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親水性塗料組成物、親水性塗料組成物の調製方法、親水性塗膜層および建築材
説明

親水性塗料組成物、親水性塗料組成物の調製方法、親水性塗膜層および建築材

【課題】有機系基材表面に一層コーティングした場合に、形成された親水性塗膜層が該有機系基材をほぼ分解せず、この親水性塗膜層が親水能を有する親水性塗料組成物の提供。
【解決手段】結晶性の酸化チタン粒子と非晶性の酸化チタン粒子とを含有し、有機系基材の表面に塗布される親水性塗料組成物において、前記結晶粒子と前記非晶粒子のそれぞれにバナジウムが含有されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射により親水能を発揮する機能性粒子とバインダーとを含有する親水性塗料組成物、該親水性塗料組成物の製造方法、さらには該親水性塗料組成物により基材表面に形成した親水性塗膜層、該基材を用いた建築材に関する。また、該親水性塗膜層により基材の親水性、親水化能を高めて該基材に長期的な防汚性能を付与する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性の酸化チタン等は、図3に示すように、バンドキャップ以上のエネルギーを有する紫外光が照射されると励起されて電子と正孔を生じ、これらが水分子に作用してOHラジカルが生じ有機物が分解される。そのため、酸化チタン等について様々な角度から防汚や浄化についての研究がなされてきた。防汚に関することとして、ゾル−ゲル法、固相反応や気相反応等により酸化チタンを含む膜を形成し建築材や車などの防汚が行われている。
【0003】
結晶性の酸化チタンを含む塗膜の形成に用いられる塗料としては、酸化チタン粉体スラリー、該酸化チタンの塩水溶液やチタンアルコキシドの加水分解で作製したゾル、該チタンが過酸化状態の非晶性の酸化チタン粒子で存在する酸化チタンゾル溶液、結晶性の酸化チタンが粒子として存在する金属ゾル溶液等がある。
【0004】
これらの塗料の作製過程において、結晶性の酸化チタン粒子に他の金属をドーピング(ドープ)等することが行われている。このドープにより、酸化チタンのバンドキャップエネルギーが変位して、可視光の波長域でも酸化チタンが励起されるようになり、親水能や有機物分解能を発揮する。しかし、正孔と電子はドープされた金属に集まりやすいため、正孔と電子が互いに結合して消えて有機物を分解する活性が維持できないという側面もある。
【0005】
酸化チタンは金属酸化物のなかでも光触媒能が高く、その結晶相としてアナターゼ型、ブルールカイト型、ルチル型が知られ、最も低温で生成され安定な結晶相はアナターゼ型である。
【0006】
例えば、非特許文献1には、バナジウムまたはニオブがドープされた酸化チタンの粒子(非晶性の酸化チタン粒子、結晶性の酸化チタンの超微粒子)の製造方法が開示されている。この製造方法は、バナジウム(V)またはニオブ(Nb)を含む四塩化チタンの水溶液にアンモニア水と過酸化水素を添加することで水熱反応を起こし、バナジウムまたはニオブを含むペルオキソチタン酸(HO−(NbO5n−(TiO5m−OH、m>nまたはHO−(VO5)p−(TiO5q−OH)、q>p)の非晶性の分子を形成し、さらにこのペルオキソ状態の複合金属酸の水溶液を100℃で8時間還流することでバナジウムまたはニオブがドープされた直径数ナノメートルである結晶性の酸化チタンの超微粒子を形成する技術内容が開示されている。
【0007】
一方、特許文献1には、塗膜を形成して有機系の高分子樹脂に防汚性能を付与するにあたり、酸化チタンを含む塗布剤により塗膜を形成する例が示されており、非晶性の酸化チタン粒子を水溶媒に分散したバインダーを用いて有機系の高分子樹脂の上に第1層を設け、さらにこの第1層の上に光触媒能を有する結晶性酸化チタンを主として含む第2層とを設けた例が示されている。これによって、第2層が照射されて有機物分解能が発揮されても、第2層と有機系の高分子樹脂との間に介在する第1層によって有機系の高分子樹脂が保護されて分解されることがない。
【0008】
しかしながら、前者の非特許文献1のドープは、結晶性の酸化チタン粒子を可視光領域でも励起可能とし、有機物分解能や親水能を高める目的で行われ、この非特許文献1に挙げられている非晶性の酸化チタン粒子については、その結晶性の酸化チタン粒子を製造するための中間産物にすぎない。
【0009】
一方後者の特許文献1のものでは、有機系の高分子樹脂と第2層との間に第1層が介在し、この第1層に含まれるバインダー中の非晶性の酸化チタン粒子は、時間の経過とともに部分結晶化を起こして有機物分解能を有するようになり、第1層の下地である有機系の高分子樹脂の分解が起こる虞がある。
【0010】
さらに、この非晶性の酸化チタン粒子を含む第1層は低コストとする等の理由からも薄膜となるため、均一に塗ることが困難であり、その塗膜は透明であるため、均一に塗布できなかった部分を見つけて補修するのは非常に面倒で時間もかかる。
【0011】
特許文献1のものは、2つの層を設けるため、1つの層のみを設ける場合に比べてコストや時間がかかり、それぞれの層を設ける工程は別であるため、少なくとも2つの作業用のスペースを確保しなげればならないという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平9−262481号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】一ノ瀬 弘道、“酸化チタンコーティング剤の改良と環境浄化への応用”、[online]、3.研究報告P.85−89平成14年度研究報告,佐賀県窯業技術センター、[平成21年9月3日検索]、インターネット<URL:http://www.scrl.gr.jp/research/reports/h14/h14titancoat.pdf>
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、有機物分解能を有する結晶性の酸化チタン粒子と、次第にその有機物分解能を増加させていくバインダーの成分の非晶性の酸化チタン粒子とにバナジウムを含有させることにより、それらの有機物分解能(結果的には有機物分解活性)を調節できることを見出して本発明の完成に至った。
【0015】
すなわち、本発明に係る親水性塗料組成物は、結晶性の酸化チタン粒子(機能性粒子)と非晶性の酸化チタン粒子(前駆体)とを含有し、有機系基材の表面に塗布される親水性塗料組成物において、前記結晶性の酸化チタン粒子と前記非晶性の酸化チタン粒子のそれぞれにバナジウムが所定の割合で含有されていることを特徴とする。
【0016】
また、バナジウムはドープ等の方法により含有されていてもよく、バナジウムを含有した結晶性の酸化チタン粒子と非晶性の酸化チタン粒子は、チタンとバナジウムのそれぞれの水酸化物を所定の比率で含む水溶液に酸化剤を添加し、この添加によって起こる反応により調製されてもよい。
【0017】
さらに、前記結晶性の酸化チタン粒子の形成には、この粒子の形成に用いるチタンのモル量に対して1〜10モル%となるモル量のバナジウムを用いることとしてもよい。
【0018】
同様に、前記非晶性の酸化チタン粒子の形成には、この粒子の形成に用いるチタンのモル量に対して1〜10モル%となるモル量のバナジウムを用いることとしてもよい。
【0019】
本発明に係る上記親水性塗料組成物の調製方法は、チタンとバナジウムのそれぞれの水酸化物を所定の比率で含む水溶液に酸化剤を添加し、この添加により起こる反応によってチタンとバナジウムを同一分子内に含む前記非晶性の酸化チタン粒子を形成する工程と、該非晶性の酸化チタン粒子の溶液を所定温度で所定時間加熱することで前記結晶性の酸化チタン粒子を形成する工程とを備えていること特徴とする。
【0020】
本発明に係る塗膜は上記親水性塗料組成物を用いて形成した塗膜(親水性塗膜層)であり、本発明に係る建築材はこの親水性塗膜層を有する。
【0021】
なお、「光触媒製品技術協議会会則・諸規定および試験法2005年6月」には、光励起触媒製品について品質と安全性に関する自主規格が定められており、本発明に係る結晶性の酸化チタン粒子や非晶性の酸化チタン粒子は、後述するように、この文献に記載されているメチレンブルーによる活性試験(液相フィルム密着法)でメチレンブルーが完全に退色することはないため、光触媒には分類されない。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、前記結晶性の酸化チタン粒子に有機物分解能を抑制するバナジウムが所定の割合で含有されているため、前記結晶性の酸化チタン粒子の有機物分解能をバナジウムにより抑制させることができる。
【0023】
また、前記非晶性の酸化チタン粒子は、所定条件下(例えば溶液温度が40℃である温度条件下や自然暴露条件下でも)で時間経過とともに徐々に結晶化(部分結晶化)していくことから、このような結晶化によりバインダーとしては不必要な有機物分解能を有するようになる。
【0024】
しかし、上記同様に前記非晶性の酸化チタン粒子にも所定の割合でバナジウムが含有されているため、この不必要な有機物分解能の発現を抑制することができる。
【0025】
上述した理由から、有機系基材の表面に前記親水性塗料組成物を塗布して一層コーティングしても前記有機系基材の分解されにくいものとなる。このため、従来のように有機系基材の表面と酸化チタンの層との間に無機のバインダー層を介在させて酸化チタン層の不必要な分解から有機系基材を保護する必要がない。
【0026】
さらに、一層コーティングで済むことから、バインダー層のコーティングにかかる費用(材料費、人件費)の省略、建築材の製造時間の短期化およびバインダー層をコーティングする作業スペースの省略を図ることができる。
【0027】
前記結晶性の酸化チタン粒子形成に用いられるチタンのモル量に対して1〜10モル%となるモル量のバナジウムが用いられてバナジウムが前記結晶性の酸化チタン粒子に含有されているため、前記親水性塗料組成物ひいてはその親水性塗膜層の透明性を損なわず且つ適正な範囲で前記抑制を調節できる。
【0028】
前記非晶性の酸化チタン粒子形成に用いられるチタンのモル量に対して1〜10モル%となるモル量のバナジウムが用いられてバナジウムが前記非晶性の酸化チタン粒子に含有されているため、前記親水性塗料組成物ひいてはその親水性塗膜層の透明性を損なわず且つ適正な範囲で前記抑制を調節できる。
【0029】
用いるバナジウムのモル量が10モル%を超えると親水性塗膜層に視認できる程度の色が着くため好ましくない。
【0030】
前記バナジウムが前記結晶性の酸化チタン粒子と前記非晶性の酸化チタンのそれぞれに含有されていることで、それぞれに均一にバナジウムが分散し、これにより電子と正孔の生じた箇所の近くにそれらの再結合センターが散在する状態となり、有機物分解能の抑制の調節をより行いやすいものとなる。
【0031】
また、前記バナジウムの含有量を調節することにより親水性塗膜層を所望の有機物分解能に調節することができるようになる。
【0032】
本発明に係る上記親水性塗料組成物の調製方法は、チタンとバナジウムのそれぞれの水酸化物を所定の比率で含む水溶液に酸化剤を添加し、この添加により起こる反応によってチタンとバナジウムを同一分子内に含む前記非晶性の酸化チタン粒子を形成する工程と、該非晶性の酸化チタンの溶液を所定温度で所定時間加熱することで前記結晶性の酸化チタン粒子を形成する工程とを備えているため、前記結晶性の酸化チタン粒子と前記非晶性の酸化チタンに水相でバナジウムを含有させる。
【0033】
水相でバナジウムを含有させるため、スパッタリング法や燃焼法等の気相法のように酸化チタンの内部に酸素が欠損した部位が形成されることがなく、前記非晶性の酸化チタン粒子を形成する工程が容易なうえバナジウムを均一に含有させることができる。
【0034】
また、親水性塗膜層を有する建築材とすることで前述した有機物分解能抑制の効果を有する建築材が得られる。
【0035】
例えば酸化チタンを含む層を外装の一部として有する有機系の建築材では、酸化チタンによる有機物分解により建築材が侵食されるため、建築材が短寿命化してしまうが、本発明に係る建築材であれば、上記と同量の酸化チタンを含む層の建築材の場合でも、この層(親水性塗膜層)に含まれるバナジウムにより、防汚性能としての親水能及び有機物分解能(セルフクリーニング能力)を多少犠牲とするが、上記のように建築材が短寿命化することがない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1A】本発明の実施の形態に係るコーティング剤の調製方法の工程1、2を工程順に示した図である。
【図1B】本発明の実施の形態に係るコーティング剤の調製方法の工程3〜5を工程順に示した図である。
【図1C】本発明の実施の形態に係るコーティング剤の調製方法の工程6、7に示した図である。
【図2】(A)バナジウム(V)を含有させない場合の電子と正孔の動きを示す説明図である。(B)バナジウム(V)を含有させた場合の電子と正孔の動きを示す説明図である。
【図3】各金属酸化物のバンドキャップエネルギー、親水能および有機物分解能を示した図である。
【図4】所定期間40℃温水浸漬したアモルファス溶液(バナジウム含有の有・無)を用いて形成した親水性塗膜層の有機物分解能を示した表である。
【図5】図4の表の折れ線グラフを示す。
【図6】所定期間40℃温水浸漬したアモルファス溶液(バナジウム含有の有・無)を用いて形成した親水性塗膜層の親水能を示した表である。
【図7】図6の表の折れ線グラフを示す。
【図8】バナジウムの含有させる場合とさせない場合のそれぞれで、アナターゼ溶液(ANA)/アモルファス溶液(AMO)の固形分比を変えて形成した親水性塗膜層の有機物分解能を示した表である。
【図9】図8の表の折れ線グラフを示す。
【図10】バナジウムの含有させる場合とさせない場合のそれぞれで、アナターゼ溶液(ANA)/アモルファス溶液(AMO)の固形分比を変えて形成した親水性塗膜層の親水能を示した表である。
【図11】図10の折れ線グラフを示す。
【図12】アナターゼ粒子とアモルファス粒子の各粒子の形成に用いたバナジウムのモル量(モル%)が親水性塗膜層の色味に与える影響を示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明に係るコーティング剤(親水性塗料組成物)は、有機物分解能を有する結晶性の酸化チタン粒子(以下、アナターゼ粒子)と、所定条件下で次第にその有機物分解能を増していくバインダーの成分の非晶性の酸化チタン粒子(以下、アモルファス粒子)とにバナジウムが例えばドープ等の方法によりそれぞれ含有されている。
【0038】
アナターゼ粒子とアモルファス粒子は、アナターゼ溶液とアモルファス溶液にそれぞれ固形分として含まれている。アナターゼ溶液/アモルファス溶液の固形分比は90:10〜10:90、好ましくは75:25〜25:75で前記コーティング剤に含有されている。
【0039】
アナターゼ溶液の固形分比が90を超える場合には、コーティング剤の組成中のアモルファス粒子の割合が少なくなり、形成した親水性塗膜層の有機系基材への付着力が低下し、親水性塗膜層が剥がれやすくなってしまうため好ましくない。
【0040】
バナジウムは、前記アモルファス粒子形成に用いたチタンのモル量に対して1〜10モル%となるモル量で前記アモルファス粒子に含有させることが望ましい。このバナジウムのモル量が1モル%より少ないと上記有機物分解能を抑制する効果が低く、10モル%より高い場合は後述するように褐色が増すため、親水性塗膜層の透明性が失われてしまう。
【0041】
バナジウム源としては、塩化バナジウム、水酸化バナジウム、硫化バナジウム、ヨウ化バナジウム等のバナジウム化合物を用いることができる。
【0042】
同様にバナジウムは、前記アナターゼ粒子形成に用いたチタンのモル量に対して1〜10モル%となるモル量で前記アナターゼ粒子に含有させることが望ましい。このバナジウムのモル量が1モル%より少ないとアナターゼ粒子の有機物分解能を抑制する効果が低く、10モル%より高い場合は親水性塗膜層の褐色が増すため、同様に透明性が失われてしまう。
【0043】
前記バナジウムを各粒子に含有させる場合、その方法は基本的に「一ノ瀬 弘道、“酸化チタンコーティング剤の改良と環境浄化への応用”」(非特許文献1)に記載の製造方法に沿っており、この文献によれば、このゾルに含まれるアナターゼ粒子の平均粒子径は、40nmの以下範囲となっていると推定される。なお、具体的な手順は後述の[工程1]〜[工程7]による。
【0044】
本発明に係る親水性塗膜層に用いることができる有機系基材としては、建築材に用いられ得るもので、有機高分子ポリマーを含有する基材を挙げることができる。例えば、アクリルシリコン系、アクリルウレタン系、ポリオレフィン系、ポリエーテル系、フッ素系等の有機ポリマーを用いることができる。
【0045】
この有機系基材として、コーティング剤を塗布した際に基材表面に縞状の液滴の形成が防止される程度に親水性のものであれば、よりムラ無く塗ることができる理由から好ましいが、一様に塗布できるものであればよい。また無機系基材の場合には、特に制限なくどの材質の基材を用いてもよい。
【0046】
コーティング剤に界面活性剤を添加すれば、表面張力が下がるので塗る際に有機系基材表面でコーティング剤がはじかれにくくなり、より一層ムラ無く均一に塗ることが出来る。
【0047】
この界面活性剤としては、水溶性の溶剤であればよく、アニオン,カチオンのイオン性分子,ノニオン系の非イオン性分子など用いることができる。例えば、メタノール、エタノール、プロパノールのモノアルコール類や、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールのジアルコール類を使用できる。また、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブのセロソルブ類も使用できる。
【0048】
また、コーティング剤がほぼ無機組成分であることから有機系基材に塗布する場合、形成した親水性塗膜層の基材に対する密着性を高めるためにコーティング剤にカップリング剤を添加してもよい。このカップリング剤としては、例えばシランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミカップリング剤を用いることができる。形成されるほぼ無機の親水性塗膜層がこのカップリング剤により有機系基材表面により強固に結合する。
【0049】
さらに、親水性塗膜層のつやを消して見栄えを良くするためにコーティング剤につや消し剤を添加してもよい。つや消し剤としては、カオリン、タルク、アルミナ、ハイドロタルサイト、ベントン、硫酸バリウム、炭酸カルシウムなど体質顔料やクレー類を用いることができる。
【0050】
本発明に係るコーティング剤を調製する調製方法は、チタンとバナジウムのそれぞれの水酸化物を所定の比率で含む水溶液に過酸化水素水等の酸化剤を添加し、この添加によって起こる反応によって前記チタンと前記バナジウムを同一分子内に含むアモルファス粒子を形成し、さらに該アモルファス粒子からアナターゼ粒子を形成する。
【0051】
以下、図1A〜1Cを参照しながら親水性塗料組成物の調製方法と親水性塗膜層の形成について説明する。なお、説明中の具体的な数値は例示であってこれらに限られない。
[工程1]:原料準備
工程2以降で使用する原料として、チタン源、バナジウム源等を用意する。
【0052】
まず、最終的に調製するアモルファス溶液またはアナターゼ溶液の容量を決定し、溶液中に含まれるチタンの終濃度(例えば0.5重量%)とチタンのモル量(例えば0.1mol)を決定し、このチタンのモル量を含む塩化チタン水溶液をチタン源として用意する。アモルファス溶液を調製する場合とアナターゼ溶液を調製する場合の双方でチタンのモル量を同量とした方が後のコーティング剤の調製時に簡便となる。
【0053】
さらに、上記したチタンのモル量に対して1〜10モル%となるバナジウムのモル量(上の例では0.001〜0.01mol)を含む例えば酸化バナジウム(0.0005〜0.005mol)を用意する。
【0054】
また、中和用のアンモニア水とバナジウム溶液調製用のアンモニア水を用意する。バナジウム溶液調製用のアンモニア水中のアンモニアのモル量は、最終的に中和に用いられるアンモニアのモル量以下で、pH調整時のスタートのpHを設定するためのものとして、任意のモル量を加えることができる。
【0055】
そして、図1Aに示すように、バナジウムを含む化合物(上の例では酸化バナジウム)をバナジウム溶液調製用のアンモニア水に溶解し、蒸留水にて適宜希釈(上の例では酸化バナジウム濃度を0.9重量%と)してバナジウム溶液を得る。
【0056】
また、非常に酸性であるので塩化チタン水溶液とこれに含まれる塩化チタン重量の2倍程度の蒸留水とを混合しておいてもよい。
[工程2]:沈殿
工程2では、工程1で調製した各溶液を混合し、沈殿物(ゲル)を形成する。
【0057】
まず、バナジウム溶液と中和用のアンモニア水を混合し、この溶液全量を塩化チタン水溶液に徐々に加えていく。その後、さらにアンモニア水にてpHを調整していくが、高粘度のアモルファス粒子を調製する場合にはpH3〜5、アナターゼ粒子を調製する場合にはpH7とするのが好ましい。
【0058】
これにより、水酸化チタンと水酸化バナジウムが混ざった沈殿物(ゲル)を得る(図1の工程2参照)。
【0059】
ここで上記バナジウム溶液とアンモニア水の混合の際に、混合する酸化バナジウム溶液の量の調節することで含有させるバナジウムの量を調節することができる。
[工程3]:不要イオン除去(洗浄)
次に、工程3では、図1Bに示すように、工程2の沈殿物(ゲル)に蒸留水を加えて水洗し、上澄みを除去する。この水洗は、上澄み液の導電率が塩化物イオン、アンモニウムイオンが所定濃度以下となる10μs/cmまで繰り返す。これは、アンモニウムイオンがある濃度以上に残留した状態(非特許文献1では0.014mol/l以上としている)では後の工程5を行うときに結晶化が進みにくい等の理由による。水洗した後に沈殿物(ゲル)の重量に、最終の溶液濃度(実施例では0.5%)にするために必要な量の水を加える(不図示)。
[工程4]:ゲルの溶解(アモルファス溶液の調製)
次に、工程4では工程3で洗浄した沈殿物(ゲル)に過酸化水素等の酸化剤を添加して溶解し、アモルファス溶液を得る。
【0060】
まず、工程3の上澄水を捨てた沈殿物(ゲル)に水を加えたものに、チタンのモル量に対して10倍のモル量となる過酸化水素等の酸化剤を添加する。
【0061】
これにより、アモルファス溶液(上の例では0.1molのチタンと0.001〜0.01molのバナジウムを含むアモルファス溶液)を得る。
【0062】
ここで、アモルファス溶液を調製する際に、バインダーに用いるアモルファス溶液を調製する場合と、アナターゼ粒子を形成するためのアモルファス溶液を調製する場合とで調製の条件を異ならせることが好ましい。
【0063】
具体的には、バインダー用にアモルファス溶液を調製する場合では、工程3の沈殿物(ゲル)と蒸留水の混合物の温度を常温〜例えば40℃付近に調節し、この温度を恒温槽などで維持しながら過酸化水素水等の酸化剤を添加する。その後、沈殿物(ゲル)が溶けて橙〜黄色を呈した透明溶液となるまで攪拌し、恒温槽から取り出して常温で放置することで、バインダーに好適なゼリー状で高粘度のアモルファス溶液が得られる。
【0064】
一方、アナターゼ粒子用のアモルファス溶液を調製する場合では、工程3の沈殿物(ゲル)と蒸留水の混合物の温度を例えば5℃付近の低温に調節し、この温度を恒温槽などで維持しながら過酸化水素水等の酸化剤を添加する。その後、沈殿物(ゲル)が溶けて橙〜黄色を呈した透明溶液となるまで攪拌し、恒温槽から取り出して常温で放置することで、水同様に低粘度でアナターゼ粒子の形成に好適なアモルファス溶液が得られる。
[工程5]:結晶化
次に、工程4で調製したアナターゼ粒子用のアモルファス溶液をさらに例えば100℃付近の温度に維持して1時間(h)〜70時間(h)還流することでアモルファス粒子を結晶化させてバナジウムを含有させたアナターゼ粒子(上の例では粒子中のチタン量に対してバナジウムが1〜10モル%で含有されていると推定されるアナターゼ粒子)を含むアナターゼ溶液を得る。
【0065】
また、バナジウムが含有されたアナターゼ粒子を得る別の方法としては、バナジウム溶液を用いずに工程1〜4を経てバナジウムを含まないアモルファス溶液を調製し、工程5の段階で、上記したバナジウム化合物の溶解液を加えて還流を継続することでバナジウムを含有させる方法もあるが、バナジウムを均一に含有させる観点からは、工程2の段階からバナジウム溶液を用いる方が好ましい。
[工程6]:コーティング剤の調製
次に、図1Cに示すように、アナターゼ溶液、アモルファス溶液、水、(任意に添加剤)からコーティング剤を調製する。
【0066】
形成されたアナターゼ粒子やアモルファス粒子の長さ、各粒子自体のモル量は分からないので、基本的に上記したようにアナターゼ溶液とアモルファス溶液の両者の固形分比を考慮してコーティング剤の調製を行う。
【0067】
この場合、アナターゼ粒子は結晶化して有機物分解能を有しているのでアナターゼ粒子を含む場合は、含まない場合にくらべて有機物分解能が高まる。コーティング剤に対する各粒子の合計重量%は一般的な組成とすることができ任意に変更できる。残りの組成分は、上述したように水分または上記添加剤である。
[工程7]:コーティング
本発明に係る親水性塗膜層は、前記コーティング剤を用いて形成された塗膜であり、その厚さ20μm未満が好ましい。20μm以上の厚塗りすると透明性を欠き、またクラックが入ったときに目立つため好ましくない。
【0068】
また、可能な限り薄塗りできる。薄塗りできる範囲は親水性塗膜層が形成される有機系基材又は無機系基材の親水性に依存し、有機系基材又は無機系基材の材質によっても変化するため、上述したように親水性が高くコーティングしやすい有機系基材又は無機系基材が好まれる。
【0069】
コーティング剤の有機系基材又は無機系基材への塗布方法としては、スプレーコート、ディッピング、スピンコート、刷毛塗り、ベル塗装などの工法で行うことができる。
(塗膜の乾燥)
塗布後の親水性塗膜層の乾燥については、有機系基材の場合には基材を変質させない温度範囲等、塗膜や有機系基材に悪影響を及ぼさない乾燥方法であれば、どの乾燥方法で乾燥させてもよい。
【実施例】
【0070】
以下に本発明の実施例及び比較例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等によって限定されるものではない。なお、図4〜図7においてバナジウム混入量(mol%)は、アモルファス粒子形成に用いたチタンのモル量に対して、用いたバナジウムのモル量(mol%)を示す。
[実施例1]
実施例1では、チタン(Ti)を約0.1mol、バナジウムを約0.001mol(チタンモル量の約1モル%)を用いてアモルファス粒子を形成した。形成したアモルファス溶液のみをコーティング剤として用いた。その後、該コーティング剤により親水性塗膜層を形成し、この有機物分解能と親水能を評価した。
【0071】
以下に、その具体的な手順(工程1〜7、コーティング、有機物分解能および親水能の測定)を説明する。
[工程1]:原料準備
以下のものを用意した。
A液:塩化チタン水溶液(チタン源)
(和光純薬社製、TiTl4水溶液、チタン(Ti)を16.5±0.5重量%含有)
B液:アンモニア水(アンモニア源)
(和光純薬社製、NH4OH水溶液、アンモニア(NH3)を25〜27.9±0.5重量%含有)
C液:バナジウム溶液(バナジウム源)
(酸化バナジウム95重量以上%含有)
D液:過酸化水素水(過酸化水素源)
(和光純薬社製、過酸化水素水溶液、30.0〜35.5重量%)
E液:バナジウム溶液(酸化バナジウム約0.9重量%)
なお、E液については、バナジウム溶液(和光純薬社製、V2O5として95重量%以上含有)3.6g(バナジウムとして約0.02mol)とB液のアンモニア水(和光純薬 NH4OH水溶液、NH3として25〜27.9重量%含有)18.0g(アンモニウムイオンとして約0.02mol)と蒸留水378.4gとを混合して酸化バナジウムを約0.9重量%含有するものとして調製した。
[工程2]:沈殿物(ゲル)の形成
3L容のビーカーで塩化チタン溶液(A液)30g(チタンとして約0.1mol)と蒸留水60gを混合させた。これとは別に、アンモニア水(B液)を2.5重量%となるように蒸留水(約140g)で希釈した。希釈したアンモニア水(約0.074mol)をバナジウム溶液(E液)約10.54g(約0.001mol)と混合した。この溶液全量を3L容のビーカーの溶液と混合した。
【0072】
更にアンモニア水(B液)を20gずつ3L容のビーカーに加える毎にpHメーター(HANNAHI98129COMBO1)でpHを測定した。pHを4に調整しアモルファス粒子用の沈殿(ゲル)を形成した。さらに、上記と同様な手順を経た後、pH7としてアナターゼ粒子用として同様に沈殿物(ゲル)を形成した。
[工程3]:不要イオン除去(洗浄)
工程2の終了時の沈殿物を含む溶液(各400g程度)にそれぞれ蒸留水を加えて3Lとし、このときの上澄みの導電率をpHメーター(HANNAHI98129COMBO1または堀場製作所B−173)で測定し、上澄みを除去した。これらの動作を各溶液の上澄み液の導電率が10μS/cm以下となるまで繰り返した。
[工程4]:アモルファス溶液の調製
工程3の各溶液の上澄みを捨てて沈殿物(ゲル)の重量を測定し、過酸化水素水(D液)約118g(約1mol)を用意した。さらに、チタン重量濃度が0.5%になるよう、沈殿物(ゲル)の重量と過酸化水素の重量を考慮して沈殿物(ゲル)に蒸留水を加えた。
【0073】
アモルファス粒子(バインダー)用のアモルファス溶液の作成については、この溶液を恒温槽にて約40℃で湯煎を行い、液温が略40℃となった時点で上記溶液に過酸化水素水(D液)約118g(約1mol)を溶液に添加し、チタン濃度が約0.5重量%の溶液約1Lとした。
【0074】
その後、橙〜黄色の透明溶液となるまで攪拌し、恒温槽から取り出して常温で放置し、ゼリー状で高粘度のアモルファス溶液を得た。
[工程5]:結晶化
アモルファス粒子が40℃温水浸漬にて結晶化することを調べるため、工程5については省略し、結晶化を行わなかった。
[工程6]:コーティング剤の調製
この実施例1では、上述したようにアモルファス粒子が40℃温水浸漬にて結晶化することを調べることから、アモルファス溶液のみをコーティング剤として用い、その他の添加剤等を含めなかった。
[工程7]:コーティング
市販のスライドグラス(松浪硝子工業(株)S−1111(縦76mm×横26mm×厚さ0.8〜1.0mm))に上記コーティング剤2mlを塗り拡げた後に、スピンコーティング法(500r.p.m 5秒、1,500r.p.m 10秒)によりコーティングした。このスライドグラスを常温で乾燥させた。コーティングと乾燥を合計2回繰り返して、親水性塗膜層を形成した。
(有機物分解能評価)
このスライドグラスの親水性塗膜層に3時間紫外線(1.0mW/cm2)を照射して試験片を作成し「光触媒製品技術会則・諸規定および試験法(2005年6月)」に記載の光触媒性能評価試験法I(液相フィルム密着法、2001年度版)により、親水性塗膜層の有機物分解能を評価した(図4、図5の実施例1参照)。
【0075】
なお、図4に示す表の値は、調製直後のメチレンブルーの基質溶液をブランク(分解率0%)とした場合のメチレンブルーの分解率[%]を表す。
(親水能評価)
上記コーティングをしたスライドグラス5枚を用意し、これらを湿度65%、温度23℃の恒温恒湿室内(暗所)に8時間以上放置した。その後、この恒温恒湿室から放置したスライドグラスを取り出した。各スライドグラスの親水性塗膜層に1μlの蒸留水をマイクロピペッター等で滴下して、親水性塗膜層と水との接触角度を測定した。各測定値の平均を取って親水性塗膜層の親水能を評価した。
【0076】
なお、接触角度の測定には協和界面科学(株)DM300を用いた。この結果を暗所(未照射)の親水性塗膜層の接触角度とした(図6参照)。
【0077】
一方、同様にコーティングした別のスライドグラス(同上)5枚を用意し、この親水性塗膜層に暗所で3時間紫外線(1.0mW/cm2)を照射した。その後、照射後の親水性塗膜層に1μlの蒸留水をマイクロピペッター等で滴下して、親水性塗膜層と水との接触角度を測定した。接触角度の測定については各スライドグラスの測定値の平均を取って親水性塗膜層の親水能として評価した。この測定には上記同様に協和界面科学(株)DM300を用いた。この結果を照射後の親水性塗膜層の接触角度とした(図6の実施例1参照)。
[実施例2、実施例3]
実施例1の工程4でアモルファス溶液を調製する際に、溶液の温度が略40℃となった時点からそれぞれ27日間(実施例2)、60日間(実施例3)、この溶液を40℃で温度維持したこと以外は、実施例1と同様に、コーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った(図4〜7参照)。
[実施例4]
実施例1の工程2で混合されるバナジウム溶液(E液)の量を調節して約31.6g(バナジウムを約0.003mol含む)とした以外は、実施例1と同様としてコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った(図4〜7参照)。
[実施例5、6]
実施例4の工程4でアモルファス溶液を調製する際に、溶液の温度が略40℃となった時点からそれぞれ27日間(実施例5)、60日間(実施例6)、この溶液を40℃で温度維持したこと以外は、実施例4と同様にコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った(図4〜7参照)。
[実施例7]
実施例1の工程2で混合されるバナジウム溶液(E液)の量を調節して約52.7g(バナジウムを約0.005mol含む)とした以外は、実施例1と同様に、コーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った(図4〜7参照)。
[実施例8、9]
実施例7の工程4でアモルファス溶液を調製する際に、溶液の温度が略40℃となった時点からそれぞれ27日間(実施例8)、60日間(実施例9)、この溶液を40℃で温度維持したこと以外は、実施例7と同様にコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った。
[実施例10]
実施例1の工程2で混合されるバナジウム溶液(E液)の量を調節して約73.8g(バナジウムを約0.007mol含む)とした以外は、実施例1と同様としてコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った。
[実施例11、12]
実施例10の工程4でアモルファス溶液を調製する際に、溶液の温度が略40℃となった時点からそれぞれ27日間(実施例11)、60日間(実施例12)、この溶液を40℃で温度維持したこと以外は、実施例10と同様にコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った。
[実施例13]
実施例1の工程2で混合されるバナジウム溶液(E液)の量を調節して約105.5g(バナジウムを約0.01mol含む)とした以外は、実施例1と同様としてコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った。
[実施例14、15]
実施例13の工程4でアモルファス溶液を調製する際に、溶液の温度が略40℃となった時点からそれぞれ27日間(実施例14)、60日間(実施例15)、この溶液を40℃で温度維持したこと以外は、実施例13と同様にコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った。
[比較例1]
実施例1の工程2でバナジウム溶液(E液)を加えないこと以外は、実施例1と同様としてコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った。
[比較例2、3]
比較例1の工程4でアモルファス溶液を調製する際に、溶液の温度が略40℃となった時点からそれぞれ27日間(比較例2)、60日間(比較例3)、この溶液を40℃で温度維持したこと以外は、比較例1と同様にコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った(図4〜7参照)。
(親水性塗膜層の親水能と有機物分解能)
図4、図5を参照して、バナジウムを含有させず(0mol%)、40℃温水浸漬時間が27日、60日のものでは、溶液中のアモルファス粒子が部分結晶化を起こし、有機物分解能を有するようになった(比較例2、3)。これに対して40℃温水浸漬時間が0日の場合では、アモルファス粒子がほとんど結晶化していないため、有機物分解能は低かった(比較例1)。
【0078】
一方、アモルファス粒子形成に用いたチタンのモル量に対して1モル%のバナジウムを含有させ、40℃温水浸漬時間が27日、60日のものでは、アモルファス粒子が同様に結晶化するが、含有されたバナジウムにより有機物分解能が抑制された(実施例2、3)。また、40℃温水浸漬時間が0日の場合ではアモルファス粒子がほとんど結晶化していないため、比較例1と同様に有機物分解能は低かった(実施例1)。
【0079】
同様に、3,5,7,10モル%となるモル量のバナジウムを含有させた場合(実施例4〜15)では、1モル%となるモル量を含有させた場合(実施例1〜3)と同レベルに有機物分解能が抑制された。
【0080】
バナジウムを含有させる量を1モル%より増加させても有機物分解能を抑制する効果があまり変わらず一様であること、また、バナジウムを含有させる量が増加すると製造コストが上がるうえに後述するように親水性塗膜層に色味がつくため、これらの観点から、バナジウムを含有させる量は1モル%付近が最も好ましい。
【0081】
また、上述したように1モル%のみでも、親水性塗膜層の有機物分解能が十分抑制された(実施例1〜3)ことから、1モル%より少ない例えば0.1モル%のような1オーダー低いモル量でバナジウムを含有させる場合でも、親水性塗膜層の有機物分解能を抑制する効果は1モル%の場合より低くなるが、ある程度抑制され得る(不図示)。
【0082】
さらに温度条件について言及すると、アモルファス粒子が40℃の温度条件下で結晶化していくのであるから、それ以上の温度では結晶化の速度がさらに、40℃より高い浸漬温度では相対的にさらに高い抑制効果が得られる。
【0083】
逆にこれより低い浸漬温度例えば20℃で結晶化の速度は遅くなるが、結晶化自体は起こるため、アモルファス溶液の調製からコーティング剤を調製して塗布するまでの期間(アモルファス溶液の保存日数が長い場合)や、塗布後から長期間経過した場合などでは、アモルファス粒子の結晶化が潜在的に進み有機系基材が徐々に分解されていくため、バナジウムを含有させることが有効となる。
【0084】
親水性塗膜層の親水能については、図6の右の照射後の欄に示すように、バナジウムを1,3,5,7,10モル%で含有させた場合(実施例1〜15)では、ほぼ一様の親水能であった。このため、上述したようにコスト面等を考慮すると1モル%付近でバナジウムを含有させることが特に好ましいこととなる。
【0085】
なお、図6の左の暗所(未照射)の欄に示すように、未照射のもの(比較例1〜3,実施例1〜15)では、40℃温水浸漬時間(0,27,60日)の各区分の中で一様の接触角度となった。これは、40℃温水浸漬時間が同じであれば、含有させたバナジウムの量にかかわらず照射前の接触角度の初期値は略同じであることを示す。
【0086】
また、親水性塗膜層を形成した後に目視で確認したところ、上記各実施例と比較例の双方で親水性塗膜層の剥れは見られなかった。温水浸漬がなされた後でも基材表面上に形成した親水性塗膜層が剥れることがなく、温水浸漬してアモルファス粒子がアナターゼ粒子に変化しても、アモルファス粒子が所定比以上残存していれば問題はない。
【0087】
アモルファス粒子はバインダー成分として基材に密着するため、従来品のようにバナジウムが含有されていないアモルファス粒子が一部結晶化してアナターゼ粒子となるとその有機物分解能により基材が劣化するが、本発明に係るものでは各粒子にバナジウムが含有されているので、その有機物分解能が抑制されて基材が劣化しにくい。このことから、温水浸漬してアモルファス粒子が部分結晶化しても有機物分解が抑制されるため上記した劣化の問題が生じるリスクが低くなる。
【0088】
付随的な効果として、アモルファス粒子はアナターゼ粒子にも密着するため、バナジウムをアナターゼ粒子表面に担持させた場合と同様にアモルファス粒子中のバナジウムによってもアナターゼ粒子の活性が抑制される。
【0089】
次に、実施例16〜19では、固形分比(アナターゼ溶液:アモルファス溶液(ANA/AMO))を変化させてアナターゼ粒子を含むコーティング剤にて親水性塗膜層を形成して、その有機物分解能と親水能を評価した。
【0090】
また、以下の各実施例で含有させたバナジウムの量は、アナターゼ粒子とアモルファス粒子の各チタンの量に対してそれぞれ約5mol%とした。比較例についてはバナジウムを含めなかった。そのため、図8〜12において示すバナジウム混入量(V混入量、チタンのモル量に対し、含有させたバナジウムのモル量(mol%))は各粒子別に表記せず、まとめて一つの表記とした。
[実施例16]
実施例16では、アナターゼ溶液:アモルファス溶液の固形分比を約0:100とし、アモルファス粒子形成に用いたバナジウムのモル量を同チタンのモル量に対して5モル%となるモル量(この実施例では約0.005mol)として、コーティング剤を作成した。
【0091】
具体的には、このモル量は実施例7と略同じであるので、工程1〜3を省略し、実施例7の工程3の終了時点の沈殿物(ゲル)を用いて実施例1の工程4を行ってアモルファス溶液の調製を行い、工程5は省略してアナターゼ溶液の調製は行わなかった。その後、工程6にて上記の固形分比でコーティング剤の調製を行った。
【0092】
このコーティング剤を用いて、実施例1と同様にコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った。
【0093】
[実施例17]
実施例17では、アナターゼ溶液:アモルファス溶液の固形分比を約25:75とし、アナターゼ粒子とアモルファス粒子のバナジウムのモル量をそれぞれ同チタンのモル量に対して5モル%となるモル量(この実施例では約0.005mol)とした。このモル量は実施例7とほぼ同じであるため、上記同様に工程1〜3を省略し、実施例7の工程3の終了時点の沈殿物(ゲル)を用いて工程4から各工程を行った。
【0094】
[工程4]:アモルファス溶液の調製
アモルファス粒子用のアモルファス溶液の調製については、実施例1と同様とした。
アナターゼ粒子形成用のアモルファス溶液の調製については、実施例7の工程3の溶液の上澄みを捨てて沈殿物(ゲル)の重量を測定し、過酸化水素水(D液)約118g(約1mol)を用意した。さらに、チタン重量濃度が0.5%になるよう、沈殿物(ゲル)の重量と過酸化水素の重量を考慮して沈殿物(ゲル)に蒸留水を加えた。
【0095】
この溶液を恒温室にて5℃の環境下におき、溶液の温度が略5℃となった時点で過酸化水素水(D液)約118g(約1mol)を前記溶液に添加し、チタン濃度が0.5重量%の溶液約1Lとした。その後、橙〜黄色の透明溶液となるまで攪拌し、恒温室から取り出して5℃又は常温で放置し、アナターゼ粒子形成に好適な水状で低粘度のアモルファス溶液を得た。
[工程5]:結晶化
マントルヒータに1L容のフラスコをセットし、このフラスコに工程4からのアモルファス溶液を入れ、常に溶液が沸騰する熱量をかけてアモルファス溶液を1時間以上還流した。これにより、アモルファス溶液中のアモルファス粒子を結晶化させてアナターゼ粒子を形成した。なお、この還流はジムロート冷却器で行った。
[工程6]:コーティング剤の調製
工程5のアナターゼ溶液と工程4のアモルファス溶液の固形分比が約25:75となるように混合した。
【0096】
このコーティング剤を用いて、実施例1と同様にコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った。
【0097】
[実施例18〜20]
実施例17の工程6でアナターゼ溶液とアモルファス溶液を固形分比で約50:50(実施例18)、約75:25(実施例19)、約100:0(実施例20)となるように混合し、それ以外は、実施例1と同様にしてコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った。
[比較例4]
比較例4では、アナターゼ溶液:アモルファス溶液の固形分比を約0:100とし、アモルファス粒子形成にバナジウムを用いず、コーティング剤の調製を行った。
【0098】
バナジウムを含んでいない比較例1の工程3の終了時点の沈殿物(ゲル)を用いて、実施例17の工程4を行ってバナジウムを含んでいないアモルファス粒子を形成した。
【0099】
工程5は省略してアナターゼ溶液の調製は行わなかった。その後、工程6にて上記の固形分比でコーティング剤の調製を行った。
【0100】
このコーティング剤を用いて、実施例1と同様にコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った。
[比較例5〜8]
比較例5〜8では、バナジウムを含んでいない比較例1の工程3の終了時点の沈殿物(ゲル)を用いて、実施例17の工程4,5を行ってバナジウムを含んでいないアナターゼ粒子を形成した。
【0101】
その後、工程6で、アナターゼ溶液とアモルファス溶液の固形分比を、25:75(比較例5)、50:50(比較例6)、75:25(比較例7)、100:0(比較例8)となるように混合し、それ以外は実施例1と同様にしてコーティング、有機物分解能および親水能の評価を行った。
(アナターゼ溶液とアモルファス溶液の混合と固形分比変更による有機物分解能への影響)
図8、図9を参照し、バナジウムを5モル%で含有させた場合(実施例16〜20)では、バナジウムを含有させない場合(比較例4〜8)に比べて親水性塗膜層の有機物分解能が低下した。
【0102】
さらに、固形分比(アナターゼ溶液/アモルファス溶液)が25/75〜100/0の場合では、含有させたバナジウム量が0モル%、5モル%の各区分でアナターゼ溶液の固形分比に拘わらず略一様の有機物分解能となった(実施例17〜20、比較例5〜8)。
【0103】
すなわち、バナジウムを5モル%で含有させ、アナターゼ粒子を含む固形分比の場合では、メチレンブルーの分解率がいずれも40%以下となり、固形分比に拘わらず有機物分解能が抑制されることが示された(実施例17〜20)。
【0104】
この裏返しとして、バナジウムを含有させていない0モル%の場合では、アナターゼ粒子を含むいずれの固形分比の場合もメチレンブルーが80%以上分解された(比較例5〜8)。
【0105】
バナジウムを5モル%で含有させた場合(実施例16〜20)では60%以上のメチレンブルーが残存しメチレンブルーの着色が視認され、その一方で、バナジウムを含有させない0モル%の場合(比較例4〜8)では10%以下のメチレンブルーが残存するのみでメチレンブルーの着色は視認されなかったことから、実施例16〜20のものは光触媒ではなく、比較例4〜8のものは光触媒となる。
[実施例21〜24]
実施例21〜24では、含有させるバナジウムのモル量をそれぞれ、1モル%(実施例21),3モル%(実施例22),7モル%(実施例23),10モル%(実施例24)とし、それ以外は、アナターゼ溶液とアモルファス溶液を固形分比50/50で混合する等、実施例18と同様にしてコーティング剤を調製した。
【0106】
なお、バナジウムを0モル%、5モル%含有させたものについては、それぞれ比較例6、実施例18のコーティング剤を使用した。
【0107】
これらのコーティング剤をそれぞれ白い有機塗料が塗られた□150mm角のセメント系外壁試験片にスプレーで50g/mで塗り、厚さ約3μmの親水性塗膜層を形成した。
【0108】
これらの親水性塗膜層について色差計で測色した。その結果を図12に示す。
【0109】
図12に示すように、コーティング剤中の酸化チタンの重量%、膜厚を一定とした場合、バナジウムを含有させた量が10モル%(実施例24)を超えると色味の指標であるΔEが色味が視認できるような値となることから、10モル%以下のバナジウムを含有させることが好ましい。
【0110】
以上、実施の形態、実施例及び比較例に基づいて本発明の説明をしてきたが、本発明は上記の構成に限らず、例えば、実施例とは異なる他の方法で含有させてもよく、具体的にはバナジウムをアナターゼ粒子やアモルファス粒子の表面に担持させたり、各粒子の内部に包接させることで含有させてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光照射により親水能を発揮する機能性粒子と、前記機能性粒子の前躯体を有するバインダーとを含有する親水性塗料組成物において、
前記機能性粒子は、有機物分解能を抑制するバナジウムが所定の割合で含有された結晶性の酸化チタン粒子であり、
前記バインダー中の前躯体は、バナジウムが所定の割合で含有された非晶性の酸化チタン粒子であることを特徴とする親水性塗料組成物。
【請求項2】
前記機能性粒子及び前記バインダー中の前躯体の少なくとも一方のバナジウムはドープにより含有されていることを特徴とする請求項1に記載の親水性塗料組成物。
【請求項3】
チタンとバナジウムのそれぞれの水酸化物を所定の比率で含む水溶液に酸化剤を添加し、この添加によって起こる反応により前記非晶性の酸化チタンが調製されることを特徴とする請求項1に記載の親水性塗料組成物。
【請求項4】
前記結晶性の酸化チタン粒子は、該酸化チタン粒子の形成に用いるチタンのモル量に対して1%〜10%となるモル量のバナジウムを用いて形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の親水性塗料組成物。
【請求項5】
前記非晶性の酸化チタン粒子は、該酸化チタン粒子の形成に用いるチタンのモル量に対して1%〜10%となるモル量のバナジウムを用いて形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の親水性塗料組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の親水性塗料組成物の調製方法であって、
チタンとバナジウムのそれぞれの水酸化物を所定の比率で含む水溶液に酸化剤を添加し、
この添加により起こる反応によってチタンとバナジウムを同一分子内に含む前記非晶性の酸化チタン粒子を形成する工程と、
該非晶性の酸化チタンの溶液を所定温度で所定時間加熱することで前記結晶性の酸化チタン粒子を形成する工程とを備えていること特徴とする親水性塗料組成物の調製方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の親水性塗料組成物を用いて形成したことを特徴とする親水性塗膜層。
【請求項8】
請求項7の親水性塗膜層を有することを特徴とする建築材。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−104555(P2011−104555A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264636(P2009−264636)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】