説明

親水性表面を有する眼用レンズ材料およびその製法

【課題】高酸素透過性を有するとともに、表面水濡れ性、表面潤滑性、保水性、耐汚染性および生体適合性にも同時にすぐれる眼用レンズ材料を容易に製造することができる方法を提供すること。
【解決手段】眼用レンズ材料の表面に、高周波プラズマまたはエキシマ光を照射する工程(1)、前記工程(1)を施した眼用レンズ材料の表面に、少なくとも1種の双性イオン性基含有化合物、水、有機溶媒および少なくとも1種の特定の連鎖移動剤をさらに含む親水性モノマー混合溶液を接触させる工程(2)、および前記工程(2)の親水性モノマー混合溶液を接触させた状態の眼用レンズ材料の表面に、その波長が250〜500nmの紫外線を照射し、前記双性イオン性基含有化合物を眼用レンズ材料の表面にグラフト重合させ、表面層を形成させる工程(3)からなることを特徴とする親水性表面を有する眼用レンズ材料の製法、ならびに該製法にて製造された親水性表面を有する眼用レンズ材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性表面を有する眼用レンズ材料およびその製法に関する。さらに詳しくは、高酸素透過性を有するとともに、表面水濡れ性、表面潤滑性、保水性、耐汚染性および生体適合性にも同時にすぐれる眼用レンズ材料を容易に製造する方法、および該方法によって得られ、たとえばコンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜などの眼用レンズを含む光学材料としてのみならず、医療用材料、生化学材料、工学材料、薬学材料などの生体適合性材料として好適に使用し得る、前記特性を兼備する親水性表面を有する眼用レンズ材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高分子材料のなかでもとくに眼用レンズ材料においては、レンズ表面の親水性(涙濡れ性)の低下とタンパク質、脂質などの汚れ付着とが種々の眼疾患の原因の1つといわれ、注目されている。
【0003】
そこで前記眼疾患の原因となるレンズ表面の親水性および汚れ付着を改善する方法として、眼用レンズ材料表面の改質が検討されている。
【0004】
前記眼用レンズ材料表面の改質方法として、たとえば眼用レンズ材料表面にプラズマ処理を施して水濡れ性を向上させる方法や(特許文献1)、プラズマ処理を施した眼用レンズ材料表面に親水性モノマーをグラフト重合させて親水性を付与する方法(特許文献2)などが提案されている。
【0005】
しかしながら、これらの方法では、レンズ表面の親水性(涙濡れ性)を向上させることは可能であるものの、耐汚染性を充分に改善することができず、また生体適合性が不充分な材料しか得られないといった問題がある。
【0006】
ここで、前記グラフト重合法自体は、眼用レンズ材料などの高分子材料の分野では既知であり、従来かかるグラフト重合法を利用した種々の方法が提案されている。
【0007】
たとえば不活性ガスの存在下でポリマー基材にプラズマ照射したのち、酸素ガス雰囲気下に曝すことによってポリマー基材表面にパーオキサイド基を形成させ、これに各種ビニル系モノマーをグラフト重合させる方法が提案されている(特許文献3、特許文献4、特許文献2、特許文献5、特許文献6など)。また水溶性過酸化物を含有する親水性モノマー溶液中に眼用レンズ材料を浸漬し、グラフトさせる方法も提案されている(特許文献7)。これらの方法によって材料表面に各種モノマーをグラフト重合させることが可能であるが、該グラフト重合開始時のエネルギーの付与は、熱による方法が一般的である。
【0008】
熱によるグラフト重合の際は、重合そのものに多大な時間を要するため、その改善が望まれている。これは長時間の重合は材料内部へのポリマー鎖の導入を促進し、その結果、眼用レンズ材料の変形などの原因にもなり得る。さらに長時間の熱重合では重合度の制御などが困難であるため、均一な処理層を得るには不適切な方法である。
【0009】
また一方、すぐれた保水性、耐汚染性および生体適合性を付与することが期待される双性イオン性基を有するビニル系モノマーを、ポリマー表面に導入することが有効な手段の1つと考えられている。
【0010】
たとえば双性イオン性基を有するモノマーをハイドロゲル表面にグラフト重合させる方法が提案されている(特許文献8)。しかしながら、かかる方法ではグラフト重合を熱重合にて行なっているため、前記のごとき問題点があり、その改善が望まれる。また前記ハイドロゲルにはシリコーン含有成分が用いられていないため、酸素透過性にすぐれた眼用レンズ材料を得ることが困難である。
【0011】
そこで、双性イオン性基を有するモノマーを、シリコーン含有成分を用いてなる、表面が活性化された眼用レンズ材料表面にグラフト重合させる方法も提案されているが(特許文献9、特許文献10など)、かかる方法でもやはり、グラフト重合を熱重合にて行なっているため、前記のごとき問題点がある。
【0012】
さらに波長が250〜500nmの電磁波にてグラフト重合処理を行なう方法も提案されているが(特許文献11)、該方法にて形成される親水性膜では、グラフト重合の際に双性イオン性基を有するモノマーが用いられていないことから、充分な保水性および生体適合性が付与され得ない。
【0013】
また基材表面のヒドロキシル基を開始点とし、遷移金属塩などの使用によって双性イオン性基を有するモノマーをグラフト重合させる方法が提案されているが(特許文献12)、該方法では遷移金属塩などの開始剤を除去することが困難となる場合があったり、グラフト重合を熱重合で行なうため、前記のごとき問題点がある。
【0014】
また親水性モノマー溶液中に眼用レンズ材料を浸漬し、紫外線を照射することによって親水化処理する方法が提案されているが(特許文献13)、該方法において、たとえば眼用レンズ材料がハイドロゲルの場合、ゲルの内部にまで親水性ポリマー鎖が導入されて光学的な不良の原因となったり、該親水性ポリマー鎖がゲル内から除去されにくくなるおそれがあり、また眼用レンズ材料が硬質材料の場合、材料表面からのグラフト重合が非常に困難で、親水性ポリマー鎖が導入されにくいといった問題がある。
【0015】
また最近、ラジカル重合における分子量および分子量分布を制御する方法として、硫黄含有化合物を連鎖移動剤として重合系に添加することが報告されている(非特許文献1)。さらに前記連鎖移動剤を使用した表面グラフト重合法も報告されている(非特許文献2)。これらの方法により、連鎖移動剤を重合に利用し、得られるポリマーの分子量や分子量分布を制御することは可能であるが、ポリマー表面の親水化技術とはいまだ併用されておらず、今後の技術開発が望まれている。
【0016】
一方、シリコーンハイドロゲルへ双性イオン性基を有するモノマーを導入する方法の1つとして、シリコーンセグメントと親水性セグメントとからなる相互侵入網目構造(一般に、IPN構造という)を形成させる方法が提案されている(特許文献14)。しかしながら、かかる方法を採用した場合、得られる材料が変形してしまうことがあり、光学材料を得る方法としては不適切である。
【0017】
このように、従来の各種方法では、近年所望されてきている種々の特性を兼備した眼用レンズ材料を比較的短時間で容易に得ることが困難であるので、このような従来の方法にかわるすぐれた方法の開発が待ち望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開昭63−40293号公報
【特許文献2】特開平6−49251号公報
【特許文献3】特開昭62−94819号公報
【特許文献4】特開平2−278224号公報
【特許文献5】米国特許第5805264号明細書
【特許文献6】特許第2934965号公報
【特許文献7】特開2000−10055号公報
【特許文献8】米国特許第5453467号明細書
【特許文献9】特開平6−122779号公報
【特許文献10】特開平7−72430号公報
【特許文献11】特開平10−60142号公報
【特許文献12】特表平6−510322号公報
【特許文献13】特開2000−10054号公報
【特許文献14】国際公開第99/29750号
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】John Chiefari et.al.,Macromolecules,31,p5559(1999)
【非特許文献2】Tsujii Yoshinobu et.al.,Polymer Preprints,Japan,49,p1129(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は前記従来技術に鑑みてなされたものであり、高酸素透過性を有するとともに、表面水濡れ性、表面潤滑性、保水性、耐汚染性および生体適合性にも同時にすぐれる眼用レンズ材料を容易に製造する方法、および該方法による眼用レンズ材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、(1)眼用レンズ材料の表面に、高周波プラズマまたはエキシマ光を照射する工程、
(2)前記工程(1)を施した眼用レンズ材料の表面に、少なくとも1種の双性イオン性基含有化合物を含む親水性モノマー混合溶液を接触させる工程、および
(3)前記工程(2)の親水性モノマー混合溶液を接触させた状態の眼用レンズ材料の表面に、その波長が250〜500nmの紫外線を照射し、前記双性イオン性基含有化合物を眼用レンズ材料の表面にグラフト重合させ、表面層を形成させる工程
からなることを特徴とする親水性表面を有する眼用レンズ材料の製法、および
前記製法にて製造された親水性表面を有する眼用レンズ材料
に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の製法によれば、高酸素透過性を有するとともに、表面水濡れ性、表面潤滑性、保水性、耐汚染性および生体適合性にも同時にすぐれる眼用レンズ材料を容易に製造することができる。
【0023】
したがって、前記特性を兼備する、本発明の親水性表面を有する眼用レンズ材料は、たとえばコンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜などの眼用レンズを含む光学材料としてのみならず、医療用材料、生化学材料、工学材料、薬学材料などの生体適合性材料として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の製法では、まず眼用レンズ材料の表面に、高周波プラズマまたはエキシマ光を照射する(工程(1))。
【0025】
前記工程(1)において、高周波プラズマまたはエキシマ光の照射によって眼用レンズ材料の表面層に活性種(ラジカル)が生成する。
【0026】
高周波プラズマの照射は、たとえば酸素ガス雰囲気下、不活性ガス雰囲気下、空気中で、好ましくは酸素ガス雰囲気下または空気中で行なわれる。すなわち、眼用レンズ材料をプラズマ状態にある酸素ガス雰囲気下、不活性ガス雰囲気下、空気中に、好ましくは酸素ガス雰囲気下にまたはプラズマ状態でなくとも定常状態の大気圧下に0.5〜30分間程度置き、その表面にラジカルを発生させる。このとき、プラズマ発生装置の電極間におけるプラズマ状態は1.3〜1.3×102Pa程度の減圧下であってもよく、常圧下であってもよい。
【0027】
エキシマ光の照射は、好ましくはその波長が172nmの真空紫外線を0.5〜60分間程度眼用レンズ材料に照射させることによって行なわれ、これによって眼用レンズ材料の表面にラジカルが発生する。
【0028】
前記のごとく高周波プラズマの照射またはエキシマ光の照射によって眼用レンズ材料の表面にラジカルを発生させたのち、該眼用レンズ材料を空気または酸素と1〜120分間程度接触させ、その表面に過酸化物(パーオキサイド基)を形成させる。
【0029】
本発明に用いられる眼用レンズ材料にはとくに限定がなく、たとえば非含水性の硬質眼用レンズ材料であってもよく、含水性のハイドロゲル状の眼用レンズ材料であってもよい。
【0030】
前記眼用レンズ材料としては、たとえばケイ素含有アルキル(メタ)アクリレート、ケイ素含有スチレン誘導体、ポリシロキサンマクロモノマーなどのケイ素含有モノマー;フッ素含有アルキル(メタ)アクリレートなどのフッ素含有モノマー;水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート、ジアルキル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、N−ビニルラクタムなどの親水性モノマー;材料の硬度を調節するためのアルキル(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、アルキル−α−メチルスチレンなどのモノマー;重合性不飽和二重結合を2以上有する架橋性モノマーなどを含有した重合成分を、通常の重合法にて重合させて得られた共重合体からなるものが用いられる。とくに、材料自体の酸素透過性および耐汚染性を考慮すると、ケイ素含有モノマーおよび/またはフッ素含有モノマーを含有した重合成分を重合させて得られた共重合体からなる眼用レンズ材料が好適に用いられる。
【0031】
なお本明細書において「(メタ)アクリレート」はアクリレートおよび/またはメタクリレートを示し、その他の誘導体についても同様である。
【0032】
つぎに本発明の製法では、前記工程(1)を施した眼用レンズ材料の表面に、少なくとも1種の双性イオン性基含有化合物を含む親水性モノマー混合溶液を接触させる(工程(2))。
【0033】
眼用レンズ材料の表面に親水性モノマー混合溶液を接触させる方法にはとくに限定がないが、該表面が親水性モノマー混合溶液と充分に接触するように、たとえば眼用レンズ材料を親水性モノマー混合溶液中に浸漬させることが好ましい。
【0034】
眼用レンズ材料の表面に親水性モノマー混合溶液を接触させる時間にもとくに限定がなく、やはり該表面が親水性モノマー混合溶液と充分に接触する程度であればよい。なお通常、眼用レンズ材料の表面に親水性モノマー混合溶液を接触させたままの状態で、後述する紫外線を照射する工程を行なうことが好ましい。
【0035】
工程(2)に用いられる親水性モノマー混合溶液には、前記したように、少なくとも1種の双性イオン性基含有化合物が含まれる。
【0036】
前記双性イオン性基含有化合物は、その構造内に永久陽電荷の中心のみではなく、陰電荷の中心をも有する化合物であり、その代表例としては、たとえば一般式(I):
【0037】
【化1】

【0038】
(式中、R1は水素原子またはメチル基、nは1〜10の整数を示す)で表わされる化合物(I)、一般式(II):
【0039】
【化2】

【0040】
(式中、R1は水素原子またはメチル基、nは1〜10の整数を示す)で表わされる化合物(II)、一般式(III):
【0041】
【化3】

【0042】
(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2は炭素数1〜6の炭化水素基、nは1〜10の整数を示す)で表わされる化合物(III)、一般式(IV):
【0043】
【化4】

【0044】
(式中、R1は水素原子またはメチル基、R3、R4およびR5はそれぞれ独立して炭素数1または2の炭化水素基、nは1〜10の整数を示す)で表わされる化合物(IV)などがあげられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0045】
化合物(I)の具体例としては、たとえばジメチル(3−スルホプロピル)(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アンモニウムベタインなどがあげられる。
【0046】
化合物(II)の具体例としては、たとえばジメチル(2−カルボキシエチル)(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アンモニウムベタインなどがあげられる。
【0047】
化合物(III)の具体例としては、たとえばジメチル(3−メトキシホスホプロピル)(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アンモニウムベタインなどがあげられる。
【0048】
化合物(IV)の具体例としては、たとえば2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンなどがあげられる。
【0049】
これらのなかでは、眼用レンズ材料の表面に対するグラフト重合性によりすぐれている点から、ジメチル(3−スルホプロピル)(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アンモニウムベタインおよび2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンがとくに好ましい。
【0050】
親水性モノマー混合溶液中の双性イオン性基含有化合物の量は、眼用レンズ材料の表面に均一な表面層(処理層)を形成させる点で、充分に考慮して決定されるべきであり、最終的に得られる親水性表面を有する眼用レンズ材料の親水性(表面水濡れ性)および表面潤滑性の向上効果や、脂質、タンパク質の付着抑制効果が充分に発現されるようにするには、0.01モル/リットル以上、好ましくは0.05モル/リットル以上、さらに好ましくは0.1モル/リットル以上であることが望ましく、またグラフト重合後に未反応の残留化合物が眼用レンズ材料から除去されにくくなったり、グラフト重合度が増加しすぎてポリマー鎖が眼用レンズ材料内部にまで導入され、眼用レンズ材料の光学的な不良の原因とならないようにするには、40モル/リットル以下、好ましくは20モル/リットル以下、さらに好ましくは10モル/リットル以下であることが望ましい。
【0051】
親水性モノマー混合溶液には、双性イオン性基含有化合物のほかにも、該双性イオン性基含有化合物以外の親水性モノマー、架橋性モノマー、水、有機溶媒などを単独でまたは2種以上を混合して適宜含有させることができ、たとえばとくに、水および有機溶媒を必須とし、双性イオン性基含有化合物以外の親水性モノマーおよび架橋性モノマーから選ばれた少なくとも1種をさらに含有させることが好ましい。
【0052】
双性イオン性基含有化合物以外の親水性モノマーの代表例としては、たとえばN,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミドなどのアルキル(メタ)アクリルアミド;N−ビニルホルムアミド;N−ビニルアセトアミド;アクリロイルモルホリン;N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルピペリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルカプリロラクタム、N−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ピロリドンなどのN−ビニルラクタム;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどがあげられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0053】
親水性モノマー混合溶液中に前記のごとき双性イオン性基含有化合物以外の親水性モノマーが含有される場合、該親水性モノマーの量は、双性イオン性基含有化合物との共重合性を向上させ、さらには効果的にグラフト鎖中に導入させるという点から、0.01モル/リットル以上、好ましくは0.05モル/リットル以上、さらに好ましくは0.1モル/リットル以上であることが望ましく、また双性イオン性基含有化合物の特性を効果的に発現させるという点から、40モル/リットル以下、好ましくは20モル/リットル以下、さらに好ましくは10モル/リットル以下であることが望ましい。
【0054】
架橋性モノマーとしては重合性不飽和二重結合を2以上有するモノマーがあげられ、その代表例としては、たとえばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、トリエチレングリコールジアリルエーテル、テトラエチレングリコールジアリルエーテル、ポリエチレングリコールジアリルエーテル、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ジビニルベンゼン、ビニルベンジル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレートなどがあげられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。なお親水性モノマー混合溶液には、たとえば溶媒として後述する水を用いる場合を考慮すると、これらのなかでも水溶性の架橋性モノマーを用いることが好ましい。
【0055】
親水性モノマー混合溶液中の架橋性モノマーの量は、グラフト密度を制御し、グラフト処理層およびグラフト鎖の機能を効果的に発現させるという点から、双性イオン性基含有化合物および双性イオン性基含有化合物以外の親水性モノマー全量100重量部または双性イオン性基含有化合物100重量部に対して0.01重量部以上、好ましくは0.05重量部以上、さらに好ましくは0.1重量部以上であることが望ましく、またグラフト鎖の運動性を束縛しないという点または眼用レンズ材料の形状保持という点から、双性イオン性基含有化合物および双性イオン性基含有化合物以外の親水性モノマー全量100重量部または双性イオン性基含有化合物100重量部に対して20重量部以下、好ましくは10重量部以下、さらに好ましくは5重量部以下であることが望ましい。
【0056】
親水性モノマー混合溶液に含まれる双性イオン性基含有化合物や、必要に応じて双性イオン性基含有化合物以外の親水性モノマー、架橋性モノマーは、好ましくは水や有機溶媒を用いてグラフト重合に供される。
【0057】
有機溶媒の代表例としては、たとえばメタノール、エタノールなどのアルコール類;アセトン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、アセトニトリル、塩化メチレンなどがあげられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0058】
前記水および有機溶媒のうち、グラフト重合後の眼用レンズ材料からの除去しやすさを考慮すると、水を使用することが好ましい。
【0059】
親水性モノマー混合溶液中の水や有機溶媒の量は、親水性モノマー混合溶液中の双性イオン性基含有化合物や双性イオン性基含有化合物以外の親水性モノマー、架橋性モノマーの量が前記範囲内に含まれるように、適宜調整することが好ましい。
【0060】
親水性モノマー混合溶液に前記水および有機溶媒が含有され、双性イオン性基含有化合物以外の親水性モノマーおよび架橋性モノマーから選ばれた少なくとも1種も含有されている場合、後述する工程(3)のグラフト重合の際に、重合度および分子量分布を均一かつ精密に制御することを目的として一般式(V):
【0061】
【化5】

【0062】
(式中、R1は水素原子、炭素数1〜12の直鎖状、分岐鎖状もしくは環状の脂肪族炭化水素基、または炭素数6〜12の芳香族炭化水素基を含む、炭素数6〜24の直鎖状もしくは分岐鎖状の脂肪族炭化水素基;R2は炭素数1〜12の直鎖状、分岐鎖状もしくは環状の脂肪族炭化水素基;R3は水素原子、炭素数1〜12の直鎖状、分岐鎖状もしくは環状の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基を含む、炭素数6〜24の直鎖状もしくは分岐鎖状の脂肪族炭化水素基、またはシアノ基;Zは酸素原子、−COO−基、−OOC−基、−(CH2CH2O)l−基(式中、lは1〜12の整数を示す)または直接結合;mは0または1〜10の整数を示す)で表わされる連鎖移動剤が、親水性モノマー混合溶液にさらに含有されていることが好ましい。
【0063】
前記一般式(V)で表わされる連鎖移動剤の代表例としては、たとえばベンジルジチオベンゾエート、1−フェニルエチルジチオベンゾエート、2−フェニル−2−プロピニルジチオベンゾエート、1−アセトキシエチルジチオベンゾエート、ベンジルジチオアセテート、t−ブチルジチオベンゾエート、2−シアノ−2−プロピニルジチオベンゾエートなどがとくに好ましく例示され、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0064】
親水性モノマー混合溶液中の連鎖移動剤の量は、重合度および分子量分布を均一かつ精密に制御するという点から、グラフト重合に供されるモノマー全量100モル部に対して0.001モル部以上、好ましくは0.01モル部以上、さらに好ましくは0.05モル部以上であることが望ましく、また得られる眼用レンズ材料に親水性を付与するには適度なグラフト重合鎖長が必要であり、連鎖移動剤の量が多すぎるとグラフト重合鎖長が短くなるという点から、グラフト重合に供されるモノマー全量100モル部に対して20モル部以下、好ましくは10モル部以下、さらに好ましくは5モル部以下であることが望ましい。
【0065】
なお前記連鎖移動剤を用いる場合、後述する工程(3)のグラフト重合の後期に重合反応系と酸素とを接触させ、重合鎖末端に連鎖移動剤由来の末端基を導入させない方法があるが、グラフト重合後に該連鎖移動剤由来の重合鎖末端の残基が生じた場合、この残基は除去または変換することが好ましい。
【0066】
グラフト重合後に生じる連鎖移動剤由来の重合鎖末端の残基は、たとえば2−メルカプトエタノール、2−メルカプトプロピオン酸などの硫黄含有化合物と反応させるか、酸またはアルカリの存在下でメタノール、エタノールなどのアルキルアルコールと反応させ、除去または変換することが可能である。
【0067】
つぎに本発明の製法では、前記工程(2)の親水性モノマー混合溶液を接触させた状態の眼用レンズ材料の表面に、その波長が250〜500nmの紫外線を照射し、前記双性イオン性基含有化合物を眼用レンズ材料の表面にグラフト重合させ、表面層を形成させる(工程(3))。
【0068】
前記工程(2)にて親水性モノマー混合溶液と接触させたままの状態の眼用レンズ材料の表面に紫外線を照射し、グラフト重合反応を開始させ、均一に反応を進行させて完了させる。
【0069】
紫外線の照度は、最終的に得られる親水性表面を有する眼用レンズ材料の親水性(表面水濡れ性)、表面潤滑性および保水性の向上効果や、脂質、タンパク質の付着抑制効果が充分に発現されるようにするには、0.1mW/cm2以上、好ましくは0.5mW/cm2以上であることが望ましく、また眼用レンズ材料自体の劣化を防ぐためには、20mW/cm2以下、好ましくは15mW/cm2以下であることが望ましい。
【0070】
紫外線の照射時間、すなわちグラフト重合反応時間は、最終的に得られる親水性表面を有する眼用レンズ材料の親水性(表面水濡れ性)、表面潤滑性および保水性の向上効果や、脂質、タンパク質の付着抑制効果が充分に発現されるようにするには、1秒間以上、好ましくは1分間以上であることが望ましく、またグラフト重合度が増加しすぎて、たとえば眼用レンズ材料がハイドロゲルである場合、紫外線照射後に眼用レンズ材料が変形したり、透明性が低下して光学レンズ材料としての機能を損なわないようにするには、24時間以下、好ましくは60分間以下であることが望ましい。
【0071】
またグラフト重合させる際の反応温度は、最終的に得られる親水性表面を有する眼用レンズ材料の親水性(表面水濡れ性)および表面潤滑性の向上効果や、脂質、タンパク質の付着抑制効果が充分に発現されるようにするには、0℃以上、好ましくは15℃以上であることが望ましく、またグラフト重合度が増加しすぎて、たとえば眼用レンズ材料がハイドロゲルである場合、紫外線照射後に眼用レンズ材料が変形したり、透明性が低下して光学レンズ材料としての機能を損なわないようにするには、120℃以下、好ましくは90℃以下であることが望ましい。
【0072】
なお親水性モノマー混合溶液中に水や有機溶媒といった溶媒が含まれる場合には、該親水性モノマー混合溶液を充分に撹拌あるいは振盪させ、均一に反応を進行させるようにする。
【0073】
かくして前記工程(3)が施された眼用レンズ材料の表面には、重合度が好適に制御され、均一でかつ数百オングストロームの深さに制限された表面層(処理層)が形成されることから、バルクの特徴および性質が損なわれる可能性がきわめて低い。
【0074】
前記のごとき工程(1)、(2)および(3)によって親水性表面を有する眼用レンズ材料を得ることができるが、さらに前記工程(3)にて形成された眼用レンズ材料の表面層から、水および有機溶媒から選ばれた少なくとも1種にて未反応残留成分を除去する工程(工程(4))を行なうことが好ましい。
【0075】
前記工程(4)にて用いる有機溶媒としては、眼用レンズ材料に形成された表面層に含まれる、たとえば双性イオン性基含有化合物や双性イオン性基含有化合物以外の親水性モノマー、架橋性モノマーなどの未反応残留成分を溶解し得るものであればよく、たとえばエタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、塩化メチレンなどがあげられる。未反応残留成分の除去は、たとえばソックスレー抽出法などによる適切な時間の抽出によってなされればよい。またかかる有機溶媒による抽出ののち、必要に応じて、水や生理食塩水中で眼用レンズ材料を煮沸処理すればよい。
【0076】
かくして本発明の製法にて製造される眼用レンズ材料は、高酸素透過性を有するとともに、表面水濡れ性、表面潤滑性、保水性、耐汚染性および生体適合性にも同時にすぐれたものである。
【実施例】
【0077】
つぎに、本発明の親水性表面を有する眼用レンズ材料およびその製法を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0078】
実施例1(シリコーンハイドロゲルへのグラフト重合処理)
式:
【0079】
【化6】

【0080】
で表わされるウレタン結合含有ポリシロキサンマクロモノマー30重量部、トリス(トリメチルシロキシシリル)プロピルメタクリレート30重量部、N,N−ジメチルアクリルアミド10重量部、N−ビニル−2−ピロリドン30重量部およびエチレングリコールジメタクリレート(以下、EDMAという)0.3重量部を重合成分として用い、通常の重合方法にて重合させて得られた共重合体からなるコンタクトレンズ(直径:13.0mm、厚さ:0.08mm(湿潤時))およびプレート(直径:15.0mm、厚さ:0.2mm(湿潤時))を、放電装置(京都電子計測(株)製、低温灰化装置PA−102AT)内に設置し、チャンバー内を約2.66Paまで減圧したのち、約13.3Paの酸素ガス雰囲気下にて10分間プラズマ放電処理を行なった(周波数:13.56MHz、高周波出力:50W)。こののち、これらコンタクトレンズおよびプレートを酸素ガス雰囲気下に10分間以上保存し、コンタクトレンズおよびプレート表面に過酸化物(パーオキサイド基)を生成させた。
【0081】
ついで、親水性モノマー混合溶液であるジメチル(3−スルホプロピル)(2−メタクリロイルオキシエチル)アンモニウムベタイン(以下、SAMAという)の3.0モル/リットル水溶液中にコンタクトレンズおよびプレートを浸漬させ、チッ素ガスを通気した。かかる水溶液中にコンタクトレンズおよびプレートを浸漬させたままの状態で、紫外線(波長:360nm)を照度1.5mW/cm2で室温下にて10分間照射し、グラフト重合を行なった。グラフト重合反応終了後、コンタクトレンズおよびプレートを前記水溶液から取り出して蒸留水中にて洗浄し、さらに蒸留水を用いてソックスレー抽出器にて16時間抽出を行ない、未反応残留成分をコンタクトレンズおよびプレートの表面層から除去した。
【0082】
ついで、前記コンタクトレンズおよびプレートに生理食塩水にて水和処理を施し、水和シリコーンハイドロゲルを試験試料として得た。得られた試験試料について、透明性、表面水濡れ性、表面潤滑性、含水率、屈折率、酸素透過性、抗脂質・タンパク質付着性、グラフト重量、接触角および水分保持率を以下の方法にしたがって調べ、また元素分析を以下の方法にしたがって行なった。これらの結果を表1および表2に示す。
【0083】
(a)透明性
水中における試験試料(コンタクトレンズ)を目視にて観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
○:透明である。
△:わずかに白濁している。
×:白濁がいちじるしい。
【0084】
(b)表面水濡れ性
水和処理時に、生理食塩水から試験試料(コンタクトレンズ)を取り出したのちの表面の状態を目視にて観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
○:撥水せず、一様に濡れている。
△:わずかに撥水している。
×:撥水がいちじるしい。
【0085】
(c)表面潤滑性
試験試料(コンタクトレンズ)を手指にて触ったときの表面の滑らかさを調べ、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
○:滑らかさにすぐれている。
△:きしむ感触がある。
×:べたつきがいちじるしい。
【0086】
(d)含水率
水和処理を施した試験試料(プレート)の平衡含水状態での重量(W1(g))を測定し、またかかる水和処理後の試験試料を乾燥器にて乾燥させた状態の重量(W0(g))を測定した。これらの測定値W0およびW1を用い、以下の式にしたがって含水率(重量%)を算出した。
含水率(重量%)={(W1−W0)/W1}×100
【0087】
(e)屈折率
アタゴ屈折率計(アタゴ(株)製、1T)を用い、温度25℃、相対湿度50%の雰囲気下で試験試料(プレート)の屈折率(単位なし)を測定した。
【0088】
(f)酸素透過性(Dk0.2
製科研式フィルム酸素透過率計(理化精機工業(株)製)を用い、35℃の生理食塩水中にて試験試料(プレート)の酸素透過係数を測定した。なお、かかる酸素透過係数の単位は(cm2/sec)(mLO2/(mL×hPa))であり、表1および表2中の値は実測値に1011を乗じたものである。
【0089】
(g)抗脂質・タンパク質付着性
(1) 抗脂質付着性
人工眼脂溶液(脂質濃度:5.0mg/mL)に試験試料(プレート)を浸漬させ、37℃で5時間振盪したのち、エタノールとジエチルエーテルとの混合溶液(エタノール:ジエチルエーテル=3:1(容量比))にて10分間抽出を行ない、抽出液中の脂質を硫酸・リン酸バニリン法にて定量した。脂質付着量(mg/cm2)は、試験試料単位面積あたりの付着量にて表わした。
【0090】
(2) 抗タンパク質付着性
FDA人工涙液(タンパク質濃度:6.69mg/mL)に試験試料(プレート)を浸漬させ、37℃で5時間振盪したのち、1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)溶液にて37℃で3時間抽出を行ない、抽出液中のタンパク質をビシンコニン酸法にて定量した。タンパク質付着量(μg/cm2)は、試験試料単位面積あたりの付着量にて表わした。
【0091】
(h)グラフト重量
グラフト重合反応前のプレートの乾燥状態での重量(W0(mg))をあらかじめ測定した。ついでグラフト重合反応終了後のプレートを105℃の乾燥器中にて16時間以上乾燥させ、プレートの重量(W2(mg))を測定した。これらの測定値W0およびW2ならびにプレートの表面積(S(mm2))から、以下の式にしたがって単位面積あたりのグラフト重量(mg/mm2)を算出した。
グラフト重量(mg/mm2)=(W2−W0)/S
なお、表1および表2中の値は実測値に103を乗じたものである。
【0092】
(i)接触角
ゴニオメーター(エルマ販売(株)製、G−I,2MG)を用い、25℃の生理食塩水中で試験試料(プレート)の接触角(°)を気泡法にて測定した。表1および表2に記載の接触角値は、生理食塩水に浸漬させた試験試料に、シリンジを用いて2μLの気泡を付着させ、気泡と試験試料との左右の接触角を平均したものである。
【0093】
(j)水分保持率
水和処理後の平衡含水状態での試験試料(コンタクトレンズ)の重量(W0(g))を測定した。これを温度25℃、相対湿度50%の雰囲気下にて15分間静置したのち、その重量(W3(g))を測定した。これらの測定値W3およびW0、ならびに前記(d)にて算出した含水率(WC(重量%))を用い、以下の式にしたがって水分保持率(重量%)を算出した。
水分保持率(重量%)
=100−{〔(W0−W3)/W0×100〕/WC×100}
【0094】
(k)元素分析(乾燥状態)
試験試料(プレート)を105℃の乾燥器中にて16時間以上乾燥させ、X線光電子分光装置(日本電子(株)製、JPS−9000MX)にてこの試験試料の表面の元素分析を行なった。
【0095】
実施例2
実施例1において、親水性モノマー混合溶液の種類を0.5モル/リットルのSAMAおよびSAMA100重量部に対して1.0重量部のテトラエチレングリコールジアクリレートを含む水溶液に変更したほかは、実施例1と同様にして試験試料を得た。得られた試験試料の特性を実施例1と同様にして調べ、また元素分析を実施例1と同様にして行なった。これらの結果を表1および表2に示す。
【0096】
実施例3
実施例1において、プラズマ放電処理の条件を酸素ガス雰囲気下にて2分間に変更し、また親水性モノマー混合溶液の種類を0.5モル/リットルのSAMAおよびSAMA100重量部に対して2.0重量部のテトラエチレングリコールジメタクリレートを含む水溶液に変更したほかは、実施例1と同様にして試験試料を得た。得られた試験試料の特性を実施例1と同様にして調べ、また元素分析を実施例1と同様にして行なった。これらの結果を表1および表2に示す。
【0097】
実施例4(シリコーンハイドロゲルへのグラフト重合処理)
実施例1で用いたものと同じコンタクトレンズおよびプレートに、照射装置(ウシオ電機(株)製)にて真空紫外線(波長:172nm)によるエキシマ光を10分間照射した。こののち、これらコンタクトレンズおよびプレートを酸素ガス雰囲気下に10分間以上保存し、コンタクトレンズおよびプレート表面に過酸化物(パーオキサイド基)を生成させた。
【0098】
ついで、親水性モノマー混合溶液であるSAMAの0.5モル/リットル水溶液中にコンタクトレンズおよびプレートを浸漬させ、チッ素ガスを通気した。かかる水溶液中にコンタクトレンズおよびプレートを浸漬させたままの状態で、紫外線(波長:360nm)を照度1.5mW/cm2で室温下にて10分間照射し、グラフト重合を行なった。グラフト重合反応終了後、コンタクトレンズおよびプレートを前記水溶液から取り出して蒸留水中にて洗浄し、さらに蒸留水を用いてソックスレー抽出器にて16時間抽出を行ない、未反応残留成分をコンタクトレンズおよびプレートの表面層から除去した。
【0099】
ついで、前記コンタクトレンズおよびプレートに生理食塩水にて水和処理を施し、水和シリコーンハイドロゲルを試験試料として得た。得られた試験試料の特性を実施例1と同様にして調べ、また元素分析を実施例1と同様にして行なった。これらの結果を表1および表2に示す。
【0100】
実施例5
実施例4において、親水性モノマー混合溶液の種類を2−(メタクリロイルオキシエチル)ホスホリルコリンの0.5モル/リットル水溶液に変更したほかは、実施例4と同様にして試験試料を得た。得られた試験試料の特性を実施例1と同様にして調べ、また元素分析を実施例1と同様にして行なった。これらの結果を表1および表2に示す。
【0101】
実施例6(連鎖移動剤を用いたシリコーンハイドロゲルへのグラフト重合処理)
実施例1と同様にして得られた共重合体からなるコンタクトレンズ(直径:13.0mm、厚さ:0.08mm(湿潤時))およびプレート(直径:15.0mm、厚さ:0.2mm(湿潤時))に、放電装置((株)キーエンス製、ST−7000)を用い、大気圧下にて1分間プラズマ放電処理を行なった(ワークディスタンス:6mm、印加電圧:10kV、周波数:20〜25kHz、導入ガス:大気)。こののち、これらコンタクトレンズおよびプレートを酸素ガス雰囲気下に10分間以上保存し、コンタクトレンズおよびプレート表面に過酸化物(パーオキサイド基)を生成させた。
【0102】
ついで、連鎖移動剤としてベンジルジチオベンゾエートをSAMA100モル部に対して0.1モル部添加したSAMAの0.5モル/リットルメタノール混合溶液(メタノールを水100重量部に対して5重量部添加)中に、コンタクトレンズおよびプレートを浸漬させ、チッ素ガスを通気した。かかる水溶液中にコンタクトレンズおよびプレートを浸漬させたままの状態で、紫外線(波長:360nm)を照度1.5mW/cm2で室温下にて10分間照射し、グラフト重合を行なった。グラフト重合反応終了後、コンタクトレンズおよびプレートを前記水溶液から取り出して蒸留水中にて洗浄し、さらに蒸留水を用いてソックスレー抽出器にて16時間抽出を行ない、未反応残留成分をコンタクトレンズおよびプレートの表面層から除去した。
【0103】
ついで、前記コンタクトレンズおよびプレートに生理食塩水にて水和処理を施し、水和シリコーンハイドロゲルを試験試料として得た。得られた試験試料の特性を実施例1と同様にして調べ、また元素分析を実施例1と同様にして行なった。これらの結果を表1および表2に示す。
【0104】
比較例1
実施例1で用いたものと同じコンタクトレンズおよびプレートを生理食塩水中に浸漬させ、1時間煮沸したものを試験試料として得た。得られた試験試料の特性を実施例1と同様にして調べ、また元素分析を実施例1と同様にして行なった。これらの結果を表1および表2に示す。
【0105】
比較例2
実施例1で用いたものと同じコンタクトレンズおよびプレートを、実施例1で用いたものと同じ放電装置内に設置し、プラズマ放電処理の条件を酸素ガス雰囲気下にて3分間に変更したほかは、実施例1と同様の条件にてプラズマ放電処理を行なった。こののち、これらコンタクトレンズおよびプレートを空気雰囲気下に10分間以上保存し、コンタクトレンズおよびプレート表面に過酸化物(パーオキサイド基)を生成させた。
【0106】
ついで、これらコンタクトレンズおよびプレートを生理食塩水中に浸漬させ、1時間煮沸したものを試験試料として得た。得られた試験試料の特性を実施例1と同様にして調べ、また元素分析を実施例1と同様にして行なった。これらの結果を表1および表2に示す。
【0107】
比較例3
実施例1で用いたものと同じコンタクトレンズおよびプレートを、実施例1で用いたものと同じ放電装置内に設置し、実施例1と同様の条件にてプラズマ放電処理を行なった。こののち、これらコンタクトレンズおよびプレートを酸素ガス雰囲気下に10分間以上保存し、コンタクトレンズおよびプレート表面に過酸化物(パーオキサイド基)を生成させた。
【0108】
ついで、親水性モノマー混合溶液であるSAMAの3.0モル/リットル水溶液中にコンタクトレンズおよびプレートを浸漬させ、チッ素ガスを通気した。かかる水溶液中にコンタクトレンズおよびプレートを浸漬させたままの状態で、60℃にて6時間グラフト重合を行なった。グラフト重合反応終了後、コンタクトレンズおよびプレートを前記水溶液から取り出して蒸留水中にて洗浄し、さらに蒸留水を用いてソックスレー抽出器にて16時間抽出を行ない、未反応残留成分をコンタクトレンズおよびプレートの表面層から除去した。
【0109】
ついで、前記コンタクトレンズおよびプレートに生理食塩水にて水和処理を施し、水和シリコーンハイドロゲルを試験試料として得た。得られた試験試料の特性を実施例1と同様にして調べた。これらの結果を表1および表2に示す。
【0110】
なお、かかる比較例3で得られた試験試料は、形状に変形が生じたものであった。
【0111】
比較例4
実施例1で用いたものと同じコンタクトレンズおよびプレートを、実施例1で用いたものと同じ放電装置内に設置し、実施例1と同様の条件にてプラズマ放電処理を行なった。こののち、これらコンタクトレンズおよびプレートを酸素ガス雰囲気下に10分間以上保存し、コンタクトレンズおよびプレート表面に過酸化物(パーオキサイド基)を生成させた。
【0112】
ついで、親水性モノマーである2−ヒドロキシエチルメタクリレートの3.0モル/リットル水溶液中にコンタクトレンズおよびプレートを浸漬させ、チッ素ガスを通気した。かかる水溶液中にコンタクトレンズおよびプレートを浸漬させたままの状態で、紫外線(波長:360nm)を照度1.5mW/cm2で室温下にて10分間照射し、グラフト重合を行なった。グラフト重合反応終了後、コンタクトレンズおよびプレートを前記水溶液から取り出して蒸留水中にて洗浄し、さらに蒸留水を用いてソックスレー抽出器にて16時間抽出を行ない、未反応残留成分をコンタクトレンズおよびプレートの表面層から除去した。
【0113】
ついで、前記コンタクトレンズおよびプレートに生理食塩水にて水和処理を施し、水和シリコーンハイドロゲルを試験試料として得た。得られた試験試料の特性を実施例1と同様にして調べた。これらの結果を表1および表2に示す。
【0114】
【表1】

【0115】
【表2】

【0116】
表1および表2に示された結果から、実施例1〜6の本発明の製法にて製造された試験試料は、いずれも透明性、表面水濡れ性、表面潤滑性および酸素透過性にすぐれ、かつ水分保持率が高く、適切な含水率および高屈折率を有し、接触角が小さく親水性にもすぐれ、しかも脂質付着量およびタンパク質付着量がいずれも少なく、抗脂質・タンパク質付着性にもすぐれたものであることがわかる。
【0117】
これに対して、比較例1〜4のように、本発明の製法の工程(1)〜(3)のうちいずれか1つでも行なわれなかった場合には、実施例1〜6で得られた試験試料とは異なり、前記各種特性を同時に満足し得ないものしか製造することができないことがわかる。
【0118】
実施例7(疎水性シリコーンへのグラフト重合処理)
トリス(トリメチルシロキシ)シリルスチレン46重量部、2,2,2,2’,2’,2’−ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレート54重量部、N−ビニル−2−ピロリドン6重量部、メタクリル酸4重量部、ビニルベンジルメタクリレート6重量部およびEDMA1重量部を重合成分として用い、通常の重合方法にて重合させて得られた共重合体からなるコンタクトレンズ(直径:8.8mm、厚さ:0.15mm)およびプレート(直径:10.0mm、厚さ:0.2mm)を、実施例1で用いたものと同じ放電装置内に設置し、チャンバー内を約2.66Paまで減圧したのち、約13.3Paの酸素ガス雰囲気下にて10分間プラズマ放電処理を行なった(周波数:13.56MHz、高周波出力:50W)。こののち、これらコンタクトレンズおよびプレートを酸素ガス雰囲気下に10分間以上保存し、コンタクトレンズおよびプレート表面に過酸化物(パーオキサイド基)を生成させた。
【0119】
ついで、親水性モノマー混合溶液であるSAMAの3.0モル/リットル水溶液中にコンタクトレンズおよびプレートを浸漬させ、チッ素ガスを通気した。かかる水溶液中にコンタクトレンズおよびプレートを浸漬させたままの状態で、紫外線(波長:360nm)を照度1.5mW/cm2で室温下にて10分間照射し、グラフト重合を行なった。グラフト重合反応終了後、コンタクトレンズおよびプレートを前記水溶液から取り出して蒸留水中にて洗浄し、さらに界面活性剤含有洗浄液(商品名:メニコンO2ケア、(株)メニコン製)にて洗浄して試験試料を得た。
【0120】
得られた試験試料について、透明性、表面水濡れ性、酸素透過性、抗脂質付着性および接触角を実施例1と同様にして調べ、また元素分析を実施例1と同様にして行なった。これらの結果を表3に示す。
【0121】
比較例5
実施例7で用いたものと同じコンタクトレンズおよびプレートを生理食塩水中に浸漬させ、試験試料を得た。得られた試験試料の特性を実施例7と同様にして調べ、また元素分析を実施例7と同様にして行なった。これらの結果を表3に示す。
【0122】
比較例6
実施例7で用いたものと同じコンタクトレンズおよびプレートを、実施例1で用いたものと同じ放電装置内に設置し、実施例7の条件を酸素ガス雰囲気下にて2分間、高周波出力40Wに変更してプラズマ放電処理を行なった。こののち、これらコンタクトレンズおよびプレートを空気雰囲気下に10分間以上保存し、コンタクトレンズおよびプレート表面に過酸化物(パーオキサイド基)を生成させた。
【0123】
ついで、これらコンタクトレンズおよびプレートを生理食塩水中に浸漬させ、試験試料を得た。得られた試験試料の特性を実施例7と同様にして調べた。これらの結果を表3に示す。
【0124】
【表3】

【0125】
表3に示された結果から、実施例7の本発明の製法にて製造された試験試料は、透明性、表面水濡れ性および酸素透過性にすぐれ、かつ接触角が小さく親水性にもすぐれ、しかも疎水性材料であるにもかかわらず脂質付着量が少なく、抗脂質付着性にもすぐれたものであることがわかる。
【0126】
これに対して、比較例5〜6のように、本発明の製法の工程(1)〜(3)が行なわれなかった場合には、実施例7で得られた試験試料とは異なり、前記各種特性を同時に満足し得ないものしか製造することができないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)眼用レンズ材料の表面に、高周波プラズマまたはエキシマ光を照射する工程、
(2)前記工程(1)を施した眼用レンズ材料の表面に、少なくとも1種の双性イオン性基含有化合物を含む親水性モノマー混合溶液を接触させる工程であって、該親水性モノマー混合溶液が、水、有機溶媒ならびにベンジルジチオベンゾエート、1−フェニルエチルジチオベンゾエート、2−フェニル−2−プロピニルジチオベンゾエート、1−アセトキシエチルジチオベンゾエート、ベンジルジチオアセテート、t−ブチルジチオベンゾエートおよび2−シアノ−2−プロピニルジチオベンゾエートから選ばれた少なくとも1種の連鎖移動剤をさらに含有したものである工程、および
(3)前記工程(2)の親水性モノマー混合溶液を接触させた状態の眼用レンズ材料の表面に、その波長が250〜500nmの紫外線を含む光を照射し、前記双性イオン性基含有化合物を眼用レンズ材料の表面にグラフト重合させ、表面層を形成させる工程
からなることを特徴とする親水性表面を有する眼用レンズ材料の製法。
【請求項2】
工程(2)において、工程(1)を施した眼用レンズ材料を親水性モノマー混合溶液中に浸漬して接触させる請求項1記載の製法。
【請求項3】
親水性モノマー混合溶液中の双性イオン性基含有化合物の量が0.01〜40モル/リットルである請求項1記載の製法。
【請求項4】
親水性モノマー混合溶液が、双性イオン性基含有化合物以外の親水性モノマーおよび架橋性モノマーから選ばれた少なくとも1種をさらに含有したものである請求項1記載の製法。
【請求項5】
親水性モノマー混合溶液中の双性イオン性基含有化合物以外の親水性モノマーの量が0.01〜40モル/リットルである請求項4記載の製法。
【請求項6】
親水性モノマー混合溶液中の架橋性モノマーの量が、双性イオン性基含有化合物および双性イオン性基含有化合物以外の親水性モノマー全量100重量部または双性イオン性基含有化合物100重量部に対して0.01〜20重量部である請求項4記載の製法。
【請求項7】
工程(3)のグラフト重合後に生じる連鎖移動剤由来の重合鎖末端の残基を除去または変換する工程であって、該工程が、硫黄含有化合物と反応させるか、酸またはアルカリの存在下でアルキルアルコールと反応させる工程である請求項1記載の製法。
【請求項8】
高周波プラズマの照射を酸素ガス雰囲気下で行なう請求項1記載の製法。
【請求項9】
高周波プラズマの照射を大気圧下で行なう請求項1記載の製法。
【請求項10】
さらに
(4)前記工程(3)にて形成された眼用レンズ材料の表面層から、水および有機溶媒から選ばれた少なくとも1種にて未反応残留成分を除去する工程
を含む請求項1記載の製法。
【請求項11】
双性イオン性基含有化合物が一般式(I):
【化1】

(式中、R1は水素原子またはメチル基、nは1〜10の整数を示す)で表わされる化合物(I)、一般式(II):
【化2】

(式中、R1は水素原子またはメチル基、nは1〜10の整数を示す)で表わされる化合物(II)、一般式(III):
【化3】

(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2は炭素数1〜6の炭化水素基、nは1〜10の整数を示す)で表わされる化合物(III)および一般式(IV):
【化4】

(式中、R1は水素原子またはメチル基、R3、R4およびR5はそれぞれ独立して炭素数1または2の炭化水素基、nは1〜10の整数を示す)で表わされる化合物(IV)から選ばれた少なくとも1種の化合物である請求項1記載の製法。
【請求項12】
双性イオン性基含有化合物がジメチル(3−スルホプロピル)(2−メタクリロイルオキシエチル)アンモニウムベタインである請求項1記載の製法。
【請求項13】
双性イオン性基含有化合物が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンである請求項1記載の製法。
【請求項14】
眼用レンズ材料が、ケイ素含有モノマーおよびフッ素含有モノマーから選ばれた少なくとも1種を含有した重合成分を重合させて得られた共重合体からなるものである請求項1記載の製法。
【請求項15】
請求項1記載の製法にて製造された親水性表面を有する眼用レンズ材料。

【公開番号】特開2011−81394(P2011−81394A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246859(P2010−246859)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【分割の表示】特願2001−74381(P2001−74381)の分割
【原出願日】平成13年3月15日(2001.3.15)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】