説明

親水性部材及びその形成方法

【課題】各種基材との密着性が良好で、かつ基材表面に、耐水性、防曇性、防汚性、耐候性に優れる親水性表面を付与した組成傾斜膜を有する親水性部材を提供する。
【解決手段】基材2と、該基材上に設けられ、下記親水性材料1)及び樹脂材料2)を含む膜3とを有する親水性部材であって、該膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から最も遠い側に向かって1)の比率が大きくなり、かつ、2)の比率が小さくなるように、1)及び2)の組成が連続的に変化する組成傾斜膜である親水性部材。1)加水分解性シリル基含有親水性ポリマーを含有し、かつ前記ポリマーが主鎖末端又は側鎖に、特定の加水分解性シリル基を分子中に少なくとも1個有し、親水性基を分子中に少なくとも1個有する親水性材料。2)オリゴマー又はポリマーを含有する樹脂材料。但し、2)は上記1)の親水性材料とは異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性部材に関し、詳細には、親水性部材を構成する各種基材と膜との密着性が良好で、かつ基材表面に、耐水性、防曇性、防汚性、耐候性に優れる親水性表面を付与することが可能な親水性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂フィルム表面を有する製品・部材は、幅広い分野で用いられ、目的に応じ加工され機能を付与した上で使用されている。但しそれらの表面は、樹脂本来の特性から、疎水性・親油性を示すものが一般的である。従って、これらの表面に汚れ物質として、油分等が付着した場合、容易に除去することができず、また蓄積することにより、該表面を有する製品・部材の機能・特性を著しく低下させることがあった。そこで、防曇性、及び防汚性等の付与を目的として、各種基材上に表面親水性機能を有する親水性部材が種々提案されている。
【0003】
特許文献1には、ポリエチレンテレフタレート基板上に、水系樹脂組成物から形成される下塗り層と、該下塗り層上に、主鎖末端又は側鎖に加水分解性シリル基を含有する親水性ポリマーから形成される、親水性層を有する親水性部材が記載されている。
特許文献2には、ポリエチレンテレフタレート基板上に、疎水性ポリマー組成物から形成される疎水性下塗り層と、該下塗り層上に、主鎖末端又は側鎖に加水分解性シリル基を含有する親水性ポリマーから形成される親水性層を有する親水性部材が記載されている。
特許文献3には、基材上に、水系樹脂とオルガノシロキサンの水溶液からなるオルガノシロキサン組成物を塗布することにより、表面エネルギーの差によりオルガノシロキサンが塗膜表面に偏在化する、自己傾斜機能を有する親水性部材が記載されている。
【0004】
特許文献1に記載の親水性部材は、ガラスや金属などの無機材料からなる基材に優れた密着性を有し、耐アルカリ性にも優れることが記載されている。そして、該部材は、PET支持体上に水系エポキシ樹脂を接着層として用いて形成されることが記載されているが、組成傾斜膜を有することは記載されていない。
特許文献2には、基板上に形成される下塗り層と、該下塗り層上に形成される親水性層の2層構造を有する親水性部材が記載されている。しかし、組成傾斜膜を有することは記載されていない。
特許文献3に記載には、表面エネルギーの低い材料を利用した親水性部材が記載されている。しかし、当該部材は、表面エネルギーの低い材料の存在により、表面の親水性が低下していることが明らかである。そのため、親水性、防曇性、防汚性を達成できない問題があると考えられる。
このように、従来の親水性部材は、親水性材料及び基材と比較的相性のよい材料(例えば、シリカゾルゲルと有機ポリマーのハイブリッド材料)とを含む組成物を基材上に積層したり、親水性材料及び基材に対してある程度の接着性を有する材料を接着層として基材上に設け、該接着層の上に親水性材料を積層することにより得られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−284715号公報
【特許文献2】特開2011−73359号公報
【特許文献3】特開2001−335690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の親水性部材は、異なる材料から形成される層間の界面があり、又は、部材表面での親水性が十分でないことから、近年の親水性部材に求められる密着性・親水性の両性能を、必ずしも満足するものとはいえなかった。
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、各種基材との密着性が良好で、かつ基材表面に、耐水性、防曇性、防汚性、耐候性に優れる親水性表面を付与することが可能な、組成傾斜構造を有する親水性部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は、下記の手段によって達成された。
【0008】
〔1〕
基材と、該基材上に設けられ、下記親水性材料1)及び樹脂材料2)を含む膜とを有する親水性部材であって、該膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から最も遠い側に向かって1)の比率が大きくなり、かつ、2)の比率が小さくなるように、1)及び2)の組成が連続的に変化する組成傾斜膜である、親水性部材。
1)加水分解性シリル基含有親水性ポリマーを含有し、かつ前記ポリマーが主鎖末端又は側鎖に、下記一般式(a)で表される加水分解性シリル基を分子中に少なくとも1個有し、親水性基を分子中に少なくとも1個有する親水性材料。
一般式(a): −Si(R103−a−(OR11
(式中、R10、R11はそれぞれ水素原子又は炭化水素基、aは1〜3の整数を示す。)
2)オリゴマー又はポリマーを含有する樹脂材料。但し、2)は上記1)の親水性材料とは異なる。
〔2〕
前記オリゴマー又はポリマーがウレタンオリゴマー又はポリマーである、〔1〕に記載の親水性部材。
〔3〕
上記組成傾斜膜における、樹脂材料2)と親水性材料1)の総質量に対する樹脂材料2)の質量が占める割合を、基材側より膜の厚み方向に0.1μmの厚みごとに測定したときに、隣り合う測定位置での上記割合の差がいずれも50%以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の親水性部材。
〔4〕
前記加水分解性シリル基含有親水性ポリマーが、下記一般式(I−1)で表される構造及び一般式(I−2)で表される構造を含む親水性ポリマー(I)、一般式(II−1)で表される構造及び一般式(II−2)で表される構造を含む親水性ポリマー(II)又は一般式(III−1)で表される構造及び一般式(III−2)で表される構造を含む親水性ポリマー(III)のいずれかである、〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の親水性部材。
【0009】
【化1】


一般式(I−1)及び(I−2)中、R101〜R108はそれぞれ独立に水素原子又は炭化水素基を表す。pは1〜3の整数を表し、L101及びL102は、それぞれ独立に単結合又は二価の有機連結基を表す。x及びyは組成比を表し、xは0<x<100、yは0<y<100となる数を表す。A101は−OH、−OR、−COR、−CO、−CON(R)(R)、−N(R)(R)、−NHCOR、−NHCO、−OCON(R)(R)、−NHCON(R)(R)、−SO、−OSO、−SO、−NHSO、−SON(R)(R)、−N(R)(R)(R)、−N(R)(R)(Rc)(R)、−PO(R)(R)、−OPO(R)(R)、又は−PO(R)(R)を表す。ここで、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、Rは、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はオニウムを表し、Rはハロゲンイオン、無機アニオン、又は有機アニオンを表す。
【0010】
【化2】


一般式(II−1)及び(II−2)中、R201〜R205はそれぞれ独立に水素原子又は炭化水素基を表す。qは1〜3の整数を表し、L201及びL202は、それぞれ独立に単結合又は二価の有機連結基を表す。A201は−OH、−OR、−COR、−CO、−CON(R)(R)、−N(R)(R)、−NHCOR、−NHCO、−OCON(R)(R)、−NHCON(R)(R)、−SO、−OSO、−SO、−NHSO、−SON(R)(R)、−N(R)(R)(R)、−N(R)(R)(Rc)(R)、−PO(R)(R)、−OPO(R)(R)、又は−PO(R)(R)を表す。ここで、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、Rは、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はオニウムを表し、Rはハロゲンイオン、無機アニオン、又は有機アニオンを表す。
【0011】
【化3】


一般式(III−1)及び(III−2)中、R301〜R311はそれぞれ独立に水素原子又は炭化水素基を表す。rは1〜3の整数を表し、L301〜L303は、それぞれ独立に単結合又は二価の有機連結基を表す。x及びyは組成比を表し、xは0<x<100、yは0<y<100となる数を表す。A301は−OH、−OR、−COR、−CO、−CON(R)(R)、−N(R)(R)、−NHCOR、−NHCO、−OCON(R)(R)、−NHCON(R)(R)、−SO、−OSO、−SO、−NHSO、−SON(R)(R)、−N(R)(R)(R)、−N(R)(R)(Rc)(R)、−PO(R)(R)、−OPO(R)(R)、又は−PO(R)(R)を表す。ここで、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、Rは、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はオニウムを表し、Rはハロゲンイオン、無機アニオン、又は有機アニオンを表す。
〔5〕
前記加水分解性シリル基含有親水性ポリマー中の親水性基を有する構造単位が、ポリマー全体の30mol%以上含まれる、〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の親水性部材。
〔6〕
前記材料1)の親水性材料が、さらにコロイダルシリカを含有する、〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の親水性部材。
〔7〕
前記材料2)において、ウレタンオリゴマー又はポリマーが、ウレタン結合及びウレア結合を含有するオリゴマー又はポリマーである、〔2〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の親水性部材。
〔8〕
前記材料2)において、ウレタンオリゴマー又はポリマーが、下記一般式(A)で表される繰り返し単位を有するオリゴマー又はポリマーである、〔2〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の親水性部材。
【0012】
【化4】

(上記一般式中、RA1〜RA3はそれぞれ独立して、アルキレン基、アリーレン基又はビアリーレン基を表し、RA4〜RA6はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。)
〔9〕
前記1)の親水性材料を含むインク組成物と前記2)の樹脂材料を含むインク組成物の少なくとも2種のインク組成物をインクジェット法により前記基材上に吐出する、〔1〕〜〔8〕のいずれか1項に記載の親水性部材の形成方法。
〔10〕
前記少なくとも2種のインク組成物として、少なくとも、前記1)の親水性材料を含むインク組成物と前記2)の樹脂材料を含むインク組成物とを用い、
前記インクジェット法が、少なくとも第1のインクジェットヘッドと第2のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記1)の親水性材料を含むインク組成物を含む第1のインクを、第1のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記2)の樹脂材料を含むインク組成物を含む第2のインクを、第2のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記第1のインクジェットヘッドから吐出される第1のインクの量と前記第2のインクジェットヘッドから吐出される第2のインクの量との比率を決定する制御工程と、
前記決定された比率に従って、前記第1のインクジェットヘッド及び前記第2のインクジェットヘッドの少なくとも一方から前記第1のインク又は前記第2のインクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して組成傾斜膜を得る積層工程と、
を備え、
前記制御工程において、前記複数層の厚み方向において前記基材に最も近い層から最も遠い層に向かって、前記第1のインクの比率が大きくなり、かつ前記第2のインクの比率が小さくなるように前記比率を決定する、〔9〕に記載の親水性部材の形成方法。
〔11〕
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出する液滴のインク量が0.3〜100pLである、〔10〕に記載の親水性部材の形成方法。
〔12〕
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出する液滴の液滴径が1〜300μmである、〔10〕又は〔11〕に記載の親水性部材の形成方法。
〔13〕
前記少なくとも2種のインク組成物として、少なくとも、前記1)の親水性材料を含むインク組成物と前記2)の樹脂材料を含むインク組成物とを用い、
前記インクジェット法が、複数のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記1)の親水性材料を含むインク組成物を含む第1のインクと前記2)の樹脂材料を含むインク組成物を含む第2のインクとが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクを前記複数のインクジェットヘッドそれぞれのインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記複数のインクジェットヘッドから1つのインクジェットヘッドを順に選択する選択工程であって、前記第2のインクの比率の高い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから順に選択する選択工程と、
前記選択されたインクジェットヘッドから混合インクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して組成傾斜膜を得る積層工程と、
を備える、〔9〕に記載の親水性部材の形成方法。
〔14〕
前記形成工程において、前記選択されたインクジェットヘッドから吐出する液滴のインク量が0.5〜150pLである、〔13〕に記載の親水性部材の形成方法。
〔15〕
前記形成工程において、前記選択されたインクジェットヘッドから吐出する液滴の液滴径が2〜450μmである、〔13〕又は〔14〕に記載の親水性部材の形成方法。
〔16〕
少なくとも2種のインク組成物として、少なくとも、前記1)の親水性材料を含むインク組成物と前記2)の樹脂材料を含むインク組成物とを用い、インクジェット法により形成される親水性部材であって、
前記インクジェット法が、少なくとも第1のインクジェットヘッドと第2のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記1)の親水性材料を含むインク組成物を含む第1のインクを、第1のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記2)の樹脂材料を含むインク組成物を含む第2のインクを、第2のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記第1のインクジェットヘッドから吐出される第1のインクの量と前記第2のインクジェットヘッドから吐出される第2のインクの量との比率を決定する制御工程と、
前記決定された比率に従って、前記第1のインクジェットヘッド及び前記第2のインクジェットヘッドの少なくとも一方から前記第1のインク又は前記第2のインクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して組成傾斜膜を得る積層工程と、
を備え、
前記制御工程において、前記複数層の厚み方向において前記基材に近い層から遠い層に向かって、前記第1のインクの比率が大きくなり、かつ前記第2のインクの比率が小さくなるように前記比率を決定する、〔1〕〜〔8〕のいずれか1項に記載の親水性部材。
〔17〕
少なくとも2種のインク組成物として、少なくとも、前記1)の親水性材料を含むインク組成物と前記2)の樹脂材料を含むインク組成物とを用い、インクジェット法により形成される親水性部材であって、
前記インクジェット法が、複数のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記1)の親水性材料を含むインク組成物を含む第1のインクと前記2)の樹脂材料を含むインク組成物を含む第2のインクとが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクを前記複数のインクジェットヘッドそれぞれのインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記複数のインクジェットヘッドから1つのインクジェットヘッドを順に選択する選択工程であって、前記第2のインクの比率の高い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから順に選択する選択工程と、
前記選択されたインクジェットヘッドから混合インクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して組成傾斜膜を得る積層工程と、
を備える、〔1〕〜〔8〕のいずれか1項に記載の親水性部材。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、従来とまったく異なる発想のもと、基材と、該基材上に設けられ、特定の親水性材料1)及び樹脂材料2)を含む膜とを有し、該膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から最も遠い側に向かって1)の比率が大きくなり、かつ、2)の比率が小さくなるように、1)及び2)の組成が連続的に変化する組成傾斜膜である構成を採用することにより、明確な異種の界面が存在せず、親水性(基材から最も離れた側)と基材密着性(基材に最も近い側)を高いレベルで両立する親水性部材を得ることに成功した。
【0014】
すなわち、本発明によれば、各種基材との密着性が良好で、かつ基材表面に、耐水性、防曇性、防汚性、耐候性に優れる親水性表面を付与することが可能な、組成傾斜膜を有する親水性部材及びその形成方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】組成傾斜膜を備える親水性部材の模式図
【図2】組成傾斜膜を備える親水性部材の模式図
【図3】組成傾斜膜作製装置の全体構成図
【図4】組成傾斜膜作製装置の描画部の概略図
【図5】描画混合法による組成傾斜膜形成を説明するための図
【図6】描画混合法の他の実施形態を説明するための図
【図7】インク混合法の実施形態に係る組成傾斜膜作製装置の全体構成図
【図8】インク混合法による組成傾斜膜形成を説明するための図
【図9】描画混合法における各インクの着弾位置を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、基材と、該基材上に設けられ、下記親水性材料1)及び樹脂材料2)を含む膜とを有する親水性部材であって、該膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から最も遠い側に向かって1)の比率が大きくなり、かつ、2)の比率が小さくなるように、1)及び2)の組成が連続的に変化する組成傾斜膜である、親水性部材に関する。
1)加水分解性シリル基含有親水性ポリマー(以下、単に「親水性ポリマー」ともいう。)を含有し、かつ前記ポリマーが主鎖末端又は側鎖に、下記一般式(a)で表される加水分解性シリル基を分子中に少なくとも1個有し、親水性基を分子中に少なくとも1個有する親水性材料。
一般式(a): −Si(R103−a−(OR11
(式中、R10、R11はそれぞれ水素原子又は炭化水素基、aは1〜3の整数を示す。)
2)オリゴマー又はポリマーを含有する樹脂材料。但し、2)は上記1)の親水性材料とは異なる。
【0017】
[親水性材料]
(加水分解性シリル基含有親水性ポリマー)
本発明における親水性材料は、加水分解性シリル基含有親水性ポリマーを含有する。
本発明における親水性ポリマーは、主鎖末端又は側鎖に、下記一般式(a)で表される加水分解性シリル基を分子中に少なくとも1個有し、親水性基を分子中に少なくとも1個有する。
一般式(a): −Si(R103−a−(OR11
(式中、R10、R11はそれぞれ水素原子又は炭化水素基、aは1〜3の整数を示す。)
10又はR11は複数存在する場合は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0018】
上記加水分解性シリル基含有親水性ポリマーの加水分解性シリル基は、該ポリマーの主鎖又は側鎖の炭素原子に結合していることが好ましい。
【0019】
一般式(a)中、R11は水素原子又はアルキル基、R10は水素原子又はアルキル基、アリール基及びアラルキル基から選ばれた1価の炭化水素基であることが好ましい。
11がアルキル基を表す場合は炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、R10がアルキル基を表す場合は炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、アリール基を表す場合は炭素数6〜25のアリール基が好ましく、アラルキル基を表す場合は炭素数7〜12のアラルキル基が好ましい。
【0020】
また本発明に使用される親水性ポリマーは、親水性基を有する。親水性基としては、例えば、−NHCOR、−NHCOR、−NHCONR、−CONH、−NR、−CONR、−OCONR、−COR、−OH、−OR、−OM、−COM、−COR、−SOM、−OSOM、−SOR、−NHSOR、−SONR、−POM、−OPOM、−(CHCHO)nH、−(CHCHO)nCH又は−NRなどが挙げられる。ただし、Rは複数存在する場合は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基(好ましくは炭素数1〜18の直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基)、アリール基、又はアラルキル基を表し、Mは水素原子、アルキル基、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はオニウムを表し、nは整数(好ましくは1〜100の整数)を表し、Zはハロゲンイオンを表す。また、−CONRのように複数のRを有する場合、R同士が結合して環を形成していてもよく、また、形成された環は酸素原子、硫黄原子、窒素原子などのヘテロ原子を含むヘテロ環であってもよい。Rは更に置換基を有していてもよく、該置換基としては、後述する一般式(I−1)で表される構造におけるR101、R102がアルキル基の場合に導入可能な置換基として挙げるものを同様に挙げることができる。
【0021】
前記Rとしては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロペンチル基等が好適に挙げられる。また、Mとしては、水素原子;リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、又は、アンモニウム、ヨードニウム、スルホニウムなどのオニウムが挙げられる。
【0022】
親水性基としては、−OH、−NHCOCH、−CONH、−CON(CH、−COOH、−SONMe、−SO、−(CHCHO)nH、モルホリル基等が好ましい。より好ましくは、−OH、−NHCOCH、−CONH、−CON(CH、−COOH、−SO、−(CHCHO)nH、であり、更に好ましくは、−OH、−COOH、−CONHである。
【0023】
また、本発明に使用される親水性ポリマーは、好ましくは後述のSi、Ti、Zr、Alから選択される金属アルコキシド化合物と、触媒の作用等により結合を生じる基を有するポリマーであるのがよい。金属アルコキシド化合物と、触媒の作用により結合を生じる基としては、前記の一般式(a)で表される加水分解性シリル基のほか、カルボキシル基、カルボキシ基のアルカリ金属塩、無水カルボン酸基、アミノ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、メチロール基、メルカプト基、イソシアナート基、ブロックイソシアナート基、アルコキシチタネート基、アルコキシアルミネート基、アルコキシジルコネート基、エチレン性不飽和基、エステル基、テトラゾール基などの反応性基が挙げられる。また親水性基、及び金属アルコキシド化合物と触媒の作用等により結合を生じる基を有するポリマー構造としては、エチレン性不飽和基(例えばアクリレート基、メタクリレート基、イタコン酸基、クロトン酸基、桂皮酸基、スチレン基、ビニル基、アリル基、ビニルエーテル基、ビニルエステル基など)がビニル重合したポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミック酸などのような縮重合したポリマー、ポリウレタンなどのような付加重合したポリマーの他、セルロース、アミロース、キトサンなどの天然物環状ポリマー構造を好ましく挙げることができる。
【0024】
本発明における親水性ポリマーは、親水性基を有する構造単位を含むことが好ましい。
【0025】
上記親水性ポリマー中、親水性基を有する構造単位がポリマー全体の30mol%以上含まれることが好ましく、ポリマー全体の40〜95mol%含まれることがさらに好ましい。
【0026】
上記親水性ポリマーに含まれる、親水性基を有する構造単位は特に限定されないが、例えば、下記一般式(I−2)、(II−2)又は(III−2)で表される構造単位を使用することができる。
【0027】
本発明における親水性ポリマーは、下記一般式(I−1)で表される構造及び一般式(I−2)で表される構造を含む親水性ポリマー(I)、一般式(II−1)で表される構造及び一般式(II−2)で表される構造を含む親水性ポリマー(II)又は一般式(III−1)で表される構造及び一般式(III−2)で表される構造を含む親水性ポリマー(III)のいずれかであることが好ましい。
【0028】
【化5】

【0029】
一般式(I−1)及び(I−2)中、R101〜R108はそれぞれ独立に水素原子又は炭化水素基を表す。pは1〜3の整数を表し、L101及びL102は、それぞれ独立に単結合又は二価の有機連結基を表す。x及びyは組成比を表し、xは0<x<100、yは0<y<100となる数を表す。A101は−OH、−OR、−COR、−CO、−CON(R)(R)、−N(R)(R)、−NHCOR、−NHCO、−OCON(R)(R)、−NHCON(R)(R)、−SO、−OSO、−SO、−NHSO、−SON(R)(R)、−N(R)(R)(R)、−N(R)(R)(Rc)(R)、−PO(R)(R)、−OPO(R)(R)、又は−PO(R)(R)を表す。ここで、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、Rは、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はオニウムを表し、Rはハロゲンイオン、無機アニオン、又は有機アニオンを表す。
【0030】
【化6】

【0031】
一般式(II−1)及び(II−2)中、R201〜R205はそれぞれ独立に水素原子又は炭化水素基を表す。qは1〜3の整数を表し、L201及びL202は、それぞれ独立に単結合又は二価の有機連結基を表す。A201は−OH、−OR、−COR、−CO、−CON(R)(R)、−N(R)(R)、−NHCOR、−NHCO、−OCON(R)(R)、−NHCON(R)(R)、−SO、−OSO、−SO、−NHSO、−SON(R)(R)、−N(R)(R)(R)、−N(R)(R)(Rc)(R)、−PO(R)(R)、−OPO(R)(R)、又は−PO(R)(R)を表す。ここで、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、Rは、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はオニウムを表し、Rはハロゲンイオン、無機アニオン、又は有機アニオンを表す。
【0032】
【化7】

【0033】
一般式(III−1)及び(III−2)中、R301〜R311はそれぞれ独立に水素原子又は炭化水素基を表す。rは1〜3の整数を表し、L301〜L303は、それぞれ独立に単結合又は二価の有機連結基を表す。x及びyは組成比を表し、xは0<x<100、yは0<y<100となる数を表す。A301は−OH、−OR、−COR、−CO、−CON(R)(R)、−N(R)(R)、−NHCOR、−NHCO、−OCON(R)(R)、−NHCON(R)(R)、−SO、−OSO、−SO、−NHSO、−SON(R)(R)、−N(R)(R)(R)、−N(R)(R)(Rc)(R)、−PO(R)(R)、−OPO(R)(R)、又は−PO(R)(R)を表す。ここで、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、Rは、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はオニウムを表し、Rはハロゲンイオン、無機アニオン、又は有機アニオンを表す。
【0034】
〔一般式(I−1)及び(I−2)で表される構造を含む親水性ポリマー(I)〕
【0035】
【化8】

【0036】
一般式(I−1)及び(I−2)中、R101〜R108はそれぞれ独立に水素原子又は炭化水素基を表す。pは1〜3の整数を表し、L101及びL102は、それぞれ単結合又は二価の有機連結基を表す。x及びyは組成比を表し、xは0<x<100、yは0<y<100となる数を表す。A101は−OH、−OR、−COR、−CO、−CON(R)(R)、−N(R)(R)、−NHCOR、−NHCO、−OCON(R)(R)、−NHCON(R)(R)、−SO、−OSO、−SO、−NHSO、−SON(R)(R)、−N(R)(R)(R)、−N(R)(R)(Rc)(R)、−PO(R)(R)、−OPO(R)(R)、又は−PO(R)(R)を表す。ここで、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、Rは、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はオニウムを表し、Rはハロゲンイオン、無機アニオン、又は有機アニオンを表す。
【0037】
上記一般式(I−1)及び(I−2)において、R101〜R108はそれぞれ独立に、水素原子又は炭化水素基を表す。炭化水素基としては、アルキル基、アリール基などが挙げられ、炭素原子数1〜8の直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロペンチル基等が挙げられる。R101〜R108は、効果及び入手容易性の観点から、好ましくは水素原子、メチル基又はエチル基である。
【0038】
これらの炭化水素基は更に置換基を有していてもよい。アルキル基が置換基を有するとき、置換アルキル基は置換基とアルキレン基との結合により構成され、ここで、置換基としては、水素を除く一価の非金属原子団が用いられる。好ましい例としては、ハロゲン原子(−F、−Br、−Cl、−I)、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルジチオ基、アリールジチオ基、アミノ基、N−アルキルアミノ基、N,N−ジアリールアミノ基、N−アルキル−N−アリールアミノ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、Ν−アルキルカルバモイルオキシ基、N−アリールカルバモイルオキシ基、N,N−ジアルキルカルバモイルオキシ基、N,N−ジアリールカルバモイルオキシ基、N−アルキル−N−リールカルバモイルオキシ基、アルキルスルホキシ基、アリールスルホキシ基、アシルチオ基、アシルアミノ基、N−アルキルアシルアミノ基、N−アリールアシルアミノ基、ウレイド基、N’−アルキルウレイド基、N’,N’−ジアルキルウレイド基、N’−アリールウレイド基、N’,N’−ジアリールウレイド基、N’−アルキル−N’−アリールウレイド基、N−アルキルウレイド基、N−アリールウレイド基、N’−アルキル−N−アルキルウレイド基、N’−アルキル−N−アリールウレイド基、N’,N’−ジアルキル−N−アルキルウレイト基、N’,N’−ジアルキル−N−アリールウレイド基、N’−アリール−Ν−アルキルウレイド基、N’−アリール−N−アリールウレイド基、N’,N’−ジアリール−N−アルキルウレイド基、N’,N’−ジアリール−N−アリールウレイド基、N’−アルキル−N’−アリール−N−アルキルウレイド基、N’−アルキル−N’−アリール−N−アリールウレイド基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリーロキシカルボニルアミノ基、N−アルキル−N−アルコキシカルボニルアミノ基、N−アルキル−N−アリーロキシカルボニルアミノ基、N−アリール−N−アルコキシカルボニルアミノ基、N−アリール−N−アリーロキシカルボニルアミノ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、
【0039】
アリーロキシカルボニル基、カルバモイル基、N−アルキルカルバモイル基、N,N−ジアルキルカルバモイル基、N−アリールカルバモイル基、N,N−ジアリールカルバモイル基、N−アルキル−N−アリールカルバモイル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルホ基(−SOH)及びその共役塩基基(以下、スルホナト基と称す)、アルコキシスルホニル基、アリーロキシスルホニル基、スルフィナモイル基、N−アルキルスルフィナモイル基、N,N−ジアルキルスルフィナモイル基、N−アリールスルフィナモイル基、N,N−ジアリールスルフィナモイル基、N−アルキル−N−アリールスルフィナモイル基、スルファモイル基、N−アルキルスルファモイル基、N,N−ジアルキルスルファモイル基、N−アリールスルファモイル基、N,N−ジアリールスルファモイル基、N−アルキル−N−アリールスルファモイル基ホスフォノ基(−PO)及びその共役塩基基(以下、ホスフォナト基と称す)、ジアルキルホスフォノ基(−PO(alkyl))、ジアリールホスフォノ基(−PO(aryl))、アルキルアリールホスフォノ基(−PO(alkyl)(aryl))、モノアルキルホスフォノ基(−POH(alkyl))及びその共役塩基基(以後、アルキルホスフォナト基と称す)、モノアリールホスフォノ基(−POH(aryl))及びその共役塩基基(以後、アリールホスフォナト基と称す)、ホスフォノオキシ基(−OPO)及びその共役塩基基(以後、ホスフォナトオキシ基と称す)、ジアルキルホスフォノオキシ基(−OPO(alkyl))、ジアリールホスフォノオキシ基(−OPO(aryl))、アルキルアリールホスフォノオキシ基(−OPO(alkyl)(aryl))、モノアルキルホスフォノオキシ基(−OPOH(alkyl))及びその共役塩基基(以後、アルキルホスフォナトオキシ基と称す)、モノアリールホスフォノオキシ基(−OPOH(aryl))及びその共役塩基基(以後、アリールフォスホナトオキシ基と称す)、モルホルノ基、シアノ基、ニトロ基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられる。
【0040】
これらの置換基における、アルキル基の具体例としては、R〜Rにおいて挙げたアルキル基が同様に挙げられ、アリール基の具体例としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、クメニル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基、クロロメチルフェニル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、フェノキシフェニル基、アセトキシフェニル基、ベンゾイロキシフェニル基、メチルチオフェニル基、フェニルチオフェニル基、メチルアミノフェニル基、ジメチルアミノフェニル基、アセチルアミノフェニル基、カルボキシフェニル基、メトキシカルボニルフェニル基、エトキシフェニルカルボニル基、フェノキシカルボニルフェニル基、N−フェニルカルバモイルフェニル基、フェニル基、シアノフェニル基、スルホフェニル基、スルホナトフェニル基、ホスフォノフェニル基、ホスフォナトフェニル基等を挙げることができる。また、アルケニル基の例としては、ビニル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、シンナミル基、2−クロロ−1−エテニル基等が挙げられ、アルキニル基の例としては、エチニル基、1−プロピニル基、1−ブチニル基、トリメチルシリルエチニル基等が挙げられる。アシル基(GCO−)におけるGとしては、水素、ならびに上記のアルキル基、アリール基を挙げることができる。
【0041】
これら置換基のうち、より好ましいものとしてはハロゲン原子(−F、−Br、−Cl、−I)、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、N−アルキルアミノ基、N,N−ジアルキルアミノ基、アシルオキシ基、N−アルキルカルバモイルオキシ基、N−アリールカバモイルオキシ基、アシルアミノ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、カルバモイル基、N−アルキルカルバモイル基、N,N−ジアルキルカルバモイル基、N−アリールカルバモイル基、N−アルキル−N−アリールカルバモイル基、スルホ基、スルホナト基、スルファモイル基、N−アルキルスルファモイル基、N,N−ジアルキルスルファモイル基、N−アリールスルファモイル基、N−アルキル−N−アリールスルファモイル基、ホスフォノ基、ホスフォナト基、ジアルキルホスフォノ基、ジアリールホスフォノ基、モノアルキルホスフォノ基、アルキルホスフォナト基、モノアリールホスフォノ基、アリールホスフォナト基、ホスフォノオキシ基、ホスフォナトオキシ基、アリール基、アルケニル基が挙げられる。
【0042】
一方、置換アルキル基におけるアルキレン基としては好ましくは炭素数1から20までのアルキル基上の水素原子のいずれか1つを除し、2価の有機残基としたものを挙げることができ、より好ましくは炭素原子数1から12まで、更に好ましくは炭素原子数1から8の直鎖状、より好ましくは炭素原子数3から12までの、更に好ましくは炭素原子数3から8までの分岐状ならびにより好ましくは炭素原子数5から10まで、更に好ましくは炭素原子数5から8までのシクロアルキレン基を挙げることができる。該置換基とアルキレン基を組み合わせる事により得られる置換アルキル基の、好ましい具体例としては、クロロメチル基、ブロモメチル基、2−クロロエチル基、トリフルオロメチル基、ヒドロキシメチル基、メトキシメチル基、メトキシエトキシエチル基、アリルオキシメチル基、フェノキシメチル基、メチルチオメチル基、トリルチオメチル基、エチルアミノエチル基、ジエチルアミノプロピル基、モルホリノプロピル基、アセチルオキシメチル基、ベンゾイルオキシメチル基、N−シクロヘキシルカルバモイルオキシエチル基、N−フェニルカルバモイルオキシエチル基、アセチルアミノエチル基、N−メチルベンゾイルアミノプロピル基、2−オキシエチル基、2−オキシプロピル基、カルボキシプロピル基、メトキシカルボニルエチル基、アリルオキシカルボニルブチル基、
【0043】
クロロフェノキシカルボニルメチル基、カルバモイルメチル基、N−メチルカルバモイルエチル基、N,N−ジプロピルカルバモイルメチル基、N−(メトキシフェニル)カルバモイルエチル基、N−メチル−N−(スルホフェニル)カルアバモイルメチル基、スルホブチル基、スルホナトブチル基、スルファモイルブチル基、N−エチルスルファモイルメチル基、N,N−ジプロピルスルファモイルプロピル基、N−トリルスルファモイルプロピル基、N−メチル−N−(ホスフォノフェニル)スルファモイルオクチル基、ホスフォノブチル基、ホスフォナトヘキシル基、ジエチルホスフォノブチル基、ジフェニルホスフォノプロピル基、メチルホスフォノブチル基、メチルホスフォナトブチル基、トリルホスフォノへキシル基、トリルホスフォナトヘキシル基、ホスフォノオキシプロピル基、ホスフォナトオキシブチル基、ベンジル基、フェネチル基、α−メチルベンジル基、1−メチル−1−フェニルエチル基、p−メチルベンジル基、シンナミル基、アリル基、1−プロペニルメチル基、2−ブテニル基、2−メチルアリル基、2−メチルプロペニルメチル基、2−プロピニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基等を挙げることができる。
【0044】
親水性の観点から上記のなかでもヒドロキシメチル基が好ましい。
【0045】
101〜L102は単結合又は有機連結基を表す。ここで単結合とはポリマーの主鎖とXが連結鎖なしに直接結合していることを表す。
101〜L102が有機連結基を表す場合、L101〜L102は非金属原子からなる二価の連結基を表し、0個から60個までの炭素原子、0個から10個までの窒素原子、0個から50個までの酸素原子、0個から100個までの水素原子、及び0個から20個までの硫黄原子から成り立つものである。具体的には、−N<、脂肪族基、芳香族基、複素環基、及びそれらの組合せから選ばれることが好ましく、−O−、−S−、−CO−、−NH−、あるいは、−O−又は−S−又は−CO−又は−NH−を含む組合せで、二価の連結基であることが好ましい。
より具体的な連結基としては、下記化学式に示される2価の基である、メチレン基、エーテル基、スルホ基、スルホニル基、スルフィニル基、チオエーテル基、エステル基、カルボニル基、アミノ基、アミド基、スルホンアミド基、尿素基、カルバメート基、カーボネート基、−CONHSO−基、フェニレン基、ナフチレン基、アントラセニレン基、フェナンスリレン基、メチルアルキレン基、ジメチルアルキレン基から選択される構造単位又はこれらが組み合わされて構成されるものを挙げることができる。
【0046】
【化9】

【0047】
一般式(I−1)において、L101は単結合、又は、−CONH−、−NHCONH−、−OCONH−、−SONH−及び−SO−からなる群より選択される構造を1つ以上有する連結基であることが好ましい。
【0048】
一般式(I−2)中、A101は−OH、−OR、−COR、−CO、−CON(R)(R)、−N(R)(R)、−NHCOR、−NHCO、−OCON(R)(R)、−NHCON(R)(R)、−SO、−OSO、−SO、−NHSO、−SON(R)(R)、−N(R)(R)(R)、−N(R)(R)(Rc)(R)、−PO(R)(R)、−OPO(R)(R)、又は−PO(R)(R)を表す。ここで、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基(好ましくは炭素数1〜8)を表し、Rは、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基(好ましくは炭素数1〜8)を表し、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基(好ましくは炭素数1〜8)、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はオニウムを表し、Rはハロゲンイオン、無機アニオン、又は有機アニオンを表す。また、−CON(R)(R)、−N(R)(R)、−OCON(R)(R)、−NHCON(R)(R)、−SON(R)(R)、−N(R)(R)(R)、−N(R)(R)(Rc)(R)、−PO(R)(R)、−OPO(R)(R)、又は−PO(R)(R)についてR〜Rがお互い結合して環を形成していてもよく、また、形成された環は酸素原子、硫黄原子、窒素原子などのヘテロ原子を含むヘテロ環であってもよい。R〜Rはさらに置換基を有していてもよく、ここで導入可能な置換基としては、前記R〜Rがアルキル基の場合に導入可能な置換基として挙げたものを同様に挙げることができる。
【0049】
〜Rにおいて、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロペンチル基等が好適に挙げられる。
また、R〜Rにおいて、アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム又はカリウム等、アルカリ土類金属としてしはバリウム等、オニウムとしてはアンモニウム、ヨードニウム又はスルホニウム等が好適に挙げられる。
ハロゲンイオンとしてはフッ素イオン、塩素イオン、臭素イオンを挙げることでき、無機アニオンとしては硝酸アニオン、硫酸アニオン、テトラフルオロホウ酸アニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン等が、有機アニオンとしてはメタンスルホン酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ノナフルオロブタンスルホン酸アニオン、p−トルエンスルホン酸アニオン等が好適に挙げられる。
【0050】
101としては、具体的には、−NHCOCH3、−CONH2、−CON(CH2、−COOH、−SO3-NMe4+、−SO3-+、−(CHCHO)H、モルホリル基等が好ましい。より好ましくは、−NHCOCH3、−CONH2、−CON(CH2、−SO3-+、−(CHCHO)H、である。尚、上記において、nは1〜100の整数を表すことが好ましい。
【0051】
pは1〜3の整数を表し、好ましくは2〜3、より好ましくは3である。
【0052】
一般式(I−1)及び(I−2)で表される構造を含む親水性ポリマーにおいて、x及びyは(A)特定親水性ポリマーにおける、一般式(I−1)で表される構造単位と一般式(I−2)で表される構造単位の組成比を表す。xは0<x<100、yは0<y<100である。xは1<x<90の範囲であることが好ましく、1<x<50の範囲であることがさらに好ましい。yは10<y<99の範囲であることが好ましく、50<y<99の範囲であることがさらに好ましい。
【0053】
一般式(I−1)及び(I−2)で表される構造を含む親水性ポリマー(I)の共重合比率は、親水性基を有する一般式(I−2)の量が上記範囲内になるように任意に設定することができるが、加水分解性シリル基含有親水性ポリマー中の親水性基を有する構造単位が、ポリマー全体の30mol%以上含まれることが好ましい。すなわち、一般式(I−2)の構造単位のモル比(y)と加水分解性シリル基量を有する一般式(I−1)の構造単位のモル比(x)が、y/x=30/70〜99/1の範囲が好ましく、y/x=40/60〜98/2がより好ましく、y/x=50/50〜97/3が最も好ましい。y/xが30/70以上であれば親水性が不足することなく、一方、y/x=99/1以下であれば、加水分解性シリル基量が十分量となり、十分な硬化が得られ、膜強度も十分なものとなる。
【0054】
一般式(I−1)及び(I−2)で表される構造を含むポリマーの質量平均分子量は、1,000〜1,000,000が好ましく、1,000〜500,000がさらに好ましく、1,000〜200,000が最も好ましい。
【0055】
以下に、一般式(I−1)及び(I−2)で表される構造を含む親水性ポリマーの具体例をその質量平均分子量(M.W.)とともに以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下に示す具体例のポリマーは記載される各構造単位が記載のモル比で含まれるランダム共重合体又はブロック共重合体であることを意味する。
【0056】
【化10】

【0057】
【化11】

【0058】
【化12】

【0059】
【化13】


【0060】
【化14】

【0061】
一般式(I−1)及び(I−2)で表される構造を含む親水性ポリマーを合成するための各化合物は、市販されており、また容易に合成することもできる。
一般式(I−1)及び(I−2)で表される構造を含む親水性ポリマーを合成するためのラジカル重合法としては、従来公知の方法の何れをも使用することができる。
具体的には、一般的なラジカル重合法は、例えば、新高分子実験学3(1996年、共立出版)、高分子の合成と反応1(高分子学会編、1992年、共立出版)、新実験化学講座19(1978年、丸善)、高分子化学(I)(日本化学会編、1996年、丸善)、高分子合成化学(物質工学講座、1995年、東京電気大学出版局) 等に記載されており、これらを適用することができる。
【0062】
〔一般式(II−1)及び(II−2)で表される構造を含む親水性ポリマー(II)〕
【0063】
【化15】

【0064】
一般式(II−1)及び(II−2)中、R201〜R205はそれぞれ独立に水素原子又は炭化水素基を表す。qは1〜3の整数を表し、L201及びL202は、それぞれ単結合又は二価の有機連結基を表す。A201は−OH、−OR、−COR、−CO、−CON(R)(R)、−N(R)(R)、−NHCOR、−NHCO、−OCON(R)(R)、−NHCON(R)(R)、−SO、−OSO、−SO、−NHSO、−SON(R)(R)、−N(R)(R)(R)、−N(R)(R)(Rc)(R)、−PO(R)(R)、−OPO(R)(R)、又は−PO(R)(R)を表す。ここで、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、Rは、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はオニウムを表し、Rはハロゲンイオン、無機アニオン、又は有機アニオンを表す。
【0065】
一般式(II−1)及び(II−2)で表される構造を含む親水性ポリマー(II)は、上記一般式(II−2)で表される構造単位を有し、且つ、ポリマー鎖の末端に上記一般式(II−1)で表される部分構造を有することが好ましい。
【0066】
前記一般式(II−1)及び(II−2)において、R201〜R205は、それぞれ独立に水素原子又は炭化水素基を表し、R201〜R205が炭化水素基を表す場合の炭化水素基としては、アルキル基、アリール基などが挙げられ、炭素数1〜8の直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基が好ましい。具体的には、前記一般式(I−1)及び(I−2)のR101〜R108で挙げたものと同様のものを挙げることができる。
201、L202は、それぞれ独立に単結合又は二価の有機連結基を表す。ここで単結合とはポリマーの主鎖とA201及びSi原子が連結鎖なしに直接結合していることを表す。L201、L202が二価の有機連結基を表す場合、具体的な例及び好ましい例は、前記一般式(I−1)のL101で挙げたものと同様のものを挙げることができる。
201は−OH、−OR、−COR、−CO、−CON(R)(R)、−N(R)(R)、−NHCOR、−NHCO、−OCON(R)(R)、−NHCON(R)(R)、−SO、−OSO、−SO、−NHSO、−SON(R)(R)、−N(R)(R)(R)、−N(R)(R)(Rc)(R)、−PO(R)(R)、−OPO(R)(R)、又は−PO(R)(R)を表す。A201の具体的な例及び好ましい例は一般式(I−2)のA101で挙げられたものと同様のものを挙げることができる。
qは1〜3の整数を表す。好ましくは2〜3、より好ましくは3である。
【0067】
201及びL202は、より好ましくは、−CHCHCHS−、−CHS−、−CONHCH(CH)CH−、−CONH−、−CO−、−CO−、−CH−である。
【0068】
一般式(II−1)及び(II−2)で表される構造を含む親水性ポリマーは、例えば、連鎖移動剤(ラジカル重合ハンドブック(エヌ・ティー・エス、蒲池幹治、遠藤剛)に記載)やIniferter(Macromolecules1986,19,p287−(Otsu)に記載)の存在下に、親水性モノマー(例、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸3−スルホプロピルのカリウム塩)をラジカル重合させることにより合成できる。連鎖移動剤の例は、3−メルカプトプロピオン酸、2−アミノエタンチオール塩酸塩、3−メルカプトプロパノール、2−ヒドロキシエチルジスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランを含む。また、連鎖移動剤を使用せず、反応性基を有するラジカル重合開始剤を用いて、親水性モノマー(例、アクリルアミド)をラジカル重合させてもよい。
【0069】
一般式(II−1)及び(II−2)で表される構造を含む親水性ポリマーは、下記一般式(i)で表されるラジカル重合可能なモノマーと、下記一般式(ii)で表されるラジカル重合において連鎖移動能を有するシランカップリング剤を用いてラジカル重合することにより合成することができる。シランカップリング剤(ii)が連鎖移動能を有するため、ラジカル重合においてポリマー主鎖末端にシランカップリング基が導入されたポリマーを合成することができる。
【0070】
【化16】

【0071】
上記式(i)及び(ii)において、R201〜R205、L201、L202、A201、qは、上記一般式(II−1)中のものと同義である。また、これらの化合物は、市販されており、また容易に合成することもできる。一般式(i)で表されるラジカル重合可能なモノマーは親水性基A201を有しており、このモノマーが親水性ポリマーにおける一構造単位となる。
【0072】
一般式(II−1)及び(II−2)で表される構造を含む親水性ポリマー(II)において、加水分解性シリル基量を有する一般式(II−1)の構造単位のモル数に対して、一般式(II−2)の構造単位のモル数が、1000〜10倍の範囲が好ましく、500〜20倍の範囲がより好ましく、200〜30倍の範囲が最も好ましい。30倍以上であれば親水性が不足することなく、一方、200倍以下であれば、加水分解性シリル基量が十分量となり、十分な硬化が得られ、膜強度も十分なものとなる。
【0073】
一般式(II−1)及び(II−2)で表される構造を含む親水性ポリマー(II)の質量平均分子量は、1,000〜1,000,000が好ましく、1,000〜500,000がさらに好ましく、1,000〜200,000が最も好ましい。
【0074】
本発明に好適に用い得る親水性ポリマー(II)の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。具体例中、*はポリマーへの結合位置を表す。
【0075】
【化17】

【0076】
【化18】


【0077】
【化19】

【0078】
〔一般式(III−1)及び(III−2)で表される構造を含む親水性ポリマー(III)〕
親水性ポリマー(III)は、下記一般式(III−1)及び(III−2)で表される構造を含む。親水性ポリマー(III)は、反応性基を有する幹ポリマーに親水性基を有する側鎖を導入してなる親水性グラフトポリマーであることが好ましい。
【0079】
【化20】

【0080】
一般式(III−1)及び(III−2)中、R301〜R311はそれぞれ独立に水素原子又は炭化水素基を表す。rは1〜3の整数を表し、L301〜L303は、それぞれ単結合又は二価の有機連結基を表す。x及びyは組成比を表し、xは0<x<100、yは0<y<100となる数を表す。A301は−OH、−OR、−COR、−CO、−CON(R)(R)、−N(R)(R)、−NHCOR、−NHCO、−OCON(R)(R)、−NHCON(R)(R)、−SO、−OSO、−SO、−NHSO、−SON(R)(R)、−N(R)(R)(R)、−N(R)(R)(Rc)(R)、−PO(R)(R)、−OPO(R)(R)、又は−PO(R)(R)を表す。ここで、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、Rは、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はオニウムを表し、Rはハロゲンイオン、無機アニオン、又は有機アニオンを表す。
【0081】
上記一般式(III−1)及び(III−2)において、R301〜R311は、それぞれ独立に水素原子又は炭化水素基を表し、R301〜R311が炭化水素基を表す場合の炭化水素基としては、アルキル基、アリール基などが挙げられ、炭素数1〜8の直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基が好ましい。具体的には、前記一般式(I−1)及び(I−2)のR101〜R108で挙げたものと同様のものを挙げることができ、好ましい範囲も同様である。
301、L302及びL303は、それぞれ独立に単結合又は二価の有機連結基を表す。ここで単結合とはポリマーの主鎖とA301、側鎖及びSi原子が連結鎖なしに直接結合していることを表す。L301、L302及びL303が二価の有機連結基を表す場合、具体的な例及び好ましい例は、前記一般式(I−1)のL101で挙げたものと同様のものを挙げることができる。
301は−OH、−OR、−COR、−CO、−CON(R)(R)、−N(R)(R)、−NHCOR、−NHCO、−OCON(R)(R)、−NHCON(R)(R)、−SO、−OSO、−SO、−NHSO、−SON(R)(R)、−N(R)(R)(R)、−N(R)(R)(Rc)(R)、−PO(R)(R)、−OPO(R)(R)、又は−PO(R)(R)を表す。A201の具体的な例及び好ましい例は一般式(I−2)のA101で挙げられたものと同様のものを挙げることができる。
rは1〜3の整数を表す。好ましくは2〜3、より好ましくは3である。
【0082】
この親水性グラフトポリマーは、一般的にグラフト重合体の合成法として公知の方法を用いて作成することができる。具体的には、一般的なグラフト重合体の合成方法は、“グラフト重合とその応用”井手文雄著、昭和52年発行、高分子刊行会、及び“新高分子実験学2、高分子の合成・反応”高分子学会編、共立出版(株)1995、に記載されており、これらを適用することができる。
【0083】
グラフト重合体の合成方法としては、基本的に、1.幹高分子から枝モノマーを重合させる、2.幹高分子に枝高分子を結合させる、3.幹高分子に枝高分子を共重合させる(マクロマー法)という3つの方法に分けられる。これらの3つの方法のうち、いずれを使用しても本発明に用いる親水性グラフトポリマーを作成することができるが、特に製造適性、膜構造の制御という観点からは「3.マクロマー法」が優れている。
【0084】
マクロモノマーを使用したグラフトポリマーの合成は前記の“新高分子実験学2、高分子の合成・反応”高分子学会編、共立出版(株)1995に記載されている。また山下雄他著“マクロモノマーの化学と工業”アイピーシー、1989にも詳しく記載されている。本発明に使用されるグラフトポリマーは、まず、前記の方法により合成した親水性のマクロモノマー(親水性ポリマー側鎖の前駆体に相当する)と反応性基を有するモノマーとを共重合することにより、合成することができる。
【0085】
親水性マクロモノマーのうち特に有用なものは、アクリル酸、メタクリル酸などのカルボキシル基含有のモノマーから誘導されるマクロモノマー、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルスチレンスルホン酸、及びその塩のモノマーから誘導されるスルホン酸系マクロモノマー、アクリルアミド、メタクリルアミドなどのアミド系マクロモノマー、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミドなどのN−ビニルカルボン酸アミドモノマーから誘導されるアミド系マクロモノマー、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、グリセロールモノメタクリレートなどの水酸基含有モノマーから誘導されるマクロモノマー、メトキシエチルアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレートなどのアルコキシ基もしくはエチレンオキシド基含有モノマーから誘導されるマクロモノマーである。またポリエチレングリコール鎖もしくはポリプロピレングリコール鎖を有するモノマーも本発明のマクロモノマーとして有用に使用することができる。これらのマクロモノマーのうち有用な高分子の質量平均分子量(以下、単に分子量と称する)は400〜10万の範囲であり、好ましい範囲は1000〜5万、特に好ましい範囲は1500〜2万である。分子量が400以上であれば有効な親水性が得られ、また10万以下であれば主鎖を形成する共重合モノマーとの重合性が高くなる傾向があり、いずれも好ましい。
【0086】
一般式(III−1)及び(III−2)で表される構造を含む親水性ポリマー(III)において、xは1<x<90の範囲であることが好ましく、1<x<50の範囲であることがさらに好ましい。yは10<y<99の範囲であることが好ましく、50<y<99の範囲であることがさらに好ましい。
【0087】
親水性ポリマー(III)の共重合比率は、親水性基を有する一般式(III−2)の量が上記範囲内になるように任意に設定することができるが、加水分解性シリル基含有親水性ポリマー中の親水性基を有する構造単位が、ポリマー全体の30mol%以上含まれることが好ましい。すなわち、一般式(III−2)の構造単位のモル比(y)と加水分解性シリル基量を有する一般式(III−1)の構造単位のモル比(x)が、y/x=30/70〜99/1の範囲が好ましく、y/x=40/60〜98/2がより好ましく、y/x=50/50〜97/3が最も好ましい。y/xが30/70以上であれば親水性が不足することなく、一方、y/x=99/1以下であれば、加水分解性シリル基量が十分量となり、十分な硬化が得られ、膜強度も十分なものとなる。
【0088】
親水性ポリマー(III)は、質量平均分子量が100万以下のものが好ましく用いられ、分子量1000〜100万、さらに好ましくは2万〜10万の範囲のものである。分子量が100万以下であれば親水性被膜形成用塗布液を調製する際に溶媒への溶解性が悪化することなく、塗布液粘度が低くなり、均一な被膜を形成し易いなどハンドリング性に問題がなく、好ましい。
【0089】
以下に、一般式(III−1)及び(III−2)で表される構造を含む親水性ポリマー(III)の具体例をその質量平均分子量(M.W.)とともに以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下に示す具体例のポリマーは記載される各構造単位が記載のモル比で含まれるランダム共重合体又はブロック共重合体であることを意味する。
【0090】
【化21】


【0091】
【化22】

【0092】
親水性ポリマー(I)、(II)又は(III)は、他のモノマーとの共重合体であってもよい。用いられる他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、ビニルエステル類、スチレン類、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、無水マレイン酸、マレイン酸イミド等の公知のモノマーも挙げられる。このようなモノマー類を共重合させることで、製膜性、膜強度、親水性、疎水性、溶解性、反応性、安定性等の諸物性を改善することができる。
【0093】
アクリル酸エステル類の具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、(n−又はイソ)プロピルアクリレート、(n−、イソ、sec−又はt−)ブチルアクリレート、アミルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート、クロロエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシペンチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、アリルアクリレート、トリメチロールプロパンモノアクリレート、ペンタエリスリトールモノアクリレート、ベンジルアクリレート、メトキシベンジルアクリレート、クロロベンジルアクリレート、ヒドロキシベンジルアクリレート、ヒドロキシフェネチルアクリレート、ジヒドロキシフェネチルアクリレート、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、フェニルアクリレート、ヒドロキシフェニルアクリレート、クロロフェニルアクリレート、スルファモイルフェニルアクリレート、2−(ヒドロキシフェニルカルボニルオキシ)エチルアクリレート等が挙げられる。
【0094】
メタクリル酸エステル類の具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、(n−又はイソ)プロピルメタクリレート、(n−、イソ、sec−又はt−)ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、クロロエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシペンチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アリルメタクリレート、トリメチロールプロパンモノメタクリレート、ペンタエリスリトールモノメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メトキシベンジルメタクリレート、クロロベンジルメタクリレート、ヒドロキシベンジルメタクリレート、ヒドロキシフェネチルメタクリレート、ジヒドロキシフェネチルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ヒドロキシフェニルメタクリレート、クロロフェニルメタクリレート、スルファモイルフェニルメタクリレート、2−(ヒドロキシフェニルカルボニルオキシ)エチルメタクリレート等が挙げられる。
【0095】
アクリルアミド類の具体例としては、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、N−ベンジルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−トリルアクリルアミド、N−(ヒドロキシフェニル)アクリルアミド、N−(スルファモイルフェニル)アクリルアミド、N−(フェニルスルホニル)アクリルアミド、N−(トリルスルホニル)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチル−N−フェニルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチル−N−メチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0096】
メタクリルアミド類の具体例としては、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、N−ブチルメタクリルアミド、N−ベンジルメタクリルアミド、N−ヒドロキシエチルメタクリルアミド、N−フェニルメタクリルアミド、N−トリルメタクリルアミド、N−(ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド、N−(スルファモイルフェニル)メタクリルアミド、N−(フェニルスルホニル)メタクリルアミド、N−(トリルスルホニル)メタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−メチル−N−フェニルメタクリルアミド、N−ヒドロキシエチル−N−メチルメタクリルアミド等が挙げられる。
【0097】
ビニルエステル類の具体例としては、ビニルアセテート、ビニルブチレート、ビニルベンゾエート等が挙げられる。
スチレン類の具体例としては、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、シクロヘキシルスチレン、クロロメチルスチレン、トリフルオロメチルスチレン、エトキシメチルスチレン、アセトキシメチルスチレン、メトキシスチレン、ジメトキシスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、ヨードスチレン、フルオロスチレン、カルボキシスチレン等が挙げられる。
【0098】
共重合体の合成に使用されるこれらの他のモノマーの割合は、諸物性の改良に十分な量である必要があるが、親水性膜としての機能が十分であり、特定親水性ポリマー(I)、特定親水性ポリマー(II)及び/又は特定親水性ポリマー(III)を添加する利点を十分得るために、割合は大きすぎないほうが好ましい。従って、特定親水性ポリマー(I)、特定親水性ポリマー(II)及び/又は特定親水性ポリマー(III)中の他のモノマーの好ましい総割合は80質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは50質量%以下である。
【0099】
親水性ポリマー(I)、(II)又は(III)の共重合比の測定は、核磁気共鳴装置(NMR)や、標準物質で検量線を作成し、赤外分光光度計により測定することができる。
【0100】
本発明における親水性組成物は親水性ポリマー(I)、(II)又は(III)を単独あるいは2種以上混合しても良い。
親水性ポリマー(I)、(II)又は(III)は硬化性と親水性の観点から、親水性組成物の全固形分に対して20〜99.5質量%使用されることが好ましく、30〜99.5質量%使用されることがさらに好ましい。
【0101】
上記、親水性ポリマーは、金属アルコキシドの加水分解、重縮合物と混合した状態で架橋皮膜を形成する。有機成分である親水性ポリマーは、皮膜強度や皮膜柔軟性に対して関与しており、特に、親水性ポリマーの粘度が0.1〜100mPa・s(5%水溶液、20℃測定)、好ましくは0.5〜70mPa・s、さらに好ましくは1〜50mPa・sの範囲にあると、良好な膜物性を与える。
【0102】
親水性基によりグラフト化された上記親水性ポリマーの空中水滴接触角は、親水性基が高分子鎖に置換された従来の親水性ポリマーに比して、親水性が非常に高い。すなわち、親水性基によりグラフト化された上記親水性ポリマーを含有する膜においては、従来の親水性ポリマーを含有する膜に比して、膜表面の水滴が広がりやすい。
親水性基によりグラフト化された上記親水性ポリマーが、膜表面における水滴の広がりをより大きくさせる理由は明らかではないが、高分子鎖にグラフト化された親水性基は単に置換された親水性基よりも回転性・可動性が高く、膜表面の親水性をより均一化することができるためと推察される。本発明の親水性部材は、回転性・可動性の高い親水性基を有するために、防曇性等の効果に優れると考えられる。又、本発明の親水性部材は、オリゴマー又はポリマーを含有するため、密着性等の効果に優れていると推察される。
即ち、本発明の親水性部材は、前記親水性材料と、オリゴマー又はポリマーを組成傾斜させることにより、防曇性と密着性等の効果を両立させていると推察される。
【0103】
親水性基によりグラフト化された上記親水性ポリマーの空中水滴接触角は、0〜5°であることが好ましい。当該空中水滴接触角の値は、従来の親水性ポリマーが示す値(10〜20°程度)に比して非常に小さい。このような非常に小さな空中水滴接触角の値を示す親水性材料は、特に、「超親水性材料」と呼ばれる。
【0104】
(架橋剤)
親水性材料中に、前記親水性ポリマー(I)を含有する場合は、良好な硬化性を得るために架橋剤を含有することが好ましい。また、親水性材料中に前記親水性ポリマー(II)又は(III)を含有する場合は、架橋剤を含有しない場合でも良好な硬化性を得ることはできるが、膜強度が非常に優れた塗膜を得るためには架橋剤を含有してもよい。
【0105】
架橋剤としては、Si、Ti、Zr、Alから選択される元素を含むアルコキシド化合物(金属アルコキシドともいう)が特に好ましい。金属アルコキシドは、その構造中に加水分解して重縮合可能な官能基を有し、架橋剤としての機能を果たす加水分解重合性化合物であり、金属アルコキシド同士が重縮合することにより架橋構造を有する強固な架橋皮膜を形成し、さらに前記親水性ポリマーとも化学結合することができる。金属アルコキシドは一般式(V−1)又は一般式(V−2)で表すことができ、式中、R20は水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、R21及びR22はアルキル基又はアリール基を表し、ZはSi、Ti又はZrを表し、mは0〜2の整数を表す。R20及びR21がアルキル基を表す場合の炭素数は好ましくは1から4である。アルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、導入可能な置換基としては、ハロゲン原子、アミノ基、メルカプト基などが挙げられる。なお、この化合物は低分子化合物であり、分子量2000以下であることが好ましい。
【0106】
(R20−Z−(OR214−m (V−1)
Al−(OR22 (V−2)
【0107】
以下に、一般式(V−1)又は一般式(V−2)で表される金属アルコキシドの具体例を挙げるが、これに限定されるものではない。
【0108】
ZがSiの場合、即ち、加水分解性化合物中にケイ素を含むものとしては、例えば、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、等を挙げることができる。これらのうち特に好ましいものとしては、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、等を挙げることができる。
【0109】
ZがTiである場合、即ち、チタンを含むものとしては、例えば、トリメトキシチタネート、テトラメトキシチタネート、トリエトキシチタネート、テトラエトキシチタネート、テトラプロポキシタネート、クロロトリメトキシチタネート、クロロトリエトキシチタネート、エチルトリメトキシチタネート、メチルトリエトキシチタネート、エチルトリエトキシチタネート、ジエチルジエトキシチタネート、フェニルトリメトキシチタネート、フェニルトリエトキシチタネート等を挙げることができる。ZがZrである場合、即ち、ジルコニウムを含むものとしては、例えば、前記チタンを含むものとして例示した化合物に対応するジルコネートを挙げることができる。
また、中心金属がAlである場合、即ち、加水分解性化合物中にアルミニウムを含むものとしては、例えば、トリメトキシアルミネート、トリエトキシアルミネート、トリプロポキシアルミネート、トリイソプロポキシアルミネート等を挙げることができる。
【0110】
上記のなかでも、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0111】
Si、Ti、Zr、Alから選択される金属アルコキシド化合物は、前記一般式(I)で表される構造を含む親水性ポリマーを用いる場合は親水性組成物の全固形分に対して、0〜80質量%使用されることが好ましく、0〜70質量%使用されることがさらに好ましい。前記一般式(II)で表される構造を含む親水性ポリマーを用いる場合は親水性組成物の全固形分に対して、0〜80質量%使用されることが好ましく、0〜70質量%使用されることがさらに好ましい。
【0112】
(触媒)
本発明においては、加水分解性シリル基含有親水性ポリマー、さらに金属アルコキシド化合物などの架橋剤を溶媒に溶解し、よく攪拌することで、これらの成分が加水分解、重縮合し、有機−無機複合体ゾル液が形成され、このゾル溶液によって、高い親水性と高い膜強度を有する親水性膜が形成される。有機無機複合体ゾル液の調製において、加水分解及び重縮合反応を促進するために硬化触媒を用いるが好ましい。
本発明に用いられる硬化触媒としては酸性触媒、塩基性触媒、又は金属錯体触媒を使用することが好ましい。
【0113】
本発明で用いられる硬化触媒としては、前記金属アルコキシド化合物などの架橋剤を加水分解、重縮合し、加水分解性シリル基含有親水性ポリマーと結合を生起させる反応を促進する触媒が選択され、酸、あるいは塩基性化合物をそのまま用いるか、又は、酸、あるいは塩基性化合物を水又はアルコールなどの溶媒に溶解させた状態のもの(これらを包括してそれぞれ酸性触媒、塩基性触媒とも称する)を用いる。酸、あるいは塩基性化合物を溶媒に溶解させる際の濃度については特に限定はなく、用いる酸、或いは塩基性化合物の特性、触媒の所望の含有量などに応じて適宜選択すればよい。ここで、触媒を構成する酸或いは塩基性化合物の濃度が高い場合は、加水分解、重縮合速度が速くなる傾向がある。但し、濃度の高い塩基性触媒を用いると、ゾル溶液中で沈殿物が生成する場合があるため、塩基性触媒を用いる場合、その濃度は水溶液での濃度換算で1N以下であることが望ましい。
【0114】
酸性触媒あるいは塩基性触媒の種類は特に限定されないが、濃度の濃い触媒を用いる必要がある場合には乾燥後に塗膜中にほとんど残留しないような元素から構成される触媒がよい。具体的には、酸性触媒としては、塩酸などのハロゲン化水素、硝酸、硫酸、亜硫酸、硫化水素、過塩素酸、過酸化水素、炭酸、蟻酸や酢酸などのカルボン酸、そのRCOOHで表される構造式のRを他元素又は置換基によって置換した置換カルボン酸、ベンゼンスルホン酸などのスルホン酸などが挙げられ、塩基性触媒としては、アンモニア水などのアンモニア性塩基、エチルアミンやアニリンなどのアミン類などが挙げられる。
【0115】
本発明の親水性材料中において使用できる触媒は、金属錯体がとくに好ましい。
親水性膜の形成において使用できる金属錯体触媒は、Si、Ti、Zr、Alから選択される金属アルコキシド化合物の加水分解、重縮合を促進し、親水性ポリマーとの結合を生起することができる。特に好ましい金属錯体触媒としては、周期律表の2A,3B,4A及び5A族から選ばれる金属元素とβ−ジケトン、ケトエステル、ヒドロキシカルボン酸又はそのエステル、アミノアルコール、エノール性活性水素化合物の中から選ばれるオキソ又はヒドロキシ酸素含有化合物から構成される金属錯体である。
構成金属元素の中では、Mg,Ca,St,Baなどの2A族元素、Al,Gaなどの3B族元素,Ti,Zrなどの4A族元素及びV,Nb及びTaなどの5A族元素が好ましく、それぞれ触媒効果の優れた錯体を形成する。その中でもZr、Al及びTiから得られる錯体が優れており、好ましい。
【0116】
上記金属錯体の配位子を構成するオキソ又はヒドロキシ酸素含有化合物は、本発明においては、アセチルアセトン、アセチルアセトン(2,4−ペンタンジオン)、2,4−ヘプタンジオンなどのβジケトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸ブチルなどのケトエステル類、乳酸、乳酸メチル、サリチル酸、サリチル酸エチル、サリチル酸フェニル、リンゴ酸,酒石酸、酒石酸メチルなどのヒドロキシカルボン酸及びそのエステル、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、4−ヒドロキシ−2−ペンタノン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、4−ヒドロキシ−2−ヘプタノンなどのケトアルコール類、モノエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチル−モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミノアルコール類、メチロールメラミン、メチロール尿素、メチロールアクリルアミド、マロン酸ジエチルエステルなどのエノール性活性化合物、アセチルアセトン(2,4−ペンタンジオン)のメチル基、メチレン基又はカルボニル炭素に置換基を有する化合物が挙げられる。
【0117】
好ましい配位子はアセチルアセトン誘導体であり、アセチルアセトン誘導体は、本発明においては、アセチルアセトンのメチル基、メチレン基又はカルボニル炭素に置換基を有する化合物を指す。アセチルアセトンのメチル基に置換する置換基としては、いずれも炭素数が1〜3の直鎖又は分岐のアルキル基、アシル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基であり、アセチルアセトンのメチレン基に置換する置換基としてはカルボキシル基、いずれも炭素数が1〜3の直鎖又は分岐のカルボキシアルキル基及びヒドロキシアルキル基であり、アセチルアセトンのカルボニル炭素に置換する置換基としては炭素数が1〜3のアルキル基であってこの場合はカルボニル酸素には水素原子が付加して水酸基となる。
【0118】
好ましいアセチルアセトン誘導体の具体例としては、アセチルアセトン、エチルカルボニルアセトン、n−プロピルカルボニルアセトン、イソプロピルカルボニルアセトン、ジアセチルアセトン、1―アセチル−1−プロピオニル−アセチルアセトン、ヒドロキシエチルカルボニルアセトン、ヒドロキシプロピルカルボニルアセトン、アセト酢酸、アセトプロピオン酸、ジアセト酢酸、3,3−ジアセトプロピオン酸、4,4−ジアセト酪酸、カルボキシエチルカルボニルアセトン、カルボキシプロピルカルボニルアセトン、ジアセトンアルコールが挙げられる。中でも、アセチルアセトン及びジアセチルアセトンがとくに好ましい。上記のアセチルアセトン誘導体と上記金属元素の錯体は、金属元素1個当たりにアセチルアセトン誘導体が1〜4分子配位する単核錯体であり、金属元素の配位可能の手がアセチルアセトン誘導体の配位可能結合手の数の総和よりも多い場合には、水分子、ハロゲンイオン、ニトロ基、アンモニオ基など通常の錯体に汎用される配位子が配位してもよい。
【0119】
好ましい金属錯体の例としては、トリス(アセチルアセトナト)アルミニウム錯塩、ジ(アセチルアセトナト)アルミニウム・アコ錯塩、モノ(アセチルアセトナト)アルミニウム・クロロ錯塩、ジ(ジアセチルアセトナト)アルミニウム錯塩、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、環状アルミニウムオキサイドイソプロピレート、トリス(アセチルアセトナト)バリウム錯塩、ジ(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、トリス(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、ジ−イソ−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、ジルコニウムトリス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムトリス(安息香酸)錯塩、等が挙げられる。これらは水系塗布液での安定性及び、加熱乾燥時のゾルゲル反応でのゲル化促進効果に優れているが、中でも、特にエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、ジ(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、ジルコニウムトリス(エチルアセトアセテート)が好ましい。
【0120】
上記した金属錯体の対塩の記載を本明細書においては省略しているが、対塩の種類は、錯体化合物としての電荷の中性を保つ水溶性塩である限り任意であり、例えば硝酸塩、ハロゲン酸塩、硫酸塩、燐酸塩などの化学量論的中性が確保される塩の形が用いられる。金属錯体のシリカゾルゲル反応での挙動については、J.Sol−Gel.Sci.and Tec. 16.209(1999)に詳細な記載がある。反応メカニズムとしては以下のスキームを推定している。すなわち、塗布液中では、金属錯体は、配位構造を取って安定であり、塗布後の加熱乾燥過程に始まる脱水縮合反応では、酸触媒に似た機構で架橋を促進させるものと考えられる。いずれにしても、この金属錯体を用いたことにより塗布液経時安定性及び皮膜面質の改善と、高親水性、高耐久性の、いずれも満足させるに至った。
【0121】
また、上記の金属錯体触媒の他に、Si、Ti、Zr、Alから選択される金属アルコキシド化合物の加水分解、重縮合を促進し、親水性ポリマーとの結合を生起することができるものを併用してもよい。このような触媒としては、塩酸などのハロゲン化水素、硝酸、硫酸、亜硫酸、硫化水素、過塩素酸、過酸化水素、炭酸、蟻酸や酢酸などのカルボン酸、そのRCOOHで表される構造式のRを他元素又は置換基によって置換した置換カルボン酸、ベンゼンスルホン酸などのスルホン酸などの酸性を示す化合物、あるいは、アンモニア水などのアンモニア性塩基、エチルアミンやアニリンなどのアミン類などの塩基性化合物が挙げられる。
上記の金属錯体触媒は、市販品として容易に入手でき、また公知の合成方法、例えば各金属塩化物とアルコールとの反応によっても得られる。
【0122】
(無機微粒子)
本発明における親水性材料は、親水性の向上や、皮膜のひび割れ防止、膜強度向上のために、無機微粒子を含有してもよい。無機微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、炭酸マグネシウム、アルギン酸カルシウム又はこれらの混合物が好適に挙げられる。
無機微粒子は、平均粒径が5nm〜10μmであるのが好ましく、0.5〜3μmであるのがより好ましい。上記範囲内であると、親水層中に安定に分散して、親水層の膜強度を十分に保持し、耐久性の高い親水性に優れる組成傾斜膜を形成することができる。
上述したような無機微粒子の中で、特にコロイダルシリカ分散物が好ましく、市販品として容易に入手することができる。
無機微粒子の含有量は、親水層の全固形分に対して、80質量%以下であるのが好ましく、50質量%以下であるのがより好ましい。
【0123】
(その他の成分)
以下に、必要に応じて親水性材料に含ませることのできる種々の添加剤について述べる。
【0124】
1)界面活性剤
本発明においては、組成傾斜膜の被膜面状を向上させるために界面活性剤を用いるのが好ましい。界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。
【0125】
本発明に用いられるノニオン界面活性剤は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、グリセリン脂肪酸部分エステル類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル類、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレン化ひまし油類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル類、脂肪酸ジエタノールアミド類、N,N−ビス−2−ヒドロキシアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸エステル、トリアルキルアミンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体が挙げられる。
【0126】
本発明に用いられるアニオン界面活性剤は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム塩、N−アルキルスルホコハク酸モノアミド二ナトリウム塩、石油スルホン酸塩類、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩類、スチレン/無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、オレフィン/無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類が挙げられる。
【0127】
本発明に用いられるカチオン界面活性剤は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩類、ポリエチレンポリアミン誘導体が挙げられる。
本発明に用いられる両性界面活性剤は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、カルボキシベタイン類、アミノカルボン酸類、スルホベタイン類、アミノ硫酸エステル類、イミタゾリン類が挙げられる。
なお、上記界面活性剤の中で、「ポリオキシエチレン」とあるものは、ポリオキシメチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン等の「ポリオキシアルキレン」に読み替えることもでき、本発明においては、それらの界面活性剤も用いることができる。
【0128】
更に好ましい界面活性剤としては、分子内にパーフルオロアルキル基を含有するフッ素系界面活性剤が挙げられる。このようなフッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル等のアニオン型;パーフルオロアルキルベタイン等の両性型;パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩等のカチオン型;パーフルオロアルキルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキル基及び親水性基を含有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基及び親油性基を含有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基、親水性基及び親油性基を含有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基及び親油性基を含有するウレタン等のノニオン型が挙げられる。また、特開昭62−170950号、同62−226143号及び同60−168144号の各公報に記載されているフッ素系界面活性剤も好適に挙げられる。
界面活性剤は、本発明の親水性材料中に、不揮発性成分に対して、好ましくは0.001〜10質量%、更に好ましくは0.01〜5質量%の範囲で使用される。また、界面活性剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0129】
好ましい界面活性剤の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0130】
【化23】

【0131】
2)紫外線吸収剤
本発明においては、組成傾斜膜の耐候性向上、耐久性向上の観点から、紫外線吸収剤を用いることができる。
紫外線吸収剤としては、例えば、特開昭58−185677号公報、同61−190537号公報、特開平2−782号公報、同5−197075号公報、同9−34057号公報等に記載されたベンゾトリアゾール系化合物、特開昭46−2784号公報、特開平5−194483号公報、米国特許第3214463号等に記載されたベンゾフェノン系化合物、特公昭48−30492号公報、同56−21141号公報、特開平10−88106号公報等に記載された桂皮酸系化合物、特開平4−298503号公報、同8−53427号公報、同8−239368号公報、同10−182621号公報、特表平8−501291号公報等に記載されたトリアジン系化合物、リサーチディスクロージャーNo.24239号に記載された化合物やスチルベン系、ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤、などが挙げられる。
添加量は目的に応じて適宜選択されるが、一般的には、固形分換算で0.5〜15質量%であることが好ましい。
【0132】
3)酸化防止剤
本発明の親水性部材に含まれる組成傾斜膜の安定性向上のため、親水性材料に酸化防止剤を含ませることができる。酸化防止剤としては、ヨーロッパ公開特許、同第223739号公報、同309401号公報、同第309402号公報、同第310551号公報、同第310552号公報、同第459416号公報、ドイツ公開特許第3435443号公報、特開昭54−262047号公報、同63−113536号公報、同63−163351号公報、特開平2−262654号公報、特開平2−71262号公報、特開平3−121449号公報、特開平5−61166号公報、特開平5−119449号公報、米国特許第4814262号明細書、米国特許第4980275号明細書等に記載のものを挙げることができる。
添加量は目的に応じて適宜選択されるが、固形分換算で0.1〜8質量%であることが好ましい。
【0133】
4)高分子化合物
本発明の親水性部材の形成に使用される親水性材料には、親水性膜の膜物性を調整するため、親水性を阻害しない範囲で各種高分子化合物を添加することができる。高分子化合物としては、アクリル系重合体、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、シェラック、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類、その他の天然樹脂等が使用できる。また、これらは2種以上併用してもかまわない。これらのうち、アクリル系のモノマーの共重合によって得られるビニル系共重合体が好ましい。更に、高分子結合材の共重合組成として、「カルボキシル基含有モノマー」、「メタクリル酸アルキルエステル」、又は「アクリル酸アルキルエステル」を構造単位として含む共重合体も好ましく用いられる。
【0134】
この他にも、必要に応じて、例えば、レベリング添加剤、マット剤、膜物性を調整するためのワックス類、基板への密着性を改善するために、親水性を阻害しない範囲でタッキファイヤーなどを含有させることができる。
タッキファイヤーとしては、具体的には、特開2001−49200号公報の5〜6pに記載されている高分子量の粘着性ポリマー(例えば、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜20のアルキル基を有するアルコールとのエステル、(メタ)アクリル酸と炭素数3〜14の脂環族アルコールとのエステル、(メタ)アクリル酸と炭素数6〜14の芳香族アルコールとのエステルからなる共重合物)や、重合性不飽和結合を有する低分子量粘着付与性樹脂などである。
【0135】
5)抗菌剤
本発明の親水性部材が有する組成傾斜膜に抗菌性、防カビ性、防藻性を付与するために、親水性材料に抗菌剤を含有させることができる。親水性膜の形成において、親水性、水溶性抗菌剤を含有させることが好ましい。親水性、水溶性抗菌剤を含有させることにより、表面親水性を損なうことなく抗菌性、防カビ性、防藻性に優れた表面親水性部材を与える組成傾斜膜が得られる。
抗菌剤としては、組成傾斜膜により形成される親水性部材の親水性を低下させない化合物を添加することが好ましい。そのような抗菌剤としては、無機系抗菌剤又は、水溶性の有機系抗菌剤が挙げられる。抗菌剤としては、黄色ブドウ球菌や大腸菌に代表される細菌類や、かび、酵母などの真菌類など、身の回りに存在する菌類に対して殺菌効果を発揮するものが用いられる。
【0136】
〔樹脂材料〕
(オリゴマー又はポリマー)
本発明の樹脂材料として使用可能なオリゴマーとは、限定的ではないが、例えば、分子量1,000〜5,000の重合体のことをいう。そして、ポリマーとは、例えば、分子量5,000以上の重合体のことをいい、好ましくは分子量5,000〜10,000の化合物のことをいう。
【0137】
本発明の樹脂材料として使用可能なオリゴマー又はポリマーとしては特に制限がないが、例えば、オリゴ又はポリエチレンテレフタレート、オリゴ又はポリカーボネート、オリゴ又はポリプロピレン、オリゴ又はポリエチレン、環状オリゴ又はポリオレフィン、ノルボルネンオリゴマー又はポリマー、オリゴ又はポリスチレン、スチレン−アクリレートコオリゴマー又はコポリマー、アクリロニトリル−スチレンコオリゴマー又はコポリマー、オリゴ又はポリエチレンナフタレート、オリゴ又はポリエーテルスルホン、オリゴ又はポリスルホン、ナイロン(オリゴマー又はポリマー)、ウレタンオリゴマー又はポリマー、オリゴ又はポリアクリレート、オリゴ又はポリメタクリレート、酢酸セルロース(オリゴマー又はポリマー)、セルローストリアセテート、セロファン(オリゴマー又はポリマー)、塩化ビニルオリゴマー又はポリマー、オリゴ又はポリフッ化ビニル、オリゴ又はポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。但し、本発明のオリゴマー又はポリマーを含有する樹脂材料は、上記の親水性材料とは異なる。
これらのうち、ウレタンオリゴマー又はポリマー、オリゴ又はポリアクリレート、オリゴ又はポリメタクリレート、又は、オリゴ又はポリスチレンが好ましく、ウレタンオリゴマー又はポリマーが特に好ましい。
【0138】
インク中におけるオリゴマー又はポリマーの含有量は、インクの全質量に対して、10質量%以上含有することが好ましい。インク中におけるオリゴマー又はポリマーのより好ましい含有量としては、30質量%以上80質量%以下であり、更に好ましくは、30質量%以上70質量%以下の範囲内であり、特に好ましくは、40質量%以上60質量%以下の範囲内である。
【0139】
(ウレタンオリゴマー又はポリマー)
本発明におけるウレタンオリゴマー又はポリマーとは、ウレタンのオリゴマー又はウレタンのポリマー(「ポリウレタン」ともいう。)をそれぞれ指す。これらのうち、ウレタンオリゴマーを用いることがより好ましい。
【0140】
ウレタンオリゴマー又はポリマーを使用することが好ましい理由として、ウレタンポリマー又はオリゴマーは基材との密着性が良好なことに加え、親水性材料と水素結合による相互作用で強靭なポリマーブレンド膜を形成することができるからである。
【0141】
本発明のウレタンオリゴマー又はポリマーとしては、ウレタン結合及びウレア結合を含有するオリゴマー又はポリマーであるか、ウレタン結合及び反応性基を有するオリゴマー又はポリマーであることが好ましい。
【0142】
上記ウレタン結合及びウレア結合を含有するオリゴマー又はポリマーとしては、柔軟性の高いアルキレン連結を有するもの、エネルギーにより反応、硬化する官能基を有するオリゴマー又はポリマー等を好ましく使用することができる。
具体的には、JUX−33(アイカ工業(株)製)等を好ましく使用することができる。
【0143】
また、上記ウレタン結合及び反応性基を有するオリゴマー又はポリマーとしては、下記一般式(A)で表される繰り返し単位を有するオリゴマー又はポリマーであることが更に好ましい。
【0144】
【化24】

【0145】
上記一般式で表される繰り返し単位において、RA1〜RA3はそれぞれ独立して、アルキレン基、アリーレン基又はビアリーレン基を表し、RA4〜RA6はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
【0146】
上記アルキレン基としては、炭素数1〜10のアルキレン基が好ましい。
上記アリーレン基としては、フェニレン基又はナフチレン基が好ましい。
上記ビアリーレン基としては、ビフェニレン基又はビナフチレン基が好ましい。
上記アルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましい。
上記アリール基としては、フェニル基又はナフチル基が好ましい。
上記へテロアリール基としては、ピリジル基が好ましい。
【0147】
上記一般式(A)で表されるウレタンポリマー又はオリゴマーとしては、UN−1225(根上工業製)、CN962、CN965、CN971(Sartomer製)等を好ましく使用することができる。
【0148】
(その他の成分)
その他、樹脂材料に含ませることのできる種々の添加剤としては、親水性材料に含ませることのできる上述のその他の成分が挙げられる。
【0149】
[基材]
本発明に用いられる基材は、特に限定されないが、ガラス、プラスチック、金属、セラミックス、木、石、セメント、コンクリート、繊維、布帛、紙、皮革、それらの組合せ、それらの積層体が、いずれも好適に利用できる。さらに好ましい基材は、ガラス基板又はプラスチック基板であり、特に好ましい基材は、プラスチック基板である。
ガラス基板としては、ソーダガラス、鉛ガラス、硼珪酸ガラスなどの何れのガラスを使用しても良い。また目的に応じ、フロート板ガラス、型板ガラス、スリ板ガラス、網入ガラス、線入ガラス、強化ガラス、合わせガラス、複層ガラス、真空ガラス、防犯ガラス、高断熱Low−E複層ガラスを使用することができる。また素板ガラスのまま、前記親水層を塗設できるが、必要に応じ、親水層の密着性を向上させる目的で、片面又は両面に、酸化法や粗面化法等により表面親水化処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、グロー放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理等が挙げられる。粗面化法としては、サンドブラスト、ブラシ研磨等により機械的に粗面化することもできる。
【0150】
本発明に用いられるプラスチック基板としては、特に制限はないが、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、アセチルセルロースブチレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、ポリスルフォン、ポリエーテルケトン、アクリル、ナイロン、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルフォン等のフィルムもしくはシートを挙げることができる。その中でも特にポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート等のポリエステフィルムが好ましい。なお、光学的には、透明性に優れている方が好ましい場合が多いが、用途によっては半透明、あるいは、印刷されたものも用いられる。
【0151】
基材の厚さは通常25μm〜1000μm程度のものを用いることができるが、好ましくは25μm〜250μmであり、30μm〜90μmであることがより好ましい。
基材の幅は任意のものを使うことができるが、ハンドリング、得率、生産性の点から通常は1000mm以下のものが用いられ、800mm以下であることが好ましく、600mm以下であることが更に好ましい。透明支持体はロール形態の長尺で取り扱うことができ、通常200m以内、好ましくは100m以内のものである。
基材の表面は平滑であることが好ましく、平均粗さRaの値が1μm以下であることが好ましく、0.8μm以下であることが好ましく、0.7μm以下であることが更に好ましい。
【0152】
[組成傾斜膜]
本発明に係る親水性部材は、基材上に設けられ、下記親水性材料1)及び樹脂材料2)を含む膜であって、該膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から最も遠い側に向かって1)の比率が大きくなり、かつ、2)の比率が小さくなるように、1)及び2)の組成が連続的に変化する組成傾斜膜を有する。
【0153】
本発明における組成傾斜膜の膜厚は、特に限定されることはないが、1μm以上が好ましく、1μm〜20μmがより好ましく、3μm〜10μmが更に好ましい。この範囲であれば、良好な親水性を示す親水性部材を得ることができる。
【0154】
図1に、本発明で形成される親水性部材に含まれる組成傾斜膜の断面を模式的に示す。
本発明に係る親水性部材1は、基材2上に組成傾斜膜3からなるパターンを有する。組成傾斜膜3は、その厚み方向において基材2に最も遠い側Aから基材2に最も近い側Bに向かって(即ち、図1中の矢印の方向に)、親水性材料1)から樹脂材料2)に連続的に組成が変化している。
ここで、「厚み方向」とは、組成傾斜膜3の「膜厚方向」を意味する。
「厚み方向において親水性材料1)から樹脂材料2)に連続的に組成が変化する」とは、厚み方向に組成傾斜膜をある厚み(例えば、0.1〜5μm)の領域毎に区切り、各領域での樹脂材料2)と親水性材料1)の総質量に対する樹脂材料2)の質量が占める割合(以下、「樹脂の含有率」ともいう。)を測定したときに、隣接する領域間の樹脂の含有率の差が50%以下であることをいう。そして、好ましくは30%以下であることを意味する。隣接する領域間の樹脂の含有率の差が50%以下になると、樹脂の含有率の変化が段階的ではなくなり、高い密着性及び親水性を得ることができる。なお、ある2つの隣接する領域間の樹脂の含有率の差が0%であってもよい。
組成傾斜膜3の基材に最も遠い側Aにおける樹脂の含有率(例えば、Aから厚み0.1〜5μmまでの領域における樹脂の含有率)は、高い親水性を得る観点から、0〜50%であることが好ましく、0〜30%であることがより好ましく、実質的に0%(0〜0.2%)であることが更に好ましい。また、基材から最も近い側Bにおける樹脂の含有率(例えば、Bから厚み0.1〜5μmまでの領域における樹脂の含有率)は、高い密着性を得る観点から、50〜100%であることが好ましく、70〜100%であることがより好ましく、実質的に100%(99〜100%)であることが更に好ましい。
【0155】
本発明の組成傾斜膜における、樹脂材料2)と親水性材料1)の総質量に対する樹脂材料2)の質量が占める割合を、基材側より膜の厚み方向に0.1μmの厚みごとに測定したときに、隣り合う測定位置での上記割合の差がいずれも50%以下であることが好ましい。また、上記割合の差は、いずれも30%以下であることが更に好ましい。
【0156】
各領域における樹脂の含有率は、例えば、XPSの深さ方向プロファイルにより求めることができる。
【0157】
組成傾斜膜3の構成は、上記のように樹脂の含有率の連続的変化があれば、特に限定されないが、図2に示すような樹脂の含有率の異なる複数の層が積層した構成を好ましい例として挙げられる。
図2に示す親水性部材1aは、基材2上に組成傾斜膜3を有し、該組成傾斜膜3は、樹脂の含有率の異なる複数の層3−1、3−2、3−3、3−4、3−5を有する。層3−1、3−2、3−3、3−4、3−5は、基材2に最も遠いA側の層3−5から基材2に最も近いB側の層3−1に向かって(即ち、図2中の矢印の方向に)、樹脂の含有率が0%〜100%の範囲内で連続的に大きくなっている。
良好な密着性及び親水性を得る上で、層3−1、3−2、3−3、3−4、3−5のうち、隣り合う2層の樹脂の含有率の差は50%以下であり、好ましくは30%以下である。また、基材2に最も遠いA側の層3−5の樹脂の含有率は0%〜20%であることが好ましく、0%〜15%であることがより好ましい。基材2に最も近いB側の層3−1の樹脂の含有率は80%〜100%であることが好ましく、85%〜100%であることがより好ましい。
図2では、層3−1、3−2、3−3、3−4、3−5の5層を積層して組成傾斜膜3を形成しているが、積層する層の数は特に限定されない。好ましくは3〜10層であり、より好ましくは3〜7層である。また、各層の厚みは0.1μm〜5μmが好ましく、0.3μm〜3μmがより好ましい。各層の厚みは実質的に等しい(厚みの誤差が±0.5μmの範囲)ことが好ましい。
なお、層間の界面が明確でない場合には、組成傾斜膜3の厚み方向において厚み0.1μm〜5μmで区切った領域を「層」とみなしてもよい。
各領域における樹脂の含有率は、例えば、XPSの深さ方向プロファイルにより求めることができる。
【0158】
本発明は、前記1)の親水性材料を含むインク組成物と前記2)の樹脂材料を含むインク組成物の少なくとも2種のインク組成物をインクジェット法により前記基材上に吐出する本発明の親水性部材の形成方法にも関する。
以下、本発明で使用するインクについて説明する。
【0159】
(インク組成物)
本発明で使用するインク組成物は、前記1)の親水性材料を含有するインク組成物と、前記2)の樹脂材料を含有するインク組成物とに大別される。インク組成物は、前記1)の親水性材料、前記2)の樹脂材料以外に、溶媒、バインダー成分、その他の添加剤を含んでもよい。
当該インク組成物は単独でインクとして使用してもよく、2種以上のインク組成物を混合しインクとして使用してもよい。
【0160】
(インク)
本発明で使用するインクとして、前記1)の親水性材料を含有するインク組成物を含むインクと、前記2)の樹脂材料を含有するインク組成物を含むインクとを、それぞれ独立した2種以上のインクとして使用してもよいし、前記1)の親水性材料を含有するインク組成物を含むインクと、前記2)の樹脂材料を含有するインク組成物を含むインクとを、混合してなる混合インクとして使用してもよい。
該インクは、前記1)の親水性材料、前記2)の樹脂材料以外に、溶媒、バインダー成分、その他の添加剤を含んでもよい。
【0161】
(溶媒)
本発明に係るインク組成物は、前記1)の親水性材料、前記2)の樹脂材料と溶媒とを混合して調製する。
溶媒としては、水、有機溶媒から適宜選択して用いることができ、沸点が50℃以上の液体であることが好ましく、沸点が60℃〜300℃の範囲の有機溶媒であることがより好ましい。
溶媒は、インク組成物中の固形分濃度が1〜70質量%となる割合で用いることが好ましい。更には、5〜60質量%が好ましい。この範囲において、得られるインクは作業性良好な粘度の範囲となる。
【0162】
溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エステル類、ニトリル類、アミド類、エーテル類、エーテルエステル類、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。具体的には、具体的には、アルコール(例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、クレゾール等)、ケトン(例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等)、エステル(例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸ブチル、乳酸エチル等)、脂肪族炭化水素(例えばヘキサン、シクロヘキサン)、ハロゲン化炭化水素(例えばメチレンクロライド、メチルクロロホルム等)、芳香族炭化水素(例えばトルエン、キシレン等)、アミド(例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、n−メチルピロリドン等)、エーテル(例えばジオキサン、テトラハイドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル等)、エーテルアルコール(例えば1−メトキシ−2−プロパノール、エチルセルソルブ、メチルカルビノール等)、フルオロアルコール類(例えば、特開平8−143709号公報 段落番号[0020]、同11−60807号公報 段落番号[0037]等に記載の化合物)が挙げられる。
これらの溶媒は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して使用することができる。好ましい溶媒としては、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、イソプロパノール、ブタノールが挙げられる。
【0163】
(添加剤)
本発明に係るインク組成物には、前記1)の親水性材料、前記2)の樹脂材料の他、表面張力調整剤、防汚剤、耐水性付与剤、耐薬品性付与剤等の他の添加剤を含むことができる。
【0164】
(インク物性)
本発明に係るインクの粘度は、成膜時の均一性、インクジェット吐出時の安定性、インクの保存安定性の観点から、5〜40cPが好ましく、5〜30cPがより好ましく、8〜20cPが更に好ましい。
また、インクの表面張力は、成膜時の均一性、インクジェット吐出時の安定性、インクの保存安定性の観点から、10〜40mN/mが好ましく、15〜35mN/mがより好ましく、20〜30mN/mが更に好ましい。
【0165】
(インクジェット法による組成傾斜膜の作成)
以下、本発明のインクジェット法による組成傾斜膜の作成について説明する。
本発明においては、前記1)の親水性材料を含有するインク組成物を含むインクと、前記2)の樹脂材料を含有するインク組成物を含むインクとをそれぞれ独立した2種以上のインクとしてをインクジェット法により基材上に吐出するか、親水性材料を含有するインク組成物を含むインクと、樹脂材料を含有するインク組成物を含むインクとを混合してなる混合インクをインクジェット法により基材上に吐出する。
【0166】
インクジェット法としては、インクジェットプリンターにより画像記録を行う方法であれば、インクジェットの記録方式に制限はなく、公知の方式、例えば静電誘引力を利用してインク組成物を吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインク組成物に照射して放射圧を利用してインク組成物を吐出させる音響インクジェット方式、及びインク組成物を加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等に用いられる。
インクの液滴の制御は主にプリントヘッドにより行われる。例えばサーマルインクジェット方式の場合、プリントヘッドの構造で打滴量を制御することが可能である。すなわち、インク室、加熱部、ノズルの大きさを変えることにより、所望のサイズで打滴することができる。またサーマルインクジェット方式であっても、加熱部やノズルの大きさが異なる複数のプリントヘッドを持たせることで、複数サイズの打滴を実現することも可能である。ピエゾ素子を用いたドロップオンデマンド方式の場合、サーマルインクジェット方式と同様にプリントヘッドの構造上打滴量を変えることも可能であるが、ピエゾ素子を駆動する駆動信号の波形を制御することによっても、同じ構造のプリントヘッドで複数のサイズの打滴を行うことができる。
【0167】
インクの基材上への吐出方法(描画方法)としては、親水性材料を含有するインク組成物を含むインクと樹脂材料を含有するインク組成物を含むインクとを別々のインクジェットヘッドに供給し、両者の吐出量の比率を調節しながら、同時に吐出させて基材上で混合させる描画混合法が挙げられる。また、それとは別の方法としては、予めインクを親水性材料を含有するインク組成物を含むインクと樹脂材料を含有するインク組成物を含むインクとを混合させた混合インクで両者の比率が異なるものを複数種類調製したものをインクジェットヘッドに供給し、ヘッドを順番に選択して、親水性材料を含有するインク組成物を含むインクと、樹脂材料を含有するインク組成物を含むインクとの比率が異なる混合インクを順次吐出させて描画する混合インク法が挙げられる。
【0168】
(インクの調製)
後述する描画混合法に用いられる、親水性材料を含有するインク組成物を含むインクと、樹脂材料を含有するインク組成物を含むインクの調製について説明する。
前記インクは、各材料を混合することで調製することができる。各材料を混合する際には攪拌機により攪拌してもよい。攪拌時間は特に限定されないが、通常30分〜60分であり、30分〜40分が好ましい。また混合する際の温度は、通常10℃〜40℃であり、20℃〜35℃が好ましい。
後述するインク混合法においては、上述のように調製したインクを混合して用いることができる。
【0169】
〜描画混合法〜
本発明の方法としては、基材と、該基材上に設けられ、前記親水性材料1)及び樹脂材料2)を含む膜とを有する親水性部材であって、該膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から最も遠い側に向かって1)の比率が大きくなり、かつ、2)の比率が小さくなるように、1)及び2)の組成が連続的に変化する組成傾斜膜である、本発明の親水性部材の形成方法であって、
前記1)の親水性材料を含むインク組成物と前記2)の樹脂材料を含むインク組成物の少なくとも2種のインク組成物をインクジェット法により前記基材上に吐出する、親水性部材の形成方法において、
前記少なくとも2種のインク組成物として、少なくとも、前記1)の親水性材料を含むインク組成物と前記2)の樹脂材料を含むインク組成物とを用い、
前記インクジェット法が、少なくとも第1のインクジェットヘッドと第2のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記1)の親水性材料を含むインク組成物を含む第1のインクを、第1のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記2)の樹脂材料を含むインク組成物を含む第2のインクを、第2のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記第1のインクジェットヘッドから吐出される第1のインクの量と前記第2のインクジェットヘッドから吐出される第2のインクの量との比率を決定する制御工程と、
前記決定された比率に従って、前記第1のインクジェットヘッド及び前記第2のインクジェットヘッドの少なくとも一方から前記第1のインク又は前記第2のインクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して組成傾斜膜を得る積層工程と、
を備え、
前記制御工程において、前記複数層の厚み方向において前記基材に最も近い層から最も遠い層に向かって、前記第1のインクの比率が大きくなり、かつ前記第2のインクの比率が小さくなるように前記比率を決定する方法が好ましい。
【0170】
上記描画法によれば、第1のインクジェットヘッドから吐出される第1のインクの吐出量と第2のインクジェットヘッドから吐出される第2のインクの吐出量との比率を決定し、決定された比率にしたがってインクを吐出させて1つの層を形成する工程を繰り返して基材上に複数の層を積層し、この複数の層が上層にいくほど前記第1のインクの吐出量の比率が大きい層であって前記第2のインクの吐出量の比率が小さい層となるようにすることで、インクジェット方式の技術を用いて組成傾斜膜を製造することができる。
なお、本発明は、上記描画法によって形成される親水性部材にも関する。
【0171】
〜描画混合法による実施形態〜
図3は、描画混合法に係る組成傾斜膜作製装置100の全体構成図であり、図4は、組成傾斜膜作製装置100の描画部10の概略図である。これらの図に示すように、組成傾斜膜作製装置100は、描画部10を含んで構成され、描画部10は、フラットベッドタイプのインクジェット描画装置が用いられている。詳細には、描画部10は、基材である基材が載置されるステージ30、ステージ30に載置された基材を吸着保持するための吸着チャンバー40、基材20に向けて各インクを吐出するインクジェットヘッド50A(以下、インクジェットヘッド1)及びインクジェットヘッド50B(以下、インクジェットヘッド2)を含み構成されている。
【0172】
ステージ30は、基材20の直径よりも広い幅寸法を有しており、図示しない移動機構により水平方向に自在に移動可能に構成されている。移動機構としては、例えばラックアンドピニオン機構、ボールネジ機構等を用いることができる。ステージ制御部43(図4では不図示)は、移動機構を制御することにより、ステージ30を所望の位置に移動させることができる。
【0173】
また、ステージ30の基材保持面には多数の吸引穴31が形成されている。ステージ30下面には吸着チャンバー40が設けられており、この吸着チャンバー40がポンプ41(図4では不図示)で真空吸引されることによって、ステージ30上の基材20が吸着保持される。また、ステージ30はヒータ42(図4では不図示)を備え、ヒータ42によりステージ30に吸着保持された基材20を加熱することが可能である。
【0174】
インクジェットヘッド1及び2は、インクタンク60A(以下、インクタンク1)及びインクタンク60B(以下、インクタンク2)から供給されるインクを透明支持体20の所望の位置に対して吐出するものであり、ここではピエゾ方式のアクチュエータを持つヘッドを用いている。インクジェットヘッド1と2とは、図示しない固定手段により、それぞれができるだけ近づけて配置されて固定されている。
【0175】
インクタンク1及び2からインクジェットヘッド1及び2に供給されるインクを、それぞれインク1、インク2とする。本発明においては、前記1)の親水性材料を含有するインク組成物を含むインク(以下、「親水性インク」ともいう。)をインク1とし、前記2)の樹脂材料を含有するインク組成物を含むインク(以下、「樹脂インク」ともいう。)をインク2とする。
【0176】
〔描画混合法による組成傾斜膜の作成〕
このように構成された組成傾斜膜作製装置100を用いた組成傾斜膜の作成について、図5を用いて説明する。
【0177】
まず、窒素雰囲気中に置かれた描画部10のステージ30上に、基材20を載置する。基材20は、裏面がステージ30に接するように載置される。そして、吸着チャンバー40により、基材20のステージ30への吸着及び加熱を行う。ここでは、基材20を70℃に加熱することが好ましい。
【0178】
次に、吸着・加熱された基材20上に、インクジェットヘッド2から供給されるインク(インク2)を1層若しくは数層分積層して24−1を形成する。このインク2の積層は、図5(a)に示すように、移動機構によりステージ30を移動させながら(図では左方向に移動)、インクジェットヘッド2によりインク2を吐出する。ここでは、インクジェットヘッド1からはインクの吐出を行わない。
【0179】
このように形成したインク2の層24−1を、インク2中の溶媒成分を完全には蒸発しない程度に乾燥(半乾燥・半硬化)させることが好ましい。具体的には、通常に乾燥させるとき(全乾燥・全硬化)に与えるエネルギーよりも少ないエネルギーで乾燥を行う。
なお、本明細書において、「半乾燥」及び「全乾燥」には、本発明に係るインクとしてゾルゲル硬化型組成物など硬化型組成物を用いた場合の「半硬化」及び「全硬化」の意も含むものとする。
本発明においては、上記のとおり、前記形成工程において吐出された層を半乾燥させる工程を有することが好ましく、半乾燥させるためには、例えば、インク吐出終了後、40〜120℃の環境温度に一定時間保持することが好ましく、50〜100℃の環境温度に一定時間保持することが好ましい。該保持する時間としては、10〜120秒が好ましく、20〜90秒がより好ましい。
【0180】
次に、半乾燥状態となったインク2の層24−1の上に、インク1とインク2との混合層24−2を形成する。この混合層24−2の形成は、図5(b)に示すように、ステージ30を移動させながら、インクジェットヘッド1によりインク1を吐出し、同時にインクジェットヘッド2によりインク2を吐出して行う。このとき、インク1の吐出量とインク2の吐出量を、所望の比率に調整する。ここでは、インク2の吐出量が75%、インク1の吐出量が25%となるように、インクジェットヘッド1と2の各ノズルの吐出量を調整して吐出している。なお、本明細書におけるインクの「吐出量」とは、各層を形成するために吐出されるインクの全量を意味する。一方、後述する、インクジェットヘッドより吐出されるインク滴の「液滴量」は1つのインク液滴の量である。
【0181】
なお、インクジェットヘッド1及び2からのインクの吐出量の比率の調整は、描画のドットピッチ密度によって調整してもよい。例えば、インクジェットヘッド1と2の各ノズルの吐出量を一定としたまま、インクを吐出するノズルの数をインクジェットヘッド1と2とを25:75となるように制御することにより、吐出量の比率の調整を行うことも可能である。
【0182】
インク吐出後、図5(c)に示すように、それぞれの吐出量で吐出されたインク1とインク2とを拡散混合することにより、混合層24−2が積層される。インク1の層24−1は半乾燥状態となっているため、その上に形成された混合層24−2のインクの溶媒はインク1の層24−1に受容されて、極端にぬれ広がることがない。即ち、ヒータ42による加熱温度は、インクの蒸発のしやすさにより調整する必要がある。溶媒の種類によっては、前述した70℃より低い温度、例えば基板の温度を50℃程度にして描画してもよい。
すなわち、前記形成工程において、吐出された前記第1のインクと前記第2のインクを拡散混合させる工程を有することが好ましい。拡散混合させる方法としては、加熱による対流を利用する方法や超音波を利用する方法などが挙げられる。
【0183】
また、2つのインクジェットヘッドはできるだけ近づけて配置されており、一方のインクだけが乾燥して両インクの層内での混合が不十分になることが防止されている。なお、2つのインクを同時に吐出する際、インクジェットヘッド1から吐出されるインク1の液滴とインクジェットヘッド2から吐出されるインク2の液滴とを、飛翔中に空中で衝突させ、混合させてから着弾するようにしてもよい。
【0184】
更に、詳細は後述するが、2つのインクジェットヘッドはそれぞれの幅を対象基材の幅(短い方)よりも大きく構成し、1回の走査で1つの層を形成することが好ましい。これにより、インク1とインク2とが混ざりやすくなる。
【0185】
また、インクの混合を促進するために、ステージ30を制御して基材20を超音波処理してもよい。このとき、超音波による節が発生しにくくなるように、超音波の周波数をスイープさせたり、基材20の位置を変更しながら行うことが好ましい。
【0186】
このように形成した混合層24−2を、インク2の層24−1と同様に半乾燥状態にすると、混合層24−2は量の比率が75:25で、インク2に含まれる樹脂材料とインク1に含まれる親水性材料とが混合して積み重なっている状態となる。
【0187】
次に、混合層24−2の上に混合層24−3を形成する。この混合層24−3の形成についても、図5(d)に示すように、ステージ30を移動させながら、インクジェットヘッド1とインクジェットヘッド2とにより同時にインクを吐出する。ここでは、インク1、インク2をともに50%の吐出量の比率で吐出している。
【0188】
混合層24−2についても半乾燥状態となっているため、その上に形成された混合層24−3のインクの溶媒は、混合層24−2に受容される。インク吐出後、図5(e)に示すように、2つのインクを拡散混合することにより、混合層24−3が積層される。
【0189】
更に、混合層24−3についてもインク2の層24−1と同様に半乾燥させる。混合層24−3は量の比率が50:50で、インク2に含まれる樹脂材料とインク1に含まれる親水性材料とが混合して積み重なっている状態となる。
【0190】
このように、インク1とインク2の吐出量の比率を段階的に(傾斜するように)変更しながら各混合層を形成し、最後にインク1の吐出量が100%の層を形成する。
【0191】
全ての層の形成終了後、各層の拡散が進み、段階的に形成した層が連続的になる。その結果、図1に示すように、組成成分比が膜厚方向において、B側からA側にかけてインク2が100%からインク1が100%となる組成傾斜膜3が形成される。
【0192】
このように、下の層を半乾燥状態として上の層を形成することにより、その上下の層において、拡散がある程度進むようにしておく。このとき、上下の層の界面が無くなり、完全に混合して上下層の区別が無くなるような状態とはならないようにすることが好ましい。
【0193】
なお、各層の形成が終わったあとに、組成傾斜膜の機能していない領域にダミーパターンを積層し、レーザを用いた光学式変位センサ等によりダミーパターンの高さを測定してもよい。乾燥が進んでおらず、溶媒が残っている状態では、膜厚が高くなることから、ダミーパターンの高さにより乾燥状態を検出することができる。
【0194】
以上説明したように、インクジェットヘッドを用いて組成傾斜膜を形成することができる。また、本実施形態の描画混合法によれば、形成する層の数にかかわらず、インクの種類とインクジェットヘッドの個数が少なくて済むという利点がある。インク1とインク2との混合層は、それぞれのインクの混合比率が段階的に傾斜されるように形成されれば、何層積層してもよい。
【0195】
また、各層の形成工程において、第1のインクジェットヘッド及び第2のインクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴の量は膜厚制御及び細線形成性の観点から、0.3〜100pLとすることが好ましく、0.5〜80pLがより好ましく、0.7〜70pLが更に好ましい。
各層の形成工程において、第1のインクジェットヘッド及び第2のインクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴径は膜厚制御及び細線形成性の観点から、1〜300μmとすることが好ましく、5〜250μmがより好ましく、10〜200μmが更に好ましい。
更に、各層の形成工程において、第1のインクと第2のインクのうち吐出量の比率が小さい方のインクについて、インクジェットヘッドから吐出するインク滴の液適量及び液滴径の少なくとも一方を前記比率が大きなインクより小さくすることが好ましい。例えば、前記比率が小さなインクのインク滴が0.3〜60pLであり、前記比率が大きなインクのインク滴が1〜100pLであることが好ましい。これにより、拡散混合する時間を短くしたり、混合の均一性を向上することができる。
なお、インク滴の「液滴径」とは、液滴直径の長さを意味し、インクジェット吐出時の飛翔状態写真から測定することができる。
【0196】
本実施形態では、B側からA側にかけてインク2が100%からインク1が100%となる組成傾斜膜3を形成したが、B側又はA側においてインク2又はインク1が100%となるよう製膜する必要性は必ずしもなく、組成傾斜膜3が得られる範囲のものであれば、B側又はA側におけるインク2又はインク1の比率を任意に変更することができる。
上記B側又はA側にけるインク2又はインク1の比率は、得ようとする組成傾斜膜の密着性や親水性等の特性により、適宜調節することが可能である。
【0197】
また、本実施形態では、インクジェットヘッド1とインクジェットヘッド2とにおいて同時にインクを吐出して各層を形成したが、順に吐出してもよい。
【0198】
例えば、混合層24−2を形成する場合に、図6(a)に示すように、まずインクジェットヘッド2によりインク2層24−1の上の全面にインク2を吐出する。次に、図6(b)に示すように、インクジェットヘッド1によりインク1を全面に吐出する。その後、図6(c)に示すように、それぞれのインクを拡散混合することで、同様に混合層24−2を形成することができる。
【0199】
このように、それぞれのインクを順に吐出して1つの層を形成する場合であって、2つのインクの吐出量に差がある場合、即ち2つのインクの吐出量の比率が50%ずつでない場合は、吐出量の多い方のインクを先に吐出するように構成してもよい。特に、先に吐出するインクの乾燥が激しい場合等は、量が少ないほど乾燥が早まるため、多い方のインクを先に吐出することが好ましい。これにより、2種類のインクの混合をスムーズに進ませることができる。
【0200】
更にこの場合、後から吐出することになる吐出量の少ない方のインクについては、小さい液滴(液適量が少ない又は液滴径が小さい)によってドットピッチ密度を高くして吐出してもよい。これにより、拡散混合する時間を短くすることができる。
【0201】
また、先に吐出したインクを着弾させた位置に、後から吐出するインクを重ねて着弾させるようにしてもよい。特に間歇打ちを行ってドットとドットが離れている場合に、同じ位置に乾燥させる前に着弾させると、それぞれのインクの混合がしやすくなる。
【0202】
例えば、混合層24−2を形成する際に、1回目の走査でインクジェットヘッド2によりインク2を間歇打ちにより吐出したとする。図9(a)は、インク1層24−1上に着弾したインク2(24−2−B−1)を示す。
【0203】
次に、2回目の走査でインクジェットヘッド1によりインク1を間歇打ちにより吐出する。このとき、インクジェットヘッド1は、図9(b)に示すように、吐出されたインク1(24−2−A−1)が、1回目の走査で着弾されているインク2(24−2−B−1)と同じ位置に重ねて着弾するように吐出する。
【0204】
更に、3回目の走査でインクジェットヘッド2によりインク2が間歇打ちされる。図9(c)は、インク2(24−2−B−1)の間に着弾されたインク2(24−2−B−2)を示す。
【0205】
その後、4回目の走査では、インクジェットヘッド1により、インク1がインク2(24−2−B−2)と同じ着弾位置に重ねて着弾されるように吐出される。図9(d)に示すように、吐出されたインク1(24−2−A−2)が、2回目の走査で着弾されているインク2(24−2−B−2)と同じ位置に重ねて着弾するように吐出する。
【0206】
以後同様に、インク1の層24−1の全面にインクを吐出し、その後拡散混合させる。
このように吐出することにより、混合層24−2を形成する際の拡散混合の時間を短縮することができる。
【0207】
また、一方のインクの乾燥が速い場合は、そのインクを後から吐出するようにしてもよい。
【0208】
また、本実施形態では、インク1とインク2の2つの純インクを用いて各混合層を形成したが、これらを混合したインクを併用してもよい。例えば、2つの純インクと、インク1とインク2との混合比率が50:50の混合インクとの3種類のインクを同時に用いて混合層を形成することが考えられる。混合インクの分だけインクジェットヘッドの数が増加するが、混合インクは予め2つの純インクが十分混合されているため、インク吐出後の拡散混合に要する時間を短縮することができる。
【0209】
〜インク混合法〜
本発明の方法としては、基材と、該基材上に設けられ、下記親水性材料1)及び樹脂材料2)を含む膜とを有する親水性部材であって、該膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から最も遠い側に向かって1)の比率が大きくなり、かつ、2)の比率が小さくなるように、1)及び2)の組成が連続的に変化する組成傾斜膜である、本発明の親水性部材の形成方法であって、
前記1)の親水性材料を含むインク組成物と前記2)の樹脂材料を含むインク組成物の少なくとも2種のインク組成物をインクジェット法により前記基材上に吐出する、親水性部材の形成方法において、
前記少なくとも2種のインク組成物として、少なくとも、前記1)の親水性材料を含むインク組成物と前記2)の樹脂材料を含むインク組成物とを用い、
前記インクジェット法が、複数のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記1)の親水性材料を含むインク組成物を含む第1のインクと前記2)の樹脂材料を含むインク組成物を含む第2のインクとが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクを前記複数のインクジェットヘッドそれぞれのインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記複数のインクジェットヘッドから1つのインクジェットヘッドを順に選択する選択工程であって、前記第2のインクの比率の高い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから順に選択する選択工程と、
前記選択されたインクジェットヘッドから混合インクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して組成傾斜膜を得る積層工程と、
を備える方法が好ましい。
【0210】
上記方法によれば、第1のインクと第2のインクとが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクをそれぞれのインクジェットヘッドに供給し、第1のインクの比率の低い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから順に混合インクを吐出させて各層を形成し、基材上に複数の層を積層するようにしたので、インクジェット方式の技術を用いて組成傾斜膜を製造することができる。
なお、本発明は、上記描画法によって形成される親水性部材にも関する。
【0211】
〜インク混合法による実施形態〜
【0212】
図7は、第2の実施形態に係る組成傾斜膜作製装置101の全体構成図である。同図に示すように、本実施形態に係る組成傾斜膜作製装置101は描画部11を備え、描画部11は、5種類のインクを貯蔵するインクタンク60−1〜60−5と、各インクタンクからインクが供給されるインクジェットヘッド50−1〜50−5を備えている。各インクジェットヘッド50−1〜50−5は、各インクタンク60−1〜60−5から供給されるインクを基材20に対して吐出する。
【0213】
各インクタンク60−1〜60−5から各インクジェットヘッド50−1〜50−5に供給されるインクは、インク1とインク2との混合比率がそれぞれ0:100、25:75、50:50、75:25、100:0となっている。即ち、インクタンク60−1からはインク2の純インクが、インクタンク60−5からはインク1の純インクが、60−2〜60−4からはインク1とインク2とが所定の比率で混合された混合インクが供給される。
【0214】
〔インク混合法による組成傾斜膜の作成〕
描画混合法による実施形態と同様に、ステージ30上に基材20を載置し、吸着及び加熱を行う。
【0215】
次に、吸着・過熱された基材上に、インク2を1層若しくは数層分積層してインク2の層28−1を形成する。このインク2の積層は、図8(a)に示すように、移動機構によりステージ30を移動させながら(図では左方向に移動)、インクジェットヘッド50−1により基材に対してインクタンク60−1から供給されるインク(インク1とインク2との混合比率が0:100のインク)を吐出する。このとき、その他のインクジェットヘッド50−2〜50−5からはインクの吐出を行わない。
【0216】
したがって、このように形成されたインク2の層28−1は、図5に示すインク2の層24−1と同様の層となる。ここで、インク2中の溶媒が蒸発する程度に乾燥(半乾燥・半硬化)させると、インク1に含まれる親水性材料が積み重なっている状態となる。
インク混合法においても、前記形成工程において吐出された層を半乾燥させる工程を有することが好ましく、半乾燥させるためには、例えば、インク吐出終了後、40〜120℃の環境温度に一定時間保持することが好ましく、50〜100℃の環境温度に一定時間保持することが好ましい。該保持する時間としては、10〜120秒が好ましく、20〜90秒がより好ましい。
【0217】
次に、インク2の層28−1の上に、インクジェットヘッド50−2によりインクタンク60−2から供給される混合インク(インク1とインク2との混合比率が25:75の混合インク)を吐出して、混合層28−2を形成する。
【0218】
混合層28−2の形成は、図8(b)に示すように、ステージ30を移動させながら、インクジェットヘッド50−2により混合インクを吐出する。描画混合法による実施形態と同様に、インク2の層28−1が半乾燥状態であるため、その上に形成された混合層28−2のインクの溶媒がインク2の層28−1に受容されて、極端にぬれ広がることがない。したがって、加熱温度はインクの蒸発のしやすさにより調整する必要がある。
【0219】
この混合層28−2についても半乾燥させることで、混合層28−2は、インク1に含まれる親水性材料及び、インク2に含まれる樹脂材料が積み重なっている状態となる。
【0220】
更に、混合層28−2の上に、インクジェットヘッド50−3(図8には不図示)によりインクタンク60−3から供給される混合インク(インク1とインク2との混合比率が50:50の混合インク)を吐出して、混合層28−3を形成する。
【0221】
混合層28−2が半乾燥状態であるため、その上に形成された混合層28−3のインクの溶媒は、混合層28−2に受容される。更に、混合層28−3についても半乾燥させる。
【0222】
このように、各混合インクをインク2の混合比率が多い順(インク1の混合比率が少ない順)に吐出して各混合層(28−2〜28−4)を積層し、最後にインクジェットヘッド50−5によりインクタンク60−5から供給されるインク1(インク1とインク2との混合比率が100:0のインク)を吐出して、インク1が100%の層28−5(インク1の層)を形成する(図8(c))。
【0223】
全ての層を形成終了後、図1に示すようなインク2が100%からインク1が100%の組成成分比を有する組成傾斜膜3が形成される。
【0224】
また、各層の形成工程において、インクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴の量は安定吐出の観点から、0.5〜150pLとすることが好ましく、0.7〜130pLがより好ましく、1〜100pLが更に好ましい。
各層の形成工程において、インクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴径は良好な膜形成性の観点から、2〜450μmとすることが好ましく、5〜350μmがより好ましく、10〜250μmが更に好ましい。
【0225】
以上説明したように、混合インクを用いて、組成傾斜膜を形成することができる。本実施形態のインク混合法によれば、インクの段階で充分に混合されているため、親水性傾斜の変化の精度が高い組成傾斜膜を作成することができる。また、描画混合法による実施形態と比較すると、2種類の機能性インクを拡散混合する時間が不要となるため、プロセス時間が短くて済むという利点がある。
【0226】
本実施形態では、インク1とインク2との混合層を3層形成したが、層の数はこれに限定されるものではなく、それぞれのインクの混合比率が傾斜されるように積層できれば何層でもよい。なお、形成する層の数だけインクタンクとインクジェットヘッドを用意する必要がある。
【0227】
さらに、本実施形態では、インク2が100%からインク1が100%の組成成分比を有する組成傾斜膜3を形成したが、インク2が100%又はインク1が100%の組成成分比を採用する必要性は必ずしもなく、組成傾斜膜3が得られる範囲のものであれば、上記組成成分比を任意に変更することができる。
上記組成成分比は、得ようとする組成傾斜膜の密着性や親水性等の特性により適宜調節することが可能である。
【実施例】
【0228】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれによっていささかも限定して解釈されるものではない。
【0229】
<実施例1>
(樹脂材料を含むインク(樹脂インク)の作成)
〜樹脂インクA1〜
ウレタンオリゴマーUN−1225(根上工業(株)製) 50g
メチルピロリドン(和光純薬(株)製) 450g
【0230】
上記素材を2Lの容器へ投入し、シルバーソン高速攪拌機にて液温40℃以下を保ち、20分攪拌した。その後、2μmのフィルターにて濾過し、樹脂インクA1を作成した。
【0231】
(親水性材料を含むインク(親水性インク)の作成)
〜親水性インクB1〜
・コロイダルシリカ分散物20質量%水溶液(スノーテックスC:日産化学(株)製)
100g
・下記ゾルゲル調製液 500g
・下記アニオン系界面活性剤の5質量%水溶液 30g
・精製水 450g
【0232】
【化25】

【0233】
<ゾルゲル調製液>
エチルアルコール200g、アセチルアセトン10g、オルトチタン酸テトラエチル(触媒)10g、精製水100g中に、テトラメトキシシラン(架橋剤:東京化成工業(株)製)8gと下記構造のシリル基含有親水性ポリマー(化合物1)5gを混合し、室温で2時間撹拌して、調製した。
【0234】
(化合物1)
【0235】
【化26】

【0236】
上記式中、数値はモル比であって、親水性基を有する構造単位がポリマー全体の70mol%含まれる。該ポリマーの質量平均分子量は15,000である。
【0237】
上記素材を1Lの容器へ投入し、シルバーソン高速攪拌機にて液温40℃以下を保ち、20分攪拌した。その後、2μmのフィルターにて濾過し、親水性インクB1を作成した。
【0238】
(組成傾斜膜を有する親水性部材の作成)
透明PET基材(膜厚150μm、富士フイルム製)上に、下記インクジェット描画法Aにより、厚さ10μmの組成傾斜膜を有する親水性部材を形成し、100℃にて加熱乾燥後、該組成傾斜膜の基材との密着性、親水性、耐水性、防曇性、防汚性、耐候性を評価した。
【0239】
〜インクジェット描画法A〜
図3に示すようなインクタンク1、インクタンク2に親水性インクB1、樹脂インクA1をそれぞれ充填した。インクジェットヘッド1、インクジェットヘッド2に供給されるインクは、それぞれ親水性インクB1、樹脂インクA1である。
はじめに、インクジェットヘッド2からの吐出されるインク滴の液適量を10pL、液滴径が30μmとなるように制御し、窒素ガス雰囲気中でインクジェットヘッド2から樹脂インクA1を吐出させた。ここで、インクジェットヘッド1からは親水性インクB1を吐出させないで(即ち、インクジェットヘッド2から吐出するインクの吐出量とインクジェットヘッド1から吐出するインクの吐出量の比(質量%)が100:0)としてインク層1を形成し、80℃30秒間乾燥し、半乾燥させた。
続いて、インクジェットヘッド2から吐出するインクの吐出量と、インクジェットヘッド1から吐出するインクの吐出量の比(質量%)を75:25(インク層2)、50:50(インク層3)、25:75(インク層4)、0:100(インク層5)と変化させて積層と半乾燥を繰り返し、最終的に全乾燥(110℃60秒間)させ、組成傾斜膜を有する親水性部材を作製した。
ここで、インク層2形成時のインクジェットヘッド1から吐出させる親水性インクB1のインク滴の液適量は5pL、液滴径を20μmとし、インクジェットヘッド2から吐出させる樹脂インクA1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとした。インク層3形成時には、親水性インクB1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとし、樹脂インクA1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとした。インク層4形成時には、親水性インクB1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとし、樹脂インクA1のインク滴の液適量は5pL、液滴径を20μmとした。インク層5形成時には、親水性インクB1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとした。また、全乾燥後のインク層1〜5の膜厚はそれぞれ2μmとなるようにした。
【0240】
(評価)
<密着性>
作成した親水性部材に対し、クロスハッチテスト(EN ISO2409)を実施した。評価基準については、ISO2409に準拠し、結果は0〜5点の点数評価で示した。
上記評価基準においては、0点が最も密着性が高く、5点が最も密着性が低い評価である。
【0241】
<親水性>
協和界面科学株式会社製DropMaster500を用いて、親水性部材の組成傾斜膜表面における空中水滴接触角を測定した。
【0242】
<耐水性>
120cmサイズの親水性部材を水中で加重2kgをかけてスポンジ往復20回こすり処理を行い、その前後の質量変化から残膜率を測定した。
【0243】
<防曇性>
80℃のお湯を入れたポリカップに塗布サンプルをかぶせ、曇り具合を下記基準により目視判定した。
○:曇が観察されない。
△:部分的に曇が観察される。
×:表面全体が曇っている。
【0244】
<防汚性>
カーボンブラック(FW−200、デクサ社製)5gを水95gに懸濁させたスラリーを調製し、親水性部材の表面に、全体が均一になるようにスプレーコートしたあと、60℃1時間乾燥させた。該、サンプルを流水で流しながら、ガーゼで洗浄し、乾燥させた後のカーボンブラックの付着状況を透過率(%)で測定した(日立分光光度計U3000使用)。
【0245】
<耐候性>
サンシャインカーボンアーク灯式促進耐候性試験機内に親水性部材を500時間曝露し、密着性、親水性、耐水性、防曇性、防汚性について前述の方法に従い評価した。下記基準により判定した。
○:全ての項目において暴露前と同等の性能
△:1つの項目が暴露前に劣る
×:2つ以上の項目が暴露前に劣る
【0246】
実施例1で作成した親水性部材の評価結果を、下記表1に示す。
【0247】
<実施例2>
実施例1で用いた樹脂インクA1と親水性インクB1とを混合したインクG1(混合比(質量%)A1:B1=75:25)、G2(混合比(質量%)A1:B1=50:50)、G3(混合比(質量%)A1:B1=25:75)を作成し、A1及びB1を含めた5種のインクをそれぞれ計5個のプリントヘッドを用い、透明PET基材(膜厚150μm、富士フイルム製)上にA1(最下層)、G1、G2、G3、B1(最上層)の順にて、下記のインクジェット描画法Bにより膜厚が10μmの組成傾斜膜を有する親水性部材を形成し、100℃にて加熱乾燥後、該組成傾斜膜の基材との密着性、親水性、耐水性、防曇性、防汚性、耐候性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0248】
〜インクジェット描画法B〜
図7に示すようなインクタンク60−1〜60−5にインクA1、G1、G2、G3、B1をそれぞれ充填した。インクジェットヘッド50−1〜50−5に供給されるインクは、それぞれインクA1、G1、G2、G3、B1である。
はじめにインクジェットヘッド50−1よりインクA1を、インクジェットヘッドから吐出されるインク滴の液滴量を10pL、液滴径が30μmとなるように制御しながら、窒素ガス雰囲気中で吐出させた。
このように形成したインクA1層を、80℃30秒間乾燥し、半乾燥させた。
次に、インクジェットヘッド50−2から同様にインクG1を吐出し、インクG1層を積層、半乾燥させた。これを、インクG2、G3、B1についても繰り返し、積層と半硬化を繰り返し、最終的に全乾燥(110℃60秒間)させることで組成傾斜膜を作成した。
なお、全硬化後のインク層A1、G1、G2、G3、B1の膜厚はそれぞれ2μmとなるようにした。
【0249】
<実施例3〜10>
親水性インク及び樹脂インクが含有する親水性ポリマー及びウレタンオリゴマー又はポリマーを下記表1に記載のものに置き換え、その他は実施例1と同様の方法で、膜厚が10μmの組成傾斜膜を有する親水性部材を形成し、100℃にて加熱乾燥後、該組成傾斜膜の基材との密着性、親水性、耐水性、防曇性、防汚性、耐候性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0250】
実施例3及び4において用いた親水性ポリマーの構造を以下に示す。
(化合物2)
【0251】
【化27】

【0252】
(化合物3)
【0253】
【化28】

【0254】
上記式中、数値は各構造単位が含まれるモル比を表す。
上記(化合物2)及び(化合物3)の親水性ポリマーを含む親水性インクは、それぞれB2及びB3に相当する。
【0255】
<比較例1>
実施例1で用いた親水性インクB1のみを用いて、透明PET基材(膜厚150μm、富士フイルム製)上に、1層のみから構成される膜厚が10μmの親水性膜をインクジェット描画により作成し、実施例1と同様に評価を実施した。結果を下記表1に示す。
【0256】
<比較例2>
水性エポキシ樹脂塗料(水性弾性サーフエポ、エスケー化研社製)を透明PET基材(膜厚150μm、富士フイルム製)上にバーコート塗布(膜厚2μm)した基材上に、実施例1で用いた親水性インクB1を用いて、1層のみから構成される膜厚が10μmの親水性膜をインクジェット描画により作成し、実施例1と同様に評価を実施した。結果を下記表1に示す。
【0257】
【表1】

【0258】
実施例1〜10の親水性部材は、基材と組成傾斜膜との密着性、親水性、耐水性、防曇性、防汚性、耐侯性が良好であり、各種インクジェット法A(描画混合法)及びB(インク混合法)により作成した組成傾斜膜が実用上も有効であることが示される。そして、2種のインクジェット法での効果は同等であり、どちらの方法でも十分な機能を有する組成傾斜膜が形成可能である。また、密着性に関してはウレタン類を含有するインクがその他の樹脂を含有するインクより良好な性能を示した。本現象はウレタン化合物が水素結合相互作用により傾斜膜−基材間及び傾斜膜内の凝集力が向上し、強固な膜が形成されているためと考えられる。
【0259】
一方、比較例1のように、本発明に用いた親水性化合物のみのインクを用い通常のインクジェット描画により親水性部材を形成した場合、親水性膜のため疎水性の樹脂基材との密着性が発現せず、すぐ剥離する。また、比較例2では親水性化合物とウレタン材料を積層しているため、親水性と疎水性という異種界面が存在し、十分な基材への密着が発現せず、耐久性の指標である耐侯性の問題が顕著になる。
【符号の説明】
【0260】
1 親水性部材
2 基材
3 組成傾斜膜
10 描画部
100 組成傾斜膜作製装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に設けられ、下記親水性材料1)及び樹脂材料2)を含む膜とを有する親水性部材であって、該膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から最も遠い側に向かって1)の比率が大きくなり、かつ、2)の比率が小さくなるように、1)及び2)の組成が連続的に変化する組成傾斜膜である、親水性部材。
1)加水分解性シリル基含有親水性ポリマーを含有し、かつ前記ポリマーが主鎖末端又は側鎖に、下記一般式(a)で表される加水分解性シリル基を分子中に少なくとも1個有し、親水性基を分子中に少なくとも1個有する親水性材料。
一般式(a): −Si(R103−a−(OR11
(式中、R10、R11はそれぞれ水素原子又は炭化水素基、aは1〜3の整数を示す。)
2)オリゴマー又はポリマーを含有する樹脂材料。但し、2)は上記1)の親水性材料とは異なる。
【請求項2】
前記オリゴマー又はポリマーがウレタンオリゴマー又はポリマーである、請求項1に記載の親水性部材。
【請求項3】
上記組成傾斜膜における、樹脂材料2)と親水性材料1)の総質量に対する樹脂材料2)の質量が占める割合を、基材側より膜の厚み方向に0.1μmの厚みごとに測定したときに、隣り合う測定位置での上記割合の差がいずれも50%以下である、請求項1又は2に記載の親水性部材。
【請求項4】
前記加水分解性シリル基含有親水性ポリマーが、下記一般式(I−1)で表される構造及び一般式(I−2)で表される構造を含む親水性ポリマー(I)、一般式(II−1)で表される構造及び一般式(II−2)で表される構造を含む親水性ポリマー(II)又は一般式(III−1)で表される構造及び一般式(III−2)で表される構造を含む親水性ポリマー(III)のいずれかである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の親水性部材。
【化1】


一般式(I−1)及び(I−2)中、R101〜R108はそれぞれ独立に水素原子又は炭化水素基を表す。pは1〜3の整数を表し、L101及びL102は、それぞれ独立に単結合又は二価の有機連結基を表す。x及びyは組成比を表し、xは0<x<100、yは0<y<100となる数を表す。A101は−OH、−OR、−COR、−CO、−CON(R)(R)、−N(R)(R)、−NHCOR、−NHCO、−OCON(R)(R)、−NHCON(R)(R)、−SO、−OSO、−SO、−NHSO、−SON(R)(R)、−N(R)(R)(R)、−N(R)(R)(Rc)(R)、−PO(R)(R)、−OPO(R)(R)、又は−PO(R)(R)を表す。ここで、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、Rは、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はオニウムを表し、Rはハロゲンイオン、無機アニオン、又は有機アニオンを表す。
【化2】


一般式(II−1)及び(II−2)中、R201〜R205はそれぞれ独立に水素原子又は炭化水素基を表す。qは1〜3の整数を表し、L201及びL202は、それぞれ独立に単結合又は二価の有機連結基を表す。A201は−OH、−OR、−COR、−CO、−CON(R)(R)、−N(R)(R)、−NHCOR、−NHCO、−OCON(R)(R)、−NHCON(R)(R)、−SO、−OSO、−SO、−NHSO、−SON(R)(R)、−N(R)(R)(R)、−N(R)(R)(Rc)(R)、−PO(R)(R)、−OPO(R)(R)、又は−PO(R)(R)を表す。ここで、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、Rは、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はオニウムを表し、Rはハロゲンイオン、無機アニオン、又は有機アニオンを表す。
【化3】


一般式(III−1)及び(III−2)中、R301〜R311はそれぞれ独立に水素原子又は炭化水素基を表す。rは1〜3の整数を表し、L301〜L303は、それぞれ独立に単結合又は二価の有機連結基を表す。x及びyは組成比を表し、xは0<x<100、yは0<y<100となる数を表す。A301は−OH、−OR、−COR、−CO、−CON(R)(R)、−N(R)(R)、−NHCOR、−NHCO、−OCON(R)(R)、−NHCON(R)(R)、−SO、−OSO、−SO、−NHSO、−SON(R)(R)、−N(R)(R)(R)、−N(R)(R)(Rc)(R)、−PO(R)(R)、−OPO(R)(R)、又は−PO(R)(R)を表す。ここで、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、Rは、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は、直鎖、分岐のアルキル基又はシクロアルキル基、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はオニウムを表し、Rはハロゲンイオン、無機アニオン、又は有機アニオンを表す。
【請求項5】
前記加水分解性シリル基含有親水性ポリマー中の親水性基を有する構造単位が、ポリマー全体の30mol%以上含まれる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の親水性部材。
【請求項6】
前記材料1)の親水性材料が、さらにコロイダルシリカを含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の親水性部材。
【請求項7】
前記材料2)において、ウレタンオリゴマー又はポリマーが、ウレタン結合及びウレア結合を含有するオリゴマー又はポリマーである、請求項2〜6のいずれか1項に記載の親水性部材。
【請求項8】
前記材料2)において、ウレタンオリゴマー又はポリマーが、下記一般式(A)で表される繰り返し単位を有するオリゴマー又はポリマーである、請求項2〜6のいずれか1項に記載の親水性部材。
【化4】

(上記一般式中、RA1〜RA3はそれぞれ独立して、アルキレン基、アリーレン基又はビアリーレン基を表し、RA4〜RA6はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。)
【請求項9】
前記1)の親水性材料を含むインク組成物と前記2)の樹脂材料を含むインク組成物の少なくとも2種のインク組成物をインクジェット法により前記基材上に吐出する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の親水性部材の形成方法。
【請求項10】
前記少なくとも2種のインク組成物として、少なくとも、前記1)の親水性材料を含むインク組成物と前記2)の樹脂材料を含むインク組成物とを用い、
前記インクジェット法が、少なくとも第1のインクジェットヘッドと第2のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記1)の親水性材料を含むインク組成物を含む第1のインクを、第1のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記2)の樹脂材料を含むインク組成物を含む第2のインクを、第2のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記第1のインクジェットヘッドから吐出される第1のインクの量と前記第2のインクジェットヘッドから吐出される第2のインクの量との比率を決定する制御工程と、
前記決定された比率に従って、前記第1のインクジェットヘッド及び前記第2のインクジェットヘッドの少なくとも一方から前記第1のインク又は前記第2のインクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して組成傾斜膜を得る積層工程と、
を備え、
前記制御工程において、前記複数層の厚み方向において前記基材に最も近い層から最も遠い層に向かって、前記第1のインクの比率が大きくなり、かつ前記第2のインクの比率が小さくなるように前記比率を決定する、請求項9に記載の親水性部材の形成方法。
【請求項11】
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出する液滴のインク量が0.3〜100pLである、請求項10に記載の親水性部材の形成方法。
【請求項12】
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出する液滴の液滴径が1〜300μmである、請求項10又は11に記載の親水性部材の形成方法。
【請求項13】
前記少なくとも2種のインク組成物として、少なくとも、前記1)の親水性材料を含むインク組成物と前記2)の樹脂材料を含むインク組成物とを用い、
前記インクジェット法が、複数のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記1)の親水性材料を含むインク組成物を含む第1のインクと前記2)の樹脂材料を含むインク組成物を含む第2のインクとが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクを前記複数のインクジェットヘッドそれぞれのインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記複数のインクジェットヘッドから1つのインクジェットヘッドを順に選択する選択工程であって、前記第2のインクの比率の高い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから順に選択する選択工程と、
前記選択されたインクジェットヘッドから混合インクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して組成傾斜膜を得る積層工程と、
を備える、請求項9に記載の親水性部材の形成方法。
【請求項14】
前記形成工程において、前記選択されたインクジェットヘッドから吐出する液滴のインク量が0.5〜150pLである、請求項13に記載の親水性部材の形成方法。
【請求項15】
前記形成工程において、前記選択されたインクジェットヘッドから吐出する液滴の液滴径が2〜450μmである、請求項13又は14に記載の親水性部材の形成方法。
【請求項16】
少なくとも2種のインク組成物として、少なくとも、前記1)の親水性材料を含むインク組成物と前記2)の樹脂材料を含むインク組成物とを用い、インクジェット法により形成される親水性部材であって、
前記インクジェット法が、少なくとも第1のインクジェットヘッドと第2のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記1)の親水性材料を含むインク組成物を含む第1のインクを、第1のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記2)の樹脂材料を含むインク組成物を含む第2のインクを、第2のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記第1のインクジェットヘッドから吐出される第1のインクの量と前記第2のインクジェットヘッドから吐出される第2のインクの量との比率を決定する制御工程と、
前記決定された比率に従って、前記第1のインクジェットヘッド及び前記第2のインクジェットヘッドの少なくとも一方から前記第1のインク又は前記第2のインクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して組成傾斜膜を得る積層工程と、
を備え、
前記制御工程において、前記複数層の厚み方向において前記基材に近い層から遠い層に向かって、前記第1のインクの比率が大きくなり、かつ前記第2のインクの比率が小さくなるように前記比率を決定する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の親水性部材。
【請求項17】
少なくとも2種のインク組成物として、少なくとも、前記1)の親水性材料を含むインク組成物と前記2)の樹脂材料を含むインク組成物とを用い、インクジェット法により形成される親水性部材であって、
前記インクジェット法が、複数のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記1)の親水性材料を含むインク組成物を含む第1のインクと前記2)の樹脂材料を含むインク組成物を含む第2のインクとが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクを前記複数のインクジェットヘッドそれぞれのインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記複数のインクジェットヘッドから1つのインクジェットヘッドを順に選択する選択工程であって、前記第2のインクの比率の高い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから順に選択する選択工程と、
前記選択されたインクジェットヘッドから混合インクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して組成傾斜膜を得る積層工程と、
を備える、請求項1〜8のいずれか1項に記載の親水性部材。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−63561(P2013−63561A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203055(P2011−203055)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】