説明

親水性被膜形成用光触媒塗工液およびそれを用いた親水性光触媒被膜

【課題】(1)低温硬化性であり、(2)安全かつ基体ダメージの無い溶媒溶液からなり、(3)得られる被膜は硬度および透明性が高く、かつ常時親水性であり、(4)ポットライフおよびシェルフライフが十分長いといった条件を効果的に満足することができる親水性被膜形成用光触媒塗工液、及びそれを用いた親水性光触媒被膜を提供する。
【解決手段】光触媒粒子、水溶性カゴ型シルセスキオキサン 光触媒粒子に対して0.01〜100質量%、及び、水溶性ジルコニウム化合物 光触媒粒子に対して0.01〜100質量%、を含有する、親水性被膜形成用光触媒塗工液;上記塗工液の硬化物からなり、光触媒性を有し、水に対する接触角が20度以下であり、暗所に1ヶ月放置した後に水に対する接触角が20度以下を保持していることを特徴とする親水性光触媒被膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性被膜形成用光触媒塗工液およびそれを用いた親水性光触媒被膜に関する。更に詳しくは、一般的な光触媒のバインダー、もしくはアンダーコートとして使用可能な、水溶性カゴ型シルセスキオキサン及び水溶性ジルコニウム化合物を含有する水性かつ低温硬化性の親水性被膜形成用光触媒塗工液、並びに該塗工液の硬化物からなる親水性光触媒被膜に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の基体表面に形成された光触媒コーティング膜は、その中に含まれる酸化チタン等の光触媒性金属化合物が光の照射により有機物の分解力及び親水性を発揮することから、基体表面の清浄化、脱臭、抗菌等の用途に活用されている。現在、このような光触媒コーティングは、外装用タイル、ガラス、外壁塗装、空気清浄機内部のフィルター、無機系の基体(セラミック、金属等)への応用が主体であるものの、プラスティック材料等の有機材料への応用も近年盛んに検討されている(特許文献1及び2)。
【0003】
このような光触媒を有機基体に塗工する場合、光触媒作用による基体の損傷を避けるため、光触媒層と基体の間にアンダーコート層を設けるのが一般的な施行法である。ところが、現行の光触媒用アンダーコート液、もしくは光触媒層用バインダー液は、(1)150℃を超える高温で焼成しないと十分な性能を持つ膜が形成できない、(2)比較的低温で硬化するものの有機溶剤を使用しているため、溶剤耐性の無い基体に塗布できない、(3)低温で硬化し、基体損傷の少ない溶媒を使用しているものの、塗工液自体の寿命が短く、2〜3液混合型にして調製し、調合直後に使い切る必要がある、のいずれかの欠点を有している。更に、これら市販液による塗布膜は光触媒の効果が有る内は超親水性となり高いセルフクリーニング性を示すが、悪天候が続くなどして十分な日照が得られない場合には親水性が低下しセルフクリーニング性が低下するのが現状である。
【0004】
したがって、(1)低温硬化性であり、(2)安全かつ基体ダメージの無い溶媒溶液からなり、(3)得られる被膜は硬度および透明性が高く、かつ常時親水性であり、(4)ポットライフおよびシェルフライフが十分長いといった条件を全て満たす塗工液及びバインダー材料が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-116461号公報
【特許文献2】特開2006-272757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたもので、上記条件(1)〜(4)を効果的に満足することができる親水性被膜形成用光触媒塗工液、及びそれを用いた親水性光触媒被膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、下記の親水性被膜形成用光触媒塗工液および親水性光触媒被膜により上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は第一に、
光触媒粒子、
水溶性カゴ型シルセスキオキサン 光触媒粒子に対して0.01〜100質量%、及び
水溶性ジルコニウム化合物 光触媒粒子に対して0.01〜100質量%
を含有する、親水性被膜形成用光触媒塗工液を提供する。
本発明は第二に、上記の塗工液の硬化物からなり、光触媒性を有し、水に対する接触角が20度以下であり、暗所に1ヶ月放置した後に水に対する接触角が20度以下を保持していることを特徴とする親水性光触媒被膜を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の光触媒塗工液は、水、アルコールまたはこれらの混合物を溶媒として使用することができ、安全かつ基体へのダメージが無い塗工液を形成できる。また、本発明の光触媒塗工液は、90℃程度の低温でも短時間で硬化し、得られる被膜は透明度および硬度に優れ、その表面は暗所1ヶ月放置の前後いずれにおいても親水性を示す。形成される被膜は全て無機物で構成されているため、光触媒による被膜劣化も起こりにくい。また、光触媒による超親水性に依存せず、被膜自体が水濡れ性を示すため、暗所においても親水性が継続し、セルフクリーニング性が低下しにくい。したがって、本発明の光触媒塗工液は性能および取扱い性ともに優れている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明に係る親水性被膜形成用光触媒塗工液は、光触媒粒子と、所定量の水溶性カゴ型シルセスキオキサンと、所定量の水溶性ジルコニウム化合物とを含有するものであり、通常、光触媒粒子は溶媒に分散され、水溶性カゴ型シルセスキオキサン及び水溶性ジルコニウム化合物は溶媒に溶解した状態で該塗工液中に存在している。
【0011】
[水溶性カゴ型シルセスキオキサン]
カゴ型シルセスキオキサンとは、3官能性シロキサン単位(いわゆるT単位)のみからなり、その構造中のケイ素原子が多面体の頂点を形成しているようなシルセスキオキサンをいう。本発明の塗工液には、水溶性である限りいかなるカゴ型シルセスキオキサンも用いることができる。水溶性カゴ型シルセスキオキサンは、単体で水のみならずアルコールにも可溶性であることが好ましい。水溶性カゴ型シルセスキオキサンは1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。水溶性カゴ型シルセスキオキサンとしては、例えば、下記構造式(1):
【0012】
【化1】


(式中、Rは独立に水素原子または官能基である。)
で表されるT38構造を有するカゴ型シルセスキオキサン、下記構造式(2):
【0013】
【化2】


(式中、Rは前記のとおりである)
で表されるT310構造を有するカゴ型シルセスキオキサン、下記構造式(3):
【0014】
【化3】


(式中、Rは前記のとおりである)
で表されるT312構造を有するカゴ型シルセスキオキサンが挙げられる。これらのうち、上記T38構造を有するカゴ型シルセスキオキサンが好適に使用できる。
【0015】
上記Rは独立に水素原子または官能基である。Rは互いに同一であっても、異なっていてもよい。官能基であるRが、例えば、ヒドロキシ基、またはその塩として式:-O-M+(式中、Mはカチオン、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等の第4級アンモニウムイオン;アンモニウムイオン;ナトリウムイオン等のアルカリ金属イオンを示す。)で表される基;1,2-プロパンジオール基(-CH2CH(OH)CH2OH);1,2-プロパンジオールオキシプロピル基(-C3H6OCH2CH(OH)CH2OH);シクロヘキサンジオール基(-Cy(OH)2、Cyはシクロヘキサン環であり、Cy上任意の位置にOHが結合);シクロヘキサンジオールエチル基(-C2H4Cy(OH)2、Cyは前記のとおり);カルボキシ基、またはその塩として式:-COO-M+(式中、Mは前記のとおりである。)で表される基;スルホ基(-SO3H)、またはその塩として式:-SO3-M+(式中、Mは前記のとおりである。)で表される基;ホスホノ基(-P(OH)2O)、またはその塩として式:-P(OH)2O-M+(式中、Mは前記のとおりである。)で表される基;メチロール基(-CH2OH)、エチロール基(-CH2CH2OH)等のアルキロール基;ポリエーテル基(例えば、式:-(OR1)n-OR2(式中、R1はエチレン基(-CH2CH2-)等のアルキレン基であり、R2は水素原子、またはメチル基等のアルキル基である)で表される基、式:-(R1O)n-R2(式中、R1およびR2は前記のとおりである)で表される基など);メルカプト基;メルカプトプロピル基(-CH2CH2CH2SH);アミノ基;アミノエチル基(-CH2CH2NH2);置換アミノプロピル基(-CH2CH2CH2N+HxR33-xA-;xは1〜3の整数、R3はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、AはCl、OH等のアニオン);2-アミノエチル-3-アミノプロピル基(-C3H6NHC2H4NH2);アミノフェニル基(-PhNH2、ただし、Phはフェニル基);N-フェニルアミノプロピル基(-CH2CH2CH2NHPh、Phは前記のとおり);グリシジル基;グリシジルオキシプロピル基(-C3H6OG、ただし、Gはグリシジル基);エポキシシクロヘキシル基等の脂環式エポキシ基;式:-C2H4-Eまたは式:-CH2-E(式中、Eはエポキシシクロヘキシル基等の脂環式エポキシ基)で表される基;プロピルアミック酸基(-C3H6NHCOCHCHCO(OH));トリフルオロプロピル基(-CH2CH2CF3);クロロプロピル基(-C3H6Cl);クロロフェニル基(-PhCl、ただし、Phはフェニル基);クロロフェニルエチル基(-C2H4PhCl、ただし、Phはフェニル基);クロロベンジル基(-BnCl、ただし、Bnはベンジル基);クロロベンジルエチル基(-C2H4BnCl、ただし、Bnはベンジル基);マレイミドプロピル基(-C3H6-N(C1OCHCHC2O)、ただし、N(C1OCHCHC2O)の部分においてC1とC2の炭素原子が同一のN原子に結合して環状マレイミドが形成される);アクリロイルオキシプロピル基(-C3H6OCOCHCH2);メタクリロイルオキシプロピル基(-C3H6OCOC(CH3)CH2);メチル基、エチル基等のアルキル基;フェニル基、フェニルエチル基(-C2H4Ph、ただし、Phはフェニル基)等の芳香族含有基;ウレイド基(-NHCONH2);ウレイドプロピル基(-C3H6NHCONH2);シアノ基(-CN)、シアノプロピル基(-C3H6CN)、イソシアネートプロピル基(-C3H6NCO)等の基である上記構造式(1)〜(3)のいずれかで表されるカゴ型シルセスキオキサンが材料として最適に使用し得る。
【0016】
水溶性カゴ型シルセスキオキサンとしては、市販品を使用しうる。市販品としては、例えば、MS0860(商品名)等のHybrid Plastics製の製品が挙げられる。
【0017】
[水溶性ジルコニウム化合物]
水溶性ジルコニウム化合物には、酸化ジルコニウム系化合物およびその前駆体が包含される。水溶性ジルコニウム化合物は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。水溶性ジルコニウム化合物としては、例えば、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酸塩化ジルコニウム(オキシ塩化ジルコニウム)、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、塩酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、ギ酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、塩基性炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、オクチル酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシモノステアレート等、これらの加水分解物または部分加水分解物が挙げられる。水溶性ジルコニウム化合物としては、市販品を使用しうる。
【0018】
[溶媒]
本発明の塗工液を得るための溶媒としては、水が好適であるが、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール、または水とアルコールとの混合物を使用してもよい。該アルコールは1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0019】
[光触媒粒子]
光触媒粒子としては、従来知られているいずれのものも使用することができる。光触媒粒子は1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。光触媒粒子としては、例えば、現在上市されている酸化チタン系光触媒粒子、酸化タングステン系光触媒粒子、酸化亜鉛系光触媒粒子、酸化ニオブ系光触媒粒子等の、n型半導体である金属酸化物の結晶微粒子が挙げられる。より具体的には、例えば、アナターゼ型の二酸化チタン(TiO2)、ルチル型の二酸化チタン、三酸化タングステン(WO3)、酸化亜鉛(ZnO)、Gaドープ酸化亜鉛(GZO)、酸化ニオブ(Nb2O5)等が挙げられる。
【0020】
更に、可視光活性の高い光触媒微粒子としては、例えば、上記金属酸化物の結晶内に窒素、硫黄、リン、炭素等のドーパント元素をドーピングしたもの、または上記金属酸化物の表面に銅、鉄、ニッケル、金、銀、白金、炭素等の異種元素もしくは該異種元素の化合物、例えば、水酸化物、塩化物、窒化物、硫化物等を担持したものが挙げられる。更に詳しくは、白金を担持したルチル型酸化チタン、鉄を担持したルチル型酸化チタン、銅を担持したルチル型酸化チタン、水酸化銅を担持したルチル型酸化チタン、金を担持したアナターゼ型酸化チタン、白金を担持した三酸化タングステン等が挙げられる。
【0021】
光触媒粒子としては、一次粒子径が微細なもの、即ち、一次粒子径が好ましくは1nm〜100nmの範囲にあるものが、更に好ましくは1nm〜50nmの範囲にあるものが好適に使用される。一次粒子径が100nmより大きいと、光触媒被膜の透明度が低下し外観を損ねることがある。なお、本明細書において、「平均粒子径」とは、動的光散乱法を用いた粒度分布測定装置により求めた累積分布の50%に相当する体積基準の平均粒子径をいう。
【0022】
可視光活性が高い光触媒微粒子の市販品としては、MPT-623(商品名、可視光応答光触媒、粉体状、白金化合物を担持したルチル型二酸化チタン、石原産業製)、MPT-625(商品名、可視光応答光触媒、粉体状、鉄化合物を担持したルチル型二酸化チタン、石原産業製)等が挙げられる。
【0023】
[光触媒塗工液]
本発明の光触媒塗工液においては、上記の光触媒粒子が分散され、かつ水溶性カゴ型シルセスキオキサンおよび水溶性ジルコニウム化合物が溶解している。該光触媒塗工液は、例えば、あらかじめ溶媒に光触媒粒子を分散させた光触媒分散液を調製し、水溶性カゴ型シルセスキオキサンを溶解した溶液および水溶性ジルコニウム化合物を溶解した溶液と混合し攪拌することで調製される。このようにして調製された塗工液においては、カゴ型シルセスキオキサン-ジルコニア複合体が形成されていることが推定される。
【0024】
上記光触媒塗工液中の光触媒粒子の含有量は、該光触媒塗工液全体に対し0.01〜10質量%であり、好ましくは0.1〜5質量%である。該含有量が0.01質量%より少ないと光触媒による防汚活性が低下することがあり、10質量%より多いと透明性が低下し外観をそこねることがある。
【0025】
また、塗工液中の水溶性カゴ型シルセスキオキサンの含有量は、光触媒粒子に対して0.01〜100質量%であり、このましくは0.1〜90質量%である。0.01質量%より少ないと膜の強度が低く剥離、割れが生じることがあり、100質量%より多いと光触媒粒子が完全に被覆され防汚活性が低下することがある。
【0026】
塗工液中の水溶性ジルコニウム化合物の含有量は、光触媒粒子に対して0.01〜100質量%、好ましくは0.01〜80質量%、更に好ましくは0.01〜50質量%である。0.01質量%より少ないと膜の強度が低く剥離、割れが生じることがある。100質量%より多いとジルコニアによると考えられる高い屈折率のために被膜表面で光の反射量が多くなり、被膜の全光線透過率の低下およびヘイズ率の上昇を招き被膜透明度が低下する場合がある。さらに、光触媒粒子が完全に被覆され、防汚活性が低下することがある。
【0027】
[基体]
本発明の親水性光触媒被膜形成用塗工液が塗布される基体は、親水性光触媒被膜を形成することができる限り、特に制限されない。基体の材料としては、例えば有機材料、無機材料が挙げられ、無機材料には、例えば、非金属無機材料、金属無機材料が包含される。これらはそれぞれの目的、用途に応じた様々な形状を有することができる。
【0028】
有機材料としては、例えば、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリアセタール、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレンービニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルイミド(PEEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、メラミン樹脂、フェノール樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂等の合成樹脂材料;天然、合成もしくは半合成の繊維材料及び繊維製品が挙げられる。これらは、フィルム、シート、その他の成型品、積層体などの所要の形状、構成に製品化されていてもよい。
【0029】
非金属無機材料としては、例えば、ガラス、セラミック、石材が挙げられる。これらは、タイル、硝子、ミラー、意匠材等の様々な形に製品化されていてもよい。
【0030】
金属無機材料としては、例えば、鋳鉄、鋼材、鉄、鉄合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、亜鉛ダイキャスト等が挙げられ、これらはメッキが施されていてもよいし、有機材料が塗布されていてもよい。また、非金属無機材料または有機材料の表面に施された金属メッキ被膜であってもよい。
【0031】
[親水性光触媒被膜]
本発明の親水性光触媒被膜は、上記の塗工液の硬化物からなり、水接触角が20度以下であり、かつ、厚さが200nmであるとき、全光線透過率が85%以上、ヘイズ率が3.5%以下である親水性光触媒被膜である。本発明の親水性光触媒被膜の形成方法としては、例えば、
本発明の塗工液を基体の表面に塗布して塗膜を形成させ、
得られた塗膜を50〜200℃の温度で乾燥硬化させる
ことを含む方法が挙げられる。
【0032】
上記塗工液を基体に塗布するには、従来公知のいずれの方法も用いることができる。具体的には、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、刷毛塗り法、含浸法、ロール法、ワイヤーバー法、ダイコーティング法、グラビア印刷法、インクジェット法等を利用して塗膜を基体上に形成させることができる。
【0033】
基体上の上記塗膜を乾燥硬化させるためには、50〜200℃の温度範囲で1〜120分間熱処理することが好ましく、特には60℃〜110℃の温度範囲で5〜60分間処理することが好ましい。
【0034】
形成される親水性光触媒被膜の厚さは、1〜500nmの範囲にあることが好ましく、特には50〜300nmの範囲にあることが好ましい。親水性光触媒被膜は、薄すぎると強度が低い場合があり、また、厚すぎると割れが生じる場合がある。
【0035】
本発明の親水性光触媒被膜は、室温において、水接触角が20度以下(0〜20度)であることが好ましく、0〜10度であることが好ましい。水接触角が20度を超えると、親水性光触媒被膜の防汚性および水性オーバーコート液に対するリコート性が低下することがある。更に、本発明の親水性光触媒被膜は、暗所に1ヶ月放置した後に水に対する接触角が20度以下(0〜20度)、好ましくは0〜10度を保持しているものである。なお、水接触角は接触角計を用いて測定することができる。
【0036】
また、本発明の親水性光触媒被膜は、全光線透過率が好ましくは85%以上(85〜100%)であり、かつ、ヘイズ率が好ましくは3.5%以下(0〜3.5%)、より好ましくは0〜2.0%である。全光線透過率が85%未満の場合、もしくはヘイズ率が3.5%を超える場合、またはその両方の場合、親水性光触媒被膜は透明性が低下し外観を損ねることがある。なお、光線透過率およびヘイズ率は、ヘイズメーターを用いて測定することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの例により制限されるものではない。
【0038】
[実施例1〜3ならびに比較例1及び2]
表1に示す組成で光触媒分散液およびバインダ混合液を配合して、総固形分濃度1.50質量%の水系分散液を調製し、塗工液として用いた。なお、実施例1〜3ならびに比較例1及び2のいずれにおいても、溶媒として水を用いた。また、得られた塗工液内の光触媒微粒子の粒子径分布を日機装社製のマイクロトラックUPA-EXにて測定して、該光触媒微粒子の平均粒子径を算出した。その結果、実施例1〜3ならびに比較例1及び2のいずれについても平均粒子径は50nmであった。
・光触媒分散液
光触媒材料として、市販のMPT-623(商品名、白金担持二酸化チタン結晶微粒子/アナターゼ型、一次粒径約20nm、石原産業製)を純水に分散して得た固形分濃度1.50質量%の水系分散液を使用した。
・POSS
水溶性カゴ型シルセスキオキサンとして、MS0860(商品名、T38構造を有するオクタアニオン型のカゴ型シルセスキオキサンのテトラメチルアンモニウム塩、即ち、R=-O-N+(CH3)4である上記構造式(1)で表されるT38構造を有するカゴ型シルセスキオキサン、Hybrid Plastics製)を使用した。以下、これをPOSS(Polyhedral Oligomeric Silsesquioxaneの略)と表記する。
・AC-7
水溶性ジルコニウム化合物の水溶液としてジルコゾールAC-7(商品名、炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液、固形分濃度13質量%、第一稀元素科学工業製)を使用した。
・スノーテックスS
固体シリカゾル系バインダーとして、スノーテックスS(商品名、粒径8〜11nmのコロイダルシリカ、日産化学製)を使用した。
【0039】
[被膜の評価方法]
上記実施例および比較例において調製した塗工液を用いて、下記の手法によりサンプルフィルムを作製し、被膜の性能を評価した。
・サンプルフィルムの作製
基体として、コロナ放電処理を施したPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(厚さ50μm、A4サイズ(210mm×297mm))を用いた。前記PETフィルムの片面に前記塗工液を塗布し、90℃で15分間(光学特性の測定用に用いたサンプルフィルムについては1時間)加熱乾燥させて、該PETフィルムおよびその片面に形成された厚さ約200nmの被膜からなるサンプルフィルムを作製した。
・表面張力(静的または動的)
静的表面張力を評価するために、被膜の水接触角を接触角計CA-A(製品名、協和界面科学製)を用いて室温にて測定した。水接触角の測定は、暗所に1ヶ月放置したサンプルフィルムについても行った。
一方、動的表面張力を評価するために、被膜の濡れ張力を次のとおりに測定した。即ち、室温において、ぬれ張力試験用混合液No.22.6〜No73.0(和光純薬工業(株)製)を綿棒でサンプルフィルム中の被膜表面に塗布して液膜を形成させた後、その液膜が10秒間弾かれずに保持されるかどうかを確認した。液膜が保持された濡れ張力試験用混合液に対応する濡れ張力の値のうち最大のものを被膜の濡れ張力(mN/m)とした。結果を表1に示す。
・1kg荷重擦過試験
サンプルフィルム中の被膜上にキムワイプを載せ、そのキムワイプに1kgの荷重を掛けて、被膜を10往復擦った後、被膜表面の傷の有無を目視で確認した。結果を表1に示す。
・鉛筆硬度
被膜の鉛筆硬度は、JIS K 5600-5-4に準拠して、引っかき硬度(鉛筆法)試験器(コーテック(株)製)を用いて測定した。結果を表1に示す。
・外観(色相)
被膜の外観(色相)を目視で確認した。結果を表1に示す。
・厚さ
被膜の厚さは、薄膜測定装置F-20(製品名、FILMETRICS社製)及び走査型電子顕微鏡S-3400NX(製品名、日立ハイテクノロジーズ製)を用いて測定した。即ち、まず、上記の電子顕微鏡にて被膜の厚さが全体で均一であることを確認し、大まかな厚さを決定してから、上記薄膜測定装置にて正確な厚さを決定した。結果を表1に示す。
・光学特性
被膜の全光線透過率およびヘイズ率は、デジタルヘイズメーターNDH-20D(日本電色工業製)を用いて測定した。サンプルフィルム中の厚さ200nmの被膜を測定に用いた。結果を表1に示す。
・光触媒活性の評価方法
メチレンブルーの1.0mmol/L水溶液をサンプルフィルム中の光触媒被膜上に塗布し、60℃で乾燥させることで該被膜表面に充分量のメチレンブルーを吸着させた。その後、このようにしてメチレンブルーを吸着させたサンプルフィルムに紫外線(波長:190〜400nm、1mW/cm2)または可視光(波長400〜600nm、1mW/cm2)を照射し、光触媒評価チェッカーPCC-2(商品名、ULVAC理工社製)を用い、メチレンブルー吸着面における青色色素の吸光度(波長664nm)の減少を測定した。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】


※1:光触媒活性は、測定開始10分後のメチレンブルー吸光度の変化量×103を表す。
【0041】
表1の結果から、実施例1-3の複合体が最も被膜特性が良い。比較例より、スノーテックスのみまたは水溶性ジルコニウム化合物のみで形成した被膜は、耐傷性不足、または、外観不良および光触媒活性低下が発生していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒粒子、
水溶性カゴ型シルセスキオキサン 光触媒粒子に対して0.01〜100質量%、及び
水溶性ジルコニウム化合物 光触媒粒子に対して0.01〜100質量%
を含有する、親水性被膜形成用光触媒塗工液。
【請求項2】
水接触角が20度以下であり、かつ、厚さが200nmであるとき、全光線透過率が85%以上、ヘイズ率が3.5%以下である親水性光触媒被膜を与える請求項1に係る塗工液。
【請求項3】
上記光触媒粒子が、n型半導体である金属酸化物の結晶微粒子であることを特徴とする請求項1または2に係る塗工液。
【請求項4】
水溶性カゴ型シルセスキオキサンがT38構造を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に係る塗工液。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗工液の硬化物からなり、光触媒性を有し、水に対する接触角が20度以下であり、暗所に1ヶ月放置した後に水に対する接触角が20度以下を保持していることを特徴とする親水性光触媒被膜。

【公開番号】特開2011−208113(P2011−208113A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114400(P2010−114400)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】