説明

親水性被膜形成用塗工液およびそれを用いた親水性被膜

【課題】(1)低温硬化性であり、(2)安全かつ基体ダメージの無い溶媒溶液、好ましくは水溶液からなり、(3)得られる被膜は硬度および透明性が高く、かつ常時親水性であり、(4)ポットライフおよびシェルフライフが十分長い、といった条件を効果的に満足することができる親水性被膜形成用塗工液、およびそれを用いた親水性被膜を提供する。
【解決手段】水溶性カゴ型シルセスキオキサン 0.01質量%以上、及び、水溶性ジルコニウム化合物 0.01質量%以上、を含有する、親水性被膜形成用塗工液;上記塗工液の硬化物からなり、水接触角が20度以下であり、かつ、厚さが200nmであるとき、全光線透過率が85%以上、ヘイズ率が3.5%以下である親水性被膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性被膜形成用塗工液およびそれを用いた親水性被膜に関する。更に詳しくは、水溶性カゴ型シルセスキオキサンおよび水溶性ジルコニウム化合物を含有する水性かつ低温硬化性の親水性被膜形成用塗工液、並びに該塗工液の硬化物からなり、透明性および硬度に優れる親水性被膜に関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネル、液晶画面、保護フィルム、眼鏡、窓ガラス等の各種基体に対し、表面の保護、汚れ防止、摩擦係数の低減、光学的性質の改善等の目的で透明ハードコートが一般的に用いられる。このような透明ハードコートの材料として、一般的にシリコーン系化合物およびUV硬化性の有機高分子が使用されている。ところが、これら材料は、(1)150℃を超える高温で焼成しないと十分な性能を持つ膜が形成できない、(2)低温で硬化するものの有機溶剤を使用しているため、溶剤耐性の無い基体に塗布できない、(3)低温で硬化し、基体損傷の少ない溶媒を使用しているものの、塗工液自体の寿命が短いため、2〜3液混合型として調製し、調合直後に使い切る必要がある、のいずれかの欠点を有している。そのため、必ずしもあらゆる基体に塗工できるわけではなく、また屋外施工時においてスプレー塗布等を行う場合に作業安全および環境保全の点で問題を有している。
【0003】
上述の透明ハードコートの多くは撥水性であり、汚れを含む水分が水滴となって表面から除去されることで、または汚染物が濡れ広がらないようにすることで、防汚機能を達成しようとするものである。しかしながら、このような透明ハードコートは必ずしも撥水効果が十分でなく、また徐々に堆積していく汚染物によって防汚効果が失われる場合もあり、長期的に見て十分な防汚性があるとまでは言えないものであった。
【0004】
また、このような透明ハードコートを下地とし、その表面に更にオーバーコート液を塗る場合に、該表面が撥水性のときには該オーバーコート液を弾いてしまう。特に、水性塗料をオーバーコートすることは極めて困難である。透明性および硬度の点で十分な性能を有する機能性被膜を基体表面に形成させることのできる塗工液は未だ創出されていない。
【0005】
したがって、(1)低温硬化性であり、(2)安全かつ基体ダメージの無い溶媒溶液、好ましくは水溶液からなり、(3)得られる被膜は硬度および透明性が高く、かつ常時親水性であり、(4)ポットライフおよびシェルフライフが十分長い、といった条件を全て満たす塗工液が求められている。
【0006】
なお、本発明に関連する先行技術としては、下記のものが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-290588号公報
【特許文献2】特開2003-073618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたもので、上記条件(1)〜(4)を効果的に満足することができる親水性被膜形成用塗工液、およびそれを用いた親水性被膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、下記の親水性被膜形成用塗工液および親水性被膜により上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は第一に、
水溶性カゴ型シルセスキオキサン 0.01質量%以上、及び
水溶性ジルコニウム化合物 0.01質量%以上
を含有する、親水性被膜形成用塗工液を提供する。
本発明は第二に、上記の塗工液の硬化物からなり、水接触角が20度以下であり、かつ、厚さが200nmであるとき、全光線透過率が85%以上、ヘイズ率が3.5%以下である親水性被膜を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塗工液は、水、アルコールまたはこれらの混合物を溶媒として用いることができ、安全かつ基体ダメージの無い塗工液を形成できる。また、本発明の塗工液は90℃程度の低温でも短時間で硬化し、得られる被膜は透明性および硬度に優れ、その表面は親水性を有するという特徴がある。更に、この被膜は有機物を含まないため、反応性の高いラジカルを発生する塗料、例えば、光触媒と接触させても劣化しにくい。よって、基体と光触媒薄膜との間に本発明の親水性被膜をはさむことにより、基体を光触媒による劣化から保護することができるので、該親水性被膜は光触媒薄膜の下地膜としても好適である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明に係る親水性被膜形成用塗工液は水溶性カゴ型シルセスキオキサン及び水溶性ジルコニウム化合物を所定量含有するものであり、通常、これらの成分は溶媒に溶解した状態で該塗工液中に存在している。
【0013】
[水溶性カゴ型シルセスキオキサン]
カゴ型シルセスキオキサンとは、3官能性シロキサン単位(いわゆるT単位)のみからなり、その構造中のケイ素原子が多面体の頂点を形成しているようなシルセスキオキサンをいう。本発明の塗工液には、水溶性である限りいかなるカゴ型シルセスキオキサンも用いることができる。水溶性カゴ型シルセスキオキサンは、単体で水のみならずアルコールにも可溶性であることが好ましい。水溶性カゴ型シルセスキオキサンは1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。水溶性カゴ型シルセスキオキサンとしては、例えば、下記構造式(1):
【0014】
【化1】


(式中、Rは独立に水素原子または官能基である。)
で表されるT38構造を有するカゴ型シルセスキオキサン、下記構造式(2):
【0015】
【化2】


(式中、Rは前記のとおりである)
で表されるT310構造を有するカゴ型シルセスキオキサン、下記構造式(3):
【0016】
【化3】


(式中、Rは前記のとおりである)
で表されるT312構造を有するカゴ型シルセスキオキサンが挙げられる。これらのうち、上記T38構造を有するカゴ型シルセスキオキサンが好適に使用できる。
【0017】
上記Rは独立に水素原子または官能基である。Rは互いに同一であっても、異なっていてもよい。官能基であるRが、例えば、ヒドロキシ基、またはその塩として式:-O-M+(式中、Mはカチオン、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等の第4級アンモニウムイオン;アンモニウムイオン;ナトリウムイオン等のアルカリ金属イオンを示す。)で表される基;1,2-プロパンジオール基(-CH2CH(OH)CH2OH);1,2-プロパンジオールオキシプロピル基(-C3H6OCH2CH(OH)CH2OH);シクロヘキサンジオール基(-Cy(OH)2、Cyはシクロヘキサン環であり、Cy上任意の位置にOHが結合);シクロヘキサンジオールエチル基(-C2H4Cy(OH)2、Cyは前記のとおり);カルボキシ基、またはその塩として式:-COO-M+(式中、Mは前記のとおりである。)で表される基;スルホ基(-SO3H)、またはその塩として式:-SO3-M+(式中、Mは前記のとおりである。)で表される基;ホスホノ基(-P(OH)2O)、またはその塩として式:-P(OH)2O-M+(式中、Mは前記のとおりである。)で表される基;メチロール基(-CH2OH)、エチロール基(-CH2CH2OH)等のアルキロール基;ポリエーテル基(例えば、式:-(OR1)n-OR2(式中、R1はエチレン基(-CH2CH2-)等のアルキレン基であり、R2は水素原子、またはメチル基等のアルキル基である)で表される基、式:-(R1O)n-R2(式中、R1およびR2は前記のとおりである)で表される基など);メルカプト基;メルカプトプロピル基(-CH2CH2CH2SH);アミノ基;アミノエチル基(-CH2CH2NH2);置換アミノプロピル基(-CH2CH2CH2N+HxR33-xA-;xは1〜3の整数、R3はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、AはCl、OH等のアニオン);2-アミノエチル-3-アミノプロピル基(-C3H6NHC2H4NH2);アミノフェニル基(-PhNH2、ただし、Phはフェニル基);N-フェニルアミノプロピル基(-CH2CH2CH2NHPh、Phは前記のとおり);グリシジル基;グリシジルオキシプロピル基(-C3H6OG、ただし、Gはグリシジル基);エポキシシクロヘキシル基等の脂環式エポキシ基;式:-C2H4-Eまたは式:-CH2-E(式中、Eはエポキシシクロヘキシル基等の脂環式エポキシ基)で表される基;プロピルアミック酸基(-C3H6NHCOCHCHCO(OH));トリフルオロプロピル基(-CH2CH2CF3);クロロプロピル基(-C3H6Cl);クロロフェニル基(-PhCl、ただし、Phはフェニル基);クロロフェニルエチル基(-C2H4PhCl、ただし、Phはフェニル基);クロロベンジル基(-BnCl、ただし、Bnはベンジル基);クロロベンジルエチル基(-C2H4BnCl、ただし、Bnはベンジル基);マレイミドプロピル基(-C3H6-N(C1OCHCHC2O)、ただし、N(C1OCHCHC2O)の部分においてC1とC2の炭素原子が同一のN原子に結合して環状マレイミドが形成される);アクリロイルオキシプロピル基(-C3H6OCOCHCH2);メタクリロイルオキシプロピル基(-C3H6OCOC(CH3)CH2);メチル基、エチル基等のアルキル基;フェニル基、フェニルエチル基(-C2H4Ph、ただし、Phはフェニル基)等の芳香族含有基;ウレイド基(-NHCONH2);ウレイドプロピル基(-C3H6NHCONH2);シアノ基(-CN)、シアノプロピル基(-C3H6CN)、イソシアネートプロピル基(-C3H6NCO)等の基である上記構造式(1)〜(3)のいずれかで表されるカゴ型シルセスキオキサンが材料として最適に使用し得る。
【0018】
水溶性カゴ型シルセスキオキサンとしては、市販品を使用しうる。市販品としては、例えば、MS0860(商品名)等のHybrid Plastics製の製品が挙げられる。
【0019】
水溶性カゴ型シルセスキオキサンの含有量は、本発明の塗工液中、通常、0.01質量%以上であり、好ましくは0.1〜90質量%であり、より好ましくは0.1〜50質量%である。
【0020】
[水溶性ジルコニウム化合物]
水溶性ジルコニウム化合物には、酸化ジルコニウム系化合物およびその前駆体が包含される。水溶性ジルコニウム化合物は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。水溶性ジルコニウム化合物としては、例えば、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酸塩化ジルコニウム(オキシ塩化ジルコニウム)、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、塩酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、ギ酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、塩基性炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、オクチル酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシモノステアレート等、これらの加水分解物または部分加水分解物が挙げられる。水溶性ジルコニウム化合物としては、市販品を使用しうる。
【0021】
水溶性ジルコニウム化合物の含有量は、本発明の塗工液中、通常、0.01質量%以上であり、好ましくは0.01〜80質量%であり、より好ましくは0.01〜60質量%である。更に、水溶性ジルコニウム化合物の含有量は、水溶性カゴ型シルセスキオキサンに対して、好ましくは0.01〜200質量%、より好ましくは0.01〜70質量%、更により好ましくは5〜60質量%である。
【0022】
[溶媒]
本発明の塗工液を得るための溶媒としては、水が好適であるが、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール、または水とアルコールとの混合物を使用してもよい。該アルコールは1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0023】
[塗工液]
本発明の塗工液は、上記の水溶性カゴ型シルセスキオキサンおよび水溶性ジルコニウム化合物を上記の溶媒に添加し混合することにより調製することができる。このようにして調製された塗工液においては、カゴ型シルセスキオキサン-ジルコニア複合体が形成されていることが推定される。
【0024】
[基体]
本発明の親水性被膜形成用塗工液が塗布される基体は、親水性被膜を形成することができる限り、特に制限されない。基体の材料としては、例えば有機材料、無機材料が挙げられ、無機材料には、例えば、非金属無機材料、金属無機材料が包含される。これらはそれぞれの目的、用途に応じた様々な形状を有することができる。
【0025】
有機材料としては、例えば、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリアセタール、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレンービニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルイミド(PEEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、メラミン樹脂、フェノール樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂等の合成樹脂材料;天然、合成もしくは半合成の繊維材料及び繊維製品が挙げられる。これらは、フィルム、シート、その他の成型品、積層体などの所要の形状、構成に製品化されていてもよい。
【0026】
非金属無機材料としては、例えば、ガラス、セラミック、石材が挙げられる。これらは、タイル、硝子、ミラー、意匠材等の様々な形に製品化されていてもよい。
【0027】
金属無機材料としては、例えば、鋳鉄、鋼材、鉄、鉄合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、亜鉛ダイキャスト等が挙げられ、これらはメッキが施されていてもよいし、有機材料が塗布されていてもよい。また、非金属無機材料または有機材料の表面に施された金属メッキ被膜であってもよい。
【0028】
[親水性被膜]
本発明の親水性被膜は、上記の塗工液の硬化物からなり、水接触角が20度以下であり、かつ、厚さが200nmであるとき、全光線透過率が85%以上、ヘイズ率が3.5%以下である親水性被膜である。本発明の親水性被膜の形成方法としては、例えば、
本発明の塗工液を基体の表面に塗布して塗膜を形成させ、
得られた塗膜を50〜200℃の温度で乾燥硬化させる
ことを含む方法が挙げられる。
【0029】
上記塗工液を基体に塗布するには、従来公知のいずれの方法も用いることができる。具体的には、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、刷毛塗り法、含浸法、ロール法、ワイヤーバー法、ダイコーティング法、グラビア印刷法、インクジェット法等を利用して塗膜を基体上に形成させることができる。
【0030】
基体上の上記塗膜を乾燥硬化させるためには、50〜200℃の温度範囲で1〜120分間熱処理することが好ましく、特には60℃〜110℃の温度範囲で5〜60分間処理することが好ましい。
【0031】
形成される親水性被膜の厚さは、1〜500nmの範囲にあることが好ましく、特には50〜300nmの範囲にあることが好ましい。親水性被膜は、薄すぎると強度が低い場合があり、また、厚すぎると割れが生じる場合がある。
【0032】
本発明の親水性被膜は、室温において、水接触角が20度以下(0〜20度)であることが好ましく、0〜10度であることが好ましい。水接触角が20度を超えると、親水性被膜の防汚性および水性オーバーコート液に対するリコート性が低下することがある。なお、水接触角は接触角計を用いて測定することができる。
【0033】
また、本発明の親水性被膜は、全光線透過率が好ましくは85%以上(85〜100%)であり、かつ、ヘイズ率が好ましくは3.5%以下(0〜3.5%)、より好ましくは0〜2.0%である。全光線透過率が85%未満の場合、もしくはヘイズ率が3.5%を超える場合、またはその両方の場合、親水性被膜は透明性が低下し外観を損ねることがある。なお、光線透過率およびヘイズ率は、ヘイズメーターを用いて測定することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
【0035】
[実施例1及び2ならびに比較例1〜5]
表1に示す組成でSi成分、Zr成分及びTi成分を配合して、総固形分濃度1.50質量%の水溶液又はメチルエチルケトン(以下、MEKと略す)溶液を調製し、塗工液として用いた。
(Si成分)
・POSS
水溶性カゴ型シルセスキオキサンとして、MS0860(商品名、T38構造を有するオクタアニオン型のカゴ型シルセスキオキサンのテトラメチルアンモニウム塩、即ち、R=-O-N+(CH3)4である上記構造式(1)で表されるT38構造を有するカゴ型シルセスキオキサン、Hybrid Plastics製)を使用した。以下、これをPOSS(Polyhedral Oligomeric Silsesquioxaneの略)と表記する。
・KR-400
撥水性シリコーン系コーティング剤として、KR-400(商品名、1液硬化型シリコーンレジン、信越化学工業製)を使用した。
・スノーテックスS
固体シリカゾル系バインダーとして、スノーテックスS(商品名、粒径8〜11nmのコロイダルシリカ、日産化学製)を使用した。
(Zr成分)
・AC-7
水溶性ジルコニウム化合物の水溶液としてジルコゾールAC-7(商品名、炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液、固形分濃度13質量%、第一稀元素科学工業製)を使用した。
(Ti成分)
・PTAゾル
サガンコートPTAゾル(商品名、ペルオキソチタン酸水溶液、固形分濃度1.70質量%、(株)鯤コーポレーション製)を使用した。
【0036】
[被膜の評価方法]
上記実施例および比較例において調製した塗工液を用いて、下記の手法によりサンプルフィルムを作製し、被膜の性能を評価した。
・サンプルフィルムの作製
基体として、コロナ放電処理を施したPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(厚さ50μm、A4サイズ(210mm×297mm))を用いた。前記PETフィルムの片面に前記塗工液を塗布し、90℃で10分間加熱乾燥させて、該PETフィルムおよびその片面に形成された厚さ約200nmの被膜からなるサンプルフィルムを作製した。
・表面張力(静的または動的)
静的表面張力を評価するために、被膜の水接触角を接触角計CA-A(製品名、協和界面科学製)を用いて室温にて測定した。
一方、動的表面張力を評価するために、被膜の濡れ張力を次のとおりに測定した。即ち、室温において、濡れ張力試験用混合液No.22.6〜No73.0(和光純薬工業製)を綿棒でサンプルフィルム中の被膜表面に塗布して液膜を形成させた後、その液膜が10秒間弾かれずに保持されるかどうかを確認した。液膜が保持された濡れ張力試験用混合液に対応する濡れ張力の値のうち最大のものを被膜の濡れ張力(mN/m)とした。結果を表1に示す。
・1kg荷重擦過試験
サンプルフィルム中の被膜上にキムワイプを載せ、そのキムワイプに1kgの荷重を掛けて、被膜を10往復擦った後、被膜表面の傷の有無を目視で確認した。結果を表1に示す。
・鉛筆硬度
被膜の鉛筆硬度は、JIS K 5600-5-4に準拠して、引っかき硬度(鉛筆法)試験器(コーテック(株)製)を用いて測定した。結果を表1に示す。
・外観(色相)
被膜の外観(色相)を目視で確認した。結果を表1に示す。
・厚さ
被膜の厚さは、薄膜測定装置F-20(製品名、FILMETRICS社製)及び走査型電子顕微鏡S-3400NX(製品名、日立ハイテクノロジーズ製)を用いて測定した。即ち、まず、上記の電子顕微鏡にて被膜の厚さが全体で均一であることを確認し、大まかな厚さを決定してから、上記薄膜測定装置にて正確な厚さを決定した。結果を表1に示す。
・光学特性
被膜の全光線透過率およびヘイズ率は、デジタルヘイズメーターNDH-20D(日本電色工業製)を用いて測定した。結果を表1に示す。
・リコート性試験
水性塗料に対する被膜の濡れ性を評価するため、サガンコートTPX85(商品名、水性光触媒コーティング液、(株)鯤コーポレーション製)をバーコート法によってサンプルフィルム中の被膜表面に塗布し、形成された塗膜の均一性を評価した。評価基準は以下のとおりである。結果を表1に示す。
○(均一):目視にて塗膜にムラが確認されない。
×(不均一):目視にて塗膜にムラが確認できる、または、上記水性光触媒コーティング液が完全に弾かれ、被膜に塗工できない。
【0037】
【表1】

【0038】
表1の結果から、実施例1および2で得た塗工液及び被膜の特性が最も良かった。即ち、塗工液は水性であり、被膜は、硬度および透明性に優れ、親水性であった。比較例1より、水溶性ジルコニウム化合物の代わりにペルオキソチタン酸水溶液を用いて得た被膜は硬度に劣っていた。比較例2より、水溶性カゴ型シルセスキオキサンを用いず水溶性ジルコニウム化合物を単独で用いて得た被膜は、ジルコニアによると考えられる高い屈折率のために光線反射量が増加し、全光線透過率及びヘイズ率が悪影響を受けていた(光学特性に難あり)。比較例3より、水溶性カゴ型シルセスキオキサンも水溶性ジルコニウム化合物も用いず、ペルオキソチタン酸水溶液を単独で用いて得た被膜は硬度及びリコート性に劣っていた。比較例4より、一般的なシリコーン系コーティング剤は水への溶解ができず、また、得られた被膜の濡れ性が高くなかった(濡れ性に難あり)。比較例5より、コロイダルシリカ系バインダーを用いて得た被膜は、濡れ性は良いものの、低温硬化後の硬度に著しく劣っていた(硬度に難あり)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性カゴ型シルセスキオキサン 0.01質量%以上、及び
水溶性ジルコニウム化合物 0.01質量%以上
を含有する、親水性被膜形成用塗工液。
【請求項2】
水溶性カゴ型シルセスキオキサンがT38構造を有することを特徴とする請求項1に係る塗工液。
【請求項3】
請求項1または2に記載の塗工液の硬化物からなり、水接触角が20度以下であり、かつ、厚さが200nmであるとき、全光線透過率が85%以上、ヘイズ率が3.5%以下である親水性被膜。
【請求項4】
光触媒薄膜の下地膜であることを特徴とする請求項3に係る親水性被膜。

【公開番号】特開2011−208112(P2011−208112A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114399(P2010−114399)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】