説明

親水性塗料と親水性塗布体

【課題】 基材の表面に親水性を付与して汚染防止効果や帯電防止効果を発現させる方法のうちスルホン酸をグラフト重合させた4フッ化エチレン樹脂(以下「ナフィオン」(米国デュポン社商標)と称する。)を主体とする親水性塗料を塗布・造膜する方法は最も効果的なもののひとつではあるが、プラスチックや金属基材への接着性の欠如が問題となっている。そこで、上記の親水性塗料において接着性を向上すること。
【解決手段】 スルホン酸をグラフト重合させた4フッ化エチレン樹脂を含有する親水性塗料において、ある特定の比率で熱硬化性フッ素樹脂と硬化成分あるいはアクリルシリコン樹脂を混合し、加熱硬化させることによりこの接着性が飛躍的に向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホン酸をグラフト重合させた4フッ化エチレン樹脂(以下、「ナフィオン(米国デュポン社の登録商標)」ともいう。)を含有する親水性塗料に関するもので、詳しくはプラスチック材や金属製素材(基材)に対する接着性を向上した親水性塗料と、同親水性塗料が基材の表面に塗布された親水性塗布体に関する。
【背景技術】
【0002】
サイディングをはじめ各種基材の表面に親水性を付与し、汚染防止効果や帯電防止効果などを生じさせる方法の一つに、スルホン酸をグラフト重合させた4フッ化エチレン樹脂(ナフィオン)を主体とする親水性塗料を塗布する方法がある。この方法で親水性塗料が基材の表面に造膜された塗布体は、非光励起作用状態(光が照射されない状態)において静的接触角あるいは動的後退接触角のいずれかが30°以下となる親水性作用を発揮する。
【0003】
一方、いわゆる公知の光触媒(酸化チタンなどの金属酸化物)を使用する方法では、下記のような問題点がある。すなわち、
1.裏反応が生じるため光触媒を含むクリヤーの塗布に先立って、裏反応から下地を保護すべきバリアーコートを更に塗布しなければならず、その付加工程のための設備を新設しなければならない。
【0004】
2.光照射によりはじめて親水性が発現するため、製造および出荷時に親水性の出荷検査が行いにくい。
【特許文献1】特開平9−227805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ナフィオン(登録商標)を主体とする親水性塗料の場合には、以下のような解決すべき課題ある。すなわち、
ナフィオン(登録商標)は本来、フッ素樹脂で接着性を具備しておらず、高分子構造に含まれるスルホン酸基がマイナスイオンで、プラスイオンと引き合う傾向があるので、プラスチック材や金属製素材などの基材に対しその弱いイオン同士の吸引力で、ある程度接着している。ただし、耐摩耗性を発揮し得るほどの接着性はなかった。
【0006】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、ナフィオン(登録商標)を主体とする親水性塗料のもつ接着性に劣るという弱点を克服して接着性の向上を図り、プラスチック材や金属製素材などの表面が平滑な基材表面へ塗布し、造膜することで、親水性を付与して汚染防止効果や帯電防止効果を発現させ、優れた耐摩耗性を発揮させることができる親水性塗料と同塗料を用いた親水性塗布体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために本発明(請求項1)に係る親水性塗料は、スルホン酸をグラフト重合させた4フッ化エチレン樹脂(ナフィオン(登録商標))を含有する親水性塗料において、熱硬化性フッ素樹脂とその硬化剤を樹脂成分中の20〜85質量%の範囲で含有させたことを特徴とする。
【0008】
上記の構成を有する親水性塗料によれば、熱硬化性フッ素樹脂とその硬化剤(硬化剤用樹脂)との樹脂成分の含有量が全樹脂成分(ナフィオン中の樹脂成分を含む)の20質量%を下回ると、基材に対する十分な接着性が確保できなくなる一方、全樹脂成分の85質量%を上回ると、親水性塗料の主体であるナフィオン(登録商標)の有する親水性に代表される、いわゆる光触媒効果が有効に発揮されなくなるからである。そして、熱硬化性フッ素樹脂とその硬化剤との樹脂成分を上記のとおり全樹脂成分中の20〜85質量%の範囲で含有させたことによって、ナフィオンの極めて低い接着力が補われる。
【0009】
つまり、ナフィオンには反応性官能基がスルホン酸しかないが、スルホン酸はイオン性が強いために共有結合を形成しにくいという性状がある。この性状を生かし、ナフィオンと相溶し、かつ基材の表面と結合しやすい樹脂成分である熱硬化性フッ素樹脂とその硬化剤を共存させることにより、接着力が大幅に向上し、加工性や耐摩耗性も向上する。この結果、非光励起作用状態で親水性を基材の表面に付与し、汚染防止効果や帯電防止効果などを発揮する。なお、硬化剤(用樹脂)の種類で熱硬化性フッ素樹脂に対する硬化剤の配合割合は変わるので、限定できないが、通常、熱硬化性フッ素樹脂100重量(質量)部に対し5〜40重量(質量)部になる。
【0010】
上記の目的を達成するために本発明(請求項2)に係る親水性塗料は、スルホン酸をグラフト重合させた4フッ化エチレン樹脂を含有する親水性塗料において、アクリルシリコン樹脂を樹脂成分中の20〜70質量%の範囲で含有させたことを特徴とする。
【0011】
上記の構成を有する親水性塗料によれば、アクリルシリコン樹脂の含有量が全樹脂成分(ナフィオン中の樹脂成分を含む)の20質量%を下回ると、基材に対する十分な接着性が確保できなくなる一方、全樹脂成分の70質量%を上回ると、親水性塗料の主体であるナフィオン(登録商標)の有する親水性に代表される、いわゆる光触媒効果が有効に発揮されなくなるからである。そして、アクリルシリコン樹脂を前記のとおり全樹脂成分中の20〜70質量%の範囲で含有させたことによって、ナフィオンの極めて低い接着力が補われる。また、ナフィオンのスルホン酸の共有結合を形成しにくいという性状を生かし、ナフィオンと相溶し、かつ基材の表面と結合しやすい樹脂成分であるアクリルシリコン樹脂を共存させることにより、接着力が大幅に向上し、加工性や耐摩耗性も向上する。この結果、非光励起作用状態で親水性を基材の表面に付与し、汚染防止効果や帯電防止効果などを発揮する。
【0012】
請求項3に記載のように、請求項1記載の親水性塗料における熱硬化性フッ素樹脂の硬化剤が、(ブロック)イソシアネート、メラミン樹脂、ポリアミド、酸無水物、シランカップリング剤のいずれかから選択される1〜5種の混合物であることが好ましい。
【0013】
このように、前記熱硬化性フッ素樹脂は硬化剤による架橋反応を惹起させてはじめて造膜するが、これは同時に膜強度と下地接着性の向上を意味する。本請求項に列記した硬化剤は、そうした効果を最大限に得るために最も好適なものである。
【0014】
請求項4に記載のように、前記親水性塗料の顔料成分中に光触媒を含むことができる。
【0015】
このように構成することにより、請求項1〜3のいずれか記載の親水性塗料において、ナフィオンを分解することなく、消臭、抗菌、大気浄化等の光触媒効果を奏するようになる。また、顔料成分である上記光触媒は、チタニアゾル、ゼオライトで表面被覆された酸化チタン、シリカで表面被覆された酸化チタン、およびアパタイトで表面被覆された酸化チタンから選ばれる1〜4種のうちいずれか1種あるいは2種以上の混合物とすることが好ましい。
【0016】
請求項5に記載の親水性塗布体は、請求項1〜4のいずれか記載の親水性塗料を基材表面に塗布し、80〜200℃の温度下で加熱することにより前記基材の表面に造膜させたことを特徴とする。
【0017】
上記の構成を有する親水性塗布体によれば、塩化ビニル樹脂の耐熱温度が80℃近辺であるため、80℃以上で加熱し焼き付けるものとする一方、ナフィオンおよび熱硬化性フッ素樹脂については200℃が上限温度である。より具体的には、本発明に係る親水性塗料を基材の表面に塗布した塗布体を、雰囲気温度80℃〜200℃のオーブンに入れて5〜30分間焼き付けるか、塗布体搬送用コンベアを備えた、温風の吐出温度が80℃〜200℃の風速の早いハイベロシティーオーブンで1〜3分間焼き付けるかすることができる。
【発明の効果】
【0018】
上記の構成からなる親水性塗料および同塗料を用いた親水性塗布体には、次のような優れた効果がある。
【0019】
ナフィオン(登録商標)は親水性ポリマーで、一般的な光触媒塗料と異なり受光しなくても、つまり非光励起作用状態で親水性を発揮し、汚染防止効果や帯電防止効果なども奏するが、上記したとおり接着性が低いために、プラスチック材や金属材のような表面が平滑な基材に塗布した際に塗膜が形成されても簡単に剥離するので、実施が困難であった。これに対し、本発明の親水性塗料によれば、 含有されているナフィオンには反応性官能基がスルホン酸しかなく、しかもこのスルホン酸がイオン性が強くて共有結合を形成しにくいという性状を生かすことで、ナフィオンと相溶しかつ下地となる基材の表面と結合しやすい、熱硬化性フッ素樹脂とその硬化剤用樹脂あるいはアクリルシリコン樹脂を共存させることにより、ナフィオンの接着性の低さを十分に補うことができる。加えて、親水性塗料の接着力が向上されることにより、本発明の親水性塗料が塗布された塗布体の加工性や耐摩擦性の向上も同時に達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の親水性塗料について実施の形態を説明する。
【0021】
実施例1
熱硬化性フッ素樹脂とその硬化剤を樹脂成分とする。
【0022】
a)熱硬化型フッ素樹脂(大日本インキ化学工業(株)製の商品名「フルオネートK702」) 20
b)硬化剤用メラミン樹脂(大日本インキ化学工業(株)製の商品名「スーパーベッカミンL105-60」) 5
c)ナフィオン(登録商標)溶液(米国デュポン社製の商品名「ナフィオンDE2020」) 50
d)酢酸N-ブチル 25
a)の不揮発分は50質量%であり、b)の不揮発分は60質量%であるから、a)とb)を合計した架橋型フッ素樹脂とその硬化剤成分は13質量部となる。また、c)の不揮発分は20質量%であるから、当該塗料樹脂成分中の架橋型フッ素樹脂とその硬化剤成分の含有量は56.5質量%となる。
【0023】
この溶液(親水性塗料)を、ポリエステル樹脂焼付け塗装板にスプレーで塗装した。塗布量は100g/mとし、それを140℃―10分(温度140℃で10分間加熱)の雰囲気下で焼き付けた。

比較例1
実施例1のc)ナフィオン溶液量を10とし、塗料樹脂成分中の架橋型フッ素樹脂とその硬化剤成分の含有量を86.7質量%とした以外は、実施例1と同様に試料を作製した。

実施例2
アクリルシリコン樹脂を樹脂成分とする。
【0024】
以下の配合に従い塗料を調製した。
【0025】
a)アクリルシリコン樹脂(昭和高分子製の商品品「ポリゾールAP3900」) 40
b)エチレングリコー 10
c)ナフィオン溶液(米国デュポン社製の商品品「ナフィオンDE2020」) 30
d)水 20
a)の不揮発分は50質量%であり、c)の不揮発分は20質量%であるから、当該塗料樹脂成分中のアクリルシリコン樹脂の含有量は77質量%となる。
【0026】
この溶液を塩ビ板にスプレーで塗装した。塗布量は100g/mとし、それを80℃―10分の雰囲気下で乾燥させた。

比較例2
実施例2におけるa)アクリルシリコン樹脂を8とし、c)ナフィオン溶液を90とすることにより、塗料樹脂成分中のアクリルシリコン樹脂の含有量を18.2質量%とした以外は実施例2と同様に試料を作製した。
【0027】
実施例3
(硬化剤にシランカップリング剤を用いた実施例である)
a)熱硬化型フッ素樹脂(大日本インキ化学工業(株)製の商品名「フルオネートK702」) 30
b)イソシアネート系シランカップリング剤(モメンティブパーフォーマンスケミカルズ
ジャパン社製の商品名「Y-5187」) 3
c)ナフィオン(登録商標)溶液(米国デュポン社製の商品名「ナフィオンDE2020」) 40
d)酢酸N-ブチル 26
e)硬化促進触媒「ジブチル錫ジアセテート0.1%溶液」 1

a)の不揮発分は50質量%であり、b)の不揮発分はほぼ100質量%であるから、a)とb)を合計した架橋型フッ素樹脂とその硬化剤成分は18質量部となる。また、c)の不揮発分は20質量%であるから、当該塗料樹脂成分中の架橋型フッ素樹脂とその硬化剤成分の含有量は64.3質量%となる。
【0028】
この溶液(親水性塗料)を、ポリエステル樹脂焼付け塗装板にスプレーで塗装した。塗布量は100g/mとし、それを140℃―10分(温度140℃で10分間加熱)の雰囲気下で焼き付けた。
【0029】
なお、シランカップリング剤以外に、(ブロック)イソシアネート、メラミン樹脂、ポリアミド、酸無水物を使用できることは言うまでもなく、またシランカップリング剤を含む上記のいずれかの硬化剤から選択される2種〜5種の混合物を使用することもできる。

実施例4
(光触媒を含有させた実施例である)
熱硬化性フッ素樹脂とその硬化剤を樹脂成分とする。
【0030】
a)熱硬化型フッ素樹脂(大日本インキ化学工業(株)製の商品名「フルオネートK702」) 20
b)硬化剤用メラミン樹脂(大日本インキ化学工業(株)製の商品名「スーパーベッカミンL105-60」) 5
c)ナフィオン(登録商標)溶液(米国デュポン社製の商品名「ナフィオンDE2020」) 50
d)酢酸N-ブチル 10
e)光触媒酸化チタンスラリー液(石原産業(株)製品)「STS−100」 15
a)の不揮発分は50質量%であり、b)の不揮発分は60質量%であるから、a)とb)を合計した架橋型フッ素樹脂とその硬化剤成分は13質量部となる。また、c)の不揮発分は20質量%であるから、当該塗料樹脂成分中の架橋型フッ素樹脂とその硬化剤成分の含有量は56.5質量%となる。また、STS−100の不揮発分が20質量%であるから不揮発分全体に占める光触媒濃度は11.5質量%となる。
【0031】
この溶液(親水性塗料)を、ポリエステル樹脂焼付け塗装板にスプレーで塗装した。塗布量は100g/mとし、それを140℃―10分(温度140℃で10分間加熱)の雰囲気下で焼き付けた。
下記の表1は比較性能試験結果を示すものである。
【0032】
【表1】

・接着性
碁盤目テープ剥離試験:碁盤目セロテープ(登録商標)剥離で100/100の良好な接着性を確認して「○」と判定した。逆にチョーキングあるいは塗膜の白濁があり、その面での碁盤目セロテープ(登録商標)剥離が100/100より悪い場合を「×」と判定した。
・親水性
動的・後退接触角を測定した。動的・後退接触角:30°以下を○、80°以上を×とした。手順としては、まず水平に静置した試料表面に水滴を2μl滴下し、1分経過後に更に4μl滴下して追加した。1分経過後にその追加分の4μlを吸引して、更に1分経過後にその界面の接触角を測定した。
・加工性
基材を180°折り曲げてそのときのクラック発生をルーペで確認。クラック発生なしを○、クラックが発生したものを×とした。
・耐摩擦性
テーバー磨耗試験。荷重1kgで200回転時の減量が2mg以下であれば○とし、同条件下での減量が2mgを超える場合には×とする。
・上記各実施例または各比較例の塗料を塗布した基材の種類
実施例1、実施例3、実施例4および比較例1はポリエステル塗装鋼板(高温で焼付け 可能)、実施例2、比較例2は塩ビ板(低温乾燥のみ可能)である。
・メチレンブルー分解活性
この分媒活性はJIS R 1703−2に定義されている。消臭・抗菌・大気浄化等の光触媒効果を再現性のある数値として表記しうる代表的な尺度が、メチレンブルーを用いた分解活性指数であるが、このメチレンブルーは光照射による劣化が極めて少なく、逆にラジカル(遊離基)と選択的に反応するため、光触媒反応でラジカルが生じると急速に脱色するという特性を有している。光触媒反応の効果と目される消臭・抗菌・大気浄化作用は、すべて発生するラジカルにより惹起されるものであるから、メチレンブルーの分解とこれらの効果の間には密接な相関関係が存在する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸をグラフト重合させた4フッ化エチレン樹脂を含有する親水性塗料において、熱硬化性フッ素樹脂とその硬化剤を樹脂成分中の20〜85質量%の範囲で含有させたことを特徴とする親水性塗料。
【請求項2】
スルホン酸をグラフト重合させた4フッ化エチレン樹脂を含有する親水性塗料において、アクリルシリコン樹脂を樹脂成分中の20〜70質量%の範囲で含有させたことを特徴とする親水性塗料。
【請求項3】
前記熱硬化性フッ素樹脂の硬化剤が、(ブロック)イソシアネート、メラミン樹脂、ポリアミド、酸無水物、シランカップリング剤のいずれかから選択される1〜5種の混合物であることを特徴とする請求項1記載の親水性塗料。
【請求項4】
前記親水性塗料の顔料成分中に光触媒を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の親水性塗料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の親水性塗料を基材表面に塗布し、80〜200℃の温度下で加熱することにより前記基材の表面に造膜させたことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の親水性塗料が表面に塗布された親水性塗布体。

【公開番号】特開2009−185107(P2009−185107A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23487(P2008−23487)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(591164794)株式会社ピアレックス・テクノロジーズ (25)
【Fターム(参考)】