説明

親水性薬物の薬物移行性を改善した水性組成物

【課題】親水性薬物を含有する水性組成物において、該薬物の薬物作用部位への移行性を改善し、低用量で所望の薬効を発現させ、薬剤使用時の安全性を向上させること。
【解決手段】親水性薬物およびベンザルコニウムハロゲン化物を含有し、浸透圧比が0.5以下である水性組成物。当該水性組成物は、多価アルコールをさらに含有することが好ましく、また、ベンザルコニウムハロゲン化物はベンザルコニウム塩化物であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性薬物およびベンザルコニウムハロゲン化物を含有し、浸透圧比が0.5以下である水性組成物に関する。該水性組成物は、薬物作用部位への薬物移行性を改善したものである。
【背景技術】
【0002】
薬物を点眼液などの水性組成物とするためには、薬物の溶解性や調剤後の組成物の安定性といった数多くの検討すべき課題が存在する。それらの課題の中で、特に重要な課題として、所望の薬効を、出来る限り低用量で発揮させるために、薬物作用部位への薬物移行性を改善することが挙げられる。
【0003】
薬物の水性組成物の例として、たとえば、米国特許出願公開第2010/0093770号明細書(特許文献1)には、アデノシン誘導体を含有し、グリセリンを配合した等張力の点眼液が記載され、該アデノシン誘導体が緑内障の治療に有用であることが記載されている。米国特許第5710182号明細書(特許文献2)には、緑内障治療剤を含有し、グリセリンおよびベンザルコニウム塩化物を配合した眼科用組成物が記載されている。欧州特許出願公開第909558号明細書(特許文献3)には、クロマン誘導体を含有し、浸透圧調整剤を配合した低浸透圧の点眼剤が記載され、クロマン誘導体の角膜移行性が改善したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0093770号明細書
【特許文献2】米国特許第5710182号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第909558号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
親水性薬物を含有する水性組成物において、該薬物の薬物作用部位への移行性を改善することは、低用量での所望の薬効の発現および薬剤使用時の安全性の向上に繋がるため、非常に興味深い課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者等は、親水性薬物の薬物作用部位への移行性を改善することについて鋭意研究した。その結果、該薬物を有効成分として含有し、ベンザルコニウムハロゲン化物を配合した水性組成物であって、かつ、該水性組成物の浸透圧を低浸透圧、即ち、浸透圧比を0.5以下とした水性組成物とすることにより、目的とする親水性薬物の薬物作用部位への移行性が改善することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明は、
(1)親水性薬物およびベンザルコニウムハロゲン化物を含有し、浸透圧比が0.5以下である水性組成物、
(2)多価アルコールをさらに含有する、前記(1)に記載の水性組成物、
(3)ベンザルコニウムハロゲン化物がベンザルコニウム塩化物である、前記(1)または(2)に記載の水性組成物、
(4)親水性薬物の分配係数としてCLogPが3以下である、前記(1)または(2)に記載の水性組成物、
(5)親水性薬物の分配係数としてCLogPが3以下であって、かつ、該親水性薬物がアデノシン誘導体若しくはヌクレオシド誘導体またはその塩である、前記(1)または(2)に記載の水性組成物、
(6)親水性薬物が下記式(1)で表される化合物またはその塩である、前記(1)または(2)に記載の水性組成物、
【0008】
【化1】

【0009】
(7)ベンザルコニウムハロゲン化物の濃度が0.05w/v%以下である、前記(1)または(2)に記載の水性組成物、
(8)浸透圧比が0.3以下である、前記(1)または(2)に記載の水性組成物、
(9)多価アルコールがグリセリン、プロピレングリコールおよびマンニトールからなる群より選択される少なくともいずれかである、前記(2)に記載の水性組成物、
(10)多価アルコールがグリセリンである、前記(2)に記載の水性組成物、
(11)多価アルコールの濃度が5w/v%以下である、前記(2)に記載の水性組成物、
(12)水性組成物が注射剤、輸液、点鼻剤または点眼剤である、前記(1)または(2)に記載の水性組成物、
(13)注射剤が眼科用注射剤である、前記(12)に記載の水性組成物、
(14)水性組成物が点眼剤である、前記(12)に記載の水性組成物、
(15)点眼剤が緑内障または高眼圧症治療用点眼剤である、前記(14)に記載の水性組成物、
に関する。
【0010】
尚、前記(1)から(15)の各構成は、任意に1以上を選択して組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、医薬として有用な、親水性薬物の薬物作用部位への移行性を改善した水性組成物を提供する。該薬物の薬物作用部位への移行性の改善により低用量(低濃度)で所望の薬効を発揮できる。よって、該薬物およびその分解物に起因する副作用の低減効果が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の水性組成物に配合される親水性薬物としては、親水性薬物であれば特に制限はない。好ましくは、分配係数としてのCLogPが3以下で規定される薬物が挙げられ、より好ましくは、分配係数としてのCLogPが−5〜3、さらに好ましくはCLogPが−3〜2で規定される薬物が挙げられる。好ましい具体例としては、プロスタグランジン類;アテノロール(CLogP:−0.11)、カルテオロール(CLogP:1.29)などのβ受容体遮断薬;ブリモニジン(CLogP:1.49)などのα2受容体作動薬;ブナゾシン(CLogP:2.10)などのα1受容体遮断薬;ピロカルピン(CLogP:−0.20)などの副交感神経作動薬;ブリンゾラミド(CLogP:0.33)などの炭酸脱水酵素阻害剤;Y−39983(CLogP:1.77)などのRhoキナーゼ阻害剤;下記式(1)で表される化合物(4−{3−[6−アミノ−9−((2R,3R,4S,5S)−5−シクロプロピルカルバモイル−3,4−ジヒドロキシテトラヒドロフラン−2−イル)−9H−プリン−2−イル]−2−プロピニル}−ピペリジン−1−カルボン酸メチルエステル)(CLogP:−0.61)などのヌクレオシド誘導体;などの緑内障治療薬若しくは眼圧下降作用を有する化合物またはその塩が挙げられる。より好ましい具体例としては国際公開第2003/029264号パンフレット、米国特許US7214665号明細書、米国特許出願公開第2007/232559号明細書、国際公開第2006/015357号パンフレット、米国特許出願公開第2006/0040888号明細書、米国特許第7605143号明細書、米国特許出願公開第2009/0253647号明細書、米国特許第5593975号明細書、米国特許第6387889号明細書、米国特許第6514949号明細書、米国特許出願公開第2006/0100169号明細書、国際公開第2006/015357号パンフレット、国際公開第2006/101920号パンフレット、米国特許出願公開第2005/0182018号明細書、国際公開第2003/029264号パンフレット、国際公開第2003/011146号パンフレット、国際公開第2005/107463号パンフレット、米国特許出願公開第2004/053881号明細書、米国特許出願公開第2005/130930号明細書、米国特許第5278150号明細書、米国特許第6403567号明細書、米国特許第6642210号明細書、米国特許第6232297号明細書、米国特許第6531457号明細書、米国特許第5939543号明細書などに記載された公知のアデノシン誘導体(塩、水和物などを含む)やヌクレオシド誘導体(塩、水和物などを含む)などが挙げられ、さらにより好ましくは、米国特許出願公開第2010/0093770号明細書に記載された公知のアデノシン誘導体またはヌクレオシド誘導体を、特に好ましくは、下記式(1)で表される化合物(4−{3−[6−アミノ−9−((2R,3R,4S,5S)−5−シクロプロピルカルバモイル−3,4−ジヒドロキシテトラヒドロフラン−2−イル)−9H−プリン−2−イル]−2−プロピニル}−ピペリジン−1−カルボン酸メチルエステル)またはその塩を挙げることができる。
【0013】
【化2】

【0014】
なお、CLogPとは、化学物質の1−オクタノール/水系の分配係数の対数を計算により求めた値であり、その詳細は特開2009−298878号公報などに記載されている。本発明では、BioByte社製のソフトウェアClogP(Ver 4.3)により算出した値を示している。
【0015】
また、親水性薬物の含有量は、所望の薬効を奏するのに十分な量であれば特に制限はなく、該親水性薬物の種類、治療対象となる疾患やその症状、患者の年齢や体重に応じて適宜その含有量を調整することができ、好ましくは0.000001〜10w/v%、特に好ましくは0.0001〜1w/v%である。
【0016】
さらに、親水性薬物が前記式(1)で表される化合物またはその塩である場合も、その薬効を奏するのに十分な量であれば特に制限はない。たとえば、前記式(1)で表される化合物またはその塩を緑内障治療のために使用するのであれば、その量は好ましくは0.000001〜10w/v%、より好ましくは0.00001〜1w/v%、さらに好ましくは0.0001〜0.3w/v%、さらにより好ましくは0.001〜0.3w/v%、さらにより好ましくは0.003〜0.1w/v%、最も好ましくは0.01〜0.1w/v%である。
【0017】
また、親水性薬物が塩の形態をとる場合、その塩とは、通常、医薬として使用される塩であれば特に制限はない。たとえば、無機酸との塩、有機酸との塩、四級アンモニウム塩、ハロゲンイオンとの塩、アルカリ金属との塩、アルカリ土類金属との塩、金属塩、アンモニアとの塩、有機アミンとの塩などが挙げられる。無機酸との塩としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などとの塩が挙げられ、有機酸との塩としては、酢酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、乳酸、馬尿酸、1,2−エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、硫酸ラウリル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸などとの塩が挙げられ、四級アンモニウム塩としては、臭化メチル、ヨウ化メチルなどとの塩が挙げられ、ハロゲンイオンとの塩としては、臭素イオン、塩素イオン、ヨウ素イオンなどとの塩が挙げられ、アルカリ金属との塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどとの塩が挙げられ、アルカリ土類金属との塩としては、カルシウム、マグネシウムなどとの塩が挙げられ、金属塩としては、鉄、亜鉛などとの塩が挙げられ、有機アミンとの塩としては、トリエチレンジアミン、2−アミノエタノール、2,2−イミノビス(エタノール)、1−デオキシ−1−(メチルアミノ)−2−D−ソルビトール、2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、プロカイン、N,N−ビス(フェニルメチル)−1,2−エタンジアミンなどとの塩が挙げられる。
【0018】
本発明の水性組成物に配合される多価アルコールは、2個以上のアルコール性水酸基をその分子内に有する、医薬品の添加物として使用可能な多価アルコールであれば特に制限はない。具体例としては、グリセリン、プロピレングリコール、マンニトール、ポリエチレングリコール、トレハロース、シュクロース、ソルビトール、キシリトールなどが挙げられ、好ましくは、グリセリン、プロピレングリコール、マンニトールを、特に好ましくはグリセリンを挙げることができる。また、それらの多価アルコールを2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0019】
また、多価アルコールの配合濃度(配合量)は、薬物、他の添加物および/または浸透圧比への影響を考慮して適宜その配合濃度(配合量)を調整することができるが、好ましくは5w/v%以下(但し、0w/v%となることはない。)、より好ましくは3w/v%以下(但し、0w/v%となることはない。)、さらに好ましくは0.01〜2.5w/v%、特に好ましくは0.05〜2w/v%である。
【0020】
さらに、その多価アルコールがグリセリンである場合も、薬物、他の添加物および/または浸透圧比への影響を考慮して適宜その配合濃度(配合量)を調整することができるが、好ましくは5w/v%以下(但し、0w/v%となることはない。)、より好ましくは3w/v%以下(但し、0w/v%となることはない。)、さらに好ましく0.01〜1.5w/v%、特に好ましくは、0.05〜1.1w/v%である。
【0021】
本発明の水性組成物に配合されるベンザルコニウムハロゲン化物は、医薬品の添加物として使用可能なベンザルコニウムハロゲン化物であれば特に制限はなく、ベンザルコニウム塩化物、ベンザルコニウムフッ化物、ベンザルコニウム臭化物、ベンザルコニウムヨウ化物が挙げられ、中でも、親水性薬物の移行性や安全性の観点から、ベンザルコニウム塩化物が好ましい。ベンザルコニウム塩化物の具体例としては、[CCHN(CHR]Clで表される化学構造を有し、そのRがC17〜C1837であるものまたはそれらの混合物である。好ましくは、RがC1225であるN−ベンジル−N,N−ジメチルラウリルアンモニウム塩化物、RがC1429であるN−ベンジル−N,N−ジメチルミリスチルアンモニウム塩化物若しくはRがC1633であるN−ベンジル−N−セチルジメチルアンモニウム塩化物またはこれらの混合物である。
【0022】
また、ベンザルコニウムハロゲン化物の配合濃度(配合量)は、薬物、他の添加物および/または浸透圧比への影響やその防腐効力を考慮して適宜その配合濃度(配合量)を調整することができるが、好ましくは0.05w/v%以下(但し、0w/v%となることはない。)、より好ましくは0.001〜0.03w/v%、特に好ましくは0.001〜0.02w/v%である。
【0023】
本発明の水性組成物の浸透圧比は0.5以下(但し、0となることはない。)であり、好ましくは0.4以下(但し、0となることはない。)、より好ましくは0.01〜0.4であり、さらに好ましくは0.1〜0.3であり、特に好ましくは0.2〜0.3である。
【0024】
また、本発明における浸透圧比とは、水性組成物の生理食塩水に対する浸透圧比を意味する。なお、その値は通常の方法により測定することができる。たとえば、第十五改正日本薬局方の浸透圧測定法(オスモル濃度測定法)の項に記載の方法に従い測定することができる。
【0025】
通常、水性組成物の浸透圧比は、水性組成物中に含まれる薬物および添加物の配合量の影響を少なからず受ける。本発明では、浸透圧に影響を与えるそれらの各物質の配合量を適宜調整することで、浸透圧比を前記の範囲に調整することができる。
【0026】
本発明の水性組成物は、前記の浸透圧比となる範囲内で医薬品の添加物として使用可能な等張化剤を適宜配合することができる。等張化剤の例としては、イオン性等張化剤や非イオン性等張化剤などが挙げられる。イオン性等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどが挙げられ、非イオン性等張化剤としてはグリセリン、プロピレングリコール、マンニトール、ソルビトールなどが挙げられる。本発明の水性組成物に配合される多価アルコールは、非イオン性等張化剤として機能してもよく、親水性薬物の安定性や親水性薬物の移行性の観点で多価アルコールを用いるのが好ましい。
【0027】
本発明の水性組成物は、上述した浸透圧比となる範囲内で医薬品の添加物として使用可能な非イオン性界面活性剤を配合することができる。非イオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられる。ポリオキシエチレン脂肪酸エステルとしては、ステアリン酸ポリオキシル40などが挙げられ、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、ポリソルベート80、ポリソルベート60、ポリソルベート40、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレート、ポリソルベート65などが挙げられ、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシル5ヒマシ油、ポリオキシル9ヒマシ油、ポリオキシル15ヒマシ油、ポリオキシル35ヒマシ油、ポリオキシル40ヒマシ油などが挙げられ、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールとしては、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(20)グリコールなどが挙げられる。好ましい例としては、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシル35ヒマシ油およびステアリン酸ポリオキシル40が挙げられ、特に好ましい例としては、ポリソルベート80が挙げられる。
【0028】
本発明の水性組成物は、上述した浸透圧比となる範囲内で医薬品の添加物として使用可能な緩衝剤を配合することができる。緩衝剤の例としては、リン酸またはその塩、ホウ酸またはその塩、クエン酸またはその塩、酢酸またはその塩、炭酸またはその塩、酒石酸またはその塩、ε‐アミノカプロン酸、トロメタモールなどが挙げられる。リン酸塩としては、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムなどが挙げられ、ホウ酸塩としては、ホウ砂、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウムなどが挙げられ、クエン酸塩としては、クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウムなどが挙げられ、酢酸塩としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどが挙げられ、炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられ、酒石酸塩としては、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウムなどを挙げることができる。
【0029】
緩衝剤の配合濃度(配合量)は、薬物、他の添加物および/または浸透圧比への影響を考慮して適宜その配合濃度(配合量)を調整することができるが、好ましくは5w/v%以下、より好ましくは3w/v%以下、さらに好ましくは0.01〜1w/v%、特に好ましくは0.05〜0.5である。
【0030】
本発明の水性組成物は、上述した浸透圧比となる範囲内で医薬品の添加物として使用可能な安定化剤を配合することができる。安定化剤の例としては、エデト酸、エデト酸ナトリウムなどを挙げることができる。
【0031】
本発明の水性組成物は、上述した浸透圧比となる範囲内で医薬品の添加物として使用可能なpH調整剤を配合することができる。pH調整剤の例としては、塩酸、リン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを挙げることができる。
【0032】
本発明の水性組成物のpHは、4.0〜8.0、好ましくは5.5〜6.5が望ましい。
【0033】
本発明の水性組成物の剤形は、医薬品として使用可能なものであれば特に制限はない。たとえば、注射剤、輸液、点鼻剤、眼科用水性組成物(眼科用注射剤、点眼剤)などを挙げることができる。好ましくは、眼科用水性組成物(眼科用注射剤、点眼剤)を、特に好ましくは点眼剤を挙げることができる。
【0034】
本発明の水性組成物は、医薬品として使用するのに十分な安定性を有する。本発明の水性組成物が適用可能な疾患に特に制限はない。たとえば、緑内障または高眼圧症などの眼疾患を挙げることができる。
【0035】
本発明の水性組成物の投与回数は、所望の薬効を奏するのに十分な回数であれば特に制限はなく、該親水性薬物の種類、治療対象となる疾患やその症状、患者の年齢や体重に応じて適宜選択できる。たとえば、緑内障治療用点眼剤の場合、1回量1〜数滴(たとえば、1〜3滴、好ましく1滴)を1日1〜数回(たとえば、1〜6回)点眼投与することができる。
【0036】
本発明の水性組成物の調製方法は、汎用されている方法で調製することができる。
親水性薬物の房水への薬物移行性試験、眼圧下降効果試験、親水性薬物の安定性試験、製剤例については、後述の実施例1〜4の項で説明する。
【0037】
以下、親水性薬物の房水への薬物移行性試験、眼圧下降効果試験、親水性薬物の安定性試験、製剤例(実施例1〜4)を示すが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0038】
<実施例1:親水性薬物の房水への薬物移行性試験>
本発明の水性組成物(以下、「本発明製剤」ともいう)および比較対象の水性組成物(以下、「比較製剤」ともいう)を用いて、親水性薬物の房水移行性について検討をした。尚、親水性薬物として、前記式(1)で示される化合物、すなわち(4−{3−[6−アミノ−9−((2R,3R,4S,5S)−5−シクロプロピルカルバモイル−3,4−ジヒドロキシテトラヒドロフラン−2−イル)―9H−プリン−2−イル]−2−プロピニル}−ピペリジン−1−カルボン酸メチルエステル)(以下、「本化合物」ともいう)を使用した。
【0039】
(1−1)本発明製剤および比較製剤の調製
・本発明製剤1(ベンザルコニウム塩化物(以下、「BAK」ともいう) 0.005w/v% 低張[浸透圧比:0.25])
濃グリセリン0.47gに精製水90mLを加え溶解した。溶解後、リン酸二水素ナトリウム0.15g、本化合物0.01gを加え溶解させた。さらに、0.1w/v% BAK溶液5mLを加え攪拌し、水酸化ナトリウムおよび塩酸をそれぞれ適量加え、製剤のpHを6.0付近とした後、精製水を適量加えて全量を100mLとし、0.01w/v%の本化合物を含む本発明製剤とした。浸透圧比は、第十五改正日本薬局方の浸透圧測定法(オスモル濃度測定法)の項に順じ浸透圧を測定して算出した。
【0040】
本発明製剤1の調製方法と同様の方法にて、表1に示す本発明製剤および比較製剤を調製した。
【0041】
【表1】

【0042】
(1−2)試験方法
上記(1−1)で調製した各製剤をJW系雄性白色ウサギに単回点眼したときの、点眼後1および2時間における房水中の本化合物の濃度をLC−MS/MS法で測定した(1時点4眼)。
【0043】
(投与方法および測定方法)
1)各製剤を角膜上にマイクロマンで50μL点眼した。点眼後、約30秒間保持した。
2)所定時間に無麻酔下で、ウサギを固定器に入れた状態で耳静脈よりペントバルビタール製剤(商品名:ソムノペンチル注射液)約4mLを注入して致死させた。
3)眼球を突出させ、生理食塩液で洗浄した後、房水を採取した。
4)採取した房水は、1眼あたり50μLを使用して前処理を行なった後、LC−MS/MS法で測定し、4眼の平均値を結果に示した。
【0044】
(1−3)試験結果
LC−MS/MS法で測定した結果(Cmax)を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
(1−4)考察
表2に示したとおり、本発明製剤1〜8における本化合物の房水移行性は、比較製剤1〜3に対して、顕著に向上した。以上から、本発明製剤は、親水性薬物の薬物作用部位への移行性が顕著に向上させたことが分かる。
【0047】
<実施例2:眼圧下降効果試験>
本発明における親水性薬物の房水移行性の向上と実際の薬効、すなわち、眼圧下降効果との関係について検討した。
【0048】
(2−1)本発明製剤9および比較製剤4の調製
・本発明製剤9(BAK 0.005w/v% 低張[浸透圧比:0.25])
グリセリン0.47gに精製水90mLを加え溶解した。溶解後、リン酸二水素ナトリウム0.15g、10w/v% BAK溶液0.05mL、本化合物0.1gを加え溶解させた。さらに、水酸化ナトリウムを適量加え、製剤のpHを6.0付近とした後、精製水を適量加えて全量を100mLとし、0.1w/v%の本化合物を含む本発明製剤9とした。
【0049】
・比較製剤4(BAK 0w/v% 等張)
グリセリン2.4gに精製水90mLを加え溶解した。溶解後、リン酸二水素ナトリウム0.15g、本化合物0.1gを加え溶解させた。さらに、水酸化ナトリウムそれぞれ適量加え、製剤のpHを6.0付近とするとともに、精製水を適量加えて全量を100mLとし、0.1w/v%の本化合物を含む比較製剤4とした。
【0050】
(2−2)試験方法
0.1w/v%の本化合物を含む本発明製剤9または0.1w/v%の本化合物を含む比較製剤4を20μLずつ単回点眼した時の眼圧下降効果を検討した。また、実験動物として、カニクイザル(性別:雄性、一群6から8匹)を使用した。
【0051】
(投与方法および測定方法)
1)0.4%塩酸オキシブプロカイン点眼液(商品名:ベノキシール0.4%液)を実験動物の眼圧測定眼に一滴点眼し、局所麻酔を行なった。
2)各被験製剤点眼直前に眼圧を測定し、初期眼圧とした。
3)各被験製剤を実験動物の片眼に点眼した(対側眼は無処置)。
4)各被験製剤点眼後2時間、4時間および6時間に0.4%塩酸オキシブプロカイン点眼液を一滴ずつ眼圧測定眼に点眼し局所麻酔後、眼圧を測定した。また、眼圧は各3回測定し、その平均値を結果に示した。
【0052】
(2−3)試験結果
各製剤点眼群の最大眼圧下降幅を表3に示す。最大眼圧下降幅は初期眼圧からの下降した眼圧の最大値の平均で示す。
【0053】
【表3】

【0054】
表3において、本発明製剤9は6匹の最大眼圧下降幅の平均値を、比較製剤4は8匹の最大眼圧下降幅の平均値を示す。
【0055】
(2−4)考察
表3から明らかなように、0.1w/v%の本化合物を含む本発明製剤9は0.1w/v%の本化合物を含む比較製剤4に対して優れた眼圧下降効果を示した。以上から、本発明製剤は、比較製剤4に対して強い眼圧下降効果が得られる。
【0056】
<実施例3:親水性薬物の安定性試験>
(3−1)本発明製剤の調製
・本発明製剤10(BAK 0.005w/v% 低張[浸透圧比:0.25])
濃グリセリン0.47gに精製水90mLを加え溶解した。溶解後、リン酸二水素ナトリウム0.15g、本化合物0.09gを加え溶解させた。さらに、0.1w/v% BAK溶液5mLを加え攪拌し、水酸化ナトリウムおよび塩酸をそれぞれ適量加え、製剤のpHを6.0付近とした後、精製水を適量加えて全量を100mLとし、0.09w/v%の本化合物を含む本発明製剤とした。
【0057】
(3−2)試験方法
上記本発明製剤10を5℃、25℃、40℃で6ヵ月保存した後、本化合物の含有量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて定量し、残存率を算出した。
【0058】
(3−3)試験結果
試験結果を表4に示す。
【0059】
【表4】

【0060】
(3−4)考察
表4から明らかなように、0.09w/v%の本化合物を含む本発明製剤10は、5℃、25℃および40℃で6ヶ月後安定な結果を示した。以上から、本発明製剤は、優れた安定性を担保できる。
【0061】
<処方例>
実施例1の調製方法に準じて下記の製剤を得た。なお、下記製剤例の各成分の配合量は100mL中の含量である。
【0062】
(製剤例1)
本化合物 0.001g
グリセリン 0.47g
ベンザルコニウム塩化物 0.005g
リン酸二水素ナトリウム 0.15g
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
浸透圧比 0.25
pH 6
(製剤例2)
本化合物 0.1g
グリセリン 0.47g
ベンザルコニウム塩化物 0.005g
リン酸二水素ナトリウム 0.15g
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
浸透圧比 0.25
pH 6
(製剤例3)
本化合物 0.1g
グリセリン 0.47g
ベンザルコニウム塩化物 0.001g
リン酸二水素ナトリウム 0.15g
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
浸透圧比 0.25
pH 6
(製剤例4)
本化合物 0.1g
グリセリン 0.39g
ベンザルコニウム塩化物 0.005g
リン酸二水素ナトリウム 0.15g
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
浸透圧比 0.2
pH 6
(製剤例5)
本化合物 0.1g
マンニトール 0.76g
ベンザルコニウム塩化物 0.005g
リン酸二水素ナトリウム 0.15g
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
浸透圧比 0.25
pH 6
(製剤例6)
本化合物 0.1g
プロピレングリコール 0.32g
ベンザルコニウム塩化物 0.005g
リン酸二水素ナトリウム 0.15g
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
浸透圧比 0.25
pH 6
なお、前記製剤例1〜6における各成分、すなわち、本化合物、多価アルコール、ベンザルコニウムハロゲン化物(ベンザルコニウム塩化物)およびその他の添加物の配合量や配合比は、本発明の浸透圧比となる範囲内で、適宜調整することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性薬物およびベンザルコニウムハロゲン化物を含有し、浸透圧比が0.5以下である水性組成物。
【請求項2】
多価アルコールをさらに含有する、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項3】
ベンザルコニウムハロゲン化物がベンザルコニウム塩化物である、請求項1または2に記載の水性組成物。
【請求項4】
親水性薬物の分配係数としてCLogPが3以下である、請求項1または2に記載の水性組成物。
【請求項5】
親水性薬物の分配係数としてCLogPが3以下であって、かつ、該親水性薬物がアデノシン誘導体若しくはヌクレオシド誘導体またはその塩である、請求項1または2に記載の水性組成物。
【請求項6】
親水性薬物が下記式(1)で表される化合物またはその塩である、請求項1または2に記載の水性組成物。
【化1】

【請求項7】
ベンザルコニウムハロゲン化物の濃度が0.05w/v%以下である、請求項1または2に記載の水性組成物。
【請求項8】
浸透圧比が0.3以下である、請求項1または2に記載の水性組成物。
【請求項9】
多価アルコールがグリセリン、プロピレングリコールおよびマンニトールからなる群より選択される少なくともいずれかである、請求項2に記載の水性組成物。
【請求項10】
多価アルコールがグリセリンである、請求項2に記載の水性組成物。
【請求項11】
多価アルコールの濃度が5w/v%以下である、請求項2に記載の水性組成物。
【請求項12】
注射剤、輸液、点鼻剤または点眼剤である、請求項1または2に記載の水性組成物。
【請求項13】
注射剤が眼科用注射剤である、請求項12に記載の水性組成物。
【請求項14】
点眼剤である、請求項12に記載の水性組成物。
【請求項15】
点眼剤が緑内障または高眼圧症治療用点眼剤である、請求項14に記載の水性組成物。


【公開番号】特開2012−180346(P2012−180346A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−25660(P2012−25660)
【出願日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【出願人】(000177634)参天製薬株式会社 (177)
【Fターム(参考)】