合せで複合紡糸することが紡糸安定性の面から好ましい。
【0043】
本発明におけるポリマーの融点Tmとは、示差走査熱量計(DSC:例えばMettler社TA3000)で観察される主吸熱ピークのピーク温度である。せん断速度(γ)は、ノズル半径をr(cm)、単孔あたりのポリマー吐出量をQ(cm/sec)とするとき、γ=4Q/πrで計算される。またドラフトVは、引取速度をA(m/分)とするとき、V=A・πr/Qで計算される。
【0044】
本発明の複合繊維を製造するに際して、紡糸口金温度が複合長繊維を構成するポリマーのうち高い融点を持つポリマーの融点Mp+10℃より低い温度では、該ポリマーの溶融粘度が高すぎて、高速気流による曳糸・細化性に劣り、またMp+80℃を越えるとPVAが熱分解しやすくなるために安定した紡糸ができない。また、せん断速度は500sec−1よりも低いと断糸しやすく、25000sec−1より高いとノズルの背圧が高くなり紡糸性が悪くなる。ドラフトは50より低いと繊度むらが大きくなり安定に紡糸しにくくなり、ドラフトが2000より高くなると断糸しやすくなる。
【0045】
本発明において、エアジェット・ノズルのような吸引装置を用いて吐出糸条を牽引細化させるに際し、500〜5000m/分の糸条の引取速度に該当する速度で高速気流により牽引細化させるのが好ましい。吸引装置による糸条の引取条件は、紡糸ノズル孔から吐出する溶融ポリマーの溶融粘度、吐出速度、紡糸ノズル温度、冷却条件などにより適宜選択するが、500m/分未満では、吐出糸条の冷却固化遅れによる隣接糸条間の融着が起こる場合があり、また糸条の配向・結晶化が進まず、得られる複合不織布は、粗雑で機械的強度の低いものになってしまい好ましくない。一方、5000m/分を越えると、吐出糸条の曳糸・細化性が追随できず糸条の切断が発生して、安定した複合長繊維不織布の製造ができない。
【0046】
さらに、本発明の複合長繊維不織布を安定に製造するに際し、紡糸ノズル孔とエアジェット・ノズルのような吸引装置との間隔は30〜200cmが好ましい。該間隔は使用するポリマー、組成、上記で述べた紡糸条件にもよるが、該間隔が30cmより小さい場合には、吐出糸条の冷却固化遅れによる隣接糸条間の融着が起こる場合があり、また糸条の配向・結晶化が進まず、得られる複合不織布は、粗雑で機械的強度の低いものになってしまい好ましくない。一方、200cmを越える場合には、吐出糸条の冷却固化が進みすぎて吐出糸条の曳糸・細化性が追随できず糸条の切断が発生して、安定した複合長繊維不織布の製造ができない。
【0047】
エアジェット・ノズルのような吸引装置で細化された複合長繊維は、捕集用シート面上にほぼ均一な厚さとなるように分散捕集してウエッブを形成する。ウエッブの目付としては、5〜500g/mの範囲が不織布の生産性および後加工性の点で好ましい。更に吸引細化されたウエッブ形成複合長繊維の太さとしては1〜20dtexの範囲が生産性の点で好ましい。
【0048】
本発明においては、このようにして得られた複合長繊維不織布は、部分的な熱圧融着により形態を保持する方法が適用できる。具体的には、加熱された凹凸模様の金属ロール(エンボスロール)と加熱平滑ロールとの間に該ウエブを通して、部分的な熱圧着により長繊維同士を結合させ、不織布としての形態安定化を図る。熱圧着処理における加熱ロールの温度、熱圧する圧力、処理速度、エンボスロールの模様等は目的に応じて適宜選択することができる。また、熱圧着をどの段階で行うかについても特に制限はなく、必要に応じて適宜実施することが可能である。なかでも、PVA層を切断する前に行うのが不織布形態の破壊を招かないことから好ましい。このようなエンボス模様で熱圧着された部分は、形態安定性と柔軟性、吸水性の観点から、不織布の表面積の5〜30%であることが好ましい。
【0049】
次に、本発明の特徴の一つである、優れた伸縮性を発現させる処理方法について説明する。本発明の親水性伸縮繊維不織布は、熱可塑性エラストマー(A)層と水溶性熱可塑性PVA(B)層からなる複合長繊維不織布を、下記(a)の方法で処理することにより、優れた伸縮性の発現を可能とする。
(a)複合長繊維を構成する水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(B)層のみを部分的に切断する工程、
その結果、得られる不織布は、複合長繊維を構成する上記(A)層は実質的に破断されておらず、上記(B)層のみが部分的に破断されていることとなる。
【0050】
上記処理工程(a)、すなわち複合長繊維を構成する水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(B)層のみを部分的に切断する方法としては、優れた伸縮性能の発現が可能であればその方法は特に制約されない。例えば、複合長繊維不織布を延伸処理することにより、繊維表面を被覆している或いは熱可塑性エラストマーを被覆している水溶性熱可塑性PVA層のみを実質的に破断して表面PVA層に亀裂を生じさせる方法、あるいは、凹凸模様のロールと平滑ロールとの間に長繊維不織布を通して加圧することにより、同じくPVA表層のみを切断する方法、さらには複合長繊維不織布を揉み処理して熱可塑性エラストマー層を破壊する方法など適用することができる。
熱可塑性エラストマー(A)と水溶性熱可塑性PVA(B)とからなる複合長繊維不織布においては、熱可塑性エラストマー(A)からなる弾性成分に対し、表層の水溶性熱可塑性PVA(B)成分は結晶性ポリマーであるため、外力により容易に破断することが可能であり、上記処理工程(a)に記載するような方法が適用可能である。
【0051】
本発明において、複合長繊維を構成する上記(A)層は実質的に破断されておらず、上記(B)層のみが部分的に破断されていることが必須であるが、本発明に言う(B)層のみが部分的に破断とは、複合長繊維の所々において、繊維表面を覆う(B)層が破断され、繊維が引っ張られると、破断した(B)層の隙間から(A)層が露出する状態となることを意味している。
【0052】
本発明の不織布は、構成繊維の表面が実質的に水溶性熱可塑性PVAで覆われていることから極めて親水性に優れている。しかも、熱可塑性エラストマーは、熱可塑性PVAとは半ば独立して伸縮性をもたらす。
本発明の親水性伸縮繊維不織布は、単独で使用するのみではなく、他の長繊維不織布や短繊維不織布、織物や編物等と積層して用いることも可能であり、各種用途に用いる場合、実用機能をさらに付与することができる。
【0053】
このようにして得られる親水性伸縮繊維不織布は、親水性および伸縮性に優れることから、包帯、サージカルテープ、ガウンなどの医療材料、おむつ、ガーゼなどの衛生材料として好適に使用することができる。
【0054】
その他にも、本発明の親水性伸縮不織布は、優れた伸縮性、吸水性を活かし、種々の用途で使用することができる。例として、ワイパー、フィルター、電池セパレータ、人工皮革基布、セメント用複合材、ゴム用複合材、各種テープ基材などの産業用資材、印刷物基材、包装・袋物資材、収納材などの生活関連資材、衣料用、断熱材、吸音材などの内装材用、建設資材用、農業・園芸用資材、土壌安定材、濾過用資材、流砂防止材、補強材などの土木・資材用途を挙げることができる。
【実施例】
【0055】
次に本発明を具体的に実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例において、各物性値は以下のようにして測定した。なお、実施例中の部及び%はことわりのない限り質量に関するものである。
【0056】
[PVAの分析方法]
PVAの分析方法は、特に記載のない限り、JIS−K6726に従った。
変性量は、変性ポリビニルエステルあるいは変性PVAを用いて500MHz1H−NMR(JEOL GX−500)装置による測定から求めた。
ナトリウムイオンの含有量は原子吸光法で求めた。
【0057】
[融点]
PVAの融点は、DSC(メトラー社、TA3000)を用いて、窒素中、昇温速度10℃/分で230℃まで昇温後室温まで冷却し、再度昇温速度10℃/分で270℃まで昇温した場合のPVAの融点を示す吸熱ピークのピークトップの温度を調べた。
【0058】
[紡糸状態]
溶融紡糸の状態を観察して次の基準で評価した。
○:良好 △:やや難あり ×:不良
【0059】
[不織布の状態]
得られた不織布を目視観察および手触観察して次の基準で評価した。
○:均質で良好 △:やや難あり ×:不良
【0060】
[不織布中のPVAの組成]
30cm×30cmの不織布試料をオートクレーブ中で2000ccの水に浸漬し、120℃で1時間加熱処理した。処理後、熱水中から不織布を取り出して軽く搾り、抽出液を取り換えて同様の操作を実施。計3回の繰り返し処理により、不織布中のPVAを完全抽出除去。処理前後の質量変化より、不織布中のPVAの組成を求めた。
【0061】
[平均繊度]
顕微鏡により倍率1000倍で撮影した不織布試料の拡大写真から、無作為に10本の繊維を選び、それらの繊維径を測定し、その平均値を平均繊維径とした。
【0062】
[目付]
JIS L1906 「一般長繊維不織布試験方法」に準じて測定した。
【0063】
[引張強度・破断伸度]
JIS L1906 「一般長繊維不織布試験方法」に準じて測定した。
【0064】
[伸長回復歪み]
オートグラフを使用し、サンプル幅50mm、チャック間距離50mm(A)、引張速度300mm/分にて100%まで伸長。その後、張力を緩和させたときのチャック間のサンプル長さを測定(B)。下式にて回復歪みを算出した。
伸長回復歪み(%)={(B−A)/A}×100
【0065】
[吸上性]
JIS L1018−70「メリヤス生地試験法」(吸水性B法(バイレック法)KRT No.411−2)に準じて測定した。2.5cm×20cmの不織布の下端に荷重を取り付け、水溶性インク(インク/水=1/5)に試験片の下端1cmまで沈め、10分間保持したときの吸い上げ高さを測定した。
【0066】
実施例1
[エチレン変性PVAの製造]
撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口および開始剤添加口を備えた100L加圧反応槽に酢酸ビニル30.0kgおよびメタノール32.0kgを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が5.5kg/cm(5.5×10Pa)となるようにエチレンを導入仕込みした。開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(AMV)をメタノールに溶解した濃度2.8g/L溶液を調整し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の重合槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液165mlを注入し重合を開始した。重合中はエチレンを導入して反応槽圧力を5.5kg/cm(5.5×10Pa)に、重合温度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を用いて600ml/hrでAMVを連続添加して重合を実施した。10時間後に重合率が68%となったところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下に未反応酢酸ビニルモノマーを除去しポリ酢酸ビニルのメタノール溶液とした。
【0067】
得られた該ポリ酢酸ビニル溶液にメタノールを加えて濃度が50%となるように調整したポリ酢酸ビニルのメタノール溶液2.0kg(溶液中のポリ酢酸ビニル1.0kg)に、0.48kg(ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニルユニットに対してモル比(MR)0.10)のアルカリ溶液(NaOHの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った。アルカリ添加後約5分で系がゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、60℃で3時間放置してけん化を進行させた後、0.5%酢酸濃度の水/メタノール=20/80混合溶液10.0kgを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のPVAに水/メタノール=20/80の混合溶液20.0kgを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、さらにメタノール10.0kgを加えて室温で3時間放置洗浄した。その後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中65℃で2日間放置して乾燥PVA(PVA−1)を得た。
【0068】
得られたエチレン変性PVAのけん化度は98.9モル%であった。また該変性PVAを灰化させた後、酸に溶解したものを用いて原子吸光光度計により測定したナトリウムの含有量は、変性PVA100質量部に対して0.0008質量部であった。
【0069】
また、重合後未反応酢酸ビニルモノマーを除去して得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をn−ヘキサンに沈殿、アセトンで溶解する再沈精製を3回行った後、80℃で3日間減圧乾燥を行って精製ポリ酢酸ビニルを得た。該ポリ酢酸ビニルをDMSO−d6に溶解し、500MHzプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて80℃で測定したところ、エチレンの含有量は8.4モル%であった。上記のポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をアルカリモル比0.5で鹸化した後、粉砕したものを60℃で5時間放置して鹸化を進行させた後、メタノールソックスレーを3日間実施し、次いで80℃で3日間減圧乾燥を行って精製されたエチレン変性PVAを得た。該PVAの平均重合度を常法のJIS K6726に準じて測定したところ350であった。さらに該精製された変性PVAの5%水溶液を調整し厚み10ミクロンのキャスト製フィルムを作成した。該フィルムを80℃で1日間減圧乾燥を行った後に、DSC(メトラー社、TA3000)を用いて、前述の方法によりPVAの融点を測定したところ211℃であった(表1)。
【0070】
【表1】

【0071】
上記で得られたPVAを日本製鋼所(株)二軸押出機(30mmφ)を用いて設定温度230℃、スクリュー回転数200rpmで溶融押出することによりペレットを製造した(表1)。
【0072】
ポリウレタンと上記で得られたPVA(PVA−1)ペレットを準備し、それぞれのポリマーを別の押出機で加熱して溶融混練し、不織布を構成する複合長繊維の繊維軸に直交する繊維断面に占める質量比率がポリウレタン/PVA=80/20になるように230℃の芯鞘型複合紡糸パック(図1)に導き、ノズル径0.35mmφ×1008ホール、吐出量815g/分、せん断速度2000sec−1の条件で紡糸口金から吐出させ、紡出フィラメント群を10℃の冷却風で冷却しながらノズルから80cmの距離にあるエジェクターにより高速エアーで1500m/分の引取り速度で牽引細化させ、開繊したフィラメント群をエンドレスに回転している捕集コンベア装置上に捕集堆積させ長繊維ウエブを形成させた。紡糸状態は、断糸は全く見られず、断面形状も極めて良好であった。
【0073】
次いで、このウエブを80℃に加熱した縦断続柄の凹凸エンボスロールとフラットロールとの間で、線圧50kg/cmの圧力下で通過させ、エンボス部分熱圧着させることにより、単繊維繊度5.4dtexの長繊維からなる目付85g/mの芯鞘型複合長繊維不織布を得た。得られた不織布は均質なもので極めて良好であった。複合長繊維不織布の製造条件を表2に記載する。
【0074】
【表2】

【0075】
さらに得られた長繊維不織布を常温にて縦方向および横方向それぞれ100%延伸処理し、複合長繊維鞘部を形成するPVA層を部分的に破断することで、親水性伸縮繊維不織布を得た。
【0076】
上記で得られた長繊維不織布のPVA組成、繊度、目付、および各種基礎物性評価結果を表3に記載した。良好な親水性および伸縮性を示した。なお、得られた不織布を引っ張り、繊維の状態を顕微鏡で観察したところ、繊維の所々で、繊維表面のPVA層が破断され、間からエラストマー層が顔を出しているのが観察された。
【0077】
【表3】

【0078】
さらに上記で得られた親水性伸縮繊維不織布を用い、包帯やサージカルテープを加工し、実用性評価を行った。不織布表面の肌触りが良好であり、皮膚表面への適合性に優れるものであった。また良好な伸縮性により取り付け・取り外しが容易であり、医療・衛生材料としての取り扱い性にも優れるものであった。
【0079】
実施例2
実施例1で用いたPVAの代わりに表1に記載するPVA−2を用いる以外は実施例1と同様の方法にて複合長繊維からなるウエブを得た。紡糸状態を表2に示す。
【0080】
得られた複合長繊維不織布を実施例1と同様に、常温にて縦方向および横方向それぞれ100%延伸処理し、複合長繊維鞘部を形成するPVA層を部分的に破断することで、親水性伸縮繊維不織布を得た。なお、得られた不織布を引っ張り、繊維の状態を顕微鏡で観察したところ、繊維の所々で、繊維表面のPVA層が破断され、間からエラストマー層が顔を出しているのが観察された。
【0081】
上記で得られた親水性伸縮繊維不織布のPVA組成、繊度、目付、および各種基礎物性評価結果を表3に記載した。良好な親水性および伸縮性を示し、さらに実用性評価においても優れた性能を示した。
【0082】
実施例3
実施例1で用いたPVAの代わりに表1に記載するPVA−3を用いる以外は実施例1と同様の方法にて複合長繊維からなるウエブを得た。紡糸状態を表2に示す。
次いで得られた複合長繊維不織布を常温にて横断続柄の凹凸エンボスロールとフラットロールとの間で、線圧30kg/cmの圧力下で通過させて部分加圧処理し、複合長繊維鞘部を形成するPVA層を部分的に破断することで、親水性伸縮繊維不織布を得た。
上記で得られた親水性伸縮繊維不織布のPVA組成、繊度、目付、および各種基礎物性評価結果を表3に記載した。良好な親水性および伸縮性を示し、さらに実用性評価においても優れた性能を示した。なお、得られた不織布を引っ張り、繊維の状態を顕微鏡で観察したところ、繊維の所々で、繊維表面のPVA層が破断され、間からエラストマー層が顔を出しているのが観察された。
【0083】
実施例4
実施例2で用いたPVAの代わりに表1に記載するPVA−4を用い、ポリウレタンが島成分、PVAが海成分である、12島の海島型複合紡糸繊維とする以外は、実施例2と同様の方法にて複合長繊維からなるウエブを得た。紡糸状態を表2に示す。さらに実施例2と同様の方法にてPVAを破断処理した。得られた親水性伸縮繊維不織布のPVA組成、繊度、目付、および各種基礎物性評価結果を表3に記載した。良好な親水性および伸縮性を示し、さらに実用性評価においても優れた性能を示した。なお、得られた不織布を引っ張り、繊維の状態を顕微鏡で観察したところ、繊維の所々で、繊維表面のPVA層が破断され、間からエラストマー層が顔を出しているのが観察された。
【0084】
比較例1
熱可塑性エラストマーとしてポリウレタンを使用し、エラストマー単独繊維からなる長繊維不織布の製造を行った。紡糸状態は安定せず、低速にてウエブ採取を行ったが、不織布の状態としてはやや均質性に劣るものであった。長繊維不織布の製造条件を表2に記載する。
さらに上記で得られた長繊維不織布の繊度、目付、および各種基礎物性評価結果を表3に記載した。伸縮性は良好であったが、吸水性は全く示さなかった。
【0085】
比較例2
ポリウレタンとポリエチレンを使用し、質量比率がポリウレタン/ポリエチレン=85/15になるように芯鞘型複合紡糸パック(図1)に導き、紡糸、ウエブ形成を行った。紡糸状態および不織布の状態は比較的良好であった。
上記で得られた長繊維不織布の繊度、目付、および各種基礎物性評価結果を表3に記載した。伸縮性が低く、さらに吸水性も全くみられなかった。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明に使用される複合長繊維の複合形態の一例を示す繊維断面図である。
【図2】本発明に使用される複合長繊維の複合形態の他の一例を示す繊維断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマー(A)層と水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(B)層からなり、繊維表面が上記(B)層で被覆されている複合長繊維から構成されている不織布であって、複合長繊維を構成する上記(A)層は実質的に破断されておらず、上記(B)層のみが部分的に破断されている状態を有していることを特徴とする親水性伸縮不織布。
【請求項2】
水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(B)が、炭素数4以下のαオレフィン単位を0.1〜20モル%含有する変性ポリビニルアルコールである請求項1に記載の親水性伸縮不織布。
【請求項3】
水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(B)が、エチレン単位を3〜20モル%含有する変性ポリビニルアルコールである請求項2に記載の親水性伸縮不織布。
【請求項4】
長繊維不織布が、部分的な熱圧着により形態を維持されている請求項1〜3のいずれかに記載の親水性伸縮不織布。
【請求項5】
長繊維不織布が、高圧水流の噴射により絡合されている請求項1〜4のいずれかに記載の親水性伸縮不織布。
【請求項6】
熱可塑性エラストマー(A)が、ウレタン系またはスチレン系の熱可塑性エラストマーである請求項1〜5のいずれかに記載の親水性伸縮不織布。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の親水性伸縮不織布と他の不織布が積層されている不織布積層物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の親水性伸縮不織布または不織布積層物からなる医療材料。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の親水性伸縮不織布または不織布積層物からなる衛生材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−154318(P2007−154318A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−346285(P2005−346285)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】